(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】粘着フィルム
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20240724BHJP
C09J 133/06 20060101ALI20240724BHJP
C09J 133/14 20060101ALI20240724BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/06
C09J133/14
C09J11/06
(21)【出願番号】P 2023029503
(22)【出願日】2023-02-28
(62)【分割の表示】P 2021175532の分割
【原出願日】2012-02-13
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】長倉 毅
(72)【発明者】
【氏名】島口 龍介
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-079205(JP,A)
【文献】特開2009-155586(JP,A)
【文献】特開2011-154267(JP,A)
【文献】特開2010-066755(JP,A)
【文献】特開2010-180378(JP,A)
【文献】特開2009-046534(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0053519(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/38
C09J 133/06
C09J 133/14
C09J 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系ポリマーと、帯電防止剤と、架橋剤とを含有する粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層が、樹脂フィルムの片面または両面に形成してなる粘着フィルムであって、
前記アクリル系ポリマーが、(A)アルキル基の炭素数がC1~C14の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの少なくとも1種と、(B)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマーと、
(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーと、を含んで共重合させた
、酸価が30以下である(メタ)アクリル系ポリマーであり、
前記帯電防止剤が、融点が30℃以上かつ80℃以下の温度30℃で固体であるイオン性化合物(但し、アルカリ金属塩ではない)であり、
前記イオン性化合物が、カチオンとアニオンを有するイオン性化合物であって、
前記カチオンが、ピリジニウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、スルホニウムカチオンからなる群から選択した1種であり、
前記アニオンが、六フッ化リン酸塩(PF
6
-)、チオシアン酸塩(SCN
-)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(RC
6H
4SO
3
-)、過塩素酸塩(ClO
4
-)、四フッ化ホウ酸塩(BF
4
-)からなる群から選択した1種であり、
前記架橋剤が、2官能または3官能以上のイソシアネート化合物であり、
前記(B)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマーが
、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート
からなる化合物群から選択された1種以上であることを特徴とする粘着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性能を有する粘着剤組成物、及びその粘着剤組成物を用いて、樹脂フィルムの少なくとも片面に帯電防止性能を有する粘着剤層を形成した粘着フィルム、及び表面保護フィルムを提供することに関する。本発明に係わる粘着フィルム及び表面保護フィルムは、特に優れた帯電防止性能を有している。このため、静電気が発生し易いプラスチックフィルムが構成部材として使用されている偏光板、位相差板、反射防止フィルム等の、光学フィルムの表面を保護する目的で使用される。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶ディスプレイを構成する部材である偏光板、位相差板、反射防止フィルムなどの、光学フィルムの製造工程においては、光学フィルムの表面を一時的に保護するための表面保護フィルムが貼着される。このような表面保護フィルムは、光学フィルムを製造する工程のみに使用され、光学フィルムを液晶ディスプレイに組み込む時点で、光学フィルムから剥離して除去される。このような光学フィルムの表面を保護するための表面保護フィルムは、製造工程においてのみに使用されるため、一般には、工程フィルムと呼ばれることもある。
【0003】
このように、光学フィルムを製造する工程において使用される表面保護フィルムは、光学的に透明性を有するポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルムの片面に粘着剤層が形成されている。表面保護フィルムが、光学フィルムに貼り合わせるまで、その粘着剤層を保護するための剥離処理された剥離フィルムが、粘着剤層の上に貼り合わされている。
