(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】飽和脂肪族炭化水素化合物組成物、潤滑油組成物及び飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10M 171/00 20060101AFI20240723BHJP
C10M 177/00 20060101ALI20240723BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20240723BHJP
C10N 70/00 20060101ALN20240723BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
C10M171/00 ZAB
C10M177/00
C10M107/02
C10N70:00
C10N30:00 Z
(21)【出願番号】P 2021534030
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2020028118
(87)【国際公開番号】W WO2021015172
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019137092
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 清彦
(72)【発明者】
【氏名】片山 清和
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 佳奈子
(72)【発明者】
【氏名】各務 成存
(72)【発明者】
【氏名】大場 幸太
(72)【発明者】
【氏名】植田 直幸
(72)【発明者】
【氏名】阪口 貴浩
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-532328(JP,A)
【文献】特表2018-519393(JP,A)
【文献】特表2009-517523(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0323665(US,A1)
【文献】特表2006-503973(JP,A)
【文献】特開2018-132104(JP,A)
【文献】特開2006-342149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G
C10M
C10N
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Noack法による蒸発減量が4質量%以下であり、100℃における動粘度が6.5mm
2/秒以下であり、平均炭素数が36~44であ
り、
炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量が、20質量%以上であり、
炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物が複数の異性体を含有し、
ガスクロマトグラフィーによるクロマトグラムにおける炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物に対応するピーク中、主ピークの面積が40%以下である、飽和脂肪族炭化水素化合物組成物。
【請求項2】
炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量が、90質量%以上である、請求項1に記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物。
【請求項3】
炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物中、11-メチル-11,13-ジオクチルトリコサンの含有量が40質量%以下である、請求項1
又は2に記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1つに記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を含有する潤滑油組成物。
【請求項5】
オレフィンをオリゴマー化して、オレフィンオリゴマーを得る工程1、該オレフィンオリゴマーを異性化して異性体を得る工程2、及び該異性体を水添する工程3を含
み、
工程2が、フリーデル・クラフツ触媒の存在下で異性化するものであり、
フリーデル・クラフツ触媒が、有機アルミニウム化合物と有機ハロゲン化物からなり、
工程2の異性化反応時の反応温度が、120~200℃である、飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法。
【請求項6】
工程1が、フリーデル・クラフツ触媒の存在下でオリゴマー化するものである、請求項
5に記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法。
【請求項7】
工程3の後に、蒸留工程である工程4を有する、請求項
5又は6に記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法。
【請求項8】
前記オレフィンに炭素数20のオレフィンを90質量%以上含む、請求項
5~
7のいずれか1つに記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法。
【請求項9】
前記オレフィンが1-デセンの二量体である、請求項
5~
8のいずれか1つに記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項
5~
9のいずれか1つに記載の製造方法で得られた飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を含有する潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飽和脂肪族炭化水素化合物組成物、潤滑油組成物及び飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護に加えて省資源という観点から、潤滑油にはロングドレイン性が求められている。ロングドレイン性を高めるためには、熱や酸化反応に対する安定性が必要となる。
このような安定性に優れる潤滑油として、各種合成潤滑油が開発されている。例えば、ポリα-オレフィン、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、シリコーン等が合成潤滑油の基油として用いられている。
これらのなかでも、化学的安定性が高く、粘度指数にも優れるポリα-オレフィンが広く使用されており、原料となるα-オレフィンや重合度を調整して、目的とする粘度のポリα-オレフィンが製造され、用いられている。こうしたなか、構造が制御されたポリα-オレフィンを効率よく得ようとする試みがなされている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、α-オレフィンをチーグラー触媒存在下、二量化し、得られた二量体をフリーデル・クラフツ触媒あるいは酸触媒存在下で更に二量化して、水素化することで、11,13-ジオクチル-13-メチルトリコサンのような特定の飽和脂肪族炭化水素を得る方法が開示されている。特許文献2には、酸化安定性、熱安定性及び低温安定性に優れた潤滑油組成物の成分を得る方法として、メタロセン錯体触媒の存在下、α-オレフィンを二量化してビニリデンオレフィンを製造し、ビニリデンオレフィンを酸触媒の存在下、更に二量化し、得られた二量化物を水添する飽和脂肪族炭化水素化合物の製造方法が開示されている。
また、特許文献3には、9-メチル-11,13-ジオクチルトリコサンを含む低粘度油を得るために、水素、メタロセン触媒及び活性剤化合物の存在下で、1-デセンをオリゴマー化し、水素並びに水素化触媒の存在下で、オリゴマー化生成物を接触水素化し、得られたテトラマー留分を、減圧蒸留して分離する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】英国特許第961903号明細書
【文献】特開2006-342149号公報
【文献】特表2018-519393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、機械用の潤滑油には低粘度の基油が求められるため、前記のように重合度等を調整して、粘度の低いポリα-オレフィンを得る。しかし、従来、粘度を下げるためには、分子量を下げる必要があるが、分子量を下げると蒸発しやすくなり、ロングドレイン性が悪化するという問題があった。
そのため、潤滑特性とロングドレイン性を両立するために、低粘度でありながら、耐蒸発性に優れる潤滑油の基油となるポリα-オレフィンが求められていた。
本発明の目的は、潤滑油の基油として用いることで、長寿命である潤滑油を得ることができる、低粘度で蒸発減量が少ない飽和脂肪族炭化水素化合物組成物、その組成物を含有する潤滑油組成物、及び飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定物性かつ特定の平均炭素数を有する飽和脂肪族炭化水素化合物組成物が、低粘度で蒸発減量が少なく、潤滑油の基油として用いた場合、長寿命である潤滑油を得ることができることを見出し、本発明に到達した。さらにオレフィンのオリゴマーを異性化して更に水添することにより潤滑油の基油として有用な飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を得る方法も見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(13)に関する。
(1)
