(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ビスフェノールの製造方法および再生ポリカーボネート樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 37/52 20060101AFI20240723BHJP
C07C 39/16 20060101ALI20240723BHJP
C08G 64/04 20060101ALI20240723BHJP
C08J 11/24 20060101ALI20240723BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
C07C37/52
C07C39/16
C08G64/04
C08J11/24
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020185721
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】内山 馨
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-110555(JP,A)
【文献】特開平6-056985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08G 64/
C08J 11/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ハロゲン系有機溶媒、水および触媒の存在下で、ポリカーボネート樹脂を分解するビスフェノールの製造方法であって、
分解槽に、前記非ハロゲン系有機溶媒、前記水、前記触媒および前記ポリカーボネート樹脂を供給し、スラリー状の反応液を調製する反応液調製工程と、
前記スラリー状の反応液中で前記ポリカーボネート樹脂を分解するポリカーボネート樹脂分解工程と、を有し、
前記非ハロゲン系有機溶媒が、芳香族モノアルコールを含み、
前記反応液調製工程において、前記ポリカーボネート樹脂を前記非ハロゲン系有機溶媒
及び前記水よりも後に
前記分解槽に供給するビスフェノールの製造方法。
【請求項2】
前記反応液調製工程を、10℃以上40℃以下で行う請求項
1に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂分解工程を、50℃以上100℃以下の反応温度で行う請求項1
または2に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項4】
前記反応液調製工程後に、前記反応温度まで昇温し、前記反応温度にて前記ポリカーボネート樹脂分解工程を行う請求項
3に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項5】
前記反応液調製工程において、前記分解槽に前記非ハロゲン系有機溶媒を供給した後、前記ポリカーボネート樹脂を供給し、次いで、前記触媒を供給する請求項1から
4のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項6】
前記反応液調製工程において、前記分解槽に前記非ハロゲン系有機溶媒を供給した後、前記触媒を供給し、次いで、前記ポリカーボネート樹脂を供給する請求項1から
4のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項7】
前記触媒が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、酸及びアルキルアミンからなる群から選択されるいずれかである、請求項1から
6のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法により得られたビスフェノールを含むビスフェノール原料を用いて、再生ポリカーボネート樹脂を製造する工程を有する、再生ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノールの製造方法に関する。詳しくは、ポリカーボネート樹脂の分解を利用したビスフェノールの製造方法に関する。更に、前記ビスフェノールの製造方法で得られるビスフェノールを用いた再生ポリカーボネート樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは手軽で耐久性に富み、安価であることから我が国のみならず世界中で大量に生産されている。そのプラスチックの多くは「使い捨て」として用いられるため、適切に処理されず、環境中に流出するものもある。具体的には、プラスチックごみが河川から海へと流れ込み、その過程で波や紫外線で劣化して5mm以下となる。このような小さなプラスチックゴミは、マイクロプラスチックと呼ばれる。このマイクロプラスチックを、動物や魚が誤飲する。このように、プラスチックゴミは生態系に甚大な影響を与え、近年、海洋プラスチック問題として世界中で問題視されている。透明性、機械物性、難燃性、寸法安定性、電気特性により、幅広い分野で用いられるポリカーボネート樹脂も例外ではない。
【0003】
ポリカーボネート樹脂のリサイクル方法の1つとして、ポリカーボネート樹脂を化学的に分解しビスフェノールまで戻して再利用するケミカルリサイクルが知られている。ポリカーボネート樹脂のケミカルリサイクルは、海洋プラスチック問題の解決手段の1つとして重要である。例えば、特許文献1には、ポリカーボネート樹脂を塩素化炭化水素溶媒に溶解し、アルカリ金属水酸化物を加えて、加水分解する方法が開示されている。特許文献1の実施例1によれば、40℃に加温し、溶媒として塩化メチレンでポリカーボネート樹脂を完全に溶解してから、ポリカーボネート樹脂を加水分解している。また、特許文献2には、ポリカーボネート樹脂を有機溶媒に溶かし、アミノリシスする方法も開示されている。特許文献2の実施例1によれば、三角フラスコにポリカーボネート樹脂を入れた後、トルエンとエチルアミン水溶液を入れて、アミノリシスさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2006/114893号
【文献】特開2001-302573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、塩化メチレンなどの塩素化炭化水素溶媒を用いる必要があるが、塩素化炭化水素溶媒は、化学的に安定なため、難燃性化合物である。そのため、適切に高温での廃棄処理をしなければ、ダイオキシンを発生するという問題がある。また、特許文献2の方法は、ポリカーボネート樹脂に対して、トルエンの量やアミン水溶液の量が少ないと、ポリカーボネート樹脂が白化して有機溶媒に不溶化、又は壁に付着して混合できずに不溶化して、ポリカーボネート樹脂の分解が進みにくくなるため、ある程度の量で反応させる必要があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、環境負荷が小さく、反応液の調製時や分解反応時の混合不良を抑え、効率的にポリカーボネート樹脂を分解することのできるケミカルリサイクル方法を利用することによって、ビスフェノールを効率良く製造する方法を提供することを目的とする。更に、得られた前記ビスフェノールを用いた再生ポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、環境負荷が小さい有機溶媒を分解槽に供給した後に、ポリカーボネート樹脂を分割供給する方法を見出した。また、前記ポリカーボネート樹脂の分解方法を用い、ビスフェノールを効率良く製造する方法を見出した。更に、得られた前記ビスフェノールを用いた再生ポリカーボネート樹脂の製造方法を提供する
