IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧

特許7525823インク、インク収容容器、記録装置、記録方法、及びインクセット
<>
  • 特許-インク、インク収容容器、記録装置、記録方法、及びインクセット 図1
  • 特許-インク、インク収容容器、記録装置、記録方法、及びインクセット 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】インク、インク収容容器、記録装置、記録方法、及びインクセット
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20240724BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20240724BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240724BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C09D11/38
C09D11/54
B41M5/00 120
B41M5/00 132
B41J2/01 501
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020193735
(22)【出願日】2020-11-20
(65)【公開番号】P2021127445
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2020020538
(32)【優先日】2020-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(72)【発明者】
【氏名】玉井 崇詞
(72)【発明者】
【氏名】花澤 宏文
(72)【発明者】
【氏名】小島 さゆり
(72)【発明者】
【氏名】横濱 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 聡
(72)【発明者】
【氏名】今永 之弘
(72)【発明者】
【氏名】宮明 杏実
(72)【発明者】
【氏名】杉田 健人
(72)【発明者】
【氏名】大山 光一朗
(72)【発明者】
【氏名】黒羽 みずき
(72)【発明者】
【氏名】吉川 徹
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-019990(JP,A)
【文献】特開2016-193975(JP,A)
【文献】特開2014-189709(JP,A)
【文献】特開2017-002217(JP,A)
【文献】特開2017-137461(JP,A)
【文献】特開2018-039936(JP,A)
【文献】特開2019-162741(JP,A)
【文献】特開2020-169286(JP,A)
【文献】特開2021-031595(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0249022(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、下記一般式(1)で表される化合物と、下記構造式(A)で表される化合物及び下記構造式(B)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つと、を含有することを特徴とするインク。
【化1】

(上記一般式(1)中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、nは、4以上10以下の整数を表す。)
【化2】

【化3】
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である請求項1に記載のインク。
【化4】
(上記一般式(2)中、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、nは、4以上10以下の整数を表す。)
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(3)で表される化合物である請求項1に記載のインク。
【化5】
(上記一般式(3)中、nは、4以上10以下の整数を表す。)
【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物の含有量は、前記インクの質量に対して0.2質量%以上1.5質量%以下である請求項1から3のいずれか一項に記載のインク。
【請求項5】
前記構造式(A)で表される化合物及び前記構造式(B)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つの含有量は、前記インクの質量に対して0.05質量%以上5.0質量%以下である請求項1から4のいずれか一項に記載のインク。
【請求項6】
更に、下記一般式(4)で表される化合物を含有する請求項1から5のいずれか一項に記載のインク。
【化6】
(上記一般式(4)中、R10及びR11は、それぞれ独立して、炭素数3以上6以下のアルキル基を表し、R12及びR13は、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基を表し、mは1以上6以下の整数を表す。)
【請求項7】
前記一般式(4)で表される化合物の含有量は、前記インクの質量に対して0.2質量%以上1.0質量%以下である請求項6に記載のインク。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のインクが収容されたインク収容容器。
【請求項9】
請求項8に記載のインク収容容器と、収容された前記インクを付与するインク付与手段と、を有する記録装置。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載のインクを付与するインク付与工程を有する記録方法。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載のインクと、前記インクに含有された成分を凝集させる凝集剤を含有する処理液と、を有するインクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク、インク収容容器、記録装置、記録方法、及びインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、低騒音、低ランニングコスト、カラー印刷が容易であるなどの利点を有しており、デジタル信号の出力機器として一般家庭に広く普及している。また、近年では、家庭用のみならず商業用途や産業用途にもインクジェット技術が利用されてきている。
