(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】セトリング時間決定方法及びマルチ荷電粒子ビーム描画方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240723BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240723BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H01L21/30 541D
G03F7/20 504
G03F7/20 521
H01L21/30 541W
H01J37/305 B
(21)【出願番号】P 2020193586
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2019230576
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】本杉 知生
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-219577(JP,A)
【文献】特開2009-272366(JP,A)
【文献】特開2014-183267(JP,A)
【文献】特開2015-153873(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0357153(US,A1)
【文献】特開2009-088202(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0311032(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
H01J 37/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏向セトリング時間を変えながら、第1偏向器にアンプから出力される電圧を印加することにより荷電粒子ビームを偏向させて評価パターンを描画する工程と、
前記評価パターンの位置を測定し、測定した位置の設計位置からの位置ずれ量を求める工程と、
前記アンプの第1出力波形に対し、前記偏向セトリング時間毎の前記位置ずれ量をフィッティングし、前記位置ずれ量が所定範囲内となる偏向セトリング時間を決定する工程と、
を備えるセトリング時間決定方法。
【請求項2】
新たに前記アンプの第2出力波形を取得し、
前記偏向セトリング時間毎の位置ずれ量がフィッティングされた前記第1出力波形と、新たに取得した前記第2出力波形との時間軸を合わせ、前記第2出力波形に基づいて前記偏向セトリング時間を更新することを特徴とする請求項1に記載のセトリング時間決定方法。
【請求項3】
所定方向に隣接する前記第1偏向器より小さい領域を偏向する第2偏向器による偏向領域に順に前記評価パターンを描画し、
前記所定方向へ前記荷電粒子ビームを移動するために前記第1偏向器に電圧を印加するアンプが複数のとき、前記複数のアンプの出力波形を合成した出力波形に対し、前記偏向セトリング時間毎の前記位置ずれ量をフィッティングすることを特徴とする請求項1又は2に記載のセトリング時間決定方法。
【請求項4】
前記評価パターンの描画時、前記第2偏向器の偏向量を所定値に固定することを特徴とする請求項3に記載のセトリング時間決定方法。
【請求項5】
偏向器により荷電粒子ビームを偏向させて試料にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画方法であって、
請求項1乃至4のいずれかに記載のセトリング時間決定方法により決定された前記偏向セトリング時間を用いて前記試料に描画処理を行うことを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セトリング時間決定方法及びマルチ荷電粒子ビーム描画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターンをウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンの作製には、電子ビーム描画装置によってレジストを露光してパターンを形成する、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
電子ビーム描画装置は、電子ビームの光路に沿って配置された主偏向器及び副偏向器に所定の電圧を印加することにより電子ビームを偏向し、ステージ上の基板にパターンを描画する。DAC(デジタルアナログコンバータ)アンプからの出力電圧で偏向器を駆動する際には、その負荷に応じた出力電圧のセトリング時間(整定時間)が必要になる。ここで、セトリング時間が足りないと、電子ビームの偏向移動量に誤差が生じ、描画精度を低下させる。一方、セトリング時間が長すぎると、スループットが低下する。そのため、描画精度が低下しない範囲で、できるだけ短いセトリング時間を設定することが望ましい。
【0004】
従来、主偏向セトリング時間(主偏向器に電圧を印加するDACアンプに設定されるセトリング時間)を変えながら複数の評価パターンを描画し、評価パターンの位置ずれ量を測定し、位置ずれ量が所定範囲内に収まるセトリング時間を最適な主偏向セトリング時間として決定していた。
【0005】
例えば、位置ずれ量と主偏向セトリング時間との関係は、
