IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 一般財団法人電力中央研究所の特許一覧

特許7525293通信制御システム、通信制御方法及び通信制御プログラム
<>
  • 特許-通信制御システム、通信制御方法及び通信制御プログラム 図1
  • 特許-通信制御システム、通信制御方法及び通信制御プログラム 図2
  • 特許-通信制御システム、通信制御方法及び通信制御プログラム 図3
  • 特許-通信制御システム、通信制御方法及び通信制御プログラム 図4
  • 特許-通信制御システム、通信制御方法及び通信制御プログラム 図5
  • 特許-通信制御システム、通信制御方法及び通信制御プログラム 図6
  • 特許-通信制御システム、通信制御方法及び通信制御プログラム 図7
  • 特許-通信制御システム、通信制御方法及び通信制御プログラム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】通信制御システム、通信制御方法及び通信制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 13/00 20060101AFI20240723BHJP
   H02H 3/28 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H02J13/00 311A
H02J13/00 A
H02J13/00 301A
H02H3/28 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020078711
(22)【出願日】2020-04-27
(65)【公開番号】P2021175300
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年 電気学会 電子・情報・システム部門大会 講演論文集、第1364頁~第1368頁、電気学会 電子・情報・システム部門大会委員会 公開日 令和1年8月28日 2019年 電気学会 電子・情報・システム部門大会、沖縄県 琉球大学 工学部 開催日 令和1年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小久保 翔太
(72)【発明者】
【氏名】大場 英二
【審査官】大濱 伸也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-051981(JP,A)
【文献】特開2008-017668(JP,A)
【文献】特開2017-060270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 13/00
H02H 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電線に関する所定情報を含むパケット信号を受信し、受信した前記パケット信号を第1無線用信号に変換し、第1無線回線を用いて前記第1無線用信号を送信する信号送信装置と、
前記信号送信装置から送信された前記第1無線用信号を受信し、信号に含まれる各ビットのデータをそのまま格納して転送可能な中継用フォーマットを有する中継用信号に、前記第1無線用信号を変換して転送し、転送した前記中継用信号から取得した前記第1無線用信号を、第2無線回線を用いて送出する中継システムと、
前記中継システムが送出した前記第1無線用信号を受信し、前記第1無線用信号を前記パケット信号に変換する信号受信装置と
を備えたことを特徴とする通信制御システム。
【請求項2】
前記中継システムは、前記第1無線用信号に含まれる前記所定情報を表す各ビットの値を前記中継用信号が有する前記中継用フォーマットに含まれるスロットの中に格納し、各スロットを順次転送することを特徴とする請求項1に記載の通信制御システム。
【請求項3】
前記信号送信装置は、前記所定情報以外の情報を含むパケット信号を受信した場合、受信した前記パケット信号を第2無線用信号に変換して前記第1無線回線を用いて送信し、
前記中継システムは、前記第2無線用信号を受信した場合、前記第2無線用信号から前記パケット信号を再生して、再生した前記パケット信号を転送後に、前記再生した前記パケット信号を前記第2無線用信号に変換し、変換後の前記第2無線用信号を前記第2無線回線を用いて送出し、
前記信号受信装置は、前記中継システムが送出した前記第2無線用信号を受信して前記パケット信号に変換する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の通信制御システム。
【請求項4】
前記中継システムは、再生した前記パケット信号をスイッチを介して転送することを特徴とする請求項3に記載の通信制御システム。
【請求項5】
送電線に関する前記所定情報を含む前記パケット信号を生成し、生成した前記パケット信号を前記信号送信装置へ送信する信号生成装置と、
