(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】デブリ判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/956 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
G01N21/956 A
(21)【出願番号】P 2021115753
(22)【出願日】2021-07-13
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】大西 理
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-150174(JP,A)
【文献】特開平02-275343(JP,A)
【文献】米国特許第09546862(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84-21/958
H01L 21/64-21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーハ裏面にハードレーザーマークを形成した後、または、前記ハードレーザーマークの形成後に前記裏面を研磨した後に、前記裏面のハードレーザーマーク周辺に発生するデブリを外観検査装置によって得た画像を用いて判定する方法であって、
前記外観検査装置で得たグレースケール画像の輝度データを行列データに置き換える工程Aと、
前記行列データから前記ハードレーザーマークを含むハードレーザーマーク印字領域を抽出する工程Bと、
前記抽出したハードレーザーマーク印字領域内の前記ハードレーザーマークの無い部分を基準に輝度の最小二乗面を求める工程Cと、
前記ハードレーザーマーク印字領域から前記輝度の最小二乗面を引き、前記ハードレーザーマーク印字領域の輝度の傾きを除去して規格化行列データを求める工程Dと、
前記規格化行列データから0未満の行列値に0を代入して凸側行列データを求める工程Eと、
前記規格化行列データの符号を反転し、前記ハードレーザーマークを構成するドットを表す行列値とノイズを表す行列値に0を代入して凹側行列データを求める工程Fと、
前記凸側行列データと前記凹側行列データを足し合わせて合成行列データを求める工程Gと、
前記合成行列データに2次元の移動平均処理を施したローパス行列データを求める工程Hと、
前記ローパス行列データから所定の閾値を超える行列値を示すデータを前記デブリと判定し、該デブリのデータの個数を計数して前記ハードレーザーマーク印字領域のデータ数で割って、前記デブリの面積比率を求め、該デブリの面積比率に基づいて、前記ハードレーザーマーク印字領域における前記デブリの有無を判定する工程Iと
を含むことを特徴とするデブリ判定方法。
【請求項2】
前記工程Bでは、
前記行列データで構成された前記グレースケール画像内のビットマップデータから前記ハードレーザーマークを構成するドットの位置に該当する行番号および列番号のデータを含む領域を、前記ハードレーザーマーク印字領域として抽出することを特徴とする請求項1に記載のデブリ判定方法。
【請求項3】
前記工程Hでは、
前記2次元の移動平均処理として、ガウシアン分布を持った重み付け行列を用いて処理することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のデブリ判定方法。
【請求項4】
前記工程Iでは、
予め、前記ハードレーザーマーク印字領域における前記デブリの面積比率とデバイス製造工程におけるデブリ起因の品質不良との関係を求め、かつ、前記デブリ起因の品質不良が発生するデブリの面積比率の閾値(デブリ有り)を設定しておき、
前記ローパス行列データからの前記デブリの面積比率が、前記閾値(デブリ有り)以上の場合は、デブリ有りと判定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のデブリ判定方法。
【請求項5】
前記工程Fでは、
前記ハードレーザーマークを構成するドットを表す行列値を30以上とし、
前記ノイズを表す行列値を10以下とし、
前記工程Iでは、
