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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20240723BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20240723BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240723BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20240723BHJP
   C08K 5/3477 20060101ALI20240723BHJP
   C08G 18/79 20060101ALI20240723BHJP
   C08G 75/0259 20160101ALI20240723BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L23/08
C08L23/26
C08K7/14
C08K5/3477
C08G18/79 020
C08G75/0259
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020169512
(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公開番号】P2022061545
(43)【公開日】2022-04-19
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】春成 武
(72)【発明者】
【氏名】山野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】姫野 芳英
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-015810(JP,A)
【文献】特開2017-101167(JP,A)
【文献】特開2015-105359(JP,A)
【文献】特開2009-173804(JP,A)
【文献】特開2020-033534(JP,A)
【文献】特開2013-221124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 18/00-18/87
C08G 75/00-75/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が100~1000ポイズであるポリアリーレンスルフィド(A)20~50重量%、エチレン系重合体(B)1~5重量%、ASTM D2343に準拠し測定した引張弾性率が85~100GPaである繊維状充填材(C)30~60重量%、非繊維状充填材(D)5~20重量%を含んでなり、エチレン系重合体(B)が、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン系重合体からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレン系重合体であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド組成物。
【請求項2】
繊維状充填材(C)が、ガラス繊維であることを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド組成物。
【請求項3】
ポリアリーレンスルフィド(A)、エチレン系重合体(B)、繊維状充填材(C)、非繊維状充填材(D)の合計量100重量部に対し、さらに離型剤(E)0.05~5重量部を配合してなることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド組成物。
【請求項4】
離型剤(E)が、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、脂肪酸アマイド系ワックスからなる群より選択される少なくとも1種以上の離型剤であることを特徴とする請求項3に記載のポリアリーレンスルフィド組成物。
【請求項5】
ポリアリーレンスルフィド(A)、エチレン系重合体(B)、繊維状充填材(C)、非繊維状充填材(D)の合計量100重量部に対し、さらにイソシアヌレート(F)0.1~5重量部を配合してなることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド組成物。
【請求項6】
イソシアヌレート(F)が、1,3,5-トリス(6-イソシアナトヘキサ-1-イル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンであることを特徴とする請求項5に記載のポリアリーレンスルフィド組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィドの本来有する耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などを損なうことなく、弾性率、機械的強度、耐ヒートサイクル性、流動性に優れるポリアリーレンンスルフィド組成物に関するものであり、自動車部品又は電気・電子部品などの用途に特に有用なポリアリーレンスルフィド組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィドは、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などに優れた特性を示す樹脂であり、その優れた特性を生かし、自動車機器部材、電気・電子機器部材およびOA機器部材等に幅広く使用されている。また、ガラス繊維などの無機充填材を高濃度で配合することで、弾性率などの強度および寸法安定性などに優れた特性を示す。しかしながら、ポリアリーレンスルフィドに無機充填材を高濃度で配合することで、靭性(低温耐衝撃特性や耐ヒートサイクル性)や流動性は大きく低下するという課題を有しているため、一部の用途で使用が制限されていた。
