(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】表面処理銅箔、銅張積層板、及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
C25D 7/06 20060101AFI20240726BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20240726BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240726BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240726BHJP
C23F 1/00 20060101ALI20240726BHJP
C25D 1/04 20060101ALI20240726BHJP
C25D 5/14 20060101ALI20240726BHJP
C25D 5/16 20060101ALI20240726BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
C25D7/06 A
B32B15/01 H
B32B15/08 J
C23C26/00 A
C23F1/00 101
C25D1/04 311
C25D5/14
C25D5/16
H05K1/03 630H
(21)【出願番号】P 2023563936
(86)(22)【出願日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2023013104
(87)【国際公開番号】W WO2023190833
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2022056853
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】片平 周介
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 淳
(72)【発明者】
【氏名】笠原 正靖
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-542495(JP,A)
【文献】国際公開第2011/019055(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104420(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/110579(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/01
15/08
C23C 26/00
C23F 1/00
C25D 1/04
5/14
5/16
7/06
H05K 1/03
3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔基体と、前記銅箔基体の少なくとも一方の面に形成された表面処理層と、を有する表面処理銅箔であって、
前記表面処理層が粗化処理層及び防錆処理層の一方又は両方からなり、
前記表面処理層の表面の光学式粗さをISO25178に規定の方法に準拠して測定した場合に、算術平均粗さSaが0.04μm以上0.30μm以下であり、
前記表面処理銅箔の前記表面処理層上に樹脂製部材を貼り合わせた後に、前記表面処理銅箔をエッチングにより除去し、残った前記樹脂製部材の前記表面処理銅箔が貼り合わされていた表面である転写表面について、蒸留水の接触角θ
1をJIS R3257:1999に規定の静滴法に準拠して測定するとともに、前記表面処理銅箔に貼り合わせる前の
別の前記樹脂製部材
に前記表面処理銅箔を貼り合わせることなく、前記接触角θ
1
の測定と同じ条件で処理したときの前記別の樹脂製部材の表面である非転写表面について、蒸留水の接触角θ
0を前記静滴法に準拠して測定した場合に、前記接触角θ
0と前記接触角θ
1との差θ
0-θ
1が5°以上35°以下である表面処理銅箔。
【請求項2】
前記転写表面の光学式粗さをISO25178に規定の方法に準拠して測定した場合に、算術平均粗さSaが0.020μm以上0.070μm以下であり、コア部の空間の容積Vvcが0.030mL/m
2以上0.110mL/m
2以下である請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記転写表面の光学式粗さをISO25178に規定の方法に準拠して測定した場合に、算術平均粗さSaが0.020μm以上0.051μm以下であり、コア部の空間の容積Vvcが0.030mL/m
2以上0.071mL/m
