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特許7524957常磁性ガーネット型透明セラミックス及びその製造方法
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  • 特許-常磁性ガーネット型透明セラミックス及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】常磁性ガーネット型透明セラミックス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/50 20060101AFI20240723BHJP
   C04B 35/44 20060101ALI20240723BHJP
   C04B 35/645 20060101ALI20240723BHJP
   G02B 27/28 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
C04B35/50
C04B35/44
C04B35/645
G02B27/28 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022547460
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2021030209
(87)【国際公開番号】W WO2022054515
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2020151196
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 恵多
(72)【発明者】
【氏名】碇 真憲
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓士
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-207340(JP,A)
【文献】特許第2638669(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/143859(WO,A1)
【文献】特開2019-199387(JP,A)
【文献】特開2019-202916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/50
C04B 35/44
C04B 35/645
G02B 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
(Tb1-x-yxScy3(Al1-zScz512 (1)
(式中、0<x<0.45、0<y≦0.1、0.004<z<0.2である。)
で表されるTb含有希土類アルミニウムガーネットの焼結体であって、平均焼結粒径が10μm以上40μm以下であり、24mmの光路長における全光線透過率スペクトルとして、波長900nmでの全光線透過率をa%とし、900nmより長波長側の任意の波長λでの全光線透過率をb%としたとき(ただし、上記全光線透過率スペクトルの測定対象であるTb含有希土類アルミニウムガーネットの焼結体は長さ24mmとなるように研削及び研磨され、その両末端について光学研磨を施したものであって、反射防止膜はコーティングされていないものである。)、少なくとも900nm<λ<1,100nmのとき、|a-b|≦0.1である常磁性ガーネット型透明セラミックス。
【請求項2】
900nmより長波長側における|a-b|>0.1となる最小波長λ1が1,100nm以上である請求項1に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
【請求項3】
波長1,064nmでの吸収係数が0.0030cm-1以下である請求項1又は2に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
【請求項4】
上記波長900nmでの全光線透過率が84%以上85%以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
【請求項5】
光路長24mmにおける波長1,064nmのレーザー光をビーム径1.6mm、入射パワー100Wで入射した場合の熱レンズによる焦点距離の変動率が10%未満である請求項1~4のいずれか1項に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法であって、下記式(1)
(Tb1-x-yxScy3(Al1-zScz512 (1)
(式中、0<x<0.45、0<y≦0.1、0.004<z<0.2である。)
で表されるTb含有希土類アルミニウムガーネットの予備焼結体について加圧焼結し、更にこの加圧焼結体を上記加圧焼結を超える温度に加熱して再焼結し、次いで再加圧焼結を行い、更にこの再加圧焼結を行った再焼結体について15体積%以上の酸素含有雰囲気下、1,300℃以上1,500℃以下の温度で、10時間以上加熱する酸化アニール処理を行うことを特徴とする常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
【請求項7】
上記予備焼結体の平均焼結粒径が5μm以下である請求項6に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気光学材料となる常磁性ガーネット型透明セラミックスに関し、より詳細には、光アイソレータなどの磁気光学デバイスを構成するのに好適なテルビウムを含む常磁性ガーネット型透明セラミックスからなる磁気光学材料であり、100W以上の高出力ファイバーレーザーに使用可能な常磁性透明セラミックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザーの高出力化に伴い、ファイバーレーザーを用いたレーザー加工が台頭し始めている。レーザー加工を安定に行うためには、外部からの光を除去し、発振状態を乱れさせないようにする必要がある。特にファイバー端面で光が反射すると、レーザー光源まで反射光が到達し、結果として大きく発振を乱れさせてしまう。そのため、通常のファイバーレーザーには、ファイバーとファイバーをつなぐ境界にアイソレータと呼ばれる部品を装着することで、反射光を完全に抑制している。
【0003】
光アイソレータは、ファラデー回転子と、ファラデー回転子の光入射側に配置された偏光子と、ファラデー回転子の光出射側に配置された検光子とからなる。また、ファラデー回転子は、光の進行方向に平行に磁界を加えて利用する。このとき、光の偏波線分はファラデー回転子中を前進しても後進しても一定方向にしか回転しなくなる。更に、ファラデー回転子は光の偏波線分が丁度45度回転される長さに調整される。ここで、偏光子と検光子の偏波面を前進する光の回転方向に45度ずらしておくと、前進する光の偏波は偏光子位置と検光子位置で一致するため透過する。他方、後進する光の偏波は検光子位置から45度ずれている偏光子の偏波面のずれ角方向とは逆回転に45度回転することになる。すると、偏光子位置における戻り光の偏波面は偏光子の偏波面に対して45度-(-45度)=90度のずれとなり、偏光子を透過できない。こうして前進する光は透過、出射させ、後進する戻り光は遮断する光アイソレータとして機能する。
【0004】
ファラデー回転子として従来から存在する材料として、例えばガーネット系のTb3Ga512(以下TGG)(例えば、特許第4878343号公報(特許文献1))やC型希土類系の(TbxRe(1-x)23(例えば、特許第5704097号公報(特許文献2))、フッ化物系のKTb310(以下KTF)(非特許文献1)がある。これらの材料には共通して、レーザーとして用いられる波長1,064nmで光吸収が少なく、かつ大きなベルデ定数(磁気光学定数)を有するテルビウムが含有されていることが言える。
【0005】
さて、近年のファイバーレーザーの高出力化に伴い、ファラデー回転子に求められる特性も変化し、大きなベルデ定数よりむしろ、小さい光吸収係数が要求されるようになった。ファラデー回転子がレーザー光を吸収してしまうと、その光エネルギーが熱となり、ファラデー回転子の内側と外周部で温度ムラとなる。温度ムラはそのまま屈折率ムラとなり、ファラデー回転子があたかもレンズのような屈折率分布を有する。これを熱レンズ効果と言い、レーザー品質の悪化や焦点距離の変動が観測される。この熱レンズ効果は低出力のレーザーでは問題にならなかったが、高出力となると、ファラデー回転子が40℃度以上に加熱されてしまうため、熱レンズ効果が顕著に現れてくる。そのため、高出力用のファラデー回転子には小さな光吸収係数が要求されている。
【0006】
ファラデー回転子として一般的に用いられているTGGは、対象波長帯に光吸収が存在し、70Wの出力が限界である。また、C型希土類系は、ベルデ定数を最も大きくすることが可能というメリットはあるが、光吸収係数がTGGの倍以上あり、30Wの出力が限界と予想される。一方、フッ化物系のKTFは、光吸収が非常に小さく、400Wを超えるレーザー出力でも対応可能であるとみられている。しかし、KTFは結晶の安定性、製造コストといった観点で未知数な点も多く、またベルデ定数もTGG並みであり、これ以上のベルデ定数向上は見込めない。これまでのTGGよりも低吸収でかつ高ベルデ定数を有する材料が望まれている。
【0007】
上記TGGよりも低吸収でかつ高ベルデ定数を有する材料として、Tb3Al512(以下TAG)(例えば、特許第3642063号公報(特許文献3))、Tb3Sc2Al312(以下TSAG)(例えば、特許第5935764号公報(特許文献4))、(YxTb1-x3Al512(非特許文献2)が挙げられる。これらはTGGよりも約1.4倍のベルデ定数を有する一方、光吸収も小さいために、100Wレベルのファイバーレーザーに搭載できるとみられている。しかし、TAGは結晶として不安定であるので製造が難しく、またTSAGは高価なScを多量に含むのでコストの面で不利となる。一方、TAGのTbを一部Yで置換したYTAGは、TAGよりも結晶として安定となり、また高価な元素を使用することがないので、見込みの高い材料である。しかし、非特許文献2の中で、高出力領域の熱レンズ情報は存在しなく、また実装長(14mm以上)での光吸収損失の情報もない。非特許文献2だけではYTAGセラミックスが高出力用ファラデー回転子として使用可能であるのかは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4878343号公報
【文献】特許第5704097号公報
【文献】特許第3642063号公報
【文献】特許第5935764号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Laser Technik Journal 13 (2017):18-21
【文献】J. Am. Ceram. Soc. 100 (2017), 4081-4087
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、Tb、Y及びAl含有の常磁性ガーネット型酸化物の透明焼結体であって、100Wのレーザー出力に対しても熱レンズ効果を発生せず、高出力用ファイバーレーザーのファラデー回転子として使用可能な常磁性ガーネット型透明セラミックス、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはこれまで、さまざまなファラデー回転子用透明セラミックスを開発しているが、高出力用ファラデー回転子として(Tb1-x-yxScy3(Al1-zScz512の検討を行っている中で、実装長において酸素欠損又はカチオン欠陥由来の吸収がこれまで以上に熱レンズ効果に対して影響を及ぼしていることを突き止め、その知見に基づき鋭意検討を行い1,064nm帯の吸収を最小限に抑え、100Wのレーザーを照射しても熱レンズの発生を最小限に抑える透明セラミックスを成すに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の常磁性ガーネット型透明セラミックス及びその製造方法を提供する。
1.
