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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】サーマルサイクラ、及び遺伝子検査装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240725BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240725BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/686 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022569681
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2020047536
(87)【国際公開番号】W WO2022130641
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】磯島 宣之
(72)【発明者】
【氏名】小針 達也
(72)【発明者】
【氏名】柴原 匡
(72)【発明者】
【氏名】山形 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】牧野 瑶子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 航
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-035859(JP,A)
【文献】特開2005-304445(JP,A)
【文献】特開2004-279340(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0211854(US,A1)
【文献】国際公開第2016/013607(WO,A1)
【文献】特開2009-278971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と試薬とを混合した反応液を格納する反応容器を設置可能な凹部を1つ以上備えた温度調節ブロックと、
加熱と冷却が可能な熱電変換部と、
前記温度調節ブロックの温度を計測する温度センサと、
一方の面が前記熱電変換部に接触する絶縁基板と、
前記絶縁基板の他方の面に設けられ、前記熱電変換部の熱を外部に放出するための放熱部と、
を備え、
前記温度センサによって計測された前記温度調節ブロックの温度に基づき前記熱電変換部へ供給する電流または電圧の制御を行って前記温度調節ブロックを加熱及び冷却するサーマルサイクラにおいて、
前記熱電変換部は、P型半導体素子と、N型半導体素子と、前記P型半導体素子と前記N型半導体素子とを互いに電気的に接続する電極を備え、
前記熱電変換部は、前記温度調節ブロックと前記絶縁基板とに接触して挟持され、
前記温度調節ブロックは、窒化アルミニウムで構成され、前記熱電変換部の前記電極に接触するように設置されている、
ことを特徴とするサーマルサイクラ。
【請求項2】
検体と試薬とを混合した反応液を格納する反応容器を設置可能な凹部を1つ以上備えた温度調節ブロックと、
加熱と冷却が可能な熱電変換部と、
前記温度調節ブロックの温度を計測する温度センサと、
一方の面が前記熱電変換部に接触する絶縁基板と、
前記絶縁基板の他方の面に設けられ、前記熱電変換部の熱を外部に放出するための放熱部と、
を備え、
前記温度センサによって計測された前記温度調節ブロックの温度に基づき前記熱電変換部へ供給する電流または電圧の制御を行って前記温度調節ブロックを加熱及び冷却するサーマルサイクラにおいて、
前記熱電変換部は、P型半導体素子と、N型半導体素子と、前記P型半導体素子と前記N型半導体素子とを互いに電気的に接続する電極を備え、
前記熱電変換部は、前記温度調節ブロックと前記絶縁基板とに接触して挟持され、
前記温度調節ブロックは、窒化ホウ素で構成され、前記熱電変換部の前記電極に接触するように設置されている、
ことを特徴とするサーマルサイクラ。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記温度調節ブロックは、前記凹部を複数備えて複数の前記反応容器を同時に加熱及び冷却できる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のサーマルサイクラ。
【請求項6】
前記絶縁基板と前記放熱部は、固定部材によって互いに締結され、
前記固定部材は、前記温度調節ブロックと直接に接触しない、
ことを特徴とする請求項1、2及び5のいずれか1項に記載のサーマルサイクラ。
【請求項7】
前記温度センサは、前記温度調節ブロックの表面上に設けた金属メッキ層にはんだづけされて固定されている、
ことを特徴とする請求項1、2、5及び6のいずれか1項に記載のサーマルサイクラ。
【請求項8】
請求項1、2、及び5乃至7のいずれか1項に記載のサーマルサイクラと、
前記サーマルサイクラにより温度が調整された試液の蛍光特性を測定する測定部と、を備える、
ことを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項9】
請求項8に記載の遺伝子検査装置において、
前記測定部は、前記試液を保持する前記反応容器の上方側に配置されている、
ことを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載の遺伝子検査装置において、
前記反応液を作成する調液部を備える、
ことを特徴とする遺伝子検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルサイクラに関し、特に、遺伝子検査装置に使用されるサーマルサイクラに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子検査装置には、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction:PCR)法を利用した核酸増幅装置を備えるものがある。この核酸増幅装置は、血液や唾液、尿等から抽出した生体由来の検体と試薬を混合した反応液の温度を調節するためにサーマルサイクラを備える。
