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  • 特許-希土類鉄ガーネット焼結体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】希土類鉄ガーネット焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/453 20060101AFI20240723BHJP
   C04B 35/40 20060101ALI20240723BHJP
   C04B 35/645 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C04B35/453
C04B35/40
C04B35/645
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020142658
(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公開番号】P2022038260
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】中村 宣夫
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-058753(JP,A)
【文献】特表2008-505833(JP,A)
【文献】特開2018-048357(JP,A)
【文献】特開2017-095778(JP,A)
【文献】特開2004-131375(JP,A)
【文献】特開2000-297302(JP,A)
【文献】特開2018-048035(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0311729(US,A1)
【文献】国際公開第2014/087627(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105945293(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/01
C04B 35/645
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型に焼結原料を装入し、該成形型により該焼結原料を加圧しながら放電プラズマ焼結を施す希土類鉄ガーネット焼結体の製造方法であって、
前記成形型はドーパントを含む炭化ケイ素により構成され、該ドーパント量は2.0×10-19原子/cm以上であり、かつ該ドーパントは、昇温過程の初期段階における該成形型の電気抵抗率が2.0×10 -3 Ω・cm未満となるような量で含み、
前記放電プラズマ焼結は、大気圧下雰囲気下で行われ、且つ、前記焼結原料に対して200MPa以上の圧力で加圧しながら該焼結原料を焼結する
希土類鉄ガーネット焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記放電プラズマ焼結は、大気雰囲気下で行われる
請求項1に記載の希土類鉄ガーネット焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記放電プラズマ焼結は、不活性ガス雰囲気下で行われる
請求項1に記載の希土類鉄ガーネット焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類鉄ガーネット焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信用半導体レーザーへの戻り光を阻止する光アイソレータのファラデー素子に用いられる希土類鉄ガーネット焼結体の開発が進められている。このような希土類鉄ガーネット焼結体としては、ビスマス置換希土類・鉄ガーネットBi3-xFe12が挙げられる。ビスマス置換希土類・鉄ガーネットは、通常ガドリニウム・ガリウム・ガーネット単結晶(GGG)基板上に液相エピタタキシャル法(LPE)により成長させて得られる単結晶である。
【0003】
5Gに代表されるように通信網が大きく発展していく中、ファラデー素子に用いられる希土類鉄ガーネット焼結体の生産性の向上が強く要求されるようになっている。
【0004】
このような状況に対して、近年、セラミックスの焼結技術が加速度的に高まり単結晶と同等の特性を有するセラミックスも現れ実用化されている。セラミックスの焼結方法として、例えば熱間等方圧加圧焼結法(HIP:Hot Isostatic Pressing)や放電プラズマ焼結(SPS:Spark Plasma Sintering)等が知られている。
【0005】