前記信号受信装置が生成した前記パケット信号を取得し、取得した前記パケット信号に含まれる前記所定情報を用いて所定の処理を行う信号処理装置と
をさらに備えたことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の通信制御システム。
【請求項6】
信号送信装置に、送電線に関する所定情報を含むパケット信号を受信させ、受信させた前記パケット信号を第1無線用信号に変換させ、第1無線回線を用いて前記第1無線用信号を送信させ、
中継システムに、前記信号送信装置から送信された前記第1無線用信号を受信させ、信号に含まれる各ビットのデータをそのまま格納して転送可能な中継用フォーマットを有する中継用信号に、前記第1無線用信号を変換させて転送させ、転送した前記中継用信号から取得した前記第1無線用信号を、第2無線回線を用いて送出させ、
信号受信装置に、前記中継システムが送出した第1無線用信号を受信させ、前記第1無線用信号を前記パケット信号に変換させる
ことを特徴とする通信制御方法。
【請求項7】
送電線に関する所定情報を含むパケット信号を受信し、受信した前記パケット信号を第1無線用信号に変換し、第1無線回線を用いて前記第1無線用信号を送信する処理を第1コンピュータに実行させ、
前記第1コンピュータから送信された前記第1無線用信号を受信し、信号に含まれる各ビットのデータをそのまま格納して転送可能な中継用フォーマットを有する中継用信号に、前記第1無線用信号を変換して転送し、転送した前記中継用信号から取得した前記第1無線用信号を、第2無線回線を用いて送出する処理を第2コンピュータに実行させ
前記第2コンピュータにより送出された前記第1無線用信号を受信し、前記第1無線用信号を前記パケット信号に変換する処理を第3コンピュータに実行させる
ことを特徴とする通信制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信制御システム、通信制御方法及び通信制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統監視及び保護制御システムは、電力系統の安定かつ効率的な運用に欠かせない役割を担う仕組みの一つである。電力系統監視及び保護制御システムには、例えば、送電線保護用電流差動リレー装置がある。以下では、送電線保護用電流差動リレー装置を単に保護リレー装置と呼ぶ。保護リレー装置は、送電線で発生した落雷などに起因した事故を検出し、遮断器に対して遮断指令を送出することにより事故区間を切り離す装置である。
【0003】
保護リレー装置は、送電線各端子からの電気量データをPCM(Pulse Code Modulation)通信を用いて収集し、同一の時刻にサンプリングされた瞬時値データを用いて差動演算を行い、演算結果を用いて送電線の切り離しを行う。このPCM通信を用いた保護リレー装置により送電線を遮断するシステムを、以下ではPCMキャリアリレーシステムと呼ぶ。従来から、基幹系統のPCMキャリアリレーシステムの通信には、高い信頼性を有する電力用マイクロ波無線ネットワークが用いられている。電力用マイクロ波無線ネットワークは、高い信頼性を有することから、主に基幹系統の保護リレーシステムや給電情報などの電気事業において重要な情報の伝送に用いられる。
【0004】
また、近年IP(Internet Protocol)技術の高度化及び普及に伴い、電力系統監視及び保護制御システムにおける通信回線においてもIPプロトコルを用いた通信を実現するIP系技術の導入が進められている。従来の電力用マイクロ波無線ネットワークでは1対1の通信が基本であったが、系統監視システムにIP系技術を導入することにより、送信情報を多数の宛先に送信することが可能となる。
【0005】
ここで、IP系技術を導入する際、光回線による通信であれば、伝送遅延時間変動を抑制するための高精度時刻同期技術であるPTP(Precision Time Protocol)を用いることでPCMリレーの伝送遅延時間変動要件を満足することができる。
【0006】
さらに、保護リレーシステムを含めた電力用アプリケーションに対するIP系技術の適用の進展により、マイクロ波無線ネットワークについても、IP系技術に適した形態に移行することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-110417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、中継時にIPに準拠したフォーマットに変換してフレームの再生を行う再生中継機能を用いる場合、PCMキャリアリレー情報に対する伝送遅延時間要件を満足させようとすると、マイクロ波無線回路への効率的な収容が困難となる。マイクロ波無線回線でIP系情報を効率的に伝送するには、再生中継により発生する伝送遅延時間を抑制することが好ましい。
