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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】活動量改善用の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/076 20060101AFI20240722BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
A61K36/076
A61P3/02
A61K36/185
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019057757
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020158419
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】和知 俊
(72)【発明者】
【氏名】赤木 淳二
(72)【発明者】
【氏名】張 涛
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】宮島 崇広
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-009417(JP,A)
【文献】特開平10-298093(JP,A)
【文献】特開平10-330277(JP,A)
【文献】特開2000-009717(JP,A)
【文献】特開2001-335500(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106036898(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-1947786(KR,B1)
【文献】特開2009-179625(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108633997(CN,A)
【文献】J. Korean Pharm. Sci.,1984年,Vol. 14, No. 4,p.195-199
【文献】日東医誌,2010年,Vol. 65, No. 5,p.727-731
【文献】ファルマシア,2011年,Vol. 47, No. 9,p.844-848
【文献】漢方製剤 ツムラ当帰勺薬散エキス顆粒(医療用),添付文書,株式会社ツムラ(1986年10月販売開始)
【文献】第十六改正日本薬局方,2011年,生薬等,p.1575,<https://www.pmda.go.jp/rs-std-jp/standards-development/jp/0010.html>
【文献】日東医誌,2007年,Vol. 58,No. 1,p.49-55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 31/00-31/327
A61K 31/33-33/44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
茯苓及び/又はその水エキスを含有し、ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用の医薬組成物(但し、[i] 茯苓のエタノール抽出物を含むもの、[ii] ニンジン、オウギ、オウセイ、カンゾウ、タイソウ、サンヤク、ジオウ、トウキ、クコシ、ニクジュヨウ、ジャショウシ、トシシ、トチュウ、ショウキョウ、サイコ、ブクリョウ、サンシュユ、およびゴミシからなる群より選ばれた8種以上の生薬であってブクリョウを含むもの、[iii] グルクロノラクトン、甘草、クコシの群から選択される一種又は複数種と、セイヨウサンザシ、ゴオウチンキ、ジオウの群から選択される一種又は複数種とを含むもの、[iv] 十全大補湯を含むもの、[v] [v-1]ツリガネタケ、霊芝、宿り木、ビャクジュツ、ブクリョウ、ハリギリ、ボルナム、五加皮、センキュウ、トウキ、ジオウ及び甘草の混合物、[v-2] 前記[v-1]の混合物からツリガネタケ及び霊芝を不含とする混合物、[v-3] 前記[v-1]の混合物から宿り木を不含とする混合物、[v-4] 前記[v-1]の混合物からビャクジュツを不含とする混合物、並びに[v-5] 前記[v-1]の混合物から、ハリギリ、ボルナム及び五加皮を不含とする混合物から選択される混合物の抽出物を含むもの、[vi] 桂枝茯苓丸料加ヨクイニンを含むもの、並びに[vii] 帰脾湯、八味地黄丸、牛車腎気丸、十補丸、及び腎気丸から選択される漢方又はそのエキスを含むものを除く)。
