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特許7525023酸化膜の形成条件決定方法、酸化膜の形成方法、および、ウェーハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】酸化膜の形成条件決定方法、酸化膜の形成方法、および、ウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/31 20060101AFI20240723BHJP
   H01L 21/673 20060101ALI20240723BHJP
   C23C 16/52 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H01L21/31 B
H01L21/68 U
C23C16/52
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023141196
(22)【出願日】2023-08-31
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】川口 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】西山 隆司
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 康佑
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109423626(CN,A)
【文献】国際公開第2011/070741(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31
H01L 21/673
C23C 16/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜装置を用いてウェーハ上に酸化膜を形成する条件を決定する酸化膜の形成条件決定方法であって、
前記成膜装置は、前記ウェーハの外周部を支持する支持部材および前記支持部材を支持するトレイ本体を備える成膜用トレイを用い、前記成膜用トレイを加熱しつつ、前記ウェーハ上に原料ガスを供給することにより、前記ウェーハ上に前記酸化膜を形成するように構成され、
前記支持部材は、前記ウェーハが載置されるリング状の載置部と、前記載置部から下方に延びる脚部と、を備え、
前記トレイ本体は、前記支持部材を収容する円柱状の凹部と、前記凹部における底面の外縁に沿って形成された複数の溝部と、を備え、互いに隣り合う一対の前記溝部の間に位置する接触部により前記支持部材の前記脚部を支持するように構成され、
前記酸化膜の形成条件決定方法は、
第1の前記トレイ本体を用いて、第1の前記ウェーハ上に第1の前記酸化膜を形成する事前酸化膜形成工程と、
前記溝部および前記接触部のうち少なくとも1つの構成要件と、前記酸化膜の膜厚分布との相関関係を取得する相関関係取得工程と、
前記酸化膜の目標膜厚分布を取得する目標膜厚分布取得工程と、
前記第1の酸化膜の膜厚分布と前記相関関係とに基づいて、前記目標膜厚分布の前記酸化膜を形成可能な前記少なくとも1つの構成要件を、適用要件として決定するトレイ本体構成決定工程と、を備える、酸化膜の形成条件決定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化膜の形成条件決定方法において、
前記相関関係は、前記溝部における周方向の少なくとも一部の幅と、前記ウェーハの外周部における前記少なくとも一部に隣接する領域の前記酸化膜の厚さとが有する第1の相関関係を含む、酸化膜の形成条件決定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の酸化膜の形成条件決定方法において、
前記成膜装置は、それぞれ前記トレイ本体を備える複数の前記成膜用トレイを送り方向に並べて前記送り方向に搬送しつつ、各成膜用トレイに支持された前記ウェーハ上に前記酸化膜を形成するように構成され、
前記相関関係は、前記トレイ本体の前記送り方向に直交する搬送幅方向側の部位における前記接触部と前記脚部の接触面積と、前記ウェーハの外周部における前記搬送幅方向側の部位に隣接する領域の酸化膜の厚さとが有する第2の相関関係を含む、酸化膜の形成条件決定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の酸化膜の形成条件決定方法において、
前記第2の相関関係は、前記搬送幅方向側の部位における前記接触面積が大きいほど、前記搬送幅方向側の部位に隣接する領域の酸化膜が薄くなる関係である、酸化膜の形成条件決定方法。
【請求項5】
請求項1に記載の酸化膜の形成条件決定方法において、
前記成膜装置は、それぞれ前記トレイ本体を備える複数の前記成膜用トレイを送り方向に並べて前記送り方向に搬送しつつ、各成膜用トレイに支持された前記ウェーハ上に前記酸化膜を形成するように構成され、
前記相関関係は、前記トレイ本体の前記送り方向側および当該送り方向に対する反対方向側の部位における前記接触部と前記脚部の接触面積と、前記ウェーハの外周部における前記送り方向側および前記反対方向側の部位に隣接する領域の酸化膜の厚さとが有する第3の相関関係を含む、酸化膜の形成条件決定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の酸化膜の形成条件決定方法において、
前記第3の相関関係は、前記送り方向側および前記反対方向側の部位における前記接触面積が大きいほど、前記送り方向側および前記反対方向側の部位に隣接する領域の酸化膜が厚くなる関係である、酸化膜の形成条件決定方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の酸化膜の形成条件決定方法を行う工程と、
前記適用要件を満たす第2の前記トレイ本体を用いて、第2の前記ウェーハ上に第2の前記酸化膜を形成する成膜工程と、を備える、酸化膜の形成方法。
【請求項8】
請求項7に記載の酸化膜の形成方法において、
前記少なくとも1つ構成要件が互いに異なる複数種類の前記トレイ本体を準備するトレイ本体準備工程をさらに備え、
前記成膜工程は、前記複数種類の前記トレイ本体のそれぞれに対応する前記少なくとも1つ構成要件の中から前記第2のトレイ本体を選択し、当該第2のトレイ本体を用いて前記第2の酸化膜を形成する、酸化膜の形成方法。
