(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】ペロブスカイト型セラミックス成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/486 20060101AFI20240725BHJP
C04B 35/465 20060101ALI20240725BHJP
C04B 35/48 20060101ALI20240725BHJP
C01G 25/00 20060101ALI20240725BHJP
C01G 27/00 20060101ALI20240725BHJP
C01G 23/00 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C04B35/486
C04B35/465
C04B35/48
C01G25/00
C01G27/00
C01G23/00 C
(21)【出願番号】P 2023545104
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2022024122
(87)【国際公開番号】W WO2023032412
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2021141254
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】島田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】野村 勝裕
(72)【発明者】
【氏名】申 ウソク
(72)【発明者】
【氏名】水谷 安伸
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 裕史
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-075700(JP,A)
【文献】特開平07-291607(JP,A)
【文献】特開平07-277710(JP,A)
【文献】特開2012-224508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/486
C04B 35/465
C04B 35/48
C01G 25/00
C01G 27/00
C01G 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属元素と、Ti、Zr及びHfから選ばれた少なくとも1種の元素と、酸素とを含むペロブスカイト型セラミックスからなる成形体の製造方法であって、
Ti、Zr及びHfから選ばれた少なくとも1種の酸化物と、水とを含有するゲルを単独で含む前駆成形体、及び、前記アルカリ土類金属元素の水酸化物を含む液体を接触させる接触反応工程を備え、前記ゲルが非晶質であることを特徴とする、ペロブスカイト型セラミックス成形体の製造方法。
【請求項2】
前記前駆成形体が、前記ゲルからなる粒子の圧粉成形体である請求項1に記載のペロブスカイト型セラミックス成形体の製造方法。
【請求項3】
前記前駆成形体が、前記ゲルからなる粒子、及び、前記ペロブスカイト型セラミックスからなる粒子の混合物の圧粉成形体である請求項1又は2に記載のペロブスカイト型セラミックス成形体の製造方法。
【請求項4】
アルカリ土類金属元素と、Ti、Zr及びHfから選ばれた少なくとも1種の元素と、酸素とを含むペロブスカイト型セラミックス結晶の集合体がドメインを形成し、且つ、該ドメインが複数連結されてなる部分を含み、相対密度が60%以上であることを特徴とするペロブスカイト型セラミックス成形体。
【請求項5】
前記ドメインにおいて、同じ向きに配向する複数の前記ペロブスカイト型セラミックス結晶が含まれる請求項4に記載のペロブスカイト型セラミックス成形体。
【請求項6】
請求項
1に記載のペロブスカイト型セラミックス成形体の製造方法で用いる前駆成形体の原料であって、
Ti、Zr及びHfから選ばれた少なくとも1種の酸化物と、水とを含有するゲルからなるゲル粒子を含み、前記ゲルが非晶質であることを特徴とする、ペロブスカイト型セラミックス成形体製造用前駆成形体の原料。
【請求項7】
