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特許7524541ポリオレフィン変性体およびその製造方法、ならびにブロックコポリマーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ポリオレフィン変性体およびその製造方法、ならびにブロックコポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 291/06 20060101AFI20240723BHJP
   C08F 8/30 20060101ALI20240723BHJP
   C08G 81/02 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C07C291/06
C08F8/30
C08G81/02
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019557291
(86)(22)【出願日】2018-11-28
(86)【国際出願番号】 JP2018043868
(87)【国際公開番号】W WO2019107450
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2017227833
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017227834
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】板垣 浩司
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 央士
(72)【発明者】
【氏名】高田 十志和
(72)【発明者】
【氏名】曽川 洋光
【審査官】石田 傑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/143869(WO,A1)
【文献】特開2016-065033(JP,A)
【文献】特開2004-339445(JP,A)
【文献】特開2001-002731(JP,A)
【文献】Patrick Brant et al.,Organomellics,2016年,Vol.35,p.2836-2839
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08F
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖の2つの末端のうち片方の末端に炭素-炭素二重結合を有するポリオレフィンと、下記一般式[I]で表されるニトリルオキシド化合物とを付加反応させることを含む、ポリオレフィン変性体の製造方法であって、
前記ニトリルオキシド化合物の融点が、25~300℃であり、ニトリルオキシド当量が、2.52~4.00mmol/gであり、
前記ニトリルオキシド当量は、下記式で求められる、ニトリルオキシド化合物中に含まれる単位質量あたりのニトリルオキシド官能基の当量であり、
ニトリルオキシド当量[mmol/g]=1000×(分子内のニトリルオキシド基の数/ニトリルオキシド化合物の分子量)
【化1】
前記ニトリルオキシド化合物は、前記一般式[I]において、
sは1または2であり、
およびRは、それぞれ独立して炭素数4~10の炭化水素基または炭素数4~10のハロゲン化炭化水素基であり、
Xは、2価の炭化水素基、-O-、-S-または-N(R)-であり、
は、水素原子または炭素数1~6の炭化水素基であり;
s=1の場合、Aは、下記一般式[V]で表される基であり、
【化2】
前記一般式[V]において、
は、炭素数1~5のアルキレン基または炭素数6~10のアリーレン基であり、
は、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシ基、アミノ基、置換基を有するアミノ基、アミド基、-OR20(ただし、R20は、アルキル基またはアリール基である。)またはヘテロ環から選ばれた基であり、
s=2の場合、Aは2価の有機基である、ポリオレフィン変性体の製造方法。
【請求項2】
前記ニトリルオキシド化合物は、前記一般式[I]において、
およびRは、それぞれ独立して炭素数6~8のアリール基である、請求項1に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
【請求項3】
前記ニトリルオキシド化合物は、前記一般式[I]において、
sは2であり、Aは、炭素数2~10のアルキレン基である、請求項1又は2に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
【請求項4】
前記ニトリルオキシド化合物は、前記一般式[I]において、
sは2であり、Aが、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、2-メチル-1,3-プロピレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,7-ヘプチレン基、1,8-オクチレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基、1,4-シクロへキシレン基、1,4-シクロヘキサジメチレン基、1-メチル-1,2-エチレン基または1-メチル-1,3-プロピレン基である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
【請求項5】
前記ニトリルオキシド化合物は、前記一般式[I]において、
sは2であり、Aは、下記一般式[II]で表される基である、請求項1又は2に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
-(R-O)-R-(O-R- ・・・[II]
前記一般式[II]において、mは、0または1であり、Rは、炭素数2~4のアルキレン基であり、Rは、下記一般式[III]で表される基または下記一般式[IV]で表される基である。
【化3】
前記一般式[III]において、R~Rは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、RとRが連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、RとRが連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよい。
【化4】
前記一般式[IV]において、R10~R17は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、R10とR11が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R12とR13が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R14とR15が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R16とR17が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、nは、0または1であり、Qは、-C(R18)(R19)-、-C(=O)-、-S-または-S(=O)-であり、R18およびR19は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、R18とR19が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよい。
【請求項6】
前記一般式[II]において、
mが、1であり、
が、前記一般式[IV]で表される基であり、
前記一般式[IV]において、
nが、1であり、
Qが、-C(R18)(R19)-である、請求項5に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
【請求項7】
前記ポリオレフィンにおける、ポリオレフィン1分子あたりの炭素-炭素二重結合の数が、0.1~4.0個/本である、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
【請求項8】
前記ポリオレフィンの主鎖の末端における炭素-炭素二重結合が、ビニル基またはビニリデン基である、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
【請求項9】
前記ポリオレフィンと、前記ニトリルオキシド化合物とを、実質的に溶媒が存在しない条件下で付加反応させることを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
【請求項10】
前記ニトリルオキシド化合物が、下記化合物A~G及びJ~Nからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
【化5】
【請求項11】
下記一般式[VIII]で表される構造を有する、ポリオレフィン変性体であって、
【化6】
前記ポリオレフィン変性体が、ポリオレフィン変性体(c)及びポリオレフィン変性体(d)からなる群から選択される少なくとも1つの化合物であり、
前記ポリオレフィン変性体(c)は、前記一般式[VIII]において、
vは、2であり、
wは、1又は2であり、
POは、ポリオレフィンの主鎖であり、
21、R22およびR23は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~8のアルキル基であり、
1’およびR2’は、それぞれ独立して炭素数4~10の炭化水素基または炭素数4~10のハロゲン化炭化水素基であり、
Yは、それぞれ独立して2価の炭化水素基、-O-、-S-または-N(R3’)-であり、
3’は、水素原子または炭素数1~6の炭化水素基であり、
Bは、2価の有機基であり、
前記ポリオレフィン変性体(d)は、前記一般式[VIII]において、
vは、1であり、
wは、1であり、
POは、ポリオレフィンの主鎖であり、
21、R22およびR23は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~8のアルキル基であり、
1’およびR2’は、それぞれ独立して炭素数4~10の炭化水素基または炭素数4~10のハロゲン化炭化水素基であり、
Yは、それぞれ独立して2価の炭化水素基、-O-、-S-または-N(R3’)-であり、
3’は、水素原子または炭素数1~6の炭化水素基であり、
Bは、下記一般式[V]で表される基である、ポリオレフィン変性体。
【化7】
前記一般式[V]において、
は、炭素数1~5のアルキレン基または炭素数6~10のアリーレン基であり、
は、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシ基、アミノ基、置換基を有するアミノ基、アミド基、-OR20(ただし、R20は、アルキル基またはアリール基である。)またはヘテロ環である。
【請求項12】
前記ポリオレフィン変性体(c)は、前記一般式[VIII]において、
Bは、炭素数2~10のアルキレン基である、請求項11に記載のポリオレフィン変性体。
【請求項13】
前記ポリオレフィン変性体(c)は、前記一般式[VIII]において、
Bは、下記一般式[II]で表される基である、請求項11又は12に記載のポリオレフィン変性体。
-(R-O)-R-(O-R- ・・・[II]
前記一般式[II]において、
mは、0または1であり、
は、炭素数2~4のアルキレン基であり、
は、下記一般式[III]で表される基または下記一般式[IV]で表される基である。
【化8】
前記一般式[III]において、
~Rは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、RとRが連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、RとRが連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよい。
【化9】
前記一般式[IV]において、
10~R17は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、R10とR11が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R12とR13が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R14とR15が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R16とR17が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、
nは、0または1であり、
Qは、-C(R18)(R19)-、-C(=O)-、-S-または-S(=O)-であり、R18およびR19は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、R18とR19が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよい。
【請求項14】
前記一般式[VIII]において、
22およびR23が、水素原子である、請求項11~13のいずれか一項に記載のポリオレフィン変性体。
【請求項15】
請求項11~14のいずれか一項に記載のポリオレフィン変性体と、
前記ポリオレフィン変性体が有する官能基と反応し得る官能基を有するポリマーとを反応させることを含む、ブロックコポリマーの製造方法。
【請求項16】
前記ポリオレフィン変性体が有する官能基と反応し得る官能基が、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、炭素-窒素三重結合、無水酸基およびアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項15に記載のブロックコポリマーの製造方法。
【請求項17】
前記ポリオレフィン変性体と前記ポリマーとを、実質的に溶媒が存在しない条件下で反応させることを含む、請求項15または16に記載のブロックコポリマーの製造方法。
【請求項18】
反応温度が150℃以上である、請求項15~17のいずれか一項に記載のブロックコポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルオキシド化合物、組成物、ポリオレフィン変性体およびその製造方法、ならびにブロックコポリマーの製造方法に関する。
本願は、2017年11月28日に、日本に出願された特願2017-227833号、及び2017年11月28日に、日本に出願された特願2017-227834号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ニトリルオキシド基は、不飽和結合と無触媒下で加熱によって容易にかつ副生物を生じることなく[2+3]付加環化反応を起こす。そのため、ニトリルオキシド化合物は、種々の用途における反応剤として有用である。例えば、ジエンゴムの架橋や変性に用いられる。しかし、ニトリルオキシド基は、二量化、異性化等の副反応を起こしやすく、著しく不安定である(非特許文献1)。
【0003】
ニトリルオキシド基の二量化が抑制されたニトリルオキシド化合物としては、ニトリルオキシド基のオルト位に置換基を導入した芳香族ニトリルオキシド化合物が知られている(非特許文献1)。
ニトリルオキシド基の異性化が抑制されたニトリルオキシド化合物としては、ニトリルオキシド基のα位の炭素原子に嵩高い置換基を導入した脂肪族ニトリルオキシド化合物が知られている(非特許文献2~3、特許文献1~3)。
【0004】
ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンは、成形性、機械的物性等に優れ、硬質のものから軟質のものまで幅広い物性のものが製造されている。そのため、ポリオレフィンの用途は、フィルム、シート、繊維、不織布、成形品(容器等)、改質剤等として工業用途から生活資材に至るまで多岐にわたっている。
【0005】
ポリオレフィンは、飽和の炭化水素骨格からなるため、染色性、接着性に乏しいことに加えて、反応性に乏しいことが知られている。また、他のポリマーとの相溶性が悪いことも知られている。これらの問題を解決する方法としては、ポリオレフィンを過酸化物によって改質する方法が知られている。しかし、この方法では、ポリエチレンでは架橋反応が進行し、ポリプロピレンでは分子量の低下が副反応として併発する。
【0006】
近年、主鎖の2つの末端のうち片方の末端に炭素-炭素二重結合を有するポリオレフィンが報告され、末端の炭素-炭素二重結合への極性官能基の導入が試みられている(非特許文献4)。化学反応によって末端の炭素-炭素二重結合に極性官能基を導入できれば、ポリオレフィンの接着性、染色性等が改善される。また、末端に導入された極性官能基を他のポリマーと反応させることによってブロックコポリマーの製造が可能となり、他のポリマーとの接着や相溶化が可能となる。
【0007】
しかし、ポリオレフィンの末端の炭素-炭素二重結合が起こし得る反応自体があまり知られていないため、ポリオレフィンの末端の炭素-炭素二重結合と速やかにかつ選択的に反応し得る反応剤が少ない。そのため、末端に炭素-炭素二重結合を有するポリオレフィンと反応剤との反応の応用例が限定される。また、末端に炭素-炭素二重結合を有するポリオレフィンと反応剤との反応は、生産性の点から高温での反応が好ましいが、高温でポリオレフィンの末端の炭素-炭素二重結合と選択的かつ速やかに進行する反応剤は極めて限定的である。そのため、ポリオレフィンの末端の炭素-炭素二重結合と速やかに反応する反応剤、特に高温で反応する反応剤が求められている。
【0008】
