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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】電気伝導性測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/22 20060101AFI20240726BHJP
   G01N 27/06 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
G01R27/22 Z
G01N27/06 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022078911
(22)【出願日】2022-05-12
(65)【公開番号】P2023167605
(43)【公開日】2023-11-24
【審査請求日】2024-01-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】坂本 憲児
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-133918(JP,A)
【文献】登録実用新案第3212682(JP,U)
【文献】特開2002-328110(JP,A)
【文献】国際公開第2020/096211(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/181656(WO,A1)
【文献】特開2015-83963(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3225309(EP,A1)
【文献】特表2013-545109(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152287(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/220716(WO,A1)
【文献】特開2018-28451(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0086404(US,A1)
【文献】国際公開第2023/017633(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/017634(WO,A1)
【文献】特開2021-32659(JP,A)
【文献】THUO, Martin M. ; MARTINEZ, Ramses V. ; LAN, Wen-Jie ; LIU, Xinyu ; BARBER, Jabulani ; ATKINSON, Man,“Fabrication of Low-Cost Paper-Based Microfluidic Devices by Embossing or Cut-and-Stack Methods”,CHEMISTRY OF MATERIALS,2014年06月18日,Vol. 26, No. 14,pp. 4230-4237,DOI: https://doi.org/10.1021/cm501596s
【文献】NOVIANA, Eka ; OZER, Tugba ; CARRELL, Cody S. ; LINK, Jeremy S. ; MCMAHON, Catherine ; JANG, Ilhoon,“Microfluidic Paper-Based Analytical Devices: From Design to Applications”,CHEMICAL REVIEWS,2021年10月13日,Vol. 121, No. 19,pp. 11835-11885,DOI: https://doi.org/10.1021/acs.chemrev.0c01335
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/00-27/32
G01N 27/00-27/10
G01N 33/48-33/98
G01N 35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の電気伝導レベルを表す電導値を計測する電気伝導性測定装置において、
前記液体を吸収可能な素材からなる流路と、
前記流路に接触した状態で間隔を空けて設けられた第1、第2の電極と、
前記第1の電極に電圧を印加する印加部と、
前記流路に吸収された前記液体を介して電気的に接続された前記第1、第2の電極間の電気抵抗値を検出し、前記液体の前記電導値を導出する演算部とを備え