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 非ハロゲン系有機溶媒、水および触媒の存在下で、ポリカーボネート樹脂を分解するビスフェノールの製造方法であって、分解槽に、前記非ハロゲン系有機溶媒、前記水、前記触媒および前記ポリカーボネート樹脂を供給し、スラリー状の反応液を調製する反応液調製工程と、前記スラリー状の反応液中で前記ポリカーボネート樹脂を分解するポリカーボネート樹脂分解工程と、を有し、前記反応液調製工程において、前記ポリカーボネート樹脂を前記非ハロゲン系有機溶媒よりも後に供給するビスフェノールの製造方法。
<2> 前記非ハロゲン系有機溶媒が、芳香族モノアルコールを含む前記<1>に記載のビスフェノールの製造方法。
<3> 前記反応液調製工程を、10℃以上40℃以下で行う前記<1>または<2>に記載のビスフェノールの製造方法。
<4> 前記ポリカーボネート樹脂分解工程を、50℃以上100℃以下の反応温度で行う前記<1>から<3>のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
<5> 前記反応液調製工程後に、前記反応温度まで昇温し、前記反応温度にて前記ポリカーボネート樹脂分解工程を行う前記<4>に記載のビスフェノールの製造方法。
<6> 前記反応液調製工程において、前記分解槽に前記非ハロゲン系有機溶媒を供給した後、前記ポリカーボネート樹脂を供給し、次いで、前記触媒を供給する前記<1>から<5>のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
<7> 前記反応液調製工程において、前記分解槽に前記非ハロゲン系有機溶媒を供給した後、前記触媒を供給し、次いで、前記ポリカーボネート樹脂を供給する前記<1>から<5>のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
<8> 前記分解槽に、前記非ハロゲン系有機溶媒と前記水とを共に供給する前記<1>から<7>のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
<9> 前記触媒が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、酸及びアルキルアミンからなる群から選択されるいずれかである、前記<1>から<8>のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
<10> 前記<1>から<9>のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法により得られたビスフェノールを含むビスフェノール原料を用いて、再生ポリカーボネート樹脂を製造する工程を有する、再生ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境負荷が小さく、反応液の調製時や分解反応時の混合不良を抑え、効率的にポリカーボネート樹脂を分解し、ビスフェノールを効率良く製造することのできるビスフェノールの製造方法が提供される。更に、得られた前記ビスフェノールを用いた再生ポリカーボネート樹脂の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施の態様の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0011】
本発明は、非ハロゲン系有機溶媒、水および触媒の存在下で、ポリカーボネート樹脂を分解するビスフェノールの製造方法であって、分解槽に、前記非ハロゲン系有機溶媒、前記水、前記触媒および前記ポリカーボネート樹脂を供給し、スラリー状の反応液を調製する反応液調製工程と、前記スラリー状の反応液中で前記ポリカーボネート樹脂を分解するポリカーボネート樹脂分解工程と、を有し、前記反応液調製工程において、前記ポリカーボネート樹脂を前記非ハロゲン系有機溶媒よりも後に供給するビスフェノールの製造方法(以下、「本発明のビスフェノールの製造方法」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0012】
本発明の特徴のひとつは、分解槽に非ハロゲン系有機溶媒を供給した後、ポリカーボネート樹脂を供給して反応液を調製することである。このようにすることで、非ハロゲン系有機溶媒とポリカーボネート樹脂とが接触しやすくなり、反応液中のポリカーボネート樹脂の割合を増やしても、不溶化や分解槽への付着を抑制でき、反応液調製時や分解反応時の混合性(撹拌性)が向上する。また、反応液をスラリー状とし、反応液中に固形物を存在させることで、反応の制御がしやすく、水の溶解度が低い非ハロゲン系有機溶媒を用いた場合であっても、油水の反応液の油水混合を促進させることができる。
【0013】
<反応液調製工程>
反応液調製工程は、分解槽に、前記非ハロゲン系有機溶媒、前記水、前記触媒および前記ポリカーボネート樹脂を供給し、スラリー状の反応液を調製する工程であり、前記ポリカーボネート樹脂を前記非ハロゲン系有機溶媒よりも後に供給することを必須とする工程である。
【0014】
(ポリカーボネート樹脂)
本発明のビスフェノールの製造方法で用いられるポリカーボネート樹脂は、カーボネート結合(-O-C(=O)-O-)を含む重合組成物を含むものである。具体的には、本発明のビスフェノールの製造方法で用いられるポリカーボネート樹脂は、一般式(1)で示される、ビスフェノールに由来する構成単位を含むポリマーを含むものである。
【0015】
【0016】
R1~R4の置換基としては、それぞれに独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などが挙げられる。例えば、水素原子、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0017】
R5とR6の置換基としては、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などが挙げられる。例えば、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルへキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0018】
R5とR6は、2つの基の間で互いに結合又は架橋していても良い。例えば、シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、シクロオクチリデン、シクロノニリデン、シクロデシリデン、シクロウンデシリデン、シクロドデシリデン、フルオレニリデン、キサントニリデン、チオキサントニリデンなどが挙げられる。
【0019】
また、ポリカーボネート樹脂は、一般に単にポリカーボネートと呼ばれることもある、ポリカーボネート樹脂単独のものだけでなく、共重合体やポリマーアロイのようにポリカーボネート樹脂以外の樹脂を含む組成物を用いてもよい。ポリカーボネート樹脂以外の樹脂を含む組成物としては、例えば、ポリカーボネート/ポリエステル共重合体、ポリカーボネート/ポリエステルアロイ、ポリカーボネート/ポリアリレート共重合体、ポリカーボネート/ポリアリレートアロイ等が挙げられる。ポリカーボネート樹脂以外の樹脂を含む組成物を用いる場合、ポリカーボネート樹脂が主成分である(組成物中にポリカーボネート樹脂を50質量%以上含む)ものが好適である。
また、ポリカーボネート樹脂は、2種類以上の異なるポリカーボネート樹脂を混合して用いてよい。
【0020】
ケミカルリサイクルの観点から、ポリカーボネート樹脂は、廃プラスチックに含まれるポリカーボネート樹脂が好ましい。ポリカーボネート樹脂は、ヘッドランプなどの光学部材や、光学ディスクなどの光学記録媒体などの各種成形品に成形加工されて用いられている。ポリカーボネート樹脂を含む廃プラスチックとして、これらの成形品にポリカーボネート樹脂を成形加工する際の端材や不良品、使用済みの成形品などを用いることができる。
