(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】鉄-クロム-コバルト系合金磁石およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240723BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20240723BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240723BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240723BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240723BHJP
B22F 10/36 20210101ALI20240723BHJP
B22F 10/38 20210101ALI20240723BHJP
H01F 1/047 20060101ALI20240723BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240723BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240723BHJP
C21D 6/00 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
C22C38/00 303C
C22C38/00 304
C22C30/00
B22F10/28
B22F3/00 F
B22F1/00 Y
B22F10/36
B22F10/38
H01F1/047
B33Y70/00
B33Y10/00
C21D6/00 B
(21)【出願番号】P 2022580679
(86)(22)【出願日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 JP2022005363
(87)【国際公開番号】W WO2022172995
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2021019881
(32)【優先日】2021-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】岡本 晋哉
(72)【発明者】
【氏名】大沼 篤彦
(72)【発明者】
【氏名】岡村 信之
(72)【発明者】
【氏名】桑原 孝介
(72)【発明者】
【氏名】足達 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正博
(72)【発明者】
【氏名】石井 崇博
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-094216(JP,A)
【文献】特開昭55-073854(JP,A)
【文献】特開2005-150355(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138191(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101298648(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 30/00,38/00
C21D 6/00
H01F 1/04
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00-12/90
C22C 1/04- 1/059
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄-クロム-コバルト系合金磁石であって、
チタンを含み、
質量比で17~45%Cr、3~35%Co、0.1~0.6%Ti、残部はFeおよび不可避不純物からなり、
断面における最大径3μm以上のTi濃化相の個数密度が10000μm
2当たり平均1.0個未満であり、
前記Ti濃化相は、Tiを含む析出物を含んだ相であり、前記鉄-クロムーコバルト系合金磁石を構成する母相よりもTiの濃度が高い相であり、
(BH)
max/(Br×H
cB)で表される角型比が0.72超であり、
断面における欠陥率が0.50%以下であることを特徴とする鉄-クロム-コバルト系合金磁石。
【請求項2】
Siをさらに含み、
前記Siの含有量が質量比で、0.6%以下である請求項1に記載の鉄-クロム-コバルト系合金磁石。
