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特許7526563固体撮像素子および撮像装置、ならびに白キズ抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】固体撮像素子および撮像装置、ならびに白キズ抑制方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 27/146 20060101AFI20240725BHJP
   H04N 25/70 20230101ALI20240725BHJP
   H01L 31/107 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
H01L27/146 E
H04N25/70
H01L31/10 B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019211456
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021082785
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】新井 俊希
(72)【発明者】
【氏名】為村 成亨
(72)【発明者】
【氏名】萩原 啓
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-151801(JP,A)
【文献】特開2014-017440(JP,A)
【文献】特開2018-190818(JP,A)
【文献】特開2016-006956(JP,A)
【文献】特開2005-347475(JP,A)
【文献】特開2018-107725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/146
H04N 25/70
H01L 31/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素回路上に光電変換膜を積層するタイプであって、該光電変換膜には、画面上に白キズを発生させ得る欠陥が生じているCMOS型固体撮像素子において、
該画素回路は、n型基板上にp型MOSトランジスタが形成されるように構成するか、n型基板上またはp型基板上にnウエルが配され、該nウエル内にp型MOSトランジスタが形成されるように構成するとともに、該p型MOSトランジスタの上部に画素電極を配設してなり、
前記光電変換膜は、正孔注入阻止層、光電変換層兼電荷増倍層、および膜電極の各層をこの順に積層されてなり、
該膜電極には前記画素電極のリセット電圧に対して負の電圧を印加し、
光電変換により発生した電子正孔対のうち電子を前記光電変換膜の走行キャリアとして用いるように構成されてなることを特徴とする固体撮像素子。
【請求項2】
前記光電変換膜として、前記正孔注入阻止層、前記光電変換層兼電荷増倍層、電子注入阻止層、および前記膜電極の各層をこの順に積層されていることを特徴とする請求項1記載の固体撮像素子。
【請求項3】
前記画素電極と前記正孔注入阻止層の接合は、金属と半導体の接合により整流作用を示すショットキー接合とされていることを特徴とする請求項1または2に記載の固体撮像素子。
【請求項4】
前記光電変換層兼電荷増倍層として結晶セレンを用いたことを特徴とする請求項1~3のうちいずれか1項に記載の固体撮像素子。
【請求項5】
前記正孔注入阻止層として酸化ガリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化セリウム、酸化イットリウムおよび酸化インジウムから選択される材料を用いたことを特徴とする請求項1~4のうちいずれか1項に記載の固体撮像素子。
【請求項6】
前記正孔注入阻止層、前記光電変換層兼電荷増倍層、および前記電子注入阻止層として、単結晶材料を用いたことを特徴とする請求項2に記載の固体撮像素子。
【請求項7】
前記光電変換層兼電荷増倍層としてi型インジウムアルミニウムヒ素を用いたことを特徴とする請求項2または6に記載の固体撮像素子。
【請求項8】
前記正孔注入阻止層としてn型インジウムアルミニウムヒ素を用いたことを特徴とする請求項2、6および7のうちいずれか1項に記載の固体撮像素子。
【請求項9】
前記正孔注入阻止層としてn型インジウムリンを用いたことを特徴とする請求項2、6および7のうちいずれか1項に記載の固体撮像素子。
【請求項10】
前記電子注入阻止層としてp型インジウムアルミニウムヒ素を用いたことを特徴とする請求項2および6~9のうちいずれか1項に記載の固体撮像素子。
【請求項11】
請求項1~10のうちいずれか1項に記載の固体撮像素子を備え、この固体撮像素子により得られた画像情報を出力する手段を備えたことを特徴とする撮像装置。
【請求項12】
画素回路上に、光電変換膜を積層するタイプであって、該光電変換膜には、画面上に白キズを発生させ得る欠陥が生じているCMOS型固体撮像素子の白キズ抑制方法において、
前記光電変換膜を製造する際には、正孔注入阻止層、光電変換層兼電荷増倍層、膜電極の各層をこの順に積層する第1の工程を実行し、
該画素回路を製造する際には、n型基板上にp型MOSトランジスタを形成する手法あるいは、n型基板上またはp型基板上にnウエルを設け、該nウエル内に該p型MOSトランジスタを形成する手法を用いて形成するとともに、上部に画素電極を配設する第2の工程を実行し、
前記膜電極には前記画素電極のリセット電圧に対して負の電圧を印加して、光電変換により発生した電子正孔対のうち電子を前記光電変換膜の走行キャリアとして前記画素電極方向に移動させ、前記光電変換膜の膜欠陥により膜抵抗が低下することに応じて増加した電子電流を、前記画素回路の浮遊拡散容量に流入させ、該浮遊拡散容量のリセット時よりも電位が小さい飽和時電位に変化させて、膜欠陥により発生した画像上の白キズを、膜欠陥が存在する領域範囲に限定する第3の工程を実行する、
ことを特徴とする固体撮像素子の白キズ抑制方法。
【請求項13】
