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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/34 20200101AFI20240725BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
G01S17/34
G01B11/00 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020140680
(22)【出願日】2020-08-24
(65)【公開番号】P2022036465
(43)【公開日】2022-03-08
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】小松崎 晋路
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義将
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 知隆
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-320488(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0208257(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 ー 7/51
17/00 - 17/95
G01C 3/00 - 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置と、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を測定光として計測対象物に向けて照射し、前記測定光が前記計測対象物の表面で反射した反射光を受光し、前記周波数変調レーザ光の残りの一部を前記計測対象物に前記測定光を照射する端面で端面反射光として反射する光ヘッド部と、
前記光ヘッド部および前記計測対象物の間に設けられており、前記光ヘッド部と前記計測対象物とを往復する光路を通過する光の偏光方向を前記端面反射光の偏光方向とは異なる方向に変化させる波長板と、
前記光ヘッド部が受光した前記反射光と前記端面反射光とを受光して、前記反射光および前記端面反射光の偏光方向の差に基づいて受光した光を前記反射光と前記端面反射光とに分割する分割部と、
前記分割部が分割した前記反射光および前記端面反射光のいずれか一方の光路に設けられており、前記反射光および前記端面反射光の偏光方向を一致させるための1/2波長板と、
前記1/2波長板が偏光方向を一致させた前記反射光と前記端面反射光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、
前記ビート信号を周波数解析する周波数解析部と、
前記ビート信号を周波数解析した結果に基づき、前記端面反射光と前記測定光との伝搬距離の差を算出する算出部と
を備える、測定装置。
【請求項2】
前記レーザ装置および前記光ヘッド部の間に設けられている偏光無依存型の分岐部を更に備え、
前記分岐部は、
前記レーザ装置が出力した前記周波数変調レーザ光が入力する第1ポートと、
前記第1ポートから入力した前記周波数変調レーザ光を前記光ヘッド部に出力し、前記光ヘッド部が出力した前記反射光および前記端面反射光が入力する第2ポートと、
前記第2ポートから入力した前記反射光および前記端面反射光を前記分割部に出力する第3ポートと
を有する、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置と、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を測定光として計測対象物に向けて照射し、前記測定光が前記計測対象物の表面で反射した反射光を受光し、前記周波数変調レーザ光の残りの一部を前記計測対象物に前記測定光を照射する端面で端面反射光として反射する光ヘッド部と、
前記レーザ装置および前記光ヘッド部の間に設けられている偏光無依存型の分岐部と、
前記光ヘッド部および前記計測対象物の間に設けられており、前記光ヘッド部と前記計測対象物とを往復する光路を通過する光の偏光方向を前記端面反射光の偏光方向とは異なる方向に変化させる波長板と、
前記光ヘッド部が受光した前記反射光と前記端面反射光とを受光して、前記反射光および前記端面反射光の偏光方向の差に基づいて受光した光を前記反射光と前記端面反射光とに分割する分割部と、
前記分割部が分割した前記反射光と前記端面反射光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、
前記ビート信号を周波数解析する周波数解析部と、
前記ビート信号を周波数解析した結果に基づき、前記端面反射光と前記測定光との伝搬距離の差を算出する算出部と
を備え
前記分岐部は、
前記レーザ装置が出力した前記周波数変調レーザ光が入力する第1ポートと、
前記第1ポートから入力した前記周波数変調レーザ光を前記光ヘッド部に出力し、前記光ヘッド部が出力した前記反射光および前記端面反射光が入力する第2ポートと、
前記第2ポートから入力した前記反射光および前記端面反射光を前記分割部に出力する第3ポートと
を有する、
測定装置。
【請求項4】
前記分岐部の前記第2ポートおよび前記光ヘッド部の間の光路と、前記分岐部の前記第3ポートおよび前記分割部の間の光路とのうち少なくとも一部は、偏光方向を保持するための屈折率構造が螺旋状に形成されている構造を有し、前記端面反射光および前記反射光を伝送するスパイラル構造型光ファイバを有する、請求項2又は3に記載の測定装置。
【請求項5】
前記波長板は、前記反射光および前記端面反射光の偏光方向を直交させ、
前記分割部は、直交する偏光方向の光を分割する偏光ビームスプリッタを有する、請求項1からのいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項6】
計測対象物までの距離を測定する測定装置の測定方法であって、
周波数変調レーザ光を出力するステップと、
前記周波数変調レーザ光の一部を測定光として計測対象物に向けて波長板を通過させてから照射し、前記周波数変調レーザ光の残りの一部を前記計測対象物に前記測定光を照射する端面で端面反射光として反射するステップと、
前記測定光が前記計測対象物の表面で反射した反射光を、前記波長板を通過させてから受光するステップと、
