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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】複合粒子
(51)【国際特許分類】
   C01G 39/02 20060101AFI20240723BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20240723BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240723BHJP
   C09C 1/40 20060101ALI20240723BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20240723BHJP
   C01F 7/021 20220101ALN20240723BHJP
【FI】
C01G39/02
C09D7/62
C09D201/00
C09C1/40
C09C3/06
C01F7/021
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022520964
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-06
(86)【国際出願番号】 CN2019110116
(87)【国際公開番号】W WO2021068124
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-07-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】リ メン
(72)【発明者】
【氏名】高田 新吾
(72)【発明者】
【氏名】土肥 知樹
(72)【発明者】
【氏名】林 正道
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
(72)【発明者】
【氏名】森光 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シャオエイ
(72)【発明者】
【氏名】リュウ チェン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ ウエイ
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0185675(US,A1)
【文献】特開2016-222501(JP,A)
【文献】特開2014-218425(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110182834(CN,A)
【文献】特許第4255233(JP,B2)
【文献】特開2010-120796(JP,A)
【文献】特開2016-028993(JP,A)
【文献】特開平01-119557(JP,A)
【文献】特開昭53-137216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 39/02
C09D 7/62
C09D 201/00
C09C 1/40
C09C 3/06
C01F 7/021
C01F 7/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン(Mo)を含み、且つムライトを表層に含む板状アルミナ粒子と、該板状アルミナ粒子の表面上に設けられた無機被覆部とを含む、複合粒子。
【請求項2】
前記無機被覆部は、酸化物で構成される、請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
前記酸化物は、酸化チタン、酸化鉄及びシリカから選択される1又は複数である、請求項2に記載の複合粒子。
【請求項4】
前記無機被覆部は、金属で構成される、請求項1に記載の複合粒子。
【請求項5】
前記金属は、銀、ニッケル、銅、金及び白金から選択される1又は複数である、請求項4に記載の複合粒子。
【請求項6】
前記板状アルミナ粒子は、さらに珪素を含む、請求項1に記載の複合粒子。
【請求項7】
前記複合粒子は、板状を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の複合粒子。
【請求項8】
前記複合粒子は、板状を有し、厚みが0.01μm以上5μm以下、粒径が0.1μm以上500μm以下、且つアスペクト比が2以上500以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の複合粒子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の複合粒子を含む塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合粒子及び該複合粒子の製造方法に関し、特に、アルミナ粒子に被覆部が設けられた複合粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
無機フィラーであるアルミナ粒子は、様々な用途で利用されている。なかでも、高アスペクト比の板状アルミナ粒子は、球状のアルミナ粒子に比べて熱的特性及び光学特性等に特に優れており、更なる性能の向上が求められている。
従来、板状アルミナ粒子が本来持つ上記特性や、分散性等を向上させるために、長径や厚みなどの形状に特徴を備えた、種々の板状アルミナ粒子が知られている(特許文献1~2)。また、板状アルミナ粒子の高アスペクト化を目的とし、形状を制御する為の製法として、リン酸化合物を形状制御剤として添加して水熱合成する方法や(特許文献3)、ケイフッ化物を添加して焼成する方法(特許文献4)等が知られている。
更に、板状アルミナの製造に当たり、結晶制御剤としてシリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物を用いる板状アルミナの製造方法(特許文献5)も知られている。
【0003】
被覆アルミナ粒子としては、平均粒子径が100nm以下のジルコニアナノ粒子を、平均粒子径が0.1μm以上のアルミナ粒子表面に被覆させることによって得られる、上記ジルコニアナノ粒子が表面上に均一に被覆されてなるアルミナ粒子が知られている(特許文献6)。
また、他の被覆粒子としては、基盤粉末と、該基盤粉末の表面に突起状に付着した数平均粒子径0.5~5.0μmの球状硫酸バリウム粒子とを含み、球状硫酸バリウム粒子の被覆率が前記基盤粉末表面積に対して10~70%である複合粉末が知られている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-192338号公報
【文献】特開2002-249315号公報
【文献】特開平9-59018号公報
【文献】特開2009-35430号公報
【文献】特開2016-222501号公報
【文献】特開2005-306635号公報
【文献】特開2004-300080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~5のいずれにも、アルミナ粒子と被覆部との被覆特性についての知見は無い。
更に、特許文献6には、ポアが少なく緻密で、高靱性、高抗折強度を有するアルミナ焼結体が得られることが記載されているものの、アルミナ粒子と被覆部との被覆特性についての知見は無い。
また、特許文献7には、球状硫酸バリウム粒子の被覆率が前記基盤粉末表面積に対して10~70%であると、複合粒子を化粧料に配合したときに、肌の凹凸や色彩的な欠点を補正すると共に自然な仕上りを与えることが記載されているものの、アルミナ粒子と被覆部の被覆特性についての知見は無く、改善の余地がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、被覆特性に優れる複合粒子及び該複合粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、複合粒子を構成する基体としてのアルミナ粒子の表面上に、ムライト及びモリブデンの少なくとも一方が存在していると、アルミナ粒子を無機被覆部で被覆した際の被覆効率が向上し、アルミナ粒子を被覆しやすくなることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を提供する。
【0008】
[1]モリブデン(Mo)を含むアルミナ粒子と、該アルミナ粒子の表面上に設けられた無機被覆部とを含む、複合粒子。
[2]前記無機被覆部は、酸化物で構成される、上記[1]に記載の複合粒子。
[3]前記酸化物は、酸化チタン、酸化鉄及びシリカから選択される1又は複数である、上記[2]に記載の複合粒子。
[4]前記無機被覆部は、金属で構成される、上記[1]に記載の複合粒子。
[5]前記金属は、銀、ニッケル、銅、金及び白金から選択される1又は複数である、上記[4]に記載の複合粒子。
[6]前記アルミナ粒子は、さらに珪素及び/又はゲルマニウムを含む、上記[1]に記載の複合粒子。
[7]前記アルミナ粒子は、ムライトを表層に含む、上記[6]に記載の複合粒子。
[8]前記複合粒子は、板状及び多面体形状のいずれかを有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の複合粒子。
[9]前記複合粒子は、板状を有し、厚みが0.01μm以上5μm以下、粒径が0.1μm以上500μm以下、且つアスペクト比が2以上500以下である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の複合粒子。
[10]上記[1]~[9]のいずれかに記載の複合粒子を含む塗料。
[11]アルミニウム元素を含有するアルミニウム化合物と、モリブデン元素を含有するモリブデン化合物とを含む混合物か、又は、アルミニウム元素を含有するアルミニウム化合物と、モリブデン元素を含有するモリブデン化合物と、アルミナ粒子の形状を制御するための形状制御剤とを含む混合物を焼成して、アルミナ粒子を製造する工程と、
前記アルミナ粒子の表面上に無機被覆部を形成する工程と、
を含む、複合粒子の製造方法。
[12]前記形状制御剤は、珪素、珪素元素を含有する珪素化合物及びゲルマニウム元素を含有するゲルマニウム化合物から選択された1又は複数で構成される、上記[11]に記載の複合粒子の製造方法。
[13]前記混合物が、更にカリウム元素を含有するカリウム化合物を含む、上記[11]又は[12]に記載の複合粒子の製造方法。
[14]前記無機被覆部は、酸化物で構成される、上記[11]に記載の複合粒子。
[15]前記酸化物は、酸化チタン、酸化鉄及びシリカから選択された1又は複数である、上記[14]に記載の複合粒子の製造方法。
[16]前記無機被覆部は、金属で構成される、上記[11]に記載の複合粒子の製造方法。
[17]前記金属は、銀、ニッケル、銅、金及び白金から選択された1又は複数である、上記[16]に記載の複合粒子の製造方法。
【0009】
本発明によれば、被覆特性に優れる複合粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施形態に係る複合粒子の構成の一例として、実施例1で得られた複合粒子を示す電子顕微鏡画像である。
図2図2は、図1の複合粒子の表面を拡大した拡大画像である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る複合粒子の構成の一例として、実施例2で得られた複合粒子を示す電子顕微鏡画像である。
図4図4は、図3の複合粒子の端部を拡大した拡大画像である。
図5図5は、図3の複合粒子の表面を拡大した拡大画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
<<第1実施形態>>
<複合粒子>
第1実施形態に係る複合粒子は、モリブデン(Mo)を含むアルミナ粒子と、該アルミナ粒子の表面上に設けられた無機被覆部とを含んでいる。本実施形態のアルミナ粒子は板状形状を有しており、複合粒子も板状形状を有している。以下、本実施形態において、板状形状を有するアルミナ粒子を、「板状アルミナ粒子」、「板状アルミナ」或いは単に「アルミナ粒子」とも称する。
【0013】
<板状アルミナ粒子>
本発明でいう「板状」は、アルミナ粒子の平均粒子径を厚みで除したアスペクト比が2以上であることを指す。なお、本明細書において、「アルミナ粒子の厚み」は、走査型電子顕微鏡(SEM)により得られたイメージから、無作為に選出された少なくとも50個の板状アルミナ粒子について測定された厚みの算術平均値とする。また、「アルミナ粒子の平均粒子径」は、レーザー回折粒子径測定装置により測定された体積基準の累積粒度分布から、体積基準メジアン径D50として算出された値とする。
【0014】
アルミナ粒子においては、以下に示す、厚み、粒子径、及びアスペクト比の条件は、それが板状である範囲で、どの様に組み合わせることもできる。また、これら条件で例示する数値範囲の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。
【0015】
板状アルミナ粒子は、厚みが0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.03μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上5μm以下であることが好ましく、0.3μm以上3μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上1μm以下であることがさらに好ましい。
さらに大粒径の板状アルミナ粒子を用いる場合には、厚みが3μm以上であることが好ましく、厚みが5μm以上60μm以下であることがより好ましい。
上記の厚みを有するアルミナ粒子は、アスペクト比が高く且つ機械的強度に優れることから好ましい。
【0016】
板状アルミナ粒子は、平均粒子径(D50)が0.1μm以上500μm以下であることが好ましく、0.5μm以上100μm以下であることがより好ましく、1μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。
より大粒径の板状アルミナ粒子を用いる場合には、平均粒子径(D50)が10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、22μm以上であることがより好ましく、25μm以上であることがさらに好ましく、31μm以上であることが特に好ましい。上記の平均粒子径の上限値は特に限定されるものではないが、一例として、実施形態の板状アルミナ粒子の平均粒子径(D50)は、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上300μm以下であることが好ましく、22μm以上100μm以下であることがより好ましく、25μm以上100μm以下であることがさらに好ましく、31μm以上50μm以下であることが特に好ましい。
上記の下限値以上の平均粒子径(D50)を有するアルミナ粒子は、光の反射面の面積が大きいことから、特に光輝性に優れる。また、上記上限値以下の平均粒子径(D50)を有するアルミナ粒子は、フィラーとしての使用に好適である。
【0017】
板状アルミナ粒子は、厚みに対する平均粒子径の比率であるアスペクト比が2以上500以下であることが好ましく、5以上500以下であることが好ましく、15以上500以下であることが好ましく、10以上300以下であることがより好ましく、17以上300以下であることがより好ましく、33以上100以下であることがさらに好ましい。板状アルミナ粒子のアスペクト比が2以上であると、2次元の配合特性を有し得ることから好ましく、板状アルミナ粒子のアスペクト比が500以下であると、機械的強度に優れることから好ましい。アスペクト比が15以上であると、顔料とした際に高輝度となるため、好ましい。
さらに大粒径の板状アルミナ粒子を用いる場合には、厚みに対する平均粒子径の比率であるアスペクト比が2以上50以下であることが好ましく、3以上30以下であることがより好ましい。
【0018】
板状アルミナ粒子は、円形板状や楕円形板状であってもよいが、粒子形状は、例えば、多角板状であることが、取り扱い性や製造のし易さの点から好ましい。
【0019】
板状アルミナ粒子は、どの様な製造方法に基づいて得られたものであってもよいが、よりアスペクト比が高く、より分散性に優れ、より生産性に優れる点で、モリブデン化合物(好ましくはさらにカリウム化合物)と形状制御剤の存在下でアルミニウム化合物を焼成する事により得ることが好ましい。形状制御剤は、珪素、珪素化合物、及びゲルマニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を使用するのがよい。形状制御剤は後述のムライトのSiの供給元となることから、珪素又は珪素元素を含む珪素化合物を使用するのがより好ましい。
上記製造方法において、モリブデン化合物はフラックス剤として用いられる。本明細書中では、以下、フラックス剤としてモリブデン化合物を用いたこの製造方法を単に「フラックス法」ということがある。フラックス法については、後に詳記する。なお、かかる焼成により、モリブデン化合物がアルミニウム化合物と高温で反応し、モリブデン酸アルミニウムを形成した後、このモリブデン酸アルミニウムが、さらに、より高温でアルミナと酸化モリブデンに分解する際に、モリブデン化合物が板状アルミナ粒子内に取り込まれるものと考えられる。酸化モリブデンが昇華し、回収して、再利用することもできる。
なお、板状アルミナ粒子がムライトを表層に含む場合には、この過程で、形状制御剤として配合された珪素又は珪素原子を含む化合物とアルミニウム化合物が、モリブデンを介し反応することにより、ムライトが板状アルミナ粒子の表層に形成されるものと考えられる。ムライトの生成機構について、より詳しくは、アルミナの板表面にて、モリブデンとSi原子の反応によるMo-O-Siの形成、並びにモリブデンとAl原子の反応によるMo-O-Alの形成が起こり、高温焼成することでMoが脱離するとともにSi-O-Al結合を有するムライトが形成するものと考えられる。
板状アルミナ粒子に取り込まれない酸化モリブデンは、昇華させることにより回収して、再利用することが好ましい。こうすることで、板状アルミナ表面に付着する酸化モリブデン量を低減でき、樹脂の様な有機バインダーやガラスの様な無機バインダーなどの被分散媒体に分散させる際に、酸化モリブデンがバインダーに混入することがなく、板状アルミナ本来の性質を最大限に付与することが可能となる。
尚、本明細書においては、後記する製造方法において昇華しうる性質を有するものをフラックス剤、昇華し得ないものを形状制御剤と称するものとする。
【0020】
前記板状アルミナ粒子の製造において、モリブデン及び形状制御剤を活用することにより、アルミナ粒子は高いα結晶率を有し、自形を持つことから、優れた分散性と機械強度、高熱伝導性を実現することができる。
【0021】
板状アルミナ粒子がムライトを表層に含む場合には、板状アルミナ粒子の表層に生成されるムライトの量は、モリブデン化合物及び形状制御剤の使用割合によって制御可能であるが、特に形状制御剤として使用される珪素又は珪素元素を含む珪素化合物の使用割合によって制御可能である。板状アルミナ粒子の表層に生成されるムライトの量の好ましい値と、原料の好ましい使用割合については、後に詳記する。
【0022】
板状アルミナ粒子は、光輝性向上の観点から、アスペクト比が5~500である板状アルミナ粒子であって、固体27Al NMR分析にて、静磁場強度14.1Tにおける10~30ppmの6配位アルミニウムのピークに対する縦緩和時間Tが、5秒以上であることが好ましい。
【0023】
上記縦緩和時間Tが5秒以上であるということは、板状アルミナ粒子の結晶性が高いことを意味するものである。固体状態における縦緩和時間が大きいと結晶の対称性がよく、結晶性が高いという知見が報告されている(既報:北川進ら著「錯体化学会選書4 多核種の溶液および固体NMR」、三共出版株式会社、p80-82))。
【0024】
板状アルミナ粒子において、上記縦緩和時間Tは、5秒以上が好ましく、6秒以上がより好ましく、7秒以上がさらに好ましい。
実施形態の板状アルミナ粒子において、上記縦緩和時間Tの上限値は、特に制限されるものではないが、例えば、22秒以下であってもよく、15秒以下であってもよく、12秒以下であってもよい。
上記に例示した上記縦緩和時間Tの数値範囲の一例としては、5秒以上22秒以下であってもよく、6秒以上15秒以下であってもよく、7秒以上12秒以下であってもよい。
【0025】
板状アルミナ粒子は、固体27Al NMR分析にて、静磁場強度14.1Tにおける60~90ppmの4配位アルミニウムのピークが不検出であることが好ましい。かかる板状アルミナ粒子は、異なる配位数の結晶が含まれることに起因した、結晶の対称性の歪みを起点とした破損・脱落が起こり難いものと考えられ、形状安定性により優れる傾向にある。
【0026】
従来、無機物の結晶性の程度は、XRD分析等の結果により評価されることが、一般的である。しかし、本発明者らの検討により、アルミナ粒子に対する結晶性の評価について、上記縦緩和時間Tを指標とすることで、従来のXRD分析よりも精度の良い解析結果が得られることを見出だした。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、上記縦緩和時間Tが5秒以上と大きく、アルミナ粒子の結晶性が高いといえる。すなわち、実施形態に係る板状アルミナ粒子は、おそらく結晶性が高いために、結晶面での乱反射が抑制されて光反射が向上し、光輝性に優れるものと考えられる。
【0027】
