(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】合わせガラス用中間膜およびその製造方法、並びに、合わせガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20240723BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20240723BHJP
C08F 257/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C03C27/12 F
B32B17/10
C08F257/00
(21)【出願番号】P 2021502157
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006923
(87)【国際公開番号】W WO2020175339
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2019036881
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】千葉 大道
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-081775(JP,A)
【文献】特開昭55-046950(JP,A)
【文献】特開平08-112852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B32B 17/10
C08F 257/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成の異なる2種類以上の樹脂組成物を用いて形成された合わせガラス用中間膜であって、
平面視中央位置において、マイクロスラリージェットエロージョン法を使用し、Siウェハに対するエロージョン率が6.36μm/gになる投射力にて多角アルミナ粒子を投射して膜厚方向に分析した際に、両表層部間に位置する領域に、エロージョン率の変化量(={(投射n回目のエロージョン率)-(投射n-1回目のエロージョン率)}/{(投射n回目のエロージョン深さ)-(投射n-1回目のエロージョン深さ)};nは2以上の整数)の絶対値が0.05g
-1超の部分を有さ
ず、
前記2種類以上の樹脂組成物が、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とを有するブロック共重合体[C]を水素化したブロック共重合体水素化物[D]を含有する樹脂組成物と、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロックと、共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロックとを有するブロック共重合体を水素化したブロック共重合体水素化物にアルコキシシリル基を導入してなる変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物とを含む、合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
前記ブロック共重合体水素化物[D]は、前記ブロック共重合体[C]の前記共役ジエン化合物に由来する主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合、並びに、前記芳香族ビニル化合物に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合の90%以上が水素化されたものである、請求項
1に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
マイクロスラリージェットエロージョン法を使用して前記平面視中央位置を分析した際に得られる、エロージョン率とエロージョン深さとの関係を示すグラフが、ピークを1つ以上有し、
前記ピークが、投射n回目のエロージョン率と、投射n-1回目のエロージョン率との差が、絶対値で0.15μm/g未満であるベース部分間に位置する、請求項1
または2に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
前記グラフが、3つのベース部分と、2つのピークとを有する、請求項
3に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項5】
前記ピークを挟んで位置する2つのベース部分間で平均エロージョン率が異なる、請求項
3または4に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
マイクロスラリージェットエロージョン法を使用し、Siウェハに対するエロージョン率が6.36μm/gになる投射力にて多角アルミナ粒子を投射して膜厚方向に分析した際に、両表層部間に位置する領域に、下記の条件(I)を満たす領域(A)と、下記の条件(II)を満たす領域(B)と、下記の条件(I)を満たす領域(A)とが順次現出する部分を有し、且つ、前記領域(A)および前記領域(B)が、それぞれ、平面視中央位置から平面視端部まで延在している、請求項1~
5の何れかに記載の合わせガラス用中間膜。
・条件(I):投射n回目のエロージョン率と、投射n-1回目のエロージョン率との差が、絶対値で0.15μm/g未満である
・条件(II):投射n回目のエロージョン率と、投射n-1回目のエロージョン率との差が、絶対値で0.15μm/g以上であり、且つ、エロージョン率の変化量(={(投射n回目のエロージョン率)-(投射n-1回目のエロージョン率)}/{(投射n回目のエロージョン深さ)-(投射n-1回目のエロージョン深さ)})の絶対値が0.01g
-1以上0.05g
-1以下である
【請求項7】
請求項1~
6の何れかに記載の合わせガラス用中間膜を備える、合わせガラス。
【請求項8】
請求項1~
6の何れかに記載の合わせガラス用中間膜の製造方法であって、前記2種類以上の樹脂組成物を多層共押出成形する工程を含む、合わせガラス用中間膜の製造方法。
【請求項9】
厚み規制部材を合流部に備えるフィードブロックを用いて前記多層共押出成形を行い、
前記合流部で互いに積層される2種類の樹脂組成物の間に位置する前記厚み規制部材は、幅方向断面視において、溶融粘度が低い樹脂組成物が通過する側が、幅方向中央部が凹となる形状であり、溶融粘度が高い樹脂組成物が通過する側が、幅方向中央部が凸となる形状である、請求項
8に記載の合わせガラス用中間膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラス用中間膜、合わせガラス用中間膜の製造方法、および、合わせガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
合わせガラスは、衝撃を受けて破損した場合でも、衝突物の貫通やガラス破片の飛散等を防止できるため、安全性に優れている。そのため、合わせガラスは、自動車、鉄道車両、航空機、船舶及び建築物等に広く使用されている。合わせガラスは、複数のガラス板を、接着性を有する透明樹脂からなる中間膜を挟んで接着一体化することにより製造される。
【0003】
ここで、近年では、合わせガラスに用いられる中間膜を改良し、合わせガラスに対して遮熱機能、遮音機能、画像表示機能などの付加機能を付与することが試みられている。具体的には、合わせガラスに付加機能を付与し得る高機能性中間膜として、例えば、特定の周波数の音を吸収する材料よりなる吸音層を2層の接着層の間に挟み込んでなる遮音中間膜や、赤外線吸収性の粒子を分散させた樹脂層を2層の接着層の間に挟み込んでなる遮熱中間膜が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/076338号
【文献】国際公開第2016/076339号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の中間膜では、組成の異なる材料よりなる非相溶性の層を積層しており、積層方向に隣接する層間に界面が存在するため、界面部分において歪や剥離が発生したり、中間膜を用いた合わせガラスの強度の低下や外観不良が発生したりすることがあった。
【0006】
そこで、本発明は、組成の異なる2種類以上の樹脂組成物を用いて形成された中間膜を備える合わせガラスであって、強度および外観に優れる合わせガラスの提供を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、マイクロスラリージェットエロージョン(MSE)法を用いて分析した際に表層部間に位置する領域のエロージョン率の変化量が所定値を超えない中間膜を使用すれば、強度および外観に優れる合わせガラスが得られること、並びに、共押し出し法を使用すれば当該中間膜が容易に得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の合わせガラス用中間膜は、組成の異なる2種類以上の樹脂組成物を用いて形成された合わせガラス用中間膜であって、平面視中央位置において、マイクロスラリージェットエロージョン法を使用し、Siウェハに対するエロージョン率が6.36μm/gになる投射力にて多角アルミナ粒子を投射して膜厚方向に分析した際に、両表層部間に位置する領域に、エロージョン率の変化量(={(投射n回目のエロージョン率)-(投射n-1回目のエロージョン率)}/{(投射n回目のエロージョン深さ)-(投射n-1回目のエロージョン深さ)};nは2以上の整数)の絶対値が0.05g-1超の部分を有さないことを特徴とする。
