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特許7526125表面処理シリカ粉末及びその製造方法、樹脂組成物および分散体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】表面処理シリカ粉末及びその製造方法、樹脂組成物および分散体
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20240724BHJP
   C09C 1/28 20060101ALI20240724BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20240724BHJP
   C09C 3/12 20060101ALI20240724BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20240724BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C01B33/18 C
C09C1/28
C09D17/00
C09C3/12
C08K9/06
C08L101/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021067181
(22)【出願日】2021-04-12
(65)【公開番号】P2022162370
(43)【公開日】2022-10-24
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 慧
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 慶二
(72)【発明者】
【氏名】木口 雅英
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-189638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/18
C09C 1/28
C09D 17/00
C09C 3/12
C08K 9/06
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基を表面に有する表面処理シリカ粉末であって、
前記表面処理シリカ粉末の表面のエポキシ基量E1(個/nm)と前記表面処理シリカ粉末の3質量%エタノール懸濁液を出力110Wの超音波分散機で10分間分散して遠心分離機で固液分離する工程を3回繰り返した後に1時間真空乾燥した洗浄粉末の表面のエポキシ基量E2(個/nm)との比(E2/E1)が0.5以上であり、
前記エポキシ基量E1が0.1~3.0個/nm であることを特徴とする表面処理シリカ粉末(ただし、前記エポキシ基量E1が1.6~3.0個/nm を除く)
【請求項2】
メタノール滴定法による疎水化度が1~30容量%であることを特徴とする請求項記載の表面処理シリカ粉末。
【請求項3】
BET比表面積が1~100m/gであることを特徴とする請求項記載の表面処理シリカ粉末。
【請求項4】
レーザー回折散乱法により得られる体積基準粒度分布の累積50体積%径D50と累積90体積%径D90とから求められる{(D90-D50)/D50}×100が10以上かつ100未満であることを特徴とする請求項記載の表面処理シリカ粉末。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の表面処理シリカ粉末が樹脂に分散されてなる樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の表面処理シリカ粉末が液体状の溶媒中に分散されてなる分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止材、液晶シール剤及びフィルム等の充填剤として好適に使用できる新規な表面処理シリカ粉末及びその製造法、樹脂組成物および分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高性能化、小型軽量化に伴い、搭載される半導体パッケージの形態も、高集積化、高密度化、薄型化が進んでいる。このような半導体パッケージの実用化には、集積回路の設計とともに、その設計に適した封止材の開発が必要不可欠である。