受光した前記反射光と前記端面反射光とを受光して、前記反射光および前記端面反射光の偏光方向の差に基づいて受光した光を前記反射光と前記端面反射光とに分割するステップと、
偏光方向を一致させた前記反射光および前記端面反射光のいずれか一方の光路に設けられた1/2波長板により、前記反射光および前記端面反射光の偏光方向を一致させるステップと、
偏光方向を一致させた前記反射光と前記端面反射光とを混合してビート信号を発生させるステップと、
前記ビート信号を周波数解析するステップと、
前記ビート信号を周波数解析した結果に基づき、前記端面反射光と前記測定光との伝搬距離の差を算出するステップと
を備える、測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共振器内に周波数シフタが設けられ、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化する複数の縦モードレーザを出力する周波数シフト帰還レーザ(FSFL:Frequency Shifted Feedback Laser)が知られている。また、このような周波数シフト帰還レーザを用いた光学式の距離計が知られている(例えば、特許文献1および非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3583906号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】原武文,「FSFレーザによる距離センシングとその応用」,オプトニューズ,Vol.7,No.3,2012年,pp.25-31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学式距離計は、周波数シフト帰還レーザを参照光と測定光とに分岐させて、測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と参照光とを混合してビート信号を発生させていた。そして、光学式距離計は、ビート信号の周波数を特定することにより、当該光学式距離計から計測対象物までの距離を測定していた。このような光学式距離計において、測定光を計測対象物に向けて出射する出射端で反射光が発生してしまうことがあった。出射端の反射光は、計測対象物で反射された測定光と同様に、参照光と混合してビート信号を発生させてしまうことがあり、光学式距離計の測定精度を低減させてしまうことがあった。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、光学式距離計においてレーザ光の出射端における反射光が生じても、簡便な構成で測定精度の低減を抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様においては、周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置と、前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を測定光として計測対象物に向けて照射し、前記測定光が前記計測対象物の表面で反射した反射光を受光し、前記周波数変調レーザ光の残りの一部を前記計測対象物に前記測定光を照射する端面で端面反射光として反射する光ヘッド部と、前記光ヘッド部および前記計測対象物の間に設けられており、前記光ヘッド部と前記計測対象物とを往復する光路を通過する光の偏光方向を前記端面反射光の偏光方向とは異なる方向に変化させる波長板と、前記光ヘッド部が受光した前記反射光と前記端面反射光とを受光して、前記反射光および前記端面反射光の偏光方向の差に基づいて受光した光を前記反射光と前記端面反射光とに分割する分割部と、前記分割部が分割した前記反射光と前記端面反射光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、前記ビート信号を周波数解析する周波数解析部と、前記ビート信号を周波数解析した結果に基づき、前記端面反射光と前記測定光との伝搬距離の差を算出する算出部とを備える、測定装置を提供する。
【0008】
前記測定装置は、前記レーザ装置および前記光ヘッド部の間に設けられている偏光無依存型の分岐部を更に備え、前記分岐部は、前記レーザ装置が出力した前記周波数変調レーザ光が入力する第1ポートと、前記第1ポートから入力した前記周波数変調レーザ光を前記光ヘッド部に出力し、前記光ヘッド部が出力した前記反射光および前記端面反射光が入力する第2ポートと、前記第2ポートから入力した前記反射光および前記端面反射光を前記分割部に出力する第3ポートとを有してもよい。
【0009】
前記分岐部の前記第2ポートおよび前記光ヘッド部の間の光路と、前記分岐部の前記第3ポートおよび前記分割部の間の光路とのうち少なくとも一部は、偏光方向を保持するための屈折率構造が螺旋状に形成されている構造を有し、前記端面反射光および前記反射光を伝送するスパイラル構造型光ファイバを有してもよい。
【0010】
前記波長板は、前記反射光および前記端面反射光の偏光方向を直交させ、前記分割部は、直交する偏光方向の光を分割する偏光ビームスプリッタを有してもよい。
【0011】
前記ビート信号発生部は、前記反射光および前記端面反射光を直交検波してもよい。
【0012】
本発明の第2の態様においては、計測対象物までの距離を測定する測定装置の測定方法であって、周波数変調レーザ光を出力するステップと、前記周波数変調レーザ光の一部を測定光として計測対象物に向けて波長板を通過させてから照射し、前記周波数変調レーザ光の残りの一部を前記計測対象物に前記測定光を照射する端面で端面反射光として反射するステップと、前記測定光が前記計測対象物の表面で反射した反射光を、前記波長板を通過させてから受光するステップと、受光した前記反射光と前記端面反射光とを受光して、前記反射光および前記端面反射光の偏光方向の差に基づいて受光した光を前記反射光と前記端面反射光とに分割するステップと、分割した前記反射光と前記端面反射光とを混合してビート信号を発生させるステップと、前記ビート信号を周波数解析するステップと、前記ビート信号を周波数解析した結果に基づき、前記端面反射光と前記測定光との伝搬距離の差を算出するステップとを備える、測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光学式距離計においてレーザ光の出射端における反射光が生じても、簡便な構成で測定精度の低減を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る測定装置100の構成例を計測対象物10と共に示す。
図2図1に示す測定装置100の周波数解析部160が、ビート信号発生部150が発生させたビート信号を周波数変換した周波数信号の一例を示す。
