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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】高周波電力伝送用電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 9/00 20060101AFI20240726BHJP
   H01B 7/30 20060101ALI20240726BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
H01B9/00 Z
H01B7/30
H01B7/18 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021097511
(22)【出願日】2021-06-10
(65)【公開番号】P2022189122
(43)【公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591086843
【氏名又は名称】古河電工産業電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 圭介
(72)【発明者】
【氏名】横山 大祐
(72)【発明者】
【氏名】石田 祐也
(72)【発明者】
【氏名】森 澄人
(72)【発明者】
【氏名】茂木 優太
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/218203(WO,A1)
【文献】特開2018-77943(JP,A)
【文献】特開2013-251101(JP,A)
【文献】実開平4-99311(JP,U)
【文献】特開2020-107477(JP,A)
【文献】特開2002-25355(JP,A)
【文献】特開2017-220367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 9/00
H01B 7/30
H01B 7/18
H01B 7/02
H01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線径が略同一である2本の電線と、
線径が略同一であり、前記2本の電線を互いに離隔配置させる2本のスペーサ絶縁線材と
を有し、
前記2本の電線と前記2本のスペーサ絶縁線材とが撚り合わされ、
延在方向に垂直な横断面において、前記電線と前記スペーサ絶縁線材とが周方向に亘って交互に配置されることを特徴とする高周波電力伝送用電線。
【請求項2】
前記電線の線径および前記スペーサ絶縁線材の線径は略同一である、請求項1に記載の高周波電力伝送用電線。
【請求項3】
前記高周波電力伝送用電線は、前記横断面でみて、前記2本の電線および前記2本のスペーサ絶縁線材の内側に配置される内側スペーサ絶縁線材をさらに有する、請求項1または2に記載の高周波電力伝送用電線。
【請求項4】
前記内側スペーサ絶縁線材は中空である、請求項3に記載の高周波電力伝送用電線。
【請求項5】
前記2本のスペーサ絶縁線材のうち、少なくとも1つのスペーサ絶縁線材は中空である、請求項1~4のいずれか1項に記載の高周波電力伝送用電線。
【請求項6】
前記電線は、
円柱状の樹脂線材と、
前記樹脂線材の表面に巻回され、複数の素線から構成される複数の導線と、
前記複数の導線を覆う被覆部と、
を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の高周波電力伝送用電線。
【請求項7】
前記電線はリッツ線である、請求項1~5のいずれか1項に記載の高周波電力伝送用電線。
【請求項8】
前記高周波電力伝送用電線は、前記横断面でみて、前記2本の電線および前記2本のスペーサ絶縁線材の外側に配置される絶縁被覆部をさらに有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の高周波電力伝送用電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電力伝送用電線に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触給電技術は、自動車などの移動体へのエネルギーや電力の供給に対して重要な技術である。給電時の電力損失を小さくして、大きな電力を伝達するために、高周波電流を流している。しかし、電線に流れる高周波電流が表皮効果により導体表面に集中し、対となる電線同士の近接効果によって、発熱が生じて、給電時の電力損失を発生することがある。電源部と非接触給電用のコイル部などの対象負荷とが離れている場合の給電用電線では、このような発熱による電力損失が大きい。