前記画素電極と前記正孔注入阻止層の接合は、金属と半導体の接合により整流作用を示すショットキー接合とすることを特徴とする請求項12に記載の固体撮像素子の白キズ抑制方法。
【請求項14】
前記光電変換層兼電荷増倍層を結晶セレンにより形成することを特徴とする請求項12または13に記載の固体撮像素子の白キズ抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体撮像素子および撮像装置、ならびに白キズ抑制方法に関し、詳しくは、画素サイズを微細化することで撮像素子のコンパクト化および多画素化を図り、高精細な画像を撮像し得る光電変換部を備えた固体撮像素子および撮像装置、ならびに白キズ抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、固体撮像素子、例えばCMOS撮像素子においては、高精細な画像を撮影することができるように、画素サイズの微細化および多画素化を図るための技術開発が進められてきた。しかし、画素サイズが微細化されたことにより、光を電気信号に変換する光電変換部の面積が狭くなり、感度の低下につながることが問題となっていることから、感度を向上させるために、裏面照射型や光電変換膜積層型の構造のものが注目されており、研究開発が進められている(下記非特許文献1を参照)。
【0003】
このような光電変換膜積層型の固体撮像素子において、各単位画素が3トランジスタ型とされたものが知られている(下記特許文献1を参照)。
下記非特許文献1に開示された技術は、本願の図15に示すように、電荷増倍作用を有する光電変換膜420を画素回路430の画素電極403上に直接積層した画素構造を備えており、画素電極403にn型浮遊拡散容量408が接続されている。また、光電変換膜420は、正孔注入阻止層としての酸化ガリウム層404、光電変換層兼電荷増倍層としての結晶セレン層405、および膜電極としてのITO層406を、この順に直接積層してなる構造とされている。
画素回路430はp型基板401上にn型MOSトランジスタ部402を形成することで構成されている。なお、画素電極403はn型浮遊拡散容量408と電気的に接続されている。また、p型基板401と画素電極403の間には絶縁層409が設けられている。
【0004】
図16は、図15中、A-A′線の断面の深さ方向に沿ったバンド構造を示すバンド図である。
すなわち図16は、上記光電変換層兼電荷増倍層として結晶セレン層405を、正孔注入阻止層として酸化ガリウム層404を、さらに、シリコン材料からなるn型浮遊拡散容量408とp型基板401を、各々用いた場合を例にとって説明している。半導体材料においては伝導帯の下端と価電子帯の上端の電位が表されている。膜電極(ITO層)406と画素電極403については金属の仕事関数が表されている。画素内部の状態を示す相対的な電位図とされている。
【0005】
画素電極403とn型浮遊拡散容量408の電位は3.3Vであり、n型浮遊拡散容量408をリセットした状態のリセット電圧である。膜電極(ITO層)406には、画素電極403を基準とすると-13Vの電圧が印加された状態とされており、膜内の走行キャリアは電子である。
【0006】
図17に、膜欠陥がなく、n型浮遊拡散容量408が飽和の状態のバンド構造のバンド図を示す。画素電極403とn型浮遊拡散容量408の電位が2.3Vの状態とされている。この図17において、結晶セレン層405では、入射光により電子正孔対が発生する。電子が膜内の走行キャリアとして画素電極403に向かって走行する。一方、n型浮遊拡散容量408と画素電極403の電位は、n型浮遊拡散容量408に信号の電子が入ると、リセット電圧の3.3Vから飽和時の2.3Vへ、n型浮遊拡散容量408の電位が小さくなる方向へ変化する。電位の変化が読み出し回路の入力レンジ内であれば、正常に動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-070181号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】S. Imura et al., “High-Sensitivity Image Sensors Overlaid With Thin-Film Gallium Oxide/Crystalline Selenium Heterojunction Photodiodes”, IEEE Transactions on Electron Devices, Vol.63, No.1, pp.86-91, January 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記光電変換膜420を画素回路430上に直接積層により成膜する場合、異物が混入するなどして膜に欠陥が生じてしまうことが避けられない。
膜欠陥が生じたことで、n型浮遊拡散容量408の電位の変動が飽和より大きい状態となった場合のバンド構造を示すバンド図を図18に示す。
画素電極403とn型浮遊拡散容量408の電位が0.0Vの場合である。この図18において、入射光により、結晶セレン層405では電子正孔対が発生するが、膜欠陥が生じていると、膜抵抗が低下し、膜電極(ITO層)406から画素電極403に過剰な電子が流れる。
【0010】
n型浮遊拡散容量408と画素電極403の電位は、過剰な電子が入ると、リセット電圧の3.3Vから、電位が0.0Vよりさらに小さくなる方向へ変化する。すると、n型浮遊拡散容量408の電子が溢れて隣の画素へ流入し、さらに隣の隣の画素へ流入することが繰り返される。このような状態となると、画像としては、元々の欠陥の大きさの例えば数百倍にも広がった大きな丸い白キズが発生する。これにより、膜電極(ITO層)406とp型基板401が順バイアス状態となるので、過剰な電子が流れ、膜電圧が降下し、膜電圧を、設定された所望の値まで印加することができなくなる。
【0011】
図19は、上記従来技術の撮像素子により撮像された、膜電圧-5V、4K解像度の暗時の画像を示す。膜電圧の-5Vは、n型浮遊拡散容量408のリセット電圧を基準とした膜電極406の電圧である。画像には、大きな丸い白キズが発生している。膜欠陥は白キズの中央部の、本図では視認できない程度の微小な大きさであるが、上述したように、n型浮遊拡散容量408の電子が溢れて、隣の画素、さらにその隣の画素と次々に流入していくことによって、画面上に極めて大きな白キズが出現する。
