(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】偏光板及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240725BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20240725BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20240725BHJP
C09J 129/04 20060101ALI20240725BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20240725BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240725BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20240725BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240725BHJP
G06F 3/041 20060101ALI20240725BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240725BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
G02B5/30
G09F9/00 313
G09F9/00 366A
G02F1/1335 510
C09J129/04
C09J11/04
C09J7/38
C09J7/35
C09J201/00
G06F3/041 495
B32B7/023
B32B27/30 102
(21)【出願番号】P 2020168431
(22)【出願日】2020-10-05
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】福田 謙一
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/085383(WO,A1)
【文献】特表2016-529550(JP,A)
【文献】国際公開第2011/114871(WO,A1)
【文献】特開2012-108452(JP,A)
【文献】特開2005-326531(JP,A)
【文献】特開2014-102353(JP,A)
【文献】特開2012-041533(JP,A)
【文献】特開2006-168243(JP,A)
【文献】国際公開第2021/095541(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G09F 9/00
G02F 1/1335
C09J 129/04
C09J 11/04
C09J 7/38
C09J 7/35
C09J 201/00
G06F 3/041
B32B 7/023
B32B 27/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂層に二色性色素を吸着配向させた偏光素子と、前記偏光素子の少なくとも一方の面に積層された透明保護フィルムと、を有する偏光板であって、
前記偏光素子と前記透明保護フィルムとは、
ポリビニルアルコール系樹脂及びアンモニウムイオン供給体を含有する接着剤から形成される接着剤層によって貼合されており、
前記接着剤における前記アンモニウムイオン供給体の含有量は、前記ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して2質量部以上200質量部以下であり、
前記アンモニウムイオン供給体は、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウム、酢酸アンモニウム及びシュウ酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類を含み、
前記偏光素子の含水率は、温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である、偏光板。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂層に二色性色素を吸着配向させた偏光素子と、前記偏光素子の少なくとも一方の面に積層された透明保護フィルムと、を有する偏光板であって、
前記偏光素子と前記透明保護フィルムとは、
ポリビニルアルコール系樹脂及びアンモニウムイオン供給体を含有する接着剤から形成される接着剤層によって貼合されており、
前記接着剤における前記アンモニウムイオン供給体の含有量は、前記ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して2質量部以上200質量部以下であり、
前記アンモニウムイオン供給体は、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウム、酢酸アンモニウム及びシュウ酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類を含み、
前記偏光板の含水率は、温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である、偏光板。
【請求項3】
前記接着剤層は、厚みが0.01μm以上7μm以下である、請求項1
又は2に記載の偏光板。
【請求項4】
前記偏光板は画像表示装置に用いられ、
前記画像表示装置において、前記偏光板の両面には固体層が接して設けられている、請求項1~
3のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項5】
画像表示セルと、前記画像表示セルの視認側表面に積層された第1粘着剤層と、前記第1粘着剤層の視認側表面に積層された請求項1~
4のいずれか1項に記載の偏光板と、を有する画像表示装置。
【請求項6】
前記偏光板の視認側表面に積層された第2粘着剤層と、前記第2粘着剤層の視認側表面に積層された透明部材と、をさらに有する請求項
5に記載の画像表示装置。
【請求項7】
前記透明部材がガラス板又は透明樹脂板である、請求項
6に記載の画像表示装置。
【請求項8】
前記透明部材がタッチパネルである、請求項
6に記載の画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)は、液晶テレビだけでなく、パソコン、携帯電話等のモバイル、カーナビ等の車載用途にも広く用いられている。通常、液晶表示装置は、液晶セルの両側に粘着剤で偏光板を貼合した液晶パネルを有し、バックライトからの光を液晶パネルで制御することにより表示が行われている。近年では、有機EL表示装置も液晶表示装置と同様にテレビ、携帯電話等のモバイル、カーナビ等の車載用途で広く用いられている。有機EL表示装置では、外光が金属電極(陰極)で反射され鏡面のように視認されることを抑止するために、画像表示パネルの視認側表面に円偏光板(偏光素子とλ/4板を含む積層体)が配置される場合がある。
【0003】
偏光板は上記のように、液晶表示装置、有機EL表示装置等の画像表示装置の部材として、車に搭載される機会が増えている。車載用の画像表示装置に用いられる偏光板は、テレビや携帯電話等のモバイル用途に比較して、高温環境下に曝されることが多いため、より高温での特性変化が小さいこと(高温耐久性)が求められる。
【0004】
一方、外表面から衝撃による画像表示パネルの破損防止等を目的として、画像表示パネルより視認側に透明樹脂板やガラス板等の前面板(「ウインドウ層」とも称される。)を設ける構成が増えている。タッチパネルを備える画像表示装置では、画像表示パネルよりも視認側にタッチパネルが設けられ、タッチパネルよりもさらに視認側に前面板を備える構成が広く採用されている。
【0005】
このような構成において、画像表示パネルと前面板やタッチパネル等の透明部材との間に空気層が存在すると、空気層界面での光の反射による外光の映り込みが生じ、画面の視認性が低下する傾向がある。そのため、画像表示パネルの視認側表面に配置される偏光板と透明部材との間の空間を、空気層以外の層であって通常は固体層(以下、「層間充填剤」と称する場合がある。)で充填する構成(以下、「層間充填構成」と称する場合がある。)を採用する動きが広まっている。層間充填剤は、好ましくは偏光板又は透明部材と屈折率が近い材料である。層間充填剤としては、界面での反射による視認性の低下を抑止すると共に、各部材間を接着固定する目的で、粘着剤やUV硬化型接着剤が用いられる(例えば特許文献1参照)。
【0006】