2以下である請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の表面処理銅箔と、前記表面処理銅箔の前記表面処理層上に貼り合わされた樹脂製基材と、を備える銅張積層板。
【請求項5】
請求項4に記載の銅張積層板を備えるプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板等の製造に好適に使用可能な表面処理銅箔、並びに、該表面処理銅箔を用いた銅張積層板及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、信号の高周波化が進み、電子機器に搭載されるプリント配線板には、高周波信号が伝送されることが増えている。そのため、プリント配線板の材料として用いられる表面処理銅箔については、高周波信号の伝送損失を低減するために、表面を低粗度とすることが検討されている(例えば特許文献1を参照)。
また、プリント配線板の高密度実装化、多機能化に伴い、回路の微細配線化も進んでいる。微細配線を形成するために回路加工性が良好な表面処理銅箔が求められており、回路加工性を向上させるために、表面を低粗度とすることが検討されている(例えば特許文献2を参照)。また、その他にも、銅箔を表面処理する金属の工夫(例えば特許文献3を参照)や、樹脂の表面へ転写した凹凸の形状の工夫(例えば特許文献4、5を参照)などの要因が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許公開公報 2019年第210521号
【文献】日本国特許公開公報 2017年第20117号
【文献】日本国特許公開公報 2019年第81913号
【文献】日本国特許公報 第6945523号
【文献】国際公開第2020/105289号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、表面処理銅箔の表面粗さを低減しても、目的とする微細配線が得られない場合があった。従来、回路加工性を表す指標として、回路のボトム幅とトップ幅と高さから求められるエッチングファクターが広く用いられてきたが、それに加えて回路のボトム端部の接線の角度も重要であることが分かってきた。すなわち、エッチングファクターが従来は良好と評価される数値であったとしても、回路のボトム端部の接線の角度が小さい(すなわち、回路のトップ幅よりもボトム幅が大きく、回路の断面が裾の広がったような形状となる)と、ミクロな視点で見た際の回路の端部の界面のエッチング不良が原因と予想されるマイグレーションが発生する場合があり、回路のボトム端部の接線の角度が小さいほどマイグレーションが発生しやすい傾向があった。
【0005】
さらに、本発明者らの検討において表面処理銅箔の表面粗さを低減していったところ、銅張積層板の表面処理銅箔をエッチングし除去した後に樹脂製基材を積層してプリント配線板を製造する工程において、銅張積層板を構成する樹脂製基材と後に積層した樹脂製基材との間に異物が発生しやすくなるという新たな課題が明らかになった。
本発明は、回路加工性に優れるとともに伝送損失及び異物の発生が生じにくい表面処理銅箔、銅張積層板、及びプリント配線板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る表面処理銅箔は、銅箔基体と、銅箔基体の少なくとも一方の面に形成された表面処理層と、を有する表面処理銅箔であって、表面処理層が粗化処理層及び防錆処理層の一方又は両方からなり、表面処理層の表面の光学式粗さをISO25178に規定の方法に準拠して測定した場合に、算術平均粗さSaが0.04μm以上0.30μm以下であり、表面処理銅箔の表面処理層上に樹脂製部材を貼り合わせた後に、表面処理銅箔をエッチングにより除去し、残った樹脂製部材の表面処理銅箔が貼り合わされていた表面である転写表面について、蒸留水の接触角θ1をJIS R3257:1999に規定の静滴法に準拠して測定するとともに、表面処理銅箔に貼り合わせる前の樹脂製部材の表面処理銅箔が後に貼り合わされる表面である非転写表面について、蒸留水の接触角θ0を静滴法に準拠して測定した場合に、接触角θ0と接触角θ1との差θ0-θ1が5°以上35°以下であることを要旨とする。
【0007】
本発明の別の態様に係る銅張積層板は、上記一態様に係る表面処理銅箔と、表面処理銅箔の表面処理層上に貼り合わされた樹脂製基材と、を備えることを要旨とする。
本発明のさらに別の態様に係るプリント配線板は、上記別の態様に係る表面処理銅箔を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回路加工性に優れるとともに伝送損失及び異物の発生が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る表面処理銅箔の構成を説明する断面図である。