さらに、本発明者らは、上記縦緩和時間Tの値と、板状アルミナ粒子の形状保持率及び樹脂組成物の加工安定性が、非常に良く相関することを見出だした。特に、10μm以下の平均粒子径であって、30以下のアスペクト比を有する板状アルミナ粒子(例えば、実施例1,2)では、縦緩和時間Tの値と板状アルミナ粒子の形状保持率及び樹脂組成物の加工安定性の相関関係が顕著に表れる。上記縦緩和時間Tが5秒以上である上記のような板状アルミナ粒子は、樹脂に配合して樹脂組成物を製造したときに、加工安定性が良く、所望の形状への加工が容易であるとの利点も有する。上記のような板状アルミナ粒子は、上記縦緩和時間Tの値が長いため、結晶性が高められている。したがって、アルミナの結晶性が高いために粒子の強度が高く、樹脂組成物の製造過程で樹脂と板状アルミナ粒子とが混合されたときに、板が割れ難いものと考えられ、更には、おそらくアルミナの結晶性が高いために粒子表面の凹凸が少なく、樹脂との密着に優れるものと考えられる。これらの要因により、上記のような板状アルミナ粒子では、樹脂組成物の加工安定性が良好であるものと考えられる。上記のような板状アルミナ粒子によれば、樹脂組成物に配合した場合等であっても、本来の板状アルミナ粒子の性能が良好に発揮される。
【0028】
板状のアルミナ粒子は、球状のアルミナ粒子と比べ、従来、結晶性の高いアルミナ粒子を得ることは難しかった。このことは、板状アルミナ粒子では、球状のアルミナ粒子とは異なり、その製造過程において結晶成長の方向に偏りを生じさせる必要があるためと考えられる。
対して、上記縦緩和時間Tの値を満たす上記のような板状アルミナ粒子は、板状形状でありながら結晶性が高いものである。そのため、優れた熱伝導性を示す等の板状アルミナ粒子の利点を備えつつ、さらに形状保持率及び樹脂組成物の加工安定性が高められた、非常に有用なものである。
【0029】
また、実施形態の板状アルミナ粒子は、Cu-Kα線を用いたX線回折測定で得られる回折ピークの、(006)面に対応する2θ=41.6±0.3度のピーク強度I(006)と、(113)面に対応する2θ=43.3±0.3度のピーク強度I(113)と、の比I(006)/I(113)(以下、I(006)/I(113)を、(006/113)比と略す。)が、好ましくは0.2以上30以下、より好ましくは1以上20以下であってよく、更に好ましくは3以上10以下、特に好ましくは7.5以上10以下である。この場合の板状アルミナ粒子は、例えば、平均粒子径(D50)が10μm以上、厚みが0.1μm以上である。
【0030】
上記(006/113)比の値が大きいことは、(113)面に対し(006)面の比率が大きいことを意味し、(006)面の方位の結晶に対応する面が顕著に発達した平板状のアルミナ粒子であることを意味していると理解される。かかる平板状のアルミナ粒子は、板状アルミナの板形状の表面において発達した上面又は下面の面積が大きく、そこに反射する反射光の視認性が高まるとともに、(113)面の方位の結晶に対応する面の形成が抑制されているので、一粒あたりの質量が小さくとも、高い光輝性を発揮する。
【0031】
板状アルミナ粒子の等電点のpHは、例えば2~6の範囲であり、2.5~5の範囲であることが好ましく、3~4の範囲であることがより好ましい。等電点のpHが上記範囲内にある板状アルミナ粒子は、静電反発力が高く、それ自体で上記した様な被分散媒体へ配合した際の分散安定性を高めることができ、更なる性能向上を意図したカップリング処理剤等の表面処理による改質がより容易となる。
【0032】
等電点のpHの値は、ゼータ電位測定をゼータ電位測定装置(マルバーン社製、ゼータサイザーナノZSP)にて、試料20mgと10mM KCl水溶液10mLを泡取り錬太郎(シンキー社製、ARE-310)にて攪拌・脱泡モードで3分間攪拌し、5分静置した上澄みを測定用試料とし、自動滴定装置により、試料に0.1N HClを加え、pH=2までの範囲でゼータ電位測定を行い(印加電圧100V、Monomodlモード)、電位ゼロとなる等電点のpHを評価することで得られる。
【0033】
板状アルミナ粒子は、例えば密度が3.70g/cm以上4.10g/cm以下であり、密度が3.72g/cm以上4.10g/cm以下であることが好ましく、密度が3.80g/cm以上4.10g/cm以下であることがより好ましい。
密度は、300℃3時間の条件で板状アルミナ粒子の前処理を行った後、マイクロメリティックス社製 乾式自動密度計アキュピックII1330を用いて、測定温度25℃、ヘリウムをキャリアガスとして使用した条件で測定できる。
【0034】
[アルミナ]
板状アルミナ粒子に含まれる「アルミナ」は、酸化アルミニウムであり、例えば、γ、δ、θ、κ、等の各種の結晶形の遷移アルミナであっても、または遷移アルミナ中にアルミナ水和物を含んでいてもよいが、より機械的な強度または熱伝導性に優れる点で、基本的にα結晶形(α型)であることが好ましい。α結晶形がアルミナの緻密な結晶構造であり、板状アルミナの機械強度または熱伝導性の向上に有利となる。
α結晶化率は、100%にできるだけ近いほうが、α結晶形本来の性質を発揮しやすくなるので好ましい。板状アルミナ粒子のα結晶化率は、例えば90%以上であり、95%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。
【0035】
〔珪素・ゲルマニウム〕
実施形態の板状アルミナ粒子は、珪素及び/又はゲルマニウムを含んでいてもよい。
当該珪素又はゲルマニウムは、形状制御剤として用いることのできる珪素、珪素化合物、及び/又はゲルマニウム化合物に由来するものであってよい。これらを活用することにより、後述する製造方法において、優れた光輝性を有する板状アルミナ粒子を製造することができる。
【0036】
(珪素)
実施形態の板状アルミナ粒子は、珪素を含んでいてもよい。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、珪素を表層に含んでいてもよい。
ここで「表層」とは実施形態に係る板状アルミナ粒子の表面から10nm以内のことをいう。この距離は、実施例において計測に用いたXPSの検出深さに対応する。
【0037】
板状アルミナ粒子は、珪素が表層に偏在していてもよい。ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりの珪素の質量が、前記表層以外における単位体積あたりの珪素の質量よりも多い状態をいう。珪素が表層に偏在していることは、XPSによる表面分析と、XRFによる全体分析の結果を比較することで判別できる。
【0038】
板状アルミナ粒子が含む珪素は、珪素単体であってもよく、珪素化合物中の珪素であってもよい。板状アルミナ粒子は、珪素又は珪素化合物として、ムライト、Si、SiO、SiO、及びアルミナと反応して生成したケイ酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種を含んでいてもよく、上記物質を表層に含んでいてもよい。ムライトについては、後述する。
【0039】
板状アルミナ粒子は、形状制御剤として珪素又は珪素元素を含む珪素化合物を使用した場合、XRF分析によってSiが検出され得る。板状アルミナ粒子は、XRF分析によって取得された、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]が例えば0.04以下であり、0.035以下であることが好ましく、0.02以下であることがより好ましい。
また、前記モル比[Si]/[Al]の値は、特に限定されるものではないが、例えば0.003以上であり、0.004以上であることが好ましく、0.005以上であることがより好ましい。
板状アルミナ粒子は、XRF分析によって取得された、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]が例えば0.003以上0.04以下であり、0.004以上0.035以下であることが好ましく、0.005以上0.02以下であることがより好ましい。
前記XRF分析により取得された前記モル比[Si]/[Al]の値が、上記範囲内である板状アルミナ粒子は、上記の(006/113)比の値を満たし、光輝性がより好ましいものとなり、板状形状が良好に形成される。また、付着物が板状アルミナ粒子の表面に付着し難く、品質に優れる。この付着物とは、SiO粒とみられ、板状アルミナ粒子表層でのムライトの生成が飽和状態となり、過剰となったSiに由来して生成されるものと考えられる。
より大粒子径の板状アルミナ粒子を用いる場合には、板状アルミナ粒子は、XRF分析によって取得された、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]が、0.0003以上0.01以下であることが好ましく、0.0005以上0.0025以下であることが好ましく、0.0006以上0.001以下であることがより好ましい。
【0040】
板状アルミナ粒子は、その製造方法で用いた珪素又は珪素元素を含む珪素化合物に対応した、珪素を含み得るものである。板状アルミナ粒子100質量%に対する珪素の含有量は、二酸化珪素換算で、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは0.001~5質量%であり、さらに好ましくは0.01~4質量%であり、さらに好ましくは0.3~2.5質量%であり、特に好ましくは0.6~2.5質量%である。
珪素の含有量が上記範囲内であると、上記の(006/113)比の値を満たし、光輝性がより好ましいものとなり、板状形状が良好に形成さる。また、SiO粒とみられる付着物が板状アルミナ粒子の表面に付着し難く、品質に優れる。
より大粒子径の板状アルミナ粒子を用いる場合には、板状アルミナ粒子100質量%に対する珪素の含有量は、二酸化珪素換算で、好ましくは、10質量%以下であり、より好ましくは、0.001~3質量%であり、さらに好ましくは、0.01~1質量%であり、特に好ましくは、0.03~0.3質量%である。
【0041】
(ムライト)
実施形態の板状アルミナ粒子は、ムライトを含んでいてもよい。板状アルミナ粒子の表層にムライトを含むことにより、無機被覆部を構成する無機材料の選択性が向上し、板状アルミナ粒子に無機被覆部を効率的に形成することができると推察される。
ムライトは、板状アルミナ粒子の表層に含まれることで、顕著な機器の摩耗低減が発現する。板状アルミナ粒子が表層に含んでもよい「ムライト」は、AlとSiとの複合酸化物でありAlSiと表わされるが、x、y、zの値に特に制限はない。より好ましい範囲はAlSi~AlSi13である。なお、後述の実施例でXRDピーク強度を確認しているのはAl2.85Si6.3、AlSi6.5、Al3.67Si7.5、AlSi、又はAlSi13を含むものである。板状アルミナ粒子は、Al2.85Si6.3、AlSi6.5、Al3.67Si7.5、AlSi、およびAlSi13からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を表層に含んでいてもよい。ここで「表層」とは板状アルミナ粒子の表面から10nm以内のことをいう。この距離は、実施例において計測に用いたXPSの検出深さに対応する。
板状アルミナ粒子は、ムライトが表層に偏在していることが好ましい。ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりのムライトの質量が、前記表層以外における単位体積あたりのムライトの質量よりも多い状態をいう。ムライトが表層に偏在していることは、後述する実施例において示すように、XPSによる表面分析と、XRFによる全体分析の結果を比較することで判別できる。
【0042】
また、前記表層のムライトは、ムライト層を形成していてもよく、ムライトとアルミナとが混在した状態であってもよい。表層のムライトとアルミナとの界面は、ムライトとアルミナとが物理的に接触した状態であってもよく、ムライトとアルミナとがSi-O-Alなどの化学結合を形成していてもよい。
【0043】
(ゲルマニウム)
実施形態の板状アルミナ粒子は、ゲルマニウムを含んでいてもよい。また、板状アルミナ粒子は、ゲルマニウムを表層に含んでいてもよい。
使用する原料によっても異なるが、板状アルミナ粒子は、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物として、例えば、Ge、GeO、GeO、GeCl、GeBr、GeI、GeS、AlGe、GeTe、GeTe3、As、GeSe、GeSAs、SiGe、LiGe、FeGe、SrGe、GaGe等の化合物、及びこれらの酸化物等からなる群から選択される少なくとも一種を含んでいてもよく、上記物質を表層に含んでいてもよい。
なお、板状アルミナ粒子が含む「ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物」と、原料の形状制御剤として用いる「原料ゲルマニウム化合物」とは同じ種類のゲルマニウム化合物であってもよい。例えば、原料のGeOの添加により製造された板状アルミナ粒子にGeOが検出されてよい。
【0044】
ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物は、板状アルミナ粒子の表層に含まれることで、顕著な機器の摩耗低減が発現する。ここで「表層」とは板状アルミナ粒子の表面から10nm以内のことをいう。
板状アルミナ粒子は、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物が表層に偏在していることが好ましい。ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりのゲルマニウム又はゲルマニウム化合物の質量が、前記表層以外における単位体積あたりのゲルマニウム又はゲルマニウム化合物の質量よりも多い状態をいう。ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物が表層に偏在していることは、XPSによる表面分析と、XRFによる全体分析の結果を比較することで判別できる。
【0045】
板状アルミナ粒子は、その製造方法で用いた原料ゲルマニウム化合物に対応した、ゲルマニウムを含むものである。板状アルミナ粒子100質量%に対するゲルマニウムの含有量は、二酸化ゲルマニウム換算で、好ましくは、10質量%以下であり、より好ましくは、0.001~5質量%であり、さらに好ましくは、0.01~4質量%であり、特に好ましくは、0.1~3.0質量%である。ゲルマニウムの含有量が上記範囲内であると、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物の量が適当であり、上記の(006/113)比の値を満たし、光輝性がより好ましいものとなることから好ましい。上記ゲルマニウムの含有量はXRF分析により求めることができる。
XRF分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0046】
また、前記表層のゲルマニウム又はゲルマニウム化合物は、層を形成していてもよく、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物とアルミナとが混在した状態であってもよい。表層のゲルマニウム又はゲルマニウム化合物とアルミナとの界面は、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物とアルミナとが物理的に接触した状態であってもよく、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物とアルミナとがGe-O-Alなどの化学結合を形成していてもよい。
【0047】
[モリブデン]
実施形態の板状アルミナ粒子は、モリブデンを含有している。また、板状アルミナ粒子は、その表層にモリブデンを含んでいるのが好ましい。これにより、無機被覆部を構成する無機材料の選択性が向上し、板状アルミナ粒子に無機被覆部を効率的に形成することができると推察される。
【0048】
当該モリブデンは、後述するアルミナ粒子の製造方法において、フラックス剤として用いたモリブデン化合物に由来するものであってよい。
【0049】
モリブデンは触媒機能、光学的機能を有する。また、モリブデンを活用することにより、後述する製造方法において、板状形状でありながら結晶性が高い、優れた光輝性を有する板状アルミナ粒子を製造することができる。
【0050】
モリブデンの使用量を多くすることで、粒子サイズ及び上記の(006/113)比の値を満たし、得られたアルミナ粒子の光輝性がさらに優れたものとなる傾向がある。さらには、モリブデンを活用することにより、ムライトの形成が促進され、高アスペクト比と優れた分散性を有する板状アルミナ粒子を製造することができる。また、板状アルミナ粒子に含まれたモリブデンの特性を利用して、酸化反応触媒、光学材料の用途に適用することが可能となりうる。
【0051】
当該モリブデンとしては、特に制限されないが、モリブデン金属の他、酸化モリブデンや一部が還元されたモリブデン化合物、モリブデン酸塩等が含まれる。
モリブデン化合物のとりうる多形のいずれか、または組み合わせで板状アルミナ粒子に含まれてよく、α-MoO、β-MoO、MoO、MoO、モリブデンクラスター構造等として板状アルミナ粒子に含まれてもよい。
【0052】
モリブデンの含有形態は、特に制限されず、板状アルミナ粒子の表面に付着する形態で含まれていても、アルミナの結晶構造のアルミニウムの一部に置換された形態で含まれていてもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0053】
XRF分析において取得された、板状アルミナ粒子100質量%に対するモリブデンの含有量は、三酸化モリブデン換算で、好ましくは、10質量%以下であり、焼成温度、焼成時間、モリブデン化合物の昇華速度を調整する事で、より好ましくは0.001~5質量%であり、さらに好ましくは0.01~5質量%であり、特に好ましくは0.1~1.5質量%である。モリブデンの含有量が10質量%以下であると、アルミナのα単結晶品質を向上させることから好ましい。
より大粒子径の板状アルミナ粒子を用いる場合には、実施形態に係る板状アルミナ粒子100質量%に対するモリブデンの含有量は、三酸化モリブデン換算で、好ましくは、10質量%以下であり、焼成温度、焼成時間、モリブデン化合物の昇華速度を調整する事で、より好ましくは、0.1~5質量%であり、さらに好ましくは、0.3~1質量%である。
上記モリブデンの含有量はXRF分析により求めることができる。XRF分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0054】
また、アルミナ粒子表面のMo量の分析は、上記のX線光電子分光(XPS)装置を用いて行うことができる。
【0055】
[カリウム]
板状アルミナ粒子は、更にカリウムを含有していてもよい。
【0056】
カリウムは後述のアルミナ粒子の製造方法においてフラックス剤として使用可能なカリウムに由来するものであってよい。
カリウムを活用することにより、後述するアルミナ粒子の製造方法において、アルミナ粒子の粒子径を適度に向上させることができる。
【0057】
当該カリウムとしては、特に制限されないが、カリウム金属の他、酸化カリウムや一部が還元されたカリウム化合物等が含まれる。
【0058】
カリウムの含有形態は、特に制限されず、板状アルミナ粒子の平板状アルミナの表面に付着する形態で含まれていても、アルミナの結晶構造のアルミニウムの一部に置換された形態で含まれていてもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0059】
XRF分析において取得された、前記アルミナ粒子100質量%に対するカリウムの含有量が、酸化カリウム(KO)換算で、0.01質量%以上であることが好ましく、0.01~1.0質量%であることがより好ましく、0.03~0.5質量%であることがさらに好ましく、0.05~0.3質量%であることが特に好ましい。カリウムの含有量が上記範囲内であるアルミナ粒子は、多面体形状を有し、平均粒径等の値が好適なものとなるため好ましい。
【0060】
(他の原子)
他の原子は、本発明の効果を阻害しない範囲において、機械強度または電気や磁性機能付与を目的として意図的にアルミナ粒子に添加されるものを意味する。
【0061】
他の原子としては、特に制限されないが、亜鉛、マンガン、カルシウム、ストロンチウム、イットリウム等が挙げられる。これらの他の原子は単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
アルミナ粒子中の他の原子の含有量は、アルミナ粒子の質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
【0063】
[不可避不純物]
アルミナ粒子は不可避不純物を含みうる。
【0064】
不可避不純物は、製造で使用する金属化合物に由来したり、原料中に存在したり、製造工程において不可避的にアルミナ粒子に混入するものであり、本来は不要なものであるが、微量であり、アルミナ粒子の特性に影響を及ぼさない不純物を意味する。
【0065】
不可避不純物としては、特に制限されないが、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、ナトリウム、等が挙げられる。これらの不可避不純物は単独で含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0066】
アルミナ粒子中の不可避不純物の含有量は、アルミナ粒子の質量に対して、10000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、10~500ppmであることがさらに好ましい。
【0067】
<無機被覆部>
無機被覆部は、アルミナ粒子の表面の少なくとも一部を被覆しており、好ましくはアルミナ粒子の表面の少なくとも一部を被覆している無機被覆層で構成されている。換言すれば、複合粒子の表面の少なくとも一部が無機被覆部によって被覆されており、好ましくは複合粒子の表面の少なくとも一部が、無機被覆層によって被覆されている。
無機被覆部は、上述のように、アルミナ粒子の表面上に設けられている。「アルミナ粒子の表面上」とは、アルミナ粒子の表面の外側を意味する。よって、アルミナ粒子の表面の外側に形成される無機被覆部は、アルミナ粒子の表面の内側に形成される、ムライトやゲルマニウムを含む表層とは明確に区別される。
