(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/036 20060101AFI20240726BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20240726BHJP
C03C 13/04 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
G02B6/036
G02B6/02 376A
C03C13/04
(21)【出願番号】P 2020016615
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2022-11-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 幸寛
(72)【発明者】
【氏名】相曽 景一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 脩悟
(72)【発明者】
【氏名】武笠 和則
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-526066(JP,A)
【文献】特開2014-222269(JP,A)
【文献】特表2017-526601(JP,A)
【文献】特開2005-181414(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0241684(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/036
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、
前記コア部の外周に形成されており、前記コア部の最大屈折率よりも屈折率が低いクラッド層と、
を備え、
前記コア部の最大屈折率は、純シリカガラスに対する比屈折率差が0%以上0.2%以下であり、
前記コア部と前記クラッド層との界面において、屈折率が当該光ファイバの径方向において連続的に変化しており、
前記クラッド層における前記コア部との界面から径方向に所定距離だけ離間した2箇所以下の位置には屈折率が非連続的に変化する段差部があり、前記段差部の純シリカガラスに対する比屈折率差の段差は0.005%以下であり、
前記コア部のコア半径をr1[μm]とすると、3.0μm≦r1[μm]≦5.0μmであり、
前記コア部に最も近い前記段差部の前記コア部の中心からの距離をr2[μm]とすると、18μm≦r2[μm]
およびr2[μm]≦24μmであり、
6<r2/r1であり、
波長1550nmにおける伝送損失が0.175dB/km未満であり、
1380nm波長帯における伝送損失が1.0dB/km以下であ
り、
波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm以上9.5μm以下であり、実効カットオフ波長が1260nm以下であり、零分散波長が1300nm以上1324nm以下であり、前記零分散波長での分散スロープが0.092ps/nm
2
/km以下であり、
前記段差部から径方向の外周側に向かって、径方向の位置が0.1μm変化したときに純シリカガラスに対する比屈折率差の変化が0%を超え0.01%以下となるように、当該比屈折率差が低下する
光ファイバ。
【請求項2】
前記コア部は、純シリカガラス、または、フッ素、塩素、またはアルカリ金属が添加されたシリカガラスからなる部分を含み、
前記クラッド層は、フッ素が添加されたシリカガラスからなる
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
1380nm波長帯における伝送損失が0.40dB/km以下である
請求項1
または2に記載の光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、波長1550nmにて低伝送損失の光ファイバが知られている。この種の光ファイバは、コア部が、純シリカガラス、または、フッ素、塩素、またはアルカリ金属が添加されたシリカガラスからなる部分を含む。フッ素は、たとえば微量だけ添加され、塩素は、たとえば高濃度に添加される。アルカリ金属としては、たとえばカリウム(K)やナトリウム(Na)が例示される。なお、フッ素、塩素、またはアルカリ金属は、共添加される場合もある。また、クラッド層には、シリカガラスの屈折率を低下させる添加物として、たとえばフッ素が添加されている(特許文献1~3)。