【
図2】樹脂製基材の転写表面の濡れ性について説明する図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る銅張積層板及びプリント配線板の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の一例を示したものである。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
上記課題を解決するため、本発明者らは、銅張積層板やプリント配線板を製造する際に使用する樹脂製基材の表面の濡れ性に着目し、鋭意研究を行った。
図1、2、3を参照しながら、以下に詳細に説明する。
【0011】
プリント配線板60の製造工程中には、表面処理銅箔30と樹脂製基材40を貼り合わせて銅張積層板50を製造する貼り合わせ工程(
図3の(b)を参照)と、銅張積層板50の表面処理銅箔30のうち回路31となる部分以外の不要部分を、エッチング液を用いたエッチングによって除去するエッチング工程(
図3の(c)を参照)とがある。貼り合わせ工程において、樹脂製基材40は、表面処理銅箔30の表面処理層20上に貼り合わされる(
図3の(a)を参照)。
【0012】
このとき、エッチング後に残った樹脂製基材40の表面のうち、表面処理銅箔30が貼り合わされていた表面には、貼り合わされていた表面処理銅箔30の表面処理層20の表面20aの形状が転写されている。すなわち、樹脂製基材40の表面処理銅箔30が貼り合わされていた表面は、貼り合わされていた表面処理銅箔30の表面の転写表面(レプリカ)40aとなっている。
【0013】
本発明者らの検討によれば、表面処理銅箔30の表面粗さが低くなるに従って、樹脂製基材40の転写表面40aの表面粗さも低くなっていき、転写表面40aの濡れ性が低くなることが明らかとなった。樹脂製基材40の表面の濡れ性が低いと、エッチング中に樹脂製基材40上の回路31(エッチングにより残る表面処理銅箔30)の端部(回路31の配線幅方向の端部)にまでエッチング液が行き渡りにくくなるため、回路加工性が低下すると考えられる。回路31の端部にまでエッチング液が行き渡るかどうかは、特に回路31のボトム端部31b(回路31の端部のうち樹脂製基材40に隣接する部分(
図2を参照))の加工性に対して重要な要素となる。
【0014】
また、プリント配線板60の製造工程中には、エッチング工程の後に、回路31を有する樹脂製基材40を洗浄液で洗浄する洗浄工程があるが、樹脂製基材40の表面の濡れ性が低いと、樹脂製基材40の表面の全面に洗浄液が行き渡りにくいので、樹脂製基材40や回路31の上に存在する異物100を洗浄液で十分に洗浄できないおそれがある(
図3の(c)を参照)。そして、洗浄工程の後に、回路31を有する樹脂製基材40の回路31が形成されている面に別の樹脂製基材41を貼り合わせてプリント配線板60を製造するが、洗浄工程において異物100の洗浄が不十分であると、貼り合わせた2つの樹脂製基材40、41の間に異物100が残存することとなる(
図3の(d)を参照)。
【0015】
すなわち、樹脂製基材40の表面の濡れ性が低いと、プリント配線板60に異物100が生じやすいことが、本発明者らの検討によって明らかとなった。なお、異物100としては、貼り合わせ前に表面処理銅箔30や樹脂製基材40に付着していた付着物、エッチング液中に含有されていた塩の凝固物などがある。
【0016】
以上のように、エッチング工程の後の樹脂製基材40の転写表面40aの濡れ性は、プリント配線板60の製造において非常に重要な要素であることを、本発明者らは見出した。また、エッチング工程の後の樹脂製基材40の転写表面40aの濡れ性は、JIS R3257:1999に規定の静滴法に準拠して測定される蒸留水の接触角によって評価できることを、本発明者らは見出した。
【0017】
すなわち、本実施形態に係る表面処理銅箔30は、銅箔基体10と、銅箔基体10の少なくとも一方の面に形成された表面処理層20と、を有する表面処理銅箔30であって、表面処理層20が粗化処理層21及び防錆処理層22の一方又は両方からなる(
図1を参照)。なお、
図1には、銅箔基体10の一方の面のみに表面処理層20が形成され、且つ、表面処理層20が粗化処理層21及び防錆処理層22の両方からなる表面処理銅箔30の例を示してある。
そして、表面処理銅箔30の表面処理層20の表面20aの光学式粗さをISO25178に規定の方法に準拠して測定した場合に、算術平均粗さSaは0.04μm以上0.30μm以下である。
【0018】