前記流路は、親液性を有する繊維によって形成された紙又は不織布からなり、前記第1、第2の電極は、一部の前記繊維を内包した金属からなり、
前記第1、第2の電極には、前記流路を移動する前記液体が流入するひび割れが形成されていることを特徴とする電気伝導性測定装置。
【請求項2】
液体の電気伝導レベルを表す電導値を計測する電気伝導性測定装置において、
前記液体を吸収可能な素材からなる流路と、
前記流路に接触した状態で間隔を空けて設けられた第1、第2の電極と、
前記第1の電極に電圧を印加する印加部と、
前記流路に吸収された前記液体を介して電気的に接続された前記第1、第2の電極間の電気抵抗値を検出し、前記液体の前記電導値を導出する演算部とを備え
前記液体を吸収するシートが設けられ、該シートは前記流路を有し、該シートの前記流路の周囲には、該流路に吸収された前記液体が該流路外に流出するのを防止する疎液部が形成され、
前記シートは、親液性を有する繊維によって形成された紙又は不織布からなり、前記第1、第2の電極は、一部の前記繊維を内包した金属からなり、
前記第1、第2の電極には、前記流路を移動する前記液体が流入するひび割れが形成されていることを特徴とする電気伝導性測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電気伝導性測定装置において、前記液体は体液であって、前記演算部は、前記電導値を基にして前記液体の粘性を求めることを特徴とする電気伝導性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の電気伝導レベルを計測する電気伝導性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病や高脂血症等の生活習慣病の患者は日々の状態確認が重要である。糖尿病については家庭での使用を前提とした血糖値計測器が普及している。これに対し、高脂血症等、糖尿病以外の生活習慣病については、家庭で状態を確認する仕組みが確立しておらず、状態の確認には医療機関での診断や検査が必要となる。ここで、血液の粘性及び生活習慣病の間には相関があることが分かりつつあるため、血液の粘性を簡易的に計測できる仕組みが確立できれば、家庭で生活習慣病の状態を確認できるようになることが期待される。
【0003】
また、唾液の各成分(コルチゾール、DHEA、テストステロン等)はストレスに応じて量が変化する。唾液の各成分の含有量は唾液の粘性に影響を与えることから、唾液の粘性の測定によりストレスの評価が可能である。
従って、体液の粘性の計測は人の健康状態の確認に有効である。体液の粘性は、例えば、特許文献1に記載された体液粘性測定装置を用いて計測できる。
【0004】
当該装置は、体液を流す流路が形成されたチップを有し、体液の粘性が計測されるごとにチップの交換ができるように設計されている。また、当該装置は、液体の電気伝導率を基にその液体の粘性を評価できるというWalden則に基づいて、電気伝導率や電気抵抗率等の電気伝導のしやすさが分かる物理量(以下、「電気伝導値」とも言う)から体液の粘性を評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-28451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂板等に微細な加工をして製造されるチップは一定以上の製造コストを要し、例えば、当該装置を用いて家庭で体液の粘性を毎日計測したい患者にとっては、経済的負担が大きいという問題があった。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、樹脂体に微細な加工がなされたチップを用いることなく、安価に液体の電気伝導値を計測可能な電気伝導性測定装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う第1の発明に係る電気伝導性測定装置は、液体の電気伝導レベルを表す電導値を計測する電気伝導性測定装置において、前記液体を吸収可能な素材からなる流路と、前記流路に接触した状態で間隔を空けて設けられた第1、第2の電極と、前記第1の電極に電圧を印加する印加部と、前記流路に吸収された前記液体を介して電気的に接続された前記第1、第2の電極間の電気抵抗値を検出し、前記液体の前記電導値を導出する演算部とを備え、前記流路は、親液性を有する繊維によって形成された紙又は不織布からなり、前記第1、第2の電極は、一部の前記繊維を内包した金属からなり、前記第1、第2の電極には、前記流路を移動する前記液体が流入するひび割れが形成されている。
【0008】
