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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】磁気波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 16/02 20060101AFI20240726BHJP
   H02K 7/10 20060101ALI20240726BHJP
   F16H 49/00 20060101ALN20240726BHJP
【FI】
H02K16/02
H02K7/10 A
F16H49/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023539228
(86)(22)【出願日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2021028562
(87)【国際公開番号】W WO2023012855
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 洋介
(72)【発明者】
【氏名】宮武 亮治
(72)【発明者】
【氏名】山本 篤史
(72)【発明者】
【氏名】米谷 晴之
(72)【発明者】
【氏名】新口 昇
(72)【発明者】
【氏名】平田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】高原 一晶
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛典
(72)【発明者】
【氏名】伊東 拓哉
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-135014(JP,A)
【文献】特開2004-075353(JP,A)
【文献】特開2007-129839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 16/02
H02K 7/10
F16H 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に複数のスロットを備えた固定子鉄心、前記スロット内に配置された固定子巻線および固定子磁石を有する固定子と、
前記固定子の内径側に空隙を介して配置された第1回転子と、
前記第1回転子の回転軸と同心で、前記第1回転子の内径側に空隙を介して配置された第2回転子とを有する磁気波動歯車装置であって、
前記第2回転子は、周方向に並んで配置された複数の回転子磁石挿入孔を備えた第2回転子鉄心と、複数の前記回転子磁石挿入孔にそれぞれ挿入された複数の回転子磁石とを有しており、
前記第1回転子は、円筒状の第1回転子鉄心と、前記第2回転子より前記回転軸方向の外側で前記第1回転子鉄心と前記回転軸とを締結する第1回転子端板とを備えており、
前記第1回転子端板は、前記回転軸方向の外側から前記回転子磁石を前記第2回転子鉄心の前記回転子磁石挿入孔に挿入可能とする回転子磁石通過孔を有することを特徴とする磁気波動歯車装置。
【請求項2】
前記回転子磁石は、前記第2回転子の周方向および軸方向の少なくとも一方に並んで配置された複数の分割磁石片で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気波動歯車装置。
【請求項3】
前記第1回転子端板は複数のスポークを有する形状であり、複数の前記スポークの間の少なくとも1つの開口部の幅が前記回転子磁石挿入孔の幅よりも大きく、当該1つの開口部が前記回転子磁石通過孔であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気波動歯車装置。
【請求項4】
前記第1回転子端板は円板形状であり、前記第1回転子端板は前記回転子磁石挿入孔の幅よりも広い幅を有する少なくとも1つの開口部を有し、当該1つの開口部が前記回転子磁石通過孔であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、磁気波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置の発電機として磁気減速機と回転機とを一体化させた磁気波動歯車装置が知られている。磁気波動歯車装置は、低速回転子と、低速回転子と同軸状に設けられた高速回転子と、固定子巻線および永久磁石を有する固定子とで構成されている。磁気波動歯車装置は、機械的な摩耗が発生する機械式変速機を用いることなく、非接触で回転子の回転速度を変えることができる。そのため、磁気波動歯車装置においては、機械的な摩耗に対するメンテナンスの負荷が軽減される。また、磁気波動歯車装置を風力発電装置の発電機として用いる場合、1つの装置で変速と発電とが可能となるので、発電システムの小型化、省スペース化が実現できる。