前記所定の閾値を10とすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれ一項に記載のデブリ判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ裏面のハードレーザーマークの周辺に発生したデブリを外観検査装置によって得た画像を用いて判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハの個体を識別するために、ウェーハ裏面の端の平面部分に固体レーザーを用いて個体番号を印字する工程がある(ハードレーザーマーク工程)。ハードレーザーマークは高出力の固体レーザーでウェーハ自体を溶かしながらドットを断続的に形成し、文字として刻印するため、ドット部周辺はシリコンがアモルファス化し、後の研磨工程でアモルファス化した部分は他の単結晶部位と同様の研磨速度で研磨することが出来ない。そのためドット周辺のアモルファス部には局所的に比較的緩い傾斜を持った突起が形成されると考えている。これをデブリと呼び、デブリがデバイス工程のステージと干渉した場合、デバイス製造に支障をきたすことが指摘されている。そのため、レーザーマーク部に発生したデブリの検出が必要となる。
【0003】
従来では形状測定機を使用してハードレーザーマーク部のデブリを厚さ変化による形状異常として判別する手法を用いていたが、形状測定機では検出できないデブリがデバイス製造工程で問題となるケースが発生している。そのため、このような形状測定機では検出できないデブリを確実に検出する必要がある。
【0004】
従来技術として、画像処理によって表面の凹凸や表面の欠陥を検出する方法が開示されている。
例えば、特許文献1には球面状凹部および球面状凸部を画像処理した場合の一例が示されており、REVモード(リバース位置デフォーカス)とすると、凸形状は明るく撮像される(凹形状は暗く撮像される)ことや、FOWモード(フォワー位置デフォーカス)では凹形状が明るく撮像される(凸形状は暗く撮像される)ことが開示されている。
【0005】
この技術は、加工起因または結晶起因の窪み状の欠陥の検出を目的にしたものであり、緩やかな突起(デブリ)を検出することを目的としたものではない。
この方法によりハードレーザーマーク印字領域の表面の凹凸を検出しようとした場合、ハードレーザーマークの印字部の凹凸が検出されるだけであり、緩やかな突起(デブリ)を検出することは不可能である。
【0006】
また、特許文献2には、検査対象物の表面を微分干渉顕微鏡で撮影し、画像処理によって表面に観察される欠陥の個数を計数する欠陥検査方法において、撮影画像中で輝度が変化する点を基に欠陥を検出することを特徴とする欠陥検査方法が開示されている。
しかし、この技術は表面の欠陥個数を計測する方法であって、裏面のハードレーザーマーク印字領域の緩やかな突起(デブリ)を検出することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-53764号公報
【文献】特開2002-365236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、従来、形状測定機を使用してハードレーザーマーク部のデブリを厚さ変化による形状異常として判別する手法を用いていたが、形状測定機では検出できないデブリがデバイス製造工程で問題となるケースが発生している。
【0009】
そのため、本発明は、このような形状測定機では検出できないデブリを確実に検出してデブリの有無を判定することができるデブリ判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、ウェーハ裏面にハードレーザーマークを形成した後、または、前記ハードレーザーマークの形成後に前記裏面を研磨した後に、前記裏面のハードレーザーマーク周辺に発生するデブリを外観検査装置によって得た画像を用いて判定する方法であって、
前記外観検査装置で得たグレースケール画像の輝度データを行列データに置き換える工程Aと、
前記行列データから前記ハードレーザーマークを含むハードレーザーマーク印字領域を抽出する工程Bと、
前記抽出したハードレーザーマーク印字領域内の前記ハードレーザーマークの無い部分を基準に輝度の最小二乗面を求める工程Cと、
前記ハードレーザーマーク印字領域から前記輝度の最小二乗面を引き、前記ハードレーザーマーク印字領域の輝度の傾きを除去して規格化行列データを求める工程Dと、
前記規格化行列データから0未満の行列値に0を代入して凸側行列データを求める工程Eと、
前記規格化行列データの符号を反転し、前記ハードレーザーマークを構成するドットを表す行列値とノイズを表す行列値に0を代入して凹側行列データを求める工程Fと、
前記凸側行列データと前記凹側行列データを足し合わせて合成行列データを求める工程Gと、