前記目的に沿う第2の発明に係る電気伝導性測定装置は、液体の電気伝導レベルを表す電導値を計測する電気伝導性測定装置において、前記液体を吸収可能な素材からなる流路と、前記流路に接触した状態で間隔を空けて設けられた第1、第2の電極と、前記第1の電極に電圧を印加する印加部と、前記流路に吸収された前記液体を介して電気的に接続された前記第1、第2の電極間の電気抵抗値を検出し、前記液体の前記電導値を導出する演算部とを備え、前記液体を吸収するシートが設けられ、該シートは前記流路を有し、該シートの前記流路の周囲には、該流路に吸収された前記液体が該流路外に流出するのを防止する疎液部が形成され、前記シートは、親液性を有する繊維によって形成された紙又は不織布からなり、前記第1、第2の電極は、一部の前記繊維を内包した金属からなり、前記第1、第2の電極には、前記流路を移動する前記液体が流入するひび割れが形成されている。
【0009】
【発明の効果】
【0010】
第1、第2の発明に係る電気伝導性測定装置は、液体を吸収可能な素材からなる流路と、流路に接触した状態で間隔を空けて設けられた第1、第2の電極と、第1の電極に電圧を印加する印加部と、流路に吸収された液体を介して電気的に接続された第1、第2の電極間の電気抵抗値を検出し、液体の電導値を導出する演算部とを備えるので、例えば、流路を紙によって形成でき、樹脂体に微細な加工がなされたチップを用いることなく、安価に液体の電気伝導値を計測可能である。
【0011】
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態に係る電気伝導性測定装置の説明図である。
図2】(A)、(B)はそれぞれ、同電気伝導性測定装置の部分断面図である。
図3】(A)、(B)はそれぞれ、液体Lが流路を移動する様子を示す説明図である。
図4】(A)、(B)はそれぞれ、シートに形成された第1の電極を撮像した電子顕微鏡の画像である。
図5】(A)、(B)はそれぞれ、シートに流路を形成するための工程を示す説明図である。
図6】別の金型を用いてシートに流路を形成する工程を示す説明図である。
図7】第1の実験結果を示す説明図である。
図8】第2の実験結果を示す説明図である。
図9】第3の実験結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1図2(A)、(B)、図3(A)、(B)に示すように、本発明の一実施の形態に係る電気伝導性測定装置10は、液体Lの電気伝導レベルを表す電導値を計測する装置であって、液体Lを吸収可能な素材からなる流路11と、間隔を空けて交互に設けられた第1の電極12、13、14、15、第2の電極16、17、18、19と、第1の電極12、13、14、15に電圧を印加する印加部20と、液体Lの電動値を導出する演算部21とを備えている。以下、詳細に説明する。
【0014】
液体Lは特に限定されず、例えば、血液や唾液等の体液であってもよいし、電解液であってもよい。以下、特に記載しない限り、液体Lは体液(水分を含む液体の一例)として説明する。
液体Lの電気伝導レベルを表す電導値とは、液体Lの電気の通しやすさ又は電気の通しにくさを示す値であり、電導値として、例えば、電気伝導率、電気抵抗率、電気伝導率と相関がある値、及び、電気抵抗率と相関がある値が挙げられる。
【0015】
第1の電極12、13、14、15及び第2の電極16、17、18、19は、図1図2(A)、(B)に示すように、液体Lを吸収可能な素材によって形成されたシート22の一面側(表面側)に設けられている。
本実施の形態において、シート22は液体Lに対し親液性を有する(液体Lとの親和性が大きい)繊維によって形成された紙又は不織布からなり、プレス加工により変形する。
【0016】
矩形状のシート22は、直線的な流路11と、流路11の一端部に連結された平面視して円形の給液部23を有している。従って、流路11は親液性を有する繊維によって形成された紙又は不織布からなっている。
また、給液部23も、液体Lを吸収可能である。給液部23に液体Lが供給されると、液体Lは、図3(A)に示すように、給液部23に吸収され、その一部又は大半が、図3(B)に示すように、流路11に吸収され(流路11へ移動し)、流路11に吸収された液体Lの一部又は大半が流路11を流路11の他端部に向けて移動する。
【0017】
シート22は、図1に示すように、流路11を有し、シート22の流路11の周囲には、給液部23及び流路11に吸収された液体Lが給液部23外又は流路11外に流出するのを防止する疎液部25が形成されている。疎液部25は、シート22の所定領域に疎水液(液体Lが油分を含むものであれば、疎油液)を浸み込ませて形成されている。疎水液として、例えば、フッ素コーティング剤、油性塗料又はワックスを採用可能である。フッ素コーティング剤として、例えば、株式会社フロロテクノロジーのフロロサーフ(登録商標)が挙げられ、油性塗料として、例えば、株式会社カンペハピオの油性トップガード(「トップガード」は登録商標)が挙げられる。