【0003】
商業用途や産業用途では、インク低吸収性の印刷用塗工紙(コート紙)やインク非吸収性のプラスチックメディアが記録媒体として用いられることがあるため、これらメディアに対しても、インクジェット記録方法により、従来のオフセット印刷並の画質を実現することが求められている。
また、商業用途や産業用途では、高い生産性が求められるため、インクジェットヘッドを複数回動作させて印刷する従来方式であるシリアルヘッド方式の代わりに、インクジェットヘッドを固定して一度で印刷する方式であるラインヘッド方式が採用される場合がある。
【0004】
特許文献1には、顔料(A)、有機溶剤(B)、界面活性剤(C)及び水を含有するインクジェット記録用水系インクが開示されており、具体的には、該界面活性剤(C)が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩及びポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸塩から選ばれる1種以上の化合物(C-1)と、アセチレングリコール及びアセチレングリコールのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上の化合物(C-2)とを含むことが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、記録媒体に付与されたインク滴が不規則に結合することで、インクにより形成される画像において色ムラ(ビーディング)を生じる課題がある。また、記録媒体に付与されたインク滴は、中央部より縁部における乾燥が速く縁部が先に増粘するため、縁部に顔料が密集し、インクにより形成される画像において、上記縁部における画像濃度が上記中央部における画像濃度より高くなる現象(コーヒーステイン現象)を生じる課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、顔料と、下記一般式(1)で表される化合物と、下記構造式(A)で表される化合物及び下記構造式(B)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つと、を含有することを特徴とするインクである。
【化1】

(上記一般式(1)中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、nは、4以上10以下の整数を表す。)
【化2】
【化3】
【発明の効果】
【0007】
本発明のインクは、インクにより形成される画像において、ビーディング及びコーヒーステイン現象が抑制される優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、記録装置の一例を示す斜視説明図である。
図2図2は、メインタンクの一例を示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0010】
<<インク>>
本実施形態のインクは、顔料と、一般式(1)で表される化合物と、構造式(A)で表される化合物及び構造式(B)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つと、を含有する。また、必要に応じて、一般式(4)で表される化合物、シリコーン系化合物、有機溶剤、樹脂、水、界面活性剤、及びその他添加剤等を含有してもよい。
【0011】
<一般式(1)で表される化合物>
インクは、下記一般式(1)で表される化合物を含む。一般式(1)で表される化合物は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルである。インク中に一般式(1)で表される化合物を含むことで、記録媒体等にインクが付与されることにより形成されるインクドットが濡れ広がりやすくなる。これにより、付与されるインクが小滴であっても画像濃度が向上する。また、記録媒体等の表面にインクが均一に薄く広がることで、記録媒体に付与されたインク滴の中央部と縁部における乾燥性の差が低減する。これにより、縁部に顔料が密集することが抑制され、結果として、インクにより形成される画像において、上記縁部における画像濃度が上記中央部における画像濃度より高くなる現象(以降、「コーヒーステイン現象」とも称する)が抑制される。
【0012】
【化4】
【0013】
一般式(1)におけるR、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。
炭素数1~5のアルキル基としては、分岐を有するアルキル基であっても分岐を有さないアルキル基であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基などが挙げられる。
【0014】
一般式(1)におけるnは4以上10以下の整数を表す。
【0015】
一般式(1)で表される化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0016】
【化5】
【0017】
一般式(2)におけるR、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。
炭素数1~5のアルキル基としては、分岐を有するアルキル基であっても分岐を有さないアルキル基であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基などが挙げられる。
【0018】
一般式(2)におけるnは4以上10以下の整数を表す。
【0019】
一般式(1)で表される化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、下記一般式(3)で表される化合物がより好ましい。一般式(3)で表される化合物に含まれる市販品としては、例えば、Triton HW-1000(ダウ・ケミカル社製)などが挙げられる。
【0020】
【化6】
【0021】
一般式(3)におけるnは4以上10以下の整数を表す。
【0022】