図9に示すようなものとなる。位置ずれ量が上限閾値と下限閾値との範囲内に収まる主偏向セトリング時間のうち、最も短い主偏向セトリング時間を最適な主偏向セトリング時間とする。例えば、主偏向セトリング時間T1の位置ずれ量がばらつきによるものである場合、最適な主偏向セトリング時間はT2となる。しかし、主偏向セトリング時間T1の位置ずれ量がセトリングエラーによるものである場合、最適な主偏向セトリング時間はT3となる。
【0006】
このように、最適な主偏向セトリング時間を決定するには、位置ずれ量測定結果におけるばらつきの影響を十分に排除する必要がある。しかし、ばらつきの影響を排除するためには、主偏向セトリング時間を細かく変えながら多数の評価パターンを描画する必要があり、膨大な描画時間、測定時間がかかるという問題があった。
【0007】
また、高い描画精度を実現するためにはセトリングエラーを極めて小さくする必要があり、最適な主偏向セトリング時間を一度決定した後も、定期的に評価パターンを描画し、描画結果から最適な主偏向セトリング時間を新たに決定しているため、コストがかかっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-41952号公報
【文献】特開2013-58699号公報
【文献】特開2010-267842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、最適な偏向セトリング時間を効率良く求めることができるセトリング時間決定方法及びマルチ荷電粒子ビーム描画方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によるセトリング時間決定方法は、偏向セトリング時間を変えながら、第1偏向器にアンプから出力される電圧を印加することにより荷電粒子ビームを偏向させて評価パターンを描画する工程と、前記評価パターンの位置を測定し、測定した位置の設計位置からの位置ずれ量を求める工程と、前記アンプの第1出力波形に対し、前記偏向セトリング時間毎の前記位置ずれ量をフィッティングし、前記位置ずれ量が所定範囲内となる偏向セトリング時間を決定する工程と、を備えるものである。
【0011】
本発明の一態様によるセトリング時間決定方法において、新たに前記アンプの第2出力波形を取得し、前記偏向セトリング時間毎の位置ずれ量がフィッティングされた前記第1出力波形と、新たに取得した前記第2出力波形との時間軸を合わせ、前記第2出力波形に基づいて前記偏向セトリング時間を更新する。
【0012】
本発明の一態様によるセトリング時間決定方法において、所定方向に隣接する前記第1偏向器より小さい領域を偏向する第2偏向器による偏向領域に順に前記評価パターンを描画し、前記所定方向へ前記荷電粒子ビームを移動するために前記第1偏向器に電圧を印加するアンプが複数のとき、前記複数のアンプの出力波形を合成した出力波形に対し、前記偏向セトリング時間毎の前記位置ずれ量をフィッティングする。
【0013】
本発明の一態様によるセトリング時間決定方法において、前記評価パターンの描画時、前記第2偏向器の偏向量を所定値に固定する。
【0014】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム描画方法は、偏向器により荷電粒子ビームを偏向させて試料にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画方法であって、本発明のセトリング時間決定方法により決定された前記偏向セトリング時間を用いて前記試料に描画処理を行うものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、最適な偏向セトリング時間を効率良く求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態による荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。
【
図2】主偏向領域と副偏向領域とを示す概念図である。
【
図3】セトリング時間決定方法を説明するフローチャートである。
【
図6】(a)は位置ずれ量測定結果を示す図であり、(b)はアンプ出力波形を示す図であり、(c)はフィッティング例を示す図である。
【
図7】セトリング時間決定方法を説明するフローチャートである。
【
図10】時間軸オフセットとフィッティング残差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限るものでなく、イオンビーム等でもよい。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る描画装置の概略構成図である。
図1の通り、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、電子ビーム描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、ブランキング偏向器(ブランカ)212、ブランキングアパーチャ214、第1成形アパーチャ203、投影レンズ204、成形偏向器205、第2成形アパーチャ206、対物レンズ207、主偏向器208及び副偏向器209が配置されている。主偏向器208の下方に副副偏向器がさらに設けられていてもよい。
【0019】
描画室103内には、少なくともXY方向に移動可能なXYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画対象となる基板101が配置される。基板101は、例えばマスクブランクスや半導体基板(シリコンウェハ)である。