【0003】
従来の磁気波動歯車装置として、複数の永久磁石を有する固定子と、複数の回転子磁石を有する高速回転子と、複数の磁極片を有する低速回転子とが同心状に配置された磁気波動歯車装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-135014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固定子の複数の永久磁石は、同一方向に極を作るように径方向に着磁されている。磁気波動歯車装置においては、高速回転子を固定子に挿入した後に固定子巻線への通電によって高速回転子の回転子磁石を着磁することは困難である。そのため、従来の磁気波動歯車装置においては、着磁された回転子磁石が組み込まれた高速回転子を固定子に挿入する必要がある。着磁された回転子磁石が組み込まれた高速回転子を固定子に挿入するときに、固定子の永久磁石と高速回転子の回転子磁石との間に磁気吸引力が働く。この磁気吸引力は、高速回転子に対して挿入方向と直角な方向の力となる。そのため、従来の磁気波動歯車装置においては、精度よく高速回転子を固定子に挿入することが困難であり、組み立て作業の効率が低いという問題があった。
【0006】
組み立て作業の効率を向上させるために、高速回転子と固定子との間の空隙を広げることが考えられる。しかしながら、高速回転子と固定子との間の空隙を広げると固定子磁石と回転子磁石との間隔が広くなり、磁気波動歯車装置のエネルギー変換効率が低下するという問題がある。つまり、従来の磁気波動歯車装置においては、組み立て作業の効率向上とエネルギー変換効率の低下抑制とが両立できないという問題があった。
【0007】
本願は上述のような課題を解決するためになされたもので、組み立て作業の効率向上とエネルギー変換効率の低下抑制とを両立できる磁気波動歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の磁気波動歯車装置は、周方向に複数のスロットを備えた固定子鉄心、スロット内に配置された固定子巻線および固定子磁石を有する固定子と、固定子の内径側に空隙を介して配置された第1回転子と、第1回転子の回転軸と同心で、第1回転子の内径側に空隙を介して配置された第2回転子とを有している。そして、第2回転子は、周方向に並んで配置された複数の回転子磁石挿入孔を備えた第2回転子鉄心と、複数の回転子磁石挿入孔にそれぞれ挿入された複数の回転子磁石とを有しており、第1回転子は、円筒状の第1回転子鉄心と、第2回転子より回転軸方向の外側で第1回転子鉄心と回転軸とを締結する第1回転子端板とを備えており、第1回転子端板は、回転軸方向の外側から回転子磁石を第2回転子鉄心の回転子磁石挿入孔に挿入可能とする回転子磁石通過孔を有している。
【発明の効果】
【0009】
本願の磁気波動歯車装置においては、第1回転子端板が回転軸方向の外側から回転子磁石を第2回転子鉄心の回転子挿入孔に挿入可能とする回転子磁石通過孔を有しているので、第2回転子鉄心を固定子の内周側に挿入した後に回転子磁石を第2回転子鉄心の回転子挿入孔に挿入できる。そのため、本願の磁気波動歯車装置は、組み立て作業の効率向上とエネルギー変換効率の低下抑制とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る磁気波動歯車装置の正面図である。
図2】実施の形態1に係る磁気波動歯車装置の部分断面図である。
図3】実施の形態1に係る磁気波動歯車装置の斜視図である。
図4】実施の形態2に係る磁気波動歯車装置の正面図である。
図5】実施の形態3に係る磁気波動歯車装置の正面図である。
図6】実施の形態4に係る磁気波動歯車装置の正面図である。
図7】実施の形態4に係る回転子磁石の構成図である。
図8】実施の形態4に係る磁気波動歯車装置の部分断面図である。
図9】実施の形態4に係る磁気波動歯車装置の斜視図である。
図10】実施の形態5に係る磁気波動歯車装置の正面図である。