下記式(1)
(Tb1-x-yxScy3(Al1-zScz512 (1)
(式中、0<x<0.45、0<y≦0.1、0.004<z<0.2である。)
で表されるTb含有希土類アルミニウムガーネットの焼結体であって、平均焼結粒径が10μm以上40μm以下であり、24mmの光路長における全光線透過率スペクトルとして、波長900nmでの全光線透過率をa%とし、900nmより長波長側の任意の波長λでの全光線透過率をb%としたとき(ただし、上記全光線透過率スペクトルの測定対象であるTb含有希土類アルミニウムガーネットの焼結体は長さ24mmとなるように研削及び研磨され、その両末端について光学研磨を施したものであって、反射防止膜はコーティングされていないものである。)、少なくとも900nm<λ<1,100nmのとき、|a-b|≦0.1である常磁性ガーネット型透明セラミックス。
2.
900nmより長波長側における|a-b|>0.1となる最小波長λ1が1,100nm以上である1に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
3.
波長1,064nmでの吸収係数が0.0030cm-1以下である1又は2に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
4.
上記波長900nmでの全光線透過率が84%以上85%以下である1~3のいずれかに記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
5.
光路長24mmにおける波長1,064nmのレーザー光をビーム径1.6mm、入射パワー100Wで入射した場合の熱レンズによる焦点距離の変動率が10%未満である1~4のいずれかに記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
6.
1~5のいずれかに記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法であって、下記式(1)
(Tb1-x-yxScy3(Al1-zScz512 (1)
(式中、0<x<0.45、0<y≦0.1、0.004<z<0.2である。)
で表されるTb含有希土類アルミニウムガーネットの予備焼結体について加圧焼結し、更にこの加圧焼結体を上記加圧焼結を超える温度に加熱して再焼結し、次いで再加圧焼結を行い、更にこの再加圧焼結を行った再焼結体について15体積%以上の酸素含有雰囲気下、1,300℃以上1,500℃以下の温度で、10時間以上加熱する酸化アニール処理を行うことを特徴とする常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
7.
上記予備焼結体の平均焼結粒径が5μm以下である6に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Tb及びAl含有の常磁性ガーネット型複合酸化物の透明焼結体であって、波長900nmの全光線透過率を基準として900nmより長波長側で所定の光吸収条件を満たす全光線透過率スペクトルとすることで、実装長24mmでの1,064nmの吸収係数が0.0030cm-1以下となり、高出力用のファラデー回転子として好適な常磁性ガーネット型透明セラミックスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスをファラデー回転子として用いた光アイソレータの構成例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、数値範囲を「A~B」と表記した場合、その両端の数値を含むものであり、A以上B以下を意味する。
[常磁性ガーネット型透明セラミックス]
以下、本発明に係る常磁性ガーネット型透明セラミックスについて説明する。
本発明に係る常磁性ガーネット型透明セラミックスは、下記式(1)
(Tb1-x-yxScy3(Al1-zScz512 (1)
(式中、0<x<0.45、0<y≦0.1、0.004<z<0.2である。)
で表されるTb含有希土類アルミニウムガーネットの焼結体であって、24mmの光路長における全光線透過率スペクトルとして、波長900nmでの全光線透過率をa%とし、900nmより長波長側の任意の波長λでの全光線透過率をb%としたとき、少なくとも900nm<λ<1,100nmのとき、|a-b|≦0.1であることを満たすものである。
【0016】
なお、式(1)で表されるガーネット結晶構造においてTbが主として占有するサイト、即ち式(1)の前半の括弧をAサイト、Alが主として占有するサイト、即ち式(1)の後半の括弧をBサイトと称する。
【0017】
式(1)のAサイトにおいて、テルビウム(Tb)は、3価の希土類イオンの中で最大のベルデ定数を有する元素であり、ファイバーレーザーで使用する1,064nm領域(波長1,070nmを含む)で吸収が極めて小さいため、この波長域の光アイソレータ用材料に用いるには好適な最も適している元素である。ただし、Tb(III)イオンは容易に酸化されTb(IV)イオンが生じる。金属酸化物中にTb(IV)イオンが生じると紫外から近赤外域にかけて広範囲の波長で光を吸収し透過率を低下させるため、できる限り排除することが望ましい。Tb(IV)イオンを発生させない1つのストラテジーとしてTb(IV)イオンが不安定な結晶構造、つまりガーネット構造を採用することが有効である。
【0018】
イットリウム(Y)はイオン半径がテルビウムよりも2%程度小さく、アルミニウムと化合して複合酸化物を形成する場合に、ペロブスカイト相よりもガーネット相を安定して形成できるため、本発明においては好ましく利用することのできる元素である。
【0019】
式(1)のBサイトにおいて、アルミニウム(Al)はガーネット構造を有する酸化物中で安定に存在できる3価のイオンの中で最小のイオン半径を有する材料であり、Tb含有の常磁性ガーネット型酸化物の格子定数を最も小さくすることのできる元素である。Tbの含有量を変えることなくガーネット構造の格子定数を小さくすることができると、単位長さあたりのベルデ定数を大きくすることができるため好ましい。更にアルミニウムは軽金属であるためガリウムと比較すると反磁性が弱く、ファラデー回転子内部に生じる磁束密度を相対的に高める効果が期待され、こちらも単位長さ当たりのベルデ定数を大きくすることができるため好ましい。実際TAGセラミックスのベルデ定数はTGGのそれの1.25~1.5倍に向上する。そのためテルビウムイオンの一部をイットリウムイオンで置換することでテルビウムの相対濃度を低下させた場合でも、単位長さ当りのベルデ定数をTGG同等、ないしは若干下回る程度にとどめることが可能となるため、本発明においては好適な構成元素である。
【0020】
ここで、構成元素がTb、Y及びAlだけの複合酸化物では微妙な秤量誤差によってガーネット構造を有さない場合があり、光学用途に使用可能な透明セラミックスを安定に製造することが難しい。そこで、本発明では構成元素としてスカンジウム(Sc)を添加することにより微妙な秤量誤差による組成ずれを解消する。Scは、ガーネット構造を有する酸化物中でAサイトにも、Bサイトにも固溶することができる中間的なイオン半径を有する材料であり、Tb及びYからなる希土類元素とAlとの配合比が秤量時のばらつきによって化学量論比からずれた場合に、ちょうど化学量論比に合うように、そしてこれにより結晶子の生成エネルギーを最小にするように、自らAサイト(Tb及びYからなる希土類サイト)とBサイト(アルミニウムサイト)への分配比を調整して固溶することのできるバッファ材料である。また、アルミナ異相のガーネット母相に対する存在割合を1ppm以下に制限し、かつ、ペロブスカイト型の異相のガーネット母相に対する存在割合を1ppm以下に制限することのできる元素であり、製品の歩留り向上のために添加できる元素である。