【請求項9】
請求項7に記載の酸化膜の形成方法により前記第2のウェーハ上に前記酸化膜を形成する工程を備える、ウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化膜の形成条件決定方法、酸化膜の形成方法、および、ウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成膜用トレイを加熱しつつ、当該成膜用トレイに搭載されたウェーハ上に原料ガスを供給することにより、ウェーハに酸化膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の成膜用トレイは、ウェーハの外周部を支持する支持部材と、当該支持部材を支持するトレイ本体と、を備える。特許文献1には、支持部材とトレイ本体の接触面積を低減することにより、ウェーハ上の酸化膜の膜厚分布をより均一にできることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】再表2011/070741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、近年さらなる膜厚分布の均一化の要求に伴い、複数の成膜装置間での膜厚分布のばらつきが問題となってきた。
【0005】
本発明は、ウェーハ上に所望の膜厚分布を有する酸化膜を形成できる酸化膜の形成条件決定方法、酸化膜の形成方法、および、ウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の酸化膜の形成条件決定方法は、成膜装置を用いてウェーハ上に酸化膜を形成する条件を決定する酸化膜の形成条件決定方法であって、前記成膜装置は、前記ウェーハの外周部を支持する支持部材および前記支持部材を支持するトレイ本体を備える成膜用トレイを用い、前記成膜用トレイを加熱しつつ、前記ウェーハ上に原料ガスを供給することにより、前記ウェーハ上に前記酸化膜を形成するように構成され、前記支持部材は、前記ウェーハが載置されるリング状の載置部と、前記載置部から下方に延びる脚部と、を備え、前記トレイ本体は、前記支持部材を収容する円柱状の凹部と、前記凹部における底面の外縁に沿って形成された複数の溝部と、を備え、互いに隣り合う一対の前記溝部の間に位置する接触部により前記支持部材の前記脚部を支持するように構成され、前記酸化膜の形成条件決定方法は、第1の前記トレイ本体を用いて、第1の前記ウェーハ上に第1の前記酸化膜を形成する事前酸化膜形成工程と、前記溝部および前記接触部のうち少なくとも1つの構成要件と、前記酸化膜の膜厚分布との相関関係を取得する相関関係取得工程と、前記酸化膜の目標膜厚分布を取得する目標膜厚分布取得工程と、前記第1の酸化膜の膜厚分布と前記相関関係とに基づいて、前記目標膜厚分布の前記酸化膜を形成可能な前記少なくとも1つの構成要件を、適用要件として決定するトレイ本体構成決定工程と、を備える。
【0007】
本発明の酸化膜の形成条件決定方法において、前記相関関係は、前記溝部における周方向の少なくとも一部の幅と、前記ウェーハの外周部における前記少なくとも一部に隣接する領域の前記酸化膜の厚さとが有する第1の相関関係を含む、ことが好ましい。
【0008】
本発明の酸化膜の形成条件決定方法において、前記成膜装置は、それぞれ前記トレイ本体を備える複数の前記成膜用トレイを送り方向に並べて前記送り方向に搬送しつつ、各成膜用トレイに支持された前記ウェーハ上に前記酸化膜を形成するように構成され、前記相関関係は、前記トレイ本体の前記送り方向に直交する搬送幅方向側の部位における前記接触部と前記脚部の接触面積と、前記ウェーハの外周部における前記搬送幅方向側の部位に隣接する領域の酸化膜の厚さとが有する第2の相関関係を含む、ことが好ましい。
【0009】
本発明の酸化膜の形成条件決定方法において、前記第2の相関関係は、前記搬送幅方向側の部位における前記接触面積が大きいほど、前記搬送幅方向側の部位に隣接する領域の酸化膜が薄くなる関係である、ことが好ましい。
【0010】
本発明の酸化膜の形成条件決定方法において、前記成膜装置は、それぞれ前記トレイ本体を備える複数の前記成膜用トレイを送り方向に並べて前記送り方向に搬送しつつ、各成膜用トレイに支持された前記ウェーハ上に前記酸化膜を形成するように構成され、前記相関関係は、前記トレイ本体の前記送り方向側および当該送り方向に対する反対方向側の部位における前記接触部と前記脚部の接触面積と、前記ウェーハの外周部における前記送り方向側および前記反対方向側の部位に隣接する領域の酸化膜の厚さとが有する第3の相関関係を含む、ことが好ましい。
【0011】
本発明の酸化膜の形成条件決定方法において、前記第3の相関関係は、前記送り方向側および前記反対方向側の部位における前記接触面積が大きいほど、前記送り方向側および前記反対方向側の部位に隣接する領域の酸化膜が厚くなる関係である、ことが好ましい。
【0012】
本発明の酸化膜の形成方法は、上述の酸化膜の形成条件決定方法を行う工程と、前記適用要件を満たす第2の前記トレイ本体を用いて、第2の前記ウェーハ上に第2の前記酸化膜を形成する成膜工程と、を備える。
【0013】
本発明の酸化膜の形成方法において、前記少なくとも1つ構成要件が互いに異なる複数種類の前記トレイ本体を準備するトレイ本体準備工程をさらに備え、前記成膜工程は、前記複数種類の前記トレイ本体のそれぞれに対応する前記少なくとも1つ構成要件の中から前記第2のトレイ本体を選択し、当該第2のトレイ本体を用いて前記第2の酸化膜を形成する、ことが好ましい。
【0014】
本発明のウェーハの製造方法は、上述の酸化膜の形成方法により前記第2のウェーハ上に前記酸化膜を形成する工程を備える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の前提技術に係る成膜装置の構成を示す模式図である。
図2】前提技術および実験例1,2に係る成膜用トレイの構成を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のIIB-IIB線矢視図であり、(C)は(A)のIIC-IIC線矢視図である。
図3】実験例に係るトレイ本体を示す平面図であり(A)は実験例3のトレイ本体を示し、(B)は実験例4のトレイ本体を示す。
図4】トレイ本体の溝部および接触部の構成要件と酸化膜の膜厚分布との相関関係調査方法に用いる膜厚の評価領域を示す模式図であり、(A)は中央領域、(B)は外周領域、(C)は搬送幅方向領域、(D)は搬送方向領域を示す。
