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特許7526396パーティクルボンバードメント法において用いられる、細胞内へ導入される物質で被覆された微粒子が担持された担体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】パーティクルボンバードメント法において用いられる、細胞内へ導入される物質で被覆された微粒子が担持された担体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/87 20060101AFI20240725BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C12N15/87 Z
C12N15/09 110
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020029814
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021132547
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-10-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援プログラム A-STEP、産学共同フェーズ シーズ育成タイプFS、受託研究 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503335179
【氏名又は名称】株式会社ファスマック
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】皆川 吉
(72)【発明者】
【氏名】栗原 陽子
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】Nat. Commun.,2017年,Vol. 8: 14261,p. 1-5
【文献】Nat. Protoc.,2018年,Vol. 13,p. 413-430
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーティクルボンバードメント法において用いられる、物質で被覆された微粒子が担持された担体を、製造する方法であって、
前記物質は、パーティクルボンバードメント法によって細胞に導入される、ペプチドとヌクレオチドとの複合体であり、
(1)前記ペプチド及び前記ヌクレオチドを、無機塩及び/又は糖を含有する中性緩衝液に溶解させる工程、
(2)工程(1)にて得られた溶解液から、緩衝液交換により、前記無機塩及び前記糖を除去する工程、
(3)工程(2)にて得られた溶解液と微粒子とを混合する工程、
(4)工程(3)にて得られた混合液を、担体の表面上に塗布する工程、及び
(5)工程(4)にて前記混合液が塗布された担体を、脱気乾燥法により乾燥させる工程を含み、
前記無機塩が、ナトリウム塩、カリウム塩又はアンモニウム塩であり、
前記糖が、スクロース、マルトース又はトレハロースであり、
前記ペプチドがCas9タンパク質であり、かつ、前記ヌクレオチドがガイドRNAである、方法
【請求項2】
前記中性緩衝液が、pH7~8のTris緩衝液又はpH7~8のHEPES緩衝液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
パーティクルボンバードメント法により細胞に物質を導入する方法であって、
請求項1又は2に記載の方法により、前記物質で被覆された微粒子が担持された担体を製造する工程、及び
前記工程にて製造された担体に圧力を加えることにより、当該担体から放出された前記微粒子が、前記細胞に撃ち込まれる工程を含む、方法。
【請求項4】
下記(A)~(F)に記載の物質からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の方法において用いられるためのキット
(A)前記ペプチド及び前記ヌクレオチド
(B)前記無機塩及び/又は糖を含有する中性緩衝液
(C)前記緩衝液交換のために用いられる、限外ろ過膜、透析膜又はクロマトグラフィーの固定化相
(D)前記工程(1)にて得られた溶解液と前記緩衝液交換を行なうために用いられる、溶液
(E)前記微粒子
(F)前記混合液が塗布される、担体
(但し、前記無機塩は、ナトリウム塩、カリウム塩又はアンモニウム塩であり、前記糖は、スクロース、マルトース又はトレハロースであり、前記ペプチドはCas9タンパク質であり、かつ、前記ヌクレオチドはガイドRNAである)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーティクルボンバードメント法において用いられる、細胞内へ導入される物質で被覆された微粒子が担持された担体の製造方法に関する。また本発明は、当該担体、及び当該担体を用いたパーティクルボンバードメント法による細胞内への物質導入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヌクレオチド、ペプチド等の物質を、細胞内に導入することは、基礎研究のみならず、様々な産業用途においても非常に意義のあることである。しかしながら、これら物質の活性を維持させなから、細胞内に導入することは困難である。特に、植物は固い細胞壁を持ち、動物等に比べ、外部から物質を導入することが非常に困難となる。
【0003】
植物細胞へ物質を導入する方法として、化学的方法(ポリエチレングリコール法)、物理的方法(エレクトロポレーション法、パーティクルボンバードメント法)等がある。このうち、パーティクルボンバードメント法は、金やタングステン等からなる微粒子にDNAやタンパク質等をコーティングしたものを弾丸として、高速で射出して細胞内に導入する方法である。この方法は、簡便で広範な植物に適用可能なことから、多くの組織・細胞、植物細胞への物質導入方法として、一般的に使用されている(非特許文献1~3、及び特許文献1)。しかも、この方法は、特に固い細胞壁を持つ成熟花粉等に有効であることが、様々な被子植物で報告されている(非特許文献4)。
【0004】
また、パーティクルボンバードメント法は、近年のゲノム編集技術の到来により、植物の形質転換が容易に行なえる技術として注目されている。例えば、ゲノム編集を目的としてCas9タンパク質とガイドRNAの複合体をパーティクルボンバードメント法により導入する場合、Cas9タンパク質とガイドRNAとを、Cas9反応バッファー(20mM HEPES、pH7.5、150mM KCl、10mM MgCl、0.5mM DTT)中にて混合し、次いで金微粒子を混合することにより、当該微粒子を前記複合体にて被覆し、さらに、当該混合液を担体(キャリア)に塗布し、風乾させることによって、前記微粒子を担体に担持させる方法が開示されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2014/96284号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】J Finer,J.ら、Curr Top Microbiol Immunol.、1999年、240巻、59~80ページ
【文献】Martin-Ortigosa S.ら、Transgenic Res.2014年、23巻、5号、743~756ページ
【文献】Liang Z.ら、Nat Commun.、2017年、8:14261