【0003】
この種の低伝送損失の光ファイバの製造方法は、たとえば以下の通りである。まず、たとえばVAD(Axial Vapor Deposition)法によって、光ファイバのコア部となるシリカガラスロッド(コアロッド)を作製する。つづいて、OVD(Outside Vapor Deposition)と呼ばれる外付け堆積法によって、コアロッドの外周にクラッド層となるスートを形成する。つづいて、フッ素含有ガス雰囲気下でスートを焼結してガラス化し、光ファイバ母材を作製する。なお、通常、スートの形成とスートのガラス化は、光ファイバ母材のクラッド層が必要な外径になるまで複数回行われる。その後、作製した光ファイバ母材から光ファイバを線引きする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2008-536190号公報
【文献】特表2013-512463号公報
【文献】特表2019-526073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ファイバには、より一層の低損失が求められている。また、広い波長帯域で低伝送損失であることが好ましい。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、低伝送損失である光ファイバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様は、コア部と、前記コア部の外周に形成されており、前記コア部の最大屈折率よりも屈折率が低いクラッド層と、を備え、前記コア部の最大屈折率は、純シリカガラスに対する比屈折率差が0%以上0.2%以下であり、前記コア部と前記クラッド層との界面において、屈折率が当該光ファイバの径方向において連続的に変化しており、前記クラッド層における前記コア部との界面から径方向に所定距離だけ離間した2箇所以下の位置には屈折率が非連続的に変化する段差部があり、前記段差部の純シリカガラスに対する比屈折率差の段差は0.005%以下である光ファイバである。
【0008】
前記コア部は、純シリカガラス、または、フッ素、塩素、またはアルカリ金属が添加されたシリカガラスからなる部分を含み、前記クラッド層は、フッ素が添加されたシリカガラスからなるものでもよい。
【0009】
前記光ファイバは、波長1550nmにおける伝送損失が0.175dB/km未満であり1380nm波長帯における伝送損失が1.0dB/km以下であるものでもよい。
【0010】
前記コア部のコア半径をr1[μm]とすると、3.0μm≦r1[μm]≦5.0μmであり、前記コア部に最も近い前記段差部の前記コア部の中心からの距離をr2[μm]とすると、18μm≦r2[μm]またはr2[μm]≦24μmであり、6<r2/r1であるものでもよい。
【0011】
前記光ファイバは、1380nm波長帯における伝送損失が0.40dB/km以下であるものでもよい。
【0012】
前記光ファイバは、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm以上9.5μm以下であり、実効カットオフ波長が1260nm以下であり、零分散波長が1300nm以上1324nm以下であり、前記零分散波長での分散スロープが0.092ps/nm2/km以下であるものでもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、低伝送損失であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る光ファイバの模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す光ファイバの屈折率プロファイルを示す図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す光ファイバの製造方法の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態2に係る光ファイバの屈折率プロファイルを示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態3に係る光ファイバの屈折率プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する構成要素には適宜同一の符号を付し、適宜説明を省略している。また、本明細書においては、カットオフ(Cutoff)波長とは、実効カットオフ波長であり、ITU-T(国際電気通信連合)G.650.1で定義するケーブルカットオフ波長を意味する。また、その他、本明細書で特に定義しない用語についてはG.650.1およびG.650.2における定義、測定方法に従うものとする。