【0018】
第1の電極12、13、14、15及び第2の電極16、17、18、19はそれぞれ、図1図2(B)に示すように、シート22の一面側に流路部11に直交(交差)して一部が流路11に接触した状態で間隔を空けて平行に設けられた線分状の金属板(本実施の形態では銅板)であり、流路11の一端部から他端部に向けて、第2の電極16、第1の電極12、第2の電極17、第1の電極13、第2の電極18、第1の電極14、第2の電極19及び第1の電極15が順に等ピッチで配されている。
【0019】
流路11は、図2(A)に示すように、第1の電極12、13、14、15及び第2の電極16、17、18、19のいずれも接触していない領域(以下、「電極非接触領域」とも言う)が、シート22の一面側に突出し露出している。これに対し、流路11の第1の電極12が接触する領域(以下、「電極接触領域」とも言う)は、図2(B)に示すように、一面側が第1の電極12に覆われている。これは、第1の電極13、14、15及び第2の電極16、17、18、19が接触する流路11の各領域についても同様である。即ち、第1の電極12、13、14、15及び第2の電極16、17、18、19を形成する金属は、流路11の一部の繊維を内包している。
【0020】
流路11の電極非接触領域及び電極接触領域は共に、図2(A)、(B)に示すように、他面側(裏面側)から両側面側にかけて疎液部25により覆われている。そのため、流路11に吸収された液体Lは、図3(A)、(B)に示すように、流路11外に流出するのを防止された状態で、流路11に沿って移動する。ここで、流路11を移動する液体Lが流路11から流出するのを防止する観点では、流路11の断面の全周(流路11の一面側を含む)が疎液部25によって覆われるようにしてもよいし、流路11の両側面側のみが疎液部25によって覆われるようにしてもよい(即ち、流路11の他面側は疎液部25により覆われている必要はない)。
【0021】
本実施の形態では、第1の電極12の大半が、図4(A)、(B)に示すように、シート22内に浸み込んだ状態で形成され、シート22の一部の繊維を内包している。これは、第1の電極13、14、15及び第2の電極16、17、18、19についても同様である。即ち、第1の電極12、13、14、15及び第2の電極16、17、18、19はそれぞれ、シート22の一部の繊維を内包した金属からなっている。
【0022】
また、本実施の形態では、第1の電極12、13、14、15及び第2の電極16、17、18、19にはそれぞれ、流路11を移動する液体Lが流入する割れが形成されている。第1の電極12、13、14、15及び第2の電極16、17、18、19にこのような割れを形成することにより、割れを形成しない場合に比べて、液体Lと第1の電極12、13、14、15及び第2の電極16、17、18、19それぞれとの間の接触面積が大きくなるようにしている。
【0023】
第1の電極12、13、14、15は、図1に示すように、導線26を介して印加部20に接続され、第2の電極16、17、18、19は導線27及び図示しないAD変換器経由で演算部21に接続されている。
印加部20は導線26を介して所定の大きさの交流電圧を第1の電極12、13、14、15に印加可能に設計されている。なお、直流電圧を印加する印加部を採用してもよい。
【0024】
演算部21は、例えば、CPU、メモリ及び電気信号が入力されるインターフェース等を有して構成でき、第2の電極16、17、18、19から出力されAD変換器を介して取得した電気信号(本実施の形態では、電圧信号)を基に液体Lの電導値を導出可能に設計されている。
【0025】
電気伝導性測定装置10は、以下の工程S1~S7を経て液体Lの電導値を計測する。
【0026】
工程S1:印加部20が第1の電極12、13、14、15に所定の大きさの電圧を印加した状態にする。
【0027】
工程S2:給液部23に所定量の液体Lを滴下し、液体Lを給液部23に吸収させる。給液部23に吸収された液体Lは、図3(A)、(B)に示すように、流路11の一端部へ移動し、流路11を流路11の他端部に向けて移動する。
【0028】
工程S3: 流路11を移動する液体L(液体Lの先頭部)が、図3(B)に示すように、第2の電極16を経て、第1の電極12に達した状態となる。これにより、第2の電極16及び第1の電極12は、流路11の第2の電極16及び第1の電極12間の領域に吸収されている液体Lを介して電気的に接続され、第2の電極16から電気信号が出力される。
【0029】