【0020】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、ブランキング偏向器212内を通過する際にブランキング偏向器212によって、ビームONの状態では、ブランキングアパーチャ214を通過するように制御され、ビームOFFの状態では、ビーム全体がブランキングアパーチャ214で遮蔽されるように偏向される。ビームOFFの状態からビームONとなり、その後ビームOFFになるまでにブランキングアパーチャ214を通過した電子ビーム200が1回の電子ビームのショットとなる。
【0021】
ブランキング偏向器212は、ビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成するように、通過する電子ビーム200の偏向有無を制御する。各ショットの照射時間で基板101に照射される電子ビーム200のショットあたりの照射量が調整されることになる。
【0022】
ブランキング偏向器212とブランキングアパーチャ214を通過することによって生成された各ショットの電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形の穴を持つ第1成形アパーチャ203を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形に成形する。
【0023】
そして、第1成形アパーチャ203を通過したアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2成形アパーチャ206上に投影される。成形偏向器205によって、第2成形アパーチャ206上でのアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させることができる。このような可変成形はショット毎に行われ、通常、ショット毎に異なるビーム形状と寸法に成形される。
【0024】
第2成形アパーチャ206を通過した電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせ、主偏向器208及び副偏向器209によって偏向され、連続的に移動するXYステージ105に配置された基板101の所望する位置に照射される。以上のように、各偏向器によって、電子ビーム200の複数のショットが順に基板101上へと偏向される。
【0025】
図2は、主偏向領域と副偏向領域とを示す概念図である。
図2に示すように、例えば、描画装置100にてステップアンドリピート方式で所望のパターンを描画する場合には、基板101の描画領域は、主偏向器208により偏向可能な幅で例えばY方向にストライプ状の複数の描画領域1(ストライプ1)に分割される。そして、各ストライプ1は、ストライプのY方向の幅と同じ幅でX方向にも区切られる。この区切られた領域が、主偏向器208により偏向可能な主偏向領域2となる。この主偏向領域2をさらに細分化した領域が副偏向領域3となる。
【0026】
副偏向器209は、ショット毎の電子ビーム200の位置を高速かつ高精度に制御するために用いられる。そのため、偏向範囲は副偏向領域3に限定され、その領域を超える偏向は主偏向器208で副偏向領域3の位置を移動することによって行う。一方、主偏向器208は、副偏向領域3の位置を制御するために用いられ、複数の副偏向領域3が含まれる範囲(主偏向領域2)内で移動する。また、描画中はXYステージ105がX方向に連続的に移動しているため、主偏向器208で副偏向領域3の描画原点を随時移動(トラッキング)することでXYステージ105の移動に追従させることができる。
【0027】
制御部160は、制御計算機110、偏向制御回路120、デジタルアナログ変換(DAC)アンプユニット132、134、136、138、記憶装置140、142等を有している。
【0028】
制御計算機110は、ショットデータ生成部50、セトリング時間設定部52、及び描画制御部54を備える。ショットデータ生成部50、セトリング時間設定部52、及び描画制御部54の各機能は、ソフトウェアで構成されてもよいし、ハードウェアで構成されてもよい。ソフトウェアで構成する場合には、制御計算機110の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを記録媒体に収納し、CPUを有するコンピュータに読み込ませて実行させてもよい。
【0029】
偏向制御回路120は各DACアンプユニット132、134、136、138に接続されている。DACアンプユニット132は副偏向器209に接続されている。DACアンプユニット134は主偏向器208に接続されている。DACアンプユニット136は成形偏向器205に接続されている。DACアンプユニット138はブランキング偏向器212に接続されている。
【0030】
偏向制御回路120からDACアンプ138に対して、ブランキング制御用のデジタル信号が出力される。DACアンプ138では、デジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅させた上で偏向電圧として、ブランキング偏向器212に印加する。この偏向電圧によって電子ビーム200が偏向させられ、各ショットのブランキング制御が行われる。
【0031】