【文献】Schreiber,D.N.ら、Plant Molecular Biology Reporter、2003年、1巻、31~41ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、パーティクルボンバードメント法において用いられる、細胞内への導入物質(ヌクレオチド‐ペプチド複合体)がその活性を維持したまま微粒子を覆っており、かつ当該微粒子が安定的に担持されている担体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のとおり、パーティクルボンバードメント法は、一般的に細胞、組織へのDNA導入技術として広く知られている。特に、近年のゲノム編集技術の到来により、植物へ形質転換が容易に行なえる技術として注目されている。
【0009】
しかしながら、かかる従来の方法(非特許文献3に記載の方法)にて、ゲノム編集系であるCas9タンパク質とガイドRNAとの複合体で被覆された微粒子が担持された担体を調製すると、後述の参考例3及び4に示すとおり、担体の乾燥工程において、無機塩(KCl)が析出してしまい、担体の表面に担持された前記微粒子層が脆くなることを、本発明者らは初めて見出した。さらに、当該析出物は100μm以上のものが多く存在し、また析出物以外の部分は金粒子が不均一に、担体表面に存在していた。通常、細胞の大きさは100μm以下のため、析出物による細胞への物質の導入は不可能であるばかりか、その衝撃によりダメージとなり得ることが推定される。一方、前記Cas9反応バッファーから無機塩を除いてしまうと、Cas9タンパク質やガイドRNA等の物質の溶解が困難となり、また当該物質の活性が低下してしまうことが懸念される。
【0010】
さらに、後述の参考例3に示すとおり、本発明者らは、風乾による乾燥ではCas9タンパク質‐ガイドRNA複合体の活性が低下することも見出した。
【0011】
そこで、上記のとおり初めて明らかにした従来技術における問題点を解消すべく、すなわち、Cas9タンパク質‐ガイドRNA複合体等のヌクレオチド‐ペプチド複合体がその活性を維持したまま微粒子を覆っており、かつ当該微粒子が安定的に担持されている担体を製造すべく、本発明者らは鋭意研究を重ねた。その結果、前記ヌクレオチド及びペプチドを一旦、無機塩及び/又は糖を含む中性緩衝液に溶解させた上で、前記析出に大きく影響を与える無機塩及び糖の含量を最小化させることを、先ず着想した。
【0012】
そして実際に、Cas9タンパク質‐ガイドRNA複合体を含む前記溶解液から、緩衝液交換によって、前記無機塩及び前記糖を除去した結果、当該複合体の活性は、維持されていることを明らかにした。さらに、後述の参考例3に示すとおり、風乾や凍結乾燥法による乾燥では、Cas9タンパク質‐ガイドRNA複合体の活性の維持や担体の安定性において問題があるものの、脱気乾燥ではこれら問題が解消されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、パーティクルボンバードメント法において用いられる、細胞内へ導入される物質で被覆された微粒子が担持された担体の製造方法に関し、より詳しくは、以下に記載の方法等を提供する。
<1> パーティクルボンバードメント法において用いられる、物質で被覆された微粒子が担持された担体を、製造する方法であって、
前記物質は、パーティクルボンバードメント法によって細胞に導入される、ペプチドとヌクレオチドとの複合体であり、下記工程(1)~(5)を含む方法
(1)前記ペプチド及び前記ヌクレオチドを、無機塩及び/又は糖を含有する中性緩衝液に溶解させる工程、
(2)工程(1)にて得られた溶解液から、緩衝液交換により、前記無機塩及び前記糖を除去する工程、
(3)工程(2)にて得られた溶解液と微粒子とを混合する工程、
(4)工程(3)にて得られた混合液を、担体の表面上に塗布する工程、
(5)工程(4)にて前記混合液が塗布された担体を、脱気乾燥法により乾燥させる工程。
<2> 前記無機塩がカリウム塩であり、前記糖がスクロースである、<1>に記載の方法。
<3> 前記中性緩衝液が、pH7~8のTris緩衝液又はpH7~8のHEPES緩衝液である、<1>又は<2>に記載の方法。
<4> 前記ペプチドがCas9タンパク質であり、前記ヌクレオチドがガイドRNAである、<1>~<3>のうちのいずれか一項に記載の方法。
<5> パーティクルボンバードメント法において用いられる、物質で被覆された微粒子が担持された担体であって、
前記物質は、パーティクルボンバードメント法によって細胞に導入される、ペプチドとヌクレオチドとの複合体であり、かつ、
前記微粒子が担持された表面において、中心から10mm以内の領域における析出物が100μm未満である、担体。
<6> <1>~<4>のうちのいずれか一項に記載の方法によって製造される、物質で被覆された微粒子を担持した担体。
<7> パーティクルボンバードメント法により細胞に物質を導入する方法であって、
<5>又は<6>に記載の担体に圧力を加えることにより、当該担体から放出された前記微粒子が、前記細胞に撃ち込まれる工程を含む、方法。
<8> 下記(A)~(F)に記載の物質からなる群から選択される少なくとも1種を含む、<1>~<4>のうちのいずれか一項に記載の方法において用いられるためのキット
(A)前記ペプチド及び前記ヌクレオチド
(B)前記無機塩及び/又は糖を含有する中性緩衝液
(C)前記緩衝液交換のために用いられる、限外ろ過膜、透析膜又はクロマトグラフィーの固定化相
(D)前記工程(1)にて得られた溶解液と前記緩衝液交換を行なうために用いられる、溶液
(E)前記微粒子
(F)前記混合液が塗布される、担体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、パーティクルボンバードメント法において用いられる、細胞内へ導入される物質(ヌクレオチド‐ペプチド複合体)がその活性を維持したまま微粒子を覆っており、かつ当該微粒子が安定的に担持されている担体の製造方法を提供することが可能となる。さらに、前記微粒子を安定的に担持できるため、輸送や保存等も可能となる前記担体の製造及び提供が可能となる。また、前記担体表面に塩が析出することが低減され、当該析出物による損傷を抑えつつ、前記複合体を細胞内に導入し、機能させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】本発明のパーティクルボンバードメント法(物質を細胞に撃ち込む前)の概要を示す図である。
図1B】本発明のパーティクルボンバードメント法(物質を細胞に撃ち込む時)の概要を示す図である。
図2】参考例2に示す条件1~6にて調製したCas9タンパク質又はCas9タンパク質‐ガイドRNA複合体について切断活性を評価した結果を示す図である。図中、上部は、SYBR safeによって染色することにより、template DNAの切断状況を検出した結果を示すゲル電気泳道写真であり、三角はCas9タンパク質によって切断されたtemplate DNAの位置を示し、数字(%)は切断率を示す。下部は、CBB染色によってCas9タンパク質を検出した結果を示すSDS-PAGEの写真である。また、各写真における「M」はDNA又はタンパク質のマーカーを泳動した結果を示す。
図3】参考例3に示す条件1~4にて調製したCas9タンパク質‐ガイドRNA複合体について切断活性を評価した結果を示す図である(図中の表記等については、図2のそれらと同様である)。
図4】参考例3に示す条件1を用いて作製した、パーティクルボンバードメント法におけるCas9タンパク質‐ガイドRNA複合体担持ディスクを観察した結果を示す、写真である。図中、「(a)」にて示す中心領域が、担体の中心に円状に塗布されているのが、本発明にかかる「物質で被覆された微粒子」であり、その中央部分に白い析出物が生じていることを、図中の三角にて示す。
図5】実施例1に記載の条件にて作製した、パーティクルボンバードメント法におけるCas9タンパク質‐ガイドRNA複合体担持ディスクを観察した結果を示す、写真である。図中、「(a)」にて示す中心領域が、担体の中心に円状に塗布されているのが、本発明にかかる「物質で被覆された微粒子」である。