このように、平面視中央位置においてマイクロスラリージェットエロージョン法を用いて膜厚方向に分析した際に、両表層部間に位置する領域にエロージョン率の変化量の絶対値が0.05g-1超の部分を有さない合わせガラス用中間膜であれば、強度および外観に優れる合わせガラスの形成が可能になる。
なお、本発明において、「表層部」とは、分析を開始した側の表面から投射回数が10回目までの領域、および、分析を終了する側の表面までの残り投射回数が10回以下の領域、を指す。
【0009】
ここで、本発明の合わせガラス用中間膜は、マイクロスラリージェットエロージョン法を使用して前記平面視中央位置を分析した際に得られる、エロージョン率とエロージョン深さとの関係を示すグラフが、ピークを1つ以上有し、前記ピークが、投射n回目のエロージョン率と、投射n-1回目のエロージョン率との差が、絶対値で0.15μm/g未満であるベース部分間に位置することが好ましい。エロージョン率とエロージョン深さとの関係を示すグラフが上記ベース部分間にピークを有していれば、合わせガラス用中間膜の形成に用いた2種類以上の樹脂組成物の界面部分における歪や剥離の発生を十分に抑制することができる。
【0010】
なお、前記グラフは、3つのベース部分と、2つのピークとを有することが好ましい。
【0011】
そして、本発明の合わせガラス用中間膜は、前記ピークを挟んで位置する2つのベース部分間で平均エロージョン率が異なることが好ましい。ピークを挟んで位置する2つのベース部分間で平均エロージョン率が異なっていれば、付加機能を良好に発揮し得る。
【0012】
また、本発明の合わせガラス用中間膜は、マイクロスラリージェットエロージョン法を使用し、Siウェハに対するエロージョン率が6.36μm/gになる投射力にて多角アルミナ粒子を投射して膜厚方向に分析した際に、両表層部間に位置する領域に、下記の条件(I)を満たす領域(A)と、下記の条件(II)を満たす領域(B)と、下記の条件(I)を満たす領域(A)とが順次現出する部分を有し、且つ、前記領域(A)および前記領域(B)が、それぞれ、平面視中央位置から平面視端部まで延在していることが好ましい。
・条件(I):投射n回目のエロージョン率と、投射n-1回目のエロージョン率との差が、絶対値で0.15μm/g未満である
・条件(II):投射n回目のエロージョン率と、投射n-1回目のエロージョン率との差が、絶対値で0.15μm/g以上であり、且つ、エロージョン率の変化量(={(投射n回目のエロージョン率)-(投射n-1回目のエロージョン率)}/{(投射n回目のエロージョン深さ)-(投射n-1回目のエロージョン深さ)})の絶対値が0.01g-1以上0.05g-1以下である
領域(A)および領域(B)が平面視端部まで延在する合わせガラス用中間膜を使用すれば、合わせガラスの全面において強度および外観を更に高めることができる。
【0013】
また、本発明の合わせガラス用中間膜は、前記2種類以上の樹脂組成物が、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とを有するブロック共重合体[C]を水素化したブロック共重合体水素化物[D]を含有する樹脂組成物を含むことが好ましい。ブロック共重合体水素化物[D]を含有する樹脂組成物を使用すれば、合わせガラスの強度および外観を更に高めることができる。
【0014】
そして、本発明の合わせガラス用中間膜は、前記ブロック共重合体水素化物[D]が、前記ブロック共重合体[C]の前記共役ジエン化合物に由来する主鎖および側鎖の炭素-炭素不飽和結合、並びに、前記芳香族ビニル化合物に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合の90%以上が水素化されたものであることが好ましい。ブロック共重合体水素化物[D]の水素化率が上記下限値以上であれば、合わせガラスの強度および外観を更に高めることができる。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の合わせガラスは、上述した合わせガラス用中間膜の何れかを備えることを特徴とする。このように、上述した合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスは、優れた強度および外観を有し得る。
【0016】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の合わせガラス用中間膜の製造方法は、上述した合わせガラス用中間膜の製造方法であって、前記2種類以上の樹脂組成物を多層共押出成形する工程を含むことを特徴とする。このように、2種類以上の樹脂組成物を多層共押出成形すれば、上述した合わせガラス用中間膜を容易に形成することができる。
【0017】
そして、本発明の合わせガラス用中間膜の製造方法は、厚み規制部材を合流部に備えるフィードブロックを用いて前記多層共押出成形を行い、前記合流部で互いに積層される2種類の樹脂組成物の間に位置する前記厚み規制部材は、幅方向断面視において、溶融粘度が低い樹脂組成物が通過する側が、幅方向中央部が凹となる形状であり、溶融粘度が高い樹脂組成物が通過する側が、幅方向中央部が凸となる形状であることが好ましい。所定の形状を有する厚み規制部材を合流部に備えるフィードブロックを用いて共押出成形を行えば、樹脂組成物が端部まで良好に積層された合わせガラス用中間膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、組成の異なる2種類以上の樹脂組成物を用いて形成された合わせガラス用中間膜を備え、強度および外観に優れる合わせガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】本発明に係る合わせガラス用中間膜について平面視中央位置においてマイクロスラリージェットエロージョン法を用いて膜厚方向に分析した際の、多角アルミナ粒子の投射量とエロージョン深さとの関係を示すグラフである。
【
図1B】本発明に係る合わせガラス用中間膜について平面視中央位置においてマイクロスラリージェットエロージョン法を用いて膜厚方向に分析した際の、エロージョン深さとエロージョン率との関係を示すグラフである。
【
図2】従来の合わせガラス用中間膜について平面視中央位置においてマイクロスラリージェットエロージョン法を用いて膜厚方向に分析した結果の一例を示すグラフであり、(a)は、多角アルミナ粒子の投射量とエロージョン深さとの関係を示し、(b)は、エロージョン深さとエロージョン率との関係を示す。
【
図3】(a)は、合わせガラス用中間膜の製造に使用し得る共押出装置の一例の構造を模式的に示す説明図であり、(b)は、共押出装置のフィードブロックの変形例の構造を模式的に示す説明図である。
【
図4】共押出装置のフィードブロックに設置される厚み規制部材の断面形状を示す図であり、(a)は、低粘度樹脂組成物用の厚み規制部材の幅方向断面を示し、(b)は、高粘度樹脂組成物用の厚み規制部材の幅方向断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の合わせガラス用中間膜は、2枚のガラス板の間に配置して本発明の合わせガラスを構成する際に用いられる。そして、本発明の合わせガラス用中間膜は、例えば本発明の合わせガラス用中間膜の製造方法を用いて製造することができる。
【0021】
(合わせガラス用中間膜)
本発明の合わせガラス用中間膜は、組成の異なる2種類以上の樹脂組成物を用いて形成された合わせガラス用中間膜である。そして、本発明の合わせガラス用中間膜は、平面視中央位置において、マイクロスラリージェットエロージョン法を使用し、Siウェハに対するエロージョン率が6.36μm/gになる投射力にて多角アルミナ粒子を投射して膜厚方向に分析した際に、両表層部間に位置する領域に、エロージョン率の変化量の絶対値が0.05g-1超の部分を有さないことを特徴とする。
【0022】
このように、組成の異なる2種類以上の樹脂組成物を用いれば、例えば遮熱機能、遮音機能、画像表示機能などの付加機能を有する合わせガラス用中間膜を形成することができる。具体的には、例えば、遮熱機能、遮音機能、画像表示機能などの付加機能を発揮し得る樹脂組成物を少なくとも1種と、接着機能を発揮し得る樹脂組成物を少なくとも1種とを含む2種類以上の樹脂組成物を用いれば、付加機能を有する合わせガラス用中間膜を形成することができる。
【0023】