SPSは固体状又は粉末状の焼結原料を成形型に充填し、一軸性加圧と直流パルス電圧・電流を、成形型に印加して焼結する方法である。、SPSはHIPと比較して1/10の時間で焼結が完了することから、高い生産性を期待することができる。例えば、非特許文献1にはこのSPSを用いて、CeOをドープしたYAGの透明セラミックスに関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「SPSによる透明セラミックス蛍光体の作製」第22回通電焼結研究会(2017)pp 105
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、希土類鉄ガーネット焼結体は、原料としては希土類元素(R)源、及び鉄(Fe)源等を準備して、所定の方法により希土類鉄ガーネット粉体(焼結原料)を得て、焼結原料を加圧しながら焼結を施す焼結工程を経ることで希土類鉄ガーネット焼結体を製造する。
【0008】
この焼結工程において焼結原料に対して放電プラズマ焼結を施すことにより、HIPと比べてより高い生産性で希土類鉄ガーネット焼結体を製造することが期待できる。
【0009】
しかしながら、通常の条件で希土類鉄ガーネット粉体(焼結原料)に対して放電プラズマ焼結を施すと、焼結原料中の特定の元素が抜けることや、焼結原料が成形型と反応することによって、ガーネットとは異なる結晶相が生成されることもある。すると、例えば、焼結体の冷却中にクラックが発生しやすくなる等の問題が発生する。
【0010】
本発明は、焼結原料を放電プラズマ焼結法により焼結した場合であっても、異なる結晶相の生成が抑制された希土類鉄ガーネット焼結体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、成形型を用いて焼結原料に対して放電プラズマ焼結法により焼結を施すに際し、大気圧下雰囲気下で行うようにして、且つ、ドーパントを含む炭化ケイ素により構成された成型型を使用して、焼結原料に加える圧力を所定の圧力に制御することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は、以下のものを提供する。
【0012】
(1)本発明の第1は、成形型に焼結原料を装入し、該成形型により該焼結原料を加圧しながら放電プラズマ焼結を施す希土類鉄ガーネット焼結体の製造方法であって、前記成形型はドーパントを含む炭化ケイ素により構成され、該ドーパント量は2×10-19原子/cm以上であり、前記放電プラズマ焼結は、大気圧下雰囲気下で行われ、且つ、前記焼結原料に対して200MPa以上の圧力で加圧しながら該焼結原料を焼結する希土類鉄ガーネット焼結体の製造方法である。
【0013】
(2)本発明の第2は、第1の発明において、前記放電プラズマ焼結は、大気雰囲気下で行われる希土類鉄ガーネット焼結体の製造方法である。
【0014】
(3)本発明の第3は、第1の発明において、前記放電プラズマ焼結は、不活性ガス雰囲気下で行われる希土類鉄ガーネット焼結体の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、焼結原料を放電プラズマ焼結法により焼結した場合であっても異なる結晶相の生成が抑制された希土類鉄ガーネット焼結体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】放電プラズマ焼結装置を構成する成形型の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0018】
≪1.概要≫
本発明の焼結体の製造方法は、成形型に焼結原料を装入し、成形型により焼結原料を加圧しながら放電プラズマ焼結を施す希土類鉄ガーネット焼結体の製造方法である。そして、この製造方法において、放電プラズマ焼結装置を構成する成形型はドーパントを含む炭化ケイ素により構成され、ドーパント量は2×10-19原子/cm以上であり、放電プラズマ焼結は、大気圧下雰囲気下で行われ、且つ、焼結原料に対して200MPa以上の圧力で加圧しながら焼結原料を焼結することを特徴としている。
【0019】
このように、導電性の炭化ケイ素により構成された成形型を用いて、放電プラズマ焼結を大気圧下雰囲気下で行うようにして、且つ焼結原料に加える圧力を所定の圧力に制御することにより、異なる結晶相の生成が抑制された希土類鉄ガーネット焼結体を得ることができる。
【0020】
本発明の製造方法により得られる希土類鉄ガーネット焼結体は、例えば、直線偏光の偏光面を回転させるファラデー素子として特に好適に使用することができる。
【0021】
≪2.放電プラズマ焼結装置≫
以下では、焼結体の製造方法の説明に先立ち、焼結原料に放電プラズマ焼結を施すのに使用される放電プラズマ焼結装置の一例について説明する。
【0022】