【0021】
廃プラスチックは、適宜、洗浄、破砕、粉砕などをして用いてよい。廃プラスチックの破砕の方法としては、ジョークラッシャや旋回式クラッシャを用いて20cm以下に破砕する粗砕、旋回式クラッシャやコーンクラッシャ、ミルを用いて1cm以下まで破砕する中砕、ミルを用いて1mm以下まで破砕する粉砕等であり、分解槽に供給出来る大きさまで小さくできれば良い。また、廃プラスチックがCDやDVDのように薄いプラスチックの場合、シュレッダー等を用いて裁断し、分解槽に供給することができる。また、共重合体やポリマーアロイの他の樹脂、光学ディスクの表面や裏面の層のようにポリカーボネート樹脂以外の成分で形成される部分はあらかじめ除去して用いてよい。
【0022】
(非ハロゲン系有機溶媒)
本発明のビスフェノールの製造方法では、非ハロゲン系有機溶媒が用いられる。塩化メチレン等のハロゲン系有機溶媒は、ポリカーボネート樹脂の溶解度が大きいものが多いためスラリー状の反応液を調製しにくく、また、環境負荷も大きい。非ハロゲン系有機溶媒を用いることで、スラリー状の反応液を調製しやすく、環境負荷も小さくすることができる。
【0023】
非ハロゲン系有機溶媒とは、ハロゲン原子を分子構造中に有さない有機溶媒である。好ましくは、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、イソプピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の脂肪族アルコール;フェノール、クレゾール、キシレノール等の芳香族モノアルコール;ピリジン等のアミン;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ビフェニルエーテル等のエーテル;シクロペンタノン、シクロヘキサノン、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノン等のケトン;酢酸等のカルボン酸である。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合した混合溶媒として用いてもよい。
非ハロゲン系有機溶媒は、芳香族炭化水素、芳香族モノアルコール、アミン、及びケトンからなる群から選択される1以上が好ましい。
【0024】
中でも、非ハロゲン系有機溶媒は、芳香族モノアルコールを含むことがより好ましい。触媒の存在下、芳香族モノアルコールと水を併用することで、水の沸点程度(常圧、100℃程度)の温和な条件であっても、ポリカーボネート樹脂を、ビスフェノールと二酸化炭素に、又は、ビスフェノールの塩と炭酸の金属塩に分解できる。また、ハロゲン系有機溶媒のようなポリカーボネート樹脂の溶解性が高い溶媒を用いてポリカーボネート樹脂を完全に溶解させなくても、芳香族モノアルコールと水を併用することで、ポリカーボネート樹脂の分解反応が高い反応率で生じさせることができる。ポリカーボネート樹脂の分解により生成される二酸化炭素及び炭酸の金属塩は系外に除去することが容易であり、ビスフェノールの回収、精製も容易になる。これは、芳香族モノアルコールと水を併用することで、芳香族モノアルコールによる加溶媒分解(例えば、フェノリシス)と加水分解の反応が系内で起こり、全体の分解速度が向上するためと考えられる。また、ポリカーボネート樹脂が芳香族モノアルコールと反応し生じるジアリールカルボキシレートが加水分解されることで二酸化炭素となり系外に排出しやすくなるため精製も容易になると考えられる。
【0025】
非ハロゲン系有機溶媒が芳香族モノアルコールを含むとき、非ハロゲン系有機溶媒中の芳香族モノアルコールの量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上の順で数値が大きいほどより好ましい。
【0026】
ポリカーボネート樹脂に対する非ハロゲン系有機溶媒の質量比(非ハロゲン系有機溶媒の質量/ポリカーボネート樹脂の質量)は、非ハロゲン系有機溶媒の種類等にもよるが、小さいと、ポリカーボネート樹脂同士が密着したり、分解槽の壁にくっ付いたり、分解不可になりやすく、液に対する固体(ポリカーボネート樹脂)の量が多くなってスラリー濃度が高くなり、混合性改善の効果が低いものとなる。そのため、該質量比は、好ましくは1.5以上であり、より好ましくは2.0以上である。また、該質量比が大きいとビスフェノールの製造効率が悪化する傾向にある。また、本発明のビスフェノールの製造方法では、該質量比を大きくしなくても、反応液の調製時の混合不良を抑制できる。そのため、該質量比は、15以下が好ましく、10以下、5以下、4.5以下、4以下の順で数値の小さいほどより好ましい。
【0027】
(水)
本発明のビスフェノールの製造方法では、水が用いられる。ポリカーボネート樹脂に対する水の質量比(水の質量/ポリカーボネート樹脂の質量)は、小さいと分解速度が低下するため、分解時間が長時間化して、効率が悪化する傾向にある。そのため、該質量比は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上である。また、該質量比が大きいと、ビスフェノールと二酸化炭素の製造効率が低下する傾向にある。そのため、該質量比は、好ましくは100以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは50以下である。
【0028】
ポリカーボネート樹脂に対する、非ハロゲン系有機溶媒および水の合計の質量比((非ハロゲン系有機溶媒および水の合計質量)/ポリカーボネート樹脂の質量)は、大きいと分解効率が悪くなるため、100以下が好ましく、70以下がより好ましい。また、該質量比が小さいと分解時にポリカーボネート樹脂同士がくっついてダマ化したり、壁に付着したり、白化して分解が進行しにくくなるため、1.6以上が好ましく、2.0以上がより好ましい。
【0029】
また、非ハロゲン系有機溶媒に対する水の質量比(水の質量/非ハロゲン系有機溶媒の質量)は、0.001以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。また、該質量比は、20以下が好ましく、15以下がより好ましい。該質量比は、10以下や、5以下、1以下、0.5以下、0.2以下などであってもよい。非ハロゲン系有機溶媒に対する水の質量比が小さいと分解速度が低下して分解時間が長時間化する傾向にあり、該質量比が大きいと反応液の容積が大きくなり非効率になる。
【0030】
(触媒)
本発明のビスフェノールの製造方法で用いられる触媒としては、ポリカーボネート樹脂の分解を促進できるものであれば良い。触媒としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、酸、アルキルアミン等が挙げられる。好ましくは、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩又はアルキルアミンである。更に好ましくは、アルキルアミンである。
【0031】
[アルカリ金属水酸化物]
アルカリ金属水酸化物は、アルカリ金属イオン(M+)と水酸化物イオン(OH-)との塩であり、MOH(Mはアルカリ金属原子を表す)で表される化合物である。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが好ましい。
【0032】