また、組成の異なる2種類以上の樹脂組成物を用いた場合であっても、両表層部間に位置する領域にエロージョン率の変化量の絶対値が0.05g-1超の部分を有していなければ、合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスの強度の低下や外観不良の発生を抑制することができる。
【0024】
<樹脂組成物>
ここで、合わせガラス用中間膜の形成に用いられる2種類以上の樹脂組成物としては、所期の機能を合わせガラス用中間膜に付与し得る任意の樹脂組成物を用いることができる。具体的には、樹脂組成物としては、例えば、(1)樹脂を含有し、任意に添加剤(例えば、粘着性付与剤、接着性付与剤、紫外線吸収剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤等)を更に含有する樹脂組成物、(2)樹脂と、特定の周波数の音を吸収する吸音材とを含有し、任意に添加剤を更に含有する樹脂組成物、(3)樹脂と、赤外線吸収材とを含有し、任意に添加剤を更に含有する樹脂組成物、(4)樹脂と、発光材とを含有し、任意に添加剤を更に含有する樹脂組成物、などを用いることができる。
【0025】
中でも、合わせガラス用中間膜の形成に用いられる2種類以上の樹脂組成物は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とを有するブロック共重合体[C]を水素化したブロック共重合体水素化物[D]を樹脂として含有する樹脂組成物を含むことが好ましい。ブロック共重合体水素化物[D]を含有する樹脂組成物を使用すれば、合わせガラスの強度および外観を更に高めることができる。
なお、樹脂組成物としては、上記ブロック共重合体水素化物[D]にアルコキシシリル基を導入してなる変性ブロック共重合体水素化物[E]を樹脂として含有する樹脂組成物を使用することも好ましい。変性ブロック共重合体水素化物[E]を含有する樹脂組成物を使用すれば、合わせガラスの強度および外観を更に高めることができる。中でも、合わせガラス用中間膜の、ガラス板と接触する部分の形成に変性ブロック共重合体水素化物[E]を含有する樹脂組成物を使用すれば、合わせガラス用中間膜とガラス板との接着性を高めることができる。
【0026】
[ブロック共重合体水素化物および変性ブロック共重合体水素化物]
ここで、上記重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とする重合体ブロックである。重合体ブロック[A]中の、芳香族ビニル化合物由来の構造単位の含有量は、通常90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上である。重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位以外の成分を含有していてもよい。他の成分としては、共役ジエン化合物由来の構造単位及び/又はその他のビニル化合物由来の構造単位が挙げられる。その含有量は、重合体ブロック[A]に対し、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
重合体ブロック[A]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位の含有量が少なすぎると、合わせガラス用中間膜の耐熱性が低下するおそれがある。
ブロック共重合体[C]に含まれる複数の重合体ブロック[A]同士は、上記の範囲を満足するものであれば、互いに同一であっても、相異なっていても良い。
【0027】
また、重合体ブロック[B]は、共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする重合体ブロックである。重合体ブロック[B]中の、共役ジエン化合物由来の構造単位の含有量は、通常70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。重合体ブロック[B]は、共役ジエン化合物由来の構造単位以外の成分を含有していてもよい。他の成分としては、芳香族ビニル化合物由来の構造単位及び/又はその他のビニル化合物由来の構造単位が挙げられる。その含有量は、重合体ブロック[B]に対して、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
重合体ブロック[B]中の、共役ジエン化合物由来の構造単位の含有量が上記範囲にあると、合わせガラス用中間膜に柔軟性が付与されるので好ましい。
ブロック共重合体[C]が重合体ブロック[B]を複数有する場合、重合体ブロック[B]同士は、互いに同一であっても、相異なっていても良い。
なお、重合体ブロック[B]は、共役ジエン化合物由来の構造単位の一部が、1,2-結合および/または3,4-結合で重合した構造単位(1,2-および/または3,4-付加重合由来の構造単位)を有し、共役ジエン化合物由来の構造単位の残部が、1,4-結合で重合した構造単位(1,4-付加重合由来の構造単位)を有していてもよい。重合体ブロック[B]中の共役ジエン化合物由来の構造単位により構成される共役ジエン部分において、「1,2-結合(3,4-結合)」と「1,4-結合」との合計に対する「1,4-結合」の比率は、(A)好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上であるか、或いは、(B)好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、更に好ましくは20%以下である。
【0028】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン;α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン等の、置換基として炭素数1~6のアルキル基を有するスチレン類;4-クロロスチレン、ジクロロスチレン、4-モノフルオロスチレン等の、置換基としてハロゲン原子を有するスチレン類;4-メトキシスチレン等の、置換基として炭素数1~6のアルコキシ基を有するスチレン類;4-フェニルスチレン等の、置換基としてアリール基を有するスチレン類;等が挙げられる。これらの中でも、吸湿性の観点から、スチレン、置換基として炭素数1~6のアルキル基を有するスチレン類等の、極性基を含有しない芳香族ビニル化合物が好ましく、工業的な入手の容易さから、スチレンが特に好ましい。
【0029】
共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等の鎖状共役ジエン化合物(直鎖状共役ジエン化合物、分岐鎖状共役ジエン化合物)が挙げられ、吸湿性の観点から、極性基を含有しない鎖状共役ジエン化合物が好ましく、工業的な入手の容易さから、1,3-ブタジエン、イソプレンが特に好ましい。
【0030】
その他のビニル化合物としては、鎖状ビニル化合物、環状ビニル化合物、不飽和の環状酸無水物、不飽和イミド化合物等が挙げられる。これらの化合物は、ニトリル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシカルボニル基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。これらの中でも、吸湿性の観点から、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-エイコセン、4-メチル-1-ペンテン、4,6-ジメチル-1-ヘプテン等の炭素数2~20の鎖状オレフィン;ビニルシクロヘキサン等の炭素数5~20の環状オレフィン;等の、極性基を含有しないものが好ましく、炭素数2~20の鎖状オレフィンがより好ましく、エチレン、プロピレンが特に好ましい。
【0031】
ブロック共重合体[C]は、ブロック共重合体水素化物[D]の前駆体であり、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と少なくとも1つの重合体ブロック[B]とを含有する高分子である。
ブロック共重合体[C]中の重合体ブロック[A]の数は、通常3個以下、好ましくは2個である。ブロック共重合体[C]中の重合体ブロック[B]の数は、通常2個以下、好ましくは1個である。
【0032】
ブロック共重合体[C]のブロックの形態は、特に限定されず、鎖状型ブロックでもラジアル型ブロックでも良いが、鎖状型ブロックであるのが、機械的強度に優れ好ましい。
ブロック共重合体[C]の最も好ましい形態は、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合したトリブロック共重合体([A]-[B]-[A])である。
なお、ブロック共重合体[C]は、末端変性がなされていないことが好ましい。
また、ブロック共重合体[C]が、2つの重合体ブロック[A](第1の重合体ブロック[A1]、第2の重合体ブロック[A2])と、1つの重合体ブロック[B]とにより構成されたトリブロック共重合体([A1]-[B]-[A2])である場合において、第1の重合体ブロック[A1]中の香族ビニル化合物由来の構造単位がブロック共重合体[C]全体に占める質量分率をSt1とし、第2の重合体ブロック[A2]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位がブロック共重合体[C]全体に占める質量分率をSt2としたときに、St1とSt2との比(St1:St2)は、好ましくは35:65~50:50である。