【請求項2】
茯苓を含む漢方又はその水エキスを含む、請求項1に記載の活動量改善用医薬組成物。
【請求項3】
前記漢方が、加味帰脾湯、当帰芍薬散、及び酸棗仁湯よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の活動量改善用の医薬組成物。
【請求項4】
茯苓及び/又はその水エキスを含有し、ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用の医薬組成物(但し、[i] 茯苓のエタノール抽出物を含むもの、[ii] ニンジン、オウギ、オウセイ、カンゾウ、タイソウ、サンヤク、ジオウ、トウキ、クコシ、ニクジュヨウ、ジャショウシ、トシシ、トチュウ、ショウキョウ、サイコ、ブクリョウ、サンシュユ、およびゴミシからなる群より選ばれた8種以上の生薬であってブクリョウを含むもの、[iii] グルクロノラクトン、甘草、クコシの群から選択される一種又は複数種と、セイヨウサンザシ、ゴオウチンキ、ジオウの群から選択される一種又は複数種とを含むもの、[iv] 十全大補湯を含むもの、[v] [v-1]ツリガネタケ、霊芝、宿り木、ビャクジュツ、ブクリョウ、ハリギリ、ボルナム、五加皮、センキュウ、トウキ、ジオウ及び甘草の混合物、[v-2] 前記[v-1]の混合物からツリガネタケ及び霊芝を不含とする混合物、[v-3] 前記[v-1]の混合物から宿り木を不含とする混合物、[v-4] 前記[v-1]の混合物からビャクジュツを不含とする混合物、並びに[v-5] 前記[v-1]の混合物から、ハリギリ、ボルナム及び五加皮を不含とする混合物から選択される混合物の抽出物を含むもの、[vi] 桂枝茯苓丸料加ヨクイニンを含むもの、並びに[vii] 帰脾湯、八味地黄丸、牛車腎気丸、十補丸、及び腎気丸から選択される漢方又はそのエキスを含むものを除く)。
【請求項5】
茯苓を含む漢方又はその水エキスを含む、請求項4に記載の疲労改善用の医薬組成物。
【請求項6】
前記漢方が、加味帰脾湯、当帰芍薬散、及び酸棗仁湯よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の疲労改善用の医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体的及び/又は精神的な活動量を改善できる医薬組成物に関する。また、本発明は、疲労を改善できる医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
QOLが向上した健康的な日常生活をおくる上で、活動量の低下を抑制したり、疲労を蓄積させないようにしたりすることが重要になる。活動量の低下や疲労は、不眠、体力低下、代謝能低下、過緊張等のストレス、血流量の低下等の多岐にわたる要因によって引き起こされることが分かっており、近年の高齢化社会やストレス社会を背景として、活動量が低下したり疲労が蓄積したりする人が増大傾向にある。
【0003】
従来、活動量の改善又は疲労改善に有効な経口製剤について種々提案されている。例えば、特許文献1には、オリーブ葉抽出物に含まれるオレウロペインが活動量の低下抑制に有効であることが開示されている。また、特許文献2には、イソロイシン及びトレオニンが、活動量の低下を抑制できることが開示されている。また、特許文献3には、アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物が、活動量の低下を抑制できることが開示されている。
【0004】
一方、茯苓は、サルノコシカケ科のマツホド菌の菌核を乾燥し外皮を除いた生薬であり、従来、漢方製剤や生薬製剤に使用されている。しかしながら、茯苓に、活動量や疲労を改善できる効果があることについては報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-132657号公報
【文献】国際公開第2015/133627号
