(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】マルチ電子ビーム画像取得装置及びマルチ電子ビーム画像取得方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/147 20060101AFI20240723BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H01J37/147 B
H01J37/22 502Z
H01J37/22 502H
(21)【出願番号】P 2023556136
(86)(22)【出願日】2022-08-08
(86)【国際出願番号】 JP2022030222
(87)【国際公開番号】W WO2023074082
(87)【国際公開日】2023-05-04
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2021174613
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】石井 浩一
(72)【発明者】
【氏名】安藤 厚司
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-186140(JP,A)
【文献】特開2019-200983(JP,A)
【文献】特開2020-205160(JP,A)
【文献】特開2021-015781(JP,A)
【文献】特開2020-145184(JP,A)
【文献】特開2011-192498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置するステージと、
マルチ1次電子ビームを放出する放出源と、
前記マルチ1次電子ビームの偏向により、前記マルチ1次電子ビームで前記試料を走査する第1の偏向器と、
前記試料への前記マルチ1次電子ビームの照射に起因して放出されるマルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状を補正する補正器と、
前記マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状が補正された前記マルチ2次電子ビームを偏向する第2の偏向器と、
偏向された前記マルチ2次電子ビームを検出する検出器と、
前記マルチ1次電子ビームの走査に伴う前記マルチ2次電子ビームの位置移動を相殺するための偏向電位と、前記マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状の補正により生じる前記走査のための偏向量に応じた歪を補正する補正電位とを重畳した重畳電位を前記第2の偏向器に印加するように制御する偏向制御回路と、
を備えたことを特徴とするマルチ電子ビーム画像取得装置。
【請求項2】
前記歪には、前記マルチ1次電子ビームの走査により生じる前記マルチ2次電子ビームの軌道の誤差成分を含むことを特徴とする請求項1記載のマルチ電子ビーム画像取得装置。
【請求項3】
前記第2の偏向器は、前記マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状の補正により生じる前記マルチ1次電子ビームの走査における走査位置に応じた前記歪をダイナミックに補正することを特徴とする請求項1記載のマルチ電子ビーム画像取得装置。
【請求項4】
前記走査に伴う前記マルチ1次電子ビームの偏向により生じる前記マルチ2次電子ビームの検出位置分布と、前記マルチ1次電子ビームの走査に伴う前記マルチ2次電子ビームの位置移動を相殺するための前記マルチ2次電子ビームの偏向による前記マルチ2次電子ビームの検出位置分布と、の合成位置分布を作成する合成位置分布作成部をさらに備え、
前記偏向制御回路は、前記合成位置分布と設計上の位置分布との誤差を補正するための前記補正電
位を前記偏向電
位に重畳することを特徴とする請求項1記載のマルチ電子ビーム画像取得装置。
【請求項5】
前記補正器は、前記第1の偏向器と前記第2の偏向器との間の前記マルチ2次電子ビームの軌道上に配置されることを特徴とする請求項1記載のマルチ電子ビーム画像取得装置。
【請求項6】
試料を載置するステージと、
マルチ1次電子ビームを放出する放出源と、
前記マルチ1次電子ビームの偏向により、前記マルチ1次電子ビームで前記試料を走査する第1の偏向器と、
前記試料への前記マルチ1次電子ビームの照射に起因して放出されるマルチ2次電子ビームの偏向により、前記マルチ1次電子ビームの走査に伴う前記マルチ2次電子ビームの位置移動を相殺する第2の偏向器と、
前記マルチ2次電子ビームの偏向によって前記マルチ2次電子ビームの位置移動が相殺された前記マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状を補正する補正器と、
前記マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状が補正された前記マルチ2次電子ビームを検出する検出器と、
を備えたことを特徴とするマルチ電子ビーム画像取得装置。
【請求項7】
前記補正器は、前記第2の偏向器よりも前記マルチ2次電子ビームの軌道の下流側に配置されることを特徴とする請求項6記載のマルチ電子ビーム画像取得装置。
【請求項8】
前記走査に伴う前記マルチ1次電子ビームの偏向により生じる前記マルチ2次電子ビームの検出位置分布と、前記マルチ1次電子ビームの走査に伴う前記マルチ2次電子ビームの位置移動を相殺するための前記マルチ2次電子ビームの偏向による前記マルチ2次電子ビームの検出位置分布と、の合成位置分布を作成する合成位置分布作成部と、
前記ビームアレイ分布形状の補正を行う場合における、合成位置分布と設計上の位置分布との位置ずれ量を算出する位置ずれ量算出回路と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項6記載のマルチ電子ビーム画像取得装置。
【請求項9】
マルチ1次電子ビームを放出し、
第1の偏向器を用いて、前記マルチ1次電子ビームの偏向により、前記マルチ1次電子ビームでステージに載置される試料を走査し、
前記試料への前記マルチ1次電子ビームの照射に起因して放出されるマルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状を補正し、
前記マルチ1次電子ビームの走査に伴う前記マルチ2次電子ビームの位置移動を相殺するための偏向電位と、前記マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状の補正により生じる前記走査のための偏向量に応じた歪を補正する補正電位とを重畳した重畳電位が印加された第2の偏向器を用いて、前記マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状が補正された前記マルチ2次電子ビームを偏向し、
偏向された前記マルチ2次電子ビームを検出し、検出画像データを出力する、
ことを特徴とするマルチ電子ビーム画像取得方法。
【請求項10】
マルチ1次電子ビームを放出し、
第1の偏向器を用いて、前記マルチ1次電子ビームの偏向により、前記マルチ1次電子ビームでステージに載置される試料を走査し、
第2の偏向器を用いて、前記試料への前記マルチ1次電子ビームの照射に起因して放出されるマルチ2次電子ビームの偏向により、前記マルチ1次電子ビームの走査に伴う前記マルチ2次電子ビームの位置移動を相殺し、
前記マルチ2次電子ビームの偏向によって前記マルチ2次電子ビームの位置移動が相殺された前記マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状を補正し、
前記マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状が補正された前記マルチ2次電子ビームを検出し、検出画像データを出力する、
ことを特徴とするマルチ電子ビーム画像取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年10月26日に日本国に出願されたJP2021-174613(出願番号)を基礎出願とする優先権を主張する出願である。JP2021-174613に記載されたすべての内容は、参照されることにより本出願にインコーポレートされる。
【0002】
本発明は、マルチ電子ビーム画像取得装置及びマルチ電子ビーム画像取得方法に関し、マルチ1次電子ビームを基板に照射して、基板から放出されるマルチ2次電子ビームを検出して画像を得る手法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、大規模集積回路(LSI)の高集積化及び大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路線幅はますます狭くなってきている。そして、多大な製造コストのかかるLSIの製造にとって、歩留まりの向上は欠かせない。しかし、1ギガビット級のDRAM(ランダムアクセスメモリ)に代表されるように、LSIを構成するパターンは、サブミクロンからナノメータのオーダーになっている。近年、半導体ウェハ上に形成されるLSIパターン寸法の微細化に伴って、パターン欠陥として検出しなければならない寸法も極めて小さいものとなっている。よって、半導体ウェハ上に転写された超微細パターンの欠陥を検査するパターン検査装置の高精度化が必要とされている。その他、歩留まりを低下させる大きな要因の一つとして、半導体ウェハ上に超微細パターンをフォトリソグラフィ技術で露光、転写する際に使用されるマスクのパターン欠陥があげられる。そのため、LSI製造に使用される転写用マスクの欠陥を検査するパターン検査装置の高精度化が必要とされている。
【0004】
検査装置では、例えば、電子ビームを使ったマルチビームを検査対象基板に照射して、検査対象基板から放出される各ビームに対応する2次電子を検出して、パターン画像を撮像する。そして撮像された測定画像と、設計データ、あるいは基板上の同一パターンを撮像した測定画像と比較することにより検査を行う方法が知られている。例えば、同一基板上の異なる場所の同一パターンを撮像した測定画像データ同士を比較する「die to die(ダイ-ダイ)検査」や、パターン設計された設計データをベースに設計画像データ(参照画像)を生成して、それとパターンを撮像した測定データとなる測定画像とを比較する「die to database(ダイ-データベース)検査」がある。撮像された画像は測定データとして比較回路へ送られる。比較回路では、画像同士の位置合わせの後、測定データと参照データとを適切なアルゴリズムに従って比較し、一致しない場合には、パターン欠陥有りと判定する。
【0005】
マルチビームを用いて撮像する場合、マルチ1次電子ビームで基板を所定の範囲で走査する。よって、各2次電子ビームの放出位置は刻々と変化する。放出位置が変化した各2次電子ビームをマルチ検出器の対応する検出領域内に照射させるためには、放出位置の変化に起因するマルチ2次電子ビームの位置移動を相殺するためにマルチ2次電子ビームを振り戻す偏向が必要となる。
【0006】