【0068】
この無機被覆部を構成する無機の化学種は、相対的にアルミナ粒子よりも大きくても良いが、相対的にアルミナ粒子よりも小さい方が、目的に応じて任意の被覆量(或いは被覆厚さ)の無機被覆部を容易に設けられる点で、好ましい。組み合わせとしては、例えば、μmオーダーのアルミナ粒子と150nm以下の無機の化学種が挙げられる。アルミナ粒子の表面の外側に、アルミナ粒子よりも小さい無機化学種を用いて無機被覆部を設けるに当たっては、少量の無機化学種を用いて、アルミナ粒子の下地がはっきり外観できる様に、アルミナ表面の一部に無機被覆部を設けるようにすることも出来るし、多量の無機化学種を用いて、アルミナ粒子の下地が外観できない様に、アルミナ粒子の表面に、それらが積層された様な無機被覆部を設けるようにすることも出来る。無機被覆部を構成する無機の化学種の形状は制限されないが、例えば、最少の使用量で最密充填でき下地を隠蔽し易い点からも、球状又は多面体形状であることが好ましい。
【0069】
本発明の複合粒子は、モリブデンを含むアルミナ粒子と無機の化学種からなる無機被覆部とから構成されるものであるが、アルミナ粒子と無機の化学種との単純混合物では発現し得ない、優れた性質を有するものである。本発明の複合粒子では、μmオーダーのモリブデンを含むアルミナ粒子と、凝集していない150nm以下の無機の化学種との組み合わせの場合に、例えば、分子間力や場合によっては局部的な化学反応により、両者間の相互作用が高まる結果、より高い被覆特性が得られる、より均一な無機被覆部が得られ易い、得られた無機被覆部がアルミナ粒子から剥離し難くなる等の、特に際立って優れた性質を発現する。これには、アルミナ粒子に含まれるモリブデンの寄与も期待できる。独立した、nmオーダーの無機の化学種は、例えば、μmオーダーの無機の化学種を機械的に粉砕する等にして得ることは可能であるが、直ちに再凝集などが起こるので使用時の取り扱いは容易ではない。モリブデンを含まないアルミナ粒子、或いは、凝集した無機の化学種を用いた場合、両者は単純混合物しか形成せず、本発明の複合粒子の様な性質は示さない。後記する本発明の複合粒子の製造方法によれば、より高い被覆効率の複合粒子を、より容易に製造することが出来る。
【0070】
無機被覆部は、例えば酸化物又は金属で構成されることができる。酸化物としては、例えば酸化チタン(TiO)、酸化鉄(Fe)及びシリカ(SiO)から選択される1又は複数が挙げられる。金属としては、例えば銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)及び白金(Pt)から選択される1又は複数が挙げられる。
【0071】
無機被覆部を構成する酸化物又は金属の形状は、特に限定されないが、例えば球状、針状、多面体状、円盤状、中空状、多孔質状などの粒子状である。粒子状の酸化物又は金属で構成される粒子の平均粒子径は、例えば1nm以上500nm以下であるのが好ましく、5nm以上200nm以下であるのがより好ましい。酸化物又は金属で構成される粒子は、結晶質であってもよいし、非晶質であってもよい。
【0072】
無機被覆部が無機被覆層である場合、アルミナ粒子の表面上に形成された無機被覆層の1層の厚さは、好ましくは20nm以上400nm以下、好ましくは30nm以上300nm以下、特に好ましくは30nm以上200nm以下である。
【0073】
無機被覆層が酸化チタンで構成される場合、無機被覆層の厚みを変えることにより、所望の干渉色を得ることができる。無機被覆層の厚みが大きくなると、色の濃さが増大する。
無機被覆層が酸化鉄で構成される場合、複合粒子の色は赤又は赤褐色である。
【0074】
無機被覆部は、1層で構成されてもよいし、複数層で構成されてもよい。また、無機被覆部が複数層で構成される場合、当該複数層が互いに異なる材料で構成されてもよい。
【0075】
[複合粒子のXRF被覆率]
実施形態に係る複合粒子のXRF被覆率(%)は、例えば後述する蛍光X線(XRF)分析装置を用いて行うことができる。
XRF被覆率(%)は、例えば、アルミナ粒子を構成する酸化アルミニウムの含有量に対する、無機被覆部を構成する金属酸化物の含有量に基づいて求められ、例えば、XRF分析結果により求められる[MO]/[Al](質量比)から求めることができる。
【0076】
[複合粒子の被覆効率]
実施形態に係る複合粒子の被覆効率は、後述する理論被覆率に対するXRF被覆率の比から求めることができる。被覆効率は、30%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが更に好ましい。
【0077】
[複合粒子表面の有機化合物層]
一実施形態において、複合粒子はその表面に有機化合物層を有していてもよい。有機化合物層を構成する有機化合物は、複合粒子の表面に存在し、複合粒子の表面物性を調節する機能を有する。例えば、表面に有機化合物を有する複合粒子は樹脂との親和性を向上することから、フィラーとしてアルミナ粒子の機能を最大限に発現することができる。
【0078】
有機化合物としては、特に制限されないが、有機シラン、アルキルホスホン酸、およびポリマーが挙げられる。
【0079】
前記有機シランとしては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、iso-プロピルトリメトキシシラン、iso-プロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等のアルキル基の炭素数が1~22までのアルキルトリメトキシシランまたはアルキルトリクロロシラン類、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン類、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリエトキシシラン類等が挙げられる。
【0080】
前記ホスホン酸としては、例えばメチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、ペンチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、ヘプチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、デシルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、2_エチルヘキシルホスホン酸、シクロヘキシルメチルホスホン酸、シクロヘキシルエチルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ドデシルベンゼンホスホン酸が挙げられる。
【0081】
前記ポリマーとしては、例えば、ポリ(メタ)アクリレート類を好適に用いることができる。具体的には、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリベンジル(メタ)アクリレート、ポリシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ポリt-ブチル(メタ)アクリレート、ポリグリシジル(メタ)アクリレート、ポリペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート等であり、また、汎用のポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニル酢酸エステル、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート等ポリマーを挙げることができる。
【0082】
なお、上記有機化合物は、単独で含まれていても、2種以上を含んでいてもよい。
【0083】
有機化合物の含有形態としては、特に制限されず、アルミナと共有結合により連結されていてもよいし、アルミナ或いは無機被覆部の材料を被覆していてもよい。
【0084】
有機化合物の含有率は、アルミナ粒子の質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以上0.01質量%以下であることがさらに好ましい。有機化合物の含有率が20質量%以下であると、複合粒子由来の物性発現が容易にできることから好ましい。
【0085】
<複合粒子の製造方法>
次に、本第1実施形態に係る複合粒子の製造方法の詳細を例示する。本実施形態に係る複合粒子の製造方法は、以下に示す複合粒子の製造方法に限定されない。
【0086】
本実施形態に係る複合粒子の製造方法は、アルミニウム元素を含有するアルミニウム化合物と、モリブデン元素を含有するモリブデン化合物と、アルミナ粒子の形状を制御するための形状制御剤とを含む混合物を焼成して、アルミナ粒子を製造する工程と、前記アルミナ粒子の表面に無機被覆部を形成する工程とを含んでいる。
【0087】
<板状アルミナ粒子の製造方法>
複合粒子を構成する板状アルミナ粒子の製造方法は、特に制限されず、公知の技術が適宜適用されうるが、相対的に低温で高α結晶化率を有するアルミナを好適に制御することができる観点から、好ましくはモリブデン化合物を利用したフラックス法での製造方法が適用されうる。
【0088】
より詳細には、板状アルミナ粒子の好ましい製造方法は、モリブデン化合物および形状制御剤の存在下で、アルミニウム化合物を焼成する工程(焼成工程)を含む。焼成工程は焼成対象の混合物を得る工程(混合工程)で得られた混合物を焼成する工程であってもよい。
【0089】
[混合工程]
混合工程は、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物と、形状制御剤と、を混合して混合物とする工程である。前記混合物は、さらにカリウム化合物を含むことが好ましい。以下、混合物の内容について説明する。
【0090】
(アルミニウム化合物)
アルミニウム化合物は、本実施形態の板状アルミナ粒子の原料であり、熱処理によりアルミナになるものであれば特に限定されず、例えば、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、遷移アルミナ(γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナなど)、α-アルミナ、二種以上の結晶相を有する混合アルミナなどが使用でき、これら前駆体としてのアルミニウム化合物の形状、粒子径、比表面積等の物理形態については、特に限定されるものではない。
【0091】
下で詳記するフラックス法によれば、アルミニウム化合物の形状は、例えば、球状、無定形、高アスペクト比のある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどのいずれであっても好適に用いることができる。
【0092】
同様に、アルミニウム化合物の粒子径は、下で詳記するフラックス法によれば、数nmから数百μmまでのアルミニウム化合物の固体を好適に用いることができる。
【0093】
アルミニウム化合物の比表面積も特に限定されるものではない。モリブデン化合物が効果的に作用するため、比表面積が大きい方が好ましいが、焼成条件やモリブデン化合物の使用量を調整する事で、いずれの比表面積のものでも原料として使用することができる。
【0094】
また、アルミニウム化合物は、アルミニウム化合物のみからなるものであっても、アルミニウム化合物と有機化合物との複合体であってもよい。例えば、有機シランを用いて、アルミニウム化合物を修飾して得られる有機/無機複合体、ポリマーを吸着したアルミニウム化合物複合体などであっても好適に用いることができる。これらの複合体を用いる場合、有機化合物の含有率としては、特に制限はないが、板状アルミナ粒子を効率的に製造できる観点より、当該含有率は60質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0095】
(形状制御剤)
実施形態に係る板状アルミナ粒子を形成するために、形状制御剤を用いることできる。形状制御剤はモリブデン化合物の存在下でアルミナ化合物を焼成によるアルミナの板状結晶成長に重要な役割を果たす。
【0096】
形状制御剤の存在状態は、特に制限されず、例えば、形状制御剤とアルミニウム化合物と物理混合物、形状制御剤がアルミニウム化合物の表面または内部に均一または局在に存在した複合体などが好適に用いることができる。
【0097】
また、形状制御剤がアルミニウム化合物に添加しても良いが、アルミニウム化合物中に不純物として含んでも良い。
【0098】
形状制御剤は板状結晶成長に重要な役割を果たす。酸化モリブデンフラックス法では、酸化モリブデンがアルミニウム化合物と反応することでモリブデン酸アルミニウムを形成させ、次いで、このモリブデン酸アルミニウムが分解する過程における化学ポテンシャルの変化が結晶化の駆動力となっているため、自形面(113)の発達した六角両錘型の多面体粒子が形成する。実施形態の製造方法においては、形状制御剤が、α-アルミナ成長過程において粒子表面近傍に局在化することで、自形面(113)の生長が著しく阻害される結果、相対的に面方向の結晶方位の生長が速くなり、(001)面又は(006)面が成長し、板状形態を形成することができると考えられる。モリブデン化合物をフラックス剤として用いることで、α結晶化率が高い、モリブデンを含む板状アルミナ粒子をより容易に形成できる。
【0099】
なお、上記メカニズムはあくまで推測のものであり、上記メカニズムと異なるメカニズムによって本発明の効果が得られる場合であっても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0100】
形状制御剤の種類については、よりアスペクト比が高く、より分散性に優れ、より生産性に優れる板状アルミナ粒子を製造可能な点からも、珪素、珪素化合物、及びゲルマニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。珪素又は珪素化合物と、ゲルマニウム化合物とは、併用することができる。ムライトのSiの供給元となりムライトを効率よく生産可能な観点からは、形状制御剤として珪素又は珪素元素を含む珪素化合物を用いることが好ましい。また、珪素又は珪素化合物を使用した場合よりも、よりアスペクト比が高くより粒子径の大きな板状アルミナ粒子を製造可能な点からは、形状制御剤としてゲルマニウム化合物を用いることが好ましい。
形状制御剤として、珪素又は珪素化合物を用いた上記フラックス法により、ムライトを表層に含む板状アルミナ粒子を容易に製造することができる。
形状制御剤として、原料ゲルマニウム化合物を用いた上記フラックス法により、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物を含む板状アルミナ粒子を容易に製造することができる。
【0101】
・珪素又は珪素化合物
珪素又は珪素元素を含む珪素化合物としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。珪素又は珪素元素を含む珪素化合物の具体例としては、金属シリコン、有機シラン、シリコン樹脂、シリカ微粒子、シリカゲル、メソポーラスシリカ、SiC、ムライト等の人工合成シリコン化合物;バイオシリカ等の天然シリコン化合物等が挙げられる。これらのうち、アルミニウム化合物との複合、混合がより均一的に形成できる観点から、有機シラン、シリコン樹脂、シリカ微粒子を用いることが好ましい。なお、シリコン又は珪素元素を含む珪素化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明における効果を損なわない限りにおいて、他の形状制御剤と併用して使用してもよい。
【0102】
珪素又は珪素元素を含む珪素化合物の形状は、特に制限されず、例えば、球状、無定形、高アスペクト比のある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどを好適に用いることができる。
【0103】
・ゲルマニウム化合物
形状制御剤として用いる原料ゲルマニウム化合物としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。原料ゲルマニウム化合物の具体例としては、ゲルマニウム金属、二酸化ゲルマニウム、一酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム、Ge-C結合を有する有機ゲルマニウム化合物等が挙げられる。なお、原料ゲルマニウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明における効果を損なわない限りにおいて、他の形状制御剤と併用して使用してもよい。
【0104】
原料ゲルマニウム化合物の形状は、特に制限されず、例えば、球状、無定形、高アスペクト比のある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどを好適に用いることができる。
【0105】
(モリブデン化合物)
モリブデン化合物は、後述するように、アルミナのα結晶成長においてフラックス剤として機能する。
モリブデン化合物としては、特に制限されないが、酸化モリブデン、モリブデン金属が酸素との結合からなる酸根アニオン(MoO n-)を含有する化合物が挙げられる。
【0106】
前記酸根アニオン(MoO n-)を含有する化合物としては、特に制限されないが、モリブデン酸、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸リチウム、HPMo1240、HSiMo1240、NHMo12、二硫化モリブデン等が挙げられる。
【0107】
モリブデン化合物に珪素を含むことも可能であり、その場合、珪素を含むモリブデン化合物がフラックス剤と形状制御剤と両方の役割を果たす。
【0108】
上述のモリブデン化合物のうち、昇華し易く、かつコストの観点から、酸化モリブデンを用いることが好ましい。また、上述のモリブデン化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0109】
また、モリブデン酸カリウム(KMo3n+1、n=1~3)は、カリウムを含むため、後述するカリウム化合物としての機能も有しうる。実施形態の製造方法において、モリブデン酸カリウムをフラックス剤として用いることは、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いることと同義である。
【0110】
(カリウム化合物)
形状制御剤とともに、さらにカリウム化合物を併用してもよい。
カリウム化合物としては、特に制限されないが、塩化カリウム、亜塩素酸カリウム、塩素酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酢酸カリウム、酸化カリウム、臭化カリウム、臭素酸カリウム、水酸化カリウム、珪酸カリウム、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウム等が挙げられる。この際、前記カリウム化合物は、モリブデン化合物の場合と同様に、異性体を含む。これらのうち、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることが好ましく、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることがより好ましい。
【0111】
上述のカリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0112】
カリウム化合物は、ムライトがアルミナ表層に効率良く形成されることに寄与する。また、カリウム化合物は、ゲルマニウムを含む層がアルミナ表層に効率良く形成されることに寄与する。
【0113】
また、カリウム化合物は、モリブデン化合物とともにフラックス剤として用いることも好ましい。
【0114】
上記のうち、モリブデン酸カリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。モリブデン酸カリウムをフラックス剤として用いた場合、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いた場合と同様の作用を奏することができる。
【0115】
原料仕込み時に用いる又は焼成に当たって昇温過程の反応で生じるカリウム化合物として、水溶性のカリウム化合物、例えばモリブデン酸カリウムは、焼成温度域でも気化することなく、焼成後に洗浄で、容易に回収できるため、モリブデン化合物が焼成炉外へ放出される量も低減され、生産コストとしても大幅に低減することができる。
【0116】
モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、カリウム化合物のカリウム元素に対するモリブデン化合物のモリブデン元素のモル比(モリブデン元素/カリウム元素)は、5以下であることが好ましく、0.01~3であることがより好ましく、0.5~1.5であることが、生産コストをより低減することができるため、さらに好ましい。前記モル比(モリブデン元素/カリウム元素)が上記範囲内にあると、粒子サイズの大きい板状アルミナ粒子が得られうることから好ましい。
【0117】
(金属化合物)
金属化合物は、後述するように、アルミナの結晶成長を促進する機能を有しうる。当該金属化合物は所望により焼成時に使用されうる。なお、金属化合物は、α-アルミナの結晶成長を促進する機能を有するものであるため、本発明に係る板状アルミナ粒子の製造に必須ではない。
【0118】
金属化合物としては、特に制限されないが、第II族の金属化合物、第III族の金属化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0119】
前記第II族の金属化合物としては、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物等が挙げられる。
【0120】