図5】本発明の実施形態に係るウェーハの製造方法を示すフローチャートである。
図6】前記実施形態に係る酸化膜形成工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[前提技術]
まず、本発明の実施形態について説明する前に、当該実施形態で用いられる成膜装置の構成について説明する。図1は、本発明の前提技術に係る成膜装置の構成を示す模式図である。
図1に示す成膜装置1は、ウェーハW上に酸化膜を形成する。成膜装置1は、複数の成膜用トレイ2と、循環部3と、成膜部4と、を備える。ウェーハWは、シリコン、ゲルマニウム、ヒ化ガリウム、リン化ガリウム、リン化インジウムなどの材料で構成されても良い。
【0017】
成膜用トレイ2は、ウェーハWを収容する。成膜用トレイ2の詳細な構成については後述する。
【0018】
循環部3は、予め決められた個数の成膜用トレイ2を成膜装置1内で循環させる。循環部3は、第1の昇降部31と、成膜搬送部32と、第2の昇降部33と、戻り搬送部34と、を備える。
【0019】
第1の昇降部31は、成膜用トレイ2が載置される第1のリフト311と、当該第1のリフト311を昇降させる第1の昇降駆動部312と、を備える。第1のリフト311が上昇位置に位置する状態において、成膜前のウェーハWが図示しない移載部により成膜用トレイ2内に移載され、当該成膜用トレイ2が成膜搬送部32に受け渡される。第1のリフト311から成膜搬送部32に成膜用トレイ2を受け渡す構造は、特に限定されず、周知の構造を適用できる。
【0020】
成膜搬送部32は、一対の搬送ローラ321と、当該一対の搬送ローラ321に架け渡された搬送ベルト322と、を備える。成膜搬送部32は、搬送ローラ321の回転により、搬送ベルト322を図1における時計回り方向に回転させることにより、複数の成膜用トレイ2を互いに接触させた状態で成膜部4へ搬送する。搬送ベルト322で成膜用トレイ2を搬送する構成としては、搬送ベルト322に設けられた突起をトレイ本体22の下面に設けられた嵌合溝に嵌合させて搬送する構成を例示できる。なお、成膜搬送部32が成膜用トレイ2を搬送する方向を、「送り方向」と言う場合がある。また、送り方向および鉛直方向に直交する方向を、「搬送幅方向」と言う場合がある。
【0021】
第2の昇降部33は、成膜用トレイ2が載置される第2のリフト331と、当該第2のリフト331を昇降させる第2の昇降駆動部332と、を備える。第2のリフト331が上昇位置に位置する状態において、成膜後のウェーハWが収容された成膜用トレイ2が搬送ローラ321から第2のリフト331に受け渡される。第2のリフト331が下降位置に位置する状態において、成膜後のウェーハWが収容された成膜用トレイ2が戻り搬送部34に受け渡される。搬送ローラ321から第2のリフト331に成膜用トレイ2を受け渡す構造、および、第2のリフト331から戻り搬送部34に成膜用トレイ2を受け渡す構造は、特に限定されず、周知の構造を適用できる。
【0022】
戻り搬送部34は、成膜後のウェーハWが収容された成膜用トレイ2を、送り方向とは反対方向に搬送する。戻り搬送部34により搬送された成膜用トレイ2は、下降位置に位置する第1のリフト311に受け渡される。戻り搬送部34から第1のリフト311に成膜用トレイ2を受け渡す構造は、特に限定されず、周知の構造を適用できる。なお、戻り搬送部34が成膜用トレイ2を搬送する方向を、「戻り方向」と言う場合がある。
【0023】
第1のリフト311は、下降位置において戻り搬送部34から成膜用トレイ2が受け渡されると上昇位置まで上昇する。第1のリフト311が上昇位置に位置する状態において、成膜後のウェーハWが移載部により成膜用トレイ2から図示しないウェーハ保管部に移載される。その後、上述したように、成膜前のウェーハWが図示しない移載部により成膜用トレイ2内に移載され、当該成膜用トレイ2が成膜搬送部32に受け渡される。
【0024】
成膜部4は、成膜搬送部32により搬送される成膜用トレイ2内のウェーハWに酸化膜を形成する。成膜部4は、予備加熱ヒータ41と、加熱ヒータ42と、原料ガス供給部43と、一対の遮断ガス供給部44と、一対の排気部45と、を備える。
【0025】
予備加熱ヒータ41および加熱ヒータ42は、例えば、搬送ベルト322より囲まれた空間内に配置されている。加熱ヒータ42は、予備加熱ヒータ41に対して送り方向側に配置されている。成膜用トレイ2内のウェーハWは、予備加熱ヒータ41により成膜温度よりも低い温度まで予備加熱された後、加熱ヒータ42により成膜温度まで加熱される。
【0026】
原料ガス供給部43は、加熱ヒータ42の上方に配置されている。原料ガス供給部43は、原料ガスG1を下方に向けて噴出し、ウェーハW上に供給する。加熱されたウェーハW上で反応することにより酸化膜が形成される。原料ガスとしては、モノシラン(SiH)と酸素(O)の混合ガス、または、テトラエトキシシラン(TEOS、化学式:Si(OC)とオゾン(O)の混合ガスを例示できる。
【0027】
一対の遮断ガス供給部44は、加熱ヒータ42の上方において、原料ガス供給部43に対する送り方向側および戻り方向側にそれぞれ配置されている。各遮断ガス供給部44は、遮断ガスG2を下方に向けて噴出し、原料ガスG1が成膜部4に対する送り方向側および戻り方向側に漏れることを抑制する。遮断ガスG2としては、窒素ガスを例示できる。
【0028】
一対の排気部45は、原料ガス供給部43と送り方向側の遮断ガス供給部44との間、および、原料ガス供給部43と戻り方向側の遮断ガス供給部44との間にそれぞれ配置されている。各排気部45は、遮断ガスG2および成膜に用いられなかった原料ガスG1を、原料ガス供給部43と成膜用トレイ2との間の空間から原料ガス供給部43の上方に排出する。
【0029】
次に、成膜用トレイ2の詳細な構成について説明する。図2は、成膜用トレイの構成を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のIIB-IIB線矢視図であり、(C)は(A)のIIC-IIC線矢視図である。
図2(A)~(C)に示すように、成膜用トレイ2は、支持部材21と、トレイ本体22と、を備える。支持部材21およびトレイ本体22は、例えばSiCにより形成されている。
【0030】
支持部材21は、ウェーハWの外周部を支持する。支持部材21は、載置部211と、脚部212と、を備える。
