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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/486 20060101AFI20240723BHJP
   C04B 35/488 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C04B35/486
C04B35/488 500
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023204273
(22)【出願日】2023-12-01
(62)【分割の表示】P 2023167797の分割
【原出願日】2023-09-28
(65)【公開番号】P2024052662
(43)【公開日】2024-04-11
【審査請求日】2023-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2022158849
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西山 聡
(72)【発明者】
【氏名】川村 謙太
(72)【発明者】
【氏名】永山 仁士
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105689(JP,A)
【文献】特開2016-030717(JP,A)
【文献】特開昭61-117155(JP,A)
【文献】特表2017-516741(JP,A)
【文献】特開2021-127285(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109400150(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109956747(CN,A)
【文献】特開2022-162546(JP,A)
【文献】特開2023-126191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/486
C04B 35/488
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化元素を含有するジルコニアを含み、前記安定化元素の含有量が3.0mol%未満であり、分散相を含み、前記分散相が少なくともマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、ネオジム及びサマリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素のヘキサアルミネートを含み、アルミニウム含有量が4.28質量%以上13.7質量%以下であり、XRDパターンにおいて2θ=34.0°±0.2°のピークを有し、ジルコニアの結晶粒子及び分散相の結晶粒子を含み、ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒子径が、分散相の結晶粒子の平均結晶粒子径より小さい焼結体。
【請求項2】
前記安定化元素がイットリウム、ガドリニウム、イッテルビウム及びエルビウムより選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
XRDパターンにおける2θ=34.0°±0.2°のピークトップの強度に対する2θ=30.0°±0.2°の強度の比が10以上1000以下である、請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項4】
マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、ネオジム及びサマリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種と、アルミニウムを含む、請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項5】
ビッカース硬度が12.3GPa以下である、請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項6】
実測密度が5.4g/cm以上6.3g/cm以下である請求項1又は2に記載の焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼結体に関し、特に、高い遮光性及び高い加工性を有し、主としてジルコニアからなる焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニアをマトリックスとする焼結体は、粉砕媒体や構造材料など強度を必要とする従来用途に加え、時計、携帯電子機器、自動車、家電等の装飾部品などの装飾用途への適用が検討されている。装飾用途へ適用される焼結体は、外的な衝撃による破壊を防ぐため、高強度・高靭性であることが求められる。これまで、信頼性の高い材料として、高強度及び高靭性を備える種々の焼結体が報告されている。
【0003】
特許文献1では、79.8~92mol%のZrO及び4.5~10.2mol%のYと、3.5~7.5mol%のNb又は5.5~10.0mol%のTaと、を含む正方晶ジルコニア複合粉末と、前記ジルコニア複合粉末に対する質量比が0質量%超過2.5質量%以下であるTiOナノ粉末と、を含むように形成された焼結体、が報告されている。当該焼結体は、高強度と高靭性を維持しながらも、ジルコニアの硬度を下げることが可能となるため、加工性に優れたジルコニアを提供することができると報告されている。特許文献1のジルコニア焼結体は透光性を有する透光性ジルコニア焼結体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-127294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、外装部材としての意匠性の観点から、ジルコニア焼結体には遮光性が望まれている。一般に、常圧常温焼結プロセスにおいてジルコニア焼結体にアルミナを添加することで遮光性が得られることが知られている。しかしながら、含まれるアルミナの添加量が増加するにつれ、ジルコニア焼結体の硬度が高くなり、加工性が悪化する。
【0006】
本開示は、加工性と遮光性を両立したジルコニアの焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は特許請求の範囲のとおりであり、また、本開示の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 安定化元素を含有するジルコニアを含み、前記安定化元素の含有量が3.0mol%未満であり、XRDパターンにおいて2θ=34.0°±0.2°のピークを有する焼結体。
〔2〕 前記安定化元素がイットリウム、ガドリニウム、イッテルビウム及びエルビウムより選ばれる少なくとも1種を含む〔1〕に記載の焼結体。
〔3〕 前記安定化元素がイットリウムと、ガドリニウム、イッテルビウム及びエルビウムより選ばれる少なくとも1種と、を含む〔1〕又は〔2〕に記載の焼結体。
〔4〕 XRDパターンにおける2θ=34.0°±0.2°のピークトップの強度に対する2θ=30.0°±0.2°の強度の比が10以上1000以下である〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の焼結体。
〔5〕 マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、ネオジム及びサマリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種と、アルミニウムと、を含む〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の焼結体。
〔6〕 ビッカース硬度が12.3GPa以下である〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載の焼結体。
〔7〕 全光線透過率が20%以下である〔1〕乃至〔6〕のいずれかに記載の焼結体。