Noack法による蒸発減量が4質量%以下であり、100℃における動粘度が6.5mm2/秒以下であり、平均炭素数が36~44である飽和脂肪族炭化水素化合物組成物。
(2)
炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量が、90質量%以上である、(1)に記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物。
(3)
ガスクロマトグラフィーによるクロマトグラムにおける炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物に対応するピーク中、主ピークの面積が40%以下である、(1)又は(2)に記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物。
(4)
炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物中、11-メチル-11,13-ジオクチルトリコサンの含有量が40質量%以下である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物。
(5)
(1)~(4)のいずれか1つに記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を含有する潤滑油組成物。
(6)
オレフィンをオリゴマー化して、オレフィンオリゴマーを得る工程1、該オレフィンオリゴマーを異性化して異性体を得る工程2、及び該異性体を水添する工程3を含む、飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法。
(7)
工程2が、フリーデル・クラフツ触媒の存在下で異性化するものである、(6)に記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法。
(8)
工程1が、フリーデル・クラフツ触媒の存在下でオリゴマー化するものである、請求項(6)又は(7)に記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法。
(9)
前記フリーデル・クラフツ触媒が、有機アルミニウムを含む、(7)又は(8)に記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法。
(10)
工程3の後に、蒸留工程である工程4を有する、(6)~(9)のいずれか1つに記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法。
(11)
前記オレフィンに炭素数20のオレフィンを90質量%以上含む、(6)~(10)のいずれか1つに記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法。
(12)
前記オレフィンが1-デセンの二量体である、(11)に記載の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法。
(13)
(6)~(12)のいずれか1つに記載の製造方法で得られた飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を含有する潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、潤滑油の基油として用いることで、長寿命である潤滑油を得ることができる、低粘度で蒸発減量が少ない飽和脂肪族炭化水素化合物組成物、その組成物を含有する潤滑油組成物、及び飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、Noack法による蒸発減量が4質量%以下であり、100℃における動粘度が6.5mm2/秒以下であり、平均炭素数が36~44である飽和脂肪族炭化水素化合物組成物、当該飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を含有する潤滑油組成物、及びオレフィンをオリゴマー化して、オレフィンオリゴマーを得る工程1、該オレフィンオリゴマーを異性化して異性体を得る工程2、及び該異性体を水添する工程3を含む、飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法である。
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0010】
[飽和脂肪族炭化水素化合物組成物]
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物は、Noack法による蒸発減量が4質量%以下であり、100℃における動粘度が6.5mm2/秒以下であり、平均炭素数が36~44である。
【0011】
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物は、平均炭素数が36~44であり、38~42が好ましく、39~42がより好ましく、39~41が更に好ましい。
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物は、その成分として、炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物を含むことが好ましく、炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物を最も多く含むことが好ましく、炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物を主成分として含むことがより好ましい。
また、炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量は、飽和脂肪族炭化水素化合物組成物中、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましく、90質量%以上がより更に好ましく、92質量%以上がより更に好ましく、94質量%以上がより更に好ましい。
平均炭素数と炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量が、前記の範囲であると、基油として用いた場合、低粘度で長寿命の潤滑油を得ることができる。
【0012】
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物は、ガスクロマトグラフィーによるクロマトグラムにおける炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物に対応するピーク中、主ピークの面積が40%以下であることが好ましく、35%以下がより好ましく、30%以下が更に好ましく、25%以下がより更に好ましく、23%以下がより更に好ましい。
ガスクロマトグラフィーによるクロマトグラムにおけるピークの面積は、実施例に記載の方法によって求めることができるが、ここで用いる検出器は、FID(水素炎イオン化型検出器)を用いる。
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物は、前記の通り、主成分は炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物であり、当該炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物は複数の異性体を含有する。
そのため、飽和脂肪族炭化水素化合物組成物のガスクロマトグラフィー分析を行うと、炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物に対応するピークが複数見られる。そのなかで、最も面積の大きいピークを前記の主ピークとする。
【0013】
主ピークに対応する化合物は定かではないが、11-メチル-11,13-ジオクチルトリコサンと考えられる。したがって、本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物中、11-メチル-11,13-ジオクチルトリコサンの含有量は、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましく、25質量%以下がより更に好ましく、23質量%以下がより更に好ましい。
【0014】
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物が、低粘度で蒸発減量が少なく、基油として用いた場合、長寿命である潤滑油が得られる理由は定かではないが、以下のように考えられる。11-メチル-11,13-ジオクチルトリコサンは、4級炭素を有するために、熱などの外部刺激によって、酸化分解しやすいと考えられるが、本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物には、4級炭素を有する飽和脂肪族炭化水素化合物が少なく、より安定な構造を有する異性体が主たる構成成分であるためと考えられる。
【0015】
したがって、本発明の平均炭素数が36~44である飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の炭素原子のうち、1分子あたりの4級炭素の割合は1.0%以下が好ましく、0.88%以下がより好ましく、0.75%以下が更に好ましく、0.63%以下がより更に好ましく、0.58%以下がより更に好ましい。
【0016】
<飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の特性>
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物は、低粘度で蒸発減量が少ないという優れた特性を有する。