ここで、走査に伴うマルチ1次電子ビームの偏向を行う位置と、マルチ2次電子ビームの振り戻し偏向を行う位置との間で、非点補正器等を用いてマルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状を補正することが行われる。しかしながら、マルチ1次電子ビームでの走査を行いながらマルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状を補正する場合、補正後のマルチ2次電子ビームを振り戻し偏向させても、振り戻し後の位置に誤差が生じてしまうといった問題があった。
【0007】
ここで、マルチビームではないが、像面湾曲収差を補正する補正電圧と非点収差を補正する補正電圧とを加算して偏向器の各電極に印加することで偏向収差を補正することが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の実施形態では、マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状を補正する場合において、マルチ1次電子ビームの走査に伴うマルチ2次電子ビームの位置移動を相殺するマルチ2次電子ビームの振り戻し偏向後の誤差を低減することが可能な装置および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様のマルチ電子ビーム画像取得装置は、
試料を載置するステージと、
マルチ1次電子ビームを放出する放出源と、
マルチ1次電子ビームの偏向により、マルチ1次電子ビームで試料を走査する第1の偏向器と、
試料へのマルチ1次電子ビームの照射に起因して放出されるマルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状を補正する補正器と、
マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状が補正されたマルチ2次電子ビームを偏向する第2の偏向器と、
偏向されたマルチ2次電子ビームを検出する検出器と、
マルチ1次電子ビームの走査に伴うマルチ2次電子ビームの位置移動を相殺するための偏向電位と、マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状の補正により生じる走査のための偏向量に応じた歪を補正する補正電位とを重畳した重畳電位を第2の偏向器に印加するように制御する偏向制御回路と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の他の態様のマルチ電子ビーム画像取得装置は、
試料を載置するステージと、
マルチ1次電子ビームを放出する放出源と、
マルチ1次電子ビームの偏向により、マルチ1次電子ビームで試料を走査する第1の偏向器と、
試料へのマルチ1次電子ビームの照射に起因して放出されるマルチ2次電子ビームの偏向により、マルチ1次電子ビームの走査に伴うマルチ2次電子ビームの位置移動を相殺する第2の偏向器と、
マルチ2次電子ビームの偏向によってマルチ2次電子ビームの位置移動が相殺されたマルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状を補正する補正器と、
マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状が補正されたマルチ2次電子ビームを検出する検出器と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様のマルチ電子ビーム画像取得方法は、
マルチ1次電子ビームを放出し、
第1の偏向器を用いて、マルチ1次電子ビームの偏向により、マルチ1次電子ビームでステージに載置される試料を走査し、
試料へのマルチ1次電子ビームの照射に起因して放出されるマルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状を補正し、
マルチ1次電子ビームの走査に伴うマルチ2次電子ビームの位置移動を相殺するための偏向電位と、マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状の補正により生じる走査のための偏向量に応じた歪を補正する補正電位とを重畳した重畳電位が印加された第2の偏向器を用いて、マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状が補正されたマルチ2次電子ビームを偏向し、
偏向されたマルチ2次電子ビームを検出し、検出画像データを出力する、
ことを特徴とする。
【0013】
本発明の他の態様のマルチ電子ビーム画像取得方法は、
マルチ1次電子ビームを放出し、
第1の偏向器を用いて、マルチ1次電子ビームの偏向により、マルチ1次電子ビームでステージに載置される試料を走査し、
第2の偏向器を用いて、試料へのマルチ1次電子ビームの照射に起因して放出されるマルチ2次電子ビームの偏向により、マルチ1次電子ビームの走査に伴うマルチ2次電子ビームの位置移動を相殺し、
マルチ2次電子ビームの偏向によってマルチ2次電子ビームの位置移動が相殺されたマルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状を補正し、
マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状が補正されたマルチ2次電子ビームを検出し、検出画像データを出力する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状を補正する場合において、マルチ1次電子ビームの走査に伴うマルチ2次電子ビームの位置移動を相殺するマルチ2次電子ビームの振り戻し偏向後の誤差を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1における検査装置の構成を示す構成図である。
【
図2】実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
【
図3】実施の形態1における半導体基板に形成される複数のチップ領域の一例を示す図である。
【
図4】実施の形態1における検査処理を説明するための図である。
【
図5A】実施の形態1における多極子補正器の構成の一例と励磁状態の一例を説明するための図である。
【
図5B】実施の形態1における多極子補正器の構成の一例と励磁状態の他の一例を説明するための図である。
【
図6A】実施の形態1における多極子補正器の構成の一例と励磁状態の他の一例を説明するための図である。
【
図6B】実施の形態1における多極子補正器の構成の一例と励磁状態の他の一例を説明するための図である。
【
図7】実施の形態1におけるビームアレイ分布形状の一例を示す図である。
【
図8】実施の形態1における偏向調整回路の内部構成の一例を示す図である。
【
図9】実施の形態1における検査方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。
【
図10】実施の形態1における1次スキャン領域の一例を示す図である。
【
図11】実施の形態1における1次スキャン領域の各偏向位置でのビーム検出位置の画像の一例を示す図である。
【
図12】実施の形態1における2次スキャンの各偏向位置での振り戻し補正前のビーム検出位置の画像の一例を示す図である。
【
図13】実施の形態1における振り戻し補正前の合成画像の一例を示す図である。
【
図14】実施の形態1におけるビームアレイ分布形状補正の影響を説明するための図である。
【
図15】実施の形態1における2次系の偏向器の各電極とこれらに印加する電位とを説明するための図である。
【
図16】実施の形態1における変換テーブルの一例を示す図である。
【
図17】実施の形態1における2次スキャンの各偏向位置での振り戻し補正後のビーム検出位置の画像の一例を示す図である。
【
図18】実施の形態1における振り戻し補正後の合成画像の一例を示す図である。
【
図19】実施の形態1における比較回路内の構成の一例を示す構成図である。
【
図20】実施の形態2における検査装置の構成を示す構成図である。
【
図21】実施の形態2における1次スキャンの各偏向位置での振り戻し補正前のビーム検出位置の画像の一例を示す図である。
【
図22】実施の形態2における2次スキャンの各偏向位置での振り戻し補正前のビーム検出位置の画像の一例を示す図である。
【
図23】実施の形態2における振り戻し補正前の合成画像の一例を示す図である。
【
図24】実施の形態2における2次スキャンの各偏向位置での振り戻し補正後のビーム検出位置の画像の一例を示す図である。
【
図25】実施の形態2における振り戻し補正後の合成画像の一例を示す図である。
【
図26】各実施の形態における2段偏向器によるスキャン動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態では、マルチ電子ビーム画像取得装置の一例として、マルチ電子ビームを用いた検査装置について説明する。但し、これに限るものではない。マルチ1次電子ビームを照射して、基板から放出されるマルチ2次電子ビームを用いて画像を取得する装置であればよい。
【0017】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1における検査装置の構成を示す構成図である。
図1において、基板に形成されたパターンを検査する検査装置100は、マルチ電子ビーム検査装置の一例である。検査装置100は、画像取得機構150、及び制御系回路160を備えている。画像取得機構150は、電子ビームカラム102(電子鏡筒)及び検査室103を備えている。電子ビームカラム102内には、電子銃201、電磁レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、電磁レンズ205、一括ブランキング偏向器212、制限アパーチャ基板213、電磁レンズ206、電磁レンズ207(対物レンズ)、偏向器208、209、E×B分離器214(ビームセパレーター)、偏向器218、多極子補正器227、電磁レンズ224、偏向器225,226、検出器アパーチャアレイ基板228、及びマルチ検出器222が配置されている。電子銃201、電磁レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、電磁レンズ205、一括ブランキング偏向器212、制限アパーチャ基板213、ビーム選択アパーチャ基板232、電磁レンズ206、電磁レンズ207(対物レンズ)、及び偏向器208,209、によって1次電子光学系151(照明光学系)を構成する。また、電磁レンズ207、E×B分離器214、偏向器218、多極子補正器227、電磁レンズ224、及び偏向器225,226によって2次電子光学系152(検出光学系)を構成する。
なお、
図1において、2段の偏向器208,209は、1段の偏向器(例えば偏向器209)であってもよい。同様に、2段の偏向225,226は、1段の偏向器(例えば偏向器226)であってもよい。
【0018】
