(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】無機被膜を有する被覆材及びその製造方法並びに製造装置
(51)【国際特許分類】
C01B 32/914 20170101AFI20240725BHJP
C23C 16/32 20060101ALI20240725BHJP
C23C 16/48 20060101ALI20240725BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C01B32/914
C23C16/32
C23C16/48
C04B41/87 G
(21)【出願番号】P 2019110850
(22)【出願日】2019-06-14
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【氏名又は名称】犬飼 宏
(72)【発明者】
【氏名】且井 宏和
(72)【発明者】
【氏名】原田 勝可
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-107461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
C23C
C04B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機又は宇宙機に用いられる高温部品、原子力関連の高温部品、あるいは、加熱炉における高温部品に用いられる被覆材であって、
基材と、該基材の表面の少なくとも一部を被覆する無機被膜とを備え、前記基材は、アルミナ又は炭素からなり、前記無機被膜は、酸素含有量が14原子%以下の炭化ジルコニウムからなることを特徴とする被覆材。
【請求項2】
前記炭化ジルコニウムが結晶質である請求項1に記載の被覆材。
【請求項3】
航空機又は宇宙機に用いられる高温部品、原子力関連の高温部品、あるいは、加熱炉における高温部品に用いられる被覆材であって、
基材と、該基材の表面の少なくとも一部を被覆する無機被膜とを備え、前記基材はアルミナ又は炭素からなり、前記無機被膜は、炭化ジルコニウムと炭化珪素とを
均一に混合された状態で含む複合材料からなることを特徴とする被覆材。
【請求項4】
前記炭化ジルコニウムが結晶質である請求項3に記載の被覆材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緻密な無機被膜を有する被覆材及びその製造方法並びに製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、ロケットの燃焼室やノズルなどの素材、又はSi等の半導体製造やAl溶湯における高温加熱炉として、耐熱性に優れた黒鉛(炭素繊維/炭素複合材である場合をも含む。)が使用されており、その耐食性(耐エロージョン性)を向上させるために、各種の表面被覆が施されている場合が多い。
表面被覆方法として、下記の技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、黒鉛ノズルの内面に、炭化ジルコニウム(ZrC、融点:約3540℃)、炭化チタン(TiC、融点:約3180℃)等の炭化物セラミックスをCVD(化学的蒸着法)や、塗布-焼成プロセス等によってコーティングする方法が開示されている。
特許文献2には、Siの結晶成長装置中のSiソース材料を収容するための石英製るつぼを保持するためのグラファイト製るつぼの全表面を、SiC、TiC、NbC、TaC、ZrC及びこれらの混合物のいずれかで形成されたコーティングが開示されている。そして、グラファイト製るつぼの表面を炭化物コーティングで被覆し、炭素の蒸発を防止すると共に、石英製るつぼがグラファイト製るつぼと接する面において、石英製るつぼを窒化シリコンでコーティングすることにより、炭化物コーティングと石英との反応を防止することができることが記載されている。
特許文献3には、アルミニウム蒸発用るつぼの表面を熱CVD法で1000℃~1400℃に加熱しつつZrC層を形成する技術が開示されている。具体的には、ジルコニウムの原料を塩化物(ZrCl4)とし、さらに水素ガス、アルゴンガス等を供給して、Zr層を形成し、基材である炭素るつぼと反応させることにより炭化物(ZrC)を形成させている。
特許文献4には、プラズマCVD法によりZrCのコーティング処理方法が開示されている。具体的には、ジルカロイ基材上に、原料ガスとしてZrCl4、CH4、H2の混合ガスを用いて製膜している。このとき、ハロゲン雰囲気(ZrCl4)での製膜時に、基材の腐食を防止するため、スパッタリングにより基材表面に保護層を導入している。
また、特許文献5には、加熱体を収容する炉心管を備えた加熱炉において、炉心管の少なくとも内表面が、TiC、ZrC、HfCのいずれか1種からなることを特徴とする加熱炉とその製法が開示されている。更に、光ファイバの線引き工程等のSiO2材料の加熱炉において、カーボン製の炉心管内表面の劣化を防止するために、高温において蒸気圧がCより低くなお且つSiO2との反応性もCより小さい高純度の材質としてTi、Zr及びHfという4A族元素の炭化物が好ましく、CVD法によりこれらのコーティング層を持つカーボン製の炉心管が開示されている。