前記合成行列データに2次元の移動平均処理を施したローパス行列データを求める工程Hと、
前記ローパス行列データから所定の閾値を超える行列値を示すデータを前記デブリと判定し、該デブリのデータの個数を計数して前記ハードレーザーマーク印字領域のデータ数で割って、前記デブリの面積比率を求め、該デブリの面積比率に基づいて、前記ハードレーザーマーク印字領域における前記デブリの有無を判定する工程Iと
を含むことを特徴とするデブリ判定方法を提供する。
【0011】
このような本発明のデブリ判定方法によれば、形状測定器では検出できないデブリのみを確実に抽出することが可能となり、従来法よりも確実にデブリの有無の判定を行うことができる。
またデブリの面積比率を求めることにより、定量的な評価が可能となる。
【0012】
このとき、前記工程Bでは、
前記行列データで構成された前記グレースケール画像内のビットマップデータから前記ハードレーザーマークを構成するドットの位置に該当する行番号および列番号のデータを含む領域を、前記ハードレーザーマーク印字領域として抽出することができる。
【0013】
このようにして、より簡便にハードレーザーマーク印字領域を抽出することができ、画像処理対象とすることができる。
【0014】
また、前記工程Hでは、
前記2次元の移動平均処理として、ガウシアン分布を持った重み付け行列を用いて処理することができる。
【0015】
このようにすれば、合成行列データにおいては完全に除去しきれていないハードレーザーマークのドットの外周縁部の短周期の数値変動を除去したローパス行列データを、より簡便かつ適切に得ることが出来る。
【0016】
また、前記工程Iでは、
予め、前記ハードレーザーマーク印字領域における前記デブリの面積比率とデバイス製造工程におけるデブリ起因の品質不良との関係を求め、かつ、前記デブリ起因の品質不良が発生するデブリの面積比率の閾値(デブリ有り)を設定しておき、
前記ローパス行列データからの前記デブリの面積比率が、前記閾値(デブリ有り)以上の場合は、デブリ有りと判定することができる。
【0017】
デバイス製造工程においてデブリ起因で発生する品質特性の不良が分かっている場合、上記のようにして判定すれば、極めて精度の高い、効果的なデブリ判定方法とすることができる。
【0018】
また、前記工程Fでは、
前記ハードレーザーマークを構成するドットを表す行列値を30以上とし、
前記ノイズを表す行列値を10以下とし、
前記工程Iでは、
前記所定の閾値を10とすることができる。
【0019】
このようにすれば、形状測定機では検出できないデブリのみをより確実に抽出することができ、より確実なデブリの有無の判定を行うことができる。
【0020】
また本発明は、裏面にハードレーザーマークを有するウェーハであって、
上記本発明のデブリ判定方法によって前記デブリが無いと判定された前記ハードレーザーマーク印字領域を有するものであることを特徴とするウェーハを提供する。
【0021】
このような本発明のウェーハは、形状測定機では検出できないようなデブリについても無いと判定された合格品であり、後にデバイス製造工程にかけてもデブリ起因の問題が発生するのを抑制可能な良品となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のデブリ判定方法であれば、形状測定機では検出できないデブリを確実に検出し、その有無の判定をすることができる。また、定量的なデブリの評価が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明のデブリ判定方法の一例を示すフロー図である。
【
図2】工程Bで抽出したハードレーザーマーク印字領域の一例を示す画像である。
【
図3】工程Cで求めたハードレーザーマーク印字領域における輝度の最小二乗面(輝度の傾き)の一例を示す画像である。
【
図4】工程Dで求めた規格化行列データの一例を示す画像である。
【
図5】規格化行列データから凸側行列データへの変遷の一例を示すグラフである。
【
図6】規格化行列データの符号を反転した行列データから凹側行列データへの変遷の一例を示すグラフである。
【
図7】合成行列データからローパス行列データへの変遷の一例を示すグラフである。
【
図8】ローパス行列データからの、所定の閾値を基にしたデブリの判定・抽出を示すグラフである。
【
図9】デブリの面積比率とデバイス製造工程におけるデフォーカス発生との関係の一例を示すグラフである。
【