検査室103内には、少なくともXY方向に移動可能なステージ105が配置される。ステージ105上には、検査対象となる基板101(試料)が配置される。基板101には、露光用マスク基板、及びシリコンウェハ等の半導体基板が含まれる。基板101が半導体基板である場合、半導体基板には複数のチップパターン(ウェハダイ)が形成されている。基板101が露光用マスク基板である場合、露光用マスク基板には、チップパターンが形成されている。チップパターンは、複数の図形パターンによって構成される。かかる露光用マスク基板に形成されたチップパターンが半導体基板上に複数回露光転写されることで、半導体基板には複数のチップパターン(ウェハダイ)が形成されることになる。以下、基板101が半導体基板である場合を主として説明する。基板101は、例えば、パターン形成面を上側に向けてステージ105に配置される。また、ステージ105上には、検査室103の外部に配置されたレーザ測長システム122から照射されるレーザ測長用のレーザ光を反射するミラー216が配置されている。また、ステージ105上には、基板101面と同じ高さ位置に調整されるマーク111が配置される。マーク111として、例えば、十字パターンが形成される。
【0019】
また、マルチ検出器222は、電子ビームカラム102の外部で検出回路106に接続される。検出回路106は、チップパターンメモリ123に接続される。
【0020】
マルチ検出器222は、アレイ状に配置される複数の検出エレメントを有する。検出器アパーチャアレイ基板228には、複数の検出エレメントの配列ピッチで複数の開口部が形成される。複数の開口部は、例えば、円形に形成される。各開口部の中心位置は、対応する検出エレメントの中心位置に合わせて形成される。また、開口部のサイズは、検出エレメントの電子検出面の領域サイズよりも小さく形成される。なお、検出器アパーチャアレイ基板228は必ずしも必要ではない。
【0021】
制御系回路160では、検査装置100全体を制御する制御計算機110が、バス120を介して、位置回路107、比較回路108、参照画像作成回路112、ステージ制御回路114、レンズ制御回路124、ブランキング制御回路126、偏向制御回路128、E×B制御回路133、偏向調整回路134、多極子補正器制御回路135、ビーム選択アパーチャ制御回路136、画像合成回路138、磁気ディスク装置等の記憶装置109、メモリ118、及びプリンタ119に接続されている。また、偏向制御回路128は、DAC(デジタルアナログ変換)アンプ144,146,147,148,149に接続される。DACアンプ146は、偏向器208に接続され、DACアンプ144は、偏向器209に接続される。DACアンプ148は、偏向器218に接続される。DACアンプ147は、偏向器225に接続される。DACアンプ149は、偏向器226に接続される。
【0022】
また、チップパターンメモリ123は、比較回路108及び画像合成回路132に接続されている。また、ステージ105は、ステージ制御回路114の制御の下に駆動機構142により駆動される。駆動機構142では、例えば、ステージ座標系におけるX方向、Y方向、θ方向に駆動する3軸(X-Y-θ)モータの様な駆動系が構成され、XYθ方向にステージ105が移動可能となっている。これらの、図示しないXモータ、Yモータ、θモータは、例えばステップモータを用いることができる。ステージ105は、XYθ各軸のモータによって水平方向及び回転方向に移動可能である。そして、ステージ105の移動位置はレーザ測長システム122により測定され、位置回路107に供給される。レーザ測長システム122は、ミラー216からの反射光を受光することによって、レーザ干渉法の原理でステージ105の位置を測長する。ステージ座標系は、例えば、マルチ1次電子ビーム20の光軸に直交する面に対して、1次座標系のX方向、Y方向、θ方向が設定される。
【0023】
電磁レンズ202、電磁レンズ205、電磁レンズ206、電磁レンズ207、及び電磁レンズ224は、レンズ制御回路124により制御される。E×B分離器214は、E×B制御回路133により制御される。また、一括偏向器212は、2極以上の電極により構成される静電型の偏向器であって、電極毎に図示しないDACアンプを介してブランキング制御回路126により制御される。偏向器209は、4極以上の電極により構成される静電型の偏向器であって、電極毎にDACアンプ144を介して偏向制御回路128により制御される。偏向器208は、4極以上の電極により構成される静電型の偏向器であって、電極毎にDACアンプ146を介して偏向制御回路128により制御される。偏向器218は、4極以上の電極により構成される静電型の偏向器であって、電極毎にDACアンプ148を介して偏向制御回路128により制御される。また、偏向器225は、4極以上の電極により構成される静電型の偏向器であって、電極毎にDACアンプ147を介して偏向制御回路128により制御される。偏向器226は、4極以上の電極により構成される静電型の偏向器であって、電極毎にDACアンプ149を介して偏向制御回路128により制御される。
【0024】
多極子補正器227は、4極以上の多極子により構成され、多極子補正器制御回路135により制御される。多極子補正器227は、偏向器209と偏向器226との間のマルチ2次電子ビーム300の軌道上に配置される。
【0025】
電子銃201には、図示しない高圧電源回路が接続され、電子銃201内の図示しないフィラメント(カソード)と引出電極(アノード)間への高圧電源回路からの加速電圧の印加と共に、別の引出電極(ウェネルト)の電圧の印加と所定の温度のカソードの加熱によって、カソードから放出された電子群が加速させられ、電子ビーム200となって放出される。
【0026】
ここで、
図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。検査装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0027】
図2は、実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
図2において、成形アパーチャアレイ基板203には、2次元状の横(x方向)m
1列×縦(y方向)n
1段(m
1,n
1は2以上の整数)の穴(開口部)22がx,y方向に所定の配列ピッチで形成されている。
図2の例では、23×23の穴(開口部)22が形成されている場合を示している。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ外径の円形であっても構わない。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチ1次電子ビーム20が形成されることになる。次に、2次電子画像を取得する場合における画像取得機構150の動作について説明する。1次電子光学系151は、基板101をマルチ1次電子ビーム20で照射する。具体的には、以下のように動作する。
【0028】
電子銃201(放出源)から放出された電子ビーム200は、電磁レンズ202によって屈折させられ、成形アパーチャアレイ基板203全体を照明する。成形アパーチャアレイ基板203には、
図2に示すように、複数の穴22(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴22が含まれる領域を照明する。複数の穴22の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22をそれぞれ通過することによって、マルチ1次電子ビーム20が形成される。
【0029】
形成されたマルチ1次電子ビーム20は、電磁レンズ205、及び電磁レンズ206によってそれぞれ屈折させられ、中間像およびクロスオーバーを繰り返しながら、マルチ1次電子ビーム20の各ビームの中間像面に配置されたE×B分離器214を通過して電磁レンズ207(対物レンズ)に進む。
【0030】
マルチ1次電子ビーム20が電磁レンズ207(対物レンズ)に入射すると、電磁レンズ207は、マルチ1次電子ビーム20を基板101にフォーカスする。対物レンズ207により基板101(試料)面上に焦点が合わされ(合焦され)たマルチ1次電子ビーム20は、偏向器208及び偏向器209によって一括して偏向され、各ビームの基板101上のそれぞれの照射位置に照射される。なお、一括ブランキング偏向器212によって、マルチ1次電子ビーム20全体が一括して偏向された場合には、制限アパーチャ基板213の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ基板213によってマルチ1次電子ビーム20全体が遮蔽される。一方、一括ブランキング偏向器212によって偏向されなかったマルチ1次電子ビーム20は、
図1に示すように制限アパーチャ基板213の中心の穴を通過する。かかる一括ブランキング偏向器212のON/OFFによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが一括制御される。このように、制限アパーチャ基板213は、一括ブランキング偏向器212によってビームOFFの状態になるように偏向されたマルチ1次電子ビーム20を遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ基板213を通過したビーム群により、画像取得用のマルチ1次電子ビーム20が形成される。
【0031】
基板101の所望する位置にマルチ1次電子ビーム20が照射されると、かかるマルチ1次電子ビーム20が照射されたことに起因して基板101からマルチ1次電子ビーム20の各ビームに対応する、反射電子を含む2次電子の束(マルチ2次電子ビーム300)が放出される。
【0032】
基板101から放出されたマルチ2次電子ビーム300は、電磁レンズ207を通って、E×B分離器214に進む。E×B分離器214は、コイルを用いた2極以上の複数の磁極と、2極以上の複数の電極とを有する。例えば、90°ずつ位相をずらした4極の磁極(電磁偏向コイル)と、同じく90°ずつ位相をずらした4極の電極(静電偏向電極)とを有する。そして、例えば対向する2極の磁極をN極とS極とに設定することで、かかる複数の磁極によって指向性の磁界を発生させる。同様に、例えば対向する2極の電極に符号が逆の電位Vを印加することで、かかる複数の電極によって指向性の電界を発生させる。具体的には、E×B分離器214は、マルチ1次電子ビーム20の中心ビームが進む方向(軌道中心軸)に直交する面上において電界と磁界を直交する方向に発生させる。電界は電子の進行方向に関わりなく同じ方向に力を及ぼす。これに対して、磁界はフレミング左手の法則に従って力を及ぼす。そのため電子の侵入方向によって電子に作用する力の向きを変化させることができる。E×B分離器214に上側から侵入してくるマルチ1次電子ビーム20には、電界による力と磁界による力が打ち消し合い、マルチ1次電子ビーム20は下方に直進する。これに対して、E×B分離器214に下側から侵入してくるマルチ2次電子ビーム300には、電界による力と磁界による力がどちらも同じ方向に働き、マルチ2次電子ビーム300は斜め上方に曲げられ、マルチ1次電子ビーム20の軌道上から分離する。
【0033】
