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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】光学式濃度測定装置および光導波路
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/552 20140101AFI20240724BHJP
   G02B 6/43 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
G01N21/552
G02B6/43
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020168056
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2021096228
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2019224941
(32)【優先日】2019-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】古屋 貴明
(72)【発明者】
【氏名】坂本 敏郎
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179752(WO,A1)
【文献】特開2017-021050(JP,A)
【文献】特表2013-514555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
G02B 6/00 - G02B 6/54
JDREAMIII
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア層に光を入射可能な光源と、
前記コア層を伝搬した光を受光可能な検出器と、
光導波路と、を備える、被測定気体または被測定液体の濃度を測定する光学式濃度測定装置であって、
前記光導波路は、
基板と、
延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、回折格子領域を含む回折格子部と、を有する前記コア層と、
を備え、
前記基板と前記コア層とは離隔して配置され、
前記光伝搬部と前記基板との距離L2は、前記コア層を伝搬する光の真空における波長の平均値をλ 、前記光伝搬部を形成する材料の屈折率をn pro 、前記光伝搬部と前記基板に挟まれた部分に存在する材料の屈折率をn L2 とすると、下記の式(1)以上離れており、
【数1】
前記基板と前記回折格子領域の間の離隔部を形成する材料は、前記基板の屈折率よりも小さく、
前記回折格子領域と前記基板との距離L1は、前記コア層を伝搬する光の真空中における波長の平均値をλ 、前記基板と前記回折格子領域の間の離隔部を形成する材料の屈折率をn L1 、前記回折格子部のうちの前記回折格子領域の実効的な膜厚をt gr 、前記回折格子部のうちの前記回折格子領域を形成する材料の屈折率をn gr 、自然数をmとすると、下記の式(2)を満たし、
【数2】
前記回折格子領域と前記基板との距離L1は、前記光伝搬部と前記基板との距離L2と異なることを特徴とする、光学式濃度測定装置。
【請求項2】
前記回折格子部が、前記回折格子領域と当該回折格子領域に接続される延長領域とを有し、
前記回折格子部の少なくとも一部が、前記光伝搬部と空間的に離隔して配置され、
前記コア層を伝搬する光に対して、前記延長領域が有する第1光結合領域と、前記光伝搬部が有する第2光結合領域が光学的に結合することを特徴とする、請求項1に記載の光学式濃度測定装置。
【請求項3】
前記回折格子部の少なくとも一部が、前記光伝搬部と異なる材料であることを特徴とする、請求項2に記載の光学式濃度測定装置。
【請求項4】
前記コア層を伝搬する光が、前記第1光結合領域から前記第2光結合領域への遷移の前後、および/または、前記第2光結合領域から前記第1光結合領域への遷移の前後で、進行方向が実質的に変わらない、請求項2または3に記載の光学式濃度測定装置。
【請求項5】
平面視において前記回折格子部と前記光伝搬部が重複する領域において、前記回折格子領域から前記第1光結合領域に近づく方向に前記回折格子部と前記光伝搬部の距離が短くなる第1距離変化領域を備える、請求項2から4のいずれかに記載の光学式濃度測定装置。
【請求項6】
前記第1距離変化領域の前記光伝搬部に対する最大確度は45°以下である、請求項5に記載の光学式濃度測定装置。
【請求項7】
平面視において前記回折格子部と前記光伝搬部が重複する領域において、前記第1光結合領域から前記回折格子領域に遠ざかる方向に前記回折格子部と前記光伝搬部の距離が長くなる第2距離変化領域を備える、請求項5または6に記載の光学式濃度測定装置。
【請求項8】
前記回折格子領域と前記基板との距離L1は、前記光伝搬部と前記基板との距離L2と、前記光伝搬部の膜厚以上の距離で異なることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光学式濃度測定装置。
【請求項9】
前記光伝搬部と前記基板との距離L2は、1.3μm以上離れている、請求項1からのいずれかに記載の光学式濃度測定装置。
【請求項10】
前記基板と前記回折格子領域の間の離隔部を形成する材料は、前記基板の屈折率よりも小さく、
前記回折格子領域と前記基板との距離L1は、下記式(3)を満たす、請求項1からのいずれかに記載の光学式濃度測定装置。
【数3】
ここで、λ前記コア層を伝搬する光の真空中における波長の平均値であり、nL1前記基板と前記回折格子領域の間の離隔部を形成する材料の屈折率であり、tgr前記回折格子部のうちの前記回折格子領域の実効的な膜厚であり、ngr前記回折格子部のうちの前記回折格子領域を形成する材料の屈折率であり、mは自然数である。
【請求項11】
前記基板と前記回折格子領域の間の離隔部を形成する材料は、前記基板の屈折率よりも小さく、
前記回折格子領域と前記基板との距離L1は、下記式(4)を満たす、請求項1から10のいずれかに記載の光学式濃度測定装置。
【数4】
ここで、λ前記コア層を伝搬する光の真空中における波長の平均値であり、nL1前記基板と前記回折格子領域の間の離隔部を形成する材料の屈折率であり、tgr前記回折格子部のうちの前記回折格子領域の実効的な膜厚であり、ngr前記回折格子部のうちの前記回折格子領域を形成する材料の屈折率であり、mは自然数である。
【請求項12】
被測定気体または被測定液体の濃度を測定する光学式濃度測定装置に用いられる光導波路であって、
基板と、
延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、回折格子領域を含む回折格子部と、を有するコア層と、
を備え、
前記基板と前記コア層とは離隔して配置され、
前記光伝搬部と前記基板との距離L2は、前記コア層を伝搬する光の真空における波長の平均値をλ 、前記光伝搬部を形成する材料の屈折率をn pro 、前記光伝搬部と前記基板に挟まれた部分に存在する材料の屈折率をn L2 とすると、下記の式(5)以上離れており、
【数5】
前記基板と前記回折格子領域の間の離隔部を形成する材料は、前記基板の屈折率よりも小さく、
前記回折格子領域と前記基板との距離L1は、前記コア層を伝搬する光の真空中における波長の平均値をλ 、前記基板と前記回折格子領域の間の離隔部を形成する材料の屈折率をn L1 、前記回折格子部のうちの前記回折格子領域の実効的な膜厚をt gr 、前記回折格子部のうちの前記回折格子領域を形成する材料の屈折率をn gr 、自然数をmとすると、下記の式(6)を満たし、
【数6】
前記回折格子領域と前記基板との距離L1は、前記光伝搬部と前記基板との距離L2と異なることを特徴とする光導波路。
【請求項13】
前記回折格子部が、前記回折格子領域と当該回折格子領域に接続される延長領域とを有し、
前記回折格子部の少なくとも一部が、前記光伝搬部と空間的に離隔して配置され、
前記コア層を伝搬する光に対して、前記延長領域が有する第1光結合領域と、前記光伝搬部が有する第2光結合領域が光学的に結合することを特徴とする、請求項12に記載の光導波路。
【請求項14】
前記回折格子部の少なくとも一部が、前記光伝搬部と異なる材料であることを特徴とする、請求項13に記載の光導波路。
【請求項15】
平面視において前記回折格子部と前記光伝搬部が重複する領域において、前記回折格子領域から前記第1光結合領域に近づく方向に前記回折格子部と前記光伝搬部の距離が短くなる第1距離変化領域を備える、請求項13または14に記載の光導波路。
【請求項16】
前記回折格子領域と前記基板との距離L1は、前記光伝搬部と前記基板との距離L2と、前記光伝搬部の膜厚以上の距離で異なることを特徴とする請求項12から15のいずれかに記載の光導波路。
【請求項17】
前記基板と前記回折格子領域の間の離隔部を形成する材料は、前記基板の屈折率よりも小さく、
前記回折格子領域と前記基板との距離L1は、下記の式(7)を満たす、請求項12から16のいずれかに記載の光導波路。
【数7】
ここで、λ は前記コア層を伝搬する光の真空中における波長の平均値であり、n L1 は前記基板と前記回折格子領域の間の離隔部を形成する材料の屈折率であり、t gr は前記回折格子部のうちの前記回折格子領域の実効的な膜厚であり、n gr は前記回折格子部のうちの前記回折格子領域を形成する材料の屈折率であり、mは自然数である。
【請求項18】
前記基板と前記回折格子領域の間の離隔部を形成する材料は、前記基板の屈折率よりも小さく、
前記回折格子領域と前記基板との距離L1は、下記の式(8)を満たす、請求項12から17のいずれかに記載の光導波路。
【数8】
ここで、λ は前記コア層を伝搬する光の真空中における波長の平均値であり、n L1 は前記基板と前記回折格子領域の間の離隔部を形成する材料の屈折率であり、t gr は前記回折格子部のうちの前記回折格子領域の実効的な膜厚であり、n gr は前記回折格子部のうちの前記回折格子領域を形成する材料の屈折率であり、mは自然数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式濃度測定装置および光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶などで形成された薄膜などの構造体の中を伝搬する光は、構造体を形成する材料の屈折率が、構造体の外部の材料の屈折率よりも大きい場合、構造体の外部との界面で全反射を繰り返しながら進行していく。構造体を伝搬する光は、この界面で全反射するとき、屈折率の小さい外部側に染み出している。この染み出しは、エバネッセント波(図12参照)と呼ばれている。エバネッセント波EWは、光Lが伝搬していく過程で構造体51に隣接している物質52により吸収されうる。このため、構造体51を伝搬している光Lの強度変化から、構造体51に接している物質52の検出や同定などが可能になる。上述したエバネッセント波EWの原理を利用した分析法は、全反射吸収分光法(ATR:Attenuated Total Reflection法)と呼ばれ、物質52の化学組成分析などに利用されている。伝搬させる光としては赤外線を用いることが一般的である。物質には特定の波長の赤外線を選択的に吸収する特性があるため、被測定物質の吸収スペクトルに合わせた赤外線を伝搬させることで、物質の分析やセンシングを行うことができる。
【0003】
特許文献1には、ATR法をセンサに応用した光導波路型センサが提案されている。この光導波路型センサは、基板の上にコア層を形成して光を通し、エバネッセント波を利用してコア層に接する物質を検出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-300212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ATR法を利用したセンサでは、光源からの光を光導波路のコア層に導入する箇所と、光導波路のコア層から光検出器に向けて取り出す箇所が必要になる。そのため、光源からの光を光導波路のコア層に導入する箇所と、光導波路のコア層から光検出器に向けて取り出す箇所のそれぞれには、コア層の一部として、光の光軸を曲げるために回折格子部(グレーティング)が設けられている。
【0006】
光をコア層から取り出すための回折格子部では、図13(a)に示すように、伝搬している光を、外部側D1へ曲げる際、回折格子領域331から外部側(厚さ方向表面側)D1に曲げられる分光Laだけではなく、光導波路の厚さ方向基板側D2へ曲げられる分光Lbも存在する。このように厚さ方向基板側D2へ曲げられた当該分光Lbは、基板39の界面(表面)にまで進行した後、当該界面で反射し、回折格子領域331まで戻ることがある。その結果として、回折格子領域331においては、反射して回折格子領域331まで戻った当該分光Lbと、反射せず回折格子領域331から外部側D1へ取り出される分光Laとが干渉することがある。したがって、回折格子領域331から外部側D1へ光を効率よく取り出し回折効率を向上させるためには、反射した当該分光Lbと反射していない分光Laとの位相差を調整すること、すなわち、回折格子領域331と基板39との間の距離を所定の長さに調整することが肝要になる。