載置部211は、円環状に形成されている。載置部211には、ウェーハWが載置される。脚部212は、載置部211の外縁全体から下方に円筒状に延びるように形成されている。
【0031】
トレイ本体22は、直方体状に形成されている。図2(A)に示す平面視においてトレイ本体22における長方形の長辺に対応する側面は、図1に示すように、成膜装置1の成膜搬送部32により搬送される際に、隣接する成膜用トレイ2に対向する対向面22Aを構成し、短辺に対応する側面は、成膜装置1の成膜搬送部32により搬送される際に、隣接する成膜用トレイ2に対向しない非対向面22Bを構成する。
トレイ本体22の中央には、円柱状に凹む凹部221が形成されている。凹部221における底面には、当該底面の外縁に沿って複数の円弧状の溝部222が形成されている。互いに隣り合う一対の溝部222の間に位置する部位は、支持部材21の脚部212を支持する接触部223を構成する。
【0032】
[本発明を導くに至った経緯]
次に、本発明を導くに至った経緯について説明する。
上述の成膜用トレイ2が備えるトレイ本体22の溝部222および接触部223の構成要件と、ウェーハW上の酸化膜の膜厚分布との相関関係を調べる実験を行った。
図3は、実験例に係るトレイ本体を示す平面図であり(A)は実験例3のトレイ本体を示し、(B)は実験例4のトレイ本体を示す。図4は、トレイ本体の溝部および接触部の構成要件と酸化膜の膜厚分布との相関関係調査方法に用いる膜厚の評価領域を示す模式図であり、(A)は中央領域、(B)は外周領域、(C)は搬送幅方向領域、(D)は搬送方向領域を示す。
【0033】
<評価サンプルの作成方法>
まず、溝部222および接触部223のうち少なくとも1つの構成要件、例えば、個数、形状および位置が互いに異なる4種類のトレイ本体22を準備した。具体的に、以下に示す実験例1,2,3,4のトレイ本体23,24,25,26を準備した。なお、トレイ本体23,24,25,26における上記背景技術のトレイ本体22と同じ構成、または、互いに同じ構成については、同一名称および同一符号を付す。
【0034】
実験例1のトレイ本体23は、図2(A)~(C)に示す構成を有する。トレイ本体23の凹部221における底面には、同じ形状の6個の溝部232が形成されている。
各溝部232は、(周方向の)長さがL1になるように形成されている。各溝部232は、以下の表1に示すように、当該溝部232の幅をJ1、支持部材21の脚部212の幅(厚さ)をJ0とした場合、「J1:J0=4:1」の関係を満たすように形成されている。各溝部232は、同じ形状の6個の第1の接触部233が設けられるように、等間隔で形成されている。このように設けられた各第1の接触部233の(周方向の)長さは、表1に示すように、M1である。
【0035】
【表1】
【0036】
実験例2のトレイ本体24は、図2(A)~(C)に示す構成を有する。トレイ本体24の凹部221における底面には、同じ形状の6個の溝部242が形成されている。
各溝部242の長さは、実験例1の溝部232の長さと同じL1である。各溝部242は、表1に示すように、当該溝部242の幅をJ2とした場合、「J2:J0=6:1」の関係を満たすように形成されている。各溝部242は、各第1の接触部243の長さが実験例1の第1の接触部233の長さと同じM1になるように、等間隔で形成されている。
【0037】
実験例3のトレイ本体25は、図3(A)に示す構成を有する。トレイ本体25の凹部221における底面には、同じ形状の4個の溝部252が形成されている。
各溝部252の長さは、実験例1の溝部232の長さよりも長いL2である。各溝部252の幅は、実験例1の溝部232の幅と同じJ1である。各溝部252は、2個の第1の接触部233と、2個の第2の接触部254とが周方向に交互に並ぶように、形成されている。各第2の接触部254は、当該第2の接触部254の長さをM2とした場合、「M2:M1=52:1」の関係を満たすように形成されている。第2の接触部254の長さであるM2は、実験例1のトレイ本体23における互いに隣り合う2個の第1の接触部233の長さであるM1と、当該隣り合う2個の間の溝部232の長さであるL1とを加算した長さよりも短い。各溝部252は、凹部221における一対の非対向面22Bに最も近い部位に、各第1の接触部233の長さ方向の中心が位置し、凹部221における一対の対向面22Aに最も近い部位に、各第2の接触部254の長さ方向の中心が位置するように形成されている。つまり、各溝部252は、搬送幅方向両側にそれぞれ1個ずつの第1の接触部233が位置し、送り方向側および戻り方向側にそれぞれ1個ずつの第2の接触部254が位置するように形成されている。
【0038】
実験例4のトレイ本体26は、図3(B)に示す構成を有する。トレイ本体26の凹部221における底面には、同じ形状の2個の溝部262が形成されている。
各溝部262の長さは、実験例3の溝部252の長さよりも長いL3である。各溝部262の幅は、実験例1の溝部232の幅と同じJ1である。各溝部262は、2個の第2の接触部254が実験例3の第2の接触部254と同じ位置に位置するように形成されている。つまり、各溝部262は、送り方向側および戻り方向側にそれぞれ1個ずつの第2の接触部254が位置するように形成されている。
【0039】
また、直径が300mmのウェーハWを10枚準備した。
そして、実験例1のトレイ本体23を備える7個の成膜用トレイ2と、実験例2,3,4のトレイ本体24,25,26をそれぞれ備える1個ずつの成膜用トレイ2とを成膜装置1の循環部3に配置して、それぞれ1個ずつの実験例1,2,3,4のトレイ本体23,24,25,26を備える4個の成膜用トレイ2を用いて、それぞれ1枚ずつのウェーハW上に酸化膜を形成した。酸化膜の目標厚さは、350nmである。以下、実験例1,2,3,4のトレイ本体23,24,25,26を備える成膜用トレイ2で成膜が行われたウェーハWを、それぞれ実験例1,2,3,4のウェーハW1,W2,W3,W4と言う場合がある。
【0040】
<トレイ本体の溝部および接触部の構成要件と酸化膜の膜厚分布との相関関係調査方法>
(1.トレイ本体の溝部と酸化膜の膜厚分布との相関関係)
実験例1,2のウェーハW1,W2のそれぞれについて、酸化膜の膜厚分布を測定した。そして、各ウェーハW1,W2における、図4(A)の一番上の図に示す中央領域A1と図4(B)に示す外周領域A2における酸化膜の平均膜厚を算出した。中央領域A1は、ウェーハWの中心を中心とする直径が60mmの円形の領域である。外周領域A2は、ウェーハWの外縁から30mm以内の円環状の領域である。外周領域A2の幅は、実験例2の溝部242の幅であるJ2よりも大きい。