〔8〕 実測密度が5.4g/cm以上6.3g/cm以下である〔1〕乃至〔7〕のいずれかに記載の焼結体。
〔9〕 ジルコニアの結晶粒子及び分散相の結晶粒子を含み、ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒子径が、分散相の結晶粒子の平均結晶粒子径より小さい、〔1〕乃至〔8〕のいずれかに記載の焼結体。
〔10〕 分散相の結晶粒子を含み、分散相の結晶粒子の平均アスペクト比が1.5以上3.5以下である、〔1〕乃至〔9〕のいずれかに記載の焼結体。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の焼結体について、実施形態の一例を示して説明する。なお、本明細書で開示した各構成及びパラメータは任意の組合せとすることができ、また、本明細書で開示した値の上限及び下限は任意の組合せとすることができる。
【0009】
本実施形態の焼結体は、安定化元素を含有するジルコニアを含み、前記安定化元素の含有量が3.0mol%未満であり、XRDパターンにおいて2θ=34.0°±0.2°のピークを有する焼結体、である。
【0010】
本実施形態の焼結体に含まれるジルコニアは安定化元素を含有する。すなわち、安定化元素を0mol%超含む。安定化元素は、ジルコニアを安定化させる元素であり、例えば希土類元素を挙げることができる。本実施形態の焼結体に含まれるジルコニアは、安定化元素として、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、イッテルビウム(Yb)及びエルビウム(Er)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、イットリウム、ガドリニウム及びイッテルビウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、イットリウム及びガドリニウムを含むことが更に好ましい。焼結体の強度が高い点で、希土類元素はイットリウムを含むことが好ましい。少ない安定化元素量で焼結しやすい点で、希土類元素は、ガドリニウムを含むことが好ましい。焼結体の水熱劣化耐性が高くなりやすいため、希土類元素はイッテルビウムを含むことが好ましい。本実施形態の焼結体に含まれるジルコニアは、該希土類元素を2種類以上含んでいてもよい。本実施形態の焼結体に含まれるジルコニアは、イットリウムと、ガドリニウム(Gd)、イッテルビウム(Yb)及びエルビウム(Er)からなる群より選ばれる少なくとも1種と、を含むことが好ましく、例えば、本実施形態の焼結体に含まれるジルコニアは、イットリウム及びガドリニウムを含むことが好ましい。これにより、焼結体の強度が高く、なおかつ少ない安定化元素量で焼結しやすい焼結体が得られる。
【0011】
安定化元素の含有量(以下、「安定化元素量」ともいう。)は、ジルコニアが部分安定化される量であればよい。安定化元素量は、焼結体が含む1以上の安定化元素の合計の含有量であり、0mol%超であり、1.0mol%以上又は1.4mol%以上であることが挙げられ、また、3.0mol%未満であり、2.9mol%以下又は2.8mol%以下であることが挙げられ、更に、0mol%を超え3.0mol%未満であり、0mol%を超え2.9mol%以下であることが好ましく、1.4mol%以上2.8mol%以下であることがより好ましい。本実施形態において、安定化元素量は、ジルコニア及び酸化物換算した安定化元素の合計に対する、酸化物換算した安定化元素の合計の割合(mol%)である。例えば、イッテルビウム及びイットリウムを含有するジルコニアを含む焼結体(イッテルビウム及びイットリウム安定化ジルコニア焼結体)における安定化元素量は{(Yb+Y)/(Yb+Y+ZrO)}×100(mol%)として求めることができる。
【0012】
安定化元素の酸化物換算は、例えば、イットリウムがY、ガドリニウムがGd、イッテルビウムがYb、及びエルビウムがErとすればよい。
【0013】
本実施形態の焼結体は、上述の安定化元素量を満たしていれば、各安定化元素の含有量(以下、安定化元素がイッテルビウム等である場合の各安定化元素の含有量を、それぞれ、「イッテルビウム含有量」等ともいう。)は任意である。本実施形態の焼結体における各安定化元素の含有量として、イッテルビウム含有量、ガドリウニム含有量及びエルビウム含有量は、それぞれ、0mol%超、1.0mol%以上又は1.4mol%以上であり、また、3.0mol%未満又は2.0mol%以下であることが挙げられ、さらに、0mol%超3.0mol%未満、1.0mol%以上3.0mol%未満、又は1.4mol%以上2.0mol%以下であることが挙げられる。イットリウム含有量は、例えば、0.1mol%以上又は0.2mol%以上であり、3.0mol%未満又は2.0mol%以下であることが挙げられ、さらに、0.1mol%以上3.0mol%未満、又は0.2mol%以上2.0mol%以下であることが挙げられる。
【0014】
本実施形態における各安定化元素の含有量は、ジルコニア及び酸化物換算した安定化元素量の合計に対する、酸化物換算した各安定化元素の割合(mol%)である。
【0015】
本実施形態の焼結体は、着色成分を含んでいてもよい。これにより、焼結体がジルコニア本来の色調とは異なる色調を呈する。本実施形態の焼結体に含まれる着色成分は、希土類元素以外でジルコニアを着色する機能を有する元素であり、例えば、金属元素、更には遷移金属元素であることが好ましい。具体的な着色成分として、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)及び亜鉛(Zn)、の群から選ばれる1種以上であることがより好ましく、鉄、コバルト及び亜鉛の群から選ばれる1以上であることがさらに好ましい。
【0016】
本実施形態の焼結体に含まれる着色成分の形態は任意であるが、着色成分は、ペロブスカイト構造又はスピネル構造を有する金属酸化物として含まれていることが好ましく、ペロブスカイト構造又はスピネル構造を有する遷移金属酸化物として含まれていることがより好ましい。
【0017】
ペロブスカイト構造を有する金属酸化物は、ABOで表され、なおかつ、Aが、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及びビスマス(Bi)の群から選ばれる1以上であり、Bがバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及びアルミニウム(Al)の群から選ばれる1以上である酸化物が挙げられる。
【0018】
スピネル構造を有する金属酸化物は、ABで表され、なおかつ、A及びBが、それぞれ、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ビスマス、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及びアルミニウムの群から選ばれる1以上である酸化物が挙げられ、好ましくは、ABで表される酸化物が挙げられる。具体的なスピネル構造を有する金属酸化物として、CoAl、Fe及びMn(すなわち、Fe2+Fe3+ 及びMn2+Mn3+ )の群から選ばれる少なくともいずれか、好ましくはCoAl及びMnの少なくともいずれかが例示できる。
【0019】
本実施形態の焼結体は、焼結性が良くなる観点から、着色成分の含有量が少ないほど好ましい。着色成分の含有量は0質量%を超え、0.001質量%以上であることが好ましい。着色成分の含有量の上限として、例えば、5質量%以下、3.0質量%以下、3.0質量%未満、2.5質量%以下、2.0質量%以下、1.5質量%以下、1.0質量%以下又は0.7質量%以下であることが挙げられる。さらに、0質量%超5質量%以下、0質量%超3.0質量%以下、0質量%超2.5質量%以下、0.001質量%以上2.0質量%以下、0.001質量%以上1.5質量%以下、0.001質量%以上1.0質量%以下又は0.001質量%以上0.7質量%以下であることが挙げられる。着色成分の含有量は、酸化物換算した焼結体の質量に対する、酸化物換算した着色成分の合計質量の割合、として求めることができる。着色成分の酸化物換算は、例えば、コバルトはCo、鉄はFe、マンガンはMnO、亜鉛はZnOであればよい。
【0020】