【0033】
ブロック共重合体[C]中の全重合体ブロック[A]が、ブロック共重合体全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック[B]が、ブロック共重合体全体に占める重量分率をwBとしたときに、wAとwBとの比(wA:wB)は、好ましくは30:70~60:40、より好ましくは40:60~58:42、更に好ましくは45:55~55:45である。
また、ブロック共重合体[C]中の全芳香族ビニル化合物由来の構造単位がブロック共重合体全体に占める質量分率をwaとし、ブロック共重合体中の全共役ジエン化合物由来の構造単位がブロック共重合体全体に占める質量分率をwbとしたときに、waとwbとの比(wa:wb)は、好ましくは30:70~60:40、より好ましくは40:60~58:42、更に好ましくは45:55~55:45である。
なお、「waとwbとの比(wa:wb)」については、ブロック共重合体を製造する過程において、ブロック共重合体の重合に用いた芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物およびその他のビニル化合物の部数と、ガスクロマトグラフィー(GC)を使用して測定されたブロック共重合体の各ブロックの重合終了段階での用いたモノマーの重合体への重合転化率より、算出することができる。
【0034】
ブロック共重合体[C]の分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常35,000以上、好ましくは38,000以上、より好ましくは40,000以上であり、通常200,000以下、好ましくは150,000以下、より好ましくは100,000以下である。また、ブロック共重合体[C]の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1.7以下である。
Mw及びMw/Mnが上記範囲となるようにすると、合わせガラス用中間膜の耐熱性や機械的強度が良好である。
【0035】
ブロック共重合体[C]の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。具体的には、ブロック共重合体[C]の製造方法としては、例えば、国際公開第2003/018656号、国際公開第2011/096389号等に記載の方法が挙げられる。
【0036】
ブロック共重合体水素化物[D]は、ブロック共重合体[C]の共役ジエン化合物に由来する主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合のみを選択的に水素化した高分子であってもよいし、ブロック共重合体[C]の共役ジエン化合物に由来する主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合並びに芳香族ビニル化合物に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合を水素化した高分子であってもよいし、これらの混合物であってもよい。中でも、ブロック共重合体水素化物[D]は、ブロック共重合体[C]の共役ジエン化合物に由来する主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合並びに芳香族ビニル化合物に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合を水素化した高分子であることが好ましい。
【0037】
そして、ブロック共重合体[C]の鎖状共役ジエン化合物に由来する主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合並びに芳香族ビニル化合物に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合を水素化する場合、水素化率は、全炭素-炭素不飽和結合の90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、99%以上であることが更に好ましい。
ブロック共重合体水素化物[D]の水素化率がこの範囲にあれば、合わせガラスの強度および外観を更に高めることができる。
【0038】
ブロック共重合体水素化物[D]の、鎖状共役ジエン化合物に由来する炭素-炭素不飽和結合の水素化率並びに芳香族ビニル化合物に由来する炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、例えば、ブロック共重合体[C]及びブロック共重合体水素化物[D]の1H-NMRを測定することにより、求めることができる。
【0039】
ブロック共重合体[C]中の不飽和結合の水素化方法や反応形態等は特に限定されず、公知の方法に従って行えばよい。
ブロック共重合体[C]の鎖状共役ジエン化合物に由来する主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合並びに芳香族ビニル化合物に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合を水素化する方法としては、例えば、国際公開第2011/096389号、国際公開第2012/043708号等に記載された方法が挙げられる。
【0040】
水素化反応終了後においては、水素化触媒、或いは、水素化触媒及び重合触媒を反応溶液から除去した後、得られた溶液から溶剤を除去してブロック共重合体水素化物[D]を回収することができる。
回収したブロック共重合体水素化物[D]は、通常、ペレット形状にして、その後のアルコキシシリル基の導入反応やシートの成形加工に供することができる。
【0041】
ブロック共重合体水素化物[D]の分子量は、THFを溶媒としたGPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常35,000以上、好ましくは38,000以上、より好ましくは40,000以上であり、通常200,000以下、好ましくは150,000以下、より好ましくは100,000以下である。また、ブロック共重合体水素化物[D]の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下である。
Mw及びMw/Mnが上記範囲となるようにすると、合わせガラス用中間膜の耐熱性や機械的強度が良好である。
【0042】
変性ブロック共重合体水素化物[E]は、上記ブロック共重合体水素化物[D]に、有機過酸化物の存在下で、エチレン性不飽和シラン化合物を反応させることにより、アルコキシシリル基が導入されたものである。
ブロック共重合体水素化物[D]にアルコキシシリル基を導入することにより、変性ブロック共重合体水素化物[E]にはガラスや金属に対する強固な接着性が付与される。
【0043】
アルコキシシリル基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等の、トリ(炭素数1~6アルコキシ)シリル基;メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、エチルジメトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基、プロピルジメトキシシリル基、プロピルジエトキシシリル基等の、(炭素数1~20アルキル)ジ(炭素数1~6アルコキシ)シリル基;フェニルジメトキシシリル基、フェニルジエトキシシリル基等の、(アリール)ジ(炭素数1~6アルコキシ)シリル基;等が挙げられる。これらの内、合わせガラス用中間膜にガラス板に対する強固な接着性が付与される観点から、トリメトキシシリル基が特に好ましい。また、アルコキシシリル基は、ブロック共重合体水素化物[D]に、炭素数1~20のアルキレン基や、炭素数2~20のアルキレンオキシカルボニルアルキレン基等の2価の有機基を介して結合していても良い。
【0044】
ブロック共重合体水素化物[D]へのアルコキシシリル基の導入量は、通常、ブロック共重合体水素化物[D]100質量部に対し、0.1質量部以上10質量部以下であり、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。アルコキシシリル基の導入量が多過ぎると、得られる変性ブロック共重合体水素化物[E]を所望の形状に溶融成形する前に微量の水分等で分解されたアルコキシシリル基同士の架橋が進み、ゲル化したり、溶融時の流動性が低下して成形性が低下したりする等の問題が生じ易くなる。また、アルコキシシリル基の導入量が少な過ぎると、前記合わせガラス用中間膜をガラス板と接着するのに十分な接着力が得られないという不具合が生じ易くなる。アルコキシシリル基が導入されたことは、IRスペクトルで確認することができる。また、その導入量は、1H-NMRスペクトルにて算出することができる。