【0004】
高温での腐食環境下に適応する材料として炭化珪素(SiC)が知られている。SiCは高温で防護性の高いSiO2の皮膜を形成するため、高温耐酸化性に優れるが、1700℃以上では熱分解や機械的強度の低下が著しく、SiC単一材料では、これ以上の温度域での使用は難しい。そのため、SiCとZrCとを組み合わせた被覆部材が知られている。
非特許文献1には、ZrCl4-CH4-H2-Arを原料としたCVD法によりSi基材上にZrCとSiCで構成される膜を形成した技術が開示されている。
また、非特許文献2には、C/C複合材上に、Si原料(MTS:CH3SiCl3)と水素ガスを用いたCVD法によりSiC膜を形成し、その後、ZrCl4、CH4ガス及び水素ガスを用いたCVD法によりZrC膜を形成し、多層構造としたことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-217575号公報
【文献】特開平7-89789号公報
【文献】特開平3-249172号公報
【文献】特開昭62-80270号公報
【文献】特開平10-338538号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】F. Wangら、Ceram. Int. 43(2017) 2853-2858
【文献】Q. Liuら、Surf. Coat. Technol. 205(2011) 4299-4303
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、基材との密着性に優れ、緻密な無機被膜を有する被覆材を提供することである。また、本発明の他の目的は、環境負荷の低減効果を有する被覆材の製造方法及び製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、航空機又は宇宙機に用いられる高温部品、原子力関連の高温部品、加熱炉等において、基材と、その表面に配された無機被膜とが一体化した被覆材及びその製造方法について検討を行い、本発明を完成するに至った。
本発明における1の観点の被覆材(以下、「第1態様の被覆材」ともいう)は、基材と、該基材の表面の少なくとも一部を被覆する無機被膜とを備え、該無機被膜は、酸素含有量が16原子%以下の炭化ジルコニウムからなることを特徴とする。
本発明における1の観点の被覆材の製造方法(以下、「第1態様の製造方法」ともいう)は、第1態様の被覆材を製造する方法であり、ジルコニウム原子を含む有機化合物の気化物を基材の表面に滞留させた状態で、該気化物にパワー密度が60W/cm2以上のレーザーを照射することを特徴とする。
本発明における1の観点の被覆材の製造装置(以下、「第1態様の製造装置」ともいう)は、内部に基材が載置される製膜室と、該製膜室の中に、ジルコニウム原子を含む有機化合物の気化物を供給する原料ガス供給手段と、基材の表面にレーザーを照射するレーザー照射手段と、を備えることを特徴とする。
本発明における他の観点の被覆材(以下、「第2態様の被覆材」ともいう)は、基材と、該基材の表面の少なくとも一部を被覆する無機被膜とを備え、該無機被膜は、炭化ジルコニウムと炭化珪素とを含む複合材料からなることを特徴とする。
本発明における他の観点の被覆材の製造方法(以下、「第2態様の製造方法」ともいう)は、第2態様の被覆材を製造する方法であり、ジルコニウム原子を含む有機化合物の気化物と、珪素原子を含む有機化合物の気化物とを基材の表面に滞留させた状態で、これらの気化物にレーザーを照射することを特徴とする。
本発明における他の観点の被覆材の製造装置(以下、「第2態様の製造装置」ともいう)は、内部に基材が載置される製膜室と、該製膜室の中に、ジルコニウム原子を含む有機化合物の気化物、及び、珪素原子を含む有機化合物の気化物の混合物を供給する原料ガス供給手段と、基材の表面にレーザーを照射するレーザー照射手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被覆材は、融点が約3540℃の炭化ジルコニウムを含むため、高温部品として好適である。
本発明の被覆材製造方法及び被覆材製造装置は、製膜室内部の全体を高い温度に設定する必要がなく、従来、公知のCVDの不具合とされた製膜室の内壁への製膜を抑制して、基材の所定位置に、密着性に優れた緻密な無機被膜を形成させることができ、環境負荷を低減する方法及び装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の製造装置の一例を示す概略図である。
【
図2】実施例1-1~1-3で得られた無機被膜のX線回折パターンである。
【
図3】実施例1-1で得られた無機被膜の表面の電子顕微鏡画像である。
【
図4】実施例1-1で得られた無機被膜の断面(破断面)の電子顕微鏡画像である。
【
図5】実施例1-3で得られた無機被膜の表面の電子顕微鏡画像である。
【
図6】実施例1-3で得られた無機被膜の断面(破断面)の電子顕微鏡画像である。
【
図7】実施例1-3で得られた無機被膜の断面(平滑加工後断面)の電子顕微鏡画像である。
【
図8】実施例1-4で得られた無機被膜のX線回折パターンである。
【
図9】実施例1-4で得られた無機被膜の断面(平滑加工後断面)の電子顕微鏡画像である。
