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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】界磁子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/03 20060101AFI20240724BHJP
   H02K 1/2788 20220101ALI20240724BHJP
【FI】
H02K15/03 C
H02K15/03 Z
H02K1/2788
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021522899
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021350
(87)【国際公開番号】W WO2020241828
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2019102775
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】菅 悟
(72)【発明者】
【氏名】平野 広昭
(72)【発明者】
【氏名】御手洗 浩成
(72)【発明者】
【氏名】浅野 巧
(72)【発明者】
【氏名】古山 元庸
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-033844(JP,A)
【文献】特開2000-037054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/03
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石粒子を熱硬化性樹脂で結合してなる円筒状のボンド磁石が磁性材からなる筒状のヨークの内周面側に固定されてなる界磁子の製造方法であって、
熱硬化処理後の該ボンド磁石を再加熱して軟化させる軟化工程と、
該軟化工程後のボンド磁石を該ヨークの一端側から嵌入して、該ボンド磁石の外周面を該ヨークの円筒状の内周面に圧接させる圧入工程とを備え、
該ヨークは、他端側に底部を有する略有底円筒状であり、該他端側に該ヨークの内周面の中心軸に直交する平面部を該中心軸まわりに3箇所有し、
該圧入工程は、該平面部をそれぞれ支持する突起を有する受け治具と、該ボンド磁石の一端側に配置され該ボンド磁石の内周面に対して隙間ができる内挿部を有する送り治具とを用いて、該ヨークの外周側を拘束せずに該ボンド磁石と該ヨークの相対的な姿勢変動を許容しつつ、該ボンド磁石を該ヨーク内へ相対的に送入する界磁子の製造方法。
【請求項2】
前記軟化工程は熱硬化処理温度(T)から100℃高い温度(T+100℃)より低温で、前記ボンド磁石を加熱する請求項1に記載の界磁子の製造方法。
【請求項3】
前記ヨークの内周面側に、一端側に向かって拡径するテーパー状の導入部が形成されている請求項1または2に記載の界磁子の製造方法。
【請求項4】
前記ヨークは、モータのケースである請求項1~のいずれかに記載の界磁子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンド磁石とヨーク(ケース等)からなる界磁子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石界磁式の電動機(発電機を含む。/単に「モータ」という。)は、各種装置の駆動源等として多用されている。このようなモータの高性能化、小型化、低コスト化等を図るため、円筒状のボンド磁石(界磁用永久磁石)を円筒状のヨーク(例えば、モータのケース)内に一体化することが提案されている。これに関連した記載が下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-184642号公報
【文献】WO2006/1304号公報
【文献】WO2011/126026号公報
【文献】特開2005-33844号公報