一般式(1)で表される化合物の含有量は、インクの質量に対して、0.2質量%以上1.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。0.2質量%以上1.5質量%以下であることで、画像濃度がより向上し、コーヒーステイン現象がより抑制される。
【0023】
<一般式(A)で表される化合物及び下記構造式(B)で表される化合物>
インクは、下記構造式(A)で表される化合物及び下記構造式(B)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを含む。インク中にこれらを含むことで、インクの浸透性が向上するため、記録媒体等に付与されたインクが液滴の状態で長時間記録媒体表面に残留することを抑制することができる。これにより、記録媒体に付与されたインク滴の不規則な結合が抑制され、インクにより形成される画像において色ムラ(以降、「ビーディング」とも称する)の発生が抑制される。なお、使用される記録媒体が低浸透性である場合、より長い間インク滴が記録媒体表面に残留してビーディングが課題となるため、そのような低浸透性の記録媒体において、本インクを用いることが好ましい。
【0024】
【化7】
【0025】
【化8】
【0026】
構造式(A)で表される化合物及び構造式(B)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つの含有量は、インクの質量に対して、0.05質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下であることが更に好ましい。0.05質量%以上10.0質量%以下であることで、ビーディングの発生がより抑制される。
【0027】
<一般式(4)で表される化合物>
インクは、下記一般式(4)で表される化合物を含むことが好ましい。一般式(4)で表される化合物は、アルカンジオールである。インク中にアルカンジオールを含むことで、インクの起泡性を抑制することができ、泡を巻き込むことで生じるインクの吐出不良を抑制することができる。また、インクの浸透性が向上するため、記録媒体等に付与されたインクが液滴の状態で長時間記録媒体表面に残留することを抑制することができる。これにより、インク滴中における対流が抑制されてビーディング性が向上する。なお、使用される記録媒体が低浸透性である場合、より長い間インク滴が記録媒体表面に残留してビーディングが課題となるため、そのような低浸透性の記録媒体において、本インクを用いることが好ましい。
アルカンジオールとしては、吐出安定性及びビーディング性を向上させることができるものであれば特に制限されず、例えば、下記一般式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0028】
【化9】
【0029】
一般式(4)におけるR10及びR11はそれぞれ独立して炭素数3以上6以下のアルキル基を表す。
一般式(4)におけるR12及びR13はそれぞれ独立してメチル基又はエチル基を表す。
一般式(4)におけるmは1以上6以下の整数を表す。
【0030】
具体的なアルカンジオールとしては、吐出安定性及びビーディング性を向上させることができるものであれば特に制限されず、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-4,7-デカンジオール等が挙げられる。なお、2,4,7,9-テトラメチル-4,7-デカンジオールの市販品としては、エンバイロジェムAD-01(日信化学工業社製)がある。
【0031】
一般式(4)で表される化合物の含有量は、インクの質量に対して、0.2質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。0.2質量%以上1.0質量%以下であることで、吐出安定性がより向上し、ビーディングの発生がより抑制される。
【0032】
<シリコーン系化合物>
インクは、シリコーン系界面活性剤等のシリコーン系化合物を含むことが好ましい。インク中にシリコーン系化合物を含むことで、インク吐出孔周辺(例えば、インクジェットヘッドのノズル形成面)でインクが乾燥、固着して形成された固着物を剥がれやすくすることができ、固着物によるインクの吐出不良を抑制することができる。これにより、インクの吐出手段として、シリアルヘッドに比べて固着物が生じやすいラインヘッドを用いた場合であっても、インクの吐出不良を抑制することができる。また、インクの浸透性が向上するため、記録媒体等に付与されたインクが液滴の状態で長時間記録媒体表面に残留することを抑制することができる。これにより、ビーディングの発生が抑制される。なお、使用される記録媒体が低浸透性である場合、より長い間インク滴が記録媒体表面に残留してビーディングが課題となるため、そのような低浸透性の記録媒体において、本インクを用いることが好ましい。
【0033】
シリコーン系化合物としては、吐出安定性が向上し、ビーディングの発生が抑制されるものであれば特に制限されず、例えば、下記一般式(5)で表される化合物が挙げられる。
【0034】
【化10】
【0035】
一般式(5)におけるRは水素原子又はメチル基を表し、m、mはそれぞれ独立して、0以上6以下の整数を表し、nは2以上20以下の整数を表す。
【0036】
具体的なシリコーン系化合物としては、吐出安定性が向上し、ビーディングの発生が抑制されるものであれば特に制限されず、例えば、BYK-345、347、348、349(BYK社)、WET240、270、280(Evonik社)、SAG002、013、503A(日信化学工業社)等が挙げられる。
【0037】
シリコーン系化合物の含有量は、インクの質量に対して、0.2質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。0.2質量%以上1.0質量%以下であることで、吐出安定性がより向上し、ビーディングの発生がより抑制される
【0038】
<顔料>
インクは、顔料を含む。顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。また、顔料として、混晶を使用しても良い。
【0039】
顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンタ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色などの光沢色顔料やメタリック顔料などを用いることができる。
無機顔料として、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
