(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】複数のセンサー間での時刻同期方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240726BHJP
G01V 1/28 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01V1/28
(21)【出願番号】P 2021137694
(22)【出願日】2021-08-26
【審査請求日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2020199947
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年7月20日 一般社団法人日本建築学会発行のDVD 2020年度大会(関東)学術講演梗概集 建築デザイン発表梗概集に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貢一
(72)【発明者】
【氏名】上田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】関山 雄介
(72)【発明者】
【氏名】森川 隆
(72)【発明者】
【氏名】肥田 剛典
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-094733(JP,A)
【文献】特開2018-100875(JP,A)
【文献】特表2014-503818(JP,A)
【文献】特開2020-106524(JP,A)
【文献】特開2019-100914(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0328688(US,A1)
【文献】佐田 貴浩 他,構造ヘルスモニタリングにおける複数振動波形記録の事後同期補正法,日本建築学会構造系論文集,2017年12月,第82巻,第742号,1873-1883,DOI:http//doi.org/10.3130/aijs821873
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01V 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物内に設置されて地震時の加速度データを取得する、複数のセンサー同士の時刻を同期させる方法であって、
第1センサーと、当該第1センサーとは異なる位置に設置された第2センサーの各々から、第1加速度データと第2加速度データを取得する工程と、
前記第1加速度データと前記第2加速度データの、1自由度系の理論伝達関数を同定する工程と、
ガウス平面上に前記理論伝達関数をプロットし、これにより表示された図形の図心と原点とを結ぶ線のなす角度を算出し、前記角度を基に、前記第1加速度データに対する前記第2加速度データの時間増分推定量を算出する工程と、
前記時間増分推定量に基づいて、前記第1加速度データと前記第2加速度データとの間の時間のずれを補正する工程と、を含むことを特徴とする複数のセンサー間での時刻同期方法。
【請求項2】
前記第1加速度データと前記第2加速度データの暫定的な時間差を算出する工程と、
前記暫定的な時間差が増分時間閾値以上である場合には、前記第1加速度データとの時間差が前記増分時間閾値よりも小さくなるように、前記第2加速度データを時間軸方向に時間増分調整量だけ移動することで時間を調整し、前記第1加速度データとの間の時間差を調整する工程と、を更に備え、
前記理論伝達関数を同定する工程においては、時間が調整された第2加速度データを、前記第2加速度データとして、前記理論伝達関数を同定し、
前記時間増分推定量を算出する工程では、前記角度を基に、前記理論伝達関数の同定対象となった加速度データ間の時間差である時間差推定量を算出し、当該時間差推定量に、前記時間増分調整量を加算して、前記時間増分推定量を算出することを特徴とする請求項1に記載の複数のセンサー間での時刻同期方法。
【請求項3】
前記第1センサーと前記第2センサーは、鉛直方向に離間して設けられ、
前記第1加速度データと第2加速度データを取得する工程においては、前記第1センサー及び前記第2センサーの各々によって得られた鉛直方向の加速度データを、それぞれ前記第1加速度データ及び第2加速度データとして取得し、
前記時間増分推定量を算出する工程の後に、前記時間増分推定量が収束するまで、
算出された前記時間増分推定量を前記時間増分調整量として、前記第1加速度データとの時間差が小さくなるように、前記第2加速度データを時間軸方向に前記時間増分調整量だけ移動することで時間を調整し、前記第1加速度データとの間の時間差を調整する第2の工程と、
前記時間差を調整する第2の工程において時間が調整された第2加速度データを、前記第2加速度データとした、前記理論伝達関数を同定する工程と、
前記時間増分推定量を算出する工程と、
を実行して、前記時間増分推定量を更新することを繰り返す
ことを特徴とする請求項2に記載の複数のセンサー間での時刻同期方法。
【請求項4】
前記理論伝達関数を同定する工程においては、前記第1加速度データと前記第2加速度データを基に、部分空間法によるシステム同定を行うことで、前記理論伝達関数を同定することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の複数のセンサー間での時刻同期方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物内に設置される複数のセンサー間での時刻同期方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物内に、地震時の加速度データを取得するセンサーを複数設置する場合、複数のセンサー同士の時刻を同期させる必要がある。
センサー同士の時刻を同期させる方法として、例えば、センサー間を有線または無線により接続したシステムを構築することが考えられる。このうち、センサー間を無線により接続したシステムでは、GPS(Global Positioning System)やNTP(Network Time Protocol)サーバ等を用いてセンサー同士の時刻を同期させている。しかし、センサーにGPSやNTPサーバの機能を組み込むと消費電力が大きくなる。すると、外部電源の確保や内部バッテリーの大容量化が必要となり、センサーを備えた装置の大型化や運用コスト上昇に繋がる。また、通信環境に問題が生じた場合等においては、センサー間の同期がなされない可能性がある。また、例えば建築構造物が、スタジオやMRI(Magnetic Resonance Image)検査室、実験室等の、壁や床、天井等を電磁シールド構造とすることでシールド区画を形成しなければならないような室を含む場合等、通信環境の構築に制限が設けられると、上記のようなシステムを構築すること自体が困難である。更には、上記のようなシステムの構築には費用が嵩む。
したがって、上記のようなシステムを構築するのではなく、各センサーから出力させたデータを比較することによって、センサー間の時刻のずれを計算し、このずれの量を基に、センサー間の時刻を同期させることが行われている。
【0003】
例えば特許文献1には、建築構造物の互いに異なる位置に設置された複数の地震計によりそれぞれ求められた地震記録データの立ち上がり部分波形を抽出し、抽出した各地震記録データの立ち上がり部分波形を相互に比較して各地震記録データ間における同期点のずれ量を求める構成が開示されている。
特許文献1に開示されたような構成では、複数の地震計の地震記録データにおいて、振動の立ち上がり部分の波形を使用して時刻同期を行う。このため、振動の立ち上がり部分の記録が必須であり、何らかの原因で振動の立ち上がり部分の記録ができなかった場合には、時刻の同期に支障を来すことがある。また、地震記録データの立ち上がり部分の波形しか使用しないため、短い波形で時刻同期計算を行わねばならず、精度確保の面で改善の余地がある。さらに、地震記録データから立ち上がり部分波形を抽出する範囲の設定長さによって、時刻の同期結果が異なる可能性がある。
【0004】