ジエンゴムの架橋剤や変性剤としては、1,3-双極子官能基を有する化合物、例えば、ニトリルオキシド基を有する化合物が知られている(特許文献4、5)。ニトリルオキシド基を有する化合物は、他の化合物中の不飽和結合と無触媒下で加熱によって容易にかつ副生物を生じることなく[2+3]付加環化反応を起こすため、種々の用途における反応剤として有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-65033号公報
【文献】国際公開第2016/143869号
【文献】国際公開第2016/143870号
【文献】特開平11-180943号公報
【文献】特開2011-52072号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】小山,外1名,”クリック反応のためのニトリルオキシド反応剤:炭素-炭素結合形成を伴う無触媒環化付加反応”,有機合成化学協会誌,第47巻,第9号,2016年,p.866-876
【文献】Ching-Fa Yao,外2名,”REACTIONS OF β-NITROSTYRENES WITH GRIGNARD REAGENTS”、Tetrahedron Letters,第37巻,第35号,1996年,p.6339-6342
【文献】Toyokazu Tsutsuba,外3名,”Kinetically Stabilized Aliphatic Nitrile N-Oxides as Click Agents:Synthesis,Structure,and Reactivity”,Chemistry Letters,第46巻,2017年,p.315-318
【文献】Patrick Brant,外3名,”Termination Events in Sterically Hindered Metallocene-Catalyzed Olefin Oligomerizations:Vinyl Chain Ends in Oligooctenes”,Organometallics,第35巻,2016年,p.2836-2839
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、非特許文献1に記載の芳香族ニトリルオキシド化合物におけるニトリルオキシド基は、加熱によってイソシアネート基に容易に不可逆的に異性化するため、不飽和結合と反応できなくなる。
非特許文献2には、骨格中に1つのアルキル基と1つのニトリルオキシド基を有する脂肪族ニトリルオキシド化合物が記載されている。しかし、ニトリルオキシド基ではない方の官能基がアルキル基(炭化水素基)であるため、ポリオレフィンに代表される炭化水素骨格からなるポリマーに付加したとしても、ポリマーに対して着色性、染色性、反応性等の機能を付与することはできない。
非特許文献3および特許文献1~3には、安価で取り扱いが容易な酸素系求核剤を用いて製造された脂肪族ニトリルオキシド化合物が記載されている。
しかし、本発明者らによる検討では、これらの脂肪族ニトリルオキシド化合物は、保存中にニトリルオキシド基の二量化が進行し、安定性が不十分である。
【0012】
ニトリルオキシド基の高い反応性を維持しながら、室温でもニトリルオキシド基が二量化することなく安定的に保存可能であり、高温下でもニトリルオキシド基がイソシアネート基に異性化せず、合成容易なニトリルオキシド化合物が強く要望されている。
【0013】
また、現在のところ、ポリオレフィンの主鎖の2つの末端のうち片方の末端の炭素-炭素二重結合に、1,3-双極子官能基を有する化合物が高温で反応したという報告例はない。
【0014】
本発明は、合成容易で、高い反応性を有しながら、室温での保存安定性に優れ、高温でもニトリルオキシド基が異性化しにくいニトリルオキシド化合物、およびニトリルオキシド化合物を含む組成物を提供する。
【0015】
また、本発明は、ポリオレフィンを工業的に有利な高温条件下にて1,3-双極子官能基を有する化合物で変性する方法、および得られたポリオレフィン変性体を用いてブロックコポリマーを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決すべくニトリルオキシド化合物の改良を検討したところ、特定の構造を有し、室温で固体状であり、ニトリルオキシド当量が特定の範囲である新規なニトリルオキシド化合物が、前記課題を解決し得ること、すなわち合成容易で、高い反応性を有しながら、室温での保存安定性に優れ、高温でもニトリルオキシド基が異性化しにくいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明者らは、前記課題を解決すべく多面的に考察し実験的な探索を行ったところ、特定の構造を有するポリオレフィンおよび1,3-双極子官能基を有する化合物を用いることよって、工業的に有利な高い変性温度においてポリオレフィン変性体を製造できること、およびポリオレフィン変性体を利用してブロックコポリマーを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明は、下記の第一の態様を有する。
<1>下記一般式[I]で表される化合物であり、融点が、25~300℃であり、ニトリルオキシド当量が、1.0~4.5mmol/gである、ニトリルオキシド化合物。
【化1】

前記一般式[I]において、sは、1~4の整数であり、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数4~10の炭化水素基または炭素数4~10のハロゲン化炭化水素基であり、Xは、-O-、-S-または-N(R)-であり、Rは、水素原子または炭素数1~6の炭化水素基であり、Aは、s価の有機基である。
<2>前記一般式[I]において、RおよびRが、それぞれ独立して炭素数6~8のアリール基である、前記<1>のニトリルオキシド化合物。
<3>前記一般式[I]において、sが、2であり、Aが、炭素数2~10のアルキレン基である、前記<1>または<2>のニトリルオキシド化合物。
<4>前記一般式[I]において、Aが、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、2-メチル-1,3-プロピレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,7-ヘプチレン基、1,8-オクチレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基、1,4-シクロへキシレン基、1,4-シクロヘキサジメチレン基、1-メチル-1,2-エチレン基または1-メチル-1,3-プロピレン基である、前記<3>のニトリルオキシド化合物。
<5>前記一般式[I]において、sが、2であり、Aが、下記一般式[II]で表される基である、前記<1>または<2>のニトリルオキシド化合物。
-(R-O)-R-(O-R- ・・・[II]
前記一般式[II]において、mは、0または1であり、Rは、炭素数2~4のアルキレン基であり、Rは、下記一般式[III]で表される基または下記一般式[IV]で表される基である。
【化2】

前記一般式[III]において、R~Rは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、RとRが連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、RとRが連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよい。
【化3】

前記一般式[IV]において、R10~R17は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、R10とR11が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R12とR13が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R14とR15が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R16とR17が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、nは、0または1であり、Qは、-C(R18)(R19)-、-C(=O)-、-S-または-S(=O)-であり、R18およびR19は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、R18とR19が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよい。
<6>前記一般式[II]において、mが、1であり、Rが、前記一般式[IV]で表される基であり、前記一般式[IV]において、nが、1であり、Qが、-C(R18)(R19)-である、前記<5>のニトリルオキシド化合物。
<7>前記一般式[I]において、sが、1であり、Aが、下記一般式[V]で表される基である、前記<1>または<2>のニトリルオキシド化合物。
【化4】

前記一般式[V]において、Rは、炭素数1~5のアルキレン基または炭素数6~10のアリーレン基であり、Rは、極性官能基である。
<8>前記一般式[V]において、Rが、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシ基、アミノ基、置換基を有するアミノ基、アミド基、-OR20(ただし、R20は、アルキル基またはアリール基である。)またはヘテロ環である、前記<7>のニトリルオキシド化合物。
<9>前記<1>~<8>のいずれか一項に記載のニトリルオキシド化合物と、前記ニトリルオキシド化合物のニトリルオキシド基と反応し得る物質とを含む、組成物。
<10>前記ニトリルオキシド基と反応し得る物質が、樹脂またはゴムである、前記<9>の組成物。
<11>前記樹脂またはゴムが、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、炭素-窒素二重結合および炭素-窒素三重結合からなる群から選ばれる少なくとも1種の結合を有する、前記<10>の組成物。
【0019】
また、本発明は、下記の第二の態様を有する。
<1>主鎖の2つの末端のうち片方の末端に炭素-炭素二重結合を有するポリオレフィンと、1,3-双極子官能基を有する化合物とを付加反応させることを含む、ポリオレフィン変性体の製造方法。
<2>前記1,3-双極子官能基を有する化合物が、ニトリルオキシド化合物である、前記<1>のポリオレフィン変性体の製造方法。
<3>前記ニトリルオキシド化合物が、下記一般式[I]で表される化合物である、前記<2>のポリオレフィン変性体の製造方法。
【化5】

前記一般式[I]において、sは、1~4の整数であり、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数4~10の炭化水素基または炭素数4~10のハロゲン化炭化水素基であり、Xは、2価の炭化水素基、-O-、-S-または-N(R)-であり、Rは、水素原子または炭素数1~6の炭化水素基であり、Aは、s価の有機基である。
<4>前記ポリオレフィンにおける、ポリオレフィン1分子あたりの炭素-炭素二重結合の数が、0.1~4.0個/本である、前記<1>~<3>のいずれか一項に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
<5>前記ポリオレフィンの主鎖の末端における炭素-炭素二重結合が、ビニル基またはビニリデン基である、前記<1>~<4>のいずれか一項に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
<6>前記ポリオレフィンと、前記1,3-双極子官能基を有する化合物とを、実質的に溶媒が存在しない条件下で付加反応させることを含む、前記<1>~<5>のいずれか一項に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
<7>前記<1>~<6>のいずれか一項に記載の製造方法によって得られた、ポリオレフィン変性体。
<8>下記一般式[VIII]で表される構造を有する、ポリオレフィン変性体。
【化6】

前記一般式[VIII]において、vは、1~4の整数であり、wは、1~4の整数であり、v≧wであり、POは、ポリオレフィンの主鎖であり、R21、R22およびR23は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~8のアルキル基であり、R1’およびR2’は、それぞれ独立して炭素数4~10の炭化水素基または炭素数4~10のハロゲン化炭化水素基であり、Yは、それぞれ独立して2価の炭化水素基、-O-、-S-または-N(R3’)-であり、R3’は、水素原子または炭素数1~6の炭化水素基であり、Bは、v価の有機基である。
<9>前記一般式[VIII]において、R22およびR23が、水素原子である、前記<8>のポリオレフィン変性体。
<10>前記<7>~<9>のいずれか一項に記載のポリオレフィン変性体と、前記ポリオレフィン変性体が有する官能基と反応し得る官能基を有するポリマーとを反応させることを含む、ブロックコポリマーの製造方法。
<11>前記ポリオレフィン変性体が有する官能基と反応し得る官能基が、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、炭素-窒素三重結合、無水酸基およびアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも一種である、前記<10>のブロックコポリマーの製造方法。
<12>前記ポリオレフィン変性体と前記ポリマーとを、実質的に溶媒が存在しない条件下で反応させることを含む、前記<10>または<11>のブロックコポリマーの製造方法。
<13>反応温度が150℃以上である、前記<10>~<12>のいずれか一項に記載のブロックコポリマーの製造方法。
【0020】
また、本発明は以下の第三の態様を有する。
<1>下記一般式[I]で表される化合物であり、融点が、25~300℃であり、ニトリルオキシド当量が、1.0~4.5mmol/gである、ニトリルオキシド化合物。
【化7】

前記一般式[I]において、sは、1~4の整数であり、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数4~10の炭化水素基または炭素数4~10のハロゲン化炭化水素基であり、Xは、2価の炭化水素基、-O-、-S-または-N(R)-であり、Rは、水素原子または炭素数1~6の炭化水素基であり、Aは、s価の有機基である。
<2>前記一般式[I]において、RおよびRが、それぞれ独立して炭素数6~8のアリール基である、前記<1>のニトリルオキシド化合物。
<3>前記一般式[I]において、sが、2であり、Aが、炭素数2~10のアルキレン基である、前記<1>または<2>のニトリルオキシド化合物。
<4>前記一般式[I]において、Aが、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、2-メチル-1,3-プロピレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,7-ヘプチレン基、1,8-オクチレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基、1,4-シクロへキシレン基、1,4-シクロヘキサジメチレン基、1-メチル-1,2-エチレン基または1-メチル-1,3-プロピレン基である、前記<3>のニトリルオキシド化合物。
<5>前記一般式[I]において、sが、2であり、Aが、下記一般式[II]で表される基である、前記<1>または<2>のニトリルオキシド化合物。
-(R-O)-R-(O-R- ・・・[II]
前記一般式[II]において、mは、0または1であり、Rは、炭素数2~4のアルキレン基であり、Rは、下記一般式[III]で表される基または下記一般式[IV]で表される基である。
【化8】

前記一般式[III]において、R~Rは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、RとRが連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、RとRが連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよい。
【化9】

前記一般式[IV]において、R10~R17は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、R10とR11が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R12とR13が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R14とR15が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R16とR17が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、nは、0または1であり、Qは、-C(R18)(R19)-、-C(=O)-、-S-または-S(=O)-であり、R18およびR19は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、R18とR19が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよい。
<6>前記一般式[II]において、mが、1であり、Rが、前記一般式[IV]で表される基であり、前記一般式[IV]において、nが、1であり、Qが、-C(R18)(R19)-である、前記<5>のニトリルオキシド化合物。
<7>前記一般式[I]において、sが、1であり、Aが、下記一般式[V]で表される基である、前記<1>または<2>のニトリルオキシド化合物。
【化10】

前記一般式[V]において、Rは、炭素数1~5のアルキレン基または炭素数6~10のアリーレン基であり、Rは、極性官能基である。