また、有機顔料としては、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、溶媒と親和性の良いものが好ましく用いられる。その他、樹脂中空粒子、無機中空粒子の使用も可能である。
【0040】
顔料の具体例として、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料があげられる。
さらに、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、150、153、155、180、185、213、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、207、208、209、213、219、224、254、264、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3、15:4(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、等がある。
【0041】
<有機溶剤>
有機溶剤としては特に制限されず、水溶性有機溶剤を用いることができる。例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類などのエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類が挙げられる。
【0042】
水溶性有機溶剤の具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、トリエチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ペトリオール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等の含窒素複素環化合物、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等のアミド類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等が挙げられる。湿潤剤として機能するだけでなく、良好な乾燥性を得られることから、沸点が250℃以下の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0043】
炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物も好適に使用される。炭素数8以上のポリオール化合物の具体例としては、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。
グリコールエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類などが挙げられる。
炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物は、記録媒体として紙を用いた場合に、インクの浸透性を向上させることができる。
【0044】
有機溶剤のインク中における含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、インク全量に対して、10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0045】
<水>
インクにおける水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宣選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、インク全量に対して、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0046】
<樹脂>
樹脂の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂などが挙げられる。
これらの樹脂からなる樹脂粒子を用いても良い。樹脂粒子を、水を分散媒として分散した樹脂エマルションの状態で、色材や有機溶剤などの材料と混合してインクを得ることが可能である。樹脂粒子としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。また、これらは、1種を単独で用いても、2種類以上の樹脂粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
樹脂粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な定着性、高い画像硬度を得る点から、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が特に好ましい。
体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0048】
樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、定着性、インクの保存安定性の点から、インク全量に対して、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0049】
インク中の固形分の粒径については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。吐出安定性、画像濃度などの画像品質を高くする点から、インク中の固形分の粒径の最大頻度が最大個数換算で20nm以上1000nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。固形分は樹脂粒子や顔料の粒子等が含まれる。粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0050】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等を使用可能である。