【0003】
PCR法では、核酸の熱変性、アニーリング、及び伸長のステップからなるサイクルを数十回繰り返して、核酸を1個の分子から数百万個の分子に増幅させる。この核酸増幅処理は、核酸を含む反応液の温度を、例えば約65℃から95℃の範囲で適切に制御する温度調節サイクル(以下、「温調サイクル」と呼ぶ)を繰り返すことで実現される。遺伝子検査装置では、温度調節を高速化して核酸増幅に必要な時間を短縮し、検査時間を短縮すること、あるいは所定の時間内の処理数を大きくすることが装置の性能として求められている。このため、遺伝子検査装置に使用されるサーマルサイクラでは、反応液の温度を高速に加熱・冷却する技術が必要である。
【0004】
物体の温度を変化させるために要する時間は、主に、温度変化させる物体への伝熱量と、物体の熱容量と熱伝導率によって特徴付けられる。一般的な遺伝子検査装置に使用されているサーマルサイクラは、反応液が入れられた反応容器が設置される温度調節ブロック(温調ブロック)と、熱電半導体と電極からなる電気回路(熱電変換部)を絶縁基板で挟み込んだ構成の熱電変換モジュールを備える。このようなサーマルサイクラでは、熱電変換モジュールに印加する電流または電圧を変化させて熱電変換作用で得られる発熱と吸熱やジュール発熱を調節することで、反応液を格納した温調ブロックの温度を加熱・冷却する。温調サイクルを高速化するためには、加熱・冷却の伝熱量の値を大きくし、さらに温度変化させる物体の熱容量や熱抵抗を小さくする必要がある。
【0005】
従来のサーマルサイクラの例は、特許文献1に開示されている。特許文献1に記載された多数試料支持体は、単体構造のブロックと、ブロック内の一連の試料ウエルと、試料ウエルの間に存在する、ブロック内の一連の中空部を有する。中空部によってブロックの質量が削減されて熱容量が小さくなり、温度変化が試料に速く伝わる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2009-543064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、サーマルサイクラでは、温調サイクルの高速化のためには、加熱・冷却の伝熱量を大きくし、さらに温度変化させる物体の熱容量を小さくすることが考えられる。従来のサーマルサイクラでは、温度変化させる物体の熱容量のうち温調ブロックの熱容量が支配的であった。また従来のサーマルサイクラでは、材質としてアルミナを用いた絶縁基板で構成された量販品の熱電変換モジュールが使用されることが多く、温調ブロックの熱容量の低減が進むに連れて、熱電変換モジュールを構成している絶縁基板に起因する熱容量が、温度変化させる物体の熱容量に対して占める割合が無視できないほど大きくなってきた。また、温調ブロックと絶縁基板との間に介在する熱伝導グリスなどの熱界面材料と絶縁基板の熱抵抗による伝熱量の低下が回避できていなかった。このため、温調ブロックの熱容量が低減されてきたことを考慮した上で、反応液を高速かつ効率的に加熱・冷却することができるサーマルサイクラが望まれている。また従来のサーマルサイクラにおける熱電変換モジュールでは、多数回の温調サイクルを実施する中で熱電変換モジュール両面間に大きな温度差が生じることではんだ接合部に生じる繰り返しの熱ひずみが装置の寿命や性能低下を特徴づける要因の一つとなっている。
【0008】
本発明の目的は、反応液を高速かつ効率的に加熱・冷却でき、かつ装置寿命の長いサーマルサイクラを提供することと、このサーマルサイクラを備える遺伝子検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるサーマルサイクラは、検体と試薬とを混合した反応液を格納する反応容器を設置可能な温度調節ブロックと、加熱と冷却が可能な熱電変換部と、前記温度調節ブロックの温度を計測する温度センサと、一方の面が前記熱電変換部に接触する絶縁基板と、前記絶縁基板の他方の面に設けられ、前記熱電変換部の熱を外部に放出するための放熱部とを備え、前記温度センサによって計測された前記温度調節ブロックの温度に基づき前記熱電変換部へ供給する電流または電圧の制御を行って前記温度調節ブロックを加熱及び冷却する。前記熱電変換部は、前記温度調節ブロックと前記絶縁基板とに挟持され、前記温度調節ブロックは、電気絶縁性を持つ材料で構成され、前記熱電変換部に接触するように設置されている。
【0010】
本発明による遺伝子検査装置は、上記のサーマルサイクラと前記サーマルサイクラにより温度が調整された試液の蛍光特性を測定する測定部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、反応液を高速かつ効率的に加熱・冷却でき、かつ装置寿命の長いサーマルサイクラと、このサーマルサイクラを備えた、短時間での検査が可能な遺伝子検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例によるサーマルサイクラの構成の概要を示す斜視図。
図2】本発明の実施例によるサーマルサイクラの構成の概要を示す断面図。
図3】本発明の実施例による熱電変換部の構成の概要を示す断面図。
図4】従来のサーマルサイクラの構成の概要を示す断面図。
図5】従来のサーマルサイクラにおける温調ブロック先端から放熱部までの伝熱経路上の温度分布の概要を示す模式図。
図6】本発明の実施例によるサーマルサイクラにおける温調ブロック先端から放熱部までの伝熱経路上の温度分布の概要を示す模式図。
図7】PCR法の温調サイクルの一例を示す図。
図8】本発明の実施例によるサーマルサイクラと従来のサーマルサイクラにおける加熱・冷却の速度を比較する数値計算結果の比較を示す図。
図9】従来のサーマルサイクラにおいて、温調ブロックを固定する構成の概要を示す断面図。
図10】本発明の実施例によるサーマルサイクラにおいて、温調ブロックを固定する構成の概要を示す断面図。