【0016】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る光ファイバの模式的な断面図である。光ファイバ10は、コア部1と、コア部1の外周に形成されたクラッド層2と、を備える。
【0017】
コア部1は、たとえば、純シリカガラス、または、フッ素、塩素、またはアルカリ金属が添加されたシリカガラスからなる部分を含む。純シリカガラスとは、屈折率を変化させるドーパントを実質的に含まず、波長1550nmにおける屈折率が約1.444である、きわめて高純度のシリカガラスである。純シリカガラスは、レイリー散乱損失の発生要因となる不純物の濃度が極めて小さいので、コア部1の構成材料とすることによって、伝送損失の低減が期待できる。また、フッ素、塩素、またはアルカリ金属が添加されたシリカガラスは、そのガラス粘度が低下するので、コア部1の構成材料とすることによって、レイリー散乱損失のさらなる低減が期待できる。
【0018】
クラッド層2は、コア部1の最大屈折率よりも屈折率が低い。クラッド層2は、たとえばフッ素が添加されたシリカガラスである。
【0019】
図2は、光ファイバ10の屈折率プロファイルを示す図である。横軸はコア部1の中心軸を零とした場合の光ファイバの径方向を示しており、横軸は純シリカガラスの屈折率に対する比屈折率差を示している。図中、純シリカガラスの屈折率はnsで示しており、比屈折率差は屈折率nsにおいて零である。以下では、特に言及しない限り、比屈折率差は、波長1550nmにおける純シリカガラスに対する比屈折率差であるとする。
【0020】
コア部1の中心軸またはその近傍に位置する最大屈折率の部分の比屈折率差をΔcoreとすると、Δcoreは0%以上0.2%以下である。コア部1の最大屈折率が純シリカガラスからなる場合は、Δcoreは0%である。また、コア部1に添加するフッ素、塩素、またはアルカリ金属の量によって、Δcoreが0.2%以下に調整される。さらに、コア部1の最大屈折率の部分の周囲は、たとえばフッ素の量によって、比屈折率差が径方向に向かって減少する。
【0021】
図2に示すように、コア部1の半径であるコア半径をr1とする。コア半径r1は、さまざまな観点から定義することができる。たとえば、コア部1の最大比屈折率差の1/10、または1/e
2となる位置での半径として定義することができる。ここでeは自然対数の底である。また、コア半径r1は、比屈折率差が零になる位置での半径として定義することもできる。いずれの定義を選択するかについては、たとえば、光ファイバ10の光学特性(カットオフ波長や波長分散)を実測し、その実測値から理論式を用いて導出したコア半径の値に最も近い値とすることができる。また、理論式を用いて導出したコア半径をコア半径r1としてもよい。なお、
図2では、例として、コア半径r1を、比屈折率差が零になる位置での半径として定義している。
【0022】
コア半径r1は、たとえば3.0μm≦r1≦5.0μmを満たす。
【0023】
また、
図2に示すように、クラッド層2は、コア部1に近い方から配列された、第1領域2a、第2領域2b、第3領域2cを有する。第1領域2a、第2領域2b、第3領域2cは、いずれも略円筒形状の領域である。第3領域2cの外径はクラッド層2のクラッド径に相当する。クラッド径はたとえばITU-T G.652で定義される標準的なシングルモード光ファイバの規格に準拠する125μm±1μmである。
【0024】
第1領域2aは、クラッド層2とコア部1との界面を構成している領域である。
図2に示すように、光ファイバ10は、コア部1とクラッド層2との界面において、比屈折率差が光ファイバ10の径方向において連続的に変化している。比屈折率差が連続的に変化していることは、屈折率が連続的に変化していることに相当する。なお、連続的に変化するとは、たとえば、公知のプロファイルアナライザ等の検査装置によって測定された屈折率や比屈折率差の曲線が、径に対して微分可能な曲線となることを意味する。また、界面における比屈折率差の変化は、なだらかであることが好ましい。なだらかとは、たとえば径方向の位置が0.1μm変化したときの比屈折率差の変化が0.01%以下であることを意味する。
【0025】