また、偏光板、位相差板、反射防止フィルムなどの光学フィルムは、表面保護フィルムを貼り合わされた状態で、液晶表示板の表示能力、色相、コントラスト、異物混入などの光学的評価を伴う製品検査を行うため、表面保護フィルムに対する要求性能としては、粘着剤層に気泡や異物が付着していないことが求められている。
また、近年では、偏光板、位相差板、反射防止フィルムなどの光学フィルムから表面保護フィルムを剥がすときに、粘着剤層を被着体が剥がす時に発生する静電気に伴って生じる剥離帯電が、液晶ディスプレイの電気制御回路の故障に影響することが懸念されるため、粘着剤層に対して優れた帯電防止性能が求められている。
また、偏光板、位相差板、反射防止フィルムなどの光学フィルムを、金属性の被着体、例えば、ベゼルなどに貼り合わせても腐食が起こらない、耐腐食性を有する粘着剤組成物が求められている。
また、最終的に偏光板、位相差板、反射防止フィルムなどの光学フィルムから表面保護フィルムを剥がすときには、被着体を汚染しないこと、いわゆる糊残りが起こらないことが求められている。
【0004】
このように、近年においては、表面保護フィルムを構成する粘着剤層に対する要求性能として、(1)優れた帯電防止性能、(2)耐腐食性、(3)糊残りの発生防止などが、表面保護フィルムを使用するに当たっての使い易さの点から求められている。
しかし、表面保護フィルムを構成する粘着剤層に対する要求性能である、これら(1)~(3)のそれぞれ、個々の要求性能を満たすことは出来ても、表面保護フィルムの粘着剤層に求められる(1)~(3)の全ての要求性能を、同時に満たすことは非常に困難な課題であった。
【0005】
例えば、優れた帯電防止性能については、表面保護フィルムに帯電防止性能を付与させための方法として、基材フィルムに帯電防止剤を練り込む方法などが示されている。帯電防止剤としては、例えば、(a)第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、第1~3級アミノ基などのカチオン性基を有する各種のカチオン性帯電防止剤、(b)スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基、ホスホン酸塩基などのアニオン性基を有するアニオン性帯電防止剤、(c)アミノ酸系、アミノ硫酸エステル系などの両性帯電防止剤、(d)アミノアルコール系、グリセリン系、ポリエチレングリコール系などのノニオン性帯電防止剤、(e)上記の様な帯電防止剤を高分子量化した高分子型帯電防止剤、などが開示されている(特許文献1)。
また、近年では、このような帯電防止剤を基材フィルムに含有させたり、あるいは基材フィルムの表面に塗布するのではなく、直接に粘着剤層に含有させたりすることが提案されている。
【0006】
また、従来の帯電防止剤としてアルカリ金属塩を用いたものは、例えば、特許文献2において、(メタ)アクリル系ポリマーにイオン性物質として、過塩素酸のアルカリ金属塩、過塩素酸のアルカリ土類金属塩、有機ホウ素錯体のアルカリ金属塩、および有機ホウ素錯体のアルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる1種を用いることが開示されている。しかし、アルカリ金属塩からなる帯電防止剤を含む粘着剤組成物は、金属腐食性を有するため、被着体が金属である場合には、腐食が生じるという問題があった。このため、優れた帯電防止性能と同時に、耐腐食性を有する粘着剤組成物が求められている。
【0007】
また、糊残りの発生防止については、例えば、アクリル樹脂中に、イソシアネート系化合物の硬化剤と、特定のシリケートオリゴマーをアクリル系樹脂100重量部に対して0.0001~10重量部で配合した粘着剤組成物が提案されている(特許文献3)。
特許文献3では、アルキル基の炭素数2~12程度のアクリル酸アルキルエステルやアルキル基の炭素数4~12程度のメタクリル酸アルキルエステル等を主モノマー成分とし、例えば、カルボキシル基含有モノマーなどの他の官能基含有モノマー成分を含むことができるとしている。一般的には上記主モノマーを50重量%以上含有させることが好ましい、又、官能基含有モノマー成分の含有量は0.001~50重量%、好ましくは0.001~25重量%、更に好ましくは0.01~25重量%であることが望まれる、としている。このような特許文献3に記載の粘着剤組成物は、高温下又は高温高湿下でも凝集力及び接着力の経時変化が小さく、かつ、曲面接着力にも優れた効果を示し、また、粘着剤の発泡や剥離を起こさないとしている。
一般に、粘着剤層を柔らかい性状のものにすると、糊残りが発生し易くなる。すなわち、誤って貼合したときに剥離が難しく、貼り直しが困難となりやすい。このことから、カルボキシル基などの官能基を有するモノマーを主剤に架橋させて、粘着剤層を一定の硬さにすることが、糊残リの発生防止には必要と考えられる。
【0008】
また、糊残りの発生防止については、次のような提案が知られている。炭素数が7以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとカルボキシル基含有共重合性化合物との共重合体を主成分とし、これを架橋剤で架橋処理してなるアクリル系の粘着剤層では、長期間接着した場合に粘着剤が被着体側へ移着し、また被着体に対する接着力の経時上昇性が大きいという問題があった。これを回避するため、炭素数8~10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとアルコ―ル性水酸基を有する共重合性化合物との共重合体を用い、これを架橋剤で架橋処理した粘着剤層を設けたものが知られている(特許文献4)。