【0041】
次に、実験例1,2のウェーハW1,W2における第1の膜厚比率を、以下の式(1)に基づき算出した。
第1の膜厚比率=外周領域の平均膜厚/中央領域の平均膜厚 … (1)
そして、溝部の幅の影響を評価するための第1の影響評価値を、以下の式(2)に基づき算出した。
第1の影響評価値=実験例2のウェーハW2における第1の膜厚比率/
実験例1のウェーハW1における第1の膜厚比率 … (2)
式(1),(2)の算出結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示すように、第1の影響評価値は、1未満の値であった。
このことから、溝部222の幅と酸化膜の膜厚分布は、溝部222の幅が大きいほど、ウェーハWの外周部の酸化膜が中央部の酸化膜に対して薄くなる相関関係を有することが確認できた。
【0044】
本発明者は、このような相関関係を有する理由を以下のように推測した。
溝部222の幅が大きいほど、溝部222の内縁(平面視で凹部中心側の縁)から支持部材21の脚部212までの距離が長くなり、溝部222の内縁から脚部212を介してウェーハWの外周部に伝わる熱量が少なくなる。ウェーハWの外周部に伝わる熱量が少なくなると、当該外周部の温度が低くなり、当該外周部の酸化膜が薄くなると推定した。
また、上述のような推定結果から、溝部222の幅が小さいほど、ウェーハWの外周部の酸化膜が中央部の酸化膜に対して厚くなると考えられる。
また、溝部222の周方向の一部の幅を残部の幅よりも大きくまたは小さくすることにより、当該一部に隣接する部位の酸化膜を、残部の隣接する部位の酸化膜よりも薄くまたは厚くできると考えられる。
つまり、溝部222における周方向の少なくとも一部の幅と、ウェーハWの中央部の酸化膜の厚さに対する外周部における前記少なくとも一部に隣接する領域の酸化膜の厚さの比率とが、相関関係(以下、「第1の相関関係」と言う場合がある)を有することが確認できた。第1の相関関係は、溝部222における周方向の少なくとも一部の幅と、ウェーハWの外周部における前記少なくとも一部に隣接する領域の酸化膜の厚さとの相関関係と言うこともできる。
【0045】
(2.トレイ本体の搬送幅方向における接触部の有無と酸化膜の膜厚分布との相関関係)
実験例3,4のウェーハW3,W4のそれぞれについて、酸化膜の膜厚分布を測定した。そして、各ウェーハW3,W4における、中央領域A1と図4(C)に示す搬送幅方向領域A3における酸化膜の平均膜厚を算出した。搬送幅方向領域A3は、ウェーハWにおける搬送幅方向両端側の略半円状の領域である。搬送幅方向領域A3の周方向の長さは、60mmであり、実験例3の第1の接触部233の長さであるM1よりも大きい。搬送幅方向領域A3の径方向の長さは、30mmである。
【0046】
次に、実験例3,4のウェーハW3,W4における第2の膜厚比率を、以下の式(3)に基づき算出した。その算出結果を以下の表3に示す。
第2の膜厚比率=搬送幅方向領域の平均膜厚/中央領域の平均膜厚 … (3)
そして、搬送幅方向における接触部の有無の影響を評価するための第2の影響評価値を、以下の式(4)に基づき算出した。
第2の影響評価値=実験例3のウェーハW3における第2の膜厚比率/
実験例4のウェーハW4における第2の膜厚比率 … (4)
式(3),(4)の算出結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
表3に示すように、第2の影響評価値は、1未満の値であった。
このことから、搬送幅方向における接触部223の有無と酸化膜の膜厚分布は、トレイ本体22における搬送幅方向側の部位に接触部223を設ける方が設けない場合と比べて、ウェーハWの外周部における当該搬送幅方向側の部位に隣接する領域の酸化膜が中央部に対して薄くなる相関関係を有することが確認できた。なお、接触部223が設けられるトレイ本体22における搬送幅方向側の部位とは、図3(A)に示すように、凹部221の中心221Cを含み、かつ、搬送幅方向および鉛直方向に対して平行な基準線T1に対して対称な扇形であって、中心角θ1が60°の扇形の領域内の部位である。なお、通常、平面視において、凹部221の中心221Cは、支持部材21により支持されたウェーハWの中心Wcと重なる。
【0049】
本発明者は、このような相関関係を有する理由を以下のように推測した。
任意の成膜用トレイ2内のウェーハWに酸化膜の形成している間、当該成膜用トレイ2の送り方向側および戻り方向側(以下、送り方向側および戻り方向側をまとめて、「搬送方向両側」と言う場合がある。)に成膜用トレイ2が存在しているが、搬送幅方向両側に成膜用トレイ2が存在しないため、トレイ本体22における搬送幅方向両側の温度は、搬送方向両側と比べて低いと考えられる。このため、支持部材21の載置部211における搬送幅方向両側の熱が、脚部212および搬送幅方向両側の接触部223を伝ってトレイ本体22に奪われてしまい、ウェーハWにおける搬送幅方向両側の温度が低くなり、当該搬送幅方向両側の酸化膜が薄くなると推定した。
【0050】
また、上述のような推定結果から、トレイ本体22における搬送幅方向側の部位に接触部223を設けない方が設ける場合と比べて、ウェーハWの外周部における当該搬送幅方向側の部位に隣接する領域の酸化膜が中央部に対して厚くなると考えられる。
また、トレイ本体22における搬送幅方向側の部位に接触部223を設ける場合、トレイ本体22における搬送幅方向側の熱は、接触部223の長さが長い方が短い場合と比べて逃げやすいと考えられる。このことから、接触部223が長くなり、接触部223と脚部212の接触面積が大きくなるほど、ウェーハWの外周部における搬送幅方向側の部位に隣接する部位の酸化膜が中央部に対して薄くなると考えられる。
つまり、トレイ本体22の搬送幅方向側の部位における接触部223と脚部212の接触面積と、ウェーハWの中央部の酸化膜の厚さに対する外周部における前記搬送幅方向側の部位に隣接する領域の酸化膜の厚さの比率とが、相関関係(以下、「第2の相関関係」と言う場合がある)を有することが確認できた。第2の相関関係は、トレイ本体22の搬送幅方向側の部位における接触部223と脚部212の接触面積と、ウェーハWの外周部における前記搬送幅方向側の部位に隣接する領域の酸化膜の厚さとが有する相関関係と言うこともできる。
