(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】熱処理炉の前処理方法、熱処理炉及びウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/324 20060101AFI20240723BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20240723BHJP
H01L 21/22 20060101ALI20240723BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20240723BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H01L21/324 Q
H01L21/02 Z
H01L21/22 501Z
H01L21/22 511Z
H01L21/31 F
H01L21/316 S
(21)【出願番号】P 2021085095
(22)【出願日】2021-05-20
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑野 嘉宏
【審査官】早川 朋一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-242254(JP,A)
【文献】特開昭64-061376(JP,A)
【文献】特開2021-089993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31
H01L 21/316
H01L 21/324
H01L 21/22
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素またはシリコンを主成分として含む材料を基材とし、その表面に炭化珪素膜が形成された部材を炉内に有する熱処理炉の前処理方法であって、
1100℃以上、酸素分圧が100%のドライ酸化条件の熱処理を施し、
次いでウェット酸化条件の熱処理を施し、
次いで1100℃以上、酸素分圧が100%のドライ酸化条件の熱処理を施し、
前記部材の表面に形成された第1のシリコン酸化膜と、
前記第1のシリコン酸化膜の表面に形成された前記第1のシリコン酸化膜より厚膜の第2のシリコン酸化膜と、
前記第2のシリコン酸化膜の表面に形成された前記第2のシリコン酸化膜より薄膜の第3のシリコン酸化膜と、を含むシリコン酸化膜を前記部材の表面に形成する熱処理炉の前処理方法。
【請求項2】
前記ウェット酸化条件は、酸素分圧が50%以上である請求項1に記載の熱処理炉の前処理方法。
【請求項3】
前記第1のシリコン酸化膜と前記第2のシリコン酸化膜と前記第3のシリコン酸化膜の総膜厚は、3μm以上である請求項1又は2に記載の熱処理炉の前処理方法。
【請求項4】
前記部材は、少なくとも炉芯管、ウェーハボート又はヒートバリアを含む請求項1~3のいずれか一項に記載の熱処理炉の前処理方法。
【請求項5】
炭化珪素またはシリコンを主成分として含む材料を基材とし、その表面に炭化珪素膜が形成された部材を炉内に有する熱処理炉であって、
前記部材の表面に、
緻密性が相対的に高い第1のシリコン酸化膜と、
前記第1のシリコン酸化膜の表面に形成され
、前記第1のシリコン酸化膜より厚膜
で緻密性が相対的に低い第2のシリコン酸化膜と、
前記第2のシリコン酸化膜の表面に形成され
、前記第2のシリコン酸化膜より薄膜
で緻密性が相対的に高く、前記第1のシリコン酸化膜と緻密性が同等の第3のシリコン酸化膜と、が形成されている熱処理炉。
【請求項6】
前記第1のシリコン酸化膜と前記第2のシリコン酸化膜と前記第3のシリコン酸化膜の総膜厚は、3μm以上である請求項5に記載の熱処理炉。
【請求項7】
前記部材は、少なくとも炉芯管、ウェーハボート又はヒートバリアを含む請求項5又は6に記載の熱処理炉。
【請求項8】
炭化珪素またはシリコンを主成分として含む材料を基材とし、その表面に炭化珪素膜が形成された部材を炉内に有する熱処理炉を用いたウェーハの製造方法であって、