【文献】WO2006/059603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
いずれの特許文献も、接着剤を用いずに、ボンド磁石をヨークの内周面に圧着させる方法を提案している。具体的にいうと、特許文献1では、ヨーク内に配設したボンド磁石が加熱により酸化膨張することを利用して、両者を圧着している。特許文献2では、成形体(熱硬化前のボンド磁石)をキャビティからヨーク内へ直接的に圧入し、成形体のスプリングバックを利用して、両者を圧着している。特許文献3では、温間状態の成形体をケース(ヨーク)内へ直接的に圧入した後、熱硬化処理(キュアー処理)時に生じる成形体の膨張量を利用して、両者を圧着している。特許文献1~3は、成形体をヨーク(ケース)内に配置または嵌入してから熱硬化処理している点で共通している。
【0005】
特許文献4、5では、熱硬化処理後の成形体を、そのガラス転移点以下の温度に再加熱してから、筐体(ヨーク/ケース)へ圧入することにより両者を圧着している。このときになされる圧入は、それら特許文献には詳述されていないが、筐体の外周面と内周面との間で高い精度(同軸度、真円度、円筒度等)が確保されていることを前提として、筐体の外周側を拘束してなされている。
【0006】
但し、筐体の外周面自体の精度は、モータの性能とは基本的に関係がない。外周面に高精度を要求しなければ、筐体(ケース/ヨーク)の製造コストの低減が図られ、ひいてはモータの低コスト化も可能となる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来とは異なり、ボンド磁石とヨークからなる界磁子の低コスト化を図れる新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、ヨークの外周側を拘束せずに、ボンド磁石をヨーク(ケース)へ圧入することに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《界磁子の製造方法》
(1)本発明は、磁石粒子を熱硬化性樹脂で結合してなる円筒状のボンド磁石が磁性材からなる筒状のヨーク内に固定されてなる界磁子の製造方法であって、熱硬化処理後の該ボンド磁石を再加熱して軟化させる軟化工程と、該軟化工程後のボンド磁石を該ヨークの一端側から嵌入して、該ボンド磁石の外周面を該ヨークの内周面に圧接させる圧入工程とを備え、該圧入工程は、該ボンド磁石と該ヨークの相対的な姿勢変動を許容しつつ、該ボンド磁石を該ヨーク内へ相対的に送入する界磁子の製造方法である。
【0010】
(2)本発明の製造方法によれば、ヨーク(ケース等)の外周面(外筒部)等の精度を問わずに、ヨークの内周面(内筒部)の精度(同軸度、真円度等)と略同レベルな精度を、圧入後のボンド磁石の内周面に付与できる。このため、少なくとも内周面について所望の精度が確保されたヨークを用意すれば、ボンド磁石の内周面と回転子(電機子)の外周面との間に、所望する一定のギャップが確保される界磁子が得られる。その結果、ヨーク(ケース等)の低コスト化を図れ、ひいては界磁子やモータの低コスト化も可能となる。
【0011】
このような界磁子が本発明の製造方法により得られる理由は次のように考えられる。先ず、熱硬化処理(キュアー処理)前のボンド磁石(単に「成形体」という。)は、磁石粒子と加熱されて軟化または溶融した樹脂との混合物が、成形型のキャビティ内で所望形状(円筒状)に成形されてなる。
【0012】
キャビティから取り出されて、完全に冷却凝固する前の成形体は、強度や剛性が不十分であり、可塑性を有する。このため成形体には、キャビティからの取出時やその後の搬送時等のハンドリングに起因して、僅かながら変形(歪み)が生じ得る。
【0013】
ボンド磁石は、通常、そのような成形体に生じた歪みが修復されることなく、完全に冷却(凝固)された後に、バッチ処理等による熱硬化処理が施されて製造される。このため、成形体に生じていた歪みは、熱硬化処理されたボンド磁石にも承継される。熱硬化処理後のボンド磁石は十分に高強度または高剛性であるため、そのままヨーク内に圧入されると、その歪みは、ヨーク内のボンド磁石の内周面の精度に影響を及ぼす。
