(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】面発光レーザアレイ、検出装置およびレーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/183 20060101AFI20240726BHJP
H01S 5/022 20210101ALI20240726BHJP
H01S 5/42 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/022
H01S5/42
(21)【出願番号】P 2018248473
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-09-16
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-02
(31)【優先権主張番号】P 2018051629
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】沼田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】池應 敏行
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 一磨
(72)【発明者】
【氏名】植野 剛
(72)【発明者】
【氏名】軸谷 直人
【合議体】
【審判長】波多江 進
【審判官】芝沼 隆太
【審判官】秋田 将行
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-503118(JP,A)
【文献】特開平8-78782(JP,A)
【文献】特開2000-244056(JP,A)
【文献】特開昭61-122614(JP,A)
【文献】特開2006-301352(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0071056(US,A1)
【文献】特開2016-206498(JP,A)
【文献】特開平11-170605(JP,A)
【文献】特開2004-58448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00- 5/50
H01L 33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体からなる基板の第1の面上に設けられ、前記第1の面に交差する方向に光を射出する複数の面発光レーザ素子と、
前記基板の前記第1の面に対向する第2の面上に、前記
複数の面発光レーザ素子
の各々に対応して配置され、
前記複数の面発光レーザ素子の各々から射出され前記基板を透過した前記光の放射角を変更する複数の光学素子と、
前記基板の前記第2の面側に設けられ、前記複数の光学素子のうち隣接する2つの前記光学素子の間の領域と、前記隣接する2つの光学素子の各々の周縁部とを連続して遮光する遮光部材と、
を備える面発光レーザアレイ。
【請求項2】
前記遮光部材は、前記複数の光学素子の各々に対応する位置に開口を備える請求項1に記載の面発光レーザアレイ。
【請求項3】
前記複数の光学素子は、前記基板に形成された曲面を含むレンズ又は前記基板上に前記基板と異なる材料で形成されたレンズを含む請求項1又は2に記載の面発光レーザアレイ。
【請求項4】
前記光学素子上で前記遮光部材によって覆われる領域は、前記光学素子の直径に対して10%以下の領域である請求項1~3のいずれか1つに記載の面発光レーザアレイ。
【請求項5】
前記遮光部材は、前記基板の前記第2の面側の電極を兼ねている請求項1~4のいずれか1つに記載の面発光レーザアレイ。
【請求項6】
前記第2の面上の前記光学素子上および前記遮光部材上に設けられ、透明導電性材料からなる前記第2の面側の電極をさらに備える請求項1~4のいずれか1つに記載の面発光レーザアレイ。
【請求項7】
前記基板は、GaAs基板であり、
前記面発光レーザ素子は、InGaAsからなる活性層を含む請求項1~6のいずれか1つに記載の面発光レーザアレイ。
【請求項8】
前記面発光レーザ素子が出射する前記光のピーク波長は、910~970nmの範囲にある請求項1~7のいずれか1つに記載の面発光レーザアレイ。
【請求項9】
前記基板の厚さtは、前記基板中の前記光の前記放射角をθとし、前記面発光レーザ素子間のピッチをXとし、前記光学素子の直径をφとし、前記面発光レーザ素子での発光領域の大きさをaとしたときに、次式(1)を満たす請求項1~8のいずれか1つに記載の面発光レーザアレイ。
【数1】
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1つに記載の面発光レーザアレイと、
前記面発光レーザアレイの前記面発光レーザ素子から射出された光を受光する受光部と、
を備える検出装置。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1つに記載の面発光レーザアレイと、
前記面発光レーザアレイから射出された光を共振させる固体レーザ媒質を含むレーザ共振器と、
を備えるレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザアレイ、検出装置およびレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光源として、複数の面発光レーザ素子(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)が平面的に配置された面発光レーザアレイが用いられている。
【0003】