図11】実施の形態6に係る磁気波動歯車装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願を実施するための実施の形態に係る磁気波動歯車装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一符号は同一もしくは相当部分を示している。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る磁気波動歯車装置の正面図である。本実施の形態の磁気波動歯車装置1は、円筒形状のフレーム2と、固定子3と、低速回転子4と、高速回転子5とを有している。固定子3は、周方向に複数のスロットを備えた固定子鉄心31、スロット内に配置された固定子巻線32および固定子磁石33を備えている。固定子3は、フレーム2の内周側でフレーム2に固定されている。低速回転子4は、固定子3の内径側に空隙を介して配置された円筒状の低速回転子鉄心を有している。高速回転子5は、低速回転子4の回転軸41と同心で、低速回転子鉄心の内径側に空隙を介して配置されている。高速回転子5は、円筒状の高速回転子鉄心51と周方向に並んで配置された回転子磁石52とを備えている。低速回転子4は、高速回転子5より回転軸41方向の外側で低速回転子鉄心と回転軸41とを締結する低速回転子端板42を備えている。図1に示すように、本実施の形態の低速回転子端板42は、複数のスポーク42aで構成されている。複数のスポーク42aの間は開口部となっている。
【0013】
図2は、本実施の形態に係る磁気波動歯車装置の部分断面図である。図2に示すように、固定子鉄心31は、円筒形状のコアバック31aとコアバックから周方向に並んで内周側に突出した複数のティース31bとで構成されている。複数のティース31bの間はスロットと呼ばれる空間になっており、固定子巻線32はこのスロットを利用してティース31bに巻かれている。固定子磁石33は、スロットの内周側のティース31bの両端部に固定されている。低速回転子鉄心43は、固定子3の内径側に空隙を介して配置されている。高速回転子鉄心51は、低速回転子鉄心43の内径側に空隙を介して配置されている。高速回転子鉄心51には、外周側に周方向に並んで配置された複数の回転子磁石挿入孔51aが形成されている。この複数の回転子磁石挿入孔51aには、複数の回転子磁石52がそれぞれ挿入されている。
【0014】
本実施の形態の磁気波動歯車装置1においては、図1に示すように、低速回転子端板42が、回転軸41の方向の外側から回転子磁石52を回転子磁石挿入孔51aに挿入可能とする回転子磁石通過孔42bを有している。本実施の形態における低速回転子端板42は、複数のスポークで構成されているので、図1に示すように、低速回転子端板42の複数のスポーク42aの間の開口部幅10a、10bが不等ピッチとなっている。間隔が広い方のスポーク42aの間の開口部幅10aを回転子磁石挿入孔51aの幅より大きくすることで、そのスポーク42aの間の開口部を回転子磁石通過孔42bとする。
【0015】
次に、本実施の形態の磁気波動歯車装置の組み立て方法について説明する。固定子鉄心31に固定子巻線32および固定子磁石33を取り付けて固定子3を組み立てる。この固定子3をフレーム2の内周側に固定する。次に、高速回転子鉄心51を固定子3の内周側に回転軸方向から挿入する。このとき、高速回転子鉄心51の回転子磁石挿入孔51aには回転子磁石52は挿入されていない。次に、低速回転子4を固定子3と高速回転子5との間の空隙に回転軸方向から挿入する。最後に、回転子磁石52を低速回転子端板42の回転子磁石通過孔42bを通過させて高速回転子鉄心51の回転子磁石挿入孔51aに挿入する。
【0016】
図3は、本実施の形態に係る磁気波動歯車装置の斜視図である。図3に示すように、回転子磁石52は、低速回転子端板42の回転子磁石通過孔42bを通過されて高速回転子鉄心51の回転子磁石挿入孔51aに挿入される。
【0017】
このように構成された磁気波動歯車装置1においては、高速回転子鉄心51が固定子3の内周側に挿入されるときには、高速回転子鉄心51の回転子磁石挿入孔51aには回転子磁石52は挿入されていない。そのため、高速回転子鉄心51を挿入するときに固定子磁石33と回転子磁石52との間の磁気吸引力は発生しない。その結果、高速回転子鉄心51を挿入するときに挿入方向と直角な方向の力は作用しないので、精度よく高速回転子鉄心51を固定子3に挿入することができる。
【0018】
