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特許7526485有機廃棄物の前処理方法、有機廃棄物の処理方法および有機廃棄物の前処理剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】有機廃棄物の前処理方法、有機廃棄物の処理方法および有機廃棄物の前処理剤
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/60 20220101AFI20240725BHJP
   B09B 3/00 20220101ALI20240725BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240725BHJP
   A01K 67/033 20060101ALI20240725BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
B09B3/60
B09B3/00 ZAB
C12N1/20 D
C12N1/20 A
C12N1/20 F
A01K67/033 502
A61L9/01 P
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021011258
(22)【出願日】2021-01-27
(65)【公開番号】P2022114817
(43)【公開日】2022-08-08
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】霜田 政美
(72)【発明者】
【氏名】上原 拓也
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-181379(JP,A)
【文献】特開2014-083025(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0360008(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1396182(KR,B1)
【文献】特開2002-020190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B
C12N
A01K
A61L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機廃棄物を処理する前に、ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物を、有機廃棄物に添加することを特徴とする、有機廃棄物の前処理方法。
【請求項2】
前記前処理が、有機廃棄物の臭気発生抑制である、請求項1に記載の前処理方法。
【請求項3】
前記ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物が、ミズアブ幼虫の排泄物又は前記排泄物の処理物である、請求項1又は2に記載の前処理方法。
【請求項4】
前記排泄物が糞である、請求項3に記載の前処理方法。
【請求項5】
前記ミズアブ幼虫の腸内細菌叢が、グラム陽性細菌及びプロテオバクテリアから選ばれる少なくとも1種の細菌を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の前処理方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の前処理方法で処理した有機廃棄物の前処理物を、食餌として与えてミズアブ幼虫を飼育することを特徴とする、有機廃棄物の処理方法。
【請求項7】
前記前処理が、有機廃棄物の臭気発生抑制である、請求項6に記載の処理方法。
【請求項8】
前記ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物が、ミズアブ幼虫の排泄物又は前記排泄物の処理物である、請求項6又は7に記載の処理方法。
【請求項9】
前記排泄物が糞である、請求項8に記載の処理方法。
【請求項10】
前記ミズアブ幼虫の腸内細菌叢が、グラム陽性細菌及びプロテオバクテリアから選ばれる少なくとも1種の細菌を含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項11】
ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物を含有する、有機廃棄物の前処理剤。
【請求項12】
前記前処理が、有機廃棄物の臭気発生抑制である、請求項11に記載の前処理剤。
【請求項13】
前記ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物が、ミズアブ幼虫の排泄物又は前記排泄物の処理物である、請求項11又は12に記載の前処理剤。
【請求項14】
前記排泄物が糞である、請求項13に記載の前処理剤。
【請求項15】