図10】実施例における判定対象用の29枚のうちの15枚の、工程Iでデブリと判定された部分の行列を示す画像である。
【
図11】実施例における判定対象用の29枚のうちの残りの14枚の、工程Iでデブリと判定された部分の行列を示す画像である。
【
図12】比較例におけるESFQRとデバイス製造工程におけるデフォーカス発生との関係を示すグラフである。
【
図13】ハードレーザーマークを含むノッチ位置のセルを示す説明図である。
【
図14】1次元におけるガウシアン分布の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について図面を参照して実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、簡単のため以下では、ハードレーザーマークをHLM、ハードレーザーマーク印字領域を印字領域、と言うことがある。
本発明は、個体番号としてHLMを形成したウェーハ裏面や、その後にさらに研磨した裏面において、HLMの周辺に発生したデブリを外観検査装置によって得た画像(グレースケール画像)を用いて判定する方法である。外観検査装置としては、例えば従来から市販されているものを用いることができる。一例として、SIFTer300が挙げられる。
【0025】
図1に本発明のデブリ判定方法の一例を示す。大きく分けて、工程A:行列データへの置換、工程B:印字領域抽出、工程C:輝度の最小二乗面算出、工程D:規格化行列データ算出、工程E:凸側行列データ算出、工程F:凹側行列データ算出、工程G:合成行列データ算出、工程H:ローパス行列データ算出、工程I:判定からなっている。
各工程について以下に詳述する。
【0026】
<工程A:行列データへの置換>
外観検査装置で得たグレースケール画像の輝度データを行列データに置き換える工程である。
まず外観検査装置で得られるグレースケール画像としては、ハードレーザーマーク印字位置検査画像B_T7(BMP形式)で、8bitグレースケール(256階調)が挙げられる。HLMはウェーハの規定された位置に印字されているものであり、その付近を撮影したものである。
工程Aでは、この外観検査装置が印字領域近傍を撮影して得たグレースケール画像の輝度データを行列で表す。この行列への置換作業はコンピュータなどにより行うことができる。例えば7669×2048の行列とすることができる。
【0027】
<工程B:印字領域抽出>
行列データからHLMを含む印字領域を抽出する工程である。
例えば、上記の行列データ化したグレースケール画像内のビットマップデータからHLMを構成するドットの位置に該当する行番号および列番号のデータを含む領域を抽出すると簡便である。HLMのドットが印字されている部分を含め、かつ、その部分から特には縦横20行列以上大きい行列の範囲で切り取ることが好ましい。上記のようにHLMはウェーハ上の規格で設定された領域に印字されているため、印字領域の行列範囲は設定しておくことが可能である。例えば、工程Aで得た行列データから、行番号2800~4650、列番号1000~1600のデータを切り出し、印字領域の行列とすることができる。抽出した印字領域の一例を
図2に示す。
このように印字領域を含む範囲を抽出することにより、デブリが発生する領域のみを画像処理対象とすることができる。
【0028】
なお、上記のように予め抽出する範囲を設定しておき実行することもできるし、例えば作業員の手動により、工程Aでの行列データのうちHLMを含む領域をトリミングして印字領域を抽出することも可能である。
【0029】
ここで、印字領域はウェーハ外周部分に存在するため、微視的に見るとウェーハ外周形状の影響を受けてHLMのドットが無い部分も輝度が一定にはなっていない。そこで、以下に説明する工程C、Dにより、印字領域の輝度の傾き、つまりは、ウェーハ外周形状に起因した輝度変化の影響を除外する。これにより、後に説明するデブリを検出するためのピクセル輝度の各種の閾値を精度の高いものとすることができる。
【0030】
<工程C:輝度の最小二乗面算出>
抽出した印字領域内のHLMの無い部分を基準に輝度の最小二乗面を求める工程である。
前述したようにして抽出した印字領域において、HLMのドットの無い四隅を基準にして輝度の最小二乗面を求めることが好ましい。つまり、
図2に示すように、印字領域は例えば縦横2辺ずつで囲まれた矩形状であり、上記のようにHLMの印字されている部分より縦横20行列以上大きい範囲で抽出したため、各辺の近傍はHLMが無い。この矩形状の四隅における4点の行列値(輝度データ)を用い、コンピュータによって印字領域における輝度の最小二乗面(平面)を求める。