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物が、起泡性が小さいので特に好ましい。パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩等が挙げられる。パーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩等が挙げられる。これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、NH(CHCHOH)等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えばラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩、などが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0051】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素置換した炭素数が2~16の化合物が好ましく、フッ素置換した炭素数が4~16である化合物がより好ましい。
フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物などが挙げられる。これらの中でも、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物は起泡性が少ないため好ましく、特に一般式(F-1)及び一般式(F-2)で表わされるフッ素系界面活性剤が好ましい。
【化11】

上記一般式(F-1)で表される化合物において、水溶性を付与するためにmは0~10の整数が好ましく、nは0~40の整数が好ましい。
【化12】
上記一般式(F-2)で表される化合物において、YはH、又はCmF2m+1でmは1~6の整数、又はCHCH(OH)CH-CmF2m+1でmは4~6の整数、又はCpH2p+1でpは1~19の整数である。nは1~6の整数である。aは4~14の整数である。
上記のフッ素系界面活性剤としては市販品を使用してもよい。この市販品としては、例えば、サーフロンS-111、S-112、S-113、S-121、S-131、S-132、S-141、S-145(いずれも、旭硝子株式会社製);フルラードFC-93、FC-95、FC-98、FC-129、FC-135、FC-170C、FC-430、FC-431(いずれも、住友スリーエム株式会社製);メガファックF-470、F-1405、F-474(いずれも、大日本インキ化学工業株式会社製);ゾニール(Zonyl)TBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300、UR、キャプストーンFS-30、FS-31、FS-3100、FS-34、FS-35(いずれも、Chemours社製);FT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW(いずれも、株式会社ネオス社製)、ポリフォックスPF-136A,PF-156A、PF-151N、PF-154、PF-159(オムノバ社製)、ユニダインDSN-403N(ダイキン工業株式会社製)などが挙げられ、これらの中でも、良好な印字品質、特に発色性、紙に対する浸透性、濡れ性、均染性が著しく向上する点から、Chemours社製のFS-3100、FS-34、FS-300、株式会社ネオス製のFT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW、オムノバ社製のポリフォックスPF-151N及びダイキン工業株式会社製のユニダインDSN-403Nが特に好ましい。
【0052】
インク中における界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、濡れ性、吐出安定性に優れ、画像品質が向上する点から、0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0053】
<その他添加剤>
インクには、必要に応じて、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤等を加えても良い。
【0054】
<インクの物性>
インクの物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粘度、表面張力、pH等が以下の範囲であることが好ましい。
インクの25℃での粘度は、印字濃度や文字品位が向上し、また、良好な吐出性が得られる点から、5mPa・s以上30mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以上25mPa・s以下がより好ましい。ここで、粘度は、例えば回転式粘度計(東機産業社製RE-80L)を使用することができる。測定条件としては、25℃で、標準コーンローター(1°34’×R24)、サンプル液量1.2mL、回転数50rpm、3分間で測定可能である。
インクの表面張力としては、記録媒体上で好適にインクがレベリングされ、インクの乾燥時間が短縮される点から、25℃で、35mN/m以下が好ましく、32mN/m以下がより好ましい。
インクのpHとしては、接液する金属部材の腐食防止の観点から、7~12が好ましく、8~11がより好ましい。
【0055】
<<インクセット>>
本実施形態のインクは、処理液と組み合わせたインクセットとして用いてもよい。処理液は、インクに含有された成分を凝集させる凝集剤を含有する。インクに含有された成分とは、例えば、インク中の顔料等の色材であり、これによりインクにより形成される画像の画像濃度を向上させる。また、処理液の使用方法としては、例えば、インクが付与される前の記録媒体に対して処理液が付与される処理液付与工程、及び処理液が付与された記録媒体に対してインクを付与するインク付与工程等を有する。
【0056】
<処理液>
処理液は、凝集剤を含み、必要に応じて、有機溶剤、水、及びその他添加剤等を含有してもよい。なお、有機溶剤、水、及びその他添加剤等については、インクと同様のものを用いることができるのでその説明を省略する。
【0057】
-凝集剤-
凝集剤は、インクに含有された成分を凝集させる材料であれば特に限定されないが、例えば、金属塩が挙げられる。金属塩は、インク中の色材との電荷的な作用によって会合し、色材の凝集体を形成して、色材を液相から分離させ、記録媒体への定着を促進させる。処理液に金属塩を含有することで、インク吸収性の低い記録媒体を用いた場合などでもビーディングの発生を抑制でき、高画質な画像を形成できる。
【0058】