【0014】
本発明の製造方法では、先ず、熱硬化処理後のボンド磁石を再加熱して軟化させている。軟化したボンド磁石は、圧入に必要な程度の強度や剛性を備えつつ、可塑性をも備える。このボンド磁石を、ヨークとの相対的な姿勢変動を許容した状態で、ヨークの内周面に沿って送入していくと、ボンド磁石は、精度が確保されたヨークの内周面に沿った形状となる。つまり、ボンド磁石は、圧送時に余計な外力等を受けて歪むこともなく、再加熱前にあった変形が修復される。こうしてボンド磁石の内周面は、ヨークの内周面と同程度の精度を有するようになったと考えられる。
【0015】
《その他》
(1)本明細書では、便宜上、ボンド磁石側を一端側、ヨーク側を他端側という。ヨークについて観ると、ボンド磁石が導入される側が一端側、その反対側が他端側となる。ボンド磁石について観れば、ヨーク内に嵌入(送入)される先端側が他端側、その後端側(反対側)が一端側となる。ボンド磁石の上方にヨークを置いて圧入する場合なら、下方が一端側、上方が他端側となる。
【0016】
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また本明細書でいう「x~yμm」はxμm~yμmを意味する。他の単位系についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】ケース、リング磁石およびそれらの組み付け治具を模式的に示す断面図である。
図1B】ケースの他端側の平面図である。
図2A】ケースとリング磁石の組付け初期を模式的に示す断面図である。
図2B】ケースとリング磁石の組付け中期を模式的に示す断面図である。
図2C】ケースとリング磁石の組付け後期を模式的に示す断面図である。
図3】ケースの変形例を示す断面図である。
図4】ケースへリング磁石を組み付ける他例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書中に記載した事項から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を、上述した本発明の構成に付加し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。製造方法に関する構成は物に関する構成となり得る。
【0019】
《軟化工程》
軟化工程は、熱硬化処理したボンド磁石を再加熱して軟化させる。軟化は、ヨークへの圧入が可能な機械的特性(剛性、強度等)と、ヨークの内周面に沿った円筒状となる可塑性とを備える程度であるとよい。
【0020】
ボンド磁石の加熱温度は、熱硬化性樹脂の種類、その質量割合、熱履歴等に応じて、適宜調整される。通常、ボンド磁石は、その熱硬化処理温度(T)+100度よりも低温で加熱されるとよい。例えば、その温度は、T+70℃以下、T+40℃以下、T+10℃以下、T以下、T-20℃以下であるとよい。また、その温度は、40℃以上さらには50℃以上であるとよい。一例として、熱硬化性樹脂がフェノールノボラック型のエポキシ樹脂なら、その温度は、例えば、270~40℃、240~40℃、210~50℃、180~60℃、150~90℃、140~100℃さらには130~110℃とするとよい。また、一例として、熱硬化性樹脂がビスフェノールA型のエポキシ樹脂なら、その温度は、例えば、150~40℃、120~40℃、90~40℃、80~50℃さらには70~55℃とするとよい。
【0021】
再加熱の温度が過大になると、ボンド磁石の剛性等が低下して、圧入し難くなり得る。その温度が過小では、ボンド磁石の可塑性が低下して、ボンド磁石にクラックが発生したり、ヨークの内周面に沿った形状に沿い難くなり得る。なお、本明細書でいうボンド磁石の加熱温度は、加熱炉等の雰囲気温度である。熱硬化処理温度が変化するとき、または熱硬化処理が多段階でなされるとき、熱硬化処理中の最高温度を、再加熱温度の基準(T)とするとよい。
【0022】
ボンド磁石の加熱時間は、その大きさ(肉厚)、熱硬化性樹脂の種類や質量割合等により適宜調整され得る。例えば、10秒~1時間さらには20秒~30分間程度、再加熱されるとよい。
【0023】