また、特許文献2には、構造物の異なる位置に設置された複数の振動計が、構造物の振動系において、入力側に設置された第1振動計と、出力側に設置された第2振動計とを含み、第1振動計で測定された第1振動波形データと、第2振動計で測定された第2振動波形データとを取得し、構造物の振動特性である伝達関数を求め、第2振動波形データから伝達関数の影響を除去した第3振動波形データを求め、第1振動波形データと第3振動波形データとの相関に基づいて、第1振動波形データと第2振動波形データとの同期ずれ量を求める構成が開示されている。
特許文献2に開示されたような構成では、構造物の振動計の入力側における振動の計測を必須としている。また、入力側の第1振動波形データと、出力側の第2振動波形データとから求めた伝達関数の概念を利用するため、非線形を示す応答には対応しない。また、1質点系でモデル化することが困難な構造物に適用する場合には、構造物に応じた構造モデルによる伝達関数の算出が必要である。
【0005】
また、特許文献3には、木造建物の1階床付近又は床下基礎部分に設置された第1の住宅地震履歴計で得られた、時刻暦に沿ったX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の第1の加速度データと、木造建物の1階天井付近又は2階床付近に設置された第2の住宅地震履歴計で得られた、時刻暦に沿ったX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の第2の加速度データとを用い、第1の住宅地震履歴計からのZ軸方向の第1の加速度データと第2の住宅地震履歴計からのZ軸方向の第2の加速度データについて相関係数を算出し、その算出結果に基づいて第1の加速度データと第2の加速度データの間の時刻暦のずれを補正したうえで、木造建物が揺れた時の層間変位量の算出を行う構成が開示されている。
特許文献3に開示されたような構成は、木造建物を対象としたものである。鉄筋コンクリート造、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造等からなるビルディング等の建築構造物は、鉛直方向の1次固有振動数が十分に大きい低層の木造建物と異なり、鉛直方向の1次固有振動数が小さい。このため、特許文献3に開示された構成をそのまま建築構造物に適用しても、有効な時刻同期結果を得るのが難しい場合もある。
【0006】
このように、上記のような特許文献で開示された構成においては、容易、かつ正確に、センサー間の時刻を同期させることが容易ではない場合がある。よって、より容易かつ正確に、センサー間の時刻を同期させることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-327873号公報
【文献】特開2018-91824号公報
【文献】特開2018-100875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、センサー間で通信を行わずに、容易かつ正確にセンサー間の時刻を同期させることができる、複数のセンサー間での時刻同期方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明の複数のセンサー間での時刻同期方法は、建築構造物内に設置されて地震時の加速度データを取得する、複数のセンサー同士の時刻を同期させる方法であって、第1センサーと、当該第1センサーとは異なる位置に設置された第2センサーの各々から、第1加速度データと第2加速度データを取得する工程と、前記第1加速度データと前記第2加速度データの、1自由度系の理論伝達関数を同定する工程と、ガウス平面上に前記理論伝達関数をプロットし、これにより表示された図形の図心と原点とを結ぶ線のなす角度を算出し、前記角度を基に、前記第1加速度データに対する前記第2加速度データの時間増分推定量を算出する工程と、前記時間増分推定量に基づいて、前記第1加速度データと前記第2加速度データとの間の時間のずれを補正する工程と、を含むことを特徴とする。
このような構成によれば、第1センサー、第2センサーから取得した第1加速度データと第2加速度データの1自由度系の理論伝達関数によって、ガウス平面上に図形を表示する。その図形の図心とガウス平面の原点とを結ぶ線の角度を基に、第1加速度データと第2加速度データとの時間増分推定量を算出し、算出された時間増分推定量に基づいて、第1加速度データと第2加速度データとの間の時間のずれを補正する。このようにして、複数のセンサー間での時刻同期を実現することができる。
また、複数のセンサー間の時刻の同期を図るには、第1センサー、第2センサーの第1加速度データ、第2加速度データのみを用い、建築構造物についての付加的情報は必要ではない。また、第1センサー、第2センサーにおける計測時に同期を行うわけではなく、計測終了後に、第1加速度データ、第2加速度データを用いることで、複数のセンサー間の時刻の同期を図ることができる。また、時刻の同期を図るための計算に人為的操作が必要なく、第1センサー、第2センサーで得られた第1加速度データ、第2加速度データに基づいて一義的な結果を得ることができる。その結果、センサー間で通信を行わずに、容易かつ正確にセンサー間の時刻を同期させることができる、複数のセンサー間での時刻同期方法を提供することが可能となる。
【0010】
本発明の一態様においては、本発明の複数のセンサー間での時刻同期方法は、前記第1加速度データと前記第2加速度データの暫定的な時間差を算出する工程と、前記暫定的な時間差が増分時間閾値以上である場合には、前記第1加速度データとの時間差が前記増分時間閾値よりも小さくなるように、前記第2加速度データを時間軸方向に時間増分調整量だけ移動することで時間を調整し、前記第1加速度データとの間の時間差を調整する工程と、を更に備え、前記理論伝達関数を同定する工程においては、時間が調整された第2加速度データを、前記第2加速度データとして、前記理論伝達関数を同定し、前記時間増分推定量を算出する工程では、前記角度を基に、前記理論伝達関数の同定対象となった加速度データ間の時間差である時間差推定量を算出し、当該時間差推定量に、前記時間増分調整量を加算して、前記時間増分推定量を算出する。
第1加速度データと第2加速度データとの間の時間差が増分時間閾値以上である場合には、時間増分推定量が精度よく算出されない場合がある。
このような構成によれば、第1加速度データと第2加速度データとの暫定的な時間差を算出し、これが増分時間閾値以上である場合は、第2加速度データを時間軸方向に時間増分調整量だけ移動することで時間を調整する。このようにして時間が調整された第2加速度データと第1加速度データとの間で理論伝達関数を同定して、理論伝達関数の同定対象となった加速度データである、第1加速度データと時間が調整された第2加速度データとの間の時間差である時間差推定量を算出し、当該時間差推定量に、第2加速度データを調整した量である時間増分調整量を加算して、時間増分推定量を算出する。このようにして算出された時間増分推定量は、第1センサーと第2センサーにより得られたオリジナルの、第1加速度データと第2加速度データ間の、時間差となっている。このため、上記のようにして算出された時間増分推定量に基づいて、第1加速度データと第2加速度データとの間の時間のずれを補正することで、第1センサーと第2センサーの間の時刻を正しく同期することができる。
このように、第1加速度データと第2加速度データとの時間差が大きい場合でも、一方の加速度データを予め調整し、調整後の加速度データを用いて時間増分推定量を算出することで、複数のセンサー間での時刻同期を行うことができる。
なお、第1加速度データと第2加速度データとの暫定的な時間差が増分時間閾値以上でない場合においては、第2加速度データは時間軸方向に移動されずに時間が調整されない。このため、第1加速度データと、時間が調整されない、第2センサーによって取得されたオリジナルの第2加速度データとの間の理論伝達関数が同定され、これを用いて角度が算出されて、当該角度を基に、第1加速度データと、時間が調整されない、第2センサーによって取得されたオリジナルの第2加速度データとの間の時間差が、時間差推定量として算出される。この場合においては、第2加速度データは時間が調整されていないため、時間増分調整量は0である。したがって、第1加速度データと、時間が調整されない、第2センサーによって取得されたオリジナルの第2加速度データとの間の時間差の値となっている時間差推定量の値が、時間増分推定量として算出される。
このように、第1加速度データと第2加速度データとの時間差が大きくない場合でも、複数のセンサー間での時刻同期を行うことができる。
【0011】