また、膜電圧が降下するため、膜電圧を設定値まで印加することが困難となるので、電荷増倍現象を起こすために必要な電圧を印加することが難しくなる。よって、電荷増倍現象を確認することはできていない。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、光電変換膜中に膜欠陥や転位が形成された場合であっても、画面上に大きな白キズが発生するのを防止することができるとともに、膜電圧を設定された所望の値まで印加することができる、光電変換膜積層型の固体撮像素子および撮像装置、ならびに白キズ抑制方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の固体撮像素子は、
画素回路上に光電変換膜を積層するタイプであって、該光電変換膜には、画面上に白キズを発生させ得る欠陥が生じているCMOS型固体撮像素子において
該画素回路は、n型基板上にp型MOSトランジスタが形成されるように構成するか、n型基板上またはp型基板上にnウエルが配され、該nウエル内にp型MOSトランジスタが形成されるように構成するとともに、該p型MOSトランジスタの上部に画素電極を配設してなり、
前記光電変換膜は、正孔注入阻止層、光電変換層兼電荷増倍層、および膜電極の各層をこの順に積層されてなり、
該膜電極には前記画素電極へのリセット電圧に対して負の電圧を印加し、
光電変換により発生した電子正孔対のうち電子を前記光電変換膜の走行キャリアとして用いるように構成されてなることを特徴とするものである。
【0014】
前記光電変換膜として、前記正孔注入阻止層、前記光電変換層兼電荷増倍層、電子注入阻止層、および前記膜電極の各層をこの順に積層されていることが好ましい。
また、前記画素電極と前記正孔注入阻止層の接合は、金属と半導体の接合により整流作用を示すショットキー接合とされていることが好ましい。
また、前記光電変換層兼電荷増倍層として結晶セレンを用いることが可能である。
また、前記正孔注入阻止層として酸化ガリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化セリウム、酸化イットリウムおよび酸化インジウムから選択される材料を用いることが可能である。
また、前記正孔注入阻止層、光電変換層兼電荷増倍層、電子注入阻止層として、単結晶材料を用いることが可能である。
また、前記光電変換層兼電荷増倍層としてi型インジウムアルミニウムヒ素を用いることが可能である。
また、前記正孔注入阻止層としてn型インジウムアルミニウムヒ素を用いることが可能である。
また、前記正孔注入阻止層としてn型インジウムリンを用いることが可能である。
また、前記電子注入阻止層としてp型インジウムアルミニウムヒ素を用いることが可能である。
さらに、本発明の撮像装置は、上記いずれかに記載の固体撮像素子を備え、この固体撮像素子により得られた画像情報を出力する手段を備えたことを特徴とするものである。
また、本発明の固体撮像素子の白キズ抑制方法は、
画素回路上に、光電変換膜を積層するタイプであって、該光電変換膜には、画面上に白キズを発生させ得る欠陥が生じているCMOS型固体撮像素子の白キズ抑制方法において、
前記光電変換膜を製造する際には、正孔注入阻止層、光電変換層兼電荷増倍層、膜電極の各層をこの順に積層する第1の工程を実行し、
該画素回路を製造する際には、n型基板上にp型MOSトランジスタを形成する手法あるいは、n型基板上またはp型基板上にnウエルを設け、該nウエル内に該p型MOSトランジスタを形成する手法を用いて形成するとともに、上部に画素電極を配設する第2の工程を実行し、
前記膜電極には前記画素電極のリセット電圧に対して負の電圧を印加して、光電変換により発生した電子正孔対のうち電子を前記光電変換膜の走行キャリアとして前記画素電極方向に移動させ、前記光電変換膜の膜欠陥により膜抵抗が低下することに応じて増加した電子電流を、前記画素回路の浮遊拡散容量に流入させ、該浮遊拡散容量のリセット時よりも電位が小さい飽和時電位に変化させて、膜欠陥により発生した画像上の白キズを、膜欠陥が存在する領域範囲に限定する第3の工程を実行する、
ことを特徴とするものである。
また、前記画素電極と前記正孔注入阻止層の接合は、金属と半導体の接合により整流作用を示すショットキー接合とすることが好ましい。
さらに、前記光電変換層兼電荷増倍層を結晶セレンにより形成することが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の固体撮像素子および撮像装置、ならびに白キズ抑制方法においては、画素回路を、n型基板上にp型MOSトランジスタが形成されるように構成するか、n型基板上またはp型基板上にnウエルが配され、該nウエル内にp型MOSトランジスタが形成されるように構成し、光電変換膜は、正孔注入阻止層、光電変換層兼電荷増倍層、および膜電極をこの順に積層し、膜電極には画素電極へのリセット電圧に対して負の電圧を印加し、電子をキャリアとして用いるように構成している。
【0016】
このような構成においても、光電変換膜内に膜欠陥が生じていると、膜抵抗が低下し、膜電極からp型浮遊拡散容量に電子が流れることになる。しかしながら、p型浮遊拡散容量と画素電極においては、電子が入ると電位が小さくなり、n型ウエルとの電位差が増加するのでp型MOSトランジスタの多数キャリアである正孔があふれて隣の画素へ流入する虞はない。これにより膜欠陥の影響が周囲にまで及んで、画面上に大きな白キズが形成される状態を阻止することができる。
また、p型浮遊拡散容量とn型ウエルが逆バイアス状態となることにより、過剰な電流は流れず、膜電圧を、設定された所望の電圧まで印加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態(第2実施形態についても同様)に係る固体撮像素子の構成を模式的に示す図である。
図2】第1実施形態(第2実施形態についても同様)に係る膜積層タイプでp型MOS3トランジスタ画素回路の等価回路を示す回路図である。