前記ミズアブ幼虫の腸内細菌叢が、グラム陽性細菌及びプロテオバクテリアから選ばれる少なくとも1種の細菌を含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の前処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機廃棄物の前処理方法、有機廃棄物の処理方法および有機廃棄物の前処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、世界で生産される食料の約1/3が消費されずに廃棄されている。日本国内だけでも、年間2,000万トンの生ゴミ、年間1億トンに及ぶ有機系産業廃棄物が発生し、大きな社会問題になっている。一方で、魚類や家畜の飼料を確保するために、地球上の生態系にゆがみが生じるほどの資源乱獲や資源消費型の農業生産が行われている。また、これらの過程で生じる有機系廃棄物の処理ではエタノール・メタン発酵や加熱焼却による最終処分が行われており、地球温暖化の原因である温室効果ガスの発生源になっている。
【0003】
地球温暖化を防ぐ真の持続的循環型社会の実現は、人類が生き延びるために地球規模で取り組むべき課題であり、主要国だけでも年間数百メガトンに及ぶ有機系廃棄物の処理問題もそのひとつといえる。
【0004】
しかしながら、現在、有機系廃棄物の効果的かつ経済性のある資源回収技術は十分に確立されておらず、化石燃料を必要としないリサイクル技術が存在しない。この問題を解決するために、生ゴミや糞尿などの有機系廃棄物をよく食べて育つことのできる腐食性昆虫に注目し、その一種であるミズアブを利用した有機系廃棄物の分解・再資源化方法の開発を進められている(例えば、特許文献1)。育ったミズアブは家畜の高タンパク質・高脂質飼料として有効であり、化石燃料をほとんど必要としないリサイクル技術として産業化が期待できる。
【0005】
現在、ミズアブの大量生産は、餌を金属製平型トレーに入れて幼虫を飼育する大型の飼育装置で行われている。リサイクル事業では、餌として、生ゴミなどの食品廃棄物、農業残渣、家畜糞尿を用いており、作業の効率化や水分蒸発の促進のために、飼育容器には蓋をせずにミズアブを飼育している。
したがって、生ゴミなどの食品廃棄物、農業残渣、家畜糞尿は、雑菌の繁殖などにより、ひどい悪臭を発生する。リサイクルプラントでは、これらの餌・分解物から発生する悪臭対策が必要になるが、蓋を使わない開放系のため、その対策は容易でない。また、飼育作業員の労働環境という点でも、悪臭を発生しない飼育技術を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-181379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、有機廃棄物から生じる臭気の発生を抑制することができる有機機廃棄物の前処理方法、有機廃棄物の処理方法および有機廃棄物の前処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ミズアブ幼虫により有機廃棄物を処理する前に、ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物を、有機廃棄物に添加することにより、有機廃棄物の臭気の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
[1] ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物を、有機廃棄物に添加することを特徴とする、有機廃棄物の前処理方法。
[2] 前記前処理が、有機廃棄物の臭気発生抑制である、[1]に記載の前処理方法。
[3] 前記ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物が、ミズアブ幼虫の排泄物又は前記排泄物の処理物である、[1]又は[2]に記載の前処理方法。
[4] 前記排泄物が糞である、[3]に記載の前処理方法。
[5] 前記ミズアブ幼虫の腸内細菌叢が、グラム陽性細菌及びプロテオバクテリアから選ばれる少なくとも1種の細菌を含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の前処理方法。
[6] ミズアブ幼虫を飼育し、[1]~[5]に記載の前処理方法で処理した有機廃棄物の前処理物を、食餌として与えることを特徴とする、有機廃棄物の処理方法。
[7] 前記前処理が、有機廃棄物の臭気発生抑制である、[6]に記載の処理方法。
[8] 前記ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物が、ミズアブ幼虫の排泄物又は前記排泄物の処理物である、[6]又は[7]に記載の処理方法。
[9] 前記排泄物が糞である、[8]に記載の処理方法。
[10] 前記ミズアブ幼虫の腸内細菌叢が、グラム陽性細菌及びプロテオバクテリアから選ばれる少なくとも1種の細菌を含む、[6]~[9]のいずれか一項に記載の処理方法。
[11] ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物を含有する、有機廃棄物の前処理剤。
[12] 前記前処理が、有機廃棄物の臭気発生抑制である、[11]に記載の前処理剤。
[13] 前記ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物が、ミズアブ幼虫の排泄物又は前記排泄物の処理物である、[11]又は[12]に記載の前処理剤。
[14] 前記排泄物が糞である、[13]に記載の前処理剤。
