(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】レーザー加工装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240722BHJP
B23K 26/57 20140101ALI20240722BHJP
H01L 21/304 20060101ALN20240722BHJP
【FI】
H01L21/78 Z
B23K26/57
H01L21/304 601H
(21)【出願番号】P 2020059800
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】森數 洋司
(72)【発明者】
【氏名】木村 展之
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-075480(JP,A)
【文献】特開2015-223771(JP,A)
【文献】特開2018-008307(JP,A)
【文献】特表2018-507782(JP,A)
【文献】特表2015-513211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/57
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持するX軸及びY軸で規定される保持面を備えた保持手段と、該保持手段に保持された被加工物にレーザー光線を照射して破壊層を形成するレーザー光線照射手段と、を少なくとも備えたレーザー加工装置であって、
該レーザー光線照射手段は、レーザー光線を発振する発振器と、該発振器が発振したレーザー光線をY軸方向に高速スキャンするY軸スキャン手段と、該発振器が発振したレーザー光線をX軸方向に加工送りするX軸スキャン手段と、垂直集光手段と、を含み、
被加工物に照射されるレーザー光線のスポット径(D)をφ5~60μmとし、該レーザー光線のスポットの重なり率(K)を0.70~0.99とし、Y軸方向のスキャン速度(Vy)を1~300m/秒とし、1パルス当たりのレーザー光線のエネルギー(E)を0.07~50μJとし、
該Y軸スキャン手段によるスキャン幅(L)を一定値とし、
該レーザー光線の繰り返し周波数(H)は、
H=Vy/{D・(1-K)} MHz
に設定され、
該Y軸スキャン手段によるスキャン幅をLmmとしたときX軸方向のスキャン速度(Vx)は、
Vx=D・(1-K)・Vy/L mm/秒
に設定され、
該レーザー光線の平均出力(P)は、
P=E・Vy/{D・(1-K)} W
に設定され
、
該レーザー加工装置では、該Y軸スキャン手段によってY軸方向にスキャンする該スキャン幅(L)に基づき、該スキャン幅(L)に対応して一定の幅となるX軸方向に沿う複数の加工すべき列が設定され、該発振器を作動すると共に、該X軸スキャン手段、該Y軸スキャン手段を作動して、該加工すべき列の所定位置にレーザー光線の集光位置を位置付けて照射し、その後、Y軸方向に該スキャン幅(L)だけ走査し、次いで、X軸スキャン手段を作動して、該重なり率(K)を実現する寸法だけX軸方向に加工送りし、次いで、再度、Y軸スキャン手段を作動して、レーザー光線をY軸方向に該スキャン幅(L)だけ走査し、その後、再び重なり率(K)を実現する寸法だけX軸方向に加工送りし、前記した走査を繰り返すことで、該加工すべき列に対応して破壊層を形成するレーザー加工を実施するように構成されたレーザー加工装置。
【請求項2】
該Y軸スキャン手段は、AOD、レゾナントスキャナー、ポリゴンスキャナーのいずれかから選択され、該X軸スキャン手段は、ガルバノスキャナー、レゾナントスキャナー、該保持手段をX軸方向で移動させるX軸方向送り手段のいずれかから選択される請求項1に記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
該被加工物は、サファイア基板の上面にバッファー層を介して発光層が積層され、該発光層に対面して移設基板が配設された2層基板であり、該レーザー光線は、該サファイア基板を透過してバッファー層を破壊する請求項1、又は2に記載のレーザー加工装置。
【請求項4】
