(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】薄膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/30 20060101AFI20240722BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C23C16/30
C23C16/455
(21)【出願番号】P 2020167051
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】畠中 正信
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋平
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/107945(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0262084(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/30
C23C 16/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiCTe膜から形成される薄膜の形成方法であって、
ハロゲン原子およびケイ素原子を含む第1成膜材料と、前記第1成膜材料のキャリアガスとを成膜対象に供給して前記成膜対象に前記第1成膜材料を付着させた後に前記第1成膜材料の供給を停止する第1工程と、
テルル原子
および炭素原子を含む第2成膜材料と前記第2成膜材料のキャリアガスとを前記成膜対象に供給して前記成膜対象に前記第2成膜材料を付着させた後に、前記第2成膜材料の供給を停止し、かつ、水素原子を含む還元ガスを前記第2成膜材料の前記キャリアガスとともに前記成膜対象に供給する第2工程と、を備え、
前記第1工程および前記第2工程において、前記成膜対象の温度は、250℃以上500℃以下である
薄膜の形成方法。
【請求項2】
前記第1成膜材料は、塩素原子を含む
請求項1に記載の薄膜の形成方法。
【請求項3】
前記第1成膜材料は、Si
nCl(
2n+2)、Si
nCl
xH
(2n+2-x)、Si
nCl
xR
(2n+2-x)、Si
nCl
xH
yR
(2n+2-x-y)の一般式によって表されるハロゲン化物から構成される群から選択されるいずれか1つであり、
前記一般式において、n、x、yは1以上の整数であり、Rはアルキル基であり、x、y、および、x+yはそれぞれ以下を満たす
1≦x≦(2n+2)
1≦y≦(2n+2)
(x+y)≦(2n+2)
請求項2に記載の薄膜の形成方法。
【請求項4】
前記第2成膜材料は、ジメチルテルライド、ジエチルテルライド、ジイソプロピルテルライド、および、ジターシャリーブチルテルライドから構成される群から選択されるいずれか1つである
請求項1から3のいずれか一項に記載の薄膜の形成方法。
【請求項5】
前記還元ガスは、水素ガス、ヒドラジン、および、有機ヒドラジンのうちの少なくとも1つを含む
請求項1から4のいずれか一項に記載の薄膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロスポイント型のメモリセルは、メモリ素子とセル選択用のスイッチ素子とを備えている。スイッチ素子には、カルコゲン元素を含むカルコゲン化合物によって形成されたスイッチ素子であるオボニック閾値スイッチ(Ovonic Threshold Switch:OTS)素子が提案されている。OTS素子は、カルコゲン化合物によって形成されたOTS層を備えている。OTS層を形成する材料には、例えばSiCTeが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、OTS層の形成方法には、物理気相蒸着法および化学気相蒸着法が提案されているが、SiCTeから形成されるOTS層の形成方法については詳細な検討がなされているとはいえず、未だ検討の余地が残されている。
【0005】