図11】本実施例によるサーマルサイクラの別の構成の概要を示す断面図。
図12】本発明の実施例によるサーマルサイクラにおいて、温度センサを固定する構成の概要を示す断面図。
図13】本発明の実施例によるサーマルサイクラにおいて、温度センサを固定する別の構成の概要を示す断面図。
図14】本発明の実施例による複数の反応容器を同時に加熱・冷却するサーマルサイクラの構成の概要を示す断面図。
図15】本発明の実施例による遺伝子検査装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によるサーマルサイクラは、従来のサーマルサイクラが備える熱電変換モジュールを構成する絶縁基板に起因する熱容量を削減し、また温調ブロックと絶縁基板の間に介在する熱伝導グリスなどの熱界面材料による熱抵抗を削減することで、反応液の温度を高速に加熱・冷却できる。本発明による遺伝子検査装置は、本発明によるサーマルサイクラを備える。
【0014】
以下、本発明の実施例によるサーマルサイクラ、及び遺伝子検査装置を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【実施例
【0015】
本発明の実施例によるサーマルサイクラを説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施例によるサーマルサイクラ20の構成の概要を示す斜視図である。また、図2は本発明の実施例によるサーマルサイクラ20の構成の概要を示す図1のA-Aに相当する断面図である。サーマルサイクラ20は、温度調節ブロック2(以下、「温調ブロック2」と呼ぶ)、熱電変換部3、絶縁基板4、及び放熱部5を備える。
【0017】
温調ブロック2は、反応液102が収容された反応容器101を設置可能である。温調ブロック2は、凹部1を備え、凹部1に反応容器101を設置する構成を備えてもよく、温調ブロック2の面上に反応容器101を載置する構成を備えてもよい。本実施例では、温調ブロック2は、反応容器101を設置するための凹部1を備える。温調ブロック2は、熱電変換部3に接触するように設置されている。反応液102には核酸を含む検体と試薬が含まれている。
【0018】
熱電変換部3は、熱電変換の作用によって一方の面を加熱して他方の面の冷却が可能な温度調節装置であり、通電の向きによって加熱・冷却の面を切り替えることができる。これにより温調ブロック2に設置された反応容器101に収容された反応液102を加熱及び冷却させる。図3は本発明の実施例によるサーマルサイクラ20における熱電変換部3の構成の概要を示す図1のB-Bに相当する断面図である。熱電変換部3は、少なくとも電極301A、301B、P型半導体素子302、及びN型半導体素子303を備え、電極301によりP型半導体素子302とN型半導体素子303とを一対ずつ直列に電気的に接続される。P型半導体素子302とN型半導体素子303は、電極301にはんだ6で接合されている。電極301には、図1に示すリード線7A、7Bが接続されている。熱電変換部3は、リード線7A、7Bから電流が印可され、一方の面を加熱して他方の面を冷却する。熱電変換部3は、印可される電流の向きに応じて、反応液102の加熱と冷却を切り替えることができる。熱電変換部3に印可される電流または電圧の値は温度センサ8の出力に従って調節され、温調ブロック2は指定の温度に制御される。
【0019】
具体的な構造として、温調ブロック2の表面上に金属メッキ層304Aが施され、その上に電極301Aが実装される。一方、絶縁基板4の表面上に金属メッキ層304Bが施され、その上に電極301Bが実装される。さらに、N型半導体素子303とP型半導体素子302の片端を電極301Aに接合し、もう片端を電極301Bに接合することで、N型半導体素子303とP型半導体素子302が交互かつ直列に接合された熱電変換部3は、温調ブロック2と絶縁基板4との間に挟持される。
【0020】
絶縁基板4は、熱電変換部3と放熱部5との間に、熱電変換部3と放熱部5とに接触するように設置される。絶縁基板4は、一方の面が熱電変換部3に接触し、他方の面が放熱部5に接触して、熱電変換部3と放熱部5とを電気的に絶縁し、熱電変換が正常に機能するようにする。絶縁基板4と放熱部5の間には、接触熱抵抗を低減するために熱伝導グリスなどの熱界面材料10を介在させる場合が多い。
【0021】
放熱部5は、絶縁基板4の他方の面に設けられる。熱電変換部3に電流または電圧を印可することで温調ブロック2を冷却して放熱部5が周囲より高温になっているときは熱電変換部3からの熱を外部に放出する。また、熱電変換部3に印可する電流または電圧を反転させ温調ブロック2を加熱して放熱部5が周囲より低温になっているときは外部から熱を吸収する。例えば、放熱部5は、放熱部材501(例えばフィン)と送風機502を備え、熱電変換部3からの熱を空気との対流熱伝達により外部へ放出する。放熱部5は、液体が流れ、熱電変換部3からの熱を液体との伝熱により外部へ輸送する構成を備えてもよい。
【0022】
本実施例によるサーマルサイクラ20では、温調ブロック2と熱電変換部3と絶縁基板4は、1つの温度調節モジュール(以下、「温調モジュール」と呼ぶ)を構成する。すなわち、本実施例によるサーマルサイクラ20は、温調モジュールと放熱部5を備える。温調モジュールは、熱電変換部3が温調ブロック2と絶縁基板4とに挟持され、温調ブロック2が熱電変換部3の電極301に接触している。
【0023】
ここで、従来のサーマルサイクラについて説明する。但し、従来のサーマルサイクラにおいて、本実施例によるサーマルサイクラ20(図1および図2)と共通の構成については、説明を省略する。
【0024】
図4は、従来のサーマルサイクラ30の構成の概要を示す断面図である。サーマルサイクラ30は、温調ブロック2、熱電変換部3、2つの絶縁基板4A、4B、及び放熱部5を備える。
【0025】
熱電変換部3は、P型半導体素子302とN型半導体素子303が電極を介して交互かつ直列に接合された構造で、絶縁基板4Aと絶縁基板4Bとに挟持される。
【0026】