従来では、半導体基板上に活性層を含む積層体が形成され、基板の裏面に発光窓部が形成された半導体発光装置(VCSELアレイ)が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の半導体発光装置では、面発光レーザから出射されるレーザ光の放射角を制御することが困難であった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、面発光レーザから出射されるレーザ光の放射角を制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、半導体からなる基板の第1の面上に設けられ、前記第1の面に交差する方向に光を射出する複数の面発光レーザ素子と、前記基板の前記第1の面に対向する第2の面上に、前記複数の面発光レーザ素子の各々に対応して配置され、前記複数の面発光レーザ素子の各々から射出され前記基板を透過した前記光の放射角を変更する複数の光学素子と、前記基板の前記第2の面側に設けられ、前記複数の光学素子のうち隣接する2つの前記光学素子の間の領域と、前記隣接する2つの光学素子の各々の周縁部とを連続して遮光する遮光部材と、を備える面発光レーザアレイである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、面発光レーザから出射されるレーザ光の放射角を制御することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態による面発光レーザアレイの構成の一例を示す一部側面断面図である。
【
図2】
図2は、第1の実施の形態による面発光レーザアレイの構成の一例を示す一部下面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施の形態による遮光部材42の形成方法の手順の一例を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、第1の実施の形態による面発光レーザアレイの構成の他の例を示す一部断面図である。
【
図5】
図5は、比較例による面発光レーザアレイの構成の一例を示す一部断面図である。
【
図6】
図6は、第2の実施の形態による面発光レーザアレイの構成の一例を示す一部下面図である。
【
図7】
図7は、第3の実施の形態による面発光レーザアレイの構成の一例を示す一部側面断面図である。
【
図8】
図8は、第3の実施の形態による面発光レーザアレイの構成の一例を示す一部下面図である。
【
図9】
図9は、遮光部材が設けられていない場合のマイクロレンズを通過した光の強度分布を示す図である。
【
図10】
図10は、遮光部材を残差部分のみに設けた場合のマイクロレンズを通過した光の強度分布を示す図である。
【
図11】
図11は、遮光部材を残差部分およびレンズ周縁部に設けた場合のマイクロレンズを通過した光の強度分布を示す図である。
【
図12】
図12は、第4の実施の形態による面発光レーザアレイのマイクロレンズ部分の構成の一例を示す断面図である。
【
図13】
図13は、第5の実施の形態によるLiDAR装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図14】
図14は、第6の実施の形態によるレーザ装置の構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、面発光レーザアレイ、検出装置およびレーザ装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、これらの実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0010】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態による面発光レーザアレイの構成の一例を示す一部側面断面図であり、
図2は、第1の実施の形態による面発光レーザアレイの構成の一例を示す一部下面図である。
【0011】
面発光レーザアレイ1は、半導体基板10の第1の面10a上に配置される複数の面発光レーザ素子(以下、発光素子という)20と、第2の面10b上に設けられる複数のマイクロレンズ41と、第2の面10b上に設けられる遮光部材42と、表面電極51と、を備える。
図1の例では、n型の半導体基板10が用いられる。また、半導体基板10は、発光素子20で発光されるレーザ光に対して透明となる材料が用いられる。
【0012】
発光素子20は、第1の面10aに対して交差する方向(一般的には垂直な方向)にレーザ光を出射する素子である。発光素子20は、下部反射層21と、共振器構成層22と、上部反射層23と、電流狭窄層24と、保護膜26と、を備える。
【0013】
下部反射層21は、半導体基板10上に配置され、λ/4(ただし、λは発光素子20から発光されるレーザ光の1波長である)の光学的膜厚を有する高屈折率のn型の半導体膜と、λ/4の光学的膜厚を有する低屈折率のn型の半導体膜と、を交互に複数積層させた半導体多層反射膜によって構成される。
【0014】
共振器構成層22は、下部反射層21と上部反射層23との間に配置され、光共振器を構成する層である。共振器構成層22は、たとえば下部スペーサ層と上部スペーサ層との間に活性層が挟まれた構造を有する。下部スペーサ層および上部スペーサ層は、たとえばノンドープの半導体層からなる。活性層は、射出するレーザ光の波長に応じて選択される半導体材料によって構成される。半導体基板10の第1の面10aに垂直な方向における共振器構成層22の厚さは、たとえば発光素子20から射出されるレーザ光の1波長(=λ)に設定される。また、共振器構成層22から射出されるレーザ光の波長は、半導体基板10で吸収されない波長が選択される。
【0015】