前記炉内に対し、
1100℃以上、酸素分圧が100%のドライ酸化条件の熱処理を施し、
次いでウェット酸化条件の熱処理を施し、
次いで1100℃以上、酸素分圧が100%のドライ酸化条件の熱処理を施し、
前記部材の表面に形成された第1のシリコン酸化膜と、
前記第1のシリコン酸化膜の表面に形成された前記第1のシリコン酸化膜より厚膜の第2のシリコン酸化膜と、
前記第2のシリコン酸化膜の表面に形成された前記第2のシリコン酸化膜より薄膜の第3のシリコン酸化膜と、を含むシリコン酸化膜を前記部材の表面に形成したのち、
前記熱処理炉にウェーハを投入してウェーハを熱処理するウェーハの製造方法。
【請求項9】
前記ウェット酸化条件は、酸素分圧が50%以上である請求項8に記載のウェーハの製造方法。
【請求項10】
前記第1のシリコン酸化膜と前記第2のシリコン酸化膜と前記第3のシリコン酸化膜の総膜厚は、3μm以上である請求項8又は9に記載のウェーハの製造方法。
【請求項11】
前記部材は、少なくとも炉芯管、ウェーハボート又はヒートバリアを含む請求項8~10のいずれか一項に記載のウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理炉の前処理方法、熱処理炉及びウェーハの製造方法に関し、特に炉芯管、ウェーハボート、ヒートバリアその他の部材であって、炭化珪素(SiC)またはシリコン(金属シリコン,Si)を主成分として含む材料を基材とする部材を、炉内に有する熱処理炉の前処理方法、熱処理炉及びウェーハの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1000℃以上の高温で、且つ不活性ガスに若干の酸素ガスを添加した低酸素分圧の雰囲気で熱処理が行われることがある。このような条件で用いられる熱処理炉では、炉芯管(プロセスチューブ)やウェーハボートのような内部を構成する部品の部材として、炭化珪素またはシリコンを主成分として含む材料を基材とし、その表面にCVD法による炭化珪素の膜をコーティングしたものが使用されることがある(特許文献1、および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-15501号公報
【文献】特開2003-45812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうした炉芯管やウェーハボートは、熱処理を繰り返すことで、炭化珪素のコーティングが消耗及び薄膜化し、基材に含まれる鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)などの重金属が炉内に放出されて、ウェーハを汚染するという問題がある。鉄、ニッケル、銅などの重金属で汚染されると、ゲート酸化膜の破壊電荷(Qbd)の信頼性不良の原因となることから、これら重金属の低減が要求されている。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、少なくとも鉄を含む重金属による汚染を抑制できる熱処理炉の前処理方法、熱処理炉及びウェーハの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、炭化珪素またはシリコンを主成分として含む材料を基材とし、その表面に炭化珪素膜が形成された部材を炉内に有する熱処理炉の前処理方法であって、
1100℃以上、酸素分圧が100%のドライ酸化条件の熱処理を施し、
次いでウェット酸化条件の熱処理を施し、
次いで1100℃以上、酸素分圧が100%のドライ酸化条件の熱処理を施し、
前記部材の表面に形成された第1のシリコン酸化膜と、
前記第1のシリコン酸化膜の表面に形成された前記第1のシリコン酸化膜より厚膜の第2のシリコン酸化膜と、
前記第2のシリコン酸化膜の表面に形成された前記第2のシリコン酸化膜より薄膜の第3のシリコン酸化膜と、を含むシリコン酸化膜を前記部材の表面に形成する熱処理炉の前処理方法によって上記課題を解決する。
【0007】