例えば、半導体チップと配線基板との間に充填されるアンダーフィル剤には主にエポキシ樹脂が用いられるが、エポキシ樹脂、半導体チップ、および配線基板は、それぞれ異なる線膨張係数を有する。そのため、接続部が応力を吸収できないと、当該接続部にクラックが発生することがある。このクラックの発生を抑えるため、アンダーフィル剤には、シリカなどの線膨張係数の比較的小さいフィラーを分散させている。この際、封止材の線膨張係数を抑えるため、低膨張率フィラーの充填量を高くすることが求められている。
【0003】
前記フィラーの充填量を高くするために、分散性に優れ、分散粒子径が小さく、更に分散時の粒度分布が狭い親水性乾式シリカ粉末が提案されている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1に記載のシリカ粉末では、分散粒子径が小さいため、樹脂組成物への増粘効果を誘起し、これを充填した樹脂組成物の粘度が高くなることから、十分な充填量を得ることができないという課題が残されていた。
また、フィラーをシランカップリング剤で表面処理することにより、エポキシ樹脂に対して粒子表面の親和性を向上させる方法も提案されている(例えば、特許文献2)。特許文献2に記載の金属酸化物粉体は、金属酸化物の有機樹脂に対する活性を抑制し、樹脂の充填時に低粘度かつ高流動性を実現することが可能となることが示されていた。しかしながら、表面処理することで樹脂への分散性は向上しうるものの、その表面処理された金属酸化物粉体には物理吸着したカップリング剤が残存していることから、混練時の粘度特性が十分ではなく、さらなる粘度特性の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-152048号公報
【文献】特開2004-059380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、充填性に優れた表面処理シリカ粉末を提供することにある。さらに詳しくは、有機樹脂との親和性を向上させること、かつ余分なシランカップリング剤を低減させることで粘度特性の高い樹脂組成物を得ることができる表面処理シリカ粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、表面シリカ粉末表面においてエポキシ基を有するシランカップリング剤の物理吸着分を低減し、化学結合によるシリカ粉末表面との結合を増大させることで、添加した樹脂組成物が優れた粘度特性と高いフィラー充填性とを両立できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明の表面処理シリカ粉末は、エポキシ基を表面に有する表面処理シリカ粉末であって、前記表面処理シリカ粉末の表面のエポキシ基量E1(個/nm)と前記表面処理シリカ粉末の3質量%エタノール懸濁液を出力110Wの超音波分散機で10分間分散して遠心分離機で固液分離する工程を3回繰り返した後に1時間真空乾燥した洗浄粉末の表面のエポキシ基量E2(個/nm)との比(E2/E1)が0.5以上であり、 前記エポキシ基量E1が0.1~3.0個/nm である。(ただし、前記エポキシ基量E1が1.6~3.0個/nm を除く)
このような表面処理シリカ粉末によれば、化学結合していないシランカップリング剤が少なく、添加した樹脂組成物が優れた粘度特性と高いフィラー充填性とを両立できる。
【0008】
また、本発明の表面処理シリカ粉末は、メタノール滴定法による疎水化度が1~30容量%であることが好ましい。
また、本発明の表面処理シリカ粉末は、BET比表面積が1~100m/gであることが好ましい。
また、本発明の表面処理シリカ粉末は、レーザー回折散乱法により得られる体積基準粒度分布の累積50体積%径D50と累積90体積%径D90とから求められる{(D90-D50)/D50}×100が10以上かつ100未満であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の樹脂組成物は、上述したいずれかの表面処理シリカ粉末が樹脂に分散されている。