図6】参考例3に示す条件1を用いて作製した、パーティクルボンバードメント法におけるCas9タンパク質‐ガイドRNA複合体担持ディスク(図中の「1」)、実施例1に記載の条件にて作製した、パーティクルボンバードメント法におけるCas9タンパク質‐ガイドRNA複合体担持ディスク(図中「2」)について切断活性を評価した結果を示す図である。図中「3」及び「4」は、各々template DNAのみ、Cas9タンパク質のみを泳動した結果を示す。図中の表記等については、図2のそれらと同様であるが、下部に示す数字(%)は、切断効率を示す。
図7】実施例1に記載の条件にて作製した、パーティクルボンバードメント法におけるCas9タンパク質‐ガイドRNA複合体担持ディスクを、光学顕微鏡にて観察した結果を示す、写真である。
図8】非特許文献3に記載の条件にて作製した、パーティクルボンバードメント法におけるCas9タンパク質‐ガイドRNA複合体担持ディスクを、光学顕微鏡にて観察した結果を示す、写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<本発明の製造方法>
後述の実施例に示すとおり、下記工程(1)~(5)をとることにより、パーティクルボンバードメント法において用いられる、細胞内へ導入される物質(ヌクレオチド‐ペプチド複合体)がその活性を維持したまま微粒子を覆っており、かつ当該微粒子が安定的に担持されている担体の製造方法を提供することが可能となる。
【0017】
したがって、本発明は、
前記物質は、パーティクルボンバードメント法によって細胞に導入される、ペプチドとヌクレオチドとの複合体であり、
(1)前記ペプチド及び前記ヌクレオチドを、無機塩及び/又は糖を含有する中性緩衝液に溶解させる工程、
(2)工程(1)にて得られた溶解液から、緩衝液交換により、前記無機塩及び前記糖を除去する工程、
(3)工程(2)にて得られた溶解液と微粒子とを混合する工程、
(4)工程(3)にて得られた混合液を、担体の表面上に塗布する工程、
(5)工程(4)にて前記混合液が塗布された担体を、脱気乾燥法により乾燥させる工程
を含む、パーティクルボンバードメント法において、物質で被覆された微粒子が担持された担体を製造する方法を、提供する。
【0018】
本発明の製造方法においては先ず、細胞内に導入される複合体を構成するペプチド及び前記ヌクレオチドを、無機塩及び/又は糖を含有する中性緩衝液に溶解させる。
【0019】
(細胞内へ導入される物質)
本発明において、パーティクルボンバードメント法によって細胞に導入される物質は、ペプチドとヌクレオチドとの複合体である。本発明にかかる「ペプチド」には、オリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質が含まれ、ヌクレオチド(DNA、RNA等)には、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド及び核酸が含まれる。かかるヌクレオチド及びペプチドによって構成される複合体としては特に制限はなく、例えば、RNAタンパク質複合体、DNAタンパク質複合体が挙げられ、より具体的には、Casタンパク質とガイドRNAとの複合体、リボソーム、スプライソソーム、クロマチンが挙げられる。なお、これら物質の少なくともいずれか一方には標識物質が結合していてもよい。かかる標識物質としては、蛍光化合物(フルオレセイン、FITC、インドシアニングリーン、蛍光放出金属(152Eu、ランタン系列等)等、IRDye800シリーズ)、マーカータンパク質(例えば、GFP等の蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ等の発光酵素タンパク質)、タグタンパク質(Hisタグペプチド、GSTタンパク質等)が挙げられる。また、かかる標識物質とペプチド又はヌクレオチドとの間にはプロテアーゼ認識部位を介在させることにより、当該プロテアーゼによる切断によって分離し得る態様であってもよい。
【0020】
本発明において、「Casタンパク質」は、CRISPER(clustered regularly interspaced short palindromic repeat、クリスパー)関連酵素(ヌクレアーゼ)であり、クラス1CRISPER関連酵素(例えば、Cas3等のI型、IV型、Cas10等のIII型)であってもよく、クラス2CRISPER関連酵素(例えば、Cas9等のII型、Cas12a(Cpf1),Cas12b(C2c1)、Cas12e(CasX)及びCas14等のV型、Cas13等のVI型)であってもよいが、好ましくはクラス2CRISPER関連酵素であり、より好ましくはII型CRISPER関連酵素であり、さらに好ましくはCas9である
なお、Casタンパク質の典型的なアミノ酸配列及び塩基配列は公開されたデータベース、例えば、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)に登録されており、本発明においてはこれらを利用することができる。
【0021】
本発明において「Cas9タンパク質」は、CRISPR/Cas9システムにおいて使用できるものであればよく、ガイドRNAと結合して複合体を形成し、標的DNA領域に標的化されて標的二本鎖DNAを切断する。種々の由来のCas9タンパク質は公知であり、WO2014/131833に例示されるものを利用することができる。好ましくは、Streptococcus pyogenes由来のCas9タンパク質(SpCas9)を利用する。Cas9タンパク質のアミノ酸配列及び塩基配列は公開されたデータベース、例えば、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)に登録されており(例えば、UniProtKB/Swiss-Prot:Q99ZW2)、本発明においてはこれらを利用することができる。
【0022】
また、データベース上に登録されている天然型のアミノ酸配列のみならず、本発明においてCas9タンパク質には、天然型のアミノ酸配列に対して、1~複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入されたアミノ酸配列を含む変異体を用いることもできる。ここで「複数個」とは1~50個、好ましくは1~30個、さらに好ましくは1~10個である。さらに、本発明においてCas9タンパク質には、元のタンパク質の活性を保持する限り、天然型のアミノ酸配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、当該アミノ酸配列からなるポリペプチドも含む。アミノ酸配列の比較は公知の手法によって行うことができ、例えば、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等を例えば、デフォルトの設定で用いて実施できる。
【0023】
このような変異体としては、例えば、触媒部位の1つに変異が導入されニッカーゼ活性を示すCas9タンパク質(nCasタンパク質)が挙げられる。nCasタンパク質を利用することにより、オフターゲット作用を減少させることができる。また、核移行シグナルを付加することによって、細胞内で核への局在が促進され、その結果、DNAの編集を効率的に行なうことができる。
【0024】
本発明にかかる「ガイドRNA」は、Cas9タンパク質と相互作用するヌクレオチド配列と標的DNA領域の配列に対して相補的なヌクレオチド配列(標的化ヌクレオチド配列)とを含むRNAである。本発明において「ガイドRNA」は、crRNAとtracrRNAを含む一分子ガイドRNAでも、crRNA断片とtracrRNA断片とからなる二分子ガイドRNA(dual-RNA)であってもよい。