【文献】特開2007-8861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、活動量を改善できる医薬組成物を提供することである。また、本発明の他の目的は、疲労を改善できる医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、茯苓及び/又はそのエキスには活動量を改善する作用及び疲労を改善する作用があり、茯苓及び/又はそのエキスを含む医薬組成物を活動量改善及び疲労回復用途に使用できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 茯苓及び/又はそのエキスを含有する、活動量改善用の医薬組成物。
項2. 茯苓を含む漢方又はそのエキスを含む、項1に記載の活動量改善用医薬組成物。
項3. 前記漢方が、加味帰脾湯、当帰芍薬散、及び酸棗仁湯よりなる群から選択される少なくとも1種である、項2に記載の活動量改善用の医薬組成物。
項4. 身体活動量の改善に使用される、項1~3のいずれかに記載の活動量改善用の医薬組成物。
項5. 茯苓及び/又はそのエキスを含有する、疲労改善用の医薬組成物。
項6. 茯苓を含む漢方又はそのエキスを含む、項5に記載の疲労改善用の医薬組成物。
項7. 前記漢方が、加味帰脾湯、当帰芍薬散、及び酸棗仁湯よりなる群から選択される少なくとも1種である、項6に記載の疲労改善用の医薬組成物。
項8. ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、項5~7のいずれかに記載の疲労改善用の医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、活動量の低下抑制、及び低下した活動量の回復が可能になるので、運動の頻度又は時間の向上、外出の頻度又は時間の向上、仕事又は家事の頻度又は時間の向上、集中力の向上、病中又は病後の体力回復、健常時の体力低下の抑制又は回復、疲労の抑制又は回復促進、虚弱体質の予防又は改善、高齢者の身体機能の維持等の効果を示し、QOLの向上に資することができる。また、本発明によれば、疲労を効果的に改善することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】試験例1において、各群のマウスの活動量を測定した結果を示す図である。
図2】試験例2において、各群のマウスの活動量を測定した結果を示す図である。
図3】試験例3において、各群のマウスの活動量を測定した結果を示す図である。
図4】試験例4において、各群のマウスの活動量を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.活動量改善用医薬組成物
本発明の医薬組成物は、活動量の改善用途に使用されるものであって、茯苓及び/又はそのエキスを含有することを特徴とする。以下、本発明の医薬組成物について詳述する。
【0012】
[茯苓及び/又はそのエキス]
茯苓とは、サルノコシカケ科のマツホド菌の菌核を乾燥し外皮を除いた生薬である。茯苓は、粉砕物、細切物等の形状であることが好ましい。
【0013】
茯苓のエキスは、茯苓を公知の手法で抽出することによって得ることができる。茯苓のエキスの製造方法につついては、一般的な生薬エキスの製造方法と同様の方法で行えばよく、例えば、茯苓に対して、約10~20倍量の水を加え、80~100℃程度で1~3時間程度撹拌して抽出する方法が挙げられる。抽出後に、遠心分離、濾過等の固液分離に供して固形分を除去し、必要に応じて、濃縮処理や乾燥処理に供することによって茯苓の抽出液が得られる。
【0014】
茯苓のエキスをエキス末として得るには、固形分を除去した抽出液を、必要に応じて濃縮した後に、スプレードライ、減圧濃縮乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理に供すればよい。また、乾燥処理(特に、スプレードライによる乾燥処理)に供する際に、必要に応じて抽出液に、デキストリン等の賦形剤を添加してもよい。添加される賦形剤の種類や添加量については、一般的な生薬エキス末を製造する場合と同様である。
【0015】
また、茯苓のエキスを軟エキスとして得るには、固形分を除去した抽出液を、減圧濃縮等によって濃縮すればよい。また、軟エキスに、適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末としてもよい。
【0016】
茯苓のエキスは、軟エキス又はエキス末のいずれであってもよい。
【0017】
本発明の医薬組成物では、茯苓及びそのエキスの内、いずれか一方を単独で使用してもよく、これらを組み合わせて使用してもよい。
【0018】