絶縁基板4Aは、温調ブロック2と熱電変換部3との間に、温調ブロック2と熱電変換部3とに接触するように設置される。一方、絶縁基板4Bは、熱電変換部3と放熱部5との間に、熱電変換部3と放熱部5とに接触するように設置される。絶縁基板4Aは温調ブロック2と熱電変換部3とを電気的に絶縁し、絶縁基板4Bは熱電変換部3と放熱部5とを電気的に絶縁して、熱電変換が正常に機能する様にする。
【0027】
従来のサーマルサイクラ30では、絶縁基板4Aと熱電変換部3と絶縁基板4Bは、一体形成された熱電変換モジュール40(例えば、ペルチェモジュール)を構成する。すなわち、従来のサーマルサイクラ30は、温調ブロック2と熱電変換モジュール40と放熱部5を備える。熱電変換モジュール40の絶縁基板4Aと絶縁基板4Bはともに平板で形成され、熱電変換部3を挟持し、熱電変換モジュール40の絶縁性と強度を保つためのカバーの役割を果たす。従来のサーマルサイクラ30では、電気的特性や構造的特性、価格などからアルミナの絶縁基板4A、4Bからなる量販品の熱電変換モジュール40が用いられることが多い。
【0028】
従来のサーマルサイクラ30では、熱電変換モジュール40の絶縁基板4Aが熱伝導グリスなどの熱界面材料10Aを介して温調ブロック2に接触する。温調ブロック2と熱電変換部3との間に絶縁基板4Aが存在する構造のため、熱電変換部3が温調ブロック2を加熱または冷却すると、絶縁基板4Aと熱界面材料10Aも共に加熱または冷却される。従って、反応液102の温度を高速に加熱・冷却するために、温調ブロック2の体積を減らすなどして熱容量を低減することができたが、絶縁基板4A及び熱界面材料10Aの分の熱容量を低減することができなかった。また、温調ブロック2と絶縁基板4Aは個別の独立した部材であるため、通常、温調ブロック2と絶縁基板4Aとの界面には接触熱抵抗を低減するために熱界面材料10Aを介在させる。さらに絶縁基板4Aには通常、電気絶縁性を持つアルミナが用いられるが、アルミナの熱伝導率は33W/(m・K)程度と低い。そのため、絶縁基板4A、及び温調ブロック2と絶縁基板4との界面の存在は、熱電変換部3から反応液に至る伝熱経路において大きな伝熱阻害要因となっている。
【0029】
本実施例によるサーマルサイクラ20(図1図2、及び図3)は、温調ブロック2と熱電変換部3と絶縁基板4が温調モジュールを構成しており、従来のサーマルサイクラ30(図4)が備える絶縁基板4A(温調ブロック2と熱電変換部3との間の絶縁基板4A)を個別の部材として備えず、また温調ブロック2と絶縁基板4Aの界面が存在しない。そのため、従来のサーマルサイクラ30と比べて、加熱または冷却される温調モジュールの物体の熱容量のうち絶縁基板4Aと熱界面材料10Aの熱容量を削減できる。さらに、温調ブロック2と絶縁基板4Aの界面に起因する接触熱抵抗が生じなくなるので、熱電変換部3から反応液までの伝熱量を増加させることができる。このため、本実施例によるサーマルサイクラ20では、熱電変換部3が温調ブロック2を加熱または冷却すると、従来のサーマルサイクラ30のように絶縁基板4Aと熱界面材料10Aの熱容量による温度変化の遅れを無くし、熱電変換部3から反応液への伝熱量を大きくできるため、反応液102の加熱・冷却に要する時間を短縮することができる。
【0030】
図5は、従来のサーマルサイクラ30における温調ブロック2先端から放熱部5までの伝熱経路上の温度分布の概要を示す模式図である。温調ブロック2の凹部1部分の熱抵抗をR1、温調ブロック2の平板部分の熱抵抗をR2、温調ブロック2と絶縁基板4Aの間の熱界面材料10Aによる接触熱抵抗をR3、絶縁基板4Aの熱抵抗をR4、熱電変換部3の熱抵抗をR5、絶縁基板4Bの熱抵抗をR6、絶縁基板4Bと放熱部5の間の熱界面材料10Bの熱抵抗をR7として示し、熱電変換部3に電流または電圧を印可して温調ブロック2を冷却しているときの温度分布の概要を図示した。従来のサーマルサイクラ30では、熱電変換部3の上部から温調ブロック2の底面までに、熱界面材料10Aの接触熱抵抗R3と絶縁基板4Aの熱抵抗R4に起因した温度ロスが生じている。
【0031】
図6は、本発明の実施例によるサーマルサイクラ20における温調ブロック2先端から放熱部5までの伝熱経路上の温度分布の概要を示す模式図である。サーマルサイクラ20では、絶縁基板4A及び温調ブロック2と絶縁基板4Aの界面が存在しないため、R3及びR4の熱抵抗に起因する温度ロスが生じず、伝熱量を大きくできるため加熱・冷却に要する時間を短縮することができる。
【0032】
図7は、PCR法による核酸増幅における温調サイクルの一例を示す図である。この例では、95℃と65℃に温調ブロック2の温度を変化させる温調サイクルによって、二本鎖DNAを一本鎖に乖離させる変性反応、一本鎖DNAとプライマーを結合させるアニーリング反応、及び二本鎖DNAを複製する伸長反応を起こし、これを繰り返すことで核酸の数は指数関数的に増幅することができる。
【0033】
以下では、本実施例によるサーマルサイクラ20において、温調ブロック2を構成する好ましい材料について説明する。
【0034】
温調ブロック2は、熱電変換部3の電極301Aと直接接触するため、電気絶縁性を持つ材料で構成される必要がある。また、反応液102の温度を高速かつ高精度に調節するためには、温調ブロック2を構成する材料は、比熱が小さく、熱伝導率が大きいことが望ましい。
【0035】
熱電変換部3により図7で示したようなPCR法の温調サイクルを実施すると、熱電変換部3の両面(温調ブロック2に接する面と絶縁基板4に接する面)の間の温度差が大きく変動し、熱電変換部3を挟持する部材(温調ブロック2と絶縁基板4)が熱膨張と熱収縮を繰り返す。この熱変形により、電極301と半導体素子302、303との接合部に繰り返し応力が作用することで、はんだ6にクラックが生じ、サーマルサイクラ20の寿命を短くする要因となる。従って、温調ブロック2を構成する材料は、熱膨張率が小さく、かつヤング率が小さいことが望ましい。
【0036】
比熱、熱伝導率、熱膨張率の観点から、温調ブロック2は例えば、高熱伝導性のセラミックス、サーメット、及びカーボンの合成物からなるグループから選択された絶縁性材料で形成されていることが望ましい。特に、窒化アルミニウム、窒化ホウ素が有力な候補として挙げられる。