<8>前記一般式[V]において、Rが、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシ基、アミノ基、置換基を有するアミノ基、アミド基、-OR20(ただし、R20は、アルキル基またはアリール基である。)またはヘテロ環である、前記<7>のニトリルオキシド化合物。
<9>前記<1>~<8>のいずれか一項に記載のニトリルオキシド化合物と、前記ニトリルオキシド化合物のニトリルオキシド基と反応し得る物質とを含む、組成物。
<10>前記ニトリルオキシド基と反応し得る物質が、樹脂またはゴムである、前記<9>の組成物。
<11>前記樹脂またはゴムが、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、炭素-窒素二重結合および炭素-窒素三重結合からなる群から選ばれる少なくとも1種の結合を有する、前記<10>の組成物。
<12>前記ニトリルオキシド化合物の含有量が、組成物の総質量に対して、0.001~10質量%が好ましく、0.01~8質量%がより好ましい、<10>または前記<11>に記載の組成物。
<13>前記ニトリルオキシド基と反応し得る物質の含有量が、組成物の総質量に対して、1~99.999質量%が好ましく、20~99.9質量%がより好ましい、前記<10>~<12>のいずれか一項に記載の組成物。
<14>主鎖の2つの末端のうち片方の末端に炭素-炭素二重結合を有するポリオレフィンと、1,3-双極子官能基を有する化合物とを付加反応させることを含む、ポリオレフィン変性体の製造方法。
<15>前記1,3-双極子官能基を有する化合物が、ニトリルオキシド化合物である、前記<14>のポリオレフィン変性体の製造方法。
<16>前記ニトリルオキシド化合物が、下記一般式[I]で表される化合物である、前記<15>のポリオレフィン変性体の製造方法。
【化11】

前記一般式[I]において、sは、1~4の整数であり、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数4~10の炭化水素基または炭素数4~10のハロゲン化炭化水素基であり、Xは、2価の炭化水素基、-O-、-S-または-N(R)-であり、Rは、水素原子または炭素数1~6の炭化水素基であり、Aは、s価の有機基である。
<17>前記ポリオレフィンにおける、ポリオレフィン1分子あたりの炭素-炭素二重結合の数が、0.1~4.0個/本である、前記<14>~<16>のいずれか一項に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
<18>前記ポリオレフィンの主鎖の末端における炭素-炭素二重結合が、ビニル基またはビニリデン基である、前記<14>~<17>のいずれか一項に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
<19>前記ポリオレフィンと、前記1,3-双極子官能基を有する化合物とを、実質的に溶媒が存在しない条件下で付加反応させることを含む、前記<14>~<18>のいずれか一項に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
<20>前記ニトリルオキシド化合物が、前記<1>~<8>のいずれか一項に記載の化合物である、前記<15>のポリオレフィン変性体の製造方法。
<21>前記1,3-双極子官能基を有する化合物の配合量が、前記ポリオレフィン100質量部に対して、0.001~10質量部が好ましく、0.01~8質量部がより好ましく、0.05~6質量部がさらに好ましい、<14>~<20>のいずれか一項に記載のポリオレフィン変性体の製造方法。
<22>前記<14>~<21>のいずれか一項に記載の製造方法によって得られた、ポリオレフィン変性体。
<23>下記一般式[VIII]で表される構造を有する、ポリオレフィン変性体。
【化12】

前記一般式[VIII]において、vは、1~4の整数であり、wは、1~4の整数であり、v≧wであり、POは、ポリオレフィンの主鎖であり、R21、R22およびR23は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~8のアルキル基であり、R1’およびR2’は、それぞれ独立して炭素数4~10の炭化水素基または炭素数4~10のハロゲン化炭化水素基であり、Yは、それぞれ独立して2価の炭化水素基、-O-、-S-または-N(R3’)-であり、R3’は、水素原子または炭素数1~6の炭化水素基であり、Bは、v価の有機基である。
<24>前記一般式[VIII]において、R22およびR23が、水素原子である、前記<23>のポリオレフィン変性体。
<25>前記<22>~<24>のいずれか一項に記載のポリオレフィン変性体と、前記ポリオレフィン変性体が有する官能基と反応し得る官能基を有するポリマーとを反応させることを含む、ブロックコポリマーの製造方法。
<26>前記ポリオレフィン変性体が有する官能基と反応し得る官能基が、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、炭素-窒素三重結合、無水酸基およびアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも一種である、前記<25>のブロックコポリマーの製造方法。
<27>前記ポリオレフィン変性体と前記ポリマーとを、実質的に溶媒が存在しない条件下で反応させることを含む、前記<25>または<26>のブロックコポリマーの製造方法。
<28>反応温度が150℃以上である、前記<25>~<27>のいずれか一項に記載のブロックコポリマーの製造方法。
<29>前記ポリマーの配合量が、前記ポリオレフィン変性体100質量部に対して、10~900質量部である、前記<25>に記載のブロックコポリマーの製造方法。
<30>前記ポリオレフィン変性体と前記ポリマーとを、溶媒の割合が、前記ポリオレフィン変性体と前記ポリマーとの合計100質量部に対し、1質量部以下である条件下で反応させることを含む、前記<25>~<29>のいずれか一項に記載のブロックコポリマーの製造方法。
<31>前記溶媒が炭化水素である、前記<30>に記載のブロックコポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のニトリルオキシド化合物は、合成容易で、高い反応性を有しながら、室温での保存安定性に優れ、高温でもニトリルオキシド基が異性化しにくい。
本発明の組成物は、ニトリルオキシド化合物が高い反応性を有するにもかかわらず室温での保存安定性に優れる。また、高温でもニトリルオキシド基が異性化することなく、高温におけるニトリルオキシド化合物と、ニトリルオキシド化合物のニトリルオキシド基と反応し得る物質との反応性に優れる。
【0022】
本発明のポリオレフィン変性体の製造方法によれば、ポリオレフィンを工業的に有利な高温条件下にて1,3-双極子官能基を有する化合物で変性できる。
本発明のポリオレフィン変性体によれば、機械的物性等に優れたブロックコポリマーを容易に製造できる。
本発明のブロックコポリマーの製造方法の製造方法によれば、機械的物性等に優れたブロックコポリマーを容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例14Bのポリオレフィン変性体のH-NMRスペクトルである。
図2】実施例33BのブロックコポリマーのH-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「融点」は、融点測定装置を用いて試料を1℃/minの条件で昇温し、固体がすべて融解した時点での温度である。
「ニトリルオキシド当量」は、下記式で求められる、ニトリルオキシド化合物中に含まれる単位質量あたりのニトリルオキシド官能基の当量である。
ニトリルオキシド当量[mmol/g]=1000×(分子内のニトリルオキシド基の数/ニトリルオキシド化合物の分子量)
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0025】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「ポリエチレン」は、エチレン単位の割合が50mol%超のエチレンホモポリマーまたはエチレン-α-オレフィンコポリマーである。ポリエチレンは、1mol%以下のジエン化合物単位を有してもよい。
「ポリプロピレン」は、プロピレン単位の割合が50mol%超のプロピレンホモポリマーまたはプロピレン-α-オレフィンコポリマーである。ポリプロピレンは、1mol%以下のジエン化合物単位を有してもよい。
「1,3-双極子官能基」とは、不飽和結合(炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、炭素-窒素三重結合等)と1,3-双極子環化付加反応を起こし得る官能基をいう。
「主鎖」とは、主鎖以外のすべての分子鎖がペンダントと見なされるような線状分子鎖をいう。
「実質的に溶媒が存在しない」とは、製造上不可避的に混入した溶媒以外の溶媒が存在しないことをいう。「実質的に溶媒が存在しない」とは、溶媒の割合が、ポリオレフィン変性体と前記ポリマーとの合計100質量部に対し、1質量部以下であることを意味する。なお、ここでいう「溶媒」とは、具体的にはヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素溶媒、アセトン、メタノール、エタノール等の極性溶媒を挙げることができる。
「ポリオレフィンの質量平均分子量および数平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって求めた分子量である。
「ポリオレフィン1分子あたりの炭素-炭素二重結合の数」は、下記式から求める。
ポリオレフィン1分子あたりの炭素-炭素二重結合の数[個/本]=ポリオレフィン1gあたりの炭素-炭素二重結合の数[mol/g]/ポリオレフィンの数平均分子量[g/mol]
ポリオレフィン1gあたりの炭素-炭素二重結合の数は、H-NMRおよび13C-NMRから求めた値であり、ポリオレフィンの数平均分子量は、GPCによって求めた分子量である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0026】
<ニトリルオキシド化合物>
本発明のニトリルオキシド化合物は、ニトリルオキシド基が二量化および異性化しにくい点から、一般式[I]で表される特定の構造を有する。
【0027】
【化13】
【0028】
sは、1~4の整数である。sとしては、分子内でニトリルオキシド基が2量化しにくい点から、1~3の整数が好ましく、1または2がより好ましい。
【0029】
およびRは、それぞれ独立して炭素数4~10の炭化水素基または炭素数4~10のハロゲン化炭化水素基である。炭素数4~10の炭化水素基または炭素数4~10のハロゲン化炭化水素基としては、tert-ブチル基、イソブチル基、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-クロロフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基等が挙げられる。
およびRとしては、ニトリルオキシド化合物の融点が高くなりやすく、ニトリルオキシド基が二量化しにくい点から、炭素数6~8のアリール基が好ましい。炭素数6~8のアリール基としては、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、4-クロロフェニル基等が挙げられ、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
およびRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。RおよびRは、分子の対称性が高くなり、ニトリルオキシド化合物が固体化しやすく、室温での保存安定性に優れる点から、同じであることが好ましい。
【0030】
Xは、2価の炭化水素基、-O-、-S-または-N(R)-である。
Xとしては、ニトリルオキシド化合物の合成がさらに容易である点から、-O-または-S-が好ましく、-O-がより好ましく、また、耐熱性の観点からは2価炭化水素基が好ましい。
Xにおける2価の炭化水素基としては、炭素数1~3のアルキレン基、炭素数6~8のアリーレン基、これらの組み合わせが挙げられ、中でも、メチレン基が好ましい。
は、水素原子または炭素数1~6の炭化水素基である。炭素数1~6の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。Rとしては、ニトリルオキシド化合物の合成がさらに容易である点から、水素原子またはメチル基が好ましい。
【0031】
Aは、s価の有機基である。有機基は、炭素原子を必須とし、必要に応じて水素原子、酸素原子、塩素原子、窒素原子、硫黄原子等を有する。有機基としては、炭化水素基(アルキレン基、アリーレン基等)、炭化水素基と各種結合(-O-、-C(=O)-、-S-、-S(=O)-等)との組み合わせ、炭化水素基と極性官能基(ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシ基、アミノ基、アミド基、アルコキシ基等)との組み合わせ、炭化水素基と各種結合と極性官能基との組み合わせ等が挙げられる。
これらの中でも、本発明のニトリルオキシド化合物を、ポリオレフィンに代表される炭化水素骨格からなるポリマーに付加する際に、接着性、染色性、反応性等の機能を付与するという観点から、s=1の場合には、Aに少なくとも酸素原子、塩素原子、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含むこと、もしくは、極性官能基を有することが好ましい。具体的な好ましい組み合わせを以下に記載する。
s=1の場合は、RおよびRが、それぞれ独立して炭素数6~8のアリール基であり、Xが、2価の炭化水素基、-O-、-S-または-N(R)-であり、Aが少なくとも酸素原子、窒素原子、硫黄原子を含む2価の有機基であることが好ましい。
また、s=2~4の場合は、RおよびRが、それぞれ独立して炭素数6~8のアリール基であり、Xが、2価の炭化水素基、-O-、-S-または-N(R)-であり、Aは2価の有機基であることが好ましい。
このようにsが2以上の整数の場合は、ニトリルオキシド基を2つ以上有するため、Aが炭化水素基であるときも、1つのニトリルオキシド基が反応し反応性を失ったとしても、残りの1つ以上のニトリルオキシド基が反応性を有するため、接着性、染色性、反応性等の機能を付与することができるので好ましい。
s=2~4で、かつ、Xが、-O-の場合、RおよびRが、それぞれ独立して炭素数6~8のアリール基であり、Aは2価の有機基であることが好ましい。
また、s=2~4で、かつ、Xが、2価の炭化水素基の場合、RおよびRが、それぞれ独立して炭素数6~8のアリール基であり、Aは2価の有機基であることが好ましい。
【0032】
また、ニトリルオキシド化合物の融点が高くなりやすく、室温での保存安定性に優れる点から、本発明のニトリルオキシド化合物としては、下記の(i)~(iii)のニトリルオキシド化合物が好ましい。
(i)一般式[I]において、sが2であり、Aが炭素数2~10のアルキレン基であるニトリルオキシド化合物。
(ii)一般式[I]において、sが2であり、Aが後述する一般式[II]で表される基であるニトリルオキシド化合物。
(iii)一般式[I]において、sが1であり、Aが後述する一般式[V]で表される基であるニトリルオキシド化合物。
【0033】
(i)のように対称性が高く、炭素鎖が短いアルキレン基を導入することによって、ニトリルオキシド化合物の融点を高めることができる。
(ii)のように対称性が高く、剛直なアリーレン基を有する一般式[II]で表される基を導入することによって、ニトリルオキシド化合物の融点を高めることができる。
(iii)のように鎖長が短いアルキレン基または剛直なアリーレン基を有する一般式[V]で表される基を導入することによって、ニトリルオキシド化合物の融点を高めることができる。
【0034】
(i)におけるAは、炭素数2~10のアルキレン基である。(i)におけるAとしては、室温以上の融点を発現させ、ニトリルオキシド化合物を固体化させ、ポリオレフィンに近い融点を発現させる点から、炭素数3~8のアルキレン基が好ましく、炭素数4~6のアルキレン基がより好ましい。
(i)におけるAとしては、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、2-メチル-1,3-プロピレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,7-ヘプチレン基、1,8-オクチレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基、1,4-シクロへキシレン基、1,4-シクロヘキサジメチレン基、1-メチル-1,2-エチレン基、1-メチル-1,3-プロピレン基等が挙げられる。(i)におけるAとしては、1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,4-シクロヘキサジメチレン基、1,4-シクロへキシレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基が好ましく、1,4-ブチレン基、1,6-ヘキシレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基がより好ましい。
【0035】
(ii)におけるAは、一般式[II]で表される基である。
-(R-O)-R-(O-R- ・・・[II]
【0036】
mは、0または1である。mは、ニトリルオキシド化合物の製造のしやすさの点からは、1が好ましく、ニトリルオキシド化合物の融点の点からは、0が好ましい。
は、炭素数2~4のアルキレン基である。Rとしては、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基等が挙げられる。Rとしては、炭素数が小さいほどニトリルオキシド化合物の融点を高めることができる点から、1,2-エチレン基が好ましい。
【0037】