また、本発明の分散体は、上述したいずれかの表面処理シリカ粉末が液体状の溶媒中に分散されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表面処理シリカ粉末は、エポキシ基を有するシランカップリング剤が化学結合によりシリカ粉末表面と結合しているため、当該表面処理シリカ粉末を添加した樹脂組成物は、物理吸着した余分なシランカップリング剤による影響を受けず、優れた粘度特性と高いフィラー充填性とを両立できる。したがって、半導体封止剤や半導体実装接着剤の充填剤として好適である。特に、高密度実装用樹脂の充填剤として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の表面処理シリカ粉末について実施形態に基づき詳細に説明する。
【0012】
本発明の表面処理シリカ粉末は、エポキシ基を表面に有する表面処理シリカ粉末であって、前記表面処理シリカ粉末の表面のエポキシ基量E1(個/nm)と前記表面処理シリカ粉末の3質量%エタノール懸濁液を出力110Wの超音波分散機で10分間分散して遠心分離機で固液分離する工程を3回繰り返した後に1時間真空乾燥した洗浄粉末の表面のエポキシ基量E2(個/nm)との比(E2/E1)が0.5以上である。
ここで、E2/E1が0.5未満であると、化学結合したシランカップリング剤よりも物理吸着したシランカップリング剤の方が多くなり、樹脂組成物の粘度特性が低下する。特に、E2/E1は0.7以上が好ましく、0.8以上がより好ましい。
【0013】
また、表面処理シリカ粉末表面のエポキシ基量E1は、0.1~3.0個/nmであることが好ましく、0.3~2.5個/nmがより好ましく、0.5~2.5個/nmが更に好ましい。
ここで、エポキシ基量が0.1個/nm未満であると、有機樹脂との親和性が低下し、また、3.0個/nmを超えることは、シリカ粉末表面の水酸基密度を考慮すると困難である。
【0014】
表面処理シリカ粉末のメタノール滴定法による疎水化度は、1~30容量%であることが好ましく、2~30容量%がより好ましく、3~25容量%が更に好ましい。
ここで、疎水化度が1容量%未満であると、有機樹脂との親和性が低下、また、30容量%を超えると、粘度特性が低下するため好ましくない。
【0015】
表面処理シリカ粉末のBET比表面積は、1~100m/gであることが好ましく、2~80m/gがより好ましく、5~50m/gが更に好ましい。
ここで、比表面積が1m/g未満であると、表面処理後の表面処理シリカ粉末を用いた樹脂組成物の粘度は低いものの、隙間に対してシリカ粒子径が大きい結果、隙間浸透時にボイドが発生し、成型不良の原因となる。つまり、十分な狭ギャップ浸透性が得られない。比表面積が100m/gを超えると、樹脂組成物の粘度が高く十分なフィラー充填量が得られない。
【0016】
さらに、表面処理シリカ粉末のレーザー回折散乱法により得られる体積基準粒度分布の累積50体積%径D50、累積90体積%径D90から求められる{(D90-D50)/D50}×100(以下、V90ともいう)は、10以上かつ100未満であることが好ましく、10~95がより好ましく、20~90が更に好ましい。
ここで、V90が100以上であると、粗大粒子が多く隙間浸透時にボイドが発生し、成型不良の原因となり、10未満は工業的に製造が困難である。
【0017】
<表面処理シリカ粉末の製造方法>
次に、本発明の表面処理シリカ粉末の製造方法について説明する。
シリカ粉末にエポキシシランカップリング剤を加えて混合し、加熱処理によって、シリカ粉末表面とカップリング剤とを反応(化学結合)させて処理粉末を得る。得られた処理粉末を、大気圧以下の圧力で乾燥して未反応物を除去し、表面処理シリカ粉末を得る。以下、詳述する。
【0018】
<シリカ粉末>
本発明で使用するシリカ粉末は、BET比表面積が1~100m/gであり、レーザー回折散乱法により得られる体積基準粒度分布の累積50体積%径D50と累積90体積%径D90とから求められる{(D90-D50)/D50}×100(V90)が10以上かつ100未満である親水性シリカ粉末が望ましい。
また、シリカ粉末として、ヘキサメチルジシラザンやエポキシ基を有さないシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粉末を用いてもよい。すなわち、表面処理されたシリカ粉末を用いることにより、いろいろな表面性を有した表面処理シリカ粉末が得られる。例えば、トリメチルシリル基とエポキシ基で構成された表面処理シリカ粉末を容易に得ることができる。