該レーザー光線の波長は、143nm~266nmである請求項3に記載のレーザー加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物にレーザー光線を照射して破壊層を形成するレーザー光線照射手段と、を備えたレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サファイア基板、SiC基板等のエピタキシー基板の上面に、エピタキシャル成長によってバッファー層、n型半導体層、及びp型半導体層とからなるエピタキシャル層と、n型半導体層及びp型半導体層に配設された電極と、によって構成された発光層が分割予定ラインによって区画され複数のLEDが形成されたウエーハは、分割予定ラインがレーザー光線等によってエピタキシー基板と共に分割されて個々のLEDチップに生成される(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
また、LEDの輝度を向上させると共に、冷却効果を高めるために、発光層に接合材(インジウム、パラジウム等)を介してモリブデン基板、銅基板、シリコン基板等の移設基板を接合して積層ウエーハを生成し、その後、エピタキシー基板側からバッファー層にレーザー光線を照射して破壊層を形成し、該発光層を移設基板側に移し替える技術が本出願人により提案されている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-305420号公報
【文献】特開2013-21225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年においては、LEDを生成するウエーハの直径が、200mm、300mmと大径化してきており、ウエーハを加工して個々のLEDを生成するまでのスループットが低下するという問題がある。該スループットを高めるため、エピタキシー基板側からバッファー層を破壊するレーザー光線を照射する際に、スポット径を例えば数mmオーダーになるように大きくすることが考えられる。しかし、スポット径を大きくすると、スポットの面積に比例してパルスレーザー光線のエネルギーが大きくなり、熱の放散率が低下する。そうすると、ウエーハ側のレーザー光線照射位置において熱溜りが生じ、レーザー光線を照射した位置近傍のLEDがダメージを受けてしまうという問題が発生する。
【0006】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、レーザー光線のスポット径を大きくすることなく、スループットに優れたレーザー加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、被加工物を保持するX軸及びY軸で規定される保持面を備えた保持手段と、該保持手段に保持された被加工物にレーザー光線を照射して破壊層を形成するレーザー光線照射手段と、を少なくとも備えたレーザー加工装置であって、
該レーザー光線照射手段は、レーザー光線を発振する発振器と、該発振器が発振したレーザー光線をY軸方向に高速スキャンするY軸スキャン手段と、該発振器が発振したレーザー光線をX軸方向に加工送りするX軸スキャン手段と、垂直集光手段と、を含み、
被加工物に照射されるレーザー光線のスポット径(D)をφ5~60μmとし、該レーザー光線のスポットの重なり率(K)を0.70~0.99とし、Y軸方向のスキャン速度(Vy)を1~300m/秒とし、1パルス当たりのレーザー光線のエネルギー(E)を0.07~50μJとし、該Y軸スキャン手段によるスキャン幅(L)を一定値とし、
該レーザー光線の繰り返し周波数(H)は、
H=Vy/{D・(1-K)} MHz
に設定され、
該Y軸スキャン手段によるスキャン幅をLmmとしたとき、X軸方向のスキャン速度(Vx)は、
Vx=D・(1-K)・Vy/L mm/秒
に設定され、
該レーザー光線の平均出力(P)は、
P=E・Vy/{D・(1-K)} W
に設定され、該レーザー加工装置では、該Y軸スキャン手段によってY軸方向にスキャンする該スキャン幅(L)に基づき、該スキャン幅(L)に対応して一定の幅となるX軸方向に沿う複数の加工すべき列が設定され、該発振器を作動すると共に、該X軸スキャン手段、該Y軸スキャン手段を作動して、該加工すべき列の所定位置にレーザー光線の集光位置を位置付けて照射し、その後、Y軸方向に該スキャン幅(L)だけ走査し、次いで、X軸スキャン手段を作動して、該重なり率(K)を実現する寸法だけX軸方向に加工送りし、次いで、再度、Y軸スキャン手段を作動して、レーザー光線をY軸方向に該スキャン幅(L)だけ走査し、その後、再び重なり率(K)を実現する寸法だけX軸方向に加工送りし、前記した走査を繰り返すことで、該加工すべき列に対応して破壊層を形成するレーザー加工を実施するように構成されたレーザー加工装置が提供される。