前記第III族の金属化合物としては、スカンジウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物、セリウム化合物等が挙げられる。
【0121】
なお上述の金属化合物は、金属元素の酸化物、水酸化物、炭酸化物、塩化物を意味する。例えば、イットリウム化合物であれば、酸化イットリウム(Y)、水酸化イットリウム、炭酸化イットリウムが挙げられる。これらのうち、金属化合物は金属元素の酸化物であることが好ましい。なお、これらの金属化合物は異性体を含む。
【0122】
これらのうち、第3周期元素の金属化合物、第4周期元素の金属化合物、第5周期元素の金属化合物、第6周期元素の金属化合物であることが好ましく、第4周期元素の金属化合物、第5周期元素の金属化合物であることがより好ましく、第5周期元素の金属化合物であることがさらに好ましい。具体的には、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物、を用いることが好ましく、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、イットリウム化合物を用いることがより好ましく、イットリウム化合物を用いることが特に好ましい。
【0123】
金属化合物の添加率は、アルミニウム化合物中のアルミニウム原子の質量換算値に対して、0.02~20質量%であることが好ましく、0.1~20質量%であることがより好ましい。金属化合物の添加率が0.02質量%以上であると、モリブデンを含むα-アルミナの結晶成長が好適に進行しうることから好ましい。一方、金属化合物の添加率が20質量%以下であると、金属化合物由来の不純物の含有量の低い板状アルミナ粒子を得ることができることから好ましい。
【0124】
[イットリウム]
金属化合物として、イットリウム化合物の存在下で、アルミニウム化合物を焼成した場合には、この焼成工程において、結晶成長がより好適に進行し、α-アルミナと水溶性イットリウム化合物が生成する。この際に、板状アルミナ粒子であるα-アルミナの表面に、当該水溶性イットリウム化合物が局在化しやすいことから、必要ならば、水、アルカリ水、これらを温めた液体等にて洗浄を行うことで、イットリウム化合物を板状アルミナ粒子から除去することができる。
【0125】
上記のアルミニウム化合物、モリブデン化合物、珪素又は珪素化合物、ゲルマニウム化合物、カリウム化合物等の使用量は特に限定されないが、例えば、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、以下の混合物を焼成することが挙げられる。
1)Al換算で、好ましくは50質量%以上のアルミニウム化合物、より好ましくは70質量%以上99質量%以下のアルミニウム化合物、さらに好ましくは80質量%以上94.5質量%以下のアルミニウム化合物と、
MoO換算で、好ましくは40質量%以下のモリブデン化合物、より好ましくは0.5質量%以上20質量%以下のモリブデン化合物、さらに好ましくは1質量%以上7質量%以下のモリブデン化合物と、
SiO換算又はGeO換算で、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下の珪素、珪素化合物若しくはゲルマニウム化合物、より好ましくは0.5質量%以上7質量%未満の珪素、珪素化合物若しくはゲルマニウム化合物、さらに好ましくは0.8質量%以上4質量%以下の珪素、珪素化合物若しくはゲルマニウム化合物と、
を、混合した混合物。
【0126】
より粒子径の大きな板状アルミナ粒子を得るとの観点からは、上記混合物において、MoO換算で、好ましくは7質量%以上40質量%以下のモリブデン化合物、より好ましくは9質量%以上30質量%以下のモリブデン化合物、さらに好ましくは10質量%以上17質量%以下のモリブデン化合物を使用することが好ましい。
【0127】
より粒子径の大きな板状アルミナ粒子を得るとの観点からは、上記混合物において、SiO換算及び/又はGeO換算で、好ましくは0.4質量%以上10質量%未満、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、特に好ましくは1質量%以上3質量%以下の珪素、珪素化合物及び/又はゲルマニウム化合物を使用することが好ましい。
【0128】
上記の形状制御剤の珪素、珪素化合物及び/又はゲルマニウム化合物としては、珪素又は珪素化合物であってよく、ゲルマニウム化合物であってよい。
上記の形状制御剤としては、珪素又は珪素化合物のみを用いてもよく、ゲルマニウム化合物のみを用いてもよく、珪素又は珪素化合物とゲルマニウム化合物とのみを組み合わせて用いてもよい。
形状制御剤としてゲルマニウム化合物を用いる場合には、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、GeO換算で、好ましくは0.4質量%以上1.5質量%未満、より好ましくは0.7質量%以上1.2質量%以下のゲルマニウム化合物を混合物に配合してもよい。
【0129】
上記の原料配合(質量%)の条件は原料ごとに自由に組み合わせてよく、各原料配合(質量%)における下限値と上限値についても自由に組み合わせることができる。
【0130】
上記の範囲で各種化合物を使用することで、上記の(006/113)比の値を満たし、光輝性に優れた板状アルミナ粒子を容易に製造できる。
【0131】
前記混合物が、さらに上記のカリウム化合物を含む場合、カリウム化合物の使用量は、特に限定されないが、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、好ましくはKO換算で5質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上3質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以上1質量%以下のカリウム化合物を混合することができる。
カリウム化合物の使用により、モリブデン化合物との反応により形成されるモリブデン酸カリウムは、Si拡散の効果を及ぼし板状アルミナ粒子表面のムライト形成の促進に寄与すると考えられる。
同様に、カリウム化合物の使用により、モリブデン化合物との反応により形成されるモリブデン酸カリウムは、原料ゲルマニウム拡散の効果を及ぼし板状アルミナ粒子表面のゲルマニウム又はゲルマニウム化合物の形成の促進に寄与すると考えられる。
原料仕込み時に用いる又は焼成に当たって昇温過程の反応で生じるカリウム化合物として、水溶性のカリウム化合物、例えばモリブデン酸カリウムは、焼成温度域でも気化することなく、焼成後に洗浄で、容易に回収できるため、モリブデン化合物が焼成炉外へ放出される量も低減され、生産コストとしても大幅に低減することができる。
【0132】
フラックス法においては、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いることも好ましい。
なお、フラックス剤としての、モリブデンとカリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びカリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとカリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合を例に説明する。
【0133】
さらに粒子サイズの大きな板状アルミナ粒子を得るとの観点からは、上記のアルミニウム化合物、モリブデン化合物、カリウム化合物、及び珪素又は珪素化合物の使用量は、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、好ましくは以下とすることができる。
2)Al換算で10質量%以上のアルミニウム化合物と、MoO換算で20質量%以上のモリブデン化合物と、KO換算で1質量%以上カリウム化合物と、SiO換算で1質量%未満の珪素又は珪素化合物と、を混合した混合物。
六角板状のアルミナの含有率をより高めることができる点では、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、より好ましくは以下の混合物を使用することができる。
3)Al換算で20質量%以上70質量%以下のアルミニウム化合物と、MoO換算で30質量%以上80質量%以下のモリブデン化合物と、KO換算で5質量%以上30質量%以下のカリウム化合物と、SiO換算で0.001質量%以上0.3質量%以下の珪素又は珪素化合物と、を混合した混合物。
六角板状のアルミナの含有率をより高めることができる点では、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、更に好ましくは以下の混合物を使用することができる。
4)Al換算で25質量%以上40質量%以下のアルミニウム化合物と、MoO換算で45質量%以上70質量%以下のモリブデン化合物と、KO換算で10質量%以上20質量%以下のカリウム化合物と、SiO換算で0.01質量%以上0.1質量%以下の珪素又は珪素化合物と、を混合した混合物。
六角板状のアルミナの含有率を最も高めることができ、結晶成長をより好適に進行させるために、特に好ましくは以下の混合物を使用することができる。
5)酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Al換算で35質量%以上40質量%以下のアルミニウム化合物と、MoO換算で45質量%以上65質量%以下のモリブデン化合物と、KO換算で10質量%以上20質量%以下のカリウム化合物と、SiO換算で0.02質量%以上0.08質量%以下の珪素又は珪素化合物と、を混合した混合物。
【0134】
上記の範囲で各種化合物を配合することで、板状で且つ粒子サイズが大きく、より光輝性に優れた板状アルミナ粒子を製造することができる。特に、モリブデンの使用量を多くする傾向とし、珪素の使用量をある程度少なくする傾向とすることで、より粒子サイズ及び結晶子径を大きくでき、且つ六角板状のアルミナ粒子が得られやすくなり、上記のさらに好ましい範囲で各種化合物を配合することで、六角板状のアルミナ粒子が得られやすく、それの含有率をより高めることができ、得られたアルミナ粒子の光輝性がさらに優れたものとなる傾向がある。
【0135】
前記混合物が、さらに上記のイットリウム化合物を含む場合、イットリウム化合物の使用量は、特に限定されないが、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、好ましくはY換算で5質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上3質量%以下のイットリウム化合物を混合することができる。結晶成長をより好適に進行させるために、さらに好ましくは、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Y換算で0.1質量%以上1質量%以下のイットリウム化合物を混合することができる。
【0136】
上記の各原料の使用量の数値範囲は、それらの合計含有量が100質量%を超えない範囲において、適宜組み合わせることができる。
【0137】
[焼成工程]
焼成工程は、モリブデン化合物及び形状制御剤の存在下で、アルミニウム化合物を焼成する工程である。焼成工程は、前記混合工程で得られた混合物を焼成する工程であってもよい。
【0138】
板状アルミナ粒子は、例えば、モリブデン化合物および形状制御剤の存在下で、アルミニウム化合物を焼成することで得られる。上記した通り、この製造方法はフラックス法と呼ばれる。
【0139】
フラックス法は、溶液法に分類される。フラックス法とは、より詳細には、結晶-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すことを利用した結晶成長の方法である。フラックス法のメカニズムとしては、以下の通りであると推測される。すなわち、溶質およびフラックスの混合物を加熱していくと、溶質およびフラックスは液相となる。この際、フラックスは融剤であるため、換言すれば、溶質-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すため、溶質は、その融点よりも低い温度で溶融し、液相を構成することとなる。この状態で、フラックスを蒸発させると、フラックスの濃度は低下し、換言すれば、フラックスによる前記溶質の融点低下効果が低減し、フラックスの蒸発が駆動力となって溶質の結晶成長が起こる(フラックス蒸発法)。なお、溶質およびフラックスは液相を冷却することによっても溶質の結晶成長を起こすことができる(徐冷法)。
【0140】
フラックス法は、融点よりもはるかに低い温度で結晶成長をさせることができる、結晶構造を精密に制御できる、自形をもつ多面体結晶体を形成できる等のメリットを有する。
【0141】
フラックスとしてモリブデン化合物を用いたフラックス法によるα-アルミナ粒子の製造では、そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、以下のようなメカニズムによるものと推測される。すなわち、モリブデン化合物の存在下でアルミニウム化合物を焼成すると、まず、モリブデン酸アルミニウムが形成される。この際、当該モリブデン酸アルミニウムは、上述の説明からも理解されるように、アルミナの融点よりも低温でα-アルミナ結晶を成長する。そして、例えば、モリブデン酸アルミニウムの分解、フラックスの蒸発等を経て、結晶成長が加速されることでアルミナ粒子を得ることができる。すなわち、モリブデン化合物がフラックスとして機能し、モリブデン酸アルミニウムという中間体を経由してα-アルミナ粒子が製造されるのである。
【0142】
フラックス剤として、さらにカリウム化合物を用いた場合の、フラックス法によるα-アルミナ粒子の製造では、そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、以下のようなメカニズムによるものと推測される。まず、モリブデン化合物とアルミニウム化合物が反応してモリブデン酸アルミニウムを形成する。そして、例えば、モリブデン酸アルミニウムが分解して酸化モリブデンとアルミナとなり、同時に、分解によって得られた酸化モリブデンを含むモリブデン化合物は、カリウム化合物と反応してモリブデン酸カリウムを形成する。当該モリブデン酸カリウムを含むモリブデン化合物の存在下でアルミナが結晶成長することで、実施形態に係る板状アルミナ粒子を得ることができる。
【0143】
上記フラックス法により、上記の(006/113)比の値を満たし、光輝性に優れた板状アルミナ粒子を製造することができる。
【0144】
焼成の方法は、特に限定はなく、公知慣用の方法で行う事ができる。焼成温度が700℃を超えると、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物が反応して、モリブデン酸アルミニウムを形成する。さらに、焼成温度が900℃以上になると、モリブデン酸アルミニウムが分解し、形状制御剤の作用で板状アルミナ粒子を形成する。また、板状アルミナ粒子では、モリブデン酸アルミニウムが分解することで、アルミナと酸化モリブデンになる際に、モリブデン化合物が酸化アルミニウム粒子内に取り込まれるものと考えられる。
また、焼成温度が900℃以上になると、モリブデン酸アルミニウムの分解により得られるモリブデン化合物(例えば三酸化モリブデン)がカリウム化合物と反応し、モリブデン酸カリウムを形成するものと考えられる。
さらに、焼成温度が1000℃以上となると、モリブデンの存在下、板状アルミナ粒子の結晶成長とともに、板状アルミナ粒子表面のAlとSiOが反応し、高効率にムライトを形成するものと考えられる。
同様に、焼成温度が1000℃以上となると、モリブデンの存在下、板状アルミナ粒子の結晶成長とともに、板状アルミナ粒子表面のAlとGe化合物が反応し、高効率に二酸化ゲルマニウムやGe-O-Alを有する化合物等を形成するものと考えられる。
【0145】
また、焼成する時に、アルミニウム化合物と、形状制御剤と、モリブデン化合物の状態は特に限定されず、モリブデン化合物および形状制御剤がアルミニウム化合物に作用できる同一の空間に存在すれば良い。具体的には、モリブデン化合物と形状制御剤とアルミニウム化合物との粉体を混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合であっても良く、乾式状態、湿式状態での混合であっても良い。
【0146】
焼成温度の条件に特に限定は無く、目的とする板状アルミナ粒子の上記の(006/113)比の値、平均粒子径、アスペクト比、ムライトの形成、上記縦緩和時間Tの値、分散性等により、適宜、決定される。通常、焼成の温度については、最高温度がモリブデン酸アルミニウム(Al(MoO)の分解温度である900℃以上が好ましく、ムライトやゲルマニウム化合物が高効率に形成される1000℃以上がより好ましく、上記縦緩和時間Tが5秒以上(高結晶性)の板状アルミナ粒子を容易に得ることができる1200℃以上がより好ましい。
【0147】
一般的に、焼成後に得られるα-アルミナの形状を制御しようとすると、α-アルミナの融点に近い2000℃以上の高温焼成を行う必要があるが、焼成炉へ負担や燃料コストの点から、産業上利用する為には大きな課題がある。
【0148】
実施形態の製造方法は、2000℃を超えるような高温であっても実施可能であるが、1600℃以下というα-アルミナの融点よりかなり低い温度であっても、前駆体の形状にかかわりなくα結晶化率が高くアスペクト比の高い板状形状となるα-アルミナを形成することができる。
【0149】
本発明の一実施形態によれば、最高焼成温度が900~1600℃の条件であっても、アスペクト比が高く、α結晶化率が90%以上である板状アルミナ粒子の形成を低コストで効率的に行うことができ、最高温度が950~1500℃での焼成がより好ましく、最高温度が1000~1400℃の範囲の焼成がさらに好ましく、最高温度が1200~1400℃での焼成が最も好ましい。
【0150】
焼成の時間については、所定最高温度への昇温時間を15分~10時間の範囲で行い、且つ焼成最高温度における保持時間を5分~30時間の範囲で行うことが好ましい。板状アルミナ粒子の形成を効率的に行うには、10分~15時間程度の時間の焼成保持時間であることがより好ましい。
最高温度1000~1400℃かつ10分~15時間の焼成保持時間の条件を選択することで、緻密なα結晶形の多角板状アルミナ粒子が凝集し難く、容易に得られる。
最高温度1200~1400℃かつ10分~15時間の焼成保持時間の条件を選択することで、上記縦緩和時間Tが5秒以上(高結晶性)の板状アルミナ粒子が、容易に得られる。
【0151】
焼成の雰囲気としては、本発明の効果が得られるのであれば特に限定されないが、例えば、空気や酸素といった含酸素雰囲気や、窒素やアルゴン、または二酸化炭素といった不活性雰囲気が好ましく、コストの面を考慮した場合は空気雰囲気がより好ましい。
【0152】
焼成するための装置としても必ずしも限定されず、いわゆる焼成炉を用いることができる。焼成炉は昇華した酸化モリブデンと反応しない材質で構成されていることが好ましく、さらに酸化モリブデンを効率的に利用するように、密閉性の高い焼成炉を用いる事が好ましい。
【0153】
上記アルミナ粒子を得るに当たっては、モリブデン化合物及び形状制御剤の存在下、又は、モリブデン化合物、形状制御剤、カリウム化合物及び金属酸化物の存在下で、アルミニウム化合物を焼成する事により得ることが好ましい。
【0154】
すなわち、アルミナ粒子の好ましい製造方法は、モリブデン化合物及び形状制御剤の存在下、又は、モリブデン化合物、形状制御剤及びカリウム化合物の存在下で、アルミニウム化合物を焼成する工程(焼成工程)を含む。前記混合物は、さらに上記の金属化合物を含むことが好ましい。金属化合物としては、イットリウム化合物が好ましい。
【0155】
モリブデン化合物を用いたフラックス法では、酸化モリブデンがアルミニウム化合物と反応することでモリブデン酸アルミニウムを形成させ、次いで、このモリブデン酸アルミニウムが分解する過程における化学ポテンシャルの変化が結晶化の駆動力となっているため、自形面(113)の発達した六角両錘型の多面体粒子が形成する。そして、形状制御剤が、α-アルミナ成長過程において粒子表面近傍に局在化することで、自形面(113)の生長が著しく阻害される結果、相対的に面方向の結晶方位の生長が速くなり、(001)面又は(006)面が成長し、板状形態を形成することができると推察される。よって、モリブデン化合物をフラックス剤として用いることで、α結晶化率が高い、モリブデンを含む板状アルミナ粒子をより容易に形成できる。
【0156】
[冷却工程]
モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、アルミナ粒子の製造方法は、冷却工程を含んでいてもよい。当該冷却工程は、焼成工程において結晶成長したアルミナを冷却する工程である。より具体的には、焼成工程により得られたアルミナ及び液相のフラックス剤を含む組成物を冷却する工程であってよい。
【0157】
冷却速度は、特に制限されないが、1~1000℃/時間であることが好ましく、5~500℃/時間であることがより好ましく、50~100℃/時間であることがさらに好ましい。冷却速度が1℃/時間以上であると、製造時間が短縮されうることから好ましい。一方、冷却速度が1000℃/時間以下であると、焼成容器がヒートショックで割れることが少なく、長く使用できることから好ましい。
【0158】
冷却方法は特に制限されず、自然放冷であっても、冷却装置を使用してもよい。
【0159】
[後処理工程]
実施形態に係る板状アルミナ粒子の製造方法は、後処理工程を含んでいてもよい。当該後処理工程は、板状アルミナ粒子に対する後処理工程であり、フラックス剤を除去する工程である。後処理工程は、上述の焼成工程の後に行ってもよいし、上述の冷却工程の後に行ってもよいし、焼成工程および冷却工程の後に行ってもよい。また、必要に応じて、2度以上繰り返し行ってもよい。
【0160】