図3】ゲート電圧が閾値より大と小の場合のn型MOSトランジスタ(nMOS)とp型MOSトランジスタ(pMOS)のオンおよびオフの状態を示す図である。
図4】第1実施形態(第2実施形態についても同様)に係る固体撮像素子において、信号読出しを行った場合における画素回路のp型MOSトランジスタとADCサンプリングのオンとオフの状態を示すタイムチャートである。
図5】本発明の第1実施形態に係る固体撮像素子の画素部の断面模式図である。
図6図5のA-A′線断面におけるバンド図であって、リセット時の状態を示す図である。
図7図5のA-A′線断面におけるバンド図であって、膜欠陥がなく飽和時の状態を示す図である。
図8図5のA-A′線断面におけるバンド図であって、膜欠陥があるため飽和より電位が小さくなった時の状態を示す図である。
図9図5に示す固体撮像素子を用いて撮影した画像であって、キャリアが電子であり、膜電圧が-5Vであるときの画像を表したものである。
図10】本発明の第2実施形態に係る固体撮像素子の構成を模式的に示す図である。
図11図10のA-A′線断面におけるバンド図であって、リセット時の状態を示す図である。
図12図10のA-A′線断面におけるバンド図であって、膜欠陥や転位がなく飽和時の状態を示す図である。
図13図10のA-A′線断面におけるバンド図であって、膜欠陥や転位があるため飽和より電位が小さくなった時の状態を示す図である。
図14図10に示す固体撮像素子を用いて撮影した画像であって、キャリアが電子であり、膜電圧が-5Vであるときの画像を表したものである。
図15】従来の固体撮像素子の画素部の断面模式図であって、画素回路をp基板上にn型MOSトランジスタを形成することにより構成し、膜のキャリアを電子とした図である。
図16図15のA-A′線断面におけるバンド図であって、リセット時の状態を示す図である。
図17図15のA-A′線断面におけるバンド図であって、膜欠陥がなく飽和時の状態を示す図である。
図18図15のA-A′線断面におけるバンド図であって、膜欠陥があるため飽和より電位が小さくなった時の状態を示す図である。
図19図15に示す従来技術の固体撮像素子を用いて撮影した画像であって、キャリアが電子であり、膜電圧が-5Vであるときの画像を表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態(第1実施形態および第2実施形態)に係る固体撮像素子について、図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
図1は、単位画素の画素アレイを有する固体撮像素子、具体的には光電変換膜積層型CMOS撮像素子のシステム構成図である。光電変換膜積層型CMOS撮像素子100は、光電変換素子を含む単位画素102がアレイ状に2次元配列され、画素駆動配線103、垂直信号線104と接続している画素アレイ101を有するとともに、周辺回路として、列並列信号処理回路105、出力回路106、制御回路(タイミング制御回路107、リセット信号制御回路111)、水平走査回路108、垂直走査回路109およびマルチプレクサ回路110から構成されている。なお、列並列信号処理回路105は、アナログデジタル変換回路(ADC)を含む構成となっている。
【0019】
ここで、列並列信号処理回路105および水平走査回路108が、図1中の上方および下方に配されているのは、片側に配された場合に比べ、列並列信号処理回路105のレイアウト幅を単位画素幅の2倍にしつつ、単位画素1列あたり1個の列並列信号処理回路を配置することができるという理由からである。
【0020】
なお、本発明の第1実施形態に係る撮像装置は、例えば図1に示す固体撮像素子を備え、さらに、例えば出力回路106からの信号を、そのまま、または所望の信号形態に変換して外部に出力する信号出力部を備えた装置であり、例えば、カメラやセンサ等を含む広義の撮像装置である。
【0021】
図2は、第1実施形態に係る固体撮像素子に用いられる、単位画素102の等価回路図を示すものである。図2に示す本実施形態に係る単位画素102の等価回路は、光電変換膜(PL)211から信号電荷を読み出す画素回路が、p型浮遊拡散容量(FD)213、p型リセットトランジスタ(RT)214、p型ソースフォロアアンプトランジスタ(SF)215、p型選択トランジスタ(SL)216、画素出力(OUT)217、電源(VDD)222から構成された、p型MOS3トランジスタの単位画素102の回路構成とされている。
【0022】
図2に示すように、光電変換膜(PL)211は、下部電極がビア(VIA)227を通してp型浮遊拡散容量(FD)213に接続される。p型浮遊拡散容量(FD)213をリセットするp型リセットトランジスタ(RT)214がp型浮遊拡散容量(FD)213と電源(VDD)222との間に接続される。p型浮遊拡散容量(FD)213はp型ソースフォロアアンプトランジスタ(SF)215のゲート電極に接続される。p型ソースフォロアアンプトランジスタ(SF)215とp型選択トランジスタ(SL)216が電源(VDD)222と画素出力(OUT)217の間に接続される。
【0023】
p型リセットトランジスタ(RT)214の電源(VDD)222とp型ソースフォロアアンプトランジスタ(SF)215の電源(VDD)222は、別系統であってもよい。
なお、図2はp型MOS3トランジスタの画素回路を示すものであるが、付加的な機能としてフィードバックリセット機能を備えた回路構成としてもよい。
【0024】
図3に、n型MOSトランジスタとp型MOSトランジスタのゲート電圧が閾値より大および小の場合における、n型MOSトランジスタとp型MOSトランジスタのオンおよびオフの各状態について示す。なお、ゲート電圧が閾値より小とは、閾値が負の場合を含む。
【0025】
図4に、本実施形態に係る単位画素102の画素回路におけるp型MOSトランジスタがオン、オフいずれであるかのタイムチャートを示す。具体的には、p型選択トランジスタ(SL)216、p型浮遊拡散容量リセットトランジスタ(RT)214のオンとオフのタイムチャートを示す。