【0009】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、IP系技術に対応した保護リレーシステムにおける保護リレー情報の伝送遅延時間を低減する通信制御システム、通信制御方法及び通信制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の開示する通信制御システム、通信制御方法及び通信制御プログラムの一つの態様において、信号生成部は、送電線に関する所定情報を含むパケット信号を受信し、受信した前記パケット信号を第1無線用信号に変換し、第1無線回線を用いて前記第1無線用信号を送信する。中継システムは、前記信号送信装置から送信された前記第1無線用信号を受信し、信号に含まれる各ビットのデータをそのまま格納して転送可能な中継用フォーマットを有する中継用信号に、前記第1無線用信号を変換して転送し、転送した前記中継用信号から取得した前記第1無線用信号を、第2無線回線を用いて送出する。信号受信装置は、前記中継システムが送出した前記第1無線用信号を受信し、前記第1無線用信号を前記パケット信号に変換する。
【発明の効果】
【0011】
1つの側面では、本発明は、IP系技術に対応した保護リレーシステムにおける保護リレー情報の伝送遅延時間を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例にかかる保護リレーシステムのシステム構成図である。
図2図2は、受信側無線機及び送信側無線機の詳細を表すブロック図である。
図3図3は、中継用フレームフォーマットの一例を示す図である。
図4図4は、保護リレーシステムにおける通信要件を表す図である。
図5図5は、保護リレーシステムの試験システムのブロック図である。
図6図6は、試験システムを用いた伝送遅延時間の評価結果を表す図である。
図7図7は、収容可能な中継システムの数を示す図である。
図8図8は、実施例に係る中継システムによる信号伝送処理のシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本願の開示する通信制御システム、通信制御方法及び通信制御プログラムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例により本願の開示する通信制御システム、通信制御方法及び通信制御プログラムが限定されるものではない。また、以下の説明では、通信規格としてイーサネット(登録商標)を用いる場合、すなわちIP系情報としてイーサネットフレームを用いる場合で説明するが、以下の構成は他のIP系情報を用いる場合に適用することも可能である。
【実施例
【0014】
図1は、実施例にかかる保護リレーシステムのシステム構成図である。保護リレーシステム10は、落雷などにより発生する送電線6の短絡・地絡事故を検出し、事故区間を切り離すことを目的とするシステムである。本実施例に係る保護リレーシステム10は、図1に示すように、中継システム1、無線通信装置2、保護リレー制御装置3、計測器4及び遮断器5を有する。保護リレーシステム10が、「通信制御システム」の一例にあたる。
【0015】
計測器4は、送電線6の両端に1つずつ配置される。計測器4は、送電線6を流れる電流を計測する。
【0016】
遮断器5も同様に、送電線6の両端に1つずつ配置される。遮断器5は、保護リレー制御装置3が有する保護リレー装置31からの制御を受けて、送電線6を遮断する。
【0017】
保護リレー制御装置3は、各遮断器5に対応させてそれぞれ配置される。保護リレー制御装置3は、保護リレー装置31を有する。以下では、説明の対象とする特定の保護リレー制御装置3に対応する遮断器5が配置された送電線6の端部を自端と言い、逆側の保護リレー制御装置3に対応する遮断器5が配置された送電線6の端部を対向端と言う。
【0018】
保護リレー装置31は、計測器4により計測された送電線6を流れる電流の電流値を取得する。そして、保護リレー装置31は、取得した電流値をデジタル化して自端の電流の電流値データを含むイーサネットフレームを生成する。また、この電流値データは、保護リレー情報と呼ばれる場合があり、また、このイーサネットフレームなどのIP系のデータとされた電流値データは、IP保護リレー情報と呼ばれる場合がある。
【0019】
保護リレー装置31は、電流値データを含むイーサネットフレームを無線通信装置2へ出力する。また、保護リレー装置31は、送電線5の対向端に配置された保護リレー装置31が送信した対向端の電流値データを含むイーサネットフレームの入力を通信制御装置22から受ける。ここで、図1では、紙面に向かって左側から右側へと信号が送られる経路を示したが、実際には2つの保護リレー制御装置3は相互に信号を伝送しあう。
【0020】