【0008】
該Y軸スキャン手段は、AOD、レゾナントスキャナー、ポリゴンスキャナーのいずれかから選択され、該X軸スキャン手段は、ガルバノスキャナー、レゾナントスキャナー、該保持手段をX軸方向で移動させるX軸方向送り手段のいずれかから選択されるようにすることが好ましい。また、該被加工物は、サファイア基板の上面にバッファー層を介して発光層が積層され、該発光層に対面して移設基板が配設された2層基板であり、該レーザー光線は、該サファイア基板を透過してバッファー層を破壊するようにすることが好ましい。さらに、該発光層がサファイア基板に積層されている場合は、該レーザー光線の波長は、143nm~266nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレーザー加工装置は、被加工物を保持するX軸及びY軸で規定される保持面を備えた保持手段と、該保持手段に保持された被加工物にレーザー光線を照射して破壊層を形成するレーザー光線照射手段と、を少なくとも備えたレーザー加工装置であって、該レーザー光線照射手段は、レーザー光線を発振する発振器と、該発振器が発振したレーザー光線をY軸方向に高速スキャンするY軸スキャン手段と、該発振器が発振したレーザー光線をX軸方向に加工送りするX軸スキャン手段と、垂直集光手段と、を含み、被加工物に照射されるレーザー光線のスポット径(D)をφ5~60μmとし、該レーザー光線のスポットの重なり率(K)を0.70~0.99とし、Y軸方向のスキャン速度(Vy)を1~300m/秒とし、1パルス当たりのレーザー光線のエネルギー(E)を0.07~50μJとし、該Y軸スキャン手段によるスキャン幅(L)を一定値とし、
該レーザー光線の繰り返し周波数(H)は、
H=Vy/{D・(1-K)} MHz
に設定され、
該Y軸スキャン手段によるスキャン幅をLmmとしたとき、X軸方向のスキャン速度(Vx)は、
Vx=D・(1-K)・Vy/L mm/秒
に設定され、
該レーザー光線の平均出力(P)は、
P=E・Vy/{D・(1-K)} W
に設定され、該レーザー加工装置では、該Y軸スキャン手段によってY軸方向にスキャンする該スキャン幅(L)に基づき、該スキャン幅(L)に対応して一定の幅となるX軸方向に沿う複数の加工すべき列が設定され、該発振器を作動すると共に、該X軸スキャン手段、該Y軸スキャン手段を作動して、該加工すべき列の所定位置にレーザー光線の集光位置を位置付けて照射し、その後、Y軸方向に該スキャン幅(L)だけ走査し、次いで、X軸スキャン手段を作動して、該重なり率(K)を実現する寸法だけX軸方向に加工送りし、次いで、再度、Y軸スキャン手段を作動して、レーザー光線をY軸方向に該スキャン幅(L)だけ走査し、その後、再び重なり率(K)を実現する寸法だけX軸方向に加工送りし、前記した走査を繰り返すことで、該加工すべき列に対応して破壊層を形成するレーザー加工を実施するように構成されていることにより、該破壊層を形成するレーザー光線の平均出力が低く抑えられて、2層基板を構成するバッファー層に対して破壊層を形成する加工を実施する場合に、熱溜りが生じてLEDにダメージを与えることが回避される。さらに、2層基板に破壊層を形成するための時間も長時間にならず、破壊層を形成する際のスポット径を小さく設定するにも関わらず、スループットが悪化せず、効率よく発光層を移設基板に移すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態のレーザー加工装置の全体斜視図である。
【
図2】
図1に示すレーザー加工装置に配設されるレーザー光線照射手段を構成する光学系の概略を示すブロック図である。
【
図3】(a)被加工物を構成する2層基板の分解斜視図、(b)(a)に示す2層基板の一部拡大断面図である。
【
図4】(a)2層基板に対してレーザー加工を実施する態様を示す斜視図、(b)(a)に示すレーザー加工を実施する際の一部拡大断面図、(c)レーザー加工を実施する態様を示す平面図である。
【
図5】2層基板からサファイア基板を剥離する態様を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に基づいて構成されるレーザー加工装置に係る実施形態について添付図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0012】