工程S4:演算部21は、第2の電極16からの電気信号をAD変換器経由で取得し、取得した電気信号を基に第2の電極16及び第1の電極12間の電気抵抗値(以下、「1区間の電気抵抗値」とも言う)を検出し、当該電気抵抗値を基に、液体Lの電導値の一例である電気抵抗率を導出する。
【0030】
流路11の断面積をS、第2の電極16及び第1の電極12間の距離をD、1区間の電気抵抗値をR1、電気抵抗率をρ1として、演算部21は、検出したR1を以下の式1に代入してρ1を算出する。なお、定数であるS及びDは演算部21に予め記憶されている。
【0031】
ρ1=(S/D)×R1 (式1)
【0032】
断面積Sを正確に測定できない場合、給液部23に吸収させた液体Lの質量を液体Lの密度で割って、給液部23に吸収させた液体Lの体積を算出し、当該体積を基に流路11の1区間分に吸収された液体Lの体積Vを求め、式1の代わりに以下の式1’を用いることによってρ1を算出可能である。
【0033】
ρ1=(V/D)×R1 (式1’)
【0034】
工程S5:流路11を移動する液体Lが、第1の電極12を経て、第2の電極17に達した状態になり、第2の電極16、第1の電極12及び第2の電極17が、流路11の第2の電極16、17間の領域に吸収されている液体Lを介して電気的に接続されると、演算部21は、第2の電極16、17から出力される電気信号をAD変換器経由で取得する。このとき、第2の電極16、17は並列接続された状態となる。
【0035】
演算部21は、取得する電気信号の大きさが予め定めた値以上になったことにより、液体Lが第2の電極17に達したのを検知して、第2の電極16、17間の電気抵抗値(以下、「2区間の電気抵抗値」とも言う)を検出し、液体Lの電導値を導出する。
【0036】
ここで、第2の電極16、17間の距離は第2の電極16及び第1の電極12間の距離の2倍のため2Dとなる。また、2区間の電気抵抗値の理論値は1区間の電気抵抗値の半分の大きさとなる。2区間の電気抵抗値をR2、電気抵抗率をρ2として、演算部21は、検出したR2を以下の式2に代入してρ2を算出する。
【0037】
ρ2=(S/2D)×R2 (式2)
【0038】
工程S6:その後、演算部21は、流路11を移動する液体Lが、第1の電極13、第2の電極18等に到達する度に、液体Lの電気抵抗率を求める。ここでは、演算部21によって求められた電気抵抗率の数をN個とする。
【0039】
工程S7:演算部21は求めたN個(複数)の電気抵抗率の平均値を最終的な液体Lの電気抵抗率とする。そして、演算部21は最終的な液体Lの電気抵抗率を基にしてWalden則により液体Lの粘性を求める。
【0040】
また、電気伝導性測定装置10は以下の工程を経て製造される(電気伝導性測定装置10の製造方法は以下の工程を有する)。
【0041】
工程S11:シート22の一面側にシルクスクリーン印刷を行い、第1の電極12、13、14、15、第2の電極16、17、18、19及び導線26、27の形成予定場所に導電性ペースト(例えば、銀ペースト)を塗布する。
【0042】
工程S12:シート22に対するめっき処理によって、シート22の一面側の導電性ペーストを塗布した部分に銅の層を設け、シート22の一面側の流路11の形成予定領域(流路形成予定領域)に接触した状態の第1の電極12、13、14、15、第2の電極16、17、18、19を間隔を空けて設けると共に、シート22の一面側に導線26、27を形成する。
【0043】
工程S13:図5(A)に示すように、流路11及び給液部23に対応した貫通孔29が形成された板状の金型30の一面側に疎液剤Qを塗布する。
【0044】
工程S14:疎液剤Qが塗布された一面側が下側に位置するように金型30を水平に配し、金型30の下方に一面側を上側に配した水平配置したシート22を配置し、シート22の直下に2枚のシート状の緩衝材31、32を設け、金型30の真上にシート状の保護材33を載せた状態で、保護材33、金型30、シート22及び緩衝材31、32を重ね、これらをプレス機の上型34及び下型35の間に配置する。
【0045】
工程S15:上型34を押し下げ、図5(B)に示すように、上型34及び下型35によって、保護材33、金型30、シート22及び緩衝材31、32を挟んで圧力を与え、シート22の一面側(上面側)に、金型30の一側面を押し付けて、シート22に疎液剤Qを浸み込ませる。本実施の形態では、この時点で、疎液剤Qがシート22の他面側まで達していない。
【0046】
工程S16:一面側から疎液剤Qが浸み込んだシート22をプレス機から取り出し、シート22の他面側に刷毛等で疎液剤Qを塗布する。
【0047】