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物のNoack法による蒸発減量は、4質量%以下であり、3.9質量%以下が好ましく、3.8質量%以下がより好ましく、3.6質量%以下が更に好ましい。Noack法による蒸発減量は、少ないほど好ましく、0質量%であることが望ましいが、平均炭素数が36~44である飽和脂肪族炭化水素化合物組成物であれば、通常、3.0質量%以上である。
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の100℃における動粘度は、6.5mm2/秒以下であり、6.3mm2/秒以下が好ましく、6.1mm2/秒以下がより好ましく、6.0mm2/秒以下が更に好ましい。好適な100℃における動粘度は、潤滑油を用いる用途によって異なるが、平均炭素数が36~44である飽和脂肪族炭化水素化合物組成物であれば、通常、5.0mm2/秒以上である。
【0017】
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物のその他の特性は以下の通りである。
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の40℃における動粘度は、40mm2/秒以下が好ましく、35mm2/秒以下がより好ましく、32mm2/秒以下が更に好ましく、31mm2/秒以下がより更に好ましい。好適な40℃における動粘度は、潤滑油を用いる用途によって異なるが、平均炭素数が36~44である飽和脂肪族炭化水素化合物組成物であれば、通常、25mm2/秒以上である。
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の粘度指数は、110以上が好ましく、120以上がより好ましく、130以上が更に好ましく、140以上がより更に好ましい。好適な粘度指数は、潤滑油を用いる用途によって異なるが、平均炭素数が36~44である飽和脂肪族炭化水素化合物組成物であれば、通常、150以下である。
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の低温クランキング粘度(CCS)は、4000mPa・s以下が好ましく、3700mPa・s以下がより好ましく、3500mPa・s以下が更に好ましく、3400mPa・s以下がより更に好ましい。好適な低温クランキング粘度(CCS)は、潤滑油を用いる用途によって異なるが、平均炭素数が36~44である飽和脂肪族炭化水素化合物組成物であれば、通常、3000Pa・s以上である。
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の流動点は、-40℃以下が好ましく、-50℃以下がより好ましい。
【0018】
[飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法]
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法は、オレフィンをオリゴマー化して、オレフィンオリゴマーを得る工程1、該オレフィンオリゴマーを異性化して異性体を得る工程2、及び該異性体を水添する工程3を含む。
本製造方法で得られる飽和脂肪族炭化水素化合物組成物は、前記飽和脂肪族炭化水素化合物組成物、すなわち、Noack法による蒸発減量が4質量%以下であり、100℃における動粘度が6.5mm2/秒以下であり、平均炭素数が36~44であるものが好ましいが、得られる飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を含む潤滑油組成物の用途によっては、前記飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の範囲に含まれないものも効率的に製造することができる。
本製造方法によって得られる飽和脂肪族炭化水素化合物組成物は、他の製造方法によって得られる飽和脂肪族炭化水素化合物組成物に比べて、動粘度が同一であれば、Noack法による蒸発減量が極めて少ないという優れた特性を有し、また、平均炭素数が同一であれば、Noack法による蒸発減量が少なく、100℃における動粘度が小さいという優れた特性を有する。
以下に本製造方法について説明する。
【0019】
<オレフィン>
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法に用いられるオレフィンは、ビニリデンオレフィン、α-オレフィン、又はこれらの混合物が好ましく、ビニリデンオレフィン、又はビニリデンオレフィンとα-オレフィンの混合物がより好ましく、ビニリデンオレフィンが更に好ましい。
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法によって、前記平均炭素数が36~44である飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を得る場合、本製造方法に用いるオレフィン中、炭素数20のオレフィンの含有量は、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、91質量%以上がより更に好ましい。
炭素数20の飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量が、前記の範囲であると、前記平均炭素数が36~44である飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を効率的に得ることができる。
【0020】
(ビニリデンオレフィン)
ビニリデンオレフィンは、下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0021】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~16の直鎖状若しくは分岐を有するアルキル基を示す。)
【0022】
一般式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~16の直鎖状若しくは分岐を有するアルキル基であるが、本発明においては、炭素数8~16の直鎖状アルキル基であることが好ましい。この炭素数8~16の直鎖状アルキル基としては、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基およびn-ヘキサデシル基が挙げられる。
【0023】
(ビニリデンオレフィンの製造)
前記ビニリデンオレフィンは、α-オレフィンを二量化することで製造することが好ましい。
ここで用いられるα-オレフィンは後述の(α-オレフィン)の項に示したものを好適に用いることができるが、なかでも炭素数6~12のα-オレフィンが好ましく、8~10のα-オレフィンがより好ましい。また、直鎖状α-オレフィンが好ましく、炭素数6~12の直鎖状α-オレフィンがより好ましく、8~10の直鎖状α-オレフィンが更に好ましい。
α-オレフィンの具体例としては、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン等が挙げられ、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセンが好ましく、1-オクテン、1-デセンがより好ましく、1-デセンがより好ましい。これらのα-オレフィンは1種用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
すなわち、本製造方法で用いられるオレフィンがビニリデンオレフィンの場合、本製造方法で用いられるオレフィンは、1-オクテンの二量体、1-デセンの二量体、1-ドデセンの二量体、1-テトラデセンの二量体が好ましく、1-オクテンの二量体、1-デセンの二量体がより好ましく、1-デセンの二量体がより好ましい。
【0024】
α-オレフィンを二量化する方法としては、触媒の存在下、反応を行うことでビニリデンオレフィンを選択的に高収率で得ることができる。
α-オレフィンの二量化で用いられる触媒としては、メタロセン触媒が好ましい。
【0025】
メタロセン錯体触媒としては、(i)共役した炭素五員環を有する配位子をもち、周期律表第4~6族の遷移金属を含むメタロセン錯体と、(ii)(ii-1)カチオンと複数の基が元素に結合したアニオンとからなる化合物及び(ii-2)有機アルミニウム化合物から選ばれる少なくとも一種を含む触媒を用いることが好ましい。
【0026】
触媒を構成する(i)成分の共役した炭素五員環を有する配位子をもち、周期律表第4~6族のメタロセン錯体としては、触媒としての活性の面より下記の一般式(2)又は一般式(3)で表される遷移金属化合物が好ましい。
Q1
a(C5H5-a-bR3
b)(C5H5-a-cR4
c)M1XeYf (2)
Q2
a(C5H5-a-dR5
d)ZM1XeYf (3)
【0027】
式中、Q1は、二つの共役五員環配位子(C5H5-a-bR3
b)及び(C5H5-a-cR4
c)を架橋する結合性基を示し、Q2は、共役五員環配位子(C5H5-a-dR5
d)とZ基を架橋する結合性基を示す。(e+f)は(M1の価数-2)である。M1は周期律表第4~6族の遷移金属を示す。X、Y及びZは、それぞれ共有結合性又はイオン結合性の配位子を表す。
【0028】