【請求項3】
前記欠陥率が0.05%以下である請求項2に記載の鉄-クロム-コバルト系合金磁石。
【請求項4】
前記角
型比が0.80以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の鉄-クロム-コバルト系合金磁石。
【請求項5】
最大エネルギー積が51.0kJ/m
3以上である請求項1~4のいずれか一項に記載の鉄-クロム-コバルト系合金磁石。
【請求項6】
請求項1~5に記載の鉄-クロム-コバルト系合金磁石を付加製造法で形成することを特徴とする鉄-クロム-コバルト系合金磁石の製造方法。
【請求項7】
前記付加製造法において照射する熱源のエネルギー密度が35J/mm
3以上である請求項6に記載の鉄-クロム-コバルト系合金磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性を向上することのできる鉄-クロム-コバルト系合金磁石およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁性材料は、硬質磁性材料と軟質磁性材料に区分される。そのうち、硬質磁性材料とは保磁力が大きく、外部磁場に対して減磁しにくい磁性材料を指し、代表的なものとして、フェライト磁石、NdFeB系磁石、SmCo系磁石、金属磁石などがある。中でも、金属磁石は焼結による製造方法を採用することにより、比較的小物や複雑な形状の量産に向いているという利点を有している。そのような利点を有する金属磁石の例としては、鉄、クロムおよびコバルトの3元素を主成分とした磁石(以下、鉄-クロム-コバルト系合金磁石と称す)や、鉄、アルミニウム、ニッケル、コバルトを主成分とした磁石(以下、アルニコ磁石と称す)がある。
【0003】
鉄-クロム-コバルト系合金磁石は、アルニコ磁石に比べ、高い磁束密度と最大エネルギー積を持つため、磁気性能に優れ、さらにコバルト含有量が少ないため、価格変動リスクを低減できる。また、鉄-クロム-コバルト系合金磁石は、アルニコ磁石と同様、残留磁束密度の温度係数が小さいため、温度安定性に優れるほか、原料にレアアースを使用していないため、調達安定性に優れ、製品適用し易いメリットがある。なお、鉄-クロム-コバルト系合金磁石は、ステッピングモーターやリレー、トルクリミッター、磁気センサー等に利用されている。
【0004】
特許文献1は、重量比で17~45%Cr、3~35%Coを含み、残部Feからなる鉄-クロム-コバルト系磁石合金において、0.1~5%のSiと0.01~5%のTiを複合的に添加含有せしめた鉄-クロム-コバルト系磁石合金を開示する。TiはNとの親和力が強いので、Tiを添加した特許文献1の鉄-クロム-コバルト系磁石合金においては、製造過程で外部から侵入してくるNはTiによって、TiNとしてマトリックス外に固定されるので磁気特性を劣化させずにNの影響を取り除くことができることから、Si単独添加では得られない良好な磁気特性を鋳造で与えることを可能にする、としている。
【0005】
特許文献2は、平均粒径が1.0~500μmの鉄-クロム-コバルト合金粉末を用い、放電プラズマ焼結法により鉄-クロム-コバルト永久磁石を得る技術を開示する。放電プラズマ焼結法は、原料粉末の圧紛体に交流パルス電流を印加して、粉末粒子間の空隙で起こる放電を利用して焼結を行う方法である。粉末粒子間の放電を利用することから、外部から高熱を加えることなく、金属、セラミックスの難焼結性材料を用いても、短時間で緻密な焼結体を得ることができる。放電プラズマ焼結法を鉄-クロム-コバルト合金粉末の焼結に用いることで、Tiが析出相中に濃縮される傾向が緩和されて母相中へのTi含有量が増加し、結晶構造が安定することで鉄-クロム-コバルト永久磁石の高磁気特性化が可能となる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭58-9827号
【文献】特開2005-150355号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、機器の小型化、高出力化、高精度化等の要求の高まりに伴い、鉄-クロム-コバルト永久磁石については、より高い磁気特性が求められるようになっている。特許文献1および特許文献2の何れの技術によって得られる鉄-クロム-コバルト永久磁石をもってしても、求められる磁気特性を十分に満足することは困難になりつつある。
【0008】