工程S17:シート22を130℃で加熱して疎液剤Qを硬化させる。これによって、シート22の金型30の貫通孔29に対応する領域に流路11及び給液部23を形成し、シート22の流路11の周囲に疎液部25を設ける。本製造方法では、第1の電極12、13、14、15及び第2の電極16、17、18、19の上面側に疎液剤Qが硬化した層が形成されるが、図2(B)では、疎液剤Qが硬化した層の記載を省略している。
従って、電気伝導性測定装置10の製造方法は、シート22の一面側に、金型30の疎液剤Qを塗布した一側面を押し付けて、シート22の金型30の貫通孔29に対応する領域に流路11を形成し、シート22の流路11の周囲に疎液部25を設ける工程を有している。
【0048】
この点、電導値の計測に使用する液体L量を微量(例えば、10μL)とすることをターゲットとした細い流路を形成する場合、流路の形成予定領域の表面をテープ等でマスキングし、疎液剤を流路の形成予定領域の表面側からシートに塗布して流路を形成する方法では、流路の形成予定領域まで疎液剤が浸入し、流路を安定的に形成することができない。よって、上記の工程S11~工程S17を経ることで、電導値の計測に使用する液体L量を微量とすることをターゲットとした細い流路11も安定的に形成可能である。
なお、電導値の計測に使用する液体L量を20μLとすることをターゲットとした流路であれば、流路の形成予定領域の表面をテープでマスキングし、疎液剤を流路の形成予定領域の表面側からシートに塗布して流路を形成しても、液体Lの電導値の計測が可能なことを確認している。
【0049】
また、貫通孔29が形成された金型30を用いる代わりに、図6に示すように、流路11及び給液部23に対応した溝37が一面側に形成された板状の金型38を用いてもよい。金型38を用いる場合、電気伝導性測定装置10の製造方法は、金型38の一面側の溝37を除く領域に疎液剤Qを塗布する工程、シート22の一面側に、金型38の疎液剤Qを塗布した一側面を押し付けて、シート22の金型38の溝37に対応する領域に流路11を形成し、シート22の流路11の周囲に疎液部25を設ける工程を有する。
【0050】
工程S18:導線26、27にそれぞれ印加部20及び演算部21を接続する。これにより、電気伝導性測定装置10が完成する。
【0051】
上述した電気伝導性測定装置10の製造方法は、第1の電極12、13、14、15及び第2の電極16、17、18、19をシート22に形成した後に、シート22に流路11を設けるものであるが、流路11を設けたシート22に対して第1の電極12、13、14、15及び第2の電極16、17、18、19を形成するようにしてもよい。この場合、シート22に対するめっき処理によって、シート22の流路11を形成した領域に接触した状態の第1の電極12、13、14、15及び第2の電極16、17、18、19を間隔を空けて設けることとなる。
【0052】
本実施の形態では、シート22として、ろ水時間300秒以下、吸水度5cm以上、厚み0.3mm以下のろ紙を採用している。なお、ろ水時間はJISP3801によるものであり、吸水度は立設状態のシート22の一部を20℃の水中に浸漬し10分間で水が上昇した高さを意味する。シート22のろ水時間が300秒を超える場合、流路11の液体L(液体Lは水分を含むもの)を移動させる機能が低く、電導値の計測に時間を要することとなる。また、シート22の吸水度が5cm未満の場合や、シート22の厚みが0.3mmを超える場合、上述した電気伝導性測定装置10の製造方法により、疎液部25を安定的に形成できないおそれが生じる。これは、疎液剤Q(疎液剤Qは疎水剤)がシート22に浸み込みにくく、疎液部25を安定的に形成できないためである。
【実施例
【0053】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
【0054】
<第1実験>
第1実験では、親水性を有するろ紙に、2個の第1の電極、2個の第2の電極、2個の第1の電極に接続された第1の導電部、2個の第2の電極に接続された第2の導電部及び流路を形成したサンプルP1を用いた。各第1の電極及び各第2の電極は銀ペーストに銅めっきを形成したもので、隣り合う第1、第2の電極間の距離は7.5mmであった。流路はろ紙に疎水液である株式会社フロロテクノロジーのフロロサーフ(登録商標)又は株式会社カンペハピオの油性トップガード(「トップガード」は登録商標)を浸み込ませて形成したもので、幅は約1mmであった。流路の一端部から他端部に向けて1つ目の第1の電極、1つ目の第2の電極、2つ目の第1の電極及び2つ目の第2の電極が順に設けられていた。ろ紙には給液部を設けなかった。
【0055】
流路の一端部に約20μLの生理食塩水を滴下し、生理食塩水が流路を他端部に向かって移動する間の第1、第2の導電部間の電気抵抗値を計測した。生理食塩水の先頭部は、最終的に2つ目の第2の電極まで達した。
計測結果を図7に示す。計測結果より、電気抵抗値が3段階低下したことが確認された。