第1領域2aの比屈折率差は、径方向において連続的に低下し、Δcladになる。Δcladは、クラッド層2の径方向における比屈折率差の平均値である。Δcladは、Δcoreとr1との関係で、光ファイバ10の光学特性が所望の特性になるように設定される。Δcladは、その絶対値が、たとえば(Δcore+Δclad)が0.33%以上0.40%以下となるように設定される。
【0026】
なお、所望される光ファイバ10の光学特性は、たとえば波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm以上9.5μm以下であり、実効カットオフ波長が1260nm以下であり、零分散波長が1300nm以上1324nm以下であり、零分散波長での分散スロープが0.092ps/nm2/km以下である。これらの特性は、ITU-T G.652で定義される規格に準拠する。コア半径r1が3.0μm≦r1≦5.0μmを満たせば、このような諸特性を実現することが容易である。
【0027】
クラッド層2において、第2領域2bは、第1領域2aの外周に隣接して存在する領域である。ここで、第2領域2bの第1領域2aとの境界には、比屈折率差が非連続的に変化する第1段差部2b1がある。第1段差部2b1における比屈折率差の段差Δs1は、たとえば0.005%以下である。第2領域2bの比屈折率差は第1段差部2b1から径方向の外周側に向かってなだらかに低下する。
【0028】
径方向における第1段差部2b1の位置は、クラッド層2におけるコア部1との界面から径方向に所定距離だけ離間した位置である。以下、第1段差部2b1の位置を、コア部1の中心からの距離としてのr2で表す。コア半径r1とr2との関係を不等式で表すと、たとえば6<r2/r1である。
【0029】
第3領域2cは、第2領域2bの外周に隣接して存在する領域である。第3領域2cの第2領域2bとの境界には、比屈折率差が非連続的に変化する第2段差部2c1がある。第2段差部2c1における比屈折率差の段差Δs2は、たとえば0.005%以下である。第3領域2cの比屈折率差は第2段差部2c1から径方向の外周側に向かってなだらかに低下する。
【0030】
径方向における第2段差部2c1の位置は、クラッド層2におけるコア部1との界面から径方向に所定距離だけ離間した位置である。この光ファイバ10では、段差部は第1段差部2b1、第2段差部2c1の2箇所である。第1段差部2b1はコア部1に最も近い段差部の一例である。
【0031】
このような段差は、たとえば光ファイバ10の製造に用いる光ファイバ母材の製造時に、製造プロセスが切り替わるときに発生する。製造プロセスが切り替わる場合としては、スートの形成とスートのガラス化とを交互に複数回行なった後、ガラス化のプロセスから次のスートの形成のプロセスに切り替わる場合が挙げられる。このような段差が発生する場合は、段差Δs1、Δs2の最小値は公知のプロファイルアナライザ等の検査装置によって観測可能な最小値以上であり、たとえば0.0001%以上である。
【0032】
本実施形態1に係る光ファイバ10は、コア部1とクラッド層2との界面において、比屈折率差が光ファイバ10の径方向において連続的に変化している。これにより、光ファイバ10は、界面において比屈折率差が非連続的に変化する場合における非連続性に起因する伝送損失の増大が抑制されており、低伝送損失である。
【0033】
また、第1段差部2b1のコア部1の中心からの距離であるr2が、18μm≦r2[μm]またはr2[μm]≦24μmを満たすことが好ましい。18μm≦r2[μm]であればコア部1と第1段差部2b1との距離を十分に大きくでき、第1段差部2b1に起因する伝送損失の増大が抑制される。さらには、仮に第1段差部2b1がコア部1に近いと、光ファイバ10のモードフィールド径やカットオフ波長に影響し、ITU-T G.652の規格を満たすようにコア部1の屈折率プロファイルを設計しても規格から外れてしまう場合があるが、18μm≦r2[μm]であれば第1段差部2b1の存在がモードフィールド径やカットオフ波長に与える影響を小さくできる。また、r2[μm]≦24μmであれば、第1領域2aの厚さが比較的薄いので、光ファイバ10の製造性が高くなる。
【0034】
特に、後述するように、コア部1とクラッド層2との界面において、比屈折率差が光ファイバ10の径方向において連続的に変化する状態であれば、界面において水酸基(OH基)の濃度を極めて低減されているため、OH基に起因する1380nm波長帯の伝送損失を低減できる。1380nm波長帯とは、約1383nmの波長におけるOH基による光吸収のピークを含む波長帯であり、たとえば1383nm±3nmの波長帯である。