また、本発明の医薬組成物は、含有成分として茯苓及び/又はそのエキスが含まれていればよいので、茯苓を含む漢方及び/又はそのエキスを使用することもできる。
【0019】
茯苓を含む漢方としては、具体的には、加味帰脾湯、当帰芍薬散、酸棗仁湯等が挙げられる。
【0020】
加味帰脾湯とは、茯苓、人参、柴胡、酸棗仁、竜眼肉、白朮(または蒼朮)、黄耆、当帰、山梔子、遠志、生姜、甘草、木香、大棗、牡丹皮(牡丹皮はなくても可)でからなる漢方処方である。加味帰脾湯を構成する各生薬の分量は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)等によれば、茯苓3質量部、人参3質量部、柴胡2.5~3質量部、酸棗仁3質量部、竜眼肉3質量部、白朮(蒼朮)3質量部、黄耆2~3質量部、当帰2質量部、山梔子2~2.5質量部、遠志1~2質量部、生姜1~1.5質量部、甘草1質量部、木香1質量部、大棗1~2質量部、牡丹皮2質量部(牡丹皮はなくても可)である。
【0021】
当帰芍薬散とは、茯苓、当帰、川きゅう、白朮(または蒼朮)、沢瀉、及び芍薬からなる漢方処方である。当帰芍薬散を構成する各生薬の分量は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)等によれば、茯苓4~5質量部、当帰3~3.9質量部、川きゅう3質量部、白朮(蒼朮)4~5質量部、沢瀉4~12質量部、及び芍薬4~16質量部である。
【0022】
酸棗仁湯とは、茯苓、酸棗仁、川きゅう、知母、及び甘草からなる漢方処方である。酸棗仁湯を構成する各生薬の分量は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)等によれば、茯苓2~5質量部、酸棗仁10~18質量部、川きゅう2~3質量部、知母2~3質量部、及び甘草1質量部である。
【0023】
前記漢方のエキスは、前記漢方(生薬調合物)を公知の手法で抽出することによって得ることができる。前記漢方エキスを抽出する方法については、従来の漢方エキスの抽出法と同様の方法で行えばよく、例えば、前記漢方に対して、約10~20倍量の水を加え、80~100℃程度で1~3時間程度撹拌して抽出する方法が挙げられる。抽出後に、遠心分離、濾過等の固液分離に供して固形分を除去し、必要に応じて、濃縮処理や乾燥処理に供することによって前記漢方のエキスが得られる。
【0024】
前記漢方のエキスをエキス末として得るには、固形分を除去した抽出液を、必要に応じて濃縮した後に、スプレードライ、減圧濃縮乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理に供すればよい。また、乾燥処理(特に、スプレードライによる乾燥処理)に供する際に、必要に応じて抽出液に、デキストリン等の賦形剤を添加してもよい。このように賦形剤を添加することにより、吸湿性を低下させたエキス末を得ることが可能になる。添加される賦形剤の種類や添加量については、一般的な漢方エキス末を製造する場合と同様である。
【0025】
また、前記漢方のエキスを軟エキスとして得るには、固形分を除去した抽出液を、減圧濃縮等によって濃縮すればよい。また、軟エキスに、適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末としてもよい。
【0026】
前記漢方のエキスは、エキス末又は軟エキスのいずれであってもよい。
【0027】
本発明の医薬組成物では、前記漢方のエキス及びそのエキスの内、いずれか一方を単独で使用してもよく、これらを組み合わせて使用してもよい。
【0028】
また、本発明の医薬組成物は、茯苓自体、茯苓のエキス、茯苓を含む漢方、茯苓を含む漢方のエキスの中から1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
本発明の医薬組成物において、茯苓及び/又はそのエキスの含有量については、1日当たりの服用量、剤型等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、本発明の医薬組成物1g当たり、茯苓の原生薬換算量で0.01~20g、好ましくは0.1~15g、更に好ましくは2~10gが挙げられる。なお、本発明において、「茯苓の原生薬換算量」とは、その成分量を得るために必要な茯苓の重量(乾燥重量)である。茯苓自体又は茯苓を含む漢方自体の場合であれば、配合する茯苓の重量、又は配合する漢方に含まれる茯苓の重量が原生薬換算量になる。また、茯苓のエキス、又は茯苓を含む漢方のエキスの場合であれば、配合される茯苓エキスの量を得るために必要な茯苓の乾燥重量、又は配合される漢方のエキスの量を得るために必要な茯苓の乾燥重量が原生薬換算量になる。