【0003】
電線に流れる高周波電流の表皮効果および近接効果を緩和するため、従来では、電線に素線絶縁を施したリッツ線を用いることが一般的であった。また、ほとんど電流が流れない電線導体中心部を中空にした構成が採用されてきた。
【0004】
また、特許文献1には、芯材の外周面に複数の導体を撚りつつ周方向に配置し、複数の導体の外周を絶縁被覆した、高周波電流用電線を2本撚り合わせ、その外周面にシースを被覆した2芯ケーブルが記載されている。また、特許文献1には、芯材の外周面に複数の導体を撚りつつ周方向に配置し、複数の導体の外周を絶縁被覆した、高周波電流用電線を4本撚り合わせ、その外周面にシースを被覆した4芯ケーブルが記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載される2芯ケーブルでは、線間静電容量が増加し、近接効果による交流抵抗値が上昇する。また、特許文献1に記載される4芯ケーブルでは、線間静電容量がさらに増加する。高周波用電線では、線間静電容量が増加すると、無効電流も増加する。また、近接効果および表皮効果によって、交流抵抗値が増加する。特に、近接効果は、電線間距離に応じて決まる。そして、導体相同士が近接している部分では、局部的に抵抗値が高くなり、局部発熱を生じることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5792120号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、線間静電容量を低減できると共に、近接効果による抵抗値の増加を抑制できる高周波電力伝送用電線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 線径が略同一である2本の電線と、線径が略同一であり、前記2本の電線を離隔配置させる2本のスペーサ絶縁線材とを有し、前記2本の電線と前記2本のスペーサ絶縁線材とが撚り合わされ、延在方向に垂直な横断面において、前記電線と前記スペーサ絶縁線材とが周方向に亘って交互に配置されることを特徴とする高周波電力伝送用電線。
[2] 前記電線の線径および前記スペーサ絶縁線材の線径は略同一である、上記[1]に記載の高周波電力伝送用電線。
[3] 前記高周波電力伝送用電線は、前記横断面でみて、前記2本の電線および前記2本のスペーサ絶縁線材の内側に配置される内側スペーサ絶縁線材をさらに有する、上記[1]または[2]に記載の高周波電力伝送用電線。
[4] 前記内側スペーサ絶縁線材は中空である、上記[3]に記載の高周波電力伝送用電線。
[5] 前記2本のスペーサ絶縁線材のうち、少なくとも1つのスペーサ絶縁線材は中空である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の高周波電力伝送用電線。
[6] 前記電線は、円柱状の樹脂線材と、前記樹脂線材の表面に巻回され、複数の素線から構成される複数の導線と、前記複数の導線を覆う被覆部と、を有する、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の高周波電力伝送用電線。
[7] 前記電線はリッツ線である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の高周波電力伝送用電線。
[8] 前記高周波電力伝送用電線は、前記横断面でみて、前記2本の電線および前記2本のスペーサ絶縁線材の外側に配置される絶縁被覆部をさらに有する、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の高周波電力伝送用電線。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、線間静電容量を低減できると共に、近接効果による抵抗値の増加を抑制できる高周波電力伝送用電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態の高周波電力伝送用電線の一例を示す横断面図である。
図2図2は、実施形態の高周波電力伝送用電線の他の例を示す横断面図である。
図3図3は、実施形態の高周波電力伝送用電線の他の例を示す横断面図である。
図4図4は、実施形態の高周波電力伝送用電線の他の例を示す横断面図である。
図5図5は、実施形態の高周波電力伝送用電線の他の例を示す横断面図である。
図6図6は、実施形態の高周波電力伝送用電線の他の例を示す横断面図である。
図7図7は、実施形態の高周波電力伝送用電線の他の例を示す横断面図である。
図8図8は、実施形態の高周波電力伝送用電線の他の例を示す横断面図である。