また、表面処理銅箔30の表面処理層20上に、銅張積層板50やプリント配線板60を製造する際に使用する樹脂製基材40(本発明の構成要件である「樹脂製部材」に相当する)を貼り合わせた後に、表面処理銅箔30をエッチングにより除去し、残った樹脂製基材40の転写表面40aについて、蒸留水の接触角θ1(以下、「銅箔エッチング後の転写表面の蒸留水接触角θ1」と記すこともある)を測定する。樹脂製基材40の転写表面40aは、樹脂製基材40の表面のうち表面処理銅箔30が貼り合わされていた表面である。
【0019】
さらに、表面処理銅箔30に貼り合わせる前の樹脂製基材40の非転写表面について、蒸留水の接触角θ0(以下、「銅箔貼り合わせ前の非転写表面の蒸留水接触角θ0」と記すこともある)を測定する。樹脂製基材40の非転写表面は、表面処理銅箔30に貼り合わせる前の樹脂製基材40の表面のうち、表面処理銅箔30が後に貼り合わされる表面である。
【0020】
蒸留水の接触角θ0及びθ1は、JIS R3257:1999に規定の静滴法に準拠して測定する。この場合に、本実施形態に係る表面処理銅箔30においては、接触角θ0と接触角θ1との差θ0-θ1が5°以上35°以下となる。接触角θ0と接触角θ1との差θ0-θ1とはすなわち、銅箔と貼り合わせることによって、樹脂の表面の濡れ性がどれだけ変化したかを示す尺度である。
【0021】
このような表面処理銅箔30を用いて銅張積層板50やプリント配線板60を製造すれば、銅張積層板50やプリント配線板60の製造に使用する樹脂製基材40の転写表面40aの濡れ性が高くなる。そのため、得られた銅張積層板50やプリント配線板60は、伝送損失が発生しにくいことに加えて、回路加工性に優れており、さらに、銅張積層板50を構成する樹脂製基材40と、プリント配線板60の製造のために後に積層した別の樹脂製基材41との間に異物が生じにくい。
【0022】
すなわち、接触角の差θ0-θ1を上記数値範囲内とすることによって樹脂製基材40の表面の濡れ性が良好に保たれるので、エッチング中に樹脂製基材40上の回路31のボトム端部31bにまでエッチング液が行き渡りやすく、また、エッチング工程の後の洗浄工程において樹脂製基材40の表面の全面に洗浄液が行き渡りやすい。その結果、優れた回路加工性と異物抑制を両立しつつ、伝送損失が生じにくい銅張積層板50やプリント配線板60を製造することができる。
【0023】
上記のように、本実施形態に係る表面処理銅箔30は、銅張積層板、プリント配線板等の製造に対して好適に使用することができる。すなわち、本実施形態に係る銅張積層板50は、本実施形態に係る表面処理銅箔30と、該表面処理銅箔30の表面処理層20上に貼り合わされた樹脂製基材40と、を備える。また、本実施形態に係るプリント配線板60は、本実施形態に係る銅張積層板50を備える。
【0024】
以下に、本実施形態に係る表面処理銅箔30、銅張積層板50、プリント配線板60について、さらに詳細に説明する。
(A)表面処理銅箔について
本実施形態に係る表面処理銅箔30の原料である銅箔基体10は、粗化処理等の処理を表面に対して施す前の時点において、2面の十点平均粗さRzjisがいずれも2μm以下であることが好ましい。この十点平均粗さRzjisは、JIS B0601:2001に規定された方法に従って、接触式表面粗さ測定機を用いて測定することができる。表面の十点平均粗さRzjisが2μm以下であれば、樹脂製基材40との密着力が良好となりやすい。
また、粗化処理等の処理を施す前の時点での銅箔基体10の厚さは、粗化処理後の銅箔基体10の厚さの目標値次第ではあるが、5μm以上40μm以下であることが好ましい。
【0025】
原料である銅箔基体10の少なくとも一方の面に対して、表面処理を施して表面処理層20を形成し、本実施形態に係る表面処理銅箔30を製造する。表面処理としては、表面を粗化する粗化処理と防錆処理との一方又は両方を行う。すなわち、表面処理層20は、粗化処理により形成された粗化処理層21と防錆処理により形成された防錆処理層22との一方又は両方からなる。表面処理層20が粗化処理層21及び防錆処理層22の両方からなる場合は、銅箔基体10の面の上に粗化処理層21を形成し、その上に防錆処理層22を形成する。さらに、防錆処理の後に、シランカップリング剤等の化学密着剤を用いた化学密着剤処理を施して、防錆処理層22の上にシランカップリング剤層等の化学密着剤層を形成してもよい。これら表面処理については、後に詳述する。
【0026】
本実施形態に係る表面処理銅箔30を製造する際には、前述の濡れ性の向上を目的として、一般的な粗化処理の前又は後に、銅箔基体10の少なくとも一方の面に対して凹凸形成処理を施す。そして、これら一般的な粗化処理と凹凸形成処理によって粗化処理層21形成する。この凹凸形成処理は、伝送損失に影響を与えない程度の微細な凹凸形状を銅箔基体10の表面に形成する処理である。この凹凸形成処理の例としては、カプセルめっき処理とエッチング凹凸処理が挙げられる。