図3】本実施形態に係る測定装置300の構成例を計測対象物10と共に示す。
図4図3に示す測定装置300の周波数解析部160が、ビート信号発生部150が発生させたビート信号を周波数変換した周波数信号の一例を示す。
図5】本実施形態に係るレーザ装置110の構成例を示す。
図6】本実施形態に係るレーザ装置110が出力するレーザ光の一例を示す。
図7】本実施形態に係る測定装置300が検出するビート信号の周波数と、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dとの関係の一例を示す。
図8】本実施形態に係るビート信号発生部150および周波数解析部160の構成例を示す。
図9】本実施形態に係るビート信号発生部150および周波数解析部160の直交検波の概略の一例を示す。
図10】本実施形態に係る測定装置300の変形例を計測対象物10と共に示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[測定装置100の構成例]
図1は、本実施形態に係る測定装置100の構成例を計測対象物10と共に示す図である。測定装置100は、当該測定装置100および計測対象物10の間の距離を光学的に測定する。また、測定装置100は、計測対象物10に照射するレーザ光の位置を走査して、計測対象物10の三次元的な形状を計測してもよい。測定装置100は、レーザ装置110と、光カプラ120と、光サーキュレータ130と、光ヘッド部140と、ビート信号発生部150と、周波数解析部160と、算出部170と、表示部180と、記憶部190とを備える。
【0016】
レーザ装置110は、レーザ共振器を有し、複数のモードの周波数変調レーザ光を出力する。レーザ装置110は、共振器内に周波数シフタが設けられ、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化する複数の縦モードレーザを出力する。レーザ装置110は、一例として、周波数シフト帰還レーザである。周波数シフト帰還レーザについては後述する。
【0017】
光カプラ120は、レーザ装置110が出力する周波数変調レーザ光を分岐させて、一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光とする。光カプラ120は、一例として、1入力2出力の光ファイバ型の光カプラである。図1の例において、光カプラ120は、測定光を光サーキュレータ130に供給し、参照光をビート信号発生部150に供給する。
【0018】
光サーキュレータ130は、複数の入出力ポートを有する。光サーキュレータ130は、例えば、一のポートに入力した光を次のポートから出力させ、当該次のポートから入力する光を更に次のポートから出力させる。図1は、光サーキュレータ130が3つの入出力ポートを有する例を示す。この場合、光サーキュレータ130は、光カプラ120から供給される測定光を光ヘッド部140に出力する。また、光サーキュレータ130は、光ヘッド部140から入力する光をビート信号発生部150へと出力する。
【0019】
光ヘッド部140は、光サーキュレータ130から入力する光を計測対象物10に向けて照射する。光ヘッド部140は、一例として、コリメータレンズを有する。この場合、光ヘッド部140は、光ファイバを介して光サーキュレータ130から入力する光をコリメータレンズでビーム状に調節してから出力する。
【0020】
また、光ヘッド部140は、計測対象物10に照射した測定光の反射光を受光する。光ヘッド部140は、受光した反射光をコリメータレンズで光ファイバに集光して光サーキュレータ130に供給する。この場合、光ヘッド部140は、共通の1つのコリメータレンズを有し、当該コリメータレンズで、測定光を計測対象物10に照射し、また、計測対象物10からの反射光を受光してよい。なお、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離をdとする。
【0021】
これに代えて、光ヘッド部140は、集光レンズを有してもよい。この場合、光ヘッド部140は、光ファイバを介して光サーキュレータ130から入力する光を計測対象物10の表面に集光する。そして、光ヘッド部140は、計測対象物10の表面で反射した反射光の少なくとも一部を受光する。光ヘッド部140は、受光した反射光を集光レンズで光ファイバに集光して光サーキュレータ130に供給する。この場合においても、光ヘッド部140は、共通の1つの集光レンズを有し、当該集光レンズで、測定光を計測対象物10に照射し、また、計測対象物10からの反射光を受光してよい。
【0022】
ビート信号発生部150は、測定光を計測対象物10に照射して反射された反射光を光サーキュレータ130から受けとる。また、ビート信号発生部150は、光カプラ120から参照光を受けとる。ビート信号発生部150は、反射光および参照光を混合してビート信号を発生させる。ビート信号発生部150は、例えば、光電変換素子を有し、ビート信号を電気信号に変換して出力する。
【0023】
ここで、反射光は、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離を往復しているので、参照光と比較して少なくとも距離2dに応じた伝搬距離の差が生じることになる。レーザ装置110が出力する光は、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化するので、参照光および反射光の発振周波数は、当該伝搬距離の差に対応する伝搬遅延に応じた周波数差が生じる。ビート信号発生部150は、このような周波数差に対応するビート信号を発生させる。
【0024】
周波数解析部160は、ビート信号発生部150が発生させたビート信号を周波数解析する。周波数解析部160は、例えば、ビート信号をデジタル信号に変換し、変換したデジタル信号を周波数信号に周波数変換する。そして、周波数解析部160は、周波数変換した周波数信号を解析してビート信号の周波数を検出する。
【0025】
算出部170は、周波数解析部160がビート信号を周波数解析した結果に基づき、参照光と測定光との伝搬距離の差を検出する。算出部170は、ビート信号の周波数に基づき、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離dを算出する。周波数解析部160および算出部170の少なくとも一部は、集積回路等で構成されていることが望ましい。周波数解析部160および算出部170の少なくとも一部は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、および/またはCPU(Central Processing Unit)を含む。