本実施形態の焼結体は、分散相を含むことが好ましい。分散相を含むとは、少なくともマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、ネオジム及びサマリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素(以下、「ヘキサアルミネート原料金属元素」又は「分散相金属元素」ともいう。)のヘキサアルミネートを含むことをいい、分散相金属元素のアルミネートを含んでいてもよい。本実施形態の焼結体が分散相を有することで、全光線透過率が低下して遮光性が向上し、なおかつ、硬度が低下して加工性が向上する。
【0021】
以下、分散相金属元素のヘキサアルミネートを単に「ヘキサアルミネート」、分散相金属元素のアルミネートを単に「アルミネート」ともいう。
【0022】
本実施形態の焼結体は、分散相金属元素と、アルミニウム金属元素と、を含むことが好ましい。分散相金属元素の含有量は、少なくともヘキサアルミネートを得ることができる量であればよい。分散相金属元素の含有量(以下、分散相金属元素がマグネシウム等である場合の分散相金属元素の含有量を、それぞれ、「マグネシウム含有量」等ともいう。)は、例えば、0.001質量%以上又は0.005質量%以上であり、また、15質量%以下又は10質量%以下、さらに、0.001質量%以上15質量%以下又は0.005質量%以上10質量%以下であることが挙げられる。
【0023】
特に、マグネシウム含有量は、例えば、0.00618質量%以上又は0.0618質量%以上であり、また、1.85質量%以下又は1.24質量%以下、さらに、0.00618質量%以上1.85質量%以下又は0.0618質量%以上1.24質量%以下であることが挙げられ、カルシウム含有量は0.00840質量%以上又は0.0840質量%以上であり、また、2.52質量%以下又は1.68質量%以下、さらに、0.00840質量%以上2.52質量%以下又は0.0618質量%以上1.68質量%以下であることが挙げられ、ストロンチウム含有量は0.0145質量%以上又は0.145質量%以上であり、また、4.35質量%以下又は2.90質量%以下、さらに、0.0145質量%以上4.35質量%以下又は0.145質量%以上2.90質量%以下であることが挙げられ、バリウム含有量は0.0200質量%以上又は0.200質量%以上であり、また、6.00質量%以下又は4.00質量%以下、さらに、0.0200質量%以上6.00質量%以下又は0.200質量%以上4.00質量%以下であることが挙げられ、ランタン含有量は0.0255質量%以上又は0.255質量%以上であり、また、6.75質量%以下又は4.50質量%以下、さらに、0.0255質量%以上6.75質量%以下又は0.255質量%以上4.50質量%以下であることが挙げられ、ネオジム含有量は0.0231質量%以上又は0.231質量%以上であり、また、6.93質量%以下又は4.62質量%以下、さらに、0.0231質量%以上6.93質量%以下又は0.231質量%以上4.62質量%以下であることが挙げられ、サマリウム含有量は0.0237質量%以上又は0.237質量%以上であり、また、7.11質量%以下又は4.74質量%以下、さらに、0.0237質量%以上7.11質量%以下又は0.237質量%以上4.74質量%以下であることが挙げられる。
【0024】
分散相金属元素の含有量は、酸化物換算した焼結体の質量に対する、酸化物換算した分散相金属元素の合計質量の割合、として求めることができる。酸化物換算における分散相金属元素の酸化物は、マグネシウムはMgO、カルシウムはCaO、ストロンチウムはSrO、バリウムはBaO、ランタンLa、ネオジムがNd、サマリウムはSmとすればよい。
【0025】
アルミニウム含有量は、例えば0.0763質量%以上又は0.763質量%以上であり、また、28.1質量%以下又は18.8質量%以下、さらに、0.0763質量%以上28.1質量%以下又は0.763質量%以上18.8質量%以下であることが挙げられる。アルミニウム含有量は、酸化物換算した焼結体の質量に対する、酸化物換算したアルミニウムの合計質量の割合、として求めることができる。酸化物換算したアルミニウムは、Alとすればよい。
【0026】
本実施形態の焼結体は、分散相金属元素と、アルミニウム元素とを、少なくともヘキサアルミネートとして含むことが好ましい。ここで、アルミネートとはペロブスカイト構造を有し、立方晶系に属するアルミニウム含有化合物をいい、ヘキサアルミネートとは、層状構造を有し、六方晶系に属するアルミニウム含有化合物をいう。層状構造とは、β―アルミナ構造、マグネトプランバイト構造等が挙げられる。例えば、本実施形態の焼結体は、ヘキサアルミネートとして、MgAl1219、CaAl1219、SrAl1219、BaAl1219、LaAl1118、NdAl1118及びSmAl1118の群より選ばれる少なくとも1種を含むことが挙げられ、MgAl1219、CaAl1219、SrAl1219、BaAl1219、LaAl1118の群より選ばれる少なくとも1種、CaAl1219、SrAl1219、LaAl1118の群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
本実施形態の焼結体は、ヘキサアルミネートに加え、分散相金属元素と、アルミニウム元素とをヘキサアルミネート以外の化合物、として含んでいてもよい。ヘキサアルミネート以外の化合物は、例えば、マグネシウムアルミネート、カルシウムアルミネート、ストロンチウムアルミネート、バリウムアルミネート、ランタンアルミネート、ネオジムアルミネート、サマリウムアルミネート等が挙げられる。
【0027】
本実施形態の焼結体に対するヘキサアルミネートの質量割合(以下、「ヘキサアルミネート含有量」ともいう。)は、1質量%以上であることが好ましい。ヘキサアルミネート含有量は、3質量%以上又は5質量%以上であることがより好ましい。また、ヘキサアルミネート含有量は、25質量%以下又は20質量%以下、さらに、3質量%以上25質量%以下又は5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0028】
本実施形態におけるヘキサアルミネートの質量割合は、酸化物換算した焼結体の質量に対する、ヘキサアルミネートの合計質量の割合である。分散相金属元素がマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、ネオジム及びサマリウムである場合、ヘキサアルミネートはMgAl1219、CaAl1219、SrAl1219、BaAl1219、LaAl1118、NdAl1118及びSmAl1118であるとして算出すればよい。
【0029】
本実施形態の焼結体は、安定化元素を含有するジルコニアを含み、安定化元素を含有するジルコニアをマトリックス(母材)とする焼結体、いわゆるジルコニア焼結体又は部分安定化ジルコニア焼結体、であることが好ましい。本実施形態の焼結体に占める安定化元素を含有するジルコニアの質量割合(以下、「ジルコニア含有量」ともいう。)は、65質量%以上、70質量%以上、75質量%を超え、80質量%以上又は95質量%以上であることが好ましい。ジルコニア含有量が65質量%以上であることで、3点曲げ強度や破壊靭性などの機械的強度が向上するほか、硬度が低下するため加工性が向上する。焼結体は、ジルコニア含有量が100質量%以下であり、安定化元素を含有するジルコニアのみからなる焼結体におけるジルコニア含有量は100質量%となる。ジルコニア含有量は、酸化物換算した焼結体の質量に対する、ジルコニア及び酸化物換算した安定化元素の合計質量の割合、として求めることができる。
【0030】
本実施形態の焼結体は、ハフニア(HfO)等の不可避不純物を含んでいてもよいが、安定化元素、ジルコニア、アルミナ、分散相、必要に応じて着色成分、及び不可避不純物以外は含まないことが好ましい。本実施形態において、焼結体の各成分の含有量等、組成に関連する値の算出は、ハフニアをジルコニア(ZrO)とみなして算出すればよい。
【0031】
例えば、本実施形態の焼結体が、着色成分として、それぞれ、ABO又はABで表される複合酸化物、ランタンヘキサアルミネート及びアルミナを含み、なおかつ、安定化元素としてガドリニウム及びイットリウムを含むジルコニアの焼結体である場合、各成分の含有量は以下のように求めればよい。以下の式において、HfOの質量はZrOの項に含まれているものとする。