上部反射層23は、共振器構成層22上に配置され、λ/4の光学的膜厚を有する高屈折率のp型の半導体膜と、λ/4の光学的膜厚を有する低屈折率のp型の半導体膜と、を交互に複数積層させた半導体多層反射膜によって構成される。
【0016】
電流狭窄層24は、上部反射層23中に設けられ、電流の通過面積を小さくするために設けられる層である。電流狭窄層24は、発光素子20の形成位置の中心を含む所定の領域に設けられる電流狭窄領域241と、電流狭窄領域241の周辺に設けられる酸化領域242と、を有する。電流狭窄層24で電流の通過面積を絞ることによって、レーザの発振閾値を低減することができる。電流狭窄領域241は、上部反射層23を構成する半導体膜と同じ材料によって構成され、酸化領域242は、電流狭窄領域241と同じ半導体膜を酸化した材料によって構成される。
【0017】
上部反射層23および電流狭窄層24は、共振器構成層22上にメサ状に加工される。すなわち、上部反射層23および電流狭窄層24は、隣接する発光素子20間で分離された構造を有する。以下では、メサ状に加工された上部反射層23および電流狭窄層24をメサ構造25という。第1の実施の形態では、メサ構造25は、半導体基板10の第1の面10a上に、正方形の格子の格子点に位置するよう(以下、正方格子状という)に設けられる。
【0018】
保護膜26は、メサ構造25の側面と共振器構成層22上を覆うように設けられる。すなわち、メサ構造25の上面が露出するように、メサ構造25が設けられた共振器構成層22上に保護膜26が設けられる。
【0019】
マイクロレンズ41は、半導体基板10の第2の面10b上に、発光素子20の配置位置に対応して設けられる。発光素子20(メサ構造25)が正方格子状に設けられているので、
図2に示されるように、マイクロレンズ41も正方格子状に配置される。マイクロレンズ41は、対応する発光素子20から射出されたレーザ光の放射角を小さく抑える光学素子である。レーザ光の放射角を抑えることで、マイクロレンズ41を通過したレーザ光を集光レンズなどを通して対象物に集光する際にスポット径を小さくすることができる。マイクロレンズ41は、たとえば半導体基板10の第2の面10b側の発光素子20の配置位置に対応する領域を凸レンズ上に加工することで得られる。なお、ここで、放射角とは、レーザ光の最大強度の10%の強度が出ている角度をいうものとする。
【0020】
ここで、面発光レーザから出射されるレーザ光の放射角をレンズにより制御しようとした場合には、焦点距離の長いレンズを用いるのが望ましい。例えば、発光部とレンズとの間にある程度(~数百μm程度)の光学長を設けるのが望ましい。しかし、発光部とレンズとの光学長が長いと、レーザ光がレンズ部に到達するまでにビーム径が拡大してしまう。この結果、レンズ部に到達するときのビーム径がレンズ径よりも大きくなり、レンズ間の残差部分に光が入射してしまい、迷光が発生するおそれがある。そこで、本実施形態では、迷光を抑制するため、残差部分に遮光部材42を配置している。
【0021】
遮光部材42は、
図2に示されるように、半導体基板10の第2の面10bの複数のマイクロレンズ41の間を覆い、発光素子20から射出された光を反射または吸収する機能を有する。これによって、
図1に示されるように、発光素子20から射出されたレーザ光のうち、マイクロレンズ41の外周部に到達するレーザ光Bは、半導体基板10の第2の面10bから射出されない。また、マイクロレンズ41には、隣接するマイクロレンズ41に対応する発光素子20からのレーザ光が遮光部材42によって到達し難くなり、迷光を大幅に低減することができる。遮光部材42として、レーザ光を反射する金属膜、半導体多層反射膜、あるいは発光素子20から射出されるレーザ光よりもバンドギャップが小さくレーザ光を吸光する半導体膜などを用いることができる。半導体多層反射膜、半導体膜は、たとえば半導体基板10の第2の面10b側にエピタキシャル成長によって形成される。なお、遮光部材42は、これらに限定されるものではなく、たとえばスピンコート法で塗布可能な材料であってもよい。また、ここでは、遮光部材42は、膜状のものが示されているが、膜状のものでなくてもよく、バルク状のものであってもよい。
【0022】
ここで、マイクロレンズ41のレンズ径(レンズの直径)φの望ましい大きさについて説明する。レンズ状のフォトレジストをマスクとして半導体基板10をドライエッチングすることによってマイクロレンズ41を形成する場合には、フォトレジスト同士の干渉を防ぐために、マイクロレンズ41のレンズ径φは、発光素子20のピッチXよりも小さくなければならない。すなわち、隣接するマイクロレンズ41との間には、X-φの隙間がある。この隙間のことを残差という。この残差にレーザ光の透過を防ぐ遮光部材42を被膜することで、迷光を防ぎ、レーザ光を小さいビームスポット径に集光することができる。
【0023】
表面電極51は、発光素子20の保護膜26上に設けられる。メサ構造25の上部では保護膜26は設けられていないので、表面電極51は、上部反射層23と電気的に接触することになる。また、半導体基板10の第2の面10b側には裏面電極が設けられる。表面電極51と裏面電極とは、発光素子20の活性層に電流を流すために設けられる。遮光部材42が導電性材料で構成される場合には、遮光部材42が裏面電極を兼ねることもできる。
【0024】
半導体基板10として、GaAs基板を用い、活性層として、InGaAsを用いることができる。InGaAsを活性層として用いる場合の発光素子20の発振波長のピーク波長は、およそ860~1200nmにある。また、この波長帯に含まれる940nm付近の波長帯は地球の大気によって吸収される波長帯の1つであり、レーザ光を使用した測距装置などに応用するときに低ノイズのシステムを構成することが可能となる。また、同様に940nm帯はYb:YAG(Yttrium Aluminum Garnet)固体レーザの吸収係数が大きい波長帯であり、Yb:YAG固体レーザの高効率な励起が可能となる。また、InGaAsはGaAsに対して圧縮歪みを持つ材料であり、半導体レーザの活性層として使用した場合、高い微分利得を持つ。したがって、低閾値発振が可能であり、高い効率の面発光レーザアレイ1を提供することができる。