また、これらのラベルの後の(1)、(2)、(n)等の符号は、図1における画素アレイ101の何行目の単位画素であるのかを表している。また、アナログデジタル変換回路(ADC)のサンプリングタイミングのタイムチャートを示すものである。
【0026】
図4における(a)のタイミングは、電荷蓄積時であることを示すものである。光電変換膜(PL)211の上部電極(膜電極)に、リセット電圧(VDD)222を基準として負電圧を加えており、光電変換膜(PL)211で信号電荷の電子が発生し、光電変換膜(PL)211からVIA227を経てp型浮遊拡散容量(FD)213に信号電荷が移動し、p型浮遊拡散容量(FD)213で信号電荷が蓄積される。
(b)のタイミングでは、p型選択トランジスタ(SL)216がオンになり当該画素が選択され、p型浮遊拡散容量(FD)213に蓄積された信号電荷が読み出されて、アナログデジタル変換回路(ADC)においてアナログ値からデジタル値へ変換される。
(c)のタイミングでは、p型リセットトランジスタ(RT)214がオンになり、p型浮遊拡散容量(FD)213がリセット電圧(VDD)222の値にリセットされる。
(d)のタイミングでは、p型リセットトランジスタ(RT)214がオフになる。また、p型浮遊拡散容量(FD)213に混入したリセットノイズが読み出されて、アナログデジタル変換回路(ADC)においてアナログ値からデジタル値へ変換される。
【0027】
図4においてM-1フレームの1行目の単位画素102のリセット後、リセットノイズの値が読み出される。Mフレームの1行目の読み出しまでが1回の蓄積時間になる。その後、単位画素102が選択されて、リセットノイズが重畳された信号がアナログデジタル変換されて読み出される。このMフレーム1行目のリセットノイズが重畳された信号がアナログデジタル変換された値と、M-1フレーム1行目のリセットノイズがアナログデジタル変換された値では、リセットノイズが同じものであるので、センサ外部でのデジタル相関二重サンプリング処理により、リセットノイズが相殺されて、信号のみを分離して抽出することができる(特開2015-167343号公報を参照)。
【0028】
図5に、第1実施形態に係る固体撮像素子の画素構造の断面模式図を示す。この固体撮像素子は、画素回路30上に光電変換膜20を積層してなる。光電変換膜20は、正孔注入阻止層としてのn型の酸化ガリウム層(厚みは例えば20nm)4、光電変換層兼電荷増倍層としてのp型の結晶セレン層(c-Se(厚みは例えば300nm))5、および膜電極としてのITO層(厚みは例えば30nm)6が、この順に積層された構造とされている。
また、画素回路30は、n型基板上にp型MOSトランジスタ部2を形成すること、または、p型基板上またはn型基板上に配された、n型ウエル1内にp型MOSトランジスタ部2を形成することで構成される。なお、陽極である画素電極3はp型浮遊拡散容量8と電気的に接続されている。また、n型ウエル1と画素電極3の間には絶縁層9が設けられている。
【0029】
図6に、図5のA-A′線断面におけるバンド図であって、リセット時の状態を示す図を示す。
図6のバンド図は画素内部の状態を示す相対的な電位図であり、結晶セレン層5、酸化ガリウム層4、およびp型浮遊拡散容量8とn型ウエル1(シリコンの半導体材料)に対しては、伝導帯下端と価電子帯上端が表されている。膜電極(ITO層)6と画素電極3については金属の仕事関数が表されている。
また、画素電極3とp型浮遊拡散容量8の電位は3.3Vであり、p型浮遊拡散容量8をリセットした状態におけるリセット電圧である。膜電極(ITO層)6においては、画素電極3のリセット電圧を基準として-13Vが印加されており、膜内の走行キャリアは電子となっている。
【0030】
また、図7は、図5のA-A′線断面におけるバンド図であって、膜欠陥がなく飽和時の状態を示す図である。ここで、画素電極3とp型浮遊拡散容量8の電位は、上記p型浮遊拡散容量8のリセット時よりも1.0Vだけ小さくなって、2.3Vの状態である。
すなわち、光電変換層兼電荷増倍層としての結晶セレン層5においては、光入射により電子正孔対が発生する。そして本実施形態の場合、電子が膜内の走行キャリアとして画素電極3方向に走行する。画素電極3方向に走行している電子がp型浮遊拡散容量8に入ると、リセット電圧である3.3Vから飽和時電位の2.3Vへ、電位が小さくなる方向へ変化する。電位の変化が読み出し回路の入力レンジ内であれば、正常に動作する。
【0031】
図8は、図5のA-A′線断面におけるバンド図であって、膜欠陥があるため飽和より電位が小さくなった時の状態を示すものである。
このとき、画素電極3方向に走行している電子がさらに増加してp型浮遊拡散容量8に流入する。画素電極3とp型浮遊拡散容量8の電位は0.3Vの状態である。
【0032】
すなわち、前述したように、本実施形態の場合、光電変換層兼電荷増倍層としての結晶セレン層5においては、光入射により電子正孔対が発生すると、電子が膜内の走行キャリアとして画素電極3方向に走行する。
【0033】
この状態において、光電変換膜20に膜欠陥が存在していると、膜抵抗が低下し、電子の流れ(電流量)が大きくなる。そして、多量の電子がp型浮遊拡散容量8に流入することにより、リセット電圧の3.3Vから、電位がさらに小さくなる方向に変化する。この図の場合、電位は0.3Vである。これは、n型ウエル1とp型浮遊拡散容量8の電位差が増加する方向に変化することになるので、p型浮遊拡散容量8の正孔が図8右方の、エネルギーバンドの正孔における山を越えて隣の画素へ溢れるような状態となることはない。
これにより、膜欠陥による画像の白キズは膜欠陥がある場所にだけ限定的に小さく発生し、画面上に、従来技術において問題となっていた大きな丸い白キズが発生することはない。
【0034】
また、p型浮遊拡散容量8とn型ウエル1間が逆バイアス状態となるので、過剰な電流は流れず、膜電圧が大幅に降下することはないので、膜電圧を、設定された所望の電圧まで印加することができる。
なお、図8のp型浮遊拡散容量8においては、価電子帯上端と伝導帯下端の間のバンドギャップが幅をもって形成されているので、電子が画素電極3のフェルミ準位からシリコンの伝導帯に移動することは阻止される。