高速回転子鉄心51を固定子3の内周側に挿入するときに、高速回転子鉄心51に回転子磁石52が取り付けられていたと仮定する。この場合、高速回転子鉄心51を挿入するときに固定子磁石33と回転子磁石52との間に磁気吸引力が発生する。そのため、高速回転子鉄心51を挿入するときに高速回転子鉄心51に対して挿入方向と直角な方向に力が作用する。そうすると、高速回転子鉄心51を固定子3の内周側に挿入するときに挿入方向と直角な方向に作用する力に対抗した位置合わせ精度が要求されるので組み立て作業の効率が低下する。組み立て作業の効率を向上させるために、高速回転子鉄心51と固定子3との空隙を広げることが考えられる。しかしながら、この空隙を広げると固定子磁石33と回転子磁石52との間隔が広くなり、磁気波動歯車装置のエネルギー変換効率が低下するという問題がある。つまり、高速回転子鉄心51に回転子磁石52が取り付けられた状態で高速回転子鉄心51を固定子3の内周側に挿入する従来の方法では、組み立て作業の効率向上とエネルギー変換効率の低下抑制とが両立できないという問題があった。
【0019】
上述のように、本実施の形態の磁気波動歯車装置においては、回転子磁石が取り付けられていない状態の高速回転子鉄心を固定子の内周側に挿入した後に低速回転子端板に設けられた回転子磁石通過孔を通過させて高速回転子鉄心の回転子磁石挿入孔に回転子磁石を挿入することができるので、組み立て作業の効率向上とエネルギー変換効率の低下抑制とを両立させることができる。
【0020】
また、本実施の形態の磁気波動歯車装置においては、高速回転子鉄心51を固定子3の内周側に挿入するときに高速回転子鉄心51と固定子3との間の空隙を狭くできる。そのため、図2に示す固定子磁石33と回転子磁石52との間隔10cを狭くできるので、従来と同じエネルギー変換効率を得るために必要な回転子磁石の使用量を低減することもできる。
【0021】
実施の形態2.
図4は、実施の形態2に係る磁気波動歯車装置の正面図である。本実施の形態の磁気波動歯車装置1は、低速回転子端板42の形状以外は、実施の形態1の磁気波動歯車装置と同じである。
【0022】
実施の形態1の磁気波動歯車装置においては、低速回転子端板のスポークの間の開口部幅が不等ピッチとなっており、開口部幅が広い方のスポークの間の開口部幅が回転子磁石挿入孔の幅より大きく設定されていた。本実施の形態の磁気波動歯車装置においては、図4に示すように、低速回転子端板42のスポークの間の開口部幅10aを等ピッチとして2本のスポーク42aで構成し、2本のスポーク間の開口部を回転子磁石通過孔42bとしたものである。等ピッチのスポーク42aの間の開口部幅10aは回転子磁石挿入孔51aの幅より大きく設定されている。
【0023】
このように構成された磁気波動歯車装置においては、実施の形態1と同様に、回転子磁石が取り付けられていない状態の高速回転子鉄心を固定子の内周側に挿入した後に低速回転子端板42に設けられた回転子磁石通過孔42bを通過させて高速回転子鉄心の回転子磁石挿入孔に回転子磁石を挿入することができるので、組み立て作業の効率向上とエネルギー変換効率の低下抑制とを両立させることができる。
【0024】
なお、本実施の形態において、低速回転子端板42は等ピッチの2本のスポーク42aで構成されている。等ピッチのスポークの間の開口部幅が回転子磁石挿入孔の幅よりも広く設定されていれば、低速回転子端板42のスポーク42aの数は3本以上であってもよい。
【0025】
実施の形態3.
図5は、実施の形態3に係る磁気波動歯車装置の正面図である。本実施の形態の磁気波動歯車装置1は、低速回転子端板42の形状以外は、実施の形態1の磁気波動歯車装置と同じである。
【0026】
本実施の形態の磁気波動歯車装置においては、図5に示すように、低速回転子端板42は円板形状でありその一部に回転子磁石挿入孔の幅よりも広い開口幅を有する開口部が設けられている。本実施の形態の磁気波動歯車装置においては、この開口部を回転子磁石通過孔42bとしたものである。
【0027】
このように構成された磁気波動歯車装置においては、実施の形態1と同様に、回転子磁石が取り付けられていない状態の高速回転子鉄心を固定子の内周側に挿入した後に低速回転子端板42に設けられた回転子磁石通過孔42bを通過させて高速回転子鉄心の回転子磁石挿入孔に回転子磁石を挿入することができるので、組み立て作業の効率向上とエネルギー変換効率の低下抑制とを両立させることができる。
【0028】
なお、本実施の形態において、低速回転子端板42には1つの回転子磁石通過孔42bが設けられている。低速回転子端板42の回転対称性を確保するために、1つの回転子磁石通過孔42bと回転対称な位置に同じ形状の別の回転子磁石通過孔が設けられてもよい。
【0029】
実施の形態4.