【0025】
また、半導体基板10として、InP基板を用い、活性層としてInGaAsを用いてもよい。この場合の発光素子20の発振波長のピーク波長は、1.3~1.6μmとなる。
【0026】
下部反射層21および上部反射層23として、AlAs膜およびAlGaAs膜の対を複数積層させたものなどを用いることができる。電流狭窄層24として、上部反射層23を構成する材料であるAlAs膜またはAlGaAs膜を用いることができる。また、ここでは、下部反射層21および上部反射層23として、半導体多層反射膜を用いる場合を示したが、低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜とを交互に複数積層した誘電体多層反射膜を用いてもよい。このような誘電体多層膜として、たとえば五酸化タンタルと二酸化ケイ素(Ta2O5/SiO2)とが交互に複数積層されたものを用いることができる。ただし、この場合には、下部反射層21および上部反射層23に電流を流すことができないので、イントラキャビティ構造にして電極を形成する必要がある。
【0027】
共振器構成層22中の下部スペーサ層および上部スペーサ層として、AlGaInP、GaInPまたはAlGaAsなどを用いることができる。また、活性層として、InGaAsPを用いてもよい。
【0028】
表面電極51として、たとえば第1の面10a側からCr/AuZn/AuまたはTi/Pt/Auの多層膜などを用いることができる。これらの材料を表面電極51として使用する場合には、最表面が化学的に安定であるAuであるので、高い信頼性が得られる。また、裏面電極の材料として、オーミックコンタクトが可能な金属を用いることができる。裏面電極として、第2の面10b側からAuGe/Ni/Auの多層膜などを用いることができる。
【0029】
遮光部材42として、Auなどの金属材料を用いることができる。なお、Auなどの金属材料を遮光部材42として用いる場合には、遮光部材42は、裏面電極を兼ねることもできる。
【0030】
また、上記した説明では、n型の半導体基板10を用いる場合を説明したが、p型の半導体基板10を用いてもよい。この場合には、電流狭窄層24が下部反射層21側に設けられることになる。また、この場合の表面電極51は、第1の面10a側からAuGe/Ni/Auの多層膜などを用いることができる。また、裏面電極として、第2の面10b側からCr/AuZn/AuまたはTi/Pt/Auの多層膜などを用いることができる。
【0031】
つぎに、このような構造の面発光レーザアレイ1の製造方法について説明する。なお、発光素子20の製造方法については、公知の技術を用いることができるので、概略を説明し、遮光部材42の形成処理の部分について、図面を用いて説明する。
図3は、第1の実施の形態による遮光部材42の形成方法の手順の一例を模式的に示す断面図である。なお、
図3においては、半導体基板10の第2の面10bを上向きに配置した場合を示している。
【0032】
まず、半導体基板10の第1の面10a上に、下部反射層21、活性層を含む共振器構成層22および上部反射層23を含む半導体層を積層して形成する。半導体層の形成方法としては、たとえば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法などを用いることができる。
【0033】
ついで、上部反射層23上にフォトレジストを塗布し、リソグラフィ技術による露光処理と、現像処理と、を行うことによって、メサ構造25が形成される領域にレジストパターンを形成する。この後、レジストパターンをマスクとして、RIE(Reactive Ion Etching)法などのドライエッチング技術によって、共振器構成層22が露出するまでエッチングし、メサ構造25を形成する。メサ構造25の上面における形状は、たとえば円形、楕円形、正方形、長方形、その他の形状であってもよい。また、メサ構造25は、第1の面10a上で正方格子状に配置されるように形成される。
【0034】
その後、メサ構造25の側面において露出している電流狭窄層24となる半導体膜を、たとえば水蒸気雰囲気中で高温処理して酸化させ、半導体膜の周縁部に酸化領域242を形成する。電流狭窄層24を構成する半導体膜のうち、酸化されなかった領域が電流狭窄領域241となる。これによって、電流狭窄層24が形成される。
【0035】
なお、活性層にInGaAsを用いる場合には、InGaAsは、化学的に活性なAlを含まない材料であるため、結晶成長集の反応室に微量に存在する酸素が活性層中に取り込まれ難くなる。これによって、高い信頼性の面発光レーザアレイ1を提供することができる。
【0036】
ついで、メサ構造25を有する共振器構成層22上の全面に保護膜26を形成する。保護膜26の形成方法としては、たとえば、プラズマCVD法などを用いることができる。その後、保護膜26上にスピンコート法などの方法によってフォトレジストを塗布し、リソグラフィ技術による露光処理と、現像処理と、を行うことによって、メサ構造25の上面が開口したレジストパターンを形成する。ついで、レジストパターンをマスクとして、RIE法などの異方性エッチング技術によって、メサ構造25の上面に形成された保護膜26を除去する。これによって、保護膜26は、メサ構造25の上面で開口を有するようになる。レジストパターンを除去した後、表面電極51を保護膜26上に形成する。これによって、表面電極51が上部反射層23と電気的に接続される。