【0027】
まず、カプセルめっき処理の一例を説明する。カプセルめっき処理は、一般的な粗化処理の前に施す。メッシュ状のカソード遮蔽板を用いて、銅箔基体10の表面に平滑な銅めっき(カプセルめっき)を施すことにより、銅箔基体10の表面に微細な凹凸形状を形成する。メッシュ状のカソード遮蔽板を用いることにより、銅箔基体10の表面に均一なバラつきを持った凹凸形状を形成することができる。
【0028】
この時、メッシュ状のカソード遮蔽板の開口率や、電流密度、通電時間等のめっき条件を制御することによって、伝送損失に影響を与えない程度の微細な凹凸形状を銅箔基体10の表面に形成することができる。その結果、樹脂製基材40の転写表面40aの濡れ性を良好にコントロールすることができる。
【0029】
めっき液には、一般的に使用される硫酸銅のめっき液を使用することができる。カソード遮蔽板を形成する素材としては、耐薬品性及び絶縁性を有する材料が望ましく、例えば、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート等の樹脂が好ましい。メッシュ部分の開口面積は、1μm2以上100μm2以下であることが好ましく、10μm2以上100μm2以下であることがより好ましい。また、メッシュ部分の開口率は5%以上15%以下であることが好ましい。開口面積及び開口率が上記の数値範囲内であれば、銅箔基体10の表面に伝送損失に影響を与えない程度の微細な凹凸形状を形成することができ、樹脂製基材40の転写表面40aの濡れ性が良好となる。
【0030】
次に、エッチング凹凸処理の一例を説明する。エッチング凹凸処理は、一般的な粗化処理の後、且つ、防錆処理の前に施す。粗化処理の後に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等の耐薬品性を有する防錆金属を高電流密度且つ極短時間という条件で電析し、その後にエッチング液に短時間浸漬してエッチングすることにより、銅箔基体10の表面に微細な凹凸形状を形成する。
ニッケルの電析には、硫酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル等を含有する一般的な電解浴を用いることができる。また、電流密度は例えば1.0A/dm2以上、通電時間は例えば0.5秒以上2.0秒以下とすることができる。
【0031】
高電流密度且つ短時間で防錆金属を電析することにより、一般的な粗化処理によって形成した粗化粒子の頭頂部にのみ防錆金属が電析される。そのため、銅箔基体10の表面のうち粗化粒子の頭頂部以外の領域がエッチングされ、銅箔基体10の表面のうち粗化粒子の頭頂部以外の領域に微細な凹凸形状が形成される。
また、エッチング液への浸漬時間等の条件を制御することによって、伝送損失に影響を与えない程度の微細な凹凸形状を銅箔基体10の表面に形成することができる。その結果、樹脂製基材40の転写表面40aの濡れ性を良好にコントロールすることができる。
【0032】
エッチング液としては、例えば、硫酸-過酸化水素水の混合液や塩酸などの一般的な銅のエッチング液を使用することができる。エッチング液への浸漬時間は、例えば2秒以上10秒以下とすることができる。エッチング液への浸漬時間が上記の数値範囲内であれば、銅箔基体10の表面に伝送損失に影響を与えない程度の微細な凹凸形状を形成することができ、樹脂製基材40の転写表面40aの濡れ性が良好となることに加えて、この後の防錆処理や化学密着剤処理の工程において、銅箔基体10の表面に均一な処理を施すことができ、良好な密着性や耐食性を付与することができる。
【0033】
上記のような凹凸形成処理により、貼り合わされた樹脂製基材40の転写表面40aの濡れ性が良好となるような表面を有する銅箔基体10が得られる。樹脂製基材40の転写表面40aの濡れ性は、前述のように、静滴法に準拠して測定した蒸留水の接触角によって評価することができ、銅箔貼り合わせ前の非転写表面の蒸留水接触角θ0と銅箔エッチング後の転写表面40aの蒸留水接触角θ1との差θ0-θ1が5°以上35°以下である必要がある。
【0034】
ただし、転写表面40aの光学式粗さをISO25178に規定の方法に準拠して測定した場合に、算術平均粗さSaが0.020μm以上0.070μm以下であり、コア部の空間の容積Vvcが0.030mL/m2以上0.110mL/m2以下であることが好ましい。転写表面40aの算術平均粗さSa及びコア部の空間の容積Vvcが上記の数値範囲内であれば、表面処理銅箔30の表面処理層20の表面粗さが小さくても転写表面40aの濡れ性がより良好となることに加えて、回路の加工形状をさらに良好に保つことができる。この理由は明らかではないが、樹脂-銅箔界面部分のエッチング量を良好にコントロールすることができるためであると考えられる。