本発明の別の態様においては、前記第1センサーと前記第2センサーは、鉛直方向に離間して設けられ、前記第1加速度データと第2加速度データを取得する工程においては、前記第1センサー及び前記第2センサーの各々によって得られた鉛直方向の加速度データを、それぞれ前記第1加速度データ及び第2加速度データとして取得し、前記時間増分推定量を算出する工程の後に、前記時間増分推定量が収束するまで、算出された前記時間増分推定量を前記時間増分調整量として、前記第1加速度データとの時間差が小さくなるように、前記第2加速度データを時間軸方向に前記時間増分調整量だけ移動することで時間を調整し、前記第1加速度データとの間の時間差を調整する第2の工程と、前記時間差を調整する第2の工程において時間が調整された第2加速度データを、前記第2加速度データとした、前記理論伝達関数を同定する工程と、前記時間増分推定量を算出する工程と、を実行して、前記時間増分推定量を更新することを繰り返す。
一般的に、建築構造物を構成する鉄骨やコンクリートの内部を伝わる弾性波の速度は、水平方向よりも鉛直方向のほうが速い。
また、第1センサーと第2センサーが鉛直方向に離間して、例えば第2センサーが第1センサーよりも上方に設けられた場合において、水平方向の波は、下方の第1センサーに到達した後、上方の第2センサーに到達するまでに、離間した階層の分だけ遅延する。このため、第1加速度データ及び第2加速度データとして水平方向の加速度データを用いた場合においては、第1加速度データと第2加速度データの間の時間のずれには、第1センサーと第2センサーの間の時刻のずれに加え、上記のような遅延時間も反映されているため、第1センサーと第2センサーの間の時刻のずれのみを正確に特定するのが難しい。
更に、水平方向の波は、水平面内に延びる第1方向と、当該第1方向に水平面内で直交する第2方向の、2つの方向の成分を有するため、いずれの成分を水平方向の加速度データとして用いればよいのか、判断が難しい。
これに対し、上記のような構成では、第1加速度データと第2加速度データを取得する工程においては、第1センサー及び第2センサーの各々によって得られた鉛直方向の加速度データを、それぞれ第1加速度データ及び第2加速度データとして取得している。このため、水平方向の加速度データを用いる場合に比べると、第1センサーと第2センサーの間の時刻のずれを、より正確に特定することができる。
また、上記のような構成においては、時間増分推定量を算出する工程によって、いったん第1加速度データに対する第2加速度データの時間差となる時間増分推定量を算出した後に、時間増分推定量を更新して、精度を向上させる。更新は、次のような処理を繰り返すことで行われる。まず、いったん算出された時間増分推定量を時間増分調整量として、第1加速度データとの時間差が小さくなるように、第2センサーによって取得されたオリジナルの第2加速度データを時間軸方向に、時間増分調整量だけ移動することで時間を調整して、第1加速度データとの間の時間差を調整する。このように時間が調整された第2加速度データを第2加速度データとして、上記の理論伝達関数を同定する工程を再度実行して、理論伝達関数を同定する。そして、上記の時間増分推定量を算出する工程を実行する。すなわち、再度同定された理論伝達関数を用いて、再度、時間差推定量を算出し、当該時間差推定量に、時間増分調整量である、上記のいったん算出された時間増分推定量を加算して、時間増分推定量を再度、算出する。すなわち、最後に算出された時間増分推定量を時間増分調整量として、第2加速度データの時間を調整し、これと第1加速度データとの間の時間差推定量を算出して、時間増分調整量すなわち最後に算出された時間増分推定量に加算して、時間増分推定量を新たに算出、更新することを繰り返す。この繰り返しにより、時間増分推定量は、第1センサーと第2センサーの間の時刻のずれの、本来の値に近づくように収束するとともに、時間差推定量は0に収束する。
このように、時間増分推定量が収束するまで処理を繰り返して時間増分推定量を更新することで、第1センサーと第2センサーの間の時刻のずれを、より正確に、計算することが可能となる。
【0012】
本発明の別の態様においては、本発明の複数のセンサー間での時刻同期方法は、前記理論伝達関数を同定する工程においては、前記第1加速度データと前記第2加速度データを基に、部分空間法によるシステム同定を行うことで、前記理論伝達関数を同定する。
このような構成によれば、第1センサー、第2センサー間の時間のずれを、1自由度系の理論伝達関数の、部分空間法によるシステム同定の結果を用いて補正することによって、センサーや建築構造物固有のノイズの影響を抑制することができる。これにより、時刻同期の高精度化を図り、より正確にセンサー間の時刻を同期させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、センサー間で通信を行わずに、容易かつ正確にセンサー間の時刻を同期させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る複数のセンサー間での時刻同期方法を実現するためのシステムの一例を示す図である。
【
図2】
図1の時刻同期システムにおける、複数のセンサー間での時刻同期方法の流れを示すフローチャートである。
【
図3】シミュレーションに基づいて、取得した第1加速度データ、第2加速度データの一例を示す図である。
【
図4】
図3に示した第1、第2加速度データの横軸を伸ばすとともに、第2加速度データの波形の時間が複数段階にずれた加速度データを示す図である。
【
図5】
図4に示した第1加速度データのフーリエスペクトルに対する、各第2加速度データのフーリエスペクトルの位相差を示す図である。
【
図6】
図4の各第2加速度データに対応した伝達関数を、ガウス平面上にプロットすることで形成された円を示すものである。
【
図7】
図3に示した第2加速度データを、時間差τが大きくなるように波形が大きくずれた第2加速度データと、基準となる第1加速度データとの例を示す図である。
【
図8】
図7に示した第1加速度データのフーリエスペクトルに対する、第2加速度データのフーリエスペクトルの位相差を示す図である。
【
図9】第2加速度データの第1加速度データに対する伝達関数を基に、ガウス平面上に形成された図形を示す図である。
【
図10】実際の建築構造物で観測された、ノイズが含まれている第1加速度データ、第2加速度データの一例を示す図である。
【
図11】
図10に示した第1加速度データのフーリエスペクトルに対する、第2加速度データのフーリエスペクトルの位相差を示すものである。
【
図12】
図10に示した第1加速度データに対する第2加速度データのフーリエ振幅スペクトル比を示す図である。
【
図13】
図12の伝達関数を基に、ガウス平面上に形成された図形を示している。
【
図14】
図10に示した第1加速度データ、第2加速度データから同定された1自由度系の理論伝達関数を、ガウス平面上にプロットした例を示す図である。
【
図15】算出された時間増分推定量と、
図4の時間がずれた各第2加速度データの時間ずれ量とを比較した図である。
【
図16】上記実施形態の変形例の時刻同期システムにおける、複数のセンサー間での時刻同期方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、建築構造物内に設置される時刻同期の取れていない複数センサー同士において、計測された時刻歴波形データを用いて、センサー間で時刻を同期させる複数のセンサー間での時刻同期方法である。本発明の特徴は、建築構造物内で計測された複数の時刻歴波形データ(加速度記録など)において、両者の加速度データから同定される1自由度系の理論伝達関数によって、ガウス平面上に表示される図形の図心と原点とを結ぶ線のなす角度を基に、時間のずれを補正する点である。
以下、添付図面を参照して、本発明による複数のセンサー間での時刻同期方法を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る複数のセンサー間での時刻同期方法を実現するための時刻同期システムの一例を示す図を
図1に示す。
図1に示されるように、時刻同期システム10は、第1センサー11と、第2センサー12と、システム本体20と、を主に備えている。