【0025】
crRNA中の標的化ヌクレオチド配列は、通常、12~50ヌクレオチド、好ましくは、17~30ヌクレオチド、より好ましくは17~25ヌクレオチドからなる塩基配列であり、PAM(proto-spacer adjacent motif)配列と隣接する領域を標的化するように選択される。
【0026】
crRNAは、更に、tracrRNAと相互作用(ハイブリダイズ)が可能なヌクレオチド配列を3’側に含む。一方、tracrRNAは、crRNAの一部のヌクレオチド配列と相互作用(ハイブリダイズ)が可能なヌクレオチド配列を5’側に含む。これらヌクレオチド配列の相互作用により形成された二重鎖RNAは、Cas9タンパク質と相互作用する。
【0027】
(無機塩及び/又は糖を含有する中性緩衝液)
上述のペプチド及びヌクレオチドを溶解させることによって、これら物質の複合体を形成させるための緩衝液は、当該複合体の活性を維持するために、pHの範囲は中性(例えばpH6.5~8.0、好ましくはpH7.0~8.0、より好ましくはpH7.5)となる。また、緩衝液のpHを前記範囲とするために含有される緩衝作用を有する物質(緩衝剤)としては、当該作用を有する限り特に制限はないが、例えば、Tris(Tris-HCl)、HEPES(HEPES-NaOH)、リン酸(NaHPO-NaHPO)、MOPS(MOPS-NaOH)が挙げられる。これら緩衝剤において、植物、特に花粉細胞に導入する上では、Tris又はHEPESが、本発明において好適に用いられる。また、緩衝剤の濃度としては、pHの範囲は中性とする限り特に制限はないが、好ましくは2~200mM、より好ましくは5~100mM、さらに好ましくは10~50mM、特に好ましくは20mMである。
【0028】
本発明にかかる「緩衝液」には、ヌクレオチド‐ペプチド複合体を溶解させ、またその活性を維持するために、無機塩及び/又は糖が更に含まれる。無機塩としては、例えば、カリウム塩(塩化カリウム、リン酸カリウム、硝酸カリウム、水酸化カリウム等)、ナトリウム塩(塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硝酸ナトリウム等)、カルシウム塩(塩化カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム等)、マグネシウム塩(塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等)、アンモニウム塩(炭酸アンモニウム等)が挙げられるが、植物、特に花粉細胞に導入する上では、カリウム塩が好ましい。糖としては、例えば、スクロース、フルクトース、ラクトース、マンニトール、グリセロール、ポリエチレングリコール(PEG)、トレハロース、グリシン、グルコース、デキストラン、エリスリトール、マルトースが挙げられるが、上記ヌクレオチド‐ペプチド複合体の安定性を保持しつつ、乾燥させ易いという観点から、トレハロース、スクロースが好ましく、スクロースがより好ましい。
【0029】
本発明にかかる緩衝液においては、これら化合物が少なくとも1種含まれていればよい(例えば、塩化カリウムのみ、又はスクロースのみ含まれていればよい)が、上記ヌクレオチド‐ペプチド複合体の安定性を保持しつつ、乾燥させ易いという観点から、カリウム塩及びスクロースが含まれていることが好ましい。また、緩衝液における無機塩又は糖の含有量としては特に制限はないが、ヌクレオチド‐ペプチド複合体をより溶解させ、当該複合体の沈殿をより抑え易いという観点から、無機塩の含有量は、好ましくは100~500mM、より好ましくは200~300mMであり、糖の含有量は、好ましくは0.5~5%、1~2%である。
【0030】
また、本発明にかかる緩衝液においては、前記緩衝剤、無機塩及び糖の他、他の物質が含まれていてもよい。かかる他の物質としては、例えば、還元剤(DTT等)、プロテアーゼ阻害剤(PSDF等)が挙げられる。
【0031】
さらに、本発明にかかる緩衝液中の前記ペプチド及びヌクレオチドの溶解濃度としては特に制限はないが、ヌクレオチド-ペプチド複合体を形成させ易く、細胞に適した量にて当該複合体を導入し易くなるという観点から、ペプチドの濃度は、好ましくは10~1000ng/μl、より好ましくは50~500ng/μl、さらに好ましくは100~200ng/μlであり、ヌクレオチドの濃度は、好ましくは1~100ng/μl、より好ましくは10~50ng/μl、さらに好ましくは20~30ng/μlである。
【0032】
(無機塩及び糖の除去)
本発明においては、上述のヌクレオチド‐ペプチド複合体の溶解液から、緩衝液交換によって、前記無機塩及び前記糖を除去することにより、後述の担体表面におけるこれら無機塩及び糖の析出を抑え、後述の微粒子を安定的に担持することが可能となる。
【0033】
本発明において「緩衝液交換」とは、ヌクレオチド‐ペプチド複合体を含む溶解液中の無機塩、糖、緩衝剤等を他の溶解液(以下「緩衝液交換用溶液」とも称する)のそれらと一部又は全部交換することにより、ヌクレオチド‐ペプチド複合体を残しつつ、当該複合体を含む溶解液中の前記無機塩及び/又は前記糖の濃度を低減させることを意味する。また、ヌクレオチド‐ペプチド複合体の溶解液からの前記無機塩及び前記糖の「除去」とは、当該溶解液において前記無機塩及び前記糖が実質的に含まれていない状態にすることを意味する。無機塩のかかる状態としては、ヌクレオチド‐ペプチド複合体の溶解液中の濃度が、好ましくは0.1mM以下であり、より好ましくは0.01mM以下、特に好ましくは0mMである。糖のかかる状態としては、ヌクレオチド‐ペプチド複合体の溶解液中の濃度が、好ましくは0.01%以下であり、さらに好ましくは0.001%以下、特に好ましくは0%である。
【0034】
「緩衝液交換」の方法としては、公知の脱塩及び/又はバッファー交換の方法を用いることができる。かかる方法としては、例えば、限外ろ過法、透析法、クロマトグラフィー法が挙げられる。
【0035】
本発明にかかる「限外ろ過」は、ヌクレオチド‐ペプチド複合体が通過せず、かつ無機塩及び糖等の低分子が通過するような分画分子量を有する限外ろ過膜を用いて行うことができる。限外ろ過膜の分離性能は、当業者であれば対象とするヌクレオチド、ペプチドの分子量を考慮し適宜選択することができるが、好ましくは分画分子量5~150kDaであり、より好ましくは分画分子量10~100kDa、さらに好ましくは分画分子量20~70kDa、特に好ましくは分画分子量50kDaである。
【0036】
限外ろ過膜は、例えば、セルロース系、ポリスルホン系、ポリアクリロニトリル系、ポリフッ化炭化水素系の高分子膜が挙げられる。セルロース系高分子膜としては、例えば、再生セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、セルロース混合エステルが挙げられる。ポリスルホン系高分子膜としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアリールスルホンが挙げられる。ポリフッ化炭化水素系高分子膜としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンが挙げられる。また、限外ろ過膜の構造としては、例えば、平膜、スパイラル膜、中空糸膜が挙げられる。
【0037】
このような限外ろ過膜として、例えば、Amicon Ultra-0.5 ultracel(再生セルロース、MILLIPORE社製)、10Kマイクローザ SIP-0013(ポリスルホン膜、旭化成ケミカルズ社製)等の市販品を使用することができる。また、限外ろ過は、公知の方法により行うことができる。かかる公知の方法としては、例えば、遠心ろ過、クロスフローろ過が挙げられる。
【0038】