【
図10】比較例1-1で得られた無機被膜の表面の電子顕微鏡画像である。
【
図11】比較例1-1で得られた無機被膜の断面(破断面)の電子顕微鏡画像である。
【
図12】比較例1-1で得られた無機被膜の断面(平滑加工後断面)の電子顕微鏡画像である。
【
図13】実施例2-1で得られた無機被膜のX線回折パターンである。
【
図14】実施例2-1で得られた無機被膜の表面の電子顕微鏡画像である。
【
図15】実施例2-1で得られた無機被膜の断面(破断面)の電子顕微鏡画像である。
【
図16】実施例2-1で得られた無機被膜の断面(平滑加工後断面)の電子顕微鏡画像である。
【
図17】
図16の画像において珪素原子の分布を反映する反射電子像である。
【
図18】
図16の画像においてジルコニウム原子の分布を反映する反射電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の被覆材は、基材の少なくとも一部の表面に無機被膜を有する複合物であり、第1態様の被覆材は、酸素含有量が16原子%以下の炭化ジルコニウムからなる無機被膜を備え、第2態様の被覆材は、炭化ジルコニウムと炭化珪素とを含む複合材料からなる無機被膜を備える。
【0012】
本発明の被覆材における基材は、少なくとも1000℃において溶融及び分解しないという耐熱性を有し、更に、1000℃~1300℃において炭化ジルコニウム及び炭化珪素と反応しないものからなるものであれば、特に限定されない。上記基材の構成材料は、好ましくは無機材料(セラミックス、金属、合金等)であり、例えば、アルミナ(Al2O3)、YAG(Y3Al5O12)、ジルコニア(ZrO2)、炭化珪素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化ガリウム(GaN)、シリコン(Si)、炭素、繊維強化炭素複合材料(Cf/C)、繊維強化SiC複合材料(SiCf/SiC)等が挙げられる。
【0013】
上記基材の形状は、特に限定されず、板状、線状、塊状等とすることができ、無機被膜を有する上記基材の表面は、平面及び曲面のいずれでもよく、更には、この表面は、平滑であってよいし、凹部又は凸部を有してもよい。
【0014】
本発明の第1態様の被覆材における無機被膜は、酸素含有量が16原子%以下の炭化ジルコニウムからなる。この炭化ジルコニウムは、一般にはZrCで表されるが、これに限定されず、ジルコニウム原子及び炭素原子のモル比(C/Zr)は、好ましくは0.45~1.5、より好ましくは0.65~1.1である。炭化ジルコニウムからなる無機被膜における酸素含有量は、その全体において、一定であっても、断面方向に異なってもよい。後者の場合、無機被膜のすべての部分において、酸素含有量が16原子%以下であることが好ましい。
本発明において、酸素含有量が16原子%を超えるZrCを含む無機被膜は、Zrの酸化物ライクの成分を含むこととなり、無機被膜がクラックを有する傾向にある。また、酸素含有量の高い無機被膜を備える被覆材を使用して、高温雰囲気に晒した場合には、クラックが更に発生させることとなり、好ましくない。本発明の第1態様の被覆材における無機被膜は、酸素含有量が16原子%以下の炭化ジルコニウムからなるため、このような不具合をもたらさず、緻密性が維持される。
【0015】
本発明の第1態様の被覆材において、無機被膜の厚さは、各種用途に好適な高温部材として有用であることから、好ましくは10nm以上、より好ましくは1μm~10mm、更に好ましくは5μm~100μmである。
【0016】
本発明の第2態様の被覆材における無機被膜は、炭化ジルコニウムと炭化珪素とを含む複合材料からなる。この複合材料は、炭化ジルコニウム及び炭化珪素が、互いに偏在する材料ではなく、これらが均一に混合された状態で含まれる材料である。炭化ジルコニウム及び炭化珪素は、非晶質及び結晶質のいずれでもよいが、両方が結晶質であることが好ましい。
尚、炭化ジルコニウムを構成するジルコニウム原子及び炭素原子のモル比(C/Zr)は、好ましくは0.45~1.5、より好ましくは0.65~1.1である。また、炭化珪素を構成する珪素原子及び炭素原子のモル比(C/Si)は、好ましくは0.7~1.3、より好ましくは0.9~1.1である。
【0017】
上記複合材料に含まれる炭化ジルコニウム及び炭化珪素の含有割合は、特に限定されないが、各種用途に好適な高温部材として有用であることから、炭化ジルコニウム及び炭化珪素の合計を100モル%とすると、それぞれ、好ましくは5~95モル%及び5~95モル%、より好ましくは10~80モル%及び20~90モル%、更に好ましくは20~70モル%及び30~80モル%である。無機被膜における炭化ジルコニウム及び炭化珪素のモル比は、その全体において、一定であっても、断面方向に異なってもよい。
【0018】
上記複合材料の組成は、ジルコニウム原子、珪素原子及び炭素原子以外に、酸素原子及び窒素原子を含むことがある。上記複合材料を構成する原子の全体を100%とすると、ジルコニウム原子及び珪素原子の合計量の割合は、好ましくは40~60%、より好ましくは45~55%であり、炭素原子の割合は、好ましくは40%以上である。また、上記複合材料が酸素原子を含む場合、酸素原子の割合は、好ましくは15%以下である。