本発明は、SiCTe膜の形成を可能とした薄膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための薄膜の形成方法は、SiCTe膜から形成される薄膜の形成方法である。ハロゲン原子およびケイ素原子を含む第1成膜材料と、前記第1成膜材料のキャリアガスとを成膜対象に供給して前記成膜対象に前記第1成膜材料を付着させた後に前記第1成膜材料の供給を停止する第1工程と、テルル原子を含む第2成膜材料と前記第2成膜材料のキャリアガスとを前記成膜対象に供給して前記成膜対象に前記第2成膜材料を付着させた後に前記第2成膜材料の供給を停止し、かつ、水素原子を含む還元ガスを前記第2成膜材料の前記キャリアガスとともに前記成膜対象に供給する第2工程と、を備える。前記第1工程および前記第2工程において、前記成膜対象の温度は、250℃以上500℃以下である。この薄膜の形成方法によれば、成膜対象の表面における第1成膜材料と第2成膜材料との熱反応によって、SiCTe膜を形成することが可能である。
【0007】
上記薄膜の形成方法において、前記第1成膜材料は、塩素原子を含んでもよい。この薄膜の形成方法によれば、第1成膜材料が含むハロゲン原子が塩素原子であることによって、他のハロゲン原子を含む場合に比べて、SiCTe膜の形成が容易である。
【0008】
上記薄膜の形成方法において、前記第1成膜材料は、SinCl(2n+2)、SinClxH(2n+2-x)、SinClxR(2n+2-x)、SinClxHyR(2n+2-x-y)の一般式によって表されるハロゲン化物から構成される群から選択されるいずれか1つであってよい。前記一般式において、n、x、yは1以上の整数であり、Rはアルキル基であり、x、y、および、x+yはそれぞれ以下を満たす。
1≦x≦(2n+2)
1≦y≦(2n+2)
(x+y)≦(2n+2)
【0009】
上記薄膜の形成方法において、前記第2成膜材料は、ジメチルテルライド、ジエチルテルライド、ジイソプロピルテルライド、および、ジターシャリーブチルテルライドから構成される群から選択されるいずれか1つであってよい。
【0010】
上記薄膜の形成方法において、前記還元ガスは、水素ガス、ヒドラジン、および、有機ヒドラジンのうちの少なくとも1つを含んでよい。この薄膜の形成方法によれば、いずれかの還元ガスを成膜対象の表面に供給することによって、副生成物であるハロゲン化テルルを効率よく分解することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態における薄膜の形成方法が実施される成膜装置の一例を示す装置構成図。
【
図2】一実施形態における薄膜の形成方法において各ガスが供給されるタイミングを説明するためのタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1および
図2を参照して、薄膜の形成方法の一実施形態を説明する。以下では、薄膜の形成方法を実施するALD装置、および、薄膜の形成方法を順に説明する。
[ALD装置]
図1を参照してALD装置を説明する。以下に説明するALD装置は、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition)を用いたSiCTe膜の形成方法を実施するための装置である。
【0013】
図1が示すように、ALD装置10は、真空槽11を有し、真空槽11には、真空槽11から突き出た導入部12が接続されている。導入部12は、真空槽11に各種ガスを導入する。真空槽11の内部には、成膜対象Sを支持する支持部13が位置し、支持部13は、例えばステージである。
【0014】
支持部13の内部には、加熱部14が位置している。加熱部14は、支持部13に支持された成膜対象Sの温度を250℃以上500℃以下の範囲内に含まれる所定の温度に加熱する。より好ましくは、加熱部14は、成膜対象Sの温度を300℃以上400℃以下の範囲内に含まれる所定の温度に加熱する。
【0015】
真空槽11の内部であって、支持部13と対向する位置には、導入部12に接続される拡散部15が位置している。拡散部15は導入部12を介して真空槽11に供給されるガスを真空槽11の内部に拡散させる。拡散部15は、例えばシャワープレートである。
【0016】