【0037】
その後、半導体基板10の第2の面10bにフォトレジストを塗布し、たとえばグレートーンマスクリソグラフィ技術による露光処理と、現像処理と、によって、マイクロレンズ41の形成位置にレンズ状に成形したレジストパターンを形成する。その後、このレジストパターンをマスクとして、RIE法などのドライエッチング技術によってエッチングすることで、半導体基板10の第2の面10bにマイクロレンズ41が形成される。マイクロレンズ41は、第1の面10aに形成された発光素子20に対応して、正方格子状に形成される。
【0038】
なお、マイクロレンズ41の形成方法は、これに限定されるものではない。たとえば、半導体基板10の第2の面10b上に半導体膜をエピタキシャル成長させ、この半導体膜上にレジストを塗布し、マイクロレンズ41の形成位置にレジストが残るようにパターニングする。その後、レジストをリフローさせて凸レンズ状に変形させたレジストパターンを形成する。そして、このレジストパターンをマスクとして、エピタキシャル成長した半導体膜をRIE法などのドライエッチング技術でエッチングすることによってマイクロレンズ41状の半導体膜を形成することができる。
【0039】
また、半導体基板10の第2の面10b上のマイクロレンズ41の形成位置に、光透過性を有する硬化樹脂の前駆体の溶液を滴下させ、前駆体を硬化させることによってマイクロレンズ41を形成することもできる。さらに、上記以外の方法でマイクロレンズ41を形成してもよい。
【0040】
その後、
図3(a)に示されるように、マイクロレンズ41が形成された半導体基板10の第2の面10b上にレジストを塗布し、リソグラフィ技術による露光処理と、現像処理と、を行うことによって、マイクロレンズ41上にリフトオフ用のレジストパターン71を形成する。
【0041】
ついで、
図3(b)に示されるように、レジストパターン71を形成した第2の面10b上に遮光部材42を形成する。遮光部材42は、遮光部材42の種類に応じて真空蒸着法、スパッタリング法などの方法によって成膜される。遮光部材42は、第2の面10b上およびレジストパターン71上に形成される。そして、
図3(c)に示されるように、レジストパターン71のリフトオフを行い、不要部を除去することによって、マイクロレンズ41以外の領域に遮光部材42が残される。以上によって、
図2に示される面発光レーザアレイ1が得られる。
【0042】
なお、遮光部材42としてAuなどの金属材料を用いることで、裏面電極の機能を遮光部材42に持たせることができる。これによって、遮光部材42と裏面電極とを同時に形成することができるので、製造工程を簡略化することができる。このときの裏面電極は、上記した
図3と同様の方法で形成することができる。
【0043】
面発光レーザの構成としては、
図1に示されるものに限定されない。
図4は、第1の実施の形態による面発光レーザアレイの構成の他の例を示す一部断面図である。この
図4では、
図1の場合とは上下が逆に描かれており、表面電極51には接合材56を介してヒートシンク55と接続される構成となっている。接合材56に代えて、電極を用いてもよい。なお、
図1と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0044】
このような構成とすることで、動作時に主に発熱する活性層付近とヒートシンク55との間の距離が近くなるため、放熱性が向上し、面発光レーザアレイ1の高効率化が可能となる。
【0045】
つぎに、半導体基板10の第2の面10b上に遮光部材42を設けない比較例と比較した第1の実施の形態による効果について説明する。
図5は、比較例による面発光レーザアレイの構成の一例を示す一部断面図である。なお、
図1と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。すなわち、比較例の面光レーザアレイ1Cでは、半導体基板10の第2の面10b上のマイクロレンズ41の形成位置以外の領域には、遮光部材42が設けられていない。
【0046】
各発光素子20の共振器構成層22内の発光領域221から発振されたレーザ光は、半導体基板10を透過し、マイクロレンズ41から外部に射出される。このとき、マイクロレンズ41の内部を透過したレーザ光Aはそのまま集光レンズへと入射する。しかし、マイクロレンズ41外、すなわち第2の面10bにおいてマイクロレンズ41とマイクロレンズ41との間の残差から射出されたレーザ光Bは、迷光となる。そして、この迷光によって、集光レンズ等を通して集光する際にスポット径が大きくなる不具合がある。
【0047】
第1の実施の形態では、各発光素子20の共振器構成層22内の発光領域221から発振されたレーザ光のうち、マイクロレンズ41の内部を透過したレーザ光Aは、比較例と同様にそのまま集光レンズへと入射する。一方、マイクロレンズ41外の残差に到達したレーザ光Bは、遮光部材42によって反射または吸光される。また、他の発光領域221からマイクロレンズ41に入射する意図していないレーザ光も遮光部材42によって反射または吸光される。その結果、残差の部分から面発光レーザアレイ1の外側に射出される迷光を大幅に低減することができる。迷光を大幅に低減することができるということによって、面発光レーザから出射されるレーザ光の放射角を制御することができ、発光領域221から放出されたレーザ光がマイクロレンズ41を通過する際の放射角を小さく抑えることができる。したがって、レーザ光を走査するための反射ミラーなどの対象物を小さくすることが可能になり、比較例に比して装置を小型化することができるという効果を有する。
【0048】