【0019】
本発明の第2態様の被覆材において、無機被膜の厚さは、各種用途に好適な高温部材として有用であることから、好ましくは10nm以上、より好ましくは1μm~10mm、更に好ましくは5μm~100μmである。
【0020】
本発明における第1態様の製造方法は、ジルコニウム原子を含む有機化合物(以下、「ジルコニウム原子含有有機化合物」という)の気化物を基材の表面に滞留させた状態で、該気化物にパワー密度が60W/cm2以上のレーザーを照射することを特徴とする。
【0021】
本発明における第1態様の製造方法では、原料ガスとして、ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物のみが用いられる。従来、公知のCVDによりセラミックスからなる無機被膜を製造する場合、セラミックスを形成する複数の原料成分(ハロゲン化合物、炭化水素、水素等)を用いることが一般的であったが、本発明では、1種類の原料成分、即ち、ジルコニウム原子含有有機化合物により炭化ジルコニウム膜を形成することができる。
また、本発明における無機被膜の形成は、従来のCVDと同様、密閉空間で行うものである。従来法において、上記のような複数の原料成分を混合状態としてこれらを反応させると、製造装置の内壁又は装置内の備品を汚染させることとなったが、本発明では、レーザー照射による基材への局部加熱及び被膜形成を行うため、上記不具合は抑制される。
【0022】
上記ジルコニウム原子含有有機化合物は、沸点において分解することなく気化するものであれば、特に限定されない。上記ジルコニウム原子含有有機化合物は、好ましくは、炭素原子、水素原子及びジルコニウム原子を含む化合物であり、より好ましくは、20℃~250℃の温度で気化する化合物である。本発明においては、炭素原子、水素原子、窒素原子及びジルコニウム原子を含む化合物が特に好ましく、この化合物は、気化後に腐食性ガスを発生させないことからも、好ましい。
炭素原子、水素原子、窒素原子及びジルコニウム原子を含むジルコニウム原子含有有機化合物は、好ましくは、一般式:Zr(NCnH2n+1CmH2m+1)4(式中、nは1~5の整数、mは1~5の整数)で表されるテトラキス(アルキルアミド)ジルコニウムである。このテトラキス(アルキルアミド)ジルコニウムとしては、Zr(NCH3C2H5)4で表されるテトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウム、テトラキス(ジメチルアミド)ジルコニウム、テトラキス(ジエチルアミド)ジルコニウム等が挙げられ、これらのうち、テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウムが好ましい。
【0023】
ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物を調製する方法は、特に限定されず、従来、公知の加熱方法、バブリング方式による気化方法等が適用される。
第1態様の製造方法で用いられるジルコニウム原子含有有機化合物の気化物は、1種のみでも、2種以上でもよい。
【0024】
第1態様の製造方法において、レーザーを照射する前には、ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物を基材の表面に滞留させる。気化物を供給する方法は、特に限定されず、連続的供給又は間欠的供給により、製膜を安定的に進めることができる。気化物を供給する場合、キャリヤーガス(不活性ガス)を利用する方法、真空引きにより気化物を流動させる方法等が挙げられる。気化物の供給速度は、好ましくは5~2000sccm、より好ましくは10~200sccmである。
また、第1態様の製造方法は、好ましくは、減圧条件下で製膜する方法である。減圧時の製造装置内の圧力は、好ましくは20~10000Pa、より好ましくは100~2000Paである。尚、気化物を製造装置内に供給する前に、予め、製造装置内を減圧状態、好ましくは100Pa以下としておくことにより、酸素ガス、水分等の影響を抑制し、酸素含有量が16原子%以下の炭化ジルコニウムからなる無機被膜を有する被覆材を効率よく製造することができる。
【0025】
本発明における第1態様の製造方法では、ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物を基材の表面に滞留させた状態で、該気化物にレーザーを照射する。使用するレーザーは特に限定されないが、波長100~10800nmの半導体レーザー、固体レーザー、気体レーザー等を用いることができる。発振モードは、連続発振及びパルス発振のいずれでもよいが、好ましくは連続発振である。好ましいレーザーとしては、エキシマレーザー(波長:193~351nm)、Nd:YAGレーザー(波長:1064nm)、インジウムガリウム砒素リン又はアルミニウムガリウム砒素を用いた半導体レーザー(波長:800~900nm)、炭酸ガスレーザー(波長:10.8μm)、ファイバーレーザー(波長:1604nm)等が挙げられる。これらのうち、Nd:YAGレーザー及び半導体レーザーが好ましい。
【0026】
ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物に照射するレーザーのパワー密度は、緻密な無機被膜が得られることから、60W/cm2以上であり、好ましくは100~500W/cm2、より好ましくは110~200W/cm2である。このようなパワー密度のレーザーを照射した場合、基材の製膜面における温度は、通常、1000℃~1300℃である。尚、照射するレーザーのパワー密度は、終始一定であってよいし、変化させてもよい。
【0027】
レーザーの照射時間は、製膜面積、無機被膜の厚さ等により、適宜、選択されるが、通常、30秒間~60分間である。大面積の製膜を行う場合、基材を固定した状態でレーザーをスキャンさせながら若しくは光拡散レンズを介して光路を変化させながらレーザー照射する方法、又は、基材を移動させながら、光路を固定したレーザーを照射する方法を適用することができる。
【0028】
レーザーを照射する場合の雰囲気は、酸素原子を含むガスの併存を抑制した不活性ガス雰囲気又は真空であることが好ましい。不活性ガスを用いる場合、アルゴン、ヘリウム、窒素等が好ましい。不活性ガス雰囲気とする場合の圧力は、好ましくは0.01~10000Pa、より好ましくは20~10000Paである。
【0029】
レーザーを照射する場合、効率よい製膜性の観点から、基材を予熱しておくことが好ましい。予熱温度は、好ましくは200℃以上、より好ましくは400℃以上である。例えば、赤外線ランプ、ハロゲンランプ等を用いて予熱する方法、抵抗加熱、高周波誘導加熱、マイクロ波加熱等の利用により予熱する方法が挙げられる。
【0030】
ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物を基材の表面に滞留させてレーザーを照射すると、ジルコニウム原子含有有機化合物が分解して炭化ジルコニウムが生成する。そして、温度上昇が飽和した時点で製膜を開始し、酸素含有量が16原子%以下の炭化ジルコニウムからなる緻密な無機被膜が形成される。
【0031】
本発明における第1態様の製造方法で用いる装置は、特に限定されない。
【0032】
本発明における第2態様の製造方法は、ジルコニウム原子を含む有機化合物(ジルコニウム原子含有有機化合物)の気化物と、珪素原子を含む有機化合物(以下、「ジルコニウム原子含有有機化合物」という)の気化物とを基材の表面に滞留させた状態で、これらの気化物にレーザーを照射することを特徴とする。
【0033】
本発明における第2態様の製造方法では、ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物及び珪素原子含有有機化合物の気化物が用いられる。ジルコニウム原子含有有機化合物としては、第1態様の製造方法で用いることができる化合物を適用することができる。珪素原子含有有機化合物は、沸点において分解することなく気化するものであれば、特に限定されず、好ましくは、炭素原子、水素原子及び珪素原子を含む化合物であり、より好ましくは、20℃~300℃の温度で気化する化合物である。
炭素原子、水素原子及び珪素原子を含む珪素原子含有有機化合物としては、一般式:SinHm(CaH2a+1)(2n+2-m)(式中、aは1~5の整数、nは1~10の整数、mは1~10の整数)等で表される直鎖状シラン、一般式:SijHk(CbH2b+1)(2j-1)(式中、bは1~5の整数、jは1~10の整数、kは1~10の整数)で表される環状シラン等が挙げられる。これらの化合物は、気化後に腐食性ガスを発生させないことから好ましく用いられる。上記珪素原子含有有機化合物としては、Si(CH3)4、Si2(CH3)6(ヘキサメチルジシラン)、Si2H2(CH3)4、Si2(C2H5)6、C7Si3H22、Si4(CH3)8、Si5H5(CH3)5、Starfire社製「CVD-4000」(商品名)等が挙げられる。
【0034】
珪素原子含有有機化合物の気化物を調製する方法は、特に限定されず、従来、公知の加熱方法、バブリング方式による気化方法等が適用される。
第2態様の製造方法で用いられる珪素原子含有有機化合物の気化物は、1種のみでも、2種以上でもよい。
【0035】
第2態様の製造方法において、レーザーを照射する前には、ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物及び珪素原子含有有機化合物の気化物の混合物を基材の表面に滞留させる。混合物を供給する方法は、特に限定されず、連続的供給又は間欠的供給により、製膜を安定的に進めることができる。混合物を供給する場合、キャリヤーガス(不活性ガス)を利用する方法、真空引きにより混合物を流動させる方法等が挙げられる。混合物の供給速度は、好ましくは5~2000sccm、より好ましくは10~200sccmである。
また、第2態様の製造方法は、好ましくは、減圧条件下で製膜する方法である。減圧時の圧力は、好ましくは20~10000Pa、より好ましくは100~2000Paである。
尚、基材の表面において、ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物と、珪素原子含有有機化合物の気化物とが、所定の割合の混合物となる限りにおいて、これらの気化物を、別々に基材の表面に供給してもよい。