【0035】
光ファイバ10においては、たとえば、波長1550nmにおける伝送損失が0.175dB/km未満であり、1380nm波長帯における伝送損失が1.0dB/km以下という特性が実現できる。このような光ファイバ10は、たとえば波長1310nmから1625nmまでの広帯域にわたって通信帯域として利用できる。
【0036】
さらには、光ファイバ10においては、たとえば、波長1310nmから1625nmまでにおける伝送損失が0.40dB/km以下、波長1530nmから1565nmまでにおける伝送損失が0.30dB/km以下、水素エージング後における1383nm±3nmにおける伝送損失が0.40dB/km以下という特性が実現できる。このような光ファイバ10は、ITU-T G.652Dで定義される規格に準拠し、たとえば波長1310nmから1625nmまでの広帯域にわたって通信帯域として利用できる。
【0037】
光ファイバ10の製造方法の一例について
図3を参照して説明する。
はじめに、ステップS101において、コアスートの作製を行う。つづいて、ステップS102において、コアスートのガラス化を行う。つづいて、ステップS103において、クラッドスートの堆積およびガラス化を行う。つづいて、ステップS104において、クラッドスートの堆積およびガラス化を行う。つづいて、ステップS105において、ステップS101~S104を行うことによって作製された光ファイバ母材の線引きを行う。
【0038】
各ステップについて具体的に説明する。
ステップS101においては、光ファイバ10のコア部1とクラッド層2における第1領域2aとの部分になる光ファイバ母材の部分(以下、コア相当部、第1領域相当部と記載する場合がある)を形成するために、コアスートを作製する。コアスートは、たとえばVAD装置を用いて、VAD法によって作製する。このとき、水素ガス、酸素ガス、コア相当部を形成するための原料となる第1原料ガスを含むガスを噴射する第1バーナと、水素ガス、酸素ガス、第1領域相当部を形成するための原料となる第2原料ガスを含むガスを噴射する第2バーナと、コア相当部を焼きなますための水素ガス、酸素ガスを含むガスを噴射する第3バーナとを用いる。第1原料ガスはたとえば塩化珪素ガスや、塩化珪素ガスなどの珪素を含むガスと、塩素ガスとの混合ガスである。第2原料ガスはたとえば塩化珪素ガスなどの珪素を含むガスである。
【0039】
ステップS102においては、ステップS101において作製したコアスートを、ガラス化炉を用いて加熱してガラス化し、コアロッドを作製する。このガラス化は、ガラス化炉内にフッ素を含有するフッ素含有ガスを流し、フッ素含有ガス雰囲気下で行う。フッ素含有ガスは、たとえば四フッ化珪素(SiF4)ガスと不活性ガス(たとえば窒素(N2)ガス)との混合ガスである。SiF4ガスとN2ガスとの流量比はたとえば1:1である。ガラス化をフッ素含有ガス雰囲気下で行うことによって、コア相当部と第1領域相当部とにフッ素を侵入させて、フッ素を添加することができる。また、ステップS101においてコア相当部を適度に焼きなますことによって、フッ素のコア相当部への侵入量を調整することができる。
【0040】
ステップS103においては、光ファイバ10の第2領域2bの部分になる光ファイバ母材の部分(以下、第2領域相当部と記載する場合がある)を形成するために、コアロッドの外周にクラッドスートを堆積する。クラッドスートは、たとえばOVD装置を用いて、OVD法によって作製する。このとき、水素ガス、酸素ガス、第2領域相当部を形成するための原料となる原料ガスを含むガスを噴射するバーナを用いる。原料ガスはたとえば塩化珪素ガスなどの珪素を含むガスである。このとき、プロセスの切り換えによって、第2領域相当部には第1段差部2b1に相当する段差部が形成される。また、ステップS102からステップS103へのプロセスの切り換えの際にコアロッドの外周にOH基が付与される場合がある。つづいて、ガラス化炉を用いて加熱してクラッドスートをガラス化する。このガラス化もステップS102の場合と同様にフッ素含有ガス雰囲気下で行う。
【0041】
このガラス化の際に、コアロッドの外周のOH基はある程度除去されるが、一般的には完全には除去されず、光ファイバになった後の1380nm波長帯における伝送損失の原因となる。ただし、本製造方法によれば、コアロッドの外周にOH基が残存したとしても、コアロッドの外周は光ファイバ10のコア部1の外周から径方向に離間した位置にある、クラッド層2における第1領域2aと第2領域2bとの界面に相当する。そのため、コア部1を伝搬する光のフィールドが強い位置から遠い位置にOH基が残存することとなるので、1380nm波長帯における伝送損失が低減される。