偏向制御回路120からDACアンプユニット136に対して、成形偏向用のデジタル信号が出力される。DACアンプユニット136では、デジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅させた上で偏向電圧として、成形偏向器205に印加する。この偏向電圧によって電子ビーム200が第2成形アパーチャ206の特定の位置に偏向され、所望の寸法及び形状の電子ビームが形成される。
【0032】
偏向制御回路120からDACアンプ134に対して、主偏向制御用のデジタル信号が出力される。DACアンプ134は、デジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅させた上で偏向電圧として、主偏向器208に印加する。この偏向電圧によって、電子ビーム200が偏向させられ、各ショットのビームが副偏向領域3の描画原点に偏向される。また、XYステージ105が連続移動しながら描画する場合、この偏向電圧には、ステージ移動に追従するトラッキング用の偏向電圧も含まれる。
【0033】
偏向制御回路120からDACアンプ132に対して、副偏向制御用のデジタル信号が出力される。DACアンプ132は、デジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅させた上で偏向電圧として、副偏向器209に印加する。この偏向電圧によって、電子ビーム200は副偏向領域3内のショット位置に偏向される。
【0034】
記憶装置140,142は、磁気ディスク装置や半導体メモリである。記憶装置140は、基板101にパターンを描画するための描画データを記憶する。この描画データは、設計データ(レイアウトデータ)が描画装置100用のフォーマットに変換されたデータであり、外部装置から記憶装置140に入力されて保存されている。
【0035】
記憶装置142には、後述する方法で求められた最適な主偏向セトリング時間が格納されている。
【0036】
ショットデータ生成部50は、記憶装置140に格納されている描画データに対して、複数段のデータ変換処理を行い、描画対象となる各図形パターンを1回のショットで照射可能なサイズのショット図形に分割し、描画装置固有のフォーマットとなるショットデータを生成する。ショットデータには、ショット毎に、例えば、各ショット図形の図形種を示す図形コード、図形サイズ、ショット位置、照射時間等が含まれる。生成されたショットデータはメモリ(図示略)に一時的に記憶される。
【0037】
描画制御部54は、ショットデータを偏向制御回路120に転送する。偏向制御回路120は、ショットデータに設定された照射時間になる偏向データ(ブランキング信号)をブランキング偏向器212用のDACアンプ138に出力する。
【0038】
偏向制御回路120は、ショットデータに設定された図形種及び図形サイズになる偏向データ(成形偏向用の信号)をDACアンプユニット136に出力する。また、偏向制御回路120は、ショットデータに設定されたショット位置となる偏向データをDACアンプユニット132,134に出力する。
【0039】
セトリング時間設定部52は、記憶装置142から最適主偏向セトリング時間を取り出し、偏向制御回路120に通知する。偏向制御回路120は、主偏向のセトリング時間が最適主偏向セトリング時間となるよう、各DACアンプに適宜信号を出力する。例えば、偏向制御回路120は、DACアンプ134に主偏向用の信号を出力した後、最適主偏向セトリング時間の経過後にビームONとなるようにDACアンプ138にブランキング信号を出力する。
【0040】
次に、最適主偏向セトリング時間の決定方法を
図3に示すフローチャートに沿って説明する。
【0041】
まず、主偏向セトリング時間を変化させて、主偏向器208により電子ビームを移動させて、試料に評価パターンを描画する(ステップS1)。ここで、主偏向により位置決めされる副偏向領域3の例えば中央に電子ビームが照射されるように、副偏向器209の偏向量を所定値に固定する。これにより、副偏向に起因するパターンの位置ずれを排除できる。XYステージ105は停止している。
【0042】
そして、描画した評価パターンの位置を公知の位置測定器(図示略)で測定し、主偏向セトリング時間毎の設計位置からの位置ずれ量を求める(ステップS2)。
【0043】
例えば、任意の主偏向セトリング時間に設定し、主偏向により電子ビームをy方向に隣接する第1副偏向領域に電子ビームを偏向させて評価パターンを描画する。次に、同じ主偏向セトリング時間で主偏向により、第1副偏向領域から、y方向に隣接する第2副偏向領域に電子ビームを偏向させて評価パターンを描画する。このように、同じ主偏向セトリング時間で主偏向により電子ビームをy方向に隣接する副偏向領域に順次移動させ、各副偏向領域に評価パターンを描画する。そして、各副偏向領域に描画された評価パターンの位置を測定し、位置ずれ量の平均値を求める。複数の主偏向セトリング時間について、このような位置ずれ量の平均値を求める。主偏向セトリング時間に対して位置ずれ量をプロットすると、
図6(a)に示すような関係が得られる。
【0044】
主偏向器208に電圧を印加するDACアンプ134の出力波形を取得する(ステップS3)。例えば、アンプ出力波形は、DACアンプ134を描画装置100に組み込む前に予め測定しておく。主偏向器208は複数の電極(偏向板)を有し、DACアンプ134は各電極に電圧を印加する複数のアンプを有する。取得する出力波形は、複数のアンプのうち、電子ビームの移動に関与するアンプが、評価パターン描画時の偏向動作を模擬した出力を行う際の出力波形を合成したものである。