図1には、本実施形態のレーザー加工装置1の全体斜視図が示されている。レーザー加工装置1は、被加工物を保持する保持手段20と、保持手段20を移動させる移動手段30と、アライメント手段6と、保持手段20に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段8と、表示手段9と、を備えている。
【0013】
保持手段20は、図中に矢印Xで示すX軸方向において移動自在に基台2に載置された矩形状のX軸方向可動板21と、図中に矢印Yで示すY軸方向において移動自在にX軸方向可動板21に載置され、X軸方向可動板21上においてY軸方向に沿うように配設された一対の案内レール22上に配設される矩形状のY軸方向可動板23と、Y軸方向可動板23の上面に配設された保持テーブル24と、を備えている。保持テーブル24は、図示しない回転駆動手段により回転可能に構成されている。保持テーブル24の上面を構成するX軸及び該X軸の方向に直交するY軸により規定される保持面24aは、平坦面で構成されている。
【0014】
移動手段30は、基台2上に配設され、保持手段20をX軸方向に加工送りするX軸方向送り手段32と、Y軸方向可動板23をY軸方向に割り出し送りするY軸方向送り手段34と、を備えている。X軸方向送り手段32は、パルスモータ35の回転運動を、ボールねじ36を介して直線運動に変換してX軸方向可動板21に伝達し、基台2上の案内レール2a、2aに沿ってX軸方向可動板21をX軸方向において進退させる。Y軸方向送り手段34は、パルスモータ37の回転運動を、ボールねじ38を介して直線運動に変換してY軸方向可動板23に伝達し、X軸方向可動板21上の案内レール22、22に沿ってY軸方向可動板23をY軸方向において進退させる。なお、図示は省略するが、X軸方向送り手段32、Y軸方向送り手段34、及び保持テーブル24には、位置検出手段が配設されており、保持テーブル24のX軸方向の位置、Y軸方向の位置、回転位置が正確に検出され、レーザー加工装置1に配設される制御手段(図示は省略)に伝達される。そして、その位置情報に基づいて該制御手段から指示される指示信号により、X軸方向送り手段31、Y軸方向送り手段32、及び図示しない保持テーブル24の回転駆動手段が駆動されて、所望の位置に保持テーブル24を位置付けることができる。
【0015】
図1に示すように、移動手段30の側方には、枠体4が立設される。枠体4は、基台2上に配設される垂直壁部4a、及び垂直壁部4aの上端部から水平方向に延びる水平壁部4bと、を備えている。枠体4の水平壁部4bの内部には、レーザー光線照射手段8の光学系が収容されている。水平壁部4bの先端部下面には、該光学系に含まれる垂直集光手段81とアライメント手段6が配設され、垂直集光手段81からレーザー光線が照射される。アライメント手段6は、可視光線を照射する照明手段、及び可視光線により被加工物を撮像する撮像素子(CCD)を備え、アライメント手段6によって撮像された画像は、該制御手段に送られると共に表示手段9に表示される。
【0016】
図2を参照しながら、レーザー光線照射手段8の光学系の構成の概略について説明する。図に示すように、レーザー光線照射手段8は、パルス状のレーザー光線LBを発振する発振器82と、発振器82から発振されたレーザー光線LBの出力を調整するアッテネータ83と、アッテネータ83から照射されたレーザー光線LBを、保持テーブル24の保持面24aを規定するY軸方向に沿って高速で走査(スキャン)するY軸スキャン手段84と、レーザー光線LBを保持テーブル24の保持面24aを規定するX軸方向に加工送りするX軸スキャン手段85と、該光学系を経たレーザー光線LBを保持テーブル24上の所定の位置に垂直に導いて集光して照射する垂直集光手段81と、を備えている。
【0017】
なお、Y軸スキャン手段84は、周知の偏向器から選択可能であり、例えば、音響光学素子(AOD)、レゾナントスキャナー、ポリゴンスキャナー等から適宜選択される。X軸スキャン手段85は、発振器82が発振したレーザー光線LBを保持テーブル24の保持面24aを規定するX軸方向に加工送りする機能を有する手段であればよく、ガルバノスキャナー、レゾナントスキャナーから選択可能である。後述するように、Y軸スキャン手段84が保持テーブル24の保持面24a上をスキャンする速度は、X軸スキャン手段85が保持面24a上をスキャンする速度よりも高速でスキャンするように設定される。また、本発明のX軸スキャン手段は、
図2に示す光学系内に配設されることに限定されず、保持手段20の保持テーブル24をX軸方向に加工送りするX軸方向送り手段32を、本発明のX軸スキャン手段として採用することもできる。