【0035】
図9は、本実施形態の固体撮像素子により得られた画像であって、膜電圧が-5Vで、4K解像度の暗時の画像を示す。膜電圧の-5Vは、p型浮遊拡散容量8のリセット電圧を基準とした膜電極6の電圧である。
この図9によれば、従来技術において問題となっていた、図19に示すような、大きな丸い白キズは発生していない。膜欠陥による白キズは発生しているが、極めて限定的であるため目立たない。
【0036】
電荷増倍作用を有する光電変換膜20を画素回路30上に成膜する場合、異物が混入する等して膜に欠陥が生じてしまう現象は、現在の膜製造技術においては避けることが難しいことは、膜内の走行キャリアが電子、正孔のいずれであっても同様である。しかし、本実施形態の固体撮像素子のように構成することで、信号の電子がp型浮遊拡散容量8に入ったときに、リセット電圧から、電位がさらに小さくなる方向へ変化するようにすることで、大きな丸い白キズを発生させないようにすることができ、膜欠陥による白キズは発生していても、画面上で目立たないようにすることができる。
さらに、本実施形態の固体撮像素子においては、シリコンの画素回路30上において、膜電極6に電荷増倍現象を起こす効果が得られるために必要な電圧を正常に印加することができる。
【0037】
上記第1実施形態の態様に替えて、その他の種々の態様のものを採用し得る。例えば、上記第1実施形態のものにおいては、画素回路は、n型ウエル1にp型MOSトランジスタを形成することにより構成しているが、このn型ウエル1は、n型基板またはp型基板のいずれに形成されていてもよい。さらに、第1実施形態の上記態様に替えて、n型基板上にp型MOSトランジスタを形成することにより構成してもよい。
【0038】
また、結晶セレン層5とITO膜電極6の間に、電子注入阻止層を挿入した構成にしてもよい。
また、上記実施形態においては、各層や各領域において、上記とは異なる他の適切な材料を用いることができる。例えば正孔注入阻止層の材料として酸化ガリウムを用いているが、これに替えて酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化セリウム、酸化イットリウムあるいは酸化インジウム等の材料を用いることが可能である。
また、結晶セレン層5とITO膜電極6の間に、電子注入阻止層として酸化ニッケル、酸化銅(CuO)のいずれかを用いることが可能である。
【0039】
なお、上記第1実施形態において、光電変換膜20を画素回路30上に積層するとは、積層構造に構成される、ことを意味し、製造工程として、真空ポンプで高真空または低真空に真空引きした容器内で、材料をスパッタリング法や蒸着法により成膜することで光電変換膜を形成することができることに加えて、光電変換膜20を別の支持基板上に形成しておいて、その後、光電変換膜20を画素回路30上に接合することにより形成される場合も含まれる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
なお、この第2実施形態は、上記第1実施形態と類似の構成、作用効果を有するほか、第2実施形態特有の構成および作用効果をも有しているので、本来は、第2実施形態の説明において、上記第1実施形態と共通する部分については省略することも可能であるが、以下の記載においては、発明の理解を容易、かつ円滑にするため、上記第1実施形態と重複する部分についても敢えて省略しないで説明する場合がある。
【0041】
インジウムアルミニウムヒ素を材料としたアバランシェ増倍時の過剰雑音について、以下の参考文献には下記のような内容の報告がなされている。
<参考文献> L. J. J. Tan et al.,“Avalanche Noise Characteristics in Submicron InP Diodes”, IEEE Journal of Quantum Electronics, Vol.44, No.4, pp.378-382, 2008.
<報告内容>
インジウムアルミニウムヒ素では、電子のイオン化率αのほうが正孔のイオン化率βより高く、イオン化率比k=β/αは0.15から0.25である。過剰雑音係数Fは、増倍率Mとイオン化率比kを用いて、F=Mk+(1-k)(2-1/M)で表され、イオン化率比kが小さいほど、過剰雑音係数Fは小さくなる。インジウムアルミニウムヒ素は走行キャリアを電子とすることで過剰雑音係数が小さいので、光通信用アバランシェフォトダイオードとして用いられることが知られている。したがって、インジウムアルミニウムヒ素を固体撮像素子の光電変換層兼電荷増倍層に使用することができれば、S/Nの良い増倍が得られるので、好適である。
【0042】
しかしながら、非特許文献1に記載された従来技術では、上記光電変換膜を画素回路上に直接積層することにより成膜する場合、異物が混入するなどして膜に欠陥が生じてしまうことが避けられない。
膜欠陥が生じたことで、n型浮遊拡散容量408の電位の変動が飽和より大きい状態となった場合のバンド構造を示すバンド図を図18に示す。
画素電極403とn型浮遊拡散容量408の電位が0.0Vの場合である。この図18において、入射光により、結晶セレン層405では電子正孔対が発生するが、膜欠陥が生じていると、膜抵抗が低下し、膜電極(ITO層)406から画素電極403に過剰な電子が流れる。
【0043】
n型浮遊拡散容量408と画素電極403の電位は、過剰な電子が入ると、リセット電圧の3.3Vから、電位が0.0Vよりさらに小さくなる方向へ変化する。すると、n型浮遊拡散容量408の電子が溢れて隣の画素へ流入し、さらに隣の隣の画素へ流入することが繰り返される。このような状態となると、画像としては、元々の欠陥の大きさの例えば数百倍にも広がった大きな丸い白キズが発生する。これにより、膜電極(ITO層)406とp型基板401が順バイアス状態となるので、過剰な電子が流れ、膜電圧が降下し、膜電圧を、設定された所望の値まで印加することができなくなる。
【0044】