層間充填構成は、屋外で使用されることが多い携帯電話等のモバイル用途での採用が広がっている。また、近年の視認性に対する要求の高まりから、カーナビゲーション装置等の車載用途においても、画像表示パネル表面に前面透明板を配置し、パネルと前面透明板との間を粘着剤層等で充填した層間充填構成の採用が検討されている。
【0007】
しかし、このような構成を採用する場合、高温環境下で偏光板の透過率が著しく低下することが報告されている。特許文献2ではその問題の解決策として、偏光板の単位面積当たりの水分量を所定量以下とし、かつ偏光素子に隣接する透明保護フィルムの飽和吸水量を所定量以下とすることにより透過率の低下を抑制する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-174417号公報
【文献】特開2014-102353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような偏光板であっても、高温環境下における透過率低下の抑制効果は十分ではなかった。本発明は、高温環境下において透過率の低下がより抑制された偏光板、及び当該偏光板を用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に例示する偏光板及び画像表示装置を提供する。
[1]ポリビニルアルコール系樹脂層に二色性色素を吸着配向させた偏光素子と、前記偏光素子の少なくとも一方の面に積層された透明保護フィルムと、を有する偏光板であって、
前記偏光素子と前記透明保護フィルムとは、アンモニウムイオン供給体を含有する接着剤から形成される接着剤層によって貼合されており、
前記偏光素子の含水率は、温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である、偏光板。
[2]ポリビニルアルコール系樹脂層に二色性色素を吸着配向させた偏光素子と、前記偏光素子の少なくとも一方の面に積層された透明保護フィルムと、を有する偏光板であって、
前記偏光素子と前記透明保護フィルムとは、アンモニウムイオン供給体を含有する接着剤から形成される接着剤層によって貼合されており、
前記偏光板の含水率は、温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である、偏光板。
[3]前記接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂を含む、[1]又は[2]に記載の偏光板。
[4]前記接着剤における前記アンモニウムイオン供給体の含有量は、前記ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して1質量部以上300質量部以下である、[3]に記載の偏光板。
[5]前記接着剤層は、厚みが0.01μm以上7μm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の偏光板。
[6]前記アンモニウムイオン供給体は、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウム、酢酸アンモニウム及びシュウ酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の偏光板。
[7]前記偏光板は画像表示装置に用いられ、
前記画像表示装置において、前記偏光板の両面には固体層が接して設けられている[1]~[6]のいずれかに記載の偏光板。
[8]画像表示セルと、前記画像表示セルの視認側表面に積層された第1粘着剤層と、前記第1粘着剤層の視認側表面に積層された[1]~[7]のいずれかに記載の偏光板と、を有する画像表示装置。
[9]前記偏光板の視認側表面に積層された第2粘着剤層と、前記第2粘着剤層の視認側表面に積層された透明部材と、をさらに有する[8]に記載の画像表示装置。
[10]前記透明部材がガラス板又は透明樹脂板である、[9]に記載の画像表示装置。
[11]前記透明部材がタッチパネルである、[9]に記載の画像表示装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温耐久性が向上し、層間充填構成の画像表示装置に用いられた場合においても、高温による透過率の低下が抑制された偏光板を提供することが可能となる。さらに、本発明に係る偏光板を用いることで、高温環境下での透過率の低下が抑制された画像表示装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
[偏光板]
本発明の実施形態に係る偏光板は、ポリビニルアルコール系樹脂を含む層に二色性色素を吸着配向させた偏光素子と、透明保護フィルムと、を有する。偏光素子と透明保護フィルムとは、アンモニウムイオン供給体を含有する接着剤から形成される接着剤層によって貼合されている。本実施形態に係る偏光板は、下記の(a)及び(b)の少なくとも一方の特徴を有する。
(a)偏光素子の含水率が、温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である。
(b)偏光板の含水率が、温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である。
【0014】
高温耐久性に優れた従来の偏光板として、例えば偏光板単独では温度95℃の環境下に1000時間放置しても透過率の低下が抑制された偏光板が知られている。しかしこのような偏光板であっても層間充填構成に用いた場合、温度95℃の環境下に200時間放置すると偏光板面内中央部に透過率の著しい低下が見られることがある。高温環境下における偏光板の透過率の著しい低下は、偏光板の一方の面が画像表示セルと貼り合せられ、他方の面がタッチパネルや前面板等の透明部材と貼り合せられている層間充填構成を採用する画像表示装置が高温環境に暴露された場合に特に起こりやすい問題であると考えられる。
【0015】
層間充填構成で透過率が著しく低下した偏光板は、ラマン分光測定で1100cm-1付近(=C-C=結合に由来)及び1500cm-1付近(-C=C-結合に由来)にピークを有していることから、ポリエン構造(-C=C)n-を形成していると考えられる。ポリエン構造は、偏光素子を構成するポリビニルアルコールが脱水によりポリエン化されて生じたものであると推定される(特許文献2、段落[0012])。
【0016】
本発明に係る偏光板は、高温耐久性をより向上させることができる。本発明に係る偏光板は、層間充填構成の画像表示装置に組み込まれ、例えば温度95℃の高温環境下に長時間晒されても透過率の低下を抑制することができ、温度95℃で150時間保管しても、透過率の低下を5%以下にすることができる。
【0017】
<偏光素子>
ポリビニルアルコール(以下、「PVA」とも称す。)系樹脂を含む層(以下、「PVA系樹脂層」とも称す。)に二色性色素を吸着配向させた偏光素子としては、周知の偏光素子を用いることができる。偏光素子としては、PVA系樹脂フィルムを二色性色素で染色し、一軸延伸することによって得られる延伸フィルムや、基材フィルム上にPVA系樹脂を含む塗布液を塗布して形成した塗布層を有する積層フィルムを用いて、塗布層を二色性色素で染色し、積層フィルムを一軸延伸することによって得られる延伸層が挙げられる。延伸は二色性色素で染色した後に行ってもよいし、染色しながら延伸してもよいし、延伸してから染色してもよい。
【0018】
PVA系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂を鹸化することによって得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体が挙げられる。共重合可能な他の単量体としては、例えば不飽和カルボン酸類、エチレン等のオレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類等が挙げられる。
【0019】
PVA系樹脂の鹸化度は、好ましくは約85モル%以上、より好ましくは約90モル%以上、さらに好ましくは約99モル%以上100モル%以下である。PVA系樹脂の重合度としては、例えば1000以上10000以下、好ましくは1500以上5000以下である。PVA系樹脂は変性されていてもよく、例えばアルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等でもよい。
【0020】
偏光素子の厚みは、好ましくは3μm以上35μm以下、より好ましくは4μm以上30μm以下、さらに好ましくは5μm以上25μm以下である。偏光素子の厚みが35μm以下であることにより、高温環境下でPVA系樹脂のポリエン化が光学特性の低下に与える影響を抑制することができる。偏光素子の厚みが3μm以上であることにより所望の光学特性を達成する構成とすることが容易となる。