《圧入工程》
圧入工程は、相対的な姿勢変動を許容しつつ、ボンド磁石をヨーク内へ相対的に送入する。ボンド磁石とヨークの少なくとも一方が非拘束状態(非固定状態)にあれば、両者間で相対的な姿勢変動が可能となる。姿勢変動が可能な範囲で、ボンド磁石やヨークの少なくとも一部がガイドにより支持されていてもよい。つまり、圧入工程は、例えば、ヨークの外周側を完全な非拘束状態(フリーな状態)としてなされてもよいし、ヨークの外周側や端部側の一部が、ガイド等で部分的に規制された状態(例えば、後述の図1Aを参照すると、ケース1の平面部131が、受け治具3の内底面33aに予め当接した状態)でなされてもよい。同様に、圧入工程は、例えば、ボンド磁石の内周側(例えば、図1Aに示す内周面22a)や外周側(例えば、図1Aに示す外周面22b)を、完全な非拘束状態(フリーな状態)としてなされてもよい。
【0024】
姿勢変動は、並進運動のみでも、回転運動のみでも、両者の組み合わせでもよい。回転運動は、ある起点(治具との接触点等)を中心とした回転でもよいし、別な瞬間中心まわりの回転でもよい。姿勢変動は、例えば、送入方向(略中心軸方向)に対する横方向への移動、いわゆる首振り等でもよい。要するに、圧入時に、ボンド磁石に余計な力が作用せず、ボンド磁石がヨークの内周面に沿って滑らかに嵌入される状態が得られると好ましい。なお、姿勢変動は、ヨークとボンド磁石の一方の運動により実現されてもよいし、それら両方の運動(連動)により実現されてもよい。
【0025】
圧入時、ボンド磁石の先端部(他端部)が当接するヨークの内周面側には、一端側に向かって拡径したテーパー状の導入部(単に「テーパー部」という。)があると好ましい。これにより、ボンド磁石のヨーク内への滑らかな圧送が可能となる。テーパー部の傾角は、例えば、中心軸に対して5~12°さらには6~10°とすればよい。
【0026】
なお、そのテーパー部に替え、またはそのテーパー部と共に、ボンド磁石の先端部の外周縁に、面取り等のテーパー部がさらに設けられていてもよい。また、ケースにテーパー部がなくても、その一端側に別途、テーパー部を設けても良い。
【0027】
締め代は、ボンド磁石やヨークの肉厚、ボンド磁石の剛性、モータの用途等に応じて、適宜調整される。締め代は、少なくとも、圧入工程後に、ボンド磁石がヨークから脱落しない程度であるとよい。
【0028】
《ヨーク》
ヨークは、磁性材からなる。ヨークは、内周面が円筒面であれば、外周面は円筒面でもよいし、円筒面でなくてもよい。少なくともヨークの内周面が、所望の精度(例えば真円度)であれば足る。
【0029】
ヨークは、内周面の中心軸に直交する平面部を有するとよい。平面部は、例えば、ボンド磁石や電機子等の組付け精度(例えば同軸度)等の基準となる。平面部は、例えば、ヨークの他端側(導入部の反対側)にあるとよい。モータのケースがヨークを兼用していると、モータの低コスト化や小型化等が図られる。
【0030】
《ボンド磁石》
ボンド磁石は、磁石粒子と熱硬化性樹脂からなる円筒状の成形体が、熱硬化処理されてなる。
【0031】
(1)磁石粒子の少なくとも一部は、希土類磁石粒子であるとよい。これによりボンド磁石ひいてはモータの高性能化や小型化等が可能となる。磁石粒子は、等方性でも異方性でもよい。少なくとも等方性磁石粒子からなるボンド磁石は、ヨークへの圧入後に、着磁されるとよい。異方性磁石粒子からなるボンド磁石は、磁場配向中で成形された成形体からなるとよい。この場合、さらに着磁がなされてもよい。
【0032】
希土類磁石粒子は、例えば、Nd-Fe-B系磁石粒子、Sm-Fe-N系磁石粒子、Sm-Co系磁石粒子等である。磁石粒子は、一種のみならず、複数種が混在したものでもよい。複数種の磁石粒子は、例えば、成分組成が異なるものでも、粒径分布が異なるものでも、それら両方が異なるものでもよい。
【0033】
(2)バインダ樹脂である熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン等である。なお、本明細書では、硬化剤や硬化助剤等が熱硬化に必要なときは、それらを含めて熱硬化性樹脂という。
【0034】