【0037】
表1に、アルミナAlと、アルミニウム合金A5052と、窒化アルミニウムAlNの熱物性の一例を示す。アルミナAlは、従来のサーマルサイクラ30で絶縁基板4Aと絶縁基板4Bの材料として代表的に使用される。アルミニウム合金A5052は、従来のサーマルサイクラ30で温調ブロック2の材料として代表的に使用される。窒化アルミニウムAlNは、電気絶縁性を持つセラミックスである。
【0038】
【表1】
【0039】
窒化アルミニウムは、アルミナとA5052と比較して、熱伝導率が大きく、比熱と熱膨張率が小さい。また、窒化アルミニウムは、アルミナと比較して、ヤング率が小さい。このため、本実施例によるサーマルサイクラ20が備える温調ブロック2は、窒化アルミニウムで構成されていることが望ましい。
【0040】
温調サイクルによる熱膨張と熱収縮が、電極301と半導体素子302、303との接合部に作用する負荷について考慮するため、従来のサーマルサイクラ30の絶縁基板4Aが温度変化したときに熱ひずみをゼロにするのに必要な外力と、本実施例によるサーマルサイクラ20の温調ブロック2が温度変化したときに熱ひずみをゼロにするのに必要な外力を比較した。この外力の比較は、本実施例によるサーマルサイクラ20と従来のサーマルサイクラ30について、以下に例示した体系で計算して行った。
【0041】
本実施例によるサーマルサイクラ20では、温調ブロック2は、平板の中央に円筒状部材を備える形状であるとした。平板の大きさは、幅と奥行きと厚さが15mm×15mm×1.2mmである。簡便のため、反応容器101を設置する凹部1を円筒形状として模擬しており、内径が5mmで外径が6.4mmで高さが7.8mmであるとした。本実施例によるサーマルサイクラ20では、温調ブロック2の材料を窒化アルミニウムとした。また、温調ブロック2において、円筒状部材が熱ひずみに与える影響を無視した。従来のサーマルサイクラ30では、絶縁基板4Aは、幅と奥行きと厚さが15mm×15mm×1.0mmの大きさの平板であり、材料がアルミナであるとした。
【0042】
表2に、上記の条件において、本実施例によるサーマルサイクラ20の温調ブロック2と、従来のサーマルサイクラ30の絶縁基板4Aについて、温度が1℃上昇した場合に熱ひずみをゼロにするのに必要な外力の計算結果を示す。本実施例によるサーマルサイクラ20では、温調ブロック2の、温度が1℃上昇した場合に熱ひずみをゼロにするのに必要な外力(単位温度変化当たりの外力)は、26.5N/Kである。従来のサーマルサイクラ30では、絶縁基板4Aの、温度が1度上昇した場合に熱ひずみをゼロにするのに必要な外力は、38.9N/Kである。
【0043】
【表2】
【0044】
この計算結果より、本実施例によるサーマルサイクラ20では、温度が1℃上昇した場合に熱ひずみをゼロにするのに必要な外力は、従来のサーマルサイクラ30で必要な外力の68%であり、従来のサーマルサイクラ30よりも小さい。従って、本実施例によるサーマルサイクラ20では、電極301と半導体素子302、303との接合部に作用する負荷を低減する効果が得られる。
【0045】
次に、本実施例によるサーマルサイクラ20における温調ブロック2の熱容量と、従来のサーマルサイクラ30における温調ブロック2と絶縁基板4Aの熱容量を、それぞれ計算して求めて比較した。本実施例によるサーマルサイクラ20では、熱電変換部3が加熱または冷却する物体は、温調ブロック2である。従来のサーマルサイクラ30では、熱電変換部3が加熱または冷却する物体は、温調ブロック2と絶縁基板4Aである。
【0046】
温調ブロック2は、一例として、本実施例によるサーマルサイクラ20と従来のサーマルサイクラ30とで、平板の中央に円筒状部材を備える形状であるとした。平板の大きさは、幅と奥行きと厚さが15mm×15mm×1.2mmである。簡便のため、反応容器101を設置する凹部1を円筒形状として模擬しており、内径が5mmで外径が6.4mmで高さが7.8mmであるとした。本実施例によるサーマルサイクラ20では、温調ブロック2の材料を窒化アルミニウムとした。従来のサーマルサイクラ30では、絶縁基板4Aは、幅と奥行きと厚さが15mm×15mm×1.0mmの大きさの平板であるとし、温調ブロック2の材料がA5052であり、絶縁基板4Aの材料がアルミナであるとした。
【0047】
表3に、上記の条件における、本実施例によるサーマルサイクラ20の温調ブロック2の熱容量と、従来のサーマルサイクラ30の温調ブロック2と絶縁基板4Aの熱容量の計算結果を示す。本実施例によるサーマルサイクラ20では、熱電変換部3が加熱または冷却する物体(温調ブロック2)の熱容量は、0.87J/Kである。従来のサーマルサイクラ30では、熱電変換部3が加熱または冷却する物体(温調ブロック2と絶縁基板4A)の熱容量は、1.63J/Kである。従って、本実施例によるサーマルサイクラ20では、熱電変換部3が加熱または冷却する物体の熱容量は、従来のサーマルサイクラ30での熱容量の約53%であり、従来のサーマルサイクラ30よりも小さい。このため、本実施例によるサーマルサイクラ20は、従来のサーマルサイクラ30よりも反応液102を高速に加熱・冷却することができる。
【0048】
【表3】
【0049】
次に、熱電変換部3から温調ブロック2の先端までの総括熱抵抗を、本実施例によるサーマルサイクラ20と従来のサーマルサイクラ30について、計算して求めた。本実施例によるサーマルサイクラ20における総括熱抵抗とは、温調ブロック2の熱抵抗である。従来のサーマルサイクラ30における総括熱抵抗とは、温調ブロック2の熱抵抗と、絶縁基板4Aの熱抵抗と、温調ブロック2と絶縁基板4Aとの間の界面における接触熱抵抗の和である。
【0050】
本実施例によるサーマルサイクラ20における温調ブロック2の熱抵抗とは、図6におけるR1とR2の和である。従来のサーマルサイクラ30における温調ブロック2の熱抵抗とは、図5におけるR1、R2、R3、およびR4の和である。
【0051】