【0021】
偏光素子は、好ましくはアンモニウムイオン供給体を含む。本実施形態において、偏光素子と透明保護フィルムとがアンモニウムイオン供給体を含有する接着剤から形成される接着剤層によって貼合されていることから、アンモニウムイオン供給体の一部は接着剤層から移行して偏光素子に含まれていると推測される。偏光素子中のアンモニウムイオン供給体は、偏光素子の製造過程で添加されたものを含んでいてもよい。アンモニウムイオン供給体を含む偏光素子を備えることにより、偏光板を高温環境下に晒しても透過率が低下しにくくなる。偏光素子に含まれるアンモニウムイオンによりPVA系樹脂のポリエン化が抑制されるためと推定される。
【0022】
(アンモニウムイオン供給体)
アンモニウムイオン供給体は、アンモニウムイオン又はアミニウムイオンを供給することができる化合物である。アンモニウムイオン供給体は、単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
アンモニウムイオンを供給する化合物としては、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウム、酢酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム等が挙げられる。
【0024】
アミニウムイオンとしては、1級アンモニウムイオン、2級アンモニウムイオン、3級アンモニウムイオンが挙げられる。1級アンモニウムイオンの供給体としては、例えばデシルアンモニウム、ドデシルアンモニウム、オクタデシルアンモニウム、オレイルアンモニウム、ベンジルアンモニウムが挙げられる。2級アンモニウムイオンの供給体としては、例えばメチルドデシルアンモニウム、メチルオクタデシルアンモニウムが挙げられる。3級アンモニウムイオン供給体としては、例えばジメチルドデシルアンモニウム、ジメチルオクタデシルアンモニウムが挙げられる。
【0025】
偏光素子にアンモニウムイオン供給体を含有させる方法としては、アンモニウムイオン供給体を含有する処理溶媒にPVA系樹脂層を浸漬する方法、又は処理溶媒をPVA系樹脂層に噴霧、流下もしくは滴下する方法が挙げられる。この中でも、アンモニウムイオン供給体を含有する処理溶媒にPVA系樹脂層を浸漬させる方法が好ましく用いられる。
【0026】
アンモニウムイオン供給体を含む処理溶媒にPVA系樹脂層を浸漬させる工程は、後述の偏光素子の製造方法における膨潤、延伸、染色、架橋、洗浄等の工程と同時に行ってもよいし、これらの工程とは別に設けてもよい。PVA系樹脂層にアンモニウムイオン供給体を含有させる工程は、PVA系樹脂層をヨウ素で染色した後に行なうことが好ましく、染色後の架橋工程と同時に行うことがより好ましい。このような方法によれば、色相変化が小さく、偏光素子の光学特性への影響を小さくすることができる。
【0027】
偏光素子にアンモニウムイオン供給体を含有させるために、偏光素子の製造時における添加と接着剤への添加との両方を行ってもよい。
【0028】
(特徴(a))
特徴(a)を有する場合、偏光素子の含水率は、温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である。偏光素子の含水率は、好ましくは温度20℃相対湿度45%の平衡含水率以下であり、より好ましくは温度20℃相対湿度42%の平衡含水率以下であり、さらに好ましくは、温度20℃相対湿度38%の平衡含水率以下である。偏光素子の含水率が温度20℃相対湿度30%の平衡含水率を下回ると、偏光素子のハンドリング性が低下し、割れやすくなる。偏光素子の含水率が、温度20℃相対湿度50%の平衡含水率を上回ると、偏光素子の透過率が低下しやすくなる。偏光素子の含水率が高いと、PVA系樹脂のポリエン化が進みやすくなるためと推定される。偏光素子の含水率は、偏光板中における偏光素子の含水率である。
【0029】
偏光素子の含水率が温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下の範囲内であるかを確認する方法として、上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境で偏光素子を保管し、一定時間質量の変化がなかった場合には環境と平衡に達しているとみなすことができ、又は上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境の偏光素子の平衡含水率を予め計算し、偏光素子の含水率と予め計算した平衡含水率とを対比することにより確認することができる。
【0030】
含水率が温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である偏光素子を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境に偏光素子を10分以上3時間以下保管する方法、又は30℃以上90℃以下で加熱処理する方法が挙げられる。
【0031】
上記含水率である偏光素子を製造する別の好ましい方法としては、偏光素子の少なくとも片面に保護フィルムを積層した積層体を、又は偏光素子を用いて構成した偏光板を、上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境に、10分以上120時間以下保管する方法、又は30℃以上90℃以下で加熱処理する方法が挙げられる。層間充填構成を採用する画像表示装置の作製時において、偏光板を画像表示セルに積層した画像表示パネルを、上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境に10分以上3時間以下保管又は30℃以上90℃以下で加熱した後に、前面板を貼合してもよい。
【0032】
偏光素子の含水率は、偏光素子単独又は偏光素子と保護フィルムとの積層体であって偏光板を構成するために用いられる材料段階で含水率が上記数値範囲となるように調整されていることが好ましい。偏光板を構成した後に含水率を調整した場合には、カールが大きくなりすぎ、画像表示セルへの貼合時に不具合が生じやすくなることがある。偏光板を構成する前の材料段階で上記含水率となるように調整されている偏光素子を用いて偏光板を構成することにより、含水率が上記数値範囲を満たす偏光素子を備える偏光板を容易に構成することができる。偏光板を画像表示セルに貼合した状態で、偏光板中における偏光素子の含水率が上記数値範囲となるように調整してもよい。この場合、偏光板は、画像表示セルに貼合されているのでカールが生じにくい。
【0033】
(特徴(b))
特徴(b)を有する場合、偏光板の含水率は、温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である。偏光板の含水率は、好ましくは温度20℃相対湿度45%の平衡含水率以下であり、より好ましくは温度20℃相対湿度42%の平衡含水率以下であり、さらに好ましくは、温度20℃相対湿度38%の平衡含水率以下である。偏光板の含水率が温度20℃相対湿度30%の平衡含水率を下回ると、偏光板のハンドリング性が低下し、割れやすくなる。偏光板の含水率が、温度20℃相対湿度50%の平衡含水率を上回ると、偏光素子の透過率が低下しやすくなる。偏光板の含水率が高いと、PVA系樹脂のポリエン化が進みやすくなるためと推定される。
【0034】
偏光板の含水率が温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下の範囲内であるかを確認する方法として、上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境で偏光板を保管し、一定時間質量の変化がなかった場合には環境と平衡に達しているとみなすことができ、又は上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境の偏光板の平衡含水率を予め計算し、偏光板の含水率と予め計算した平衡含水率とを対比することにより確認することができる。
【0035】
含水率が温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である偏光板を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境に偏光板を10分以上3時間以下保管する方法、又は30℃以上90℃以下で加熱処理する方法が挙げられる。
【0036】