ポリカーボネート樹脂に対するアルカリ金属水酸化物の質量比(アルカリ金属水酸化物の質量/ポリカーボネート樹脂の質量)は、小さいと分解速度が遅くなり、分解時間が長時間化して、効率が悪化する傾向にある。そのため、該質量比は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.5以上である。また、該質量比が大きいと、分解後の中和に要する酸の量が増加して、ビスフェノールと二酸化炭素の製造効率が低下する傾向にある。そのため、該質量比は、好ましくは50以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは10以下である。例えば、該質量比は、8以下や、5以下、3以下などであってもよい。
【0033】
[アルカリ金属炭酸塩]
アルカリ金属炭酸塩は、アルカリ金属イオン(M+)と炭酸イオン(CO3
2-)との塩であり、M2CO3(Mはアルカリ金属原子を表す)で表される化合物である。アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムが好ましい。
【0034】
ポリカーボネート樹脂に対するアルカリ金属炭酸塩の質量比(アルカリ金属炭酸塩の質量/ポリカーボネート樹脂の質量)は、小さいと分解速度が遅くなり、分解時間が長時間化して、効率が悪化する傾向にある。そのため、該質量比は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.5以上である。また、該質量比が大きいと、分解後の中和に要する酸の量が増加して、ビスフェノールと二酸化炭素の製造効率が低下する傾向にある。そのため、該質量比は、好ましくは50以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは10以下である。例えば、該質量比は、5以下や、1以下、0.5以下などであってもよい。
【0035】
[アルキルアミン]
アルキルアミンは、アンモニアの少なくとも1つの水素原子がアルキル基で置換された化合物である。アルキルアミンの中でも1級アミンであるモノアルキルアミンはポリカーボネート樹脂のカーボネート結合部分と反応してイソシアネートを生成するので、より好ましくは2級アミンであるジアルキルアミン及び3級アミンであるトリアルキルアミンである。
2級アミンであるジアルキルアミンはポリカーボネート樹脂のカーボネート結合部分と反応してテトラアルキル尿素を生成するので、更に好ましくは3級アミンであるトリアルキルアミンである。
【0036】
アルキルアミンは、200℃以下の沸点のものが好ましく、160℃以下の沸点のものがより好ましい。このような沸点であれば、減圧加熱により除去することができる。また、沸点が低すぎると、分解反応中にアルキルアミンが揮発し分解速度が低下する場合があるため、アルキルアミンの沸点は、10℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましい。
【0037】
アルキルアミンは、一般式(I)で示されるものであることが好ましい。
【0038】
【0039】
式(I)中、RAは、炭素数1~3のアルキル基を表し、RB~RCは、それぞれに独立に水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。
RAは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基であり、RB~RCは、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基が好ましい。
【0040】
一般式(I)で示されるアルキルアミンの具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0041】
ポリカーボネート樹脂に対するアルキルアミンの質量比(アルキルアミンの質量/ポリカーボネート樹脂の質量)は、小さいと分解速度が低下するため、分解時間が長時間化して、効率が悪化する傾向にある。そのため、該質量比は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上である。また、該質量比が大きいと、過剰のアルキルアミンが二酸化炭素を生成する反応を阻害するので、該質量比は、好ましくは50以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは10以下である。例えば、該質量比は、5以下や、1以下、0.5以下などであってもよい。
【0042】
[酸]
酸としては、塩酸や硫酸、リン酸などの無機酸、および、カルボン酸やスルホン酸などの有機酸が挙げられる。
酸は、塩酸、硫酸、リン酸及びスルホン酸からなる群から選択されるいずれかが好ましい。スルホン酸としては、メタンスルホン酸などのアルキルスルホン酸、トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸などが挙げられる。
【0043】
ポリカーボネート樹脂に対する酸の質量比(酸の質量/ポリカーボネート樹脂の質量)は、小さいと分解速度が低下するため、分解時間が長時間化して、効率が悪化する傾向にある。そのため、該質量比は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上である。また、該質量比が大きいと、中和に要する塩基の量が多くなる傾向にある。そのため、該質量比は、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下である。
【0044】
(反応液の調製)
分解槽への非ハロゲン系有機溶媒、水、触媒およびポリカーボネート樹脂の供給順は、分解槽に非ハロゲン系有機溶媒が供給された後にポリカーボネート樹脂が供給されれば、水および触媒の供給の順番は特に限定されなくてもよい。分解槽にポリカーボネート樹脂を供給した後に水を供給してもよいし、分解槽に非ハロゲン系有機溶媒を供給した後に水を供給し、次いで、ポリカーボネート樹脂を供給してもよい。また、分解槽にポリカーボネート樹脂を供給した後に触媒を供給してもよいし、分解槽に非ハロゲン系有機溶媒を供給した後に触媒を供給し、次いで、ポリカーボネート樹脂を供給してもよい。また、水は、分解槽に非ハロゲン系有機溶媒と一緒に供給してもよいし、触媒は、分解槽に非ハロゲン系有機溶媒や水と一緒に供給してもよい。
【0045】
(スラリー状の反応液)
調製される反応液は、非ハロゲン系有機溶媒、水、触媒およびポリカーボネート樹脂を含み、ポリカーボネート樹脂が完全には溶解していないスラリー状である。
【0046】
反応液の調製は、10℃以上で行うことが好ましく、20℃以上で行うことがより好ましい。また、反応液の調製は、40℃以下で行うことが好ましく、35℃以下で行うことがより好ましい。反応液調製時の温度が低すぎると非ハロゲン系有機溶媒の種類によっては固化しやすくなり、混合不良が生じやすくなったり、均一に混合することが困難になる場合がある。また、反応液の調製時の温度が高すぎると、触媒の種類によっては揮発しやすく、所定濃度に調製することが困難である。
【0047】
<ポリカーボネート樹脂分解工程>
ポリカーボネート樹脂分解工程は、スラリー状の反応液中でポリカーボネート樹脂を分解する工程である。
【0048】
(反応温度)
分解反応は、反応液の調製時の温度と同じ温度で行ってもよいが、所定の反応温度までスラリー状が維持するように昇温して行うことが好ましい。反応液の調製時の温度が高すぎると分解反応が暴走するおそれがある。反応液を調製後に昇温して分解反応を行うことで、分解反応を安定に進行させることができるため好ましい。
【0049】
反応温度は、非ハロゲン系有機溶媒の種類や反応時間等に応じて適宜選択されるものであるが、高温の場合、反応液中の水が蒸発してしまい、加水分解が停止する。また、低温の場合は、非ハロゲン系有機溶媒の種類によっては反応液が固化したり、加水分解の反応速度が低下し、分解に要する時間が長時間化する傾向にある。これらのことから、反応温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上である。また、好ましくは110℃以下、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは95℃以下である。