【0019】
<エポキシシランカップリング剤>
エポキシシランカップリング剤としては、下記式(1)で示されるものが挙げられる。
-Si-X(4-n) (1)
ただし、上記式(1)中、Rは炭素数1~12の有機基であり、Xは加水分解性の基であり、nは1から3の整数である。
ここで、上記Rとして示される炭素数1~12の有機基としては、3-グリシドキシプロピル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、グリシドキシオクチル基、グリシドキシオクチル基等のエポキシ基を有する炭素数3~12の有機基が好ましい。
また、上記Xとしては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1~3のアルコキシ基や塩素原子などのハロゲン原子が挙げられ、なかでもメトキシ基やエトキシ基が好ましい。なおnが1又は2である場合、複数のXは、各々同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。なお、nは1から3の整数であるが、1又は2であることが好ましく、1であることが特に好ましい。
エポキシシランカップリング剤の使用量は特に制限されず、所望の物性に応じて公知の範囲から適宜設定すればよいが、少ないと表面処理が不十分となり、多いとシリカ粉末表面に対する存在量が過剰になり、凝集塊が生成する傾向が強くなる。そのためシリカ粉末100質量部に対して、0.001~50質量部とすることが好ましく、0.003~40質量部とすることがより好ましく、0.01~20質量部とすることが最も好ましい。
【0020】
<表面処理剤(その他の添加物)>
また、エポキシシランカップリング剤以外に、シリコーンオイル、エポキシ基を有さないシランカップリング剤、シロキサン類やシラザン類から選択される少なくとも1種の表面処理剤を添加してもよい。表面処理剤はエポキシシランカップリング剤と同時に添加してもよいし、表面処理剤を添加した後にエポキシシランカップリング剤を添加してもよい。さらには、エポキシシランカップリング剤を添加したあとに、表面処理剤を添加してもよい。これにより、いろいろな表面性を有した表面処理シリカ粉末が得られる。例えば、トリメチルシリル基とエポキシ基で構成された表面処理シリカ粉末を容易に得ることができる。
表面処理剤の使用量は、シリコーンオイルであれば、0.05~80質量部とすることが好ましく、0.1~60質量部とすることがより好ましく、1~20質量部とすることが最も好ましい。また、エポキシ基を有さないシランカップリング剤であれば、0.001~40質量部とすることが好ましく、0.003~30質量部とすることがより好ましく、0.005~20質量部とすることが最も好ましい。同じくシロキサン類であれば、0.001~40質量部とすることが好ましく、0.003~30質量部とすることがより好ましく、0.005~20質量部とすることが最も好ましい。同じくシラザン類であれば、0.001~40質量部とすることが好ましく、0.003~30質量部とすることがより好ましく、0.005~20質量部とすることが最も好ましい。
【0021】
<混合>
シリカ粉末とエポキシシランカップリング剤は、従来公知の方法で混合する。例えば、混合容器中にシリカ粉末を入れ、該シリカ粉末を揺動や撹拌等により流動化させた状態で所定量のシランカップリング剤を滴下や噴霧等により添加する。例えば、容器内にシリカ粉末を加え、攪拌羽根の回転による攪拌を開始する。そこに、エポキシシランカップリング剤をぺリスタポンプを用いて添加する。添加速度は添加量に応じて適宜変更できる。
エポキシシランカップリング剤を添加したのち、10分間以上攪拌を継続することが好ましい。攪拌を継続することで、エポキシシランカップリング剤がシリカ粉末表面に均一に付着する。これにより、表面処理シリカ粉末表面における物理吸着したシランカップリング剤を低減することができる。
混合容器として例えば、攪拌羽根や混合羽根等が設置されたヘンシェル型混合装置やレディゲミキサー等、エアーにより気流混合するエアーブレンダー等、容器本体の回転や揺動により混合されるVブレンダー、ダブルコーン型混合装置、およびロッキングミキサー等が挙げられる。