前記ゲル粒子の体積平均粒子径が0.05~10μmである請求項6に記載のペロブスカイト型セラミックス成形体製造用前駆成形体の原料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緻密質のペロブスカイト型セラミックス成形体及びその製造方法並びにその製造に用いるペロブスカイト型セラミックス成形体製造用前駆体原料に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム等のペロブスカイト型複合酸化物は、電気機器、電子製品等に好適な圧電材料、誘電材料等として知られている。これらの製品に配設される部材は、その性能を十分に発揮させるために、高密度の焼結体からなるものが好ましいとされている。そして、このような焼結体(焼結成形体)は、従来、複合酸化物の粉末又は粒子と、必要によりバインダーとを混合し、次いで、所定形状の成形体を形成し、その後、例えば、1700℃(ジルコン酸バリウムの場合)といった高い温度で熱処理することにより製造されてきた。
【0003】
上記のような高い温度の製造条件とすることは、大量の熱エネルギーを必要とすることから経済的に好ましくないため、例えば、200℃以下でペロブスカイト型複合酸化物からなる焼結成形体を製造可能な方法が求められていた。
例えば、非特許文献1には、ジルコン酸バリウムの粒子表面をジルコニアゲルでコーティングし、次いで、得られた複合体粒子をプレス成形して、所定形状の成形体とし、その後、この成形体を、75℃の水酸化バリウムの飽和水溶液に浸漬する、ジルコン酸バリウム焼結成形体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Yuki Yamaguchi, J. Ceram. Soc. Jpn., 128 [10] (2020) 747-755
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、60%以上の相対密度を有する緻密質のペロブスカイト型セラミックス成形体を製造する方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、このような成形体の製造に好適なペロブスカイト型セラミックス成形体製造用前駆成形体の原料を提供することである。更に、本発明の他の目的は、緻密質であることで、固体酸化物形燃料電池の電解質等に好適なペロブスカイト型セラミックス成形体を提供することである。
尚、本発明において、ペロブスカイト型セラミックスの相対密度は、X線回折測定及びリートベルト解析により得られた理論密度(ジルコン酸バリウムの場合6.117g/cm3)に対する実測密度の割合である。酸化物含水ゲルの相対密度は、アルキメデス法で測定した酸化物含水ゲル粒子の見かけ密度(ジルコニアゲルの場合3.869g/cm3)に対する実測密度の割合である。また、実測密度(以下、単に「密度」ともいう)は、寸法法により測定された嵩密度である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、非特許文献1に記載された複合体粒子(ジルコン酸バリウムの粒子表面をジルコニアゲルでコーティングしたもの)を用いるよりも、ジルコニアゲルのみ、即ち、Ti、Zr及びHfから選ばれた少なくとも1種の酸化物を含有するゲルからなる粒子を用いると、高い相対密度を有する緻密質のペロブスカイト型セラミックス成形体が得られることを見い出した。
【0007】
本発明は、以下に示される。
(1)アルカリ土類金属元素と、Ti、Zr及びHfから選ばれた少なくとも1種の元素と、酸素とを含むペロブスカイト型セラミックスからなる成形体の製造方法であって、
Ti、Zr及びHfから選ばれた少なくとも1種の酸化物を含有するゲルを単独で含む前駆成形体、及び、上記アルカリ土類金属元素の水酸化物を含む液体を接触させる接触反応工程を備えることを特徴とする、ペロブスカイト型セラミックス成形体の製造方法。
(2)上記ゲルが非晶質である上記(1)に記載のペロブスカイト型セラミックス成形体の製造方法。
(3)上記前駆成形体が、上記ゲルからなる粒子の圧粉成形体である上記(1)又は(2)に記載のペロブスカイト型セラミックス成形体の製造方法。