なお、反応液の調製時と同じ温度で反応を行う場合、反応温度は、芳香族モノアルコール、ポリカーボネート樹脂、水及び触媒の供給が完了した時点から、分解反応を停止させるための中和や留去の操作を始める時点までの平均の温度である。また、反応液調製後に昇温を行い、反応を行う場合は、所定の温度に到達した時点から、分解反応を停止させるための中和や留去の操作を始める時点までの平均の温度である。
【0050】
(反応時間)
分解反応の反応時間は、長い場合、生成したビスフェノールが分解する傾向にある。そのため、好ましくは30時間以内、より好ましくは25時間以内、更に好ましくは20時間以内である。また、反応時間は短い場合、分解反応が十分に進行しない場合があるため、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.5時間以上、更に好ましくは1時間以上である。
なお、反応時間は、芳香族モノアルコール、ポリカーボネート樹脂、水及び触媒の供給が完了した時点から、分解反応を停止させるための中和や留去の操作を始める時点までの時間である。反応時間の終点は、液体クロマトグラフィーなどで分解反応を追跡して決定してもよい。
【0051】
分解反応は、常圧下で行っても加圧下で行ってもよいが、常圧下でも十分に反応は進行するため、常圧下で行うことが好ましい。
【0052】
<ポリカーボネート樹脂の分解反応の停止方法>
ポリカーボネート樹脂の分解反応の停止方法は、用いる触媒の種類によって、適宜選択される。触媒として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩又は酸触媒が使用される場合は、中和などにより分解反応を停止することができる。また、触媒として、アルキルアミンが使用される場合は、アルキルアミンを留去や中和することにより、分解反応を停止することができる。酸を供給して中和によりアルキルアミンを除去する方法では、アンモニウム塩が発生し、その除去も必要となることから、アルキルアミンの除去は、好ましくは留去する方法である。
【0053】
<ビスフェノールの回収・精製方法>
得られたビスフェノールの回収・精製は、常法により行うことが出来る。例えば、晶析やカラムクロマトグラフィーなどの簡便な手段により単離・精製することが可能である。具体的には、分解反応後、触媒及び溶媒の除去や有機溶媒の混合を行い、得られた有機相を水又は食塩水などで洗浄し、必要に応じて塩化アンモニウム水などで中和洗浄する。次いで、洗浄後の有機相を冷却し晶析させる。
【0054】
有機溶媒としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等の脂肪族炭化水素、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノール、エチレングリコール、ジエチレングルコール、トリエチレングリコール等の脂肪族アルコールなどを用いることができる。
【0055】
なお、該晶析前に蒸留により余剰の芳香族モノアルコールや有機溶媒を留去してから晶析させてもよい。また、ビスフェノールAは、フェノールの存在下で晶析すると、フェノールと共結晶を形成する。非ハロゲン系有機溶媒としてフェノールを用いてビスフェノールAに由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂を分解させた場合、共結晶としないためには、晶析前にフェノールを留去する必要がある。
【0056】
以下、フェノールを含む非ハロゲン系有機溶媒を用いて、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)に由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂からビスフェノールAを製造する、ビスフェノールの製造方法(A)~(C)を例として、本発明のビスフェノールの製造方法をより具体的に説明する。
【0057】
<ビスフェノールの製造方法(A)>
ビスフェノールの製造方法(A)は、フェノールを含む非ハロゲン系有機溶媒、水、アルカリ金属水酸化物、および、ビスフェノールAに由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂を含むスラリー状の反応液を調製する反応液調製工程(A1)と、ポリカーボネート樹脂を分解するポリカーボネート樹脂分解工程(A2)と、工程(A2)後の反応液を中和し、ビスフェノールAが溶解した有機相を得る中和工程(A3)と、工程(A3)で得られた有機相を減圧加熱した後、晶析によりビスフェノールAを回収するビスフェノールA回収工程(A4)を有する。
【0058】
反応液調製工程(A1)では、分解槽に、フェノールを含む非ハロゲン系有機溶媒、水、アルカリ金属水酸化物およびビスフェノールAに由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂を供給して、スラリー状の反応液を調製する。このとき、水およびアルカリ金属水酸化物の供給順は特に限定されないが、ビスフェノールAに由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂は、フェノールを含む非ハロゲン系有機溶媒を供給した後に分解槽に供給する。
【0059】
ポリカーボネート樹脂分解工程(A2)では、スラリー状の反応液中で、ポリカーボネート樹脂を分解させる。分解反応は、以下に示す反応式(2)に従って行われ、工程(A2)で得られる分解生成物は、ビスフェノールのアルカリ金属塩とアルカリ金属炭酸塩である。
【0060】
【0061】
中和工程(A3)では、ビスフェノールAのアルカリ金属塩からビスフェノールA、アルカリ金属炭酸塩から二酸化炭素を生成させるために、工程(A2)の後の反応液を中和し、ビスフェノールAが溶解した有機相を得る。
中和は反応液に酸を混合することで行われる。用いられる酸としては、塩酸、硫酸、リン酸などが挙げられる。酸の混合による中和は、反応液のpHが7よりも小さくなるようしても、7よりも大きくなるようにしてもよいが、pHが7よりも小さくなると、単離されるビスフェノールAの品質が低下するおそれがあるそのため、酸の混合は、反応液のpHが7よりも大きいところ(例えば、pH7.5以上やpH8.0以上)が終点となるように行うことが好ましい。一方で、反応液のpHが高すぎるとすると、ビスフェノールおよび二酸化炭素が生成しにくいため、pH10以下となるように酸の混合は行われ、pH9.5以下とすることが好ましい。
【0062】
さらに、反応液と酸の混合液を静置することで、生成したビスフェノールAが溶解した有機相と、アルカリ金属水酸化物等(アルカリ金属水酸化物や、中和のために加えた酸、中和により生じた塩)が溶解した水相とに油水分離させることができるので、水相を除去すれば金属水酸化物等を除去できる。
【0063】
また、酸を混合する前又は後に、芳香族炭化水素などの有機溶媒を混合してもよい。反応液に酸及び有機溶媒を混合し中和を行った後、油水分離させ、水相を除去することで、ビスフェノールAが溶解した有機相が得られる。有機溶媒を混合することで、油水分離させやすくなるため、アルカリ金属水酸化物等が溶解した水相の除去がより容易になる。
【0064】
ビスフェノールA回収工程(A4)では、中和工程(A3)で得られた有機相を減圧加熱した後、晶析によりビスフェノールAを回収する。ビスフェノールAは、晶析時にフェノールが存在する場合、フェノールと共結晶を形成し、析出するため、ビスフェノールAを得るために、工程(A4)では晶析前にフェノールを除去する。