金属塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、チタン化合物、クロム化合物、銅化合物、コバルト化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物、鉄化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、亜鉛化合物、ニッケル化合物等の塩などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、顔料などの色材を効果的に凝集させることができる点から、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、ニッケル化合物の塩が好ましく、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩がより好ましい。
なお、金属塩はイオン性のものが好ましい。特に、上記金属塩がマグネシウム塩であることが好ましい。
【0059】
上記マグネシウム化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、珪酸マグネシムなどが挙げられる。
上記カルシウム化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム、珪酸カルシウムなどが挙げられる。
上記バリウム化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、硫酸バリウムなどが挙げられる。
上記亜鉛化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、硫化亜鉛、炭酸亜鉛などが挙げられる。
上記アルミニウム化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することが
でき、例えば、珪酸アルミニウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0060】
また、金属塩の処理液に対する含有量は、0.85モル/kg以上1.4モル/kg以下であることが好ましい。含有量が0.85モル/kg以上であることで、インク吸収性の低い記録媒体を用いた場合などでもビーディングの発生を抑制でき、高画質な画像を形成できる。また、含有量が1.4モル/kg以下であることで、処理液の保存安定性が向上する。
【0061】
<<記録媒体>>
記録媒体としては、特に制限なく用いることができ、普通紙、光沢紙、特殊紙、布などを用いることもできるが、低浸透性基材(低吸収性基材)に対して特に好適に用いることができる。
低浸透性基材とは、水透過性、吸収性、又は吸着性が低い表面を有する基材を意味し、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれる。低浸透性基材としては、商業印刷に用いられるコート紙や、古紙パルプを中層、裏層に配合して表面にコーティングを施した板紙のような記録媒体等が挙げられる。
なお、記録媒体としては、1つの印刷単位ごとに印刷可能なカット紙、記録媒体の搬送方向に複数の印刷単位を印刷可能な連帳紙やロール紙等を用いることができる。
【0062】
<低浸透性基材>
低浸透性基材としては、例えば、支持体と、支持体の少なくとも一方の面側に設けられた表面層と、を有し、更に必要に応じてその他の層を有するコート紙などの記録媒体が挙げられる。
【0063】
支持体と表面層を有する記録媒体においては、動的走査吸液計で測定した接触時間100msにおける純水の記録媒体への転移量は、2mL/m以上35mL/m以下が好ましく、2mL/m以上10mL/m以下がより好ましい。
【0064】
接触時間100msでのインク及び純水の転移量が少なすぎると、ビーディングが発生しやすくなることがあり、多すぎると、画像形成後のインクドット径が所望の径よりも小さくなりすぎることがある。
【0065】
動的走査吸液計にて測定した接触時間400msにおける純水の記録媒体への転移量は、3mL/m以上40mL/m以下が好ましく、3mL/m以上10mL/m以下がより好ましい。
【0066】
接触時間400msでの転移量が少ないと、乾燥性が不十分となり、多すぎると、乾燥後の画像部の光沢が低くなりやすくなることがある。接触時間100ms及び400msにおける純水の記録媒体への転移量は、いずれも記録媒体の表面層を有する側の面において測定することができる。
【0067】
ここで、動的走査吸収液計(dynamic scanning absorptometer;DSA,紙パ技協誌、第48巻、1994年5月、第88頁~92頁、空閑重則)は、極めて短時間における吸液量を正確に測定できる装置である。動的走査吸液計は、吸液の速度をキャピラリー中のメニスカスの移動から直読する、試料を円盤状とし、この上で吸液ヘッドをらせん状に走査する、予め設定したパターンに従って走査速度を自動的に変化させ、1枚の試料で必要な点の数だけ測定を行う、という方法によって測定を自動化したものである。
【0068】
紙試料への液体供給ヘッドはテフロン(登録商標)管を介してキャピラリーに接続され、キャピラリー中のメニスカスの位置は光学センサで自動的に読み取られる。具体的には、動的走査吸液計(K350シリーズD型、協和精工株式会社製)を用いて、純水又はインクの転移量を測定することができる。
【0069】
接触時間100ms及び接触時間400msにおける転移量としては、それぞれの接触時間の近隣の接触時間における転移量の測定値から補間により求めることができる。
【0070】
-支持体-
支持体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、木材繊維主体の紙、木材繊維及び合成繊維を主体とした不織布のようなシート状物質などが挙げられる。
支持体の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50μm~300μmが好ましい。 また、支持体の坪量は、45g/m~290g/mが好ましい。
【0071】
-表面層-
表面層は、顔料、バインダー(結着剤)を含有し、更に必要に応じて、界面活性剤、その他の成分を含有する。
顔料としては、無機顔料、もしくは無機顔料と有機顔料を併用したものを用いることができる。無機顔料としては、例えば、カオリン、タルク、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、非晶質シリカ、チタンホワイト、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、クロライトなどが挙げられる。無機顔料の添加量は、バインダー100質量部に対し50質量部以上が好ましい。