(4)上記前駆成形体が、上記ゲルからなる粒子、及び、上記ペロブスカイトセラミックスからなる粒子の混合物の圧粉成形体である上記(1)から(3)のいずれか一項に記載のペロブスカイト型セラミックス成形体の製造方法。
(5)アルカリ土類金属元素と、Ti、Zr及びHfから選ばれた少なくとも1種の元素と、酸素とを含むペロブスカイト型セラミックス結晶の集合体がドメインを形成し、且つ、該ドメインが複数連結されてなり、相対密度が60%以上であることを特徴とするペロブスカイト型セラミックス成形体。
(6)上記ドメインにおいて、同じ向きに配向する複数の上記ペロブスカイト型セラミックス結晶が含まれる上記(5)に記載のペロブスカイト型セラミックス成形体。
(7)上記(1)から(4)のいずれか一項に記載のペロブスカイト型セラミックス成形体の製造方法で用いる前駆成形体の原料であって、
Ti、Zr及びHfから選ばれた少なくとも1種の酸化物を含有するゲルからなる粒子を含むことを特徴とする、ペロブスカイト型セラミックス成形体製造用前駆成形体の原料。
(8)上記ゲルが非晶質である上記(7)に記載のペロブスカイト型セラミックス成形体製造用前駆成形体の原料。
(9)上記ゲル粒子の体積平均粒子径が0.05~10μmである上記(7)又は(8)に記載のペロブスカイト型セラミックス成形体製造用前駆成形体の原料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、接触反応工程を、例えば、1000℃以上の高温条件下とすることなく、即ち、大量の熱エネルギーを必要とせずに所望のペロブスカイト型酸化物からなる結晶(ペロブスカイト型セラミックス結晶)が高い密度(相対密度60%以上)で含まれる緻密質のペロブスカイト型セラミックス成形体を効率よく且つ経済的に製造することができる。好ましい態様においては、相対密度を80%以上とすることができる。
本発明によれば、上記の緻密質のペロブスカイト型セラミックス成形体を、セラミックコンデンサ用誘電体、固体酸化物形燃料電池用電解質、ガスセンサ用電解質、全固体電池用の電極又は電解質、光触媒電極等に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のペロブスカイト型セラミックス成形体の結晶組織の1例を示す概略図である。
【
図2】本発明のペロブスカイト型セラミックス成形体の結晶組織の他例を示す概略図である。
【
図3】〔実施例〕で用いた原料粒子X1の粒子径分布を示すグラフである。
【
図4】〔実施例〕で用いた原料粒子X2の粒子径分布を示すグラフである。
【
図5】実験例1で用いた前駆成形体P1のSEM画像である。
【
図6】実験例1で得られたペロブスカイト型セラミックス成形体Q1のSEM画像である。
【
図8】実験例1で得られたペロブスカイト型セラミックス成形体Q1の高倍率FE-SEM画像である。
【
図10】実験例1で得られたペロブスカイト型セラミックス成形体Q1の結晶方位マップの図である。
【
図11】実験例1~8で得られたペロブスカイト型セラミックス成形体Q1~Q8の相対密度を示すグラフである。
【
図12】実験例8で得られたペロブスカイト型セラミックス成形体Q8のSEM画像である。
【
図13】実験例9で用いた前駆成形体P2のSEM画像である。
【
図14】実験例9で得られたペロブスカイト型セラミックス成形体R1のSEM画像である。
【
図15】実験例12で用いた前駆成形体P10のSEM画像である。
【
図16】実験例12で得られたペロブスカイト型セラミックス成形体S1のSEM画像である。
【
図18】実験例13で得られたペロブスカイト型セラミックスのX線回折図形である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、ペロブスカイト型セラミックスは、アルカリ土類金属元素と、Ti、Zr及びHfから選ばれた少なくとも1種の元素と、酸素とを含む、一般式M1M2O3(式中、M1はアルカリ土類金属元素であり、M2はTi、Zr及びHfから選ばれた少なくとも1種の元素である)で表される酸化物である。アルカリ土類金属元素M1は、好ましくはCa、Sr及びBaである。
【0011】
本発明のペロブスカイト型セラミックス成形体の製造方法は、Ti、Zr及びHfから選ばれた少なくとも1種の酸化物を含有するゲルを単独で含む前駆成形体、及び、上記アルカリ土類金属元素の水酸化物を含む液体を接触させる接触反応工程を備え、必要に応じて、後処理工程(後述)を備えることができる。