【0030】
より具体的には、加味帰脾湯又はそのエキスを使用する場合であれば、本発明の医薬組成物における加味帰脾湯又はそのエキスの含有量としては、例えば、本発明の医薬組成物1g当たり、加味帰脾湯の原生薬換算量で1.9~5.7g、好ましくは2.6~5.0g、更に好ましくは3.6~3.9gが挙げられる。
【0031】
当帰芍薬散又はそのエキスを使用
する場合であれば、本発明の医薬組成物における当帰芍薬散又はそのエキスの含有量としては、例えば、本発明の医薬組成物1g当たり、当帰芍薬散の原生薬換算量で2.3~7.2g、好ましくは3.3~6.3g、更に好ましくは4.5~5.1gが挙げられる。
【0032】
酸棗仁湯又はそのエキスを使用する場合であれば、本発明の医薬組成物における酸棗仁湯又はそのエキスの含有量としては、例えば、本発明の医薬組成物1g当たり、酸棗仁湯の原生薬換算量で3.6~14.2g、好ましくは4.8~9.2g、更に好ましくは6.7~7.4gが挙げられる。
【0033】
本発明において、「加味帰脾湯の原生薬換算量」は加味帰脾湯自体の場合であれば、配合する加味帰脾湯の重量が原生薬換算量になり、加味帰脾湯エキスの場合であれば、配合される加味帰脾湯エキスの量を得るために必要な生薬調合物の総量の乾燥重量が原生薬換算量になる。「当帰芍薬散の原生薬換算量」及び「酸棗仁湯の原生薬換算量」についても同様である。
【0034】
[その他の含有成分]
本発明の医薬組成物には、前述する成分以外に、必要に応じて、他の薬理成分を含んでいてもよい。このような薬理成分の種類については、特に制限されないが、例えば、消炎鎮痛剤、腸管運動改善剤、制酸剤、胃粘膜保護剤、消化剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、プロトンポンプ阻害剤、カフェイン類、メントール類、ポリフェノール等が挙げられる。これらの薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの薬理成分の含有量については、使用する薬理成分の種類や医薬組成物の剤型等に応じて適宜設定すればよい。
【0035】
本発明の医薬組成物には、所望の剤型に調製するために、必要に応じて、薬学的に許容される基剤や添加剤等が含まれていてもよい。このような基剤及び添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの基剤や添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの基剤や添加剤の含有量については、使用する添加成分の種類や医薬組成物の剤型等に応じて適宜設定すればよい。
【0036】
[剤型]
本発明の医薬組成物の剤型については、特に制限されず、固体状製剤、半固体状製剤、又は液体状製剤のいずれであってもよい。
【0037】
固体状製剤としては、具体的には、錠剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、散剤、顆粒剤(ドライシロップを含む)等が挙げられる。半固体状製剤としては、具体的には、ゼリー剤等が挙げられる。液体状製剤としては、具体的には、液剤、懸濁剤、シロップ剤等が挙げられる。
【0038】
これらの剤型の中でも、含有成分の安定性や携帯性等の観点から、好ましくは固形状製剤が挙げられる。
【0039】
[用法・用量]
本発明の医薬組成物は、活動量の改善用途に使用される。本発明において、「活動量」は、身体活動及び精神活動の双方を包含する。
【0040】
「身体活動」とは、骨格筋を介したエネルギー消費をもたらす種々の身体的動作であり、仕事、運動、家事、趣味等の全ての活動を包含する。「身体活動量」とは、身体活動によって消費されるエネルギー量の程度を表す指標である。「身体活動量の改善」には、身体活動量の低下を抑制すること、及び低下した身体活動量を回復させることが含まれる。身体活動の低下は、肉体的疲労、加齢等の肉体的要因のみならず、ストレス、不安定な精神状態、意欲低下等の精神的要因や、気候変動や気温の低下等の外的要因によっても引き起こされるが、本発明の医薬組成物において改善対象となる身体活動量の低下は、肉体的要因、精神的要因又は外的要因のいずれによってもたらされるものであってもよい。
【0041】