【0007】
一方、当該センサでは、上述のように、コア層に導入した光を、エバネッセント波として、光伝搬部から染み出させて、外部の被測定物質に吸収させる必要がある。したがって、エバネッセント波をより多く染み出させることがセンサの感度を向上させる上で好ましい。しかし、光導波路の基板が光伝搬部のすぐ近くに存在する場合、光伝搬部から染み出たエバネッセント波が基板に到達し、光伝搬部を伝搬する光の一部が基板に漏れることがある。そこで、基板へのエバネッセント波の漏れを抑制し伝搬効率を向上させるために、光伝搬部と基板との間の距離も、回折格子領域と基板との間の距離のように、所定の長さに調整することが肝要になる。
【0008】
したがって、このようなセンサにおいては、回折格子領域での回折効率と光伝搬部での伝搬効率を考慮して、光導波路中の回折格子領域と基板との間の距離や光伝搬部と基板との間の距離を設計することが必要である。
【0009】
しかし、従来の光導波路では、光伝搬部と回折格子領域とは、SOI(Silicon On Insulator)基板等を用いるなどして平坦な支持層上に形成されることから、光伝搬部と基板との間の距離、および、回折格子領域と基板との間の距離は同じ長さになっており、回折格子領域での回折効率と光伝搬部での伝搬効率とを両立させるように光導波路を設計することが困難であった。
【0010】
そこで、本発明は、回折格子部での回折効率の向上および光伝搬部での伝搬効率の向上を両立することが可能な光学式濃度測定装置および光導波路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の他の一態様による光学式濃度測定装置は、
コア層に光を入射可能な光源と、
前記コア層を伝搬した光を受光可能な検出器と、
光導波路と、を備える、被測定気体または被測定液体の濃度を測定する光学式濃度測定装置であって、
前記光導波路は、
基板と、
延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、回折格子領域を含む回折格子部と、を有する前記コア層と、
を備え、
前記基板と前記コア層とは離隔して配置され、
前記回折格子領域と前記基板との距離L1は、前記光伝搬部と前記基板との距離L2と異なることを特徴とする。
【0012】
また、上記目的を達成するために、本発明の他の一態様による光導波路は、
被測定気体または被測定液体の濃度を測定する光学式濃度測定装置に用いられる光導波路であって、
基板と、
延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、回折格子領域を含む回折格子部と、を有するコア層と、
を備え、
前記基板と前記コア層とは離隔して配置され、
前記回折格子領域と前記基板との距離L1は、前記光伝搬部と前記基板との距離L2と異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回折格子部での回折効率の向上および光伝搬部での伝搬効率の向上を両立することが可能な光学式濃度測定装置および光導波路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態による光学式濃度測定装置および光導波路の概略構成を示す図である。
図2図1の光導波路を光源または光検出器側から見た模式的な平面図である。
図3図1の光導波路の第1回折格子部および伝搬路の一部を示す模式的な図であり、(a)は平面図であり、(b)はA-A線で切断した断面を示す断面図である。
図4】本発明の実施形態による光学式濃度測定装置に用いる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
図5】本発明の実施形態による光学式濃度測定装置に用いる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
図6】本発明の実施形態による光学式濃度測定装置に用いる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
図7】本発明の実施形態による光学式濃度測定装置に用いる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
図8】本発明の実施形態による光学式濃度測定装置に用いる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
図9】本発明の実施形態による光学式濃度測定装置に用いる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
図10】本発明の実施形態による光学式濃度測定装置に用いる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
図11】本発明の実施形態による光学式濃度測定装置に用いる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
図12】光導波路を伝搬する光のエバネッセント波を説明するための図である。
図13】回折格子領域で生じ得る光の干渉を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
<光学式濃度測定装置>
本発明の実施形態に係る光学式濃度測定装置は、後述の本発明の実施形態に係る光導波路と、コア層に光を入射可能な光源と、コア層を伝搬した光を受光可能な検出器と、を備える。
【0017】
以下、光学式濃度測定装置を構成する各構成要件について、具体例を挙げて説明する。
【0018】
<光導波路>
本発明の実施形態に係る光導波路は、被測定気体または被測定液体の濃度を測定する光学式濃度測定装置に用いる光導波路である。また、光導波路は、基板と、延在方向に光が伝搬する光伝搬部と、回折格子部と、を有するコア層と、を備えている。また、光導波路では、基板とコア層とが離隔し、回折格子領域と基板との距離L1が、光伝搬部と基板との距離L2と異なる。
【0019】
従来の、回折格子領域と基板との距離L1と、光伝搬部と基板との距離L2とが同じである光導波路では、回折格子領域での光の回折効率を向上させつつ、光伝搬部から染み出すエバネッセント波の基板への漏れを抑制するように、光導波路の設計することが困難であったが、本実施形態に係る光導波路によれば、基板とコア層とが離隔し、回折格子領域と基板との距離L1が、光伝搬部と基板との距離L2と異なるので、回折格子領域での光の回折効率の向上および光伝搬部の伝搬効率の向上を両立することができる。また、より好ましい形態は、回折格子領域の全ての位置において、回折格子領域と基板との距離L1が、光伝搬部と基板との距離L2と異なることである。
【0020】
ここで、本実施形態において、延在方向とは、少なくとも1方向に沿って延びるように存在している方向である。例えば、三次元構造物において、一つの端部から他の端部(あるいは一つの任意の点から他の任意の点)に向けて当該三次元構造物に触れながら最短距離で進む経路は延在方向となる。あるいは、一つの端部から他の端部(あるいは一つの任意の点から他の任意の点)に向けて断面積の変化量が最も小さくなるように進行する方向も延在方向となる。延在方向は、直線状の方向だけでなく、曲線状の方向を含む。
【0021】
また、本実施形態において、基板とコア層とが離隔するとは、基板とコア層との間に、コア層よりも相対的に屈折率の低い物質(空気も含む)が介在することを指す。
【0022】
さらに、本実施形態において、回折格子領域と基板との距離L1は、回折格子部のうち回折格子領域(後述)が存在する部分の厚さ方向基板側の表面から、基板の厚さ方向回折格子領域側の表面までを、厚さ方向に沿って測った長さを指す。また、光伝搬部と基板との距離L2は、光伝搬部の厚さ方向基板側の表面から、基板の厚さ方向光伝搬部側の表面までを、厚さ方向に沿って測った長さを指す。
【0023】
また、本実施形態において、基板とコア層との間に、当該コア層を支持する支持層を備えることが好ましい。光導波路が当該支持層を備えることにより、基板とコア層を効果的に離隔させることができる。
【0024】
本実施形態において、光伝搬部と基板との距離L2は、下記の式(1)以上離れていることが好ましい。
【数1】
ここで、λ0はコア層を伝搬する光の真空中における波長の平均値であり、nproは光伝搬部を形成する材料の屈折率であり、nL2は光伝搬部と基板に挟まれた部分に存在する材料の屈折率である。光伝搬部と基板に挟まれた部分に存在する材料が複数存在する場合は、nL2は、複数の材料の屈折率のうちの最も大きい屈折率とする。この距離は、一般的に定義されるエバネッセント光の染み出し距離の6倍の値を規定している。エバネッセント光の染み出し距離とは、光のエネルギーが、当該コア層の一部の表面におけるエネルギー値から1/eに減衰する位置を示した、当該コア層の一部の表面からの厚さ方向の距離である。すなわち、ここで規定した距離は、光のエネルギーが、当該コア層の一部の表面におけるエネルギー値から(1/e)6以下に減衰する位置を、当該コア層の一部の表面からの距離として示している。光伝搬部と基板との距離L2が上記の式(1)未満の場合、光伝搬部と基板とが光学的に比較的強く結合するため、一般的に数cm以上の長距離の伝搬距離を有する光伝搬部では、基板へ漏れ出ていく光が多くなりやすく、光伝搬部での伝搬効率が悪くなる。したがって、当該距離L2を上記の式(1)以上とすることで、光伝搬部から染み出たエバネッセント波が基板に漏れるのを十分に抑制することができ、光伝搬部の伝搬効率をより向上させることができる。
【0025】
なお、光伝搬部と基板との距離L2とは、光伝搬部の基板に面した外表面の各位置から、基板の外表面までの最短距離を指す。
【0026】
また、光伝搬部と基板との距離L2は、1.3μm以上であることが好ましい。例えば環境中に浮遊する代表的なガスであるCO2を検出するための光学的濃度測定装置では、コア層を伝搬する光として、真空中における中心波長が約4.3μm帯の赤外線を用いることが一般的であり、このとき、光導波路を構成する最も一般的な材料の組み合わせとしては、コア層がシリコンで、光伝搬部と基板に挟まれた部分が空気で構成された場合である。この例の場合、nproは約3.4、nL2は約1.0となり、1.3μmは上記の式(1)から計算される値(約1.26μm)以上となる。ただし、光伝搬部を伝搬する光の基板への漏れをより効率的に抑制する場合は、光伝搬部と基板との距離L2は、2.0μm以上、より好ましくは2.5μm以上、さらに好ましくは3.0μm以上としてもよい。また、光伝搬部と基板に挟まれた部分を構成する材料として、シリコン酸化膜を用いた場合、nL2は約1.4となる。
【0027】
本実施形態において、基板と回折格子領域の間の離隔部を形成する材料が、基板の屈折率よりも小さい場合、回折格子領域と基板との距離L1は、下記式(2)
【数2】
を満たすことが好ましく、より好ましくは、下記式(3)
【数3】
を満たすことであり、さらに好ましくは、下記式(4)
【数4】
を満たすことである。ここで、λ0はコア層を伝搬する光の真空中における波長の平均値であり、nL1は基板と回折格子領域の間の離隔部を形成する材料の屈折率であり、tgrは回折格子部のうちの回折格子領域の実効的な膜厚であり、ngrは回折格子部のうちの回折格子領域を形成する材料の屈折率であり、mは自然数である。基板と回折格子領域の間の離隔部を形成する材料が複数存在する場合は、nL1は{Σ(nL1i 2×AL1i)}1/2で計算される実効値とする。ここで、nL1iは基板と回折格子領域の間の離隔部を形成するそれぞれの材料の屈折率であり、AL1iは当該それぞれの材料が、基板と回折格子領域の間を占有する割合である。また、回折格子部のうちの回折格子領域の実効的な膜厚とは、回折格子領域の凹部におけるコア層の膜厚に、回折格子領域の凹部と凸部のコア層の膜厚差の半分の値を加えた膜厚とする。また、回折格子部のうちの回折格子領域を形成する材料が複数存在する場合は、ngrは{Σ(ngri 2×Agri)}1/2で計算される実効値とする。ここで、ngriは回折格子領域の凹部において、コア層を形成するそれぞれの材料の屈折率であり、AL1iは回折格子領域の凹部における当該それぞれの材料が、回折格子領域の凹部においてコア層を占有する割合である。
【0028】