保護リレー装置31は、取得した対向端の電流値データを含むイーサネットフレームから対向端の電流値を取得する。そして、自端の電流値と対向端の電流値とを用いて差動保護演算を行い、送電線6における事故発生の判定を行う。送電線6において事故が発生したと判定した場合、保護リレー装置31は、遮断器5に遮断の指令を送る。信号送信側の保護リレー制御装置3が、「信号生成装置」の一例にあたり、信号受信側の保護リレー装置3が、「信号処理装置」の一例にあたる。
【0021】
無線通信装置2は、中継システム1の受信側無線機11及び送信側無線機12とマイクロ波無線回線7を用いて通信を行う。図1では、マイクロ波無線回線7における電波の信号を用いた通信を破線で表した。これに対して、実線は、電気の信号を表す。通信装置2は、通信制御装置21及び無線機22を有する。マイクロ無線回線7は、例えば、20km程度の長さを有する。また、無線通信装置2及び保護リレー制御装置3は、例えば、1つの事業所内に配置される。信号送信側の無線通信装置2が「信号送信装置」の一例にあたり、信号受信側の無線通信装置2が「信号受信装置」の一例にあたる。
【0022】
通信制御装置21は、CPU(Central Processing unit)、メモリ及びハードディスクなどを備えるコンピュータにより実現可能である。CPUは、ハードディスクに格納された通信制御装置21の各種処理を実現するプログラムを読み出し、メモリに展開して実行することで、以下に説明する通信制御装置21の各機能が実現する。この通信制御装置21を実現するコンピュータが、「第1コンピュータ」及び「第2コンピュータ」の一例にあたる。
【0023】
通信制御装置21は、保護リレー装置31から入力される電流値データなどの保護リレー情報を含むイーサネットフレームを送受信する。また、通信制御装置21は、保護リレー情報以外にも、例えば、付近にダムがあればダムの水位の情報やその他の監視情報を含む電力保安情報の入力も受ける。
【0024】
通信制御装置21は、保護リレー情報や電力保安情報などを含むイーサネットフレーム取得すると、そのイーサネットフレームを送信する信号を非再生信号とするか再生信号とするかを判定する。ここで、非再生信号とは、中継区間においてイーサネットフレームに戻さずに転送される信号である。逆に、再生信号とは、中継区間においてイーサネットフレームに戻して転送される信号である。
【0025】
ここで、通信制御装置21は、イーサネットフレームに含まれる情報のうち伝送遅延時間要件が厳しい情報とそれ以外の情報とを区別する情報を予め有する。そして、通信制御装置21は、伝送遅延時間要件が厳しい情報には非再生信号を用いることを決定する。伝送遅延時間要件が厳しい情報は、例えば、電流値データを含む保護リレー情報である。この伝送遅延時間要件が厳しい情報が、「所定情報」の一例にあたる。
【0026】
例えば、通信制御装置21は、保護リレー情報を含むイーサネットフレームの入力を保護リレー装置31から受ける。次に、通信制御装置21は、イーサネットフレームのデータを、無線でデータを送信するための無線用フレームに変換する。その後、通信制御装置21は、生成した無線用フレームを、その無線用フレームが非再生信号又は再生信号のいずれであるかの通知とともに無線機22へ出力する。
【0027】
また、通信制御装置21は、対向端の電流値データを含む無線用フレームの入力を無線機22から受ける。そして、通信制御装置21は、無線用フレームをイーサネットフレームに変換する。その後、通信生後装置21は、対向端の電流値データを含むイーサネットフレームを保護リレー装置31へ出力する。
【0028】
また、通信制御装置21は、電力保安情報を含む無線用フレームの入力を無線機22から受ける。そして、通信制御装置21は、無線用フレームをイーサネットフレームに変換する。その後、通信制御装置21は、電力保安情報を含むイーサネットフレームを管理者の端末装置(不図示)などへ向けて送信する。
【0029】
無線機22は、無線用フレームとともにその無線用フレームが非再生信号か再生信号かを示す通知の入力を通信制御装置21から受ける。そして、無線機22は、無線用フレームの符号化や多重化を行い、無線用フレームをマイクロ波無線信号に変換する。これにより、無線機22は、電気信号を無線信号に変換する。
【0030】
そして、無線機22は、マイクロ波無線回線7を用いてマイクロ波無線信号に変換した無線用フレームを中継システム1の受信側無線機11へ送信する。無線用フレームが非再生信号の場合、無線機22は、図2に示す中継システム1に含まれる受信側無線機11が有する非再生信号受信部111に無線用フレームを送信する。図2は、受信側無線機及び送信側無線機の詳細を表すブロック図である。これに対して、無線用フレームが伝送遅延時間要件が厳しい情報以外の電力保安情報を含む再生信号の場合、無線機22は、その無線用フレームを中継システム1に含まれる受信側無線機11が有する再生信号受信部112へ送信する。
【0031】