図9図9は、実施形態の高周波電力伝送用電線の他の例を示す横断面図である。
図10図10は、実施形態の高周波電力伝送用電線を構成する電線の一例を示す横断面図である。
図11図11は、実施形態の高周波電力伝送用電線を構成する電線の他の例を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0012】
本発明者らは、電線およびスペーサ絶縁線材の撚り構成、ならびに電線およびスペーサ絶縁線材の形状に着目することによって、高周波電力伝送用電線について、線間静電容量を低減できると共に、近接効果による抵抗値の増加を抑制できることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0013】
実施形態の高周波電力伝送用電線は、線径が略同一である2本の電線と、線径が略同一であり、前記2本の電線を離隔配置させる2本のスペーサ絶縁線材とを有し、前記2本の電線と前記2本のスペーサ絶縁線材とが撚り合わされ、延在方向に垂直な横断面において、前記電線と前記スペーサ絶縁線材とが周方向に亘って交互に配置される。
【0014】
図1は、実施形態の高周波電力伝送用電線の一例を示す横断面図である。なお、図1~9では、電線10の具体的な構成を便宜上省略する。
【0015】
図1に示すように、高周波電力伝送用電線1は、2本の電線10、10と2本のスペーサ絶縁線材20、20とを有する。2本の電線10、10は、2本のスペーサ絶縁線材20、20によって、互いに離隔配置される。2本のスペーサ絶縁線材20、20は、電気絶縁性を有し、電流を流さない。2本のスペーサ絶縁線材20、20は、2本の電線10、10を離隔配置させる部材である。
【0016】
2本の電線10、10について、線径は略同一である。2本の電線10、10の線径が略同一であるとは、2本の電線10、10の線径の平均値に対する、2本の電線10、10の線径の平均値と電線10の線径との差の比((2本の電線10、10の線径の平均値-電線10の線径)×100/2本の電線10、10の線径の平均値)が、±10%の範囲内であり、好ましくは±5%の範囲内であり、最も好ましくは0%、すなわち2本の電線10、10の線径が同じである。電線10の上記比が0%に近づくにつれて、2本の電線10、10および2本のスペーサ絶縁線材20、20を備える撚線構造30の形状の安定性が向上する。そのため、高周波電力伝送用電線1について、線間静電容量を低減できると共に、近接効果による抵抗値の増加を抑制できる。
【0017】
2本のスペーサ絶縁線材20、20について、線径は略同一である。2本のスペーサ絶縁線材20、20の線径が略同一であるとは、2本のスペーサ絶縁線材20、20の線径の平均値に対する、2本のスペーサ絶縁線材20、20の線径の平均値とスペーサ絶縁線材20の線径との差の比((2本のスペーサ絶縁線材20、20の線径の平均値-スペーサ絶縁線材20の線径)×100/2本のスペーサ絶縁線材20、20の線径の平均値)が、±10%の範囲内であり、好ましくは±5%の範囲内であり、最も好ましくは0%、すなわち2本のスペーサ絶縁線材20、20の線径が同じである。スペーサ絶縁線材20の上記比が0%に近づくにつれて、撚線構造30の形状の安定性が向上する。そのため、高周波電力伝送用電線1について、線間静電容量を低減できると共に、近接効果による抵抗値の増加を抑制できる。
【0018】
2本のスペーサ絶縁線材20、20の形状は、円柱状である。例えば、図1に示すように、スペーサ絶縁線材20、20は、中実の円柱状である。
【0019】
2本の電線10、10および2本のスペーサ絶縁線材20、20は、撚り合わされている。換言すると、高周波電力伝送用電線1は、2本の電線10、10および2本のスペーサ絶縁線材20、20が撚り合わされてなる撚線構造30を有する。このように、高周波電力伝送用電線1では、離間配置される2本の電線10、10が撚り合わされていることから、2本の電線が撚り合わされずに離間配置される高周波電力伝送用電線に比べて、実施形態の高周波電力伝送用電線1は並走する金属物(例えば、ダクトや並走している電線など)に対しての電磁誘導による損失を低減できる。
【0020】
また、高周波電力伝送用電線1の延在方向に沿って、2本の電線10、10および2本のスペーサ絶縁線材20、20は延在している。電線10は、高周波電力伝送用電線1の延在方向に沿って延在し、電流を流す1つ以上の素線を有する。2本の電線10、10を流れる電流は、互いに逆方向に流れる。一方、電線10と異なり、スペーサ絶縁線材20は、電線を流す素線や導線を具備しない。
【0021】