光は、光の波長の整数倍に相当する光学的な距離を進んだ場合に位相が元に戻るため、回折格子領域と基板との距離L1が、コア層を伝搬する光の当該離隔部(基板と回折格子領域の間)の媒質中における波長の1/4の奇数倍である場合に、距離L1の間を1往復して(すなわち、基板の表面で反射して)戻ってきた光は、距離L1を移動していない光と強め合う干渉を起こすことが出来る。なお、ここでは光が基板の表面で反射する際に、位相が半波長ずれることを前提としている。この現象は、例えば、R. M. Emmons and D. G. Hall, "Buried-Oxide Silicon-on-Insulator Structures II: Waveguide Grating Couplers", IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS, VOL. 28, NO. 1, JANUARY 1992, pp. 164-175.などに、回折格子領域での光の取出し高率を高める方法として記載されている。しかし、回折格子領域にて光を外部に取出す場合には、回折格子領域を形成するコア層内部の光の伝搬による位相の変化も考慮する必要があり、それを考慮すると、回折格子領域と基板との距離L1が下記の式(5)となった場合に、回折格子領域にて光を外部に最も効率良く取出すことが出来る(詳細は後述を参照)。
【数5】
すなわち、回折格子領域と基板との距離L1が、コア層を伝搬する光の当該離隔部(基板と回折格子領域の間)の媒質中における波長(すなわちλ0/nL1)の1/2の長さの周期で最適値が存在する。逆に言うと、L1が最適値と最適値の中間の距離、すなわち最適値である上記の式(5)からコア層を伝搬する光の当該離隔部の媒質中における波長の±1/4倍の距離となるところで最も効率が低下する。したがって、距離L1が上記の式(5)に対して、コア層を伝搬する光の当該離隔部の媒質中における波長の±3/16倍の長さ以内の距離となることで、効率が最も低くなることを避けることができる。より好ましくは、距離L1を上記の式(5)に対して、コア層を伝搬する光の当該離隔部の媒質中における波長の±1/8倍の長さ以内の距離とすることであり、さらに好ましくは、距離L1を上記の式(5)に対して、コア層を伝搬する光の当該離隔部の媒質中における波長の±1/16倍の長さ以内の距離とすることである。距離L1をこのような範囲にすることにより、回折格子領域での光の回折効率を高いレベルにすることができる。なお、ここでは、回折格子領域にて光を外部に取出す場合について説明したが、上記原理は、回折格子領域にて外部から光を取込む場合にも同様に成り立つ。
【0029】
続いて、光導波路を構成する各構成要件について、具体例を挙げて説明する。
【0030】
<<コア層>>
本実施形態において、コア層は、延在方向に光が伝搬する光伝搬部と、回折格子部と、を有する。また、回折格子部は、回折格子領域と当該回折格子領域に接続される延長領域とを有し、回折格子部の少なくとも一部が、光伝搬部と空間的に離隔していてもよく、延長領域は第1光結合領域を有していてもよい。また、光伝搬部は第2光結合領域を有していてもよく、コア層を伝搬する光に対して、延長領域が有する第1光結合領域と、光伝搬部が有する第2光結合領域は光学的に結合していてもよい。第1光結合領域および第2光結合領域では、コア層を伝搬する光が、第1光結合領域から第2光結合領域へ、または、第2光結合領域から第1光結合領域へ光学的に結合する。
【0031】
本実施形態によれば、回折格子部の少なくとも一部が、光伝搬部と空間的に離隔して配置することができるので、回折格子領域と基板との距離L1と光伝搬部と基板との距離L2を、回折格子領域と光伝搬部のそれぞれの機能に合わせた距離に容易に形成することをことができる。また、この際、延長領域が有する第1光結合領域と、光伝搬部が有する第2光結合領域が相互に光結合するので、回折格子部で取り込んだ光源からの光を回折格子部から光伝搬部へ導出し、または、光伝搬部を伝搬した光を光伝搬部から回折格子部へ導入することができる。
【0032】
また、本実施形態において、延長領域は、光を伝搬可能であり、光伝搬部が有する第2光結合領域の延在方向に延在する部分を有する。具体的には、一端が、回折格子領域に接続し、他端が、他のコア層に接続されることなく終端している。延長領域と回折格子領域との接続とは、延長領域と回折格子領域とが、回折格子領域を形成する層のうちの少なくとも一つと同一材料で途切れることなく連続している状態を指し、延長領域はその内部において、当該接続箇所と同一材料で形成されている。
【0033】
さらに、本実施形態において、回折格子部の少なくとも一部が、光伝搬部と空間的に離隔するとは、回折格子部の少なくとも一部と、光伝搬部との間に、コア層よりも相対的に屈折率の低い物質(空気も含む)が介在することを指す。
【0034】
コア層は、延在方向に光を伝搬可能である。
【0035】
コア層の材料としては、特に限定されない。例えば、単結晶シリコンや多結晶シリコン、アモルファスシリコン、窒化シリコン、シリコンゲルマニウム、ゲルマニウム、ガリウムひ素、インジウムリン、インジウムアンチモン、インジウムガリウムひ素、インジウムガリウムリン、フッ化インジウム、ダイヤモンド、サファイア、ニオブ酸リチウム、カルコゲナイドガラス等を含んだコア層が挙げられる。また、コア層は単層の膜でなく、多層膜で構成されていても良い。
【0036】
また、回折格子部と光伝搬部とは、それぞれを形成する材料が同じであっても異なっていてもよいが、回折格子部の少なくとも一部は、光伝搬部を形成する材料とは異った材料で形成されていることが好ましい場合が多い。なぜなら、回折格子部と光伝搬部では求められる機能が異なるため、異なる材料で形成することにより、各要素に求められる機能にあった材料を選ぶことができる上に、本実施形態の光導波路をより好適に製造しやすくなり、回折格子領域と基板との距離L1と、光伝搬部と基板との距離L2とを、容易に異ならせることができる。回折格子部と光伝搬部とを異なる材料で構成する場合、光伝搬部を形成する材料が単結晶の材料であり、回折格子部を形成する材料が多結晶またはアモルファスの材料を含んでいることが好ましい。そして最も好ましくは、光伝搬部を形成する材料が単結晶シリコンであり、回折格子部を形成する材料が多結晶シリコンまたはアモルファスシリコンを含んでいることである。
【0037】
回折格子部と光伝搬部とで、コア層を形成する材料が異なることで、形状、サイズ、屈折率、表面ラフネス等について、各々のコア層に求められる機能に合わせて、最適にコア層を形成できるようになる。また、回折格子部と光伝搬部とで、コア層を形成する材料が異なることで、各々のコア層に対して独立した加工を行う事もでき、一方の状況に制限されずに、他方の加工を施すことができ、加工の自由度を向上させることもできる。
【0038】
より具体的には、例えば、被測定物質を検知する部分である光伝搬部おいては、エバネッセント波をコア層から多く染み出させるために、コア層の膜厚を、コア層を伝搬する光の波長(コア層内での波長)よりも十分小さく形成することが好ましい。また、被測定物質の検出感度を向上させるために、光伝搬部における光の伝搬距離を長くすることが求められる。光を長距離伝搬させることを目的とした光伝搬部では、伝搬ロスを極力小さくするために、コア層の表面ラフネスが小さい単結晶材料が好まれる。単結晶材料として最も一般的で加工しやすいコア層の材料は単結晶シリコンであり、単結晶シリコンを含んで光伝搬部を形成することで、最も安価に好適に光伝搬部を形成することが出来る。
【0039】
一方、光源からの光をコア層に導入する部分である回折格子部においては、光の導入効率を上げるために、コア層は、コア層を伝搬する光の波長(コア層内での波長)と同程度の膜厚を有していることが好ましい。回折格子部の膜厚が薄すぎると、コア層への光の導入が極めて困難になる。また、回折格子部の回折格子領域の表面には、ランダム性のある細かい凹凸(ラフネス)が形成されていることが好ましい。その理由は、本実施形態における光学式濃度測定装置では、被測定物質の吸収スペクトルに合わせた光を伝搬させることで被測定物質を検知しており、伝搬させる光の波長帯は、被測定物質の吸収スペクトルと同程度の波長帯であることが好ましいからである。例えば、回折格子領域が厳密にきれいな周期パターンとして形成されると、回折格子領域によって、より単一な波長が選択され、線スペクトルに近づいていく。すなわち、厳密にきれいな回折格子領域を形成するほど選択波長帯は狭くなる。一方、物質の有する光の吸収波長範囲は、ある程度の幅を持っており、厳密な単一波長であることはない。例えば、環境に浮遊するガスであるCO2の代表的な吸収波長は約4.20~4.35μmと比較的広範囲に分布している。つまり、厳密な単一波長にまで光を過剰選択してしまうと、濃度測定に有効な波長領域を捨てることになるので、光学式濃度測定装置としては好ましくない。特に、本実施形態における光学式濃度測定装置では、後述するように、光源として、LED等のインコヒーレント光源を用いることを可能にしており、インコヒーレント光源からの一定の波長範囲(波長帯)を持った光を有効に利用する観点から、回折格子領域で選択される波長帯も一定の幅を有していることが好ましい。すなわち、本実施形態において、回折格子部の回折格子領域の表面には、ランダム性のある細かい凹凸(ラフネス)が形成されていることで、光導波路として発光素子と光導波路の結合をより高効率化することができる。回折格子部を形成するコア層の材料として、多結晶やアモルファスを用いることで、コア層の表面に適正なラフネスを生じさせることが出来る。多結晶材料またはアモルファス材料として最も一般的で加工しやすいコア層の材料は多結晶シリコンまたはアモルファスシリコンであり、単結晶シリコンまたはアモルファスシリコンを含んで回折格子部を形成することで、最も安価に好適に回折格子部を形成することが出来る。なお、回折格子領域の表面に形成するランダム性のある細かい凹凸(ラフネス)は、後述の回折格子領域を形成する周期的な凹凸とは異なるものである。
【0040】
なお、本発明において材料が異なるとは、元素が異なる場合だけでなく、元素が同一元素であってもその結晶状態が異なる場合も、材料が異なるものとする。光学的には、材料の構成元素が同じであっても、結晶状態が異なれば、光の伝搬現象は異なるからである。さらに、コア層の延在方向に垂直な断面は、例えば、当該断面のコア層の中心から外表面までの距離が変動する形状、例えば矩形であってよく、また、当該断面のコア層の中心から該表面までの距離が変動しない形状、すなわち円形であってもよい。
【0041】
また、本実施形態において、コア層を伝搬する光に対して、延長領域が有する第1光結合領域と、光伝搬部が有する第2光結合領域が光学的に結合するとは、延長領域または光伝搬部に伝搬した光を第1光結合領域から第2光結合領域へ、または第2光結合器から第1光結合領域へ、それぞれの光が流れる際、エバネッセント波を利用して、光が一方から他方に遷移すること、または、第1光結合領域と、第2光結合領域を直接接触させることにより、光が一方から他方に遷移することを指す。
【0042】
本実施形態において、延長領域が有する第1光結合領域と、光伝搬部が有する第2光結合領域は、光学的に結合すれば具体的な結合形態は限定されないが、コア層を伝搬する光が、第1光結合領域から第2光結合領域への遷移の前後、および/または、第2光結合領域から第1光結合領域への遷移の前後で、進行方向が実質的に変わらないことが好ましい。すなわち、本実施形態においては第1光結合領域と第2光結合領域とが、コア層を伝搬する光に対して方向性結合器として機能する状態であることが好ましい。方向性結合器として機能することにより、理想的には100%の効率で両者を光学的に結合することができる。なお、第1光結合領域と第2光結合領域とが方向性結合器として機能するとは、エバネッセント波を利用して、光が一方から他方に遷移する際に、その遷移の前後で、光の進行方向が変わらないような光学的な結合状態を指す。
【0043】
ところで、本実施形態において、延長領域の第1光結合領域と光伝搬部の第2光結合領域との位置関係は、両者が光学的に結合することができれば任意にすることができ、例えば、延長領域の第1光結合領域と光伝搬部の第2光結合領域とを、光導波路中において、厚さ方向で同じ位置に、相互に平面方向に離隔するように設けることもできるが、延長領域の第1光結合領域と光伝搬部の第2光結合領域とは、相互に厚さ方向に離隔することが好ましい。また、延長領域を含めた回折格子部の全領域と光伝搬部とが相互に厚さ方向に離隔していてもよい。
【0044】
本実施形態において、延長領域の第1光結合領域と光伝搬部の第2光結合領域とを、厚さ方向に離隔させることにより、回折格子領域と基板との距離L1と、光伝搬部と基板との距離L2とを、容易に異ならせることができる。また、延長領域を含めた回折格子部の全領域が光伝搬部と厚さ方向に離隔していることによって、回折格子領域の全ての位置に置いて、回折格子領域と基板との距離L1と、光伝搬部と基板との距離L2を、容易に、光伝搬部の膜厚以上異ならせることができる。また、延長領域の第1光結合領域と光伝搬部の第2光結合領域とを、厚さ方向で同じ位置に、相互に平面方向に離隔するように設けた場合でも、回折格子領域と基板との距離L1と、光伝搬部と基板との距離L2とを、異ならせることは可能である。
【0045】
また、本実施形態において、第1光結合領域と第2光結合領域の距離は、下記の式(6)以下であることが好ましい。
【数6】