【0022】
<加熱処理>
加熱処理を行うことで、カップリング剤をシリカ粉末表面と反応、すなわち、化学結合させる。加熱処理を行う温度は、低いと反応の進行が遅くなるため生産効率が低下し、高いとエポキシシランカップリング剤や表面処理剤(以下、総称して表面処理剤等ともいう)の分解や急速な重合反応による凝集の生成を促進してしまう。従って、使用する表面処理剤等にもよるが、一般に、25~300℃、好ましくは40~250℃で行うのが良い。この温度条件範囲において混合装置内おける表面処理剤等の蒸気圧が1kPa以上であることが好ましい。
加熱処理時間は使用する表面処理剤等の反応性に応じて適宜決定すればよい。通常1時間以上500時間以内で十分な反応率を得ることが可能である。
【0023】
<乾燥処理>
乾燥温度は特に限定されないが、温度が高いとシリカ表面に導入した官能基が分解するため好ましくない。従って、乾燥温度は、35~200℃とすることが好ましく、35~180℃とすることがより好ましく、35~150℃とすることが更に好ましい。
乾燥に用いる装置は特に制限はされず、従来公知の乾燥装置を使用することができる。また、加熱処理で用いた反応容器内で乾燥が可能な場合には、処理粉末をそのまま装置内で乾燥処理に供してよい。
乾燥時の装置内の圧力は、大気圧以下の圧力であることが好ましい。詳細には、1030hPa以下であることが好ましい。大気圧以下の圧力で乾燥することで、未反応のシランカップリング剤を十分に除去することができる。
乾燥時間は、特に制限はされず、乾燥時の条件、例えば乾燥温度や圧力等により適宜選択すれば良いが、一般的に1~48時間程度とすることにより、未反応のシランカップリング剤を十分に除去した表面処理シリカ粉末を得ることができる。
【0024】
<分散体>
本発明の表面処理シリカ粉末は、これを液体状の溶媒中に分散させて分散体とすることができる。表面処理シリカ粉末を分散させるために使用される溶媒は、表面処理シリカ粉末が分散し易い溶媒であれば特に制限はない。
かかる溶媒としては、例えば、水ならびにアルコール類、エーテル類およびケトン類等の有機溶媒が利用できる。前記アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノールおよび2-プロピルアルコール等が挙げられる。溶媒として、水と、前記有機溶媒のいずれか1つ以上との混合溶媒を使用してもよい。なお、表面処理シリカ粉末の安定性および分散性を向上させるために、界面活性剤等の分散剤、増粘剤、湿潤剤、消泡剤または酸性もしくはアルカリ性のpH調製剤等の各種添加剤を加えてもよい。また分散体のpHは制限されない。
【0025】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物を製造するために表面処理シリカ粉末を配合する樹脂の種類は、特に限定されない。樹脂の種類は所望の用途により適宜選択すればよく、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂やオレフィン系樹脂、ポリイミド樹脂やポリエステル系樹脂等を挙げることができる。
樹脂組成物を製造する方法は、公知の方法を適宜採用すればよく、表面処理シリカ粉末と各種樹脂及び必要に応じて配合されるその他成分を混合すればよい。
このような分散体を樹脂に混合する場合には、乾燥した状態のシリカ粉末を樹脂に混合する場合よりも、樹脂中でのシリカ粉末の分散状態が良好な樹脂組成物を得ることができる。粒子の分散状態が良好であるということは、樹脂組成物中に凝集粒子が少なくなることを意味する。そのため、本発明のシリカ粉末を充填剤として含む樹脂組成物の粘度特性と隙間浸透性との、両者の性能をさらに向上させることができる。
【0026】
<用途>
前記のような表面処理シリカ粉末の用途は特に限定されない。例えば、半導体封止材もしくは半導体実装接着剤の充填材、ダイアタッチフィルムもしくはダイアタッチペーストの充填材、または半導体パッケージ基板の絶縁膜等の樹脂組成物の充填材として使用できる。特に、本発明で得られる表面処理シリカ粉末は、高密度実装用樹脂組成物の充填材として好適に用いることができる。