Q1及びQ2の具体例としては、(1)メチレン基、エチレン基、イソプロピレン基、メチルフェニルメチレン基、ジフェニルメチレン基、シクロヘキシレン基等の炭素数1~4のアルキレン基、シクロアルキレン基又はその側鎖低級アルキル若しくはフェニル置換体、(2)シリレン基、ジメチルシリレン基、メチルフェニルシリレン基、ジフェニルシリレン基、ジシリレン基、テトラメチルジシリレン基等のシリレン基、オリゴシリレン基又はその側鎖低級アルキル若しくはフェニル置換体、(3)(CH3)2Ge基、(C6H5)2Ge基、(CH3)P基、(C6H5)P基、(C4H9)N基、(C6H5)N基、(CH3)B基、(C4H9)B基、(C6H5)B基、(C6H5)Al基、(CH3O)Al基等のゲルマニウム、リン、窒素、硼素又はアルミニウムを含む炭化水素基〔低級アルキル基、フェニル基、ヒドロカルビルオキシ基(好ましくは低級アルコキシ基)等〕等が挙げられる。これらの中では、触媒としての活性の面よりアルキレン基及びシリレン基が好ましい。
【0029】
また、(C5H5-a-bR3
b)、(C5H5-a-cR4
c)及び(C5H5-a-dR5
d)は共役五員環配位子であり、R3、R4及びR5は、それぞれ炭化水素基、ハロゲン原子、アルコキシ基、珪素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基又は硼素含有炭化水素基を示し、aは0、1又は2である。b、c及びdは、a=0のときはそれぞれ0~5の整数、a=1のときはそれぞれ0~4の整数、a=2のときはそれぞれ0~3の整数を示す。ここで、炭化水素基としては、炭素数1~20のものが好ましく、特に炭素数1~12のものが好ましい。この炭化水素基は一価の基として、共役五員環基であるシクロペンタジエニル基と結合していてもよく、又これが複数個存在する場合には、その2個が互いに結合してシクロペンタジエニル基の一部と共に環構造を形成していてもよい。
【0030】
すなわち、該共役五員環配位子の代表例は、置換又は非置換のシクロペンタジエニル基、インデニル基及びフルオレニル基である。ハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素及びフッ素原子が挙げられ、アルコキシ基としては、炭素数1~12のものが好ましく挙げられる。珪素含有炭化水素基としては、例えば-Si(R6)(R7)(R8)(R6、R7及びR8は炭素数1~24の炭化水素基)等が挙げられ、リン含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基及び硼素含有炭化水素基としては、それぞれ-P(R9)(R10)、-N(R9)(R10)及び-B(R9)(R10)(R9及びR10は炭素数1~18の炭化水素基)等が挙げられる。
R3、R4及びR5がそれぞれ複数ある場合には、複数のR3、複数のR4及び複数のR5は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、一般式(2)において、共役五員環配位子(C5H5-a-bR3
b)及び(C5H5-a-cR4
c)は同一であっても異なっていてもよい。
【0031】
前記炭素数1~24の炭化水素基又は炭素数1~18の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、脂環式脂肪族炭化水素基等が挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-デシル基等が挙げられ、炭素数1~20のものが好ましい。アルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、1-ブテニル基、1-ヘキセニル基、1-オクテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられ、本発明においては炭素数2~10のものが好ましい。アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられ、本発明においては炭素数6~14のものが好ましい。脂環式脂肪族炭化水素基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0032】
M1は周期律表第4~6族の遷移金属元素を示し、具体例としてはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブテン、タングステン等を挙げることができるが、これらの中では、触媒としての活性の面よりチタン、ジルコニウム及びハフニウムが好ましい。Zは共有結合性の配位子であり、ハロゲン原子、酸素(-O-)、硫黄(-S-)、炭素数1~20(好ましくは1~10)のアルコキシ基,炭素数1~20(好ましくは1~12)のチオアルコキシ基、炭素数1~40(好ましくは1~18)の窒素含有炭化水素基(例えば、t-ブチルアミノ基、t-ブチルイミノ基等)、炭素数1~40(好ましくは1~18)のリン含有炭化水素基を示す。X及びYは、それぞれ共有結合性の配位子又は結合性の配位子であり、具体的には水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20(好ましくは1~10)の炭化水素基、炭素数1~20(好ましくは1~10)のアルコキシ基、アミノ基、炭素数1~20(好ましくは1~12)のリン含有炭化水素基(例えば、ジフェニルホスフィン基等)又は炭素数1~20(好ましくは1~12)の珪素含有炭化水素基(例えば、トリメチルシリル基等)、炭素数1~20(好ましくは炭素数1~12)の炭化水素基あるいはハロゲン含有硼素化合物(例えばB(C6H5)4、BF4)を示す。これらの中でハロゲン原子及び炭化水素基が好ましい。このX及びYは互いに同一であっても異なっていてもよい。上記一般式(2)又は(3)で表される遷移金属化合物の中で、インデニル、シクロペンタジエニル又はフルオレニル構造を有する配位子を持つ錯体が特に好ましい。
【0033】
上記一般式(2)又は(3)で表される遷移金属化合物としては、(a)架橋する結合基を有さず共役五員環配位子を2個有する遷移金属化合物、(b)アルキレン基で架橋した共役五員環配位子を2個有する遷移金属化合物、(c)シリレン基架橋共役五員環配位子を2個有する遷移金属化合物、(d)ゲルマニウム,アルミニウム,硼素,リン又は窒素を含む炭化水素基で架橋された共役五員環配位子を2個有する遷移金属化合物、(e)共役五員環配位子を1個有する遷移金属化合物、(f)配位子同士が二重架橋された共役五員環配位子を2個有する遷移金属化合物、(g)更には、上記(a)~(f)に記載の化合物において、これらの化合物の塩素原子を臭素原子,ヨウ素原子,水素原子,メチル基,フェニル基、ベンジル基、メトキシ基、ジメチルアミノ基等に置換えたものを挙げることができる。
前記(a)~(g)に記載の化合物のうち、(c)のシリレン基架橋共役五員環配位子を2個有する遷移金属化合物であって、遷移金属がジルコニウム又はチタンである遷移金属化合物が、好ましく用いられる。
【0034】
触媒を構成する(ii)成分のうちの(ii-1)カチオンと、複数の基が元素に結合したアニオンとからなる化合物としては、特に限定されるものではないが、下記式(4)又は(5)で表される化合物を好適に使用することができる。
【0035】
([L1-R11]k+)p[M2Z1Z2…Zn](n-m)-
q (4)
([L2]k+)p[M3Z1Z2…Zn](n-m)-
q (5)
[式中、L2はM4、R12R13M5、R14
3C、R15R16R17R18N又はR19R20R21Sである。L1はルイス塩基、R11は水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基を示し、M2及びM3はそれぞれ周期律表の第13族、第14族、第15族、第16族及び第17族から選ばれる元素である。Z1~Znはそれぞれ水素原子、ジアルキルアミノ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、炭素数1~20のハロゲン置換炭化水素基、炭素数1~20のアシルオキシ基、有機メタロイド基又はハロゲン原子を示し、Z1~Znはその2以上が互いに結合して環を形成していてもよい。
mはM2及びM3の原子価で1~7の整数、nは2~8の整数、kは[L1-R11]及び[L2]のイオン価数で1~7の整数、pは1以上の整数、q=(p×k)/(n-m)である。
【0036】
また、M4は周期律表の第1族及び第11族から選ばれる元素、M5は周期律表の第8族、第9族及び第10族から選ばれる元素、R12及びR13はそれぞれシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基又はフルオレニル基、R14は炭素数1~20のアルキル基、アリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基を示す。R15~R21はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、置換アルキル基又は有機メタロイド基を示す。]
【0037】
前記ルイス塩基(L1)の具体例としては、アンモニア、メチルアミン、アニリン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、N-メチルアニリン、ジフェニルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、メチルジフェニルアミン、ピリジン、p-プロモ-N,N-ジメチルアニリン、p-ニトロ-N,N-ジメチルアニリン等のアミン類、トリエチルフォスフィン、トリフェニルフォスフィン、ジフェニルフォスフィン等のフォスフィン類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジエチルチオエーテル、テトラヒドロチオフェン等のチオエーテル類、エチルベンゾート等のエステル類等が挙げられる。
【0038】
M2及びM3の具体例としてはB、Al等が挙げられ、M4の具体例としてはNa、Ag、Cu等が挙げられ、M5の具体例としてはFe、Co等が挙げられる。
前記一般式(4)又は(5)で表される化合物の中では、M2及びM3が硼素であるもの、特に一般式(4)においてM2が硼素である化合物が好ましい。
【0039】