本実施例によるサーマルサイクラ20の総括熱抵抗と、従来のサーマルサイクラ30の総括熱抵抗は、表3に示した熱容量を求めたときと同じ条件で計算した。但し、従来のサーマルサイクラ30において、温調ブロック2と絶縁基板4Aとの間には熱界面材料が介在させており、その接触熱抵抗を10-6(m・K)/Wであるとした。
【0052】
表4に、上記の条件における、本実施例によるサーマルサイクラ20での温調ブロック2の熱抵抗と、従来のサーマルサイクラ30での、温調ブロック2の熱抵抗と、温調ブロック2と絶縁基板4Aとの間の界面における接触熱抵抗と、絶縁基板4Aの熱抵抗の計算結果を示す。表4には、本実施例によるサーマルサイクラ20と従来のサーマルサイクラ30における総括熱抵抗も示す。本実施例によるサーマルサイクラ20では、総括熱抵抗は、4.2K/Wである。従来のサーマルサイクラ30では、総括熱抵抗は、4.6K/Wである。従って、本実施例によるサーマルサイクラ20では、熱電変換部3から温調ブロック2の先端までの総括熱抵抗は、従来のサーマルサイクラ30での総括熱抵抗の約90%であり、従来のサーマルサイクラ30よりも小さい。このため、本実施例によるサーマルサイクラ20は、反応液102を効率的かつ高速に加熱・冷却することができる。
【0053】
【表4】
【0054】
図8は、本発明の実施例によるサーマルサイクラ20と従来のサーマルサイクラ30における加熱・冷却の速度を比較する数値計算結果の比較を示す図である。図の横軸は時間、縦軸は温調ブロック2の温度である。実線は本発明の実施例によるサーマルサイクラ20の結果、破線は従来のサーマルサイクラ30の結果を示す。数値計算は温調ブロック2の初期温度を21℃とし、温度を約105℃まで上昇させてから約40℃まで下降させる過程を3回繰り返す加熱・冷却シミュレーションを行った。3回目の加熱・冷却過程の結果を比較すると、本発明の実施例によるサーマルサイクラ20における所要時間は、従来のサーマルサイクラ30における所要時間に対して49%の時間短縮の効果が得られることが分かった。
【0055】
図9は、従来のサーマルサイクラ30において、温調ブロック2を固定する構成の概要を示す図1のB-Bに相当する断面図である。
【0056】
従来のサーマルサイクラ30では、絶縁基板4Aと熱電変換部3と絶縁基板4Bが熱電変換モジュールを構成する。温調ブロック2、熱電変換モジュール、及び放熱部5は、それぞれ互いに独立した部品であり、放熱部5に固定するには、温調ブロック2と温調モジュールの2つを固定する必要がある。
【0057】
従来のサーマルサイクラ30では、固定部材11によって、温調ブロック2により熱電変換モジュールを挟んで放熱部5に固定する。適切な力で固定することで、温調ブロック2と絶縁基板4Aとの間、また絶縁基板4Bと放熱部5との接触熱抵抗は低減される。すなわち、固定部材11は、温調ブロック2と放熱部5に接触することになり、たとえば、反応液を高温に加熱しているときは、温調ブロック2は高温、放熱部5は低温となっているため、温調ブロック2側から放熱部5に向かって固定部材11を介して伝導伝熱経路を形成する。このため、従来のサーマルサイクラ30では、固定部材11による温調ブロック2と放熱部5の間の伝導伝熱経路に起因する熱損失が発生する。この熱損失は、反応液102の効率的かつ高速な加熱・冷却を妨げる要因となる。
【0058】
図10は、本実施例によるサーマルサイクラ20において、温調ブロック2を固定する構成の概要を示す図1のB-Bに相当する断面図である。本実施例によるサーマルサイクラ20では、先に説明したように、温調ブロック2と熱電変換部3と絶縁基板4が温調モジュールを構成し、温調モジュールは放熱部5から独立した部品である。
【0059】
温調モジュールの絶縁基板4は放熱部5の放熱部材501に、例えば固定部材11と固定ねじ12によって締結されて固定される。固定部材11は、絶縁基板4、放熱部5、及び固定ねじ12だけに接触して締結し、温調ブロック2と放熱部5は締結しない。すなわち、固定部材11は、温調ブロック2に接触せず、温調ブロック2と放熱部5の間に固定部材11を介した伝導伝熱経路を形成しない。温調ブロック2と熱電変換部3とが接合されて構成されているため、従来のサーマルサイクラ30のように温調ブロック2から固定部材11で固定する必要がない。
【0060】
このため、本実施例によるサーマルサイクラ20では、固定部材11による温調ブロック2と放熱部5の間の伝導伝熱経路に起因する熱損失が発生せず、反応液102を効率的かつ高速に加熱・冷却することができる。
【0061】
図11は、本実施例によるサーマルサイクラ20の別の構成の概要を示す断面図である。図11に示すサーマルサイクラ20は、構成要素が水平方向に並んで配置されている。
【0062】
図1に示したサーマルサイクラ20では、温調ブロック2の熱電変換部3と接触する方向(図1の上下方向)は、温調ブロック2の凹部1の窪み方向、すなわち反応容器101の設置方向と同じであり、鉛直方向である。
【0063】
図11に示したサーマルサイクラ20では、温調ブロック2の熱電変換部3と接触する方向(図5の左右方向)は、温調ブロック2の凹部1の窪み方向(図5の上下方向)、すなわち反応容器101の設置方向(鉛直方向)と異なり、水平方向である。
【0064】
本実施例によるサーマルサイクラ20は、温調ブロック2、熱電変換部3、絶縁基板4、及び放熱部5が、図1に示すように鉛直方向に並んで配置されていてもよく、図11に示すように水平方向に並んで配置されていてもよい。温調ブロック2には、反応容器101を設置するように、窪みが鉛直方向に延伸する上向きの凹部1が設けられている。
【0065】
図12は、本発明の実施例によるサーマルサイクラ20において、温度センサ8を固定する構成の概要を示す断面図である。熱電変換部3に印可される電流または電圧の値は、温度センサ8の出力に従って調節されるため、温調ブロック2の温度を測定する必要がある。
【0066】