第1センサー11、第2センサー12は、ビルディング等の建築構造物1に設置されている。第1センサー11と、第2センサー12は、建築構造物1において、水平方向Xと、水平面内でこれに直交する水平方向Y、及び鉛直方向Zの各々で、互いに異なる位置に配置されている。本実施形態において、第1センサー11は、時刻同期システム10における基準となるセンサーであり、例えば、建築構造物1の地上1階フロア1FLに設置されている。第2センサー12(12A~12D)は、例えば、建築構造物1の地上2階フロア2FL、地上3階フロア3FL、地上4階フロア4FL、屋上フロアRFLのそれぞれに設置されている。第2センサー12は、建築構造物1の各階に設置することが必須ではなく、例えば、建築構造物1の屋上フロアRFL等、少なくとも一つが設置されていればよい。第1センサー11、第2センサー12は、それぞれ、加速度センサーである。第1センサー11は、地震発生時に、第1センサー11が設置された地上1階フロア1FLに生じた加速度の変化を示す、水平方向X、Y、及び鉛直方向Zの各々における、第1加速度データを取得する。第2センサー12は、地震発生時に、各々の第2センサー12が設置された階層に生じた加速度の変化を示す、水平方向X、Y、及び鉛直方向Zの各々における、第2加速度データを取得する。第1センサー11と第2センサー12は、それぞれ、取得した第1加速度データ、第2加速度データを、例えば、インターネット等の公衆無線網等の外部ネットワーク100を介し、外部に送信する。
【0016】
システム本体20は、コンピュータ装置からなるもので、予め設定されたコンピュータプログラムに基づいた処理を実行することで、複数のセンサー(第1センサー11、第2センサー12)間の時刻同期処理を自動的に行う。システム本体20は、例えばクラウドコンピュータであり、外部ネットワーク100に対し、無線又は有線により接続されている。システム本体20は、外部ネットワーク100を介して第1センサー11、第2センサー12から受信した加速度データ(第1加速度データ、第2加速度データ)に基づいて、第1センサー11と第2センサーとの間の時間のずれを補正する処理を実行する。システム本体20は、基準となる第1センサー11から受信した第1加速度データに対する、他の第2センサー12から受信した第2加速度データの関係に基づいて、第1センサー11と第2センサーとの間の時間のずれを補正する。
システム本体20は、データ受信部21と、相関関数取得部22と、データ調整部23と、伝達関数同定部24と、時間増分推定量算出部25と、時間ずれ補正部26と、を機能的に備えている。
【0017】
データ受信部21は、第1センサー11、第2センサー12で取得した第1加速度データ、第2加速度データを、外部ネットワーク100を介して受信(取得)する。
相関関数取得部22は、第1センサー11と第2センサー12から取得された第1加速度データと第2加速度データを基に、第1センサー11と第2センサー12との相互相関関数を算出する。
データ調整部23は、基準となる第1センサー11の第1加速度データと、第2センサー12の第2加速度データとの間で、時間差が大きい場合に、その時間差分を仮に調整(補正)する。
伝達関数同定部24は、第1加速度データと第2加速度データの、1自由度系の理論伝達関数を同定する。
時間増分推定量算出部25は、同定された理論伝達関数をガウス平面上にプロットし、これにより表示された図形の図心と原点とを結ぶ線のなす角度を算出する。時間増分推定量算出部25は、算出された角度を基に、第1加速度データに対する第2加速度データの時間増分推定量を算出する。
時間ずれ補正部26は、算出された時間増分推定量に基づいて、第1加速度データと第2加速度データとの間の時間のずれを補正する。
【0018】
次に、上記時刻同期システム10における複数のセンサー間での時刻同期方法について説明する。
図2は、時刻同期システムにおける、複数のセンサー間での時刻同期方法の流れを示すフローチャートである。
図2に示されるように、本実施形態における複数のセンサー間での時刻同期方法は、加速度データを取得する工程S1と、センサーを区別する工程S2と、相関関数を算出する工程S3と、加速度データの時間差を算出する工程S4と、時間差の調整の要否を判定する工程S5と、加速度データの時間差を調整する工程S6と、伝達関数を同定する工程S7と、時間増分推定量を算出する工程S8と、時間のずれを補正する工程S9と、を含む。
【0019】
加速度データを取得する工程S1では、データ受信部21が、第1センサー11、第2センサー12で取得した第1加速度データ、第2加速度データを、外部ネットワーク100を介して受信する。
図3は、シミュレーションに基づいて、建築構造物1の地上1階フロア1FLの第1センサー11で取得した第1加速度データ、屋上フロアRFLの第2センサー12Dで取得された第2加速度データの一例を示す図である。
図3に示すように、建築構造物1の地上1階フロア1FLで取得された第1加速度データよりも、屋上フロアRFLで取得された第2加速度データの方が、検出される加速度が大きい。
センサーを区別する工程S2では、工程S1で受信した複数のセンサー(第1センサー11、第2センサー12)の加速度データを、基準となる第1センサー11の第1加速度データと、それ以外の第2センサー12(12A~12D)の第2加速度データとに区別する。
【0020】
相関関数を算出する工程S3では、相関関数取得部22が、基準となる第1センサー11の第1加速度データと、それ以外の各々の第2センサー12の第2加速度データとの相互相関関数を算出する。相互相関関数は、例えば、下式(1)、(2)により算出される。下式(1)は、相互相関関数を離散的に表現した場合の式であり、下式(2)は、相互相関関数を連続的に表現した場合の式である。
【数1】
【0021】
上式によって得られる相互相関関数は、第1加速度データと第2加速度データとの波形の類似性を確認することができるものである。より具体的には、加速度データ同士の波形の初期の部分がどの程度一致しているか、もしくは時間差を確認する指標とすることができる。これにより、第1センサー11の第1加速度データと、第2センサー12の第2加速度データの時刻差をある程度確認することができる。
このように、工程S3で算出された相互相関関数に基づき、加速度データの暫定的な時間差を算出する工程S4では、データ調整部23が、第1センサー11の第1加速度データと、第2センサー12の第2加速度データとの、暫定的な時間差を算出する。
時間差の調整の要否を判定する工程S5では、データ調整部23が、工程S4で算出された暫定的な時間差が、予め設定された増分時間閾値以上であるか否かを判定する。暫定的な時間差が、増分閾値以上である場合、加速度データの時間差を調整する必要があると判定され、工程S6に進む。暫定的な時間差が、増分閾値未満である場合、加速度データの時間差を調整する必要が無いと判定され、工程S7に進む。
加速度データの時間差を調整する工程S6では、データ調整部23が、暫定的な時間差が増分時間閾値以上である場合に、第1加速度データとの時間差が増分時間閾値よりも小さくなるように、第2加速度データを時間軸方向に移動することで時間を調整し、第1加速度データとの間の時間差を調整する。このときの時間の調整量である時間増分調整量Δt
1は、後に、時間増分推定量を算出する工程S8において使用される。
図4は、
図3に示した第1、第2加速度データの横軸を伸ばすとともに、第2加速度データの波形の時間が複数段階にずれたものである。
図4(f)は、第1加速度データである。
図4(a)は、この第1加速度データに対応する、時刻のずれのない、本来の第2加速度データ(τ=0.00sec)である。この第2加速度データから、時間差τが、0.01sec、0.03sec、0.05sec、0.10secとなるように、それぞれ波形がずれた加速度データが、
図4(b)、(c)、(d)、(e)として、それぞれ示されている。
【0022】
伝達関数を同定する工程S7では、伝達関数同定部24が、第1加速度データに対する第2加速度データの、1自由度系の理論伝達関数を、部分空間法によるシステム同定を行うことにより同定する。ここで、工程S6で、第2加速度データの時間差を調整した場合、この工程S7では、伝達関数同定部24は、時間が調整された第2加速度データを用い、理論伝達関数を同定する。
【0023】
部分空間法においては、例えば、システムを、次式のような状態空間表現によって表現し、これに適合するようなモデルを同定する。次式において、x(t)は状態ベクトル、y(t)は出力ベクトル、u(t)は入力ベクトル、A、B、C、Dは定数行列である。
【数2】