図6(b)は、合成したアンプ出力波形の例を示す。
【0045】
例えば、
図4に示すように主偏向器208が4つの電極21~24を有し、評価パターンを描画する際の電子ビームの移動方向がy方向である場合、電極21,23に電圧を印加するアンプの出力波形を合成する。電極21に電圧を印加するアンプの出力をA21、電極23に電圧を印加するアンプの出力をA23とすると、A23-A21の計算により合成した出力波形が得られる。
【0046】
図5に示すように主偏向器208が8つの電極31~38を有し、評価パターンを描画する際の電子ビームの移動方向がy方向である場合、電極31,34,35,38に電圧を印加するアンプの出力波形を合成する。電極31,34,35,38に電圧を印加するアンプの出力をそれぞれA31,A34,A35,A38とすると、(A34+A35)/2-(A31+A38)/2の計算により合成した出力波形が得られる。
【0047】
次に、ステップS2で得られた主偏向セトリング時間毎の位置ずれ量と、ステップS3で得られたアンプ出力波形とをフィッティングする(ステップS4)。主偏向セトリング時間毎の位置ずれ量とアンプ出力波形とは、それぞれ時間軸に対してプロットされているが、両者の時間軸にはずれがあるため、フィッティングで合わせる。また、縦軸(位置ずれ量とアンプ出力)は計算でスケールを合わせる。状況に応じてスケールにフィッティングをかけてもよい。
図6(b)に示すアンプ出力波形に対して
図6(a)に示す位置ずれ量をフィッティングした例を
図6(c)に示す。
【0048】
主偏向セトリング時間毎の位置ずれ量と、アンプ出力波形とは共に0に収束する。従って、フィッティングする際は、時間軸(X軸)のみを合わせればよい。例えば、
図10に示すように、アンプ出力波形の時間軸にオフセットを入れながら位置ずれ量の分布に重ね合わせて、フィッティング残差を算出する。フィッティング残差は、位置ずれ量の各点とアンプ出力波形との差分の二乗和とすることができる。各オフセットのフィッティング残差をプロットする。フィッティング残差が最小となる最適オフセットが求まれば、フィッティング完了となる。
【0049】
フィッティング残差が最小となるオフセットは、補間により求めてもよい。
【0050】
位置ずれ量が安定して所定範囲(下限閾値LCLと上限閾値UCLとの間の範囲)に入る最小の主偏向セトリング時間を、最適な主偏向セトリング時間として算出する(ステップS5)。例えば、
図6(c)に示す例では、最適な主偏向セトリング時間はT2となる。算出した最適な主偏向セトリング時間は、記憶装置142に格納される。
【0051】
上述した
図9に示す例では、主偏向セトリング時間T1の位置ずれ量がセトリングエラーによるものか、ばらつきによるものか判別が困難であった。しかし、本実施形態では、位置ずれ量とアンプ出力波形とをフィッティングすることで、主偏向セトリング時間T1の位置ずれ量がばらつきによるものと判断できる。そのため、主偏向セトリング時間を細かく変えながら多数の評価パターンを描画する必要がなく、最適主偏向セトリング時間を効率良く求めることができる。
【0052】
最適な主偏向セトリング時間は、所定時間経過する毎に再度計算し、更新する。最適主偏向セトリング時間の更新方法を
図7に示すフローチャートに沿って説明する。
【0053】
DACアンプの出力波形を新たに取得する(ステップS11)。ここで取得する出力波形は、ステップS1で評価パターンを描画した際の電子ビーム移動方向に対応するアンプの出力波形である。
【0054】
ステップS4で得られた前回のフィッティングデータ(前回の出力波形)に、ステップS11で取得した新たな出力波形(今回の出力波形)を重ね合わせて比較し、新たな最適主偏向セトリング時間を算出する(ステップS12,S13)。
【0055】
図8は、前回のアンプ出力波形と、今回のアンプ出力波形とを時間軸を合わせて重ね合わせたグラフである。前回のアンプ出力波形において出力が下限閾値LCL以下となる時間が前回測定時の最適主偏向セトリング時間T2とした場合、新たなアンプ出力波形において出力が下限閾値LCL以下となるT4が新たな最適主偏向セトリング時間として算出される。新たな最適主偏向セトリング時間が記憶装置142に格納され、最適主偏向セトリング時間が更新される。
【0056】
評価パターンの位置ずれ量とアンプ出力波形とのフィッティングを1度行っておくことで、新たに最適主偏向セトリング時間を算出する際は、アンプ出力波形同士を比較すればよく、評価パターンを再度描画する必要がないため、最適主偏向セトリング時間を効率良く求めることができる。
【0057】
新たに算出した最適主偏向セトリング時間と、前回算出した最適主偏向セトリング時間との差が所定値以下である場合、最適主偏向セトリング時間を変更しなくてもよい。
【0058】
本実施形態において、主偏向の最適セトリング時間を決定しているが、主偏向器より小さい領域を偏向する副偏向器の最適セトリング時間を決定するために用いることもできる。その場合、副偏向領域より小さい副副偏向器による偏向領域に順に評価パターンを描画すればよい。
【0059】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0060】
50 ショットデータ生成部
52 セトリング時間設定部
54 描画制御部
100 描画装置
110 制御計算機
150 描画部
160 制御部
208 主偏向器