また、無線機22は、対向端の保護リレー制御装置3から送信された対向端の電流値データを含む無線用フレームをマイクロ波無線回線7を用いて中継システム1の送信側無線機12の非再生信号送信部121から受信する。そして、無線機22は、受信した無線用フレームに対して多重分離処理や復号化処理などを施して対向端の電流値データを含む無線用フレームを電気信号に変換する。その後、無線機22は、電気信号に変換した対向端の電流値を含む無線用フレームを通信制御装置21へ出力する。
【0032】
また、無線機22は、保護リレー情報以外の電力保安情報を含む無線用フレームを送信側無線機12の再生信号送信部122から受信する。そして、無線機22は、受信した無線用フレームに対して多重分離処理や復号化処理などを施してその送電線管理情報を含む無線用フレームを電気信号に変換する。その後、無線機22は、電気信号に変換した無線用フレームを通信制御装置21へ出力する。
【0033】
中継システム1は、無線通信装置2の間に配置される。中継システム1は、電力保安情報や送電線6の両端の保護リレー制御装置3で生成された保護リレー情報の、無線通信装置2の間におけるデータ転送の中継を行う。中継システム1は、マイクロ波無線回線6を用いて無線通信装置2との間で通信を行う。この中継システム1は、コンピュータや組み込み回路などにより実現され、それらが「第3コンピュータ」の一例にあたる。
【0034】
中継システム1は、図2に示すように、受信側無線機11、送信側無線機12、スイッチ13、再生装置14及び変換装置15を有する。スイッチ13は、無線通信装置2の間の距離に応じた数が設置される。スイッチ13は、1つでもよいし複数でもよい。スイッチ13は、入力された信号を隣のスイッチ13へ転送する。
【0035】
受信側無線機11は、図2に示すように非再生信号受信部111及び再生信号受信部112を有する。
【0036】
非再生信号受信部111は、電力用規格D-208にて規定される6.312Mbpsの物理インタフェースを有する。ここで、非再生信号受信部111が有する通信インタフェースは、仕様が統一された規格を有するインタフェースであれば他のインタフェースを用いてもよい。非再生信号受信部111は、無線通信装置2の無線機22から非再生信号の無線用フレームを受信する。
【0037】
非再生信号受信部111は、受信した無線用フレームに対して逆多重化や復号化を行い、無線用フレームを電気信号に変換する。そして、非再生信号受信部111は、取得したデータの各ビットの情報を、取得した順に図3に示した中継用フレームフォーマット100におけるタイムスロット101に順次格納していく。図3は、中継用フレームフォーマットの一例を示す図である。これにより、非再生信号受信部111は、無線用フレームを、タイムスロット毎に順次データ送信を行うことが可能なJT-G704に対応するフォーマットを有する中継用フレームに変換する。
【0038】
ここで、中継用フレームフォーマット100について説明する。図3に示す中継用フレームフォーマット100は、信号に含まれる各ビットのデータをそのまま格納して転送可能なフォーマットである。例えば、中継用フレームフォーマット100として、JT-G704の6.312Mbpsのフレーム構成を用いることができる。本実施例に係る中継用フレームフォーマット100は、図3においてTS1~TS98で表される8ビットのタイムスロット(TS)101及び5ビットのフレームビット(F)102を有する。
【0039】
タイムスロット101のうちTS97及びTS98で表される16ビットの領域は、2つの保護リレー装置31の間の時刻同期などに用いる。そして、TS1~TS96で表されるタイムスロット101の768ビットの領域にペイロードが格納される。また、フレームビット102は、フレーム同期などに用いるために用意された5ビットの領域である。中継用フレームフォーマット100を有する中継用フレームは、6.312Mbpsの帯域を有する。この場合、ペイロード用の帯域は、6.144Mbpsとなる。この伝送遅延要件が厳しい情報を含む中継用フレーム、すなわち、非再生信号が、「第1中継用信号」の一例にあたる。
【0040】
図2に戻って説明を続ける。非再生信号受信部111は、TS1~TS96で表されるタイムスロット101の全ての領域への値の情報が完了すると、中継用フレームフォーマット100を有する中継用フレームを光回線などの通信回線9を介して送信側無線機12の非再生信号送信部121へ送信する。
【0041】
ここで、IP系ネットワークを用いて中継システム1内において信号を転送する場合、受信側無線機11は、中継用フレームの全体を受信するまで待ったうえで、受信した中継用フレームをイーサネットフレームへ変換して送信する。そのため、中継用フレームの全体を受信するまでの時間の遅延が発生する。
【0042】
これに対して、中継用フレームフォーマット100を用いる場合、各ビットの情報が格納されると中継用フレームが順次送信される。したがって、本実施例に係る中継システム1ではイーサネットフレームと異なり中継用フレームの全体の到着を待つことなくデータが送信でき、且つ、イーサネットフレームフォーマットへの変換も行わないため、遅延を低減することができる。