従来のサーマルサイクラ30では、図4に示すように、温度センサ8は温調ブロック2に設けたねじ穴などを利用して、固定ねじで固定される場合や、温調ブロック2に設けた小穴に温度センサ8を挿入して固定する場合が多かった。一方で、本実施例のサーマルサイクラ20において、窒化アルミニウム等のセラミックで温調ブロック2を形成した場合、ねじ穴や小穴の加工が困難になる場合がある。本実施例のサーマルサイクラ20では、温調ブロック2の熱電変換部3側と反対の表面上に金属メッキ層304Cが施され、その上に温度センサ8が実装される。また、図13は、本発明の実施例によるサーマルサイクラ20において、温度センサ8を固定する別の構成の概要を示す断面図である。図13のように、温度センサ8の実装位置を、温調ブロック2の熱電変換部3側の表面上として、温調ブロック2への金属メッキ層加工回数を減らしてもよい。この方法によれば、ねじ穴や小穴の加工が困難な窒化アルミニウム等のセラミックで形成した温調ブロック2に温度センサ8を固定することができる。
【0067】
温度センサ8には、例えば熱電対、サーミスタ、白金測温抵抗体などが用いられる。
【0068】
図14は、本発明の実施例による、複数の反応容器101を同時に加熱・冷却するサーマルサイクラ20の構成の概要を示す断面図である。本実施例のサーマルサイクラ20では、温調ブロック2は反応容器101を設置可能な凹部1を複数備えることで、複数の反応容器101に格納された反応液102を同時に加熱・冷却し、効率的な核酸増幅が可能となる。
【0069】
図15に示す遺伝子検査装置600の実施例では、ラック搭載部610、搬送機構620、液体分注機構630、蓋ユニット640、攪拌ユニット650、制御装置690、サーマルサイクラ20、測定部665を備えている。
【0070】
遺伝子検査装置600のうち、反応液102を作成する調液部は、ラック搭載部110、搬送機構120、液体分注機構130、蓋ユニット140により構成される。
【0071】
ラック搭載部610には、検査に用いられる検体、試薬、分注チップ、反応容器101が配備される。ラック搭載部610は、遺伝子検査装置600の作業台601上の所定位置に設けられており、検体容器ラック612、試薬容器ラック614、反応容器ラック616、ノズルチップラック618がそれぞれ搭載される。
【0072】
検体容器ラック612には、増幅処理の対象となる核酸を含む検体が収容された複数の検体容器613が収納されている。試薬容器ラック614には、検体に加えるための試薬が収容された複数の試薬容器615が収納されている。反応容器ラック616には、検体と試薬とを混合するために用いられる複数の未使用の空の反応容器101が収納されている。ノズルチップラック618には、検体および試薬の分注に用いられる複数の未使用のノズルチップ619が収納されている。
【0073】
搬送機構620は、反応容器101等を保持しながら遺伝子検査装置600内の各箇所を移動させる機構であり、X軸方向ガイド621と、X軸方向可動子622と、Y軸方向ガイド623と、Y軸方向可動子624とを備えており、制御信号に基づいてY軸方向可動子624を作業台601上で移動させて、作業台上の所望の位置に配置できる構成になっている。
【0074】
X軸方向ガイド621は、遺伝子検査装置600の作業台601上に図15中X軸方向に延在させて配置されたガイドである。X軸方向可動子622は、X軸方向ガイド621上を移動可能に設けられている可動子である。
【0075】
Y軸方向ガイド623は、X軸方向可動子622に一体的に取り付けられ、図15中Y軸方向に延在させて配置されたガイドである。Y軸方向可動子624は、Y軸方向ガイド623上を移動可能に設けられている可動子である。
【0076】
Y軸方向可動子624には、バーコードリーダ625と、グリッパユニット626と、分注ユニット627とが設けられており、Y軸方向可動子624と一体的に作業台601上を移動して所望位置に配置される。
【0077】
バーコードリーダ625は、検体容器613、試薬容器615、反応容器101それぞれに付されている識別情報を読み取り、これらの識別情報を取得する。
【0078】
グリッパユニット626は、制御信号に基づくグリッパの作動に応動して反応容器101を把持または解放し、作業台601上の装置各部間でのY軸方向可動子624の移動に伴って反応容器101を搬送する。
【0079】
分注ユニット627は、ノズルチップ619を着脱可能な構成になっており、制御信号に基づいてノズルチップラック618からノズルチップ619を装着し、検体容器613内の検体または試薬容器615内の試薬にノズルチップ619を浸漬し、検体または試薬をノズルチップ619内に吸引して採取する。また、分注ユニット627は、制御信号に基づいてこのノズルチップ619内に貯留された検体や試薬を反応容器101に吐出して分注する。
【0080】
この分注ユニット627は、選択された1つの反応容器101内に分注チップを用いて検体と試薬とを分注して反応液を調製する機構である液体分注機構630の主部をなす。
【0081】
また、遺伝子検査装置600では、ラック搭載部610とサーマルサイクラ20との間の作業台601上には、反応液を調製するために反応容器ラック616から取り出した未使用の反応容器101が載置される反応液調製ポジション670が形成されている。
【0082】
反応液調製ポジション670には、反応容器101を保持するための容器搭載部672が設けられている。遺伝子検査装置600では、反応容器ラック616からこの反応液調製ポジション670にグリッパユニット626を用いて移した未使用の反応容器101に対し、分注ユニット627を用いて検体容器613および試薬容器615から検体および試薬の分注を行って、反応容器101内に検体および試薬を混合した反応液を調製する。複数の容器搭載部672を備える。これにより、例えば、同じ検体または同じ試薬の分注を複数の反応容器101に対し一緒に行うこともでき、複数の反応液の調製を纏めて行うバッチ処理ができるようになっている。
【0083】
蓋ユニット640は、反応液を収容した反応容器101に蓋をする機構であり、反応液調製ポジション670からグリッパユニット626を用いて移された、反応液が収容されている反応容器101の開口に蓋をして、反応液の蒸発や外部からの異物の進入等を防ぐ。
【0084】