【0021】
式(1)中、xの範囲は0<x<0.45であり、0.05≦x<0.45が好ましく、0.10≦x≦0.40がより好ましく、0.20≦x≦0.40が更に好ましい。xがこの範囲にあると、常温(25℃)、波長1,064nmでのベルデ定数が30rad/(T・m)以上となり、ファラデー回転子として使用することができる。またこの範囲においてxが大きいほど熱レンズ効果が小さくなる傾向があるため好ましい。更にこの範囲においてxが大きいほど拡散透過率が小さくなる傾向があるため好ましい。なお、波長1,070nmのレーザー光においても同様である。対して、xが0.45以上の場合、波長1,064nmでのベルデ定数が30rad/(T・m)未満となるため好ましくない。即ちTbの相対濃度が過剰に薄まると、一般的なマグネットを使用した場合、波長1,064nmのレーザー光を45度回転させるのに必要なファラデー回転子の全長が30mmを超えて長くなり、製造が難しくなるため好ましくない。
【0022】
式(1)中、yの範囲は0<y≦0.1であり、0<y<0.1が好ましく、0<y<0.08がより好ましく、0.002≦y≦0.07が更に好ましく、0.003≦y≦0.06が特に好ましい。yがこの範囲にあると、ペロブスカイト型異相をX線回折(XRD)分析で検出されないレベルまで減少させることができる。更に光学顕微鏡観察で150μm×150μmの視野におけるペロブスカイト型の異相(典型的なサイズが直径1~1.5μmで、薄茶色に着色して見える粒状のもの)の存在量が1個以下になるため好ましい。このときのペロブスカイト型の異相のガーネット母相に対する存在割合は1ppm以下となっている。
【0023】
yが0.1以上の場合、Tbの一部をYで置換することに加えて、更にScでもTbの一部を置換してしまい、結果的にTbの固溶濃度が不必要に低下してしまうため、ベルデ定数が小さくなり好ましくない。また、Scは原料代が高額なため、Scを不必要に過剰ドープすることは製造コスト上からも好ましくない。なお、yが0.08以上の場合、Tb及びYがBサイトに、AlがAサイトに入るアンチサイト欠陥吸収が発生するリスクが高まる場合がある。
【0024】
式(1)中、0.05≦x<0.45かつ0<y<0.1である場合、1-x-yの範囲は0.5<1-x-y<0.95が好ましく、0.55≦1-x-y<0.95がより好ましく、0.6≦1-x-y<0.95が更に好ましい。1-x-yがこの範囲にあると大きなベルデ定数を確保できると共に波長1,064nmにおいて高い透明性が得られる。なお、波長1,070nmにおいても同様である。
【0025】
式(1)中、zの範囲は0.004<z<0.2であり、0.004<z<0.16が好ましく、0.01≦z≦0.15がより好ましく、0.03≦z≦0.15が更に好ましい。zがこの範囲にあると、ペロブスカイト型異相がXRD分析で検出されない。更に光学顕微鏡観察で150μm×150μmの視野におけるペロブスカイト型の異相(典型的なサイズが直径1~1.5μmで、薄茶色に着色して見える粒状のもの)の存在量が1個以下になるため好ましい。このときのペロブスカイト型の異相のガーネット母相に対する存在割合は1ppm以下となっている。
【0026】
zが0.2以上の場合、ペロブスカイト型異相の析出抑制効果は飽和して変わらない中、zの値の増加に連動してyの値、即ちScによるTbの置換割合も高まってしまうため、結果的にTbの固溶濃度が不必要に低下してしまい、ベルデ定数が小さくなり好ましくない。更にまたScは原料代が高額なため、Scを不必要に過剰ドープすることは製造コスト上からも好ましくない。なお、zが0.16以上の場合、Tb及びYがBサイトに、AlがAサイトに入るアンチサイト欠陥吸収が発生するリスクが高まる場合がある。
【0027】
また、本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスでは、上記焼結体が更に焼結助剤を含むものであることが好ましい。具体的には、焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下(0ppm超1,000ppm以下)含有することが好ましい。含有量が0.1質量%(1,000ppm)超では過剰に含まれるSiによる結晶欠陥により微量な光吸収が発生するおそれがある。
【0028】
また、本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、24mmの光路長における全光線透過率スペクトルとして、波長900nmでの全光線透過率をa%とし、900nmより長波長側の任意の波長λでの全光線透過率をb%としたとき、少なくとも900nm<λ<1,100nmのとき、|a-b|≦0.1であることを満たすものである。また、900nm<λ<1,100nmのときに常に|a-b|≦0.1であることが好ましく、900nmより長波長側における|a-b|>0.1となる最小(最短)波長λ1が1,100nm以上であることが好ましい。これは即ち、実装長24mmで900nmの波長での全光線透過率を基準(a%)とし、これと900nmよりも長波長側での全光線透過率bとの差の絶対値(|a-b|)が初めて0.1%を超える波長が1,100nm以上となるスペクトル形状を有することを意味する。
【0029】
本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスをファラデー回転子に用いる場合、レーザー光をできるだけ吸収しないようにして熱レンズ効果の発生を抑える必要がある。
ここで、透明セラミックスの光吸収の原因として考えられるのは、高温で焼結したことによる酸素欠損や、高温高圧で焼結体を透明化したことによる結晶のひずみに伴うカチオン欠陥が挙げられる。酸素欠損はYを添加したことによって顕著に現れ、波長帯750~900nmを中心とするブロードな吸収となることから、焼結体の外観が黒色となる。この吸収は使用波長帯の1,000~1,100nmまで尾を引いている状態であり、当然熱レンズ効果に影響を及ぼす。一方、カチオン欠陥は、原因は不明であるが焼結体を高温高圧下で透明化すると生じる傾向があり、900nmを中心に短波側と長波側に向かって緩やかに減少する吸収パターンを生じる。短波側と長波側の吸収量は直線的に連動していることもあり、焼結体の外観が茶色となる。短波側はファラデー回転子の使用波長帯の外側なのでファラデー回転子の特性に影響を及ぼさないが、900nmから長波長側に向かって発生する吸収は、当然熱レンズ効果に影響を及ぼす。
なお、上記酸素欠損の波長750~900nmを中心とした、近赤外領域にまたがるブロードな吸収が存在する場合、上記全光線透過率に関してaよりもbが大きくなる。一方、上記カチオン欠陥が存在する場合、bよりもaが大きくなる。
【0030】
aとbの差の絶対値(|a-b|)が初めて0.1%超となる任意の波長が1,100nmより小さい場合、酸素欠損の場合には750nmを中心としたブロード吸収の尾を引いている(影響を受けている)可能性が高く、一方カチオン欠陥の場合には900nmを中心とした緩やかな吸収が生じている可能性が高い。いずれにしてもこの場合には、波長1,000~1,100nmの100Wのレーザーを入力すると熱レンズ効果が発生してしまう。
これに対して、aとbの差の絶対値(|a-b|)が初めて0.1%超となる任意の波長が1,100nm以上であれば、波長1,000~1,100nmの100Wのレーザーを入力した場合であっても熱レンズ効果の発生は小さく、1,150nm以上であればよりその発生は小さくなる。
【0031】