【0032】
着色成分量[質量%]={(ABO+AB)/(Gd+Y+ZrO
+La+Al+ABO+AB)}×100
アルミニウム量[質量%]={Al/(Gd+Y+ZrO
+La+Al+ABO+AB)}×100
ランタン量[質量%]={La/(Gd+Y+ZrO
+La+Al+ABO+AB)}×100
安定化元素量[mol%]={(Gd+Y)/
(Gd+Y+ZrO)}×100
ガドリニウム量[mol%]={(Gd)/
(Gd+Y+ZrO)}×100
イットリウム量[mol%]={(Y)/
(Gd+Y+ZrO)}×100
本実施形態の焼結体は、XRDパターンにおいて2θ=34.0°±0.2°のピークを有する。XRDパターンは、一般的な結晶性解析X線回折装置(例えば、装置名:X‘pert PRO MPD、スペクトリス社製)により測定することができる。
【0033】
測定条件として、以下の条件が挙げられる。
【0034】
線源 :CuKα線(λ=1.5418Å)
管電圧 :40kV
管電流 :40mA
スキャン速度 :4°/分
ステップ幅 :0.02°
測定角度 :27~37°
上記測定条件にて測定した後に、X線解析ソフト『SmartLab Studio II』で解析することができる。
【0035】
解析条件(プロファイルフィッティング条件)として、以下の条件が挙げられる。
【0036】
ピーク形状:分割型擬Voigt関数
バックグラウンドタイプ:B-スプライン
上記解析結果より、XRDパターンにおいてピークトップの角度と強度を確認することができる。
【0037】
XRDパターンにおける2θ=34.0°±0.2°のピークトップの強度に対する2θ=30.0°±0.2°の強度比(以下、「XRDピーク強度比」ともいう。)とは、上記解析結果より得られたピークトップの角度と高さを参照し、2θ=30.0°±0.2°のピークの強度を、2θ=34.0°±0.2°のピークの強度で除した値である。XRDピーク強度比は、加工性の観点から1000以下、800以下又は500以下が好ましい。また、XRDピーク強度比は、遮光性の観点から10以上、15以上又は20以上が好ましい。XRDピーク強度比は、10以上1000以下、15以上800以下、又は20以上500以下が好ましい。これにより、遮光性と加工性を両立した焼結体が得られる。
【0038】
本実施形態の焼結体の密度は、高いことが好ましい。すなわち、本実施形態の焼結体の実測密度が5.4g/cm以上であることが好ましく、5.5g/cm以上又は5.6g/cm以上であることがより好ましい。本実施形態の焼結体の実測密度は、6.3g/cm以下又は6.2g/cm以下であることが例示できる。実測密度は、5.4g/cm以上6.3g/cm以下、5.5g/cm以上6.2g/cm以下、又は5.6g/cm以上6.2g/cm以下が好ましい。
【0039】
本実施形態において、実測密度はJIS R 1634に準拠した方法(いわゆる、アルキメデス法)で求まる体積に対する、質量測定により求まる質量として求まる値である。
【0040】
本実施形態の焼結体のジルコニアの結晶相は、少なくとも正方晶を含むことが好ましく、正方晶と、立方晶及び単斜晶の少なくともいずれかと、からなっていてもよい。
【0041】
本実施形態の焼結体の形状は、例えば、球状、略球状、楕円状、円板状、円柱状、立方体状、直方体状、多面体状及び略多面体状の群から選ばれる少なくともいずれかが挙げられる。更に、各種用途等、所期の目的を達成するための任意の形状であればよい。
【0042】
本実施形態の焼結体のビッカース硬度(Hv)は12.3GPa以下又は12GPa以下であることが好ましい。これにより、各種用途に応じた加工性が向上する。具体的には、研削性及び切削性が向上し、また、加工に伴って生じる欠陥、すなわち、割れや欠け等が生じにくくなる。焼結体表面に傷がつきにくくなるため、例えば9GPa以上であることが好ましく、10GPa以上であることがより好ましく、11GPa以上であることがさらにより好ましい。ビッカース硬度は、9GPa以上12.3GPa以下、10GPa以上12GPa以下、又は11GPa以上12GPa以下が好ましい。
【0043】
本実施形態において、ビッカース硬度は、JIS R1610:2003に準じた方法によって測定することができる。ビッカース硬度の測定条件として、以下の条件が例示できる。
【0044】
測定試料 :(試料厚み) 1.5±0.5mm
(測定表面粗さ)Ra≦0.02μm
測定荷重 :10kgf
測定は、ダイヤモンド製の正四角錘の圧子を備えた一般的なビッカース試験機(例えば、Q30A、ヴァーダー・サイエンティフィック社製)を使用して行うことができる。測定は、圧子を静的に測定試料表面に押し込み、測定試料表面に形成した押込み痕を形成させ、該押込み痕の対角長さを目視にて計測する。得られた対角長さを使用して、以下の式からビッカース硬度を求めることができる。
【0045】
Hv=F/{d/2sin(α/2)}
上の式において、Hvはビッカース硬度(GPa)、Fは測定荷重(10kgf)、dは押込み痕の対角長さ(mm)、及び、αは圧子の対面角(136°)である。
【0046】
本実施形態において、全光線透過率は20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。これにより、各種用途として使用した際に下地等の色調の影響を受けにくくなる。全光線透過率とは、焼結体の厚みを1±0.05mmとし、表面粗さRa≦0.02μmとなるように両面鏡面研磨し、D65を光源としたときの全光線透過率(直線透過率と拡散透過率の合計)を指す。全光線透過率が低いと遮光性の高い焼結体が得られ、本実施形態の焼結体の全光線透過率は、1%以上、更には3%以上であることが例示できる。全光線透過率は、1%以上20%以下、又は3%以上15%以下が好ましい。
【0047】
本実施形態における焼結体の破壊抵抗の指標として、破壊靭性値が例示できる。破壊靭性値はJIS R 1607で規定される方法によって測定される破壊靭性の値(MPa・m0.5)である。なお、JIS R 1607では、IF法及びSEPB法の二通りの破壊靭性の測定が規定されている。IF法は簡易的な測定方法であるが、SEPB法と比べて測定される値が大きくなる傾向にある。
【0048】
本実施形態の焼結体はIF法による破壊靭性値が10MPa・m0.5以上又は11MPa・m0.5以上であり、また、16MPa・m0.5以下又は15MPa・m0.5以下であることが挙げられる。全光線透過率は、10MPa・m0.5以上16MPa・m0.5以下、又は11MPa・m0.5以上15MPa・m0.5以下が挙げられる。
【0049】
本実施形態の焼結体は、ジルコニアの結晶粒子及び分散相の結晶粒子を含み、ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒子径が、分散相の結晶粒子の平均結晶粒子径より小さいことが好ましい。これにより、分散相の結晶粒子同士が凝集しにくくなり、機械的強度が向上し、全光線透過率が低下しやすくなる。
【0050】
ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒子径は、100nm以上500nm以下、又は、200nm以上400nm以下であることが好ましい。
【0051】
分散相の結晶粒子の平均結晶粒子径は、100nm以上800nm以下、又は、200nm以上700nm以下であることが好ましい。
【0052】
ジルコニアの結晶粒子及び分散相の結晶粒子の平均結晶粒子径は、焼結体を構成する結晶粒子の個数を基準にした平均径であり、鏡面研磨した焼結体を熱処理後、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」ともいう。)観察して得られるSEM観察図を画像解析することで求められる。
【0053】
SEM観察は一般的な走査電子顕微鏡(例えば、JSM-IT500LA、日本電子社製)により行えばよい。画像解析する結晶粒子(SEM観察図において結晶粒界が途切れずに観察される結晶粒子(後述))の数が150±50個となるように、SEM観察は、観察倍率を適宜設定して行えばよい。SEM観察箇所の相違による、観察される結晶粒子のバラツキを抑制するため、2以上、好ましくは3以上5以下のSEM観察図によって観察される結晶粒子の合計が上述の結晶粒子数となるように、SEM観察図を得ることが好ましい。SEM観察の条件として、以下の条件が例示できる。