図1に示すように、高周波電力伝送用電線1の延在方向に垂直な横断面において、電線10とスペーサ絶縁線材20とが周方向に亘って交互に配置されている。高周波電力伝送用電線1の横断面において、電線10とスペーサ絶縁線材20とが周方向に亘って交互に配置される状態では、1本の電線10、1本のスペーサ絶縁線材20、1本の電線10、1本のスペーサ絶縁線材20が順に配置されている。
【0022】
このように、高周波電力伝送用電線1の横断面では、電線10は、周方向に亘って、2本のスペーサ絶縁線材20の間に配置され、2本のスペーサ絶縁線材20と接触し、2本の電線10のうちの1本の電線10とは接触しない。同様に、高周波電力伝送用電線1の横断面では、スペーサ絶縁線材20は、周方向に亘って、2本の電線10の間に配置され、2本の電線10と接触し、2本のスペーサ絶縁線材20のうちの1本のスペーサ絶縁線材20とは接触しない。すなわち、高周波電力伝送用電線1の横断面では、周方向に亘って、2つの電線10、10同士は接触しないし、2本のスペーサ絶縁線材20、20同士は接触しない。スペーサ絶縁線材20は、電線10に対するスペーサの機能を有する。
【0023】
このような撚り構成を有する高周波電力伝送用電線1では、4本の芯線のうち、対角にある1対を導体相である2本の電線10、10とし、残りの1対を2本のスペーサ絶縁線材20とすることによって、高周波電力伝送用電線1の横断面の周方向に亘って、電線10と電線10との間にスペーサ絶縁線材20が挟まれる。そのため、高周波電力伝送用電線1では、線間静電容量を低減できると共に、近接効果による抵抗値の増加を抑制できる。
【0024】
電線10の線径に比べて、スペーサ絶縁線材20の線径は大きい。電線10よりもスペーサ絶縁線材20の線径が大きいと、2本の電線10、10の間隔を所定以上に維持できるため、高周波電力伝送用電線1の線間静電容量をさらに低減できる。
【0025】
ここでは、高周波電力伝送用電線1の横断面において、2本のスペーサ絶縁線材20、20が径方向で離間している例を示しているが、2本のスペーサ絶縁線材20、20は径方向で接触してもよい。高周波電力伝送用電線1の横断面において、2本のスペーサ絶縁線材20、20が径方向で接触していると、径方向における2本の電線10、10の接触を回避できることから、局所的な抵抗値の増加を抑制できる。そのため、近接効果による抵抗値の増加をさらに抑制できる。
【0026】
図1では、電線10の線径よりもスペーサ絶縁線材20の線径が大きい例を示したが、図2に示すように、電線10の線径よりもスペーサ絶縁線材20の線径が小さくてもよい。
【0027】
電線10よりもスペーサ絶縁線材20の線径が小さいと、高周波電力伝送用電線1を小型化できると共に、軽量化できる。
【0028】
また、図3に示すように、電線10の線径およびスペーサ絶縁線材20の線径は略同一であることが好ましい。図3に示す高周波電力伝送用電線1において、2本の電線10、10および2本のスペーサ絶縁線材20、20の合計4本の線径は略同一である。
【0029】
電線10の線径およびスペーサ絶縁線材20の線径が略同一であるとは、2本の電線10、10の線径および2本のスペーサ絶縁線材20、20の線径の平均値に対する、2本の電線10、10の線径および2本のスペーサ絶縁線材20、20の線径の平均値と電線10の線径との差の比((2本の電線10、10の線径および2本のスペーサ絶縁線材20、20の線径の平均値-電線10の線径)×100/2本の電線10、10の線径および2本のスペーサ絶縁線材20、20の線径の平均値)、ならびに、2本の電線10、10の線径および2本のスペーサ絶縁線材20、20の線径の平均値に対する、2本の電線10、10の線径および2本のスペーサ絶縁線材20、20の線径の平均値とスペーサ絶縁線材20の線径との差の比((2本の電線10、10の線径および2本のスペーサ絶縁線材20、20の線径の平均値-スペーサ絶縁線材20の線径)×100/2本の電線10、10の線径および2本のスペーサ絶縁線材20、20の線径の平均値)が、それぞれ、±10%の範囲内であり、好ましくは±5%の範囲内であり、最も好ましくは0%、すなわち2本の電線10、10および2本のスペーサ絶縁線材20、20の合計4本の線径が全て同じである。
【0030】
電線10の線径およびスペーサ絶縁線材20の線径が略同一であると、高周波電力伝送用電線1の横断面における等方性が高まるため、電線10およびスペーサ絶縁線材20の撚り合わせが容易であり、かつ高周波電力伝送用電線1の敷設が容易になる。さらに、上記電線10およびスペーサ絶縁線材20の上記比が0%に近づくにつれて、撚線構造30の形状の安定性が向上する。そのため、高周波電力伝送用電線1について、線間静電容量をさらに低減できると共に、近接効果による抵抗値の増加をさらに抑制できる。
【0031】