そこで、本発明は従来技術の問題を解決するものであり、磁気特性、特に最大エネルギー積の向上を図った鉄-クロム-コバルト系合金磁石、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の発明者は上記課題を解決し磁気特性を向上するためには、チタン炭化物および/またはチタン窒化物を含む析出相の生成を抑制するか、析出相の大きさを小さくして析出相の影響をできるだけ低減する必要があると考え鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0010】
本願第1の発明に係る鉄-クロム-コバルト系合金磁石は、鉄-クロム-コバルト系合金磁石であって、チタンを含み、断面における最大径3μm以上のTi濃化相の個数密度が10000μm2当たり平均1.0個未満であり、(BH)max/(Br×HcB)で表される角型比が0.72超であることを特徴とする。前記Ti濃化相は、Tiを含む析出物を含んだ相であり、前記鉄-クロム-コバルト系合金磁石を構成する母相よりもTiの濃度が高い相である。また、質量比で17~45%Cr、3~35%Co、0.1~0.6%Ti、残部はFeおよび不可避不純物からなる。また、さらにSiを含み、前記Siが質量比で0.6%以下であることが好ましい。
【0011】
第1の発明において、前記チタンの含有量が質量比で0.10~0.60%であることが好ましい。
【0012】
第1の発明において、断面における欠陥率が0.50%以下であることが好ましい。
【0013】
第1の発明において、前記欠陥率が0.05%以下であることが更に好ましい。
【0014】
第1の発明において、前記角型比が0.80以上であることが好ましい。
【0015】
第1の発明において、最大エネルギー積が51.0kJ/m3以上であることが好ましい。
【0016】
また、本願第2の発明に係る鉄-クロム-コバルト系合金磁石の製造方法は、前記鉄-クロム-コバルト系合金磁石を付加製造法で形成することを特徴とする。
【0017】
第2の発明において、付加製造する際に照射する熱源のエネルギー密度が35J/mm3以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、磁気特性、特に最大エネルギー積を向上することのできる鉄-クロム-コバルト系合金磁石、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1で欠陥率を測定した際に取得した画像(a)と、画像(a)の模式図(b)である。
【
図2】実施例1で得られた造形磁石および比較例1で得られた鋳造磁石のSEM像およびTiの分布を示すEDS面分析像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、母相を構成する組織の結晶粒界への粗大な析出物の形成を抑制することのできる磁石合金、およびその製造方法を提供することに関する。付加製造法(Additive Manufacturing)は原料粉末にレーザや電子ビーム等の高エネルギー密度の熱源を照射して高速溶融・急冷凝固させることを造形原理とする。本発明によれば、溶解・鋳造工程を経ることなく、付加製造法によって鉄-クロム-コバルト系合金粉末から直接、造形体を作製することにより、母相を構成する組織の結晶粒界への粗大な析出物の形成が抑制され、磁気特性の向上した鉄-クロム-コバルト系合金磁石、およびその製造方法を提供することができる。その結果、合金磁石の製造方法として付加製造法を採用することで、所望の部品形状に近いニアネットシェイプにすることができるだけでなく、最終的な仕上げ加工においても、粗大な析出物を起点とする割れや欠けの低減に寄与し得るため、磁石製品の歩留まりを向上することができるという効果も期待される。
【0021】
以下、本発明の実施形態を説明する。実施例における合金磁石の製造方法について、付加製造法の代表例としてパウダーベッド方式の積層造形法を用いる方法を例示するが、指向性エネルギー堆積方式等を用いても良く、本発明の合金磁石の製造方法は以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0022】
[原料粉末]
本発明の鉄-クロム-コバルト系合金磁石は、質量比で17~45%Cr、3~35%Co、残部はFeおよび不可避不純物からなる鉄-クロム-コバルト系合金磁石に対して、少なくともTiを添加せしめて、質量比で17~45%Cr、3~35%Co、0.1~0.6%Ti、残部はFeおよび不可避不純物からなる組成とすることが好ましい。更にTi以外の元素を複合的に含有することもできる。例えばTiとSiを複合添加して、質量比で17~45%Cr、3~35%Co、0.1~0.6%Ti、0.1~0.6%Si、残部はFeおよび不可避不純物からなる組成としても良い。目的とする組成の造形体が得られるように各元素の供給材料を所定量計量し混合してなる原材料をるつぼに装填し、高周波溶解し、るつぼ下のノズルから溶融した合金を落下させ、高圧アルゴンで噴霧してガスアトマイズ粉を作製する。このガスアトマイズ粉を分級して鉄-クロム-コバルト系合金粉末を得る。これを原料粉末とする。