【0054】
加速電圧 :5~15kV
観察倍率 :5000倍~40000倍
SEM観察図の画像解析は、画像解析ソフト(例えば、Mac-View Ver.5、MOUNTECH社製)により行えばよい。具体的には、SEM観察図において結晶粒界が途切れずに観察される結晶粒子を抽出し、抽出した結晶粒子毎の面積[nm]を求める。求まった面積から、これと等しい面積を有する円の直径[nm]を換算し、得られる直径(heywood径;以下、「円相当径」ともいう。)を結晶粒子の結晶粒子径とみなせばよい。抽出した結晶粒子の円相当径の平均値をもって、焼結体の平均結晶粒子径とすればよい。
【0055】
また、鏡面研磨した焼結体は結晶粒界のコントラストが観察しづらいため、結晶粒子径の変化しない範囲で熱処理を行う必要がある。
【0056】
焼結体の熱処理の条件としては、例えば、焼結温度よりも50℃以上低い温度で0.1時間以上保持することが挙げられ、以下の条件が例示できる。
【0057】
熱処理温度:1100℃以上1500℃以下
熱処理時間:0.1時間以上1.0時間以下
なお顔料成分やアルミナ、ヘキサアルミネートを含有し、かつ顔料成分やアルミナ、ヘキサアルミネートが結晶粒子として析出した焼結体においては、ジルコニアの結晶粒子のほかに、SEM観察図中に顔料成分の結晶粒子やアルミナの結晶粒子、分散相の結晶粒子が含まれる。この場合、顔料成分の結晶粒子、アルミナの結晶粒子及び分散相の結晶粒子はジルコニアの結晶粒子と比べて黒みを帯びた色調として観察されるほか、SEM-EDSにて検出できるため、ジルコニアの結晶粒子と、分散相の結晶粒子を区別して、それぞれの平均結晶粒子径を算出することができる。焼結体がヘキサアルミネートの結晶粒子とアルミネートの結晶粒子の両方を含む場合は、その両方を分散相の結晶粒子として、平均結晶粒子径を算出する。
【0058】
分散相の結晶粒子の平均アスペクト比は、1.5以上、1.8以上、1.9以上、又は、2.0以上であることが好ましく、3.5以下、3.0以下、又は、2.8以下、であることが好ましい。平均アスペクト比が1.5以上であると、分散相の結晶粒子がき裂をせき止めて進展しにくくなるため、破壊靭性が向上しやすい。平均アスペクト比が3.5以下であると、分散相の結晶粒子が凝集しにくく、曲げ強度が低下しにくい。平均アスペクト比はさらに、1.5以上3.5以下、1.8以上3.0以下であることが好ましい。
【0059】
分散相の結晶粒子のアスペクト比は、次のようにして求められる。すなわち、上記の平均結晶粒子径の測定と同様にして分散相の結晶粒子を抽出し、これらの結晶粒子に対し、それぞれを楕円近似した際の長径/短径の数値を算出し、これらの数値の平均値を平均アスペクト比として求める。
【0060】
本実施形態の焼結体の色調は任意であるが、着色成分を含まない焼結体の場合、CIE1976(L)色空間における明度Lが70以上、75以上又は80以上であることが例示できる。なお、明度Lの上限は100である。すなわち明度Lは70以上100以下、75以上100以下、又は80以上100以下が例示できる。
【0061】
また、この場合、彩度a及びbは、それぞれ、-3≦a≦1、かつ、-2≦b≦5であることが例示できる。
【0062】
明度L、彩度a及びbは、JIS Z 8722に準じた方法で、一般的な分光測色計(例えば、CM-700d、コニカミノルタ社製)を使用して測定することができる。明度Lの測定条件として、以下の条件が挙げられる。測定は、背景として黒色板を使用した測定(いわゆる黒バックの測定)とすることが好ましい。
【0063】
光源 : D-65光源
視野角 : 10°
測定方式 : SCI
測定試料として、直径20mm×厚さ2.7mmの円板形状の焼結体を使用し、評価する表面を鏡面研磨処理(Ra≦0.02μm)し、色調を評価すればよい。また、色調評価有効面積として直径10mmが挙げられる。
【0064】
一方、本実施形態の焼結体が着色成分を含む場合、明度Lが0以上95以下、彩度aが-5以上15以下、かつ、彩度bが-30以上40以下であることが挙げられる。
【0065】
本実施形態の焼結体は、従来の焼結体、特に構造材料、光学材料、歯科用材料等のジルコニア焼結体の用途に適用できるが、装飾品、時計や筐体などのアクセサリーのカバー用途、携帯電話などの携帯電子機器の外装部材など、比較的高い遮光性が要求される部材として使用することができる。
【0066】
以下、本実施形態の焼結体の製造方法について説明する。
【0067】
本実施形態の焼結体の製造方法は特に限定されないが、少なくともジルコニア粉末と、安定化元素源と、アルミナ源及び分散相源と、を含む混合粉末を焼結する工程(以下、「焼結工程」ともいう。)を有する方法によって、本実施形態の焼結体が得られる。上記混合粉末を焼結して製造する場合、焼結に先立ち、上記の粉末を成形して成形体(圧粉体)としてもよい。
【0068】
成形体は、ジルコニア、安定化元素源、アルミナ源及び分散相源を含む。
【0069】
安定化元素源は、安定化元素を含む化合物及び安定化元素を含む化合物の前駆体の少なくともいずれかであればよく、安定化元素を含む化合物としては、安定化元素の塩化物、硫化物、硝化物、水酸化物又は酸化物の群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。成形体における安定化元素源の含有量は、目的とする焼結体の安定化元素量と同等であればよい。
【0070】
アルミナ源は、アルミナ(Al)及びその前駆体となるアルミニウム(Al)を含む化合物の少なくともいずれかであり、アルミネート、ヘキサアルミネート、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム及びアルミナの群から選ばれる1以上が挙げられ、アルミネート、ヘキサアルミネート及びアルミナの群から選ばれる1以上であることが好ましい。
【0071】
ジルコニアとして、安定化元素含有ジルコニアを使用する場合、ジルコニアに安定化元素を含有させる方法は任意である。例えば、水和ジルコニアゾルと、目的とする安定化元素含有量と同等の安定化元素源とを混合し、乾燥、仮焼及び水洗することが挙げられる。
【0072】
成形体は、必要に応じ、着色成分源(顔料)を含んでいてもよい。成形体における着色成分源の含有量は、目的とする焼結体の着色成分の含有量と同等であればよい。例えば、上記の粉末と、着色成分源を混合した混合粉末を成形体することで、着色成分源を含む成形体を得ることができる。
【0073】
上記の粉末と、着色成分源との混合方法は任意であり、好ましくは乾式混合及び湿式混合の少なくともいずれか、より好ましくは湿式混合、更に好ましくはボールミルを使用した湿式混合である。 分散相源は、ヘキサアルミネートの粉末及びヘキサアルミネートの前駆体の少なくともいずれかが挙げられる。ジルコニア粉末にヘキサアルミネート粉末やその前駆体の粉末を混合して焼結する製造方法により、ヘキサアルミネートを含有する焼結体を得ることができる。具体的には、ヘキサアルミネートの前駆体の粉末を焼成してヘキサアルミネート粉末としたのち、これをジルコニア粉末に混合して焼結する方法や、ヘキサアルミネートの前駆体の粉末をジルコニア粉末に混合して焼結する方法が例示できる。
【0074】
ヘキサアルミネートの前駆体は、例えば、金属酸化物(金属元素Rと酸素原子Oを含むRO、R、又はこれらの混合物)、並びに、アルミナ及びアルミネートの少なくともいずれかを含むことが挙げられ、金属酸化物、及び、アルミナを含むことが好ましい。
【0075】
ヘキサアルミネートの前駆体に含まれる金属酸化物としては、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)、酸化ランタン(La)、酸化ネオジム(Nd)及び酸化サマリウム(Sm)からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。アルミネートとしては、MgAl、CaAl、SrAl、BaAl、LaAlO、NdAlO及びSmAlOからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0076】