また本発明は、炭化珪素またはシリコンを主成分として含む材料を基材とし、その表面に炭化珪素膜が形成された部材を炉内に有する熱処理炉であって、
前記部材の表面に、第1のシリコン酸化膜と、前記第1のシリコン酸化膜の表面に形成された前記第1のシリコン酸化膜より厚膜の第2のシリコン酸化膜と、前記第2のシリコン酸化膜の表面に形成された前記第2のシリコン酸化膜より薄膜の第3のシリコン酸化膜と、が形成されている熱処理炉によって上記課題を解決する。
【0008】
また本発明は、炭化珪素またはシリコンを主成分として含む材料を基材とし、その表面に炭化珪素膜が形成された部材を炉内に有する熱処理炉を用いたウェーハの製造方法であって、
前記炉内に対し、
1100℃以上、酸素分圧が100%のドライ酸化条件の熱処理を施し、
次いでウェット酸化条件の熱処理を施し、
次いで1100℃以上、酸素分圧が100%のドライ酸化条件の熱処理を施し、
前記部材の表面に形成された第1のシリコン酸化膜と、
前記第1のシリコン酸化膜の表面に形成された前記第1のシリコン酸化膜より厚膜の第2のシリコン酸化膜と、
前記第2のシリコン酸化膜の表面に形成された前記第2のシリコン酸化膜より薄膜の第3のシリコン酸化膜と、を含むシリコン酸化膜を前記部材の表面に形成したのち、
前記熱処理炉にウェーハを投入してウェーハを熱処理するウェーハの製造方法によって上記課題を解決する。
【0009】
前記ウェット酸化条件は、酸素分圧が50%以上であることが好ましい。
【0010】
前記第1のシリコン酸化膜と前記第2のシリコン酸化膜と前記第3のシリコン酸化膜の総膜厚は、3μm以上であることが好ましい。
【0011】
前記部材は、少なくとも炉芯管、ウェーハボート又はヒートバリアを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱処理を繰り返しても3層からなるシリコン酸化膜が保護膜となって炭化珪素膜の消耗及び薄膜化を抑制するので、基材に含まれる少なくとも鉄を含む重金属が炉内に放出されるのを抑制することができる。その結果、ウェーハの重金属による汚染を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る熱処理炉の一実施形態(横型熱処理炉)を示す断面図である。
【
図2】本発明に係る熱処理炉の他の実施形態(縦型熱処理炉)を示す断面図である。
【
図3】本発明の部材の実施形態を示す断面図である。
【
図5】(a)~(c)のそれぞれは、本発明に係るシリコン酸化膜を形成する方法の一例を示す拡大断面図である。
【
図6】(a)及び(b)のそれぞれは、本発明の比較例に係る部材の拡大断面図である。
【
図7】シリコン酸化膜の層構成が異なる複数枚のテストピースに対し、熱処理を400回繰り返した後のFe汚染量の測定結果(熱処理前のシリコンウェーハのFe濃度を1として規格化したFe汚染量相対比率)を示すグラフである。
【
図8】シリコン酸化膜の層構成に応じて、膜厚3μmのシリコン酸化膜を形成するのに要する時間を示すグラフである。
【
図9】本発明に係るシリコン酸化膜を形成する処理手順の一例を示すグラフである。
【
図10】本発明の実施例と比較例のテストピースに対し、熱処理を400回繰り返した後のFe汚染量の測定結果(熱処理前のシリコンウェーハのFe濃度を1として規格化したFe汚染量相対比率)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る熱処理炉の一実施形態を示す断面図である。本実施形態の熱処理炉1は、いわゆる横型炉と称され、炉本体10の内部に、横長に延在する炉芯管11を備える。炉芯管11は、一端に開口部12及びこれを開閉するドア16が設けられ、他端にガス導入管13が設けられている。炉芯管11の中央外周には、炉本体10の内部に設けられた円筒状のヒータ14が設けられている。そして、シリコンウェーハWを熱処理する場合は、シリコンウェーハWをウェーハボート15に載せて、炉芯管11の開口部12から挿入して中央にセットし、ドア16を閉じて略密閉したのち、ガス導入管13から窒素、酸素、アルゴン等の高純度ガスを流して、炉本体10とドア16との間の隙間から高純度ガスを炉外に排気する。これにより、炉内雰囲気を清浄に保ちつつ、シリコンウェーハWのドーパント拡散や酸化等の熱処理が行われる。