また、上記と同様の共重合体に(メタ)アクリル酸アルキルエステルとカルボキシル基含有共重合性化合物との共重合体を少量配合し、これを架橋剤で架橋処理した粘着剤層を設けたものなどが提案されている。しかし、これらは、表面張力が低くて表面が平滑なプラスチック板などの表面保護に使用すると、加工時や保存時の加熱により浮きなどの剥離現象を生じる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平11-070629号公報
【文献】特開2006-199873号公報
【文献】特開平8-199130号公報
【文献】特開昭63-225677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の帯電防止性能を有する粘着剤組成物は、優れた帯電防止性能が求められる用途において、帯電防止剤としてアルカリ金属塩が用いられてきた。しかし、アルカリ金属塩を用いると、被着体が金属の場合には腐食が生じることが問題であった。さらには、従来の表面保護フィルムは、被着体に対する汚染性を有していることから、表面保護フィルムに使用される粘着剤層に求められる要求性能を満たすことはできなかった。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、優れた帯電防止性能を備え、さらには、耐腐食性を有し、汚染性が低い粘着剤組成物、それを用いた粘着フィルム及び表面保護フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明における粘着剤組成物は、融点が30℃以上のイオン性化合物を含むことで、耐腐食性を有し、優れた帯電防止性能を得ることを技術思想としている。さらに、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを含むことで、糊残りが少なく、汚染性が低い粘着剤組成物を得ることができる。このような粘着剤組成物を用いることにより、優れた帯電防止性能を備え、さらには、耐腐食性を有し、汚染性が低い粘着剤組成物、それを用いた粘着フィルム及び表面保護フィルムを提供することができる。
【0013】
前記課題を解決するため、本発明は、アクリル系ポリマーと、帯電防止剤と、架橋剤とを含有する粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層が、樹脂フィルムの片面に形成してなる光学フィルム用表面保護フィルムであって、前記アクリル系ポリマーが、(A)アルキル基の炭素数がC1~C14の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの少なくとも1種以上と、(B)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマーの少なくとも1種以上と、をカルボキシル基を有する共重合可能なモノマーを含有させないで共重合させた(メタ)アクリル系ポリマーであり、前記アクリル系ポリマーの酸価が0.0であり、前記帯電防止剤が、融点が30℃超かつ80℃以下の温度30℃で固体であり、カチオンとアニオンを有するイオン性化合物であって、アルカリ金属塩でなく、前記カチオンがピリジニウムカチオンであり、前記(B)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマーが、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドからなる化合物群から選択された1種以上であり、前記粘着剤組成物が、さらに、前記架橋剤として、2官能または3官能以上のイソシアネート化合物を含有してなり、前記粘着剤層のゲル分率が、95~100%であり、前記粘着剤層の表面抵抗値が、5.0×10+10Ω/□以下であり、前記光学フィルム用表面保護フィルムが、光学フィルムの製造工程において、前記光学フィルムの表面を一時的に保護するための表面保護フィルムであり、前記光学フィルムを液晶ディスプレイに組み込む時点で、前記表面保護フィルムが前記光学フィルムから剥離して除去されることを特徴とする光学フィルム用表面保護フィルムを提供する。
【0014】
また、本発明は、前記光学フィルム用表面保護フィルムが貼合された光学フィルムであって、前記光学フィルムを液晶ディスプレイに組み込む時点で、前記表面保護フィルムが前記光学フィルムから剥離して除去されることを特徴とする光学フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた帯電防止性能を備え、さらには、被着体に対する耐腐食性を有し、汚染性の低い粘着剤組成物、それを用いてなる粘着フィルム及び表面保護フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、好適な実施の形態に基づいて本発明を説明する。
本発明の粘着剤組成物は、アルキル基の炭素数がC1~C14の(メタ)アクリル酸エステルモノマーを主成分とする、(メタ)アクリル系ポリマーを含む粘着剤組成物において、融点が30℃以上のイオン性化合物を含むことを特徴とする。