【0003】
強度および靱性のバランスを改良する試みについては、例えば熱可塑性樹脂(A)、反応性官能基を末端に有するグラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサン(B)、および繊維状充填材(C)を配合してなる樹脂組成物であって、前記熱可塑性樹脂(A)および前記ポリロタキサン(B)の合計100重量部に対して、前記繊維状充填材(C)を1~200重量部含み、前記熱可塑性樹脂(A)がスチレン系樹脂、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、塩化ビニル、オレフィン系樹脂、ポリアクリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリーレンサルファイド、セルロース誘導体、液晶性樹脂およびこれらの変性樹脂から選択される少なくとも1種である、樹脂組成物であり、前記熱可塑性樹脂(A)と前記繊維状充填材(C)との界面における熱可塑性樹脂(A)のイオン強度をa、前記ポリロタキサン(B)のイオン強度をbとした際、イオン強度比b/aが1.1以上である樹脂組成物(例えば特許文献1参照。)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-55986号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に提案された樹脂組成物においては、弾性率と耐ヒートサクル性および流動性のバランスが十分に満足できないという課題があった。
【0006】
そこで本発明は、ポリアリーレンスルフィドが本来有する耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などを損なうことなく、弾性率、機械的強度、耐ヒートサイクル性、流動性に優れるポリアリーレンスルフィド組成物を提供することを目的とし、されに詳しくは、自動車電装部品又は電気・電子部品などの用途に特に有用なポリアリーレンスルフィド組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、少なくとも特定のポリアリーレンスルフィド、エチレン系重合体、特定の繊維状充填材及び非繊維状充填材を含むポリアリーレンスルフィド組成物とすることで、弾性率、機械的強度、耐ヒートサイクル性、流動性に優れる組成物となりうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が100~1000ポイズであるポリアリーレンスルフィド(A)20~50重量%、エチレン系重合体(B)1~5重量%、ASTM D2343に準拠し測定した引張弾性率が85~100GPaである繊維状充填材(C)30~60重量%及び非繊維状充填材(D)5~20重量%を含んでなることを特徴とするポリアリーレンスルフィド組成物に関するものである。
【0009】
以下に発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物を構成するポリアリーレンスルフィド(A)としては、得られるポリアリーレンスルフィド組成物が耐ヒートサイクル性、流動性に優れるものとなることから測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着する高化式フローテスターで測定した溶融粘度が100~1000ポイズのポリアリーレンスルフィドであり、特に150~500ポイズであるものが好ましい。
【0011】
ポリアリーレンスルフィド(A)としては、その構成単位としてp-フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましい。また、他の構成単位として、例えばm-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、アミノ基などの置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、等を含有していてもよく、その中でも、特に耐熱性、強度に優れることから、ポリ(p-フェニレンスルフィド)であることが好ましい。
【0012】
本発明を構成するポリアリーレンスルフィド(A)は、オリゴマー成分や塩化ナトリウムの除去が十分なものとなり、得られるポリアリーレンスルフィド組成物が特に耐ヒートサイクル性、流動性に優れるものとなることから、洗浄ポリアリーレンスルフィドであることが好ましく、そのようなポリアリーレンスルフィドは、ポリアリーレンスルフィドを製造する際に、重合後のポリアリーレンスルフィドを温度150℃以上240℃以下の水にて洗浄を行い製造することができる。
【0013】
ポリアリーレンスルフィドを製造する方法としては、特に制限はなく、ポリアリーレンスルフィドの製造方法として知られている方法により製造すればよく、例えば重合溶媒中で、アルカリ金属硫化物とポリハロゲン芳香族化合物とを反応する方法により製造することが可能である。
【0014】
ここで、重合溶媒としては、極性溶媒が好ましく、特に非プロトン性で高温のアルカリに対して安定な有機アミド溶媒が好ましい。該有機アミド溶媒としては、有機アミド溶媒の範疇に属するものであれば如何なるものも用いることが可能であり、例えばN,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチル-ε-カプロラクタム、N-エチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素及びその混合物、等を挙げることができ、その中でも特に高分子量で弾性率、耐ヒートサイクル性に優れるポリアリーレンスルフィドがより容易に得られることからN-メチル-2-ピロリドンが好ましい。
【0015】