SPSは通常焼結原料に50MPa未満の高圧を一軸加圧しながら、炭素により構成された焼結型に直流のパルス電流を流し、焼結原料を直接加熱する。このように、熱的・機械的・電磁エネルギ-が複合的に働かせて焼結を活性化させながら焼結原料に対して焼結を施すことにより、他の焼結方法と比較して20~100倍の速さで焼結を施して希土類鉄ガーネット焼結体を得ることが可能となる。さらに、SPSは、焼結助剤を使用することなく焼結原料に対して焼結を施すことが可能であるので、純度の高い希土類鉄ガーネット焼結体が得られやすい。このため、SPSは、例えば、ファラデー素子に用いられるような透明焼結体の製造に極めて好適である。
【0023】
図1は、放電プラズマ焼結装置を構成する成形型10の構成の一例を示す断面図である。焼結原料Mを加圧しながら、成形型10に通電し焼結原料Mを直接加熱し焼結を施す。
【0024】
図1に示すように、成形型10は、シリンダー11と、2つのパンチ12とを備える。そして、成形型10では、焼結原料Mが、シリンダー11と、2つのパンチ12とに囲まれる空間において加圧された状態で焼結される。通電はパンチ12a(12b)→シリンダー11→パンチ12b(12a)と電流を流して行われる。
【0025】
シリンダー11は、例えば、円筒形状のものであって、その中空部に挿入される円柱状の2つのパンチ12a、12bの上下動をガイドする。シリンダー11においては、焼結原料Mが装入され、2つのパンチ12a、12bによる圧力の印加によってその焼結原料Mを加圧する。
【0026】
パンチ12は、例えば円柱形状を有するものであり、シリンダー11の中空部に挿入されることで、シリンダー11とともに、そのシリンダー11の内部に装入した焼結原料を加圧圧縮する。具体的に、内部に焼結原料Mが装入されたシリンダー11の中空部の一端から一つのパンチ12を挿入し、他端からもう一つのパンチ12を挿入して、これらのパンチにより、シリンダー11の内部の焼結原料Mに対して直接加圧する。
【0027】
ここで、成形型10においては、例えば、シリンダー11の中空部に、一方の端部から一つのパンチ12bが挿入され、次いで、シリンダー11の他方の端部から、その内部に焼結原料Mが装入される。その後、焼結原料Mが装入された側の端部から、もう一つのパンチ12aを挿入することで、焼結原料Mに対してパンチにより圧力を印加する状態がセットされる。このようにして焼結原料Mが装入された成形型10は、放電プラズマ焼結装置に設置され、焼結原料Mに対する圧力の印加が行われる。
【0028】
なお、この放電プラズマ焼結装置は、成形型10のパンチ12と接触して配置されるスペーサーや成形型10のパンチ12を通じて焼結原料Mに対して所定の圧力を印加するとともに、パルス電圧・電流を印加する成形型10に加圧ラムを備えていてもよい。
【0029】
さて、この成形型10は、炭化ケイ素により構成されていることを特徴としている。従来の放電プラズマ焼結装置を構成する成形型は、一般的にグラファイト等の炭素材料により構成されており、焼結原料中のFeと成形型中の炭素とが反応して、得られる希土類鉄ガーネット焼結体の表面が異相で覆われるようになることがある。
【0030】
そこで、他の物質と反応性の低い炭化ケイ素により構成された成形型10を使用することで、焼結原料と成形型を構成する元素とが反応することを効果的に抑制することが可能となる。
【0031】
また、炭素(グラファイト)よりもヤング率の高い炭化ケイ素により構成された成形型10を使用することで、焼結原料Mを加圧しながら高温のプラズマ焼結を施すような高温加熱条件でも成形型10のクラックの発生を効果的に抑制することができる。
【0032】
さらに、この炭化ケイ素はドーパントを含んでおり、このドーパント量は2×10-19原子/cm以上であることを特徴としている。炭化ケイ素は半導電性であり高温時の電気伝導性に優れる材質ではあるが、低温時での電気伝導性は低い。このため、昇温過程の初期段階で成形型10に対して電圧を印加することが困難となる。
【0033】
そこで、炭化ケイ素に導電性を付与するドーパントが所定量添加された導電性炭化ケイ素により構成された成形型を放電プラズマ焼結に用いることで、焼結工程の昇温過程での初期段階から成形型10に対して通電できるようになる。
【0034】
炭化ケイ素に含まれるドーパントとしては、ホウ素やアルミニウム等のp型ドーパントであってもよく、窒素やリン等のn型ドーパントであってもよい。
【0035】
ドーパント量は3.0×10-19原子/cm以上であることが好ましく、4.0×10-19原子/cm以上であることがより好ましい。
【0036】
このようなドーパントが添加された導電性炭化ケイ素により構成された成形型であれば、昇温過程の初期段階であっても成形型10に対して通電できる。この導電性炭化ケイ素により構成された成形型の電気抵抗率は、2.0×10-3Ω・cm未満であることが好ましく、1.0×10-3Ω・cm未満であることがより好ましい。
【0037】
≪3.焼結体の製造方法≫