【0012】
上記接触反応工程において用いる前駆成形体は、上記のゲルを単独で含む物品である。「ゲルを単独で含む」とは、他の成分を含まない「ゲルのみからなる」ことを意味するのではなく、他の成分を含む場合において、例えば、ゲルをマトリックスとしてその中に他の成分が分散されてなる複合物が用いられた結果、「ゲルを単独で含む」構成を有することにならない場合があるため、このような複合体を排除することとしている。従って、本発明に係る前駆成形体は、上記ゲルを必須とし、他の成分を含んでもよい物品である。本発明において、好ましい態様の前駆成形体は、粒子化されたゲル(以下、「ゲルからなる粒子」若しくは「ゲル粒子」という)を含む原料(他の本発明の「ペロブスカイト型セラミックス成形体製造用前駆体原料」を意味し、以下、「前駆体原料」という)がプレス成形されてなる圧粉成形体である。尚、上記ゲルは、ペロブスカイト型セラミックスの結晶により高密度化された成形体の形成性の観点から、好ましくは非晶質である。また、通常、一般式M2O2・nH2O(nは正の数)で表される。
【0013】
上記ゲル粒子の形状は特に限定されず、例えば、球状(略球状を含む)、楕円球状、線状、板状等とすることができる。前駆体原料及び前駆成形体に含まれるゲル粒子の形状は、全粒子において一様である必要はなく、前述した形状のうち、1種のみでも、2種以上でもよい。
また、上記ゲル粒子のサイズも特に限定されず、高い密度の前駆成形体が得られることから、最大長さは、好ましくは100μm、より好ましくは1μmである。但し、最小長さは、好ましくは1nm、より好ましくは30nmである。球状のゲル粒子の場合、レーザー回折法による体積平均粒子径は、好ましくは0.01~10μmであり、より好ましくは0.05~1μmである。
【0014】
上記前駆体原料は、ゲル粒子からなるものであってよいし、ゲル粒子と他の成分とからなるものであってもよい。後者の場合、他の成分は、好ましくは、アルカリ土類金属元素の水酸化物を含む液体により変性しない無機化合物である。例えば、酸化物、硫化物、炭化物、窒化物、耐アルカリ性金属等とすることができ、好ましくは酸化物であり、より好ましくはペロブスカイト型セラミックスであり、特に好ましくは製造しようとするペロブスカイト型セラミックスである。他の成分は、結晶質及び非晶質のいずれでもよい。また、他の成分の形状及びサイズは、好ましくは、ゲル粒子における上記形状及びサイズである。
上記前駆体原料が、ゲル粒子と他の成分とからなる場合、前駆体原料の総質量を100質量%として、ゲル粒子の含有割合の下限は、好ましくは30質量%、より好ましくは50質量%である。
【0015】
圧粉成形体(前駆成形体)をプレス成形により作製する場合、ゲルの変性を抑制するため、10℃以上150℃未満で行うことが好ましい。プレス成形は、前駆成形体の形状に応じて、高密度化をもたらす方法を、適宜、選択して行うことができる。本発明では、例えば、一軸成形及び冷間静水圧成形(CIP)をこの順に行う方法を適用することができる。ゲル粒子を用いたプレス成形により、ゲル粒子が塑性変形して前駆成形体を高密度化することができる。
【0016】
上記圧粉成形体(前駆成形体)の相対密度は、好ましくは45~75%、より好ましくは60~75%である。
【0017】
本発明に係る接触反応工程では、アルカリ土類金属元素の水酸化物を含む液体が用いられる。この水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等が挙げられる。上記液体に含まれる水酸化物は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
上記液体に含まれる媒体としては、水、水を含むアルコール等が挙げられる。また、上記液体は、前駆成形体を構成するゲルと、上記水酸化物との反応を阻害しない範囲において、有機化合物等の他の成分を含有することができる。
上記液体は、好ましくは、アルカリ土類金属元素の水酸化物の飽和水溶液である。
【0018】