図19は、上記従来技術の撮像素子により撮像された、膜電圧-5V、4K解像度の暗時の画像を示す。膜電圧の-5Vは、n型浮遊拡散容量408のリセット電圧を基準とした膜電極406の電圧である。画像には、大きな丸い白キズが発生している。膜欠陥は白キズの中央部の、本図では視認できない程度の微小な大きさであるが、上述したように、n型浮遊拡散容量408の電子が溢れて、隣の画素、さらにその隣の画素と次々に流入していくことによって、画面上に極めて大きな白キズが出現する。
また、膜電圧が降下するため、膜電圧を設定値まで印加することが困難となるので、電荷増倍現象を起こすために必要な電圧を印加することが難しくなる。よって、電荷増倍現象を確認することはできていない。
なお、光電変換膜中に転位が形成された場合にも、膜欠陥が形成された場合と同様の理由から画面上に極めて大きな白キズが出現する。
【0045】
そこで、本実施形態の固体撮像素子および撮像装置、ならびに白キズ抑制方法においては、光電変換膜中に膜欠陥や転位が形成された場合であっても、画面上に大きな白キズが発生するのを防止することができるとともに、膜電圧を、設定された所望の値まで印加することができ、電荷増倍時のS/Nを向上させることができる、ように構成されている。
【0046】
図10に、第2実施形態に係る固体撮像素子の画素構造の断面模式図を示す。この固体撮像素子は、画素回路330上に光電変換膜320を接合してなる。光電変換膜320は、正孔注入阻止層としてのn型インジウムアルミニウムヒ素層(n-InAlAs層(厚みは例えば20nm))304、光電変換層兼電荷増倍層としてのi型インジウムアルミニウムヒ素層(i-InAlAs層(厚みは例えば300nm))305、電子注入阻止層としてのp型インジウムアルミニウムヒ素層(p-InAlAs層(厚みは例えば20nm))307、および膜電極としてのITO層(厚みは例えば30nm)306が、この順に積層された構造とされている。
【0047】
上記n型インジウムアルミニウムヒ素層304のn型不純物濃度としては、例えば1×1017/cm以下であることが好ましい。上記i型インジウムアルミニウムヒ素層305のi型不純物濃度としては、例えば1×1016/cm以下であることが好ましい。また、上記p型インジウムアルミニウムヒ素層307のp型不純物濃度としては、例えば1×1016/cm以上であることが好ましい。
【0048】
また、画素回路330は、p型基板上またはn型基板上にn型ウエル301を形成し、このn型ウエル301内にp型MOSトランジスタ部302を形成することで構成される。なお、陽極である画素電極303はp型浮遊拡散容量308と電気的に接続されている。また、n型ウエル301と画素電極303の間には絶縁層309が設けられている。
【0049】
図11は、図10のA-A′線断面におけるバンド図であって、リセット時の状態を示す図である。
図11のバンド図は画素内部の状態を示す相対的な電位図であり、p型インジウムアルミニウムヒ素層307、i型インジウムアルミニウムヒ素層305、n型インジウムアルミニウムヒ素層304、およびp型浮遊拡散容量308とn型ウエル301(シリコンの半導体材料)に対しては、伝導帯下端と価電子帯上端が表されている。膜電極(ITO層)306と画素電極303については金属の仕事関数が表されている。
【0050】
また、画素電極303とp型浮遊拡散容量308の電位は3.3Vであり、p型浮遊拡散容量308をリセットした状態におけるリセット電圧である。膜電極(ITO層)306においては画素電極303のリセット電圧を基準として-13Vが印加されており、膜内の走行キャリアは電子となっている。
【0051】
図12は、図10のA-A′線断面におけるバンド図であって、膜欠陥や転位がなく飽和時の状態を示す図である。ここで、画素電極303とp型浮遊拡散容量308の電位は、上記p型浮遊拡散容量308のリセット時よりも1.0Vだけ小さくなって、2.3Vの状態である。
すなわち、電子注入阻止層としてのp型インジウムアルミニウムヒ素層307および光電変換層兼電荷増倍層としてのi型インジウムアルミニウムヒ素層305においては、光入射により電子正孔対が発生する。そして本実施形態の場合、電子が膜内の走行キャリアとして画素電極303方向に走行する。画素電極303方向に走行している電子がp型浮遊拡散容量308に入ると、リセット電圧である3.3Vから飽和時電位の2.3Vへ、電位が小さくなる方向へ変化する。電位の変化が読み出し回路の入力レンジ内であれば、正常に動作する。
【0052】
図13は、図10のA-A′線断面におけるバンド図であって、膜欠陥や転位があるため飽和より電位が小さくなった時の状態を示すものである。
このとき、画素電極303とp型浮遊拡散容量308の電位は0.3Vの状態である。
【0053】
すなわち、前述したように、本実施形態の場合、電子注入阻止層としてのp型インジウムアルミニウムヒ素層307および光電変換層兼電荷増倍層としてのi型インジウムアルミニウムヒ素層305においては、光入射により電子正孔対が発生すると、電子が膜内の走行キャリアとして画素電極303方向に走行する。
【0054】
この状態において、光電変換膜320に膜欠陥や転位が存在していると、膜抵抗が低下し、電子電流量が大きくなる。そして、電子がp型浮遊拡散容量308に入ると、リセット電圧の3.3Vから、電位がさらに小さくなる方向へ変化する。これは、n型ウエル301とp型浮遊拡散容量308の電位差が増加する方向に変化することになるので、p型浮遊拡散容量308の正孔が図13右方の、エネルギーバンドの正孔における山を越えて隣の画素へ溢れるような状態となることはない。
これにより、膜欠陥による画像の白キズは膜欠陥や転位がある場所にだけ限定的に小さく発生し、画面上には大きな丸い白キズが発生することはない。
【0055】
また、p型浮遊拡散容量308とn型ウエル301間が逆バイアス状態となるので、過剰な電流は流れず、膜電圧が大幅に降下することはないので、膜電圧を、設定された所望の電圧まで印加することができる。
なお、図13のp型浮遊拡散容量308においては、価電子帯上端と伝導帯下端の間のバンドギャップが幅をもって形成されているので、電子が画素電極のフェルミ準位からシリコンの伝導帯に移動することは阻止される。
【0056】