実施の形態1~3の磁気波動歯車装置においては、低速回転子端板が回転子磁石通過孔を有しているので、高速回転子鉄心を固定子の内周側に挿入した後に回転子磁石を高速回転子鉄心の回転子磁石挿入孔に挿入できる。そのため、固定子磁石と回転子磁石との間隔を狭くできる。しかしながら、固定子磁石と回転子磁石との間隔が狭くなるにしたがって、固定子磁石から受ける磁束の影響で回転子磁石の表面に発生する渦電流に起因する損失が大きくなっていく。この渦電流に起因する損失が大きくなると、磁気波動歯車装置のエネルギー変換効率が低下する。なお、渦電流に起因する損失を渦電流損と呼ぶ。実施の形態4に係る磁気波動歯車装置は、回転子磁石の渦電流損を低減することができるものである。
【0030】
図6は、本実施の形態に係る磁気波動歯車装置の正面図である。本実施の形態の磁気波動歯車装置1は、回転子磁石52以外は、実施の形態1の磁気波動歯車装置と同じである。
【0031】
図7は、本実施の形態における回転子磁石の構成図である。図7に示すように、本実施の形態の回転子磁石52は、基台52aとこの基台52aの外周側に固定された複数の分割磁石片52bとで構成されている。基台52aは、例えば鉄などの磁性体で構成されている。複数の分割磁石片52bは、高速回転子5の周方向におよび軸方向に並べられて基台52aに固定されている。分割磁石片52b同士の間には隙間がある。これ以降、基台52aとこの基台52aの外周側に固定された複数の分割磁石片52bとで構成された回転子磁石52をモジュール化された回転子磁石と呼ぶ。
【0032】
このように構成された磁気波動歯車装置においては、回転子磁石52が分割磁石片52bで構成されているので、渦電流が流れる回転子磁石52の表面の見かけの電気伝導率が低下する。そのため、渦電流が流れにくくなり、回転子磁石52における渦電流損を低減することができる。
【0033】
図8は、本実施の形態に係る磁気波動歯車装置の部分断面図である。本実施の形態の磁気波動歯車装置は、渦電流損を一定値以下とする設計条件において、回転子磁石がモジュール化されていない場合に比べて固定子磁石33と回転子磁石52との間隔10cをさらに狭くできる。そのため、同じエネルギー変換効率を得るために必要な回転子磁石の使用量をさらに低減することができる。
【0034】
図9は、本実施の形態に係る磁気波動歯車装置の斜視図である。図9に示すように、モジュール化された回転子磁石52は、低速回転子端板42の回転子磁石通過孔42bを通過して高速回転子鉄心51の回転子磁石挿入孔51aに挿入される。
【0035】
このように構成された磁気波動歯車装置1においては、高速回転子鉄心51が固定子3の内周側に挿入されるときには、高速回転子鉄心51の回転子磁石挿入孔51aには回転子磁石52は挿入されていない。そのため、高速回転子鉄心51を挿入するときに固定子磁石33と回転子磁石52との間の磁気吸引力は発生しない。その結果、高速回転子鉄心51を挿入するときに挿入方向と直角な方向の力は作用しないので、精度よく高速回転子鉄心51を固定子3に挿入することができる。そのため、本実施の形態に係る磁気波動歯車装置は、実施の形態1と同様に、組み立て作業の効率向上とエネルギー変換効率の低下抑制とを両立させることができる。
【0036】
また、このように構成された磁気波動歯車装置においては、回転子磁石52が分割磁石片52bで構成されているので、回転子磁石52における渦電流損を低減することができる。
【0037】
実施の形態5.