上記接触反応工程における接触方法は、前駆成形体の形状及びサイズにより、適宜、選択され、特に限定されない。接触方法としては、上記液体に前駆成形体を浸漬する方法、上記液体を前駆成形体に噴霧する方法、上記液体を前駆成形体に塗布する方法等が挙げられる。これらのうち、ペロブスカイト型セラミックス結晶が高密度で含まれる成形体が効率よく得られることから、上記液体に前駆成形体を浸漬する方法が好ましい。
【0019】
上記液体に前駆成形体を接触させる場合、前駆成形体を溶解させることなく、即ち、前駆成形体に含まれるゲルを溶解させることなく、上記液体に含まれる水酸化物とゲルとの反応を円滑に進めるために、接触温度の上限は、好ましくは200℃、より好ましくは180℃、更に好ましくは160℃であり、下限は、好ましくは20℃、より好ましくは50℃、更に好ましくは75℃である。
【0020】
また、上記液体と前駆成形体との接触時間は、前駆成形体の形状及びサイズにより、適宜、選択されるが、通常、12時間以上、好ましくは50時間以上である。
【0021】
本発明のペロブスカイト型セラミックス成形体の製造方法は、上記のように、接触反応工程の後、必要に応じて、後処理工程を備えることができる。後処理工程としては、接触反応工程の際にペロブスカイト型セラミックス成形体に付着した余剰の上記液体を除去するための洗浄工程、所定の形状及びサイズの製品形態に整えるための修整工程、熱処理工程等が挙げられる。
【0022】
洗浄工程では、例えば、液体付きペロブスカイト型セラミックス成形体に、水、酢酸水溶液等を噴霧する、又は、ペロブスカイト型セラミックス成形体を、水、酢酸水溶液等に浸漬する等した後、乾燥させる方法を適用することができる。ペロブスカイト型セラミックス成形体を乾燥する場合、常圧条件又は減圧条件において、好ましくは20~200℃、より好ましくは70℃~150℃で乾燥することができる。
【0023】
修整工程では、所定の形状及びサイズの製品形態に整えるために研削加工、穴あけ加工、表面研磨加工等を行うことができる。
熱処理工程では、ペロブスカイト型セラミックス成形体を構成する内部の粒子の成長のために、例えば、大気雰囲気中、500℃~1500℃で加熱する工程とすることができる。
【0024】
本発明のペロブスカイト型セラミックス成形体の製造方法により得られたペロブスカイト型セラミックス成形体は、チタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム、チタン酸ストロンチウム、ハフニウム酸ストロンチウム等のペロブスカイト型酸化物からなる結晶が高い密度で含まれ、アルカリ土類金属の炭酸塩が副生、含有されない緻密質の成形体である。上記のように、ゲル粒子からなる前駆体原料、又は、ゲル粒子と他の成分とからなる前駆体原料を用いることができるが、いずれの場合も、得られた成形体は、緻密質である。また、本発明のペロブスカイト型セラミックス成形体の製造方法により得られた成形体の、理論密度に対する実測密度の割合である相対密度は、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上とすることができる。
【0025】
本発明のペロブスカイト型セラミックス成形体は、
図1及び
図2に示すように、ペロブスカイト型セラミックス結晶1の集合体(図中、一部の六角形部分にのみ斜線表示)がドメイン2を形成し、且つ、該ドメイン2が複数連結されてなる部分を含む。
図1は、ゲル粒子からなる前駆体原料の前駆成形体を用いて得られたペロブスカイト型セラミックス成形体の結晶組織を示す概略図であり、
図2は、ゲル粒子と他の成分とからなる前駆体原料の前駆成形体を用いて得られたペロブスカイト型セラミックス成形体の結晶組織を示す概略図である。また、1つのドメインに含まれる複数の結晶は、
図1及び
図2において、模式的に矢印で表したように、同じ向きに配向したものとすることができる。結晶のサイズは、好ましくは1~200nm、より好ましくは10~100nmである。
【0026】
本発明のペロブスカイト型セラミックス成形体が、
図1及び