図14は、本実施形態の固体撮像素子により得られた画像であって、膜電圧が-5Vで、4K解像度の暗時の画像を示す。膜電圧の-5Vは、p型浮遊拡散容量308のリセット電圧を基準とした膜電極306の電圧である。
この図14によれば、従来技術において問題となっていた、図19に示すような、大きな丸い白キズは発生していない。膜欠陥や転位による白キズは発生しているが、極めて限定的であるため目立たない。
【0057】
電荷増倍作用を有する膜320を画素回路330上に接合する場合に、膜に欠陥や転位が生じてしまう現象を避けることが難しいことは、膜内の走行キャリアが電子、正孔のいずれであっても同様である。しかし、上記第2実施形態の固体撮像素子のように構成することで、信号の電子がp型浮遊拡散容量308に入ったときに、リセット電圧から、電位がさらに小さくなる方向へ変化するようにすることで、大きな丸い白キズを発生させないようにすることができ、膜欠陥や転位による白キズは発生していても、画面上で目立たないようにすることができる。
【0058】
さらに、本実施形態の固体撮像素子においては、シリコンの画素回路330上において、膜電極306に電荷増倍現象を起こす効果が得られるために必要な電圧を正常に印加することができる。
【0059】
本実施形態の固体撮像素子および撮像装置、ならびに白キズ抑制方法においては、上述したように、画素回路330を、p型基板上またはn型基板上にnウエルを設け、このnウエル内にp型MOSトランジスタを形成する手法を用いて構成し、光電変換膜320は、正孔注入阻止層、光電変換層兼電荷増倍層、電子注入阻止層および膜電極306をこの順に積層し、膜電極306には画素電極309のリセット電圧に対して負の電圧を印加し、電子をキャリアとして用いるように構成している。この場合において、光電変換膜320は、正孔注入阻止層、光電変換層兼電荷増倍層、電子注入阻止層の各層をこの順に接合することにより積層することが可能である。
【0060】
本発明の固体撮像素子および撮像装置、ならびに白キズ抑制方法については、上記第2実施形態のものに限られるものではなく、その他の種々の態様のものを採用し得る。例えば、図10における上記実施形態のものにおいては、画素回路は、nウエル301にp型MOSトランジスタを形成することにより構成しているが、このnウエル301は、n型基板またはp型基板のいずれに形成されていてもよい。さらに、第2実施形態の上記態様に替えて、n型基板上にp型MOSトランジスタを形成することにより構成してもよい。
【0061】
また、本発明の固体撮像素子の光電変換膜は、正孔注入阻止層、光電変換層兼電荷増倍層、電子注入阻止層の各層をこの順に接合され、および膜電極をこの上方に積層されてなるように構成されているが、これら各層の間に他の層を挿入するようにしてもよい。例えば、独立した、電子輸送層や正孔輸送層を上記層間に別途挿入するようにしてもよい。また、光電変換層と電荷増倍層を2つの層に分離してもよい。また、別の正孔注入阻止層や電子注入阻止層を別途挿入するようにしてもよい。
【0062】
また、上記第2実施形態においては、各層や各領域において、上記とは異なる他の適切な材料を用いることができる。例えば、正孔注入阻止層、光電変換層兼電荷増倍層、電子注入阻止層の材料としてインジウムアルミニウムヒ素を用いているが、これに替えてゲルマニウム、インジウムガリウムヒ素リン(リン対ヒ素の組成がX:1-Xにおいて、Xが0.6以下)を用いることが可能である。また、一般に電子のイオン化率が正孔のイオン化率より高い材料を用いることが可能である。
また、上記第2実施形態においては、正孔注入阻止層、光電変換層兼電荷増倍層、電子注入阻止層の材料としてインジウムアルミニウムヒ素を用いているが、正孔注入阻止層としてインジウムリンを用いることが可能である。
【0063】
また、上記第2実施形態において、光電変換膜320を画素回路330上に接合する、との用語を用いる場合があるが、その場合には、正孔注入阻止層、光電変換層兼電荷増倍層、電子注入阻止層の各層を別のダミー基板上に形成しておいて、その後、画素回路330上に接合することで構造を形成する場合を含むものである。第2実施形態では、正孔注入阻止層、光電変換層兼電荷増倍層、電子注入阻止層の各層を別の支持基板上に形成しておいて、その後、正孔注入阻止層の上面を画素回路330上に接合し、支持基板を除去した後、電子注入阻止層の上に膜電極306を直接積層する態様を記載してもよいが、別の支持基板に膜電極306を含む光電変換膜320を積層したのち、膜電極306を含む光電変換膜320を画素回路330上に接合する手法を用いてもよい。光電変換膜320を接合により形成することで、光電変換膜320を構成する材料に単結晶材料を用いることができる。
【符号の説明】
【0064】
1、301 n型ウエル
2、302 p型MOSトランジスタ部
3、303、403 画素電極
4、404 酸化ガリウム層
5、405 結晶セレン層
6、306、406 ITO層(膜電極)
8、308 p型浮遊拡散容量
9、309、409 絶縁層
20、320、420 光電変換膜
30、330、430 画素回路
100 光電変換膜積層型CMOS撮像素子
101 画素アレイ
102 単位画素
103 画素駆動配線
104 垂直信号線
105 列並列信号処理回路
106 出力回路
107 タイミング制御回路
108 水平走査回路
109 垂直走査回路
110 マルチプレクサ回路
111 リセット信号制御回路
211 光電変換膜(PL)
213 p型浮遊拡散容量(FD)
214 p型リセットトランジスタ(RT)
215 p型ソースフォロアアンプトランジスタ(SF)
216 p型選択トランジスタ(SL)
217 画素出力(OUT)
222 電源(VDD)
227 ビア(VIA)
304 n型インジウムアルミニウムヒ素層
305 i型インジウムアルミニウムヒ素層
307 p型インジウムアルミニウムヒ素層
401 p型基板
402 n型MOSトランジスタ部
408 n型浮遊拡散容量
ADC アナログデジタル変換回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19