さらに本発明で得られる表面処理シリカ粉末は、CMP(Chemical Mechanical Polishing)研磨剤の砥粒、研削等に用いられる砥石用の砥粒、トナー外添剤、液晶シール材の添加剤、歯科充填材またはインクジェットコート剤等として使用することも可能である。
【実施例
【0027】
以下、本実施形態における実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
シリカ粉末及び表面処理シリカ粉末の各物性の測定・評価方法は以下の通りである。
【0028】
(1)E2/E1の測定方法
1)表面処理シリカ粉末を3質量%になるようエタノールに懸濁して得た総体積が30mLの懸濁液を遠沈管(アズワン製ビオラモ遠沈管II 50mL)に入れ、卓上超音波洗浄器(ブランソン製M2800-J、出力110W、発振周波数40kHz。超音波分散機の一例)で10分間分散して分散スラリー1を得る。
2)分散スラリー1が入った遠沈管を遠心分離機(アズワン製CN-1050)に5000rpm、30分間供したのち、上層に分離した上澄み液を除去し、遠沈管内に沈降ケーキを得る(固液分離)。
3)総体積が30mLになるよう前記2)の遠沈管にエタノールを加え、前記1)同様に10分間分散して分散スラリー2を得る。
4)上記2)~3)を合計3回繰り返し、3回目の2)で得られたケーキ1を室温下で1時間真空乾燥(アズワン製成形真空デシケーター MVD-100、アズワン製ドライ真空ポンプ)し、洗浄粉末を得た。
5)表面処理シリカ粉末と洗浄粉末のエポキシ基量をJIS K 7239の試験方法で測定し、それぞれのBET比表面積(後述する)からエポキシ基量E1(個/nm)とエポキシ基量E2(個/nm)を求めた。
6)前記E1とE2より、表面処理シリカ粉末の表面のエポキシ基量E1と洗浄粉末の表面のエポキシ基量E2との比(E2/E1)を求めた。
【0029】
(2)メタノール滴定法による疎水化度
容量200mlのビーカーに水50mlを秤取後、シリカ微粒子試料0.2gを投入した。これをマグネティックスターラーで攪拌しながら、ビュレットにてメタノールを滴下、投入したシリカ微粒子の全量がビーカー内の溶媒に濡れて懸濁した点を終点とする滴定を実施した。この際、メタノールが直接投入シリカ微粒子試料に接触しない様に、チューブで溶媒内へ導入した。そして、滴定終点におけるメタノール-水混合溶媒中のメタノールの体積%の値を疎水化度とした。
【0030】
(3)BET比表面積
柴田理化学社製比表面積測定装置SA-1000を用い、窒素吸着BET1点法によりBET比表面積S(m/g)を測定した。
【0031】
(4)レーザー回折散乱法による体積基準粒度分布
50mLのガラス瓶に表面処理シリカ粉末約0.1gを電子天秤ではかりとり、エタノールを約40ml加え、超音波ホモジナイザー(BRANSON製、Sonifier 250)を用いて、40W・10分の条件で分散させた後、表面処理シリカ粉末の平均粒子径(nm)及び変動係数をレーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製、LS 13 320)により測定した。ここで言う平均粒子径(nm)は体積基準累積50%径を意味する。得られた体積基準粒度分布から累積50%体積径D50と累積90体積%径D90を算出した。得られたD50とD90から、{(D90-D50)/D50}×100(V90)を求めた。
【0032】
(5)エポキシ樹脂を用いた表面処理シリカ粉末の分散性評価
表面処理シリカ粉末36gをビスフェノールF型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル製、YDF-8170C)17gとアミン硬化剤(日本化薬製、KARAHARD A-A)7gの混合物に加え、手練りした。手練りした樹脂組成物を自転公転式ミキサー(THINKY製、あわとり練太郎 AR-500)により予備混練した(混練:1000rpm、8分、脱泡:2000rpm、2分)。予備混練後の樹脂組成物を、25℃恒温水槽内にて保管後、三本ロール(アイメックス社製、BR-150HCV ロール径φ63.5)を用いて混練した。混練条件は、混練温度を25℃、ロール間距離を20μm、混練回数を8回として行った。得られた樹脂組成物を、真空ポンプ(佐藤真空製TSW-150)を用いて減圧下、30分間脱泡した。