求めた輝度の最小二乗面の一例を
図3に示す。
図3において、左側のウェーハ中心側から右側のウェーハエッジ側に向かって輝度が低くなるように変化しているのが分かる(輝度の傾きが見られる)。
【0031】
<工程D:規格化行列データ算出>
印字領域から輝度の最小二乗面を引き、印字領域の輝度の傾きを除去して規格化行列データを求める工程である。
つまり、
図2のような印字領域の輝度データから
図3のような輝度の最小二乗面を差し引く。これによって、各々の行列値からウェーハ外周形状に起因した輝度変化の影響を除外することができる。このように行列値を最小二乗面にノーマライズした(最小二乗面をゼロとした)行列データを規格化行列データとする。規格化行列データの一例を
図4に示す。
【0032】
次に、この印字領域の規格化行列データからデブリを抽出するにあたって、まず、HLMのドットを除外する。以下に説明する工程E、Fのように、2段階に分けて行う。
【0033】
<工程E:凸側行列データ算出>
規格化行列データから0未満の行列値に0を代入して凸側行列データを求める工程である。
HLMのドットを除外する工程の第1段階では、まず、印字領域の規格化行列データから0を下回る行列値を検索する。なぜなら、HLMのドットは凹状の深い穴となっており、規格化行列データにおいて負の値を示すためである。そして、このような印字領域において0を下回る行列値(0未満の行列値)に0を代入することによって、HLMのドットを除外することが出来る。ここで得られる行列データを凸側行列データとする。
【0034】
図5に、規格化行列データから凸側行列データ(プロファイルA)への変遷の一例を示す。ここでは、ある行番号における、列番号が350-600での行列値の変遷を例に挙げる。縦軸が輝度の相対階調、横軸が位置(列番号)である。
規格化行列データにおいて、この例ではグラフから分かるように相対階調が-100付近になっている部分がHLMのドット(HLMの凹み)である。一方、そのドット以外の部分で、基準に対して凸になっている部分や凹になっている部分がデブリ候補である。
上記のように0未満の行列値に0を代入することによって、凸になっているデブリ候補のみの凸側行列データを得ることができる。
【0035】
<工程F:凹側行列データ算出>
規格化行列データの符号を反転し、HLMのドットを表す行列値とノイズを表す行列値に0を代入して凹側行列データを求める工程である。
この第2段階では、規格化された印字領域の行列値の符号を反転させた行列を用いる。この点について以下に説明する。
【0036】
HLMの部分の画像撮影時の光源設置上の制限から、画像上、暗く見える部分(凹になっている部分)もデブリとして扱う必要がある。しかしながら、第1段階のように、規格化された印字領域における行列値のうち0を下回る行列値に0を代入すると、凹となって見えるデブリの部分までHLMのドットと一緒に除外されてしまう。そこで本発明では、規格化された印字領域の行列値の符号を反転させることにより、負の値で表現されている行列値を正の値に換える。
【0037】
そして、HLMのドットとノイズを除外することにより、凹みに見えるデブリ候補のみを抽出する。この場合のHLMのドットとノイズの除外は、2つの閾値を用いて行うことができる。符号を反転させた状態においてHLMのドットの行列値は他の部分に比べて大きな正の値として表現される。また、規格化した印字領域において凹に見えたデブリ候補は、符号を反転させた状態において比較的低い高さを持った正の値として表現される。そこで、規格化し、行列の符号を反転させた行列値に、例えば10以下かつ30以上の行列に0を代入する。30以上の行列値は、HLMのドットを表しており、10以下の行列値は、微小な傾きを持つ凹凸、すなわちノイズを表しているものとすることができる。このように、規格化行列データの符号を反転させたものから、ドットの影響やノイズの影響を分離するための適当な閾値を設定して除外する。なお、上記のようなノイズ除外のための閾値(所定の数値以下)により、凸になっているデブリ候補(符号の反転前では正だったものの、符号の反転により負になった部分)も併せて除外される。
なお、上記の10以下や30以上という、ノイズやドットの除外のための閾値は特に限定されず、その都度決定することができる。
【0038】
図6に、規格化行列データの符号を反転した行列データから凹側行列データ(プロファイルB)への変遷の一例を示す。