【0015】
図2は、本発明に係る熱処理炉の他の実施形態を示す断面図である。本実施形態の熱処理炉1は、いわゆる縦型炉と称され、炉本体10の内部に、縦長に延在する炉芯管11を備える。炉芯管11は、上端が天井部を有するように閉塞され、下端が開放した縦長円筒状に形成され、その外周にヒータ14が設けられている。この炉芯管11の内部には、円筒形の石英製チューブ20が設けられている。炉芯管11の底部には、シリコンウェーハWを石英製チューブ20に搬入したり、石英製チューブ20から搬出したりするための開口部12が設けられている。なお、プロセスガスは、石英製チューブ20に設けられたガス導入管13により、石英製チューブ20内に供給されたのち、図示しない排気路から炉外へ排出される。
【0016】
炉本体10の下部のスペースには、ウェーハボート15及びヒートバリア18を石英製チューブ20に導入するための昇降リフト17が設置されている。このウェーハボート15は、複数枚のシリコンウェーハWを上下方向に隙間を設けた状態で水平に保持するための部材であり、図示しないフレームを介して昇降リフト17に設けられた昇降テーブル19に支持されている。なお、ヒートバリア18は、円盤状の反射・断熱板を、間隔をあけて上下方向に積み重ねてなり、炉芯管11内の輻射熱を上方へ反射することで、この輻射熱が炉本体10の下部スペースに伝わるのを抑制する。
【0017】
そして、シリコンウェーハWを熱処理する場合は、シリコンウェーハWをウェーハボート15に載せて、昇降リフト17を上昇させて石英製チューブ20の開口部12から挿入したのち、ガス導入管13から窒素、酸素、アルゴン等の高純度ガスを流して、排気路から高純度ガスを炉外に排気する。これにより、炉内雰囲気を清浄に保ちつつ、シリコンウェーハWのドーパント拡散や酸化等の熱処理が行われる。
【0018】
さて、上述した熱処理炉1の内部を構成する炉芯管11、ウェーハボート15、ヒートバリア18といった部品には、金属汚染防止の観点から、石英(SiO2)や高純度のCVD膜を表面に形成した炭化珪素又はシリコンを主成分として含む材料を基材とする部材が用いられる。ここで、基材を構成する材料は、炭化珪素を主成分として含む材料、シリコンを主成分として含む材料、又は炭化珪素にシリコンを含侵したものを主成分として含む材料が挙げられる。特に高温の熱処理が要求される場合には、これら炉芯管11、ウェーハボート15、ヒートバリア18といった部品の少なくともいずれか一つに、炭化珪素やシリコンを主成分として含む基材で形成し、その表面にCVD法によって炭化珪素の膜をコーティングした部材を用いることがある。その場合、熱処理炉1を用いて、低酸素分圧の条件で酸化処理すると、表面にコーティングされている炭化珪素のCVD膜が消耗して薄膜化するという問題がある。
【0019】
例えば、酸素分圧が3%前後といった低酸素分圧の下、1200℃のドライ酸化処理を行う場合、この酸化処理は、次式(1)で示すアクティブ酸化となる。なお、式(1)において、sは固体、gは気体であることを示す。
SiC(s)+O2(g)→SiO(g)+CO(g) …(1)
【0020】
このアクティブ酸化条件では、基材の表面にコーティングした炭化珪素膜が、SiOガス及びCOガスとなって消耗する。炉芯管11、ウェーハボート15、ヒートバリア18といった部品は、炭化珪素やシリコンを主成分として含む基材を焼成及び機械加工することにより製造されるが、鉄、ニッケル、銅などの重金属(以下、鉄その他の重金属とも称する。)が焼成及び機械加工時に基材に混入する。基材の表面にコーティングした炭化珪素膜が薄膜化すると、基材に混入したこれらの重金属が炭化珪素膜を透過して、シリコンウェーハを汚染することになる。
【0021】
そのため、本実施形態では、熱処理炉1を構成する炉芯管11、ウェーハボート15、ヒートバリア18といった部品が、