具体的には、工程(A3)で得られる有機相を減圧加熱して、フェノールなどの液体成分を留去する。次いで、芳香族炭化水素などの晶析溶媒を加えて、ビスフェノールAが溶解した晶析用溶液を調製した後、これを冷却してビスフェノールAを析出させる。析出したビスフェノールAを、固液分離により回収する。
【0065】
<ビスフェノールの製造方法(B)>
ビスフェノールの製造方法(B)は、フェノールを含む非ハロゲン系有機溶媒、水、アルキルアミン、および、ビスフェノールAに由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂を含むスラリー状の反応液を調製する反応液調製工程(B1)と、ポリカーボネート樹脂を分解するポリカーボネート樹脂分解工程(B2)と、工程(B2)後の反応液を減圧加熱した後、晶析によりビスフェノールAを回収するビスフェノールA回収工程(B3)を有する。
【0066】
反応液調製工程(B1)では、分解槽に、フェノールを含む非ハロゲン系有機溶媒、水、アルキルアミンおよびビスフェノールAに由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂を供給して、スラリー状の反応液を調製する。このとき、水およびアルキルアミンの供給順は特に限定されないが、ビスフェノールAに由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂は、フェノールを含む非ハロゲン系有機溶媒を供給した後に分解槽に供給する。
【0067】
ポリカーボネート樹脂分解工程(B2)では、スラリー状の反応液中で、ポリカーボネート樹脂を分解させる。分解反応は、以下に示す反応式(3)に従って行われ、工程(B2)で得られる分解生成物は、ビスフェノールAと二酸化炭素である。
【0068】
【0069】
ビスフェノールA回収工程(B3)では、工程(B2)後の反応液を減圧加熱した後、晶析によりビスフェノールAを回収する。具体的には、工程(B2)後の反応液を減圧加熱して、アルキルアミンやフェノールなどの液体成分を留去する。次いで、芳香族炭化水素などの晶析溶媒を加えて、ビスフェノールAが溶解した晶析用溶液を調製した後、これを冷却してビスフェノールAを析出させる。析出したビスフェノールAを、固液分離により回収する。
【0070】
また、触媒としてアルキルアミンを用いる場合、酸を供給して中和する方法を用いてアルキルアミンを除去してもよい。この場合、ビスフェノールの製造方法(A)の工程(A3)のように、分解反応後の反応液に酸を混合し中和した後、油水分離させ、水相を除去することで、ビスフェノールAが溶解した有機相を得る。次いで、ビスフェノールの製造方法(A)の工程(A4)のように、得られる有機相を減圧加熱し、晶析によりビスフェノールAが回収できる。
【0071】
このように、ポリカーボネート樹脂の分解反応液から、アルキルアミンの除去としては、留去する方法、酸を供給して中和する方法が挙げられるが、酸を供給して中和する方法では、アンモニウム塩が発生し、その除去も必要となることから、好ましくは留去する方法である。触媒としてアルキルアミンを用いることで、減圧加熱によりフェノールともにアルキルアミンを除去することができ、中和を必須としないため、精製を簡略化することができる。
【0072】
<ビスフェノールの製造方法(C)>
ビスフェノールの製造方法(C)は、フェノールを含む非ハロゲン系有機溶媒、水、酸、および、ビスフェノールAに由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂を含むスラリー状の反応液を調製する反応液調製工程(C1)と、ポリカーボネート樹脂を分解するポリカーボネート樹脂分解工程(C2)と、工程(C2)後の反応液を中和し、ビスフェノールAが溶解した有機相を得る中和工程(C3)と、工程(C3)で得られた有機相を減圧加熱した後、晶析によりビスフェノールAを回収するビスフェノールA回収工程(C4)を有する。
【0073】
反応液調製工程(C1)では、分解槽に、フェノールを含む非ハロゲン系有機溶媒、水、酸およびビスフェノールAに由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂を供給して、スラリー状の反応液を調製する。このとき、水および酸の供給順は特に限定されないが、ビスフェノールAに由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂は、フェノールを含む非ハロゲン系有機溶媒を供給した後に分解槽に供給する。
【0074】
ポリカーボネート樹脂分解工程(C2)では、スラリー状の反応液中で、ポリカーボネート樹脂を分解させる。分解反応は、以下に示す反応式(4)に従って行われ、工程(C2)で得られる分解生成物は、ビスフェノールAと二酸化炭素である。
【0075】
【0076】
ビスフェノールA回収工程(C3)では、工程(C2)の後に、反応液を中和し、ビスフェノールAが溶解した有機相を得る。中和は反応液に塩基を混合することで行われる。用いられる塩基としては、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。
中和は、ビスフェノールの製造方法(A)の工程(A3)と同様に、反応液のpHが7よりも大きいところが終点となるように行うことが好ましい。例えば、pH7.5以上やpH8.0以上となるように塩基を混合することが好ましい。また、pH10以下や9.5以下となるように塩基を混合することが好ましい。
工程(C3)では、ビスフェノールの製造方法(A)の工程(A3)と同様に、反応液と塩基の混合液、又は、反応液と塩基と有機溶媒の混合液を油水分離させ、水相を除去することで、ビスフェノールAが溶解した有機相が得られる。
【0077】
工程(C4)では、工程(C3)で得られるビスフェノールAが溶解した有機相からビスフェノールAを回収する。ビスフェノールの製造方法(A)の工程(A4)と同様に、工程(C3)で得られた有機相を減圧加熱した後、晶析によりビスフェノールAを回収できる。
【0078】
なお、ビスフェノールの製造方法(A)~(C)は、非ハロゲン系有機溶媒としてフェノールを含む有機溶媒を用いた例であるが、フェノールを用いない場合には、ビスフェノールAは共結晶を形成しないため、工程(A4)や工程(B3)、工程(C4)の減圧加熱によるフェノールの除去は必須ではない。この場合、工程(A3)や工程(C3)で得られる有機相や工程(B2)後の反応液を冷却して、ビスフェノールAを析出させることで、ビスフェノールAを回収することができる。
【0079】
また、ビスフェノールAを、ビスフェノールAとフェノールの共結晶として回収してもよい。この場合、フェノールを留去せずに、工程(A3)や工程(C3)で得られる有機相や工程(B2)後の反応液を冷却して、ビスフェノールAとフェノールの共結晶を析出させ、回収する。
【0080】
また、上記の通り、本発明のビスフェノールの製造方法に用いられるポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールAに由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂に限定されない。ビスフェノールA以外のビスフェノールに由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂を用いた本発明のビスフェノールの製造方法も、上記のビスフェノールの製造方法(A)~(C)と同様に適宜実施することができる。
【0081】
<ビスフェノールの用途>