【0036】
本発明における第2態様の製造方法では、ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物及び珪素原子含有有機化合物の気化物の混合物を基材の表面に滞留させた状態で、該混合物にレーザーを照射する。使用するレーザーは特に限定されず、第1態様の製造方法で用いることができるレーザーを適用することができる。
【0037】
ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物及び珪素原子含有有機化合物の気化物の混合物に照射するレーザーのパワー密度は、緻密な無機被膜が得られることから、60W/cm2以上であり、好ましくは80~500W/cm2、より好ましくは90~200W/cm2である。上記混合物に照射するレーザーのパワー密度は、終始一定であってよいし、変化させてもよい。
【0038】
レーザーの照射時間は、製膜面積、無機被膜の厚さ等により、適宜、選択されるが、通常、30秒間~60分間である。
レーザーを照射する方法、レーザーを照射する場合の雰囲気及び基材の予熱は、第1態様の製造方法におけると同様とすることができる。
【0039】
ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物及び珪素原子含有有機化合物の気化物の混合物を基材の表面に滞留させてレーザーを照射すると、ジルコニウム原子含有有機化合物が分解して炭化ジルコニウムが生成され、珪素原子含有有機化合物が分解して炭化珪素が生成され、これらが均一に混合された緻密な無機被膜が形成される。
【0040】
本発明における第2態様の製造方法で用いる装置は、特に限定されない。
【0041】
本発明における第1態様の製造装置は、内部に基材が載置される製膜室と、該製膜室の中に、ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物を供給する原料ガス供給手段と、基材の表面にレーザーを照射するレーザー照射手段と、を備える。
また、本発明における第2態様の製造装置は、内部に基材が載置される製膜室と、該製膜室の中に、ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物、及び、珪素原子含有有機化合物の気化物の混合物を供給する原料ガス供給手段と、基材の表面にレーザーを照射するレーザー照射手段と、を備える。
【0042】
図1は、第1態様の製造装置とすることができる第2態様の製造装置の概略図である。即ち、
図1の製造装置1は、内部に基材22が載置される製膜室2と、原料ガスを供給する原料ガス供給手段6と、基材22の表面にレーザーを発振するレーザー照射手段4(光源)と、を備える。基材22は、これを予熱可能な基材支持台14の上に載置される。基材22を予熱する場合には、発熱抵抗体、マイクロ波等を利用する加熱手段、赤外線ランプ、ハロゲンランプ等を用いることができる。また、基材支持台14は、その表面で基材22を回転又は移動させる機能を備えることができる。
無機被膜は、原料ガス供給手段6から供給された原料ガスを基材22の表面に滞留させた状態で、レーザー照射手段4からレーザーを照射することにより形成される。レーザーの光路が固定される場合には、基材支持台14の上の基材22を動かしながらレーザーを照射し、基材22の表面に大面積の無機被膜を形成することができる。また、基材支持台14の上の基材22を固定した場合には、レーザーをスキャンさせながら若しくは光拡散レンズ16を介して光路を変化させながらレーザーを照射し、基材22の表面に大面積の無機被膜を形成することができる。光拡散レンズ16の構成材料は、レーザーの種類又は波長により適宜、選択され、石英、BK7、セレン化亜鉛等が挙げられる。
【0043】
第1態様の製造装置で用いる原料ガスは、ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物であり、第2態様の製造装置で用いる原料ガスは、ジルコニウム原子含有有機化合物の気化物、及び、珪素原子含有有機化合物の気化物の混合物である。各気化物は、原料ガス調製手段8において調製される、即ち、気化前の原料化合物を別々に収容した収容槽9,10において、各原料化合物を加熱して気化させることにより調製される。
【0044】
原料ガス供給手段6から製膜室2に原料ガスを供給する好ましい方法としては、キャリヤーガスを利用する方法、及び、製膜室2において真空引きする方法が挙げられ、これらを組み合わせることができる。
キャリヤーガスを利用する場合、
図1に示すように、原料ガス調製手段8より手前にキャリヤーガス供給手段26を備える態様とすることができる。また、図示していないが、製膜室2に入る前の原料ガス供給手段6の途中に連絡するようにキャリヤーガス供給手段を備える態様とすることもできる。
また、製膜室2において真空引きする場合、
図1に示すように、製膜室2に減圧手段12が接続された態様とすることができる。減圧手段12としては、従来、公知の真空ポンプ等を用いることができる。この場合、製膜室2及び原料ガス供給手段6の接続部(原料ガス導入口)と、基材22と、減圧手段12とが一直線上にあることが好ましい。
【0045】