図10は、実施の形態5に係る磁気波動歯車装置の正面図である。本実施の形態の磁気波動歯車装置1は、低速回転子端板42の形状以外は、実施の形態4の磁気波動歯車装置と同じである。本実施の形態の磁気波動歯車装置においては、実施の形態4と同様に、回転子磁石52がモジュール化されている。
【0038】
本実施の形態の低速回転子端板42は、実施の形態2の低速回転子端板と同様に、スポーク42aの間の開口部幅10aを等ピッチとして2本のスポークで構成し、2本のスポーク間の空間を回転子磁石通過孔42bとしたものである。等ピッチのスポークの間の開口部幅10aの幅は回転子磁石挿入孔51aの幅より大きく設定されている。
【0039】
このように構成された磁気波動歯車装置においては、実施の形態2と同様に、回転子磁石が取り付けられていない状態の高速回転子鉄心を固定子の内周側に挿入した後に低速回転子端板42に設けられた回転子磁石通過孔42bを通過させて高速回転子鉄心の回転子磁石挿入孔に回転子磁石52を挿入することができるので、組み立て作業の効率向上とエネルギー変換効率の低下抑制とを両立させることができる。
【0040】
また、本実施の形態の磁気波動歯車装置においては、実施の形態4と同様に、回転子磁石52がモジュール化されているので、回転子磁石52における渦電流損を低減することができる。
【0041】
実施の形態6.
図11は、実施の形態6に係る磁気波動歯車装置の正面図である。本実施の形態の磁気波動歯車装置1は、低速回転子端板42の形状以外は、実施の形態4の磁気波動歯車装置と同じである。本実施の形態の磁気波動歯車装置においては、実施の形態4と同様に、回転子磁石52がモジュール化されている。
【0042】
本実施の形態の低速回転子端板42は、実施の形態3の低速回転子端板と同様に、板状でありその一部に回転子磁石挿入孔の幅よりも広い開口幅を有する開口部が設けられている。本実施の形態の磁気波動歯車装置においては、この開口部を回転子磁石通過孔42bとしたものである。
【0043】
このように構成された磁気波動歯車装置においては、実施の形態3と同様に、回転子磁石が取り付けられていない状態の高速回転子鉄心を固定子の内周側に挿入した後に低速回転子端板42に設けられた回転子磁石通過孔42bを通過させて高速回転子鉄心の回転子磁石挿入孔に回転子磁石を挿入することができるので、組み立て作業の効率向上とエネルギー変換効率の低下抑制とを両立させることができる。
【0044】
また、本実施の形態の磁気波動歯車装置においては、実施の形態4と同様に、回転子磁石52がモジュール化されているので、回転子磁石52における渦電流損を低減することができる。
【0045】
なお、実施の形態4~6において、回転子磁石52がモジュール化されているため、回転子磁石通過孔42bを通過させて高速回転子鉄心の回転子磁石挿入孔51aに挿入するときに分割磁石片52bが分離しないので挿入が容易である。分割磁石片52bが回転子磁石挿入孔51aに挿入できるのであれば、モジュール化された回転子磁石52の基台52aはなくてもよい。また、実施の形態4~6においては、分割磁石片52bは高速回転子5の周方向および軸方向に並んで配置されている。分割磁石片52bは、高速回転子5の周方向および軸方向の少なくとも一方に並んで配置されていてもよい。
【0046】
本願は、様々な例示的な実施の形態および実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
したがって、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0047】
1 磁気波動歯車装置、2 フレーム、3 固定子、4 低速回転子、5 高速回転子、10a、10b 開口部幅、10c 間隔、31 固定子鉄心、31a コアバック、31b ティース、32 固定子巻線、33 固定子磁石、41 回転軸、42 低速回転子端板、42a スポーク、42b 回転子磁石通過孔、43 低速回転子鉄心、51 高速回転子鉄心、51a 回転子磁石挿入孔、52 回転子磁石、52a 基台、52b 分割磁石片。
図1
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図11