は、一般式[III]で表される基または一般式[IV]で表される基である。Rとしては、ゴムを架橋剤として使用する際に適度な架橋点間距離を発現する観点からは、一般式[IV]で表される基が好ましく、ニトリルオキシド化合物により高い融点を発現する観点からは、一般式[III]が好ましい。また、Rとしては、変性後にポリオレフィン末端部と導入官能基の距離を長くし、変性ポリオレフィンの反応性を高める点から、一般式[IV]で表される基が好ましい。
【0038】
【化14】
【0039】
~Rは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、RとRが連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、RとRが連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよい。炭素数1~6の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。R~Rとしては、水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、フェニル基、塩素原子が好ましく、水素原子、メチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基がより好ましく、水素原子、メチル基がさらに好ましい。
【0040】
10~R17は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、R10とR11が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R12とR13が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R14とR15が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよく、R16とR17が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよい。炭素数1~6の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。R10~R17としては、水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、フェニル基、塩素原子が好ましく、水素原子、メチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基がより好ましく、水素原子、メチル基がさらに好ましい。
【0041】
nは0または1である。nは、ポリオレフィンに代表される脂肪族ポリマーへの溶解性の観点から、1が好ましい。また、nは、変性後にポリオレフィン末端部と導入官能基の距離を長くし、変性ポリオレフィンの反応性を高める点から、1が好ましい。
Qは、-C(R18)(R19)-、-C(=O)-、-S-または-S(=O)-である。Qとしては、樹脂、特にポリオレフィンへの溶解性の観点および、溶融混練時にポリオレフィンへの溶解性が高くなる点から、-C(R18)(R19)-が好ましい。
18およびR19は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6の炭化水素基またはハロゲン原子であり、R18とR19が連結して芳香族環または脂肪族環を形成してもよい。炭素数1~6の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が挙げられる。R18とR19が連結した例としては、1,1-シクロへキシレン基が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。R18およびR19としては、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基が好ましい。
【0042】
(iii)におけるAは、一般式[V]で表される基である。
【0043】
【化15】
【0044】
は、炭素数1~5のアルキレン基または炭素数6~10のアリーレン基である。炭素数1~5のアルキレン基としては、1,1-メチレン基、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基等が挙げられる。炭素数6~10のアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。Rとしては、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、フェニレン基が好ましい。アルキレン基の場合、炭素鎖が短いほどニトリルオキシド化合物の融点が高くなりやすい。
【0045】
は、極性官能基である。極性官能基としては、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシ基、アミノ基、置換基を有するアミノ基、アミド基、エーテル基、-OR20(ただし、R20は、アルキル基またはアリール基である。)、ヘテロ環等が挙げられる。ヘテロ環は、ホウ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を有する環状置換基である。ヘテロ環としては、フリル基、チエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラニル基、ピリジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、モルホリニル基、カルバゾリル基、イミダゾリドニル基等が挙げられる。ヘテロ環は、置換基を有していてもよい。Rとしては、水素結合により室温以上の融点を発現させる観点からは、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシ基、アミノ基、置換基を有するアミノ基、アミド基が好ましく、剛直な骨格を付与することで室温以上の融点を発現する観点からは、ヘテロアリール環が好ましい。特に好ましいのは、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシ基、アミノ基、置換基を有するアミノ基である。
また、Rとしては、フィラーや他の樹脂との反応性が高いという点から、ヒドロキシ基、アミノ基、置換基を有するアミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、ヘテロ環が好ましい。
【0046】
本発明の第一の態様において、ニトリルオキシド化合物の融点は、25~300℃であり、40~280℃が好ましく、60~260℃がより好ましく、80~240℃がさらに好ましい。
本発明の第三の態様において、ニトリルオキシド化合物の融点は、25~300℃が好ましく、40~280℃がより好ましく、60~260℃がさらに好ましく、80~240℃が特に好ましい。
ニトリルオキシド化合物の融点が前記範囲の下限値以上であれば、室温での運動性が低下するため、室温での保存安定性が向上する。ニトリルオキシド化合物の融点が前記範囲の上限値以下であれば、樹脂との溶融反応の際に、反応温度での樹脂中への溶解性が高まり、反応しやすくなる。ニトリルオキシド化合物の融点が前記範囲の上限値以下であれば、溶融反応中にニトリルオキシド化合物が融解しやすくなり、反応性が高くなる。
ニトリルオキシド化合物の融点を25℃以上とするためには、例えば、Aに対称性の高い構造を加えて分子構造の対称性を高めたり、Aに剛直性の高い基や短鎖の基、水素結合可能な基を導入したりする。
【0047】
本発明のニトリルオキシド化合物のニトリルオキシド当量は、1.0~4.5mmol/gであり、1.2~4.4mmol/gが好ましく、1.5~4.3mmol/gがより好ましい。ニトリルオキシド化合物のニトリルオキシド当量が前記範囲の下限値以上であれば、質量当たりの官能基量が多くなる。また、ニトリルオキシド化合物の分子量が低く抑えられるため、特に高分子との反応では相溶性や粘度比の問題が発生しにくい。そのため、ニトリルオキシド化合物の反応性が高くなる。ニトリルオキシド化合物のニトリルオキシド当量が前記範囲の上限値以下であれば、分子量運動が抑制され、分子間二量化の副反応が抑制される。
【0048】
本発明のニトリルオキシド化合物の好ましい具体例としては、下記の化合物が挙げられる。構造式中の「Ph」はフェニル基を意味する。
【0049】
【化16】
【0050】
【化17】
【0051】
【化18】
【0052】
【化19】
【0053】
【化20】
【0054】
上記に例示した化合物以外にもニトリルオキシド基のα位のフェニル基がメチルフェニル基やジメチルフェニル基に置換された構造も同様に例示することができる。
【0055】
(ニトリルオキシド化合物の製造)
ニトリルオキシド化合物は、例えば、下記スキームにて製造できる。
【0056】
【化21】
【0057】
化合物1を水素化ナトリウム等の塩基と反応させた後、化合物2と反応させることによって化合物3が得られる。化合物3について、フェニルイソシアネート等で脱水反応を進行させることによって、ニトリルオキシド化合物4が得られる。
化合物1としては、ヒドロキシ基を1~4個有するアルコール、メルカプト基を1~4個有するチオール、アミノ基を1~4個有するアミン等が挙げられる。
化合物2としては、1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレン等が挙げられる。1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレンのフェニル基を他の基に置き換えることによって、ニトリルオキシド基のα位の炭素原子に様々な置換基を導入できる。
【0058】
(作用機序)
以上説明した本発明のニトリルオキシド化合物にあっては、(1)一般式[I]で示される構造、(2)25~300℃の融点、(3)1.0~4.5mmol/gのニトリルオキシド当量、の3つを基本的な特徴としており、この3つの特徴が兼備わることによって、合成容易で、高い反応性を有しながら、室温での保存安定性に優れ、高温でもニトリルオキシド基が異性化しにくい、という本発明の特異性をもたらす。
【0059】
本発明のニトリルオキシド化合物が、このような効果を発揮する理由は、下記のとおりである。
・本発明のニトリルオキシド化合物は、ニトリルオキシド基のα位の炭素原子に-O-、-S-または-N(R)-が結合しているため、上述したスキームで容易に合成できる。
・本発明のニトリルオキシド化合物は、ニトリルオキシド基のα位の炭素原子に-CH-を結合させることで熱安定性を高めることができる。
・本発明のニトリルオキシド化合物は、ニトリルオキシド当量が1.0mmol/g以上であるため、高い反応性を有する。
・本発明のニトリルオキシド化合物は、ニトリルオキシド基のα位の炭素原子に2個の立体的に嵩高い置換基を導入して二量化を抑制し、かつ融点を25℃以上として室温での保存中の分子運動性を著しく低下させ、ニトリルオキシド基同士の衝突頻度を抑制させることで二量化を抑制し、室温での保存安定性に優れる。
・本発明のニトリルオキシド化合物は、ニトリルオキシド基のα位の炭素原子が脂肪族炭素であるため、高温でもニトリルオキシド基が異性化しにくい。
【0060】
そして、高い反応性を有しながら、室温での保存安定性に優れ、高温でもニトリルオキシド基が異性化しにくい本発明のニトリルオキシド化合物であれば、樹脂変性剤やゴム変性剤として用いることによって、工業的に有利な高い変性温度にて優れた反応性を発揮しながら、樹脂変性体やゴム変性体を得ることができる。
【0061】
なお、特許文献2に記載のニトリルオキシド化合物のように、高分子化合物の末端、主鎖または側鎖にニトリルオキシド基を導入することによって、固体化することも可能である。しかし、このようなニトリルオキシド化合物は、分子内に占める高分子部分の質量割合が大きいため、ニトリルオキシド当量が低く、反応性が極めて低い。加えて、樹脂やジエンゴムの変性等に用いる場合、高分子間反応となるため、相溶性や粘度比が問題となり、反応する対象によってはさらに反応性が低下する。
【0062】
本発明は、先行技術文献に記載の発明とは、構成要件(発明の特定事項)と発明の効果において、顕著な差異が見られ、特に、従来の知見と異なり、ニトリルオキシド基のα位に2つの嵩高い置換基を有する固体状のニトリルオキシド化合物が優れた安定性を発揮するという本発明の結果は、先行技術文献からは些かも窺えないといえる。事実、特許文献1~3では、反応剤は液体でも固体でもよいいという記載がなされている。加えて、特許文献1~3には、どのような分子構造が高い融点を発現するために必要であるかという開示はない。
【0063】
<組成物>
本発明の組成物は、本発明のニトリルオキシド化合物と、本発明のニトリルオキシド化合物のニトリルオキシド基と反応し得る物質とを含む。
本発明の組成物に含まれる本発明のニトリルオキシド化合物は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
本発明の組成物に含まれるニトリルオキシド基と反応し得る物質は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じてニトリルオキシド基と反応しない物質(樹脂、フィラー、添加剤等)を含んでいてもよい。
【0064】
(ニトリルオキシド基と反応し得る物質)
ニトリルオキシド基と反応し得る物質は、ニトリルオキシド基と反応し得る基を有する物質である。
ニトリルオキシド基と反応し得る基としては、二重結合を有する基、三重結合を有する基等の不飽和結合基、アミノ基等の求核性の高い基が挙げられる。
二重結合としては、炭素-炭素二重結合、炭素-窒素二重結合、窒素-窒素二重結合、炭素-硫黄二重結合、炭素-リン二重結合、炭素-ヒ素二重結合、炭素-セレン二重結合、ホウ素-窒素二重結合、窒素-リン二重結合等が挙げられる。
三重結合としては、炭素-炭素三重結合、炭素-窒素三重結合、炭素-リン三重結合等が挙げられる。
ニトリルオキシド基と反応し得る基としては、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、炭素-窒素二重結合および炭素-窒素三重結合からなる群から選ばれる少なくとも1種の結合を有するが好ましく、具体的にはアルケニル基、アルキニル基、ニトリル基が挙げられる。
【0065】
ニトリルオキシド基と反応し得る物質における「物質」としては、有機材料(樹脂、ゴム、低分子化合物等)、無機材料(ガラス、セラミック、金属等)等が挙げられる。物質としては、有機材料が好ましく、樹脂またはゴムが好ましい。
【0066】
ニトリルオキシド基と反応し得る物質としては、工業的に有用な樹脂変性体またはゴム変性体が得られる点から、二重結合を有するポリオレフィン、ジエンゴム、ポリアクリロニトリルが好ましい。
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。ポリオレフィンが有する二重結合としては、ビニル基、ビニリデン基、ビニレン基等が挙げられる。
ジエンゴムは、ジエン系モノマーを原料にして製造されたゴムである。ジエンゴムとしては、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム等が挙げられる。
【0067】
組成物中、ニトリルオキシド化合物の含有量は、組成物の総質量に対して、0.001~10質量%が好ましく、0.01~8質量%がより好ましく、0.05~6質量%がさらに好ましい。
組成物中、ニトリルオキシド基と反応し得る物質の含有量は、組成物の総質量に対して、1~99.999質量%が好ましく、20~99.9質量%がより好ましい。
【0068】
(変性体)
本発明の組成物において、本発明のニトリルオキシド化合物と、ニトリルオキシド基と反応し得る物質とを反応させることによって、物質の変性体(樹脂変性体、ゴム変性体等)が得られる。
物質を変性させることによって、物質の溶解特性、表面特性等を変化させることができる。具体的には、変性体は、変性前に比べて各種材料に対する溶解性、濡れ性、接着性、相溶性等が改善される。
【0069】
変性反応は、空気下で行っても不活性雰囲気下で行ってもよく、不活性雰囲気下で行うことが好ましく、窒素ガス下またはアルゴンガス下で行うことがより好ましい。
変性反応は、溶媒存在下で行っても溶媒非存在下で行ってもよく、生産性の点からは、溶媒非存在下で行うことが好ましい。
溶媒としては、本発明のニトリルオキシド化合物が溶解し得るものであればよく、例えば、芳香族溶媒(トルエン、キシレン等)、脂肪族炭化水素溶媒(ヘキサン等)が挙げられる。
変性反応が溶媒非存在下で行われる場合には、混練装置を用いることが好ましい。
混練装置としては、押出機(一軸押出機、二軸押出機、多軸押出機等)、混練機(密閉式混練機、バンバリーミキサー等)等が挙げられる。混練装置は、連続式であってもバッチ式であってもよく、生産効率の点からは、連続式が好ましい。
【0070】
変性温度は、本発明のニトリルオキシド化合物が、ニトリルオキシド基と反応し得る物質と反応する温度であればよい。例えば、化学反応であることから温度が高ければ反応が促進されて生産効率が高まることから、ニトリルオキシド化合物が分解しない範囲であればできるだけ高温が好ましい。変性温度は、0~400℃が好ましく、50~300℃がより好ましく、100~250℃がさらに好ましく、160~230℃が特に好ましい。
【0071】
(作用機序)
以上説明した本発明の組成物にあっては、高い反応性を有しながら、室温での保存安定性に優れる本発明のニトリルオキシド化合物を含むため、ニトリルオキシド化合物が高い反応性を有するにもかかわらず室温での保存安定性に優れる。また、高温でもニトリルオキシド基が異性化しにくい本発明のニトリルオキシド化合物を含むため、高温でもニトリルオキシド基が異性化することなく、高温におけるニトリルオキシド化合物と、ニトリルオキシド化合物のニトリルオキシド基と反応し得る物質との反応性に優れる。
【0072】
<ポリオレフィン変性体の製造方法>