図3に示すように、炭化珪素を主成分として含む材料を基材15aとし、その表面に炭化珪素膜15bが形成された部材である場合、この熱処理炉1を用いて、アクティブ酸化条件の熱処理を実施する前に、当該熱処理炉1の炉内をパッシブ酸化条件でドライ酸化及びウェット酸化により熱処理し、炉芯管11、ウェーハボート15、ヒートバリア18といった部材の表面に、好ましくは総膜厚3μm以上のシリコン酸化膜の層15cを形成する。
【0022】
図4は、
図3のIV部を示す拡大断面図、
図5は本実施形態のシリコン酸化膜の層15cを形成する方法の一例を示す拡大断面図である。
図4に示すように、本実施形態のシリコン酸化膜の層15cは、3層のシリコン酸化膜から構成される。まず、熱処理炉1の炉内をパッシブ酸化条件にして、ドライ酸化条件の熱処理を施し、炭化珪素膜15bの表面に第1のシリコン酸化膜15cd1を形成する(
図5(a)参照)。次に、ウェット酸化条件の熱処理を施し、炭化珪素膜15bの表面に、シリコン酸化膜15cd1より厚膜な第2のシリコン酸化膜15cwを形成する(同図(b)参照)。そして、再びドライ酸化条件の熱処理を施し、炭化珪素膜15bの表面に、シリコン酸化膜15cwより薄膜な第3のシリコン酸化膜15cd2を形成する(同図(c)参照)。
【0023】
パッシブ酸化は、次式(2)で示される酸化反応である。基材の表面にコーティングされた炭化珪素膜は、消耗して薄膜化するものの、シリコン酸化膜の層15cがこれに代わって形成される。そのため、基材に含まれた鉄その他の重金属は、基材の表面に形成されたシリコン酸化膜がバリアとなり、熱処理炉1の炉内に拡散することが抑制される。
SiC(s)+3O2/2(g)→SiO2(s)+CO(g) …(2)
パッシブ酸化条件は、高温且つ比較的高酸素分圧の条件下で生じるので、第1のシリコン酸化膜15cd1を形成する際は、たとえば1100℃以上、酸素分圧が100%とされることが好ましい。また、第1のシリコン酸化膜15cd1は、ドライ酸化条件で形成される。ドライ酸化は、酸化種として酸素(O2)を用いる酸化反応である。ドライ酸化により形成されるシリコン酸化膜は緻密性が高く、シリコン酸化膜の層15cの表面を保護する上層シリコン酸化膜として優れた膜性を有する。そのため、第1のシリコン酸化膜15cd1(以下、上層シリコン酸化膜15cd1とも称する。)により、熱処理炉1の炉内の雰囲気ガスがシリコン酸化膜の層15cの内部に拡散することを抑制できる。
【0024】
ドライ酸化は、緻密性が高い優れた膜質のシリコン酸化膜が得られる一方で、酸化速度が遅く、厚膜のシリコン酸化膜を形成するには非常に多くの時間を要する。そこで、第1のシリコン酸化膜15cd1を形成したのち、中層シリコン酸化膜として第2のシリコン酸化膜15cwを、ウェット酸化条件で形成する。ウェット酸化は、酸化種として水蒸気(H2O)を用いる酸化反応である。ドライ酸化に用いられる酸素分子に比べ、ウェット酸化に用いられる水蒸気分子は、二酸化珪素層(SiO2)への溶解度が大きく、かつ分子が小さいので拡散係数が大きい。このため、ウェット酸化は酸化速度が速く、ドライ酸化を用いるよりも、短時間で厚膜のシリコン酸化膜を形成することができる。これにより、第1のシリコン酸化膜15cd1より厚膜の、第2のシリコン酸化膜15cw(以下、中層シリコン酸化膜15cwとも称する。)を比較的短時間で形成することができる。第2のシリコン酸化膜15cwを形成する際は、酸素分圧が50%以上のウェット酸化条件、たとえば1200℃以上、酸素分圧が80%、水蒸気分圧が20%とされることが好ましい。
【0025】
しかしながら、ウェット酸化は、酸化速度が速いという特性をもつ一方で、形成されるシリコン酸化膜は、ドライ酸化によるシリコン酸化膜に比べて緻密性に劣る。このため、ウェット酸化条件で第2のシリコン酸化膜15cwを形成し、十分な膜厚を確保したのちに、再びドライ酸化条件で下層シリコン酸化膜として第3のシリコン酸化膜15cd2を形成する。第3のシリコン酸化膜15cd2のドライ酸化条件は、第1のシリコン酸化膜15cd1を形成する際と同様に、たとえば1100℃以上、酸素分圧が100%とされることが好ましい。ドライ酸化により形成された第3のシリコン酸化膜15cd2(以下、下層シリコン酸化膜15cd2とも称する。)の緻密な膜が炭化珪素膜のバリアとなって、基材に含まれた少なくとも鉄を含む重金属が、熱処理炉1の炉内に拡散することが抑制される。