「精神活動」とは、思考、意思、記憶等の非肉体的動作である。「精神活動量」とは、集中力、決断力、根気等と関連しており、精神活動の活発さの指標である。「精神活動量の改善」には、精神活動量の低下を抑制すること、及び低下した精神活動量を回復させることが含まれる。精神活動の低下は、ストレス、不安定な精神状態、意欲低下等の精神的要因のみならず、肉体的疲労、加齢等の肉体的要因や、気候変動や気温の低下等の外的要因によっても引き起こされるが、本発明の医薬組成物において改善対象となる精神活動量の低下は、精神的要因、肉体的要因又は外的要因のいずれによってもたらされるものであってもよい。
【0042】
本発明の医薬組成物における活動量の改善用途として、好ましくは精神的要因によってもたらされる活動量の低下の抑制又は回復、更に好ましくは精神的要因によってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復、特に好ましくはストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復が挙げられる。
【0043】
また、活動量の改善は、スポーツ等の運動の頻度又は時間の向上、外出の頻度又は時間の向上、仕事又は家事の頻度又は時間の向上、集中力の向上、病中又は病後の体力回復、健常時の体力低下の抑制又は回復、疲労の抑制又は回復促進、虚弱体質の予防又は改善、高齢者の身体機能の維持等の効果をもたらすので、本発明の医薬組成物は、これらの効果の付与を目的として使用することもできる。
【0044】
本発明の医薬組成物は、内服によって投与される。本発明の医薬組成物の用量については、投与対象者の年齢、性別、体質等に応じて適宜設定されるが、例えば、1日当たり、茯苓の原生薬換算量で30~550mg、好ましくは50~550mg、更に好ましくは300~550mgが挙げられる。
【0045】
より具体的には、加味帰脾湯又はそのエキスを使用する場合であれば、本発明の医薬組成物の用量としては、例えば、1日当たり、加味帰脾湯の原生薬換算量で14.5~34.5g、好ましくは16~32gが挙げられる。
【0046】
当帰芍薬散又はそのエキスを使用する場合であれば、本発明の医薬組成物の用量としては、例えば、1日当たり、当帰芍薬散の原生薬換算量で9~27g、好ましくは11~22gが挙げられる。
【0047】
酸棗仁湯又はそのエキスを使用する場合であれば、本発明の医薬組成物の用量としては、例えば、1日当たり、酸棗仁湯の原生薬換算量で11~27g、好ましくは13.5~25gが挙げられる。
【0048】
本発明の医薬組成物は、前述する服用量を1日1~3回に分けて、好ましくは2又は3回に分けて服用すればよい。服用タイミングについては、特に制限されず、食前、食後、又は食間のいずれであってもよいが、食前(食事の30分前)又は食間(食後2時間後)が好ましい。
【0049】
2.疲労改善用医薬組成物
本発明の医薬組成物は、疲労の改善用途に使用されるものであって、茯苓及び/又はそのエキスを含有することを特徴とする。以下、本発明の疲労改善用医薬組成物について詳述する。
【0050】
本発明の医薬組成物において、使用される茯苓及び/又はそのエキスについては、前記「1.活動量改善用医薬組成物」の場合と同様である。
【0051】
また、本発明の医薬組成物では、前記「1.活動量改善用医薬組成物」の場合と同様に、茯苓及び/又はそのエキスとして、茯苓を含む漢方及び又はそのエキスを使用することもできる。茯苓を含む漢方及び又はそのエキスについては、前記「1.活動量改善用医薬組成物」の場合と同様である。
【0052】
本発明の医薬組成物における茯苓及び/又はそのエキスの含有量、茯苓を含む漢方及び又はそのエキスの含有量、その他の含有成分、剤型等については、前記「1.活動量改善用医薬組成物」の場合と同様である。
【0053】
本発明の医薬組成物は、疲労の改善用途に使用される。本発明において、「疲労」は、運動等によってもたらされる肉体的な疲労と、ストレス、不安定な精神状態、意欲低下等の精神的要因によってもたらされる精神的な疲労の双方が含まれる。また、「疲労改善」は、疲労が生じるのを抑制すること、及び疲労からの回復を促進することが含まれる。
【0054】
本発明の医薬組成物において改善対象となる疲労として、好ましくは精神的要因によってもたらされる疲労、更に好ましくはストレスによってもたらされる疲労が挙げられる。
【0055】
本発明の医薬組成物の用量については、前記「1.活動量改善用医薬組成物」の場合と同様である。