ここで、λ0はコア層を伝搬する光の真空における波長の平均値であり、ncoupは第1光結合領域または第2光結合領域を形成する材料の屈折率であり、nmidは、第1光結合領域と第2光結合領域に挟まれた部分に存在する材料の屈折率である。第1光結合領域と第2光結合領域に挟まれた部分に存在する材料が複数存在する場合は、nmidは、複数の材料の屈折率のうちの最も大きい屈折率とする。この距離は、先述したエバネッセント光の染み出し距離の3倍の値を規定している。第1光結合領域と第2光結合領域では、光学的な結合を効率良く、短い距離で起こすことを目的としているため、第1光結合領域と第2光結合領域の距離の上限をエバネッセント光の染み出し距離の3倍とている(先述の光伝搬部と基板との距離L2は、光伝搬部と基板とが長距離伝搬させた場合にも光学的に結合させないことを目的としているため、第1光結合領域と第2光結合領域の距離の上限よりも大きいエバネッセント光の染み出し距離の6倍の値を下限値として規定している)。第1光結合領域と第2光結合領域との距離が上記の式(6)以下であれば、第1光結合領域と第2光結合領域を光学的に結合することができ、第1光結合領域と第2光結合領域との距離が短くなるほど、小さい面積で両者を効率的に結合させることができる。
【0046】
なお、第1光結合領域と第2光結合領域との距離とは、第1光結合領域の第2光結合領域に面した外表面の各位置から、第2光結合領域の外表面までの最短距離を指す。また、第1光結合領域と第2光結合領域との距離の下限値は特に限定されず、第1光結合領域と第2光結合領域とが接触していてもよい。第1光結合領域と第2光結合領域とが直接接触している場合は、nmidは定義されないが、第1光結合領域と第2光結合領域との距離が0μmであるので、上記の式(6)以下の距離に含まれるものとする。
【0047】
また、第1光結合領域と第2光結合領域の距離は、0.7μm以下の距離であることが好ましい。例えば環境中に浮遊する代表的なガスであるCO2を検出するための光学的濃度測定装置では、コア層を伝搬する光として、真空波長約4.3μmの赤外線を用いることが一般的であり、このとき、光導波路を構成する最も一般的な材料の組み合わせとしては、コア層がシリコンで、第1光結合領域と第2光結合領域に挟まれた部分がシリコン酸化膜で構成した場合である。この例の場合、ncoupは約3.4、nmidは約1.4となり、上記の式(6)の値は約0.66μmとなる。すなわち、0.7μm以下となる。ただし、第1光結合領域と第2光結合領域とをより効率的に光学的に結合する場合は、第1光結合領域と第2光結合領域との距離は、0.4μm以下、より好ましくは0.2μm以下、さらに好ましくは0.1μm以下としてもよい。また、第1光結合領域と第2光結合領域に挟まれた部分を構成する材料として、シリコン窒化膜等を用いることも可能であり、例えばシリコン窒化膜を用いた場合、nmidは約2.0となる。
【0048】
本実施形態において、第1光結合領域と第2光結合領域とは、それぞれ屈折率は任意にすることができるが、コア層を伝搬する光に対して、第1光結合領域の等価屈折率は、第2光結合領域の等価屈折率の0.7~1.3倍であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.2倍、さらに好ましくは0.9~1.1倍である。コア層を伝搬する光に対して、第1光結合領域の等価屈折率が、第2光結合領域の等価屈折率の0.7~1.3倍であり、両者の等価屈折率がより等しいほど、光学的な結合効率が向上する。
【0049】
また、本実施形態において、第1光結合領域を形成する材料の屈折率は、第2光結合領域を形成する材料の屈折率の0.9~1.1倍であることが好ましく、より好ましくは0.95~1.05倍である。第1光結合領域を形成する材料の屈折率が、第2光結合領域を形成する材料の屈折率の0.9~1.1倍であり、第1光結合領域を形成する材料と、第2光結合領域を形成する材料の屈折率がより等しいほど、コア層を伝搬する光に対して、第1光結合領域と第2光結合領域の等価屈折率を合わせやすくなり、光学的な結合効率が向上する。
【0050】
本実施形態において、第1光結合領域の膜厚は、第2光結合領域の膜厚の0.7~1.3倍であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.2倍、さらに好ましくは0.9~1.1倍である。第1光結合領域の膜厚が、第2光結合領域の膜厚の0.7~1.3倍であり、第1光結合領域と第2光結合領域の膜厚がより等しいほど、コア層を伝搬する光に対して、第1光結合領域と第2光結合領域の等価屈折率を合わせやすくなり、光学的な結合効率が向上する。
【0051】
なお、本実施形態において、第1光結合領域の膜厚および第2光結合領域の膜厚は、第1光結合領域の膜厚または第2光結合領域の膜厚が、第1光結合領域内または第2光結合領域内で変化している場合は、第1光結合領域と第2光結合領域の間の距離が最短となる部分における、それぞれの膜厚を指す。
【0052】
本実施形態において、第1光結合領域の幅は、第2光結合領域の幅の0.7~1.3倍であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.2倍、さらに好ましくは0.9~1.1倍である。第1光結合領域の幅が、第2光結合領域の幅の0.7~1.3倍であり、第1光結合領域と第2光結合領域の幅がより等しいほど、コア層を伝搬する光に対して、第1光結合領域と第2光結合領域の等価屈折率を合わせやすくなり、光学的な結合効率が向上する。
【0053】
なお、本実施形態において、第1光結合領域の幅および第2光結合領域の幅は、第1光結合領域の幅または第2光結合領域の幅が、第1光結合領域内または第2光結合領域内で変化している場合は、第1光結合領域と第2光結合領域の間の距離が最短となる部分における、それぞれの幅を指す。
【0054】
ところで、本実施形態において、延長領域は、回折格子領域を構成する材料の少なくとも一つと同一材料で、回折格子領域と連続して繋がっていることが好ましい。このような構造にすることにより、回折格子部内部での意図しない光のロスを回避することができる。
【0055】
また、本実施形態において、光伝搬部の少なくとも一部は、延長領域と、第1光結合領域と第2光結合領域の間の距離よりも大きい距離離れていることが好ましく、より好ましくは、下記の式(7)よりも大きい距離、または0.7μmよりも大きい距離離れていることである。
【数7】
ここで、λ0はコア層を伝搬する光の真空における波長の平均値であり、nproは光伝搬部または延長領域を形成する材料の屈折率であり、ngapは、光伝搬部の少なくとも一部と、延長領域に挟まれた部分に存在する材料の屈折率である。
【0056】
光伝搬部が、第2光結合領域以外の部分で延長領域と接近して存在すると、延長領域と光伝搬部の間で意図しない光学的な結合が発生する。この意図しない光学的な結合により、光は延長領域から光伝搬部へ、または光伝搬部から延長領域への遷移が発生し、その遷移によって光のロスが発生する。したがって、光伝搬部の少なくとも一部が、延長領域から、第1光結合領域と第2光結合領域の間の距離よりも大きい距離離れていることで、光伝搬部と延長領域の間での意図しない光学的な結合が発生しにくくなり、さらに、光伝搬部の少なくとも一部が、延長領域から、式(7)よりも大きい距離、または0.7μmよりも大きい距離離れていることで、光伝搬部と延長領域の間での意図しない光学的な結合がより発生しにくくなる。光学的に結合しにくい距離が式(7)で定義される理由は、第1光結合領域と第2光結合領域との距離を規定した式(6)と同様の理屈であるため、詳細な説明は省略する。なお、光伝搬部の少なくとも一部と延長領域との距離は、光伝搬部の少なくとも一部の外表面と、延長領域の外表面との間の距離のうちの最短距離とする。
【0057】
また、本実施形態において、光伝搬部と延長領域の少なくとも一方は終端部分を有していてもよく、光伝搬部の終端部分と回折格子部との距離、および/または延長領域の終端部分と光伝搬部との距離は、式(7)よりも大きい、または0.7μmよりも大きいことが好ましい。ただし、ngapは、光伝搬部の終端部分と回折格子部に挟まれた部分に存在する材料、または延長領域の終端部分と光伝搬部に挟まれた部分に存在する材料の屈折率と読み替える。なお、光伝搬部の終端部分と回折格子部に挟まれた部分に存在する材料、または延長領域の終端部分と光伝搬部に挟まれた部分に存在する材料が複数存在する場合は、複数の材料の屈折率のうちの最も大きい屈折率とする。
【0058】
回折格子部の付近に光伝搬部の終端部分が存在している場合は、回折格子部を伝搬する光が、光伝搬部の終端部分付近を通過する際に、回折格子部の等価屈折率が急激に変化することで、回折格子部を伝搬している光に反射や散乱などの乱れをもたらす。また、同様に、光伝搬部の付近に延長領域の終端部分が存在している場合は、光伝搬部を伝搬する光が、延長領域の終端部分付近を通過する際に、光伝搬部の等価屈折率が急激に変化することで、伝搬している光に反射や散乱などの乱れをもたらす。これらの乱れは、伝搬光の意図しないロスとなるため、光伝搬部の終端部分と回折格子部との距離、および/または延長領域の終端部分と光伝搬部との距離は一定距離離して位置させておくことが好ましい。式(7)で定義される距離または0.7μmという距離は、光伝搬部と回折格子部のうち、一方のコア層を伝搬している光のエバネッセント波が、他方のコア層に光学的に結合しにくい距離となっている。なお、光伝搬部の終端部分と回折格子部との距離は、光伝搬部の終端部分の外表面と、回折格子部の外表面との間の距離のうちの最短距離とする。また延長領域の終端部分と光伝搬部との距離は、延長領域の終端部分の外表面と、光伝搬部の外表面との間の距離のうちの最短距離とする。
【0059】
また、本実施形態において、平面視において回折格子部と光伝搬部が重複する領域において、回折格子領域から第1光結合領域に近づく方向に回折格子部と光伝搬部の距離が短くなる第1距離変化領域を備えていてもよい。さらに、第1距離変化領域は、光伝搬部との距離が、式(7)よりも大きい距離、または0.7μmよりも大きい距離から、式(6)以下の距離、または0.7μm以下の距離に漸次変化する部分を有していても良い。ただし、ngapは、光伝搬部と回折格子部の少なくとも一部に挟まれた部分に存在する材料の屈折率と読み替える。なお、光伝搬部と回折格子部の少なくとも一部に挟まれた部分に存在する材料が複数存在する場合は、複数の材料の屈折率のうちの最も大きい屈折率とする。また、第1距離変化領域の光伝搬部に対する最大確度は45°以下であることが好ましい。
【0060】
平面視において回折格子部と光伝搬部が重複する領域において、回折格子領域から第1光結合領域に近づく方向に回折格子部と光伝搬部の距離が短くなる第1距離変化領域を備えていることで、回折格子部の少なくとも一部と光伝搬部とが段階的に接近する構造となる。そのため、伝搬光に対して、回折格子部の少なくとも一部と光伝搬部の等価屈折率が急激に変化することなく、回折格子部と光伝搬部とが、第1光結合領域および第2光結合領域にて効率よく光学的に結合することができる。また、第1距離変化領域において、回折格子部の少なくとも一部と光伝搬部との距離が、両者が光学的に結合しない距離である式(7)よりも大きい距離、または0.7μmよりも大きい距離から、両者が光学的に結合する距離である式(6)以下の距離、または0.7μm以下の距離に漸次変化することで、第1光結合領域および第2光結合領域以外の部分での意図しない光学的結合を回避しながら、第1光結合領域および第2光結合領域での効率の良い光学的結合を実現することが出来る。なお、第1距離変化領域における回折格子部の少なくとも一部と光伝搬部との距離とは、第1距離変化領域において、回折格子部の外表面の各位置から、光伝搬部の外表面までの最短距離を指す。
【0061】
また、第1距離変化領域の光伝搬部に対する最大確度が45°以下であることで、第1距離変化領域での光のロスを小さくすることができ、より好ましくは30°以下である。また、あまりに緩い角度であると、回折格子部の少なくとも一部と光伝搬部の間に適正な距離を取るのに、第1距離変化領域が大きく(または長く)なってしまうため、第1距離変化領域の光伝搬部に対する最大確度は10°以上であることが好ましく、より好ましくは15°以上である。
【0062】
また、本実施形態において、コア層の少なくとも一部は、露出し、または、薄膜により被覆されていてもよい。これにより、露出しまたは被覆されたコア層の一部は、被測定気体または被測定液体と直接接触可能、または、当該薄膜を介して被測定気体または被測定液体と接触可能となり、エバネッセント波と被測定気体または被測定液体を相互作用させ、被測定気体または被測定液体の濃度を測定することが可能となる。本実施形態においては、当該薄膜は、コア層を伝搬する光の真空波長の1/4よりも薄いことが好ましい。
【0063】