また、ポリハロゲン芳香族化合物としては、ポリハロゲン芳香族化合物の範疇に属するものであれば如何なる化合物を用いることも可能であり、例えばp-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼン、m-ジブロモベンゼン、o-ジブロモベンゼン、p,p’-ジクロロジフェニル、p,p’-ジブロモジフェニル、2,6-ジクロロナフタレン、2,6-ジブロモナフタレン、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン等を挙げることができ、その中でも特に高分子量で弾性率、耐ヒートサイクル性に優れるポリアリーレンスルフィドがより容易に得られることからp-ジクロロベンゼンが好ましい。そして、さらに高分子量のポリアリーレンスルフィドとするために1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼンを併用することも可能である。アミノ基含有ポリハロゲン芳香族化合物としては、例えば、2,5-ジクロロアニリン、2,6-ジクロロアニリン、3,5-ジクロロアニリン、3,5-ジアミノクロロベンゼン、2-アミノ-4-クロロトルエン、2-アミノ-6-クロロトルエン、4-アミノ-2-クロロトルエン、3-クロロ-m-フェニレンジアミン、2,5-ジブロモアニリン、2,6-ジブロモアニリン、3,5-ジブロモアニリン、及びそれらの混合物等が挙げられ、特に3,5-ジクロロアニリン、3,5-ジアミノクロロベンゼンが好ましい。
【0016】
アルカリ金属硫化物としては、アルカリ金属硫化物の範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えば無水硫化ナトリウム,2.8水塩硫化ナトリウム,5水塩硫化ナトリウム等の硫化ナトリウム、硫化リチウム、硫化ルビジュウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素リチウム等を挙げることができ、その中でも特に高分子量で弾性率、耐ヒートサイクル性に優れるポリアリーレンスルフィドがより容易に得られることから硫化ナトリウム、硫化リチウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素リチウムが好ましい。そして、硫化水素ナトリウム、硫化水素リチウム等の硫化水素化物は、水酸化アルカリ金属塩と併用することにより硫化アルカリ金属塩とし用いることも可能である。
【0017】
本発明を構成するポリアリーレンスルフィド(A)は空気雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下150℃以上260℃以下の条件で熱処理を行ってもよく、その場合、特に170℃以上250℃以下で行う事が好ましい。該不活性ガスとしては、例えば窒素、アルゴン等があげられる。
【0018】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物を構成するポリアリーレンスルフィド(A)の配合量は、20~50重量%であり、特に弾性率、耐ヒートサイクル性、流動性に優れるポリアリーレンスルフィド組成物が得られることから25~45重量%であることが好ましい。ここで、ポリアリーレンスルフィドの配合量が20重量%未満である場合、得られる組成物は流動性、耐ヒートサイクル性に乏しいものとなる。一方、50重量%を超える場合、得られる組成物は、弾性率に劣るものとなる。
【0019】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物を構成するエチレン系重合体(B)は、ポリアリーレンスルフィド組成物の耐ヒートサイクル性を改良するものであり、エチレン単量体を重合してなるエチレン系重合体の範疇に属するものであればよく、中でも、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン系重合体からなる群より選択される少なくとも1種以上の変性エチレン系重合体であることが好ましい。
【0020】
該エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド組成物が耐ヒートサイクル性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位:無水マレイン酸残基単位(重量比)=50~98:40~1:10~1の範囲であることが好ましい。該エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体の具体的例示としては、(商品名)ボンダインLX4110(SK global chemical社製)、(商品名)ボンダインTX8030(SK global chemical社製)、(商品名)ボンダインAX8390(SK global chemical社製)等が挙げられる。
【0021】
該エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド組成物が耐ヒートサイクル性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位(重量比)=85~99:15~1の範囲であることが好ましい。該エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト2C(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファーストE(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0022】
該エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-酢酸ビニル共重合体としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド組成物が耐ヒートサクル性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位:酢酸ビニル残基単位(重量比)=50~98:15~1:35~1の範囲であることが好ましい。該エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-酢酸ビニル共重合体の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト2B(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファースト7B(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0023】
該エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド組成物が耐ヒートサイクル性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位:α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位(重量比)=50~98:10~1:40~1の範囲であることが好ましい。該エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト7L(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファースト7M(住友化学(株)製)、(商品名)LOTADER AX8700(SK global chemical社製)、(商品名)LOTADER AX8750(SK global chemical社製)等が挙げられる。
【0024】
該無水マレイン酸グラフト変性エチレン系重合体としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド組成物が耐ヒートサイクル性等に優れることから、エチレン残基単位:α-オレフィン残基単位:無水マレイン酸残基単位(重量比)=50~98:45~1:5~1の範囲からなるものであることが好ましく、具体的には無水マレイン酸グラフト変性直鎖状低密度ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレンゴム等が挙げられる。該無水マレイン酸グラフト変性エチレン-α-オレフィン共重合体は、例えばエチレン-α-オレフィン共重合体、過酸化物、無水マレイン酸を共存し、グラフト化反応を進行することにより入手することが可能である。α-オレフィンとは、炭素数が3以上のα-オレフィンを言い、例えばプロピレン、ブテン-1、4-メチル-ペンテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1等を例示できる。また、α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸等のアルキルエステルが挙げられ、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル等が挙げられる。α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステルとしては、例えばアクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステルが挙げられる。
【0025】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物を構成するエチレン系重合体(B)の配合量は、1~5重量%である。ここで、エチレン系重合体(B)の配合量が1重量%未満である場合、得られる組成物は耐ヒートサイクル性に劣るものとなる。一方、該エチレン系重合体(B)の配合量が5重量%を超える場合、得られる組成物は弾性率に劣るものとなる。
【0026】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物を構成する繊維状充填材(C)としては、得られるポリアリーレンスルフィド組成物が弾性率に優れるものとなることからASTM D2343に準じて測定した引張弾性率が85~100GPaのものであり、特に非繊維状充填材(D)との相乗効果により特に高い弾性率と成形性のバランスに優れ、高い機械的強度、電気絶縁性をも付与するものとなることから、ASTM D2343に準じて測定した引張弾性率が85~100GPaの高弾性ガラス繊維であることが好ましく、更に繊維径5~15μm、中でも繊維径5~15μm、繊維長1~10mmの高弾性ガラス繊維であることが好ましく、該高弾性ガラス繊維としては、例えば(商品名)TM-ガラス(CPIC社製、引張弾性率=90GPa、繊維径=10μm、繊維長=3mm)、(商品名)TM-IIガラス(CPIC社製、引張弾性率=98GPa、繊維径=10μm、繊維長=3mm)、(商品名)ChopVantage HP3730XMガラス(日本電気硝子株式会社製、引張弾性率=85GPa、繊維径=10μm、繊維長=3.2mm)、(商品名)Tガラス(日東紡績株式会社製、引張弾性率=86GPa、繊維径=10μm、繊維長=3mm)等を例示することができる。
【0027】
ここで、繊維状充填材(C)の引張弾性率が85GPa未満である場合、得られる組成物は弾性率に劣るものとなる。一方、繊維状充填材(C)の引張弾性率が100GPaを超える場合、繊維状充填材が脆くなり、得られるポリアリーレンスルフィド組成物は耐ヒートサイクル性、機械的特性に劣るものとなる。また、繊維状充填材(C)は必要によりエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物又はポリマーで、予め表面処理したものでもよい。