【0026】
このように、上層シリコン酸化膜15cd1は、熱処理炉1の炉内の雰囲気ガスがシリコン酸化膜の層15cの内部に拡散することを抑制する。中層シリコン酸化膜15cwは、酸化速度が速いのでシリコン酸化膜の形成時間を短縮する。下層シリコン酸化膜15cd2は、炭化珪素膜を保護して部材のアクティブ酸化反応を抑制する。これにより、シリコン酸化膜の層15cの形成時間を短縮しつつ、優れた膜質の保護膜を形成することができる。
【0027】
また、炉芯管11、ウェーハボート15、ヒートバリア18といった部品の部材表面に形成するシリコン酸化膜の層15cの総膜厚は、3μm以上であることがより好ましい。3μm以上のシリコン酸化膜にすることで、鉄その他の重金属の炉内拡散を抑制するバリアとしての効果がより一層発揮される。
【0028】
このようにして、熱処理炉1を構成する炉芯管11、ウェーハボート15、ヒートバリア18といった部品が、炭化珪素を主成分とする焼結物を基材とし、その表面に炭化珪素膜が形成された部材を用いている場合、1100℃以上、酸素分圧が100%のドライ酸化条件の熱処理を施し、次いで1200℃以上、酸素分圧が80%、水蒸気分圧が20%のウェット酸化条件の熱処理を施し、次いで1100℃以上、酸素分圧が100%のドライ酸化条件の熱処理を施す。これにより、部材の表面に形成された第1のシリコン酸化膜15cd1と、第1のシリコン酸化膜15cd1の表面に形成された第1のシリコン酸化膜15cd1より厚膜の第2のシリコン酸化膜15cwと、第2のシリコン酸化膜15cwの表面に形成された第2のシリコン酸化膜15cwより薄膜の第3のシリコン酸化膜15cd2と、を含むシリコン酸化膜を部材の表面に形成する。
【0029】
この前処理された熱処理炉1を用いて、アクティブ酸化を行っても、炉芯管11、ウェーハボート15、ヒートバリア18といった部品の部材表面にコーティングした炭化珪素膜は、その表面に形成された3層のシリコン酸化膜によって保護されているので、式(1)自体の反応が抑制される。これにより、炉芯管11、ウェーハボート15、ヒートバリア18といった部品の部材表面にコーティングした炭化珪素膜の消耗による薄膜化が抑制されるので、基材に含まれる少なくとも鉄を含む重金属が炉内に放出されるのを抑制することができる。その結果、ウェーハの重金属による汚染を抑制することができる。
【0030】
《実験1》
次に、本発明に係る前処理の酸化条件に関する実験1を説明する。実験1では、CVD法による炭化珪素膜の表面に形成するシリコン酸化膜の層構成について検討した。テストピース(炭化珪素を主成分とする焼成物を基材とし、その表面に、CVD法による炭化珪素膜を形成した部材)を、ドライ酸化条件のみで熱処理してシリコン酸化膜15cdを形成したテストピースDr(
図6(a)参照)と、ウェット酸化条件のみで熱処理してシリコン酸化膜15cwを形成したテストピースWe(
図6(b)参照)と、ドライ酸化条件にて熱処理して上層シリコン酸化膜15cd1を形成したのち、ウェット酸化条件にて熱処理して中層シリコン酸化膜15cwを形成し、再度ドライ酸化条件にて熱処理して下層シリコン酸化膜15cd2を形成したテストピースDW(
図4参照)を作製した。いずれもパッシブ酸化条件で熱処理し、ドライ酸化条件では、熱処理温度を1100℃、酸素分圧を100%の条件にして熱処理し、ウェット酸化条件では、熱処理温度を1200℃、酸素分圧を80%、水蒸気分圧を20%の条件にして熱処理した。また、テストピースDr及びテストピースWeで形成されたシリコン酸化膜の膜厚は3μmであり、テストピースDWでは、ドライ酸化条件にて0.2μm、ウェット酸化条件にて2.6μm、再度ドライ酸化条件にて0.2μmのシリコン酸化膜を形成し、総膜厚が3μmとなるようにした。