斜め上方に曲げられたマルチ2次電子ビーム300は、偏向器218によって、さらに曲げられ、多極子補正器227に進む。多極子補正器227では、マルチ2次電子ビーム300のビームアレイ形状を矩形に近づくように補正する。多極子補正器227を通過したマルチ2次電子ビーム300は、電磁レンズ224によって、屈折させられながらマルチ検出器222に投影される。マルチ検出器222は、検出器アパーチャアレイ基板228の開口部を通過して投影されたマルチ2次電子ビーム300を検出する。マルチ1次電子ビーム20の各ビームは、マルチ検出器222の検出面において、マルチ2次電子ビーム300の各2次電子ビームに対応する検出エレメントに衝突して、電子を増幅発生させ、2次電子画像データを画素毎に生成する。マルチ検出器222にて検出された強度信号は、検出回路106に出力される。各1次電子ビームは、基板101上における自身のビームが位置するx方向のビーム間ピッチとy方向のビーム間ピッチとで囲まれるサブ照射領域内に照射され、当該サブ照射領域内を走査(スキャン動作)する。
【0034】
図3は、実施の形態1における半導体基板に形成される複数のチップ領域の一例を示す図である。
図3において、基板101が半導体基板(ウェハ)である場合、半導体基板(ウェハ)の検査領域330には、複数のチップ(ウェハダイ)332が2次元のアレイ状に形成されている。各チップ332には、露光用マスク基板に形成された1チップ分のマスクパターンが図示しない露光装置(ステッパ)によって例えば1/4に縮小されて転写されている。1チップ分のマスクパターンは、一般に、複数の図形パターンにより構成される。
【0035】
図4は、実施の形態1における検査処理を説明するための図である。
図4に示すように、各チップ332の領域は、例えばy方向に向かって所定の幅で複数のストライプ領域32に分割される。画像取得機構150によるスキャン動作は、例えば、ストライプ領域32毎に実施される。例えば、-x方向にステージ105を移動させながら、相対的にx方向にストライプ領域32のスキャン動作を進めていく。各ストライプ領域32は、長手方向に向かって複数の矩形領域33に分割される。対象となる矩形領域33へのビームの移動は、偏向器208によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって行われる。
【0036】
図4の例では、例えば、5×5列のマルチ1次電子ビーム20の場合を示している。1回のマルチ1次電子ビーム20の照射で照射可能な照射領域34は、(基板101面上におけるマルチ1次電子ビーム20のx方向のビーム間ピッチにx方向のビーム数を乗じたx方向サイズ)×(基板101面上におけるマルチ1次電子ビーム20のy方向のビーム間ピッチにy方向のビーム数を乗じたy方向サイズ)で定義される。照射領域34が、マルチ1次電子ビーム20の視野となる。そして、マルチ1次電子ビーム20を構成する各1次電子ビーム8は、自身のビームが位置するx方向のビーム間ピッチとy方向のビーム間ピッチとで囲まれるサブ照射領域29内に照射され、当該サブ照射領域29内を走査(スキャン動作)する。各1次電子ビーム8は、互いに異なるいずれかのサブ照射領域29を担当することになる。そして、各ショット時に、各1次電子ビーム8は、担当サブ照射領域29内の同じ位置を照射することになる。サブ照射領域29内の1次電子ビーム8の移動は、偏向器209によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって行われる。かかる動作を繰り返し、1つの1次電子ビーム8で1つのサブ照射領域29内を順に照射していく。
【0037】
各ストライプ領域32の幅は、照射領域34のy方向サイズと同様、或いはスキャンマージン分狭くしたサイズに設定すると好適である。
図4の例では、照射領域34が矩形領域33と同じサイズの場合を示している。但し、これに限るものではない。照射領域34が矩形領域33よりも小さくても良い。或いは大きくても構わない。そして、マルチ1次電子ビーム20を構成する各1次電子ビーム8は、自身のビームが位置するサブ照射領域29内に照射され、偏向器209によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって当該サブ照射領域29内を走査(スキャン動作)する。そして、1つのサブ照射領域29のスキャンが終了したら、偏向器208によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって照射位置が同じストライプ領域32内の隣接する矩形領域33へと移動する。かかる動作を繰り返し、ストライプ領域32内を順に照射していく。1つのストライプ領域32のスキャンが終了したら、ステージ105の移動或いは/及び偏向器208によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって照射領域34が次のストライプ領域32へと移動する。以上のように各1次電子ビーム8の照射によってサブ照射領域29毎のスキャン動作および2次電子画像の取得が行われる。これらのサブ照射領域29毎の2次電子画像を組み合わせることで、矩形領域33の2次電子画像、ストライプ領域32の2次電子画像、或いはチップ332の2次電子画像が構成される。また、実際に画像比較を行う場合には、各矩形領域33内のサブ照射領域29をさらに複数のフレーム領域30に分割して、フレーム領域30毎のフレーム画像31について比較することになる。
図4の例では、1つの1次電子ビーム8によってスキャンされるサブ照射領域29を例えばx,y方向にそれぞれ2分割することによって形成される4つのフレーム領域30に分割する場合を示している。
【0038】
以上のように、画像取得機構150は、ストライプ領域32毎に、スキャン動作をすすめていく。上述したように、マルチ1次電子ビーム20を照射して、マルチ1次電子ビーム20の照射に起因して基板101から放出されるマルチ2次電子ビーム300は、マルチ検出器222で検出される。検出されるマルチ2次電子ビーム300には、反射電子が含まれていても構わない。或いは、反射電子は、2次電子光学系152を移動中に分離され、マルチ検出器222まで到達しない場合であっても構わない。マルチ検出器222によって検出された各サブ照射領域29内の画素毎の2次電子の検出データ(測定画像データ:2次電子画像データ:被検査画像データ)は、測定順に検出回路106に出力される。検出回路106内では、図示しないA/D変換器によって、アナログの検出データがデジタルデータに変換され、チップパターンメモリ123に格納される。そして、得られた測定画像データは、位置回路107からの各位置を示す情報と共に、比較回路108に転送される。
【0039】
図5Aは、実施の形態1における多極子補正器の構成の一例と励磁状態の一例を説明するための図である。
図5Bは、実施の形態1における多極子補正器の構成の一例と励磁状態の他の一例を説明するための図である。
図6Aは、実施の形態1における多極子補正器の構成の一例と励磁状態の他の一例を説明するための図である。
図6Bは、実施の形態1における多極子補正器の構成の一例と励磁状態の他の一例を説明するための図である。
図5Aと
図5Bは、x,y方向に力を作用させる場合を示している。
図6Aと
図6Bは、x,y方向と45度位相を回転させた方向に力を作用させる場合を示している。
図5Bでは、
図5Aの場合と逆に励磁させた場合を示している。
図6Bでは、
図6Aの場合と逆に励磁させた場合を示している。
図5Aと
図5Bと
図6Aと
図6Bの例では、多極子補正器227として8極の磁極(電磁コイル)が配置された構成を示している。
図5Aと
図5Bと
図6Aと
図6Bの例において、対向する磁極は互いに同じ極性になるように制御される。
図5Aと
図5Bと
図6Aと
図6Bの例では、y方向から22.5度左に回転した位相に電磁コイルC1が配置され、以降、45度ずつ位相をずらしながら、電磁コイルC2~C8が配置される場合を示している。
図5Aと
図5Bと
図6Aと
図6Bの例では、紙面手前から奥に向かってマルチ2次電子ビーム300が進む場合を示している。
【0040】
図5Aの例では、電磁コイルC3,C4,C7,C8は、中央にN極が向くように配置される。電磁コイルC1,C2,C5,C6は、中央にS極が向くように配置される。これにより、多極子補正器227の中央部を通過するマルチ2次電子ビーム300には、電磁コイルC2,C3の中間位置と電磁コイルC6,C7の中間位置とを結ぶ方向(-x,x方向(0度,180度方向))に引っ張る力が働くと共に、電磁コイルC8,C1の中間位置と電磁コイルC4,C5の中間位置とを結ぶ方向(-y,y方向(90度,270度方向))に圧縮する力が働く。これにより、マルチ2次電子ビーム300のビームアレイ分布形状をx方向に延び、y方向に縮むように補正できる。
【0041】
図5Aの状態と逆に励磁した場合、
図5Bの例に示すように、電磁コイルC3,C4,C7,C8は、中央にS極が向くように配置される。電磁コイルC1,C2,C5,C6は、中央にN極が向くように配置される。これにより、多極子補正器227の中央部を通過するマルチ2次電子ビーム300には、電磁コイルC2,C3の中間位置と電磁コイルC6,C7の中間位置とを結ぶ方向(-x,x方向)に圧縮する力が働くと共に、電磁コイルC8,C1の中間位置と電磁コイルC4,C5の中間位置とを結ぶ方向(-y,y方向)に引っ張る力が働く。これにより、マルチ2次電子ビーム300のビームアレイ分布形状をy方向に延び、x方向に縮むように補正できる。
【0042】
図6Aの例では、電磁コイルC2,C3,C6,C7は、中央にN極が向くように配置される。電磁コイルC1,C4,C5,C8は、中央にS極が向くように配置される。これにより、多極子補正器227の中央部を通過するマルチ2次電子ビーム300には、電磁コイルC1,C2の中間位置と電磁コイルC5,C6の中間位置とを結ぶ方向(135度,315度方向)に引っ張る力が働くと共に、電磁コイルC3,C4の中間位置と電磁コイルC7,C8の中間位置とを結ぶ方向(45度,225度方向)に圧縮する力が働く。これにより、マルチ2次電子ビーム300のビームアレイ分布形状を135度方向に延び、45度方向に縮むように補正できる。
【0043】
図6Aの状態と逆に励磁した場合、
図6Bの例に示すように、電磁コイルC2,C3,C6,C7は、中央にS極が向くように配置される。電磁コイルC1,C4,C5,C8は、中央にN極が向くように配置される。これにより、多極子補正器227の中央部を通過するマルチ2次電子ビーム300には、電磁コイルC1,C2の中間位置と電磁コイルC5,C6の中間位置とを結ぶ方向(135度,315度方向)に圧縮する力が働くと共に、電磁コイルC3,C4の中間位置と電磁コイルC7,C8の中間位置とを結ぶ方向(45度,225度方向)に引っ張る力が働く。これにより、マルチ2次電子ビーム300のビームアレイ分布形状を45度,225度方向に延び、135度,315度方向に縮むように補正できる。
【0044】
図7は、実施の形態1におけるビームアレイ分布形状の一例を示す図である。多極子補正器227の各磁極を調整することにより、例えば、
図7に示すように、斜め方向に歪を持ったビームアレイ分布形状を矩形に近づけることができる。
【0045】