また、本実施形態において、コア層を伝搬する光はアナログ信号としての赤外線であってもよい。ここでアナログ信号としての赤外線とは、光のエネルギーの変化を0(低レベル)および1(高レベル)の2値で判定するのではなく、光のエネルギーの変化量を扱う信号であることを意味する。これにより、本実施形態に係る光導波路をセンサや分析装置に適用することができる。またこの場合、赤外線の真空波長は2μm以上12μm未満であってもよい。この波長帯は環境に代表的に浮遊するガス(CO2、CO、NO、N2O、SO2、CH4、H2O、C26O等)が吸収する波長帯である。これにより各実施形態に係る光導波路をガスセンサとして利用することができる。
【0064】
また、コア層は曲線状に延びる部分を含んでよい。これにより、コア層全体を平面視した際の、コア層の輪郭のアスペクト比を1に近づけ得るので、光導波路および光学式濃度測定装置が小型化され得る。
【0065】
また、上述のように、光導波路の回折格子部は、光源より光を受けて、光伝搬部へ光を導出する第1回折格子部と、光伝搬部から光を導入して検出器に光を出力する第2回折格子部を備えることができる。
【0066】
本実施形態においては、上述のように、回折格子部が回折格子領域と延長領域とを有し、回折格子部の少なくとも一部が、光伝搬部と異なる材料であってもよく、また、回折格子部の少なくとも一部が光伝搬部と空間的に離隔していてもよい。また、コア層を伝搬する光に対して、延長領域が有する第1光結合領域と光伝搬部が有する第2光結合領域が、光学的に結合している。しかし、本実施形態においては、第1回折格子部および第2回折格子部のうち一方が、上記のように、第1光結合領域を有する延長領域と接続する回折格子領域を有し、延長領域が光伝搬部と光学的に結合するものとなっていれば、他方は、第1光結合領域を有する延長領域と接続する回折格子領域を有しないものとするなど、任意にすることができる。また、第1回折格子部中に複数の回折格子領域、または第2回折格子部中に複数の回折格子領域が存在する場合には、そのなかの少なくとも1つの回折格子領域が第1光結合領域を有する延長領域と接続し、残りの回折格子領域は第1光結合領域を有する延長領域と接続しないようにするなど、任意にすることもできる。
【0067】
<<<光伝搬部>>>
本実施形態において、光伝搬部は、延在方向に光を伝搬可能である伝搬路を有する。伝搬路は、伝搬路の延在方向に沿った任意の位置における延在方向に垂直な断面が、例えば、当該断面のコア層の中心から外表面までの距離が変動する形状、例えば矩形であってよく、また、当該断面のコア層の中心から該表面までの距離が変動しない形状、すなわち円形であってもよい。
【0068】
本実施形態において、伝搬路は、延在方向に膜厚を略均一とすることができ、略均一な膜厚とは、例えば膜厚の高低差が200nm以下である。また、伝搬路は、延在方向に幅が異なる部分が存在していてもよい。なお、光伝搬部が複数の伝搬路を有する場合には、複数の伝搬路は相互に膜厚や幅が異なっていてもよい。また、光伝搬部の全領域において、コア層の膜厚は均一であってもよく、均一でなくてもよい。
【0069】
また、光伝搬部は複数の層で形成されていても良いが、単一の層で形成されている方が好ましい。光伝搬部が複数の層で形成された場合、光の伝搬過程において、一の層から他の層に光の遷移が生じたり、伝搬モードの変換が行われたりして、伝搬ロスが大きくなることがあるためである。
【0070】
<<<回折格子部>>>
本実施形態において、回折格子部は、光源より光を受けて、光伝搬部へ光を導出する第1回折格子部と、光伝搬部から光を導入して検出器に光を出力する第2回折格子部とを有することができる。
【0071】
ここで、本実施形態において、第1回折格子部は外部からの光をコア層に取り込ませる回折格子領域を、また、第2回折格子部はコア層の外部へ光を取り出させる回折格子領域を、有することができる。本実施形態では、当該回折格子領域は、表面に特定の周期(周期は複数であっても可)で凹凸が形成されている部分であってもよく、または、凹部と凸部を含む平面で光導波路を断面視した場合に、凹凸の凹部の溝が深くなり、コア層を切り離す構成であってもよい。そのような構成において、凸部は不連続で島状に形成されていることになる。
【0072】
回折格子領域は、平面視において、それぞれ平行に凹凸を形成するパターンが直線状や円弧状に延びるように設けることができるが、凹凸の延在の形状は任意にすることができる。なお、回折格子部の有する回折格子領域は、その内部に凹凸が形成されている領域として区画される。詳細には、回折格子部の有する回折格子領域は、凸部を画定する外壁および凹部を画定する内壁の少なくとも一方の最も外側にある壁面で挟まれる内側の領域である。
【0073】
また、本実施形態において、回折格子領域の平面視での形状は任意にすることができるが、例えば、回折格子領域の延長領域側から延長領域とは反対の末端側に向かって幅が広がる部分を有する形状とすることができる。具体的には、回折格子部の延長領域内に中心を持ち延長領域とは反対の末端側に向かって広がる扇形等がある。回折格子領域の形状としては、接続側から末端側に向かう方向に沿う任意の仮想線に対して線対称の形状が好ましい。
【0074】
また、本実施形態において、第2回折格子部の構造は第1回折格子部の構造と同じ、または第2回折格子部の構造は第1回折格子部の構造から変換したものとすることができる。第1回折格子部の構造から変換したものとは、第2回折格子部が有する回折格子領域の形状および構成、回折格子領域の配置等が、第1回折格子部が有する回折格子領域の形状および構成、回折格子領域の配置等に対して、回転した形態、拡大した形態、縮小した形態、平行移動した形態、線対称である形態、点対称である形態になっていることを意味する。なお、それぞれの構造が、コア層を伝搬する光の真空中における波長以内、好ましくは1μm以内の寸法で異なることは許容される。第2回折格子部の構造を第1回折格子部の構造と同じ、または第2回折格子部の構造を第1回折格子部の構造から変換したものとすることで、第1回折格子部における波長選択性と第2回折格子部における波長選択性を略等しくすることができるため、第1回折格子部と第2回折格子部で波長選択性が異なる場合に発生する光損失を避けることができる。
【0075】
<<基板>>
本実施形態において、基板は、基板上にコア層を形成可能であれば特に制限されず、基板上に後述の支持層を形成することもできる。具体的には、基板は、シリコン基板やGaAs基板等が挙げられる。
【0076】
<<支持層>>
本実施形態においては任意に支持層を設けることができる。支持層は、基板の少なくとも一部とコア層の少なくとも一部とを接続する。支持層は、基板およびコア層を接合可能であれば特に制限されないが、好ましくは任意の波長の光またはコア層を伝搬する光に対してコア層よりも屈折率が小さい材料である。一例として、支持層の形成材料として、SiO2などが挙げられる。本発明において、支持層は必須の構成ではない。コア層は支持層によって基板と接合されてもよく、基板上に直接コア層が形成されていてもよい。また、支持層が部分的に存在してもよく、コア層の少なくとも一部は、支持層に接合されておらず浮遊していてもよい。すなわち、このような構成の光導波路では、支持層が設けられた領域を除き、基板およびコア層の間には空間が形成されている。コア層の一部を浮遊させることで、エバネッセント波と被測定物質を相互作用させる量を多くさせることができ、センサ感度を向上させることができる。
【0077】
本実施形態において、支持層の形成方法の一例としては、SOI基板の埋め込み酸化膜(BOX:Buried Oxide)層(SiO2層)をエッチングすることで、コア層(Si層)と基板(Si層)をBOX層で支持する構造を形成することができる。
【0078】
<光源>
光源は、コア層に光を入射可能であれば特に制限されない。ガスの測定に赤外線を用いる場合には光源として、白熱電球やセラミックヒータ、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ヒータや赤外線LED(Light Emitting Diode)などを用いることができる。すなわち、インコヒーレント光源であってよい。光源は光導波路と光接続可能な形態であればどのような配置でもよい。例えば、光源は、光導波路と同じ個体内に光導波路に隣接して配置してもよいし、別の個体として光導波路から一定の距離を置いて配置してもよい。また、ガスの測定に紫外線を用いる場合には光源として、水銀ランプや紫外線LEDなどを用いることができる。
【0079】
光学式濃度測定装置に備えられる光導波路のコア層を伝搬する光は、アナログ信号としての赤外線であってもよい。ここで、アナログ信号としての赤外線とは、光のエネルギーの変化を0(低レベル)および1(高レベル)の2値で判定するのではなく、光のエネルギーの変化量を扱う信号であることを意味する。これにより、光学式濃度測定装置をセンサや分析装置に適用することができる。またこの場合、赤外線の真空波長は2μm以上12μm未満であってもよい。この波長帯は環境に代表的に浮遊するガス(CO2、CO、NO、N2O、SO2、CH4、H2O、C26Oなど)が吸収する波長帯である。これにより本実施形態に係る光学式濃度測定装置をガスセンサとして利用することができる。
【0080】
<検出器>
検出器は、光導波路のコア層を伝搬した光を受光可能であれば特に制限されない。ガスの測定に赤外線を用いる場合には検出器として、焦電センサ(Pyroelectric sensor)、サーモパイル(Thermopile)あるいはボロメータ(Bolometer)などの熱型赤外線センサや、ダイオードあるいはフォトトランジスタなどの量子型赤外線センサなどを用いることができる。また、ガスの測定に紫外線を用いる場合には検出器として、ダイオードやフォトトランジスタ等の量子型紫外線センサなどを用いることができる。
【0081】
〔本発明の実施形態に係る光学式濃度測定装置〕
本発明の実施形態の光学式濃度測定装置について図1を用いて説明する。
【0082】
本実施形態の光学式濃度測定装置14は、濃度などを検出するガスが存在する外部空間16に設置されて使用される。光学式濃度測定装置14は、後述の実施形態の光導波路15と、コア層12に光を入射可能な光源17と、コア層12を伝搬した光を受光可能な光検出器18と、を備える。また、光学式濃度測定装置14は、光源17から光を導入して光伝搬部10に光を出力する第1回折格子部11を備え、また、光伝搬部10から光を導入して光検出器18に光を出力する第2回折格子部13をさらに備える。
【0083】
本実施形態の光学式濃度測定装置14では、光源17は波長が2μm以上12μm未満の赤外線をコア層12に対して出射している。上記の赤外線を用いることにより、コア層12から染出すエバネッセント波EWが外部空間16に存在する被測定物質、例えばCO2、CO、NO、N2O、SO2、CH4、H2O、C26Oなどのガスに吸収され、被測定物質の濃度を検知することができる。
【0084】
なお、本実施形態の光学式濃度測定装置14は、後述の本発明の実施形態に係る光導波路15を製造し、さらに、図1に示すように、光導波路15の一方の回折格子部11(グレーティングカプラ)に赤外線IRを入射できるように光源17を設置し、光導波路15の他方の回折格子部13(グレーティングカプラ)から出射する赤外線IRを受光できるように光検出器18を配置することにより、得られる。
【0085】
〔本発明の実施形態に係る光導波路〕
<実施形態>
本発明の実施形態に係る光導波路について図1から図3を用いて説明する。
【0086】
図1は、上述の通り本実施形態による光学式濃度測定装置14の概略構成を示す模式的な図であるとともに、本実施形態による光導波路15を利用したATR法の概念図でもある。
【0087】
光導波路15は、基板19と、赤外線IR(光の一例)が伝搬可能なコア層12と、を備え、さらに、基板19とコア層12との間に、当該コア層12を支持する支持層20を備えている。コア層12および基板19は例えばシリコン(Si)で形成され、支持層20は例えば二酸化ケイ素(SiO2)で形成されている。基板19および支持層20は例えば板状を有している。
【0088】
支持層20は、具体的には、基板19の少なくとも一部とコア層12の少なくとも一部を接続し基板19に対してコア層12を支持しており、より具体的には、支持層20がコア層12の全部を支持していてもよく、コア層12の少なくとも一部を支持するようにしてもよく、例えば、支持層20が、回折格子部11、13の全部と、光伝搬部10の一部を延在方向において断続的に支持するようにすることができる(その結果、光導波路15は、光伝搬部10が、延在方向で断続的に支持層20に接続され、支持層20が設けられた領域を除いて、光伝搬部10および基板19の間にクラッド層などの所定の層を有さずに空隙を有する)。
【0089】
コア層12は、図2の本実施形態による光導波路15の概略構成を示す模式的な図に示すように、延在方向の一端に形成された第1回折格子部(一例としてグレーティングカプラ)11、および他端に形成された第2回折格子部(一例としてグレーティングカプラ)13を有している。また、コア層12は、延在方向の両端の第1回折格子部11および第2回折格子部13の間に光伝搬部10を有している。本実施形態に係る光導波路15において、光伝搬部10の膜厚は均一である。また、本実施形態に係る光導波路15において、光伝搬部10の幅は均一である。なお、幅方向とは、延在方向および厚さ方向に垂直な方向である。また、厚さ方向とは、基板19、支持層20、および、コア層12を積層させた積層方向に平行な方向である。