触媒を構成する(ii)成分のうちの(ii-2)有機アルミニウム化合物としては、下記一般式(6)、(7)又は(8)で表わされる化合物が挙げられる。
R22
rAlQ3
3-r (6)
(R22は炭素数1~20(好ましくは1~12)のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基等の炭化水素基、Q3は水素原子、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を表わす。rは1~3の数である。)
【0040】
【0041】
(式中、R22は前記と同様である。sは重合度を表わし、通常3~50である。)で表わされる鎖状アルミノキサン。
【0042】
【0043】
(式中、R22は前記と同様である。また、sは重合度を表わし、3~50が好ましい。)で表わされる環状アルキルアルミノキサン。
【0044】
本発明で用いる触媒は、前記(i)成分と(ii-1)成分とを主成分とするもの、前記(i)成分と(ii-2)成分とを主成分とするもの、前記(i)成分と(ii-1)成分と(ii-2)成分とを主成分とするものである。(ii-1)成分を用いる場合、(i)成分と(ii-1)成分との使用条件は限定されないが、(i)成分:(ii-1)成分の比(モル比)を1:0.01~1:100、特に1:1~1:10とすることが好ましい。また、使用温度は-100~250℃の範囲とすることが好ましく、圧力、時間は任意に設定することができる。また、(ii-2)成分を用いる場合、(ii-2)成分の使用量は、(i)成分1モルに対し通常1~1000モル、好ましくは3~600モルである。(ii-2)成分を用いると活性の向上を図ることができるが、あまり多いと有機アルミニウム化合物が無駄になる。なお、(i)成分、(ii-1)成分は予め接触させ、接触生成物を分離、洗浄して使用してもよく、反応系内で接触させて使用してもよい。また、(ii-2)成分は、(i)成分、(ii-1)成分あるいは(i)成分と(ii-1)成分との接触生成物と接触させて用いてもよい。接触は、あらかじめ接触させても、反応系内で接触させてもよい。
【0045】
α-オレフィンの二量化反応は、α-オレフィン及び上記触媒の共存下で、必要に応じて炭化水素溶媒中で、200℃以下、好ましくは10~100℃の温度で、4~200時間、好ましくは8~100時間攪拌することにより行うことができる。反応圧力は、通常、常圧又は加圧とする。反応終了後、水酸基を有する化合物(例えばメタノール)で失活させ、必要に応じて酸(例えば塩酸水溶液や硫酸)で洗浄した後、生成物(油分)を真空蒸留することにより、二量体(ビニリデンオレフィン)を、高純度かつ高収率で得ることができる。炭化水素溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、シメン等の芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、ヘキサデカン、オクタデカン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
(α-オレフィン)
α-オレフィンは、炭素-炭素二重結合がα位(末端)にあるアルケンのことである。以下に示すα-オレフィンは、前記ビニリデンオレフィンの製造にも、飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法における後述の工程1(オレフィンオリゴマーを得る工程)にも用いることができる。
前記ビニリデンオレフィンの製造に用いるα-オレフィンは、炭素数6~12のα-オレフィンが好ましく、8~10のα-オレフィンがより好ましい。
また、一般式
H2C=CH-(CH2)n-CH3
(式中、nは7~15の整数を示す。)
で表される直鎖状α-オレフィンが好ましく、炭素数6~12の直鎖状α-オレフィンがより好ましく、炭素数8~10の直鎖状α-オレフィンが更に好ましい。
α-オレフィンの具体例としては、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン等が挙げられ、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセンが好ましく、1-オクテン、1-デセンがより好ましい。これらのα-オレフィンは1種用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0047】
また、飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法における後述の工程1(オレフィンオリゴマーを得る工程)に用いるα-オレフィンは、炭素数6~12のα-オレフィンが好ましく、8~10のα-オレフィンがより好ましい。
また、一般式
H2C=CH-(CH2)n-CH3
(式中、nは7~15の整数を示す。)
で表される直鎖状α-オレフィンが好ましく、炭素数6~12の直鎖状α-オレフィンがより好ましく、炭素数8~10の直鎖状α-オレフィンが更に好ましい。
α-オレフィンの具体例としては、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン等が挙げられ、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセンが好ましく、1-オクテン、1-デセンがより好ましい。これらのα-オレフィンは1種用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0048】
<工程1(オレフィンオリゴマーを得る工程)>
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法は、前記のオレフィンをオリゴマー化して、オレフィンオリゴマーを得る工程1を含む。
本工程は、触媒存在下、前記のオレフィンをオリゴマー化して、オレフィンオリゴマーを得る工程である。
【0049】
本工程で用いられる触媒は、酸触媒が好ましい。
酸触媒としては、フリーデル・クラフツ(Friedel-Crafts)触媒、固体酸触媒、ルイス酸触媒、ブレーンステッド酸触媒が挙げられ、なかでもフリーデル・クラフツ触媒がより好ましい。すなわち、工程1は、フリーデル・クラフツ触媒の存在下でオリゴマー化するものであることがより好ましい。
【0050】
フリーデル・クラフツ触媒は、有機アルミニウム化合物を含むことが好ましく、有機アルミニウム化合物と有機ハロゲン化物からなるものがより好ましい。
有機アルミニウム化合物としては、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハライド、アルキルアルミニウムジハライド等が挙げられ、ジアルキルアルミニウムハライドが好ましい。
有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド等が挙げられ、なかでもジエチルアルミニウムクロリドが好ましい。
有機ハロゲン化物は、アルキルハライド、アリルハライドが挙げられ、アルキルハライドが好ましい。
アルキルハライドの具体例としては、t-ブチルクロリド、sec-ブチルクロリド、シクロヘキシルクロリド、2,5-ジメチル-2-クロロヘキサンが挙げられ、t-ブチルクロリドが好ましい。
【0051】
本工程で用いる際の有機アルミニウム化合物と有機ハロゲン化物のモル比(有機アルミニウム化合物/有機ハロゲン化物)は、1/10~1/0.5が好ましく、1/5~1/1がより好ましく、1/4~1/2が更に好ましい。前記比が1/10以上であると、得られるオリゴマー中のハロゲン含有量を低減することができ、除去が容易になる。また、前記比が1/0.5以下であると、反応を再現性よく実施することができる。
また、本工程で用いるフリーデル・クラフツ触媒の濃度は、基質(オレフィン)の25℃における体積に対するアルミニウムのモル量として、0.5~50mmol/Lが好ましく、0.6~20mmol/Lがより好ましく、0.8~10mmol/Lが更に好ましく、1~5mmol/Lがより更に好ましい。触媒の濃度が0.5mmol/L以上であると、反応を再現性よく実施することができ、触媒の濃度が50mmol/L以下であると、得られるオリゴマー中のハロゲン含有量を低減することができ、除去が容易になる。
【0052】
本工程においては、反応を開始する前に、オレフィン中の水分や酸化物等を除去する処理を行うことが好ましい。水分等を除去する方法としては、オレフィン中に吸着剤を投入して吸着除去する方法、不活性気体や乾燥気体をバブリングして気流によって除去する方法が挙げられ、これらを併用することが好ましい。
吸着剤としては、活性アルミナ、モレキュラーシーブが好ましい。
バブリングする気体としては、窒素が好ましい。
【0053】
本工程で用いられるオレフィンは、前記のオレフィンに記載したビニリデンオレフィン、α-オレフィン、ビニリデンオレフィンとα-オレフィンの混合物が好ましく、ビニリデンオレフィン、ビニリデンオレフィンとα-オレフィンの混合物がより好ましく、ビニリデンオレフィンが更に好ましい。具体的な好適なオレフィンは前記の通りである。
【0054】
二量化反応は、触媒とオレフィンを接触させて進行させる。
二量化反応時の反応温度は、0~100℃が好ましく、25~90℃がより好ましく、30~80℃が更に好ましい。反応温度が0℃以上であると、反応開始までの時間が短くてすみ、反応の再現性も良好となる。また、反応温度が100℃以下であると、触媒の失活やオレフィンの異性化といった副反応も生じることなく、目的のオリゴマーが高収率で得られる。
なお、本反応は発熱反応であるため、反応中は温度の上昇が見られるが、その上限値を前記範囲に調節することが好ましい。また反応の終点は、発熱がなくなったことで判断することができる。
【0055】
<工程2(異性体を得る工程)>