図2のような、ドメイン2が複数連結されてなる部分を含む結晶組織を有することは、電子線後方散乱回折法を利用したEBSD解析により確認することができる。成形体に電子線を照射して生じた電子は非弾性散乱し、結晶格子面で回折され、EBSDパターンという回折図形を有する反射電子として放出されるので、これを投影して方位の指数づけを行うことで結晶方位を得ることができる。電子線を走査してEBSDパターンをマッピングし、例えば、逆極点図結晶方位マップを得ることにより、結晶1の方位及びそれらの集合体からなるドメイン2を確認することができる。本発明のペロブスカイト型セラミックス成形体がこのような組織を有することによって、イオン伝導や分極方向のばらつきが低減され、後で示す種々の機能が向上すると考えられる。
【0027】
本発明のペロブスカイト型セラミックス成形体は、一般的な焼結による製造時に1500℃以上の温度とする工程が必要のない、即ち、大量の熱エネルギーを必要としない上記本発明の製造方法により得られ、尚且つ、高い相対密度の成形体とすることができるので、誘電体素子、イオン伝導素子、電気伝導素子、圧電素子、強誘電素子、強磁性素子、光触媒等の構成材料として好適である。
【実施例】
【0028】
以下、ペロブスカイト型セラミックス成形体の製造例を説明する。
【0029】
1.ペロブスカイト型セラミックス成形体の製造原料
成形体の製造に用いたアルカリ土類金属の水酸化物と、前駆成形体の製造原料である原料粒子とを、以下に示す。
【0030】
(1)アルカリ土類金属の水酸化物
富士フィルム和光純薬株式会社製水酸化バリウム8水和物を用いた。
【0031】
(2)原料粒子X1及びX2
イオン交換水に富士フィルム和光純薬株式会社製オキシ塩化ジルコニウムを入れ、撹拌し、水溶液を得た。次いで、この水溶液にアンモニア水を添加し、室温で反応させ、ZrO
2・nH
2Oからなる酸化物含水ゲルを含む反応生成物を得た。その後、副生成物を除くため、濾過及び水洗を行い、酸化物含水ゲルを回収した。そして、150℃で12時間乾燥させ、固体化ゲルを得た。固体化ゲルをX線回折測定によって評価したところ、結晶に由来する回折ピークが観察されなかったことから、非晶質であることが分かった。
次に、固体化ゲルを、乳棒及び乳鉢を用いて予備粉砕した。そして、予備粉砕物及びエタノールを、質量比10:90で混合し、この混合液と同体積のジルコニアボール(直径5mm)と、混合液とをポリエチレン容器に封入した。その後、この容器を、150rpmで10時間自転させ、固体化ゲルを粉砕し、粉砕物(前駆体原料、以下、「原料粒子X1」という)を含む混合液を回収した。次いで、この混合液と同体積のジルコニアボール(直径0.5mm)と、混合液とをジルコニア製ポットに封入した。そして、遊星式ボールミルを用いて、450rpmで3時間粉砕し、粉砕粒子を含む混合液を回収した。その後、この混合液と同体積のジルコニアボール(直径0.1mm)と、混合液とをジルコニア製ポットに封入した。そして、遊星式ボールミルを用いて、450rpmで3時間粉砕し、粉砕粒子(前駆体原料、以下、「原料粒子X2」という)を含む混合液を得た。
原料粒子X1及びX2を含む各混合液から、エタノールを除去し、これらの粒子を洗浄、回収した後、150℃で乾燥させ、堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置「LA-960V2」(型式名)を用いて粒子径分布を測定した(
図3及び
図4参照)。平均粒子径d
50は、原料粒子X1が2.182μm、原料粒子X2が0.083μmであった。
【0032】
(3)原料粒子Y1
Yuki Yamaguchi, J. Ceram. Soc. Jpn., 128 [10] (2020) 747-755に準じて、溶液法で合成したジルコン酸バリウムを、大気雰囲気中、1300℃で10時間焼成し、その後、粉砕して得られた粉末と、富士フィルム和光純薬株式会社製オキシ塩化ジルコニウムとを、イオン交換水に入れて撹拌し、ジルコン酸バリウム粒子含有水溶液を調製し、次いで、この水溶液にアンモニア水を滴下し、室温で反応させることにより得られたZrO2・nH2Oからなる酸化物含水ゲル被覆型複合粒子を、原料粒子Y1として用いた。この原料粒子Y1の粒子径分布を測定したところ、平均粒子径d50は、6.921μmであった。
【0033】
2.成形体の製造及び評価
上記の各原料粒子等を、一軸加圧成形及び冷間等方圧プレス成形に供し、円板型の前駆成形体(直径20mm、厚さ0.5~1.0mm)を得た後、水酸化バリウム8水和物の飽和水溶液に浸漬することにより、ペロブスカイト型セラミックスであるジルコン酸バリウムの結晶からなる成形体を得た。その後、得られた成形体の密度を測定し、酸化物含水ゲルの見かけ密度(3.869g/cm3)及びジルコン酸バリウムの理論密度(6.117g/cm3)に対するこの実測密度の割合から相対密度を算出した。