アルミネートの作製方法として、前記金属酸化物とアルミナを、金属RとAlがモル換算でR:Al=1:1になるように混合し、混合粉末をアルミナ匣鉢に入れて1100℃以上1250℃以下で2時間以上4時間以下焼成すればよい。ヘキサアルミネートの作製方法として、前記金属酸化物とアルミナを、金属RとAlがモル換算でR:Al=1:6になるように混合し、混合粉末をアルミナ匣鉢に入れて1400℃以上1500℃以下で4時間以上8時間以下焼成すればよい。
【0077】
成形方法は、混合粉末を圧粉体としうる公知の成形方法であればよく、好ましくは一軸加圧成形、等方加圧成形、射出成形、押出成形、転動造粒及び鋳込み成形の群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは一軸加圧成形及び等方加圧成形の少なくともいずれか、更に好ましくは冷間静水圧プレス処理及び一軸加圧成形(粉末プレス成形)の少なくいずれかであり、一軸加圧成形後に冷間静水圧プレス処理をする方法がより好ましい。
【0078】
焼結工程は、上記の混合粉末、好ましくは成形体、を焼結して焼結体を得る。焼結方法は任意であり、常圧焼結、加圧焼結、真空焼結等、公知の焼結方法が例示できる。好ましい焼結方法として常圧焼結が挙げられ、焼結方法は常圧焼結のみであることが好ましい。これにより、本実施形態の焼結体を、いわゆる常圧焼結体として得ることができる。常圧焼結とは、焼結時に被焼結物(粉末、成形体又は仮焼体)に対して外的な力を加えず、単に加熱することによって焼結する方法である。
【0079】
常圧焼結の条件は、焼結温度として、1100℃以上1600℃以下、1200℃以上1580℃以下、1200℃以上1560℃以下、が好ましく、1200℃以上1500℃以下、又は1200℃以上1450℃以下が例示できる。また、焼結雰囲気として、大気雰囲気及び酸素雰囲気の少なくともいずれかが挙げられ、大気雰囲気であることが好ましい。
【0080】
焼結時間は、焼結方法、焼結に供する粉末(成形体)のサイズや量、及び、使用する焼結炉の方式や性能に応じて適宜調整すればよいが、例えば、0.5時間以上8時間以下が挙げられる。
【0081】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態で具体的に記載された上限値及び下限値を任意に組み合わせた数値範囲も、本開示に含まれる。また、上限値及び下限値の少なくともいずれかを、以下の実施例の値で置換したものも本開示に含まれる。
【実施例
【0082】
以下、実施例により本実施形態を具体的に説明する。しかしながら、本実施形態はこれら実施例に限定されるものではない。
【0083】
(粉末X線回折測定)
実施例及び比較例の焼結体について、以下の条件にてX線回折測定を行ったのち、X線解析ソフト『SmartLab Studio II』にて得られたXRDパターンの解析を行った。
【0084】
焼結体試料は、直径20mm×厚さ1.7mmの円盤形状のものを使用した。焼結体試料の表面を表面粗さRa≦0.02μmとなるように鏡面研磨処理し、測定面とした。
【0085】
測定条件は以下の条件とした。
【0086】
線源 :CuKα線(λ=1.5418Å)
管電圧 :40kV
管電流 :40mA
スキャン速度 :4°/分
ステップ幅 :0.02°
測定角度 :27~37°
解析条件(プロファイルフィッティング条件)とは、以下の条件とした。
【0087】
ピーク形状:分割型擬Voigt関数
バックグラウンドタイプ:B-スプライン
(ビッカース硬度)
ビッカース硬度は、ダイヤモンド製の正四角錐の圧子を備えた一般的なビッカース試験機(装置名:Q30A、ヴァーダー・サイエンティフィック社製)を使用して行った。ビッカース硬度の測定条件は、以下の条件とした。
【0088】
測定試料 :(試料厚み) 1.5±0.5mm
(測定表面粗さ)Ra≦0.02μm
測定荷重 :10kgf
圧子を静的に測定試料表面に押し込み、測定試料表面に形成した押し込み痕の対角長さを目視にて測定し、得られた対角長さを使用して、以下の式からビッカース硬度を求めた。
【0089】
Hv=F/{d/2sin(α/2)}
(密度)
焼結体試料の実測密度は質量測定で測定された質量に対する、JIS R 1634に準拠したアルキメデス法で測定される体積の割合(g/cm)として求めた。測定に先立ち、乾燥後の焼結体の質量を測定した後、焼結体を水中に配置し、これを1時間煮沸し、前処理とした。
【0090】
(全光線透過率)
JIS K 7361-1に準じた方法で、焼結体試料の全光線透過率を測定した。測定には、D65光源を備えた一般的なヘーズメーター(装置名:NDH4000、日本電色株式会社製)を使用して行った。焼結体試料は、厚みを1mm±0.05mm、直径を20mmとし、表面粗さRa≦0.02μmとなるように、両面に鏡面研磨処理を施した。
【0091】
(平均結晶粒子径)
平均結晶粒子径は、鏡面研磨した焼結体を熱エッチングした試料について、SEM-EDS(装置名:JSM-IT500LA、日本電子社製)、及び、画像解析ソフト(ソフト名:Mac-View Ver.5、MOUNTECH社製)を使用し、上述の方法で求めた。なお熱エッチングは、焼結体における焼結温度よりも100℃低い値で0.5時間の熱処理を行った。熱エッチングした試料をSEM用蒸着装置(DII-29010SCTR Smart Coater、日本電子社製)を用いて、Auコーティングを施した後にSEM観察を行った。
【0092】
ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒子径は、画像解析ソフトに取り込んだSEM観察図について、該ソフト上でジルコニアの結晶粒子の粒界をトレースすることで、結晶粒界が途切れていない結晶粒子を抽出した。抽出後、該画像解析ソフトで、結晶粒子の面積、及び、円相当径を求め、平均結晶粒子径を求めた。なお顔料成分、アルミナヘキサアルミネートを含有し、かつ顔料成分やアルミナ、分散相が結晶粒子として析出した焼結体においては、ジルコニアの結晶粒子のほかに、SEM観察図中に顔料成分の結晶粒子やアルミナの結晶粒子、分散相の結晶粒子が含まれる。この場合、顔料成分の結晶粒子、アルミナの結晶粒子及び分散相の結晶粒子はジルコニアの結晶粒子と比べて黒みを帯びた色調として観察されるほか、SEM-EDSにて検出できるため、このような結晶粒は除外して、結晶粒子を150±50個となるように抽出後、結晶粒子の面積、及び、円相当径を求め、平均結晶粒子径を求めた。
【0093】
分散相の結晶粒子の平均結晶粒子径は、ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒子径と同様にして測定した。すなわち、該ソフト上で分散相の結晶粒子の粒界をトレースすることで、結晶粒界が途切れていない結晶粒子を抽出した。分散相の結晶粒子はSEM-EDSにて検出抽出した後、該画像解析ソフトで、結晶粒子の面積、及び、円相当径を求め、平均結晶粒子径を求めた。結晶粒子は150±50個となるように抽出した。
(平均アスペクト比)
分散相の結晶粒子の平均アスペクト比は以下のようにして算出した。すなわち、上記で平均結晶粒子径の測定で抽出したすべての分散相の結晶粒子に対し、それぞれを楕円近似した際の長径/短径の数値を算出し、これらの数値の平均値を平均アスペクト比として求めた。
【0094】
(顔料)
実施例4において、着色成分を含む顔料として、以下に示すものを使用した。
【0095】
顔料1 : CoAl (NF-2800 日研株式会社)
顔料2 : Fe (酸化鉄(III) 1級 関東化学株式会社)
顔料3 : ZnO (酸化亜鉛 特級 キシダ化学株式会社)
合成例1(ストロンチウムヘキサアルミネート)
実施例5においては、以下に示す手順で作製したストロンチウムヘキサアルミネートを使用した。
【0096】
酸化ストロンチウム(キシダ化学社製)及びアルミナ(AKP30 住友化学社製)を、モル換算でSr:Al=1:6となるように混合し、純水に添加してスラリーとし、直径10mmのジルコニア製ボールを粉砕媒体としたボールミルで、24時間、粉砕混合した。粉砕後のスラリーを大気雰囲気、110℃で乾燥後、篩分けにより凝集径180μmを超える凝集体を取り除いた、混合粉末を得た。当該混合粉末をアルミナ匣鉢中で、1450℃で6時間加熱することにより、実施例5で用いるストロンチウムヘキサアルミネート粉末を得た。