【0043】
一方、再生信号受信部112は、再生信号の無線用フレームを無線通信装置2の無線機22から受信する。再生信号受信部112は、受信した無線用フレームに対して逆多重処理や復号化処理を施して無線用フレームを電気信号に変換する。そして、再生信号受信部112は、電気信号に変換した無線用フレームを再生装置14へ出力する。この伝送遅延要件が厳しい情報以外の電力保安情報を含む無線用フレーム、すなわち、再生信号が、「第2中継用信号」の一例にあたる。
【0044】
再生装置14は、再生信号の無線用フレームの入力を再生信号受信部112から受ける。再生装置14は、元のイーサネットフレームを含む無線用フレームの全体の取得が完了するまで無線用フレームの受信を行う。その後、無線用フレームの全体の取得が完了すると、再生装置14は、各無線用フレームに格納されたデータを用いてイーサネットフレームを再生する。そして、再生装置14は、再生したイーサネットフレームを光回線などの通信回線8を介して隣のスイッチ13へ送信する。
【0045】
変換装置15は、スイッチ13により中継され通信回線8を介して送信されてきた再生装置14が送出したイーサネットフレームの入力を受ける。そして、変換装置15は、取得したイーサネットフレームを無線フレームに変換する。その後、再生信号送信部122は、無線用フレームを送信側無線機12へ出力する。
【0046】
送信側無線機12は、図2に示すように、非再生信号送信部121及び再生信号送信部122を有する。
【0047】
非再生信号送信部121は、スイッチ13により中継され通信回線8を介して送信されてきた非再生信号受信部111が送出した中継用フォーマット100を有する中継用フレームの入力を受ける。そして、非再生信号送信部121は、取得した中継用フレームを無線用フレームに変換する。次に、非再生信号送信部121は、無線用フレームに対して符号化及び多重化を行い電波の信号に変換する。そして、非再生信号送信部121は、電波の信号に変換した無線用フレームを、マイクロ波無線回線7を用いて無線通信装置2の無線機22へ送信する。
【0048】
再生信号送信部122は、無線用フレームの入力を変換装置15から受ける。そして、再生信号送信部122は、取得した無線用フレームに対して符号化及び多重化を行うことで無線用フレームを電波の信号に変換する。その後、再生信号送信部122は、マイクロ波無線回線7を用いて、電波信号に変換した無線用フレームを無線通信装置2の無線機22へ送信する。
【0049】
ここで、本実施例では、2つの無線通信装置2の間に、受信側無線機11及び送信側無線機12を備えた中継システム1が1つ存在する場合で説明したが、中継システム1は、複数配置されてもよい。その場合、中継システム1の間では送信側無線機12からマイクロ波無線回線7を用いて送信された中継用フレームが次の中継システム1の受信側無線機11で受信されることが繰り返される。これにより、一方の無線通信装置2から他方の無線通信装置2へ情報が転送される。
【0050】
図4は、保護リレーシステムにおける通信要件例を表す図である。保護リレーシステム10では、電流値の伝達に関して図4に示す通信要件を満たすことが必要である。すなわち、伝送遅延時間は、50Hzであれば5ms以下であり、60Hzであれば4ms以下であることが要求される。また、上り下りの伝送遅延時間の差は、50Hzであれば200μs以下であり、60Hzであれば160μs以下であることが要求される。
【0051】
この点、中継システム1がイーサネットフレームを用いて電流値データを転送する場合、パケット送出遅延、パケット転送処理遅延、待ち合わせ遅延、伝送装置処理遅延及び伝送路遅延が生じる。この中で中継システム1において発生する遅延の1つが、中継システム1の受信インタフェースから送信インタフェースへ転送する際に発生する伝送装置処理遅延である。これには、上述したように、イーサネットフレームを形成するための全体のデータにあたる無線用フレームを取得するまでの待機時間やイーサネットフレームの再生及び中継用フレームへの再変換などの時間が含まれる。これにより、中継システム1がイーサネットフレームを用いて電流値データを転送する場合、図4で示した通信要件を満たすことが困難になる。
【0052】
これに対して、本実施例に係る中継システム1は、電流値データを含む無線用フレームを非再生信号として、イーサネットフレームへの変換を行わずに、各ビットの情報を中継用フレームに格納して順次転送する。これにより、伝送処理遅延を短縮することができ、図4で示した通信要件を達成することが可能となる。
【0053】