【0042】
ステップS104においては、光ファイバ10の第3領域2cの部分になる光ファイバ母材の部分(以下、第3領域相当部と記載する場合がある)を形成するために、コアロッドの外周にクラッドスートを堆積する。クラッドスートは、ステップS103と同様に作製できる。このとき、プロセスの切り換えによって、第3領域相当部には第2段差部2c1に相当する段差部が形成される。つづいて、ガラス化炉を用いて加熱してクラッドスートをガラス化する。このガラス化もステップS102の場合と同様にフッ素含有ガス雰囲気下で行う。
【0043】
ステップS105においては、公知の線引装置を用いて光ファイバ母材の線引きを行うことによって、光ファイバ10が製造される。
【0044】
(実施形態2)
図4は、実施形態2に係る光ファイバの屈折率プロファイルを示す図である。光ファイバ10Aは、コア部1Aと、コア部1Aの外周に形成されたクラッド層2Aと、を備える。この光ファイバ10Aの断面構造は、実施形態1に係る光ファイバ10と同様なので説明を適宜省略する。
【0045】
コア部1Aは、光ファイバ10のコア部1と同様の構造を有し、同様の構成材料からなる。クラッド層2Aは、光ファイバ10のクラッド層2と同様の構成材料からなるが、クラッド層2Aは、コア部1Aに近い方から配列された、第1領域2Aa、第2領域2Abの2つの領域からなる点でクラッド層2とは異なる。
【0046】
第1領域2Aaは、クラッド層2Aとコア部1Aとの界面を構成している領域である。光ファイバ10Aは、コア部1Aとクラッド層2Aとの界面において、比屈折率差が光ファイバ10Aの径方向において連続的に変化している。第1領域2Aaの比屈折率差は、径方向において連続的に低下し、Δcladになる。
【0047】
クラッド層2Aにおいて、第2領域2Abは、第1領域2Aaの外周に隣接して存在する領域である。第2領域2Abの第1領域2Aaとの境界には、比屈折率差が非連続的に変化する第1段差部2Ab1がある。第1段差部2b1における比屈折率差の段差ΔsA1は、たとえば0.005%以下である。第2領域2Abの比屈折率差は第1段差部2Ab1から径方向の外周側に向かってなだらかに低下する。第2領域2Abの外径はクラッド層2Aのクラッド径に相当する。クラッド径はたとえば125μm±1μmである。
【0048】
本実施形態2に係る光ファイバ10Aは、光ファイバ10と同様の効果を奏し、たとえば広い波長帯域にわたって低伝送損失である。光ファイバ10Aは、
図3の製造方法によって、光ファイバ10と同様に製造できる。ただし、ステップS104は省略できる。
【0049】
(実施形態3)
図5は、実施形態3に係る光ファイバの屈折率プロファイルを示す図である。光ファイバ10Bは、コア部1Bと、コア部1Bの外周に形成されたクラッド層2Bと、を備える。この光ファイバ10Bの断面構造は、実施形態1に係る光ファイバ10と同様なので説明を適宜省略する。また、クラッド層2Bは、コア部1Bに近い方から配列された、第1領域2Ba、第2領域2Bb、第3領域2Bcを有する。また、第2領域2Bbには段差ΔsB1の第1段差部2Bb1があり、第3領域2Bcには、段差ΔsB2の第2段差部2Bc1がある。
【0050】
光ファイバ10Bは、コア部1Bの屈折率プロファイルが、いわゆるα型である点で、光ファイバ10とは異なる。コア部1Bの屈折率プロファイルがα型であるので、光ファイバ10Bの光学特性、たとえばカットオフ波長の制御性が高くなる。
【0051】
本実施形態3に係る光ファイバ10Bは、光ファイバ10と同様の効果を奏し、たとえば広い波長帯域にわたって低伝送損失である。光ファイバ10Bは、
図3の製造方法によって、光ファイバ10と同様に製造できる。ただし、ステップS101において、コア部1Bの屈折率プロファイルをα型とするために、たとえば、焼きなましの際の酸素ガス、水素ガスの流量をたとえば1/3程度に減らして焼きなましの程度を低くする。
【0052】
なお、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1、1A、1B コア部
2、2A、2B クラッド層
2a、2Aa、2Ba 第1領域
2b、2Ab、2Bb 第2領域
2b1、2Ab1、2Bb1 第1段差部
2c、2Bc 第3領域
2c1、2Bc1 第2段差部
10、10A、10B 光ファイバ