また、本発明の粘着剤組成物は、アルキル基の炭素数が、C1~C14の(メタ)アクリル酸エステルモノマーを主成分とする(メタ)アクリル系ポリマーを含む粘着剤組成物において、(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が30以下であり、融点が30℃以上のイオン性化合物を含むことを特徴とする。
【0017】
アルキル基の炭素数がC1~C14の(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートモノマーのアルキル基は、直鎖、分枝状、環状のいずれでもよい。アルキル基の炭素数がC1~C14の(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、(メタ)アクリル系ポリマーに対する重量比が、50~100%であることが好ましい。
【0018】
(メタ)アクリル系ポリマーは、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを含むことが好ましい。ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマーとしては、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類や、N-ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等の水酸基含有(メタ)アクリルアミド類などが挙げられる。
【0019】
(メタ)アクリル系ポリマーは、カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーを含むことができる。カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
さらに、(メタ)アクリル系ポリマーは、上記以外の共重合性ビニルモノマーを含むことができる。他の共重合性ビニルモノマーとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステル類のほか、スチレン、アクリルアミド、アクリロニトリル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、酢酸ビニル、塩化ビニルなどの各種ビニルモノマーが挙げられる。
ただし、カルボキシル基を含有するモノマー等の、酸性を示すモノマー(以下、酸性モノマーと呼ぶ)は、過度に添加されるとその酸により腐食性が大きくなるおそれがある。このため、(メタ)アクリル系ポリマーの酸価が、30以下であることが好ましい。
ここで、「酸価」とは、酸の含有量を表す指標の一つであり、酸性成分を有しているポリマー1gを中和するのに要する、水酸化カリウムのmg数で表される。
【0020】
本発明の粘着剤組成物は、帯電防止性能を付与するため、帯電防止剤を含有することが好ましい。帯電防止剤は、常温(例えば30℃)で固体であることが好ましく、より具体的には、融点が30℃以上のイオン性化合物である。このような帯電防止剤は、アルカリ金属塩に比べると融点が低いため、また、長鎖のアルキル基を有するため、アクリル共重合体との親和性は高いと推測される。
【0021】
融点が30℃以上のイオン性化合物としては、カチオンとアニオンを有するイオン性化合物であって、カチオンが、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、アンモニウムカチオン等の含窒素オニウムカチオンや、ホスホニウムカチオン、スルホニウムカチオン等であり、アニオンが、六フッ化リン酸塩(PF6
-)、チオシアン酸塩(SCN-)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(RC6H4SO3
-)、過塩素酸塩(ClO4
-)、四フッ化ホウ酸塩(BF4
-)等の無機もしくは有機アニオンである化合物が挙げられる。アルキル基の鎖長や置換基の位置、個数等の選択により、融点が30℃以上のものを得ることができる。カチオンは、好ましくは4級含窒素オニウムカチオンであり、1-アルキルピリジニウム(2~6位の炭素原子は置換基を有しても無置換でもよい。)等の4級ピリジニウムカチオン、や1,3-ジアルキルイミダゾリウム(2,4,5位の炭素原子は置換基を有しても無置換でもよい。)等の4級イミダゾリウムカチオン、テトラアルキルアンモニウム等の4級アンモニウムカチオン等が挙げられる。イオン性化合物の融点は、30~80℃が好ましい。カチオンが有してもよい置換基としては、アルキル基、アリール基などが挙げられる。前記イオン性化合物は、アルカリ金属塩ではないため、従来のアルカリ金属塩における金属腐食性を有するという問題を解決することができる。
【0022】
本発明の粘着剤組成物に用いられる主剤の(メタ)アクリル系ポリマーは、アルキル基の炭素数がC1~C14の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの1種または2種以上を主成分とし、必要に応じて他のモノマーを添加して、重合させることで合成することができる。(メタ)アクリル系ポリマーの重合方法は特に限定されるものではなく、溶液重合、乳化重合等、適宜の重合方法が使用可能である。
【0023】