また、半導体基板10の第2の面10bに半導体基板10をエッチングしたり、レーザ光に対して透明な樹脂を硬化させたりして、マイクロレンズ41を形成した。そのため、マイクロレンズ41を石英またはガラス等から作製し、実装する必要がなく、部品数の削減および製造工程の削減が可能となり、面発光レーザアレイ1を低コストで製造することができるという効果も有する。
【0049】
(第2の実施の形態)
図6は、第2の実施の形態による面発光レーザアレイの構成の一例を示す一部下面図である。
図6は、面発光レーザアレイ1を半導体基板10の第2の面10b側から見た図である。第1の実施の形態では、発光素子20の配置位置に合わせて、マイクロレンズ41も正方格子状に配置されていたが、第2の実施の形態では、正六角形の各角部および中心に位置するように、発光素子20およびマイクロレンズ41を設けている。その他の構成は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0050】
第2の実施の形態では、発光素子20およびマイクロレンズ41を正六角形の各角部および中心に位置するように設けたので、等間隔で発光素子20を配置する場合に最も密に配置することが可能となる。その結果、同じレーザ光の出力を得る際に、第1の実施形態の
図2のように配置する場合と比較して、チップサイズを小さくすることができるという効果を有する。
【0051】
(第3の実施の形態)
図7は、第3の実施の形態による面発光レーザアレイの構成の一例を示す一部側面断面図であり、
図8は、第3の実施の形態による面発光レーザアレイの構成の一例を示す一部下面図である。第3の実施の形態による面発光レーザアレイ1では、半導体基板10の第2の面10b側に設けられる遮光部材42が、残差の部分だけではなく、マイクロレンズ41の外縁から所定の範囲の周縁部も覆う構成となっている。なお、第1の実施の形態と同一の構成要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0052】
前述のように、発光素子20から射出されるレーザ光の放射角(発散角)を小さくするためには、半導体基板10を厚くし、焦点距離の大きなマイクロレンズ41により集光しなければならない。しかし、半導体基板10を厚くすると、半導体基板10内のレーザ光の発散により、ある発光素子からのレーザ光が隣接する発光素子に対応するマイクロレンズ41、特にその周縁部に入射してしまい、迷光が発生してしまう。そこで、第3の実施の形態のように、マイクロレンズ41の外縁から周縁部を被覆するように遮光部材42を設けることで、隣接する発光素子20からのレーザ光Bによる迷光を抑制しながら、出射されるレーザ光の放射角を小さくすることができ、集光スポット径をより小さくすることが可能となる。
【0053】
また、一般的なマイクロレンズの形成方法では、マイクロレンズ41の周縁部分まで所望の形状となるよう形成することは困難である。そのため、マイクロレンズ41の周縁部分の曲率がマイクロレンズ41の中央部の曲率と異なってしまう場合がある。このようなマイクロレンズアレイを用いる場合において、周縁部の狙いの曲率が得られていない部分に入射した光は、その光がレンズに対応する発光部から出射された光であったとしても、迷光となりうる。
【0054】
本実施形態では、残差部のみでなくマイクロレンズ41の周縁部も遮光部材42で覆うよう構成しているため、レンズに対応する発光部から射出されたレーザ光によって発生しうる迷光も抑制することが可能となる。
【0055】
ここで、遮光部材42が覆うマイクロレンズ41の周縁部の望ましい範囲について説明する。前述の通り、一般的にマイクロレンズアレイは、周縁部分を所望の曲率通りに作製することが難しい。周縁部の有効範囲外となる部分の大きさは、製法にもよるが最大でレンズ径φの10%(レンズの外周から5%)になりうる。
【0056】
一方、レンズの有効範囲内に遮光部材42を設けた場合、所望のビーム整形がなされるはずのレーザ光を遮蔽してしまうため、面発光レーザからの出力を低下させてしまう。したがって、マイクロレンズ41の周縁部に遮光部材42を設ける範囲は、レンズ外周から0~φ/20の範囲で、プロファイルに合わせて適切に選択するのが望ましい。
【0057】
図8に示されるように、マイクロレンズ41の外縁からの遮光部材42の被覆幅hは、0≦2h≦φ/10の範囲となる。このように、遮光部材42は、マイクロレンズ41間の残差部分と、マイクロレンズ41の外縁から0≦2h≦φ/10を満たす被覆幅hの周縁部と、に設けられることになる。
【0058】
つぎに、半導体基板10の望ましい厚さについて説明する。上述したように、半導体基板10の厚さを大きくすると、出射されるレーザ光をより小さいビームスポット径に集光することができる。しかし、半導体基板10内部でのビーム径が大きくなってしまう、レーザ光が隣接するマイクロレンズ41に入射し、迷光を発生させる。発光素子20から発光されるレーザ光が、半導体基板10に配置されたマイクロレンズ41に入射するときのビーム径Dは、発光素子20の発光領域221の大きさ(電流狭窄領域241の最も大きい開口長)をaとし、レーザ光の半導体基板10中での放射角をθとし、発光部からレンズ出射面までの距離をtとすると、次式(1)で表される。ただし、レンズ高さは基板厚さに比べて微小であるため、出射面全体にわたってtは同一と考える。
【数1】
【0059】
発光素子20からの光が、マイクロレンズ41(41-1)に隣接するマイクロレンズ41(41-2)の遮光部材を超えて隣接するマイクロレンズ41(41-2)に光が入射することは好ましくない。そのため、マイクロレンズ41に入射させるビーム径Dは、「マイクロレンズ41のピッチX+遮光部材の幅2h+残差X-レンズ径φ」となるよう、次式(2)が成り立つことが好ましい。
【数2】
【0060】