【0028】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、繊維状充填材(C)30~60重量%を含有するものであり、特に弾性率、耐ヒートサイクル性、流動性に優れるポリアリーレンスルフィド組成物が得られることから40~55重量%であることが好ましい。繊維状充填材(C)の配合量が30重量%未満である場合、得られる組成物は弾性率に劣るものとなる、一方、該繊維状充填材(C)の配合量が60重量%を越える場合、得られる組成物は、耐ヒートサイクル性、流動性に劣るものとなる。
【0029】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、非繊維状充填材(D)5~20重量%を含有するものであり、非繊維状充填材(D)としては、例えばワラストナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、パイロフィライト、タルク、アルミナシリケート等の珪酸塩;酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;窒化珪素、窒化硼素、窒化アルミニウム等の窒化物;ガラスフレーク、ガラスビーズ等を例示でき、その中でも、繊維状充填材(C)との相乗効果により特に高い弾性率と成形性のバランスに優れ、高い機械的強度をも付与するものとなることから、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、ガラスフレーク、ガラスビーズであることが好ましく、特に、ふるい分け法に準じて測定した平均粒子径(メジアン径)が0.3~20μmのものであることが好ましい。また、非繊維状充填材(D)は必要によりエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物又はポリマーで、予め表面処理したものでもよい。
【0030】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物を構成する非繊維状充填材(D)の配合量は、5~20重量%である。ここで、該非繊維状充填材の配合量が5重量%未満である場合、得られる組成物は弾性率に乏しいものとなる。一方、20重量%を超える場合、得られる組成物は、弾性率、流動性に劣るものとなる。
【0031】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、特に電気・電子部材用として優れた絶縁性を有するものとなることから、IEC60093に準拠した体積固有抵抗が1×1014Ω・m以上のものであることが好ましい。高体積固有抵抗は、上記した高弾性ガラス繊維を用いることにより容易に達成することが可能となる。
【0032】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、成形品とする際の金型離型性や外観を改良するために離型剤(E)を含有することが好ましい。該離型剤としては、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、脂肪酸アマイド系ワックスが好適に用いられる。該ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスとしては、一般的な市販品を用いることができる。また、該脂肪酸アマイド系ワックスとは、高級脂肪族モノカルボン酸、多塩基酸及びジアミンからなる重縮合物でありこの範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えばステアリン酸、セバシン酸、エチレンジアミンからなる重縮合物である、(商品名)ライトアマイドWH-255(共栄社化学(株)製)等を挙げることができる。
【0033】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、耐ヒートサイクル性をさらに向上することを目的としてイソシアヌレート(F)を含有することが好ましい。イソシアヌレート(F)としては、イソシアヌレートと称されるものであればよく、その中でもとりわけ、耐ヒートサイクル性に優れたポリアリーレンスルフィド組成物となることから脂肪族系イソシアヌレートであることが好ましく、該脂肪族系イソシアヌレートとしては、1,3,5-トリス(6-イソシアナトヘキサ-1-イル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス(6-イソシアナトテトラ-1-イル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス(6-イソシアナトドデカ-1-イル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンなどが挙げられ、特に耐ヒートサイクル性に優れ金型汚染性の低いバランスに優れるポリアリーレンスルフィド組成物となる事から分子量500以上の脂肪族系イソシアヌレートが好ましい。該脂肪族系イソシアヌレートは2量体や3量体などの多量体、ないしは脂肪族系イソシアヌレート単量体に2量体や3量体などの多量体を含むイソシアヌレートであってもよく、ポリアリーレンスルフィドやエチレン系共重合体との反応性に優れ、耐ヒートサイクル性に優れたポリアリーレンスルフィド組成物なることから、イソシアネート基20%以上含む脂肪族系イソシアヌレートである事が好ましい。また、該脂肪族系イソシアヌレートは、脂肪族系イソシアネートの一部を1,3-ブタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタジオールなどのアルコールで変性したものであっても構わない。該脂肪族系イソシアヌレートの中でもとりわけ、耐冷熱性に優れその入手が容易であることから1,3,5-トリス(6-イソシアナトヘキサ-1-イル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンである事が好ましい。1,3,5-トリス(6-イソシアナトヘキサ-1-イル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンの具体的例示としては(商品名)コロネートHXR(東ソー(株)製)、(商品名)デュラネートTPA-100(旭化成(株)製)等が挙げられる。