後処理の方法としては、洗浄および高温処理が挙げられる。これらは組み合わせて行うことができる。
【0161】
前記洗浄方法としては、特に制限されないが、水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液で洗浄することにより除去することができる。
【0162】
この際、使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液の濃度、使用量、および洗浄部位、洗浄時間等を適宜変更することで、モリブデン含有量を制御することができる。
【0163】
また、高温処理の方法としては、フラックスの昇華点または沸点以上に昇温する方法が挙げられる。
【0164】
[粉砕工程]
焼成物は板状アルミナ粒子が凝集して、本発明に好適な粒子径の範囲を満たさない場合がある。そのため、板状アルミナ粒子は、必要に応じて、本発明に好適な粒子径の範囲を満たすように粉砕してもよい。
焼成物の粉砕の方法は特に限定されず、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、ディスクミル、スペクトロミル、グラインダー、ミキサーミル等の従来公知の粉砕方法を適用できる。
【0165】
[分級工程]
板状アルミナ粒子は、平均粒子径を調整し、粉体の流動性を向上するため、またはマトリックスを形成するためのバインダーに配合したときの粘度上昇を抑制するために、好ましくは分級処理される。「分級処理」とは、粒子の大きさによって粒子をグループ分けする操作をいう。
分級は湿式、乾式のいずれでも良いが、生産性の観点からは、乾式の分級が好ましい。乾式の分級には、篩による分級のほか、遠心力と流体抗力の差によって分級する風力分級などがあるが、分級精度の観点からは、風力分級が好ましく、コアンダ効果を利用した気流分級機、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機などの分級機を用いて行うことができる。
上記した粉砕工程や分級工程は、後述する有機化合物層形成工程の前後を含めて、必要な段階において行うことができる。これら粉砕や分級の有無やそれらの条件選定により、例えば、得られる板状アルミナ粒子の平均粒子径を調整することができる。
【0166】
実施形態の板状アルミナ粒子、或いは実施形態の製造方法で得る板状アルミナ粒子は、凝集が少ないもの或いは凝集していないものが、本来の性質を発揮しやすく、それ自体の取扱性により優れており、また被分散媒体に分散させて用いる場合において、より分散性に優れる観点から、好ましい。板状アルミナ粒子の製造方法においては、上記した粉砕工程や分級工程は行わずに、凝集が少ないもの或いは凝集していないものが得られれば、上記工程を行う必要もなく、目的の優れた性質を有する板状アルミナを、生産性高く製造することが出来るので好ましい。
【0167】
[無機被覆部形成工程]
次に、上記で得られた板状アルミナ粒子の表面に、無機被覆部を形成する。本実施形態では、酸化物で構成される無機被覆部を形成することができる。層形成の方法は、特に制限されないが、例えば液相法や気相法が挙げられる。
無機被覆部を形成させるための、無機の化学種としては、前記した様なものをいずれも用いることが出来る。本発明の好適な実施形態では、この無機の化学種としては、金属酸化物が挙げられる。アルミナ粒子に金属酸化物の被覆部を形成させるに当たっては、モリブデンを含むアルミナ粒子の液媒体分散液と、金属酸化物自体又はその分散液とを混合して、濾過、乾燥しても良い。また、アルミナ粒子と金属酸化物との相互作用を高め、前記した様な、より高い被覆特性が得たい、より均一な無機被覆部が得たい、得られた無機被覆部がアルミナ粒子から剥離し難くなる等といった、特に際立って優れた性質を発現させたい場合には、金属酸化物の前駆体に相当する、液媒体に溶解性を有する金属無機塩の溶液と、モリブデンを含むアルミナ粒子又はその液媒体分散液とを混合し、溶解した分子状の金属無機塩とモリブデンを含むアルミナ粒子と充分に接触させた上で、アルミナ粒子上に析出させた150nm以下の微細な金属無機塩を金属酸化物に変換することが好ましい。必要であれば、更に濾過、乾燥を行うことも出来る。金属無機塩を金属酸化物に変換するに当たって、低温やpH変化で変換が容易でない場合には、必要であれば、焼成を行うことも出来る。こうすることで、単純混合物に無い、アルミナ粒子と金属酸化物との強い相互作用を発現させることができ、容易に、上記した特に際立って優れた性質を発現させることが出来る。無機被覆部の形成工程における、焼成条件は、前記アルミナ粒子における条件を参考に、適宜、最適な条件を選定の上で、採用するようにすれば良い。
【0168】
液相法としては、例えば、板状アルミナ粒子を分散させた分散液を準備し、必要に応じて分散液のpH調整及び加熱を行った後、分散液に例えば塩化チタンなどの金属塩化物の水溶液を滴下する。このとき、アルカリ水溶液でpHを一定に維持させるのが好ましい。その後、分散液を所定時間撹拌し、濾過、洗浄、乾燥を行って粉体を得る。これにより、板状形状を有するアルミナ粒子の表面に、酸化チタンなどの酸化物で構成される無機被覆部が形成される。また、他の酸化物として、酸化鉄又はシリカで無機被覆部を形成してもよい。更に、酸化チタン、酸化鉄及びシリカから選択された複数で無機被覆部を形成してもよい。
【0169】
本工程において、酸化物に代えて、金属で構成される無機被覆部を形成することもできる。この場合、液相法や気相法等にて無機被覆部を形成することができ、板状形状を有するアルミナ粒子の表面に、例えば銀、ニッケル、銅、金又は白金で無機被覆部が形成される。また、銀、ニッケル、銅、金及び白金から選択された複数で無機被覆部を形成してもよい。
【0170】
また、本工程において、板状アルミナ粒子の表面の少なくとも一部を被覆するように無機被覆層を形成してもよい。この場合、例えば、金属酸化物或いは金属で構成される粒子が互いに凝集した状態で層形成される。
【0171】
[有機化合物層形成工程]
一実施形態において、板状アルミナ粒子の製造方法は、無機被覆部形成工程後に、無機被覆部の表面(複合粒子表面ともいう)に有機化合物層を形成する有機化合物層形成工程をさらに含んでいてもよい。当該有機化合物層形成工程は、通常、焼成工程の後、または後処理工程の後に行われる。
【0172】
有機化合物層を形成する方法としては、特に制限されず、公知の方法が適宜採用されうる。例えば、有機化合物を含む液をモリブデンを含む板状アルミナ粒子に接触させ、乾燥する方法が挙げられる。
【0173】
なお、有機化合物層の形成に使用されうる有機化合物としては、例えば有機シラン化合物が挙げられる。
【0174】
(有機シラン化合物)
板状アルミナ粒子は、珪素原子及び/又は無機珪素化合物含む場合には、それを含まない場合に比べて上記した様な表面改質効果が期待できるが、更に、珪素原子及び/又は無機珪素化合物を含むアルミナ粒子と、有機シラン化合物との反応物とした上で用いることもできる。珪素原子及び/又は無機珪素化合物を含有する板状アルミナ粒子に比べて、それと有機シラン化合物との反応物である板状アルミナ粒子の方が、板状アルミナ粒子表面に局在化する珪素原子及び/又は無機珪素化合物と、有機シラン化合物との反応に基づき、マトリックスとの親和性をより良好とすることができ好ましい。
【0175】
前記有機シラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、iso-プロピルトリメトキシシラン、iso-プロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等のアルキル基の炭素数が1~22までのアルキルトリメトキシシランまたはアルキルトリクロロシラン類、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン類、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリエトキシシラン類等、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン、さらに、エポキシ系、アミノ系、ビニル系の高分子タイプのシランが挙げられる。なお、上記有機シラン化合物は、単独で含まれていても、2種以上を含んでいてもよい。
【0176】
有機シラン化合物は、反応により、板状アルミナ粒子の表面の珪素原子及び/又は無機珪素化合物の少なくとも一部又は全部と共有結合により連結されていればよく、アルミナ一部だけでなく全体が上記反応物で被覆されていてもよい。アルミナ表面への提供方法としては、浸漬による付着や化学蒸着(CVD)を採用することができる。
【0177】
有機シラン化合物の使用量は、板状アルミナ粒子の表面に含有される珪素原子又は無機珪素化合物の質量に対して、珪素原子基準で、20質量%以下であることが好ましく、10~0.01質量%であることがさらに好ましい。有機シラン化合物の使用量が20質量%以下であると、アルミナ粒子由来の物性発現が容易にできることから好ましい。
【0178】
珪素原子及び/又は無機珪素化合物を含むアルミナ粒子と、有機シラン化合物との反応は、公知慣用のフィラーの表面改質方法により行なう事ができ、例えば、流体ノズルを用いた噴霧方式、せん断力のある攪拌、ボールミル、ミキサー等の乾式法、水系または有機溶剤系等の湿式法を採用することができる。せん断力を利用した処理は、実施形態で用いるアルミナ粒子の破壊が起こらない程度にして行うことが望ましい。
【0179】
乾式法における系内温度ないしは湿式法における処理後の乾燥温度は、有機シラン化合物の種類に応じ、それが熱分解しない領域で適宜決定される。例えば、上記した様な有機シラン化合物で処理する場合は、80~150℃の温度が望ましい。

【0180】
<樹脂組成物>
一実施形態として、樹脂と実施形態の複合粒子とを含有する樹脂組成物を提供する。樹脂としては、特に限定されず、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等を例示できる。
【0181】
樹脂組成物は、硬化させて樹脂組成物の硬化物とすることができ、硬化及び成形して、樹脂組成物の成形物とすることができる。成形のために、樹脂組成物に対して溶融や混練などの処理を、適宜施すことができる。成形方法としては、圧縮成型、射出成型、押出成型、発泡成形等が挙げられる。なかでも、押出成形機による押出成形が好ましく、二軸押出機による押出成形がより好ましい。
樹脂組成物をコート剤や塗料等として用いる場合、樹脂組成物を塗布対象に塗布して、樹脂組成物の硬化物を有する塗膜を形成することができる。
【0182】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の一実施形態によれば、樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0183】
当該製造方法は、実施形態の複合粒子と、樹脂とを混合する工程を含む。板状アルミナ粒子としては、上述したものが用いられうることからここでは説明を省略する。
【0184】
なお、前記複合粒子は、表面処理されたものを用いることができる。
【0185】
また、使用する複合粒子は、1種のみ使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0186】
さらに、複合粒子と他のフィラー(アルミナ、スピネル、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等)とを組み合わせて使用してもよい。
【0187】
複合粒子の含有量は、樹脂組成物の質量100質量%に対して、5~95質量%であることが好ましく、10~90質量%であることがより好ましく、30~80質量%であることがさらに好ましい。複合粒子の含有量が5質量%以上であると、複合粒子の高熱伝導性を効率的に発揮できることから好ましい。一方、複合粒子の含有量が95質量%以下であると、成形性に優れた樹脂組成物を得ることができることから好ましい。
樹脂組成物をコート剤や塗料等として用いる場合、優れた光輝性を発揮させ、塗膜の形成を容易とする観点から、複合粒子の含有量は、樹脂組成物の固形分質量100質量%に対して、0.1~95質量%であることが好ましく、1~50質量%であることがより好ましく、3~30質量%であることがさらに好ましい。
【0188】
(樹脂)
樹脂としては、特に制限されず、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0189】
前記熱可塑性樹脂としては、特に制限されず、成形材料等に使用される公知慣用の樹脂が用いられうる。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン-ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、ポリアリレート樹脂、アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体などが挙げられる。
【0190】
前記熱硬化性樹脂としては、加熱または放射線や触媒などの手段によって硬化される際に実質的に不溶かつ不融性に変化し得る特性を持った樹脂であり、一般的には、成形材料等に使用される公知慣用の樹脂が用いられうる。具体的には、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂;ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;脂肪鎖変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ポリアルキレングルコール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂;ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂;(メタ)アクリル樹脂やビニルエステル樹脂等のビニル樹脂:不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられる。
【0191】
上述の樹脂は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この際、熱可塑性樹脂を2種以上使用してもよいし、熱硬化性樹脂を2種以上使用してもよいし、熱可塑性樹脂を1種以上および熱硬化性樹脂を1種以上使用してもよい。
【0192】
樹脂の含有量は、樹脂組成物の質量100質量%に対して、5~90質量%であることが好ましく、10~70質量%であることがより好ましい。樹脂の含有量が5質量%以上であると、樹脂組成物に優れた成形性を付与できることから好ましい。一方、樹脂の含有量が90質量%以下であると、成形してコンパウンドとして高熱伝導性を得ることができることから好ましい。
【0193】
(硬化剤)
樹脂組成物には、必要に応じて硬化剤を混合してもよい。
【0194】
硬化剤としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。
【0195】
具体的には、アミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、フェノ-ル系化合物などが挙げられる。
【0196】
前記アミン系化合物としては、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾ-ル、BF-アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられる。
【0197】
前記アミド系化合物としては、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0198】
前記酸無水物系化合物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0199】
前記フェノール系化合物としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、レゾルシンノボラック樹脂に代表される多価ヒドロキシ化合物とホルムアルデヒドから合成される多価フェノールノボラック樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミン、ベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)やアルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核およびアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。
【0200】
上述硬化剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0201】
(硬化促進剤)
樹脂組成物には、必要に応じて硬化促進剤を混合してもよい。
【0202】
硬化促進剤は、組成物を硬化する際に硬化を促進させる機能を有する。
【0203】
前記硬化促進剤としては、特に制限されないが、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。
【0204】
上述の硬化促進剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0205】
(硬化触媒)
樹脂組成物には、必要に応じて硬化触媒を混合してもよい。
【0206】
硬化触媒は、前記硬化剤の代わりに、エポキシ基を有する化合物の硬化反応を進行させる機能を有する。
【0207】
硬化触媒としては、特に制限されず、公知慣用の熱重合開始剤や活性エネルギー線重合開始剤が用いられうる。
【0208】
なお、硬化触媒は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0209】
(粘度調節剤)
樹脂組成物には、必要に応じて粘度調節剤を混合してもよい。
【0210】
粘度調節剤は、組成物の粘度を調整する機能を有する。
【0211】
粘度調節剤としては、特に制限されず、有機ポリマー、ポリマー粒子、無機粒子等が用いられうる。
【0212】
なお、粘度調節剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0213】
(可塑剤)
樹脂組成物には、必要に応じて可塑剤を混合してもよい。
【0214】
可塑剤は、熱可塑性合成樹脂の加工性、柔軟性、耐候性等を向上させる機能を有する。
【0215】
可塑剤としては、特に制限されず、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリシロキサン等が用いられうる。
【0216】
なお、上述の可塑剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0217】
[混合工程]
本形態に係る樹脂組成物は、複合粒子と樹脂、さらに必要に応じてその他の配合物を混合することにより得られる。その混合方法に特に限定はなく、公知慣用の方法により、混合される。
【0218】
樹脂が熱硬化性樹脂である場合、一般的な熱硬化性樹脂と複合粒子等との混合方法としては、所定の配合量の熱硬化性樹脂と、複合粒子、必要に応じてその他の成分をミキサー等によって充分に混合した後、三本ロール等で混練し、流動性ある液状の組成物を得る方法が挙げられる。また、別の実施形態における熱硬化性樹脂と複合粒子等との混合方法として、所定の配合量の熱硬化性樹脂と、複合粒子、必要に応じてその他の成分をミキサー等によって充分に混合した後、ミキシングロール、押出機等で溶融混練した後、冷却することで、固形の組成物として得る方法が挙げられる。
混合状態に関して、硬化剤や触媒等を配合した場合は、硬化性樹脂とそれらの配合物が充分に均一に混合されていればよいが、複合粒子も均一に分散混合された方がより好ましい。
【0219】
樹脂が熱可塑性樹脂である場合の一般的な熱可塑性樹脂と複合粒子等との混合方法としては、熱可塑性樹脂、複合粒子、および必要に応じてその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー、混合ロールなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常100~320℃の範囲である。
【0220】
樹脂組成物の流動性や複合粒子等のフィラー充填性をより高められることから、樹脂組成物にカップリング剤を外添してもよい。なお、カップリング剤を外添することで、樹脂と複合粒子の密着性が更に高められ、樹脂と複合粒子の間での界面熱抵抗が低下し、樹脂組成物の熱伝導性が向上しうる。
【0221】
上述のカップリング剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0222】
カップリング剤の添加量は特に制限されないが、樹脂の質量に対して、0.01~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましい。
【0223】
一実施形態によれば、樹脂組成物は、熱伝導性材料に使用される。
【0224】
樹脂組成物に含有される複合粒子は、樹脂組成物の熱伝導性に優れることから、当該樹脂組成物は、好ましくは絶縁放熱部材として使用される。これにより、機器の放熱機能を向上させることができ、機器の小型軽量化、高性能化に寄与することができる。
【0225】
樹脂組成物に含有される複合粒子は、光輝性に優れることから、樹脂組成物は、コート剤、塗料等として好適に使用される。
【0226】
<硬化物の製造方法>
本発明の一実施形態によれば、硬化物の製造方法が提供される。当該製造方法は、上述で製造された樹脂組成物を硬化させることを含む。
【0227】
硬化温度については、特に制限されないが、20~300℃であることが好ましく、50~200℃であることがより好ましい。
【0228】
硬化時間については、特に制限されないが、0.1~10時間であることが好ましく、0.2~3時間であることがより好ましい。