本発明における第1態様の製造方法及び第2態様の製造方法を利用して、基材の表面に、炭化ジルコニウムからなる層と、炭化ジルコニウム及び炭化珪素の混合層とを交互に備える複合型被覆材を製造することができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。
【0047】
1.原料化合物
ジルコニウム原子含有有機化合物として、Aldrich社製テトラキスエチルメチルアミノジルコニウム(TEMAZ、型番:553131-5G)を用いた。
珪素原子含有有機化合物として、Starfire社製「CVD-4000」(商品名)を用いた。
【0048】
2.基材
基材として、下記の2種を用いた。
(1)炭素からなる円板状の基材
三協カーボン社製品を用いた。サイズは、φ10mm×1mmである。
(2)アルミナからなる円板状の基材
表面(製膜面)を鏡面研磨処理したアルミナ基材(自作)であり、サイズは、φ15mm×3mmである。
【0049】
3.製造装置
下記の実施例1-1~1-4、実施例2-1及び比較例1-1では、
図1に示す製造装置1を用いた。
図1の製造装置1は、内部に基材22が載置される製膜室2と、この製膜室2の中に、原料ガスを供給する原料ガス供給手段6と、基材22の表面にレーザーを照射するレーザー照射手段4とを備える。原料ガス供給手段6から製膜室2に供給する気化物(原料ガス)は、原料化合物(ジルコニウム化合物又は珪素化合物)を別々に収容する収容槽9,10において、これらの化合物をヒーター11により加熱して調製した。下記の実験例では、キャリヤーガス供給手段26により、アルゴンガスをキャリヤーガスとして用い、原料ガスとの混合ガスを製膜室2に供給した。レーザー照射手段4は、Nd:YAGレーザー(波長:1064nm)を発振する光源を備えるものとし、集光するためのレンズ16を配置した。基材22は、レーザー照射手段4から放射されるレーザーの光路延長上であって、基材22の予熱が可能な耐熱性の支持台14の上に載置した。レーザーを照射して基材22の表面に製膜しているときの温度は、温度測定器20を用いて測定した。また、製膜室2の内部は、不活性ガス雰囲気又は減圧とすることができるが、下記の実験例では、減圧手段12として、油回転式真空ポンプを製膜室2に接続した。
【0050】
4.ZrC膜の製造及び評価
実施例1-1
ジルコニウム原子含有有機化合物収容槽9に、テトラキスエチルメチルアミノジルコニウムを収容し、ヒーター11により85℃~105℃に加熱して原料ガスを調製した。そして、400℃に予熱した支持台14の上に基材22(炭素板)を載置し、製膜室2の内部を減圧雰囲気としたところで、原料ガスをアルゴンガス(キャリヤーガス)とともに流量50sccmで製膜室2に供給した。その後、パワー密度を83W/cm
2としたレーザーを炭素基材22の表面に10分間照射した。尚、上記パワー密度は、光拡散レンズ16及び窓材18に入射する前のレーザーの出力を照射面積で除することにより算出した。製膜中の基材表面の温度は1100℃であり、製膜室2の内圧は300Paであった。原料ガスの供給を停止後、レーザーの照射を終了し、(真空ポンプは駆動したままで)製膜室2の内圧を50Pa以下として、基材表面温度が400℃以下に降温した後、真空ポンプを停止し、(製膜室2を大気圧に開放後、)製膜室2から無機被膜付き基材を取り出した。得られた無機被膜の厚さは35μmであり、この厚さと製膜時間とから算出される製膜速度は210μm/時であった。
得られた無機被膜をX線回折測定に供したところ、非晶質であることが分かった(
図2参照)。また、無機被膜の組成をEDXにより分析したところ、不純物成分として酸素を14原子%、窒素を1.8原子%含有するZrC
0.86であった。更に、無機被膜の表面及び断面(破断面)を、日本電子社製走査型電子顕微鏡「JSM-IT300HR/LV」(型式名)により観察し、それぞれ、
図3及び
図4の画像を得た。
図4から、緻密な無機被膜が基材に密着していることが分かる。
【0051】
実施例1-2
レーザーのパワー密度を116W/cm
2とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、無機被膜を得た。製膜中の基材表面の温度は1180℃であった。無機被膜の厚さは6.6μmであり、製膜速度は40μm/時であった。
得られた無機被膜をX線回折測定に供したところ、立方晶ZrCであることが分かった(
図2参照)。また、無機被膜の組成は、不純物成分として酸素を3.2原子%、窒素を2.2原子%含有するZrC
0.71であった。更に、無機被膜の断面観察を行ったところ、緻密な無機被膜が基材に密着していることが分かった(図示せず)。
【0052】
実施例1-3
レーザーのパワー密度を142W/cm
2とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、無機被膜を得た。製膜中の基材表面の温度は1270℃であった。無機被膜の厚さは14.3μmであり、製膜速度は86μm/時であった。
得られた無機被膜をX線回折測定に供したところ、立方晶ZrCであることが分かった(
図2参照)。また、無機被膜の組成は、不純物成分として酸素を6.9原子%、窒素を1.6原子%含有するZrC