上述したように、マルチ1次電子ビーム20は、サブ照射領域29内をスキャン(1次スキャン)するので、各2次電子ビームの放出位置は、サブ照射領域29内で刻々と変化する。よって、そのままでは、各2次電子ビームがマルチ検出器222の対応する検出エレメントからずれた位置に投影されてしまう。そこで、このように放出位置が変化した各2次電子ビームをマルチ検出器222の対応する検出領域内に照射させるように、偏向器226は、マルチ2次電子ビーム300を一括偏向する。具体的には、偏向器226は、各2次電子ビームをマルチ検出器222の対応する検出領域内に照射させるために、放出位置の変化に起因するマルチ2次電子ビームの位置移動を振り戻す(相殺する)偏向(2次スキャン)を行う。
【0046】
しかしながら、偏向器209よる1次スキャンと偏向器226による2次スキャンとの間に、多極子補正器227によるビームアレイ形状の補正を行うと、2次スキャンによる振り戻し後のマルチ2次電子ビームの位置に誤差が生じてしまうといった問題があった。そこで、実施の形態1では、かかる誤差分を2次スキャンで合わせて補正する。
【0047】
図8は、実施の形態1における偏向調整回路の内部構成の一例を示す図である。
図8において、偏向調整回路134内には、磁気ディスク装置等の記憶装置61,66、位置ずれ量算出部62、変換テーブル作成部64、及び補正電圧算出部68が配置される。位置ずれ量算出部62、変換テーブル作成部64、及び補正電圧算出部68といった各「~部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。位置ずれ量算出部62、変換テーブル作成部64、及び補正電圧算出部68内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度図示しないメモリ、或いはメモリ118に記憶される。
【0048】
図9は、実施の形態1における検査方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。
図9において、実施の形態1における検査方法の要部工程は、1次スキャン画像取得工程(S102)と、2次スキャン画像取得工程(S104)と、画像合成工程(S106)と、位置ずれ量算出工程(S108)と、変換テーブル作成工程(S110)と、被検査画像取得工程(S120)と。スキャン座標取得工程(122)と、補正電圧算出工程(S124)と、振り戻し補正工程(S126)と、参照画像作成工程(S132)と、比較工程(S140)と、いう一連の工程を実施する。
【0049】
かかる各工程のうち、実施の形態1における画像取得方法は、1次スキャン画像取得工程(S102)と、2次スキャン画像取得工程(S104)と、画像合成工程(S106)と、位置ずれ量算出工程(S108)と、変換テーブル作成工程(S110)と、被検査画像取得工程(S120)と。スキャン座標取得工程(122)と、補正電圧算出工程(S124)と、振り戻し補正工程(S126)と、いう一連の工程を実施する。
【0050】
図10は、実施の形態1における1次スキャン領域の一例を示す図である。
図10では、1次スキャン時における1次スキャン領域内での、例えば、5×5本のマルチ1次電子ビーム20の中心ビームの偏向位置を示す。
図10において、マルチ1次電子ビーム20を1次スキャン領域内の偏向中心に照射する場合をマルチ1次電子ビーム20の中心ビームの偏向位置「×」で示す。マルチ1次電子ビーム20を1次スキャン領域内の左上角部に偏向する場合をマルチ1次電子ビーム20の中心ビームの偏向位置「□」で示す。マルチ1次電子ビーム20を1次スキャン領域内の右上角部に偏向する場合をマルチ1次電子ビーム20の中心ビームの偏向位置「△」で示す。マルチ1次電子ビーム20を1次スキャン領域内の左下角部に偏向する場合をマルチ1次電子ビーム20の中心ビームの偏向位置「+」で示す。マルチ1次電子ビーム20を1次スキャン領域内の右下角部に偏向する場合をマルチ1次電子ビーム20の中心ビームの偏向位置「〇」で示す。
【0051】
1次スキャン画像取得工程(S102)として、多極子補正器227がマルチ2次電子ビーム300のビームアレイ分布形状を補正するように励磁された状態で、偏向器209により1次スキャン領域内の各位置にマルチ1次電子ビーム20を偏向する。例えば、1次スキャン領域内に外周位置と偏向中心とを含む5×5の各偏向位置を設定する。そして、偏向位置毎に、マルチ1次電子ビーム20を当該偏向位置に偏向した状態で、対応するマルチ2次電子ビーム300に対して振り戻し偏向を行わない場合のマルチ2次電子ビーム300を検出する。言い換えれば、2次スキャン(振り戻し偏向)を行わずに1次スキャンを行った場合の各偏向位置でのマルチ2次電子ビーム300の位置を検出する。
【0052】
ここでは、マルチ検出器222の代わりに、検出エレメント数がマルチ2次電子ビームの数より多い、別の電子線検出器(電子線カメラ)を使用すると好適である。例えば、検出エレメント数が2000×2000の検出器を用いる。マルチ検出器222の複数の検出エレメントの数がマルチ2次電子ビーム300の数と同じ場合、1次スキャン領域の偏向中心以外にマルチ1次電子ビーム20を偏向した際、振り戻し偏向を行わない状態では、マルチ2次電子ビーム300の一部のビームがマルチ検出器222の検出面から外れてしまう。よって、マルチ検出器222の代わりに、検出エレメント数がマルチ2次電子ビームの数より多い、別の電子線検出器(電子線カメラ)を使用することでマルチ2次電子ビーム300全体を検出可能となる。なお、各2次ビームの位置を検出器アパーチャアレイ基板228の像として検出するには本来の振り戻し偏向とは別に所定のスキャン範囲の2次スキャンを行う。
後述する被検査画像取得工程(S120)では、別の電子線検出器(電子線カメラ)をマルチ検出器222に戻せばよい。言い換えれば、補正用のデータ取得時には検出エレメント数がマルチ2次電子ビーム300の数より多い電子線カメラを使用し、装置の動作時(検査時)には検出エレメント数がマルチ2次電子ビーム300の数と同じ或いは若干多い程度のマルチ検出器222に交換して使用する。
【0053】
但し、1次スキャン画像取得工程(S102)において、マルチ検出器222を使用する場合であっても構わない。マルチ検出器222を使用する場合にはマルチ2次電子ビーム300の一部が検出面から外れてしまうため、マルチ検出器222を2次ビーム系の平面方向(XY方向)に移動可能な図示しない駆動ステージ上に配置する。そして、マルチ1次電子ビーム20の偏向方向に従ってマルチ検出器222を移動してマルチ2次電子ビームを捉える。これによりマルチ2次電子ビーム300全体を検出可能となる。これにより、各2次電子ビームの位置がわかる。
2次電子の検出データ(測定画像データ:2次電子画像データ:被検査画像データ)は、測定順に検出回路106に出力される。検出回路106内では、図示しないA/D変換器によって、アナログの検出データがデジタルデータに変換され、チップパターンメモリ123に格納される。
【0054】
図11は、実施の形態1における1次スキャン領域の各偏向位置でのビーム検出位置の画像の一例を示す図である。
図11では、2次スキャンを行わずに1次スキャンで使用する位置に偏向を行った1次スキャン画像取得工程(S102)で取得される各マルチ2次電子ビーム300の検出位置の一例を示している。
図11に示すように、例えば、右下側では、1次スキャンにおいて〇で示す偏向位置に5×5本のマルチ1次電子ビーム20を偏向した場合に対応する5×5本のマルチ2次電子ビーム300の検出位置に歪が大きく生じていることがわかる。これは、多極子補正器227によるビームアレイ分布形状の補正が影響している。
【0055】
2次スキャン画像取得工程(S104)として、多極子補正器227がマルチ2次電子ビーム300のビームアレイ分布形状を補正するように励磁された状態で、マルチ1次電子ビーム20を1次スキャン領域の偏向中心へと照射する。そして、放出されたマルチ2次電子ビーム300を2次ビーム系の偏向器226により振り戻し偏向する。言い換えれば、1次スキャン領域の5×5の各偏向位置へマルチ1次電子ビーム20を偏向した場合におけるマルチ2次電子ビーム300の位置移動を振り戻すための偏向を行う。言い換えれば、1次スキャンを行わずに2次スキャンを行った場合の各偏向位置でのマルチ2次電子ビーム300の位置を検出する。
【0056】
例えば、マルチ1次電子ビーム20を1次スキャン領域の中心へと照射した場合に放出されたマルチ2次電子ビーム300がマルチ検出器222の対応する検出エレメントで検出されるように偏向する。かかる位置を2次スキャン領域の中心として、1次スキャン領域の各偏向位置によるマルチ2次電子ビーム300の位置移動を振り戻す振り戻し偏向を行う。これにより、2次スキャン領域の例えば5×5の各位置でのマルチ2次電子ビーム300の位置を検出できる。
【0057】
ここでは、マルチ検出器222の代わりに、検出エレメント数がマルチ2次電子ビームの数より多い、別の電子線検出器(電子線カメラ)を使用すると好適である。例えば、検出エレメント数が2000×2000の検出器を用いる。よって、マルチ検出器222の代わりに、検出エレメント数がマルチ2次電子1次スキャンを行わずに2次スキャンのための偏向を行う状態では、マルチ2次電子ビーム300の一部のビームがマルチ検出器222の検出面から外れてしまう。ビームの数より多い、別の電子線検出器(電子線カメラ)を使用することでマルチ2次電子ビーム300全体を検出可能となる。後述する被検査画像取得工程(S120)では、別の電子線検出器(電子線カメラ)をマルチ検出器222に戻せばよい。
【0058】
但し、2次スキャン画像取得工程(S104)において、マルチ検出器222を使用する場合であっても構わない。マルチ検出器222を使用する場合にはマルチ2次電子ビーム300の一部が検出面から外れてしまうため、マルチ検出器222を2次ビーム系の平面方向(XY方向)に移動可能な図示しない駆動ステージ上に配置する。そして、マルチ1次電子ビーム20の偏向方向に従ってマルチ検出器222を移動してマルチ2次電子ビームを捉える。これによりマルチ2次電子ビーム300全体を検出可能となる。これにより、2次スキャンの各位置でのマルチ2次電子ビーム300の検出位置がわかる。2次電子の検出データ(測定画像データ:2次電子画像データ:被検査画像データ)は、測定順に検出回路106に出力される。検出回路106内では、図示しないA/D変換器によって、アナログの検出データがデジタルデータに変換され、チップパターンメモリ123に格納される。
【0059】
図12は、実施の形態1における2次スキャンの各偏向位置での振り戻し補正前のビーム検出位置の画像の一例を示す図である。
図12では、1次スキャンを行わずに2次スキャンで使用する位置に振り戻し偏向を行った2次スキャン画像取得工程(S104)で取得される各マルチ2次電子ビーム300の検出位置の一例を示している。
図12では、各ビーム共に、大きな歪は生じていないことがわかる。2次スキャンでは、振り戻し偏向を行うので、
図11に示すマルチ2次電子ビーム300の位置とは反対側の位置に対応するマルチ2次電子ビーム300が検出されることになる。
【0060】