【0023】
[造形体]
パウダーベッド方式の3次元積層造形機を用い、ベースプレート上に供給した原料粉末をレーザ照射により高速溶融・急冷凝固させて造形体を作製し、ベースプレートから切り離す。得られた造形体が本発明の鉄-クロム-コバルト系合金磁石である。積層造形条件は原料粉末の粒径や組成、造形体の大きさ・形状・特性、生産効率等を考慮して適宜定められるが、本発明の合金磁石については、次の範囲から選択することができる。積層造形する際の原料粉末層の一層厚さは20~80μmとすることが好ましい。レーザのビーム径は照射する原料粉末の位置で約0.1mmとすることが好ましい。レーザ出力は200~400Wとすることが好ましい。レーザ走査速度は500~2500mm/sとすることが好ましい。レーザ走査ピッチは0.05~0.15mmとすることが好ましい。原料粉末を高速溶融させるためにレーザ照射によって投入するエネルギーの密度(熱源のエネルギー密度:J/mm3)は35以上が好ましく、35以上、130以下の範囲がより好ましく、50以上、110以下の範囲が更に好ましく、60超、95以下の範囲が更に好ましい。エネルギー密度が小さ過ぎると、磁気特性、特に角型比の低下や欠陥率の上昇を来たし、鉄-クロム-コバルト系合金磁石として実用に供することが困難になる。エネルギー密度が大き過ぎるとレーザ照射位置を中心とする広範囲の原料粉末が溶融し、造形体の形状を維持することが困難になる。エネルギー密度E(J/mm3)はレーザ出力P(W)、レーザ走査速度v(mm/s)、レーザ走査ピッチa(mm)、原料粉末層の一層厚さd(mm)を用いて式(1)から求めた。
【0024】
【0025】
[熱処理]
造形後には、造形体の溶体化処理、磁場中での熱処理、時効処理を行う。具体的には、溶体化処理では700~1000℃、1~1.5時間で組織をα相とし、磁場中での熱処理は150~300kA/mの磁界中、600~700℃、1~5時間とし、時効処理では600~700℃、0.5~3時間で組織をα1強磁性相とα2常磁性相とに相分離させる。その後、2~8℃/分程度で冷却を行う。
【0026】
上述の製造方法により本願第1の発明に係る鉄-クロム-コバルト系合金磁石であって、チタンを含み、断面における最大径3μm以上のTi濃化相の個数密度が10000μm2当たり平均1.0個未満であり、(BH)max/(Br×HcB)で表される角型比が0.72超である鉄-クロム-コバルト系合金磁石を製造することができる。最大径3μm以上のTi濃化相の個数密度が10000μm2当たり平均1.0個未満となる微細、均一な組織は、鉄-クロム-コバルト系合金磁石の残留磁束密度Brおよび最大エネルギー積(BH)max等の磁気特性の向上に寄与する。0.72超の高い角型比は(BH)maxを高めることに寄与する。本発明に係る鉄-クロム-コバルト系合金磁石において従来の鋳造で作製された鉄-クロム-コバルト系合金磁石と比較して微細かつ均一な組織が得られた理由としては、所定の粒径以下の合金粉末を使用し、かつ、急速に加熱、冷却することによって、Ti濃化相の粒成長が抑制されて微細に分散した組織が得られたことが考えられる。
【0027】
本発明において角型比は、(BH)max/(Br×HcB)により求めた数値である。一般に、Hk/HcJを求めるために測定するパラメータであるHkは、J(磁化の強さ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.9×Jr(Jrは残留磁化、Jr=Br)の値になる位置のH軸の読み値が用いられている。このHkを減磁曲線のHcJで除した値(Hk/HcJ)が角形比として定義される。しかし、鉄-クロム-コバルト系磁石合金については、HkがNd-Fe-B磁石やフェライト磁石に比べて低く、またHcJとHcBとがほぼ同値になることからJ-Hカーブの概念を持っておらず、角型性を表す指標として(BH)max/(Br×HcB)と定義された角型比がより適しているためである。
【実施例】
【0028】
[実施例1]