本発明のポリオレフィン変性体の製造方法は、主鎖の2つの末端のうち片方の末端に炭素-炭素二重結合を有するポリオレフィン(以下、「片末端二重結合ポリオレフィン」とも記す。)と、1,3-双極子官能基を有する化合物とを付加反応させる方法である。
【0073】
(片末端二重結合ポリオレフィン)
片末端二重結合ポリオレフィンにおける「ポリオレフィン」としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
ポリエチレンは、エチレン以外のα-オレフィンをコモノマーとして0mol%超50mol%未満有してもよい。また、ジエン化合物をコモノマーとして0mol%超1mol%以下有してもよい。ジエンのコモノマーとしての含量は0mol%が好ましい。
ポリプロピレンは、プロピレン以外のα-オレフィンをコモノマーとして0mol%超50mol%未満有してもよい。また、ジエン化合物をコモノマーとして0mol%超1mol%以下有してもよい。ジエンのコモノマーとしての含量は0mol%が好ましい。
α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。
ジエン化合物としては、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、1,4-ヘキサジエン等が挙げられる。
【0074】
片末端二重結合ポリオレフィンは、主鎖の2つの末端のうち片方の末端に炭素-炭素二重結合を有する。片末端二重結合ポリオレフィンは、主鎖の途中に炭素-炭素二重結合をさらに有してもよく、側鎖の末端または途中に炭素-炭素二重結合をさらに有してもよい。
炭素-炭素二重結合としては、ビニル基、ビニリデン基、ビニレン基等が挙げられる。
炭素-炭素二重結合としては、1,3-双極子官能基との反応性に優れる点から、ビニル基、ビニリデン基が好ましく、ビニル基が好ましい。1,3-双極子官能基は、立体的に大きいオレフィン結合よりも立体的に小さいオレフィン結合に対して反応性が高い。
【0075】
片末端二重結合ポリオレフィン1分子あたりの炭素-炭素二重結合の数は、0.1~4.0個/本が好ましく、0.3~2.0個/本がより好ましく、0.5~1.5個/本がさらに好ましい。片末端二重結合ポリオレフィン1分子あたりの炭素-炭素二重結合の数が前記範囲の下限値以上であれば、停止末端に不飽和結合を有するポリマー鎖数が増加し、ポリオレフィンへ機能を付与しやすくなる。片末端二重結合ポリオレフィン1分子あたりの炭素-炭素二重結合の数が前記範囲の上限値以下であれば、不飽和二重結合がポリマーの片末端のみに存在するポリマー鎖が増加し、フィラー複合や表面改質に有利になる。
【0076】
片末端二重結合ポリオレフィンの質量平均分子量(Mw)は、10,000~1,000,000が好ましく、20,000~600,000がより好ましく、30,000~500,000がさらに好ましい。片末端二重結合ポリオレフィンのMwが前記範囲の下限値以上であれば、ポリマーが絡み合うことで強度が高くなる。片末端二重結合ポリオレフィンのMwが前記範囲の上限値以下であれば、熱成形が容易となる。
【0077】
片末端二重結合ポリオレフィンの分子量分布(Mw/Mn)は、1.1~6.0が好ましく、1.4~5.0がより好ましく、1.6~4.0がさらに好ましい。片末端二重結合ポリオレフィンのMw/Mnが前記範囲の下限値以上であれば、溶融変性時に流動性が高くなり、生産性を高めることができる。片末端二重結合ポリオレフィンのMw/Mnが前記範囲の上限値以下であれば、ポリマー鎖の分子量が均質になるため、分子設計や物性予測が容易になる。
【0078】
片末端二重結合ポリオレフィンは、一般的には遷移金属触媒を用い、連鎖移動剤を用いないα-オレフィンの配位重合によって製造できる。
通常、ポリオレフィンの製造の際には連鎖移動剤によって分子量を調節するため、ポリオレフィンの末端構造は、飽和末端である。一方、遷移金属触媒を用いる配位重合において、水素、有機アルミニウム等の連鎖移動剤を用いない場合、ポリオレフィンの停止末端は炭素-炭素二重結合となる。特に、重合温度によって分子量を調節する重合系において末端二重結合が生成しやすい。また、水素発生を伴い、主鎖の途中および側鎖にも炭素-炭素二重結合が生成し得る。これらについては、Macromolecules,第38巻,2005年,p.6988-6996やTopics in Catalysis,第7巻,1999年,p.145-163等に記載されている。
遷移金属触媒としては、錯体触媒系(フィリップス触媒、メタロセン触媒、ポストメタロセン触媒等)、チーグラー・ナッタ触媒系等が挙げられ、フィリップス触媒、メタロセン触媒、ポストメタロセン触媒が好ましく、製造可能範囲が広いという点から、メタロセン触媒、ポストメタロセン触媒が特に好ましい。
また、少量であれば必要に応じて連鎖移動剤を系中に添加してもよい。
【0079】
(1,3-双極子官能基を有する化合物)
1,3-双極子官能基としては、アリルアニオン型双極子官能基(ニトロン基、アゾメチンイミン基、アゾメチンイリド基、アジミン基、アゾキシ基、ニトロ基、カルボニルイリド基、カルボニルイミン基、カルボニルオキサイド基、ニトロソイミン基、ニトロソキサイド基等)、プロパルギル(またはアレニル)アニオン型双極子官能基(ニトリルオキシド基、ニトリルイミン基、ニトリルイリド基、ジアゾアルカン基、アジド基等)、これらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
1,3-双極子官能基としては、無触媒下で不飽和結合との1,3-双極子環化付加反応が進行する点から、ニトリルオキシド基、ニトロン基が好ましく、ニトリルオキシド基がより好ましい。
【0080】
1,3-双極子官能基を有する化合物は、分子内に2種以上の1,3-双極子官能基を有してもよい。
1,3-双極子官能基を有する化合物としては、無触媒下で片末端二重結合ポリオレフィンとの付加反応が進行する点から、ニトリルオキシド化合物、ニトロン化合物が好ましく、ニトリルオキシド化合物がより好ましい。
ニトリルオキシド化合物は、ニトリルオキシド基が結合する炭素原子によって、芳香族ニトリルオキシド化合物と脂肪族ニトリルオキシド化合物とに分けられる。ニトリルオキシド化合物としては、ニトリルオキシド基が異性化しにくい点から、脂肪族ニトリルオキシド化合物が好ましい。脂肪族ニトリルオキシド化合物については、上述の<ニトリルオキシド化合物>に記載の通りである。脂肪族ニトリルオキシド化合物としては、前記一般式[1]で表される特定の構造を有し、融点が25~300℃であり、かつ、ニトリルオキシド当量が1.0~4.5mmol/gであることが好ましい。
【0081】
(芳香族ニトリルオキシド化合物)
芳香族ニトリルオキシド化合物としては、例えば、一般式[VI]で表される化合物、一般式[VII]で表される化合物が挙げられる。
【0082】
【化22】
【0083】
一般式[VI]において、R31~R36のうちいずれか1つ以上はニトリルオキシド基である。それ以外のR31~R36は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基である。隣接する2つの置換基はそれぞれ結合して環を形成してもよい。
一般式[VII]において、R41~R45のうちいずれか1つ以上はニトリルオキシド基である。それ以外のR41~R45は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基である。隣接する2つの置換基はそれぞれ結合して環を形成してもよい。R46は、芳香環同士を繋ぐスペーサーであり、炭素数1~20の2価以上の有機基、または酸素原子である。rは、2以上の整数である。
【0084】
(ポリオレフィン変性体の製造)
ポリオレフィン変性体は、例えば、片末端二重結合ポリオレフィンと1,3-双極子官能基を有する化合物とを混合し、熱処理して得られる。
片末端二重結合ポリオレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。1,3-双極子官能基を有する化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
1,3-双極子官能基を有する化合物の配合量は、片末端二重結合ポリオレフィンの100質量部に対して、0.001~10質量部が好ましく、0.01~8質量部がより好ましく、0.05~6質量部がさらに好ましい。
【0086】
熱処理は、溶媒中で行ってもよく、実質的に溶媒が存在しない条件下で溶融混練しながら行ってもよい。熱処理は、生産性の点からは、溶融混練しながら行うことが好ましい。
溶媒としては、炭化水素(トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン等)等が挙げられる。
溶融混練の方法としては、二軸押出機、バンバリーミキサー等の公知の装置を用いる方法が挙げられる。溶融混練の方法の詳細は、例えば、”Thermoplastic Elastomers 2nd.ed.”,Hanser Gardner Publications,1996年,p.153-190に記載されている。
溶融混練を行う場合、すべての成分を一括して溶融混練してもよく、一部の成分を溶融混練した後に残りの成分を加えて溶融混練してもよい。溶融混練は、2回以上行ってもよい。溶融混練後、追加の熱処理を行ってもよい。
【0087】
溶媒を用いる場合、変性温度は、50~200℃が好ましく、60~180℃がより好ましく、80~150℃がさらに好ましい。溶媒を用いる場合、変性時間は、30分~24時間が好ましく、1~15時間がより好ましく、2~10時間がさらに好ましい。
実質的に溶媒が存在しない場合、つまり溶融混練を行う場合、変性温度は、80~300℃が好ましく、120~280℃がより好ましく、160~260℃がさらに好ましい。溶融混練を行う場合、変性時間は、1秒~30分が好ましく、10秒~5分がより好ましい。
【0088】
片末端二重結合ポリオレフィンが片末端二重結合ポリプロピレンであり、1,3-双極子官能基を有する化合物がニトリルオキシド化合物である場合、ポリプロピレン変性体は、例えば、下記のように得られる。
【0089】
【化23】
【0090】
Zは、-C(R)(R)-X-A-X-C(R)(R)-であり、CNOは、ニトリルオキシド基であり、xは、ポリプロピレンにおけるプロピレン単位の単位数である。
【0091】
片末端二重結合ポリオレフィンが片末端二重結合を有するエチレン-プロピレンコポリマーであり、1,3-双極子官能基を有する化合物がニトリルオキシド化合物である場合、エチレン-プロピレンコポリマー変性体は、例えば、下記のように得られる。
【0092】
【化24】
【0093】
Zは、-C(R)(R)-X-A-X-C(R)(R)-であり、CNOは、ニトリルオキシド基であり、Rは、水素原子またはメチル基であり、x1~x3は、それぞれ独立にエチレン-プロピレンコポリマーにおける各単位の単位数である。
【0094】
(作用機序)
以上説明した本発明のポリオレフィン変性体の製造方法にあっては、主鎖の2つの末端のうち片方の末端に炭素-炭素二重結合を有するポリオレフィンを用いているため、ポリオレフィンを工業的に有利な高温条件下にて1,3-双極子官能基を有する化合物で変性できる。
【0095】
<ポリオレフィン変性体>
本発明のポリオレフィン変性体は、本発明のポリオレフィン変性体の製造方法によって得られたものである。
本発明のポリオレフィン変性体としては、変性に使用するニトリルオキシド化合物のニトリルオキシド基が二量化および異性化しにくい点から、一般式[VIII]で表される構造を有するものが好ましい。
【0096】
【化25】
【0097】
vは、1~4の整数である。vとしては、ポリオレフィン変性体の粘度上昇を抑えるという観点から、1~3の整数が好ましく、1または2がより好ましい。
wは、1~4の整数である。wとしては、フィラー分散剤としての使用や他樹脂との反応によりブロックコポリマーを製造するという観点から、1~3の整数が好ましく、1または2がより好ましい。
ただし、v≧wである。
【0098】
POは、ポリオレフィンの主鎖である。ポリオレフィンとしては、上述した片末端二重結合ポリオレフィンにおける「ポリオレフィン」と同様のものが挙げられ、好ましい形態も同様である。
【0099】
21、R22およびR23は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~8のアルキル基である。炭素数1~8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。R21としては、水素原子、メチル基、エチル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基が好ましい。R22およびR23としては、二重結合周りの立体障害を小さくし、反応性を高めるという点から、水素原子、メチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0100】
1’およびR2’は、それぞれ独立して炭素数4~10の炭化水素基または炭素数4~10のハロゲン化炭化水素基である。R1’およびR2’としては、一般式[I]におけるRおよびRと同様のものが挙げられ、好ましい形態も同様である。
【0101】
Yは、それぞれ独立して2価の炭化水素基、-O-、-S-または-N(R3’)-であり、R3’は、水素原子または炭素数1~6の炭化水素基である。YおよびR3’としては、一般式[I]におけるXおよびRと同様のものが挙げられ、好ましい形態も同様である。
【0102】
Bは、v価の有機基である。Bとしては、一般式[I]におけるAと同様のものが挙げられ、好ましい形態も同様である。
【0103】
一般式[VIII]で表されるポリオレフィン変性体について、溶媒としてo-ジクロロベンゼン-dを用いて120℃でH-NMRを測定した場合に、R21、R22、R23の水素原子に由来するシグナルが4.1~4.8ppmの範囲、2.3~3.0ppmの範囲に観測される。
【0104】
(組成物)
本発明のポリオレフィン変性体に、他の成分(樹脂、フィラー、添加剤等)を配合して組成物としてもよい。
他の成分は、片末端二重結合ポリオレフィンの変性前に配合してもよく、変性時に配合してもよく、変性後に配合してもよい。
他の成分の配合量は、ポリオレフィン変性体の100質量部に対して、通常0.001~200質量部である。
【0105】
フィラーとしては、無機フィラー(タルク、炭酸カルシウム、焼成カオリン等)、有機フィラー(繊維、木粉、セルロースパウダー等)が挙げられる。
添加剤としては、酸化防止剤(フェノール系、イオウ系、リン系、ラクトン系、ビタミン系等)、耐候安定剤、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、トリジアミン系、アニリド系、ベンゾフェノン系等)、熱安定剤、光安定剤(ヒンダードアミン系、ベンゾエート系等)、帯電防止剤、造核剤、顔料、吸着剤(酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の金属酸化物)、金属塩化物(塩化鉄、塩化カルシウム等)、ハイドロタルサイト、アルミン酸塩、滑剤(脂肪酸、高級アルコール、脂肪族アミド、脂肪族エステル等)、鉱物油、シリコーン化合物等が挙げられる。
【0106】
(作用機序)
以上説明した本発明のポリオレフィン変性体にあっては、ポリオレフィンの主鎖の2つの末端のうち片方の末端が1,3-双極子官能基を有する化合物で変性されているため、ポリオレフィン変性体が有する官能基と反応し得る官能基を有するポリマーと反応させた場合に、機械的物性等に優れたブロックコポリマーを容易に製造できる。
【0107】
また、本発明のポリオレフィン変性体にあっては、主鎖の片末端が1,3-双極子官能基を有する化合物で変性されているため、ブロックコポリマーを製造する際に架橋反応が起きにくく、ブロックコポリマーが硬化しにくい。一方、主鎖の両末端が1,3-双極子官能基を有する化合物で変性されているポリオレフィン変性体では、ブロックコポリマーを製造する際に架橋反応が起きやすく、ブロックコポリマーが硬化しやすい。
【0108】
また、本発明のポリオレフィン変性体にあっては、主鎖の片末端が1,3-双極子官能基を有する化合物で変性されているため、ポリオレフィン変性体をフィラーの表面に導入した場合、ポリオレフィンの主鎖がフィラーの表面に対して垂直に整列する。そのため、フィラーの表面におけるポリオレフィンの密度が高くなり、ポリオレフィンによる物性が発揮されやすい。一方、主鎖の両末端が1,3-双極子官能基を有する化合物で変性されているポリオレフィン変性体では、ポリオレフィン変性体をフィラーの表面に導入した場合、ポリオレフィンの主鎖がフィラーの表面に沿うように導入される。そのため、フィラーの表面におけるポリオレフィンの密度が低くなり、ポリオレフィンによる物性が発揮されにくい。
【0109】
<ブロックコポリマーの製造方法>
本発明のブロックコポリマーの製造方法は、本発明のポリオレフィン変性体と、ポリオレフィン変性体が有する官能基と反応し得る官能基を有するポリマー(以下、「反応性官能基含有ポリマー」とも記す。)とを反応させる方法である。
ポリオレフィン変性体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。反応性官能基含有ポリマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0110】
ポリオレフィン変性体が有する官能基としては、片末端二重結合ポリオレフィンを1,3-双極子官能基を有する化合物で変性した際に導入される基が挙げられ、1,3-双極子官能基、ヒドロキシ基、アミノ基、置換基を有するアミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、ヘテロ環等が挙げられる。ポリオレフィン変性体が有する官能基としては、フィラー表面や異樹脂の官能基と高い反応性を有するという観点から、1,3-双極子官能基、ヒドロキシ基、アミノ基、置換基を有するアミノ基が好ましい。
【0111】