有機顔料としては、例えば、スチレン-アクリル共重合体粒子、スチレン-ブタジエン共重合体粒子、ポリスチレン粒子、ポリエチレン粒子等の水溶性ディスパージョンがある。有機顔料の添加量は、表面層の全顔料100質量部に対し2質量部~20質量部が好ましい。
バインダーとしては、水性樹脂を使用することが好ましい。水性樹脂としては、水溶性樹脂及び水分散性樹脂の少なくともいずれかを好適に用いることができる。水溶性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、アセタール変性ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエステルとポリウレタンなどが挙げられる。
表面層に必要に応じて含有される界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アニオン活性剤、カチオン活性剤、両性活性剤、非イオン活性剤のいずれも使用することができる。
表面層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、支持体上に表面層を構成する液を含浸又は塗布する方法により行うことができる。表面層を構成する液の付着量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、固形分で、0.5g/m~20g/mが好ましく、1g/m~15g/mがより好ましい。
【0072】
<<記録装置、記録方法>>
本実施形態のインクは、インクジェット記録方式による各種記録装置、例えば、プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機、立体造形装置などに好適に使用することができる。
記録装置、記録方法とは、記録媒体に対してインクや各種処理液等を吐出することが可能な装置、当該装置を用いて記録を行う方法である。記録媒体とは、インクや各種処理液が一時的にでも付着可能なものを意味する。
この記録装置には、インクを吐出するヘッド部分だけでなく、記録媒体の給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置と称される装置などを含むことができる。
記録装置、記録方法は、加熱工程に用いる加熱手段、乾燥工程に用いる乾燥手段を有しても良い。加熱手段、乾燥手段には、例えば、記録媒体の印字面や裏面を加熱、乾燥する手段が含まれる。加熱手段、乾燥手段としては、特に限定されないが、例えば、温風ヒーター、赤外線ヒーターを用いることができる。加熱、乾燥は、印字前、印字中、印字後などに行うことができる。
加熱手段、乾燥手段として赤外線ヒーターを用いた場合、少なくとも近赤外線照射装置を備えている。近赤外線照射装置は、ハロゲンランプと反射ミラーから成る装置が知られている。反射ミラーにハロゲンヒーターを組み込み、加熱ユニット化することにより効率の良い加熱を実現しようとしたものが製品化されており、例えば、UH-USC-CL300、UHUSC-CL700、UH-USC-CL1000、UH-USD-CL300、UHUSD-CL700、UH-USD-CL1000、UH-MA1-CL300、UHMA1-CL700、UH-MA1-CL1000(全てウシオ電機製)などが挙げられる。
また、記録装置、記録方法は、インクによって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、幾何学模様などのパターン等を形成するもの、3次元像を造形するものも含まれる。
また、記録装置には、特に限定しない限り、吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、吐出ヘッドを移動させないライン型装置のいずれも含まれる。
更に、この記録装置には、卓上型だけでなく、A0サイズの記録媒体への印刷も可能とする広幅の記録装置や、例えばロール状に巻き取られた連続用紙を記録媒体として用いることが可能な連帳プリンタも含まれる。
【0073】
記録装置の一例について図1乃至図2を参照して説明する。図1は同装置の斜視説明図である。図2はメインタンクの斜視説明図である。記録装置の一例としての画像形成装置400は、シリアル型画像形成装置である。画像形成装置400の外装401内に機構部420が設けられている。ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色用のメインタンク410(410k、410c、410m、410y)の各インク収容部411は、例えばアルミニウムラミネートフィルム等の包装部材により形成されている。インク収容部411は、例えば、プラスチックス製の収容容器ケース414内に収容される。これによりメインタンク410は、各色のインクカートリッジとして用いられる。
一方、装置本体のカバー401cを開いたときの開口の奥側にはカートリッジホルダ404が設けられている。カートリッジホルダ404には、メインタンク410が着脱自在に装着される。これにより、各色用の供給チューブ436を介して、メインタンク410の各インク排出口413と各色用の吐出ヘッド434とが連通し、吐出ヘッド434から記録媒体へインクを吐出(付与)可能となる。
【0074】
なお、インクの使用方法としては、インクジェット記録方法に制限されず、広く使用することが可能である。インクジェット記録方法以外にも、例えば、ブレードコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ダイコート法、スプレーコート法などが挙げられる。
【実施例
【0075】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
<処理液の調製>
下記に示す処方の材料を混合攪拌した後、1.5μmポリプロピレンフィルターでろ過し、処理液を作製した。
・硫酸マグネシウム:20.0質量%
・グリセリン:20.0質量%
・1,3-ブタンジオール:2.0質量%
・オクタンジオール:2.0質量%
・エマルゲンLS-106(界面活性剤、花王株式会社製):0.2質量%
・高純水:残量
【0077】
<顔料分散液の調製>
-ブラック顔料分散液の調製-