【0051】
(3.トレイ本体の搬送方向における接触部と脚部の接触面積と、酸化膜の膜厚分布との相関関係)
実験例1,3のウェーハWにおける、中央領域A1と図4(D)に示す2個の搬送方向領域A4における酸化膜の平均膜厚を算出した。搬送方向領域A4は、ウェーハWにおける搬送方向両側の略円弧状の領域である。搬送方向領域A4の周方向の長さは、220mmであり、実験例1の互いに隣り合う2個の接触部223を含む円弧状の領域の長さ、および、実験例3の1個の第2の接触部254の長さよりも長い。搬送方向領域A4の幅(径方向の長さ)は、30mmである。
【0052】
次に、実験例1,3のウェーハW1,W3における第3の膜厚比率を、以下の式(5)に基づき算出した。
第3の膜厚比率=搬送方向領域の平均膜厚/中央領域の平均膜厚 … (5)
そして、搬送方向における接触部と脚部の接触面積の影響を評価するための第3の影響評価値を、以下の式(6)に基づき算出した。
第3の影響評価値=実験例3のウェーハW3における第3の膜厚比率/
実験例1のウェーハW1における第3の膜厚比率 … (6)
式(5),(6)の算出結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
表4に示すように、第3の影響評価値は、1を超える値であった。ここで、成膜時に各搬送方向領域A4の径方向外側に隣接する実験例3の1個の第2の接触部254と脚部212の接触面積は、実験例1の2個の第1の接触部233と脚部212の接触面積の合計値よりも大きい。
このことから、搬送方向における接触部223と脚部212の接触面積と、酸化膜の膜厚分布は、トレイ本体22における搬送方向側の部位の接触面積が大きいほど、ウェーハWの外周部における当該搬送方向側の部位に隣接する領域の酸化膜が中央部に対して厚くなる相関関係を有することが確認できた。なお、接触部223が設けられるトレイ本体22における搬送方向側の部位とは、図3(B)に示すように、凹部221の中心221Cを含み、かつ、搬送方向および鉛直方向に対して平行な基準線T2に対して対称な扇形であって、中心角θ2が90°の扇形の領域内の部位である。また、搬送方向領域A4は、図3(B)に示す扇形の領域内の領域である。
【0055】
本発明者は、このような相関関係を有する理由を以下のように推測した。
上述したように、任意の成膜用トレイ2内のウェーハWに酸化膜の形成している間、当該成膜用トレイ2の搬送方向両側に成膜用トレイが存在しているが、搬送幅方向両側に成膜用トレイ2が存在しないため、トレイ本体22における搬送方向両側の温度は、搬送幅方向側と比べて高いと考えられる。このため、トレイ本体22における搬送方向両側の熱が、搬送方向両側の接触部223および脚部212を介して支持部材21の載置部211に伝わると考えられる。また、このように支持部材21の載置部211に伝わる熱量は、接触部223と脚部212の接触面積が大きいほど大きくなると考えられる。これらのことから、接触部223と脚部212の接触面積が大きいほど、ウェーハWにおける搬送方向両側の温度が高くなり、当該搬送方向両側の酸化膜が厚くなると推定した。
【0056】
また、上述のような推定結果から、トレイ本体22における搬送方向側の部位の接触部223と脚部212の接触面積が小さいほど、ウェーハWの外周部における当該搬送方向側の温度が低くなり、当該搬送方向側の酸化膜が中央部に対して薄くなると考えられる。
また、トレイ本体22における搬送方向側の部位に接触部223を設けない場合、トレイ本体22における搬送方向側の熱は、接触部223を設ける場合と比べて、支持部材21の載置部211に伝わらないと考えられる。このことから、トレイ本体22における搬送方向側の部位に接触部223を設けない場合、接触部223を設ける場合と比べて、ウェーハWの外周部における搬送方向側の部位に隣接する領域の酸化膜が中央部に対して薄くなると考えられる。
つまり、トレイ本体22の搬送方向側の部位における接触部223と脚部212の接触面積と、ウェーハWの中央部の酸化膜の厚さに対する外周部における前記搬送幅方向側の部位に隣接する領域の酸化膜の厚さの比率とが、相関関係(以下、「第3の相関関係」と言う場合がある)を有することが確認できた。第3の相関関係は、トレイ本体22の搬送方向側の部位における接触部223と脚部212の接触面積と、ウェーハWの外周部における前記搬送方向側の部位に隣接する領域の酸化膜の厚さとが有する相関関係と言うこともできる。
【0057】
<まとめ>
本発明者は、成膜用トレイ2が備えるトレイ本体22の溝部222および接触部223の構成要件と、ウェーハW上の酸化膜の膜厚分布とが、上述のような第1~第3の相関関係を有することを見出した。
そして、本発明者は、第1のトレイ本体22を用いて、所定の成膜装置1で第1のウェーハW上に第1の酸化膜を形成し、溝部222および接触部223のうち少なくとも1つの構成要件と、酸化膜の膜厚分布との相関関係を取得し、酸化膜の目標膜厚分布を取得し、第1の酸化膜の膜厚分布と前記相関関係とに基づいて、目標膜厚分布の酸化膜を形成可能な前記少なくとも1つの構成要件を、適用要件として決定し、当該適用要件を満たす第2のトレイ本体22を用いて、前記所定の成膜装置1で第2のウェーハW上に第2の酸化膜を形成することにより、ウェーハW上に所望の膜厚分布を有する酸化膜を形成できると言う知見を得て、本発明を完成させた。
【0058】
[実施形態]
<酸化膜の形成方法>
次に、本発明の一実施形態に係る酸化膜の形成方法について説明する。図5は、ウェーハの製造方法を示すフローチャートである。図6は、酸化膜形成工程を示すフローチャートである。
なお、本実施形態では、ウェーハの製造方法として、シリコンで構成された第2のウェーハとしての製品ウェーハWと、製品ウェーハWの表面に設けられたエピタキシャル層と、製品ウェーハWの表面に設けられた第2の酸化膜としての裏面酸化膜(LTO膜)と、を備えるエピタキシャルウェーハの製造方法について説明する。
【0059】
図5に示すように、ウェーハの製造方法は、引き上げ工程S1と、ブロック加工工程S2と、スライス工程S3と、前処理工程S4と、両面研磨工程S5と、酸化膜形成工程S6と、片面仕上げ工程S7と、第1の洗浄工程S8と、エピタキシャル層形成工程S9と、第2の洗浄工程S10と、を備える。
【0060】
引き上げ工程S1では、チョクラルスキー法を用いて、シリコン融液から円柱状のシリコン単結晶を引き上げる。