反応性官能基含有ポリマーが有するポリオレフィン変性体が有する官能基と反応し得る官能基としては、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、炭素-窒素三重結合、無水酸基、アミノ基等が挙げられる。
反応性官能基含有ポリマーとしては、炭素-炭素二重結合を有するポリオレフィン、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。
【0112】
ブロックコポリマーは、例えば、ポリオレフィン変性体と反応性官能基含有ポリマーとを混合し、熱処理して得られる。
反応性官能基含有ポリマーの配合量は、ポリオレフィン変性体の100質量部に対して、10~900質量部が好ましい。
【0113】
熱処理は、溶媒中で行ってもよく、実質的に溶媒が存在しない条件下で溶融混練しながら行ってもよい。熱処理は、生産性の点からは、溶融混練しながら行うことが好ましい。
溶媒としては、炭化水素(トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン等)等が挙げられる。
溶融混練の方法としては、二軸押出機、バンバリーミキサー等の公知の装置を用いる方法が挙げられる。溶融混練の方法の詳細は、例えば、”Thermoplastic Elastomers 2nd.ed.”,Hanser Gardner Publications,1996年,p.153-190に記載されている。
溶融混練を行う場合、すべての成分を一括して溶融混練してもよく、一部の成分を溶融混練した後に残りの成分を加えて溶融混練してもよい。溶融混練は、2回以上行ってもよい。溶融混練後、追加の熱処理を行ってもよい。
【0114】
溶媒を用いる場合、反応温度は、50~200℃が好ましく、60~180℃がより好ましく、80~150℃がさらに好ましい。溶媒を用いる場合、反応時間は、30分~24時間が好ましく、1~15時間がより好ましく、2~10時間がさらに好ましい。
実質的に溶媒が存在しない場合、つまり溶融混練を行う場合、反応温度は、80~300℃が好ましく、120~280℃がより好ましく、160~260℃がさらに好ましい。溶融混練を行う場合、反応時間は、1秒~30分が好ましく、10秒~5分がより好ましい。
【0115】
ポリオレフィン変性体がポリプロピレン変性体であり、反応性官能基含有ポリマーがエチレン-プロピレン-ジシクロペンタジエンゴムである場合、ブロックコポリマーは、例えば、下記のように得られる。
【0116】
【化26】
【0117】
Zは、-C(R)(R)-X-A-X-C(R)(R)-であり、CNOは、ニトリルオキシド基であり、xは、ポリプロピレンにおけるプロピレン単位の単位数であり、y1~y3は、それぞれ独立にエチレン-プロピレン-ジシクロペンタジエンゴムにおける各単位の単位数である。
【0118】
ポリオレフィン変性体がポリプロピレン変性体であり、反応性官能基含有ポリマーがエチレン-プロピレンコポリマーである場合、ブロックコポリマーは、例えば、下記のように得られる。
【0119】
【化27】
【0120】
Zは、-C(R)(R)-X-A-X-C(R)(R)-であり、CNOは、ニトリルオキシド基であり、Rは、水素原子またはメチル基であり、xは、ポリプロピレンにおけるプロピレン単位の単位数であり、x1~x3は、それぞれ独立にエチレン-プロピレンコポリマーにおける各単位の単位数である。
【0121】
(組成物)
ブロックコポリマーに、他の成分(樹脂、フィラー、添加剤等)を配合して組成物としてもよい。
他の成分は、ポリオレフィン変性体と反応性官能基含有ポリマーとの反応前に配合してもよく、反応時に配合してもよく、反応後に配合してもよい。
他の成分の配合量は、ブロックコポリマーの100質量部に対して、通常0.001~200質量部である。
フィラー、添加剤としては、上述したフィラー、添加剤と同様のものが挙げられる。
【0122】
(作用機序)
以上説明した本発明のブロックコポリマーの製造方法にあっては、ポリオレフィンの主鎖の2つの末端のうち片方の末端が1,3-双極子官能基を有する化合物で変性されているポリオレフィンを用いているため、反応性官能基含有ポリマーと反応させた場合に、機械的物性等に優れたブロックコポリマーを容易に製造できる。
【実施例
【0123】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。
【0124】
<物性測定、分析等>
(融点)
融点測定装置(Stuart Scientific社製、SMP3)を用いてニトリルオキシド化合物を1℃/minの条件で昇温し、固体がすべて融解した時点での温度をニトリルオキシド化合物の融点とした。25℃で液体のニトリルオキシド化合物については、融点は25℃未満とした。
【0125】
(ニトリルオキシド当量)
ニトリルオキシド当量は、下記式から求めた。
ニトリルオキシド当量[mmol/g]=1000×(分子内のニトリルオキシド基の数/ニトリルオキシド化合物の分子量)
【0126】
(GPC測定)
ポリオレフィンの質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)は、GPC測定によって求めた。GPC測定は、Waters社製のアライアンスGPCV2000を用いて実施した。検出器としては示差屈折計を用い、カラムとしては東ソー社製のTSKgel GMH6-HTの4本を用いた。移動相溶媒としてはオルトジクロロベンゼンを用い、135℃、1.0mL/minで流出させた。標準試料としてはPolymer Laboratories社製の単分散のポリスチレンを用い、ポリスチレン標準試料およびポリオレフィンの粘度式から、保持時間と分子量に関する校正曲線を作成し、校正曲線に基づいて分子量の算出を行った。ポリスチレン標準試料としては分子量2,783,000、1,412,000、590,500、164,500、72,450、29,510、10,730、3,950、1,530、580のもの計10点を用いた。粘度式としては[η]=K×Mαを用い、ポリスチレンについてはK=1.38×10-4、α=0.70を採用し、ポリエチレンについてはK=4.77×10-4、α=0.70を採用し、ポリプロピレンについてはK=1.03×10-4、α=0.78を採用した。
【0127】
(DSC測定)
ポリマーの融点(Tm)は、DSC測定によって求めた。DSC測定は、PerkinElmer社製のDiamondDSCを用いた。サンプルについて、20℃で1分等温、10℃/minで20℃から210℃まで昇温、210℃で5分等温、10℃/minで210℃から-70℃まで降温、-70℃で5分等温の後、10℃/minで-70℃から210℃まで昇温したときの測定によって融点を求めた。
【0128】
(NMR測定)
ポリマー中の各単位の割合および炭素-炭素二重結合の数をNMR測定によって求めた。溶媒としては、基準物質としてヘキサメチルジシロキサンを少量加えた1,2-ジクロロベンゼン/重ブロモベンゼン(4/1)混合溶媒を用いた。サンプル濃度は約200mg/2.4mLとした。サンプルおよび溶媒をNMR試料管に導入してから十分に窒素置換した後、130℃のヒートブロック中でサンプルを溶媒に溶解させて均一な溶液とした。BrukerAvanceIIICryo-NMR、10mmφクライオプローブを用い、120℃で測定を行った。測定条件は、H-NMRについては、溶媒プレサチュレーション法、4.5°パルス、パルス間隔2秒、積算512回であり、13C-NMRについては、プロトン完全デカップル条件、90°パルス間隔:ポリエチレンで20秒、ポリプロピレンで15秒、積算512回である。
化学シフトの基準ピークとしては測定溶媒中に添加したヘキサメチルジシロキサンのメチル基のシグナルを用い、H-NMRでは0.08ppm、13C-NMRでは1.979ppmとした。
【0129】
(ポリマー中の各単位の割合)
ポリマー中の各単位の割合は、Jounal of Polymer Science Part A:Polymer Chemistry,第42巻,2004年,p.2474-2482に記載の手法で求めた。
【0130】
(ポリマー中の炭素-炭素二重結合の数)
モノマー単位1molあたりの炭素-炭素二重結合の数[mol/mol-モノマー単位]は、下記式から求める。
末端ビニル基の数 {(I5.05~4.88+I5.85~5.70)/3}/A
ビニリデン基の数 {(I4.84~4.44)/2}/A
ビニレン基の数 {I5.52~5.30/2}/A
3置換オレフィンの数 {I5.30~5.05}/A
Iは、H-NMRにおけるプロトンシグナルの積分強度であり、例えば、I5.30~5.05は、H-NMRの5.30ppmと5.05ppmの間に検出したプロトンシグナルの積分強度を示す。Aは下記式から求める。
A=I3.00~0.09/{4×(1-C3-C6)+6×C3+12×C6}
C3は、ポリマー中のプロピレン単位の比率(0~1)であり、C6は、ポリマー中のヘキセン単位の比率(0~1)であり、例えば、プロピレンホモポリマーの場合はC3=1、C6=0であり、エチレン-ヘキセンコポリマーの場合はC3=0である。
【0131】
ポリオレフィン1gあたりの炭素-炭素二重結合の数は、下記式から求める。
ポリオレフィン1gあたりの炭素-炭素二重結合の数[mol/g]=モノマー単位1molあたりの炭素-炭素二重結合の数[mol/mol-モノマー単位]/{28×(1-C3-C6)+42×C3+84×C6}
ポリオレフィン1分子あたりの炭素-炭素二重結合の数は、下記式から求める。
ポリオレフィン1分子あたりの炭素-炭素二重結合の数[個/本]=ポリオレフィン1gあたりの炭素-炭素二重結合の数[mol/g]/ポリオレフィンの数平均分子量[g/mol]
【0132】
(メルトフローレート(MFR))
ポリエチレンについては、JIS K 7210:2004の附属書A表1-条件Dにしたがい、試験温度190℃、公称荷重2.16kg(21.17N)における測定値をMFRとして示した。
ポリプロピレンについては、JIS K 7210:2004の附属書A表1-条件Mにしたがい、試験温度230℃、公称荷重2.16kg(21.17N)における測定値をMFRとして示した。
【0133】
(反応転化率の定量)
実施例1B~32Bで得られたポリオレフィン変性体の30mgをo-ジクロロベンゼン-dの0.7mLに溶解し、120℃でH-NMRを測定した。4.9ppmのビニル基由来のシグナル(2H)または約4.7ppmのビニリデン基由来のシグナル(2H)と、約4.4-4.6ppmのビニル基由来のイソオキサゾリン環由来のシグナル(1H)または約2.6ppmのビニリデン由来のイソオキサゾリン環由来のシグナル(2H)の比から反応転化率を求めた。
【0134】
(引張試験)
実施例33B、34B、比較例1B、2Bで得られた混練物を190℃で2分間プレスして厚さ約0.1mmのシートを作製した。
シートをダンベル6号形(JIS K 6251)で打ち抜いてサンプルを作製した後、試験速度100mm/min、23℃で引張試験を行い、降伏応力、破壊応力、破壊歪を求めた。
また、シートを打ち抜いて10mm幅短冊片を作製した後、試験速度1mm/minで引張弾性率を測定した。
【0135】
<化合物の合成>
(合成例1A)
1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレンの合成:
Chemical Communications,第49巻,2013年,p.7723-7725に記載の方法にしたがって1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレンを合成した。
【0136】
(実施例1A)
ニトリルオキシド化合物Aの合成:
【0137】
【化28】
【0138】
1,4-ブタンジオールの5.52g(61.3mmol)を脱水テトラヒドロフラン(THF)の300mLに溶解し、0℃に冷却した。この溶液に、窒素ガス下で水素化ナトリウムの8g(200mmol)を加え、0℃で1時間撹拌した。この液に、1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレンの30g(133mmol)を加え、20℃で16時間撹拌した。溶液を0℃に冷却した後、2mol/Lの塩化水素水溶液でpHが6~7になるまで中和した。中和後の溶液について、ジクロロメタンを用いて抽出を行った。ジクロロメタン溶液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。ろ液を濃縮し、精製した。得られた固体を酢酸エチル/石油エーテル=1/1溶液で洗浄することによって白色固体の化合物A-1の29gを得た(収率88%)。
化合物A-1のNMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.38-7.22(m,20H),5.34(s,3H),5.39-5.30(m,1H),5.39-5.30(m,1H),3.40(brs,4H),1.79(brs,4H)ppm.
【0139】
化合物A-1の29g(53.6mmol)を脱水ジクロロメタンの900mLに溶解した。この溶液に、4-クロロフェニルイソシアネートの33g(215mmol)、トリエチルアミンの32.7g(323mmol)、モレキュラーシーブス4Aの60gを投入し、窒素ガス下、20℃で16時間撹拌した。溶液をろ過し、ろ液を濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(酸性シリカゲル、溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル1/0,1/1)で精製した。白色固体のニトリルオキシド化合物Aの6.57gを得た(収率24%)。ニトリルオキシド化合物Aの融点およびニトリルオキシド当量を表1に示す。
ニトリルオキシド化合物AのNMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.47-7.29(m,20H),3.49(brs,4H),1.82(brs,4H)ppm.
ニトリルオキシド化合物Aの融点:135℃
【0140】
(実施例2A)
ニトリルオキシド化合物Bの合成:
【0141】
【化29】
【0142】
1,6-ヘキサンジオールの14.17g(120mmol)を脱水THFの120mLに溶解し、0℃に冷却した。この溶液に、窒素ガス下で水素化ナトリウムの16g(400mmol)を加え、0℃で1時間撹拌した。この液に、1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレンの60g(266mmol)を加え、20℃で16時間撹拌した。溶液を0℃に冷却した後、2mol/Lの塩化水素水溶液でpHが6~7になるまで中和した。中和後の液について、ジクロロメタンを用いて抽出を行った。ジクロロメタン溶液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。ろ液を濃縮し、精製した。得られた固体を酢酸エチルで洗浄することによって白色固体の化合物B-1の50gを得た(収率70%)。
化合物B-1のNMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.36-7.24(m,20H),
5.34(s,4H),3.35(t,4H),1.74-1.61(m,4H),1.47-1.32(m,4H)ppm.
【0143】
化合物B-1の25g(44.0mmol)を脱水ジクロロメタンの750mLに溶解した。この溶液に、4-クロロフェニルイソシアネートの22.5mL(176mmol)、トリエチルアミンの26.90g(266mmol)、モレキュラーシーブス4Aの50gを投入し、窒素ガス下、20℃で16時間撹拌した。溶液をろ過し、ろ液を濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(酸性シリカゲル、溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル1/0,3/1)で精製した。白色固体のニトリルオキシド化合物Bの7.87gを得た(収率34%)。ニトリルオキシド化合物Bの融点およびニトリルオキシド当量を表1に示す。
ニトリルオキシド化合物BのNMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.44-7.30(m,20H),3.45(t,4H),1.69(m4H),1.41(m,4H)ppm.
ニトリルオキシド化合物Bの融点:95℃
【0144】
(実施例3A)
ニトリルオキシド化合物Cの合成:
【0145】
【化30】
【0146】
水素化ナトリウムの150mg(3.4mmol)をヘキサンで3回洗浄し、気相をアルゴンガスで置換した後、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)の10mLを加えた。この液に0℃で4-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-1-プロパノールの500mg(2.8mmol)のDMF溶液(10mL)を加え、2時間撹拌した。この液に、1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレンの430mg(1.9mmol)のDMF溶液(10mL)を加え、室温で2時間撹拌した。この溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルを用いて抽出を3回行った。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機層から溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)で精製することによって白色固体の化合物C-1の460mgを得た(収率60%)。
化合物C-1のNMRスペクトル:
H-NMR(500MHz,CDCl):δ7.36-7.29(m,6H),7.25-7.23(m,4H),5.36(s,2H),4.90(br,1H),3.43(t,2H),3.30(m,2H),1.80(m,2H),1.44(s,9H)ppm.