【0097】
合成例2(ランタンアルミネート)
実施例6においては、以下に示す手順で作製したランタンアルミネートを使用した。
【0098】
酸化ランタン(日本イットリウム社製)を大気雰囲気、700℃で処理した後、当該酸化ランタンと、アルミナ(AKP30 住友化学社製)をモル換算でLa:Al=1:1となるように混合して混合粉末を得た。得られた混合粉末を大気雰囲気、1450℃、2時間で熱処理した後、室温まで降温した。降温後に粉砕混合し、これを大気雰囲気、1450℃で2時間加熱することで、実施例6で用いるランタンアルミネート粉末を得た。
【0099】
合成例3(カルシウムヘキサアルミネート)
実施例8、9、10及び比較例4、5においては、以下に示す手順で作製したカルシウムヘキサアルミネートを使用した。
【0100】
酸化カルシウム(富士フィルム和光純薬社製)及びアルミナ(AKP30 住友化学社製)を、モル換算でCa:Al=1:6となるように混合し、純水に添加してスラリーとし、直径10mmのジルコニア製ボールを粉砕媒体としたボールミルで、24時間、粉砕混合した。粉砕後のスラリーを大気雰囲気、110℃で乾燥後、篩分けにより凝集径180μmを超える凝集体を取り除いた、混合粉末を得た。当該混合粉末をアルミナ匣鉢中で、1450℃で6時間加熱することにより、実施例8で用いるカルシウムヘキサアルミネート粉末を得た。
【0101】
実施例1
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。ガドリニウム濃度が1.4mol%、及び、イットリウム濃度が0.4mol%となるように塩化ガドリニウム及び塩化イットリウムを、それぞれ、水和ジルコニウムに添加及び混合した。混合後、大気雰囲気で乾燥した後、大気雰囲気、1150℃で2時間仮焼して、ガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニア仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末を純水で水洗及び乾燥し、ガドリニウム含有量が1.4mol%及びイットリウム含有量が0.4mol%であるガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニアからなるジルコニア粉末を得た。
【0102】
得られたジルコニア粉末と、酸化ストロンチウム粉末(キシダ化学社製)と、アルミナ(AKP30 住友化学社製)とを、酸化ストロンチウム含有量が1.45質量%、アルミナ含有量が8.55質量%となるように、混合して混合粉末を得た。当該混合粉末を純水に添加してスラリーとし、直径10mmのジルコニア製ボールを粉砕媒体としたボールミルで、48時間、粉砕混合した。粉砕後のスラリーを大気雰囲気、110℃で乾燥後、篩分けにより凝集径180μmを超える粗大粒を取り除くことで、ストロンチウム含有量が1.45質量%、アルミナ含有量8.55質量%、ガドリニウム含有量が1.4mol%及びイットリウム含有量が0.4mol%である、酸化ストロンチウムとアルミナを含有し、ガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニアからなる本実施例の混合粉末を得た。
【0103】
得られた混合粉末を、圧力50MPaの金型プレス、及び圧力196MPaの冷間静水圧プレス(CIP)処理し、成形体とした。得られた成形体を大気雰囲気、焼結温度1450℃、2時間の常圧焼結をして、ストロンチウム含有量が1.45質量%及びアルミニウム含有量が8.55質量%、ガドリニウム含有量が1.4mol%及びイットリウム含有量が0.4mol%であり、ストロンチウムヘキサアルミネートを含有する、ガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は11.6GPa、全光線透過率は7%であった。
【0104】
実施例2
ジルコニア粉末と、酸化ストロンチウム粉末と、酸化アルミニウム粉末とを、酸化ストロンチウム含有量が0.724質量%、酸化アルミニウム含有量が4.28質量%となるように混合粉末を作製したこと以外は、実施例1と同様な方法で、ストロンチウム含有量が0.724質量%、アルミニウム含有量が4.28質量%、ガドリニウム含有量が1.4mol%及びイットリウム含有量が0.4mol%であり、ストロンチウムヘキサアルミネートを含有する、ガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は11.3GPa、全光線透過率は15%であった。
【0105】
実施例3
ジルコニア粉末と、酸化ストロンチウム粉末と、酸化アルミニウム粉末とを、酸化ストロンチウム含有量が2.17質量%、酸化アルミニウム含有量が12.8質量%となるように混合粉末を作製して焼結したこと以外は、実施例1と同様な方法で、ストロンチウム含有量が2.17質量%、アルミニウム含有量が12.8質量%、ガドリニウム含有量が1.4mol%及びイットリウム含有量が0.4mol%であり、ストロンチウムヘキサアルミネートを含有する、ガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は11.7GPa、全光線透過率は4%であった。
【0106】
実施例4
ジルコニア粉末と、酸化ストロンチウム粉末と、酸化アルミニウム粉末と、着色成分1乃至3とを、酸化ストロンチウム含有量が1.45質量%、酸化アルミニウム含有量が8.55質量%、CoAl含有量が0.0100質量%、Fe含有量が0.0200質量%、ZnO含有量が0.0125質量%となるように混合粉末を作製したこと以外は、実施例1と同様な方法で、ストロンチウム含有量が1.45質量%、アルミニウム含有量が8.55質量%、CoAl含有量が0.0100質量%、Fe含有量が0.0200質量%、ZnO含有量が0.0125質量%、ガドリニウム含有量が1.4mol%及びイットリウム含有量が0.4mol%であり、ストロンチウムヘキサアルミネート、コバルトアルミネート、酸化鉄及び酸化亜鉛を含有する、ガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は11.6GPa、全光線透過率は2%であった。
【0107】
実施例5
ジルコニア粉末と、合成例1のストロンチウムヘキサアルミネート粉末とを、ストロンチウムヘキサアルミネート含有量が5.00質量%となるように混合粉末を作製したこと以外は、実施例1と同様な方法で、ストロンチウムヘキサアルミネート含有量が5.00質量%、ガドリニウム含有量が1.4mol%及びイットリウム含有量が0.4mol%であり、ガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は11.5GPa、全光線透過率は9%であった。
【0108】
実施例6
ジルコニア粉末と、合成例2のランタンアルミネート粉末と、酸化アルミニウム粉末とを、ランタンアルミネート含有量が2.96質量%、アルミナ含有量が7.04質量%となるように混合粉末を作製したこと、及び、焼結温度を1400℃としたこと以外は、実施例1と同様な方法で、ランタン含有量が2.25質量%、アルミニウム含有量が7.75質量%、ガドリニウム含有量が1.4mol%及びイットリウム含有量が0.4mol%であり、ランタンヘキサアルミネートを含有する、ガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は12.2GPa、全光線透過率は8%であった。
【0109】
実施例7
ジルコニア粉末と、酸化カルシウム粉末(富士フィルム和光純薬社製)と、アルミナとを、酸化カルシウム含有量が0.840質量%及びアルミナが9.16質量%となるようして混合粉末を作製して焼結したこと、及び焼結温度を1400℃としたこと以外は、実施例1と同様な方法で、本実施例の、カルシウム含有量が0.840質量%、アルミニウム含有量が9.16質量%、ガドリニウム含有量が1.4mol%及びイットリウム含有量が0.4mol%であり、カルシウムヘキサアルミネートを含有する、ガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は11.5GPa、全光線透過率は6%であった。