【0090】
第1回折格子部11は、光源17の出射方向に配置されている。なお、本実施形態では、光導波路15は、積層方向が鉛直方向に平行であり、基板19の主面が鉛直下方と直交するように設置されている。基板19の主面とは、基板19の板厚方向に垂直な表面であって、さらに言換えると、本実施形態において、基板19を形成する6面の中で、面積が最大である面である。すなわち、光源17の出射方向とは、このように光導波路15が設置された状態における、光源17の鉛直下方である。この第1回折格子部11は、光源17から入射する赤外線IRをコア層12に導入するようになっている。したがって、第1回折格子部11の厚さ方向から、コア層12を伝搬する光が入力される。第2回折格子部13は、光検出器18に対向する方向に配置されている。なお、光検出器18に対向する方向とは、上述のように光導波路15が設置された状態における、光検出器18の鉛直下方である。この第2回折格子部13は、コア層12を伝搬する赤外線IRを取出して光検出器18に向けて出射するようになっている。したがって、第2回折格子部13の厚さ方向に、コア層12を伝搬する光が出力される。
【0091】
このように、光源17側(光入射側)に配置されるコア層12は一端に、第1回折格子部11を有し、光検出器18側(光出射側)に配置されるコア層12は他端に、第2回折格子部13を有している。また、コア層12は延在方向の中央から両端までの間に、第1回折格子部11から入射して第2回折格子部13から出射される赤外線IRが伝搬する光伝搬部10を有している。コア層12から染出すエバネッセント波EWは主に、光伝搬部10において外部空間16に存在する被測定物質に吸収される。
【0092】
ここで、本実施形態による光導波路15についてより詳細に説明する。
【0093】
ATR法を用いたセンサでは、コア層から染み出るエバネッセント波EWと被測定物質との相互作用領域を拡大させる(つまりコア層の露出部分を拡大させる)ことで、センサとしての感度を向上させることができる。また、ATR法を利用したセンサでは、コア層に導入した光を、エバネッセント波として、より多く染み出させることも、センサの感度を向上させる上で好ましい。しかし、光導波路の基板が光伝搬部のすぐ近くに存在する場合、光伝搬部から染み出たエバネッセント波が基板に到達し、光伝搬部を伝搬する光の一部が基板に漏れることがある。そこで、基板へのエバネッセント波の漏れを抑制し伝搬効率を向上させるために、光伝搬部と基板との間の距離L2を所定の長さに調整することが肝要になる。
【0094】
また、光をコア層から取出す、または光をコア層に取込むための回折格子領域では、図13に示すように、光の干渉により、取出し効率や取込み効率(すなわち回折効率)が変化する。光をコア層から取出す場合を例にとって説明すると、図13(a)に示すように、コア層を伝搬している光を、外部側(厚さ方向表面側)D1へ回折させる際、回折格子領域331(本願の第2回折格子部13の回折格子領域131に相当)から外部側D1に曲げられる分光Laだけではなく、光導波路の厚さ方向基板側D2へ曲げられる分光Lbも存在する。このように、コア層32の表面に形成された回折格子領域により厚さ方向基板側D2へ曲げられた当該分光Lbは、コア層32と支持層40を通過し、基板39の界面(表面)にまで進行した後、当該界面で反射し、回折格子領域331まで戻ることがある。その結果として、回折格子領域331においては、反射して回折格子領域331まで戻った当該分光Lbと、反射せず回折格子領域331から外部へ取り出される分光Laとが干渉することがある。分光Lbは分光Laに対して、コア層32と支持層40を1往復余分に伝搬するため、その分の位相が遅れ、遅れる位相が2πの整数倍になる時、分光Laと分光Lbは最も強め合う干渉を起こす。コア層32の実効的な膜厚tgrを、回折格子領域331の凹部におけるコア層32の膜厚に、回折格子領域331の凹部と凸部のコア層32の膜厚差の半分の値を加えた膜厚とすると、コア層32を1往復する際に遅れる位相は下記の式(8)となり、膜厚がL1の支持層40を1往復する際に遅れる位相は下記の式(9)となる。
【数8】
【数9】
ここで、ngrおよびnL1は、それぞれコア層32および支持層40を形成する材料の屈折率である。また、λ0はコア層32を伝搬する光の真空における波長である。さらに、支持層40と基板39の界面における反射時には、支持層40の屈折率が基板39の屈折率よりも小さい場合、さらに位相がπずれることから、全てを総合して下記の式(10)を満たす時に分光Laと分光Lbは強め合う干渉を起こすことになる。
【数10】
ここでmは自然数である。したがって、回折格子領域331から外部側D1へ光を効率よく取出すためには、反射した分光Lbと反射していない分光Laとの位相差を調整すること、すなわち、回折格子領域331と基板39との間の距離L1も、光伝搬部と基板との間の距離L2のように、所定の長さに調整することが肝要になる。
【0095】
上記原理は、光源からの光をコア層に取込む場合にも成り立つ。詳細な説明は省略するが、光をコア層に取込むための回折格子領域では、図13(b)に示すように、外部側D1から回折格子領域311に光を入射し、コア層の内部に光を取込む際、回折格子領域311(本願の第1回折格子部11の回折格子領域111に相当)からコア層の内部に導入される分光Lcだけではなく、回折格子領域311を通過して、厚さ方向基板側D2へ進んでいく分光Ldも存在する。このように厚さ方向基板側D2へ進んでいった当該分光Ldは、コア層32と支持層40を通過し、基板39の界面(表面)にまで進行した後、当該界面で反射し、回折格子領域311まで戻ることがある。その結果として、回折格子領域311においては、反射して回折格子領域311まで戻った当該分光Ldと、外部側D1から直接コア層の内部に導入される分光Lcとが干渉することがある。したがって、先述した光をコア層から取出す場合と同様の現象が起こるため、回折格子領域311からコア層に光を効率よく導入するためには、反射した分光Ldと反射していない分光Lcとの位相差を調整すること、すなわち、回折格子領域311と基板39との間の距離L1も、光伝搬部と基板との間の距離L2のように、所定の長さに調整することが肝要になる。
【0096】
したがって、このようなセンサにおいては、光をコア層から取出す、または光をコア層に取込むための回折格子領域での回折効率と光伝搬部での伝搬効率を考慮して、光導波路中の距離L1、L2を設計することが必要である。
【0097】
しかし、従来の光導波路では、光伝搬部と回折格子領域とは、SOI基板等を用いるなどして平坦な支持層上に形成されることから、光伝搬部と基板との間の距離、および、回折格子領域と基板との間の距離は同じ長さになっており、回折格子領域での回折効率と光伝搬部での伝搬効率とを両立させるように光導波路を設計することが困難であった。
【0098】
これに対して、本実施形態の光導波路15では、図3に例示するように、基板19とコア層12とが離隔し、第1回折格子部11または第2回折格子部13の回折格子領域111、131と基板19との距離L1は、光伝搬部10と基板19との距離L2と異なっている(第2回折格子部13の回折格子領域131の図示については省略)。したがって、第1回折格子部11または第2回折格子部13の回折格子領域111、131と基板19との間の距離L1および光伝搬部10と基板19との間の距離L2を各々独立して調整可能であり、それにより、第1回折格子部11、第2回折格子部13での回折効率の向上と光伝搬部10での伝搬効率の向上とを両立することができる。
【0099】
ここで、本実施形態の光導波路15において、基板19とコア層12とを離隔させ、且つ、距離L1を距離L2と異なるようにする方法としては、特に限定されるものではない。図示の例では、上述のように、基板19とコア層12との間に支持層20を設けることで、基板19とコア層12とを離隔させている。また、図3に示すように、第1回折格子部11または第2回折格子部13と光伝搬部10を異なる層にそれぞれ位置させることで、距離L1を距離L2と異なるようにしている。より具体的には、第1回折格子部11または第2回折格子部13と光伝搬部10とを空間的に厚さ方向に離隔させて、第1回折格子部11または第2回折格子部13と光伝搬部10を異なる層にそれぞれ位置させている(この際、第1回折格子部11または第2回折格子部13と光伝搬部10とを同じまたは異なる材料で形成することができる)。なお、第1回折格子部11または第2回折格子部13と光伝搬部10とをそれぞれ異なる材料で形成した場合には、距離L1と距離L2をより簡単に変えることができる。なお、第1回折格子部11または第2回折格子部13と光伝搬部10とは必ずしも離隔させなくてもよい(すなわち、第1回折格子部11または第2回折格子部13と光伝搬部10とは、少なくとも一部において、接触していてもよい)。
【0100】
なお、材料が異なるとは、元素が異なる場合だけでなく、元素が同一元素であってもその結晶状態が異なる場合も、材料が異なるものとする。光学的には、材料の構成元素が同じであっても、結晶状態が異なれば、光の伝搬現象は異なるからである。
【0101】
本実施形態において、基板と回折格子領域の間の離隔部を形成する材料が、基板の屈折率よりも小さく、第1回折格子部11または第2回折格子部13の回折格子領域111、131と基板19との距離L1は、下記式(11)を満たすことが好ましく、より好ましくは下記式(12)を満たすことであり、さらに好ましくは、下記式(13)を満たすことである。
【数11】
【数12】
【数13】
ここで、λ0はコア層12を伝搬する光の真空中における波長の平均値であり、nL1は基板19と第1回折格子部11または第2回折格子部13の回折格子領域111、131との間に存在する材料の屈折率であり、tgrは第1回折格子部11または第2回折格子部13のうちの回折格子領域111、131の実効的な膜厚であり、ngrは第1回折格子部11または第2回折格子部13のうちの回折格子領域111、131を形成する材料の屈折率であり、mは自然数である。基板19と第1回折格子部11または第2回折格子部13の回折格子領域111、131との間に存在する材料が複数存在する場合は、nL1は{Σ(nL1i 2×AL1i)}1/2で計算される実効値とする。ここで、nL1iは基板19と第1回折格子部11または第2回折格子部13の回折格子領域111、131との間に存在するそれぞれの材料の屈折率であり、AL1iは当該それぞれの材料が、基板19と第1回折格子部11または第2回折格子部13の回折格子領域111、131との間を占有する割合(本実施形態においては膜厚方向における占有割合)である。また、第1回折格子部11または第2回折格子部13のうちの回折格子領域111、131の実効的な膜厚とは、回折格子領域111、131の凹部におけるコア層12の膜厚に、回折格子領域111、131の凹部と凸部のコア層12の膜厚差の半分の値を加えた膜厚とする。また、第1回折格子部11または第2回折格子部13のうちの回折格子領域111、131を形成する材料が複数存在する場合は、ngrは{Σ(ngri 2×Agri)}1/2で計算される実効値とする。ここで、ngriは回折格子領域111、131の凹部において、コア層12を形成するそれぞれの材料の屈折率であり、AL1iは回折格子領域111、131の凹部における当該それぞれの材料が、回折格子領域111、131の凹部においてコア層12を占有する割合である。距離L1が上記式を満たすことで、第1回折格子部11または第2回折格子部13での光の回折効率を高いレベルにすることができる。
【0102】
なお、本実施形態において、距離L1が上記式を満たすようにする方法としては、支持層20の厚さや、第1回折格子部11または第2回折格子部13の回折格子領域111、131と光伝搬部10の間の中間層22の厚さを調整することにより行うことができる。なお中間層22は、コア層12よりも相対的に屈折率の低い物質(空気も含む)による層とすることができ、図示の例では、シリコン酸化膜(SiO2)である。中間層22と支持層20がシリコン酸化膜で形成された場合、第1回折格子部11または第2回折格子部13の回折格子領域111、131と基板19との間の材料の屈折率は、約1.4とみなすことができる。また、コア層12を伝搬する光の真空中における波長λ0の平均値は例えば約4.3μmである。
【0103】
また、本実施形態において、光伝搬部10と基板19との距離L2は、下記の式(14)以上離れている。
【数14】
ここで、λ0はコア層12を伝搬する光の真空中における波長の平均値であり、nproは光伝搬部10を形成する材料の屈折率であり、nL2は光伝搬部10と基板19に挟まれた部分に存在する材料の屈折率である。光伝搬部10と基板19に挟まれた部分に存在する材料が複数存在する場合は、nL2は、複数の材料の屈折率のうちの最も大きい屈折率とする。当該距離L2を上記所定の距離にすることにより、光伝搬部10から染み出たエバネッセント波EWが基板19に漏れるのを十分に抑制することができ、光伝搬部10の伝搬効率をより向上させることができる。