【0045】
用いるエチレン性不飽和シラン化合物としては、ブロック共重合体水素化物[D]とグラフト重合し、ブロック共重合体水素化物[D]にアルコキシシリル基を導入するものであれば、特に限定されない。エチレン性不飽和シラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、等が好適に用いられる。
これらのエチレン性不飽和シラン化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せて使用してもよい。
【0046】
エチレン性不飽和シラン化合物の使用量は、ブロック共重合体水素化物[D]100質量部に対して、通常0.1質量部以上10質量部以下であり、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0047】
有機過酸化物としては、1分間半減期温度が170℃以上190℃以下のものが好ましく使用される。例えば、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキシド、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等が好適に用いられる。
これらの有機過酸化物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せて使用してもよい。
有機過酸化物の使用量は、ブロック共重合体水素化物[D]100質量部に対して、通常0.05質量部以上2質量部以下であり、好ましくは0.08質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。
【0048】
上記のブロック共重合体水素化物[D]とエチレン性不飽和シラン化合物とを、有機過酸化物の存在下で反応させる方法は、特に限定されない。例えば、二軸混練機にて所望の温度で所望の時間混練することにより、ブロック共重合体水素化物[D]にアルコキシシリル基を導入することができる。
【0049】
変性ブロック共重合体水素化物[E]の分子量は、THFを溶媒としたGPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常35,000以上、好ましくは38,000以上、より好ましくは40,000以上であり、通常200,000以下、好ましくは150,000以下、より好ましくは100,000以下である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3.5以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下である。
【0050】
<マイクロスラリージェットエロージョン法を用いた分析結果>
そして、本発明の合わせガラス用中間膜は、マイクロスラリージェットエロージョン法を使用し、Siウェハに対するエロージョン率が6.36μm/gになる投射力にて多角アルミナ粒子を投射して膜厚方向に分析した結果、平面視中央位置において、両表層部間に位置する領域に、エロージョン率の変化量の絶対値が0.05g-1超の部分を有さない(即ち、両表層部間に位置する領域のエロージョン率の変化量の絶対値が0.05g-1以下である)ことを必要とする。組成の異なる2種類以上の樹脂組成物を用いて形成した合わせガラス用中間膜において両表層部間に位置する領域にエロージョン率の変化量の絶対値が0.05g-1超の部分が存在する場合、当該部分において歪や剥離が発生し易く、強度および外観に優れる合わせガラスを得ることができない。
なお、両表層部間に位置する領域を対象としたのは、表層部は、測定試料の表面に付着している汚れや、微細な傷およびエンボス等の凹凸などによる測定のブレが大きく、正確なエロージョン率を把握し難いからである。
【0051】
ここで、組成の異なる材料よりなる非相溶性の層を積層しており、積層方向に隣接する層間に界面が存在する合わせガラス用中間膜では、界面部分において性状が急激に変化するため、当該中間膜をマイクロスラリージェットエロージョン法を用いて分析した場合には、例えば
図2(a)に一方の表面から界面部分までの分析結果を示すように、投射粒子量とエロージョン深さとの関係を示すグラフが、界面の位置で大きく屈曲する折れ線グラフとなる。そして、界面が存在する合わせガラス用中間膜では、例えば
図2(b)に一方の表面から界面部分までの分析結果を示すように、両表層部間に位置する領域に、エロージョン率の変化量の絶対値が0.05g
-1超となる部分が現出する。
【0052】
しかし、本発明の合わせガラス用中間膜では、例えば
図1Aに一方の表面から他方の表面までの分析結果を示すように、投射粒子量とエロージョン深さとの関係を示すグラフが、大きく屈曲する屈曲点を有しておらず、略直線状となる。また、例えば
図1Bに一方の表面から他方の表面までの分析結果を示すように、両表層部間に位置する領域に、エロージョン率の変化量の絶対値が0.05g
-1超となる部分が現出しない。従って、両表層部間に位置する領域において歪や剥離が発生し易く、強度および外観に優れる合わせガラスを得ることができる。
【0053】
ここで、マイクロスラリージェットエロージョン法を使用して平面視中央位置を分析した際に得られる、エロージョン率とエロージョン深さとの関係を示すグラフは、例えば
図1(b)に示すように、ピークを1つ以上有し、且つ、当該ピークが、投射n回目のエロージョン率と、投射n-1回目のエロージョン率との差が、絶対値で0.15μm/g未満であるベース部分間に位置することが好ましい。エロージョン率の差の絶対値が小さい部分であるベース部分は、性状が殆んど変化しない部分に該当し、ピーク部分は、エロージョン率の変化量の絶対値が0.05g
-1以下となる程度で性状が適度に変化している部分であるところ、エロージョン率とエロージョン深さとの関係を示すグラフが上記ベース部分間にピークを有していれば、界面部分における歪や剥離の発生を十分に抑制しつつ、ベース部分では当該部分を構成する樹脂組成物に所期の機能を十分に発揮させることができる。
【0054】
なお、例えば3つの樹脂組成物を積層して合わせガラス用中間膜を形成した場合には、上記エロージョン率とエロージョン深さとの関係を示すグラフは、3つのベース部分と、2つのピークとを有することとなる。
【0055】
そして、ピークを挟んで位置する2つのベース部分は、互いに平均エロージョン率が異なることが好ましい。平均エロージョン率が異なるベース部分は、互いに性状が異なっており、異なる機能を発揮し得る。従って、ピークを挟んで位置する2つのベース部分間で平均エロージョン率が異なっていれば、合わせガラス用中間膜に付加機能を良好に付与し得る。
なお、ベース部分のエロージョン率は、0.5μm/g以上であることが好ましく、1.0μm/g以上であることがより好ましい。
【0056】
また、歪や剥離の発生を抑制する観点からは、上記グラフにおいてピークの立ち上がり部分および立ち下がり部分は、投射n回目のエロージョン率と、投射n-1回目のエロージョン率との差が、絶対値で0.15μm/g以上となり、且つ、エロージョン率の変化量(={(投射n回目のエロージョン率)-(投射n-1回目のエロージョン率)}/{(投射n回目のエロージョン深さ)-(投射n-1回目のエロージョン深さ)})の絶対値が0.01g-1以上0.05g-1以下となることが好ましい。
【0057】
そして、本発明の合わせガラス用中間膜は、平面視中央位置から平面視端部まで略等しい組成を有していることが好ましい。具体的には、本発明の合わせガラス用中間膜は、マイクロスラリージェットエロージョン法を使用して平面視端部を膜厚方向に分析した際に、両表層部間に位置する領域にエロージョン率の変化量の絶対値が0.05g-1超の部分を有さないことが好ましく、エロージョン率とエロージョン深さとの関係を示すグラフがベース部分間に位置するピークを1つ以上有することがより好ましい。
【0058】
また、本発明の合わせガラス用中間膜は、マイクロスラリージェットエロージョン法を使用し、Siウェハに対するエロージョン率が6.36μm/gになる投射力にて多角アルミナ粒子を投射して膜厚方向に分析した際に、両表層部間に位置する領域に、下記の条件(I)を満たす領域(A)と、下記の条件(II)を満たす領域(B)と、下記の条件(I)を満たす領域(A)とが順次現出する部分を有し、且つ、領域(A)および領域(B)が、それぞれ、平面視中央位置から平面視端部まで延在していることが好ましい。
・条件(I):投射n回目のエロージョン率と、投射n-1回目のエロージョン率との差が、絶対値で0.15μm/g未満である
・条件(II):投射n回目のエロージョン率と、投射n-1回目のエロージョン率との差が、絶対値で0.15μm/g以上であり、且つ、エロージョン率の変化量の絶対値が0.01g-1以上0.05g-1以下である
領域(A)および領域(B)が平面視端部まで延在する合わせガラス用中間膜を使用すれば、合わせガラスの全面において強度および外観を更に高めることができる。