以下に、本実施例に係る中継システム1を用いた電流値データの送信の評価について説明する。図5は、保護リレーシステムの試験システムのブロック図である。ここでは、図5に示す試験システム220をFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いて構築した。試験システム220は、図5に示すように、LAN(Local Area Network)アナライザ200、無線機201、中継システム1の受信側無線機11、中継システム1の送信側無線機12及び無線機202を有する。
【0054】
LANアナライザ200と無線機201とは、1000base-SXの光回線211で接続される。また、無線機201と受信側無線機11との間の無線区間212及び送信側無線機12と無線機202との間の無線区間213は、同軸ケーブルで接続される。受信側無線機11と送信側無線機12との間は、再生信号としての中継の場合は1000Mbpsで電流値データを転送し、非再生信号としての中継の場合は無線区間212及び213と同じ帯域で電流値データを転送した。そして、無線区間214及び213の帯域を、3.072Mbps、4.480Mbps又は6.144Mbpsのそれぞれに変更して非再生信号としての中継の場合と再生信号としての中継の場合の伝送遅延時間を計測した。
【0055】
図6は、試験システムを用いた伝送遅延時間の評価結果を表す図である。図6は、縦軸で伝送遅延時間を表し、横軸でフレームサイズを表す。ここでは、試験システム220におけるLANアナライザ200から送出されたイーサネットフレームが、中継システム1を通過してLANアナライザ200へ戻ってくるまでの伝送遅延時間を1分間測定した場合の平均値を伝送遅延時間とした。図6におけるグラフ301は、無線区間212及び213の帯域を3.072Mbpsとした場合の再生信号の中継の伝送遅延時間を表す。グラフ302は、無線区間212及び213の帯域を4.480Mbpsとした場合の再生信号の中継の伝送遅延時間を表す。グラフ303は、無線区間212及び213の帯域を6.144Mbpsとした場合の再生信号の中継の伝送遅延時間を表す。グラフ304は、無線区間212及び213の帯域を3.072Mbpsとした場合の非再生信号の中継の伝送遅延時間を表す。グラフ305は、無線区間212及び213の帯域を4.480Mbpsとした場合の非再生信号の中継の伝送遅延時間を表す。グラフ306は、無線区間212及び213の帯域を6.144Mbpsとした場合の非再生信号の中継の伝送遅延時間を表す。
【0056】
図6から、無線区間212及び213の帯域が同じ場合、非再生信号の中継の方が、再生信号の中継に比べて、伝送遅延時間が小さい。すなわち、本実施例係る中継システム1を用いることで、イーサネットフレームへの再生を行う場合に比べて伝送遅延時間を短くすることができる。さらに、無線区間212及び213の帯域が同じ場合、フレームサイズが大きいほど、伝送遅延時間がより低減する。具体的には、フレームサイズが128Byteのとき、6.144Mbps帯域の場合、本実施例係る中継システム1を用いると、イーサネットフレームへの再生を行う場合に比べて伝送時間が約31%低減できる。さらに、同様の帯域をもちいてフレームサイズが512Byteであれば、本実施例に係る中継システム1を用いると、イーサネットフレームへの再生を行う場合に比べて伝送時間が約44%低減できる。
【0057】
4中継5スパンで伝送路長250kmであるモデルを1つの伝送システムとした場合に、伝送遅延時間要件を満足することができる伝送システムの数を、理論的な数値を用いて求める。ここでは、図5に示した試験システムにおける計測値から推定される遅延時間の理論値を用いる。図7は、収容可能な中継システムの数を示す図である。ここで、4中継5スパンのモデルの伝送システムとは、中継システム1が4つで、無線通信区間が5つ存在する伝送経路を有するシステムである。
【0058】
図7に示すように、本実施例に係る中継システム1を用いて非再生信号の中継を行う場合、フレームサイズが64Byteであれば、上述した伝送システムを6つ収容した場合でも、伝送遅延時間要件を満足することができる。これに対して、再生信号の中継を行う場合、フレームサイズが64Byteの場合であっても、上述した伝送システムの収容可能数は4つとなる。また、フレームサイズが512Byteの場合、上述した伝送システムを収容することは困難となる。このように、本実施例に係る中継システム1を用いて非再生信号の中継を行うことで、伝送遅延時間を低減することができ、保護リレー制御システム3間の所望の距離における伝送遅延時間要件を満たす信号伝送を実現することができる。
【0059】
次に、図8を参照して、本実施例に係る中継システム1を用いた信号伝送処理の流れについて説明する。図8は、実施例に係る中継システムによる信号伝送処理のシーケンス図である。
【0060】
無線通信装置2の通信制御装置21は、電流値データを含むIP保護リレー情報を取得する(ステップS1)。他にも、通信制御装置21は、電力保安情報を含むイーサネットフレームを取得する。図8では、保護リレー情報の出力のみを記載したが、通信制御装置22は、他の電力保安情報の入力も受ける。