目的とする組成の造形体が得られるように各元素の供給材料を所定量計量し混合してなる原材料をるつぼに装填し、真空中で高周波溶解し、るつぼ下の直径5mmノズルから溶融した合金を落下させ、高圧アルゴンで噴霧してガスアトマイズ粉を作製した。このガスアトマイズ粉を分級して10~60μmの鉄-クロム-コバルト系合金粉末を得た。これを原料粉末とした。
【0029】
パウダーベッド方式の3次元積層造形機(EOS社製EOS-M290)を用い、S45C製ベースプレート上に供給した原料粉末をレーザ照射による高速溶融・急冷凝固させて、加工代除去後の寸法で幅10mm、長さ10mm、積層高さ10mmの造形体を作製した。積層造形条件は次の通りとした。
・原料粉末層の一層厚さ/40μm
・レーザビーム径/約0.1mm
・レーザ出力/200W
・レーザ走査速度/800mm/s
・走査ピッチ/0.09mm
・エネルギー密度/69.4J/mm3
【0030】
造形体の熱処理として、先ず、溶体化処理900℃、1.3時間、次いで、260kA/mの磁界中、620℃、2.5時間、更に、時効処理650℃、1.2時間を施した。その後、5℃/分程度で冷却した。かかる熱処理を経て、鉄-クロム-コバルト系合金磁石(積層造形磁石)を得た。
【0031】
[欠陥率]
熱処理後の造形体の幅中央で切断、研磨した後、その切断面の中央付近をマイクロスコープ(光学顕微鏡)で観察して析出物の欠陥率を測定した。具体的には、先ず、マイクロスコープの500倍のレンズを用い、切断面の中央付近を視野中心とする所定の範囲を9分割(3×3)し、それぞれの範囲を撮影した画像を1枚の画像として取得した。取得画像を
図1(a)に示す。画像における輝度の暗い点状の領域が空隙(欠陥)である。空隙を分かりやすくするために
図1(a)を模式化した図を
図1(b)に示す。9枚の画像全体の面積に占める輝度が暗い領域の面積の割合を欠陥率と定義し、算出したところ欠陥率0.01%であった。表1に積層造形条件とともに欠陥率を示す。
【0032】
[磁気特性]
造形体の磁気特性評価はB-Hトレーサーを用いて行った。各造形体のB-H曲線を求め、B-H曲線より、残留磁束密度Br1.39[T]、保磁力HcB48.7[kA/m]、最大エネルギー積(BH)max54.4[kJ/m3]、角型比0.80であった。この磁気特性は、鋳造磁石のそれよりも極めて優れたものであった。なお、磁気特性評価には、欠陥率の画像解析に用いた試験片を使用した。表1に磁気特性を示す。
【0033】
[元素分析]
造形体の元素分析は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)に付随するエネルギー分散型X線分析分光法(EDS:Energy-Dispersive X-ray Spectroscopy)を用いて行った。分析に用いた試験片は、造形体の一部を小片に切断して樹脂に包埋したのち、包埋した造形体の切断面を鏡面まで研磨仕上げして作製した。分析は走査型電子顕微鏡における加速電圧を15kV、対物レンズから観察表面までの作動距離を10mmとし、観察倍率は1000倍で行った。分析元素は、Al、C、Co、Cr、Fe、Mn、N、O、Si、Tiの10種類とした。表2に元素分析の結果を示す。
【0034】
[SEM像、EDS面分析像(Ti)]
上記の走査型電子顕微鏡を用いて実施例1で得られた造形体(積層造形磁石)のSEM像およびTiの分布を示すEDS面分析像を同視野において取得した。用いた試験片は、造形体の一部を小片に切断して樹脂に包埋したのち、包埋した造形体の切断面を鏡面まで研磨仕上げして作製した。分析は走査型電子顕微鏡における加速電圧を10kV、対物レンズから観察表面までの作動距離を10mmとし、観察倍率は1000倍で行った。
【0035】
取得したSEM像およびEDS面分析像を
図2に示す。SEM像から、金属原料粉末をレーザ照射によって高速溶融・急冷凝固させてなる3次元積層造形体において、しばしばみられる柱状組織が観察された。EDS面分析像からTiが組織全体に亘って微細かつ均一に存在(分散)することを確認した。次いで、断面における最大径3μm以上のTi濃化相の個数を測定した。その結果、最大径3μm以上のTi濃化相は90μm×120μm(面積10800μm
2)の視野3箇所の測定において確認されず、Ti濃化相の個数密度は10000μm
2当たり平均0.0個であった。硬質で脆性的なTiを含有した最大径3μm以上の濃化相が形成されずに結晶粒中にTiが微細かつ均一に存在(分散)しており、また欠陥率が低いことから、鋳造磁石よりも極めて優れた磁気特性が得られることに加えて、加工時の割れや欠けが低減し、歩留まりの向上が見込まれる。
【0036】
[実施例2]