【実施例
【0056】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
試験例1:茯苓の活動量改善・疲労改善効果の検証
6週齢のC57BL/6雄性マウス(日本エスエルシー株式会社)を1週間飼育して馴化した後に、正常群、ストレス負荷/コントロール群、ストレス負荷/茯苓群、及びストレス負荷/ビタミン剤群の4群に分けた(1群当たり3匹)。
【0058】
正常群は、ストレス負荷(下記に記載の睡眠負荷)及び薬剤投与を行わず、通常の飼育環境(明期12時間及び暗期12時間)で飼育した。
【0059】
ストレス負荷/コントロール群、ストレス負荷/茯苓群、及びストレス負荷/ビタミン剤群は、試験開始1日目(群分けした日)に明期4時間及び暗期20時間の環境で飼育しストレス負荷をした。ストレス負荷/コントロール群では、薬剤投与は行わなかった。ストレス負荷/茯苓群では、試験開始1日目から7日目まで、茯苓末を1000mg/kgとなるように1日1回の頻度でマウスに経口投与した。ストレス負荷/ビタミン剤群では、試験開始1日目から7日目まで、ビタミン剤を455mg/kgとなるように1日1回の頻度でマウスに経口投与した。なお、使用したビタミン剤には、445mg当たり、フルスルチアミン塩酸塩が109.16mg、ビタミンB2が12mg、ビタミンB6が20mg、ビタミンB12が60μg、パントテン酸カルシウムが15mg含まれている。
【0060】
試験開始7日目(全ての操作の終了後)に、各群のマウスに対してオープンフィールド試験を行い、30cm四方のボックス内での各マウスの活動量1分間の移動距離を動画解析ソフトを用いて測定した。各群での活動量の平均値を算出し、正常群の活動量(平均値)を100%として、各群の活動量(平均値)の相対値を算出した。
【0061】
結果を図1に示す。この結果、時差ストレスの負荷によってマウスの活動量は著しく減少していた(ストレス負荷/コントロール群)。また、ビタミン剤の投与でも、時差ストレスの負荷による活動量の低下を十分に抑制することはできなかった(ストレス負荷/ビタミン剤群)。これに対して、茯苓末を投与した場合には、時差ストレスの負荷による活動量の低下を効果的に抑制できていた(ストレス負荷/茯苓群)。以上の結果から、茯苓には、ストレス負荷による活動量の低下を抑制したり、ストレス負荷に起因する疲労を抑制したりする作用があることが確認された。
【0062】
試験例2:加味帰脾湯エキスの活動量改善・疲労改善効果の検証
6週齢のC57BL/6雄性マウス(オリエンタル酵母工業株式会社)を1週間飼育して馴化した後に、正常群、ストレス負荷/コントロール群、ストレス負荷/加味帰脾湯エキス群、及びストレス負荷/ビタミン剤群の4群に分けた(1群当たり3匹)。
【0063】
正常群は、異種動物遭遇ストレスの負荷及び薬剤投与を行わず、通常の飼育環境で飼育した。ストレス負荷/コントロール群では、薬剤投与は行わなかった。ストレス負荷/加味帰脾湯エキス群では、試験開始1日目(群分けした日)から12日目まで、加味帰脾エキス末を2000mg/kg(茯苓原生薬換算量で約1.4g/kg、加味帰脾湯の原生薬換算量で約7.6g/kg)となるように1日1回の頻度でマウスに経口投与した。ストレス負荷/ビタミン剤群では、試験開始1日目から12日目まで、ビタミン剤(組成は試験例1で使用したものと同じ)を82.7mg/kgとなるように1日1回の頻度でマウスに経口投与した。ストレス負荷/コントロール群、ストレス負荷/加味帰脾湯エキス群、及びストレス負荷/ビタミン剤群では、試験開始1日目から10日目の間、aggressorマウス(ICR雄性マウス、リタイア、オリエンタル酵母株式会社)の飼育ケージに10分間入れ、その後、隣接した別のゲージに移す操作を1日1回行い、異種動物遭遇ストレスの負荷を行った。なお、異種動物遭遇ストレスの負荷は、その日の薬剤投与後に行った。
【0064】
試験開始から12日目に各群のマウスに対してオープンフィールド試験を行い、30cm四方のボックス内での各マウスの活動量(1分間の移動距離)を動画解析ソフトを用いて測定した。各群での活動量の平均値を算出し、正常群の活動量(平均値)を100%として、各群の活動量(平均値)の相対値を算出した。
【0065】