本発明にかかる「透析」は、ヌクレオチド‐ペプチド複合体が通過せず、かつ無機塩及び糖等の低分子が通過するようなポアサイズを有する透析膜を用いて行うことができる。透析膜のポアサイズは、当業者であれば対象とするヌクレオチド、ペプチドの分子量を考慮し適宜選択することができるが、好ましくは分画分子量5~150kDaであり、より好ましくは分画分子量10~100kDa、さらに好ましくは分画分子量20~70kDa、特に好ましくは分画分子量50kDaである。
【0039】
透析膜は、例えば、前記限外ろ過膜同様の材質(セルロース系等)からなる高分子膜及び構造をとり得る。また、このような透析膜としては、例えば、MF-ミリポアメンブレン(Merck Millipore社製、カタログ番号:VSWP02500、ポアサイズ:0.025μm、材質:セルロース混合エステル)、Spectra/Por7.Dialysis Membrane Pre-treated RC Tubing(フナコシ社製、カタログ番号:132112、ポアサイズ:3.5kDa、材質:再生セルロース)等の市販品を使用することができる。また、透析は、公知の方法により行うことができる。かかる公知の方法としては、例えば、前記透析膜を備えた透析チューブ又は透析カセットを、外液として緩衝液交換用溶液に浸す方法が挙げられる。
【0040】
本発明にかかる「クロマトグラフィー」は、ヌクレオチド‐ペプチド複合体と無機塩及び糖等の低分子とを分離できるものであればよく、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(ゲル濾過クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー等)、吸着クロマトグラフィー(アフィニティクロマトグラフィー等)、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。また、当業者であれば、ヌクレオチド‐ペプチド複合体と、無機塩及び糖等の低分子とにおける、大きさ、質量、吸着力、疎水性、親水性、電荷等の違いに基づき分離可能な、クロマトグラフィー、並びにそれを構成する固定相及び移動相を、適宜選択、調製することができる。
【0041】
本発明において、ヌクレオチド‐ペプチド複合体溶解液から、より緩慢に前記無機塩及び前記糖を除去することにより、ヌクレオチド‐ペプチド複合体の活性がより維持し易く、後述の微粒子をより安定的に担持し易くなるという観点から、緩衝液交換を多段階にて行なってもよい。その回数としては最終的に無機塩及び糖が実質的に含まれていない状態になればよく、特に制限はないが、例えば2回、3回、4回、5回が挙げられる。また、多段階の緩衝液交換にて用いられる方法は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0042】
「緩衝液交換用溶液」は、特に制限はなく、当業者であれば適宜調製することができ、通常、無機塩及び糖を含有しない緩衝液(以下「緩衝液のみ」とも称する)が用いられる。また、無機塩及び糖の双方が含まれる緩衝液を、多段階の緩衝液交換に供する場合には、例えば、最初に、糖のみを含む緩衝液との間で緩衝液交換することによって無機塩のみを除去し、次に、緩衝液のみとの間で緩衝液交換することによって糖を除去してもよい。また、最初に、無機塩のみを含む緩衝液との間で緩衝液交換することによって糖のみを除去し、次に、緩衝液のみとの間で緩衝液交換することによって無機塩を除去してもよい。さらに、無機塩及び/又は糖の濃度を段階的に下げた緩衝液との間で緩衝液交換することによって、最終的に無機塩及び糖を除去してもよい(より具体的には、200mMの無機塩及び2%の糖が含まれる緩衝液を多段階にて緩衝液交換する場合には、最初に、100mMの無機塩及び1%の糖が含まれる緩衝液との間で緩衝液交換し、次に、緩衝液のみとの間で緩衝液交換することによって最終的に無機塩及び糖を除去してもよい)。
【0043】
またこのような多段階の緩衝液交換は連続的に行なうこともできる。例えば、連続式透析装置を用い、緩衝液交換用溶液中の無機塩及び/又は糖の濃度を徐々に低減させていくことによって行なうことができる。また、アフィニティクロマトグラフィーにおいて、ヌクレオチド‐ペプチド複合体が結合している固定相に、無機塩及び/又は糖の濃度を徐々に低減させた緩衝液交換用溶液(所謂、グラジエントバッファー)を通すことによっても、多段階の緩衝液交換は連続的に行なうことができる。
【0044】
(ヌクレオチド‐ペプチド複合体で被覆した微粒子の調製)
無機塩及び糖が除去されたヌクレオチド‐ペプチド複合体溶解液を、パーティクルボンバードメント法において用いられる微粒子と混合することによって、当該微粒子は前記複合体によって覆われる。
【0045】
微粒子の素材は、特に制限されず、例えば、金、タングステン、磁性粒子(四酸化三鉄等)等の金属からなる微粒子(金属微粒子)が挙げられる。これらの中でも、金粒子が好ましい。微粒子の粒子径は、特に制限されないが、例えば0.05~5μmであり、好ましくは0.1~3μmであり、より好ましくは0.2~l.5μmであり、さらに好ましくは0.4~0.8μmである。
【0046】
本発明に係る「被覆」には、微粒子表面の全部が前記物質によって覆われていることのみならず、その一部が覆われている〈微粒子表面の一部に前記物質が付着している)状態も含まれる。ここで「一部」としては、微粒子表面の50%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくはほぼ全面(例えば、95%以上)である。また「物質で被覆した微粒子」は、物質と微粒子との混合物の形態であってもよい。
【0047】
(微粒子の担体への塗布)
ヌクレオチド‐ペプチド複合体によって被覆された微粒子は、これらを含む混合液をパーティクルボンバードメント法において用いられる担体に担持させるため、塗布される。
【0048】
担体は、通常、パーティクルボンバードメント法においてマクロキャリアとも称される物質である。担体の素材は、特に制限されず、前記微粒子を担持させることが可能であり、またパーティクルボンバードメント法において圧力が加わった際には、前記微粒子を放出できるほど薄くできる素材であれば特に制限はなく、例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド等の、所謂工業用フィルムに用いられる素材が挙げられる。担体の形状及びサイズとしては、後述のパーティクルボンバードメント装置に装着できる限り特に制限はないが、通常、直径2.5cmの円板(ディスク)状である。その厚みとしては、上記素材の種類に応じて前記微粒子を放出できる程度に適宜変更され得るが、通常5~100μm、好ましくは25~75μmである。本発明にかかる担体として、好適にはPDS-1000/He 用マクロキャリア(BioRad社製、直径2.5cm、厚さ50μm、材質:東レデュポン社製 カプロン(登録商標)(ポリイミド))等の市販品が挙げられる。また、担体への塗布は、通常、マイクロピペット等を用いて均一に行なうことができる。
【0049】
(脱気乾燥)
前記担体における、ヌクレオチド‐ペプチド複合体によって被覆された微粒子の担持は、脱気乾燥を施すことによって行なわれる。これにより、後述の実施例に示すとおり、風乾又は凍結乾燥による乾燥では生じる、ヌクレオチド‐ペプチド複合体の活性の低減や担体の不安定性が解消される。
【0050】
脱気乾燥は、例えば、後述の実施例に示すとおり、前記担体を入れた系内を減圧にすることによって行なうことができる。かかる減圧脱気の処理条件として、系内圧は、好ましくは500hPa以下、より好ましくは300hPa以下、さらに好ましくは100hPa以下である。系内の温度は好ましくは10~40℃、より好ましくは15~30℃、さらに好ましくは室温(22~28℃)である。処理時間は、好ましくは5~60分、さらに好ましくは10~30分である。また、このような条件での脱気は、市販の脱気装置(例えば、連続式真空脱気装置)を用いて行なうことができる。