0.81であった。更に、無機被膜の表面並びに断面(破断面及びイオンミリングにより平滑加工した後の断面)を、走査型電子顕微鏡により観察し、
図5(表面)、
図6(破断面)及び
図7(平滑加工後断面)の画像を得た。
図6及び
図7から、緻密な無機被膜が基材に密着していることが分かる。
【0053】
実施例1-4
基材22を炭素板に代えてアルミナ板とし、レーザーのパワー密度を114W/cm
2とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い(但し、製膜時間は5分間)、無機被膜を得た。製膜中の基材表面の温度は1230℃であった。無機被膜の厚さは4.7μmであり、製膜速度は56.4μm/時であった。
得られた無機被膜をX線回折測定に供したところ、立方晶ZrCであることが分かった(
図8参照)。また、無機被膜の組成は、不純物成分として酸素を4.5原子%、窒素を1.6原子%含有するZrC
0.47であった。更に、無機被膜の断面(イオンミリングにより平滑加工した後の断面)を、走査型電子顕微鏡により観察し、
図9の画像を得た。
図9から、緻密な無機被膜が基材に密着していることが分かる。
【0054】
比較例1-1
レーザーのパワー密度を51W/cm
2とした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、無機被膜を得た。製膜中の基材表面の温度は965℃であった。無機被膜の厚さは3.5μmであり、製膜速度は21μm/時であった。
得られた無機被膜をX線回折測定に供したところ、非晶質であることが分かった(図示せず)。また、無機被膜の組成は、Zr原子に対するC原子のモル比は0.42であり、不純物成分として酸素を18原子%、窒素を1.0原子%含有していた。更に、無機被膜の表面並びに断面(破断面及びイオンミリングにより平滑加工した後の断面)を、走査型電子顕微鏡により観察し、
図10(表面)、
図11(破断面)及び
図12(平滑加工後断面)の画像を得た。
図10及び
図12から、表面のクラックが顕著であり、
図11から、無機被膜が多数の細かな空隙を含み、緻密ではないことが分かる。
【0055】
5.ZrC・SiC複合膜の製造
実施例2-1
ジルコニウム原子含有有機化合物収容槽9に、テトラキスエチルメチルアミノジルコニウム(TEMAZ)を収容し、ヒーター11により85℃~105℃に加熱して第1原料ガスを調製した。一方、珪素原子含有有機化合物収容槽10に、CVD-4000を収容し、ヒーター11により65℃に加熱して第2原料ガスを調製した。そして、400℃に予熱した支持台14の上に基材22(炭素板)を載置し、製膜室2の内部を減圧雰囲気としたところで、第1原料ガスをアルゴンガス(キャリヤーガス)とともに流量60sccmで、第2原料ガスをアルゴンガス(キャリヤーガス)とともに流量40sccmで製膜室2に供給した。その後、パワー密度を96W/cm
2としたレーザーを基材22の表面に10分間照射した。製膜中の基材表面の温度は1050℃であった。無機被膜の厚さは約50μmであり、製膜時間とから算出される製膜速度は300μm/時であった。
得られた無機被膜をX線回折測定に供したところ、立方晶ZrC及び六方晶SiCの回折ピークが現れた(
図13参照)。また、無機被膜の組成をEDXにより分析したところ、ZrC/SiC成分比(モル比)は22/78であった。尚、不純物成分として酸素を0.9原子%、窒素を1.4原子%含有していた。更に、無機被膜の表面及び断面(破断面及びイオンミリングにより平滑加工した後の断面)を、走査型電子顕微鏡により観察し、
図14(表面)、
図15(破断面)及び
図16(平滑加工後断面)の画像を得た。
図15及び
図16から、緻密な無機被膜が基材に密着していることが分かる。また、無機被膜におけるZrC及びSiCの分布を調べるため、
図16の観察画像における元素マッピング処理を行い、
図17及び
図18の画像を得た。
図17は、珪素原子を反映する反射電子像であり、点状の白い部分に珪素原子が存在することを示す。
図18は、ジルコニウム原子を反映する反射電子像であり、点状の白い部分に珪素原子が存在することを示す。
図17及び
図18から、無機被膜は、ZrC及びSiCが均一な混合状態にあることが分かる。
【0056】
6.まとめ
表1に、以上の実験結果を簡単に示す。
比較例1-1は、本発明に含まれない例であり、無機被膜の緻密性が不十分であった。一方、実施例1-1~1-4及び実施例2-1は、本発明の例であり、緻密質で均質な無機被膜を有する被覆材を得ることができた。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の被覆材は、航空機又は宇宙機に用いられる高温部品、原子力関連の高温部品、加熱炉、その他、各種プラントにおける高温部品等への適用に好適である。
【符号の説明】
【0058】
1:製造装置
2:製膜室
4:レーザー照射手段
6:原料ガス供給手段
8:原料ガス調製手段
9:ジルコニウム原子含有有機化合物収容槽
10:珪素原子含有有機化合物収容槽
11:ヒーター
12:減圧手段
14:基材支持台
16:光拡散レンズ
18:窓材
20:温度測定器
22:基材
24:質量流量制御器
26:キャリヤーガス供給手段