【0056】
<第2実験>
第2実験では、2種類のサンプルP2、P3を用いた。サンプルP2は、サンプルP1に対し、第1、第2の電極をそれぞれ5個としたもので、隣り合う第1、第2の電極間の距離は2.5mmであった。サンプルP3は、サンプルP2に対して、ろ紙が疎水性を有する点、ろ紙への親水処理によってろ紙を形成した点が異なる。また、生理食塩水にショ糖を加えた4種類の実験用溶液を用意した。各実験用溶液は、ショ糖の濃度が異なり、粘性率も異なっていた。なお、サンプルP2、P3(サンプルP1も同じ)は、第1、第2の電極の大半が、ろ紙内に形成され、ろ紙を構成する繊維を内包していた。
【0057】
サンプルP2、P3の流路の一端部に実験用溶液を滴下し、5個の第1の電極に接続された導電部及び5個の第2の電極に接続された導電部間の電気抵抗値を計測し、計測した電気抵抗値から電気抵抗率を算出した。その後、算出した電気抵抗率と各実験用溶液について予め計測しておいた粘性率とを比較した。
比較結果を図8に示す。比較結果より、サンプルP2、P3共に電気抵抗率と実験用溶液の粘性率間に相関があること、及び、サンプルP2はサンプルP3に比べ実験用溶液の粘性率の検出分解能が高いことが確認できた。
【0058】
<第3実験>
第3実験では、サンプルP2のろ紙を切り取った幅1mmの直線的な細長いサンプルP4を用いた。サンプルP4の長手方向に間隔を空けた2箇所にそれぞれピン状の電極を接触させ、サンプルP4の一端部に第2の実験で使用した実験用溶液を滴下し、2つのピン状の電極(それぞれ第1、第2の電極に相当)間の電気抵抗値を計測し、計測した電気抵抗値から電気抵抗率を算出した。この電気抵抗率の算出を、ピン状の電極のサンプルP4への接触状態を変えた各ケースにおいて粘性率が異なる4種類の実験用溶液に対して行った。
【0059】
実験結果を図9に示す。図9において、「サンプルP2」は第2実験におけるサンプルP2についての実験結果を表し、「サンプルP4(点接触)」はサンプルP4にピン状の電極の先端部を接触させた際の実験結果を表し、「サンプルP4(線接触)」はサンプルP4にピン状の電極の側部を線状に接触させた際(このとき、各ピン状の電極はサンプルP4に対し垂直に配した)の実験結果を表している。なお、図9において、縦軸は計測された電気抵抗値を相対値として表したものであり、横軸は実験用溶液の粘性率を相対値として表現したものである。
【0060】
「サンプルP4(点接触)」の実験結果、及び、「サンプルP4(線接触)」の実験結果より、ピン状の電極を用いた場合も、2つの接触状態で、共に、電気抵抗率と実験用溶液の粘性率間に相関があることが確認された。また、「サンプルP2」は「サンプルP4(点接触)」及び「サンプルP4(線接触)」に比べ(即ち、大半がろ紙内に形成された第1、第2の電極を流路に接触させる場合、電極をろ紙の表面に接触させる場合に比べ)、実験用溶液の粘性率の検出分解能が高いことが確認できた。
【0061】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、第1、第2の電極はそれぞれ1つずつであってもよい。第1の電極をシートの一面側及び他面側の双方に設け、一面側及び他面側にそれぞれ設けた第1の電極を電気的に接続するようにしてもよく、これは第2の電極についても同様である。
また、対象の液体を吸収しないシートに親液処理を行って流路を形成してもよい。シートに流路を形成することは必ずしも必要でなく、例えば、疎水性を有する基板に親水性のある紐状物を固定し、その紐状物を流路としてもよい。流路は紙又は不織布からなる必要はなく、例えば、木屑を成形したものやウレタンであってもよい。
【0062】
更に、第1、第2の電極には、流路を移動する液体が流入する割れが形成されていなくてもよい。但し、第1、第2の電極に当該割れが形成されていない場合、当該割れが形成されている場合に比べて、電導値の計測分解能が低くなる。
そして、第1、第2の電極はプラズマCVDや蒸着等の気相法により形成することもできる。但し、気相法により第1、第2の電極を形成する場合、めっき処理(液相法)により第1、第2の電極を形成する場合に比べて、電導値の計測分解能が低くなる。
【符号の説明】
【0063】
10:電気伝導性測定装置、11:流路、12、13、14、15:第1の電極、16、17、18、19:第2の電極、20:印加部、21:演算部、22:シート、23:給液部、25:疎液部、26、27:導線、29:貫通孔、30:金型、31、32:緩衝材、33:保護材、34:上型、35:下型、37:溝、38:金型、L:液体、Q:疎液剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9