真空槽11には、真空槽11の内部を排気する排気部16が接続されている。排気部16は、真空槽11の内部を所定の圧力にまで排気する。排気部16は、例えば排気ポンプおよびバルブを含んでいる。
【0017】
導入部12には、第1配管21、第2配管22、第3配管23、第4配管24、および、第5配管25が接続されている。第1配管21には、第1キャリアガス供給部31および第1貯蔵部41Tが接続されている。第1キャリアガス供給部31は、キャリアガスを所定の流量で第1配管21に流すマスフローコントローラーである。第1キャリアガス供給部31は、第1配管21にキャリアガスを流すことによって、第1貯蔵部41Tにキャリアガスを供給する。キャリアガスは、例えばアルゴン(Ar)ガスである。
【0018】
第1貯蔵部41Tは、SiCTe膜を形成するための第1成膜材料M1を貯蔵している。第1成膜材料M1は、ハロゲン原子およびケイ素(Si)原子を含んでいる。第1成膜材料M1が含むハロゲン原子は、塩素(Cl)原子であってよい。第1成膜材料M1が含むハロゲン原子が塩素原子であることによって、他のハロゲン原子を含む場合に比べて、SiCTe膜の形成が容易である。
【0019】
第1成膜材料M1は、SinCl(2n+2)、SinClxH(2n+2-x)、SinClxR(2n+2-x)、SinClxHyR(2n+2-x-y)の一般式で表されるハロゲン化物から構成される群から選択されるいずれか1つである。これらの一般式において、n、x、yは1以上の整数であり、Rはアルキル基である。x、y、および、x+yはそれぞれ以下を満たす。
【0020】
1≦x≦(2n+2)
1≦y≦(2n+2)
(x+y)≦(2n+2)
【0021】
第1成膜材料M1は、例えば、クロロトリメチルシラン(SiCl(CH3)3)、ジクロロジメチルシラン(SiCl2(CH3)2)、テトラクロロシラン(SiCl4)、ヘキサクロロシラン(Si2Cl6)、1,1,2,2‐テトラクロロ‐1,2‐ジメチルジシラン(Si2Cl4(CH3)2)であってよい。これらの材料は、室温すなわち20℃において液体である。
【0022】
第1貯蔵部41Tは、第1温調部41Hによって覆われている。第1温調部41Hは、第1貯蔵部41Tの内部に貯蔵された第1成膜材料M1の温度を所定の温度に調節する。これにより、第1温調部41Hは、第1貯蔵部41T内における第1成膜材料M1の蒸気圧を所定の値に調節する。第1キャリアガス供給部31から第1貯蔵部41TにArガスが供給されると、第1貯蔵部41T内の第1成膜材料M1が発泡されることによって、第1成膜材料M1が、Arガスとともに第1配管21を通じて導入部12に供給される。
【0023】
第2配管22には、第2キャリアガス供給部32および第2貯蔵部42Tが接続されている。第2キャリアガス供給部32は、キャリアガスを所定の流量で第2配管22に流すマスフローコントローラーである。第2キャリアガス供給部32は、第2配管22にキャリアガスを流すことによって、第2貯蔵部42Tにキャリアガスを供給する。キャリアガスは、例えばArガスである。
【0024】
第2貯蔵部42Tは、SiCTe膜を形成するための第2成膜材料M2を貯蔵している。第2成膜材料M2は、テルル(Te)原子を含んでいる。第2成膜材料M2は、Teを含む有機材料である。第2成膜材料M2は、例えば、ジメチルテルライド(DMTe)(Te(CH3)2)、ジエチルテルライド(DETe)(Te(C2H5)2)、ジイソプロピルテルライド(DIPTe)(Te(i‐C3H7)2)、ジターシャリーブチルテルライド(DTBTe)(Te(t‐C4H9)2)から構成される群から選択されるいずれか1つであってよい。これらの材料は、室温すなわち20℃において液体である。
【0025】
第2貯蔵部42Tは、第2温調部42Hによって覆われている。第2温調部42Hは、第2貯蔵部42Tの内部に貯蔵された第2成膜材料M2の温度を所定の温度に調節する。これにより、第2温調部42Hは、第2貯蔵部42T内における第2成膜材料M2の蒸気圧を所定の値に調節する。第2キャリアガス供給部32から第2貯蔵部42TにArガスが供給されると、第2貯蔵部42T内の第2成膜材料M2が発泡されることによって、第2成膜材料M2が、Arガスとともに第2配管22を通じて導入部12に供給される。