【0026】
表示部180は、算出部170の算出結果を表示する。表示部180は、ディスプレイ等を有し、算出結果を表示してよい。また、表示部180は、記憶部190等に算出結果を記憶させてもよい。表示部180は、ネットワーク等を介して外部に算出結果を供給してもよい。
【0027】
記憶部190は、周波数解析部160および算出部170が動作の過程で生成する、または動作の過程で利用する、中間データ、算出結果、設定値、閾値、およびパラメータ等を記憶してもよい。記憶部190は、測定装置100内の各部の要求に応じて、記憶したデータを要求元に供給してもよい。
【0028】
記憶部190は、CPU等が周波数解析部160および算出部170の少なくとも一部として動作する場合、周波数解析部160および算出部170として機能するOS(Operating System)、およびプログラムの情報を格納してもよい。また、記憶部190は、当該プログラムの実行時に参照されるデータベースを含む種々の情報を格納してもよい。例えば、コンピュータは、記憶部190に記憶されたプログラムを実行することによって、周波数解析部160および算出部170として機能する。
【0029】
記憶部190は、例えば、コンピュータ等のBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)、および作業領域となるRAM(Random Access Memory)を含む。また、記憶部190は、HDD(Hard Disk Drive)および/またはSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置を含んでもよい。また、コンピュータは、GPU(Graphics Processing Unit)等を更に備えてもよい。
【0030】
以上の測定装置100は、計測対象物10に照射した測定光の反射光と、参照光との間の周波数差を解析することにより、測定装置100および計測対象物10の間の距離dを測定可能とする。即ち、測定装置100は、非接触および非破壊の光学式距離計を構成できる。
【0031】
[端面反射光の影響]
以上の測定装置100は、光ヘッド部140から計測対象物10に向けて測定光を照射するが、光ヘッド部140の測定光を出射する出射端面で反射光が発生してしまうことがある。例えば、測定光を光ファイバから出射している場合、当該ファイバの端面で反射光が生じることがある。また、光ヘッド部140がコリメータレンズ、集光レンズ等の光学レンズを用いて測定光を出射している場合、光学レンズの表面で反射光が生じることがある。本実施形態において、このような反射光を端面反射光とする。
【0032】
端面反射光は、測定光が計測対象物10に照射して反射された測定光と同様に、参照光と混合してビート信号を発生させてしまうことがある。この場合、ビート信号発生部150は、測定光および参照光によるビート信号と、端面反射光および参照光によるビート信号との異なる種類の2つのビート信号を発生させることになる。
【0033】
図2は、図1に示す測定装置100の周波数解析部160が、ビート信号発生部150が発生させたビート信号を周波数変換した周波数信号の一例を示す。図2は、端面反射光により、ビート信号発生部150が2つのビート信号を発生させた例を示す。図2において、横軸が周波数、縦軸が信号レベルを示す。
【0034】
図2に示す周波数信号には、計測対象物10で反射した測定光に基づくビート信号の周波数スペクトルに、端面反射光に基づくビート信号の周波数スペクトルが重畳している。例えば、測定光に基づくビート信号のピーク周波数をν、端面反射光に基づくビート信号のピーク周波数をν’とする。このように、周波数信号には、端面反射光が発生していることにより、2つの周波数スペクトルが重畳することになる。
【0035】
周波数解析部160がこのような周波数信号を解析すると、2つのビート信号のうち、端面反射光に基づくビート信号を解析すべきビート信号として処理してしまうことがある。この場合、算出部170が算出する距離は、端面反射光に基づくビート信号の周波数ν’に基づく距離となり、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離dとは異なってしまう。
【0036】
また、例えば、図2に示すような周波数領域において、2つの周波数スペクトルのピークが分離できない程度に2つのビート信号の周波数が近接してしまうことがある。この場合、周波数解析部160がこのようなビート信号を解析しても、測定光に基づくビート信号の周波数νを精度よく出力することができなくなってしまう。
【0037】
そこで、本実施形態に係る測定装置300は、レーザ光の出射端において端面反射光が発生しても、簡便な構成で測定精度の低減を抑制できるようにする。このような測定装置300について、次に説明する。
【0038】
[測定装置300の構成例]
図3は、本実施形態に係る測定装置300の構成例を計測対象物10と共に示す。測定装置300は、端面反射光を参照光として用い、端面反射光に基づくビート信号を解析すべきビート信号にすることで、異なる種類のビート信号が複数発生して測定精度が低減することを抑制する。測定装置300は、レーザ装置110と、光ヘッド部140と、ビート信号発生部150と、周波数解析部160と、算出部170と、表示部180と、記憶部190と、波長板310と、分岐部320と、分割部330とを備える。図3に示す測定装置300において、図1に示された本実施形態に係る測定装置100の動作と同様のものには同一の符号を付け、重複する説明を省略する。
【0039】
レーザ装置110は、偏光方向が一方向となる偏向光の周波数変調レーザ光を出力する。これに代えて、偏光子を介してレーザ装置110から周波数変調レーザ光を出力することで、偏向光の周波数変調レーザ光を出力させてもよい。一例として、周波数変調レーザ光の偏光方向を光軸に垂直な面のX方向とする。
【0040】
光ヘッド部140は、レーザ装置110が出力する周波数変調レーザ光を測定光として受け取る。そして、光ヘッド部140は、受け取った周波数変調レーザ光の一部を測定光として計測対象物10に向けて照射し、測定光が計測対象物10の表面で反射した反射光を受光する。光ヘッド部140が測定光を計測対象物10へ照射して反射光を受光する動作は、図1に示す測定装置100と同様なので、ここでは説明を省略する。
【0041】