結果を図2に示す。この結果、異種動物遭遇ストレスの負荷によってマウスの活動量は著しく減少していた(ストレス負荷/コントロール群)。また、ビタミン剤の投与では、異種動物遭遇ストレスの負荷による活動量の低下をさらに増大させていた(ストレス負荷/ビタミン剤群)。これに対して、加味帰脾湯エキスを投与した場合には、異種動物遭遇ストレスの負荷による活動量の低下を効果的に抑制できていた(ストレス負荷/加味帰脾湯エキス群)。以上の結果から、茯苓を含む漢方のエキスは、ストレス負荷による活動量の低下を抑制したり、ストレス負荷に起因する疲労を抑制したりする作用があることが確認された。
【0066】
試験例3:当帰芍薬散エキスの活動量改善・疲労改善効果の検証
6週齢のddy雄性マウス(日本エスエルシー株式会社)を1週間飼育して馴化した後に、正常群、ストレス負荷/コントロール群、ストレス負荷/当帰芍薬散エキス群、及びストレス負荷/ビタミン剤群の4群に分けた(1群当たり3匹)。
【0067】
正常群は、ベタメタゾン投与・低温ストレスの負荷及び薬剤投与を行わず、通常の飼育環境で飼育した。ストレス負荷/コントロール群では、薬剤投与は行わなかった。ストレス負荷/当帰芍薬散エキス群では、試験開始1日目(群分けした日)から7日目まで、当帰芍薬散エキス末を1000mg/kg(茯苓原生薬換算量で870mg/kg、当帰芍薬散の原生薬換算量で約4.7g/kg)となるように1日1回の頻度でマウスに経口投与した。ストレス負荷/ビタミン剤群では、試験開始1日目から7日目まで、ビタミン剤(組成は試験例1で使用したものと同じ)を63.9mg/kgとなるように1日1回の頻度でマウスに経口投与した。ストレス負荷/コントロール群、ストレス負荷/当帰芍薬散エキス群、及びストレス負荷/ビタミン剤群では、試験開始1日目から7日目の間、1日1回、ベタメタゾンを後肢筋肉注射で1.6mg/kgとなるように投与し、その期間中、毎日10℃環境下に1時間暴露することにより、ベタメタゾン投与・低温ストレスの負荷を行った。なお、ベタメタゾン投与・低温ストレスの負荷は、その日の薬剤投与後に行った。
【0068】
試験開始から7日目(全ての操作の終了後)に各群のマウスに対してオープンフィールド試験を行い、30cm四方のボックス内での各マウスの活動量(1分間の移動距離)を動画解析ソフトを用いて測定した。各群での活動量の平均値を算出し、正常群の活動量(平均値)を100%として、各群の活動量(平均値)の相対値を算出した。
【0069】
結果を図3に示す。この結果、ベタメタゾン投与・低温ストレスの負荷によってマウスの活動量は著しく減少していた(ストレス負荷/コントロール群)。また、ビタミン剤の投与でも、ベタメタゾン投与・低温ストレスの負荷による活動量の低下を十分に抑制することはできなかった(ストレス負荷/ビタミン剤群)。これに対して、当帰芍薬散エキスを投与した場合には、ベタメタゾン投与・低温ストレスの負荷による活動量の低下を効果的に抑制できていた(ストレス負荷/当帰芍薬散エキス群)。以上の結果からも、試験例2と同様に、茯苓を含む漢方のエキスは、ストレス負荷による活動量の低下を抑制したり、ストレス負荷に起因する疲労を抑制したりする作用があることが確認された。
【0070】
試験例4:酸棗仁湯エキスの活動量改善・疲労改善効果の検証
6週齢のC57BL/6雄性マウス(日本エスエルシー株式会社)を1週間飼育して馴化した後に、正常群、ストレス負荷/コントロール群、ストレス負荷/酸棗仁湯エキス群、及びストレス負荷/ビタミン剤群の4群に分けた(1群当たり3匹)。
【0071】
ストレス負荷/酸棗仁湯エキス群として、1日1回、マウスに酸棗仁湯エキス末を1000mg/kg(茯苓原生薬換算量で約1300mg/kg、酸棗仁湯の原生薬換算量で約7.1g/kg)となるように経口投与したこと以外は、前記試験例1と同様の操作を行い、各群での活動量の平均値を求め、正常群の活動量(平均値)を100%として各群の活動量(平均値)の相対値を算出した。
【0072】
結果を図4に示す。この結果、時差ストレスの負荷によってマウスの活動量は著しく減少していた(ストレス負荷/コントロール群)。また、ビタミン剤の投与でも、時差ストレスの負荷による活動量の低下を十分に抑制することはできなかった(ストレス負荷/ビタミン剤群)。これに対して、酸棗仁湯エキスを投与した場合には、時差ストレスの負荷による活動量の低下を効果的に抑制できていた(ストレス負荷/当帰芍薬散エキス群)。以上の結果からも、試験例2及び3と同様に、茯苓を含む漢方のエキスは、ストレス負荷による活動量の低下を抑制したり、ストレス負荷に起因する疲労を抑制したりする作用があることが確認された。
図1
図2
図3
図4