【0051】
<本発明のキット>
本発明においては、上述の製造方法において用いられるキットを提供することもできる。かかるキットは下記物質の少なくとも1種を含むものである。
(A)前記ペプチド及び前記ヌクレオチド
(B)無機塩及び/又は糖を含有する中性緩衝液
(C)前記緩衝液交換のために用いられる、限外ろ過膜、透析膜又はクロマトグラフィーの固定化相
(D)緩衝液交換用溶液(前記工程(1)にて得られた溶解液と緩衝液交換を行なうために用いられる、溶液)
(E)前記微粒子
(F)前記混合液が塗布される、担体。
【0052】
本発明のキットは、例えば、前記(A)、(C)、(D)及び(E)を含むことが好ましく、また前記(B)~(E)を含むことが好ましく、前記(A)~(F)の全てを含むことが特に好ましい。さらに、本発明のキットには、上述の製造方法等を示した説明書が含まれ得る。
【0053】
<本発明の担体>
上述のとおり、本発明の製造方法によれば、パーティクルボンバードメント法において用いられる、細胞内への導入物質(ヌクレオチド‐ペプチド複合体)がその活性を維持したまま微粒子を覆っており、かつ当該微粒子が安定的に担持されている担体を製造することができる。したがって、本発明は上記方法によって製造される担体も提供することができる。
【0054】
また言い換えれば、本発明は、後述の実施例に示すとおり、パーティクルボンバードメント法において用いられる、物質で被覆された微粒子が担持された担体であって、前記物質は、パーティクルボンバードメント法によって細胞に導入される、ペプチドとヌクレオチドとの複合体であり、かつ、前記微粒子が担持された表面において、中心から10mm以内の領域における析出物が100μm未満である、担体を、提供するものである。
【0055】
「析出物」は、無機塩類及び/又は糖から構成され、担体において前記微粒子が担持された表面に析出される物質であり、緩衝剤、前記導入物質及び微粒子が混在していてもよい。大きさとしては、100μm未満、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは5μm以下である。なお、析出物の大きさは、当該物質の最長径を意味する。また、前記析出物は、担体の中心から10mm以内の領域において、好ましくは10個以内、より好ましくは5個以内、さらに好ましくは3個以内、特に好ましくは0個である。なお、「中心」とは幾何中心を意味する。
【0056】
また、本発明の担体が表面に備える、物質で被覆された微粒子及び緩衝剤からなる層において、緩衝剤と当該微粒子との重量比率は通常、緩衝剤:微粒子=1:1~1:10であり、好ましくは1:2~1:5である。
【0057】
<本発明のパーティクルボンバードメント法>
上述のとおり、本発明によれば、前記担体表面に塩等が析出することなく、さらにヌクレオチド‐ペプチド複合体の活性を維持できるため、当該析出物による損傷を抑えつつ、前記複合体を細胞内に導入し、機能させることが可能となる。
【0058】
したがって、本発明は、パーティクルボンバードメント法により細胞にヌクレオチド‐ペプチド複合体を導入する方法であって、前記本発明の担体に圧力を加えることにより、当該担体から放出された前記微粒子が、前記細胞に撃ち込まれる工程を含む、方法も提供する。
【0059】
以下、図1A及び1Bを参照しながら本発明のパーティクルボンバードメント法の実施態様の例について説明する。
【0060】
パーティクルボンバードメント法においては、例えば、ヌクレオチド‐ペプチド複合体を撃ち込む前に、パーティクルボンバードメント装置1内を陰圧にした上で、ガス加速管2にガスをラプチャーディスク3が破壊圧力に達するまで供給される。次いで、図1Bに示すとおり、ラプチャーディスク3が破裂すること(破裂後のラプチャーディスク3a及び3b)によって発生するガス衝撃圧力により、上述のヌクレオチド‐ペプチド複合体で被覆した微粒子5を下面に担持している担体4が、対象(細胞7)の方向に移動することとなる。そして、担体4がストッピングスクリーン6で停止し、担持されていた前記微粒子5のみが、支持体8に載せた対象(細胞7)へ撃ち込まれることとなる。
【0061】
なお、本発明は、当該図に示した形態のパーティクルボンバードメント装置に限定されることなく、前記担体に担持された微粒子を高速で射出できる装置であれば、その形態、射出形式等を問わず、当業者であれば、適宜その装置に合わせた条件等を設定し、本発明を実施し得る。
【0062】
本発明において、ヌクレオチド‐ペプチド複合体が導入される「細胞」としては、特に制限されることなく、動物由来のものであってもよく、植物由来のものであってもよい。
【0063】
細胞の由来となる「植物」については特に制限はなく、例えば、双子葉植物及び単子葉植物を含む被子植物、裸子植物、草本植物、並びに木本植物が挙げられる。植物のより具体的な例としては、トマト、タバコ、ピーマン、トウガラシ、ナス等のナス類;キュウリ、カボチャ、スイカ等のウリ類;キャベツ、ブロッコリー、ハクサイ、シロイヌナズナ等の菜類;セルリ一、パセリ一、レタス等の生菜・香辛菜類;ネギ、タマネギ、ニンニク等のネギ類;ダイズ、ラッカセイ、インゲン、エンドウ、アズキ、リョクトウ、ササゲ、ソラマメ等の豆類;イチゴ、メロン等のその他果菜類;ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ等の直根類;サトイモ、キャッサバ、ジャガイモ、サツマイモ、ナガイモ等のイモ類;イネ、トウモロコシ、コムギ、ソルガム、オオムギ、ライムギ、ミナトカモジグサ、ソバ等の穀類;アスパラガス、ホウレンソウ、ミツバ等の柔菜類;ユリ、トルコギキョウ、ストック、カーネーション、キク等の花弁類;ベントグラス、コウライシバ等の芝類;ナタネ、ラッカセイ、セイヨウアブラナ、ナンヨウアブラギリ等の油料作物類;ワ夕、イグサ等の繊維料作物類;クローバー、デントコーン、タルウマゴヤシ等の飼料作物類;リンゴ、ナシ、ブドウ、モモ、キウイフルーツ等の落葉性果樹類;ウンシュウミカン、オレンジ、レモン、グレープフルーツ等の柑橘類;サツキ、ツツジ、スギ、ポプラ、パラゴムノキ、イチョウ、マツ等の木本類等が挙げられる。
【0064】
かかる植物に由来する細胞には、任意の組織中に存在する植物細胞又は任意の組織に由来する植物細胞が含まれる。このような組織としては、例えば、葉、根、根端、葯、花、種子、さや、茎、茎頂、胚、花粉が挙げられる。さらに、本発明の方法においては、人為的に処理された植物細胞(例えば、培養細胞、カルス、懸濁培養細胞)も対象とすることができる。また、本発明において「花粉」には、成熟花粉のみならず、未成熟花粉も含まれる。さらに、花粉を構成する細胞(雄原細胞、精細胞、花粉管細胞(栄養細胞)等)も、本発明の物質導入の対象となる花粉に含まれる。
【実施例
【0065】
以下、実施例及び参考例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(参考例1) 凍結乾燥タンパク質の調製及びその評価
パーティクルボンバードメント法を用いてRNAタンパク質複合体(以下「RNP」とも称する)を花粉へ導入させるためには、RNPを金粒子と混合し、乾燥化しなければならない。そこで、先ずはRNPを構成するタンパク質としてCas9タンパク質を用い、当該タンパク質を凍結乾燥化するための溶液組成について以下の方法にて検討した。
【0067】
(タンパク質溶液のバッファー置換及び凍結乾燥)