【0018】
垂直集光手段81は、例えば、図に示すような、fθレンズ81aを採用することができ、fθレンズ81aに導かれたレーザー光線LBを集光して保持テーブル24の保持面24aに対して垂直に照射する。しかし、垂直集光手段81としては、前記したfθレンズ81aを採用することに限定されず、例えば、放物面鏡(パラボリックミラー)を使用して、放物面鏡を構成する放物線の焦点から異なる位置に照射されたレーザー光線LBを集光して、保持テーブル24に向けて垂直に照射するものであってもよい。本実施形態に使用されるレーザー加工装置1は、概ね上記したとおりの構成を備えており、本実施形態のレーザー加工装置1の機能・作用について、以下に説明する。
【0019】
本実施形態のレーザー加工装置1によって加工される被加工物について、
図3を参照しながら説明する。
図3(a)は、被加工物を分解して示す斜視図であり、
図3(b)は、一体とされた被加工物の一部拡大断面図である。図に示すように、被加工物は、ウエーハ10と、ウエーハ10の表面に形成された発光層11上に移設基板16が配設された2層基板Wである。ウエーハ10は、エピタキシー基板としてサファイア基板12を採用し、サファイア基板12の上面に発光層11が積層されている。発光層11は、サファイア基板12上にエピタキシャル成長によって、バッファー層10aを介して形成されたn型半導体層及びp型半導体層(いずれも図示は省略)とからなるエピタキシャル層と、n型半導体層及びp型半導体層に配設された電極(図示は省略)とによって構成された複数の発光デバイス14(LED)が、分割予定ライン13によって区画されて形成されている。発光層11は、例えば、窒化ガリウム(GaN)から構成されるが、本発明はこれに限定されず、リン化ガリウム(GaP)、ヒ化インジウム(InAs)等、周知の半導体から選択され得る。バッファー層10aは、上記した発光層11と同種の素材によって形成される。ウエーハ10には、サファイア基板12の結晶方位を示すノッチ12aが形成されている。移設基板16は、例えば、モリブデン、銅、シリコン等から形成され、金、白金、クロム、インジウム、パラジウム等から選択された接合金属層18を介して発光層11に対面して配設される(
図3(b)を参照)。
【0020】
上記したような2層基板Wを予め用意し、上記したレーザー加工装置1に搬送して、
図4に示すように、ウエーハ10を構成するサファイア基板12の裏面12b側を上方に向け、移設基板16側を下方に向けて保持テーブル24の保持面24aに載置し、適宜の接着剤、ワックス等を使用して固定する。
【0021】
次いで、保持テーブル24をX軸方向に移動してアライメント手段6の直下に位置付けて、ウエーハ10を構成するサファイア基板12の裏面12b側から撮像し、2層基板Wの外縁、ノッチ12a等の位置情報を検出して、該制御手段に記憶する。
【0022】
次いで、上記した検出した2層基板Wの位置情報に基づいて、2層基板Wをレーザー光線照射手段8の垂直集光手段81の直下に移動して、2層基板Wを所定の位置に位置付け、
図4(b)に示すように、照射するレーザー光線LBの集光位置Pの深さを、サファイア基板12と発光層11との間に形成されたバッファー層10aに位置付ける。
【0023】
上記したように、レーザー光線LBの集光位置Pを2層基板Wのバッファー層10aに位置付けたならば、2層基板Wに対してレーザー光線LBを照射してレーザー加工を実施する。レーザー光線LBを照射する態様については、以下に、より具体的に説明する。
【0024】
本実施形態のレーザー加工装置1によって実施されるレーザー加工は、
図4(c)に示すように、Y軸スキャン手段84によってY軸方向にスキャンするスキャン幅(L)を適宜の値(本実施形態では、10mm)に設定して、X軸スキャン手段85、Y軸スキャン手段84を作動して、(1)で示す列の左端位置A1にレーザー光線LBの上記した集光位置Pを位置付ける。次いで、2層基板Wを停止した状態で、発振器82を作動して、レーザー光線LBを照射して、Y軸方向に該スキャン幅(L)だけ走査する。次いで、X軸スキャン手段85を作動して、後述する重なり率(K)を実現する寸法(スポット径(D)・(1-K))だけX軸方向に加工送りする。次いで、再度、Y軸スキャン手段84を作動して、前記したようにレーザー光線LBをY軸方向に該スキャン幅(L)だけ走査し、その後、再び後述する重なり率(K)を実現する寸法(スポット径(D)・(1-K))だけX軸方向に加工送りする。このときのX軸スキャン手段85の動作は停止と作動を繰り返す間欠的な動作である。このような走査を繰り返すことで、