【0034】
実験例1
0.5gの原料粒子X2(酸化物含水ゲル粒子)を、一軸加圧成形(20kN)及び冷間等方圧プレス成形(300MPa)に供し、前駆成形体(以下、「前駆成形体P1」という)を得た。この前駆成形体P1の密度は2.717g/cm3であり、相対密度は71.38%であった。
次いで、前駆成形体P1を、20gの水酸化バリウム8水和物の飽和水溶液に浸漬するようにして両者を容器に入れ、密封条件下、100℃で100時間静置し、その後、水及び酢酸水溶液による洗浄と、大気雰囲気中、150℃での乾燥とを行って、緻密質のジルコン酸バリウム結晶からなるペロブスカイト型セラミックス成形体(以下、「成形体Q1」という)を得た。この成形体Q1の密度は5.138g/cm3であり、相対密度は84.00%であった(表1参照)。
【0035】
前駆成形体P1の破断面を、走査型電子顕微鏡により観察したところ、
図5の画像を得た。
図5によると、前駆成形体P1の内部は細かな粒子に緻密に集合し、滑らかな組織を持つことが分かる。また、得られた成形体Q1の破断面を、走査型電子顕微鏡により観察したところ、
図6及び
図7の画像を得た。
図6によると、粗大粒子や気孔等が存在しないことが分かる。
図7は
図6の拡大画像であり、この
図7によれば、微細な結晶からなる緻密な成形体が得られたことが分かる。
【0036】
次に、成形体Q1の破断面を、日本電子社製電界放射型走査電子顕微鏡「JSM-6330F」(型式名)を用いて観察したところ、
図8及び
図9を得た。
図8の拡大図である
図9によると、10~100nmのサイズの結晶粒子が凝集し、0.5~10μmのサイズのドメインを形成していることが分かる。また、隣り合うドメインは互いに連結しており、3次の階層構造を有することが分かる。一方、成形体Q1の破断面を研磨してEBSD測定用のサンプルを作製し、日本電子社製熱電界放射型走査電子顕微鏡「JSM-6500F」(型式名)を用いて、組織観察を行いジルコン酸バリウムの結晶方位マッピング測定を行ったところ、
図10を得た。
図10によると、
図8及び
図9で観察された10~100nmのサイズの結晶粒子が凝集し、形成される0.5~10μmのサイズのドメイン内の結晶包囲が全て同じ方向を示していることから、ドメイン内の10~100nmのサイズの結晶粒子は配向して凝集していることが分かる。
【0037】
実験例2~4
反応時間(水酸化バリウム8水和物の飽和水溶液における前駆成形体P1の浸漬時間)を、100時間に代えて、それぞれ、12時間、50時間及び200時間とした以外は、実験例1と同様の操作を行い、ペロブスカイト型セラミックス成形体(以下、「成形体Q2~Q4」という)を得た。そして、これらの成形体Q2~Q4における相対密度を算出した(表1参照)。
【0038】
実験例5~8
反応温度を100℃に代えて150℃とし、反応時間を、それぞれ、12時間、70時間、100時間及び200時間とした以外は、実験例1と同様の操作を行い、ペロブスカイト型セラミックス成形体(以下、「成形体Q5~Q8」という)を得た。そして、これらの成形体Q5~Q8における相対密度を算出した(表1及び
図11参照)。得られた成形体Q8の表面を、電子顕微鏡により観察したところ、
図12の画像を得た。この
図12によれば、微細な結晶からなる緻密な成形体であることが分かる。
【0039】
【0040】
実験例9
原料粒子X2に代えて原料粒子X1(酸化物含水ゲル粒子)を用いた以外は、実験例1と同様の操作を行い、前駆成形体(以下、「前駆成形体P2」という)を作製し、次いで、実験例1と同様にして、水酸化バリウム8水和物の飽和水溶液に浸漬、その後、洗浄及び乾燥することにより、緻密質のジルコン酸バリウム結晶からなるペロブスカイト型セラミックス成形体(以下、「成形体R1」という)を得た。
前駆成形体P2の密度は2.646g/cm3であり、相対密度は69.50%であった。また、得られた成形体R1の密度は4.285g/cm3であり、相対密度は70.05%であった。
【0041】
前駆成形体P2の破断面を、電子顕微鏡により観察したところ、