市販品である濃度5μg/μlのCas9タンパク質(株式会社ファスマック)の組成を、所望の溶液の組成にすべく透析をおこなった。具体的には、分画分子量3.5KDaの透析膜(富士フィルム和光純薬株式会社)内へCas9タンパク質を充填し、前記溶液を透析バッファーとして透析を行い、バッファー置換した。前記所望の溶液の組成に置換されたCas9タンパク質溶液を-80℃にて凍結した後、凍結乾燥をおこなった。凍結乾燥法は、凍結乾燥機(型番:PFR-1000、EYELA 東京理化器械株式会社製)を用い、その使用法に準じて行なった。また、当該市販品を陽性コントロールとして使用した。pHは全て7.5とした。
【0068】
(切断活性評価)
各組成で凍結乾燥したCas9タンパク質の活性を評価するために、凍結乾燥したCas9へ超純水を加えることで、5μg/μlのCas9タンパク質へ戻し、そのうち3500ng分を用いて当タンパク質の活性を評価すべく切断活性を確認した。
【0069】
切断活性を評価するための反応系として、50mM Tris-HCl(pH7.5),100mM NaCl,10mM MgCl及び1mM DTTからなる溶液中に、前記Cas9タンパク質3500ngを、ゲノム編集のターゲット配列を含む2本鎖DNA(配列番号:1に記載の配列からなるDNA)をtemplateとして300ng、ターゲット配列に有効なcrRNA(配列番号:2に記載の配列からなるRNA) 280ng、tracrRNA 467ngと共に添加し、調製した。また、ゲノム編集系の代わりに前記template DNA 300ngのみを前記溶液に添加したものを、陰性コントロールとして使用した。
【0070】
そして、前記反応系を37℃で1時間静置した後、STOP solution(30% glycerol,1.2% SDS,250mM EDTA)を反応量の1/10量添加し、37℃,15分反応させることで反応を停止した。
【0071】
更に60℃ 5分間、次に氷上に5分間静置させ、各反応量のうちの10μl分を5-20% SDS-PAGE用ゲルにロードし、Tris-acetate EDTA Buffer(40mM Tris-acerare,1mM EDTA)にて電気泳動した。そして、電気泳動後のゲルをSYBR safe(Thermo Fisher Scientific社)にて染色して、ゲル中のDNAを検出した。また、各反応系において検出されたtemplate DNA量を、陰性コントロールにおけるtemplate DNA量を100とした場合の相対値として換算し、得られた値をtemplate DNAの切断率とした。
【0072】
また前記Tris-acetate EDTA Bufferの代わりに、SDS Buffer(25mM Tris,0.1% SDS,191mM Glycine)を用い、前記ゲルを電気泳動に供し、その後、CBB染色にてゲル中のCas9タンパク質の量を検出した。
【0073】
その結果、図には示さないが、20mM Tris-HCl、200mM KCl及び2% スクロースからなる溶液にてCas9タンパク質を凍結乾燥させた場合、当該乾燥後も切断活性を維持していることが明らかとなった(陽性コントロール(市販品)における切断率が86.1%であるのに対し、当該乾燥後のCas9タンパク質におけるそれは89.4%であった)。
【0074】
なお、前記20mM Tris-HClの代わりに20mM HEPESを用いても同様の結果が得られた。また、前記凍結乾燥の前後においてCas9タンパク質量の有意な変化は認められなかった。
【0075】
(参考例2) 塩や糖を除いた場合のRNPの安定性についての検討
参考例1において、凍結乾燥においてタンパク質の安定性を維持するための溶液の例を示したが、当該溶液中の塩濃度が高い。そのため、パーティクルボンバードメント法では多量の塩は析出してしまい、導入時に問題となることが懸念される(後述の参考例4 参照)。
【0076】
そこで、タンパク質の安定性を維持しつつ、塩を除去するための条件について検討した。具体的には、Cas9タンパク質 3000ngを含む、30μlの前記溶液(20mM Tris-HCl,200mM KCl,2% スクロース)を調製し、以下の異なる条件で膜透析法により塩や糖を除いていった。また、Cas9タンパク質3000ngのみならず、crRNA(240ng)及びtracrRNA(400ng)(これらRNAを「RNAmix」とも称する)も含む、前記溶液を調製し、RNPを複合体の状態のまま、以下に示す条件で膜透析法により塩や糖を除いていった。
(条件)
1:Cas9 3000ngを含む溶液から、膜透析法により、20mM Tris-HClへ置換した。
2:Cas9 3000ngを含む溶液から、膜透析法により、純水(HO)へ置換した。
3:Cas9タンパク質 3000ng及びRNAmixを含む溶液から、膜透析法により、20mM Tris-HClへ置換した。
4:Cas9タンパク質 3000ng及びRNAmixを含む溶液から、膜透析法により、純水(HO)へ置換した。
5:Cas9タンパク質 3000ng及びRNAmixを含む溶液から、膜透析法により、20mM Tris-HCl及び2%スクロースからなる溶液へ置換した。
6:Cas9タンパク質 3000ng及びRNAmixを含む溶液から、2mM Tris-HCl及び0.2%スクロースからなる溶液へ置換した。
【0077】
膜はMF-Membrane Filter 0.025μm,VSWP(Merck Millipore社)を使用した。置換したいバッファーを容器に満たし、水面に膜を浮かせて膜上にCas9タンパク質溶液を静置した。バッファー置換後、No1,2の条件にはcrRNA,tracrRNA及びtemplate DNAを混合し、No3-6の条件にはtemplate DNAのみを添加して、参考例1と同様に切断活性評価をおこなった。得られた結果を図2に示す。
【0078】
その結果、図2に示すとおり、Cas9タンパク質単独での塩、糖の除去は、切断活性が著しく低下した。一方、RNPでは、活性の低下が生じることなく、No3,5,6の条件において塩、糖濃度の減少・除去をおこなうことができた。しかしながら、HOへ置換した場合では、RNPであっても活性を保持することができず、切断活性の低下が生じてしまった。
【0079】
(参考例3) 塩や糖を除く場合のバッファー置換法及び乾燥法についての検討
参考例2に示した結果から、最終的に糖も除いた20mM Tris-HClのみで、活性を保持したままRNPの乾燥化が可能であることが示唆される。そこで、より安定的に塩や糖を除去する方法としてのバッファー置換法の検討、及び乾燥法についての検討を行なった。
【0080】
具体的には、Cas9タンパク質 3500ng、crRNA 280ng及びtracrRNA 467ngを含む、30μlの前記溶液(20mM Tris-HCl,200mM KCl,2% スクロース)を調製し、RNPを複合体の状態としたまま、以下に示す条件で限外ろ過法により塩や糖を除いていった。
1:限外ろ過法により、20mM Tris及び2%スクロースからなる溶液に置換し、その後20mM Trisへの置換を行い、その後凍結乾燥を行なった。
2:限外ろ過法により、20mM Tris及び2%スクロースからなる溶液に置換し、その後20mM Trisへの置換を行い、その後風乾した。
3:Template DNAのみ(陰性コントロール)
4:Cas9タンパク質 3500ng のみ
なお、限外ろ過法ではAmicon Ultra-0.5 ultracel,50kDa(Merck Millipore社)のカラムを使用した。また、乾燥法について検討するため、前記のとおり、凍結乾燥(参考例2と同様)、又は風乾(Air-Dry)を行なった。また、乾燥後は、参考例1同様に、乾燥体へ超純水を加え、template DNAを加えて、切断活性評価を行なった。得られた結果を図3に示す。
【0081】