また、本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスの波長1,064nmでの吸収係数が0.0030cm-1以下であることが好ましく、0.0015cm-1以下であることがより好ましい。吸収係数とは光学材料の光吸収の度合いを示すパラメータであり、この値が小さければ小さいほど、熱レンズ効果も小さくすることができる。24mmの実装長であるならば、吸収係数0.0030cm-1の場合では熱レンズ効果は100Wまで抑えることができる。この吸収係数0.0030cm-1超の場合、100Wのレーザーを照射した際、常磁性ガーネット型透明セラミックス(ファラデー回転子)が発熱し、熱レンズ効果を起こしてしまう。
【0032】
吸収係数は下記の方法で測定する。即ち、透過率から吸収係数を求める方法であり、屈折率から求めた理論透過率と実測の全光線透過率の差分から計算する。その際の計算方法としては、下記式(2)によればよい。
吸収係数=-10×log10(I/I0)/L (2)
(ここで、I:実測の透過率、I0:理論透過率、L:サンプル長(cm))
なお、全光線透過率の測定方法は、JIS K7361-1(ISO13468-2:1999)、JIS K7375:2008を参考に、市販の紫外可視分光器を用いたダブルビーム方式、またはシングルビーム方式が例示され、ほかにもレーザー光を用いた透過損失測定でも構わない。
【0033】
なお、反射防止膜をつけていない常磁性ガーネット型透明セラミックスの全光線透過率を測定したとき、実装長24mmで波長900nmの全光線透過率は84%以上85%以下が好ましい。このとき、その全光線透過率をa%とし、また900nmより長波長側の任意の波長の全光線透過率をb%としたとき、aとbの差の絶対値(|a-b|)が初めて0.1%超となる任意の波長が1,100nm以上であり、より好ましくは1,150nm以上である。
【0034】
また、本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、光路長24mmにおける波長1,064nmのレーザー光をビーム径1.6mm、入射パワー100Wで入射した場合の熱レンズ効果による焦点距離の変動率が10%未満であることが好ましく、9%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、7%以下が更に好ましい。ある入射パワーのもとで熱レンズ効果による焦点距離の変動率が10%未満であると、当該入射パワーでのシステム搭載が可能、即ち熱レンズ特性が合格する。本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、100Wのハイパワー入射で熱レンズ効果による焦点距離の変動率が10%未満に管理できるため、実質的に当該材料は100W用ハイパワーレーザーシステムに採用できる。
【0035】
即ち、以上のような本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスによれば、高出力のレーザーを入射しても熱レンズ効果の発生が抑えられ、100W以上の高出力ファイバーレーザーのファラデー回転子として使用できる。
【0036】
[常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法]
本発明に係る常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法は、上述した本発明の記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法であって、下記式(1)
(Tb1-x-yxScy3(Al1-zScz512 (1)
(式中、0<x<0.45、0<y≦0.1、0.004<z<0.2である。)
で表されるTb含有希土類アルミニウムガーネットの焼結体について加圧焼結し、更にこの加圧焼結体を上記加圧焼結を超える温度に加熱して再焼結し、更に再焼結体について15体積%以上の酸素含有雰囲気下、1,300℃以上1,500℃以下の温度で、10時間以上加熱する酸化アニール処理を行うことを特徴とするものである。
【0037】
ここでは、以下の手順で常磁性ガーネット型透明セラミックスを製造する。
(焼結用原料粉末)
まず、上述した式(1)のガーネット型複合酸化物組成に対応した焼結用原料粉末を作製する。
【0038】
(出発原料混合粉末の場合)
本発明で用いる上記焼結用原料粉末の作製方法は、特に限定されるものではないが、ガーネット型複合酸化物に対応した成分元素ごとの酸化物粉末を出発原料として式(1)に対応する組成となるようにそれぞれを所定量秤量し、混合して焼結用原料粉末としてもよいし、各成分が均一に分布した酸化物粉末を合成したものを用いてもよい。後者の各成分が均一に分布した酸化物粉末の合成法は、共沈法、錯体重合法、均一沈殿法が例示され、透明化可能であれば特に限定されない。ここではこれらを出発原料混合粉末という。このときの出発原料は、透明化可能なら特に限定されないが、不純物由来の吸収を抑える観点から、純度は99.9質量%以上が好ましく、99.99質量%以上がより好ましく、99.999質量%以上が最も好ましい。また、原料粉末の一次粒子の粒径は透明化可能であれば特に限定はされないが、易焼結性の観点から50nm以上1,000nm以下が好ましい。一次粒子の形状はカードハウス状、球状、棒状から選択され、透明化可能であれば特に限定されない。
【0039】
(ガーネット型複合酸化物粉末の場合)
あるいは、本発明で用いる上記焼結用原料粉末の作製方法は、共沈法、粉砕法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法、アルコキシド加水分解法、その他あらゆる合成方法を用いてもよい。場合によって、得られた希土類複合酸化物のセラミックス原料を所望の粒径とするために適宜湿式ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、乾式ジェットミル、ハンマーミル等によって処理してもよい。例えば、複数種の酸化物粒子を混ぜて焼成し、イオンの熱拡散によって均一性を生みだす固相反応法や、酸化物粒子を溶解させたイオン含有溶液から水酸化物、炭酸塩などを析出させ、焼成によって酸化物にすることで均一性を生みだす共沈法を用いて焼結用原料粉末とするとよい。
【0040】
複数種の酸化物粒子を混ぜて焼成し、イオンの熱拡散によって均一性を生みだす固相反応法の場合、出発原料としては、テルビウム、イットリウム、スカンジウム、アルミニウムからなる金属粉末、ないしは前記金属粉末を硝酸、硫酸、尿酸等の水溶液で溶解したもの、あるいは上記元素の酸化物粉末等が好適に利用できる。また、上記原料の純度は99.9質量%以上が好ましく、99.99質量%以上が特に好ましい。それらの出発原料を式(1)に対応する組成となるように所定量秤量し、混合してから焼成して所望の構成の立方晶ガーネット型酸化物を主成分とする焼成原料を得、これを粉砕して焼結用原料粉末(ガーネット型複合酸化物粉末)としてもよい。このときの焼成温度はガーネット構造にするために950℃以上、かつこの後に行われる焼結温度よりも低い温度が好ましく、1,100℃以上、かつこの後に行われる焼結温度よりも低い温度がより好ましい。焼成時間は1時間以上行えばよく、そのときの昇温速度は100℃/h以上500℃/h以下が好ましい。焼成の雰囲気は、大気、酸素の酸素含有雰囲気が好ましく、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気、水素雰囲気等は不適である。また、焼成装置は縦型マッフル炉、横型管状炉、ロータリーキルン等が例示され、目標の温度に到達及び酸素フローができれば特に限定されない。なお、ここでいう「主成分とする」とは、焼成原料の粉末X線回折結果から得られる主ピークがガーネット構造由来の回折ピークからなることを指す。なお、ペロブスカイト型の異相のガーネット母相に対する存在割合が1ppm以下である場合、実質的に粉末X線回折パターンはガーネット単相パターンしか検知されない。