【0034】
また、本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、シランカップリング剤を含有しても良く、具体的な例として、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等があげられる。
【0035】
さらに、本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えばエポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等の1種以上を混合して使用することができる。
【0036】
また、本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、従来公知の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、発泡剤、金型腐食防止剤、難燃剤、難燃助剤、染料、顔料等の着色剤、帯電防止剤等の添加剤を1種以上併用しても良い。
【0037】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物の製造方法としては、従来使用されている加熱溶融混練方法を用いることができる。例えば単軸または二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダー等による加熱溶融混練方法が挙げられ、特に混練能力に優れた二軸押出機による溶融混練方法が好ましい。また、この際の混練温度は特に限定されるものではなく、通常280~400℃の中から任意に選ぶことが出来る。また、本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、射出成形機、押出成形機、トランスファー成形機、圧縮成形機等を用いて任意の形状に成形することができる。
【0038】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、電気絶縁性に優れるものであることが好ましく、また、自動車電装部品又は電気・電子部品などの用途に幅広く用いることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明は、ポリアリーレンスルフィドの本来有する耐熱性、耐薬品性などを損なうこともなく、弾性率、耐ヒートサイクル性、機械的強度、流動性に優れるポリアリーレンンスルフィド組成物に関するものであり、さらに詳しくは、自動車電装部品又は電気・電子部品などの用途に特に有用なポリアリーレンスルフィド組成物に関するものである。
【実施例
【0040】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの例になんら制限されものではない。
【0041】
実施例及び比較例において用いたポリアリーレンスルフィド、エチレン系重合体、繊維状充填剤、非繊維状充填材、離型剤、イソシアヌレートの詳細を以下に示す。
【0042】
<ポリアリーレンスルフィド(A)>
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(A-1)(以下、単にPPS(A-1)と記す。):溶融粘度150ポイズ。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(A-2)(以下、単にPPS(A-2)と記す。):溶融粘度250ポイズ。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(A-3)(以下、単にPPS(A-3)と記す。):溶融粘度480ポイズ。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(A-4)(以下、単にPPS(A-4)と記す。):溶融粘度800ポイズ。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(A-5)(以下、単にPPS(A-5)と記す。):溶融粘度80ポイズ。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(A-6)(以下、単にPPS(A-6)と記す。):溶融粘度1100ポイズ。
【0043】
<エチレン系重合体(B)>
エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体(B-1)(以下、単にエチレン系重合体(B-1)と記す。):SK global chemical社製、(商品名)ボンダインAX8390、エチレン残基単位:α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位:無水マレイン酸残基単位(重量比)=69.7:29:1.3。
エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(B-2)(以下、単にエチレン系重合体(B-2)と記す。):SK global chemical社製、(商品名)LOTADER AX8700、エチレン残基単位:α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位:α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位(重量比)=67:8:25。
エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸ブチルエステル共重合体(B-2)(以下、単にエチレン系重合体(B-3)と記す。):SK global chemical社製、(商品名)LOTADER AX8750、エチレン残基単位:α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位:α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位(重量比)=70:5:25。