【0031】
これら3水準のテストピースDr,We,DWに対し、熱処理温度が1200℃,酸素分圧が3%のアクティブ酸化となる酸化処理を400回(約1300時間)繰り返した。この熱処理を行う熱処理炉内に、Fe汚染量を測定するためのシリコンウェーハを投入しておいた。Fe汚染量は、シリコンウェーハの表面に形成された酸化膜に含まれるFe濃度を、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いて測定することで行った。この測定結果を
図7に示すが、同図のグラフは、熱処理前のシリコンウェーハのFe濃度を1として規格化したFe汚染量の相対比率である。
【0032】
図7に示すように、ドライ酸化条件で形成した、シリコン酸化膜15cdを備えるテストピースDr及びシリコン酸化膜15cd1,15cd2を備えるテストピースDWでは、Fe汚染量の相対比率は1.12~1.14であり、熱処理前と同等の汚染量である。これに対し、ウェット酸化条件で形成した、シリコン酸化膜15cwのみを備えるテストピースWeでは、Fe汚染量の相対比率が1.46であり、熱処理前に対して汚染量が増加している。これは、テストピースに形成された、シリコン酸化膜の緻密性によると考えられる。つまり、テストピースDr及びテストピースDWでは、ドライ酸化条件で形成された緻密なシリコン酸化膜により炭化珪素膜の消耗が抑制されたのに対して、テストピースWeでは、ウェット酸化条件で形成された疎なシリコン酸化膜により炭化珪素膜が消耗し、基材に含まれる鉄の不純物がシリコン酸化膜15cwの外面まで拡散してFe汚染量が増加したものと考えられる。すなわち、ウェット酸化条件で形成されるシリコン酸化膜よりも、ドライ酸化条件で形成されるシリコン酸化膜のほうが、炭化珪素膜の保護性に優れている。
【0033】
また、シリコン酸化膜の層構成を変えたこれらのテストピースDW,Dr,Weにおいて、それぞれが膜厚3μmのシリコン酸化膜を形成するのに要した時間を
図8に示す。シリコン酸化膜の膜厚は、エリプソメータを用いて測定した。
図8に示すように、ドライ酸化条件のみでシリコン酸化膜15cdを形成したテストピースDrは、3μmの膜厚を形成するのに約1250時間を要した。これに対して、ウェット酸化条件のみでシリコン酸化膜15cwを形成したテストピースWeでは、3μmの膜厚を形成するのに要した時間は、約97時間であった。また、テストピースDWでは、ドライ酸化条件でシリコン酸化膜15cd1,15cd2を、ウェット酸化条件でシリコン酸化膜15cwを形成し、総膜厚3μmの膜厚を形成するのに要した時間は、約250時間であった。ウェット酸化条件を用いることにより、ドライ酸化条件のみを用いた場合の5分の1程度の所要時間で、3μmの膜厚を形成することができる。
【0034】
以上、実験1の
図7及び
図8の結果から、炭化珪素を主成分とする焼成物を基材とし、その表面に炭化珪素膜が形成された部材の表面に形成するシリコン酸化膜の層15cは、テストピースDWのように、ドライ酸化条件で形成した上層シリコン酸化膜15cd1と、ウェット酸化条件で形成した中層シリコン酸化膜15cwと、再度ドライ酸化条件にして形成した下層シリコン酸化膜15cd2の、3層からなるシリコン酸化膜とすることが好ましい。テストピースWeのように、ウェット酸化条件で形成したシリコン酸化膜15cwのみとすると、炭化珪素膜の保護性が相対的に劣り、テストピースDrのように、ドライ酸化条件のみでシリコン酸化膜15cdを形成すると、厚膜を形成するのに非常に長い時間を要するので生産性が相対的に劣るからである。
【0035】
《実験2》
次に、熱処理炉の前処理の酸化条件に関する実験2を説明する。実験2では、CVD法による炭化珪素膜の表面に形成するシリコン酸化膜の膜厚について検討した。複数のテストピースCVD(炭化珪素を主成分とする焼成物を基材とし、その表面に、CVD法による炭化珪素膜を形成した部材)を準備し、これらを、
図9に示す処理手順で熱処理し、シリコン酸化膜の層15cを形成して膜厚をそれぞれ1μm,3μmとした複数枚のテストピースDW1,DW3を作製した。シリコン酸化膜の膜厚は、エリプソメータを用いて測定した。