攪拌ユニット650は、反応容器101に収容された反応液の検体および試薬を均一に混合する機構であり、蓋ユニット640からグリッパユニット626を用いて移された、密閉された反応容器101に収容されている反応液を攪拌し、検体および試薬の混合を行う。
【0085】
さらに、図示の遺伝子検査装置600では、反応液調製ポジション670とラック搭載部610との間の作業台601上には、分注ユニット627に装着されて検体または試薬の分注に使用された使用済みのノズルチップ619や、サーマルサイクラ20による核酸増幅処理が終わった検査済みの反応容器101を廃棄する廃棄ボックス680が設けられている。
【0086】
サーマルサイクラ20は、攪拌が終わった反応容器101が搭載され、反応液の核酸を予め定められているプロトコルに従って増幅させる。
【0087】
測定部665は、反応液を保持する反応容器101の上方側に配置されており、サーマルサイクラ20によって予め定められているプロトコルに従って温度が調整された反応液の蛍光特性を測定することで核酸濃度測定を行う。
【0088】
測定部665は、対向した反応容器101の露出した底部側の容器部分に励起光を照射する励起光源と、この励起光の照射に基づいた反応液からの蛍光を検出する検出素子とを含む。励起光源としては、例えば、発光ダイオード(LED)、半導体レーザー、キセノンランプ、ハロゲンランプ等が用いられる。検出素子としては、フォトダイオード、フォトマルチプライヤー、CCD等が用いられる。
【0089】
これにより、測定部665は、励起光源からの励起光の照射によって反応液から生じる蛍光を検出素子により検出して測定することによって、反応液中の、試薬により蛍光標識された増幅対象の塩基配列の定量を行う。
【0090】
このように構成された遺伝子検査装置600のサーマルサイクラ20を含む装置各部は、キーボード、マウス等の入力装置692や液晶モニタ等の表示装置693を備えた制御装置690により、その作動が制御される。
【0091】
制御装置690は、遺伝子検査装置600のサーマルサイクラ20を含む上述した装置各部を制御し、入力装置692により設定されたプロトコルに基づいて、予め記憶部691に記憶された各種ソフトウェア等を用いて、反応液調製処理および核酸増幅処理を含む核酸検査処理を実行する。また、制御装置690は、この核酸検査処理の際の装置各部の可動状況等を記憶部691に記憶するとともに、サーマルサイクラ20によって得られた蛍光検出結果等の分析結果を記憶部691に記憶し、表示装置693に表示する。
【0092】
本実施例の制御装置690は、複数のサーマルサイクラ20を独立して並行して温度の制御が可能に構成されている。
【0093】
次に、この制御装置690が行う核酸検査処理に係り、上述した反応液調製処理および核酸増幅処理について詳細に説明する。
【0094】
ここで、反応液調製処理とは、遺伝子検査装置600の制御装置690によって行われる核酸検査処理の中、反応容器101内に検体および試薬を分注した反応液を調製する処理を指す。また、核酸増幅処理とは、この反応液調製処理によって反応容器101内に調製された反応液を、サーマルサイクラ20によって増幅対象の塩基配列の種類に応じたプロトコルに従って温度調節し、塩基配列の核酸増幅を測定部665による反応液の蛍光測定によって確認しながら行う処理を指す。
【0095】
制御装置690は、反応液調製処理を開始するに当たって、まず記憶部691に設けられている反応液調製処理のための各種作業エリアをイニシャライズする。
【0096】
制御装置690は、反応液の調製処理に係るイニシャライズが済むと、入力装置692によって設定された、検体容器ラック情報および試薬容器ラック情報や、核酸検査の実行内容情報の読み込み処理を行う。
【0097】
制御装置690は、核酸検査の実行内容情報に含まれた1または複数の個別核酸検査処理の中から予め設定された手順に基づいて、今回、反応液作製処理を行う1または複数の個別核酸処理を選択抽出する。
【0098】
次に、制御装置690は、反応液調製ポジション670で、反応容器ラック616から事前に搬送し反応液調製ポジション670の容器搭載部672に搭載した未処理の反応容器101に対して、選択抽出された個別核酸処理の反応液調製処理情報に基づいて液体分注機構630を作動制御して、反応液の調製を行う。
【0099】
本実施例によるサーマルサイクラ20と遺伝子検査装置600は、以上に説明したように、反応液を高速かつ効率的に加熱・冷却でき、かつ装置寿命の長いサーマルサイクラを提供することと、このサーマルサイクラを備える遺伝子検査装置を提供することができる。
【0100】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0101】
1…凹部、2…温調ブロック、3…熱電変換部、4、4A、4B…絶縁基板、5…放熱部、6…はんだ、7A、7B…リード線、8…温度センサ、10、10A、10B…熱界面材料、11…固定部材、12…固定ねじ、20…サーマルサイクラ、30…従来のサーマルサイクラ、101…反応容器、102…反応液、301A、301B、301C…電極、302…P型半導体素子、303…N型半導体素子、304A、304B、304C…金属メッキ層、501…放熱部材、502…送風機、600…遺伝子検査装置、601…作業台、610…ラック搭載部、612…検体容器ラック、613…検体容器、614…試薬容器ラック、615…試薬容器、616…反応容器ラック、618…ノズルチップラック、619…ノズルチップ、620…搬送機構、621…X軸方向ガイド、622…X軸方向可動子、623…Y軸方向ガイド、624…Y軸方向可動子、625…バーコードリーダ、626…グリッパユニット、627…分注ユニット、630…液体分注機構、640…蓋ユニット、650…攪拌ユニット、665…測定部、670…反応液調製ポジション、672…容器搭載部、680…廃棄ボックス、690…制御装置、691…記憶部、692…入力装置、693…表示装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15