【0061】
次に、通信制御装置21は、取得したイーサネットフレームのデータを無線用フレームに変換する(ステップS2)。
【0062】
次に、通信制御装置21は、無線用フレームに格納されたデータが非再生信号として伝送するデータか否かを判定する(ステップS3)。
【0063】
非再生信号として伝送する場合(ステップS3:肯定)、通信制御装置22は、無線用フレームとともに非再生信号である通知を無線通信装置2の無線機22へ出力する。無線機22は、無線用フレームを電波の信号に変換し、マイクロ波無線回線7を用いて非再生用の経路で受信側無線機11の非再生信号受信部111へ送信する(ステップS4)。
【0064】
これに対して、再生信号として伝送する場合(ステップS3:否定)、通信制御装置22は、無線用フレームとともに再生信号である通知を無線通信装置2の無線機22へ出力する。無線機22は、無線用フレームを電波の信号に変換し、マイクロ波無線回線7を用いて再生用の経路で受信側無線機11の再生信号受信部112へ送信する(ステップS5)。
【0065】
非再生信号の場合、受信側無線機11の非再生信号受信部111は、無線用フレームを無線通信装置2の通信制御装置21から受信する。そして、非再生信号受信部111は、受信した無線用フレームを電気信号に変換する(ステップS6)。
【0066】
次に、非再生信号受信部111は、電気信号に変換した無線用フレームのデータをタイムスロットに順次格納して中継用フレームを生成する(ステップS7)。
【0067】
その後、非再生信号受信部111は、通信回線9を用いてスイッチ13を介さずに送信側無線機12の非再生信号送信部121へ中継用フレームを送信する(ステップS8)。
【0068】
一方、再生信号の場合、受信側無線機11の再生信号受信部112は、無線用フレームを無線通信装置2の通信制御装置21から受信する。そして、再生信号受信部112は、受信した無線用フレームを電気信号に変換する(ステップS9)。
【0069】
その後、再生信号受信部112は、無線用フレームを再生装置14へ出力する(ステップS10)。
【0070】
再生装置14は、取得した無線用フレームからイーサネットフレームを再生する(ステップS11)。
【0071】
その後、再生装置14は、通信回線8を用いてスイッチ13を介して再生したイーサネットフレームを変換装置15へ送信する(ステップS12)。
【0072】
再生信号の場合、変換装置15は、再生装置14が送出したイーサネットフレームをスイッチ13が配置された無線回線8を介して受信する(ステップS13)。
【0073】
次に、変換装置15は、イーサネットフレームを無線用フレームに変換する(ステップS14)。
【0074】
一方、非再生信号の場合、送信側無線機12の非再生信号送信部121は、受信側無線機11の非再生信号受信部111が送出した中継用フレームを通信回線9を介して受信する(ステップS15)。
【0075】
そして、非再生信号送信部121は、取得した中継用フレームを無線フレームに変換する(ステップS16)。
【0076】
非再生信号送信部121は、無線用フレームを電波の信号に変換する。そして、非再生信号送信部121は、無線用フレームを送信する(ステップS17)。
【0077】
一方、再生信号の場合、変換装置15は、無線用フレームを送信側無線機12の再生信号送信部122へ出力する。再生信号送信部122は、無線用フレームの入力を変換装置15から受ける(ステップS18)。
【0078】
その後、再生信号送信部122は、取得した無線用フレームを電波の信号に変換する。そして、再生信号送信部122は、無線用フレームを出力する(ステップS19)。
【0079】
以上に説明したように、本実施例に係る中継システムでは、保護リレー情報を転送する場合、受信機側無線機が、受信した中継用フレームに格納されたデータの各ビットの値を格納した中継用フレームを送信側無線機に順次送信する。そして、送信側無線機は、受信した中継用フレームに格納された各ビットの値から中継用フレームを生成してマイクロ波無線回線を用いて送信する。これにより、イーサネットフレームの再生を行わずに保護リレー情報を転送することができ、伝送遅延時間を低減することができ、保護リレー制御システム間の伝送遅延時間要件を満たした保護リレー情報の転送が可能となる。
【符号の説明】
【0080】
1 中継システム
2 無線通信装置
3 保護リレー制御装置
4 計測器
5 遮断器
6 送電線
7 マイクロ波無線回線
8 通信回線
9 通信回線
10 保護リレーシステム
11 受信側無線機
12 送信側無線機
13 スイッチ
14 再生装置
15 変換装置
21 通信制御装置
22 無線機
31 保護リレー装置
111 非再生信号受信部
112 再生信号受信部
121 非再生信号送信部
122 再生信号送信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8