ブロック加工工程S2では、単結晶インゴットの外周研削を行い、結晶方位に応じてノッチ加工を行う。そして、例えばバンドソーにより、単結晶インゴットを複数のブロックに切断する。
スライス工程S3では、内周刃切断機やワイヤーソーにより、ブロックを例えば厚さ1mm程度の複数の製品ウェーハWにスライスする。
前処理工程S4では、面取り加工を行うとともに、製品ウェーハW両面が平行になるように、例えばアルミナ研磨材で粗研磨(ラッピング)を行う。そして、必要に応じてエッチングなどを施した後、製品ウェーハW表面の凹凸をなくす平坦化加工を行う。
両面研磨工程S5では、両面研磨装置を用いて、前処理が行われた製品ウェーハWに対して平坦度を高くする鏡面仕上げを行う。
【0061】
酸化膜形成工程S6は、本発明の酸化膜の形成方法に該当し、本発明の酸化膜の形成条件決定方法を含む。酸化膜形成工程S6では、製品ウェーハWの裏面に裏面酸化膜を形成する。
片面仕上げ工程S7では、酸化膜形成工程S6で得られた製品ウェーハWの表面(裏面酸化膜が形成されていない面)を研磨する。片面仕上げ工程S7により研磨加工を施すことで、製品ウェーハWの表面の傷およびダメージを除去すると同時に、表面の表面粗さを整えることができる。
第1の洗浄工程S8では、例えばアルカリ性溶液により、片面仕上げ工程S7で得られた製品ウェーハWを洗浄する。
エピタキシャル層形成工程S9では、製品ウェーハWの表面にエピタキシャル層を形成する。
第2の洗浄工程S10では、例えばアルカリ性溶液により、エピタキシャル層形成工程S9で得られたエピタキシャルウェーハを洗浄する。
【0062】
次に、酸化膜形成工程S6の詳細について説明する。
図6に示すように、酸化膜形成工程S6は、トレイ本体準備工程S61と、事前酸化膜形成工程S62と、相関関係取得工程S63と、目標膜厚分布取得工程S64と、トレイ本体構成決定工程S65と、成膜工程S66と、を備える。事前酸化膜形成工程S62、相関関係取得工程S63、目標膜厚分布取得工程S64およびトレイ本体構成決定工程S65は、酸化膜の形成条件決定方法を構成する。以下、各工程S61~S66について説明する。
【0063】
トレイ本体準備工程S61において、作業者は、上述した実験例1~4のトレイ本体23,24,25,26のように、溝部222および接触部223のうち少なくとも1つの構成要件(例えば、個数、形状および位置の組み合わせ)が互いに異なる複数種類のトレイ本体22を準備する。
【0064】
事前酸化膜形成工程S62において、所定の成膜装置1は、第1のトレイ本体22と支持部材21を備える第1の成膜用トレイ2を用いて、第1のウェーハとしてのテストウェーハW上に第1の酸化膜としてのテスト酸化膜を形成する。図示しない測定装置は、テスト酸化膜の膜厚分布を測定する。図示しないコンピュータは、例えば作業者による図示しない入力部の操作に基づいて、または、測定装置から、テスト酸化膜の膜厚分布を取得する。
第1のトレイ本体22における溝部222および接触部223の構成要件は、特に限定されないが、例えば上記実験例1のトレイ本体22の構成要件であっても良い。第1のトレイ本体22は、トレイ本体準備工程S61において準備された複数種類のトレイ本体22の中から選択されても良いし、トレイ本体準備工程S61において準備されたトレイ本体22とは異なる種類のトレイ本体22であっても良い。
【0065】
相関関係取得工程S63において、コンピュータは、例えば図示しない記憶部から、溝部222および接触部223のうち少なくとも1つの構成要件と、酸化膜の膜厚分布との相関関係を取得する。
相関関係は、上述した第1~第3の相関関係のうち少なくとも1つの相関関係を含む。当該相関関係は、実験により求められても良いし、シミュレーションにより求められても良い。
【0066】
目標膜厚分布取得工程S64において、コンピュータは、例えば作業者による入力部の操作に基づいて、酸化膜の目標膜厚分布を取得する。
【0067】
トレイ本体構成決定工程S65において、コンピュータは、テスト酸化膜の膜厚分布と相関関係とに基づいて、目標膜厚分布の酸化膜を形成可能な溝部222および接触部223のうち少なくとも1つの構成要件を、適用要件として決定する。
例えば、上記式(1)に基づく第1の膜厚比率が所定値になるような膜厚分布が目標膜厚分布であり、かつ、テスト酸化膜における第1の膜厚比率が前記所定値よりも大きい場合、第1の相関関係に基づいて、溝部222の幅を第1のトレイ本体22の溝部222よりも大きくすることを、目標膜厚分布の酸化膜を形成可能な溝部222の適用要件として決定する。
また、外周部の目標膜厚分布が均一の膜厚分布であり、かつ、テスト酸化膜の外周部における搬送幅方向側の領域の厚さが外周部の他の領域よりも厚い場合、第2の相関関係に基づいて、搬送幅方向側の部位に設けられる接触部223を、第1のトレイ本体22の接触部223よりも長くして、脚部212との接触面積を大きくすることを、目標膜厚分布の酸化膜を形成可能な接触部223の適用要件として決定する。
また、外周部の目標膜厚分布が均一の膜厚分布であり、かつ、テスト酸化膜の外周部における搬送方向側の領域の厚さが外周部の他の領域よりも薄い場合、第3の相関関係に基づいて、搬送方向側の部位に設けられる接触部223と脚部212の接触面積を、第1のトレイ本体22における前記接触面積よりも大きくすることを、目標膜厚分布の酸化膜を形成可能な接触部223の適用要件として決定する。接触面積を大きくする方法として、接触部223の長さを長くすること、および、接触部223の個数を増やすことのうち少なくとも一方を適用できる。
【0068】
成膜工程S66において、作業者は、トレイ本体準備工程S61において準備された複数種類のトレイ本体22の中から、適用要件を満たす第2のトレイ本体22を選択する。作業者は、複数種類のトレイ本体22の中に適用要件を満たすトレイ本体22が存在しない場合、適用要件に最も近い構成要件を有するトレイ本体22を第2のトレイ本体22を選択する。なお、適用要件に最も近い構成要件を有するトレイ本体22を選択することは、本発明における適用要件を満たす第2のトレイ本体22を選択することに該当する。
前記所定の成膜装置1は、作業者により選択された第2のトレイ本体22を用いて、製品ウェーハWの裏面に裏面酸化膜を形成する。
【0069】
<実施形態の効果>
酸化膜の形成方法は、上述の事前酸化膜形成工程S62、相関関係取得工程S63、目標膜厚分布取得工程S64、トレイ本体構成決定工程S65および成膜工程S66を備える。