【0104】
なお、本実施形態において、距離L2が上記所定の距離を満たすようにする方法としては、支持層20の厚さが調整されたSOI基板を用いるなどすればよい。
【0105】
本実施形態において、距離L1と距離L2との関係は任意にすることができる。例えば環境中に浮遊する代表的なガスであるCO2を検出するための光学式濃度測定装置14では、コア層12を伝搬する光として、波長約4.3μm(真空中での波長)の赤外線を用いることが一般的であるが、基板19と第1回折格子部11または第2回折格子部13の回折格子領域111、131の間の離隔部を形成する材料をシリコン酸化膜で形成し、回折格子領域111、131をシリコンにて実効的な膜厚約0.9μmで形成した場合、距離L1を構成する各パラメータは、λ0=4.3μm、nL1=1.4、ngr=3.4、tgr=0.9μm程度となり、距離L1は、例えば、4.1~5.3μmが好ましく、より好ましくは4.3~5.1μmであり、さらに好ましくは、4.5~4.9μmである。また、この時、距離L2は、例えば2.5μm程度である。距離L2に相当する部分を、張り合わせ方式のSOI基板の埋め込み酸化膜(BOX)層を用いて形成する場合、BOX層の膜厚を厚く形成するほど、プロセスのスループットが悪く、コストがかかる。したがって距離L2は、光学的性能とコストの両観点から、2.5μm程度の長さに抑えた状態で、距離L1を適正な長さに調整する方法がよい。
【0106】
ここで、図3の例では、上述のように第1回折格子部11および第2回折格子部13と光伝搬部10とが異なる層にそれぞれ位置しているが、光伝搬部10を伝搬する光に対して、第1回折格子部11および第2回折格子部13と光伝搬部10との光学的な結合について説明する。
【0107】
本実施形態の光導波路15は、図2に示すように、具体的には、第1回折格子部11および第2回折格子部13はそれぞれ回折格子領域111、131を有しており、第1回折格子部11および第2回折格子部13の間に、伝搬路101を有する光伝搬部10が存在している。また、第1回折格子部11および第2回折格子部13は、図3に示すように(第2回折格子部13については省略)、それぞれ延長領域111a、131aを有し、各延長領域111a、131aが、回折格子領域111、131を形成する材料の一つと同一材料であり、且つ回折格子領域111、131および延長領域111a、131aの全ては、光伝搬部10の伝搬路101と離隔している。さらに、各延長領域111a、131aが第1光結合領域111b、131bを有し、伝搬路101がその両末端部付近に第2光結合領域101aを有し、第1光結合領域111b、131bおよび第2光結合領域101aを伝搬する光に対して、第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aが光学的に結合している。
【0108】
したがって、図示の例では、第1回折格子部11および第2回折格子部13が有する第1光結合領域111b、131bと、光伝搬部10が有する第2光結合領域101aが、第1光結合領域111b、131bおよび第2光結合領域101aを伝搬する光に対して、方向性結合器として機能することで、第1回折格子部11を通った光が、第1回折格子部11から光伝搬部10へ伝搬し、光伝搬部10を通った光が、光伝搬部10から第2回折格子部13へ伝搬している。
【0109】
なお、方向性結合器として機能するとは、エバネッセント波を利用して、光が一方(例えば第1光結合領域111b)から他方(第2光結合領域101a)に遷移し、その遷移の前後で、光の進行方向が変わらないような光学的な結合状態を指す。
【0110】
また、本実施形態の光導波路15では、具体的には、図3(b)に示すように、延長領域111a、131aと、光伝搬部10は、相互に厚さ方向に異なる位置(図示の例では光伝搬部10は延長領域111aに対して厚さ方向基板側に位置)に離隔して位置することが好ましい。換言すれば、延長領域111a、131aと、光伝搬部10とが、異なる層にそれぞれ位置する。延長領域111a、131aと、光伝搬部10とを、相互に厚さ方向に離隔させることにより、第1回折格子部11および第2回折格子部13の回折格子領域111、131と基板19との距離L1と、光伝搬部10と基板19との距離L2とを、容易に異ならせることができる。
【0111】
また、本実施形態の光導波路15では、延長領域111a、131aを含めた各回折格子部11、13の全領域が光伝搬部10と厚さ方向に離隔しており、各回折格子領域111、131の全ての位置において、各回折格子領域111、131と基板19との距離L1が、光伝搬部10と基板19との距離L2と、光伝搬部10の膜厚以上異なっている。
【0112】
具体的には、延長領域111a、131aの形態は、特に限定されるものではないが、図3(a)に示すように、第1回折格子部11および第2回折格子部13の延長領域111a、131aは、その一端が、回折格子領域111、131と途切れることなく連続的に接続し、他端が、他のコア層12に接続されることなく終端している(第2回折格子部13の図示については省略)。さらに、延長領域111a、131aは、図3(b)の厚さ方向での断面図に示すように、光学的に結合する部分である、延長領域111a、131aの第1光結合領域111b、131bと伝搬路101の第2光結合領域101aとが接近するように、延長領域111a、131aの第1距離変化領域111c、131cが伝搬路101に向かって湾曲している。この第1距離変化領域111c、131c(すなわち湾曲している部分)は、伝搬路101との距離が、延長領域111aと伝搬路101とが光学的に結合しにくい距離(式(2)よりも大きい距離、または0.7μmよりも大きい距離)から、光学的に結合する距離(式(1)以下の距離、または0.7μm以下の距離)に漸次変化している。ここで、ngapは、伝搬路101と第1距離変化領域111c、131cに挟まれた部分に存在する材料の屈折率である。そして、第1距離変化領域111c、131cは第1光結合領域111b、131bと連続している。この湾曲している部分の最大角度は、光の損失を避けるために、基板19の主面に対して45°以下であることが好ましく、30°以下であることがより好ましい。また、あまりに緩い角度であると、第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aとを接近させるまでに多くの距離を有してしまうため、湾曲している部分の最大角度は、基板19の主面に対して10°以上であることが好ましく、15°以上であることがより好ましい。
【0113】
さらに、図示の例では、伝搬路101と延長領域111a、131aとは平面視で相互に平行に延在している部分を有している。すなわち、延長領域111a、131aは、図3(b)に示すように、延長領域111a、131aの一端(回折格子領域111、131との接続部分)から他端(終端部分)に向かって、延長領域111a、131aと伝搬路101との距離が、延長領域111a、131aと伝搬路101との間で光学的に結合可能な距離まで漸減するように湾曲している第1距離変化領域111c、131cがあり、次いで、第1光結合領域111b、131bにおいて、延長領域111a、131a(第1光結合領域111b、131b)と伝搬路101(第2光結合領域101a)が一定の距離を保ちながら延在している部分があり、さらに、延長領域111a、131aと伝搬路101との距離が漸増するように湾曲している第2距離変化領域111d、131dがあり、最終的に他端部にて終端している。
【0114】
なお、上記のように図示の例では、伝搬路101には終端部分があり、第2光結合領域101aは伝搬路101(光伝搬部10)の終端部分から離隔して位置しているが、第2光結合領域101aが伝搬路101(光伝搬部10)の終端部分に位置していてもよい。しかしながら、第2光結合領域101aが伝搬路101の終端部分に位置している場合より、伝搬路101の終端部分から離隔して位置している方が好ましい。第2光結合領域101aが伝搬路101の終端部分から離隔して位置していることで、図3(b)に示すように、伝搬路101の終端部分と第1回折格子部11、第2回折格子部13との距離を、両者が光学的に結合しにくい距離(式(2)よりも大きい距離、または0.7μmよりも大きい距離)とすることができる。ここで、ngapは、伝搬路101の終端部分と第1回折格子部、第2回折格子部に挟まれた部分に存在する材料の屈折率である。
【0115】
すなわち、図示の例では、伝搬路101は、第2光結合領域以外の部分において、第1回折格子部11、第2回折格子部13から、光学的に結合しにくい長さ(式(7)よりも大きい距離、または0.7μmよりも大きい距離)で厚さ方向に離隔している。ここで、ngapは伝搬路101の第2光結合領域以外の部分と、第1回折格子部11、第2回折格子部13とに挟まれた部分に存在する材料の屈折率である。
【0116】
また、本実施形態では、延長領域111a、131a中の第1光結合領域111b、131bの位置は任意にすることができ、延長領域111a、131aの他端に第1光結合領域111b、131bを位置させることもできるが、図3(b)に示し上記するように、延長領域111a、131aの中間(図示では延長領域111aと伝搬路101の距離が漸減する第1距離変化領域111c、131cと、距離が漸増する第2距離変化領域111d、131dとの間)に第1光結合領域111b、131bがあることが好ましい。換言すれば、延長領域111a、131aの、回折格子領域111、131に対して接続する一端と、終端する他端との間にそれぞれの端から離れて第1光結合領域111b、113bが存在することが好ましい。延長領域111a、131aの中間に第1光結合領域111b、131bがあることにより、図3(b)に示すように、延長領域111aの終端部分と伝搬路との距離は、両者が光学的に結合しにくい距離(式(2)よりも大きい距離、または0.7μmよりも大きい距離)とすることができる。ここで、ngapは、延長領域111aの終端部分と伝搬路101に挟まれた部分に存在する材料の屈折率である。さらに、延長領域111a、131aの中間に第1光結合領域111b、131bがあることにより、伝搬路101にダメージを与えずに延長領域111a、131aの終端部分をエッチング加工することができるため、伝搬路101での光の伝搬効率を向上させることができる。
【0117】
本実施形態において、延長領域111a、131aは、少なくとも第1光結合領域111b、131bを有するものであれば、その延在形態は限定されない。
【0118】
また、図示の例では、延長領域111a、131aと光伝搬部10が相互に厚さ方向に離隔し、延長領域111a、131aと光伝搬部10との間に延長領域111a、131aと光伝搬部10とは異なる中間層22が存在している。
【0119】
また、図示の例では、第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aとの距離は、上記の式(6)以下、または0.7μm以下であることが好ましい。ここで、λ0はコア層12を伝搬する光の真空における波長の平均値であり、ncoupは第1光結合領域111b、131bまたは第2光結合領域101aを形成する材料の屈折率であり、nmidは、第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aに挟まれた部分に存在する材料の屈折率である。第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aとの距離が上記距離であることにより、第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aの光学的な結合が短い距離で効率的に行われるようにすることができる。
【0120】
また、第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aの光学的に結合する延在方向の長さは、20μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以下である。当該長さが上記であることにより、第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aを省スペースで光学的に結合することができる。なお、第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aの光学的に結合する延在方向の長さは、延長領域111a、131aと伝搬路101との距離が上記の式(6)以下または、0.7μm以下となる部分、すなわち第1光結合領域111b、131bおよび第2光結合領域101aと定義される部分の長さを指す。
【0121】