層間充填構成を採用する画像表示装置の作製時において、偏光板を画像表示セルに積層した画像表示パネルを、上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境に10分以上3時間以下保管又は30℃以上90℃以下で加熱した後に、前面板を貼合してもよい。
【0037】
(尿素系化合物)
偏光素子は、さらに尿素系化合物を含んでもよい。尿素系化合物を含む偏光素子は、透過率の低下をより抑制することができる。尿素系化合物としては、後述の接着剤に含まれ得る尿素系化合物と同じものであってもよい。偏光素子に尿素系化合物を含ませる方法としては、偏光素子にアンモニウムイオン供給体を含有させる方法と同じ方法を用いることができる。尿素系化合物は、偏光素子の製造過程において含ませてもよいし、後述する偏光素子と透明保護フィルムとを積層するための接着剤に含有させて、偏光素子に含ませることもできる。
【0038】
(偏光素子の製造方法)
偏光素子の製造方法は特に限定されないが、予めロール状に巻かれたPVA系樹脂フィルムを送り出して延伸、染色、架橋等を行って作製する方法(以下、「製造方法1」とする。)やPVA系樹脂を含む塗布液を基材フィルム上に塗布して塗布層であるPVA系樹脂層を形成し、得られた積層体を延伸する工程を含む方法(以下、「製造方法2」とする。)が典型的である。
【0039】
製造方法1は、PVA系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、PVA系樹脂フィルムをヨウ素等の二色性色素で染色して二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたPVA系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、及びホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造することができる。
【0040】
膨潤工程は、PVA系樹脂フィルムを膨潤浴中に浸漬する処理工程である。膨潤工程により、PVA系樹脂フィルムの表面の汚れやブロッキング剤等を除去できるほか、PVA系樹脂フィルムを膨潤させることで染色ムラを抑制できる。膨潤浴には、通常、水、蒸留水、純水等の水を主成分とする媒体が用いられる。膨潤浴は、常法に従って界面活性剤、アルコール等が適宜に添加されていてもよい。偏光素子のカリウムの含有率を制御する観点から、膨潤浴にヨウ化カリウムを使用してもよく、この場合、膨潤浴中のヨウ化カリウムの濃度は、1.5質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0041】
膨潤浴の温度は、10℃以上60℃以下程度であることが好ましく、15℃以上45℃以下程度であることがより好ましく、18℃以上30℃以下程度であることがさらに好ましい。膨潤浴への浸漬時間は、PVA系樹脂フィルムの膨潤の程度が膨潤浴の温度の影響を受けるため一概に決定できないが、5秒以上300秒以下程度であることが好ましく、10秒以上200秒以下程度であることがより好ましく、20秒以上100秒以下程度であることがさらに好ましい。膨潤工程は1回だけ実施されてもよく、必要に応じて複数回実施されてもよい。
【0042】
染色工程は、PVA系樹脂フィルムを染色浴(ヨウ素溶液)に浸漬する処理工程であり、PVA系樹脂フィルムにヨウ素等の二色性色素を吸着及び配向させることができる。ヨウ素溶液は、通常、ヨウ素水溶液であることが好ましく、ヨウ素及び溶解助剤としてヨウ化物を含有する。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、偏光素子中のカリウムの含有率を制御する観点から、ヨウ化カリウムが好適である。
【0043】
染色浴中のヨウ素の濃度は、0.01質量%以上1質量%以下程度であることが好ましく、0.02質量%以上0.5質量%以下程度であることがより好ましい。染色浴中のヨウ化物の濃度は、0.01質量%以上10質量%以下程度であることが好ましく、0.05質量%以上5質量%以下程度であることがより好ましく、0.1質量%以上3質量%以下程度であることがさらに好ましい。
【0044】
染色浴の温度は、10℃以上50℃以下程度であることが好ましく、15℃以上45℃以下程度であることがより好ましく、18℃以上30℃以下程度であることがさらに好ましい。染色浴への浸漬時間は、PVA系樹脂フィルムの染色の程度が染色浴の温度の影響を受けるため一概に決定できないが、10秒以上300秒以下程度であることが好ましく、20秒以上240秒以下程度であることがより好ましい。染色工程は1回だけ実施されてもよく、必要に応じて複数回実施されてもよい。
【0045】
架橋工程は、染色工程にて染色されたPVA系樹脂フィルムを、ホウ素化合物を含む処理浴(架橋浴)中に浸漬する処理工程であり、ホウ素化合物によりポリビニルアルコール系樹脂フィルムが架橋して、ヨウ素分子又は染料分子が当該架橋構造に吸着できる。ホウ素化合物としては、例えばホウ酸、ホウ酸塩、ホウ砂等が挙げられる。架橋浴は、水溶液が一般的であるが、水との混和性のある有機溶媒及び水の混合溶液であってもよい。架橋浴は、偏光素子中のカリウムの含有率を制御する観点から、ヨウ化カリウムを含むことが好ましい。
【0046】
架橋浴中、ホウ素化合物の濃度は、1質量%以上15質量%以下程度であることが好ましく、1.5質量%以上10質量%以下程度であることがより好ましく、2質量%以上5質量%以下程度であることがより好ましい。架橋浴にヨウ化カリウムを使用する場合、架橋浴中のヨウ化カリウムの濃度は、1質量%以上15質量%以下程度であることが好ましく、1.5質量%以上10質量%以下程度であることがより好ましく、2質量%以上5質量%以下程度であることがより好ましい。
【0047】
架橋浴の温度は、20℃以上70℃以下程度であることが好ましく、30℃以上60℃以下程度であることがより好ましい。架橋浴への浸漬時間は、PVA系樹脂フィルムの架橋の程度が架橋浴の温度の影響を受けるため一概に決定できないが、5秒以上300秒以下程度であることが好ましく、10秒以上200秒以下程度であることがより好ましい。架橋工程は1回だけ実施されてもよく、必要に応じて複数回実施されてもよい。
【0048】
延伸工程は、PVA系樹脂フィルムを、少なくとも一方向に所定の倍率に延伸する処理工程である。一般には、PVA系樹脂フィルムを、搬送方向(長手方向)に1軸延伸する。延伸の方法は特に制限されず、湿潤延伸法と乾式延伸法のいずれも採用できる。延伸工程は1回だけ実施されてもよく、必要に応じて複数回実施されてもよい。延伸工程は、偏光素子の製造において、いずれの段階で行われてもよい。
【0049】
湿潤延伸法における処理浴(延伸浴)は、通常、水又は水との混和性のある有機溶媒及び水の混合溶液等の溶媒を用いることができる。延伸浴は、偏光素子中のカリウムの含有率を制御する観点から、ヨウ化カリウムを含むことが好ましい。延伸浴にヨウ化カリウムを使用する場合、延伸浴中のヨウ化カリウムの濃度は、1質量%以上15質量%以下程度であることが好ましく、2質量%以上10質量%以下程度であることがより好ましく、3質量%以上6質量%以下程度であることがより好ましい。処理浴(延伸浴)には、延伸中のフィルム破断を抑制する観点から、ホウ素化合物を含むことができる。ホウ素化合物を含む場合、延伸浴中のホウ素化合物の濃度は、1質量%以上15質量%以下程度であることが好ましく、1.5質量%以上10質量%以下程度であることがより好ましく、2質量%以上5質量%以下程度であることがより好ましい。
【0050】
延伸浴の温度は、25℃以上80℃以下程度であることが好ましく、40℃以上75℃以下程度であることがより好ましく、50℃以上70℃以下程度であることがさらに好ましい。延伸浴への浸漬時間は、PVA系樹脂フィルムの延伸の程度が延伸浴の温度の影響を受けるため一概に決定できないが、10秒以上800秒以下程度であることが好ましく、30秒以上500秒以下程度であることがより好ましい。湿潤延伸法における延伸処理は、膨潤工程、染色工程、架橋工程及び洗浄工程のいずれか1つ以上の処理工程とともに施してもよい。
【0051】
乾式延伸法としては、例えば、ロール間延伸方法、加熱ロール延伸方法、圧縮延伸方法等が挙げられる。なお、乾式延伸法は、乾燥工程とともに施してもよい。
【0052】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに施される総延伸倍率(累積の延伸倍率)は、目的に応じ適宜設定できるが、2倍以上7倍以下程度であることが好ましく、3倍以上6.8倍以下程度であることがより好ましく、3.5倍以上6.5倍以下程度であることがさらに好ましい。
【0053】