符号を反転した行列データにおいて、この例ではグラフから分かるように相対階調が100付近になっている部分がHLMのドット(HLMの凹み)である。一方、そのドット以外の部分で正の値の部分が、元々は凹になっている部分のデブリ候補である。
上記のように例えば30以上と10以下の行列値に0を代入することによって、ドットやノイズを除外して、凹になっているデブリ候補のみの凹側行列データを得ることができる。この工程Fによって、デブリ候補を全て凸形状に揃えることができる。ただし、実際には、このデブリ候補には、HLMの外周縁部(単に、HLMの縁とも言う)の影響も含まれている。
【0039】
<工程G:合成行列データ算出>
凸側行列データと凹側行列データを足し合わせて合成行列データを求める工程である。
このように工程Eの凸側行列データと工程Fの凹側行列データとを足し合わせることによって、デブリ候補の行列値は全て正の値となる。
【0040】
<工程H:ローパス行列データ算出>
合成行列データに2次元の移動平均処理を施したローパス行列データを求める工程である。
前述したように工程Fの凹側行列データは、2つの閾値でHLMのドットの影響とノイズの影響とを除外しているが、HLMのドットの外周縁部の影響を完全に除外しきれていない。HLMのドットの外周縁部の行列値はHLMのドットの無い部分の行列値と比較するとスパイク状に短い距離(短周期)で値が変動している。
当然、その凹側行列データと凸側行列データとを足し合わせた合成行列データのデブリ候補のなかには完全に除去しきれていないドットの外周縁部の影響が存在し、数値の大小だけでは実際のデブリとドットの外周縁部との区別がつかない。
【0041】
そこで、合成行列データに2次元の移動平均を適用することによって、完全に除去しきれていないHLMのドット外周縁部の短周期の数値変動を除去する。ここでは、例えば、ガウシアン分布で重み付けをした20×20の行列を移動平均として用いることができる。合成行列データにガウシアン分布を持った重み付け行列で畳み込み(コンボリューション)を行うことによって、合成行列データに含まれる短周期の数値変動を除去したローパス行列データを得ることが出来る。すなわち、HLMのドットの外周縁部起因の短周期の像をデブリ候補から除外することができる。ガウシアン分布を利用することでより簡便かつ適切な行列データを得ることができる。
【0042】
ここでガウシアン分布の一例を
図14を参照して説明する。簡単のため、ここでは1次元の場合について説明する。均等に並んだポイントの各々にデータ値が入っていて、そのうちのある9点のポイントの中心(
図14のx軸の0の位置)におけるデータ値を求める場合を考える。この中心のポイントでの寄与率を1(100%)として、中心から離れるにしたがって寄与率が下がる分布を考える。より具体的には、中心から離れるにしたがって寄与率がexp(-ax
2)の式にしたがい小さくなる分布である(なお、aの値は適宜決定することができる)。
図14の例では、中心100%に対して50、10、1、0.1%のように寄与率が小さくなっているが、これに限定されるものではない。これにより、9つのポイントの各々の寄与率を100%として計算した単純移動平均による中心のデータ値よりも、妥当性の高い中心のデータ値を得ることができる。
【0043】
図7に、合成行列データ(プロファイルA+プロファイルB)からローパス行列データへの変遷の一例を示す。
合成行列データでは、デブリ候補に短周期のHLMの縁の影響が含まれていたものの、ローパス行列データでは短周期の数値変動が無くなっていることが分かる。
【0044】
<工程I:判定>
ローパス行列データから所定の閾値を超える行列値を示すデータをデブリと判定し、該デブリのデータの個数を計数して印字領域のデータ数で割って、デブリの面積比率を求め、該デブリの面積比率に基づいて、印字領域におけるデブリの有無を判定する工程である。
この工程について、より具体的に説明する。
工程Hで得られたローパス行列データは0以上の数値で構成されているため、所定の閾値、例えば閾値を10として該閾値を超える行列値をデブリと判定して抽出する。当然、この閾値は適宜決定することができ、これに限定されない。
【0045】
図8に、ローパス行列データからの、所定の閾値を基にしたデブリの判定・抽出を示す。なお、比較のため、工程Dでの規格化行列データも併せて示す。
このように、凸になっているデブリのみならず、凹になっているデブリも抽出できている。また、HLMのドットの縁の影響も受けておらず、デブリのみ抽出できていることが分かる。