【0110】
実施例8
ジルコニア粉末と、合成例3のカルシウムヘキサアルミネート粉末とを、カルシウムヘキサアルミネート含有量が10.0質量%となるように混合粉末を作製して焼結したこと、及び焼結温度を1400℃としたこと以外は、実施例1と同様な方法で、本実施例の、カルシウムヘキサアルミネート含有量が10.0質量%、ガドリニウム含有量が1.4mol%及びイットリウム含有量が0.4mol%であり、ガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は11.9GPa、全光線透過率は6%であった。
【0111】
実施例9
ガドリニウム濃度が1.6mol%となるようにガドリニアを水和ジルコニウムに添加及び混合したこと、ジルコニア粉末と、合成例3のカルシウムヘキサアルミネート粉末とを、カルシウムヘキサアルミネート含有量が10.0質量%となるように混合粉末を作製したこと、並びに、焼結温度を1350℃としたこと以外は、実施例1と同様な方法で、カルシウムヘキサアルミネート含有量が10.0質量%及びガドリニウム含有量が1.6mol%であり、ガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は11.3GPa、全光線透過率は14%であった。
【0112】
実施例10
ガドリニウム濃度が1.7mol%、及び、イットリウム濃度が1.1mol%となるようにガドリニア及びイットリアを、それぞれ、水和ジルコニウムに添加及び混合したこと、並びに、得られたジルコニア粉末と、合成例3のカルシウムヘキサアルミネート粉末とを、カルシウムヘキサアルミネート含有量が15.0質量%となるように混合粉末を作製したこと以外は、実施例1と同様な方法で、カルシウムヘキサアルミネート含有量が15.0質量%、ガドリニウム含有量が1.7mol%及びイットリウム含有量が1.1mol%であり、ガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は10.7GPa、全光線透過率は4%であった。
【0113】
実施例11
イットリウム濃度が1.5mol%となるようにイットリアを、水和ジルコニウムに添加及び混合したこと、並びに、得られたジルコニア粉末と、合成例1のストロンチウムヘキサアルミネート粉末とを、ストロンチウムヘキサアルミネート含有量が5.0質量%となるように混合粉末を作製したこと、及び焼結温度を1400℃としたこと以外は、実施例1と同様な方法で、ストロンチウムヘキサアルミネート含有量が5.0質量%及びイットリウム含有量が1.5mol%であり、イットリウム安定化ジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は11.5GPa、全光線透過率は8%であった。
【0114】
比較例1
ジルコニア粉末と、アルミナ粉末とを、アルミナ含有量が10.0質量%となるように混合粉末を作製したこと以外は、実施例1と同様な方法で、アルミナ含有量が10.0質量%、ガドリニウム含有量が1.4mol%及びイットリウム含有量が0.4mol%であり、ガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニアからなる本比較例の焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は12.4GPa、全光線透過率は7%であった。
【0115】
比較例2
イットリウム濃度が2.0mol%となるようにイットリアを、水和ジルコニウムに添加及び混合したこと、並びに、ジルコニア粉末と、アルミナ粉末とを、アルミナ含有量が10質量%となるようして混合粉末を作製したこと以外は、実施例1と同様な方法で、アルミナ含有量が10.0質量%、イットリウム含有量が2.0mol%であり、ガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニアからなる本比較例の焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は12.8GPa、全光線透過率は7%であった。
【0116】
比較例3
ガドリニウム濃度が1.5mol%、及び、イットリウム濃度が0.5mol%となるようにガドリニア及びイットリアを、それぞれ、水和ジルコニウムに添加及び混合したこと、並びに、ジルコニア粉末と、酸化ストロンチウム粉末とを、酸化ストロンチウム含有量が1.45質量%となるようして混合粉末を作製したこと以外は、実施例1と同様な方法で、ストロンチウム含有量が1.45質量%、ガドリニウム含有量が1.5mol%及びイットリウム含有量が0.5mol%であり、酸化ストロンチウムを含有する、ガドリニウム及びイットリウム安定化ジルコニアからなる本比較例の焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は11.0GPa、全光線透過率は25%であった。
【0117】
比較例4
ガドリニウム濃度が3.5mol%となるように、ガドリニアを水和ジルコニウムに添加及び混合したこと、並びに、ジルコニア粉末と、カルシウムヘキサアルミネートとを、カルシウムヘキサアルミネート含有量が15.0質量%となるように混合粉末を作製したこと以外は、実施例1と同様な方法で、カルシウムヘキサアルミネート含有量が15.0質量%、ガドリニウム含有量が3.5mol%である、ガドリニウム安定化ジルコニアからなる焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は12.4GPa、全光線透過率は5%であった。
【0118】
比較例5
イットリウム濃度が3.0mol%となるように、イットリアを水和ジルコニウムに添加及び混合したこと、及び、得られたジルコニア粉末と、カルシウムヘキサアルミネートとを、カルシウムヘキサアルミネート含有量が15.0質量%となるようにして混合粉末を作製したこと以外は、実施例1と同様な方法で、カルシウムヘキサアルミネート含有量が15.0質量%、イットリウム含有量が3.0mol%であり、カルシウムヘキサアルミネートを含有する、イットリウム安定化ジルコニアからなる焼結体を得た。得られた焼結体のビッカース硬度は12.5GPa、全光線透過率は4%であった。
【0119】
これらの実施例及び比較例の焼結体の組成及び焼結温度を表1に、評価結果を表2に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
表1において、「Al含有量」欄はアルミニウム含有量を、「Zr粒径」欄はジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒子径を、「分散相粒径」欄は分散相の結晶粒子の平均結晶粒子径を表す。「安定化元素含有量」欄、「添加物」欄及び「Al含有量」欄で原料として使用しなかったものを「―」として示した。「XRDピーク強度比」欄において、XRD解析で34.0°±0.2°のピークが検出されなかった場合、「―」とした。また、分散相を含まない比較例3については、「分散相粒径」欄及び「平均アスペクト比」欄は「―」とした。
【0123】
実施例の焼結体はいずれも、ビッカース硬度は12.3GPa以下かつ全光線透過率は20%以下であった。
【0124】
実施例の焼結体は、安定化元素としてガドリニウム及びイットリウムを含有するジルコニアとアルミナを含有する比較例1、並びに、安定化元素としてイットリウムのみを含有するジルコニアとアルミナを含有する比較例2の焼結体と比較して、ビッカース硬度が低く、かつ、全光線透過率も低い。すなわち、加工性が高く、かつ、遮光性も高い。また、実施例の焼結体は、安定化剤としてガドリニウム及びイットリウムを含有するジルコニアとストロンチウムを含有する比較例3と比較しても、ビッカース硬度が低く、かつ、全光線透過率も低い。また、実施例の焼結体は、ガドリニウム含有量3.5mol%である比較例4及びイットリウム含有量が3.0mol%である比較例5の焼結体と比較して、ビッカース硬度を低下させつつ遮光性も担保している。
【0125】
以上より、本実施例の焼結体は、高い加工性及び優れた遮光性を有することが確認された。