洗浄工程は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、洗浄浴中に浸漬する処理工程であり、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面等に残存する異物を除去できる。洗浄浴は、通常、水、蒸留水、純水等の水を主成分とする媒体が用いられる。また、偏光素子中のカリウムの含有率を制御する観点から、洗浄浴にヨウ化カリウムを使用することが好ましく、この場合、洗浄浴中、ヨウ化カリウムの濃度は、1質量%以上10質量%以下程度であることが好ましく、1.5質量%以上4質量%以下程度であることがより好ましく、1.8質量%以上3.8質量%以下程度であることがさらに好ましい。
【0054】
洗浄浴の温度は、5℃以上50℃以下程度であることが好ましく、10℃以上40℃以下程度であることがより好ましく、15℃以上30℃以下程度であることがさらに好ましい。洗浄浴への浸漬時間は、PVA系樹脂フィルムの洗浄の程度が洗浄浴の温度の影響を受けるため一概に決定できないが、1秒以上100秒以下程度であることが好ましく、2秒以上50秒以下程度であることがより好ましく、3秒以上20秒以下程度であることがさらに好ましい。洗浄工程は1回だけ実施されてもよく、必要に応じて複数回実施されてもよい。
【0055】
乾燥工程は、洗浄工程にて洗浄されたPVA系樹脂フィルムを、乾燥して偏光素子を得る工程である。乾燥は任意の適切な方法で行われ、例えば自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥が挙げられる。
【0056】
製造方法2は、PVA系樹脂を含む塗布液を基材フィルム上に塗布する工程、得られた積層フィルムを一軸延伸する工程、一軸延伸された積層フィルムのPVA系樹脂層を二色性色素で染色することにより吸着させて偏光素子とする工程、二色性色素が吸着されたフィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、及びホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造することができる。偏光素子を形成するために用いる基材フィルムは、偏光素子の保護層として用いてもよい。必要に応じて、基材フィルムを偏光素子から剥離除去してもよい。
【0057】
<透明保護フィルム>
本実施形態において用いられる透明保護フィルム(以下、単に「保護フィルム」とも称す。)は、偏光素子の少なくとも片面に接着剤層を介して貼り合わされる。この透明保護フィルムは偏光素子の片面又は両面に貼り合わされるが、両面に貼り合わされていることが好ましい。
【0058】
保護フィルムは、同時に他の光学的機能を有していてもよく、複数の層が積層された積層構造に形成されていてもよい。保護フィルムの膜厚は光学特性の観点から薄いものが好ましいが、薄すぎると強度が低下し加工性に劣る。適切な膜厚としては、5μm以上100μm以下であり、好ましくは10μm以上80μm以下であり、より好ましくは15μm以上70μm以下である。
【0059】
保護フィルムは、セルロースアシレート系フィルム、ポリカーボネート系樹脂からなるフィルム、ノルボルネン等のシクロオレフィン系樹脂からなるフィルム、(メタ)アクリル系重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂系フィルム等のフィルムを用いることができる。PVA接着剤等の水系接着剤を用いて偏光素子の両面に保護フィルム貼合する場合、透湿度の点で少なくとも片側の保護フィルムはセルロースアシレート系フィルム又は(メタ)アクリル系重合体フィルムのいずれかであることが好ましく、中でもセルロースアシレートフィルムが好ましい。
【0060】
少なくとも一方の保護フィルムは、視野角補償等の目的で位相差機能を備えていてもよい。その場合、保護フィルム自身が位相差機能を有していてもよく、位相差層を別に有していてもよく、両者の組み合わせであってもよい。位相差機能を備えるフィルムは、接着剤を介して直接偏光素子に貼合されてもよいが、偏光素子に貼合された別の保護フィルムを介して粘着剤又は接着剤を介して貼合された構成であってもよい。
【0061】
<接着剤層>
偏光素子に保護フィルムを貼合するための接着剤層を構成する接着剤として、アンモニウムイオン供給体を含有する接着剤を用いる。接着剤は、水系接着剤、溶剤系接着剤、活性エネルギー線硬化型接着剤等を用いることができるが、水系接着剤であることが好ましく、PVA系樹脂を含むことが好ましい。アンモニウムイオン供給体を含有する接着剤を用いることにより、偏光板の高温環境下での透過率の低下を抑制することができる。
【0062】
接着剤の塗布時の厚みは、任意の値に設定され得、例えば硬化後又は加熱(乾燥)後に、所望の厚みを有する接着剤層が得られるように設定できる。接着剤から構成される接着剤層の厚みは、好ましくは0.01μm以上7μm以下であり、より好ましくは0.01μm以上5μm以下であり、さらに好ましくは0.01μm以上2μm以下であり、最も好ましくは0.01μm以上1μm以下である。
【0063】
下記の接着剤についての説明は、偏光素子の製造時に偏光素子にアンモニウムイオン供給体を含有させない場合についての好ましい範囲の記載とする。偏光素子にアンモニウムイオン供給体を含有させた場合には、下記の値を適宜調整すればよい。アンモニウムイオン供給体の具体的な例については、上述の偏光素子に含有されるアンモニウムイオン供給体と同一のものを用いることができる。偏光素子と保護フィルムとの接着時における乾燥工程を経て接着剤層を形成する過程で、アンモニウムイオン供給体の一部が接着剤層から偏光素子等に移動していても構わない。
【0064】
接着剤がPVA系樹脂を含有する水系接着剤の場合、接着剤におけるアンモニウムイオン供給体の含有量は、PVA系樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上300質量部以下であり、より好ましくは1.5質量部以上250質量部以下であり、さらに好ましくは2質量部以上200質量部以下であり、100質量部以下であってもよい。1質量部未満では、高温耐久性向上効果が充分に得られない場合がある。一方、アンモニウムイオン供給体の含有量が300質量部を超える場合には、乾燥後に結晶が析出することがある。
【0065】
偏光素子の両面に接着剤層を介して透明保護フィルムが貼り合わされている構成において、偏光素子両面の接着剤層の内、片面の接着剤層のみがアンモニウムイオン供給体を含有する層であってもよいが、両面の接着剤層が共にアンモニウムイオン供給体を含有する層であることが好ましい。
【0066】
偏光板の薄型化の要請に応えるために、偏光素子の片面にのみ透明保護フィルムを有する偏光板が開発されている。この構成においても、アンモニウムイオン供給体を含有する接着剤層を介して透明保護フィルムを積層する。このような偏光素子の片面にのみ透明保護フィルムを有する偏光板の作製方法として、最初に両面に接着剤層を介して透明保護フィルムを貼合した偏光板を作製した後に、一方の透明保護フィルムを剥離する方法が考えられる。このような製造方法が用いられる場合、どちらか一方の接着剤層のみがアンモニウムイオン供給体を含有していても構わないが、両面の接着剤層が共にアンモニウムイオン供給体を含有する層であることが好ましい。アンモニウムイオン供給体を含有する接着剤層が偏光素子の片面のみに用いられる場合は、剥離しないフィルム側の接着剤層がアンモニウムイオン供給体を含有することが好ましい。
【0067】
(水系接着剤)
水系接着剤としては、任意の適切な水系接着剤が採用され得るが、好ましくはPVA系樹脂を含む水系接着剤(PVA系接着剤)が用いられる。水系接着剤に含まれるPVA系樹脂の平均重合度は、接着性の点から、好ましくは100以上5500以下程度、さらに好ましくは1000以上4500以下である。平均鹸化度は、接着性の点から、好ましくは85モル%以上100モル%以下程度であり、さらに好ましくは90モル%以上100モル%以下である。
【0068】
水系接着剤に含まれるPVA系樹脂としては、アセトアセチル基を含有するものが好ましく、その理由は、PVA系樹脂層と保護フィルムとの密着性に優れ、耐久性に優れているからである。アセトアセチル基含有PVA系樹脂は、例えばPVA系樹脂とジケテンとを任意の方法で反応させることにより得られる。アセトアセチル基含有PVA系樹脂のアセトアセチル基変性度は、代表的には0.1モル%以上であり、好ましくは0.1モル%以上20モル%以下程度である。水系接着剤の樹脂濃度は、好ましくは0.1質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上10質量%以下である。