【0229】
硬化物の形状については、所望の用途によって異なり、当業者が適宜設計しうる。
【0230】
上述した樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法及び硬化物には、板状形状を有する複合粒子が用いられているが、これに限らず、後述の多面体形状を有する複合粒子が用いられてもよい。
【0231】
<<第2実施形態>>
<複合粒子>
第2実施形態に係る複合粒子は、モリブデン(Mo)を含むアルミナ粒子と、該アルミナ粒子の表面上に設けられた無機被覆部とを含んでいる。本実施形態のアルミナ粒子は、多面体形状を有しており、複合粒子も多面体形状を有している。以下、本実施形態において、多面体形状を有するアルミナ粒子を、「多面体アルミナ粒子」、「多面体アルミナ」或いは単に「アルミナ粒子」とも称する。
【0232】
<多面体アルミナ粒子>
本実施形態の多面体アルミナ粒子は、μmオーダー以下の、モリブデンを含む粒子である。μmオーダー以下とは、平均粒子径が1000μm以下であることを意味し、1μm~1000μmのμm領域と1000nm未満のnm領域を含む。
【0233】
通常、酸化アルミニウムはより高い純度のものが、より高い熱伝導性を示す事が知られている。その理由は、不純物成分がフォノンの散乱を引き起こし、熱伝導率を低下させると考えられているからである。本実施形態のアルミナ粒子は、モリブデンを含み、さらに場合によっては、原料に由来する不純物を含み、酸化アルミニウム成分が低いにもかかわらず、高い熱伝導性を示す。
【0234】
未知の酸化アルミニウムが、本発明で用いるアルミナ粒子に該当するか否かは、例えば、着色の有無で判断することが出来る。本実施形態のアルミナ粒子は、通常の酸化アルミニウムの白色の粒子ではなく、薄い青色から黒色に近い濃青色であり、モリブデンの含有量が多くなると濃色になる特徴を有している。また、その他の少量の金属が混入した場合、例えば、クロムの混入で赤色、ニッケルの混入で黄色になり、本実施形態のアルミナ粒子は、白色ではない着色粒子である事を特徴とする。
【0235】
[結晶形・α結晶化率]
アルミナ粒子は、酸化アルミニウムであり、結晶形は特に制限されず、例えば、γ、δ、θ、κ等の各種の結晶形の遷移アルミナであっても、または遷移アルミナ中にアルミナ水和物を含んでいるものであっても良いが、より機械的な強度または熱伝導性に優れる点で、基本的にα結晶形であることが好ましい。
【0236】
アルミナ粒子のα結晶化率は、上記と同様、XRD測定により求めることができる。α結晶化率は焼成条件や使用する原料により異なり、アルミナ粒子の圧壊強度及び流動性を向上させるとの観点からは、α結晶化率が90%以上であることが好ましく、更に好ましくは95%以上である。
【0237】
[平均粒子径]
アルミナ粒子の平均粒子径は、3μm以上300μm以下が好ましく、10μm以上100μm以下がより好ましい。
なお、本明細書において「アルミナ粒子の平均粒子径」とは、レーザー回折式乾式粒度分布計により測定された体積基準の累積粒度分布から、体積基準メジアン径D50として算出された値とする。
【0238】
[最大粒子径]
また、アルミナ粒子の体積基準の最大粒子径(以下、単に「最大粒子径」とも称する)は特に限定されるものではないが、通常1000μm以下、より好ましくは500μm以下である。
【0239】
アルミナ粒子の最大粒子径が、上記上限より大きいと、溶媒やマトリクスとなるバインダーに配合して使用する場合、最終用途の形態によっては、バインダー層の表面にアルミナ粒子が突出して、外観不良を引き起こす恐れがあるため好ましくない。
【0240】
尚、ここでいうアルミナ粒子の平均粒子径および最大粒子径は、例えば、これを適当な溶剤に分散させ、具体的には、分散安定剤としてヘキサメタリン酸ナトリウム等を含有する純水媒体中にアルミナ粒子を分散させた試料を、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置にて測定する、湿式法により推測することができる。
また、上記平均粒径及び最大粒子径は、アルミナ粒子そのものをレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した乾式法により求めることもできる。
【0241】
[モリブデン]
実施形態のアルミナ粒子は、モリブデンを含有している。また、多面体アルミナ粒子は、その表層にモリブデンを含んでいるのが好ましい。これにより、無機被覆部を構成する無機材料の選択性が向上し、多面体アルミナ粒子に無機被覆部を効率的に形成することができると推察される。
【0242】
モリブデンは、後述するアルミナ粒子の製造方法において、フラックス剤として用いたモリブデン化合物に由来するものであってよい。
【0243】
モリブデンは触媒機能、光学的機能を有する。また、モリブデンを活用することにより、後述する製造方法において、熱伝導性に優れたアルミナ粒子を製造することができる。
【0244】
当該モリブデンとしては、特に制限されないが、モリブデン金属の他、酸化モリブデンや一部が還元されたモリブデン化合物、モリブデン酸塩等が含まれる。モリブデン化合物のとりうる多形のいずれか、または組み合わせで多面体アルミナ粒子に含まれてよく、α-MoO、β-MoO、MoO、MoO、モリブデンクラスター構造等として多面体アルミナ粒子に含まれてもよい。
【0245】
モリブデンの含有形態は、特に制限されず、多面体アルミナの表面に付着する形態で含まれていても、アルミナの結晶構造のアルミニウムの一部に置換された形態で含まれていてもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0246】
XRF分析において取得された、多面体アルミナ粒子100質量%に対するモリブデンの含有量は、三酸化モリブデン(MoO)換算で、好ましくは、20質量%以下であり、焼成温度、焼成時間、フラックス条件を調整する事で、好ましくは、0.01質量%以上18質量%以下であり、より好ましくは、0.01質量%以上10質量%以下であり、さらに好ましくは、0.05質量%以上5質量%以下である。モリブデンの含有量が5質量%以下であると、アルミナのα単結晶品質を向上させることから好ましい。
【0247】
また、アルミナ粒子表面のMo量の分析は、上記のX線光電子分光(XPS)装置を用いて行うことができる。
【0248】
[カリウム]
アルミナ粒子は、更にカリウムを含有していてもよい。
【0249】
カリウムは後述のアルミナ粒子の製造方法においてフラックス剤として使用可能なカリウムに由来するものであってよい。
カリウムを活用することにより、後述するアルミナ粒子の製造方法において、被覆効率に優れるアルミナ粒子を高効率に製造することができる。
【0250】
当該カリウムとしては、特に制限されないが、カリウム金属の他、酸化カリウムや一部が還元されたカリウム化合物等が含まれる。
【0251】
カリウムの含有形態は、特に制限されず、多面体アルミナの表面に付着する形態で含まれていても、アルミナの結晶構造のアルミニウムの一部に置換された形態で含まれていてもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0252】
XRF分析において取得された、多面体アルミナ粒子100質量%に対するカリウムの含有量が、酸化カリウム(KO)換算で、0.01質量%以上であることが好ましく、0.01~1質量%であることがより好ましく、0.03~0.5質量%であることがさらに好ましく、0.05~0.3質量%であることが特に好ましい。カリウムの含有量が上記範囲内であるアルミナ粒子は、多面体形状を有し、平均粒径等の値が好適なものとなるため好ましい。
【0253】
[他の原子]
他の原子は、本発明の効果を阻害しない範囲において、機械強度または電気や磁性機能付与を目的として意図的にアルミナ粒子に添加されるものを意味する。
【0254】
他の原子としては、特に制限されないが、亜鉛、マンガン、カルシウム、ストロンチウム、イットリウム等が挙げられる。これらの他の原子は単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0255】
アルミナ粒子中の他の原子の含有量は、アルミナ粒子の質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
【0256】
<無機被覆部>
無機被覆部は、アルミナ粒子の表面の少なくとも一部を被覆しており、好ましくはアルミナ粒子の表面の少なくとも一部を被覆している無機被覆層で構成されている。換言すれば、複合粒子の表面の少なくとも一部が無機被覆部によって被覆されており、好ましくは複合粒子の表面の少なくとも一部が、無機被覆層によって被覆されている。
無機被覆部は、上述のように、アルミナ粒子の表面上に設けられている。「アルミナ粒子の表面上」とは、アルミナ粒子の表面の外側を意味する。よって、アルミナ粒子の表面の外側に形成される無機被覆部は、アルミナ粒子の表面の内側に形成される、ムライトやゲルマニウムを含む表層とは明確に区別される。
【0257】
この無機被覆部を構成する無機の化学種は、相対的にアルミナ粒子よりも大きくても良いが、相対的にアルミナ粒子よりも小さい方が、目的に応じて任意の被覆量(或いは被覆厚さ)の無機被覆部を容易に設けられる点で、好ましい。組み合わせとしては、例えば、μmオーダーのアルミナ粒子と150nm以下の無機の化学種が挙げられる。アルミナ粒子の表面の外側に、アルミナ粒子よりも小さい無機化学種を用いて無機被覆部を設けるに当たっては、少量の無機化学種を用いて、アルミナ粒子の下地がはっきり外観できる様に、アルミナ表面の一部に無機被覆部を設けるようにすることも出来るし、多量の無機化学種を用いて、アルミナ粒子の下地が外観できない様に、アルミナ粒子の表面に、それらが積層された様な無機被覆部を設けるようにすることも出来る。無機被覆部を構成する無機の化学種の形状は制限されないが、例えば、最少の使用量で最密充填でき下地を隠蔽し易い点からも、球状又は多面体形状であることが好ましい。
【0258】
本発明の複合粒子は、モリブデンを含むアルミナ粒子と無機の化学種からなる無機被覆部とから構成されるものであるが、アルミナ粒子と無機の化学種との単純混合物では発現し得ない、優れた性質を有するものである。本発明の複合粒子では、μmオーダーのモリブデンを含むアルミナ粒子と、凝集していない150nm以下の無機の化学種との組み合わせの場合に、例えば、分子間力や場合によっては局部的な化学反応により、両者間の相互作用が高まる結果、より高い被覆特性が得られる、より均一な無機被覆部が得られ易い、得られた無機被覆部がアルミナ粒子から剥離し難くなる等の、特に際立って優れた性質を発現する。これには、アルミナ粒子に含まれるモリブデンの寄与も期待できる。独立した、nmオーダーの無機の化学種は、例えば、μmオーダーの無機の化学種を機械的に粉砕する等にして得ることは可能であるが、直ちに再凝集などが起こるので使用時の取り扱いは容易ではない。モリブデンを含まないアルミナ粒子、或いは、凝集した無機の化学種を用いた場合、両者は単純混合物しか形成せず、本発明の複合粒子の様な性質は示さない。後記する本発明の複合粒子の製造方法によれば、より高い被覆効率の複合粒子を、より容易に製造することが出来る。
【0259】
無機被覆部は、例えば酸化物又は金属で構成されることができる。酸化物としては、例えば酸化チタン(TiO)、酸化鉄(Fe)及びシリカ(SiO)から選択される1又は複数が挙げられる。金属としては、例えば銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)及び白金(Pt)から選択される1又は複数が挙げられる。
【0260】
無機被覆部を構成する酸化物又は金属の形状は、特に限定されないが、例えば球状、針状、多面体状、円盤状、中空状、多孔質状などの粒子状である。粒子状の酸化物又は金属で構成される粒子の平均粒子径は、例えば1nm以上500nm以下であるのが好ましく、5nm以上200nm以下であるのがより好ましい。酸化物又は金属で構成される粒子は、結晶質であってもよいし、非晶質であってもよい。
【0261】
無機被覆部は、1層で構成されてもよいし、複数層で構成されてもよい。また、無機被覆部が複数層で構成される場合、当該複数層が互いに異なる材料で構成されてもよい。
【0262】
[複合粒子のXRF被覆率]
実施形態に係る複合粒子のXRF被覆率(%)は、上述のXRF分析と同様の方法で求めることができる。
XRF被覆率(%)は、例えば、アルミナ粒子を構成する酸化アルミニウムの含有量に対する、無機被覆部を構成する金属酸化物の含有量に基づいて求められ、例えば、XRF分析結果により求められる[MO]/[Al](質量比)から求めることができる。
【0263】
[複合粒子の被覆効率]
実施形態に係る複合粒子の被覆効率は、後述する理論被覆率に対するXRF被覆率の比から求めることができる。被覆効率は、30%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが更に好ましい。
【0264】
<複合粒子の製造方法>
次に、第2実施形態に係る複合粒子の製造方法の詳細を例示する。本実施形態に係る複合粒子の製造方法は、以下に示す複合粒子の製造方法に限定されない。
【0265】
本実施形態に係る複合粒子の製造方法は、アルミニウム元素を含有するアルミニウム化合物と、モリブデン元素を含有するモリブデン化合物とを含む混合物を焼成して、アルミナ粒子を製造する工程と、前記アルミナ粒子の表面に無機被覆部を形成する工程とを含んでいる。
【0266】
実施形態に係る複合粒子を構成するアルミナ粒子は、モリブデンを含有してさえいれば、どの様な製造方法に基づいて得たものであっても良いが、mmオーダー以上の巨大なモリブデンを含む酸化アルミニウムをμmオーダーに粉砕することで得ることも出来るが、それを得るために大量のエネルギーが必要であったり、粒度分布がブロードとなったりするので好ましくない。
【0267】
そのため、分級などすることなく粒度分布をシャープにすることが可能で、より熱伝導性に優れ、より生産性に優れる点で、アルミナ粒子は、モリブデン化合物の存在下でアルミニウム化合物を焼成する工程で得られる酸化アルミニウムであることが好ましい。すなわち具体的には、本実施形態で用いられるアルミナ粒子は、上記焼成工程において、モリブデン化合物がアルミニウム化合物と高温で反応し、モリブデン酸アルミニウムを形成する工程と、このモリブデン酸アルミニウムが、さらに、より高温で酸化アルミニウムと酸化モリブデンに分解する工程とを有することが好ましい。このような工程において、モリブデン化合物が酸化アルミニウム粒子内に取り込まれ、酸化アルミニウムは粒径と形状が制御された純度の高い結晶となる。以下、この製造方法をフラックス法という。このフラックス法については、後に詳記する。
【0268】
アルミナ粒子における、その形状、サイズ、比表面積等は、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物の使用割合、焼成温度、焼成時間を選択することにより、制御することができる。
【0269】
アルミナ粒子は、例えば、β、γ、δ、θ等の各種の結晶形態であっても良いが、より熱伝導性に優れる点で、基本的にα結晶形であることが好ましい。一般的なα型-酸化アルミニウムの結晶構造は稠密六方格子であり、熱力学的に最も安定的な結晶構造は[001]面の発達した板状であるが、下で詳記するフラックス法では、モリブデン化合物の存在下に、アルミニウム化合物を焼成する事で、モリブデン化合物がフラックス剤として働き、[001]面以外の結晶面を主結晶面としたα結晶化率が高い、中でもα結晶化率が90%以上の、モリブデンを含むアルミナ粒子をより容易に形成できる。[001]面以外の結晶面を主結晶面とするということは、当該〔001〕面の面積が微粒子の全体の面積に対して、20%以下であるということである。
【0270】
実施形態のアルミナ粒子は、上述のように多面体形状を有する。アルミナ粒子が多面体粒子であると、樹脂組成物へ充填し易い点で有利である。例えば、下で詳記するフラックス法で、フラックス剤としてモリブデン化合物を使用することにより、基本的に球に近い多面体粒子を得る事ができ、この球に近い多面体粒子は、樹脂組成物への充填した際に、充填し易い有利な形態である。中でも、最も大きな平坦面の面積は構造体の面積の8分の1以下にあり、特に最も大きな平坦面の面積は構造体の面積の16分の1以下のものが好適に得られる。
また、アルミナ粒子が多面体粒子であると、樹脂組成物中で粒子同士が接触する際、熱伝導率の高い面接触を行うと考えられ、球状粒子に比べて同じ充填率であっても高い熱伝導性を得られると考えられる。
【0271】
また、一般的に行なわれる大量のフラックス剤を使用したフラックス法で得られる酸化アルミニウムは六角両錘型の形状になり、鋭角を有するため、本実施形態に係る複合粒子を含有する樹脂組成物等を製造する時に、機器を損傷するなどの問題点を発生するが、本実施形態で用いられる酸化アルミニウムは、基本的に六角両錘型の形状ではないために、機器の損傷等の問題を起こし難い。さらに、本実施形態の酸化アルミニウムは、基本的に8面体以上の多面体であり、球状に近い形状を持っているため、機器の損傷等の問題を起こし難いという特徴を有する。
【0272】
アルミナ粒子の平均粒子径は1000μm以下であれば特に限定はないが、樹脂組成物としての使用を考えると、好ましくは、0.1μm(100nm)~100μmである。アルミナ粒子の平均粒子径が0.1μm以上であれば、樹脂組成物に充填された場合、当該樹脂組成物の粘度が低く抑えられ、作業性等に好ましい。また、本発明で用いる酸化アルミニウムの平均粒子径が100μm以下であれば、例えば、熱可塑性の樹脂組成物では、その成形物の表面で荒れが発生しにくく、良好な成形物が得られやすい。また、例えば、熱硬化性樹脂組成物の場合には、基材と基材を接着する場合など、硬化物と基材との界面の接着力が低下せず、冷熱サイクル等における耐クラック性や、接着界面での剥離性に優れるため、好ましい。前記と同様の理由から、本発明で用いる酸化アルミニウムのさらに好ましい平均粒子径は、1μm~50μmである。
【0273】
また、例えば、下で詳記するフラックス法にて、原料であるアルミニウム化合物から得られる、アルミナ粒子の比表面積は、アルミニウム化合物と比較して、焼成により大幅に低減する。アルミニウム化合物の性状と焼成条件にもよるが、得られるアルミナ粒子の比表面積は0.0001m/g~50m/gの範囲であり、0.001m/g~10m/gの範囲のものが好適に得られる。
【0274】
モリブデン化合物をフラックス剤として用いるフラックス法では、高温での焼成処理により、用いたモリブデン化合物の殆どは昇華するものの、一部のモリブデンが残留し、モリブデンを含む酸化アルミニウムが得られる。アルミナ粒子中のモリブデンの含有量は、好ましくは、10質量%以下であり、焼成温度、焼成時間、モリブデン化合物の昇華速度を調整する事で、1質量%以下にしたものが、より好適に用いられる。
【0275】
アルミナ粒子に含まれるモリブデンの形態は特に限定されるものではなく、例えば、モリブデン金属、三酸化モリブデンや一部が還元された二酸化モリブデン等のモリブデン化合物あるいは酸化アルミニウムの構造のアルミニウムの一部がモリブデンに置換された形態で含まれていても良い。
【0276】
(アルミニウム化合物)
アルミニウム化合物は、本実施形態のアルミナ粒子の原料であり、熱処理により酸化アルミニウムになるものであれば特に限定されず、例えば、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、遷移アルミナ(γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナなど)、α-アルミナ、二種以上の結晶相を有する混合アルミナなどが使用でき、これら前駆体としてのアルミニウム化合物の形状、粒子径、比表面積等の物理形態については、特に限定されるものではない。
【0277】
下で詳記するフラックス法によれば、原料のアルミニウム化合物の形状は、例えば、球状、無定形、高アスペクト比のある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどのいずれであっても好適に用いることができる。
【0278】
同様に、アルミニウム化合物の粒子径は、下で詳記するフラックス法によれば、数nmから数百μmまでのアルミニウム化合物の固体を好適に用いることができる。
【0279】
アルミニウム化合物の比表面積も特に限定されるものではない。モリブデン化合物が効果的に作用するため、比表面積が大きい方が好ましいが、焼成条件やモリブデン化合物の使用量を調整する事で、いずれの比表面積のものでも原料として使用することができる。
【0280】
また、アルミニウム化合物は、アルミニウム化合物のみからなるものであっても、アルミニウム化合物と有機化合物との複合体であってもよい。例えば、有機シランを用いて、アルミナを修飾して得られる有機/無機複合体、ポリマーを吸着したアルミニウム化合物複合体などであっても好適に用いることができる。これらの複合体を用いる場合、有機化合物の含有率としては、特に制限はないが、球に近いα型-アルミナ微粒子を効率的に製造できる観点より、当該含有率は60質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0281】
(モリブデン化合物)
モリブデン化合物は、例えば、酸化モリブデンであっても、モリブデン金属が酸素と結合してなる酸根アニオン(MoO n-)を含有する化合物であっても良い。
前記のモリブデン金属が酸素と結合してなる酸根アニオンを含有する化合物としては、高温焼成によって三酸化モリブデンに転化することができれば、特に限定されない。この様なモリブデン化合物としては、例えば、モリブデン酸、七モリブデン酸六アンモニウム、モリブデン酸二アンモニウム、リンモリブデン酸、二硫化モリブデンなどを好適に用いることができる。
【0282】