【0036】
図9は、テストピースDW1,DW3におけるシリコン酸化膜を形成するための処理手順を示す図である。
図9に示すように、テストピースDW1では、ドライ酸化条件にて40時間熱処理したのち、ウェット酸化条件にて25時間熱処理し、再びドライ酸化条件にて40時間熱処理した。テストピースDW3では、ドライ酸化条件にて80時間熱処理したのち、ウェット酸化条件にて90時間熱処理し、再びドライ酸化条件にて80時間熱処理した。いずれもパッシブ酸化条件で熱処理し、ドライ酸化条件では、熱処理温度が1100℃、酸素分圧が100%の条件にて熱処理し、ウェット酸化条件では、熱処理温度が1200℃、酸素分圧が80%、水蒸気分圧が20%の条件にて熱処理した。この熱処理により、テストピースDW1では、ドライ酸化条件にて0.1μmのシリコン酸化膜15cd1を、ウェット酸化条件にて0.8μmのシリコン酸化膜15cwを、再度ドライ酸化条件にて0.1μmのシリコン酸化膜15cd2を形成し、総膜厚が1μmとなるようにした。また、テストピースDW3では、ドライ酸化条件にて0.2μmのシリコン酸化膜15cd1を、ウェット酸化条件にて2.6μmのシリコン酸化膜15cwを、再度ドライ酸化条件にて0.2μmのシリコン酸化膜15cd2を形成し、総膜厚が3μmとなるようにした。
【0037】
これら膜厚が相違する2水準のテストピースDW1,DW3と、シリコン酸化膜15cを形成していない無垢のテストピースCVDに対し、熱処理温度が1200℃,酸素分圧が3%のアクティブ酸化となる酸化処理を400回(約1300時間)繰り返した。この熱処理を行う熱処理炉内に、Fe汚染量を測定するためのシリコンウェーハを投入しておいた。Fe汚染量は、シリコンウェーハの表面に形成された酸化膜に含まれるFe濃度を、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いて測定することで行った。この測定結果を
図10に示すが、同図のグラフは、熱処理前のシリコンウェーハのFe濃度を1として規格したFe汚染量の相対比率である。
【0038】
図10に示すように、いずれのテストピースDW1,DW3,CVDにおいても、熱処理を繰り返すにつれてFe汚染量の相対比率は上昇した。しかしながら、シリコン酸化膜の層15cを形成していないテストピースCVDは、400回の熱処理を行うと、熱処理前と比較してFe汚染量の相対比率が5倍以上に増加した。これに対し、テストピースDW3では、400回の熱処理を行ってもFe汚染量の相対比率は1.2倍程度に留まり、テストピースDW1でも2.5倍程度に留まった。テストピースCVDでは、炭化珪素膜が消耗又は薄膜化し、基材に含まれる鉄の不純物が放出してFe汚染量が上昇したものと考えられる。テストピースDW1及びテストピースDW3では、シリコン酸化膜の層15cがバリアとなり、炉内に鉄の不純物が放出するのを抑制したと考えられる。また、3μmのシリコン酸化膜の層15cを備えるテストピースDW3では、Fe汚染量の抑制において顕著な効果が確認された。
【0039】
以上、実験2の
図10の結果から、炭化珪素を主成分とする焼成物を基材とし、その表面に炭化珪素膜が形成された部材の表面に形成するシリコン酸化膜の層15cは、上層シリコン酸化膜15cd1と、中層シリコン酸化膜15cwと、下層シリコン酸化膜15cd2の総膜厚が1μm以上とすることが好ましい。より好ましくは、テストピースDW3のように、総膜厚が3μm以上であると、少なくとも鉄を含む重金属の炉内への拡散を抑制するバリアとして顕著な効果を発揮する。
【符号の説明】
【0040】
1…熱処理炉
10…炉本体
11…炉芯管
12…開口部
13…ガス導入管
14…ヒータ
15…ウェーハボート
15a…炭化珪素を主成分とする基材
15b…炭化珪素膜
15c,15cd1,15cd2,15cw…シリコン酸化膜
16…ドア
17…昇降リフト
18…ヒートバリア
19…昇降テーブル
20…石英製チューブ
W…ウェーハ