次に、上述した放電プラズマ焼結装置を使用して、ビスマス置換希土類・鉄ガーネット焼結体を製造する方法を本発明の具体的な実施形態として、より具体的に説明する。なお、ビスマス置換希土類・鉄ガーネット焼結体を製造する方法を一つの実施形態として説明するが、本発明の製造方法により得られる希土類鉄ガーネット焼結体はビスマスの代わりにセリウム等が置換された希土類・鉄ガーネット焼結体であってもよい。
【0038】
本実施の形態に係る放電プラズマ焼結方法は、シリンダー11と、パンチ12とを備える成形型10に焼結原料Mを装入し、焼結原料Mに対して放電プラズマ焼結を施す焼結工程を含む方法である。
【0039】
<準備工程>
準備工程では、原料を用意する。原料としては希土類元素(R)源、ビスマス(Bi)源、及び鉄(Fe)源を準備する。原料は、所望の希土類鉄ガーネット粉体が得られる限り、特に限定されない。例えば、ガーネットの構成元素(Bi、R及びFe)の酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、及び/又はアルコキシドなどの化合物を用いることができる。原料は、ガーネット構成元素を単独で含んでもよい。あるいは複合化合物の形態で複数の構成元素を組み合わせて含んでいてもよい。
【0040】
なお本明細書において、希土類元素は、原子番号21のスカンジウム(Sc)、原子番号39のイットリウム(Y)及び原子番号57のランタン(La)~原子番号71のルテニウム(Lu)の総称を指す。
【0041】
<合成工程>
合成工程では、準備した原料を混合及び反応させて焼結原料(希土類鉄ガーネット粉体)を合成する。合成手法は、所望の希土類鉄ガーネット粉体が得られる限り、限定されない。例えば同時沈殿法、固相反応法、水熱合成法、ゾルゲル法などの手法が挙げられる。
【0042】
同時沈殿法で合成する場合には、例えば、ガーネット構成元素(Bi、R及びFe)を含む硝酸塩を原料として準備し、これを水に溶解して水溶液を作製する。得られた水溶液を目標組成が得られるように混合し、混合溶液にアミンを添加して、沈殿物を形成する。得られた沈殿物を濾過して取り出した後に、乾燥及び仮焼して希土類鉄ガーネット粉体を合成する。仮焼は、例えば大気雰囲気中800~1200℃の温度で1~30時間保持する条件で行えばよい。
【0043】
固相反応法で合成する場合には、例えば、ガーネット構成元素(Bi、R及びFe)を含む原料(酸化物、炭酸塩、水酸化物等)を準備し、これらの原料を目標組成が得られるように混合する。そして、得られた混合物を仮焼して希土類鉄ガーネット粉体を合成する。原料の混合は、ボールミルなど公知の手法を用いて、湿式及び/又は乾式で行えばよい。仮焼は、例えば大気雰囲気中800~1200℃の温度で1~30時間保持する条件で行えばよい。
【0044】
<焼結工程>
焼結工程では、準備した焼結原料(希土類鉄ガーネット粉体)を焼結して焼結体にする。まず、成形型10に焼結原料Mを装入する。具体的には、成形型10のシリンダー11内に焼結原料Mを充填して上下からパンチ12で押さえ込む。そして、加圧ラムにより圧力をパンチ12に伝えることで焼結原料Mに対して所定の圧力で加圧した状態で固定する。なお、加圧ラムとパンチ12との間にはスペーサーを設けてもよい。
【0045】
次に、焼結原料Mを所定の圧力で加圧しながら加熱する。具体的には、焼結原料Mに対して加圧ラムにより成形型10を通じて200MPa以上の圧力で加圧しながら成形型10に通電し所定の速度で昇温する。
【0046】
焼結原料に対して200MPa未満の圧力で加圧しながら焼結すると、焼結完了温度が900℃以上となり、結晶体からビスマス元素が抜けてしまい、Fe相等のガーネットとは異なる結晶相が生成されてしまう。
【0047】
そこで、焼結原料Mに対して200MPa以上の圧力で加圧することで、焼結完了温度が900℃より下がり、焼結原料中のビスマス元素が抜けることを効果的に抑制して、異なる結晶相の生成を効果的に抑制することが可能となる。なお、焼結原料Mに対して250MPa以上の圧力で加圧することが好ましく、焼結原料Mに対して300MPa以上の圧力で加圧することがより好ましい。
【0048】
焼結原料Mを加熱するときの昇温速度は特に限定されるものではないが、50℃/分以上100℃/分以下であることが好ましい。
【0049】
このとき、放電プラズマ焼結は、大気圧下雰囲気下で行われることを特徴としている。真空圧雰囲気下で放電プラズマ焼結を行うと、焼結原料中のビスマスが蒸発し、焼結体中にビスマスが含まれなくなることでFe相等のガーネットとは異なる結晶相が生成されてしまう。
【0050】
そこで、放電プラズマ焼結を大気圧下雰囲気下で行うことで、放電プラズマ焼結中での焼結原料中のビスマスの蒸発を抑制してガーネットとは異なる結晶相の生成を抑制することができる。
【0051】
放電プラズマ焼結を大気圧下雰囲気下で行うのであれば、大気雰囲気下であっても、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下であってもよい。その中でも、放電プラズマ焼結は、大気雰囲気下で行われることが好ましい。不活性ガス雰囲気下で行う場合と比べて操作が簡便になるだけでなく、気泡が抜けた状態の緻密性の高い希土類鉄ガーネット焼結体を得ることができる。