ボンド磁石中には、適宜、軟化または溶融した熱硬化性樹と磁石粉末との濡れ性や密着性等を改善する種々の添加剤が少量含まれてもよい。このような添加剤として、例えば、アルコール系等の潤滑剤、チタネート系もしくはシラン系のカップリング剤などがある。
【0035】
(3)熱硬化処理の条件は、熱硬化性樹脂の種類やボンド磁石のサイズ等に応じて、適宜調整される。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂なら、その種類にも依るが、例えば、加熱温度:80~200℃、加熱時間:10~60分間の範囲内で調整されるとよい。加熱雰囲気は、大気雰囲気でもよいが、非酸化雰囲気(Ar、N、真空等)なら、酸化によるボンド磁石(磁石粒子)の劣化を抑制できる。
【0036】
《界磁子》
本発明の製造方法により得られる界磁子は、直流(DC)モーターに用いられても、交流(AC)モーターに用いられてもよい。その界磁子の代表的な用途は、固定子(ステーター)で、電機子が回転子(ローター)となる小型DCモータである。なお、本明細書でいうモータには発電機も含まれる。
【実施例
【0037】
モータのケース(ヨーク)に、リング磁石(ボンド磁石)を組付ける場合を例にとり、本発明をより具体的に説明する。
【0038】
《構成》
界磁子を構成するケース1およびリング磁石2と、それらの組付けに使用する受け治具3および送り治具4とを図1Aに示した。なお、説明の便宜上、上下方向、左右方向、送入方向または横方向は図1Aに示す方向とする。このとき、本明細書でいう一端側は下方側、他端側は上方側となる。
【0039】
ケース1は、軟鉄鋼板(磁性材)を略有底円筒状に成形してなる。ケース1は、一端側から順に開口部11と、円筒部12と、底部13を備える。開口部11は、拡径した一端側(開口側)から縮径しつつ円筒部12へ滑らかに連なるテーパー部114(導入部)を他端内側に有する。円筒部12の内周面12aは、所望の精度(少なくとも真円度)が確保されているが、その外周面12bの精度は保証されていない。
【0040】
底部13は、中央にロータ(電機子)のシャフトの一端部を支持するための軸穴132を有する。また、図1Bに示すように、底部13の他端外面上には、軸穴132の周囲に3箇所の平面部131a~131c(まとめて「平面部131」という。)が形成されている。平面部131は、所定の平面度と、円筒状の内周面12aの中心軸線に対する所定の直角度が確保されており、界磁子またはモータの組付け基準または測定基準となる。
【0041】
リング磁石2は、希土類磁石粒子と熱硬化性樹脂からなるコンパウンドを円筒状に圧縮成形した成形体を、熱硬化処理したボンド磁石からなる。リング磁石2は、円筒部22と、その一端側にある環状の端面21と、その他端側にある環状の端面23とを有する。
【0042】
円筒部22の内周面22aも外周面22bも、真円度等は保証されていない。但し、円筒部22の内周長または肉厚(横方向/径方向)は、所定の範囲内となっている。
【0043】
受け治具3は、工具鋼からなる有底円筒体である。受け治具3は、一端側に開口部31と、円筒部32と、底部33とを備える。円筒部32の内径は、ケース1の円筒部12の外径よりも大きい。このため、受け治具3の内周面32aとケース1の外周面12bとの間には隙間があり、ケース1はその隙間の範囲内で姿勢変動が可能となっている。
【0044】
底部33の内底面33aは、所定の平面度を有する滑らかな平面からなる。受け治具3は、その内底面33aが鉛直方向(送入方向)に対して直交するように配設(固定)される。
【0045】
送り治具4は、工具鋼からなる段付き円柱体である。送り治具4は、円柱状の基部41と、基部41から上方(他面側)に延在する円柱状の内挿部42とを備える。基部41の外径は、リング磁石2(外周面22b)の外径よりも僅かに小さい。内挿部42の外径は、基部41の外径よりも小さく、さらに、リング磁石2(内周面22a)の内径よりも小さい。リング磁石2は、基部41と内挿部42の間にできる環状の下面411上に、端面21を接面させて載置される。そして、内挿部42の外周面42bとリング磁石2の内周面22aとの間にも隙間があり、リング磁石2はその隙間の範囲内で姿勢変動が可能となっている。