また、光ヘッド部140は、周波数変調レーザ光の残りの一部を計測対象物10に測定光を照射する端面で端面反射光として反射する。本実施形態の測定装置300は、このように測定光の出射端で発生する端面反射光を、図1で説明した測定装置100の参照光として利用する。したがって、測定装置300は、周波数変調レーザ光から参照光を分岐させるための光カプラ120を省くことができる。なお、端面反射光の偏光方向は、レーザ装置110が出力する周波数変調レーザ光の偏光方向と略同一のX方向である。
【0042】
波長板310は、光ヘッド部140および計測対象物10の間に設けられており、光ヘッド部140と計測対象物10とを往復する光路を通過する光の偏光方向を端面反射光の偏光方向とは異なる方向に変化させる。例えば、波長板310は、測定光の反射光および端面反射光の偏光方向を直交させる。なお、本実施形態において、計測対象物10で反射された測定光を、反射光または測定光と呼ぶ。
【0043】
波長板310は、一例として、1/4波長板であり、光ヘッド部140から計測対象物10に照射される測定光が通過し、また、計測対象物10で反射されて光ヘッド部140に入射する反射光が通過する。これにより、光ヘッド部140が受光した反射光は、光ヘッド部140から照射されてから波長板310を2回通過することになり、偏光方向が90度回転する。例えば、反射光の偏光方向は、光軸に垂直な面においてX方向に直交するY方向である。
【0044】
なお、光ヘッド部140から計測対象物10までの光路と計測対象物10から光ヘッド部140に戻る光路とが異なるように、光ヘッド部140は、計測対象物10に向かう垂直方向に対して角度を有して測定光を照射してもよい。このような光学系の場合、波長板310は、光ヘッド部140から計測対象物10までの光路と計測対象物10から光ヘッド部140に戻る光路とのいずれか一方に設けられていてもよい。この場合、光ヘッド部140が受光した反射光は、光ヘッド部140から照射されてから波長板310を1回通過することになるので、波長板310は、1/2波長板でよい。
【0045】
分岐部320は、レーザ装置110および光ヘッド部140の間に設けられており、周波数変調レーザ、反射光、および端面反射光を各部に伝播させる。分岐部320は、例えば、偏光無依存型の光サーキュレータである。この場合、分岐部320の機能は、図1で説明した光サーキュレータ130と同様の機能を有する。一例として、分岐部320は、第1ポート321、第2ポート322、および第3ポート323を有する。
【0046】
第1ポート321は、レーザ装置110が出力した周波数変調レーザ光が入力する。第2ポート322は、第1ポート321から入力した周波数変調レーザ光を光ヘッド部140に出力する。また、第2ポート322は、光ヘッド部140が出力した反射光および端面反射光が入力する。第3ポート323は、第2ポート322から入力した反射光および端面反射光を分割部330に出力する。
【0047】
このように、分岐部320は、偏光方向が直交する反射光および端面反射光を分割部330に供給する。ここで、反射光および端面反射光は偏光方向が直交するので、光ヘッド部140から分割部330に至る反射光および端面反射光が通過する光路において、反射光および端面反射光によるビート信号はほとんど発生しない。なお、分岐部320を含む光路は、通過する光の偏光方向に影響を及ぼさない程度に、より短い光路長で形成されていることが望ましい。また、分岐部320を含む光路は、通過する光の偏光方向に与える影響がより少ない構造を有するファイバ等で形成されていてもよい。
【0048】
例えば、分岐部320の第2ポート322および光ヘッド部140の間の光路と、分岐部320の第3ポート323および分割部330の間の光路とのうち少なくとも一部は、スパイラル構造型光ファイバを有する。スパイラル構造型光ファイバは、偏光方向を保持するための屈折率構造が螺旋状に形成されている構造を有し、端面反射光および反射光の偏光方向を保持して伝送することができるファイバの一例である。なお、偏光方向を保持するための屈折率構造は、偏波保持ファイバを構成できる構造であればよく、例えば、Bow-Tie構造が挙げられる。また、レーザ装置110および分岐部320の第1ポート321の間の光路の少なくとも一部は、偏波保持ファイバを有してもよい。
【0049】
分割部330は、光ヘッド部140が受光した反射光と端面反射光とを受光して、反射光および端面反射光の偏光方向の差に基づいて受光した光を反射光と端面反射光とに分割する。分割部330は、例えば、直交する偏光方向の光を分割する偏光ビームスプリッタである。分割部330は、入力した光を偏光方向がY方向の反射光と偏光方向がX方向の端面反射光との2つの光に分割して出力する。
【0050】
これに代えて、分割部330は、例えば、光カプラと偏光子との組み合わせで構成されていてもよい。この場合、分割部330は、入力した光を光カプラで2つに分岐させて、分岐させた一方の光をY方向の偏光方向の光を通過させる偏光子を介して出力させ、分岐させた他方の光をX方向の偏光方向の光を通過させる偏光子を介して出力させる。この場合でも、分割部330は、入力した光を偏光方向がY方向の反射光と偏光方向がX方向の端面反射光との2つの光に分割して出力できる。
【0051】
ビート信号発生部150は、分割部330が分割した反射光と端面反射光とを混合してビート信号を発生させる。ビート信号発生部150は、反射光および端面反射光の偏光方向を略一致させてから、反射光および端面反射光を混合してビート信号を発生させる。ビート信号発生部150は、例えば、分割部330とビート信号発生部150との間に、反射光および端面反射光のいずれか一方を通過させる1/2波長板151を有する。図3は、端面反射光の偏光方向をY方向にさせるように、分割部330とビート信号発生部150との間に1/2波長板151が設けられている例を示す。
【0052】
これにより、反射光および端面反射光の偏光方向はY方向となり、ビート信号発生部150が反射光および端面反射光を混合することでビート信号が発生する。ビート信号発生部150は、光カプラ等で反射光および端面反射光を混合してもよく、後述するように、光90度ハイブリッド等で反射光および端面反射光を混合してもよい。ビート信号発生部150は、光電変換素子を有し、発生させたビート信号を電気信号に変換して出力する。
【0053】
周波数解析部160は、ビート信号発生部150が発生させたビート信号を周波数解析する。そして、算出部170は、ビート信号を周波数解析した結果に基づき、端面反射光と測定光との伝搬距離の差を算出する。ここで、伝搬距離の差は、光ヘッド部140において端面反射光が発生した端面から計測対象物10において測定光が照射されて当該測定光を反射した位置までの距離である。本実施形態において、このような伝搬距離の差をdとする。