このとき、eをネイピア数、iを虚数単位、Δtをサンプリング周期、λ
jを行列Aのj次の固有値とすると、伝達関数行列G(ω)とj次の固有振動数f
jは、次式(3)のようなものとなる。
【数3】
【0024】
図5は、
図4(f)に示した第1加速度データのフーリエスペクトルに対する、
図4(a)、(b)、(c)、(d)、(e)に示した各第2加速度データのフーリエスペクトルの位相差を示すものである。本データは、
図15を用いて後に説明するように、建築構造物の1次固有振動数を3.67として弾性動的解析を行って取得したものである。
図5は、第1加速度データと第2加速度データとの周波数と位相差との関係を示している。同定された伝達関数から、例えば1Hz以下の低い周波数の領域で、第1加速度データと第2加速度データとの位相がゼロ近傍であるか否かを確認する。これには、同定された伝達関数の位相が、例えば1Hz以下の低い周波数で、予め設定した範囲(例えば±1°以内)内に例えば90%以上含まれていれば、第1センサー11の第1加速度データと第2センサー12の第2加速度データとが同位相であると判断する。同位相であると判断できない場合には、相互相関解析を行い、できるだけ同位相となるような処理を適用する。
【0025】
時間増分推定量を算出する工程S8では、時間増分推定量算出部25が、工程S7で同定した伝達関数をガウス平面(複素平面)上にプロットする。すると、ガウス平面上に、図形が表示される。
図6は、
図4(a)、(b)、(c)、(d)、(e)に示した各第2加速度データに対応した伝達関数を、ガウス平面上にプロットすることで形成された円を示すものである。この
図6に示すように、
図4で時間が複数段階にずれた各第2加速度データの、第1加速度データを基準とした伝達関数によって表示される円は、円(図形)の図心と、ガウス平面の原点とを結ぶ線が、実軸との間に成す角度θが異なっている。
より詳細には、第1加速度データに対する、第2加速度データの時間のずれがない場合においては、円の中心は、虚軸上の、原点よりも下側に位置して、実軸の正方向からの時計回りの角度θは90°となっており、第1加速度データに対する、第2加速度データの時間のずれが大きいほど、角度θが90°から離れた値となっている。
なお、時間差τが0.00secの、時間がずれていない場合に比べ、原点を中心として、時計回り方向、すなわち角度θが90°よりも大きくなる方向に、円がずれた位置に在る場合においては、第2加速度データが第1加速度データより時刻が遅れていることを示している。また、反時計回り方向、すなわち角度θが90°よりも小さくなる方向に円がずれた位置に在る場合においては、第2加速度データが第1加速度データより時刻が進んでいることを示している。
【0026】
ここで、
図7は、
図3に示した第2加速度データを、時間差τが3.00secとなるように波形が大きくずれた第2加速度データと、基準となる第1加速度データとが示されている。
図8は、
図7に示した第1加速度データのフーリエスペクトルに対する、第2加速度データのフーリエスペクトルの位相差を示すものである。
図9は、第2加速度データの第1加速度データに対する伝達関数を基に、ガウス平面上に形成された図形を示している。
図7、
図8のように第1加速度データに対して第2加速度データの時間差が過度に大きい場合、
図9に示されるように、ガウス平面上には、円ではなく、螺旋状の図形が描かれてしまう。上記の工程S3~S6における、相互相関関数を導出して、暫定的な時間差が増分時間閾値以上である場合に、第1加速度データとの時間差が増分時間閾値よりも小さくなるように、第2加速度データを時間軸方向に時間増分調整量だけ移動することで時間を調整し、第1加速度データとの間の時間差を調整するまでの一連の処理は、このような螺旋状の図形が生成されず、円が生成されるようにするために行われる。換言すれば、増分時間閾値は、ガウス平面上に円が生成される値となるように、適切に設定されている。増分時間閾値は、例えば、
図3に示すシミュレーションで取得した第1加速度データ、及び第2加速度データにおいては、0.1秒に設定した。
【0027】
また、
図10は、第1センサー11の第1加速度データ、及び第2センサー12の第2加速度データに、センサー自体や周辺機器等によるノイズ、建築構造物1からのノイズが含まれている例である。
図11は、
図10に示した第1加速度データのフーリエスペクトルに対する、第2加速度データのフーリエスペクトルの位相差を示すものである。
図12は、第1加速度データに対する第2加速度データのフーリエ振幅スペクトル比を示す図である。
図13は、第1加速度データに対する第2加速度データの伝達関数を基に、ガウス平面上に形成された図形を示している。
図3から
図9までに示された各データは、弾性動的解析によって生成されたものであり、ノイズが含まれていないが、実際に取得される加速度データには、センサーや建築構造物固有のノイズが含まれる。建築構造物が静止していたとしても、加速度センサー内の半導体の振動や電気的なノイズが、加速度データとして収集されてしまい、これが加速度データにノイズとして表れる。
このようなノイズは、例えば
図10における第2加速度データにおいて、細かな波形として表れている。このようなノイズが含まれた加速度データから同定される伝達関数(
図12参照)では、
図13に示されるように、ガウス平面上に、時間のずれを把握できるような図形が描かれない。上記の工程S7で1自由度系の理論伝達関数を同定することにより、このようなノイズの影響を除去することができる。
図14は、同定された1自由度系の理論伝達関数を、ガウス平面上にプロットした例を示す図である。この
図14に示すように、1自由度系の理論伝達関数の同定結果を用いることで、ガウス平面上には、図形として円が表示される。
【0028】
時間増分推定量を算出する工程S8では、時間増分推定量算出部25が、上記のようにしてガウス平面上に表示された図形の図心と、ガウス平面の原点とを結ぶ線の、実軸との間に、より詳細には実軸の正方向から時計回りの方向に、なす角度θを算出する。
さらに、時間増分推定量を算出する工程S8では、時間増分推定量算出部25が、算出された、ガウス平面上に表示された図形の図心と原点とを結ぶ線のなす角度θを基に、第1加速度データに対する第2加速度データの時間増分推定量を算出する。より詳細には、時間増分推定量算出部25は、ガウス平面上に表示された図形の図心と原点とを結ぶ線の、実軸との間に、より詳細には実軸の正方向から時計回りの方向に、なす角度θの、時刻のずれのない本来の第2加速度データ(τ=0.00sec)に対して同様な処理を適用した場合の線の、実軸との間に、より詳細には実軸の正方向から時計回りの方向に、なす角度との差分値Δθを用い、時間差推定量Δt
2を、下式(4)により算出する。
【数4】
上式(4)における1次固有振動数f
1は、工程S7において式(3)として説明した式を基に求められる。
このとき、工程S6で、第2加速度データの時間を時間軸方向に時間増分調整量Δt
1だけ移動して調整し、第1加速度データとの間の時間差を調整した場合、この工程S8では、ガウス平面上に表示された図形の図心と原点とを結ぶ線のなす角度θを基に算出された値である時間差推定量Δt
2に、工程S6における時間増分調整量Δt
1を加算して、時間増分推定量(τ
x=Δt
1+Δt
2)を算出する。すなわち、角度θを基に、理論伝達関数の同定対象となった、第1加速度データと、時間が調整された第2加速度データの時間差として時間差推定量Δt
2を算出し、当該時間差推定量Δt
2に、時間増分調整量Δt
1を加算して、時間増分推定量τ
xを算出する。このようにして算出された時間増分推定量τ
xは、第1加速度データと、時間が調整される前の、第2センサー12によって得られたオリジナルの、第2加速度データの時間差を示す値となっている。
工程S6で、第2加速度データの時間を調整していない場合においては、時間増分調整量Δt
1は0であり、かつ、時間差推定量Δt
2は、理論伝達関数の同定対象となった、第1加速度データと、第2センサー12によって得られた、時間が調整されていない、オリジナルの第2加速度データの時間差として算出されている。このため、時間差推定量Δt
2の値がそのまま、時間増分推定量τ
xの値となる。
【0029】