画像合成工程(S106)として、画像合成回路138(合成位置分布作成部の一例)は、1次スキャン(走査)に伴うマルチ1次電子ビーム20の偏向により生じるマルチ2次電子ビーム300の検出位置分布と、マルチ1次電子ビーム20の走査に伴うマルチ2次電子ビーム300の位置移動を相殺するためのマルチ2次電子ビーム300の偏向によるマルチ2次電子ビーム300の検出位置分布と、の合成位置分布を作成する。具体的には、画像合成回路138は、2次スキャンを行わずに1次スキャンを行って得られた各マルチ2次電子ビーム300の検出位置の画像と、1次スキャンを行わずに2次スキャンを行って得られた各マルチ2次電子ビーム300の検出位置の画像と、を合成する。
【0061】
図13は、実施の形態1における振り戻し補正前の合成画像の一例を示す図である。
図13では、
図11に示す2次スキャンを行わずに1次スキャンを行って得られた各マルチ2次電子ビーム300の各偏向位置における検出位置の画像と、
図12に示す1次スキャンを行わずに2次スキャンを行って得られた各マルチ2次電子ビーム300の各偏向位置における検出位置の画像とを合成した合成画像を示している。
図13の例では、合成後の各マルチ2次電子ビーム300のうち、〇で示すビームの右下側の位置において振り戻し偏向後に歪が大きく残ってしまうことがわかる。作成された合成画像は偏向調整回路134に出力される。そして、合成画像は偏向調整回路134内の記憶装置61に格納される。
【0062】
図14は、実施の形態1におけるビームアレイ分布形状補正の影響を説明するための図である。
図14では、多極子補正器227により、マルチ2次電子ビーム300に対して、例えば、x方向に圧縮する力を作用させ、y方向に引っ張る力を作用させる場合を示している。かかる場合、1次スキャン領域の中心にマルチ1次電子ビーム20が照射される場合、対応するマルチ2次電子ビーム300(実線)が多極子補正器227を通過する位置をAとする。1次スキャン領域の例えば左上角にマルチ1次電子ビーム20が偏向される場合、対応するマルチ2次電子ビーム300(点線)が多極子補正器227を通過する位置はBとなる。このように、1次スキャンによる偏向位置に応じて、多極子補正器227を通過するマルチ2次電子ビーム300の位置が変化することになる。よって、多極子補正器227で形成される磁場から各2次電子ビームが受ける作用が、1次スキャンの各位置によって変化してしまう。その結果、1次スキャンの各位置によってビームアレイ分布形状の補正結果に違いが生じる。そのため、2次スキャンにおいて、1次スキャンの振り戻し偏向を行っただけでは、多極子補正器227によるビームアレイ分布形状の補正誤差を解消することが困難となる。そこで、実施の形態1では、ビームアレイ分布形状の補正を行う場合における、1次スキャンの各偏向位置に応じて生じる位置ずれ量を求める。
【0063】
位置ずれ量算出工程(S108)として、位置ずれ量算出部62は、ビームアレイ分布形状の補正を行う場合における、合成位置分布と設計上の位置分布との位置ずれ量(誤差)を算出する。位置ずれ量は、1次スキャン領域の各偏向位置において算出する。例えば、各偏向位置において最大位置ずれ量のベクトル(向きと大きさ)を算出する。或いは、各ビームの位置ずれ量の2乗平均を算出してもよい。なお、かかる位置ずれ量(歪)には、マルチ1次電子ビーム20の1次スキャン(走査)により生じるマルチ2次電子ビーム300の軌道の誤差成分が含まれても構わない。
【0064】
変換テーブル作成工程(S110)として、変換テーブル作成部64は、1次スキャンの各偏向位置と、合成位置分布と設計上の位置分布との位置ずれ量を補正するための補正電位との関係を示す変換テーブルを作成する。
【0065】
図15は、実施の形態1における2次系の偏向器の各電極とこれらに印加する電位とを説明するための図である。
図15において、2次系の偏向器226は、例えば、8極の電極で構成される。8つの電極1~8には、それぞれ1次スキャンの振り戻し偏向量の電位V1~V8が印加される。さらに、合成位置分布と設計上の位置分布との位置ずれ量を補正するための補正電位ΔV1~ΔV8が加算されて印加されることになる。
【0066】
図16は、実施の形態1における変換テーブルの一例を示す図である。
図16において、変換テーブルには、1次スキャン領域における偏向位置座標x,yと、各偏向位置に対応する補正電位ΔV1~ΔV8が関連させて定義される。例えば、偏向位置座標(-2,2)での電極1の補正電位ΔV1-22、電極2の補正電位ΔV2-22、・・・,電極8の補正電位ΔV8-22が定義される。ΔVkijのkは電極番号を示す。iは1次スキャン領域における偏向位置のx座標、jは1次スキャン領域における偏向位置のy座標を示す。偏向位置座標x,yは、例えば、1次スキャン領域内の5×5の各偏向位置について定義される。
図16の例では、1次スキャンの偏向中心を座標(0,0)として示している。ここでは、振り戻し後のマルチ2次電子ビーム300の位置ずれ量が最も小さくなる位置に偏向するための各電極の補正電位の組み合わせが定義されると良い。例えば、各ビームの位置ずれ量の2乗平均が最小となるための各電極の補正電位の組み合わせが定義される。或いは、各ビームの位置ずれ量のうち最大位置ずれ量が最小となるための各電極の補正電位の組み合わせが定義される。作成された変換テーブルは記憶装置66に格納される。位置ずれ補正後の位置にマルチ2次電子ビーム300を偏向するための各電極の補正電位の組み合わせを算出する。かかる補正電位は、実験或いはシミュレーションにより求めると好適である。或いは計算式を使って計算により求めても構わない。
【0067】
2次スキャンを行わずに1次スキャンで使用する位置に偏向を行った1次スキャン画像取得工程(S102)で取得される各マルチ2次電子ビーム300の検出位置の画像は
図11と同様である。
【0068】
図17は、実施の形態1における2次スキャンの各偏向位置での振り戻し補正後のビーム検出位置の画像の一例を示す図である。
図17では、1次スキャンを行わずに2次スキャンで使用する位置に振り戻し偏向を行った2次スキャン画像取得工程(S104)で取得される各マルチ2次電子ビーム300の検出位置の一例を示している。
図17では、ビームアレイ分布形状の補正に伴い生じる位置ずれを補正するように補正電位が偏向器226の各電極に印加された場合の各マルチ2次電子ビーム300の検出位置の一例を示している。
図12で示した補正前の各マルチ2次電子ビーム300の検出位置とは異なる。例えば、〇で示すビームの右下側の偏向位置において生じる歪分が補正されることで、その分、マルチ2次電子ビーム300の検出位置がずれていることがわかる。
【0069】
図18は、実施の形態1における振り戻し補正後の合成画像の一例を示す図である。
図18では、
図11に示す2次スキャンを行わずに1次スキャンを行って得られた各マルチ2次電子ビーム300の各偏向位置における検出位置の画像と、
図17に示す1次スキャンを行わずに2次スキャンを行って得られた各マルチ2次電子ビーム300の各偏向位置における検出位置の画像とを合成した合成画像を示している。
図18の例では、合成後の各マルチ2次電子ビーム300について、多極子補正器227によるビームアレイ分布形状の補正により生じていた歪が、振り戻し偏向後に補正されていることがわかる。
【0070】
上述した例では、変換テーブルに、1つのビームアレイ分布形状補正条件について、1次スキャン領域における偏向位置座標x,yと、各偏向位置に対応する補正電位ΔV1~ΔV8が関連させて定義される場合を説明したが、これに限るものではない。複数のビームアレイ分布形状の補正条件について、ビームアレイ分布形状の補正条件毎に、1次スキャン領域における偏向位置座標x,yと、各偏向位置に対応する補正電位ΔV1~ΔV8が関連させて定義させるようにしても好適である。
【0071】
以上の前処理が終了後、被検査基板の画像を取得する。
【0072】
被検査画像取得工程(S120)として、画像取得機構150は、マルチ1次電子ビーム20を基板101に照射して、基板から放出されたマルチ2次電子ビーム300による基板101の2次電子画像を取得する。その際、偏向制御回路128による制御のもと、副偏向器208(第1の偏向器)は、マルチ1次電子ビーム20の偏向により、マルチ1次電子ビーム20で基板101(試料)上を走査する。
【0073】
スキャン座標取得工程(122)として、補正電圧算出部68は、偏向制御回路128と同期して、1次スキャンにおいて次に偏向する偏向位置の座標を取得(入力)する。
【0074】
補正電圧算出工程(S124)として、補正電圧算出部68は、偏向制御回路128と同期して、1次スキャンにおいて次に偏向する偏向位置座標から次の偏向位置における偏向器226の各電極の補正電位を算出する。各電極の補正電位は、変換テーブルを参照して算出される。変換テーブルに定義される偏向位置同士間の位置では線形補間により各電極の補正電位を算出すればよい。算出された各電極の補正電位は、偏向制御回路128に出力される。
【0075】
基板101の所望する位置にマルチ1次電子ビーム20が照射されると、かかるマルチ1次電子ビーム20が照射されたことに起因して基板101からマルチ1次電子ビーム20の各ビームに対応する、反射電子を含む2次電子の束(マルチ2次電子ビーム300)が放出される。
【0076】
基板101から放出されたマルチ2次電子ビーム300は、電磁レンズ207を通って、E×B分離器214に進む。そして、E×B分離器214により、マルチ2次電子ビーム300は、マルチ1次電子ビーム20の軌道上から分離し、偏向器218によって、さらに曲げられ、多極子補正器227に進む。多極子補正器227(補正器)では、通過するマルチ2次電子ビーム300のビームアレイ分布形状を補正する。そして、補正されたマルチ2次電子ビーム300は、偏向器226に進む。
【0077】
振り戻し補正工程(S126)として、偏向制御回路128は、合成位置分布と設計上の位置分布との誤差を補正するための補正電圧を偏向電圧に重畳する。具体的には、偏向制御回路128は、マルチ1次電子ビーム20の走査に伴うマルチ2次電子ビーム300の位置移動を相殺するための偏向電位V1~V8と、マルチ2次電子ビーム300のビームアレイ分布形状の補正により生じる、走査のための偏向量(1次スキャンの偏向位置)に応じた歪を補正する補正電位ΔV1~ΔV8とを重畳する。そして、偏向制御回路128は、重畳した重畳電位を偏向器226に印加するように制御する。偏向制御回路128による制御のもと、偏向器226(第2の偏向器)は、マルチ2次電子ビーム300のビームアレイ分布形状が補正されたマルチ2次電子ビームを偏向する。さらに具体的には、偏向器226の電極1には、振り戻し偏向用の偏向電位V1と補正電位ΔV1とが加算された電位が印加される。偏向器226の電極2には、振り戻し偏向用の偏向電位V2と補正電位ΔV2とが加算された電位が印加される。以降、同様に重畳電位がそれぞれの電極に加算される。すなわち、偏向器226の電極8には、振り戻し偏向用の偏向電位V8と補正電位ΔV8とが加算された電位が印加される。これにより、偏向器226は、マルチ2次電子ビーム300のビームアレイ分布形状の補正により生じるマルチ1次電子ビーム20の走査における走査位置(1次スキャンの偏向位置)に応じたマルチ2次電子ビーム300の歪をダイナミックに補正する。
【0078】
そして、偏向器226により偏向されたマルチ2次電子ビーム300は、マルチ検出器222により検出される。そして、マルチ検出器222は、検出画像データを出力する。これにより基板101の2次電子画像を取得する。