[15] 前記ミズアブ幼虫の腸内細菌叢が、グラム陽性細菌及びプロテオバクテリアから選ばれる少なくとも1種の細菌を含む、[11]~[14]のいずれか一項に記載の前処理剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有機廃棄物から生じる臭気の発生を抑制することができる有機廃棄物の前処理方法、有機廃棄物の処理方法および有機廃棄物の前処理剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ミズアブ幼虫による有機廃棄物の前処理方法及び有機廃棄物の処理方法の概略を示した図である。
図2】実施例1において、対照区と処理区の二硫化メチル発生量を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[有機廃棄物の前処理方法]
本発明の有機廃棄物の前処理方法は、ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物を、有機廃棄物に添加することを特徴とする。本発明の有機廃棄物の前処理方法により、有機廃棄物から生じる臭気の発生を抑制することができる。有機廃棄物から生じる臭気としては、特に制限はないが、特定悪臭成分の他、カビ臭、糞便臭等が挙げられる。有機廃棄物から生じる臭気の具体例としては、例えば、アンモニア、メチルメルカプタン、硫化水素、硫化メチル、ニ硫化メチル、トリメチルアミン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ノルマルバレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、イソブタノール、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、トルエン、スチレン、キシレン、プロピオン酸、ノルマル酪酸、ノルマル吉草酸、イソ吉草酸、ジアセチル、スカトール、インドール、メタンチオール、三硫化ジメチル、トリブロモアニソール、トリクロロアニソール、ジオスミン、2-ノネナール、ピリジン等が挙げられる。
本発明において、ミズアブ幼虫の腸内細菌叢としては、1種以上のミズアブ幼虫の腸内に生存する腸内細菌群を含むものであれば特に制限はなく、例えば、ミズアブ幼虫の糞、ミズアブ幼虫の消化物等の排泄物、ミズアブ幼虫の粉砕物等が挙げられる。ミズアブ幼虫の腸内細菌としては、例えば、グラム陽性細菌、プロテオバクテリア等の細菌が挙げられる。グラム陽性細菌としては、例えば、バシラス(Bacillus)属、クロストリジウム(Clostridium)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、アトポスティペス(Atopostipes)属、ラクトバシラス(Lactobacillus)属、ティシエレラ(Tissierella)属等に属する細菌が挙げられる。プロテオバクテリアとしては、例えば、Ignatzschineria属、モーガネラ(Morganella)属、プロビデンシア(Providencia)属等に属する細菌が挙げられる。
【0013】
ミズアブ幼虫の腸内細菌叢の処理物としては、例えば、前記ミズアブ幼虫の糞、ミズアブ幼虫の消化物等の排泄物やミズアブ幼虫の粉砕物の乾燥物、前記乾燥物を水性媒体に懸濁したときの上清等が挙げられる。前記水性媒体としては、水、生理食塩水、各種緩衝液等が挙げられる。
前記ミズアブ幼虫の腸内細菌叢の処理物には、ミズアブ幼虫由来の抗菌タンパク質や分解酵素を含んでいてもよい。ミズアブ幼虫由来の抗菌タンパク質や分解酵素を含むことにより、本発明の前処理効果を向上させることができる。例えば、ミズアブ幼虫の腸内細菌叢の処理物が、前記抗菌タンパク質や分解酵素を含むことにより、有機廃棄物から生じる臭気の発生の抑制効果を向上させることができる。前記分解酵素としては、プロテアーゼ、ペクチナーゼ等が挙げられる。前記抗菌タンパク質としては、ディフェンシン、アタシン、ディプテリシン、セクロピン、ドロソシン等が挙げられる。
【0014】
本発明において、ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物を、有機廃棄物に添加する方法としては、特に制限はなく、例えば、ミズアブ幼虫の糞を直接有機廃棄物に添加する方法や、ミズアブ幼虫の糞を水に懸濁して得られた上清を、有機廃棄物に噴霧する方法等が挙げられる。
【0015】
ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物の添加量としては、有機廃棄物の全質量に対して、好ましくは、0.1~90質量%、より好ましくは、0.1~80質量%、さらに好ましくは、0.1~70質量%であり、特に好ましくは0.1~60質量%であり、例えば、0.1~50質量%、0.1~40質量%、0.1~30質量%、0.1~20質量%、0.1~10質量%、1~50質量%、1~40質量%、1~30質量%、1~20質量%、1~10質量%、5~90質量%、5~80質量%、5~70質量%、5~60質量%、5~50質量%、5~40質量%、5~30質量%、5~20質量%、5~10質量%、10~90質量%、10~80質量%、10~70質量%、10~60質量%、10~50質量%、10~40質量%、10~30質量%、10~20質量%等であってもよい。
【0016】
本発明の有機廃棄物の前処理方法及び本発明の有機廃棄物の処理の概略を図1に示す。本発明の有機廃棄物の前処理方法は、具体的には、以下の(a)~(d)工程を含む方法が挙げられる(図1のa~c)。
(a)ミズアブ幼虫を飼育する工程;