このように、溝部222および接触部223のうち少なくとも1つの構成要件と酸化膜の膜厚分布との相関関係、および、テスト酸化膜の膜厚分布に基づいて、目標膜厚分布の酸化膜を形成可能な前記少なくとも1つの構成要件を適用要件として決定し、当該適用要件を満たす第2のトレイ本体22を用いて、製品ウェーハ上に裏面酸化膜を形成することにより、ウェーハW上に所望の膜厚分布を有する酸化膜を形成できる。
また、酸化膜の形成方法を行い、複数の成膜装置1のそれぞれの装置特性に応じた第2のトレイ本体22を用いることにより、複数の成膜装置1間における酸化膜の膜厚分布のばらつきを低減できる。
また、所望の膜厚分布を有する酸化膜を形成できるため、ウェーハWの歩留まりが向上し、エネルギー効率の改善、生産効率の向上および廃棄物の削減を実現することができる。
【0070】
相関関係取得工程S63において取得される相関関係は、溝部222における周方向の少なくとも一部の幅と、ウェーハWの外周部における前記少なくとも一部に隣接する領域の酸化膜の厚さとが有する第1の相関関係を含む。
このため、溝部222における周方向の少なくとも一部の幅が適切に設定された第2のトレイ本体22を用いることにより、所望の膜厚分布を有する酸化膜を形成できる。
【0071】
相関関係取得工程S63において取得される相関関係は、溝部222における周方向の少なくとも一部の幅と、ウェーハWの外周部における前記少なくとも一部に隣接する領域の酸化膜の厚さとが有する第1の相関関係を含むことが好ましい。
このため、溝部222における周方向の少なくとも一部の幅が適切に設定された第2のトレイ本体22を用いることにより、所望の膜厚分布を有する酸化膜を形成できる。
【0072】
相関関係取得工程S63において取得される相関関係は、トレイ本体22の搬送幅方向側の部位における接触部223と脚部212の接触面積と、ウェーハWの外周部における搬送幅方向側の部位に隣接する領域の酸化膜の厚さとが有する第2の相関関係を含む。
このため、トレイ本体22の搬送幅方向側の部位における接触部223と脚部212の接触面積が適切に設定された第2のトレイ本体22を用いることにより、所望の膜厚分布を有する酸化膜を形成できる。
【0073】
相関関係取得工程S63において取得される相関関係は、トレイ本体22の搬送方向側の部位における接触部223と脚部212の接触面積と、ウェーハWの外周部における搬送方向側の部位に隣接する領域の酸化膜の厚さとが有する第3の相関関係を含む。
このため、トレイ本体22の搬送方向側の部位における接触部223と脚部212の接触面積が適切に設定された第2のトレイ本体22を用いることにより、ウェーハW上に所望の膜厚分布を有する酸化膜を形成できる。
特に、相関関係取得工程S63において取得される相関関係が第1~第3の相関関係をすべて含めば、当該第1~第3の相関関係に基づき得られるトレイ本体22を用いることにより、膜厚分布をより細かく制御できる。
【0074】
酸化膜の形成方法は、トレイ本体準備工程S61を備える。
このため、成膜工程S66において、トレイ本体準備工程S61において準備された複数種類のトレイ本体22の中から、適用要件を満たす第2のトレイ本体22を選択するだけの簡単な方法で、所望の膜厚分布を有する酸化膜を形成できる。
【0075】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の種々の改良並びに設計の変更などがあっても本発明に含まれる。
【0076】
例えば、事前酸化膜形成工程S62の一部、相関関係取得工程S63、目標膜厚分布取得工程S64、トレイ本体構成決定工程S65は、作業者により行なわれても良い。具体的に、作業者は、測定装置により測定されたテスト酸化膜の膜厚分布を確認し(事前酸化膜形成工程S62)、コンピュータの表示部または紙などのシート状媒体に表示された相関関係を確認し(相関関係取得工程S63)、製品仕様などに基づき酸化膜の目標膜厚分布を確認し(目標膜厚分布取得工程S64)、トレイ本体構成決定工程S65を行っても良い。
【0077】
アタッチメントを凹部221に取り付けることにより、所定の構成要件を有する溝部222および接触部223を設けることが可能な構成とし、複数種類のアタッチメントから1種類のアタッチメントを選択することにより、適用要件を満たす第2のトレイ本体22を作成しても良い。
【0078】
平面視におけるトレイ本体22は、長辺が搬送方向に対して平行な長方形、正方形、四角形以外の多角形、円形または楕円形であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の酸化膜の形成条件決定方法、酸化膜の形成方法、および、ウェーハの製造方法によれば、所望の膜厚分布を有する酸化膜を形成できるため、ウェーハWの歩留まりが向上し、エネルギー効率の改善、生産効率の向上および廃棄物の削減を実現することができる。本発明に関する製品(LTO膜(裏面酸化膜)付きのエピタキシャルシリコンウェーハ)は、主にロジックデバイスに使用される。本発明により半導体デバイス高精度化に貢献することが可能になり、ひいては高度な工業製品の開発や改善に必要な基盤技術として、工業化において重要な役割を果たす。本発明に関する製品は、例えば、自動車や家電製品、医療機器などの制御システムに使用され、高品質・高信頼性の製品を実現することが可能になる。
【符号の説明】
【0080】
1…成膜装置、2…成膜用トレイ、21…支持部材、211…載置部、212…脚部、22,23,24,25,26…トレイ本体、221…凹部、222,232,242,252,262…溝部、223…接触部、233,243…第1の接触部、254…第2の接触部、G1…原料ガス、W…ウェーハ。
【要約】
【課題】ウェーハ上に所望の膜厚分布を有する酸化膜を形成できる酸化膜の形成条件決定方法を提供すること。
【解決手段】酸化膜の形成条件決定方法は、第1のトレイ本体を用いて、第1のウェーハ上に第1の酸化膜を形成する事前酸化膜形成工程と、トレイ本体の溝部および接触部のうち少なくとも1つの構成要件と、酸化膜の膜厚分布との相関関係を取得する相関関係取得工程と、前記酸化膜の目標膜厚分布を取得する目標膜厚分布取得工程と、前記第1の酸化膜の膜厚分布と前記相関関係とに基づいて、前記目標膜厚分布の前記酸化膜を形成可能な前記少なくとも1つの構成要件を、適用要件として決定するトレイ本体構成決定工程と、を備える。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6