【0079】
そして、画像取得機構150は、上述したように、ストライプ領域32毎に、スキャン動作をすすめていく。検出されるマルチ2次電子ビーム300には、反射電子が含まれていても構わない。或いは、反射電子は、2次電子光学系152を移動中に分離され、マルチ検出器222まで到達しない場合であっても構わない。マルチ検出器222によって検出された各サブ照射領域29内の画素毎の2次電子の検出データ(測定画像データ:2次電子画像データ:被検査画像データ)は、測定順に検出回路106に出力される。検出回路106内では、図示しないA/D変換器によって、アナログの検出データがデジタルデータに変換され、チップパターンメモリ123に格納される。そして、得られた測定画像データは、位置回路107からの各位置を示す情報と共に、比較回路108に転送される。
【0080】
上述した画像取得動作として、ステージ105が停止した状態でマルチ1次電子ビーム20を基板101に照射し、スキャン動作終了後に位置を移動するステップアンドリピート動作を行っても良い。或いは、ステージ105が連続移動しながらマルチ1次電子ビーム20を基板101に照射する場合であってもよい。ステージ105が連続移動しながらマルチ1次電子ビーム20を基板101に照射する場合、マルチ1次電子ビーム20の照射位置がステージ105の移動に追従するように偏向器208によって一括偏向によるトラッキング動作が行われる。そのため、マルチ2次電子ビーム300の放出位置がマルチ1次電子ビーム20の軌道中心軸に対して刻々と変化する。偏向器226では、かかるトラッキング動作による放出位置が変化した各2次電子ビームをマルチ検出器222の対応する検出領域内に照射させるように、さらに、マルチ2次電子ビーム300を一括偏向すると良い。言い換えれば、かかるトラッキング動作による2次電子ビームの位置移動分も合わせて偏向するように、振り戻し偏向の偏向電位を設定すればよい。
【0081】
図19は、実施の形態1における比較回路内の構成の一例を示す構成図である。
図19において、比較回路108内には、磁気ディスク装置等の記憶装置50,52,56、フレーム画像作成部54、位置合わせ部57、及び比較部58が配置される。フレーム画像作成部54、位置合わせ部57、及び比較部58といった各「~部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。フレーム画像作成部54、位置合わせ部57、及び比較部58内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度図示しないメモリ、或いはメモリ118に記憶される。
【0082】
比較回路108内に転送された測定画像データ(ビーム画像)は、記憶装置50に格納される。
【0083】
そして、フレーム画像作成部54は、各1次電子ビーム8のスキャン動作によって取得されたサブ照射領域29の画像データをさらに分割した複数のフレーム領域30のフレーム領域30毎のフレーム画像31を作成する。そして、フレーム領域30を被検査画像の単位領域として使用する。なお、各フレーム領域30は、画像の抜けが無いように、互いにマージン領域が重なり合うように構成されると好適である。作成されたフレーム画像31は、記憶装置56に格納される。
【0084】
参照画像作成工程(S132)として、参照画像作成回路112は、基板101に形成された複数の図形パターンの元になる設計データに基づいて、フレーム領域30毎に、フレーム画像31に対応する参照画像を作成する。具体的には、以下のように動作する。まず、記憶装置109から制御計算機110を通して設計パターンデータを読み出し、この読み出された設計パターンデータに定義された各図形パターンを2値ないしは多値のイメージデータに変換する。
【0085】
上述したように、設計パターンデータに定義される図形は、例えば長方形や三角形を基本図形としたもので、例えば、図形の基準位置における座標(x、y)、辺の長さ、長方形や三角形等の図形種を区別する識別子となる図形コードといった情報で各パターン図形の形、大きさ、位置等を定義した図形データが格納されている。
【0086】
かかる図形データとなる設計パターンデータが参照画像作成回路112に入力されると図形ごとのデータにまで展開し、その図形データの図形形状を示す図形コード、図形寸法などを解釈する。そして、所定の量子化寸法のグリッドを単位とするマス目内に配置されるパターンとして2値ないしは多値の設計パターン画像データに展開し、出力する。言い換えれば、設計データを読み込み、検査領域を所定の寸法を単位とするマス目として仮想分割してできたマス目毎に設計パターンにおける図形が占める占有率を演算し、nビットの占有率データを出力する。例えば、1つのマス目を1画素として設定すると好適である。そして、1画素に1/28(=1/256)の分解能を持たせるとすると、画素内に配置されている図形の領域分だけ1/256の小領域を割り付けて画素内の占有率を演算する。そして、8ビットの占有率データとなる。かかるマス目(検査画素)は、測定データの画素に合わせればよい。
【0087】
次に、参照画像作成回路112は、図形のイメージデータである設計パターンの設計画像データに、所定のフィルタ関数を使ってフィルタ処理を施す。これにより、画像強度(濃淡値)がデジタル値の設計側のイメージデータである設計画像データをマルチ1次電子ビーム20の照射によって得られる像生成特性に合わせることができる。作成された参照画像の画素毎の画像データは比較回路108に出力される。比較回路108内に転送された参照画像データは、記憶装置52に格納される。
【0088】
比較工程(S140)として、まず、位置合わせ部57は、被検査画像となるフレーム画像31と、当該フレーム画像31に対応する参照画像とを読み出し、画素より小さいサブ画素単位で、両画像を位置合わせする。例えば、最小2乗法で位置合わせを行えばよい。
【0089】
そして、比較部58は、取得された2次電子画像の少なくとも一部と所定の画像とを比較する。ここでは、ビーム毎に取得されたサブ照射領域29の画像をさらに分割したフレーム画像を用いる。そこで、比較部58は、フレーム画像31と参照画像とを画素毎に比較する。比較部58は、所定の判定条件に従って画素毎に両者を比較し、例えば形状欠陥といった欠陥の有無を判定する。例えば、画素毎の階調値差が判定閾値Thよりも大きければ欠陥と判定する。そして、比較結果が出力される。比較結果は、記憶装置109、若しくはメモリ118に出力される、或いはプリンタ119より出力されればよい。
【0090】
なお、上述した例では、ダイ-データベース検査について説明したが、これに限るものではない。ダイ-ダイ検査を行う場合であっても良い。ダイ-ダイ検査を行う場合、対象となるフレーム画像31(ダイ1)と、当該フレーム画像31と同じパターンが形成されたフレーム画像31(ダイ2)(参照画像の他の一例)との間で、上述した位置合わせと比較処理を行えばよい。
【0091】
以上のように、実施の形態1によれば、マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状を補正する場合において、マルチ1次電子ビームの走査に伴うマルチ2次電子ビームの位置移動を相殺するマルチ2次電子ビームの振り戻し偏向後の誤差を低減できる。
【0092】
[実施の形態2]
実施の形態1では、1次スキャンを行う偏向器209と、2次スキャン(振り戻し偏向)を行う偏向器226との間に、多極子補正器227を配置する場合について説明した。実施の形態2では、2次スキャン(振り戻し偏向)後の軌道上に多極子補正器227を配置する場合について説明する。以下、特に説明する点以外の内容は実施の形態1と同様である。
【0093】
図20は、実施の形態2における検査装置の構成を示す構成図である。
図20において、偏向器226が、E×B分離器214によりマルチ2次電子ビーム300が分離された後の2次ビーム系の軌道上であって、多極子補正器227よりも2次ビーム系の軌道の上流側に配置された点以外は、
図1と同様である。実施の形態2における検査方法の要部工程の内容は
図9と同様である。
なお、
図20において、2段の偏向器208,209は、1段の偏向器(例えば偏向器209)であってもよい。同様に、2段の偏向225,226は、1段の偏向器(例えば偏向器226)であってもよい。
【0094】
図21は、実施の形態2における1次スキャンの各偏向位置での振り戻し補正前のビーム検出位置の画像の一例を示す図である。
図21では、
図11と同様、2次スキャンを行わずに1次スキャンで使用する位置に偏向を行った1次スキャン画像取得工程(S102)で取得される各マルチ2次電子ビーム300の検出位置の一例を示している。
【0095】
ここで、実施の形態2では、偏向器226により、1次スキャンに伴うマルチ2次電子ビーム300の位置移動を振り戻した後に、多極子補正器227によるビームアレイ分布形状の補正が行われる。そのため、1次スキャンによる偏向位置に応じて、多極子補正器227を通過するマルチ2次電子ビーム300の位置が変化しない。よって、多極子補正器227で形成される磁場から各2次電子ビームが受ける作用が、1次スキャンの各偏向位置によって変化してしまうことは回避できる。その結果、1次スキャンの各位置によってビームアレイ分布形状の補正の効果を同様にできる。
【0096】
このため、
図21の例では、
図11の例とは異なり、大きな歪は生じない。よって、実施の形態2の構成では、実施の形態1のように、補正電位を偏向器226の各電極に加算しないようにできる。
【0097】
但し、
図21の例において、例えば、「△」で示すビームの右上側の偏向位置と「+」で示すビームの左下側の偏向位置とにおいて、大きくはない歪が生じていることがわかる。この歪は、マルチ1次電子ビーム20の1次スキャン(走査)により生じるマルチ2次電子ビーム300の軌道の誤差成分である。
【0098】
図22は、実施の形態2における2次スキャンの各偏向位置での振り戻し補正前のビーム検出位置の画像の一例を示す図である。
図22では、1次スキャンを行わずに2次スキャンで使用する位置に振り戻し偏向を行った2次スキャン画像取得工程(S104)で取得される各マルチ2次電子ビーム300の検出位置の一例を示している。
図22では、各ビーム共に、大きな歪は生じていないことがわかる。2次スキャンでは、振り戻し偏向を行うので、
図21に示すマルチ2次電子ビーム300の位置とは反対側の位置に対応するマルチ2次電子ビーム300が検出されることになる。
【0099】
画像合成工程(S106)として、画像合成回路138(合成位置分布作成部の一例)は、1次スキャン(走査)に伴うマルチ1次電子ビーム20の偏向により生じるマルチ2次電子ビーム300の検出位置分布と、マルチ1次電子ビーム20の走査に伴うマルチ2次電子ビーム300の位置移動を相殺するためのマルチ2次電子ビーム300の偏向によるマルチ2次電子ビーム300の検出位置分布と、の合成位置分布を作成する。具体的には、画像合成回路138は、2次スキャンを行わずに1次スキャンを行って得られた各マルチ2次電子ビーム300の検出位置の画像と、1次スキャンを行わずに2次スキャンを行って得られた各マルチ2次電子ビーム300の検出位置の画像と、を合成する。