(1)式および(2)式から、半導体基板10の厚さtは、素子間ピッチXおよび遮光部材の幅2hに対して次式(3)を満たす値となる。
【数3】
【0061】
特に、レンズ径φの10%を遮光部材で覆う場合、2h=φ/10であるから、式(3)は次式(4)となる。
【数4】
【0062】
このような面発光レーザアレイ1での遮光部材42の形成方法は、
図3(a)において、第1の実施の形態の場合に比して、マイクロレンズ41上に形成するレジストパターン71の基板面内方向のサイズを小さくすればよい。たとえば、レジストパターン71のサイズは、マイクロレンズ41のレンズ径φの90%の大きさとされる。これによって、
図3(b)で半導体基板10の第2の面上に遮光部材42を形成した場合に、マイクロレンズ41の周縁部のレンズ径φの10%以下の領域を遮光部材42で覆うことができる。
【0063】
次に、本実施形態の面発光レーザについてシミュレーションを行った結果を説明する。シミュレーションの対象とした面発光レーザの構成は、発光素子20の発光領域221の大きさaが10μm、レーザ光の半導体基板10中での放射角θが6度、発光部から基板までの半導体層(おもに下部DBR)が2.8μm、基板厚さが300μm、発光素子およびレンズのピッチが30μm、レンズ径が28μm、レンズ間の残差が2μmである。
【0064】
図9は、上記の面発光レーザであって遮光部材42が設けられていない場合の、マイクロレンズを通過した光の強度分布を示す図である。発光素子に対応するレンズから出射した光(A)の他、レンズ間の残差部分から出射した光(B)と、隣接するレンズから出射した光(C)が確認された。
【0065】
図10は、上記の面発光レーザであって遮光部材42を残差部分のみに設けた場合の、マイクロレンズを通過した光の強度分布を示す図である。
図9と比較して、レンズ間の残差部分から出射した光(B)が抑制されている。一方、隣接するレンズから出射した光(C)は
図9と同様に発生している。
【0066】
図11は、上記の面発光レーザであって遮光部材42を残差部分およびレンズ周縁部に設けた場合の、マイクロレンズを通過した光の強度分布を示す図である。なお、ここでは遮光部材で覆う領域はレンズ径の10%とした。
図10と比較して、隣接するレンズから出射した光(C)も抑制することができていることがわかる。
【0067】
(第4の実施の形態)
図12は、第4の実施の形態による面発光レーザアレイのマイクロレンズ部分の構成の一例を示す断面図である。第4の実施の形態では、裏面電極43に透明導電性材料を用い、半導体基板10の第2の面10b上の全面に裏面電極43が形成される場合を示している。透明導電性材料として、たとえば、In
2O
3:Sn,SnO
2:F,ZnO:Al,ZnO:Ga,グラフェンなどを用いることができる。なお、その他の構成は、第1~第3の実施の形態で説明したものと同様である。
【0068】
このような構造の面発光レーザアレイ1の製造方法は、第1の実施の形態のようにマイクロレンズ41間の残差部分、または第3の実施の形態のように残差部分に加えてマイクロレンズ41の周縁部に遮光部材42を形成した後、透明導電性材料からなる裏面電極43を半導体基板10の第2の面10b上に形成すればよい。
【0069】
第4の実施の形態では、裏面電極43に透明導電性材料を用いたので、マイクロレンズ41および遮光部材42が形成された半導体基板10の第2の面10b上の全面に裏面電極43を形成することができる。これによって、マイクロレンズ41の表面に裏面電極43をよりコンタクトさせることができるので、低抵抗化させることができるという効果を有する。
【0070】
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態では、第1~第4の実施の形態で説明した面発光レーザアレイ1を検出装置に適用した場合を説明する。ここでは、検出装置として、レーザ光により対象物との距離の測定や形状マッピングを行うLiDAR(Light Detection and Ranging、または、Laser Imaging Detection and Ranging)装置100を例に挙げる。
【0071】
図13は、第5の実施の形態によるLiDAR装置の構成の一例を示す概略図である。LiDAR装置100は、光学的に距離を計測する距離計測装置の一例である。LiDAR装置100は、レーザ光を投光する投光部110と、対象物141からの反射光Lrefを受光する受光部120と、投光部110の制御と受信反射光に基づく距離演算を行う制御・信号処理部130と、を有する。
【0072】
投光部110は、レーザ光源111と、投光レンズ113と、走査部としての可動ミラー114と、を有する。レーザ光源111には、第1~第4の実施の形態で説明した面発光レーザアレイ1が使用される。可動ミラー114は、投光レンズ113から入射するレーザ光を、所望の走査範囲140に走査する。
【0073】
受光部120は、集光光学系121と、光学フィルタ122と、受光素子123と、を有する。集光光学系121は、対象物141からの反射光Lrefを集光し、光学フィルタ122を通して、受光素子123に入射させる。光学フィルタ122は、レーザ光源の発振波長近傍の所定の範囲の波長のみを透過させるフィルタである。発振波長と異なる波長をカットすることで、受光素子123に入射する光のS/N(信号対雑音)比が向上する。受光素子123は、光学フィルタ122を透過した光を電気信号に変換する。
【0074】
制御・信号処理部130は、レーザ光源111を駆動するレーザ光源駆動回路131と、可動ミラー114の動き(または偏向角)を制御する制御回路132と、対象物141の距離を計算する信号処理回路133を有する。レーザ光源駆動回路131は、レーザ光源111の発光タイミングと発光強度を制御する。
【0075】