レーザ出力350W、レーザ走査速度1750mm/s、走査ピッチ0.11mm、エネルギー密度45.5J/mm3としたことを除いて実施例1と同様にして付加製造法(積層造形法)により鉄-クロム-コバルト系合金からなる造形体を作製し、熱処理して鉄-クロム-コバルト系硬質磁性材料からなる積層造形磁石(鉄-クロム-コバルト系合金磁石)を得た。この積層造形磁石について実施例1と同様に欠陥率の測定、磁気特性の評価、元素分析、およびSEM像・EDS面分析像取得を実施した。欠陥率は0.45%、であり、加工時の割れや欠けを低減できる水準を満たすことが期待されるものであった。
【0037】
磁気特性は、残留磁束密度1.37[T]、保磁力47.8[kA/m]、最大エネルギー積51.3[kJ/m3]、角型比0.78であった。この磁気特性は、鋳造磁石のそれよりも極めて優れたものであった。取得したSEM像から実施例1の合金磁石と同様の金属組織であることが確認できた。EDS面分析像からTiが組織全体に亘って微細かつ均一に存在(分散)することを確認した。
【0038】
次いで、断面における最大径3μm以上のTi濃化相の個数を測定した。その結果、最大径3μm以上のTi濃化相は90μm×120μm(面積10800μm2)の視野3箇所の測定において確認されず、Ti濃化相の個数密度は10000μm2当たり平均0.0個であった。硬質で脆性的なTiを含有した最大径3μm以上の濃化相が形成されずに結晶粒中にTiが微細かつ均一に存在(分散)しており、また欠陥率が低いことから、鋳造磁石よりも極めて優れた磁気特性が得られることに加えて、加工時の割れや欠けが低減し、歩留まりの向上が見込まれる。
【0039】
[実施例3]
レーザ出力350W、レーザ走査速度2000mm/s、走査ピッチ0.11mm、エネルギー密度39.8J/mm3としたことを除いて実施例1と同様にして付加製造法(積層造形法)により鉄-クロム-コバルト系合金からなる造形体を作製し、熱処理して鉄-クロム-コバルト系硬質磁性材料からなる積層造形磁石(鉄-クロム-コバルト系合金磁石)を得た。
【0040】
この積層造形磁石について実施例1と同様に欠陥率の測定、磁気特性の評価、元素分析、およびSEM像・EDS面分析像取得を実施した。欠陥率は0.82%、であった。磁気特性は、残留磁束密度1.35[T]、保磁力47.6[kA/m]、最大エネルギー積50.0[kJ/m3]、角型比0.78であった。この磁気特性は、鋳造磁石のそれよりも極めて優れたものであった。取得したSEM像から実施例1と同様の金属組織であることが確認できた。EDS面分析像からTiが組織全体に亘って微細かつ均一に存在(分散)することを確認した。
【0041】
次いで、断面における最大径3μm以上のTi濃化相の個数を測定した。その結果、最大径3μm以上のTi濃化相は90μm×120μm(面積10800μm2)の視野3箇所の測定において確認されず、Ti濃化相の個数密度は10000μm2当たり平均0.0個であった。Tiを含有した最大径3μm以上の濃化相が形成されずに結晶粒中にTiが微細かつ均一に存在(分散)しており、また欠陥率が低いことから、鋳造磁石よりも極めて優れた磁気特性が得られることに加えて、加工時の割れや欠けが低減し、歩留まりの向上が見込まれる。
【0042】
[実施例4]
レーザ出力350W、レーザ走査速度800mm/s、走査ピッチ0.11mm、エネルギー密度99.4J/mm3としたことを除いて実施例1と同様にして積層造形法により鉄-クロム-コバルト系合金からなる造形体を作製し、熱処理して鉄-クロム-コバルト系硬質磁性材料からなる積層造形磁石(鉄-クロム-コバルト系合金磁石)を得た。
【0043】
この積層造形磁石について実施例1と同様に欠陥率の測定、磁気特性の評価、元素分析、およびSEM像・EDS面分析像取得を実施した。欠陥率は0.02%であり、加工時の割れや欠けを低減できる水準を十分に満たすことができる。磁気特性は、残留磁束密度1.40[T]、保磁力48.5[kA/m]、最大エネルギー積54.1[kJ/m3]、角型比0.80であった。この磁気特性は、鋳造磁石のそれよりも極めて優れたものであった。取得したSEM像から実施例1と同様の金属組織であることが確認できた。EDS面分析像からTiが組織全体に亘って微細かつ均一に存在(分散)することを確認した。
【0044】