(b)ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物を採取する工程;及び
(c)前記工程(b)で得られたミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物を、有機廃棄物に添加し、混合し、前記ミズアブ幼虫の腸内細菌又はその処理物により有機廃棄物を処理する工程。
【0017】
工程(a)において、ミズアブ幼虫を飼育する方法としては、特に制限はなく、例えば、ミズアブ飼育槽を設置し、前記ミズアブ飼育槽に有機廃棄物又はその粉砕物を投入し、前記ミズアブ飼育槽においてミズアブの成虫を飼育し、ミズアブの成虫が有機廃棄物に産み付けた卵を孵化することによりミズアブ幼虫を生産することができる。例えば、図1において、幼虫飼育槽において、ミズアブ幼虫に、有機廃棄物又はその粉砕物を食餌として与えることにより、飼育することができる。ミズアブ幼虫を飼育する温度は、20~40℃が好ましく、25~30℃がより好ましい。
【0018】
工程(b)において、ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物を採取する方法としては、例えば、ミズアブ幼虫の飼育槽で得られた、ミズアブ幼虫が有機廃棄物を食べた後の残渣及び糞と、ミズアブ幼虫とを篩にかけ、ミズアブ幼虫が有機廃棄物を食べた後の残渣と糞を採取する方法が挙げられる。前記ミズアブ幼虫が有機廃棄物を食べた後の残渣と糞とは、分別しても、分別しなくてもよいが、分別しない方が工程を短縮できるため好ましい。
【0019】
工程(c)において、有機廃棄物としては、特に制限はなく、例えば、生ゴミ、豆腐製造の際に生じる大豆の搾りかす、動物糞尿等が挙げられる。有機廃棄物は、粉砕し、混合したものを用いるのが好ましい。
工程(c)において、工程(b)で得られたミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物を、有機廃棄物に添加する方法としては、例えば、工程(b)で得られたミズアブ幼虫の糞又は糞を含有する有機廃棄物の残渣を、直接、有機廃棄物に添加してもよいし、工程(b)で得られたミズアブ幼虫の糞又は糞を含有する有機廃棄物の残渣を乾燥させたものを、有機廃棄物に添加してもよい。
【0020】
また、工程(b)で得られたミズアブ幼虫の糞又は糞を含有する有機廃棄物の残渣又はその乾燥物を水性媒体に懸濁し、得られた上清を、有機廃棄物に添加してもよい。前記水性媒体としては前記したものが挙げられる。
【0021】
なお、工程(c)で得られた有機廃棄物の処理物は、そのまま、工程(a)のミズアブ幼虫の飼育に用いる有機廃棄物と再混合することができる。この(a)~(c)のサイクルを回すことにより、有機廃棄物が腐敗し、臭気を発生することを抑制しつつ、有機廃棄物を効率よくミズアブ幼虫により処理することができる。
【0022】
本発明の有機廃棄物の前処理方法により、有機廃棄物から生じる臭気の発生を抑制することができる。有機廃棄物から生じる臭気は、例えば、捕集管、担体等に採取し、ガスクロマトグラフィー質量分析器等の測定機器等により測定することができる。また、パネラーによる官能試験により臭気を評価することもできる。
【0023】
[有機廃棄物の処理方法]
本発明の有機廃棄物の処理方法は、前記有機廃棄物の前処理方法で処理した有機廃棄物を、食餌として与えてミズアブ幼虫を飼育することを特徴とする。本発明の有機廃棄物の処理方法により、有機廃棄物から生じる臭気の発生を抑制しながら、ミズアブ幼虫により有機廃棄物を処理することができる。
【0024】
本発明の有機廃棄物の処理方法は、具体的には、以下の工程(d)~(f)の工程を含む方法が挙げられる(図1のd~f)。
【0025】
(d)前記有機廃棄物の前処理方法で処理した有機廃棄物を、食餌として与えてミズアブ幼虫を飼育し、前記前処理方法で処理した有機廃棄物を処理する工程;
(e)前記工程(d)で得られた有機廃棄物の処理物から、ミズアブ幼虫と有機廃棄物の残渣を分別する工程;及び、
(f)前記工程(d)で得られた有機廃棄物の残渣を乾燥させる工程。
【0026】
前記工程(d)において、前記有機廃棄物の前処理方法で処理した有機廃棄物は、前記前処理工程の工程(a)のミズアブ幼虫の飼育の際に用いる有機廃棄物と再混合したものであってもよい。ミズアブ幼虫の飼育方法は、前記有機廃棄物の前処理方法の工程(a)に記載した方法と同様である。
【0027】
前記工程(e)において、ミズアブ幼虫と有機廃棄物の残渣を分別する方法としては、ミズアブ幼虫と有機廃棄物の残渣を分別できる方法であれば特に制限はないが、例えば、ミズアブ幼虫と有機廃棄物の残渣を篩にかけ、分別する方法等が挙げられる。
【0028】
前記工程(f)において、有機廃棄物の残渣を乾燥させる方法としては、例えば、特に制限はないが、例えば、自然乾燥、温風乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。前記工程(f)は、前記有機廃棄物の残渣を乾燥させた後、必要に応じ、前記乾燥物を成形する工程を含んでもよい。成形する方法としては、射出成形、押出し成形、真空成形、圧縮成形等が挙げられる。
【0029】
[有機廃棄物の前処理剤]
本発明の有機廃棄物の前処理剤は、ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物を含有する。本発明の有機廃棄物の前処理剤により、有機廃棄物から生じる臭気の発生を抑制することができる。