また、図4に示すように、2本のスペーサ絶縁線材20、20のうち、少なくとも1つのスペーサ絶縁線材20は中空であることが好ましく、2本のスペーサ絶縁線材20、20は共に中空であることがより好ましい。スペーサ絶縁線材20が円筒のような中空であると、スペーサ絶縁線材20の内部には誘電率の低い空気が存在するため、高周波電力伝送用電線1の線間静電容量をさらに低減できる。さらに、2本全てのスペーサ絶縁線材20、20が中空であると、高周波電力伝送用電線1の線間静電容量をさらに低減できる。また、スペーサ絶縁線材20が中空であると、中実に比べて、軽量化できると共に材料コストを低減できる。
【0032】
また、図5に示すように、高周波電力伝送用電線1は、高周波電力伝送用電線1の横断面でみて、2本の電線10、10および2本のスペーサ絶縁線材20、20の内側に配置される内側スペーサ絶縁線材40をさらに有することが好ましい。内側スペーサ絶縁線材40は、高周波電力伝送用電線1の横断面において、径方向における2本の電線10、10の接触を回避できる。内側スペーサ絶縁線材40は、電線10に対するスペーサの機能を有する。電線10と異なり、内側スペーサ絶縁線材40は、電線を流す素線や導線を具備しない。
【0033】
高周波電力伝送用電線1の横断面において、内側スペーサ絶縁線材40は、2本の電線10、10および2本のスペーサ絶縁線材20、20を備える撚線構造30の内側に配置される。内側スペーサ絶縁線材40は、高周波電力伝送用電線1の中心軸を通る芯線である。
【0034】
内側スペーサ絶縁線材40は、電気絶縁性を有し、電流を流さない。内側スペーサ絶縁線材40の形状は、円柱状である。例えば、図5に示すように、内側スペーサ絶縁線材40は、中実の円柱状である。
【0035】
高周波電力伝送用電線1が内側スペーサ絶縁線材40を有すると、高周波電力伝送用電線1の横断面において、径方向における、2本の電線10、10の接触を回避できると共に、2本の電線10、10の近接を抑制できることから、局所的な抵抗値の増加を抑制できる。そのため、近接効果による抵抗値の増加をさらに抑制できる。
【0036】
また、高周波電力伝送用電線1の横断面において、内側スペーサ絶縁線材40は、2本の電線10、10および2本のスペーサ絶縁線材20、20のうち、少なくとも1つと接触し、好ましくは2つと接触し、より好ましくは3つと接触し、最も好ましくは4つ、すなわち図5に示すように全てと接触している。内側スペーサ絶縁線材40が2本の電線10、10および2本のスペーサ絶縁線材20、20のいずれかと接触していると、2本の電線10、10および2本のスペーサ絶縁線材20、20を備える撚線構造30の形状の安定性が向上する。そして、内側スペーサ絶縁線材40と接触している電線10、10およびスペーサ絶縁線材20、20の数が増えるにつれて、撚線構造30の形状の安定性が向上する。
【0037】
このように、撚線構造30の形状の安定性が向上すると、高周波電力伝送用電線1の横断面において、電線10とスペーサ絶縁線材20とが周方向に亘って交互に配置される構成は、長期間に亘って安定して維持される。そのため、線間静電容量の低減効果と近接効果による抵抗値の増加の抑制とを良好に維持できる。
【0038】
このような撚線構造30の形状安定性を向上する観点から、好ましくは内側スペーサ絶縁線材40の線径d40が2本の電線10、10の線径および2本のスペーサ絶縁線材20、20の線径の平均値dに比べて小さく、より好ましくは平均値dに対する内側スペーサ絶縁線材40の線径d40の比(d40/d)が0.350以上0.450以下、さらに好ましくは比(d40/d)が0.410以上0.418以下、特に好ましくは比(d40/d)が0.412以上0.414以下である。例えば、平均値dは35mm程度である。
【0039】
また、図6に示すように、内側スペーサ絶縁線材40は中空であることが好ましい。内側スペーサ絶縁線材40が円筒のような中空であると、内側スペーサ絶縁線材40の内部には誘電率の低い空気が存在する。そのため、高周波電力伝送用電線1の線間静電容量をさらに低減できる。また、内側スペーサ絶縁線材40が中空であると、中実に比べて、軽量化できると共に材料コストを低減できる。
【0040】
また、高周波電力伝送用電線1の横断面において、径方向における2本の電線10、10の接触を回避できれば、内側スペーサ絶縁線材40の横断面形状は、高周波電力伝送用電線1の横断面における2本の電線10、10および2本のスペーサ絶縁線材20、20の内側の隙間形状に応じて適宜設定してもよく、例えば図7に示すような矩形でもよい。図7に示す矩形状の内側スペーサ絶縁線材40は、中実であるが、軽量化および材料コストを低減する観点から、中空でもよい。
【0041】