本発明の粘着剤組成物は、粘着剤層を形成する際に粘着剤ポリマーを架橋することが好ましい。架橋反応をさせるための方法としては、粘着剤組成物が既知の架橋剤を含んでも良く、紫外線(UV)など光架橋で架橋しても良い。架橋剤としては、2官能または3官能以上のイソシアネート化合物、2官能または3官能以上のエポキシ化合物、2官能または3官能以上のアクリレート化合物、金属キレート化合物などが挙げられる。
さらにその他成分としてシランカップリング剤、酸化防止剤、界面活性剤、架橋促進剤、可塑剤、充填剤、硬化促進剤、硬化遅延剤、加工助剤、老化防止剤などの公知の添加剤を適宜に配合することができる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0024】
前記粘着剤組成物を架橋させてなる粘着剤層の表面抵抗値は、5.0×10+10Ω/□以下であることが好ましい。また、該粘着剤層の剥離帯電圧は、±0~1kVであることが好ましい。なお、本発明において、「±0~1kV」とは、0~-1kV及び0~+1kV、すなわち、-1~+1kVを意味する。表面抵抗値が大きいと剥離時に帯電で発生した静電気を逃がす性能に劣るため、表面抵抗値を十分に小さくすることにより、粘着剤層を被着体が剥がす時に発生する静電気に伴って生じる剥離帯電圧が低減され、被着体の電気制御回路等に影響することを抑制することができる。
【0025】
本発明の粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層(架橋後の粘着剤)のゲル分率は、95~100%であることが好ましい。このようにゲル分率が高いことにより、低速度剥離領域における粘着力が過大にならず、共重合体からの未重合モノマーあるいはオリゴマーの溶出が低減して、汚染防止性や高温・高湿度における耐久性が改善され、被着体の汚染を抑制することができる。
【0026】
本発明の粘着フィルムは、本発明の粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層が、樹脂フィルムの片面または両面に形成してなる粘着フィルムである。また、本発明の表面保護フィルムは、本発明の粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層が、樹脂フィルムの片面に形成してなる表面保護フィルムである。本発明の粘着剤組成物は、優れた帯電防止性能を備え、さらには、被着体に対する耐腐食性を有し、汚染性が低いため、本発明の表面保護フィルムを被着体に貼り合わせ、粘着剤層を介して表面保護フィルムの上をボールペンでなぞった後に、被着体から剥がしても、被着体に汚染移行が無い。このため、偏光板の表面保護フィルムの用途として好適に使用することができる。
【0027】
粘着剤層の基材フィルムや、粘着面を保護する剥離フィルム(セパレーター)としては、ポリエステルフィルムなどの樹脂フィルム等を用いることができる。
基材フィルムには、樹脂フィルムの粘着剤層が形成された側とは反対面に、シリコーン系、フッ素系の離型剤やコート剤、シリカ微粒子等による汚染防止処理、帯電防止剤の塗布や練り込み等による帯電防止処理を施すことができる。
剥離フィルムには、粘着剤層の粘着面と合わされる側の面に、シリコーン系、フッ素系の離型剤などにより離型処理が施される。
偏光板用の表面保護フィルムなどの光学用の表面保護フィルムの場合は、基材フィルム及び粘着剤層は、十分な透明性を有することが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0029】
<粘着剤組成物の製造>
[実施例1]
撹拌機、温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを導入して、反応装置内の空気を窒素ガスで置換した。その後、反応装置に2-エチルヘキシルアクリレート100重量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート5.0重量部とともに溶剤(酢酸エチル)を100重量部加えた。その後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部を2時間かけて滴下させ、65℃で8時間反応させ、アクリル共重合体溶液を得た。アクリル共重合体の一部を採取し、後述する酸価の測定試料として用いた。
このアクリル共重合体溶液に対して、1-オクチルピリジニウム 六フッ化リン酸塩1.5重量部、コロネートHX(ヘキサメチレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体)1.5重量部、ジオクチル錫ジラウレート0.02重量部を加えて撹拌混合して、実施例1の粘着剤組成物を得た。
[実施例2~4及び比較例1~3]
モノマー及び添加剤の組成を各々、表1の記載のようにする以外は、上記の実施例1の粘着剤組成物と同様にして、実施例2~4及び比較例1~3の粘着剤組成物を得た。
ここで、(A)アクリルモノマー、(B)水酸基モノマー、(C)酸性モノマーは、アクリル共重合体溶液の重合前に反応装置に加え、(D)イソシアネート(NCO)架橋剤、(E)架橋促進剤、(F)帯電防止剤は、添加剤として、重合後のアクリル共重合体溶液に加えた。
【0030】