【0069】
水系接着剤には架橋剤を含有させることもできる。架橋剤としては公知の架橋剤を用いることができる。架橋剤としては、例えば水溶性エポキシ化合物、ジアルデヒド、イソシアネート等が挙げられる。
【0070】
PVA系樹脂がアセトアセチル基含有PVA系樹脂である場合は、架橋剤としてグリオキサール、グリオキシル酸塩、メチロールメラミンのうちのいずれかであることが好ましく、グリオキサール、グリオキシル酸塩のいずれかであることがより好ましく、グリオキサールであることが特に好ましい。
【0071】
水系接着剤は有機溶剤を含有することもできる。有機溶剤は、水と混和性を有する点でアルコール類が好ましく、アルコール類の中でもメタノール又はエタノールであることがより好ましい。水系接着剤のメタノールの濃度は、好ましくは10質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは15質量%以上60質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上60質量%以下である。メタノールの濃度が10質量%以上であることにより、高温環境下でのPVA系樹脂のポリエン化をより抑制しやすくなる。また、メタノールの含有率が70質量%以下であることにより、色相の悪化を抑制することができる。尿素誘導体の一部は水に対する溶解度が低い反面、アルコールに対する溶解度は十分なものがある。その場合は、尿素系化合物をアルコールに溶解し、尿素系化合物のアルコール溶液を調製した後、尿素系化合物のアルコール溶液をPVA水溶液に添加し、接着剤を調製することも好ましい態様の一つである。
【0072】
(活性エネルギー線硬化型接着剤)
活性エネルギー線硬化型接着剤は、紫外線等の活性エネルギー線を照射することによって硬化する接着剤であり、例えば重合性化合物及び光重合性開始剤を含む接着剤、光反応性樹脂を含む接着剤、バインダー樹脂及び光反応性架橋剤を含む接着剤等を挙げることができる。重合性化合物としては、光硬化性エポキシ系モノマー、光硬化性アクリル系モノマー、光硬化性ウレタン系モノマー等の光重合性モノマー、及びこれらモノマーに由来するオリゴマー等を挙げることができる。上記光重合開始剤としては、紫外線等の活性エネルギー線を照射して中性ラジカル、アニオンラジカル、カチオンラジカルといった活性種を発生する物質を含む化合物を挙げることができる。
【0073】
(尿素系化合物)
接着剤には、さらに尿素、尿素誘導体、チオ尿素及びチオ尿素誘導体から選ばれる少なくとも1種の尿素系化合物を含有させてもよい。接着剤から構成される接着剤層が尿素系化合物を含有することでさらに高温耐久性を向上させることができる。接着剤から保護フィルムとの接着時における乾燥工程を経て接着剤層を形成する過程で、尿素系化合物の一部が接着剤層から偏光素子等に移動していても構わない。尿素系化合物には水溶性のものと難水溶性のものがあるが、どちらの尿素系化合物も使用することができる。難水溶性尿素系化合物を水溶性接着剤に用いる場合は、接着剤層を形成後、ヘイズ上昇等が起きないように分散方法を工夫することが好ましい。
【0074】
接着剤がPVA系樹脂を含有する水系接着剤の場合、尿素系化合物の添加量は、PVA100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上400質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上200質量部以下であり、さらに好ましくは3質量部以上100質量部以下である。
【0075】
(尿素誘導体)
尿素誘導体は、尿素分子の4つの水素原子の少なくとも1つが、置換基に置換された化合物である。この場合、置換基に特に制限はないが、炭素原子、水素原子及び酸素原子よりなる置換基であることが好ましい。
【0076】
尿素誘導体の具体例として、1置換尿素として、メチル尿素、エチル尿素、プロピル尿素、ブチル尿素、イソブチル尿素、N-オクタデシル尿素、2-ヒドロキシエチル尿素、ヒドロキシ尿素、アセチル尿素、アリル尿素、2-プロピニル尿素、シクロヘキシル尿素、フェニル尿素、3-ヒドロキシフェニル尿素、(4-メトキシフェニル)尿素、ベンジル尿素、ベンゾイル尿素、o-トリル尿素、p-トリル尿素が挙げられる。2置換尿素として、1,1-ジメチル尿素、1,3-ジメチル尿素、1,1-ジエチル尿素、1,3-ジエチル尿素、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)尿素、1,3-tert-ブチル尿素、1,3-ジシクロヘキシル尿素、1,3-ジフェニル尿素、1,3-ビス(4-メトキシフェニル)尿素、1-アセチル-3-メチル尿素、2-イミダゾリジノン(エチレン尿素)、テトラヒドロ-2-ピリミジノン(プロピレン尿素)が挙げられる。4置換尿素として、テトラメチル尿素、1,1,3,3-テトラエチル尿素、1,1,3,3-テトラブチル尿素、1,3-ジメトキシ-1,3-ジメチル尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノンが挙げられる。
【0077】
(チオ尿素誘導体)
チオ尿素誘導体は、チオ尿素分子の4つの水素原子の少なくとも1つが、置換基に置換された化合物である。この場合、置換基に特に制限はないが、炭素原子、水素原子及び酸素原子よりなる置換基であることが好ましい。
【0078】
チオ尿素誘導体の具体例として、1置換チオ尿素として、N-メチルチオ尿素、エチルチオ尿素、プロピルチオ尿素、イソプロピルチオ尿素、1-ブチルチオ尿素、シクロヘキシルチオ尿素、N-アセチルチオ尿素、N-アリルチオ尿素、(2-メトキシエチル)チオ尿素、N-フェニルチオ尿素、(4-メトキシフェニル)チオ尿素、N-(2-メトキシフェニル)チオ尿素、N-(1-ナフチル)チオ尿素、(2-ピリジル)チオ尿素、o-トリルチオ尿素、p-トリルチオ尿素が挙げられる。2置換チオ尿素として、1,1-ジメチルチオ尿素、1,3-ジメチルチオ尿素、1,1-ジエチルチオ尿素、1,3-ジエチルチオ尿素、1,3-ジブチルチオ尿素、1,3-ジイソプロピルチオ尿素、1,3-ジシクロヘキシルチオ尿素、N,N-ジフェニルチオ尿素、N,N’-ジフェニルチオ尿素、1,3-ジ(o-トリル)チオ尿素、1,3-ジ(p-トリル)チオ尿素、1-ベンジル-3-フェニルチオ尿素、1-メチル-3-フェニルチオ尿素、N-アリル-N’-(2-ヒドロキシエチル)チオ尿素、エチレンチオ尿素が挙げられる。3置換チオ尿素として、トリメチルチオ尿素が挙げられる。4置換チオ尿素として、テトラメチルチオ尿素、1,1,3,3-テトラエチルチオ尿素が挙げられる。
【0079】
尿素系化合物の中では、層間充填構成の画像表示装置に用いた時に、高温環境下での透過率の低下をより抑制することができる点で、尿素誘導体又はチオ尿素誘導体が好ましく、尿素誘導体がより好ましい。尿素誘導体の中でも、1置換尿素又は2置換尿素であることが好ましく、1置換体であることがより好ましい。2置換尿素には1,1-置換尿素と1,3-置換尿素とがあるが、1,3-置換尿素がより好ましい。
【0080】
<アンモニウムイオン供給体含有層>
アンモニウムイオン供給体は、上記のように接着剤層に含有される場合に限定されることはなく、偏光板の高温耐久性向上の観点から、接着剤層以外の他の層にも含有されていてもよい。片面にのみ透明保護フィルムを有する偏光板において、物理強度の向上の観点から、偏光素子の透明保護フィルムとは反対の面に硬化層を積層してもよい。
【0081】
本実施形態では、このような硬化層にアンモニウムイオン供給体を含有させ、アンモニウムイオン供給体含有層とすることもできる。通常このような硬化層は有機溶剤を含む硬化性組成物から形成されるが、特開2017-075986号公報の段落[0020]~[0042]には活性エネルギー線硬化性高分子組成物の水性溶液から、このような硬化層を形成する方法が記載されている。アンモニウムイオン供給体は水溶性のものが多いので、このような組成物に水溶性のアンモニウムイオン供給体を含有させてもよい。
【0082】
アンモニウムイオン供給体含有層は、アンモニウムイオン供給体を少なくとも1種と、バインダーを有することが好ましい。バインダーとしてはポリマーバインダー、熱硬化型樹脂バインダー、活性エネルギー線硬化型樹脂バインダー等が挙げられるが、いずれのバインダーも好ましく用いることができる。
【0083】
アンモニウムイオン供給体含有層の厚みは、好ましくは0.1μm以上20μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上15μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上10μm以下である。