【0044】
<繊維状充填剤(C)>
ガラス繊維(C-1);CPIC社製、(商品名)TM-ガラス;引張弾性率=90GPa、繊維径=10μm、繊維長=3.3mm。
ガラス繊維(C-2);CPIC社製、(商品名)TM-IIガラス;引張弾性率=98GPa、繊維径=10μm、繊維長=3mm。
ガラス繊維(C-3);日本電気硝子株式会社製、(商品名)ChopVantage HP3730XMガラス;引張弾性率=85GPa、繊維径=10μm、繊維長=3.2mm。
ガラス繊維(C-4):日本電気硝子株式会社製、(商品名)Eガラス、EOS03T-760H/PW;引張弾性率=75GPa、繊維径=10μm、繊維長=3mm。
炭素繊維(C-5):三菱ケミカル株式会社製、(商品名)ダイアリード K223SE;引張弾性率=185GPa、繊維径=11μm、繊維長=6mm。
【0045】
<非繊維状充填剤(D)>
炭酸カルシウム(D-1);白石工業(株)製、(商品名)ホワイトンP-30;平均粒子径(メジアン径)=4.3μm。
ガラスフレーク(D-2);日本板硝子(株)製、(商品名)REFG-101;平均粒子径(メジアン径)=1μm。
【0046】
<離型剤(E)>
離型剤(E-1);共栄社化学(株)製、(商品名)ライトアマイドWH-255。
【0047】
<イソシアヌレート(F)>
イソシアヌレート(F-1);東ソー(株)製、(商品名)コロネートHXR;イソシアネート含量21.8%、分子量504。
【0048】
合成例1
攪拌機を装備する50リットルオートクレーブに、2.9水塩硫化ナトリウム6214g及びN-メチル-2-ピロリドン、17000gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、1355gの水を留去した。この系を140℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン7530g、N-メチル-2-ピロリドン5000gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて2時間重合させた後、30分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて3時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、遠心分離器により固形分を単離した。該固形分を170℃の熱水で洗浄し100℃で一昼夜乾燥することにより、ポリ(p-フェニレンスルフィド)を得た。
【0049】
得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を、窒素雰囲気下250℃で3時間硬化を行い、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-1)と記す。)を得た。PPS(A-1)の溶融粘度は150ポイズであった。
【0050】
合成例2
p-ジクロロベンゼン7530gの代わりにp-ジクロロベンゼン7652を用いた以外は、合成例1と同様の重合方法により、ポリ(p-フェニレンスルフィド)を得た。得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を、空気雰囲気下250℃で2時間硬化を行い、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-2)と記す。)を得た。PPS(A-2)の溶融粘度は250ポイズであった。
【0051】
合成例3
p-ジクロロベンゼン7530gの代わりにp-ジクロロベンゼン7570を用いた以外は、合成例1と同様の重合方法により、ポリ(p-フェニレンスルフィド)を得た。得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を、空気囲気下250℃で3時間硬化を行い、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-3)と記す。)を得た。PPS(A-3)の溶融粘度は480ポイズであった。
【0052】
合成例4
p-ジクロロベンゼン7530gの代わりにp-ジクロロベンゼン7336を用いた以外は、合成例1と同様の重合方法により、ポリ(p-フェニレンスルフィド)を得た。得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を、空気雰囲気下250℃で3時間硬化を行い、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-4)と記す。)を得た。PPS(A-4)の溶融粘度は800ポイズであった。
【0053】
合成例5
p-ジクロロベンゼン7530gの代わりにp-ジクロロベンゼン7692を用いた以外は、合成例1と同様の重合方法により、ポリ(p-フェニレンスルフィド)を得た。得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を、窒素雰囲気下250℃で3時間硬化を行い、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-5)と記す。)を得た。PPS(A-5)の溶融粘度は80ポイズであった。
【0054】
合成例6
p-ジクロロベンゼン7530gの代わりにp-ジクロロベンゼン7261を用いた以外は、合成例1と同様の重合方法により、ポリ(p-フェニレンスルフィド)を得た。得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を、空気雰囲気下250℃で3時間硬化を行い、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-6)と記す。)を得た。PPS(A-6)の溶融粘度は1100ポイズであった。