時間のずれを補正する工程S9では、時間ずれ補正部26が、工程S8で算出された時間増分推定量(Δt1+Δt2)に基づいて、第1加速度データと第2加速度データとの間の時間のずれを補正する。具体的には、基準となる第1センサー11の第1加速度データの波形に対し、第2センサー12の第2加速度データの波形を、算出された時間増分推定量分だけ、時間軸方向にずらす。このようにして、第1センサー11と第2センサー12との時間のずれが補正される。この場合においては、波形をフーリエ変換し、周波数領域へと変換したうえで、e^(iωΔt)を乗算し、フーリエ逆変換して時間領域へと戻すと、例えば0.01秒以下の細かな時間のずれも補正できるため、より望ましい。
【0030】
上記のような時刻同期方法を評価するために、地表から上方に5つの節点が連続するような5質点系解析モデルを構築し、弾性動的解析を行った。各節点には質点質量を設け、この位置に加速度センサーを設けたものと想定した。1階の基部に地震波を1方向入力させ、各節点位置の加速度応答結果は、加速度センサーで取得した時刻歴加速度波形データと同等であるものとした。
5質点系解析モデルにおいては、最上層の節点の質量を14.26トン、他の節点の質量を15.55トンとした。また、各質点を繋ぐバネを98.85MN/m、減衰定数を0.03、1次固有振動数を3.67とした。最下層の節点と最上層の節点の加速度データを検討対象とした。また、動的解析時のサンプリング時間を0.01秒とし、入力地震波は、2011年東北地方太平洋沖地震の築館で観測された加速度データを最大加速度100ガルに基準化したものを用いた。
図3として示した第1加速度データと第2加速度データは、上記のような動的解析において取得されたものである。この第2加速度データの時間をずらして、
図4に示されるような、第1加速度データからの時間のずれ量τが、0.00秒、0.01秒、0.03秒、0.05秒、及び0.10秒の各々となるような第2加速度データを生成した。
図15は、工程S8で算出された時間増分推定量τ
xと、上記のように取得された各第2加速度データの時間ずれ量とを比較した図である。この
図15に示すように、工程9で算出された時間増分推定量τ
xは、
図4に示した、時間がずれた第2加速度データの時間ずれ量τに対し、高精度で近似している。
【0031】
上述したような複数のセンサー間での時刻同期方法によれば、建築構造物1内に設置されて地震時の加速度データを取得する、複数のセンサー(第1センサー11、第2センサー12)同士の時刻を同期させる方法であって、第1センサー11と、当該第1センサー11とは異なる位置に設置された第2センサー12の各々から、第1加速度データと第2加速度データを取得する工程S1と、第1加速度データと第2加速度データの、1自由度系の理論伝達関数を同定する工程S7と、ガウス平面上に理論伝達関数をプロットし、これにより表示された図形の図心と原点とを結ぶ線のなす角度θを算出し、角度θを基に、第1加速度データに対する第2加速度データの時間増分推定量τxを算出する工程S8と、時間増分推定量τxに基づいて、第1加速度データと第2加速度データとの間の時間のずれを補正する工程S9と、を含む。
このような構成によれば、第1センサー11、第2センサー12から取得した第1加速度データと第2加速度データの1自由度系の理論伝達関数によって、ガウス平面上に図形を表示する。その図形の図心とガウス平面の原点とを結ぶ線の角度θを基に、第1加速度データと第2加速度データとの時間増分推定量τxを算出し、算出された時間増分推定量τxに基づいて、第1加速度データと第2加速度データとの間の時間のずれを補正する。このようにして、複数のセンサー(第1センサー11、第2センサー12)間での時刻同期を実現することができる。
また、複数のセンサー(第1センサー11、第2センサー12)間の時刻の同期を図るには、第1センサー11、第2センサー12の第1加速度データ、第2加速度データのみを用い、建築構造物1についての付加的情報は必要ではない。また、第1センサー11、第2センサー12における計測時に同期を行うわけではなく、計測終了後に、第1加速度データ、第2加速度データを用いることで、複数のセンサー(第1センサー11、第2センサー12)間の時刻の同期を図ることができる。また、時刻の同期を図るための計算に人為的操作が必要なく、第1センサー11、第2センサー12で得られた第1加速度データ、第2加速度データに基づいて一義的な結果を得ることができる。その結果、センサー間で通信を行わずに、容易かつ正確にセンサー間の時刻を同期させることができる、複数のセンサー間での時刻同期方法を提供することが可能となる。
【0032】
また、上記したような複数のセンサー間での時刻同期方法は、第1加速度データと第2加速度データの暫定的な時間差を算出する工程S4と、暫定的な時間差が増分時間閾値以上である場合には、第1加速度データとの時間差が増分時間閾値よりも小さくなるように、第2加速度データを時間軸方向に時間増分調整量Δt1だけ移動することで時間を調整し、第1加速度データとの間の時間差を調整する工程S5と、を更に備えている。理論伝達関数を同定する工程S7においては、時間が調整された第2加速度データを、第2加速度データとして、理論伝達関数を同定する。時間増分推定量を算出する工程S8では、角度θを基に、理論伝達関数の同定対象となった加速度データ間の時間差である時間差推定量Δt2を算出し、当該時間差推定量Δt2に、時間増分調整量Δt1を加算して、時間増分推定量τxを算出する。
第1加速度データと第2加速度データとの間の時間差が増分時間閾値以上である場合には、時間増分推定量τxが精度よく算出されない場合がある。
このような構成によれば、第1加速度データと第2加速度データとの暫定的な時間差を算出し、これが増分時間閾値以上である場合は、第2加速度データを時間軸方向に時間増分調整量Δt1だけ移動することで時間を調整する。このようにして時間が調整された第2加速度データと第1加速度データとの間で理論伝達関数を同定して、理論伝達関数の同定対象となった加速度データである、第1加速度データと時間が調整された第2加速度データとの間の時間差である時間差推定量Δt2を算出し、当該時間差推定量Δt2に、第2加速度データを調整した量である時間増分調整量Δt1を加算して、時間増分推定量τxを算出する。このようにして算出された時間増分推定量τxは、第1センサー11と第2センサー12により得られたオリジナルの、第1加速度データと第2加速度データ間の、時間差となっている。このため、上記のようにして算出された時間増分推定量τxに基づいて、第1加速度データと第2加速度データとの間の時間のずれを補正することで、第1センサー11と第2センサー12の間の時刻を正しく同期することができる。
このように、第1加速度データと第2加速度データとの時間差が大きい場合でも、一方の加速度データを予め調整し、調整後の加速度データを用いて時間増分推定量τxを算出することで、複数のセンサー(第1センサー11、第2センサー12)間での時刻同期を行うことができる。
なお、第1加速度データと第2加速度データとの暫定的な時間差が増分時間閾値以上でない場合においては、第2加速度データは時間軸方向に移動されずに時間が調整されない。このため、第1加速度データと、時間が調整されない、第2センサー12によって取得されたオリジナルの第2加速度データとの間の理論伝達関数が同定され、これを用いて角度θが算出されて、当該角度θを基に、第1加速度データと、時間が調整されない、第2センサー12によって取得されたオリジナルの第2加速度データとの間の時間差が、時間差推定量Δt2として算出される。この場合においては、第2加速度データは時間が調整されていないため、時間増分調整量Δt1は0である。したがって、第1加速度データと、時間が調整されない、第2センサー12によって取得されたオリジナルの第2加速度データとの間の時間差の値となっている時間差推定量Δt2の値が、時間増分推定量τxとして算出される。
このように、第1加速度データと第2加速度データとの時間差が大きくない場合でも、複数のセンサー(第1センサー11、第2センサー12)間での時刻同期を行うことができる。
【0033】
また、上記したような複数のセンサー間での時刻同期方法は、理論伝達関数を同定する工程S7においては、第1加速度データと第2加速度データを基に、部分空間法によるシステム同定を行うことで、理論伝達関数を同定する。
このような構成によれば、第1センサー11、第2センサー12間の時間のずれを、1自由度系の理論伝達関数の、部分空間法によるシステム同定の結果を用いて補正することによって、センサーや建築構造物固有のノイズの影響を抑制することができる。これにより、時刻同期の高精度化を図り、より正確にセンサー間の時刻を同期させることができる。