【0084】
[偏光板の製造方法]
本実施形態の偏光板の製造方法は、含水率調整工程と積層工程とを有する。含水率調整工程では、特徴(a)を有する偏光板を製造する場合は、偏光素子の含水率が温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下となるように偏光素子の含水率を調整する。偏光素子の含水率は、上述の偏光素子の含水率の記載に従って調製することができる。含水率調整工程では、特徴(b)を有する偏光板を製造する場合は、偏光板の含水率が温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下となるように偏光板の含水率を調整する。偏光板の含水率は、上述の偏光板の含水率の記載に従って調整することができる。積層工程では、偏光素子と透明保護フィルムとを上記接着剤層を介して積層する。積層工程では、例えばアンモニウムイオン供給体を含有させる処理をしていない偏光素子と透明保護フィルムとを、アンモニウムイオン供給体を含む接着剤によって貼合する。含水率調整工程及び積層工程の順番は限定されることはなく、また含水率調整工程と積層工程とが並行して行われてもよい。
【0085】
[画像表示装置の構成]
本実施形態の偏光板は、液晶表示装置や有機EL表示装置等の各種画像表示装置に用いられる。画像表示装置について、偏光板の両面が空気層以外の層、具体的には粘着剤層等の固体層が接するように構成されている層間充填構成である場合には、高温環境下で透過率が低下しやすい。本実施形態の偏光板を用いた画像表示装置においては、層間充填構成であっても、高温環境下での偏光板の透過率の低下を抑制することができる。画像表示装置としては、画像表示セルと、画像表示セルの視認側表面に積層された第1粘着剤層と、第1粘着剤層の視認側表面に積層された偏光板とを有する構成が例示される。かかる画像表示装置は、偏光板の視認側表面に積層された第2粘着剤層と、第2粘着剤層の表面に積層された透明部材とをさらに有してもよい。特に、本実施形態の偏光板は、画像表示装置の視認側に透明部材が配置され、偏光板と画像表示セルとが第1粘着剤層により貼り合わされ、偏光板と透明部材とが第2粘着剤層により貼り合わせられた層間充填構成を有する画像表示装置に好適に用いられる。本明細書においては、第1粘着剤層及び第2粘着剤層のいずれか一方又は両者を、単に「粘着剤層」と称する場合がある。なお、偏光板と画像表示セルとの貼り合わせに用いられる部材、及び偏光板と透明部材との貼り合わせに用いられる部材としては、粘着剤層に限定されることはなく接着剤層であってもよい。
【0086】
<画像表示セル>
画像表示セルとしては、液晶セルや有機ELセルが挙げられる。液晶セルとしては、外光を利用する反射型液晶セル、バックライト等の光源からの光を利用する透過型液晶セル、外部からの光と光源からの光の両者を利用する半透過半反射型液晶セルのいずれを用いてもよい。液晶セルが光源からの光を利用するものである場合、画像表示装置(液晶表示装置)は、画像表示セル(液晶セル)の視認側と反対側にも偏光板が配置され、さらに光源が配置される。光源側の偏光板と液晶セルとは、適宜の粘着剤層を介して貼り合せられていることが好ましい。液晶セルの駆動方式としては、例えばVAモード、IPSモード、TNモード、STNモードやベンド配向(π型)等の任意なタイプのものを用い得る。
【0087】
有機ELセルとしては、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成したもの等が好適に用いられる。有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、これらの発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体、あるいは正孔注入層、発光層及び電子注入層の積層体等、種々の層構成が採用され得る。
【0088】
<画像表示セルと偏光板の貼り合せ>
画像表示セルと偏光板との貼り合せには、粘着剤層(粘着シート)が好適に用いられる。中でも、偏光板の一方の面に粘着剤層が付設された粘着剤層付き偏光板を画像表示セルと貼り合わせる方法が、作業性等の観点から好ましい。偏光板への粘着剤層の付設は、適宜な方式で行い得る。その例としては、トルエンや酢酸エチル等の適宜な溶剤の単独物又は混合物からなる溶剤にベースポリマー又はその組成物を溶解あるいは分散させた10質量%以上40質量%以下程度の粘着剤溶液を調製し、それを流延方式や塗工方式等の適宜な展開方式で偏光板上に直接付設する方式、セパレータ上に粘着剤層を形成してそれを偏光板に移着する方式等が挙げられる。
【0089】
<粘着剤層>
粘着剤層は、1層又は2層以上からなってもよいが、好ましくは1層からなる。粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂を主成分とする粘着剤組成物から構成することができる。中でも、透明性、耐候性、耐熱性等に優れる(メタ)アクリル系樹脂をベースポリマーとする粘着剤組成物が好適である。粘着剤組成物は、活性エネルギー線硬化型又は熱硬化型であってもよい。
【0090】
粘着剤組成物に用いられる(メタ)アクリル系樹脂(ベースポリマー)としては、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステルの1種又は2種以上をモノマーとする重合体又は共重合体が好適に用いられる。ベースポリマーには、極性モノマーを共重合させることが好ましい。極性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸化合物、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル化合物、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート化合物、グリシジル(メタ)アクリレート化合物等の、カルボキシル基、水酸基、アミド基、アミノ基、エポキシ基等を有するモノマーを挙げることができる。
【0091】
粘着剤組成物は、上記ベースポリマーのみを含むものであってもよいが、通常は架橋剤をさらに含有する。架橋剤としては、2価以上の金属イオンであって、カルボキシル基との間でカルボン酸金属塩を形成する金属イオン、カルボキシル基との間でアミド結合を形成するポリアミン化合物、カルボキシル基との間でエステル結合を形成するポリエポキシ化合物又はポリオール、カルボキシル基との間でアミド結合を形成するポリイソシアネート化合物が例示される。中でも、ポリイソシアネート化合物が好ましい。
【0092】
活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物は、紫外線や電子線のような活性エネルギー線の照射を受けて硬化する性質を有しており、活性エネルギー線照射前においても粘着性を有してフィルム等の被着体に密着させることができ、活性エネルギー線の照射によって硬化して密着力の調整ができる性質を有する。活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物は、紫外線硬化型であることが好ましい。活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物は、ベースポリマー、架橋剤に加えて、活性エネルギー線重合性化合物をさらに含有する。必要に応じて、光重合開始剤、光増感剤等を含有させてもよい。
【0093】
粘着剤組成物は、光散乱性を付与するための微粒子、ビーズ(樹脂ビーズ、ガラスビーズ等)、ガラス繊維、ベースポリマー以外の樹脂、粘着性付与剤、充填剤(金属粉やその他の無機粉末等)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、着色剤、消泡剤、腐食防止剤、光重合開始剤等の添加剤を含むことができる。
【0094】
粘着剤層は、上記粘着剤組成物の有機溶剤希釈液を基材フィルム、画像表示セル又は偏光板の表面上に塗布し、乾燥させることにより形成することができる。基材フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムであることが一般的であり、その典型的な例として、離型処理が施されたセパレートフィルムを挙げることができる。セパレートフィルムは、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアレート等の樹脂からなるフィルムの粘着剤層が形成される面に、シリコーン処理等の離型処理が施されたものであることができる。