【0041】
また、焼結用原料粉末は焼結助剤を含むことが好ましい。例えば、上記出発原料と共に焼結助剤としてテトラエトキシシラン(TEOS)をSiO2換算で原料粉末全体(出発原料混合粉末又ガーネット型複合酸化物粉末十焼結助剤)において0ppm超1,000ppm以下(0質量%超0.1質量%以下)添加し、又はSiO2粉末を原料粉末全体(ガーネット型複合酸化物粉末十焼結助剤)において0ppm超1,000ppm以下(0質量%超0.1質量%以下)添加し、混合し必要に応じて(ガーネット型複合酸化物粉末にする場合には)焼成して焼結用原料粉末とするとよい。添加量が1,000ppm超では過剰に含まれるSiによる結晶欠陥により微量な光吸収が発生するおそれがある。なお、その純度は99.9質量%以上が好ましい。焼結助剤は原料粉末スラリーの調製時に添加してもよい。また、焼結助剤を添加しない場合には、使用する焼結用原料粉末(即ち、上記出発原料混合粉末又は複合酸化物粉末)についてその一次粒子の粒径がナノサイズであって焼結活性が極めて高いものを選定するとよい。こうした選択は適宜なされてよい。
【0042】
(出発原料混合粉末の場合)
上記出発原料混合粉末(各種酸化物粉末を混合したもの、または各成分が均一に分布した酸化物粉末)は凝集状態であるので、一次粒子まで分散させる必要があり、スラリー化するために湿式分散を行うとよい。湿式分散としてはボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ホモジナイザーが例示され、一次粒子まで分散することが可能であるならば特に限定されない。湿式分散の溶媒は純水、炭素数1~4の低級アルコール等のアルコール類、アセトンが例示され、透明化可能でかつ固液分離が容易な溶媒であるならば特に限定されない。凝集状態をほどくのに有機添加剤(分散剤)を使用してもよく、ポリエチレングリコール系分散剤、ポリアクリルエーテル系分散剤、リン酸系分散剤、スルホン酸系分散剤が例示されるが、熱処理によって容易に除去でき、更に残差も少ないポリエチレングリコール系またはポリアクリルエーテル系が好ましい。
【0043】
(ガーネット型複合酸化物粉末の場合)
得られた焼成原料を粉砕して焼結用原料粉末とする。粉砕方法は乾式、湿式のどちらでも選択できるが、目的のセラミックスが高度に透明になるように粉砕する必要がある。例えば湿式粉砕の場合、焼成原料をボールミル、ビーズミル、ホモジナイザー、ジェットミル、超音波照射等の各種粉砕(分散)方法によってスラリー化し一次粒子まで粉砕(分散)する。この湿式スラリーの分散媒としては最終的に得られるセラミックスの高度の透明化が可能であれば特に制限されず、例えば純水、炭素数1~4の低級アルコール等のアルコール類が挙げられる。またこの湿式スラリーはその後のセラミックス製造工程での品質安定性や歩留り向上の目的で、各種の有機添加剤が添加される場合がある。本発明においては、これらについても特に限定されない。即ち、各種の分散剤、結合剤、潤滑剤、可塑剤等が好適に利用できる。ただし、これらの有機添加剤としては、不要な金属イオンが含有されない、高純度のタイプを選定することが好ましい。
【0044】
[製造工程]
本発明では、上記焼結用原料粉末を含むスラリー用いて、所定形状に成形した後に脱脂を行い、次いで予備焼結を行って相対密度93%以上、平均焼結粒径5μm以下の複合酸化物からなる焼結体(予備焼結体)とし、次いで焼結体について加圧焼結し、更にこの加圧焼結体を上記加圧焼結を超える温度に加熱して再焼結し、必要に応じて再度加圧焼結し、更に再焼結体(又は再加圧焼結体)について所定の酸化アニール処理を行う。
【0045】
(成形)
上記のようにスラリー化したものについて固液分離を施し、所定の形状に成形する。成形方法としては、乾式成形と湿式成形に大別されるが、所定の形状が安定に得られるなら特に限定はされない。乾式成形の場合、スプレードライを用いてスラリーから顆粒を作り、冶具の中に顆粒を充填したのちにプレス成形を行う手法が例示される。また、湿式成形としては、スラリーを石膏型に流し込んで溶媒を揮発させる鋳込み成形法が例示される。ほかにも、押出成形法、シート成形法、遠心鋳込み成形法、冷間等方圧加圧法が例示されるが、どれも所定の形状が得られるので限定はされない。
【0046】
成形を行う前に、スラリーにバインダーを添加してもよい。バインダーは成形体の保持力を高めることができ、クラックやワレを起こしにくくする効果がある。バインダーの種類は特に限定されないが、溶媒と相溶性があり、かつ熱処理によって残渣の残りにくいものが好ましく、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸が例示され、これらのうち2種類以上を共重合させたポリマーを使用してもよい。バインダーの量は成形方法又はバインダー種類によって異なるが、焼結用原料粉末に対して0.5質量%は最低限必要であり、上限は8質量%である。なお、バインダーの添加は湿式粉砕中が最も好ましい。
【0047】
なお、上記プレス成形としては、通常のプレス成形工程を好適に利用できる。即ち、ごく一般的な、型に充填して一定方向から加圧する一軸プレス工程や変形可能な防水容器に密閉収納して静水圧で加圧する冷間静水圧加圧(CIP(Cold Isostatic Pressing))工程や温間静水圧加圧(WIP(Warm Isostatic Pressing))工程が好適に利用できる。なお、印加圧力は得られる成形体の相対密度を確認しながら適宜調整すればよく、特に制限されないが、例えば市販のCIP装置やWIP装置で対応可能な300MPa以下程度の圧力範囲で管理すると製造コストが抑えられてよい。
【0048】
ただし、本発明においては異物、汚れなどの散乱源のサイズや量を規定の範囲内に管理するために、成形用治具、並びに成形機は十分に洗浄、乾燥された清浄な専用のものを使用し、かつ成形作業を行う環境はクラス1000以下のクリーン空間であることが好ましい。
【0049】
(脱脂)
成形体にはバインダーや分散剤といった有機添加剤が含まれているので、熱処理を施して有機物を分解する、脱脂という工程を行う。脱脂温度は有機添加剤が分解される温度以上であればよく、空気、酸素、水素等を含む雰囲気下、好ましくは大気下で270℃以上1,200℃以下であることが好ましい。270℃未満であると有機物が燃焼しきらず、カーボンとして残ってしまうおそれがある。一方、1,200℃超では成形体において緻密化が進みだしてしまい、後で行う焼結工程において焼結性が悪くなるので好ましくない。有機物の完全燃焼の確認は、脱脂後の成形体を熱重量・示唆熱分析(TG/DTA)により、有機物燃焼に伴う重量低下と発熱ピークがないことを確認すればよい。
【0050】
(焼結工程)
脱脂された成形体は、焼結工程によって透明となる。焼結工程は1回の焼結のみで透明化(つまり相対密度100%まで到達)させてもよく、あるいは1回目の焼結(予備焼結)で93%以上の相対密度とした後に、加圧焼結(熱間等方圧加圧法(HIP))により透明化させてもよいが、透明体を歩留まりよく製造するためには予備焼結後加圧焼結を用いた方が好ましい。
【0051】
(予備焼結)
本工程において相対密度93%以上に緻密化した好ましくは平均焼結粒径5μm以下の予備焼結体を作製する。この際、焼結粒径が所望の範囲内に収まるように温度と保持時間の条件を詰める必要がある。
【0052】
予備焼結-加圧焼結(HIP)の2段階で焼結体を透明化する場合、予備焼結後の密度は93%以上が好ましく、94%以上がより好ましく、95%以上が更に好ましい。相対密度93%未満では成形体内部と外部が気泡でつながっている状態(開気孔)であることが多く、そこに加圧焼結(HIP)を行っても透明化しにくいためである。相対密度の上限は加圧焼結によって気泡を除去できるのであれば特に限定されない。