LiDAR装置100での動作について説明する。レーザ光源111からの光は、投光レンズ113により、可動ミラー114に導かれ、可動ミラー114によって走査範囲140内に存在する対象物141に走査光Lscanとして照射される。対象物141で反射された反射光Lrefは、集光光学系121、光学フィルタ122を経て、受光素子123で受光される。受光素子123は入射光量に応じた光電流を検出信号として出力する。信号処理回路133は、レーザ光源駆動回路131から供給される発光タイミング信号と検出信号の時間差とに基づいて距離演算を行い、対象物141からの距離を計算する。
【0076】
第5の実施の形態では、マイクロレンズ41から射出されるレーザ光をより小さいビームスポット径に集光することができる、第1~第4の実施の形態で説明した面発光レーザアレイ1をレーザ光源111として用いた。そのため、レーザ光源111から射出されるレーザ光を受ける光学部品を小型化することができるので、検出装置自体も小型化することができるという効果を有する。
【0077】
(第6の実施の形態)
第6の実施の形態では、第1~第4の実施の形態で説明した面発光レーザアレイ1をレーザ装置に適用した場合を説明する。
【0078】
図14は、第6の実施の形態によるレーザ装置の構成の一例を示す概略図である。レーザ装置200は、レーザ光源201と、第1集光光学系203と、光ファイバ204と、第2集光光学系205と、レーザ共振器206と、射出光学系207と、を備える。なお、
図14では、XYZ3次元直交座標系を用い、レーザ光源201からの光の射出方向を+Z方向として説明する。
【0079】
レーザ光源201は、励起用光源であり、複数の発光部を有している。レーザ光源201には、第1~第4の実施の形態で説明した面発光レーザアレイ1が使用される。そして、レーザ光源201から光を射出する際には、複数の発光部は、同時に発光される。
【0080】
なお、面発光レーザアレイは、温度による波長ずれが非常に少ないため、波長ずれによって特性が大きく変化するQスイッチレーザを励起するのに有利な光源である。そこで、面発光レーザアレイを励起用光源に用いると、環境の温度制御を簡易なものにできるという利点がある。
【0081】
第1集光光学系203は、集光レンズであり、レーザ光源201から射出された光を集光する。なお、第1集光光学系203は、複数の光学素子から構成されていてもよい。
【0082】
光ファイバ204は、第1集光光学系203によって光が集光される位置にコアの-Z側端面の中心が位置するように配置されている。光ファイバ204を設けることによって、レーザ光源201をレーザ共振器206から離れた位置に置くことができる。光ファイバ204に入射した光はコア内を伝播し、コアの+Z側端面から射出される。
【0083】
第2集光光学系205は、集光レンズであり、光ファイバ204から射出された光の光路上に配置され、該光を集光する。なお、光の品質等により、第2集光光学系205として、複数の光学素子を用いる場合もある。第2集光光学系205で集光された光は、レーザ共振器206に入射する。
【0084】
レーザ共振器206は、第2集光光学系205から射出されたレーザ光を共振させ増幅させるQスイッチレーザであり、たとえば固体レーザ媒質206a、および可飽和吸収体206bを有している。固体レーザ媒質206aとして、たとえばYb:YAG結晶を用いることができる。可飽和吸収体206bとして、たとえばCr:YAG結晶を用いることができる。そして、レーザ共振器206は、固体レーザ媒質206aと可飽和吸収体206bとが接合されている。
【0085】
第2集光光学系205からの光は、固体レーザ媒質206aに入射される。すなわち、第2集光光学系205からの光によって固体レーザ媒質206aが励起される。なお、レーザ光源201から射出される光のピーク波長は、Yb:YAG結晶において最も吸収効率の高い910~970nmであることが望ましい。そして、可飽和吸収体206bは、Qスイッチの動作を行う。
【0086】
固体レーザ媒質206aの入射側(-Z側)の面2061、および可飽和吸収体206bの射出側(+Z側)の面2062は光学研磨処理がなされ、ミラーの役割を果たしている。なお、以下では、便宜上、固体レーザ媒質206aの入射側の面2061を「第1の面」ともいい、可飽和吸収体206bの射出側の面2062を「第2の面」ともいう。
【0087】
そして、第1の面2061および第2の面2062には、レーザ光源201から射出される光の波長、およびレーザ共振器206から射出される光の波長に応じた誘電体多層膜がコーティングされている。
【0088】
具体的には、第1の面2061には、波長が910~970nmの光に対して十分に高い透過率を示し、波長が1030nmの光に対して十分に高い反射率を示すコーティングがなされている。また、第2の面2062には、波長が1030nmの光に対して所望の閾値が得られるように選択された反射率を示すコーティングがなされている。これにより、レーザ共振器206内で光が共振し増幅される。
【0089】
射出光学系207は、レーザ共振器206から射出されたレーザパルスを集光して外部に射出する。
【0090】
このような構成のレーザ装置は、たとえば内燃機関の点火装置、レーザ加工機、レーザピーニング装置、テラヘルツ発生装置等に利用される。
【符号の説明】
【0091】
1 面発光レーザアレイ
10 半導体基板
10a 第1の面
10b 第2の面
20 発光素子
21 下部反射層
22 共振器構成層
23 上部反射層
24 電流狭窄層
25 メサ構造
26 保護膜
41 マイクロレンズ
42 遮光部材
43 裏面電極
51 表面電極
221 発光領域
241 電流狭窄領域
242 酸化領域
【先行技術文献】
【特許文献】
【0092】