【0052】
そして、焼結原料の焼結が終了は、焼結することで減少していた焼結原料の体積が再び増加に転じる温度以上になったらこの焼結工程を終了させる。例えば、焼結原料の体積が再び増加に転じた温度以上の所定の温度で所定時間保持した後に放電プラズマ焼結を終了させることで焼結体が得られる。
【実施例
【0053】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
まず、内径15mmのシリンダーと外径15mmのパンチを備え、導電性炭化ケイ素(2×10-19原子/cm以上の量の窒素元素(ドーパント)を含む炭化ケイ素)により構成される成形型を用意した。
【0055】
次に、焼結原料(希土類鉄ガーネット粉体)としてBi12を合成した。原料としてBi、Y及びFeの粉体を所定の割合で混合して、大気中900℃で10時間焼成し固相反応させることで焼結原料(希土類鉄ガーネット粉体)を合成した。なお、IPC発光分析の結果、焼結原料(希土類鉄ガーネット粉体)の組成は、Bi0.982.02Fe12であることが確認された。
【0056】
成形型のシリンダー内に焼結原料Mを2g充填し上下からパンチ12で押さえ込むことで焼結原料を成形型に焼結原料を装入した。SPSでの焼結槽は真空度5×10-2Paにした後、成形型に通電し、昇温速度:120℃/分で600℃まで昇温して5分間保持して付着水分を除去した。次に、通電を止めて冷却しつつ、不活性ガス(窒素ガス)を導入して、焼結槽内を大気圧下雰囲気下にした。
【0057】
次に、不活性ガス(窒素ガス)をフローしながら図1のパンチに300MPaに加圧して以下の条件でSPSを行った。そして、焼結することで減少していた焼結体の体積が再び増加に転じる温度で昇温を停止し、その温度を到達温度とした。なお、下記の保持時間とは到達温度における保持時間である。下記条件で、2個の焼結体を製造した。
【0058】
・昇温速度:100℃/分
・到達温度:900℃
・保持時間:20分
・雰囲気:大気圧下(窒素ガス)雰囲気
【0059】
(実施例2)
窒素ガスの代わりに大気を導入して放電プラズマ焼結を大気雰囲気下で行ったこと以外上記実施例1と同様に2個の焼結体を製造した。
【0060】
(比較例)
図1のパンチに100MPaに加圧して以下の条件でSPSを行ったこと以外上記実施例1と同様に2個の焼結体を製造した。
【0061】
【表1】
【0062】
[焼結体の異相有無について]
実施例1、実施例2の製造方法により得られた焼結体は、φ15×1.5mtサイズであり、2個ともクラックの発生は確認できなかった。
【0063】
また、実施例1、実施例2の製造方法により得られた焼結体について、粉末X線回析によりいずれもガーネット単相であることが確認された。このことから、放電プラズマ焼結を大気圧下雰囲気下で行うようにして、且つ焼結原料に加える圧力を200MPa以上に制御した実施例1、実施例2の製造方法では、異なる結晶相の生成が抑制された希土類鉄ガーネット焼結体を得ることができた。
【0064】
また、実施例1、実施例2の製造方法により得られた焼結体について、IPC発光分析を行った結果、いずれもBi0.972.03Fe12であり、焼結原料の組成と焼結体との組成は略同等であることが確認された。
【0065】
一方、比較例の製造方法により得られた焼結体について、粉末X線回析によりガーネット相の他、ガーネット相とは異なるFe相が確認された。このことから、焼結原料に加える圧力を200MPa未満にしてプラズマ処理を施した比較例の製造方法では、異なる結晶相の生成が抑制された希土類鉄ガーネット焼結体を得ることができなかった。
【0066】
[焼結体の透明性について]
実施例1、実施例2及び比較例の製造方法により得られたもう一つの焼結体について、光学面を研削,ポリッシュ研磨により0.4mmtに仕上げ、波長1.31μmの光に対する光透過率を測定した。なお、光源には半導体レーザーを用いて、光線と平衡に焼結体に地場を加え磁気飽和させた。
【0067】
上記表1から分かるように、実施例2の製造方法により得られた焼結体は、透明性に優れたものとなっていた。このことから、放電プラズマ焼結を大気雰囲気下で行われることで、不活性ガス雰囲気下で行う場合と比べて、気泡が抜けた状態の緻密性の高い希土類鉄ガーネット焼結体が得られることが分かる。
【0068】
なお、実施例1の製造方法により得られた焼結体は透明性が劣るものであったが、700℃、10時間のアニール処理を施すことにより焼結体内の気泡が抜けて、実施例2の製造方法により得られた焼結体と同様に透明性の高い希土類鉄ガーネット焼結体が得られた。
【符号の説明】
【0069】
10 成形型
11 シリンダー
12 パンチ
M 焼結原料
図1