【0026】
第3配管23には、還元ガス供給部33が接続されている。還元ガス供給部33は、還元ガスを所定の流量で第3配管23に流すマスフローコントローラーである。還元ガスは、水素(H)を含むガスである。還元ガスは、例えば水素(H2)ガスである。還元ガスを成膜対象Sの表面に供給することによって、副生成物であるハロゲン化テルルを効率よく分解することが可能である。
【0027】
第4配管24には、第4キャリアガス供給部34が接続されている。第4キャリアガス供給部34は、キャリアガスを所定の流量で第4配管24に流すマスフローコントローラーである。キャリアガスは、例えばArガスである。第5配管25には、第5キャリアガス供給部35が接続されている。第5キャリアガス供給部35は、キャリアガスを所定の流量で第5配管25に流すマスフローコントローラーである。キャリアガスは、例えばArガスである。
【0028】
第6配管26は、第3配管23に接続されている。第6配管26には、第6キャリアガス供給部36が接続されている。第6キャリアガス供給部36は、キャリアガスを所定の流量で第6配管26に流すマスフローコントローラーである。これにより、還元ガス供給部33が第3配管23に流した還元ガスは、キャリアガスによって希釈された状態で、導入部12に供給される。キャリアガスは、例えばArガスである。
【0029】
ALD装置10では、第1成膜材料M1と第2成膜材料M2とが記載の順に成膜対象Sの表面に供給された後に、水素ガスが成膜対象Sの表面に供給される。そして、第1成膜材料M1の供給、第2成膜材料M2の供給、および、水素ガスの供給が繰り返される。これにより、所定の温度に加熱された成膜対象Sの表面に付着した第1成膜材料M1および第2成膜材料M2が、成膜対象Sの表面において水素ガスによって還元される。結果として、成膜対象Sの表面にSiCTe膜が形成される。
【0030】
[薄膜の形成方法]
図2を参照して薄膜の形成方法を説明する。
本開示の薄膜の形成方法は、第1工程と第2工程とを含む。第1工程および第2工程において、成膜対象の温度は、250℃以上500℃以下である。第1工程は、ハロゲン原子およびSi原子を含む第1成膜材料M1と、第1成膜材料M1のキャリアガスとを成膜対象Sに供給して成膜対象Sに第1成膜材料M1を付着させた後に、第1成膜材料M1の供給を停止する工程である。第2工程は、Te原子を含む第2成膜材料M2と第2成膜材料M2のキャリアガスとを成膜対象Sに供給して成膜対象Sに第2成膜材料M2を付着させた後に、第2成膜材料M2の供給を停止し、かつ、水素原子を含む還元ガスを第2成膜材料M2のキャリアガスとともに成膜対象Sに供給する工程である。こうした方法によれば、成膜対象Sの表面における第1成膜材料M1と第2成膜材料M2との熱反応によって、SiCTe膜を形成することが可能である。
【0031】
以下、図面を参照して薄膜の形成方法をより詳しく説明する。なお、以下に例示する薄膜の形成方法では、第1成膜材料M1がSi2Cl6であり、第2成膜材料M2がTe(C2H5)2である場合を説明する。
【0032】
図2が示すように、SiCTe膜の形成方法では、タイミングt1にて、第1成膜材料M1を含むArガスの供給が開始される。第1成膜材料M1を含むArガスは、第1配管21を通じて真空槽11に供給される。また、Arガスの供給が開始される。Arガスは、第4配管24、第5配管25、および、第6配管26の各々を通じて、真空槽11に供給される。第1配管21を通じて供給されるArガス、および、第4配管24から第6配管26を通じて供給されるArガスが、第1成膜材料M1のキャリアガスとして機能する。
【0033】
第1配管21から供給されるArガスの流量は、所定の流量である流量FM1である。第4配管24から第6配管26を通じて供給されるArガスの流量は、所定の流量である流量FAである。Arガスの流量FAは、第1成膜材料M1を含むArガスの流量FM1よりも大きい。例えば、第5配管25を通じて供給されるArガスの流量は、第4配管24を通じて供給されるArガスの流量、および、第6配管26を通じて供給されるArガスの流量よりも大きい。