【0034】
(実施形態の変形例)
次に、
図16を用いて、上記実施形態として示した時刻同期方法の変形例を説明する。
図16は、本第1変形例の時刻同期システムにおける、複数のセンサー間での時刻同期方法の流れを示すフローチャートである。本変形例における時刻同期方法は、上記実施形態とは、第1加速度データ及び第2加速度データが鉛直方向の加速度データであること、及び、時間増分推定量が収束するまで時間増分推定量を更新する点が異なっている。
時刻同期システムの構成自体は
図1に示される上記実施形態と同様であるため、以下では、主に
図1と
図16を用いて、本変形例における時刻同期方法を説明する。
【0035】
上記実施形態と同様に、本変形例においても、第1センサー11は地上1階フロア1FLに設置され、第2センサー12は地上1階フロア1FLよりも上の階層に、第1センサーから鉛直方向に離間して設けられる。第1センサー11は、地震発生時に、地上1階フロア1FLの、水平方向X、Y、及び鉛直方向Zの各々における、第1加速度データを取得する。第2センサー12は、地震発生時に、第2センサー12が設置された階層に生じた加速度の変化を示す、水平方向X、Y、及び鉛直方向Zの各々における、第2加速度データを取得する。
本変形における加速度データを取得する工程S1Aでは、データ受信部21が、第1センサー11、第2センサー12の各々によって得られた鉛直方向の加速度データを、それぞれ第1加速度データ、第2加速度データとして、外部ネットワーク100を介して受信して取得する。
【0036】
建築構造物を構成する鉄骨やコンクリートの内部を伝わる弾性波に関し、縦波の速さV
pは、Eを弾性係数、ρを密度、νをポアソン比とすると、次の式(5)により表すことができる。
【数5】
他方、横波の速さV
sは、次の式(6)により表すことができる。
【数6】
理論上は、ポアソン比νは-1より大きく1/2より小さい範囲内の値をとり得る。この範囲の値においては、縦波の速さV
pを構成する、式(5)中の(1-ν)/(1+ν)(1-2ν)の値は、横波の速さV
sを構成する、式(6)中の1/2(1+ν)の値よりも大きくなる。
このように、弾性波の速度は、水平方向よりも鉛直方向のほうが、一般的には速くなる。
【0037】
また、本変形例のように第1センサー11と第2センサー12が鉛直方向に離間して、例えば第2センサー12が第1センサー11よりも上方に設けられた場合において、水平方向の波は、下方の第1センサー11に到達した後、上方の第2センサー12に到達するまでに、離間した階層の分だけ遅延する。このため、第1加速度データ及び第2加速度データとして水平方向の加速度データを用いた場合においては、第1加速度データと第2加速度データの間の時間のずれには、第1センサー11と第2センサー12の間の時刻のずれに加え、上記のような遅延時間も反映されているため、第1センサー11と第2センサー12の間の時刻のずれのみを正確に特定するのが難しい。
更に、水平方向の波は、水平面内に延びる第1方向Xと、当該第1方向Xに水平面内で直交する第2方向Yの、2つの方向の成分を有するため、いずれの成分を水平方向の加速度データとして用いればよいのか、判断が難しい。
このような理由に拠り、本変形例においては、上記のように、第1センサー11及び第2センサー12の各々によって得られた鉛直方向の加速度データを、それぞれ第1加速度データ及び第2加速度データとして取得している。
【0038】
図16に示される工程S2から工程S8までは、上記実施形態と同様である。
すなわち、センサーを区別する工程S2では、工程S1Aで受信した各加速度データを、基準となる第1センサー11の第1加速度データと、それ以外の第2センサー12の第2加速度データとに区別する。
相関関数を算出する工程S3では、相関関数取得部22が、第1加速度データと、第2加速度データとの相互相関関数を算出する。
加速度データの暫定的な時間差を算出する工程S4では、データ調整部23が、第1加速度データと第2加速度データとの、暫定的な時間差を算出する。
時間差の調整の要否を判定する工程S5では、データ調整部23が、工程S4で算出された暫定的な時間差が、予め設定された増分時間閾値以上であるか否かを判定する。暫定的な時間差が、増分閾値以上である場合、工程S6に進む。暫定的な時間差が、増分閾値未満である場合、工程S7に進む。
加速度データの時間差を調整する工程S6では、データ調整部23が、暫定的な時間差が増分時間閾値以上である場合に、第1加速度データとの時間差が増分時間閾値よりも小さくなるように、第2加速度データを時間軸方向に時間増分調整量Δt
1だけ移動することで時間を調整し、第1加速度データとの間の時間差を調整する。
伝達関数を同定する工程S7では、伝達関数同定部24が、第1加速度データに対する第2加速度データの、1自由度系の理論伝達関数を、部分空間法によるシステム同定を行うことにより同定する。
時間増分推定量を算出する工程S8では、時間増分推定量算出部25が、工程S7で同定した伝達関数をガウス平面(複素平面)上にプロットする。すると、ガウス平面上に、図形が表示される。時間増分推定量算出部25は、ガウス平面上に表示された図形の図心と、ガウス平面の原点とを結ぶ線の、実軸との間に、より詳細には実軸の正方向から時計回りの方向に、なす角度θを算出する。
時間増分推定量算出部25は、算出された角度θを基に、理論伝達関数の同定対象となった加速度データ間の時間差である時間差推定量Δt
2を算出し、当該時間差推定量Δt
2に、時間増分調整量Δt
1を加算して、第1加速度データに対する第2加速度データの時間増分推定量τ
xを算出する。
【0039】
上記のようにして時間増分推定量τxを算出した後に、本変形例の時刻同期システムにおいては、以下に説明するように、時間増分推定量τxが収束するまで、時間増分推定量τxを更新する。
まず、工程S10では、時刻同期システムは、時間増分推定量τxが収束したか否かを判定する。本変形例においては、時間増分推定量を算出する工程S8において算出された時間差推定量Δt2が0に一致するか否かを判定している。
加速度データの時間差を調整する工程S6が実行されず、第1加速度データと、第2センサー12によって得られた、時間が調整されていない、オリジナルの第2加速度データとの間で、時間差推定量Δt2が算出された場合には、時間増分調整量Δt1の値は0であると考えられる。このため、時間差推定量Δt2が0に一致するということは、時間増分調整量Δt1と時間差推定量Δt2の和として表現される時間増分推定量τxも0であり、第1加速度データと、オリジナルの第2加速度データとの時刻が一致していることを意味する。したがって、時間増分推定量τxは既に収束し、その結果として0の値となっていると判断し、処理を終了する。
また、加速度データの時間差を調整する工程S6が実行され、第1加速度データと、工程S6において時間が調整された第2加速度データとの間で、時間差推定量Δt2が算出された場合において、時間差推定量Δt2が0に一致するということは、第1加速度データと、オリジナルの第2加速度データとの時刻が、ちょうど、工程S6における時間の調整量である時間増分調整量Δt1だけずれていることを意味する。すなわち、時間増分推定量τxは既に、時間増分調整量Δt1の値へと収束していると判断し、時間増分推定量τxの値だけ、第2加速度データの時間を調整して、第1加速度データと第2加速度データとの間の時間のずれを補正した後、処理を終了する。
上記のいずれの場合においても、時間差推定量Δt2が0に一致しないと、時間増分推定量τxは未だ収束しておらず、更なる値の調整、更新の余地があると判断し、次に説明する工程S11に遷移する。
なお、上記の説明においては、時間増分推定量τxが収束したか否かを、時間差推定量Δt2が0に一致するか否かにより判定したが、これに替えて、例えば時間差推定量Δt2の絶対値が、例えば0.01等、十分に0に近く小さい所定の判定閾値よりも小さいか否かにより、判定するようにしてもよい。
【0040】
工程S10において、時間差推定量Δt2が0に一致しない場合には、工程S11において、時間増分推定量τxを時間増分調整量Δt1の値とする。すなわち、時間増分調整量Δt1を、その値が、工程S8において算出された時間増分推定量τxの値となるように、設定する。