また、図8に示すように、内側スペーサ絶縁線材40は、1本のスペーサ絶縁線材20と、好ましくは2本のスペーサ絶縁線材20、20と接続してもよい。少なくとも1本のスペーサ絶縁線材20と接続する内側スペーサ絶縁線材40は、高周波電力伝送用電線1の延在方向に沿って、スペーサ絶縁線材20の一部分と接続してもよいし、スペーサ絶縁線材20の全体と接続してもよい。
【0042】
このように、内側スペーサ絶縁線材40がスペーサ絶縁線材20と接続し、内側スペーサ絶縁線材40とスペーサ絶縁線材20とが一体化すると、撚線構造30の形状の安定性がさらに向上するため、線間静電容量の低減効果と近接効果による抵抗値の増加の抑制とをさらに良好に維持できる。
【0043】
スペーサ絶縁線材20と接続する内側スペーサ絶縁線材40の横断面形状は、スペーサ絶縁線材20と接続できれば、図8に示すような矩形状でもよく、円状でもよい。
【0044】
また、図9に示すように、高周波電力伝送用電線1は、高周波電力伝送用電線1の横断面でみて、2本の電線10、10および2本のスペーサ絶縁線材20、20の外側に配置される絶縁被覆部50をさらに有してもよい。絶縁被覆部50は、円筒状であり、2本の電線10、10および2本のスペーサ絶縁線材20、20を備える撚線構造30を外側から覆う。
【0045】
高周波電力伝送用電線1が内側スペーサ絶縁線材40を具備しない場合であっても、高周波電力伝送用電線1が絶縁被覆部50を有すると、2本の電線10、10および2本のスペーサ絶縁線材20、20を備える撚線構造30の形状の安定性が向上する。また、高周波電力伝送用電線1が絶縁被覆部50を具備しない場合には、電線10からの発熱を効率的に放散できる。そのため、内側スペーサ絶縁線材40の有無や、高周波電力伝送用電線1の用途に応じて、高周波電力伝送用電線1への絶縁被覆部50の装着は適宜設定される。
【0046】
高周波電力伝送用電線1を構成する電線10は、高周波特性に優れた構造である。例えば、図10に示すように、電線10は、円柱状の樹脂線材11と、樹脂線材11の表面に巻回される複数の導線13と、複数の導線13を覆う被覆部14とを有する。
【0047】
樹脂線材11は、電気絶縁性を有し、複数の導線13と電気的に絶縁されている。図10では、樹脂線材11は、中空の円柱状、換言すると円筒状である例を示しているが、中実の円柱状でもよい。
【0048】
樹脂線材11の外周表面に巻回される複数の導線13は、複数の素線12から構成される。複数の素線12は、純銅などの銅系材料から構成される。すなわち、導線13は、複数の素線12を撚り合わせた撚線である。導線13の本数や素線12の本数は、高周波電力伝送用電線1の用途に応じて、適宜設定される。
【0049】
被覆部14は、円筒状であり、樹脂線材11の外周を巻回される複数の導線13を外側から覆う。被覆部14は、電気絶縁性を有し、複数の導線13と電気的に絶縁されている。
【0050】
また、高周波電力伝送用電線1を構成する電線10は、図11に示すように、リッツ線でもよい。リッツ線は、素線12を絶縁皮膜15で被覆したエナメル線16を複数本撚り合わせた撚線である。
【0051】
電線10の種類は、高周波電力伝送用電線1の用途に応じて、適宜設定される。
【0052】
また、線間静電容量の低減の効率化や近接効果による抵抗値増加の抑制の効率化の観点から、上記高周波電力伝送用電線1を流れる高周波電流の周波数の下限値は、好ましくは1kHz以上である。また、高周波電力伝送用電線1を流れる高周波電流の周波数の上限値は、特に限定されるものではなく、例えば100kHz以下である。
【0053】
高周波電力伝送用電線1は、高周波の電流を流して対象負荷に電力を給電する電線に好適である。特に、線間静電容量の低減および近接効果による抵抗値の増加の抑制が要求されている、自動車などの移動体への電力の供給で利用される非接触給電用の電線に好適である。
【0054】
以上説明した実施形態によれば、電線およびスペーサ絶縁線材の撚り構成、ならびに電線およびスペーサ絶縁線材の形状に着目し、電線と共にスペーサ絶縁線材を交互に撚り合わせることによって、高周波電力伝送用電線について、線間静電容量を低減できると共に、近接効果による抵抗値の増加を抑制できる。
【0055】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 高周波電力伝送用電線
10 電線
11 樹脂線材
12 素線
13 導線
14 被覆部
15 絶縁皮膜
16 エナメル線
20 スペーサ絶縁線材
30 撚線構造
40 内側スペーサ絶縁線材
50 絶縁被覆部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11