【0059】
なお、本発明の合わせガラス用中間膜は、条件(I)および条件(II)の何れも満たさない領域(以下、「その他の領域(C)」と称することがある。)を、領域(A)と領域(B)との間、および/または、合わせガラス用中間膜の表面と領域(A)との間に有していてもよい。
【0060】
そして、合わせガラスの全面において強度の低下や外観不良の発生を抑制する観点からは、上述した領域(A)~(C)は、それぞれ、平面視中央位置から平面視端部まで延在していることが好ましく、平面視中央位置と平面視端部とで略等しいエロージョン深さの位置に現出することがより好ましい。
【0061】
(合わせガラス用中間膜の製造方法)
本発明の合わせガラス用中間膜の製造方法は、上述した本発明の合わせガラス用中間膜を製造する際に用いられ、2種類以上の樹脂組成物を多層共押出成形する工程を含むことを特徴とする。このように、多層共押出成形を用いれば、上述した本発明の合わせガラス用中間膜を容易に製造することができる。
【0062】
<樹脂組成物>
ここで、樹脂組成物としては、本発明の合わせガラス用中間膜の形成に使用し得るものとして上述したものを用いることができる。
【0063】
<多層共押出成形>
また、2種類以上の樹脂組成物の多層共押出成形は、特に限定されることなく、フィードブロック法またはマルチマニホールド法を用いて行うことができる。中でも、合わせガラスの強度の低下や外観不良の発生を良好に抑制し得る合わせガラス用中間膜を得る観点からは、多層共押出成形は、フィードブロック法を用いて行うことが好ましく、厚み規制部材を合流部に備えるフィードブロックを用いて行うことがより好ましい。
【0064】
[厚み規制部材]
ここで、合流部に設ける厚み規制部材としては、特に限定されることなく、アジャスタブロックやチョークバー等を用いることができる。中でも、得られる合わせガラス用中間膜中の領域(A)および領域(B)のそれぞれの厚みの均一性を高める観点からは、合流部で互いに積層される2種類の樹脂組成物の間に位置する厚み規制部材は、幅方向断面視において、溶融粘度が低い樹脂組成物が通過する側が、幅方向中央部が凹となる形状であり、溶融粘度が高い樹脂組成物が通過する側が、幅方向中央部が凸となる形状であることが好ましい。
【0065】
具体的には、多層共押出成形は、特に限定されることなく、例えば
図3(a)に示す共押出装置100を用いて行うことが好ましい。
【0066】
ここで、
図3(a)に示す共押出装置100は、フィードブロック20と、加熱溶融させた第一の樹脂組成物1Aをフィードブロック20に供給する第一樹脂流路10Aと、加熱溶融させた第二の樹脂組成物1Bをフィードブロック20に供給する第二樹脂流路10Bと、加熱溶融させた第三の樹脂組成物1Cをフィードブロック20に供給する第三樹脂流路10Cと、フィードブロック20の合流部で合流させた第一~第三の樹脂組成物1A~1Cの積層体が押し出されるダイス30とを備えている。そして、フィードブロック20の合流部には、
図3(a)に拡大して示すように、合流させる各樹脂組成物の厚みを規制する厚み規制部材21A、22B、21C、21Dが設けられている。
【0067】
そして、厚み規制部材21A、22B、21C、21Dは、幅方向断面視において、溶融粘度が低い樹脂組成物が通過する側が、幅方向中央部が凹となる形状であり、溶融粘度が高い樹脂組成物が通過する側が、幅方向中央部が凸となる形状である。
具体的には、一例として、第一の樹脂組成物1Aおよび第三の樹脂組成物1Cの溶融粘度が、第二の樹脂組成物1Bの溶融粘度よりも高い場合について説明すると、溶融粘度が高い樹脂組成物が通過する側に位置する厚み規制部材21A、21C、21Dは、例えば
図4(b)に示すように、幅方向中央部が凸となる形状の幅方向断面を有している。また、溶融粘度が低い樹脂組成物が通過する側に位置する厚み規制部材22Bは、例えば
図4(a)に示すように、幅方向中央部が凹となる形状の幅方向断面を有している。
厚み規制部材21A、22B、21C、21Dの形状および配置を上述したようにすれば、第一~第三の樹脂組成物1A~1Cを端部まで良好に積層させることができる。従って、平面視中央位置から平面視端部まで均一な合わせガラス用中間膜を得ることができる。
【0068】
なお、上記一例では、第一~第三の樹脂組成物1A~1Cを用いて合わせガラス用中間膜を多層共押出成形する場合について説明したが、多層共押出成形する際に用いる樹脂組成物の数は3つに限定されるものではない。
例えば、
図3(b)にフィードブロックの合流部を拡大して示すように、本発明の合わせガラス用中間膜の製造方法では、第四~第七の樹脂組成物1D~1Gを用いて合わせガラス用中間膜を多層共押出成形してもよい。
そして、第四~第七の樹脂組成物1D~1Gを用いる場合、樹脂組成物を端部まで良好に積層させる観点からは、厚み規制部材の形状および配置は、例えば以下のようにすることが好ましい。
即ち、一例として、第五の樹脂組成物1Eおよび第七の樹脂組成物1Gの溶融粘度が、第四の樹脂組成物1Dおよび第六の樹脂組成物1Fの溶融粘度よりも高い場合について説明すると、溶融粘度が高い樹脂組成物が通過する側に位置する厚み規制部材21E、21G、21Hは、例えば
図4(b)に示すように、幅方向中央部が凸となる形状の幅方向断面を有している。また、溶融粘度が低い樹脂組成物が通過する側に位置する厚み規制部材22D、22F、22Hは、例えば
図4(a)に示すように、幅方向中央部が凹となる形状の幅方向断面を有している。
【0069】
(合わせガラス)
本発明の合わせガラスは、上述した本発明の合わせガラス用中間膜を備えるものであり、通常、2枚のガラス板と、当該2枚のガラス板の間に配置された本発明の合わせガラス用中間膜とを有している。そして、当該2枚のガラス板は、本発明の合わせガラス用中間膜を介して接着一体化されている。
なお、本発明の合わせガラスは、3枚以上のガラス板を有していてもよい。そして、本発明の合わせガラスが3枚以上のガラス板を有する場合、ガラス板間に位置する中間膜は、少なくとも1つが本発明の合わせガラス用中間膜であることを必要とし、全てが本発明の合わせガラス用中間膜であることが好ましい。
【0070】
そして、本発明の合わせガラスは、本発明の合わせガラス用中間膜を備えているので、強度および外観に優れている。
【0071】
<ガラス板>
ここで、ガラス板の材質は特に限定されない。ガラス板の材質としては、例えば、アルミノシリケート酸ガラス、硼珪酸ガラス、アルミノ硼珪酸ガラス、バリウム瑚珪酸ガラス、珪酸ガラス、結晶化ガラス、ゲルマニウムガラス、石英ガラス、ソーダライムガラス、白板ガラス、青板ガラス、鉛ガラス、ウランガラス、カリガラス、無アルカリガラス等が挙げられる。
【0072】
また、本発明の合わせガラスに使用されるガラス板の厚さは、特に限定されない。本発明で使用されるガラス板の厚さは、通常0.1mm以上10mm以下であり、好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは0.7mm以上であり、好ましくは3mm以下、より好ましくは2.5mm以下、更に好ましくは2mm以下である。本発明で使用されるガラス板の厚さは、合わせガラスの用途に応じて適宜選定できる。
本発明の合わせガラスにおいて使用される複数のガラス板の厚さは、同一でも、異なっていてもよい。
【0073】
<合わせガラスの性状>
本発明の合わせガラスの厚さや形状は、特に限定されない。厚さは、通常0.3mm以上30mm以下であり、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、更に好ましくは3mm以上であり、好ましくは15mm以下、より好ましくは10mm以下、更に好ましくは7mm以下である。この範囲の厚さであれば、ディスプレイ用ガラス、自動車用ガラス、建材用ガラス等として良好に使用し得る。
また、合わせガラスの形状は、建材やディスプレイ等に使用する平板状であってもよいし、自動車用合わせガラスのような曲面形状であってもよい。
【0074】
<合わせガラスの製造>
本発明の合わせガラスを製造する方法は特に限定されない。自動車用合わせガラスのような曲面形状をした合わせガラスの一般的な方法としては、例えば、ガラス板/中間膜/ガラス板をこの順に重ね合わせた積層物とし、この積層物を脱気可能な可撓性の樹脂製袋に入れて内部を脱気した後、オートクレーブに入れて、温度100~150℃、圧力0.01~1.5MPaの条件下で圧着することができる。
建築物用の合わせガラスのような平面形状をした合わせガラスの場合は、上記の積層物を真空ラミネータや熱プレス等を用いて加熱して接着一体化させる方法も適用できる。
【0075】
本発明の合わせガラスは、自動車、鉄道車両、船舶、建築物等の窓材、壁材、屋根材、床材、仕切り材等として有用である。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を示しながら、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0077】
本実施例における評価は、以下の方法によって行う。