また、本実施形態において、延長領域111a、131aを有する回折格子部11、13と、光伝搬部10とは任意の材料により形成することができるが、図示の例では、回折格子部11、13と光伝搬部10とは、それぞれ形成する材料が異なっている。回折格子部11、13と光伝搬部10では求められる機能が異なるため、異なる材料で形成することにより、各要素に求められる機能にあった材料を選ぶことができる上に、光導波路をより好適に製造しやすくすることができる。
【0122】
なお、図示の例では、回折格子部11、13の材料は多結晶シリコンであり、光伝搬部10の材料は単結晶シリコンとなっているが、回折格子部11、13を形成する材料または光伝搬部10を形成する材料をアモルファスシリコンにすることもできる。
【0123】
また、図示は省略するが、第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aを接触させてもよく、それにより、第1回折格子部11および第2回折格子部13と光伝搬部10を光学的に結合することができる。
【0124】
さらに、本実施形態において、第1光結合領域111b、131bおよび第2光結合領域101aを伝搬する光に対して、第1光結合領域111b、131bの等価屈折率は、第2光結合領域101aの等価屈折率の0.7~1.3倍であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.2倍、さらに好ましくは0.9~1.1倍である。第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aとが、第1光結合領域111b、131bおよび第2光結合領域101aを伝搬する光に対して、等価屈折率が等しいほど、両者を高効率で光学的に結合することができる。
【0125】
また、本実施形態において、第1光結合領域111b、131bを形成する材料の屈折率は、第2光結合領域101aを形成する材料の屈折率の0.9~1.1倍であることが好ましく、より好ましくは0.95~1.05倍である。第1光結合領域111b、131bを形成する材料と、第2光結合領域101aを形成する材料の屈折率が等しいほど、第1光結合領域111b、131bおよび第2光結合領域101aを伝搬する光に対して、第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aの等価屈折率を合わせやすくなり、光学的な結合効率を向上することができる。
【0126】
さらに本実施形態では、延長領域111a、131aや伝搬路101の膜厚は任意にすることができるが、図3(b)に示すように、第1光結合領域111b、131bの膜厚は、第2光結合領域101aの膜厚の0.7~1.3倍であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.2倍、さらに好ましくは0.9~1.1倍である。より具体的には、第1光結合領域111b、131bを含む延長領域111a、131aの膜厚は、第2光結合領域101aを含む伝搬路101の膜厚の0.7~1.3倍であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.2倍、さらに好ましくは0.9~1.1倍である。第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aの膜厚が等しいほど、第1光結合領域111b、131bおよび第2光結合領域101aを伝搬する光に対して、第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aの等価屈折率を合わせやすくなり、光学的な結合効率を向上することができる。
【0127】
なお、本実施形態において、第1光結合領域111b、131bの膜厚および、第2光結合領域101aの膜厚は、第1光結合領域111b、131bの膜厚または第2光結合領域101aの膜厚が、第1光結合領域111b、131b内または第2光結合領域101a内で変化している場合は、第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aの間の距離が最短となる部分における、それぞれの膜厚を指す。
【0128】
第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aとの膜厚は、製造の観点から、0.2~1.0μmであることが好ましい。
【0129】
さらに第1実施形態では、延長領域111a、131aや伝搬路101の幅は任意にすることができるが、図3(a)に示すように、第1光結合領域111b、131bの幅は、第2光結合領域101aの幅の0.7~1.3倍であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.2倍、さらに好ましくは0.9~1.1倍である。第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aの幅が等しいほど、第1光結合領域111b、131bおよび第2光結合領域101aを伝搬する光に対して、第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aの等価屈折率を合わせやすくなり、光学的な結合効率を向上することができる。
【0130】
なお、第1実施形態において、第1光結合領域111b、131bの幅および、第2光結合領域101aの幅は、第1光結合領域111b、131bの幅または第2光結合領域101aの幅が、第1光結合領域111b、131b内または第2光結合領域101a内で変化している場合は、第1光結合領域111b、131bと第2光結合領域101aの間の距離が最短となる部分における、それぞれの幅を指す。
【0131】
ところで、本実施形態では、図2、3に示す例では、第1回折格子部11の回折格子領域111および第2回折格子部13の回折格子領域131の形状はともに扇形になっているが、本実施形態においては、回折格子領域111、131の平面視での形状は任意にすることができる。
【0132】
<光導波路の製造方法>
次に、本実施形態による光導波路15の製造方法の一例について、図4から図11を用いて説明する。図4から図11図3(b)に示す箇所の製造方法の一例を示した断面図である。
【0133】
なお、図4から図11では、光導波路15の製造方法の説明の容易化のため、第1回折格子部11のうち1つの回折格子領域111に着目して簡略化し模式的な図となっている。図4から図11は、図3(a)のA-A線に対応する位置で切断した光導波路15の製造工程断面図を示している。
【0134】
まず、図4に示すように、シリコンで形成され最終的に基板19となる支持基板19aと、シリコンで形成されコア層12が形成される活性基板12aのいずれか一方、または両方にSiO2膜を形成し、このSiO2膜を挟むようにして支持基板19aおよび活性基板12aを貼り合わせて熱処理して結合する。その後、活性基板12aを所定の厚さまで研削・研磨するなどして活性基板12aの膜厚を調整する。これにより、支持基板19aと、支持基板19a上に形成されたBOX層20aと、BOX層20a上に形成された活性基板12aとを有し、「シリコン-絶縁層-シリコン」構造を有するSOI基板15aが形成される。
【0135】
次に、SOI基板15aをリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いて活性基板12aをエッチングし、光伝搬部10を形成する。これにより、図5に示すように、支持基板19aと、支持基板19a上に形成されたBOX層20aと、BOX層20aの上に形成された光伝搬部10とを有する光導波路主要部を形成する。
【0136】
次に、図6に示すように、後に形成する第1回折格子部11の延長領域111aと光伝搬部10とを離隔するための離隔膜15cを、例えばTEOS(Tetraethyl orthosilicate)を原料とするSiO2膜などを堆積することにより形成する。この離隔膜15cはBOX層20aの上および光伝搬部10の上に形成された後、CMP(Chemical mechanical polishing)を用いるなどして表面を平坦化することで、図6に示すような構造を実現できる。なお、離隔膜15cにより、光伝搬部10を、第1回折格子部11と厚さ方向に離隔させることができる。
【0137】
次に、図7に示すように、離隔膜15cの上にフォトレジストをパターニングし、そのフォトレジストをマスク層M1として、離隔膜15cを部分的にエッチングする。その際、出来るだけ緩やかな傾斜を形成するために、BHF(Buffered hydrofluoric acid)などを用いてウェットエッチングを行う。ウェットエッチングでは、離隔膜15cとマスク層M1との界面の密着性を調整することで、より緩やかな傾斜を形成することができる。このようにすることで、図7に示すように、後に形成する第1回折格子部11の延長領域111aと光伝搬部10(伝搬路101)の端付近を光学的に結合するための穴が離隔膜15cに形成される。
【0138】
次に、マスク層M1をエッチングし取り除いた後、図8に示すように、離隔膜15cの穴の形成により露出した光伝搬部10の一部の表面上にSiO2膜を例えば膜厚30nm程度形成する。この膜の形成方法はCVD(Chemical vapor deposition)や酸化等の任意の方法が用いられる。また、この膜は、必ずしもSiO2膜である必要はなく、例えばSiN膜等でもよい。
【0139】
次に、図9に示すように、全面にポリシリコン膜(上層)21a/SiO2膜21b/ポリシリコン膜(下層)21cの3層構造を形成する。2つのポリシリコン膜21a、21cは例えばCVDにて形成する。また、中間層のSiO2膜21bは酸化やCVDなどで形成する。下層のポリシリコン膜21cの膜厚は、光伝搬部10(伝搬路101)の膜厚と略等しくすることが好ましく、膜厚が伝搬路101と略等しいことで、ポリシリコン膜21cより形成される第1回折格子部11と光伝搬部10との光学的な結合を高効率で行うことができる。例えば、下層のポリシリコン膜21cと伝搬路101の膜厚は共に0.6μmである。
【0140】
次に、図10に示すように、リソグラフィ技術、エッチング技術を用いて、上層のポリシリコン膜21aをエッチングし、第1回折格子部11を形成するための凹凸パターンを形成する。その際、2つのポリシリコン膜21a、21cの間に形成したSiO2膜21bは、エッチング時のストッパー膜として働くため、精度良く凹凸パターンを形成できる他、下層のポリシリコン膜21cを過剰エッチングから保護することができる。凹凸パターンを形成した後、ストッパーとして用いたSiO2膜21bはドライエッチングまたはウェットエッチングにより、SiO2膜21bのうち露出している箇所のみを除去する。
【0141】
次に、図11に示すように、リソグラフィ技術、エッチング技術を用いて、下層のポリシリコン膜21cをエッチングし、第1回折格子部11の輪郭を形成する。続いて、図示は省略するが、リソグラフィ技術、エッチング技術を用いて、ガスセンシングを行う光伝搬部10の一部の表面を露出させるように、離隔膜15cの一部を除去することで、本実施形態の光導波路15に相当する構造の光導波路主要部15bが得られる。
【0142】
次に、支持基板19aを所定領域で切断して光導波路主要部15bを個片化する。これにより、本実施形態による光導波路15が完成する。
【0143】
なお、上記説明では、回折格子部として第1回折格子部11に着目して説明したが、第2回折格子部13も同様に形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明によれば、コア層としての回折格子部および光伝搬部をより容易に、且つ高性能に形成することを可能な光学式濃度測定装置および光導波路を提供することができる。
【符号の説明】
【0145】
10:光伝搬部
101:伝搬路
101a:第2光結合領域
11:第1回折格子部
111:回折格子領域
111a:延長領域
111b:第1光結合領域
111c:第1距離変化領域
111d:第2距離変化領域
12:コア層
13:第2回折格子部
131:回折格子領域
131a:延長領域
131b:第1光結合領域
131c:第1距離変化領域
131d:第2距離変化領域
14:光学式濃度測定装置
15:光導波路
15a:SOI基板
15b:光導波路主要部
15c:離隔膜
16:外部空間
17:光源
18:光検出器
19:基板
19a:支持基板
20:支持層
20a:BOX層
21a:ポリシリコン膜(上層)
21b:SiO2
21c:ポリシリコン膜(下層)
22:中間層
311:回折格子領域
32:コア層
331:回折格子領域
39:基板
40:支持層
51:構造体
52:物質
EW:エバネッセント波
IR:赤外線
L:光
L1、L2:距離
La、Lb、Lc、Ld:分光
M1:マスク層
D1:外部側(厚さ方向表面側)
D2:厚さ方向基板側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13