【0034】
タイミングt2にて、真空槽11への第1成膜材料M1を含むArガスの供給が停止され、第4配管24から第6配管26を通じたArガスの供給が継続される。このとき、第4配管24から第6配管26から供給されるArガスの流量は、流量FAに保たれる。
【0035】
タイミングt3にて、第2成膜材料M2を含むArガスの供給が開始される。第2成膜材料M2を含むArガスは、第2配管22を通じて真空槽11に供給される。このとき、第2成膜材料M2を含むArガスの流量は、所定の流量FM2である。一方、第4配管24から第6配管26を通じて供給されるArガスの流量は、流量FAに保たれる。Arガスの流量FAは、第2成膜材料M2を含むArガスの流量FM2よりも大きい。
【0036】
タイミングt4にて、第2成膜材料M2を含むArガスの供給が停止される。一方で、第4配管24から第6配管26を通じたArガスの供給は継続される。また、タイミングt4にて、H2ガスの供給が開始される。H2ガスは、第3配管23を通じて真空槽11に供給される。このとき、H2ガスの流量は、所定の流量である流量FHである。Arガスの流量FAは、H2ガスの流量FHよりも大きい。タイミングt5にて、H2ガスの供給、および、第4配管24から第6配管26を通じたArガスの供給が停止される。
【0037】
つまり、タイミングt1からタイミングt3までの間が第1工程である。また、タイミングt3からタイミングt5までの間が第2工程である。
タイミングt1からタイミングt5までの間が1サイクルであり、SiCTe膜の形成方法では、成膜対象Sに形成するSiCTe膜の厚さに応じて、こうしたサイクルが、数十サイクルから数百サイクルにわたって繰り返される。なお、複数のサイクルが繰り返されるときには、(n-1)回目のサイクルにおけるタイミングt5と、n回目のサイクルにおけるタイミングt1とが同時であり、第4配管24から第6配管26を通じたSrガスの供給は、全てのサイクルが終了するまで継続される。
【0038】
タイミングt1からタイミングt2までの期間、タイミングt2からタイミングt3までの期間、タイミングt3からタイミングt4までの期間、および、タイミングt4からタイミングt5までの期間は、例えば数秒から十数秒である。第1成膜材料M1とともに真空槽11に供給されるArガスの流量FM1は、例えば20sccmであり、第2成膜材料M2とともに真空槽11に供給されるArガスの流量FM2は、例えば100sccmである。水素ガスの流量FHは、例えば1000sccmである。第4配管24から第6配管26を通じて供給されるArガスの流量FAは例えば4000sccmである。タイミングt1からタイミングt5にわたって、真空槽11内の圧力は、例えば200Pa以上250Pa以下の範囲内における所定の値に設定される。
【0039】
第1成膜材料M1、第2成膜材料M2、および、還元ガスであるH2ガスが成膜対象Sの表面に供給されることによって、成膜対象Sの表面では、以下の反応が生じ、これによって、成膜対象Sの表面にSiCTe膜が形成される。
Si2Cl6+Te(C2H5)2+H2
→ SiCTe↓+SiCl4↑+CH4↑+HCl↑+TeCl2↑+TeCl4↑
【0040】
Si2Cl6中のCl基と、Te(C2H5)2中のエチル基とが反応することによって、SiCTeが形成される。この際に、副生成物であるSiCl4、CH4、HCl、TeCl2、TeCl4などが生成される。このうち、SiCl4、CH4、および、HClは高い蒸気圧を有することから、反応過程において真空槽11内から容易に排気される。これに対して、TeCl2およびTeCl4は、低い蒸気圧を有し、かつ、200から230℃程度の低い融点を有する。なお、TeCl2の融点は208℃程度であり、TeCl4の融点は224℃程度である。そのため、成膜対象Sの温度を250℃以上の温度に保つことによって、副生成物であるTeCl2およびTeCl4を効率よく排気することが可能である。また、第1成膜材料M1および第2成膜材料M2を成膜対象Sの表面に供給した後にH2ガスを成膜対象Sの表面に供給することによって、SiCTe膜中に残留するTeCl2およびTeCl4を効率よく分解することが可能である。