【0053】
予備焼結後の予備焼結体の平均焼結粒径は5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、2.5μm以下が更に好ましい。該焼結粒の平均粒径は原料種、雰囲気、焼結温度、保持時間との兼ね合いで調整可能である。焼結粒径が5μmより大きいと続く加圧焼結(HIP)で塑性変形が起こりにくくなり、予備焼結体内に残留した気泡の除去が困難となるおそれがある。焼結粒径の下限値は93%以上の焼結密度が得られているのであれば特に限定されない。
【0054】
なお、焼結粒子の平均粒径(平均焼結粒径)は、対象焼結体の焼結粒子の粒径を金属顕微鏡で測定して求められるものであり、詳しくは以下のようにして求められる。
即ち、予備焼結体について金属顕微鏡を使用し、反射モードを用いて、50倍の対物レンズを使用して焼結体表面の反射像を撮影する。詳しくは、対物レンズの有効画像サイズを考慮して対象焼結体の光学有効面積の全領域を撮影し、その撮影した画像について解析処理を行う。このとき、まず各撮影像に対角線を描き、当該対角線が横切る焼結粒子の総数をカウントし、その上で対角線長をこのカウント総数で割った値をその画像中の焼結粒子の平均粒径と定義する。更に解析処理で読み取った各撮影画像の平均粒径を合算したうえで、撮影枚数で割った値を対象焼結体の平均焼結粒径とする(以下、実施例において同じ)。
【0055】
ここでは、一般的な焼結工程を好適に利用できる。即ち、抵抗加熱方式、誘導加熱方式等の加熱焼結工程を好適に利用できる。このときの雰囲気は特に制限されず、大気、不活性ガス、酸素ガス、水素ガス、ヘリウムガス等の各種雰囲気が好適に利用できるが、気泡を除去するという観点からより好ましくは減圧下(真空中)での焼結が利用できる。予備焼結の真空度は1×10-1Pa以下が好ましく、1×10-2Pa以下がより好ましく、1×10-3Pa以下が特に好ましい。
【0056】
本発明の予備焼結工程における焼結温度は、1,450~1,650℃が好ましく、1,500~1,600℃が特に好ましい。焼結温度がこの範囲にあると、異相析出並びに粒成長を抑制しつつ緻密化が促進されるため好ましい。本発明の予備焼結工程における焼結保持時間は数時間程度で十分だが、予備焼結体の相対密度は94%以上に緻密化させなければならない。
【0057】
(加圧焼結(熱間等方圧プレス(HIP)))
本発明の製造方法においては、予備焼結工程を経た後に予備焼結体を好ましくは圧力50MPa以上300MPa以下、温度1,000℃以上1,780℃以下で加圧焼結する(HIP処理を行う)工程を設ける。なお、このときの加圧ガス媒体種類は、アルゴン、窒素等の不活性ガス、又はAr-O2が好適に利用でき、アルゴンが最も好ましい。加圧ガス媒体により加圧する圧力は、50~300MPaが好ましく、100~200MPaがより好ましい。圧力50MPa未満では透明性改善効果が得られない可能性があり、300MPa超では圧力を増加させてもそれ以上の透明性改善が得られず、装置への負荷が過多となり装置を損傷するおそれがある。印加圧力は市販のHIP装置で処理できる196MPa以下であると簡便で好ましい。また、その際の処理温度(所定保持温度)は好ましくは1,000~1,780℃、より好ましくは1,100~1,700℃の範囲で設定され、予備焼結温度に対して±100℃以内の範囲であることが最も好ましい。熱処理温度が1,780℃より高い温度ではHIP処理中に粒成長が生じ気泡の除去が困難となるため好ましくない。また、熱処理温度が1,000℃未満では焼結体の透明性改善効果がほとんど得られないおそれがある。なお、熱処理温度の保持時間については特に制限されないが、あまり長時間保持すると酸素欠損の発生するリスクが増大するため好ましくない。典型的には1~3時間の範囲で好ましく設定される。なお、HIP処理するヒーター材、断熱材、処理容器は特に制限されないが、グラファイト、ないしはモリブデン、タングステン、白金(Pt)が好適に利用でき、処理容器として更に酸化イットリウム、酸化ガドリニウムも好適に利用できる。処理温度が1,500℃以上である場合にはヒーター材、断熱材としてグラファイトが好ましいが、この場合は処理容器としてグラファイト、モリブデン、タングステンのいずれかを選定し、更にその内側に二重容器として酸化イットリウム、酸化ガドリニウムのいずれかを選定したうえで、容器内に酸素放出材を充填しておくと、HIP処理中の酸素欠損発生量を極力少なく抑えられるため好ましい。
【0058】
(再焼結)
本発明の製造方法においては、加圧焼結(HIP)を終えた後に、加圧焼結体を上記加圧焼結を超える温度に加熱して再焼結して粒成長させて平均焼結粒径が10μm以上の再焼結体を得る。この際、最終的に得られる焼結粒径が所望の範囲内に収まるように温度と保持時間の条件を詰める必要がある。
【0059】
このときの雰囲気ガスの種類は特に制限はなく、空気、酸素、水素等が好適に利用できるが、減圧下(1×10-2Pa未満の真空下)で処理することがより好ましい。再焼結の温度は1,650℃以上1,800℃以下が好ましく、1,700℃以上1,800℃以下がより好ましい。1,650℃未満では粒成長が生じないため好ましくない。再焼結による焼結粒子の平均粒径は好ましくは10μm以上、より好ましくは15μ以上、更に好ましくは20μm以上であり、好ましくは40μm以下である。再焼結工程の保持時間は特に制限されないが5時間以上が好ましく、10時間以上がより好ましい。一般的に保持時間を延ばせば延ばすほど焼結体の粒成長が進む。再焼結工程の温度と保持時間は平均焼結粒径を確認して適宜調整してよい。
【0060】
なお、再焼結体における焼結粒子の平均粒径(平均焼結粒径)は、対象焼結体の焼結粒子の粒径を金属顕微鏡で測定して求められるものであり、詳しくは以下のようにして求められる。即ち、再焼結体について金属顕微鏡の透過モードを使用し、50倍の対物レンズを使用して両端面が研磨された焼結体サンプルの透過オープンニコル像を撮影する。詳しくは、対象焼結体の所定深度における光学有効領域を撮影し、その撮影像に対角線を描き、当該対角線が横切る焼結粒子の総数をカウントしその上で対角線長をこのカウント総数で割った値をその画像中の焼結粒子の平均焼結粒径と定義する。更に解析処理で読み取った各撮影画像の平均粒径を合算したうえで、撮影枚数で割った値を対象焼結体の平均焼結粒径とする(以下、再HIP体における平均焼結粒径についても同じであり、実施例においても同じ)。
【0061】
(再加圧焼結(再HIP))
上記再焼結体について酸化アニール処理の前に再度加圧焼結を行い、その後に酸化アニール処理を行ってもよい。即ち、上記のようにして得られた透明な焼結体の均一性を上げるため、上記加圧焼結(HIP)と同様の条件で再加圧焼結(再HIP処理)を施し、平均焼結粒径を40μm以下とすることが好ましい。平均焼結粒径が40μm超ではセラミックスの脱粒が起きやすくなるので好ましくない。そのため、上記の再焼結温度は狙った粒径となるように設定すればよく、同様に再加圧焼結(再HIP)温度も高度な透明体となる温度であればよい。なお、結晶粒(焼結粒)を大きくするのに、予備焼結でいきなり大きくすることは、前述の通りあまり好ましくなく、2段階で結晶粒を大きくすることが最も好ましい。
【0062】
(酸化アニール)
本発明において最重要工程となるのはこの酸化アニール処理である。これまでの処理を経た常磁性ガーネット型透明セラミックスは、酸素欠損及び/又はカチオン欠陥を含み着色している。そのため、この着色を抜くために酸化アニール処理を行う。
【0063】