図13の画像を得た。
図13によると前駆成形体P2の内部は大きな粒子と細かな粒子が混在し、これらの粒子が緻密に集合し、滑らかな組織を持つことが分かる。また、得られた成形体R1の破断面を、電子顕微鏡により観察したところ、
図14の画像を得た。この
図14によれば、微細な結晶からなる緻密な成形体であることが分かる。
【0042】
実験例10
52.6質量%の原料粒子X1と、47.4質量%のジルコン酸バリウム粒子(成形体R1を粉砕し、大気雰囲気中、1300℃で10時間の熱処理を行って得られた粉末粒子、平均粒子径d50:0.969μm)の混合物を用いた以外は、実験例1と同様の操作を行い、前駆成形体(以下、「前駆成形体P3」という)を作製し、次いで、同様にして、水酸化バリウム8水和物の飽和水溶液に浸漬、その後、洗浄及び乾燥することにより、緻密質のジルコン酸バリウム結晶からなるペロブスカイト型セラミックス成形体(以下、「成形体R2」という)を得た。
前駆成形体P3の相対密度は61.25%であった。また、得られた成形体R2の相対密度は73.80%であった。
【0043】
実験例11
82.0質量%の原料粒子X1と、18.0質量%のジルコン酸バリウム粒子(成形体R1を粉砕し、大気雰囲気中、1300℃で10時間の熱処理を行って得られた粉末粒子、平均粒子径d50:0.969μm)の混合物を用いた以外は、実験例1と同様の操作を行い、前駆成形体(以下、「前駆成形体P4」という)を作製し、次いで、同様にして、水酸化バリウム8水和物の飽和水溶液に浸漬、その後、洗浄及び乾燥することにより、緻密質のジルコン酸バリウム結晶からなるペロブスカイト型セラミックス成形体(以下、「成形体R3」という)を得た。
前駆成形体P4の相対密度は61.39%であった。また、得られた成形体R3の密度は4.569g/cm3であり、相対密度は74.69%であった。
【0044】
実験例12(比較例)
原料粒子X2に代えて原料粒子Y1(複合粒子)を用いた以外は、実験例1と同様の操作を行い、前駆成形体(以下、「前駆成形体P10」という)を作製し、次いで、実験例1と同様にして、水酸化バリウム8水和物の飽和水溶液に浸漬、その後、洗浄及び乾燥することにより、緻密質のジルコン酸バリウム結晶からなるペロブスカイト型セラミックス成形体(以下、「成形体S1」という)を得た。
前駆成形体P10の密度は2.579g/cm3であり、相対密度は53.26%であった。また、得られた成形体S1の密度は3.291g/cm3であり、相対密度は53.80%であった。
【0045】
前駆成形体P10の破断面を、電子顕微鏡により観察したところ、
図15の画像を得た。
図15によると、荒い組織で構成されていることがわかる。また、得られた成形体S1の表面を、電子顕微鏡により観察したところ、
図16及び
図17の画像を得た。
図16によると緻密質としては得られておらず、脆い構造をしていることが分かる。
図17は
図16の拡大画像であり、この
図17によれば、多数の気孔がある成形体が得られたことが分かる。
【0046】
実験例13
一般式M
2O
2・nH
2O(式中、M
2はTi及びHfから選ばれた少なくとも1種の元素であり、nは正の数である)で表され、具体的には、TiO
2・nH
2O又はHfO
2・nH
2Oからなるゲルの粒子を用いて得られた各前駆成形体と、ストロンチウム又はバリウムの水酸化物とを用いて、反応温度100℃、反応時間12時間で、実験例1と同様の手順の操作を行った。
図18は、得られた種々のペロブスカイト型セラミックス成形体のX線回折図形である。
図18によると、ジルコン酸バリウムと同様に、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、ハフニウム酸ストロンチウム、ハフニウム酸バリウムが得られたことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のペロブスカイト型セラミックス成形体は、緻密質であることから、セラミックコンデンサ用誘電体、固体酸化物形燃料電池用電解質、ガスセンサ用電解質、全固体電池用の電極又は電解質、光触媒電極等として利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1:結晶
2:ドメイン
3:他の成分