【0046】
なお、内挿部42はリング磁石2よりも上下方向の長さが短く、内挿部42の上面421が送り治具4に載置されたリング磁石2の端面23から突出しない。このため、リング磁石2の端面23を、ケース1の内底面13aに当接する位置またはその近傍まで送入できる。その際、内挿部42の上面421はケース1の内底面13aに当接しないため、底部13の精度(平面部131の平面度等)も保持される。
【0047】
送り治具4の一端側には、油圧シリンダ(図略)が配設されており、油圧シリンダへの供給油圧の制御により、送り治具4は所望の速度で上下動する。
【0048】
ちなみに、受け治具3と送り治具4の少なくとも一方についても、圧入方向に関する姿勢変動を許容してもよい。例えば、少なくとも一方の治具を、圧入方向に延在する自在継手(universal joint)等を介して上下動させてもよい。受け治具3および/または送り治具4の姿勢変動は、ケース1とリング磁石2の間の姿勢変動と共に、またはそれに替えてなされてもよい。
【0049】
《組付け》
(1)軟化工程
先ず、リング磁石2を予め加熱炉(大気雰囲気)で、熱硬化処理温度よりも低い温度で加熱する。これによりリング磁石2は、圧入に必要な強度や剛性を保持しつつ、可塑性を発現する。
【0050】
(2)セット工程
次に、その軟化したリング磁石2を、図1Aに示すように、上方から内挿部42へ差し入れて、送り治具4にセットする。既述したように、リング磁石2の内周面22aと送り治具4の内挿部42との間には隙間があるため、その隙間の範囲内で、リング磁石2は横方向へ移動し得る。
【0051】
さらに、そのリング磁石2へ上方から、ケース1の開口部11を差し入れる。このとき、ケース1は、テーパー部114の内周面をリング磁石2の端面23の外周縁に当接させた状態で保持される。
【0052】
(3)圧入工程
リング磁石2上にケース1が被せられた状態のまま、油圧シリンダを稼働させて送り治具4を上方へ移動させる。これにより、ケース1の底部13および円筒部12が、受け治具3の円筒部32の内側へ進入する。既述したように、ケース1の外周面12bと受け治具3の円筒部32との間には隙間があるため、その隙間の範囲内で、ケース1も横方向へ移動し得る。
【0053】
送り治具4のさらなる上昇により、図2Aに示すように、ケース1の底部13の上面外縁が、受け治具3の内底面33aと、部分的に接触し始める。
【0054】
さらに送り治具4が上方へ移動すると、ケース1とリング磁石2は姿勢変動または横方向へ移動しつつ、ケース1の底部13の上面外縁が受け治具3の内底面33a上を摺動する。そして、図2Bに示すように、ケース1の平面部131が受け治具3の内底面33aに当接するようになる。こうして、ケース1とリング磁石2は、自動的に調心された状態となる。つまり、両者の中心軸が、平面部131と内底面33aに直交する方向(鉛直方向)に沿ってほぼ一致した状態となる。
【0055】
ケース1とリング磁石2が調心された状態となった後、送り治具4のさらなる上昇に応じて、図2Cに示すように、リング磁石2はケース1内へ送入されていく。ここでリング磁石2は、座屈しない十分な強度や剛性を備えると共に、ケース1の内周面12aに沿った形状に変形可能な可塑性を有する。このため、リング磁石2は、ケース1への送入と共に、真円度が確保されたケース1の内周面12aに沿って再成形される。この結果、リング磁石2の内周面22aには、ケース1の内周面12aと略同等な精度(真円度)が付与される。
【0056】
なお、リング磁石2のケース1への送入は、端面23が内底面13aに当接するまでなされてもよいし、その当接前の所定位置までに留められてもよい。
【0057】
こうして、ケース1にリング磁石2が圧入された界磁子が得られる。この界磁子の内周面22aは、ケース1の平面部131に対して直交する中心軸まわりに、所定の精度(真円度等)を有する。上述した工程から明らかなように、その内周面22aの精度は、ケース1の外周面12bの精度等に依存することなく確保された。
【0058】