【0055】
得られたポリアリーレンスルフィド、組成物の評価・測定方法を以下に示す。
【0056】
~溶融粘度測定~
直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスター((株)島津製作所製、(商品名)CFT-500)にて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で溶融粘度の測定を行った。
【0057】
~曲げ弾性率、曲げ強度の測定~
射出成形機(住友重機械工業(株)製、(商品名)SE-75S)によって試験片を作製し、1SO178に準拠し測定を行った。曲げ弾性率が20GPa以上のものを、曲げ弾性率に優れているとした。また、曲げ強度150MPa以上のものを、機械的特性に優れるものとした。
【0058】
~耐ヒートサイクル性~
射出成形機(住友重機械工業(株)製、(商品名)SE-75S)によって、30mm×20mm×10mmの直方体の鋼材(炭素鋼)をインサートするインサート成形を行い、肉厚1mmのポリアリーレンスルフィド組成物で被覆する耐ヒートサイクル用テストピースを作製した。得られたテストピースを150℃で30分保持した後、-40℃で30分保持を行うことを1サイクルとする冷熱サイクルに供し、目視によりクラックが発生するまで該サイクルを継続し、クラックの発生が認められた冷熱サイクル処理数を耐ヒートサイクル性として評価した。該冷熱サイクル処理数が50サイクル以上のものを耐ヒートサイクル性に優れると判断した。
【0059】
~流動性の評価~
得られたポリアリーレンスルフィド組成物をシリンダー温度310℃、金型温度140℃に調整した射出成形機(住友重機械工業(株)製、(商品名)SE-75S)を用い、肉厚1mmのスパイラルフロー金型に射出圧100MPaで射出成形した際の流動長から成型流動性を判定した。該流動長が100mm以上のものを流動性に優れるとした。
【0060】
~電気絶縁性の評価~
射出成形機(住友重機械工業(株)製、(商品名)SE-75S)によって試験片を作製し、IEC60093に準拠して体積固有抵抗の測定を行った。体積固有抵抗が1×1014Ω・m以上のものを、電気絶縁性に優れているとした。
【0061】
実施例1
PPS(A-1)64重量%、エチレン系重合体(B-1)6重量%、炭酸カルシウム(D-1)30重量%の割合で配合して、シリンダー温度320℃に加熱した二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、(商品名)TEX25αIII)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(C-1)を該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーに投入し、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、ダイより流出する溶融組成物を冷却後裁断し、ペレット状のポリアリーレンスルフィド組成物を作製した。その際のポリアリーレンスルフィド組成物の構成割合は,PPS(A-1)32重量%、エチレン系重合体(B-1)3重量%、ガラス繊維(C-1)50重量%、炭酸カルシウム(D-1)15重量%であった。
【0062】
該ポリアリーレンスルフィド組成物を、シリンダー温度310℃に加熱した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75)のホッパーに投入し、曲げ弾性率を測定するための試験片、耐ヒートサイクル性を測定するための試験片を測定するための試験片をそれぞれ成形し、それぞれの評価を行った。これらの結果を表1に示した。
【0063】
得られたポリアリーレンスルフィド組成物は、曲げ弾性率、機械的強度、耐ヒートサイクル性、流動性、電気絶縁性に優れていた。
【0064】
実施例2~15
ポリアリーレンスルフィド(A-1~A-4)、エチレン系重合体(B-1~B-3)、ガラス繊維(C-1~C-3)、非繊維状充填材(D-1~D-2)、離型剤(E-1)、イソシアヌレート(F-1)を表1~2に示す配合割合とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド組成物を作製し、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表1~2に示した。
【0065】
得られた全てのポリアリーレンスルフィド組成物は、機械的強度、曲げ弾性率、耐ヒートサイクル性、流動性、電気絶縁性に優れていた。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
比較例1~11
ポリアリーレンスルフィド(A-1、A-5、A-6)、エチレン系重合体(B-1~B-2)、ガラス繊維(C-1、C-4)、炭素繊維(C-5)、炭酸カルシウム(D-1)を表3に示す配合割合とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド組成物を作製し、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表3に示した。
【0069】
比較例1、3、5、6、7、8、10より得られた組成物は、曲げ弾性率が劣るものであった。比較例2、4、6、7、8より得られた組成物は、耐ヒートサイクル性が劣るものであった。比較例1、4、6、9より得られた組成物は、流動性が劣るものであった。比較例11より得られた組成物は、機械的強度、電気絶縁性に劣るものであった。
【0070】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などを損なうこともなく、弾性率、機械的特性、耐ヒートサイクル性、流動性の高いものであり、自動車電装部品又は電気・電子部品又などの用途に特に有用なものである。