CTAB比表面積が150m/g、DBP吸油量100mL/100gのカーボンブラック90gを、2.5規定の硫酸ナトリウム溶液3,000mLに添加し、温度60℃、速度300rpmで攪拌し、10時間反応させて酸化処理を行った。得られた反応液を濾過し、濾別したカーボンブラックを水酸化ナトリウム溶液で中和し、限外濾過を行った。得られたカーボンブラックを水洗し、乾燥させて、顔料濃度が15質量%となるように純水中に分散させ、ブラック顔料分散液を得た。
【0078】
-イエロー顔料分散液の調製-
イエロー顔料としてC.I.ピグメントイエロー128を低温プラズマ処理しカルボン酸基を導入したイエロー顔料を作製した。これをイオン交換水に分散したものを限外濾過膜により脱塩濃縮して、顔料濃度15質量%のイエロー顔料分散液を得た。
【0079】
-マゼンタ顔料分散液の調製-
マゼンタ顔料としてC.I.ピグメントレッド122を低温プラズマ処理しカルボン酸基を導入したマゼンタ顔料を作製した。これをイオン交換水に分散したものを限外濾過膜により脱塩濃縮して、顔料濃度15質量%のマゼンタ顔料分散液を得た。
【0080】
-シアン顔料分散液の調製-
シアン顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3を低温プラズマ処理しカルボン酸基を導入したシアン顔料を作製した。これをイオン交換水に分散したものを限外濾過膜により脱塩濃縮して、顔料濃度15質量%のシアン顔料分散液を得た。
【0081】
<インクの調製>
(実施例1~36、比較例1~20)
下記表1~5に示す処方の材料を混合攪拌した後、1.5μmポリプロピレンフィルターでろ過し、実施例1~36、比較例1~20の各インクを作製した。なお、表1~5に示す各数値の単位は「質量%」である。
【0082】
なお、表1~5中における各成分は以下の材料を使用した。
・スーパーフレックス150(ウレタン樹脂、第一工業製薬社製)
・モビニール5450(スチレンアクリル樹脂、日本合成化学工業社製)
・Triton HW-1000(一般式(1)で表される化合物、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ダウ・ケミカル社製)
・AD-01(一般式(4)で表される化合物、2,4,7,9-テトラメチル-4,7-デカンジオール、日信化学工業社製)
・Wet 270(一般式(5)で表されるシリコーン系化合物(シリコーン系界面活性剤)、エボニック社製)
・FS-34(フッ素系界面活性剤、Chemours社製)
・プロキセルLV(防腐防黴剤、アビシア社製)
【0083】
得られた処理液及びインクを用いて、以下のようにして、「ビーディング」、「コーヒーステイン」、及び「吐出安定性」を評価した。結果を表1~5に示す。
【0084】
[ビーディング]
記録媒体(低浸透性基材、商品名:Lumi Art Gross 130)に対し、作製した処理液をワイヤーバー(巻線径:0.02mm、株式会社小林製作所社製)を用いて塗布し、オーブン乾燥(90℃、30秒間)させた後、直ちに作製したインクを用いて印刷した。印刷には画像形成装置(装置名:IPSIO GXe5500、株式会社リコー製)を用い、「光沢紙-きれいモード」かつ「色補正なし」でベタ画像を印刷した。
次に、ベタ画像中における色ムラを目視により観察し、下記評価基準に基づいて、「ビーディング」を評価した。評価はB以上である場合が好ましい。
(評価基準)
AA:色ムラは見られない
A:15cm離れた位置から色ムラが分かる
B:30cm離れた位置から色ムラが分かる
C:1.0m離れた位置から色ムラが分かる
D:1.5m離れた位置から色ムラが分かる
【0085】
[コーヒーステイン]
記録媒体(低浸透性基材、商品名:Lumi Art Gross 130)に対し、作製した処理液をワイヤーバー(巻線径:0.02mm、株式会社小林製作所社製)を用いて塗布し、オーブン乾燥(90℃、30秒間)させた後、直ちに作製したインクを用いて印刷した。印刷には画像形成装置(装置名:IPSIO GXe5500、株式会社リコー製)を用い、「光沢紙-きれいモード」かつ「色補正なし」でベタ画像を印刷した。
次に、ベタ画像中における縁取りを目視により観察し、下記評価基準に基づいて、「コーヒーステイン」を評価した。評価はB以上である場合が好ましい。
(評価基準)
A:縁取りは見られない
B:15cm離れた位置から縁取りが分かる
C:30cm離れた位置から縁取りが分かる
D:1.0m離れた位置から縁取りが分かる
E:1.5m離れた位置から縁取りが分かる
【0086】
[吐出安定性]
インクジェットプリンター(IPSIO GXe3300、株式会社リコー製)に作製したインクを充填して初期充填動作を実施させた。その後、ノズルチェックパターンを印刷し、ノズルチェックパターンにて吐出不良(ノズルの不吐出や吐出曲がり)が無いことを確認した。次に、記録媒体(マイペーパー、株式会社リコー製)上に印刷を行った。印刷パターンは、印刷面積が紙面全面積に対して5%となるチャートとし、100%dutyで印刷した。印刷条件は、記録密度360dpi、ワンパス印字とした。上記チャートを20枚連続で印刷後、20分間吐出を実施しない休止状態にし、これら(印刷及び休止)を50回繰り返して、累計1000枚印刷した。その後、ノズルチェックパターンを印刷して、吐出不良(ノズルの不吐出や吐出曲がり)の有無を確認した。具体的には、ノズルチェックパターンにおいて、白抜け、噴射乱れの有無を目視で観察し、下記評価基準に基づいて、「吐出安定性」を評価した。
(評価基準)
A:白抜け・噴射乱れが認められない
B:若干の白抜け・噴射乱れが認められる
C:1スキャン目に白抜け・噴射乱れが認められる
D:全域に白抜け・噴射乱れが認められる
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【符号の説明】
【0092】
400 画像形成装置
401 画像形成装置の外装
401c 装置本体のカバー
404 カートリッジホルダ
410 メインタンク
410k、410c、410m、410y ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色用のメインタンク
411 インク収容部
413 インク排出口
414 収容容器ケース
420 機構部
434 吐出ヘッド
436 供給チューブ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0093】
【文献】特開2018-104490号公報
図1
図2