次いで、断面における最大径3μm以上のTi濃化相の個数を測定した。その結果、最大径3μm以上のTi濃化相は90μm×120μm(面積10800μm2)の視野3箇所の測定において確認されず、Ti濃化相の個数密度は10000μm2当たり平均0.0個であった。硬質で脆性的なTiを含有した最大径3μm以上の濃化相が形成されずに結晶粒中にTiが微細かつ均一に存在(分散)しており、また欠陥率が低いことから、鋳造磁石よりも極めて優れた磁気特性が得られることに加えて、加工時の割れや欠けが低減し、歩留まりの向上が見込まれる。
【0045】
[比較例1]
本比較例では、鋳造によって鉄-クロム-コバルト系合金からなる硬質磁性材料(鉄-クロム-コバルト系合金磁石)を作製した。具体的には、実施例1と同様に作製した原料粉末を溶解炉で溶解したのち、砂型に流し込んで作製した。冷却後、砂型から硬質磁性材料を取り出し、湯口部分の除去およびバリの除去が必要な状態であったため、それを目的とした粗加工を行った。その後、実施例1と同様の熱処理(溶体化処理、磁場中熱処理、時効処理)を行って、鉄-クロム-コバルト系硬質磁性材料からなる鋳造磁石(鉄-クロム-コバルト系合金磁石)を得た。
【0046】
この鋳造磁石について実施例1と同様に欠陥率の測定、磁気特性の評価、元素分析、およびSEM像・EDS面分析像取得を実施した。鋳造により作製した硬質磁性材料は、欠陥率0.66%であり、加工時の割れや欠けを低減できる水準を十分に満たすことができないおそれがあった。また、磁気特性は、残留磁束密度1.35[T]、保磁力49.5[kA/m]、最大エネルギー積47.8[kJ/m3]、角型比0.72であった。この磁気特性は鉄-クロム-コバルト系永久磁石として実用に供しうる水準を必ずしも十分に満たすものではなかった。
【0047】
取得したSEM像およびEDS面分析像を
図2に示す。SEM像から、結晶粒界に点々と析出物が認められるとともに、金属組織内には最大径約5μmの四角形に近い形状の析出物が観察された。これらの析出物はEDS面分析像から、Tiの偏在によって形成されたTi濃化相であることが確認された。Ti濃化相からはCやNも検出されていることから、Ti濃化相は主にTiC等のチタン炭化物やTiN等のチタン窒化物の形でチタンを含むことが確認された。
【0048】
次いで、EDS面分析像から断面における最大径3μm以上のTi濃化相の個数を測定した。その結果、最大径3μm以上のTi濃化相は90μm×120μm(面積10800μm2)の視野3箇所の測定において4個確認され、Ti濃化相の個数密度は10000μm2当たり平均1.23個であった。視野全体のTi濃化相を含む金属組織に存在するTi濃度は1.07mass%であり、Ti濃化相の中央(#001)におけるTi濃度は87.88mass%であり、Ti濃化相以外の母相の中央(#002)におけるTi濃度は0.14mass%であった。原材料中のTi濃度が0.55mass%であるのに対し視野全体の金属組織に存在するTi濃度が1.07%と高くなったのは、Ti濃化相が不均一に存在することによるものと考えられる。
【0049】
このような最大径の大きなTi濃化相が存在する金属組織を持つ鉄-クロム-コバルト系硬質磁性材料(鉄-クロム-コバルト系合金磁石)の場合、加工時に、欠陥を起点として割れや欠けが発生し易いため、磁石製品の製造に鋳造を用いた場合には歩留まりの向上を期待できない。
【0050】
[比較例2]
レーザ出力250W、レーザ走査速度1750mm/s、走査ピッチ0.11mm、エネルギー密度32.5J/mm3としたことを除いて実施例1と同様にして付加製造法(積層造形法)により鉄-クロム-コバルト系合金からなる造形体を作製し、熱処理して鉄-クロム-コバルト系硬質磁性材料からなる積層造形磁石(鉄-クロム-コバルト系合金磁石)を得た。この積層造形磁石について実施例1と同様に欠陥率の測定、磁気特性の評価、元素分析、およびSEM像・EDS面分析像取得を実施した。欠陥率は1.93%であり、加工時の割れや欠けを低減できる水準を十分に満たすことができないおそれがあった。
【0051】
また、磁気特性は、残留磁束密度1.25[T]、保磁力47.4[kA/m]、最大エネルギー積39.5[kJ/m3]、角型比0.67であった。この磁気特性は鉄-クロム-コバルト系合金磁石として実用に供するには必ずしも十分ではなかった。取得したSEM像から欠陥率を除き実施例1と同様の金属組織であることが確認できた。EDS面分析像からTiが組織全体に亘って微細かつ均一に存在(分散)することを確認した。次いで、断面における最大径3μm以上のTi濃化相の個数を測定した。その結果、最大径3μm以上のTi濃化相は90μm×120μm(面積10800μm2)の視野3箇所の測定において確認されず、Ti濃化相の個数密度は10000μm2当たり平均0.0個であった。
【0052】
【0053】