表1において、各成分の配合比は、(A)群の合計を100重量部として求めた重量部の数値を括弧で囲んで示す。また、表1に用いた各成分の略記号の化合物名を、表2に示す。なお、コロネート(登録商標)HX、同HL及び同L-45は日本ポリウレタン工業株式会社の商品名であり、タケネート(登録商標)D-140Nは三井化学株式会社の商品名である。表2のイソシアネート(NCO)架橋剤の化合物名において、HDI、IPDI、TMPは、それぞれヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリメチロールプロパンを意味する。
【0031】
【0032】
【0033】
<表面保護フィルムの製造>
実施例1の粘着剤組成物を、シリコーン樹脂コートされたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる剥離フィルムの上に塗布後、90℃で乾燥することによって溶剤を除去し、粘着剤層の厚さが25μmである粘着シートを得た。その後、一方の面に帯電防止及び汚染防止処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの帯電防止及び汚染防止処理された面とは反対の面に粘着シートを転写させ、「帯電防止及び汚染防止処理されたPETフィルム/粘着剤層/剥離フィルム(シリコーン樹脂コートされたPETフィルム)」の積層構成を有する実施例1の表面保護フィルムを得た。
[実施例2~4及び比較例1~3]
実施例1の粘着剤組成物に代えて、それぞれ実施例2~4及び比較例1~3の粘着剤組成物を用いるほかは、上記の実施例1の表面保護フィルムと同様にして、実施例2~4及び比較例1~3の表面保護フィルムを得た。
【0034】
<試験方法及び評価>
実施例1~4及び比較例1~3における表面保護フィルムを23℃、50%RHの雰囲気下で7日間エージングした後、剥離フィルム(シリコーン樹脂コートされたPETフィルム)を剥がして、粘着剤層を表出させたものを、アルミ箔上に貼り合わせた後、60℃、90%RHの高温高湿の雰囲気下で48時間放置した後、腐食性の測定試料とした。
さらに、この粘着剤層を表出させた表面保護フィルムを、粘着剤層を介して液晶セルに貼られた偏光板の表面に貼り合わせ、1日放置した後、50℃、5気圧、20分間オートクレーブ処理し、室温でさらに12時間放置したものを、粘着力、剥離帯電圧の測定試料とした。
【0035】
<酸価の測定方法>
アクリル共重合体の酸価は、試料を溶剤(ジエチルエーテルとエタノールを体積比2:1で混合したもの)に溶かし、電位差自動滴定装置(京都電子工業製、AT-610)を用いて、0.1上記電位差滴定装置を用い、濃度が約0.1mol/lの水酸化カリウムエタノール溶液で電位差滴定を行い、試料を中和するために必要な水酸化カリウムエタノール溶液の量を測定した。そして、下記式より、酸価を求めた。
酸価=(B×f×5.611)/S
B=滴定に用いた0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)
f=0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液のファクター
S=試料の固形分の質量(g)
【0036】
<粘着力の測定>
上記で得られた測定試料(25mm幅の表面保護フィルムを偏光板の表面に貼り合わせたもの)を、180°方向に引張試験機を用いて、引張速度30m/minにおいて剥がして測定した剥離強度(N/25mm)を粘着力とした。
【0037】
<剥離帯電圧の測定方法>
上記で得られた測定試料を、30m/minの引張速度で180°剥離した際に、偏光板が帯電して発生する電圧(帯電圧)を、高精度静電気センサSK-035、SK-200(株式会社キーエンス製)を用いて測定し、測定値の最大値を剥離帯電圧(kV)とした。
【0038】
<腐食性の評価方法>
試料をアルミ箔上に貼り合わせた後、60℃×90%RHの高温高湿条件下に48hr放置した。その後、試料をアルミ箔から剥がし、アルミ箔表面を目視にて確認し、下記の基準で評価した。
○:アルミ箔表面に変色が確認されなかった。
△:アルミ箔表面に一部変色が確認された。
×:アルミ箔表面に変色が確認された。
【0039】
<汚染性の評価方法>
上記で得られた測定試料の表面保護フィルムの上を、ボールペンで(荷重500g、3往復)なぞった後、70℃×24hr放置した。偏光板から表面保護フィルムを剥離して偏光板の表面を観察し、偏光板に汚染移行の無いことを確認し、下記の基準で評価した。
○:偏光板に汚染移行が無かった。
△:ボールペンでなぞった軌跡に沿って、少なくとも一部に汚染移行が確認された。
×:ボールペンでなぞった軌跡に沿って、汚染移行が確認され、粘着剤表面からも粘着剤の離脱が確認された。
【0040】
【0041】
試験及び評価の結果を、表3に示す。
融点が30℃以上のイオン性化合物を帯電防止剤とした実施例1~4では、帯電防止性能が優れ、さらに、被着体に対する耐腐食性を有し、汚染性も低いものとなった。
帯電防止剤に過塩素酸リチウム塩を用いた比較例1では、腐食性が大きく、汚染性もやや高いものとなった。
帯電防止剤にビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム塩を用い、粘着剤のアクリル系ポリマーの酸価が高い比較例2では、剥離帯電圧が高くて帯電防止性能が劣り、汚染性が高く、腐食性もやや大きいものとなった。
帯電防止剤にトリフルオロメタンスルホン酸リチウム塩を用いた比較例3では、腐食性がやや大きく、汚染性がやや高いものとなった。
このように、比較例1~3の表面保護フィルムでは、(1)優れた帯電防止性能、(2)耐腐食性、(3)糊残りの発生防止を、同時に満たすことができなかった。