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法は、工程1(オリゴマー化工程)で得られたオレフィンオリゴマーを異性化して異性体を得る工程2を含む。
本工程は、触媒存在下、工程1(オリゴマー化工程)で得られたオレフィンオリゴマーを異性化して異性体を得る工程である。
【0056】
本工程に用いるオレフィンオリゴマーは、前記工程1(オレフィンオリゴマーを得る工程)で得られるが、反応混合物をそのまま用いてもよいし、触媒を除去してもよいが、生産効率上、反応混合物をそのまま用いることが好ましい。
【0057】
本工程で用いられる触媒は、酸触媒が好ましい。
酸触媒としては、フリーデル・クラフツ(Friedel-Crafts)触媒、固体酸触媒、ルイス酸触媒、ブレーンステッド酸触媒が挙げられ、なかでもフリーデル・クラフツ触媒がより好ましい。すなわち、工程2は、フリーデル・クラフツ触媒の存在下で異性化するものであることがより好ましい。
【0058】
フリーデル・クラフツ触媒は、有機アルミニウム化合物を含むことが好ましく、有機アルミニウム化合物と有機ハロゲン化物からなるものがより好ましい。
有機アルミニウム化合物としては、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハライド、アルキルアルミニウムジハライド等が挙げられ、ジアルキルアルミニウムハライドが好ましい。
有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド等が挙げられ、なかでもジエチルアルミニウムクロリドが好ましい。
有機ハロゲン化物は、アルキルハライド、アリルハライドが挙げられ、アルキルハライドが好ましい。
アルキルハライドの具体例としては、t-ブチルクロリド、sec-ブチルクロリド、シクロヘキシルクロリド、2,5-ジメチル-2-クロロヘキサンが挙げられ、t-ブチルクロリドが好ましい。
【0059】
本工程で用いる際の有機アルミニウム化合物と有機ハロゲン化物のモル比(有機アルミニウム化合物/有機ハロゲン化物)は、1/10~1/0.5が好ましく、1/5~1/1がより好ましく、1/4~1/2が更に好ましい。前記比が1/10以上であると、得られる各異性体中のハロゲン含有量を低減することができ、除去が容易になる。また、前記比が1/0.5以下であると、反応を再現性よく実施することができる。
【0060】
また、本工程で用いるフリーデル・クラフツ触媒の濃度は、基質(オリゴマー)の25℃における体積に対するアルミニウムのモル量として、0.5~100mmol/Lが好ましく、1~40mmol/Lがより好ましく、1.5~20mmol/Lが更に好ましく、2~10mmol/Lがより更に好ましい。触媒の濃度が0.5mmol/L以上であると、反応を再現性よく実施することができ、触媒の濃度が100mmol/L以下であると、得られる各異性体中のハロゲン含有量を低減することができ、除去が容易になる。なお、ここで規定するフリーデル・クラフツ触媒の濃度は、前記工程1(オレフィンオリゴマーを得る工程)でフリーデル・クラフツ触媒を用い、工程1で得られた反応混合物をそのまま工程2に用いた場合には、工程1で用いた触媒との合計量による濃度である。
【0061】
異性化反応時の反応温度は、120~200℃が好ましく、130~190℃がより好ましく、140~180℃が更に好ましい。反応温度が120℃以上であると、異性化が短時間で効率よく進行する。また、反応温度が200℃以下であると、分解反応が生じることなく、目的の異性体が高収率で得られる。
【0062】
前記触媒を用いて所定の温度で異性化を行うことで、前記工程で得られたオレフィンオリゴマーが異性化し、より安定な構造となるものと考えられる。詳細は定かではないが、以下のように考えられる。たとえば、1-デセンの二量体を用いた前記工程で得られたオレフィンオリゴマーの主生成物は、13-メチル-11,13-ジオクチルトリコサ-11-エン、13-メチル-11,13-ジオクチルトリコサ-10-エン、11-メチル-11-オクチル-13-オクチリデントリコサンと考えられる。これらにそのまま水添を行うと、11-メチル-11,13-ジオクチルトリコサンが得られるが、これは11位にメチル基を有し、メチル基の結合する炭素原子は4級炭素である。潤滑油として使用した場合、この4級炭素部分が分解しやすく、蒸発減量が多くなると考えられる。一方、本発明の製造方法では、異性化によって4級炭素部分が減少し、Noack試験等の過酷な条件においても、分解が抑制され、蒸発減量が少ないものが得られると考えられる。
【0063】
異性化反応時の反応時間は、1~240分が好ましく、2~180分がより好ましく、3~160分が更に好ましく、5~140分がより更に好ましい。反応時間が240分以下であると、重合反応等の副反応が生じることなく、目的の異性体が高収率で得られる。
【0064】
異性化反応は、水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することで終了することが好ましい。
反応を終了させた後は、水にて洗浄して触媒あるいは触媒に由来する塩等を除去することが好ましい。水による洗浄は、一旦アルカリ性とした混合物を中性になるように行うことが好ましく、洗浄に用いた水のpHが9以下になるように洗浄することが好ましい。
【0065】
<工程3(異性体を水添する工程)>
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法は、工程2(異性化工程)で得られた異性体を水添する工程3を含む。
【0066】
本水添工程においては、水添触媒を用いて、前記異性体を気相水素化して、飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を製造することが好ましい。
この水添工程では、一般に使用される気相水素化法を用いることができる。触媒に、パラジウム、白金などの貴金属触媒を用いた場合は、反応温度は60~100℃、水素圧は0.1~1MPaで反応を行うことが好ましい。ニッケル系触媒を用いた場合は、反応温度は150~250℃、水素圧は1~20MPaで反応を行うことが好ましい。触媒量は、いずれの系も、前記異性体に対し、通常0.05~50質量%であり、2~48時間の反応で水添反応が完結する。なお、水添反応は、前記の水添触媒を用いることで速やかに進行するが、水素の顕著な吸収が収まってからも、残存する微量の不飽和炭化水素化合物の水添を完全に行なう為、昇温ないし昇圧などの追加操作を行ってもよい。
【0067】
<工程4(蒸留工程)>
本発明の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の製造方法において、工程3(水添工程)の後に、蒸留工程である工程4を有することが好ましい。
本蒸留工程は、不純物あるいは目的としない炭素数の炭化水素化合物を除去するために行うことが好ましい。
蒸留の条件は、目的とする飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の炭素数等によって適宜変更すればよい。
【0068】
<前記製造方法で得られた飽和脂肪族炭化水素化合物組成物>
本発明の製造方法で得られた飽和脂肪族炭化水素化合物組成物は、ガスクロマトグラフィーによるクロマトグラムにおいて、最も含有量の多い炭素数の飽和脂肪族炭化水素化合物(主成分)に対応するピーク中、主ピークの面積が40%以下であることが好ましく、35%以下がより好ましく、30%以下が更に好ましく、25%以下がより更に好ましく、23%以下がより更に好ましく、20%以下がより更に好ましい。
ガスクロマトグラフィーによるクロマトグラムにおけるピークの面積は、実施例に記載の方法によって求めることができるが、ここで用いる検出器は、FID(水素炎イオン化型検出器)を用いる。
前記ガスクロマトグラフィー分析を行うと、最も含有量の多い炭素数の飽和脂肪族炭化水素化合物(主成分)に対応するピークが複数見られる。そのなかで、最も面積の大きいピークを主ピークとする。
【0069】
本発明の製造方法で得られた飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の炭素原子のうち、1分子あたりの4級炭素の割合は1.0%以下が好ましく、0.88%以下がより好ましく、0.75%以下が更に好ましく、0.63%以下がより更に好ましく、0.58%以下がより更に好ましく、0.5%以下がより更に好ましい。
【0070】
[潤滑油組成物]
本発明の潤滑油組成物は、前記の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を含有する。すなわち、本発明の潤滑油組成物は、Noack法による蒸発減量が4質量%以下であり、100℃における動粘度が6.5mm2/秒以下であり、平均炭素数が36~44である飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を含有する。
【0071】
潤滑油組成物中、前記の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物は、55質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。55質量%以上であると、潤滑油基油の揮散がなく、減量が抑えられ、オイル交換の回数を減らすことができる。
【0072】
また、本発明の潤滑油組成物には、前記の製造方法で得られた飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を含有する潤滑油組成物も含まれる。すなわち、本発明の潤滑油組成物は、オレフィンをオリゴマー化して、オレフィンオリゴマーを得る工程1、該オレフィンオリゴマーを異性化して異性体を得る工程2、及び該異性体を水添する工程3を含む製造方法で得られた飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を含有する。