本発明のビスフェノールの製造方法で得られるビスフェノール(以下、「再生ビスフェノール」と記載する場合がある。)は、光学材料、記録材料、絶縁材料、透明材料、電子材料、接着材料、耐熱材料など種々の用途に用いられるポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレ-ト樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂など種々の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂など種々の熱硬化性樹脂などの構成成分、硬化剤、添加剤もしくはそれらの前駆体などとして用いることができる。また、感熱記録材料等の顕色剤や退色防止剤、殺菌剤、防菌防カビ剤等の添加剤としても有用である。
【0082】
これらのうち、良好な機械物性を付与できるため、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の原料(モノマ-)として用いることが好ましく、中でもポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂の原料として用いることがより好ましい。また、顕色剤として用いることも好ましく、特にロイコ染料、変色温度調整剤と組み合わせて用いることがより好ましい。
【0083】
<再生ポリカーボネート樹脂の製造方法>
また、本発明は、本発明のビスフェノールの製造方法で得られたビスフェノール(再生ビスフェノール)を含むビスフェノール原料を用いて、再生ポリカーボネート樹脂を製造する工程を有する、再生ポリカーボネート樹脂の製造方法(以下、「本発明の再生ポリカーボネート樹脂の製造方法」と記載する場合がある。)に関するものである。本発明の再生ポリカーボネート樹脂の製造方法は、廃プラスチック等に含まれるポリカーボネート樹脂をモノマーであるビスフェノールまで分解して得られる再生ビスフェノールを原料としてポリカーボネート樹脂の製造するケミカルリサイクル方法を利用するものである。
【0084】
再生ポリカーボネート樹脂を製造する工程は、具体的には、再生ビスフェノール(本発明のビスフェノールの製造方法により、ポリカーボネート樹脂を分解することによって得られた再生ビスフェノール)を含むビスフェノール原料と炭酸ジエステル原料とを重合させ、再生ポリカーボネート樹脂を得る工程とできる。重合は公知の方法を適宜選択して行うことができる。
例えば、再生ビスフェノールを含むビスフェノール原料と、炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステル原料とを、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させる方法などにより製造することができる。
【0085】
再生ビスフェノールは、ビスフェノール原料の全部として使用してもよいし、再生ビスフェノールでない一般のビスフェノールと混合してビスフェノール原料の一部として使用してもよい。再生ビスフェノールの量に特に限定はないが、再生ビスフェノールの割合が多いほど、環境に優しい。そのため、環境への配慮の観点からは、ビスフェノール原料に対する再生ビスフェノールの量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上の順で数値が大きいほどより好ましい。
【0086】
上記エステル交換反応は、公知の方法を適宜選択して行うことができるが、以下に炭酸ジエステル原料として炭酸ジフェニルを用いた方法の一例を説明する。
【0087】
上記の再生ポリカーボネート樹脂の製造方法において、炭酸ジフェニルは、ビスフェノール原料に対して過剰量用いることが好ましい。該ビスフェノール原料に対して用いる炭酸ジフェニルの量は、製造された再生ポリカーボネート樹脂に末端水酸基が少なく、ポリマーの熱安定性に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所望の分子量の再生ポリカーボネート樹脂を製造し易い点では少ないことが好ましい。これらのことから、ビスフェノール原料1モルに対する使用する炭酸ジフェニルの量は、通常1.001モル以上、好ましくは1.002モル以上であり、また、通常1.3モル以下、好ましくは1.2モル以下である。
【0088】
原料の供給方法としては、ビスフェノール原料及び炭酸ジフェニルを固体で供給することもできるが、一方又は両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
【0089】
炭酸ジフェニルとビスフェノール原料とのエステル交換反応で再生ポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。このエステル交換触媒として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。実用的には、アルカリ金属化合物を用いることが望ましい。
【0090】
ビスフェノール原料又は炭酸ジフェニル1モルに対して用いられる触媒量は、通常0.05μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、さらに好ましくは0.10μモル以上であり、また、通常100μモル以下、好ましくは50μモル以下、さらに好ましくは20μモル以下である。
【0091】
触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量の再生ポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマーの分岐化が進まず、成形時の流動性に優れたポリカーボネート樹脂を得やすい。
上記方法により再生ポリカーボネート樹脂を製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。
【0092】
エステル交換法による再生ポリカーボネート樹脂の製造においては、通常、原料混合槽に供給された両原料は、均一に攪拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマーが生産される。
【0093】
得られた再生ポリカーボネート樹脂は、そのまま用いてもよいし、未使用のポリカーボネート樹脂と再生ポリカーボネート樹脂とを含む再生ポリカーボネート樹脂組成物として用いてもよい。再生ポリカーボネート樹脂組成物は、公知の混練方法等を適宜選択して、未使用のポリカーボネート樹脂と再生ポリカーボネート樹脂とを混合することで得ることができる。未使用のポリカーボネート樹脂と再生ポリカーボネート樹脂とを含む再生ポリカーボネート樹脂組成物とする場合、再生ポリカーボネート樹脂の量に特に限定はないが、再生ポリカーボネート樹脂の割合が多いほど、環境に優しい。そのため、環境への配慮の観点からは、再生ポリカーボネート樹脂組成物に対する再生ポリカーボネート樹脂の量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上の順で数値が大きいほどより好ましい。
得られた再生ポリカーボネート樹脂や組成物は、未使用のポリカーボネート樹脂と同様に、光学部材や光学記録媒体などの各種成形品に成形加工することができる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0095】
[原料及び試薬]
ポリカーボネート樹脂は、三菱ケミカルエンジニアリングプラスチックス株式会社のポリカーボネート樹脂「NOVAREXTM M7027BF」を使用した。
フェノール、トルエン、トリエチルアミン、アセトニトリル、及び炭酸セシウムは、富士フィルム和光純薬株式会社の試薬を使用した。
炭酸ジフェニルは、三菱ケミカル株式会社の製品を使用した。
【0096】
[分析]
ビスフェノールの生成確認と純度は、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。
・装置:島津製作所社製LC-2010A、Waters社 5μm 150mm×4.6mmID