【0054】
以上の測定装置300は、計測対象物10に照射した測定光の反射光と、端面反射光との間の周波数差を解析することにより、測定装置300および計測対象物10の間の距離dを測定可能とする。測定装置300は、図1で説明した測定装置100のように、光カプラ120を用いて周波数変調レーザ光の一部を参照光とすることなく、端面反射光を参照光として利用する。これにより、本実施形態に係る測定装置300は、測定光に基づくビート信号と、端面反射光に基づくビート信号といった異なる種類のビート信号が発生して重畳することを防止できる。
【0055】
図4は、図3に示す測定装置300の周波数解析部160が、ビート信号発生部150が発生させたビート信号を周波数変換した周波数信号の一例を示す。図4は、測定光の反射光と端面反射光とにより、ビート信号発生部150が1つのビート信号を発生させた例を示す。図4において、横軸が周波数、縦軸が信号レベルを示す。また、ビート信号のピーク周波数をνとする。
【0056】
周波数解析部160は、図4の例のように1つのビート信号が発生している周波数信号を解析することにより、測定光に基づくビート信号の周波数νを出力することができる。したがって、測定装置300は、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離dを簡便な構成で精度よく出力することができる。このような測定装置300のより詳細な構成について次に説明する。なお、以下の説明において、ビート信号発生部150は、反射光および端面反射光を直交検波する例を説明する。
【0057】
[レーザ装置110の構成例]
図5は、本実施形態に係るレーザ装置110の構成例を示す。図5のレーザ装置110は、周波数シフト帰還レーザの一例を示す。レーザ装置110は、レーザ共振器を有し、当該レーザ共振器内でレーザ光を発振させる。レーザ装置110のレーザ共振器は、周波数シフタ112と、増幅媒体114と、WDMカプラ116と、ポンプ光源117、出力カプラ118とを含むレーザ共振器を有する。
【0058】
周波数シフタ112は、入力する光の周波数を略一定の周波数だけシフトする。周波数シフタ112は、一例として、音響光学素子を有するAOFS(Acousto-Optic Frequency Shifter)である。ここで、周波数シフタ112による周波数シフト量を+νとする。即ち、周波数シフタ112は、共振器を周回する光の周波数を、1周回毎にνだけ周波数が増加するようにシフトさせる。
【0059】
増幅媒体114は、ポンプ光が供給され、入力光を増幅する。増幅媒体114は、一例として、不純物が添加された光ファイバである。不純物は、例えば、エルビウム、ネオジウム、イッテルビウム、テルビウム、ツリウム等の希土類元素である。また、増幅媒体114は、WDMカプラ116を介してポンプ光源117からポンプ光が供給される。出力カプラ118は、共振器内でレーザ発振した光の一部を外部に出力する。
【0060】
即ち、図5に示すレーザ装置110は、共振器内に周波数シフタ112を有するファイバリングレーザを構成する。レーザ装置110は、共振器内にアイソレータを更に有することが望ましい。また、レーザ装置110は、予め定められた波長帯域の光を通過させる光バンドパスフィルタを共振器内に有してもよい。このようなレーザ装置110が出力するレーザ光の周波数特性について次に説明する。
【0061】
図6は、本実施形態に係るレーザ装置110が出力するレーザ光の一例を示す。図6は、時刻tにおいてレーザ装置110が出力するレーザ光の光スペクトルを左側に示す。当該光スペクトルにおいては、横軸が光強度、縦軸が光の周波数を示す。また、光スペクトルの複数の縦モードを番号qで示す。複数の縦モードの周波数は、略一定の周波数間隔で並ぶ。ここで、光が共振器を1周する時間をτRT(=1/ν)とすると、複数の縦モードは、次式のように1/τRT(=ν)間隔で並ぶことになる。なお、νは、時刻tにおける光スペクトルの初期周波数とする。また、νは、レーザ共振器の共振周波数νである。
【数1】
【0062】
図6は、レーザ装置110が出力する複数の縦モードの時間経過にともなう周波数の変化を右側に示す。図6の右側においては、横軸が時間、縦軸が周波数を示す。即ち、図6は、レーザ装置110が出力するレーザ光の周波数の時間的な変化を右側に示し、当該レーザ光の時刻tにおける瞬時周波数を左側に示したものである。
【0063】
レーザ装置110は、共振器内の光が共振器を1周する毎に、周波数シフタ112が周回する光の周波数をνだけ増加させる。即ち、時間がτRT経過する毎に、各モードの周波数はνだけ増加するので、周波数の時間変化dν/dtは、ν/τRTと略等しくなる。したがって、(数1)式で示した複数の縦モードは、時間tの経過に伴って、次式のように変化する。
【数2】
【0064】
[距離測定処理の詳細]
本実施形態に係る測定装置300は、(数2)式で示すような周波数成分を出力するレーザ装置110を用いて、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dを測定する。ここで、反射光および端面反射光の間の光路差が、距離dを往復した距離2dだけであり、距離2dに対応する伝搬遅延をΔtとする。即ち、時刻tにおいて、測定光が計測対象物10から反射して戻ってきた場合、戻ってきた反射光は、時刻tよりも時間Δtだけ過去の周波数と略一致するので、次式で示すことができる。
【数3】
【0065】
一方、時刻tにおける端面反射光は、(数2)式と同様に次式で示すことができる。ここで、端面反射光をνq’(t)とした。
【数4】
【0066】
ビート信号発生部150は、このような反射光および端面反射光を重畳させるので、(数3)式の複数の縦モードと(数4)式で示す複数の縦モードとの間の複数のビート信号が発生することになる。このようなビート信号の周波数をν(m,d)とすると、ν(m,d)は、(数3)式および(数4)式より次式で示すことができる。なお、mを縦モード番号の間隔(=q-q’)とし、Δt=2d/cとした。
【数5】
【0067】
(数5)式より、距離dは、次式のように示される。ここで、1/τRT=νとした。
【数6】
【0068】
(数6)式より、縦モード番号の間隔mを判別すれば、ビート信号の周波数観測結果から距離dを算出できることがわかる。なお、間隔mは、レーザ装置110の周波数シフト量νを変化させた場合のビート信号の変化を検出することで、判別することができる。このような間隔mの判別方法は、特許文献1等に記載されているように既知であるから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0069】