【0147】
化合物C-1の3.7g(9.2mmol)にTHFの100mL、4-クロロフェニルイソシアネートの1.4g(9.2mmol)を加え、気相をアルゴンガスで置換した後、トリエチルアミンの2.8g(28mmol)を加え、室温で5時間半撹拌した。析出してきた不溶物をろ別し、ろ液を濃縮した。濃縮したろ液にジクロロメタンを加え、析出してきた不溶物を再度ろ別し、ろ液を濃縮した。この工程を3回繰り返した後、ろ液から溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ジクロロメタン)で精製することによって白色固体のニトリルオキシド化合物Cの790mgを得た(収率23%)。ニトリルオキシド化合物Cの融点およびニトリルオキシド当量を表1に示す。
ニトリルオキシド化合物CのNMRスペクトル:
H-NMR(500MHz,CDCl):δ7.42-7.33(m,10H),4.68(br,1H),3.52(t,2H),3.28(m,2H),1.87(m,2H),1.44(s,9H)ppm.
ニトリルオキシド化合物Cの融点:103℃
【0148】
(実施例4A)
ニトリルオキシド化合物Dの合成:
【0149】
【化31】
【0150】
4-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-1-ブタノールの116g(613mmol)を脱水THFの2000mLに溶解し、0℃に冷却した。この溶液に、窒素ガス下で水素化ナトリウムの27.0g(674mmol)を加え、0℃で1時間撹拌した。
この液に、1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレンの30g(613mmol)を加え、20℃で16時間撹拌した。溶液を0℃に冷却した後、2mol/Lの塩化水素水溶液でpHが6~7になるまで中和した。中和後の液について、ジクロロメタンを用いて抽出を行った。ジクロロメタン溶液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。ろ液を濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(酸性シリカゲル、溶媒:石油エーテル/酢酸エチル1/0,1/1)で精製し、黄色固体の化合物D-1の163gを得た(収率64%)。
化合物D-1のNMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,DMSO-d):δ7.36-7.28(m,8H),7.28-7.22(m,2H),6.80(t,1H),5.76(s,2H),3.33-3.29(m,2H),2.91(q,2H),1.57-1.43(m,4H),1.37(s,9H)ppm.
【0151】
化合物D-1の60g(144mmol)を脱水ジクロロメタンの2000mLに溶解した。この溶液に、4-クロロフェニルイソシアネートの63g(410mmol)、トリエチルアミンの82.9g(819mmol)、モレキュラーシーブス4Aの150gを投入し、窒素ガス下、20℃で16時間撹拌した。溶液をろ過し、ろ液を濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(酸性シリカゲル、溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル1/0,4/1)で精製し、白色固体のニトリルオキシド化合物Dの10.6gを得た(収率18%)。ニトリルオキシド化合物Dの融点およびニトリルオキシド当量を表1に示す。
ニトリルオキシド化合物DのNMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.47-7.29(m,10H),4.63(brs,1H),3.47(t,2H),3.14(d,2H),1.76-1.65(m,2H),1.65-1.55(m,2H),1.44(s,9H)ppm.
ニトリルオキシド化合物Dの融点:76℃
【0152】
(実施例5A)
ニトリルオキシド化合物Eの合成:
【0153】
【化32】
【0154】
水素化ナトリウムの1.4g(60mmol)をヘキサンで3回洗浄し、気相をアルゴンガスで置換した後、DMFの60mLを加えた。この液に、DMFの20mLに溶解させた4,4’-イソプロピリデンビス(2-フェノキシエタノール)の3.2g(10mmol)を、0℃でゆっくり加え、1時間撹拌した。この液に、1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレンの5.4g(20mmol)のDMF溶液(20mL)を0℃で滴下し、室温で4時間撹拌した。この溶液に少量の酢酸を加えて反応を停止し、ジクロロメタンを用いて抽出を行った。ジクロロメタン溶液を、イオン交換水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ジクロロメタン溶液から溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)で精製することによって黄色固体の化合物E-1の3.2gを得た(収率42%)。
化合物E-1のNMRスペクトル:
H-NMR(500MHz,CDCl):δ7.34-7.26(m,20H),7.12(d,4H),6.79(d,4H),5.36(s,4H),4.17(t,4H),3.72(t,4H),1.63(s,6H)ppm.
【0155】
二炭酸ジ-tert-ブチルの2.7g(13mmol)、N,N-ジメチル-4-アミノピリジンの50mg(0.42mmol)をアルゴンガス雰囲気下でアセトニトリルの10mLに溶解した。この溶液に、化合物E-1の3.2g(4.2mmol)のアセトニトリル溶液(10mL)を加え、室温で1時間撹拌した。この溶液に、少量の酢酸を加えて反応を停止し、酢酸エチルを用いて抽出を行った。酢酸エチル溶液を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。酢酸エチル溶液から溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=1/1)で精製することによって白色固体のニトリルオキシド化合物Eの1.2gを得た(収率39%)。ニトリルオキシド化合物Eの融点およびニトリルオキシド当量を表1に示す。
ニトリルオキシド化合物EのNMRスペクトル:
H-NMR(500MHz,CDCl):δ7.45-7.33(m,20H),7.14(d,4H),6.83(d,4H),4.19(t,4H),3.83(t,4H),1.64(s,6H)ppm.
ニトリルオキシド化合物Eの融点:57℃
【0156】
(比較例1A)
ニトリルオキシド化合物Fの合成:
【0157】
【化33】
【0158】
Chemistry Letters,第46巻,2017年,p.315-318に記載の方法にしたがって、薄黄色オイルのニトリルオキシド化合物Fを得た。ニトリルオキシド化合物Fのニトリルオキシド当量を表1に示す。
【0159】
(比較例2A)
ニトリルオキシド化合物Gの合成:
【0160】
【化34】
【0161】
水素化ナトリウムの1.5g(60mmol)をヘキサンで洗浄し、DMFの40mLを加えた。この液に、10mLのDMFに溶解させた1,6-ヘキサンジオールの7.1g(60mmol)を0℃で滴下し、1時間撹拌した。この液に、1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレンの4.5g(18mmol)のDMF溶液(10mL)を滴下し、16時間撹拌した。この液に酢酸を少量加えた後、ジクロロメタンを用いて抽出を行った。
ジクロロメタン溶液を、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ジクロロメタン溶液から溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)で精製することによって無色粘性液体の化合物G-1の4.7gを得た(収率77%)。
化合物G-1のNMRスペクトル:
H-NMR(500MHz,CDCl):δ7.35-7.25(m,10H),5.34(s,2H),3.64(dt,2H),3.35(t,2H),1.66-1.36(m,8H),1.20(t,1H)ppm.
【0162】
化合物G-1の4.7g(14mmol)およびイミダゾールの1.1g(16mmol)をDMFの30mLに溶解させた後、tert-ブチルジメチルクロロシランの2.3g(15mmol)を滴下し、室温で18時間撹拌した。この溶液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、酢酸エチルを用いて抽出を行った。酢酸エチル溶液を、水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。酢酸エチル溶液から溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=10/1)で精製することによって無色粘性液体の化合物G-2の5.6gを得た(収率89%)。
化合物G-2のNMRスペクトル:
H-NMR(500MHz,CDCl):δ7.35-7.25(m,10H),5.34(s,2H),3.60(t,2H),3.35(t,2H),1.65-1.31(m,8H),0.89(s,9H),0.04(s,6H)ppm.
【0163】
化合物G-2の5.5g(12mmol)をジクロロメタンの90mLに溶解した。この溶液に、フェニルイソシアネートの3.1g(26mmol)およびトリエチルアミンの4.0g(40mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。固体をろ別した後、ろ液から溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=10/1)で精製することによって無色粘性液体の化合物G-3の5.2gを得た(収率98%)。
化合物G-3のNMRスペクトル:
H-NMR(500MHz,CDCl):δ7.42-7.31(m,10H),3.60(t,2H),3.45(t,2H),1.69-1.33(m,8H),0.89(s,9H),0.04(s,6H)ppm.
【0164】
化合物G-3の5.2g(12mmol)をTHFの120mLに溶解した。この溶液に、1.0mol/Lのフッ化テトラ-n-ブチルアンモニウムのTHF溶液の17mL(17mmol)を加えて30分間撹拌した。この溶液について、ジクロロメタンを用いて抽出を行った。ジクロロメタン溶液を、水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ジクロロメタン溶液から溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1、2/1)で精製することによって無色粘性液体のニトリルオキシド化合物Gの1.4gを得た(収率36%)。ニトリルオキシド化合物Gのニトリルオキシド当量を表1に示す。
ニトリルオキシド化合物GのNMRスペクトル:
H-NMR(500MHz,CDCl):δ7.42-7.32(m,10H),3.68-3.62(m,2H),3.47(t,2H),1.72-1.36(m,8H),1.24(s,1H)ppm.
【0165】
(比較例3A)
ニトリルオキシド化合物Hの合成:
【0166】
【化35】
【0167】
式Hにおいて、uは繰り返し単位の数である。
使用する原料のポリエチレングリコールの分子量Mnを3,100から2,000に変更した以外は、Polymer Chemistry,第8巻,2017年,p.1445-1448に記載の方法にしたがって、白色固体のニトリルオキシド化合物Hを得た。
ニトリルオキシド化合物Hの融点およびニトリルオキシド当量を表1に示す。
【0168】
(比較例4A)
ニトリルオキシド化合物Iの合成:
【0169】
【化36】
【0170】
Chemistry Letters,第39巻,2010年,p.420-421に記載の方法にしたがって、黄色固体のニトリルオキシド化合物Iを得た。ニトリルオキシド化合物Iの融点を測定しようとしたとこと、250℃で分解してしまった。ニトリルオキシド化合物Iのニトリルオキシド当量を表1に示す。
【0171】
<化合物の評価>
(保存安定性)
ニトリルオキシド化合物をガラス瓶に入れ、蓋をして密閉し、30℃で1週間静置した後、CDCl中でH-NMRを測定した。静置前後でスペクトルが変化しない場合を「〇」、変化した場合を「×」とした。結果を表1に示す。
【0172】
(反応性)
樹脂とニトリルオキシド化合物との反応性の評価には、小型セグメントミキサKF6(内容積5~6mL)および2ローブディスク(5枚組合せ式)II型ブレードを装着した東洋精機製作所社製の「ラボプラストミルμ」を用いた。
【0173】
アルミカップ上で、粉体状の末端ビニル基含有ポリプロピレンの3.5g(Mw:58,300、Mn:26,500、末端ビニル基の量:34μg/g)、ニトリルオキシド化合物の所定量および酸化防止剤(BASF社製、IRGANOX(登録商標)1010)の3.5mgを混合し、サンプルを得た。固体状のニトリルオキシド化合物はそのまま混合し、オイル状のニトリルオキシド化合物は少量のアセトンに溶解してポリプロピレンにふりかけ、30℃で3時間減圧乾燥した後に使用した。二官能のニトリルオキシド化合物は末端ビニル基に対して2当量となる量を用い、単官能のニトリルオキシド化合物は末端ビニル基に対して1.2当量となる量を用いた。
【0174】
あらかじめ180℃まで予熱したラボプラストミルのミキサー内に、30rpmでブレードを低速で回転させながらアルミカップ上のサンプルを全量投入し、ブレード回転数を300rpmまで上昇させて、反応を開始した。2分後、回転を停止してサンプルを回収した。
【0175】
回収したサンプルから未反応のニトリルオキシド化合物を除去するため、下記の方法で精製した。
はさみで数mm角に裁断したサンプルの500mgおよび脱水キシレンの10mLをフラスコに投入した後、オイルバスにて窒素ガス下、120℃で20分間撹拌して完全に溶解させた。この溶液に、アセトンの50mLを投入してポリマーを析出させた。析出させたポリマーをろ過によって回収して、減圧下60℃で4時間以上乾燥させた。
【0176】
得られたポリマーの30mgをo-ジクロロベンゼン-dの0.7mLに溶解し、120℃でH-NMRを測定した。4.9ppmのビニル基由来のシグナル(2H)と約4.5ppmのイソオキサゾリン環由来のシグナル(1H)の比から反応転化率を求めた。結果を表1に示す。
【0177】
【表1】
【0178】
実施例1A~5Aのニトリルオキシド化合物は、25℃以上の融点を有し、ニトリルオキシド当量が大きいため、保存安定性および反応性に優れていることが分かる。
比較例1A~2Aのニトリルオキシド化合物は、融点が25℃未満であるため、保存安定性が悪い。
比較例3Aのニトリルオキシド化合物は、25℃以上の融点を有するが、分子量が高く、ニトリルオキシド当量が低いため、反応性に劣る。
比較例4Aのニトリルオキシド化合物は、保存安定性に優れるものの、反応性に劣る。これは、反応温度が高温であるため、ニトリルオキシド基がイソシアネート基に異性化したためである。
【0179】
(実施例6A)
ニトリルオキシド化合物Jの合成:
【0180】
【化37】
【0181】
1,8-オクタンジオール10.7g(73.0mmol)を脱水THF200mLに溶解し、0℃に冷却した。この溶液に、窒素ガス下で水素化ナトリウム(純度37%)15g(231mmol)を加え、0℃で1時間撹拌した。この液に、1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレン35g(155mmol)を加え、20℃で15時間撹拌した。溶液を0℃に冷却した後、2mol/Lの塩化水素水溶液でpHが6~7になるまで中和した。中和後の液について、ジクロロメタンを用いて抽出を行った。ジクロロメタン溶液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。ろ液を濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(酸性シリカゲル、溶媒:石油エーテル/酢酸エチル1/0,4/1)で精製することで、化合物J-1を31g得た(収率68%)。
化合物J-1のNMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.38-7.27(m,18H),5.36(s,4H),3.36(t,J=6.4Hz,4H),1.67-1.60(m,4H),1.42-1.34(m,4H),1.29(brdd,J=3.6,6.8Hz,4H)ppm.