(1)重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)
ブロック共重合体[C]及びブロック共重合体水素化物[D]の分子量は、THFを溶離液とするGPCによる標準ポリスチレン換算値として40℃において測定した。測定装置としては、東ソー社製HLC8320GPCを用いた。
(2)水素化率
ブロック共重合体水素化物[D]の主鎖、側鎖及び芳香環の水素化率は、ブロック共重合体[C]及びブロック共重合体水素化物[D]の1H-NMRを測定して算出した。
(3)溶融粘度
樹脂組成物の溶融粘度は、キャピログラフ測定装置(東洋精機製作所製、キャピログラフ1D PMD-C)を用い、1.0mmφ×10mmと1.0mmφ×20mmのキャピラリーで、押出し速度1.0mm/分から1000.0mm/分の範囲で温度を変えて測定した。
【0078】
(4)マイクロスラリージェットエロージョン法による分析
エロージョン処理装置(株式会社パルメソ製、MSE-A)を用い、ノズル径1mm×1mm、投射距離4mmにて多角アルミナ粒子(平均粒子径1.2μm)をシリコンウェハに投射し、エロージョン率が6.36μm/gとなる投射力を設定した。そして、分析対象への投射と、エロージョン深さの測定とを繰り返し実施した。
なお、エロージョン深さは、触針式形状計測機(株式会社パルメソ製、PU-EU1)を用い、触針子先端R:2μm、荷重:200μN、計測倍率:10000倍、測長:3mm、計測速度:0.2mm/secにて計測した。
また、測定位置は、分析対象の中央と、端部(端縁から50mmの位置)とした。
そして、測定結果からエロージョン率を算出した。
(5)鉄球落下試験
作製した300mm角の合わせガラスを-40℃で4時間以上冷却保管したものに対し、JIS R3211(2015)に準拠して、重さ227g±2gの鋼球を落球高さ5mにて落下させた。そして、飛散ガラス重量および剥離(浮き)の有無を観察した。
(6)耐湿試験
作製した合わせガラスを85℃、85%RHにて1000時間保管した。その後、外観を観察し、周辺の剥離や白化が無いか確認した。
(7)サーマルサイクル試験
作製した合わせガラスを温調オーブンに設置し、-40℃から85℃の温度変化の繰り返しを、低温(-40℃)に曝す時間と、高温(85℃)に曝す時間とをそれぞれ30分として、50サイクル実施した。そして、合わせガラスの剥離(浮き)の有無を観察した。
【0079】
(製造例1)
<ブロック共重合体[C]の合成>
攪拌装置を備え、内部が充分に窒素置換された反応器に、脱水シクロヘキサン550部、脱水スチレン25.0部、ランダム化剤としてのn-ジブチルエーテル0.475部を入れ、60℃で攪拌しながらn-ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)0.68部を加え、重合を開始させて、60℃で60分間撹拌した。反応液をガスクロマトグラフィー(GC)により分析したところ、この時点での重合転化率は99.5%であった。
次に、反応液に脱水イソプレン50.0部を加え、そのまま30分間攪拌を続けた。反応液をGCにより分析したところ、この時点で重合転化率は99%であった。
その後、更に、脱水スチレンを25.0部加え、60分間攪拌した。反応液をGCにより分析したところ、この時点での重合転化率はほぼ100%であった。ここでイソプロピルアルコール0.5部を加えて反応を停止した。得られたブロック共重合体[C]の重量平均分子量(Mw)は44,300、分子量分布(Mw/Mn)は1.03であった。
<ブロック共重合体水素化物[D]の合成>
次に、上記で得られたブロック共重合体[C]の溶液を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、水素化触媒として珪藻土担持型ニッケル触媒(ズードケミー触媒社製、T-8400RL)3.0部および脱水シクロヘキサン100部を添加して混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、更に溶液を攪拌しながら水素を供給し、温度170℃、圧力4.5MPaにて6時間水素化反応を行なった。
水素化反応終了後、反応溶液をろ過して水素化触媒を除去した後、得られた溶液に、フェノール系酸化防止剤であるペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](コーヨ化学研究所社製、Songnox1010)0.1部を溶解したキシレン溶液1.0部を添加して溶解させた。
次いで、上記溶液を、金属ファイバー製フィルター(孔径0.4μm、ニチダイ社製)にて濾過して微小な固形分を除去した後、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所社製「コントロ」)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で、溶液から、溶媒であるシクロヘキサン、キシレンおよびその他の揮発成分を除去し、濃縮乾燥器に直結したダイから溶融状態でストランド状に押出し、冷却後、ペレタイザーでカットしてブロック共重合体水素化物[D]を含む組成物からなるペレット90部を得た。
得られたペレット中のブロック共重合体水素化物[D]の重量平均分子量(Mw)は44,100、分子量分布(Mw/Mn)は1.53、水素化率はほぼ100%であった。
<変性ブロック共重合体水素化物[E]の調製>
得られたブロック共重合体水素化物[D]を含むペレット100部に対して、エチレン性不飽和シラン化合物としてのビニルトリメトキシシラン2.0部、および、有機過酸化物としての2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日油社製、パーヘキサ(登録商標)25B)0.2部を添加した。この混合物を、二軸押出機(東芝機械社製、TEM37B)を用いて、樹脂温度200℃、滞留時間60~70秒間で混練した。得られた混練物を、ストランド状に押出し、空冷した後、ペレタイザーによりカッティングし、アルコキシシリル基を有する変性ブロック共重合体水素化物[E]を含むペレット97部を得た。
得られたブロック共重合体水素化物[E]を含むペレット10部をシクロヘキサン100部に溶解させた後、得られた溶液を脱水メタノール400部中に注いで、変性ブロック共重合体水素化物[E]を凝固させた。得られた凝固物を25℃で真空乾燥して、変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む精製物9.5部を得た。
変性ブロック共重合体水素化物[E]のFT-IRスペクトルでは、1090cm-1にSi-OCH3基、825cm-1と739cm-1にSi-CH2基に由来する新たな吸収帯が、ビニルトリメトキシシランのSi-OCH3基、Si-CH基に由来する吸収帯(1075cm-1、808cm-1および766cm-1)と異なる位置に観察された。
また、変性ブロック共重合体水素化物[E]の1H-NMRスペクトル(重クロロホルム中)を測定したところ、3.6ppmにメトキシ基のプロトンに基づくピークが観察された。ピーク面積比からブロック共重合体水素化物[D]の100部に対してビニルトリメトキシシラン1.7部が結合したことが確認された。
なお、変性ブロック共重合体水素化物[E]の重量平均分子量(Mw)は38500、分子量分布(Mw/Mn)は2.37であった。
【0080】
(製造例2)
<ブロック共重合体[C’]の合成>
攪拌装置を備え、内部が充分に窒素置換された反応器に、脱水シクロヘキサン270部、エチレングリコールジブチルエーテル0.53部を入れ、さらに、n-ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)0.47部を加えた。全容を60℃で攪拌しながら、脱水スチレン12.5部を40分間に亘って連続的に反応器内に添加した。添加終了後、そのまま更に60℃で20分間全容を攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、この時点での重合転化率は99.5%であった。
次に、脱水したイソプレン75.0部を、反応液に100分間に亘って連続的に添加し、添加終了後そのまま20分間攪拌を続けた。この時点での重合転化率は99.5%であった。
その後、更に、脱水スチレン12.5部を、60分間に亘って連続的に添加し、添加終了後そのまま全容を30分間攪拌した。この時点での重合転化率はほぼ100%であった。ここで、反応液にイソプロピルアルコール0.5部を加えて反応を停止させた。得られたブロック共重合体[C’]の重量平均分子量(Mw)は87,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.33、wA:wB=25:75、全イソプレン由来の構造単位の内、1,2-および3,4-付加重合由来の構造単位の割合は51%であった。
<ブロック共重合体水素化物[D’]の合成>