《変形例》
(1)ケース1に替えて、図3に示すように、他端側が開口したケース5を用いることもできる。なお、既述した部位については、既述した符号と同符号を付して、それらの説明を省略する(以下同様)。
【0059】
ケース5の場合、環状の端面53(またはその外縁)が受け治具3の内底面33aに対して摺動および当接した後、リング磁石2がケース5内に送入される。端面53が平面部131と同様な精度を有すると、ケース5を用いても、リング磁石2の内周面22aの精度(同軸度等)は確保される。
【0060】
(2)ケース1に替えて、図4に示すように、底部63を有するケース6を用いることもできる。底部63は、軸穴632(軸穴132相当)の周囲に3箇所の窪みを有し、各窪みの上面側に平面部631a~631c(まとめて「平面部631」という。)が形成されている(平面部631cは省略)。平面部631は、平面部131と同様に、中心軸線に対する所望の精度(直角度)が確保されている。
【0061】
受け治具3は、各平面部631に当接する突起71a~71c(まとめて「突起71」という。)を有する治具に変更する(突起71cは省略)。ケース6の平面部631を突起71で支持しつつ、送り治具4でリング磁石2をケース6へ送入すれば、既述した場合と同様に、リング磁石2の内周面22aの精度が確保される。
【0062】
《評価例》
(1)ケースとリング磁石
実際に製作したケース1とリング磁石2を用いて、上述した軟化工程と圧入工程の効果を確認した。
【0063】
ケース1には、冷間圧延鋼板製の有底円筒体(外径:φ34.0mm、内径:φ30.0mm、長さ:70.0mm)を用意した。その内周面側に設けたテーパー部114(導入部)は、中心軸に対する傾角を8°とした。ケース1の内周面12aの真円度は0.10mmとした。なお、真円の測定はJIS B0021に沿って行った(以下同様)。
【0064】
リング磁石2は次のようにして製作した。原料には、NdFeB系希土類異方性磁石粒子(愛知製鋼株式会社マグファイン磁石粉末MF15P)とエポキシ樹脂からなるコンパウンドを用いた。なお、コンパウンド全体に対するエポキシ樹脂量は3質量%であった。また、エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型であり、その熱硬化温度は150℃であった。
【0065】
そのコンパウンドを金型のキャビティ内で加熱しつつ圧縮して(150℃×130MPa×6秒間)、円筒状の成形体(外径:30.2φmm×内径:φ28.1mm×長さ:30mm)を得た。この成形体を大気雰囲気の加熱炉で加熱して、熱硬化処理した(150℃×40分間)。こうしてボンド磁石からなるリング磁石2を用意した。
【0066】
(2)組付け
先ず、図1Aに示した受け治具3と送り治具4を用いて、軟化工程後のリング磁石2をケース1へ組み込んだ(圧入工程)。軟化工程は、リング磁石2を大気雰囲気の加熱炉で加熱した(150℃×30秒間)。圧入工程は、荷重:985N、移動速度:30mm/secとして行った。
【0067】
こうしてケース1に組み込まれたリング磁石2の内周面22aは、真円度が0.12mmであった。
【0068】
(3)比較例
軟化工程を施さないリング磁石2に対して、上述した圧入工程を行った場合、リング磁石2の内周面22aにひび(クラック)が発生することがあった。また、ケース1とリング磁石2の姿勢変動を許容しないで、上述した軟化工程後のリング磁石2をケース1へ送入した場合は、荷重異常となり圧入できなかった。
【0069】
(4)評価
それぞれの測定結果(真円度)から、軟化させたリング磁石2を、姿勢変動を許容した状態でケース1へ圧入することにより、リング磁石2の内周面22aを所望の精度にできることが確認された。逆に、軟化工程を省略したり、姿勢変動を許容せずに圧入工程をすると、リング磁石2をケース1へ適切に圧入し難いこともわかった。
【符号の説明】
【0070】
1 ケース(ヨーク)
2 リング磁石(ボンド磁石)
3 受け治具
4 送り治具
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3
図4