【0073】
潤滑油組成物中、前記の製造方法で得られた飽和脂肪族炭化水素化合物組成物は、55質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。55質量%以上であると、潤滑油基油の揮散がなく、減量が抑えられ、オイル交換の回数を減らすことができる。
【0074】
本発明の潤滑油組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で各種の添加剤を用いることができる。
これら添加剤としては、酸化防止剤、油性剤、極圧剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、防錆剤、金属不活性化剤、及び消泡剤等が挙げられる。
【0075】
酸化防止剤としては、従来の炭化水素系合成潤滑油に使用されているアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤を使用することができる。これらの酸化防止剤は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
酸化防止剤の配合量は、潤滑油全量基準で、通常0.01~10質量%程度であり、好ましくは0.03~5質量%である。
【0076】
油性剤としては、脂肪族アルコール、脂肪酸や脂肪酸金属塩などの脂肪酸化合物、ポリオールエステル、ソルビタンエステル、グリセライドなどのエステル化合物、脂肪族アミンなどのアミン化合物などを挙げることができる。
油性剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油全量基準で、通常0.1~30質量%程度であり、好ましくは0.5~10質量%である。
【0077】
極圧剤としては、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、硫黄及び金属を含む極圧剤、リン及び金属を含む極圧剤が挙げられる。これらの極圧剤は一種を単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。極圧剤としては、分子中に硫黄原子及び/又はリン原子を含み、耐荷重性や耐摩耗性を発揮しうるものであればよい。
極圧剤の配合量は、配合効果及び経済性の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.01~30質量%程度であり、より好ましくは0.01~10質量%である。
【0078】
清浄分散剤としては、金属スルホネート、金属サリチレート、金属フィネート、コハク酸イミドなどが挙げられる。清浄分散剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.1~30質量%程度であり、好ましくは0.5~10質量%である。
【0079】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン水素化共重合体など)等が挙げられる。粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.5~35質量%程度であり、好ましくは1~15質量%である。
【0080】
防錆剤としては、金属系スルホネート、コハク酸エステルなどを挙げることができる。防錆剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.01~10質量%程度であり、好ましくは0.05~5質量%である。
【0081】
金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール等が挙げられる。金属不活性化剤の好ましい配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.01~10質量%程度であり、好ましくは0.01~1質量%である。
【0082】
消泡剤としては、メチルシリコーン油、フルオロシリコーン油、ポリアクリレート等が挙げられる。消泡剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.0005~0.01質量%程度である。
【0083】
本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲でその他の基油を併用することができる。その他の基油としては、鉱油や合成油の中から適宜選ぶことができる。
【実施例】
【0084】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0085】
各実施例および比較例で得られた飽和脂肪族炭化水素化合物組成物の分析方法及び評価方法は以下の通りである。
(1)組成(炭素数の分布)
飽和脂肪族炭化水素化合物組成物0.1gを、トルエン25mLに溶解した溶液を用いて、ガスクロマトグラフ(Agilent6890N、Agilent Technologies社製)を使用し、下記の測定条件で該組成物の組成を測定した。得られたクロマトグラムから各炭素数に該当する成分を算出し、組成(炭素数の分布)を求めた。
(測定条件)
カラム:TC-1(30m×0.25mm、膜厚0.25μm、ジーエルサイエンス株式会社製)
カラムオーブン温度:10℃/分の速度で100℃(ホールド時間0分)から320℃(ホールド時間10分)まで昇温した。
注入口温度:300℃
検出器温度:320℃
検出器:FID
キャリアガス:He
流速:1mL/分
注入量:1.0μL
スプリット:1/50
【0086】
(2)主ピーク面積の割合
測定条件を下記のように変更した以外は、(1)と同様の方法で、該組成物の組成を測定した。得られたクロマトグラムから同一炭素数の化合物に由来する各ピーク面積を算出し、主ピーク面積の割合を求めた。
(測定条件)
カラム:CP-SimDist(5m×0.53mm、膜厚0.17μm、ジーエルサイエンス株式会社製)
カラムオーブン温度:20℃/分の速度で50℃(0.1分)から430℃(15分)まで昇温した。
注入口温度:オーブントラック(カラムオーブン温度+3℃)
検出器温度:430℃
検出器:FID
キャリアガス:He
線速:40cm/秒
注入モード:オンカラム注入
注入量:0.5μL
【0087】
(3)40℃及び100℃動粘度
40℃及び100℃における動粘度は、JIS K2283に準拠して測定した。
(4)粘度指数
粘度指数は、JIS K2283に準拠して測定した。
(5)Noack法による蒸発減量
Noack法による蒸発減量は、JPI-5S-41 B法に準拠して測定した。
(6)低温クランキング粘度(CCS)
低温クランキング粘度(CCS)は、JIS K2010に準拠して測定した。
(7)流動点
流動点は、JIS K2269に準拠して測定した。
【0088】
製造例1(炭素数20のビニリデンオレフィンの製造:1-デセンの二量体の製造)
窒素置換した内容積5リットルの三つ口フラスコに、1-デセン4.0L、メタロセン錯体であるビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド0.9g(3ミリモル)及びメチルアルミノキサン(W.R.Grace社製、アルミニウム換算8ミリモル)を順次添加し、室温(20℃)にて攪拌を行った。反応液は、黄色から赤褐色に変化した。反応を開始してから48時間経過後、メタノールを加えて反応を停止させ、続いて塩酸水溶液を反応液に添加して有機層を洗浄した。次に、有機層を真空蒸留し、沸点120~125℃/26.6Paの留分(1-デセンの二量体)3.1Lを得た。この留分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、炭素数20成分の純度は98.9質量%であり、炭素数20成分中の炭素数20のビニリデンオレフィンの含有量は97.6質量%であった。以降の実施例及び比較例では、本製造例で得られた1-デセンの二量体を、C20オレフィン(1)とする。
【0089】
実施例1(飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(1)の製造)
(1)オリゴマー化工程(工程1)
製造例1で得られたC20オレフィン(1)に、活性アルミナ(NKHO-24、住友化学株式会社製)を投入し、水分等を除去するために窒素でバブリング処理を行い、乾燥処理C20オレフィン(1)を得た。三方コック、温度計、撹拌子を設置した三口フラスコを窒素置換し、乾燥処理C20オレフィン(1)1968mLを投入し、攪拌しながら、油浴で加熱し、乾燥処理C20オレフィン(1)の温度を30℃にした。ここに触媒として、tert-ブチルクロリド6.0mmol及びジエチルアルミニウムクロリド(DEAC)2.0mmolを加えた。なお、tert-ブチルクロリド及びジエチルアルミニウムクロリド(DEAC)は、前記乾燥処理C20オレフィン(1)で0.5mol/Lとなるように希釈した溶液を予め調製し、それらの溶液を加えた。触媒を添加して、10分後に反応溶液の温度が上昇し、その2分後に温度の上昇が止まった。これによって、オリゴマー化が終了したことがわかる。
【0090】
(2)異性化工程(工程2)
次に、反応溶液の温度を150℃にし、ここに触媒として、tert-ブチルクロリド6.0mmol及びジエチルアルミニウムクロリド(DEAC)2.0mmolを加えた。添加方法は前工程と同じである。150℃で1時間反応を行った後、反応溶液を60℃に冷却し、1.0mol/L水酸化ナトリウム水溶液160mLを添加し、撹拌して、水酸化ナトリウム水溶液を除いた。次に、イオン交換水を添加して、撹拌して、イオン交換水を除去する操作(水による洗浄)を繰り返し、洗浄後のイオン交換水のpHが9以下になったところで、水による洗浄を終了し、乾燥のために硫酸マグネシウムを入れ、炭素数40のビニリデンオレフィンを得た。ここで、ガスクロマトグラフ分析をしたところ、炭素数40成分中の主ピーク面積の割合は12%であった。また、生成物中の炭素数40成分は60.4質量%であった。