【0041】
以上説明したように、薄膜の形成方法における一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)成膜対象Sの表面における第1成膜材料M1と第2成膜材料M2との熱反応によって、SiCTe膜を形成することが可能である。
【0042】
(2)第1成膜材料M1が含むハロゲン原子が塩素原子であることによって、他のハロゲン原子を含む場合に比べて、SiCTe膜の形成が容易である。
(3)いずれかの還元ガスを成膜対象Sの表面に供給することによって、副生成物であるハロゲン化テルルを効率よく分解することが可能である。
【0043】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[第1成膜材料]
・第1成膜材料M1が含むハロゲン原子は、Cl原子に限らず、フッ素(F)原子、臭素(Br)原子、ヨウ素(I)原子、および、アスタチン(At)原子であってもよい。
【0044】
Cl原子とF原子とを比較した場合には、Si‐F結合エネルギーが552.7±2.1KJ/molである一方で、Si‐Cl結合エネルギーが406KJ/molであるから、Cl原子を含む成膜材料を用いた場合に、F原子を含む成膜材料を用いた場合に比べて、膜中にハロゲン原子が残留しにくい。
【0045】
また、Cl原子とBr原子とを比較した場合には、Cl原子はBr原子に比べて毒性が低く、かつ、反応性が高い。Cl原子とI原子とを比較した場合には、Cl原子は、I原子よりも分子量が小さく、蒸気圧が高い。アスタチン(At)はハロゲン元素の一つであるが、壊変系列中の短寿命生成物として存在する元素で、半減期が短いのが特徴である。したがって、成膜処理に用いる元素としては不適格で使えないハロゲン元素である。これらの理由から、ハロゲン原子のなかでもCl原子を含む第1成膜材料M1を用いることが好ましく、他のハロゲン原子を用いる場合に比べて、Cl原子を含む第1成膜材料M1を用いることによって、SiCTe膜を容易に形成することができる。
【0046】
[還元ガス]
・H原子を含む還元ガスは、上述したH2ガスに限らず、ヒドラジン(H2NNH2)、および、ヒドラジンが有する水素原子をアルキル基(CnH2n+1)で置換した有機ヒドラジンでもよい。有機ヒドラジンのうち、1つのH原子をアルキル基に置換した有機ヒドラジンは、例えば、モノメチルヒドラジン(N2H3(CH3))、および、ターシャルブチルヒドラジン(N2H3(C4H9))であってよい。
【0047】
2つのH原子をアルキル基に置換した有機ヒドラジンは、例えば非対称ジメチルヒドラジン(N2H2(CH3)2)であってよい。3つのH原子をアルキル基に置換した有機ヒドラジンは、例えばトリメチルヒドラジン(N2H(CH3)3)であってよい。
【0048】
なお、還元ガスは、上述したH2ガス、ヒドラジン、および、複数の有機ヒドラジンのうち、2つ以上を含んでもよい。
【0049】
[キャリアガス]
・キャリアガスは、Arガスに代えて、例えばHeガス、Neガス、Krガス、Xeガス、N2ガスなどであってもよい。これらのガスを用いた場合であっても、上述した形成方法を用いることによってSiCTe膜を形成することは可能である。
【0050】
[薄膜の製造方法]
・薄膜の形成方法では、第2成膜材料M2を供給した後に、第1成膜材料M1を供給してもよい。すなわち、第2工程を第1工程よりも先に行ってもよい。この場合であっても、成膜対象Sの表面に供給された第1成膜材料M1と第2成膜材料M2とが、成膜対象Sの表面での熱反応によってSiCTe膜を形成することが可能であるから、上述した効果と同等の効果を得ることはできる。
【0051】
[ALD装置]
・第1成膜材料M1または第2成膜材料M2として昇華性の固体原料を用いることが可能である。こうした成膜材料M1,M2を用いる場合には、ALD装置10は、各成膜材料M1,M2を収容する収容部、収容部にキャリアガスを供給して、各成膜材料をキャリアガスとともに真空槽11に供給することが可能な供給部を備えていればよい。
【符号の説明】
【0052】
10…ALD装置
M1…第1成膜材料
M2…第2成膜材料
S…成膜対象