観測されるビート信号は常に正の周波数であるから、計算上、負の周波数側に発生するビート信号は、正側に折り返され、イメージ信号として観測される。このようなイメージ信号の発生について、次に説明する。
【0070】
図7は、本実施形態に係る測定装置300が検出するビート信号の周波数と、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dとの関係の一例を示す。図7の横軸は距離dを示し、縦軸はビート信号の周波数ν(m,d)を示す。図7の実線で示す複数の直線は、(数6)式に示したように、距離dに対するビート信号の周波数ν(m,d)の関係を、複数のm毎に示したグラフである。
【0071】
図7のように、mの値に応じた複数のビート信号が発生する。しかしながら、反射光および端面反射光のそれぞれに含まれる複数の縦モードは、略一定の周波数間隔νで並ぶので、mの値が等しい複数のビート信号は周波数軸上では略同一の周波数に重畳されることになる。例えば、周波数0からνの間の周波数帯域を観測した場合、複数のビート信号は略同一の周波数に重畳されて、1本の線スペクトルとして観測される。
【0072】
これに加えて、0よりも小さい負の領域のビート信号の周波数ν(m,d)は、周波数の絶対値がイメージ信号として更に観測される。即ち、図7の縦軸が0よりも小さい領域のグラフは、周波数0を境界として折り返される。図7は、折り返されたイメージ信号を、複数の点線で示す。折り返された複数のイメージ信号は、正負が反転するだけなので、観測される周波数軸上では折り返される前の周波数の絶対値と同一の周波数に重畳される。例えば、周波数0からνの間の周波数帯域を観測した場合、このようなビート信号およびイメージ信号は、周波数がそれぞれν/2にならない限り、それぞれ異なる周波数に位置する。
【0073】
このように、周波数0からνの間の観測帯域においては、ビート信号ν(m,d)と、ビート信号ν(m,d)とはmの値が異なるイメージ信号ν(m’,d)の2本の線スペクトルが発生する。ここで、一例として、m’=m+1である。この場合、ビート信号発生部150が直交検波を用いることで、このようなイメージ信号をキャンセルできる。そこで直交検波を用いたビート信号発生部150および周波数解析部160について、次に説明する。
【0074】
図8は、本実施形態に係るビート信号発生部150および周波数解析部160の構成例を示す。ビート信号発生部150は、反射光および端面反射光を直交検波する。ビート信号発生部150は、光90度ハイブリッド152と、第1光電変換部154と、第2光電変換部156とを有する。なお、ビート信号発生部150には、偏光方向が略一致する反射光および端面反射光が入力するものとする。
【0075】
光90度ハイブリッド152は、入力する反射光および端面反射光をそれぞれ2つに分岐させる。光90度ハイブリッド152は、分岐した一方の反射光と、分岐した一方の端面反射光とを光カプラ等で合波して第1ビート信号を発生させる。また、光90度ハイブリッド152は、分岐した他方の反射光と、分岐した他方の端面反射光とを光カプラ等で合波して第2ビート信号を発生させる。ここで、光90度ハイブリッド152は、分岐した2つの端面反射光の間に90度の位相差を生じさせてから、ビート信号を発生させる。光90度ハイブリッド152は、例えば、分岐した2つの端面反射光のうちいずれか一方に、π/2波長板を介してから反射光とそれぞれ合波させる。
【0076】
第1光電変換部154および第2光電変換部156は、合波した反射光および端面反射光を受光して電気信号に変換する。第1光電変換部154および第2光電変換部156のそれぞれは、フォトダイオード等でよい。第1光電変換部154および第2光電変換部156のそれぞれは、一例として、バランス型フォトダイオードである。図8において、第1光電変換部154が第1ビート信号を発生させ、第2光電変換部156が第2ビート信号を発生させるものとする。以上のように、ビート信号発生部150は、位相を90度異ならせた2つの端面反射光と反射光とをそれぞれ合波させて直交検波し、2つのビート信号を周波数解析部160に出力する。
【0077】
周波数解析部160は、2つのビート信号を周波数解析する。ここでは、周波数解析部160が、第1ビート信号をI信号とし、第2ビート信号をQ信号として周波数解析する例を説明する。周波数解析部160は、第1フィルタ部162、第2フィルタ部164、第1AD変換器202、第2AD変換器204、クロック信号供給部210、および信号処理部220を有する。
【0078】
第1フィルタ部162および第2フィルタ部164は、ユーザ等が周波数解析したい周波数帯域とは異なる周波数帯域の信号成分を低減させる。ここで、ユーザ等が周波数解析したい周波数帯域を0からνとする。第1フィルタ部162および第2フィルタ部164は、例えば、周波数ν以下の信号成分を通過させるローパスフィルタである。この場合、第1フィルタ部162は、周波数νよりも高い周波数の信号成分を低減させた第1ビート信号を第1AD変換器202に供給する。また、第2フィルタ部164は、周波数νよりも高い周波数の信号成分を低減させた第2ビート信号を第2AD変換器204に供給する。
【0079】
第1AD変換器202および第2AD変換器204は、入力するアナログ信号をデジタル信号に変換する。例えば、第1AD変換器202は第1ビート信号をデジタル信号に変換し、第2AD変換器204は第2ビート信号をデジタル信号に変換する。クロック信号供給部210は、第1AD変換器202および第2AD変換器204にクロック信号を供給する。これにより、第1AD変換器202および第2AD変換器204は、受け取ったクロック信号のクロック周波数と略同一のサンプリングレートでアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0080】
ここで、観測帯域を0からνとすると、ビート信号の周波数は、最大でもレーザ共振器の共振器周波数νである。したがって、クロック信号供給部210が、レーザ共振器の共振器周波数νの2倍以上の周波数のクロック信号を、第1AD変換器202および第2AD変換器204に供給することで、ビート信号を観測することができる。
【0081】