ここで、酸化アニール処理が15体積%以上の酸素含有雰囲気下、1,300℃以上1,500℃以下の温度で、10時間以上加熱するものであり、15体積%以上の酸素含有雰囲気下、1,300℃以上1,500℃以下の温度で20時間以上加熱するものであることが好ましい。あるいは、15体積%以上の酸素含有雰囲気下、1,300℃以上1,400℃未満の温度で40時間以上加熱するものであってもよい。
【0064】
処理雰囲気の酸素含有量が15体積%未満であると、酸素欠損を回復させるのに十分な酸素量がなく、不適である。また、処理温度が1,300℃未満では酸素を焼結体(セラミックス)内部まで拡散させることができず不適である。一方、処理温度が1,500℃超では加圧焼結(HIP)で隠れた(潰された)気泡が再膨張し、光学的な散乱源となるため好ましくない。処理時間が10時間未満では、同様に酸素を焼結体(セラミックス)内部まで拡散させることができず不適である。また、処理時間の上限は特に限定されないが、いたずらに長すぎてもコストに合わなくなるので、着色が抜けきる時間に設定すればよい。なお、ここで処理する焼結体(セラミックス)は高出力レーザー加工機(ファイバーレーザー)のファラデー回転子用のサイズを前提としており、例えば直径4~10mmの円柱状、あるいは一辺が4~10mmの角柱状のものである。
【0065】
なお、酸素欠損量は一般的に透明焼結体の密度が真密度に対してほぼ同じであることを確認して見積もる手法があるが、本発明においてはその手法で酸素欠損量を見積もることは不適である。なぜなら、一般的に密度がほぼ同じというのは0.1%未満の差ということであるが、0.1%未満の中でも酸素欠損量に差が生じ、吸収が残存する場合がある。そのため、本発明では、得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスについて密度で酸素欠損量を見積もるのではなく、上述した透明焼結体における全光線透過率スペクトル形状、詳しくは波長900nm及びその長波長側の全光線透過率スペクトル形状で規定する。
【0066】
このように、上記成形体について所定条件で予備焼結-加圧焼結-再焼結、あるいは予備焼結-加圧焼結-再焼結-再加圧焼結の処理を施した後、酸化アニール処理すると、上記本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックス、特には24mmの光路長における全光線透過率スペクトルとして、波長900nmでの全光線透過率をa%とし、900nmより長波長側の任意の波長λでの全光線透過率をb%としたとき、少なくとも900nm<λ<1,100nmのとき、|a-b|≦0.1である常磁性ガーネット型透明セラミックスが得られる。
【0067】
(光学研磨)
本発明の製造方法においては、上記一連の製造工程を経た常磁性ガーネット型透明セラミックスについて、その形状が円柱状又は角柱状であることが好ましく、その光学的に利用する軸上にある両端面(光学端面)を光学研磨して仕上げることが好ましい。このときの光学面精度は測定波長λ=633nmの場合、λ/2以下が好ましく、λ/8以下が特に好ましい。そのためには、光学研磨工程の最終段階において必ずポリッシュ仕上げ処理を施すことが好ましい。また、その面精度(反射波面精度)はP-V値で0.16μm以下が好ましい。これにより、その光学的に利用する軸方向において無色透明の外観を呈する。
【0068】
なお、光学研磨された面に適宜反射防止膜(ARコート)を成膜することで光学損失を更に低減させることも可能である。この際、光学両端面上に汚れが残らないよう、反射防止膜処理を施す前に薬液処理を施す必要がある。薬液は酸、塩基、界面活性剤溶液、アセトン等の有機溶剤が例示され、光学両端面を侵食せずに、かつ汚れを充分に落とすことができれば特に限定されない。また、入念に光学面を清浄に拭き洗浄し、実体鏡や顕微鏡などで清浄度を検査する方法もある。拭き洗浄の場合では、当該拭き洗浄工程で光学面にキズをつけたり、汚れをこすり付けたりすることのないよう、取扱い治具は柔らかい材質でできているものを、拭くものは低発塵性のものを選定することが好ましい。
【0069】
[磁気光学デバイス]
更に、本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスは磁気光学材料として利用することを想定しているため、該常磁性ガーネット型透明セラミックスにその光学軸と平行に磁場を印加したうえで、偏光子、検光子とを互いにその光学軸が45度ずれるようにセットして磁気光学デバイスを構成するよう利用することが好ましい。即ち、本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、磁気光学デバイス用途に好適であり、特に波長0.9~1.1μmの光アイソレータのファラデー回転子として好適に使用される。
【0070】
図1は、本発明の磁気光学材料からなるファラデー回転子を光学素子として有する光学デバイスである光アイソレータの一例を示す断面模式図である。
図1において、光アイソレータ100は、本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスから構成されるファラデー回転子110を備え、該ファラデー回転子110の前後には、偏光材料である偏光子120及び検光子130が備えられている。また、光アイソレータ100は、偏光子120、ファラデー回転子110、検光子130の順序で配置され、それらの側面のうちの少なくとも1面に磁石140が載置されていることが好ましい。
【0071】
また、上記光アイソレータ100は産業用ファイバーレーザー装置に好適に利用できる。即ち、レーザー光源から発したレーザー光の反射光が光源に戻り、発振が不安定になるのを防止するのに好適である。
【実施例
【0072】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]
酸化テルビウム及び酸化イットリウム(純度99.999%、信越化学工業(株)製)、酸化アルミニウム(純度99.999%、日本軽金属(株)製)、及び酸化スカンジウム(純度99.9%、信越化学工業(株)製)を樹脂製のポットに入れ、エタノール(関東化学(株)製)、分散剤としてPEG200(関東化学(株)製)、バインダーとしてポリビニルアルコール(関東化学(株)製)、焼結助剤としてTEOS(SiO2換算で原料粉末全体(出発原料混合粉末と焼結助剤の合計)において1,000ppmとなる量)、粉砕メディアとしてアルミナボール(純度99.9%、(株)ニッカトー製)を更に投入し、封をしたうえでボールミル混合を行った。このときの回転速度は200rpmとなるように設定した。このとき、上記原料を用いて、表1に示す最終組成となるように混合比率を調整している。
ボールミル後、スプレードライ装置を用いてスラリーを顆粒化し、一軸プレス成形とそれに続くCIP成形を行い、相対密度54%の直径10mmφ×長さ40mmLの成形体を得た。成形体内部のバインダー等の有機物を除去する目的で、1,000℃で脱脂処理を施した。
続いて得られた脱脂成形体を真空焼結炉に仕込み、真空度1×10-3Pa、1,600℃、2時間の条件で予備焼結した。その際、平均焼結粒径は2μm程度であった。続いて透明度を上げるために、Ar加圧下198MPa、1,600℃、3時間の条件で加圧焼結(HIP)処理を施した。得られた透明な加圧焼結体について、真空度1×10-3Pa、1,700℃、2時間の条件で再焼結し、続いてAr加圧下198MPa、1,600℃、3時間の条件で再加圧焼結(再HIP)処理を施した。このとき、平均焼結粒径は20μmとなった。
次に、得られた透明体(再加圧焼結体)は酸素欠損等の吸収源を持っているため、大気雰囲気下、1,200~1,550℃、5~100時間の範囲で温度と時間を変化させて酸化アニール処理を施した。このとき、酸化アニール処理を施していない比較例1-4以外のサンプルにおいて、真密度と実測密度との差は0.1%未満であった。