その結果、図3に示すとおり、条件1、すなわち限外ろ過により緩衝液交換した後、凍結乾燥した場合において極めて高い切断活性が認められた。一方、条件2における切断活性が示すとおり、前記緩衝液交換を施した後であっても風乾した場合には、切断活性が半減してしまった。したがって、緩衝液交換後の乾燥方法は、風乾より凍結乾燥の方が望ましいことも明らかとなった。
【0082】
そこで、次に、条件1を用いてパーティクルボンバードメント法におけるRNP担持ディスクを作製した。
【0083】
具体的には先ず、Cas9 3500ng、tracrRNA 467ng及びcrRNA 280ngを30μlの前記溶液(20mM Tris-HCl,200mM KCl,2% スクロース)において混合し、RNPを調製した。次いで、限外ろ過法により、20mM Tris及び2%スクロースからなる溶液に置換し、その後20mM Trisへの置換を行なった。一方、0.6μm径の金粒子(BIO-RAD社製)を100%エタノールで洗浄し、滅菌水で懸濁して30mg/ml金溶液を調製した。そして、前記緩衝液交換後のRNP溶液20μlへ、金溶液を1回の撃ち込みにつき10μlを加え、パーティクルボンバードメント用マクロキャリア(BioRad社製 PDS-1000/He 用マクロキャリア)1枚に、30μl分を装填し、-80℃にて凍結させた。その後凍結乾燥を行い、ディスクを作製した。
【0084】
その結果、図4に示すとおり、このようにして調製した、RNPを装填・乾燥後のディスク表面の中央部分には白い析出物が認められ(図中、三角にて指し示す箇所)、崩れやすいことが明らかになった。
【0085】
(実施例1) 乾燥法についての検討2
上記のとおり、凍結乾燥法はRNPの活性を維持するという観点からは望ましい乾燥法と言えるが、パーティクルボンバードメント法への適用において不安定であることが明らかになった。
【0086】
そこで、脱気乾燥法により風乾と凍結乾燥の間の状態での乾燥を試みた。具体的には、参考例3における凍結乾燥法の代わりに脱気乾燥法を用いてRNP担持ディスクを調製した。当該脱気乾燥法においては、RNPと金粒子の混合溶液をマクロキャリアに装填し、凍結乾燥機を用いて、約100hPaの減圧下にて(1気圧の約1/10)、キャリア上のRNP及び金粒子が溶液中に存在したまま、25℃、約20分で乾燥する条件で乾燥を行なった。この条件下では、試料は乾燥時凍結することなく、液体から徐々に乾燥する。
【0087】
一方、比較対象として、参考例3に示したとおり、凍結乾燥法においては、試料を凍結させ、その後可能な限り真空状態で吸引することで、凍結した状態で試料を乾燥させ、RNP担持ディスクを調製した。
【0088】
その結果、上述のとおり、凍結乾燥法により調製したディスクにおいては、中央に溶液が析出したものとみられる粉のようなものが生じ(図中、三角にて指し示す箇所)その周囲も脆くなっていた(図4 参照)。一方、脱気乾燥により調製したディスクにおいては、図5に示すとおり、凍結乾燥法において認められたような析出が生じることなく、また、試料(RNPと金粒子の混合物等)はマクロキャリア上において、均一に装填・乾燥化しており、図4にて示すものと比較すると脆くなく、試料もしっかりと担持されていた。
【0089】
また、Cas9タンパク質 3500ng、crRNA 280ng及びtracrRNA 467ngを含む、30μlの前記溶液(20mM Tris-HCl,200mM KCl,2% スクロース)を調製し、RNPを複合体の状態にて、前記緩衝液交換により塩及び糖を除去した後、下記条件にて凍結乾燥又は脱気乾燥を行い、乾燥後は、参考例1同様に、乾燥体へ超純水を加え、template DNAを加えて、切断活性評価をおこなった。
【0090】
その結果、図6に示すとおり、乾燥法を凍結乾燥から脱気乾燥に変更しても、RNPの切断活性は高いまま維持されていた。
【0091】
(参考例4) 溶液組成についての検討
上記実施例1において、パーティクルボンバードメント法におけるRNP担持ディスクの安定性を維持するという観点から、脱気乾燥法が有効であることが明らかになった。
【0092】
次に、以下に示すとおり、RNP溶液の組成を変更してRNP担持ディスクを調製し、蛍光顕微鏡にて観察した。
1.実施例1に示す条件
Cas9 3500ng、tracrRNA 467ng及びcrRNA 280ngを、30μlの前記溶液(20mM Tris-HCl,200mM KCl,2% スクロース)において混合し、RNPを調製した。次いで、限外ろ過法により、20mM Tris及び2%スクロースからなる溶液と緩衝液交換し、その後20mM Trisとの緩衝液交換を行なった。一方、0.6μm径の金粒子(BIO-RAD社製)を100%エタノールで洗浄し、滅菌水で懸濁して30mg/ml金溶液を調製した。そして、前記緩衝液交換後のRNP溶液20μlへ、金溶液を1回の撃ち込みにつき10μlを加え、パーティクルボンバードメント用マクロキャリア1枚に、30μl分を装填し、前記脱気乾燥法によりRNP担持ディスクを調製した。
2.非特許文献3に記載の条件に相当する条件
前記溶液の代わりに、20mM HEPES(pH7.5)及び150mM KClからなる溶液を用い、さらに限外ろ過法による2段階交換を行なわずにRNP溶液を調製した以外は前記実施例1に示す条件にて、RNP担持ディスクを調製した。
【0093】
図7に示すとおり、図5の試料装填部分を光学顕微鏡にて観察した結果、実施例1に示す条件では、装填された混合物は、脱気乾燥により乾燥化し、非常に細かく密で均一な状態で担持されていることが明らかになった。すなわち、図中(カラー表示下)赤線内に囲まれた、略4分の1円の黒い領域にて、黒い微粒子が均一に担持されており、物質に被覆された金粒子がだまになることなく、一面に存在している状態が認められた。
【0094】
一方、非特許文献3に相当する条件にて作製したディスクでは、図8に示すとおり、塩の影響からか、100μm以上の析出物が多く存在し(図中、三角にて指し示す箇所)、また大きな析出物も存在していた、なお、図8に示す円の端側は、物質に被覆された金粒子が寄ってしまい、析出物中に取り込まれ黒い析出物となっている(図中(b)で示す領域)。通常、細胞の大きさは100μm以下であるため、このような担体では、析出物によって、細胞へのRNPの導入は困難となるばかりか、それら析出物の衝撃により細胞に多大な障害をもたらすことが推定される。
【0095】
以上のことから、析出に大きく影響を与える塩や糖含量を最小化させるためには、限外ろ過法等の緩衝液交換によって塩等を除去することが必要であることが明らかになった。さらに、その後の乾燥法として脱気乾燥法を用いることにより前記析出が抑えられ、細胞へのダメージ少なく、ヌクレオチド‐ペプチド複合体を導入し得るカセットを作製することが可能。また、表面の脆さも解消することができたことから、輸送や保存も可能なカセットの作製が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上説明したように、本発明によれば、物質(ヌクレオチド‐ペプチド複合体)を細胞内へ導入することにより新たな機能が付加された細胞を提供することができる。このため、バイオマス、機能性食材、医薬品材料等の生産・開発の場としても非常に有用であり、本発明は、様々な産業用途においても多大な貢献をもたらすものである。
【符号の説明】
【0097】
1…パーティクルボンバードメント装置、2…ガス加速管、3…ラプチャーディスク、3a…破裂後のラプチャーディスク、3b…破裂後のラプチャーディスク、4…担体、5…物質で被覆した微粒子、6…ストッピングスクリーン、7…細胞、8…支持体。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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