次に、上記で得られたブロック共重合体[C’]の溶液を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、水素化触媒として珪藻土担持型ニッケル触媒(日揮触媒化成社製、E22U、ニッケル担持量60%)7.0部および脱水シクロヘキサン80部を添加して混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、更に溶液を攪拌しながら水素を供給し、温度190℃、圧力4.5MPaにて6時間水素化反応を行った。水素化反応後のブロック共重合体水素化物[D’]の重量平均分子量(Mw)は84,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.36であった。
水素化反応終了後、反応溶液をろ過して水素化触媒を除去した後、ろ液に、フェノール系酸化防止剤であるペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](コーヨ化学研究所社製、Songnox1010)0.1部を溶解したキシレン溶液1.0部を添加して溶解させた。
次いで、上記溶液を、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所社製、コントロ)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で乾燥させ、溶媒であるシクロヘキサン、キシレンおよびその他の揮発成分を除去した。連続して溶融物をダイからストランド状に押出し、冷却後、ペレタイザーでカットしてブロック共重合体水素化物[D’]を含む組成物からなるペレット93部を得た。得られたペレット状のブロック共重合体水素化物[D’]の重量平均分子量(Mw)は88,400、分子量分布(Mw/Mn)は1.05、水素化率はほぼ100%であった。
【0081】
(実施例1)
<合わせガラス用中間膜の作製>
まず、L/D:48、46mmφ(2軸)の主押出し装置と、L/D:75mmφ(単軸)の副押出し装置とをフィードブロックに接合し、更に幅1.2mのTダイを取り付けた。フィードブロック内の合流部には
図3(a)に示す形状および配置の厚み規制部材を配置した。次に、主押出し装置にブロック共重合体水素化物[D’]を含む組成物からなるペレットを投入し、副押出し装置に変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む精製物を投入し、主押出し装置のシリンダ温度を140℃、副押出し装置のシリンダ温度を200℃、フィードブロックの温度を200℃、Tダイの温度を210℃、冷却ロールの温度を60℃として、変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む精製物(約100μm)/ブロック共重合体水素化物[D’]を含む組成物(約500μm)/変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む精製物(約100μm)の2種3層シート(合わせガラス用中間膜)を作製した。
なお、幅方向のシート厚みは巻取り装置の引き取り速度とTダイのマニュアルボルトで調整した。
そして、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<合わせガラスの作製>
作製した合わせガラス用中間膜を300mm角の2枚のフロートガラス(厚さ:2mm)で挟み、レトルト包装用のラミネート袋に挿入し真空包装を行った。次に、この真空包装体をオートクレーブ装置(羽生田鉄工所製、タンデライオン)に入れ、125℃、0.8MPa、30分の加熱加圧処理を行い、合わせガラスを得た。そして、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例2)
合わせガラス用中間膜の作製時に、主押出し装置に、ブロック共重合体水素化物[D]を含む組成物からなるペレット100部と、40℃に加温したポリイソブテン(日油製、10HS)20部との混合物を投入した以外は実施例1と同様にして、2種3層シート(合わせガラス用中間膜)および合わせガラスを作製した。
そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例3)
合わせガラス用中間膜の作製時に、主押出し装置に、ブロック共重合体水素化物[D’]を含む組成物からなるペレット100部と、ITOの水分散体(ITO濃度:20%、三菱マテリアル社製)1.5部と、デカグリセリンモノカプリレート(阪本薬品工業社製、MCA-750)0.06部との混合物を投入した以外は実施例1と同様にして、2種3層シート(合わせガラス用中間膜)および合わせガラスを作製した。
そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
(実施例4)
合わせガラス用中間膜の作製時に、L/D:48、46mmφ(2軸)の主押出し装置と、L/D:25、75mm(単軸)の副押出し装置2台とを、幅1.2mの3種3層マルチマニフォールドダイスに取り付けた。次に、主押出し装置にブロック共重合体水素化物[D’]を含む組成物からなるペレットを投入し、副押出し装置に変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む精製物を投入し、主押出し装置のシリンダ温度を140℃、副押出し装置のシリンダ温度を200℃、マルチマニフォールドダイスの温度を210℃、冷却ロールの温度を60℃として、変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む精製物(約100μm)/ブロック共重合体水素化物[D’]を含む組成物(約500μm)/変性ブロック共重合体水素化物[E]を含む精製物(約100μm)の2種3層シート(合わせガラス用中間膜)を作製した。
なお、幅方向のシート厚みは巻取り装置の引き取り速度とマルチマニフォールドダイスのマニュアルボルトで調整した。
そして、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例5)
合わせガラス用中間膜の作製時に、幅方向中央部が凹となる形状の厚み規制部材と、幅方向中央部が凸となる形状の厚み規制部材との位置を入れ替えてフィードブロック内の合流部に配置した以外は実施例1と同様にして、2種3層シート(合わせガラス用中間膜)および合わせガラスを作製した。
そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(比較例1)
合わせガラス用中間膜の作製時に、幅方向断面が平坦な厚み規制部材をフィードブロック内の合流部に配置し、ブロック共重合体水素化物[D’]に替えてシラン変性ポリエチレン(三菱ケミカル製、リンクロンSS732N)を主押出し装置に投入し、主押出し装置のシリンダ温度を200℃に変更した以外は実施例1と同様にして、2種3層シート(合わせガラス用中間膜)および合わせガラスを作製した。
そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(比較例2)
合わせガラス用中間膜の作製時に、幅方向中央部が凹となる形状の厚み規制部材と、幅方向中央部が凸となる形状の厚み規制部材との位置を入れ替えてフィードブロック内の合流部に配置し、ブロック共重合体水素化物[D’]に替えてスチレン-ブタジエンブロック共重合体(KURATONコーポレーション製、クレイトンKG1657)を主押出し装置に投入し、主押出し装置のシリンダ温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして、2種3層シート(合わせガラス用中間膜)および合わせガラスを作製した。
そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(比較例3)
合わせガラス用中間膜の作製時に、変性ブロック共重合体水素化物[E]に替えてシラン変性ポリエチレン(三菱ケミカル製、リンクロンSS732N)を副押出し装置に投入した以外は実施例1と同様にして、2種3層シート(合わせガラス用中間膜)および合わせガラスを作製した。
そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
【0090】
表1より、実施例1~5の合わせガラス用中間膜を使用すれば、比較例1~3の合わせガラス用中間膜を使用した場合と比較し、強度および外観に優れる合わせガラスが得られることが分かる。
なお、実施例1~3の合わせガラス用中間膜では、領域(A)および領域(B)が、それぞれ、平面視中央位置から平面視端部まで延在していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、組成の異なる2種類以上の樹脂組成物を用いて形成された合わせガラス用中間膜を備え、強度および外観に優れる合わせガラスを提供することができる。
【符号の説明】
【0092】
1A~1G 樹脂組成物
10A~10C 樹脂流路
20 フィードブロック
21A、22B、21C、21D、22D、21E、22F、21G、21H、22H 厚み規制部材
30 ダイス
100 共押出装置