このようにして得られた透明焼結体(酸化アニール処理体)を直径5mmφ×長さ24mmLとなるように研削し、研磨した。その両端面については光学面の面精度はλ/8(λ=633nm)以上となるように光学研磨を施した。なお、比較例1-4は酸化アニール処理を行わずに、再加圧焼結体のままこれらの加工を行った。そのため真密度と実測密度の差は0.2%であった。
【0074】
以上のようにして得られたサンプルについて以下の測定を行った。
<全光線透過率@900nm>
サンプルの波長900nmでの全光線透過率aを、JIS K7361-1:1997を参考に測定した。即ち、積分球に光を通過する入口開口と出口開口を設け、入口開口部にサンプルを設置する。出口開口部に反射板を取り付けることにより、試料から出射された光をすべて積分球で検知することが可能となり、この検知した出射光の強度とサンプルに入射する光強度の比から波長900nmでの全光線透過率aを測定した。装置は日本分光(株)製の分光光度計(型式V-700)を用い、付属されている積分球を使用して測定した。その際、照射する光のスポット径は3mmとなるようにピンホールを設けた。
また、同様にして、波長1,064nmでの全光線透過率、波長900nmから長波長側に波長λを1nm刻みで1,350nmまで変化させ、各波長における全光線透過率bを測定した。
【0075】
<吸収係数@1,064nm>
吸収係数は、下記の屈折率測定によって得られた波長1,064nmでの理論透過率と、上記全光線透過率測定で得られた波長1,064nmでの実測全光線透過率を用いて、上記式(2)を用いて算出した。なお、全光線透過率測定でS/N比が悪い場合、前後10nmの平均値でスムージングを行った(即ち、波長1,054~1,074nmの実測全光線透過率の平均値を採用した)。
(屈折率測定)
メトリコン製プリズムカプラー(Model2010/M)を用いて屈折率の波長依存性を測定した。測定対象物の屈折率と似た屈折率を持つプリズムを用い、光源は波長633nm、828nm、1,550nmのレーザーを用いた。得られた各波長の屈折率を用いてコーシーの分散公式から屈折率の波長依存性を求め、反射率の波長依存性を決定し、波長1,064nmでの理論透過率を算出した。
【0076】
<|a-b|>0.1となる最小波長λ1>
上記のようにして測定した波長900nmでの全光線透過率aと、900nmより長波長側の各波長での全光線透過率bの差の絶対値(|a-b|)を求め、900nmより長波長側において|a-b|>0.1となる最小波長λ1を求めた。
【0077】
<ベルデ定数>
上記光学研磨したサンプルについて中心波長が1,064nmとなるように設計された反射防止膜(ARコート)をコートした。
図1に示すように、反射防止膜をコートした各サンプルを外径32mm、内径6mm、長さ40mmのネオジム-鉄-ボロン磁石の中心に挿入し、その両端に偏光子を挿入した後、IPGフォトニクスジャパン(株)製ハイパワーレーザー(ビーム径1.6mm)を用いて、両端面から、波長1,064nmのハイパワーレーザー光線を入射して、ファラデー回転角θを決定した。ファラデー回転角θは出射側の偏光子を回転させた時に、最大の透過率を示す角度とした。以下の式に基づき、ベルデ定数を算出した。なお、サンプルに印加される磁界の大きさ(H)は、上記測定系の寸法、残留磁束密度(Br)及び保持力(Hc)からシミュレーションにより算出した値を用いた。
θ=V×H×L
(式中、θはファラデー回転角(rad)、Vはベルデ定数(rad/T・m)、Hは磁界の大きさ(T)、Lはファラデー回転子の長さ(この場合、0.024m)である。)
【0078】
<熱レンズによる焦点距離の変動率>
IPGフォトニクスジャパン(株)製CWレーザー(波長1,070nm、ビーム径1.6mm、出力上限100W)で100W出力のレーザー照射し、ビーム伝播アナライザ(コヒーレント社製mode master)を用いてそのレーザーの形状を評価した。即ち、100Wのレーザーを照射し、サンプルがない状態でのレーザー焦点位置をf0とし、そこに上記反射防止膜をコートしたサンプルを置いたときのレーザー焦点位置fとしたとき、|f0-f|/f0×100を熱レンズによる焦点距離の変動率(%)として求めた。
【0079】
以上の評価結果を表1に示す。なお、表1の組成における理論透過率は、84.70%であった。
【0080】
【表1】
【0081】
酸化アニール処理を1,300℃以上、10時間以上とした実施例サンプルは、波長1,064nmにおける吸収係数を抑えることができ、熱レンズによる焦点距離の変動率を10%以下に抑えられている。一方、比較例1-1のように酸化アニール処理の温度が低い、又は比較例1-3のように酸化アニール処理の時間が短いサンプルは、吸収係数が大きくなり、熱レンズによる焦点距離の変動率が10%を超えている。また、比較例1-2のように酸化アニール処理の温度が1,500℃超の場合は、熱レンズという観点からは問題ないが、気泡散乱が増大してしまい、レーザー品質が悪化することから不合格となった。また、酸化アニール処理未実施の比較例1-4は当然ながら着色が残っていて、吸収係数も大きく、100Wレーザー用磁気光学材料として使用できない。
以上の結果より、酸化アニール処理の温度及び時間を上記範囲とすることで、十分なアニール効果が期待でき、100W出力のレーザーに対応可能な磁気光学材料となることがわかる。なお、本実施例の組成におけるベルデ定数は36rad・T・mであった。
【0082】
[実施例2]
実施例1において、酸化アニール処理の雰囲気を大気から酸素又は窒素に変更し、酸化アニール処理の温度及び時間を変更し、それ以外は実施例1と同様に常磁性ガーネット型透明セラミックスのサンプルを作製し、実施例1と同様に評価した。
その結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
実施例2-1、2-2に示すように、大気雰囲気から酸素雰囲気に変更しても、100W出力のレーザーに対応可能な常磁性ガーネット型透明セラミックスを製造可能であることが分かった。一方、比較例2-1のように、酸化アニール処理の条件(この場合、処理時間)を範囲外とすると、吸収が残存するために100W出力のレーザーへの対応ができない。また、比較例2-2のように、酸素を含まない窒素雰囲気では、アニール処理を行っても酸素欠損を回復できないため、当然ながら吸収が多いという結果となった。
【0085】
[実施例3]
実施例2-2において組成を変更し、それ以外は実施例2-2と同様にして常磁性ガーネット型透明セラミックスのサンプルを作製し、実施例1と同様に評価した。
その結果を表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
実施例3-1~3-4のように組成を変更しても、所定条件の酸化アニール処理により、100W出力のレーザーに対応可能な常磁性ガーネット型透明セラミックスを得ることができた。なお、実施例3-4のようにScを多量に入れることで100W出力のレーザーに対応可能な透過率、吸収係数となっているが、Scはコスト高につながってしまい、好ましくない。本発明では最適な組成が存在し、式(1)で規定する範囲外では、おそらくカチオン欠陥に由来する吸収が抜けきらず、100W出力のレーザーへの対応不可となった。理論透過率は、実施例3-1で84.60%であり、その他の組成のもので84.70%であった。
【0088】
なお、これまで本発明を、上記実施形態をもって説明してきたが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0089】
100 光アイソレータ
110 ファラデー回転子
120 偏光子
130 検光子
140 磁石
図1