【0091】
(3)水添工程(工程3)
次に、工程2で得られた炭素数40のビニリデンオレフィンを、オートクレーブに移し、これに5質量%パラジウム・アルミナを添加してから窒素置換し、更に水素置換してから昇温し、水素圧0.8MPa、80℃の条件で水添反応を24時間行い、飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を得た。ここで、ガスクロマトグラフ分析をしたところ、炭素数40成分中の主ピーク面積の割合は23%であった。
【0092】
(4)蒸留工程
次に、工程3で得られた飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を蒸留フラスコに移し、真空度26.6Paとし油浴を室温から150℃に昇温し、150℃にて低分子量物を留去させた後、昇温し190℃、26.6Paにて30分間蒸留を行い、蒸留残渣を得た。得られた蒸留残渣を235℃、5.3Paにて薄膜蒸留装置で蒸留し、飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(1)を得た。組成物の組成及び各特性は表1に示す。なお、得られた飽和脂肪族炭化水素化合物の平均炭素数は、40.31であり、炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量は、94.6質量%であった。
【0093】
比較例1(飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(2)の製造)
実施例1の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(1)の製造において、(2)異性化工程(工程2)を行わなかった以外は、実施例1と同様にして飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(2)を得た。ガスクロマトグラフ分析による炭素数40成分中の主ピーク面積の割合は88%であった。得られた組成物の組成及び各特性は表1に示す。
【0094】
比較例2(飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(3)の製造)
実施例1の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(1)の製造において、(1)オリゴマー化工程(工程1)の反応溶液の温度を30℃から100℃に変更し、(2)異性化工程(工程2)を行わなかった以外は、実施例1と同様にして飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(3)を得た。ガスクロマトグラフ分析による炭素数40成分中の主ピーク面積の割合は53%であった。得られた組成物の組成及び各特性は表1に示す。
【0095】
【0096】
実施例1で得られた飽和脂肪族炭化水素化合物組成物は、Noack法による蒸発減量が4質量%以下であり、100℃における動粘度も6.5mm2/秒以下であることから、これを潤滑油の基油として用いると、得られる潤滑油は長寿命となる。
【0097】
製造例2(炭素数20のビニリデンオレフィンと炭素数10のα-オレフィンの混合物の製造:1-デセンの二量体と1-デセンの混合物)
加熱乾燥した内容積1500Lの反応器に、窒素雰囲気下で、1-デセン1000Lを投入し、3mol/Lのメチルアルミノキサンを1.33L加え、35℃まで昇温した。次にビス(t-ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドの10mmol/Lトルエン溶液6.4Lを加え、水素圧3kPa(G)、40℃で9時間反応させた。1質量%NaOH水溶液200Lで反応を停止し、イオン交換水で2回洗浄した。次に得られた反応生成物を、蒸留によって高沸点物を除去し、1-デセンの二量体と1-デセンの混合物を得た。得られた混合物の組成は、1-デセンの二量体78.7質量%、1-デセン21.3質量%であった。以降の実施例及び比較例では、本製造例で得られた1-デセンの二量体と1-デセンの混合物を、C20・C10オレフィン(2)とする。
【0098】
実施例2(飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(4)の製造)
実施例1の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(1)の製造において、(1)オリゴマー化工程(工程1)で用いた製造例1で得られたC20オレフィン(1)の替わりに、製造例2で得られたC20・C10オレフィン(2)を用い、(4)蒸留工程における蒸留条件を、本飽和脂肪族炭化水素化合物組成物に適した条件にした以外は、実施例1と同様にして飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(4)を得た。ガスクロマトグラフ分析による炭素数40成分中の主ピーク面積の割合は16%であった。得られた組成物の組成及び各特性は表2に示す。
【0099】
比較例3(飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(5)の製造)
実施例2の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(4)の製造において、(2)異性化工程(工程2)を行わなかった以外は、実施例2と同様にして平均炭素数40の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(5)を得た。ガスクロマトグラフ分析による炭素数40成分中の主ピーク面積の割合は80%であった。得られた組成物の組成及び各特性は表2に示す。
【0100】
【0101】
実施例1及び2の製造方法は、平均炭素数が同等の比較例の製造方法と比べ、動粘度が低いにも関わらず、蒸発減量が少ない飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を得ることができることが明らかである。このことから、実施例で得られた飽和脂肪族炭化水素化合物組成物は、低粘度であることが必要な機械用潤滑油に用いても、長時間劣化することのない優れた潤滑油基油であることがわかる。
【0102】
製造例3(炭素数16~24のビニリデンオレフィン混合物の製造:1-オクテン、1-デセン及び1-ドデセンの混合物の二量体の製造)
加熱乾燥し窒素置換した内容積2Lのガラス製容器に1-オクテン、1-デセン及び1-ドデセンをそれぞれ666mLずつ入れ、メチルアルミノキサンのトルエン溶液(アルミニウム換算で20ミリモル)、ジエチルアルミニウムクロリドのヘキサン溶液(アルミニウム換算で4ミリモル)、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドのトルエン溶液(2ミリモル)を順次添加し、50℃にて攪拌を行った。5時間経過後、水酸化ナトリウム水溶液を加えて反応を停止させた。次に、有機層を真空蒸留し、沸点115℃~180℃/24.0Paの留分(炭素数16~24のビニリデンオレフィン混合物;1-オクテン、1-デセン及び1-ドデセンの混合物の二量体)を1.1L得た。この留分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、炭素数16~24成分の含有量は96.5質量%であった。以降の実施例及び比較例では、本製造例で得られた炭素数16~24のビニリデンオレフィン混合物を、C16~24オレフィン(3)とする。
【0103】
実施例3(飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(6)の製造)
実施例1の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(1)の製造において、(1)オリゴマー化工程(工程1)で用いた製造例1で得られたC20オレフィン(1)の替わりに、製造例3で得られたC16~24オレフィン(3)を用い、(工程1)及び(工程2)においてジエチルアルミニウムクロリド(DEAC)の替わりに、エチルアルミニウムセスキクロライド(EASC)を用い、更に(4)蒸留工程において196℃/24.0Pa以下の留分を除いた以外は、実施例1と同様にして、主たる成分の炭素数が32~48である飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(6)を得た。得られた組成物の組成及び各特性は表3に示す。
【0104】
比較例4(飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(7)の製造)
実施例3の飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(6)の製造において、(2)異性化工程(工程2)を行わなかった以外は、実施例3と同様にして、主たる成分の炭素数が32~48である飽和脂肪族炭化水素化合物組成物(7)を得た。得られた組成物の組成及び各特性は表3に示す。
【0105】
【0106】
実施例3の製造方法は、平均炭素数が同等の比較例4の製造方法と比べると、動粘度をほぼ同等に維持しつつ、蒸発減量が極めて少ない飽和脂肪族炭化水素化合物組成物を得ることができることが明らかである。このことから、実施例で得られた飽和脂肪族炭化水素化合物組成物は、特定粘度に調整した潤滑油等に用いても、長時間劣化することのない優れた潤滑油基油であることがわかる。