そのうえで、時間差を調整する第2の工程S12において、加速度データの時間差を調整する工程S6と同様に、データ調整部23が、第2センサー12によって得られた、時間が調整されていない、オリジナルの第2加速度データを、第1加速度データとの時間差が小さくなるように、時間軸方向に、時間増分調整量Δt1だけ、すなわち工程S8において算出された時間増分推定量τxだけ移動することで時間を調整し、第1加速度データとの間の時間差を調整する。
そして、伝達関数を同定する工程S7では、伝達関数同定部24が、時間差を調整する第2の工程S12において時間が調整された第2加速度データを、第2加速度データとして、第1加速度データに対する第2加速度データの、1自由度系の理論伝達関数を、部分空間法によるシステム同定を行うことにより、改めて、同定する。
時間増分推定量を算出する工程S8では、時間増分推定量算出部25が、工程S7で改めて同定した伝達関数を、ガウス平面(複素平面)上にプロットする。時間増分推定量算出部25は、ガウス平面上に表示された図形の図心と、ガウス平面の原点とを結ぶ線の、実軸との間に、より詳細には実軸の正方向から時計回りの方向に、なす角度θを算出する。
時間増分推定量算出部25は、算出された角度θを基に、理論伝達関数の同定対象となった加速度データ間の、すなわち、第1加速度データと、時間差を調整する第2の工程S12において、前回の工程S8において算出された時間増分推定量τxだけ時間が調整された第2加速度データとの間の、時間差である時間差推定量Δt2を算出し、当該時間差推定量Δt2に、時間増分調整量Δt1すなわち前回の工程S8において算出された時間増分推定量τxを加算して、第1加速度データに対する第2加速度データの時間増分推定量τxを、改めて算出することで、時間増分推定量τxの値を更新する。
【0041】
そして、再度、工程S10で、時刻同期システムは、時間増分推定量τxが収束したか否かを判定する。
このように、工程S10で時間増分推定量τxが収束していないと一度判定され、(更新前の)時間増分推定量τxの値だけ時間が調整された第2加速度データの、第1加速度データに対する時間差推定量Δt2が改めて算出されて、時間増分推定量τxが更新された場合において、時間差推定量Δt2が0に一致するということは、更新前の時間増分推定量τxと更新後の時間増分推定量τxが一致して時間増分推定量τxが収束し、結果として、第1加速度データと、オリジナルの第2加速度データとの時刻が、ちょうど、工程S12における時間の調整量である時間増分推定量τxだけずれていることを示す。したがって、第1加速度データと、オリジナルの第2加速度データとの時間差がちょうど時間増分推定量τxであることが判明し、なおかつ第2の工程S11において、この時間増分推定量τxだけ第2加速度データの時間が既に調整されて正しく補正されているため、処理を終了する。
【0042】
ここで、時間増分推定量τxは、時間増分調整量Δt1すなわち当該時間増分推定量τxの値に対して計算された時間差推定量Δt2の値が加算されることで更新される。時間差推定量Δt2の値は、換言すれば、第1加速度データと、オリジナルの第2加速度データとの時間差に対する、時間増分推定量τxの誤差であり、この誤差である時間差推定量Δt2の値が時間増分推定量τxに加算されることで、更新前に比べると、時間増分推定量τxの値はより正確になっている。
したがって、工程S10において、時間差推定量Δt2が0に一致しないと判定された場合には、再度工程S11に遷移し、当該工程S11、時間差を調整する第2の工程S12、伝達関数を同定する工程S7、及び時間増分推定量を算出する工程S8を繰り返す。
このようにして、工程S11、S12、S7、S8の繰り返しを重ねるにつれて、時間差推定量Δt2の値がより0に近づくようになり、すなわち時間増分推定量τxの値が第1加速度データと、オリジナルの第2加速度データとの間の、本来の時間差に近づくようになる。
そして、工程S10において、時間差推定量Δt2の値が0に一致した場合に、上記のように、時間増分推定量τxが収束したと判定し、処理を終了する。
【0043】
本変形例の構成においては、第1センサー11と第2センサー12は、鉛直方向に離間して設けられ、第1加速度データと第2加速度データを取得する工程S1Aにおいては、第1センサー11及び第2センサー12の各々によって得られた鉛直方向の加速度データを、それぞれ第1加速度データ及び第2加速度データとして取得し、時間増分推定量τxを算出する工程S8の後に、時間増分推定量τxが収束するまで、算出された時間増分推定量τxを時間増分調整量Δt1として、第1加速度データとの時間差が小さくなるように、第2加速度データを時間軸方向に時間増分調整量Δt1だけ移動することで時間を調整し、第1加速度データとの間の時間差を調整する第2の工程S12と、時間差を調整する第2の工程S12において時間が調整された第2加速度データを、第2加速度データとした、理論伝達関数を同定する工程S7と、時間増分推定量τxを算出する工程S8と、を実行して、時間増分推定量τxを更新することを繰り返す。
既に説明したように、第1センサー11及び第2センサー12の各々によって得られた鉛直方向の加速度データを、それぞれ第1加速度データ及び第2加速度データとして取得することにより、水平方向の加速度データを用いる場合に比べると、第1センサー11と第2センサー12の間の時刻のずれを、より正確に特定することができる。
また、上記のような構成においては、時間増分推定量τxを算出する工程S8によって、いったん第1加速度データに対する第2加速度データの時間差となる時間増分推定量τxを算出した後に、時間増分推定量τxを更新して、精度を向上させる。更新は、次のような処理を繰り返すことで行われる。まず、いったん算出された時間増分推定量τxを時間増分調整量Δt1として、第1加速度データとの時間差が小さくなるように、第2センサー12によって取得されたオリジナルの第2加速度データを時間軸方向に、時間増分調整量Δt1だけ移動することで時間を調整して、第1加速度データとの間の時間差を調整する。このように時間が調整された第2加速度データを第2加速度データとして、上記の理論伝達関数を同定する工程S7を再度実行して、理論伝達関数を同定する。そして、上記の時間増分推定量τxを算出する工程S8を実行する。すなわち、再度同定された理論伝達関数を用いて、再度、時間差推定量Δt2を算出し、当該時間差推定量Δt2に、時間増分調整量Δt1である、上記のいったん算出された時間増分推定量τxを加算して、時間増分推定量τxを再度、算出する。すなわち、最後に算出された時間増分推定量τxを時間増分調整量Δt1として、第2加速度データの時間を調整し、これと第1加速度データとの間の時間差推定量Δt2を算出して、時間増分調整量Δt1すなわち最後に算出された時間増分推定量τxに加算して、時間増分推定量τxを新たに算出、更新することを繰り返す。この繰り返しにより、時間増分推定量τxは、第1センサー11と第2センサー12の間の時刻のずれの、本来の値に近づくように収束するとともに、時間差推定量Δt2は0に収束する。
このように、時間増分推定量τxが収束するまで処理を繰り返して時間増分推定量τxを更新することで、第1センサー11と第2センサー12の間の時刻のずれを、より正確に、計算することが可能となる。
【0044】
(その他の変形例)
なお、本発明の複数のセンサー間での時刻同期方法は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態においては、建築構造物1の地上1階フロア1FLに設置されたセンサーを第1センサー11とし、他の階層に設置されたセンサーを第2センサー12としたが、これに限られない。例えば、建築構造物1の屋上フロアRFLに設置されたセンサーを第1センサー11とし、地上1階フロア1FL等、他の階層に設置されたセンサーを第2センサー12としてもよい。
また、上記実施形態においては、第1センサー11は建築構造物1の地上1階フロア1FLに設置され、第2センサー12は屋上フロアRFLに設置されていたが、これに限られず、地上1階フロア1FL、屋上フロアRFL以外の階層に設けられても構わない。第1センサー11は1階でなくてもよく、地下の免震層、また基礎底盤上に設置しても良い。また、第1センサー11は第2センサー12より下層階に設置されていればよく、双方ともに建物の2階以上の中間階に設置する場合であっても良い。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…建築構造物 12…第2センサー
11…第1センサー θ…角度