【0095】
セパレートフィルムの離型処理面に粘着剤組成物を直接塗布して粘着剤層を形成し、このセパレートフィルム付粘着剤層を偏光体の表面に積層してもよい。偏光板の表面に粘着剤組成物を直接塗布して粘着剤層を形成し、粘着剤層の外面にセパレートフィルムを積層してもよい。
【0096】
粘着剤層を偏光板の表面に設ける際には、偏光板の貼合面及び/又は粘着剤層の貼合面に、プラズマ処理、コロナ処理等の表面活性化処理を施すことが好ましく、コロナ処理を施すことがより好ましい。
【0097】
また、第2セパレートフィルム上に粘着剤組成物を塗布して粘着剤層を形成し、形成された粘着剤層上にセパレートフィルムを積層した粘着剤シートを準備し、この粘着剤シートから第2セパレートフィルムを剥離した後のセパレートフィルム付粘着剤層を偏光板に積層してもよい。第2セパレートフィルムは、セパレートフィルムよりも粘着剤層との密着力が弱く、剥離し易いものが用いられる。
【0098】
粘着剤層の厚みは、特に限定されないが、例えば1μm以上100μm以下であることが好ましく、3μm以上50μm以下であることがより好ましく、20μm以上であってもよい。
【0099】
<透明部材>
画像表示装置の視認側に配置される透明部材としては、透明板(ウインドウ層)やタッチパネル等が挙げられる。透明板としては、適宜の機械強度及び厚みを有する透明板が用いられる。このような透明板としては、例えばポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂やポリカーボネート系樹脂のような透明樹脂板、あるいはガラス板等が挙げられる。透明板の視認側には反射防止層などの機能層が積層されていても構わない。また、透明板が透明樹脂板の場合は、物理強度を上げるためにハードコート層や、透湿度を下げるために低透湿層が積層されていても構わない。タッチパネルとしては、抵抗膜方式、静電容量方式、光学方式、超音波方式等の各種タッチパネルや、タッチセンサー機能を備えるガラス板や透明樹脂板等が用いられる。透明部材として静電容量方式のタッチパネルが用いられる場合、タッチパネルよりもさらに視認側に、ガラス又は透明樹脂板からなる透明板が設けられることが好ましい。
【0100】
<偏光板と透明部材との貼り合せ>
偏光板と透明部材との貼り合せには、粘着剤又は活性エネルギー線硬化型接着剤が好適に用いられる。粘着剤が用いられる場合、粘着剤の付設は適宜な方式で行い得る。具体的な付設方法としては、例えば、前述の画像表示セルと偏光板の貼り合せで用いた粘着剤層の付設方法が挙げられる。
【0101】
活性エネルギー線硬化型接着剤を用いる場合、硬化前の接着剤溶液の広がりを防止する目的で、画像表示パネル上の周縁部を囲むようにダム材が設けられ、ダム材上に透明部材を載置して、接着剤溶液を注入する方法が好適に用いられる。接着剤溶液の注入後は、必要に応じて位置合わせ及び脱泡が行われた後、活性エネルギー線が照射されて硬化が行われる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明は以下の実施例に限定され制限されるものではない。
【0103】
(偏光素子1の作製)
平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%以上であるPVAからなる厚さ40μmのPVAフィルムを、乾式で約5倍に一軸延伸し、さらに緊張状態を保ったまま、60℃の純水に1分間浸漬した後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.05/5/100の水溶液に28℃で60秒間浸漬した。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が8.5/8.5/100の水溶液に72℃で300秒間浸漬した。引き続き26℃の純水で20秒間洗浄した後、65℃で乾燥して、PVAにヨウ素が吸着配向された厚み15μmの偏光素子1を得た。偏光素子の厚さの測定には、株式会社ニコン製のデジタルマイクロメーター“MH-15M”を用いた。
【0104】
(接着剤用PVA溶液の調製)
アセトアセチル基を含有する変性PVA系樹脂(三菱ケミカル株式会社製「ゴーセネックスZ-410」)50gを950gの純水に溶解し、90℃で2時間加熱後常温に冷却し、接着剤用PVA溶液を得た。
【0105】
上記の接着剤用PVA溶液1000gに、塩化アンモニウム15gを溶解させ、さらに純水を加えることでPVA濃度が3.0質量%となるように調整し、接着剤1を得た。
【0106】
上記の接着剤用PVA溶液1000gに、硫酸アンモニウム15gを溶解させ、さらに純水を加えることでPVA濃度が3.0質量%となるように調整し、接着剤2を得た。
【0107】
上記の接着剤用PVA溶液1000gに、さらに純水を加えることでPVA濃度が3.0質量%となるように調整し、接着剤3を得た。
【0108】
(透明保護フィルムの準備)
市販のセルロースアシレートフィルムTD40(富士フイルム株式会社製、膜厚40μm)を、55℃に保った1.5mol/LのNaOH水溶液(鹸化液)に2分間浸漬した後、フィルムを水洗した。その後、25℃の0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、さらに水洗浴を30秒流水下に通して、フィルムを中性の状態にした。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返して水を落とした後に、70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したフィルムを作製し、透明保護フィルム1とした。
【0109】
(偏光板の作製)
接着剤1を介して、偏光素子1の両面に透明保護フィルム1をロール貼合機を用いて貼合した後に、80℃で5分間乾燥し、偏光板1を得た。接着剤層は、乾燥後の厚みが両面共に100nmになるように調整した。
【0110】
接着剤1の代わりに接着剤2又は接着剤3を用いたこと以外は、偏光板1の作製方法と同じ方法で、偏光板2及び偏光板3を作製した。
【0111】
(偏光板(偏光素子)の含水率の調整)
上記で得られた偏光板1~3を温度20℃で、相対湿度30%、35%、40%、45%、50%又は55%の条件で、72時間保管した。保管66時間、69時間及び72時間でカールフィッシャー法を用いて、含水率を測定した。何れの湿度条件でも、保管66時間、69時間、72時間で含水率の値が変わらなかった。したがって、偏光板1~3の含水率は、保管環境の平衡含水率と同じになっているとみなすことができる。偏光板の含水率がある保管環境で平衡に達したときは、偏光板中の偏光素子の含水率も同様に、その保管環境で平衡に達したとみなすことができる。また、偏光板中の偏光素子の含水率がある保管環境で平衡に達したときは、偏光板の含水率も同様に、その保管環境で平衡に達したとみなすことができる。
【0112】
(光学積層体の作製)
偏光板1~3を温度20℃で相対湿度40%、50%又は55%の条件で、72時間保管した。表1に示す含水率になるように調製した光学積層体1~6を得た。
【0113】
含水率を調整した光学積層体1~6の両面に、アクリル系粘着剤(リンテック株式会社製、品番:#7)を形成し、さらに50mm×100mmの大きさに裁断して、それぞれの粘着剤表面に無アルカリガラス(コーニング社製「EAGLE XG」)を貼合することによって、評価サンプルを作製した。
【0114】
(高温耐久試験後の単体透過率評価(95℃))
評価サンプルに、温度50℃、圧力5kgf/cm2(490.3kPa)で1時間オートクレーブ処理を施した後、温度23℃、相対湿度55%の環境下で24時間放置した。その後、透過率を測定し(初期値)、温度95℃の加熱環境下に保管し、100~200時間まで50時間おきに透過率を測定した。初期値に対し透過率低下が5%以上に達した時間を基に以下の基準で評価を行った。得られた結果を表1に示す。
200時間後に透過率の低下が5%以下のもの :A
150~200時間後に透過率の低下が5%以上に達したもの:B
100~150時間後に透過率の低下が5%以上に達したもの:C
100時間後に透過率の低下が5%以上のもの :D
【0115】
【0116】
含水率が、温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である偏光素子と透明保護フィルムとを有する偏光板であって、偏光素子と透明保護フィルムとがアンモニウムイオン供給体を含む接着剤により貼合された偏光板(光学積層体1~3)は、95℃の高温環境下に長時間晒しても透過率が低下しにくく、高温耐久性に優れていることがわかった。