前記混練樹脂組成物をレオメータ(Thermo Fisher Scientific社製、HAAKE MARS40)を用いてせん断速度1s-1で初期粘度(η)及び1日後の粘度(η)を測定した。なお、測定温度は25℃、使用センサーはC35/1(コーンプレート型 直径35mm、角度1°、材質チタン)とした。ここで、樹脂組成物は25℃で保管した。
樹脂組成物作製時の粘度(η)及び1日後の粘度(η)を用い、次式から粘度経時変化率を算出した。
粘度経時変化率[%]={(η-η)/η}×100
【0033】
(6)隙間浸透時のフローマークの有無
予め30μmのギャップになるように2枚のガラスを重ねて、110℃に加熱し、(5)で作製した混練樹脂組成物(作製時)の高温侵入性試験を行った。外観目視によるフローマークの有無を評価した。
【0034】
(7)シリカ粉末
表1に本実施例で使用したシリカ粉末A~Fの性状を示す。
【0035】
【表1】
【0036】
[実施例1]
シリカ粉末Aを容器に投入し、攪拌を開始した。その後、シリカ粉末A100質量部に対して2質量部のエポキシシランカップリング剤(信越シリコーン株式会社製 KBM-403)をぺリスタポンプ(ATTA製 SJ-1211 II-H)を用いて供給した。供給後はそのまま攪拌を継続し、15分間混合した。混合後、攪拌は継続したまま室温から40℃まで20分で昇温後、60分間40℃で維持した。その後、150℃まで60分で昇温後、150℃で180分間維持し、反応工程を終了した。反応工程終了後、150℃を保持したまま、真空ポンプで反応容器内を減圧し乾燥を行い、表面処理シリカ粉末を得た。表1に表面処理シリカ粉末の調製条件を、表2に表面処理シリカ粉末の物性を示す(以下同様)。
【0037】
【表2】
【0038】
[実施例2]
シリカ粉末Aの代わりに、シリカ粉末Bを用い、エポキシシランカップリング剤はKBM-403をシリカ粉末B100質量部に対して1.2質量部使用した以外は実施例1と同様に表面処理シリカ粉末を調製し、測定した。
【0039】
[実施例3]
シリカ粉末Cを容器に投入し、攪拌を開始した。その後、シリカ粉末C100質量部に対して0.1質量部のヘキサメチルジシラザン(信越シリコーン株式会社製SZ-31)とシリカ粉末C100質量部に対して1.0質量部のエポキシシランカップリング剤(信越シリコーン株式会社製 KBM-403)をペリスタポンプ(ATTA製 SJ-1211 II-H)を用いて供給した。供給後はそのまま攪拌を継続し、15分間混合した。混合後、攪拌は継続したまま室温から40℃まで20分で昇温後、60分間40℃で維持した。その後、150℃まで60分で昇温後、150℃で180分間維持し、反応工程を終了した。反応工程終了後は容器内を冷却し、真空ポンプで反応容器内を減圧し。1時間乾燥を行った。このとき反応容器内の温度は80℃であった。得られた表面処理シリカ粉末の物性を測定した。
【0040】
[実施例4]
シリカ粉末Aの代わりに、シリカ粉末Dを用い、エポキシシランカップリング剤はKBM-403をシリカ粉末D100質量部に対して0.4質量部使用した以外は実施例1と同様に表面処理シリカ粉末を調製し、測定した。
【0041】
[比較例1]
エポキシシランカップリング剤及びヘキサメチルジシラザンを加えなかったこと以外は実施例3と同様に表面処理シリカ粉末を調製し、測定した。
【0042】
[比較例2]
エポキシランカップリング剤を加えなかったこと以外は実施例3と同様に表面処理シリカ粉末を調製し、測定した。
【0043】
[比較例3]
ヘキサメチルジシラザンを加えなかったこと、加熱処理及び乾燥処理を行わなかったこと以外は実施例3と同様に表面処理シリカ粉末を調製し、測定した。
【0044】
[比較例4]
シリカ粉末Aの代わりに、シリカ粉末Eを使用した以外は実施例1と同様に表面処理シリカ粉末を調製し、測定した。
【0045】
[比較例5]
シリカ粉末Aの代わりに、シリカ粉末Fを使用した以外は実施例1と同様に表面処理シリカ粉末を調製し、測定した。
【0046】
化学結合していないシランカップリング剤が少ない実施例1~4の表面処理シリカ粉末は、樹脂組成物におけるエポキシ基を有さない比較例1~2、および化学結合していないシランカップリング剤を多く含む比較例3よりも、増粘指数、隙間浸透性ともに良好な結果であった。また、V90が100以上の比較例4~5の表面処理シリカ粉末は、隙間浸透性が低い結果であった。