図4(c)に示すように、最初の列(1)のX軸方向全体にわたってレーザー光線LBが照射され、バッファー層10aに破壊層100を形成する(
図4(b)を参照)。2層基板Wの最初の列(1)において上記したように破壊層100を形成したならば、Y軸スキャン手段84、X軸スキャン手段85を作動して、レーザー光線LBの集光位置Pを、列(2)の左端位置A2に位置付ける。そして、上記した列(1)と同様にして、列(2)の全領域にわたり破壊層100を形成する。同様にして列(3)、列(4)に対しても、左端位置A3、A4を加工開始位置として上記したレーザー加工を実施し、さらに、これをY軸方向全域にわたって実施して、2層基板Wの全体領域のバッファー層10aに対して破壊層100を形成する。
【0025】
上記したように破壊層100を形成したならば、
図5に示すように、2層基板Wから、サファイア基板12を剥離する。これにより、発光層11が、サファイア基板12から移設基板16に移設される。なお、2層基板Wから剥離されたサファイア基板12は、研磨、洗浄処理を施されて、再利用される。
【0026】
上記した本実施形態のレーザー加工は、以下の条件を満たすように設定されて実行されることが重要である。
スポット径(D) :5μm~60μm
スポット重なり率(K) :0.70~0.99(70%~90%)
Y軸方向スキャン速度(Vy) :1~300m/秒
1パルス当たりのエネルギー(E) :0.07~50μJ
【0027】
本実施形態では、具体的には、以下のようにレーザー加工条件が設定される。
スポット径(D) :10μm
スポット重なり率(K) :0.90(90%)
Y軸方向スキャン速度(Vy) :50m/秒
1パルス当たりのエネルギー(E) :1μJ
Y軸方向スキャン幅(L) :10mm
【0028】
本実施形態では、上記したように、ウエーハ10を構成するエピタキシー基板としてサファイア基板12が選択されていることから、発振器82によって発振されるレーザー光線LBの波長は、サファイア基板12を透過する波長(143nm~266nm)に設定される。しかし、本発明はこれに限定されず、エピタキシー基板として周知の他の基板(例えば、SiC基板)を選択することができ、その場合は、選択した素材を透過する波長のレーザー光線が照射される。
【0029】
本実施形態のレーザー加工装置1は、上記した加工条件に設定されると共に、レーザー光線の繰り返し周波数(H)、X軸方向のスキャン速度(Vx)、レーザー光線LBの平均出力(P)について、以下のような条件式を満たすように設定される。
H=Vy/{D・(1-K)} MHz
Vx=D・(1-K)・Vy/L mm/秒
P=E・Vy/{D・(1-K)} W
【0030】
すなわち、本実施形態では、
繰り返し周波数(H)=50/{10・(1-0.90)}=50MHz
X軸方向スキャン速度(Vx)=10・(1-0.90)・50/10=5mm/秒
平均出力(P)=1・50/{10・(1-0.90)}=50W
となり、直径200mmのウエーハを上記したように加工する時間は、以下のように演算される。
加工時間(T)=(200/5)・(200/10)・(3.14/4)
=628秒(=10分28秒)
【0031】
上記したように、本実施形態によれば、平均出力(P)が比較的低く抑えられて、2層基板Wの全領域に対して破壊層100を形成する加工を実施しても、熱溜りが生じてLEDにダメージを与えることが回避される。さらに、2層基板Wの全域に破壊層100を形成するための時間も長時間にならず、スポット径(D)を小さく設定したのにも関わらず、スループットが悪化せず、効率よく発光層11をサファイア基板12から移設基板16に移すことができる。
【符号の説明】
【0032】
1:レーザー加工装置
2:基台
4:枠体
6:アライメント手段
8:レーザー光線照射手段
81:垂直集光手段
81a:fθレンズ
82:発振器
83:アッテネータ
84:Y軸スキャン手段
85:X軸スキャン手段
9:表示手段
10:ウエーハ
10a:バッファー層
11:発光層
12:サファイア基板
12a:ノッチ
12b:裏面
13:分割予定ライン
14:発光デバイス(LED)
16:移設基板
18:接合金属層
20:保持手段
21:X軸方向可動板
22:案内レール
23:Y軸方向可動板
24:保持テーブル
24a:保持面
30:移動手段
32:X軸方向送り手段
34:Y軸方向送り手段
100:破壊層
LB:レーザー光線