信号処理部220は、第1ビート信号および第2ビート信号を周波数データに変換する。信号処理部220は、一例として、第1ビート信号および第2ビート信号をそれぞれデジタルフーリエ変換(DFT)する。信号処理部220は、周波数データに変換した第1ビート信号を実部、周波数データに変換した第2ビート信号を虚部として加算し、イメージ信号を相殺する。なお、周波数解析部160は、ビート信号がデジタル信号に変換された後は、集積回路等で信号処理部220を構成してよい。以上のビート信号発生部150における直交検波と周波数解析部160における周波数解析について、次に述べる。
【0082】
図9は、本実施形態に係るビート信号発生部150および周波数解析部160の直交検波の概略の一例を示す。図9の横軸はビート信号の周波数、縦軸は信号強度を示す。図9は、I信号およびQ信号のいずれか一方の周波数スペクトルを示す。I信号およびQ信号のいずれの周波数スペクトルも、図9の上側に示すように、略同一のスペクトル形状となる。I信号およびQ信号は、例えば、周波数0からνの間の周波数帯域に、ビート信号ν(m,d)およびイメージ信号ν(m+1,d)が観測される。この場合、I信号およびQ信号は、負側の周波数0から-νの間の周波数帯域に、ビート信号-ν(m,d)およびイメージ信号の元のビート信号-ν(m+1,d)が存在する。
【0083】
ここで、I信号およびQ信号は、ビート信号発生部150が直交検波した信号成分なので、スペクトル形状が同一であっても、異なる位相情報を含む。例えば、正側の周波数0からνの間の周波数帯域において、I信号のイメージ信号ν(m+1,d)とQ信号のイメージ信号ν(m+1,d)とは、互いに位相が反転する。同様に、負側の周波数0から-νの間の周波数帯域において、I信号のビート信号-ν(m,d)とQ信号のビート信号-ν(m,d)とは、互いに位相が反転する。
【0084】
したがって、図9の下側に示すように、信号処理部220がI信号およびQ信号を用いてI+jQを算出すると、周波数0からνの間の周波数帯域において、周波数ν(m,d)のビート信号が強め合い、周波数ν(m+1,d)のイメージ信号が相殺される。同様に、周波数0から-νの間の周波数帯域において、周波数-ν(m+1,d)のビート信号が強め合い、周波数-ν(m,d)のビート信号が相殺される。
【0085】
このような信号処理部220の周波数解析結果により、周波数0からνの間の周波数帯域には1つのビート信号が周波数ν(m,d)に観測されることになる。測定装置100は、このようにして、イメージ信号をキャンセルできるので、ビート信号の周波数ν(m,d)を検出することができる。例えば、信号処理部220は、変換した周波数信号の信号強度が最も高くなる周波数をビート信号の周波数ν(m,d)として出力する。
【0086】
ここで、測定装置100が測定する距離dは、(数6)式で示されている。(数6)式より、ν、ν、およびν(m,d)の3つの周波数を用いることで、距離dが算出できることがわかる。3つの周波数のうち、ν(m,d)は、以上のように、検出できることがわかる。また、νおよびνは、レーザ装置110の部材によって定まる周波数なので、固定値として取り扱うことができる。したがって、算出部170は、周波数解析部160が検出したビート信号の周波数ν(m,d)と、予め定められたνおよびνを用いて、距離dを算出する。以上のように、測定装置100は、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離dを測定することができる。
【0087】
以上の本実施形態に係る測定装置300は、光ヘッド部140の測定光の出射端面で反射した端面反射光を参照光として利用することを説明した。ここで、光ヘッド部140の測定光の出射端面は、閾値以上の光強度の端面反射光が発生するように、加工されていてもよい。例えば、光ヘッド部140が光ファイバで測定光を出射する場合、光ファイバの出射端面は8度よりも小さい角度で研磨されていることが望ましい。一例として、光ファイバの出射端面は0度研磨(フラット研磨)である。
【0088】
また、光ヘッド部140が光学レンズで測定光を出射する場合、光学レンズの表面には入射する光の一部を反射するように多層膜等がコーティングされていてもよい。これにより、光ヘッド部140は、予め定められた光強度範囲の端面反射光を発生させて、計測対象物10からの反射光が入力した場合に、ビート信号発生部150からビート信号をより確実に発生させることができる。
【0089】
以上の本実施形態に係る測定装置300は、分岐部320が光サーキュレータである例を説明したが、これに限定されることはない。分岐部320は、例えば、光カプラであってもよい。分岐部320として光カプラを用いた例を図11に示す。
【0090】
図10は、本実施形態に係る測定装置300の変形例を計測対象物10と共に示す。図10に示す測定装置300において、図3に示された本実施形態に係る測定装置300の動作と同様のものには同一の符号を付け、重複する説明を省略する。図10は、分岐部320が少なくとも3つのポートを有する光カプラの例を示す。光カプラの3つのポートを第1ポート321、第2ポート322、および第3ポート323とする。光カプラは、例えば、第2ポート322から入力した光を第1ポート321および第3ポート323の2つのポートに1:1に分岐させて出力する1:1カプラである。
【0091】
第1ポート321は、レーザ装置110が出力した周波数変調レーザ光が入力する。第2ポート322は、第1ポート321から入力した周波数変調レーザ光の一部を光ヘッド部140に出力する。また、第2ポート322は、光ヘッド部140が出力した反射光および端面反射光が入力する。第3ポート323は、第2ポート322から入力した反射光および端面反射光の一部を分割部330に出力する。このように、光カプラは、偏光方向が直交する反射光および端面反射光を分割部330に供給する分岐部320として機能できる。
【0092】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0093】
10 計測対象物
100 測定装置
110 レーザ装置
112 周波数シフタ
114 増幅媒体
116 WDMカプラ
117 ポンプ光源
118 出力カプラ
120 光カプラ
130 光サーキュレータ
140 光ヘッド部
150 ビート信号発生部
151 1/2波長板
152 光90度ハイブリッド
154 第1光電変換部
156 第2光電変換部
160 周波数解析部
162 第1フィルタ部
164 第2フィルタ部
170 算出部
180 表示部
190 記憶部
202 第1AD変換器
204 第2AD変換器
210 クロック信号供給部
220 信号処理部
300 測定装置
310 波長板
320 分岐部
330 分割部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10