【0100】
図23は、実施の形態2における振り戻し補正前の合成画像の一例を示す図である。
図23では、
図21に示す2次スキャンを行わずに1次スキャンを行って得られた各マルチ2次電子ビーム300の各偏向位置における検出位置の画像と、
図22に示す1次スキャンを行わずに2次スキャンを行って得られた各マルチ2次電子ビーム300の各偏向位置における検出位置の画像とを合成した合成画像を示している。
図23の例では、合成後の各マルチ2次電子ビーム300のうち、「△」で示すビームの右上側の偏向位置と「+」で示すビームの左下側の偏向位置とにおいて振り戻し偏向後に外周部において歪が若干残ってしまうことがわかる。作成された合成画像は偏向調整回路134に出力される。そして、合成画像は偏向調整回路134内の記憶装置61に格納される。
【0101】
これらの歪は、上述したように、マルチ1次電子ビーム20の1次スキャン(走査)により生じるマルチ2次電子ビーム300の軌道の誤差成分である。そこで、実施の形態2では、更なる高精度化を図るべく、かかる1次スキャン(走査)により生じるマルチ2次電子ビーム300の軌道の誤差成分について補正する。補正の仕方は実施の形態1と同様である。具体的には、以下のように動作する。
【0102】
位置ずれ量算出工程(S108)として、位置ずれ量算出部62は、ビームアレイ分布形状の補正を行う場合における、合成位置分布と設計上の位置分布との位置ずれ量(誤差)を算出する。位置ずれ量は、1次スキャン領域の各偏向位置において算出する。例えば、各偏向位置において最大位置ずれ量のベクトル(向きと大きさ)を算出する。或いは、各ビームの位置ずれ量の2乗平均を算出してもよい。なお、かかる位置ずれ量(歪)には、マルチ1次電子ビーム20の1次スキャン(走査)により生じるマルチ2次電子ビーム300の軌道の誤差成分が含まれても構わない。
【0103】
変換テーブル作成工程(S110)として、変換テーブル作成部64は、1次スキャンの各偏向位置と、合成位置分布と設計上の位置分布との位置ずれ量を補正するための補正電位との関係を示す変換テーブルを作成する。
【0104】
実施の形態2における変換テーブルには、
図16に示したように、1次スキャン領域における偏向位置座標x,yと、各偏向位置に対応する補正電位ΔV1~ΔV8が関連させて定義される。
【0105】
2次スキャンを行わずに1次スキャンで使用する位置に偏向を行った1次スキャン画像取得工程(S102)で取得される各マルチ2次電子ビーム300の検出位置の画像は
図21と同様である。
【0106】
図24は、実施の形態2における2次スキャンの各偏向位置での振り戻し補正後のビーム検出位置の画像の一例を示す図である。
図24では、1次スキャンを行わずに2次スキャンで使用する位置に振り戻し偏向を行った2次スキャン画像取得工程(S104)で取得される各マルチ2次電子ビーム300の検出位置の一例を示している。
図24では、マルチ1次電子ビーム20の1次スキャン(走査)により生じるマルチ2次電子ビーム300の軌道の誤差成分を補正するように補正電位が偏向器226の各電極に印加された場合の各マルチ2次電子ビーム300の検出位置の一例を示している。
図22で示した補正前の各マルチ2次電子ビーム300の検出位置とは異なる。例えば、「△」で示すビームの右上側の偏向位置と「+」で示す左下側の偏向位置とにおいて生じる歪分が補正されることで、その分、マルチ2次電子ビーム300の検出位置がずれていることがわかる。
【0107】
図25は、実施の形態2における振り戻し補正後の合成画像の一例を示す図である。
図25では、
図21に示す2次スキャンを行わずに1次スキャンを行って得られた各マルチ2次電子ビーム300の各偏向位置における検出位置の画像と、
図24に示す1次スキャンを行わずに2次スキャンを行って得られた各マルチ2次電子ビーム300の各偏向位置における検出位置の画像とを合成した合成画像を示している。
図25の例では、合成後の各マルチ2次電子ビーム300について、マルチ1次電子ビーム20の1次スキャン(走査)により生じるマルチ2次電子ビーム300の軌道の誤差成分により生じていた歪が、振り戻し偏向後に補正されていることがわかる。
【0108】
以上の前処理が終了後、被検査基板の画像を取得する。被検査画像取得工程(S120)以降の各工程の内容は実施の形態1と同様である。言い換えれば、画像取得機構150は、マルチ1次電子ビーム20を基板101に照射して、基板から放出されたマルチ2次電子ビーム300による基板101の2次電子画像を取得する。その際、偏向制御回路128による制御のもと、副偏向器208(第1の偏向器)は、マルチ1次電子ビーム20の偏向により、マルチ1次電子ビーム20で基板101(試料)上を走査する。そして、偏向制御回路128は、合成位置分布と設計上の位置分布との誤差を補正するための補正電圧を偏向電圧に重畳する。そして、偏向制御回路128は、重畳した重畳電位を偏向器226に印加するように制御する。偏向制御回路128による制御のもと、偏向器226(第2の偏向器)は、マルチ2次電子ビーム300のビームアレイ分布形状が補正されたマルチ2次電子ビームを偏向する。これにより、偏向器226は、マルチ1次電子ビーム20の1次スキャン(走査)により生じるマルチ2次電子ビーム300の軌道の誤差成分により生じていた歪をダイナミックに補正する。
【0109】
そして、多極子補正器227は、マルチ2次電子ビーム300の偏向によってマルチ2次電子ビーム300の位置移動が相殺されたマルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状を補正する。
【0110】
そして、マルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状が補正されたマルチ2次電子ビーム300は、マルチ検出器222により検出される。そして、マルチ検出器222は、検出画像データを出力する。これにより基板101の2次電子画像を取得する。
【0111】
以上のように、実施の形態2によれば、1次スキャンの各偏向位置に応じた多極子補正器227によるマルチ2次電子ビームのビームアレイ分布形状の補正誤差を生じさせないようにできると共に、マルチ1次電子ビーム20の1次スキャン(走査)により生じるマルチ2次電子ビーム300の軌道の誤差成分を補正できる。
【0112】
また、上述した各実施の形態では、偏向器209よる1次スキャンと偏向器226による2次スキャンを行う場合を説明したがこれに限るものではない。偏向器208,209のセット(第1の偏向器の他の一例)による1次スキャンと偏向器225,226のセット(第2の偏向器の他の一例)による2次スキャンを行う場合であっても好適である。
【0113】
図26は、各実施の形態における2段偏向器によるスキャン動作を説明するための図である。
図26では、偏向器208,209の上下2段の偏向器のセットにより、1次スキャンを行う場合を示している。例えば、1次スキャンでは、偏向器208,209の上下2段の偏向器のセットでスキャンする場合でも、対物レンズ(電磁レンズ207)の中心をマルチ1次電子ビームが通るため収差を発生させないようにできる。
【0114】
以上の説明において、一連の「~回路」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~回路」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。プロセッサ等を実行させるプログラムは、磁気ディスク装置、磁気テープ装置、FD、或いはROM(リードオンリメモリ)等の記録媒体に記録されればよい。例えば、位置回路107、比較回路108、参照画像作成回路112、ステージ制御回路114、レンズ制御回路124、ブランキング制御回路126、偏向制御回路128、E×B制御回路133、偏向調整回路134、多極子補正器制御回路135、及び画像合成回路138は、上述した少なくとも1つの処理回路で構成されても良い。例えば、これらの回路内での処理を制御計算機110で実施しても良い。
【0115】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
図1の例では、1つの照射源となる電子銃201から照射された1本のビームから成形アパーチャアレイ基板203によりマルチ1次電子ビーム20を形成する場合を示しているが、これに限るものではない。複数の照射源からそれぞれ1次電子ビームを照射することによってマルチ1次電子ビーム20を形成する態様であっても構わない。
【0116】
上述した例では、変換テーブルの作成を検査装置100内で実施している場合を説明したがこれに限るものではない。装置外部のオフラインで作成した変換テーブルを検査装置100が入力し、記憶装置66に格納しても構わない。
【0117】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。
【0118】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチ荷電粒子ビーム位置合わせ方法及びマルチ荷電粒子ビーム検査装置は、本発明の範囲に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の一態様は、マルチ電子ビーム画像取得装置及びマルチ電子ビーム画像取得方法に関し、マルチ1次電子ビームを基板に照射して、基板から放出されるマルチ2次電子ビームを検出して画像を得る手法に利用できる。
【符号の説明】
【0120】
8 1次電子ビーム
20 マルチ1次電子ビーム
22 穴
29 サブ照射領域
30 フレーム領域
31 フレーム画像
32 ストライプ領域
33 矩形領域
34 照射領域
50,52,56 記憶装置
54 フレーム画像作成部
57 位置合わせ部
58 比較部
61,66 記憶装置
62 位置ずれ量算出部
64 変換テーブル作成部
68 補正電圧算出部
100 検査装置
101 基板
102 電子ビームカラム
103 検査室
105 ステージ
106 検出回路
107 位置回路
108 比較回路
109 記憶装置
110 制御計算機
111 マーク
112 参照画像作成回路
114 ステージ制御回路
117 モニタ
118 メモリ
119 プリンタ
120 バス
122 レーザ測長システム
123 チップパターンメモリ
124 レンズ制御回路
126 ブランキング制御回路
128 偏向制御回路
133 E×B制御回路
134 偏向調整回路
135 多極子補正器制御回路
138 画像合成回路
142 駆動機構
144,146,147,148,149 DACアンプ
150 画像取得機構
151 1次電子光学系
152 2次電子光学系
160 制御系回路
201 電子銃
202 電磁レンズ
203 成形アパーチャアレイ基板
205,206,207,224 電磁レンズ
208 偏向器
209 偏向器
212 一括ブランキング偏向器
213 制限アパーチャ基板
214 E×B分離器
216 ミラー
218 偏向器
222 マルチ検出器
225,226 偏向器
227 多極子補正器
300 マルチ2次電子ビーム
301 代表2次電子ビーム
330 検査領域
332 チップ