【0046】
そして、ローパス行列データを構成するデータ数(印字領域のデータ数)に対する、行列値が上記閾値を超えたデータ数(デブリと判定されたデータ数)の比を求めることによって、印字領域に対するデブリの面積比率を求める。
このようにして求めたデブリの面積比率から、印字領域におけるデブリの有無を判定するが、その有無判定のための閾値を、例えば下記のようにして設定しておくことができる。
【0047】
まず、予め、印字領域におけるデブリの面積比率と、デバイス製造工程におけるデブリ起因の品質不良との関係を求めておく。さらには、その関係から、デブリ起因の品質不良が発生するデブリの面積比率の閾値(デブリ有り)を設定しておく。
そして、実際の判定対象のウェーハにおいて上記のようにして求めたデブリの面積比率が、上記の閾値(デブリ有り)以上の場合は、デブリ有り(品質不良を引き起こすようなデブリ)と判定する。
【0048】
図9はデブリの面積比率とデバイス製造工程におけるデフォーカス発生との関係の一例を示している。横軸のサンプル水準(Slot)をデブリの面積比率で高いものから低いものにわかりやすく並べ替えたものである。
このケースではデブリの面積比率が処理対象領域(印字領域)の0.64~0.67%あたりから、デフォーカス不良が生じ始めることから、例えば0.5%を閾値(デブリ有り)と設定することができ、0.5%以上である場合にデブリ有りと判断することができる。
【0049】
よって、実際に工程Iで判定して抽出したデブリの行列データについて、[デブリと判定された行列データ数]/[HLMの印字領域の行列データ数]の比からデブリの面積比率を算出し、その面積比率が処理対象領域(印字領域)の0.5%を合否の判定基準としてクリアするか否かにより、デブリの有無の判定を精度高く行うことができる。特には、デバイス製造工程でデフォーカス不良が発生することのないウェーハを確実に選別することができる。
【0050】
以上のような本発明であれば、形状測定機を用いた従来の検査方法では検出できないデブリを確実に検出することができ、精度の良いデブリの有無の判定を行うことができる。またデブリの面積比率を求めて評価するので定量的な評価を行うことができる。
【0051】
また、本発明の判定方法でデブリ無しと判定された印字領域を有する合格品のウェーハは、上記のように精度の良い判定をクリアしたものであるので、デバイス製造工程において、デブリ起因のデフォーカス不良などの問題が生じるのを防ぐことができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
直径:300mm、結晶面方位:(110)、枚数:(25+29)枚のウェーハを用意した。ハードレーザーマークの刻印箇所はウェーハ裏面ノッチより5±1°であり、両面研磨を施した。
なお、計54枚のうち、25枚はデブリの面積比率とデバイス製造工程におけるデフォーカス発生との関係を調査するためのものであり、その関係を基準にして、他の29枚について、デフォーカス発生に影響するようなデブリの有無の判定を行う。
【0053】
これらのウェーハについて、外観検査装置(SIFTer300)によって得られたBMP形式の8bitグレースケール(256階調)画像に対し、画像処理を行ってデブリを検出した。
【0054】
<工程A:行列データへの置換>
上記のグレースケール画像を行列データ(行列7669×2048)へと置換した。
【0055】
<工程B:印字領域抽出>
上記のグレースケール画像からの行列データのうち、行番号2800~4650、列番号1000~1600のデータを切り出し、ハードレーザーマーク印字領域の行列データとした。
【0056】
<工程C:輝度の最小二乗面算出>
工程Bで切り出した印字領域における、ハードレーザーマークのドットの無い4角の4点の行列値から輝度の最小二乗面を算出した。
【0057】
<工程D:規格化行列データ算出>
ハードレーザーマーク印字領域の行列データから工程Cの輝度の最小二乗面を差し引き、規格化行列データとした。
【0058】
<工程E:凸側行列データ算出>
工程Dで求めた規格化行列データから、0未満の行列値に0を代入して凸側行列データを得た(デブリ候補)。
【0059】
<工程F:凹側行列データ算出>