モリブデン化合物の使用量は、特に制限されないが、アルミニウム化合物のアルミニウム金属1モルに対して、モリブデン化合物のモリブデン金属として0.01~1モルであることが好ましく、0.015~0.8モルであることがより好ましく、0.02~0.6モルであることが更に好ましい。また、フラックス法を採用した際に、フラックス剤としてモリブデン化合物を用いた場合には、アルミナ粒子に、モリブデンを含むことから、それを証左に、未知のアルミナ粒子がどの様な製造方法で製造されたかを特定できる。
【0283】
(カリウム化合物)
フラックス法においては、混合物が、更にカリウムを含有するカリウム化合物を含んでいてもよい。すなわち、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いることも好ましい。
モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、カリウム化合物としては、特に制限されないが、塩化カリウム、亜塩素酸カリウム、塩素酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酢酸カリウム、酸化カリウム、臭化カリウム、臭素酸カリウム、水酸化カリウム、珪酸カリウム、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウム等が挙げられる。この際、前記カリウム化合物は、モリブデン化合物の場合と同様に、異性体を含む。これらのうち、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、又はモリブデン酸カリウムを用いることが好ましく、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、又はモリブデン酸カリウムを用いることがより好ましい。
【0284】
なお、上述のカリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0285】
カリウム化合物は、ムライトがアルミナ表層に効率良く形成されることに寄与する。また、カリウム化合物は、ゲルマニウムを含む層がアルミナ表層に効率良く形成されることに寄与する。
【0286】
また、カリウム化合物は、モリブデン化合物とともにフラックス剤として用いることも好ましい。
【0287】
上記のうち、モリブデン酸カリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。モリブデン酸カリウムをフラックス剤として用いた場合、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いた場合と同様の作用を奏することができる。
【0288】
原料仕込み時に用いる又は焼成に当たって昇温過程の反応で生じるカリウム化合物として、水溶性のカリウム化合物、例えばモリブデン酸カリウムは、焼成温度域でも気化することなく、焼成後に洗浄で、容易に回収できるため、モリブデン化合物が焼成炉外へ放出される量も低減され、生産コストとしても大幅に低減することができる。
【0289】
モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、カリウム化合物のカリウム元素に対するモリブデン化合物のモリブデン元素のモル比(モリブデン元素/カリウム元素)は、5以下であることが好ましく、0.01~3であることがより好ましく、0.5~1.5であることが、生産コストをより低減することができるため、さらに好ましい。前記モル比(モリブデン元素/カリウム元素)が上記範囲内にあると、好ましい粒子サイズのアルミナ粒子が得られる。
【0290】
(金属化合物)
金属化合物は、後述するように、アルミナの結晶成長を促進する機能を有し、当該金属化合物は所望により焼成時に使用されうる。すなわち、混合物が、金属化合物を含んでいてもよい。なお、金属化合物は、α-アルミナの結晶成長を促進する機能を有するものであるため、複合粒子の製造に必須ではない。
【0291】
金属化合物としては、特に制限されないが、第II族の金属化合物、第III族の金属化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0292】
前記第II族の金属化合物としては、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物等が挙げられる。
【0293】
前記第III族の金属化合物としては、スカンジウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物、セリウム化合物等が挙げられる。
【0294】
なお上述の金属化合物は、金属元素の酸化物、水酸化物、炭酸化物、塩化物を意味する。例えば、イットリウム化合物であれば、酸化イットリウム(Y)、水酸化イットリウム、炭酸化イットリウムが挙げられる。これらのうち、金属化合物は金属元素の酸化物であることが好ましい。なお、これらの金属化合物は異性体を含む。
【0295】
これらのうち、第3周期元素の金属化合物、第4周期元素の金属化合物、第5周期元素の金属化合物、第6周期元素の金属化合物であることが好ましく、第4周期元素の金属化合物、第5周期元素の金属化合物であることがより好ましく、第5周期元素の金属化合物であることがさらに好ましい。具体的には、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物、を用いることが好ましく、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、イットリウム化合物を用いることがより好ましく、イットリウム化合物を用いることが特に好ましい。
【0296】
上記金属化合物の添加率は、アルミニウム化合物中のアルミニウム原子の質量換算値に対して、0.02~20質量%であることが好ましく、0.1~20質量%であることがより好ましい。金属化合物の添加率が0.02質量%以上であると、モリブデンを含むα-アルミナα-アルミナの結晶成長が好適に進行しうることから好ましい。一方、金属化合物の添加率が20質量%以下であると、金属化合物由来の不純物の含有量の低いアルミナ粒子を得ることができることから好ましい。
【0297】
(イットリウム)
金属化合物として、イットリウム化合物の存在下で、アルミニウム化合物を焼成した場合には、この焼成工程において、結晶成長がより好適に進行し、α-アルミナと水溶性イットリウム化合物が生成する。この際に、アルミナ粒子であるα-アルミナの表面に、当該水溶性イットリウム化合物が局在化しやすいことから、必要ならば、水、アルカリ水、これらを温めた液体等にて洗浄を行うことで、イットリウム化合物をアルミナ粒子から除去することができる。
【0298】
モリブデン化合物をフラックス剤として用いる場合、上記のアルミニウム化合物及びモリブデン化合物の使用量は特に限定されないが、例えば、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、以下の混合物を焼成することが挙げられる。
1)Al換算で70質量%以上のアルミニウム元素を含むアルミニウム化合物と、
MoO換算で1質量%以上のモリブデン化合物と、
を混合した混合物。
【0299】
上記1)において、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際の、モリブデン化合物は、MoO換算で1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。
【0300】
モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、上記のアルミニウム化合物、モリブデン化合物、カリウム化合物、及びイットリウム化合物の使用量は特に限定されないが、例えば、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、以下の混合物を焼成することが挙げられる。
2)Al換算で30質量%以上のアルミニウム元素を含むアルミニウム化合物と、
MoO換算で30質量%以上のモリブデン化合物と、
O換算で10質量%以上のカリウム化合物と、
換算で0.05質量%以上のイットリウム化合物と、
を混合した混合物。
【0301】
上記2)において、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際の、モリブデン化合物は、MoO換算で30質量%以上であることが好ましく、30質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。
上記2)において、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際の、カリウム化合物は、KO換算で10質量%以上であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、12質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
また、上記2)において、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際の、イットリウム化合物は、Y換算で0.05質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0302】
[焼成工程]
焼成工程では、モリブデン化合物の存在下で、アルミニウム化合物を焼成する工程である。上記した通り、この製造方法はフラックス法と呼ばれる。本発明の樹脂組成物に含有させるのは、μmオーダー以下の、モリブデンを含む酸化アルミニウムであることから、大量のモリブデン化合物をフラックス剤として用いて、かなり長時間をかける製造方法では、mmオーダー以上の巨大な、モリブデンを含む酸化アルミニウムが生成してしまうので好ましくない。
【0303】
焼成の方法は、特に限定はなく、公知慣用の方法で行う事ができる。焼成温度が700℃を超えると、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物が反応して、モリブデン酸アルミニウムを形成する。さらに、焼成温度が900℃以上になると、モリブデン酸アルミニウムが分解し、酸化アルミニウムと酸化モリブデンになる際に、モリブデン化合物を酸化アルミニウム粒子内に取り込む事で得られる。
【0304】
また、焼成する時に、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物の状態は特に限定されず、モリブデン化合物がアルミニウム化合物に作用できる同一の空間に存在すれば良い。具体的には、両者が混ざっていない状態であっても、粉体を混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合であっても良く、乾式状態、湿式状態での混合であっても良い。
【0305】
焼成温度の条件に特に限定は無く、目的とするアルミナ粒子の粒子径、形態等により、適宜、決定される。通常、焼成の温度については、モリブデン酸アルミニウム(Al(MoO)の分解温度以上の温度である900℃以上であればよい。特に球に近い多面体粒子で、α結晶化率が90%以上の本発明で用いるアルミナ粒子の形成を効率的に行うには、950~1100℃での焼成がより好ましく、970~1050℃の範囲での焼成が最も好ましい。
【0306】
一般的に、焼成後に得られるアルミナ粒子の形状を制御しようとすると、α-アルミナの融点に近い2000℃以上の高温焼成を行う必要があるが、焼成炉へ負担や燃料コストの点から、産業上利用する為には大きな課題がある。
【0307】
アルミナ粒子は、2000℃を超えるような高温であっても製造可能であるが、前記フラックス法を用いることで、1600℃以下というα-アルミナの融点よりかなり低い温度であっても、前駆体の形状にかかわりなくα結晶化率が高く多面体形状を有する酸化アルミニウムを形成することができる。
上記フラックス法においては、最高焼成温度が900℃~1600℃の条件であっても、球状に近く、α結晶化率が90%以上である熱伝導性の高い酸化アルミニウム粒子の形成を低コストで効率的に行うことができ、最高温度が950~1500℃での焼成がより好ましく、最高温度が1000~1400℃の範囲の焼成が最も好ましい。
【0308】
焼成の時間については、所定最高温度への昇温時間を15分~10時間の範囲で行い、且つ焼成最高温度における保持時間を5分~30時間の範囲で行うことが好ましい。アルミナ粒子の形成を効率的に行うには、10分~5時間程度の時間の焼成保持時間であることがより好ましい。
【0309】
焼成の雰囲気としては、本発明の効果が得られるのであれば特に限定されないが、例えば、空気や酸素のといった含酸素雰囲気や、窒素やアルゴンといった不活性雰囲気が好ましく、コストの面を考慮した場合は空気雰囲気がより好ましい。
【0310】
焼成するための装置としても必ずしも限定されず、いわゆる焼成炉を用いることができる。焼成炉は昇華した酸化モリブデンと反応しない材質で構成されていることが好ましく、さらに酸化モリブデンを効率的に利用するように、密閉性の高い焼成炉を用いる事が好ましい。この際使用されうる焼成炉としては、トンネル炉、ローラーハース炉、ロータリーキルン、マッフル炉等が挙げられる。
【0311】
また、アルミナ粒子の結晶の状態を整えるためや粒子の表面の不純物等を除くため、モリブデンを含む酸化アルミニウムを形成した後に、さらにアルミナ粒子を形成する温度以上の高温で焼成を行なっても良い。
【0312】
上記アルミナ粒子を得るに当たっては、モリブデン化合物及びカリウム化合物の存在下、又は、モリブデン化合物、カリウム化合物及び金属酸化物の存在下で、アルミニウム化合物を焼成する事により得ることが好ましい。
【0313】
すなわち、アルミナ粒子の好ましい製造方法は、モリブデン化合物及びカリウム化合物の存在下、又は、モリブデン化合物、カリウム化合物及び金属酸化物の存在下で、アルミニウム化合物を焼成する工程(焼成工程)を含む。前記混合物は、さらに上記の金属化合物を含むことが好ましい。金属化合物としては、イットリウム化合物が好ましい。
【0314】
モリブデン化合物を用いたフラックス法では、酸化モリブデンがアルミニウム化合物と反応することでモリブデン酸アルミニウムを形成させ、次いで、このモリブデン酸アルミニウムが分解する過程における化学ポテンシャルの変化が結晶化の駆動力となっているため、自形面(113)の発達した六角両錘型の多面体粒子が形成される。よって、モリブデン化合物をフラックス剤として用いることで、α結晶化率が高い、中でもα結晶化率が90%以上の、モリブデンを含む多面体アルミナからなる、アルミナ粒子をより容易に形成できる。
【0315】
なお、上記メカニズムと異なるメカニズムによって本発明の効果が得られる場合であっても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0316】
[冷却工程]
モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、アルミナ粒子の製造方法は、冷却工程を含んでいてもよい。当該冷却工程は、焼成工程において結晶成長したアルミナを冷却する工程である。より具体的には、焼成工程により得られたアルミナ及び液相のフラックス剤を含む組成物を冷却する工程であってよい。
【0317】
冷却速度は、特に制限されないが、1~1000℃/時間であることが好ましく、5~500℃/時間であることがより好ましく、50~100℃/時間であることがさらに好ましい。冷却速度が1℃/時間以上であると、製造時間が短縮されうることから好ましい。一方、冷却速度が1000℃/時間以下であると、焼成容器がヒートショックで割れることが少なく、長く使用できることから好ましい。
【0318】
冷却方法は特に制限されず、自然放冷であっても、冷却装置を使用してもよい。
【0319】
[後処理工程]
実施形態に係る複合粒子の製造方法は、後処理工程を含んでいてもよい。当該後処理工程は、多面体アルミナ粒子に対する後処理工程であり、フラックス剤を除去する工程である。後処理工程は、上述の焼成工程の後に行ってもよいし、上述の冷却工程の後に行ってもよいし、焼成工程および冷却工程の後に行ってもよい。また、必要に応じて、2度以上繰り返し行ってもよい。
【0320】
後処理の方法としては、洗浄および高温処理が挙げられる。これらは組み合わせて行うことができる。
【0321】
前記洗浄方法としては、特に制限されないが、水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液で洗浄することにより除去することができる。
【0322】
この際、使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液の濃度、使用量、および洗浄部位、洗浄時間等を適宜変更することで、モリブデン含有量を制御することができる。
【0323】
また、高温処理の方法としては、フラックスの昇華点または沸点以上に昇温する方法が挙げられる。
【0324】
[無機被覆部形成工程]
次に、上記で得られた多面体アルミナ粒子の表面に、無機被覆部を形成する。本実施形態では、酸化物で構成される無機被覆部を形成することができる。層形成の方法は、特に制限されないが、例えば液相法や気相法が挙げられる。
無機被覆部を形成させるための、無機の化学種としては、前記した様なものをいずれも用いることが出来る。本発明の好適な実施形態では、この無機の化学種としては、金属酸化物が挙げられる。アルミナ粒子に金属酸化物の被覆部を形成させるに当たっては、モリブデンを含むアルミナ粒子の液媒体分散液と、金属酸化物自体又はその分散液とを混合して、濾過、乾燥しても良い。また、アルミナ粒子と金属酸化物との相互作用を高め、前記した様な、より高い被覆特性が得たい、より均一な無機被覆部が得たい、得られた無機被覆部がアルミナ粒子から剥離し難くなる等といった、特に際立って優れた性質を発現させたい場合には、金属酸化物の前駆体に相当する、液媒体に溶解性を有する金属無機塩の溶液と、モリブデンを含むアルミナ粒子又はその液媒体分散液とを混合し、溶解した分子状の金属無機塩とモリブデンを含むアルミナ粒子と充分に接触させた上で、アルミナ粒子上に析出させた150nm以下の微細な金属無機塩を金属酸化物に変換することが好ましい。必要であれば、更に濾過、乾燥を行うことも出来る。金属無機塩を金属酸化物に変換するに当たって、低温やpH変化で変換が容易でない場合には、必要であれば、焼成を行うことも出来る。こうすることで、単純混合物に無い、アルミナ粒子と金属酸化物との強い相互作用を発現させることができ、容易に、上記した特に際立って優れた性質を発現させることが出来る。無機被覆部の形成工程における、焼成条件は、前記アルミナ粒子における条件を参考に、適宜、最適な条件を選定の上で、採用するようにすれば良い。
【0325】
液相法としては、例えば、アルミナ粒子を分散させた分散液を準備し、必要に応じて分散液のpH調整及び加熱を行った後、分散液に例えば酸化チタンなどの金属塩化物の水溶液を滴下する。このとき、アルカリ水溶液でpHを一定に維持させるのが好ましい。その後、分散液を所定時間撹拌し、濾過、洗浄、乾燥を行って粉体を得る。これにより、多面体形状を有するアルミナ粒子の表面に、酸化チタンなどの酸化物で構成される無機被覆部が形成される。また、他の酸化物として、酸化鉄又はシリカで無機被覆部を形成してもよい。更に、酸化チタン、酸化鉄及びシリカから選択された複数で無機被覆部を形成してもよい。
【0326】
本工程において、酸化物に代えて、金属で構成される無機被覆部を形成することもできる。この場合、液相法や気相法等にて無機被覆部を形成することができ、多面体形状を有するアルミナ粒子の表面に、例えば銀、ニッケル、銅、金又は白金で無機被覆部が形成される。また、銀、ニッケル、銅、金及び白金から選択された複数で無機被覆部を形成してもよい。
【0327】
また、本工程において、アルミナ粒子の表面の少なくとも一部を被覆するように無機被覆層を形成してもよい。この場合、例えば、金属酸化物或いは金属で構成される粒子が互いに凝集した状態で層形成される。
【実施例
【0328】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0329】
<実施例1>
先ず、複合粒子の基体となる板状アルミナを製造した。水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製、平均粒径10μm)146.2g(Alの酸化物換算で92.2質量%)と、三酸化モリブデン(太陽鉱工株式会社製)5.0g(MoOの酸化物換算で4.9質量%)と、二酸化珪素(富士シリシア化学株式会社製、平均粒径3μm)3.0g(SiOの酸化物換算で2.9質量%)とを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて5℃/分の条件で1100℃まで昇温し、1100℃で10時間保持し焼成を行なった。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、坩堝を取り出し、98.0gの薄青色の粉末を得た。得られた粉末を乳鉢で、2mm篩を通るまで解砕した。
続いて、得られた薄青色粉末の95.0gを0.25%アンモニア水の300mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で3時間攪拌後、106μm篩を通し、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、粒子表面に残存するモリブデンを除去し、90.0gの薄青色の粉末を得た。D50値が5μmである板状アルミナ粒子を作製した。
【0330】
次に、D50値が5μmである板状アルミナの5gを45mLの水中で分散して、分散液を得た。1MolのHClを用いて分散液をpH1.8に、同時に分散液の温度は70℃まで調整した。分散液を撹拌しながら、1.5%のTiCl水溶液の23gを8時間以内に滴下した(理論被覆率11.1%)。同時に2%のNaOH水溶液の39gを用いて分散液をpH1.8に維持した。TiCl水溶液滴下後に分散液をさらに4時間撹拌して、分散液を濾過、水洗を行った。110℃で10時間乾燥後に、5.32gの粉体を得た。