【0182】
化合物J-1の31g(52.0mmol)を脱水ジクロロメタン500mLに溶解した。この溶液に、4-クロロフェニルイソシアネート27.0mL(211mmol)、トリエチルアミン112.7g(1.11mol)、モレキュラーシーブス4A60gを投入し、窒素ガス下、20℃で15時間撹拌した。溶液をろ過し、ろ液を濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(酸性シリカゲル、溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル1/0,10/1)で精製した。白色固体のニトリルオキシド化合物Jを8.1g得た(収率28%)。
ニトリルオキシド化合物BのNMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,CDCl):δ=7.47-7.41(m,8H),7.40-7.31(m,12H),3.47(t,J=6.4Hz,4H),1.75-1.63(m,4H),1.47-1.37(m,4H),1.36-1.29(m,4H)ppm.
ニトリルオキシド化合物Jの融点:86℃
【0183】
(実施例7A)
ニトリルオキシド化合物Kの合成:
【0184】
【化38】
【0185】
3-メチル―1,5-ペンタンジオール12.59g(107mmol)を脱水THFの300mLに溶解し、0℃に冷却した。この溶液に、窒素ガス下で水素化ナトリウム(純度60%)13.32g(333mmol)を加え、0℃で1時間撹拌した。この液に、1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレン50g(222mmol)を加え、15℃で15時間撹拌した。溶液を0℃に冷却した後、4mol/Lの塩化水素水溶液でpHが4~5になるまで中和した。中和後の液について、ジクロロメタンを用いて抽出を行った。ジクロロメタン溶液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。ろ液を濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(酸性シリカゲル、溶媒:石油エーテル/酢酸エチル1/0,5/1)で精製することで、化合物K-1を60g得た(収率82%)。
化合物K-1のNMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,CDCl)δ=7.36-7.22(m,20H),5.40-5.30(m,4H),3.48-3.33(m,4H),1.99-1.82(m,1H),1.69(qd,J=6.4,13.2Hz,2H),1.45(qd,J=6.4,13.5Hz,2H),0.84(d,J=6.4Hz,3H)ppm.
【0186】
化合物K-1 32g(56mmol)を脱水ジクロロメタンの900mLに溶解した。この溶液に、4-クロロフェニルイソシアネート28.8mL(225mmol)、トリエチルアミン34.18g(338mmol)、モレキュラーシーブス4A25gを投入し、窒素ガス下、15℃で16時間撹拌した。溶液をろ過し、ろ液を濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(酸性シリカゲル、溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル1/0,10/1)で精製した。白色固体のニトリルオキシド化合物Kの6.5gを得た(収率22%)。
ニトリルオキシド化合物KのNMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.44-7.30(m,20H),3.45(t,4H),1.69(m4H),1.41(m,4H)ppm.
ニトリルオキシド化合物Kの融点:103℃
【0187】
(実施例8A)
ニトリルオキシド化合物Lの合成:
【0188】
【化39】
【0189】
2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-1-エタノール6.44g(40.0mmol)を脱水THFの60mLに溶解し、0℃に冷却した。この溶液に、窒素ガス下で水素化ナトリウム(純度60%)1.92g(48.0mmol)を加え、0℃で1時間撹拌した。この液に、1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレンの9g(40.0mmol)を加え、15℃で15時間撹拌した。溶液を0℃に冷却した後、1mol/Lの塩化水素水溶液でpHが5~6になるまで中和した。中和後の液について、ジクロロメタンを用いて抽出を行った。ジクロロメタン溶液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。ろ液を濃縮した後、得られた固体を石油エーテル/酢酸エチル 10/1混合液で洗浄することで化合物L-1を13g得た(収率84%)。
化合物L-1のNMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,CDCl)δ=7.37-7.30(m,6H),7.26-7.21(m,4H),5.33(s,2H),5.03(brs,1H),3.47-3.29(m,4H),1.45(s,9H)ppm.
【0190】
化合物L-1 13g(33.6mmol)を脱水ジクロロメタン250mLに溶解した。この溶液に、4-クロロフェニルイソシアネート12.9mL(101mmol)、トリエチルアミン20.4g(202mmol)、モレキュラーシーブス4Aの25gを投入し、窒素ガス下、15℃で16時間撹拌した。溶液をろ過し、ろ液を濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(酸性シリカゲル、溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル1/0,9/1)で精製した。白色固体のニトリルオキシド化合物Lの5.0gを得た(収率40%)。
ニトリルオキシド化合物LのNMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,CDCl):δ7.46-7.34(m,10H),4.84(brs,1H),3.57-3.50(m,2H),3.47(brd,J=5.2Hz,2H),1.45(s,9H)ppm.
ニトリルオキシド化合物Lの融点:76℃
【0191】
(実施例9A)
ニトリルオキシド化合物Mの合成:
【0192】
【化40】
【0193】
金属マグネシウム19.92g(820mmol)に脱水THF100mLを投入し、窒素下で50℃に昇温した後、ヨウ素650mg(2.56mmol)を加えた。15℃に冷却した後、1,6-ジブロモヘキサン25g(102.5mmol)のTHF溶液(100ml)を30分かけて滴下後、15℃で1時間撹拌した。そこに1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレン28g(124mmol)のTHF溶液(100m)を加え、15℃で15時間撹拌した。反応液を0℃に冷却した硫酸285gに投入し、15℃で30分撹拌した。この溶液を酢酸エチル/水で分液し、有機相を炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。ろ液を濃縮した後、得られた固体をヘキサン/アセトニトリル 1/1混合液で洗浄した後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶媒:ジクロロメタン/酢酸エチル3/1)で精製することで化合物Mを10.9g得た(収率21%)。
化合物M-1のNMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,CDCl)δ=7.40-7.22(m,20H),2.34(brs,4H),1.31(s,8H)ppm.
ニトリルオキシド化合物Mの融点:162℃
【0194】
(実施例10A)
ニトリルオキシド化合物Nの合成:
【0195】
【化41】
【0196】
金属マグネシウム10.0g(412mmol)に脱水THF100mLを投入し、窒素下で50℃に昇温した後、ヨウ素327mg(1.29mmol)を加えた。15℃に冷却した後、1,8-ジブロモヘキサン14g(51.5mmol)のTHF溶液(100ml)を30分かけて滴下後、15℃で1時間撹拌した。そこに1-ニトロ-2,2-ジフェニルエチレン14.0g(62.2mmol)のTHF溶液(100m)を加え、20℃で15時間撹拌した。反応液を0℃に冷却した硫酸368gに投入し、20℃で1時間撹拌した。この溶液をジクロロメタン-水で分液し、有機相を炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。ろ液を濃縮した後、得られた固体をアセトニトリルで洗浄した後、カラムクロマトグラフィー(酸性シリカゲル、溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン 1/1)で精製することで化合物Nを10.9g得た(収率14%)。
化合物NのNMRスペクトル:
H-NMR(400MHz,CDCl)δ=7.40-7.22(m,20H),2.34(brs,4H),1.31(s,8H)ppm.
ニトリルオキシド化合物Nの融点:119℃
【0197】
得られたニトリルオキシド化合物J~Nについて、各評価を行った。結果を表2に示す。
【0198】
【表2】
【0199】
実施例6A~10Aのニトリルオキシド化合物も、実施例1A~5Aの化合物と同様に、25℃以上の融点を有し、ニトリルオキシド当量が大きいため、保存安定性および反応性に優れていることが分かる。
【0200】
<片末端二重結合ポリオレフィン>
(PP1:プロピレンホモポリマー)
Mw=58,300、Mn=26,500、Mw/Mn=2.20、
Tm=156℃、
末端ビニル基の数=34μmol/g、0.91個/本。
【0201】
(PP2:プロピレンホモポリマー)
Mw=152,000、Mn=59,600、Mw/Mn=2.55、
Tm=154℃、
末端ビニル基の数=17μmol/g、0.95個/本。
【0202】
(PP3:プロピレンホモポリマー)
Mw=266,000、Mn=76,100、Mw/Mn=3.49、
Tm=153℃、MFR(230℃)=9.2g/10min、
末端ビニル基の数=10μmol/g、0.77個/本。
【0203】
(PE1:エチレン-プロピレンコポリマー)
Mw=37,300、Mn=13,800,Mw/Mn=2.70、
Tm=66℃、MFR(190℃)=107g/10min、
密度=0.889g/cm
プロピレン単位の割合:14.8mol%、
末端ビニル基の数=51μmol/g、0.71個/本、
ビニリデン基の数=49μmol/g、0.13個/本、
ビニレン基の数=34μmol/g、0.47個/本、
3置換オレフィンの数=33μmol/g、0.45個/本。
【0204】
(PE2:エチレン-プロピレン-1-ヘキセンコポリマー)
Mw=50,800、Mn=19,100、Mw/Mn=2.66、
Tm=54℃、MFR(190℃)=30g/10min、
密度=0.874g/cm
プロピレン単位の割合:9.4mol%、ヘキセン単位の割合:4.9mol%、
末端ビニル基の数=17μmol/g、0.33個/本、
ビニリデン基の数=26μmol/g、0.49個/本、
ビニレン基の数=18μmol/g、0.34個/本、
3置換オレフィンの数=24μmol/g、0.46個/本。
【0205】
<反応性官能基含有ポリマー>
(EPDM:エチレン-プロピレン-ジシクロペンタジエンゴム)
エチレン単位の割合:57mol%、
プロピレン単位の割合:39mol%、
ジシクロペンタジエン単位の割合:4mol%、
ムーニー粘度ML(1+4)125℃:48。
【0206】
<ポリオレフィン変性体の製造>
(実施例1B、3B~5B、7B、10B、13B~20B、23B、24B、28B、30B、32B)
ポリオレフィン変性体の製造には、小型セグメントミキサKF6(内容積5~6mL)および2ローブディスク(5枚組合せ式)II型ブレードを装着した東洋精機製作所社製の「ラボプラストミルμ」を用いた。
アルミカップ上で片末端二重結合ポリオレフィンの3.5g、ニトリルオキシド化合物の所定量および酸化防止剤(BASF社製、IRGANOX(登録商標)1010)の3.5mgを混合し、混合物を得た。固体状のニトリルオキシド化合物はそのまま混合し、オイル状のニトリルオキシド化合物は少量のアセトンに溶解してポリオレフィンにふりかけ、30℃で3時間減圧乾燥した後に使用した。ニトリルオキシド化合物は片末端二重結合ポリオレフィンの炭素-炭素二重結合に対して表3に示す当量となる量を用いた。
あらかじめ混練実施温度まで予熱したラボプラストミルのミキサー内に、30rpmでブレードを低速で回転させながらアルミカップ上の混合物を全量投入し、ブレード回転数を300rpmまで上昇させて、反応を開始した。2分後、回転を停止して混練物を回収した。
回収した混練物から未反応のニトリルオキシド化合物を除去するため、下記の方法で精製した。
はさみで数mm角に裁断した混練物の500mgおよび脱水キシレンの10mLをフラスコに投入した後、オイルバスにて窒素ガス下、120℃で20分間撹拌して完全に溶解させた。この溶液に、アセトン50mLを投入してポリオレフィン変性体を析出させた。
析出させたポリオレフィン変性体はろ過によって回収して、減圧下60℃で4時間以上乾燥させた。反応転化率の結果を表3に示す。実施例14Bのポリオレフィン変性体のH-NMRスペクトルを図1に示す。
【0207】
(実施例2B、6B、8B、9B、11B、12B、21B、22B、25B~27B、29B、31B)
ガラスフラスコに片末端二重結合ポリオレフィンの1.0g、ニトリルオキシド化合物の所定量、脱水キシレンの10mLを入れ、窒素ガス下、110℃で5時間加熱撹拌した。ニトリルオキシド化合物は片末端二重結合ポリオレフィンの炭素-炭素二重結合に対して表3に示す当量となる量を用いた。この液に、放冷しながらアセトンの40mLを添加してポリオレフィン変性体を析出させた。析出させたポリオレフィン変性体はろ過によって回収して、減圧下60℃で4時間以上乾燥させた。反応転化率の結果を表3に示す。
【0208】
【表3】
【0209】
<ブロックコポリマーの製造>
(実施例33B、34B、比較例1B、2B)
ブロックコポリマーの製造には、小型セグメントミキサKF6(内容積5~6mL)および2ローブディスク(5枚組合せ式)II型ブレードを装着した東洋精機製作所社製の「ラボプラストミルμ」を用いた。
あらかじめ180℃まで予熱したラボプラストミルのミキサー内に30rpmでブレードを低速で回転させながら表4に示すポリオレフィン変性体および反応性官能基含有ポリマーと、酸化防止剤(BASF社製、IRGANOX(登録商標)1010)の3.5mgを投入し、ブレード回転数を300rpmまで上昇させて、反応を開始した。5分後、回転を停止して混練物を回収した。
【0210】
得られた混練物の30mgをo-ジクロロベンゼン-d2の0.7mLに溶解し、120℃でH-NMRを測定した。実施例33B、34Bについては、5.05ppmおよび4.85ppmにニトリルオキシド基がEPDMの側鎖の炭素-炭素二重結合に付加して生成したイソオキサゾリン環のシグナルが観測された。実施例33BのブロックコポリマーのH-NMRスペクトルを図2に示す。
得られた混練物について引張試験を行った。結果を表4に示す。
【0211】
【表4】
【0212】
表3に示すように、ニトリルオキシド化合物を用いることによってポリオレフィンの末端の炭素-炭素二重結合に高い反応転化率で官能基が導入されていることが分かる。
表4の実施例33Bと比較例1B、実施例34Bと比較例2Bの結果を比較することによって、ポリオレフィン変性体とEPDMとの混練物は、末端が変性されていないポリオレフィンとEPDMとの混練物と比較して、引張弾性率、破壊応力、破壊歪が飛躍的に向上していることが分かる。特に破壊歪の向上が著しい。加えてNMRの結果を加味して考えるとポリオレフィン変性体の末端のニトリルオキシド基とEPDMの炭素-炭素二重結合とが反応してブロックコポリマーが生成したことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0213】
本発明のニトリルオキシド化合物は、樹脂変性剤やゴム変性剤として用いることによって、工業的に有利な高い変性温度にて優れた反応性を発揮しながら、樹脂変性体やゴム変性体を得ることができることから、工業的な観点から非常に有用である。
【0214】
本発明の製造方法によって、片末端二重結合ポリオレフィンの末端を工業的に有利な高温条件下にて変性可能となる。また、得られたポリオレフィン変性体を用いることによって機械的物性に優れるブロックコポリマーを製造可能である。このように、本発明の製造方法は、工業的価値が極めて大きい。
図1
図2