工程Dで求めた規格化行列データに-1を掛けて、規格化行列データの行列値の符号を反転させた。これによって、画像上、暗くて凹に見える部分が凸のデブリとして認識できる。更に、ハードレーザーマークのドットの影響を除外するために、閾値30以上の行列値に0を代入した。また、デブリとは関係のない、ウェーハ形状に起因したデブリよりも比較的小さい凹凸の影響を除外するために閾値10以下の行列値に0を代入した。以上の処理で符号反転して得た行列データから、ハードレーザーマークのドット、およびデブリとは関係ないノイズの影響を除外した。これにより、凹側行列データを得た(デブリ候補)。
【0060】
<工程G:合成行列データ算出>
工程Eで求めた凸側行列データと、工程Fで求めた凹側行列データとを足し合わせた。画像上、突起に見えるデブリも凹みに見えるデブリも正の値となる。しかしながら、凹側行列データには、二つの閾値を用いてデブリとは関係ない対象の除外を行っているものの、ハードレーザーマークのドットの外周縁部の影響が残存している。ハードレーザーマークのドットの外周縁部はデブリに比べて明確に短周期の凹凸となっているため、次工程でローパスフィルターを適用して除去することが出来る。
【0061】
<工程H:ローパス行列データ算出>
工程Gで求めた合成行列データを20×20のガウシアン分布を持った行列で畳み込み演算(コンボリューション)を行い、ハードレーザーマークのドットの外周縁部の短周期の突起を除去した。
【0062】
<工程I:判定>
工程Hで得られたローパス行列データの中で、閾値10を超える行列値を示すデータをデブリと判定し、そのデータ数を計数し、ローパス行列データ(ハードレーザーマーク印字領域)を構成するデータ数との比からデブリの面積比率(Area%)を算出した。
得られたデブリの面積比率と、デバイス製造工程におけるデフォーカス発生との関係について調べたところ、
図9と同様の関係のグラフが得られた。具体的な問題(デフォーカス)が生じるデブリの面積比率について、0.64~0.67%がデフォーカスの発生境界付近と認識し、0.5%以上をデブリ有りとした。これが、調査用の25枚から得られた結果である。
【0063】
そして、判定対象用の29枚について、
図9のグラフから得られた合否の判定基準:0.5%にしたがって判定を行った。
まず
図10に、29枚のうちの15枚について、工程Iでデブリと判定された部分の行列を白色で示した。また、
図11に、残りの14枚について示した。デブリの面積比率は各画像の上に記載のように、0%~約16%と様々であった。
そして、0.5%以上のものをデブリ有りと判定して不合格(NG)とし、0.5%未満のものをデブリ無しと判定して合格(OK)とした。
実際にデバイス製造工程を経てデフォーカス不良について調べたところ、各々、判定結果と一致した。すなわち、不合格と判定したものにはデフォーカス不良が発生し、合格と判定したものには問題となるデフォーカス不良は発生しなかった。したがって、本発明のデブリ判定方法により、デフォーカス不良が発生するようなデブリの有無を効果的に判定できていることが分かる。
【0064】
(比較例)
市販の形状測定機(WaferSight;KLAテンコール社製)でハードレーザーマーク印字領域を形状測定した結果(ESFQR)を、デバイス工程でデフォーカス判定結果を元に分離できるか解析したものである。
ウェーハとしては、実施例の調査用の25枚と同様のものを用意した。
なお、ESFQRとは矩形領域(セル)の領域内最小二乗法からの正及び負の偏差の範囲を算出したものである。測定対象となる略矩形の領域は外周端から直径方向に10mm、周方向18°に相当する弧により囲まれており、ウェーハ中心角270°の位置のセル(ノッチの位置のセル)がハードレーザーマークを含む領域となる。
図13にハードレーザーマークを含むノッチ位置のセルを示す。
【0065】
図12に、ESFQRとデバイス製造工程におけるデフォーカス発生との関係の一例を示す。横軸のサンプルの水準の並びは実施例の並びと同じである。
形状測定した270°の矩形領域がハードレーザーマークの形成位置に相当するが、デバイス工程におけるデブリ起因のデフォーカス不良の有無をESFQRの値に基づいて判定することができないことがわかる。
つまり、従来のデブリ異常選別方法として厚さ形状変化値(ESFQR)を基に問題となるウェーハを分類しようとしたところ、以下の結果となった。デバイス工程でデフォーカスの問題となったウェーハが高い値を示すものもあるが、巨大デフォーカスでも値が高くならないものもある。逆に問題のないウェーハが高くなるものもあり、結局、そもそもESFQRではデブリの有無の選別ができない。
【0066】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。