【0030】
本発明において、ミズアブ幼虫の腸内細菌叢としては、1種以上のミズアブ幼虫の腸内に生存する腸内細菌群を含むものであれば特に制限はなく、例えば、ミズアブ幼虫の糞、ミズアブ幼虫の消化物等の排泄物、ミズアブ幼虫の粉砕物等が挙げられる。ミズアブ幼虫の腸内細菌としては、例えば、グラム陽性細菌、プロテオバクテリア等の細菌が挙げられる。グラム陽性細菌としては、例えば、バシラス(Bacillus)属、クロストリジウム(Clostridium)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、アトポスティペス(Atopostipes)属、ラクトバシラス(Lactobacillus)属、ティシエレラ(Tissierella)属等に属する細菌が挙げられる。プロテオバクテリアとしては、例えば、Ignatzschineria属、モーガネラ(Morganella)属、プロビデンシア(Providencia)属等に属する細菌が挙げられる。
【0031】
ミズアブ幼虫の腸内細菌叢の処理物としては、例えば、前記ミズアブ幼虫の糞、ミズアブ幼虫の消化物等の排泄物やミズアブ幼虫の粉砕物の乾燥物、前記乾燥物を水性媒体に懸濁したときの上清等が挙げられる。前記水性媒体としては、水、生理食塩水、各種緩衝液等が挙げられる。
前記ミズアブ幼虫の腸内細菌叢の処理物には、ミズアブ幼虫由来の抗菌タンパク質や分解酵素を含んでいてもよい。ミズアブ幼虫由来の抗菌タンパク質や分解酵素を含むことにより、本発明の前処理効果を向上させることができる。例えば、ミズアブ幼虫の腸内細菌叢の処理物が、前記抗菌タンパク質や分解酵素を含むことにより、有機廃棄物から生じる臭気の発生の抑制効果を向上させることができる。前記分解酵素及び前記抗菌タンパク質としては、前記したものが挙げられる。
【0032】
本発明の有機廃棄物の前処理剤に含まれる、ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物の含有量としては、前記前処理剤の全質量に対して、好ましくは、1~90質量%、より好ましくは、1~80質量%、さらに好ましくは、1~70質量%であり、特に好ましくは1~60質量%であり、例えば、1~50質量%、1~40質量%、1~30質量%、1~20質量%、1~10質量%、5~90質量%、5~80質量%、5~70質量%、5~60質量%、5~50質量%、5~40質量%、5~30質量%、5~20質量%、5~10質量%、10~90質量%、10~80質量%、10~70質量%、10~60質量%、10~50質量%、10~40質量%、10~30質量%、10~20質量%等であってもよい。
【0033】
本発明の有機廃棄物の前処理剤は、ミズアブ幼虫の腸内細菌叢又はその処理物の他に、他の添加物を含んでいてもよい。前記添加物としては、防腐剤、賦形剤、着色剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【実施例
【0034】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]
有機廃棄物10mLを入れたガラス管に、有機廃棄物としておからを3g入れ、そこへ既にミズアブ幼虫が分解した、ミズアブ幼虫の糞を含む有機廃棄物の残渣(残渣1~4)を0.3g(10質量%)加えたものを処理区とし、前記残渣を添加しない、おからのみの区を対照区とした。それぞれ25℃で7日間インキュベートした後、ガラス管の気相部分をオートサンプラー(MPS,GERSTEL社製)で採取し、熱脱着装置(TDU-2,CIS 4 Cooled Injection System,GERSTEL社製)で4回濃縮した後に、ガスクロマトグラフィー質量分析器(GC-MS,GC 7890A/MS 5977B MSD,Agilent technologies社製)へ導入した。気相中の臭気成分を濃縮したライナーは12℃/secの昇温条件で250℃まで加熱し、10分間温度を保持することで、GC-MSへ導入した。GC-MSにはDB-5MS UI(長さ30m×直径0.25mm×膜厚0.25μm,Agilent technologies社製)を装着し、初期温度40℃を3分間保持し、150℃まで10℃/minの条件で加熱し、150℃から280℃まで20℃/minの条件で加熱し、5分間保持した。
マススペクトルはEI法により、70eVでイオン化し、m/z 29からm/z 400までのフラグメントイオンを取得した。得られたフラグメントイオンをライブラリー(NIST17)と照合し、臭気成分を同定した。臭気成分のうち、悪臭防止法で特定悪臭物質に指定されている二硫化メチルについて、GC/MSピーク面積に基づいて処理区と対照区の発生量を比較した。その結果を図2に示す。
図2に示したように、対照区と比較して、残渣1~4を添加した処理区では、二硫化メチルの発生が抑制された。特に、残渣2及び残渣4において抑制効果が顕著であった。
この結果により、有機廃棄物をミズアブ幼虫の細菌叢またはその処理物で前処理することにより、有機廃棄物から発生する臭気が抑制されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、有機廃棄物の前処理方法、有機廃棄物の処理方法および有機廃棄物の前処理剤を提供することができる。
図1
図2