5.32gの粉体を800℃で2時間、焼成を行った。これにより、酸化チタンで被覆した板状アルミナ粒子のサンプル5.30gを得た。
【0331】
<実施例2>
50値が5μmである板状アルミナを実施例1と同様の製法にて作製した。この板状アルミナの7.5gを75mLの水中で分散して、分散液を得た。1MolのHClを用いて分散液をpH2.7に、同時に分散液の温度を75℃まで調整した。分散液を撹拌しながら、8.1%のFeCl水溶液を0.17g/minの速度で2時間以内に滴下した(理論被覆率11.1%)。同時に5%のNaOH水溶液の20gを用いて分散液をpH2.7に維持した。FeCl水溶液滴下後に分散液をさらに4時間撹拌して、分散液を濾過、水洗を行った。110℃で10時間乾燥後に、8.25gの粉体を得た。
5gの粉体を800℃で2時間、焼成を行った。これにより、酸化鉄(III)で被覆した板状アルミナ粒子のサンプル4.90gを得た。本複合粒子の色は、赤褐色であった。
【0332】
<実施例3>
50値が13μmである板状アルミナを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酸化チタンで被覆した板状アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。
【0333】
<実施例4>
50値が13μmである板状アルミナを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、酸化鉄(III)で被覆した板状アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。本複合粒子の色は、赤褐色であった。
【0334】
<実施例5>
FeCl水溶液の滴下時間を4時間以内に変更したこと以外は、実施例4と同様にして、酸化鉄(III)で被覆した板状アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。本複合粒子の色は、赤褐色であった。
【0335】
<実施例6>
FeCl水溶液の滴下時間を7時間以内に変更したこと以外は、実施例4と同様にして、酸化鉄(III)で被覆した板状アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。本複合粒子の色は、赤褐色であった。
【0336】
<実施例7>
複合粒子の基体となる板状アルミナを製造した。一般的に市販されている水酸化ナトリウム(平均粒子径1~2μm)100g(Alの酸化物換算で90.1質量%)と、三酸化モリブデン(太陽鉱工社製)6.5g(MoOの酸化物換算で9.0質量%)と、二酸化珪素珪素(関東化学社製、特級)0.65g(SiOの酸化物換算で0.9質量%)とを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて5℃/分の条件で1200℃まで昇温し、1200℃で10時間保持し焼成を行なった。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、坩堝を取り出し、67.0gの薄青色の粉末を得た。得られた粉末を乳鉢で、2mm篩を通るまで解砕した。
【0337】
続いて、得られた薄青色粉末の65.0gを0.25%アンモニア水の250mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で3時間攪拌後、106μm篩を通し、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、粒子表面に残存するモリブデンを除去し、60.0gの薄青色の粉末を得た。D50値が28μmである板状アルミナ粒子を作製した。
【0338】
得られた粉末はSEM観察により形状が多角板状であり、凝集体が極めて少なく、優れた取り扱い性を有する板状のアルミナ粒子であることが確認された。さらに、XRD測定を行ったところ、α-アルミナに由来する鋭いピーク散乱が現れ、α結晶構造以外のアルミナ結晶系ピークは観察されず、緻密な結晶構造を有する板状アルミナであることを確認した。さらに、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、モリブデンを三酸化モリブデン換算で0.61%含むものであることを確認した。
【0339】
そして、D50値が28μmである板状アルミナを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酸化チタンで被覆した板状アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。
【0340】
<実施例8>
50値が28μmである板状アルミナを実施例7と同様の製法にて作製した。
50値が28μmである板状アルミナを用い、且つFeCl水溶液の滴下時間を1時間以内に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、酸化鉄(III)で被覆した板状アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。本複合粒子の色は、赤褐色であった。
【0341】
<実施例9>
50値が28μmである板状アルミナを実施例7と同様の製法にて作製した。
50値が28μmである板状アルミナを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、酸化鉄(III)で被覆した板状アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。本複合粒子の色は、赤褐色であった。
【0342】
<実施例10>
FeCl水溶液の滴下時間を4時間以内に変更したこと以外は、実施例9と同様にして、酸化鉄(III)で被覆した板状アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。本複合粒子の色は、赤褐色であった。
【0343】
<実施例11>
FeCl水溶液の滴下時間を7時間以内に変更したこと以外は、実施例9と同様にして、酸化鉄(III)で被覆した板状アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。本複合粒子の色は、赤褐色であった。
【0344】
<実施例12>
FeCl水溶液の滴下時間を11時間以内に変更したこと以外は、実施例9と同様にして、酸化鉄(III)で被覆した板状アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。本複合粒子の色は、赤褐色であった。
【0345】
<実施例13>
二酸化珪素に代えて二酸化ゲルマニウムを用い、一般的に市販されている水酸化ナトリウム(平均粒子径1~2μm)の100g(Alの酸化物換算で90.1質量%)と、三酸化モリブデン(太陽鉱工社製)の6.5g(MoOの酸化物換算で9.0質量%)と、二酸化ゲルマニウム(三菱マテリアル電子化成社製)の0.65g(GeOの酸化物換算で0.9質量%)とを乳鉢で混合して混合物を得たこと以外は、実施例1と同様にして、酸化チタンで被覆した板状アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。
【0346】
<実施例14>
複合粒子の基体となる板状アルミナを製造した。酸化アルミニウム(CHALCO、Shandong社製、遷移アルミナ、平均粒径45μm)50g(Alの酸化物換算で35.9質量%)と、三酸化モリブデン(太陽鉱工株式会社製)67g(MoOの酸化物換算で48.2質量%)と、二酸化珪素(関東化学株式会社製)0.025g(SiOの酸化物換算で0.0質量%)と、炭酸カリウム(関東化学株式会社製)32g(KOの酸化物換算で15.7質量%)と、酸化イットリウム(関東化学株式会社製)0.25g(Yの酸化物換算で0.2質量%)とを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて5℃/分の条件で1000℃まで昇温し、1000℃で24時間保持し焼成を行なった。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、坩堝を取り出し、136gの薄青色の粉末を得た。
続いて、得られた前記薄青色粉末136gを約1%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。次いで減圧ろ過を続けながら純水洗浄をした。110℃で乾燥し、薄青色粉末のα-アルミナからなる板状アルミナ粒子47gを得た。D50値が50μmである板状アルミナ粒子を作製した。
【0347】
そして、D50値が50μmである板状アルミナを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酸化チタンで被覆した板状アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。
【0348】
<実施例15>
複合粒子の基体となる多面体アルミナを製造した。酸化アルミニウム(CHALCO、Shandong社製、遷移アルミナ、平均粒径45μm)50g(Alの酸化物換算で35.7質量%)と、三酸化モリブデン(Aladdin Industrial Corporation社製)66.75g(MoOの酸化物換算で47.7質量%)と、炭酸カリウム(Aladdin Industrial Corporation社製)33.75g(KOの酸化物換算で16.4質量%)と、酸化イットリウム(Aladdin Industrial Corporation社製)0.25g(Yの酸化物換算で0.2質量%)とを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて5℃/分の条件で950℃まで昇温し、10時間保持し焼成を行った。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、坩堝を取り出し、内容物をイオン交換水で洗浄した。最後に、150℃で2時間乾燥を行い、青色のモリブデンを含むα-アルミナの粉末を得た。D50値が50μmである多面体アルミナ粒子を作製した。
【0349】
そして、D50値が50μmである多面体アルミナを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酸化チタンで被覆した多面体アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。
【0350】
<実施例16>
複合粒子の基体となる多面体アルミナを製造した。水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製、平均粒径12μm)146.2g(Alの酸化物換算で95.0質量%)と、三酸化モリブデン(太陽鉱工株式会社製)5.0g(MoOの酸化物換算で5.0質量%)とを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて5℃/分の条件で1000℃まで昇温し、1000℃で10時間保持し焼成を行なった。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、坩堝を取り出し、内容物をイオン交換水で洗浄した。最後に、150℃で2時間乾燥を行い、98.0gの青色のモリブデンを含むα-アルミナの粉末を得た。D50値が5μmである多面体アルミナ粒子を作製した。
【0351】
そして、D50値が5μmである多面体アルミナを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酸化チタンで被覆した多面体アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。
【0352】
<実施例17>
50値が5μmである多面体アルミナを実施例16と同様の製法にて作製した。
50値が5μmである多面体アルミナを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、酸化鉄(III)で被覆した多面体アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。本複合粒子の色は、赤褐色であった。
【0353】
<比較例1>
50値が30μmである市販のアルミナ粒子(Zhengzhou Research institute of Chalco社製、製品名「A-SF-60」)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、酸化鉄(III)で被覆した多面体アルミナ粒子のサンプル5.0gを得た。本複合粒子の色は、薄い赤色であった。
【0354】
【表1】
【0355】
【表2】
【0356】
≪評価≫
上記の実施例1~17、及び比較例1の粉末を試料とし、以下の評価を行った。測定方法を以下に示す。
【0357】
[アルミナ粒子の長径Lの計測]
レーザー回折粒子径測定装置(島津製作所製、SALD-7000)を用い、アルミナ粉末1mgを0.2wt%のヘキサメタリン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製)水溶液で合計18gになるように分散し、これをサンプルとして測定を行い、平均粒子径D50値(μm)を求め長径Lとした。
【0358】
[アルミナ粒子の厚みDの計測]
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、50個の厚みを測定した平均値を採用し、厚みD(μm)とした。
【0359】
[アスペクト比L/D]
アスペクト比は下記の式を用いて求めた。
(アスペクト比)=(アルミナ粒子の長径L/アルミナ粒子の厚みD)
【0360】
[アルミナ粒子表面のムライトの有無の分析]
複合粒子の無機被覆層を、酸化チタンの場合熱濃硫酸、酸化鉄(III)の場合硫酸を用いて溶解してアルミナ粒子を露出させ、作製した試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーにのせ、一定荷重で平らになるように充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(リガク社製、Ultima IV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード2度/分、走査範囲10~70度の条件で測定を行った。
2θ=26.2±0.2度に認められるムライトのピーク高さをA、2θ=35.1±0.2度に認められる(104)面のα-アルミナのピーク高さをBとし、2θ=30±0.2度のベースラインの値をCとして下記の式よりムライトの有無を判定した。
Rの値が0.02以上である場合、アルミナ粒子表面にムライトが「あり」とし、0.02未満である場合、アルミナ粒子表面にムライトが「なし」と判定した。
R=(A-C)/(B-C)
(R:α-アルミナの(104)面のピーク高さBに対するムライトのピークの高さAの比)
【0361】
[アルミナ粒子表面のMo量の分析]
X線光電子分光(XPS)装置(アルバックファイ社製、Quantera SXM)を用い、作製した試料を両面テープ上にプレス固定し、以下の条件で組成分析を行った。
・X線源:単色化AlKα、ビーム径100μmφ、出力25W
・測定:エリア測定(1000μm四方)、n=3
・帯電補正:C1s=284.8eV
XPS分析結果により求められる[Mo]/[Al]をアルミナ粒子表面のMo量とし、Mo量が0.0005以上である場合に、アルミナ粒子表面にMoが「あり」、Mo量が0.0005未満である場合に、アルミナ粒子表面にMoが「なし」と判断した。
【0362】
[理論被覆率]
複合粒子の理論被覆率(%)は、FeClおよびTiClの仕込み量から求められるFeおよびTiOの質量とアルミナの仕込み質量の比(無機被覆層質量/アルミナ質量)から計算した。
【0363】
[XRF被覆率]
蛍光X線(XRF)分析装置(リガク社製、Primus IV)を用い、作製した試料約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて組成分析を行った。
複合粒子のXRF被覆率(%)は、XRF分析結果により求められる[TiO]/[Al]又は[Fe]/[Al](質量比)から求めた。
【0364】
[被覆効率]
複合粒子の被覆効率(%)は、上記の理論被覆率に対するXRF被覆率の比から求めた。
【0365】
[被覆評価]
複合粒子の被覆効率(%)が90%以上である場合を極めて良好「◎」、80%以上90%未満である場合を良好「〇」、30%以上80%未満である場合をほぼ良好「△」、30%未満である場合を不良「×」とした。評価結果を、表1及び表2に示す。
【0366】
先ず、表1に示すように、上記実施例1~12で得られた粉末では、上記XRDピーク強度比の値が0.02以上であり、ムライトの存在が確認された。一方、実施例13~17で得られた粉末では、ムライトの存在が確認されなかった。
【0367】
また、上記実施例1~17及び比較例1で得られた粉末は、上記表1に記載の粒子径(D50)、厚み、アスペクト比の値を有するものであることを確認した。
【0368】
実施例1の板状アルミナ粒子のSEM観察画像を、図1及び図2に示す。
図1及び図2に示すように、実施例1の板状アルミナの表面が粒子状の酸化チタン(TiO)によって被覆されていることが確認された。
実施例2の板状アルミナ粒子のSEM観察画像を、図3図5に示す。
図3図5に示すように、実施例2の板状アルミナの表面が粒子状の酸化鉄(III)(Fe)によって被覆されていることが確認された。
【0369】
また、実施例1~12の複合粒子では、D50値が5μm、13μm又は28μmである板状アルミナを用いており、板状アルミナの表面にMo及びSiの存在が確認され、また、板状アルミナの表面にムライトの存在が確認された。そして、酸化チタンあるいは酸化鉄(III)で無機被覆層を形成すると、いずれの場合でも被覆効率は80%以上であり、良好であるか又は極めて良好であった。よって、上記板状アルミナの表面にMo及びムライトが存在していると、板状アルミナに酸化チタン及び酸化鉄(III)の無機被覆層の双方を形成し易いことが分かった。特に、実施例2,5,6,8~12では、酸化鉄(III)で無機被覆層を形成すると、いずれの場合でも被覆効率は90%以上であり、極めて良好であった。よって、上記板状アルミナの表面にMo及びムライトが存在していると、板状アルミナに酸化鉄(III)の無機被覆層を非常に形成し易いことが分かった。また、実施例7では、酸化チタンで無機被覆層を形成すると、被覆効率は90%以上であり、極めて良好であった。よって、上記板状アルミナの表面にMo及びムライトが存在していると、板状アルミナに酸化チタンの無機被覆層を非常に形成し易いことが分かった。
【0370】
実施例13の複合粒子では、D50値が22μmである板状アルミナを用いており、板状アルミナの表面にMoの存在が確認された。そして、酸化チタンで無機被覆層を形成すると、被覆効率は87.5%以上と良好であった。よって、上記板状アルミナの表面にMoが存在していると、板状アルミナに酸化チタンの無機被覆層を形成し易いことが分かった。
【0371】
実施例14の複合粒子では、D50値が50μmである板状アルミナを用いており、板状アルミナの表面にMoの存在が確認された。そして、酸化チタンで無機被覆層を形成すると、被覆効率は33.3%とほぼ良好であった。よって、上記板状アルミナの表面にMoが存在していると、板状アルミナに酸化チタンの無機被覆層を形成し易いことが分かった。
【0372】
実施例15の複合粒子では、D50値が50μmである多面体アルミナを用いており、多面体アルミナの表面にMoの存在が確認された。そして、酸化チタンで無機被覆層を形成すると、被覆効率は90%と極めて良好であった。よって、上記多面体アルミナの表面にMoが存在していると、多面体アルミナに酸化チタンの無機被覆層を非常に形成し易いことが分かった。
【0373】
実施例16の複合粒子では、D50値が5μmである多面体アルミナを用いており、多面体アルミナの表面にMoの存在が確認された。そして、酸化チタンで無機被覆層を形成すると、被覆効率は91.7%と極めて良好であった。よって、上記多面体アルミナの表面にMoが存在していると、多面体アルミナに酸化チタンの無機被覆層を非常に形成し易いことが分かった。
【0374】
実施例17の複合粒子では、D50値が5μmである多面体アルミナを用いており、多面体アルミナの表面にMoの存在が確認された。そして、酸化鉄(III)で無機被覆層を形成すると、被覆効率は34.8%とほぼ良好であった。よって、上記多面体アルミナの表面にMoが存在していると、多面体アルミナに酸化チタンの無機被覆層を形成し易いことが分かった。
【0375】
また、酸化鉄(III)で被覆した実施例2,4~6,8~12,17では、赤或いは赤褐色を呈することが確認された。
【0376】
一方、比較例1の複合粒子では、D50値が30μmである市販の板状アルミナを用いており、上記XRD測定で板状アルミナがα結晶構造であることが確認された。また、板状アルミナの表面にはMo及びSiの存在が確認されず、また、板状アルミナにムライトの存在も確認されなかった。そして、酸化鉄(III)で無機被覆層を形成すると、被覆効率は僅か2.30%で不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0377】
本発明の複合粒子は、無機被覆部の高い被覆効率を有することから、印刷インキ、塗料、自動車用コーティング、工業用コーティング、熱伝導性フィラー、化粧品用材料、研磨材、高輝性顔料、滑材、導電性粉体の基材、セラミックス材料などに好適に使用できる。
図1
図2
図3
図4
図5