・方式:低圧グラジェント法
・分析温度:40℃
・溶離液組成:
A液 アセトニトリル
B液 85%リン酸:水=1mL:999mLの溶液
分析時間0分では、A液:B液=35:65(体積比、以下同様。)、分析時間0~5分は溶離液組成をA液:B液=35:65へ徐々に変化させ、分析時間5~40分はA液:B液=90:10に維持した。
・流速:0.85mL/分
・検出波長:280nm
【0097】
[粘度平均分子量(Mv)]
粘度平均分子量(Mv)は、ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解し(濃度6.0g/L)、ウベローデ粘度管を用いて20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0098】
[ビスフェノールの溶融色]
ビスフェノールの溶融色は、日電理化硝子社製試験管「P-24」(2mmφ×200mm)にビスフェノールを20g入れて、174℃で30分溶融させ、日本電色工業社製「OME7700」を用い、そのハーゼン色数を測定した。
【0099】
(実施例1)
[反応液調製工程]
ジムロート冷却管、攪拌翼、温度計を備えたジャケット式セパラブルフラスコ(分解槽)に、窒素雰囲気下、20℃で、フェノール240g、水30gを供給した後、トリエチルアミン15gを入れて攪拌した。その後、ポリカーボネート樹脂80g(ポリカーボネート樹脂の繰り返し単位は254g/モルであることから、80g÷254g/モル=0.315モル)を加え、スラリー状の反応液を得た。
[ポリカーボネート樹脂分解工程]
その後、スラリー状の反応液の温度(内温)を80℃に昇温し、80℃を維持したまま5時間反応させて、均一溶液を得た。反応液は、80℃到達時にはスラリー状を維持しており、反応の進行とともに均一溶液に変化した。
得られた均一溶液の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、ビスフェノールAの生成が19.5質量%であった。均一溶液の重量は、240g+30g+15g+80g=365gであり、生成したビスフェノールは19.5質量%×365g÷228.29g/モル=0.312モルとなり、反応率は0.312モル÷0.315モル×100=99%であった。
【0100】
(実施例2)
[反応液調製工程]
ジムロート冷却管、攪拌翼、温度計を備えたジャケット式セパラブルフラスコに、窒素雰囲気下、20℃で、フェノール240g、水30gを供給した後、ポリカーボネート樹脂80gを加えた。そこへ、トリエチルアミン15gを入れ、スラリー状の反応液を得た。
【0101】
[ポリカーボネート樹脂分解工程]
スラリー状の反応液の温度(内温)を80℃に昇温し、80℃を維持したまま5時間反応させて、均一溶液を得た。反応液は、80℃到達時にはスラリー状を維持しており、反応の進行とともに均一溶液に変化した。
得られた均一溶液の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、ビスフェノールAの生成が19.3質量%であった。均一溶液の重量は、240g+30g+80g+15g=365gであり、生成したビスフェノールは19.3質量%×365g÷228.29g/モル=0.309モルとなり、反応率は0.309モル÷0.315モル×100=98%であった。
【0102】
(比較例1)
[反応液の調製]
ジムロート冷却管、攪拌翼、温度計を備えたジャケット式セパラブルフラスコに、窒素雰囲気下、ポリカーボネート樹脂80gを供給した。その後、フェノール240gを供給したところ、反応槽に白化及び固着したポリカーボネート樹脂が複数見られた。更に、そこへ水30g、トリエチルアミン15gを入れ、スラリー状の反応液を得た。
【0103】
[分解反応]
スラリー状の反応液の温度(内温)を80℃に昇温し、80℃を維持したまま5時間反応させた。その後、反応液には前記白化及び固着したポリカーボネート樹脂が依然見られ、分解されないことを確認した。
【0104】
表1に、実施例1及び2、比較例1について、反応液調製工程の手順、反応後の様子を纏めた。なお、表1において、工程(1a)は分解槽へのフェノールの供給、工程(1b)は分解槽へのポリカーボネート樹脂の供給、工程(1c)は分解槽への触媒の供給を意味する。
表1より、(1)工程(1a)後に工程(1c)を実施し、工程(1c)後に工程(1b)を実施する、あるいは(2)工程(1a)後に工程(1b)を実施し、工程(1b)後に工程(1c)を実施することで、均一溶液が得られることが分かる。
【0105】
【0106】
(実施例3)
実施例1及び2で得られた均一溶液を、温度計、攪拌翼、留出管、及び圧力調整機を備えた蒸留装置に移し、留出量を見ながら、内温を徐々に180℃まで昇温し、内圧を常圧から徐々に100hPaまで下げて、水、トリエチルアミンとフェノールを留去させた。その後、フラスコ内を窒素で復圧して、内温を80℃まで降温させ、トルエン300gを加えて、有機相1を得た。得られた有機相1を脱塩水100gで5回洗浄し、有機相2を得た。
得られた有機相2を20℃まで降温し、スラリーを得た。得られたスラリーを濾過して、ケーキを得た。得られたケーキを、ロータリーエバポレータで乾燥させて、ビスフェノールA75gを得た。得られたビスフェノールAの純度は99.8質量%、溶融色はAPHA143であった。
【0107】
(実施例4)
撹拌機及び留出管を備えた内容量45mLのガラス製反応槽に、実施例3で得られたビスフェノールA10.00g(ビスフェノールA0.04モル)、炭酸ジフェニル9.95g(0.05モル)及び400質量ppmの炭酸セシウム水溶液18μLを入れた。該ガラス製反応槽を約100Paに減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応槽の内部を窒素に置換した。その後、該反応槽を220℃のオイルバスに浸漬させ、内容物を溶解した。
撹拌機の回転数を毎分100回とし、反応槽内のビスフェノールAと炭酸ジフェニルのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応槽内の圧力を、絶対圧力で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。続いて反応槽内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールを更に留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応槽外部温度を290℃に昇温すると共に、40分間かけて反応槽内圧力を絶対圧力で13.3kPaから399Paまで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。その後、反応槽の絶対圧力を30Paまで減圧し、重縮合反応を行った。反応槽の撹拌機が予め定めた所定の撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。290℃に昇温してから重合を終了するまでの時間は120分であった。
次いで、反応槽を窒素により絶対圧力で101.3kPaに復圧した後、ゲージ圧力で0.2MPaまで昇圧し、反応槽からポリカーボネート樹脂を抜出し、再生ポリカーボネート樹脂を得た。得られた再生ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は26500であった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のビスフェノールの製造方法によれば、ケミカルリサイクルを利用して廃プラスチック等からビスフェノールを得ることができる。更に、これを用いて、再度、ポリカーボネート樹脂を製造することができ、産業上有用である。