【0035】
さらに、転写表面40aの光学式粗さをISO25178に規定の方法に準拠して測定した場合に、算術平均粗さSaが0.020μm以上0.051μm以下であり、コア部の空間の容積Vvcが0.030mL/m2以上0.071mL/m2以下であることがより好ましい。転写表面40aの算術平均粗さSa及びコア部の空間の容積Vvcが上記の数値範囲内であれば、異物の発生をさらに抑制することができる。この理由は明らかではないが、異物の入り込む隙間を制限できるためであると考えられる。
【0036】
以上のように、銅箔基体10の少なくとも一方の面に対して、濡れ性の向上を目的とした凹凸形成処理と一般的な粗化処理とを施すことにより、本実施形態に係る表面処理銅箔30が得られる。得られた表面処理銅箔30の表面処理層20の表面粗さは、以下のとおりである必要がある。すなわち、表面処理層20の表面20aの光学式粗さをISO25178に規定の方法に準拠して測定した場合に、算術平均粗さSaが0.04μm以上0.30μm以下である必要がある。伝送損失をより低減するためには、表面処理層20の表面20aの算術平均粗さSaは、0.04μm以上0.20μm以下であることが好ましく、0.04μm以上0.150μm以下であることがより好ましい。
【0037】
次に、本実施形態に係る表面処理銅箔30の製造方法について説明する。本実施形態に係る表面処理銅箔30は、下記の(1)~(5)の工程を該記載順序で行うことによって製造することができる。表面処理銅箔30を製造する際には、濡れ性の向上を目的とした凹凸形成処理を行うが、凹凸形成処理としてカプセルめっき処理を用いた例とエッチング凹凸処理を用いた例の2つの具体例を挙げて説明する。
【0038】
〔カプセルめっき処理を用いた例〕
(1)銅箔基体の製造
本実施形態に係る表面処理銅箔30の製造においては、粗大な凹凸が存在しない平滑で光沢のある表面を有する電解銅箔や圧延銅箔を、銅箔基体10として用いることが好ましい。中でも、生産性やコストの観点で電解銅箔を用いることが好ましく、特に、「両面光沢箔」と一般的に呼称されている両面が平滑な電解銅箔を用いることがより好ましい。
【0039】
通常の電解銅箔においては、平滑で光沢のある表面はシャイニー面(S面)である。両面光沢箔においては、平滑で光沢のある表面はシャイニー面及びマット面(M面)の両面であるが、より平滑で光沢のある面はマット面である。本実施形態においては、いずれの電解銅箔を用いる場合も、より平滑で光沢のある面に後述する粗化処理を施すことが好ましい。
【0040】
(2)カプセルめっき処理
濡れ性の向上を目的としてカプセルめっき処理を行い、銅箔基体10の少なくとも一方の表面に微細な凹凸形状を形成する。カプセルめっき処理の内容は前述のとおりであるが、メッシュ状のカソード遮蔽板を用いることにより、銅箔基体10の表面に部分的に銅めっき(カプセルめっき)を施すことができる。
めっき液の組成やめっき条件の具体例を下記に示す。電流密度を適切に設定することにより、メッシュ部分の開口部のみに平滑な銅めっき(カプセルめっき)が施される。その結果、銅箔の表面全体の表面粗さを変えることなく微細な凹凸を形成することができる。
【0041】
<めっき液の組成>
硫酸銅五水和物の濃度・・・銅(原子)換算で50~65g/L
硫酸の濃度・・・80~170g/L
<めっき処理の条件>
処理速度・・・5~18m/分
電流密度・・・1~5A/dm2
【0042】
(3)粗化処理層の形成
粗化処理として、例えば下記に示すような二段階のめっき処理を行うことが好ましい。なお、必要に応じて、二段階目の固定めっき処理は行わなくてもよい。
一段階目の粗化めっき処理は、銅箔基体10のカプセルめっき処理を施した表面上に粗化粒子を形成する処理である。一段階目の粗化めっき処理は、例えば硫酸銅浴を用いるめっき処理によって行うことができる。めっき液の組成やめっき条件の具体例を下記に示す。
【0043】
硫酸銅浴には、粗化粒子の脱落、すなわち「粉落ち」の防止を目的として、モリブデン(Mo)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、セレン(Se)、テルル(Te)、タングステン(W)等を含有する添加剤を添加してもよく、モリブデンを含有する添加剤を添加することが特に好ましい。
【0044】
<めっき液の組成>
硫酸銅五水和物の濃度・・・銅(原子)換算で5~15g/L
硫酸の濃度・・・120~250g/L
モリブデン酸アンモニウムの濃度・・・モリブデン(原子)換算で500~1000mg/L
【0045】
<めっき処理の条件>
処理速度・・・8~22m/分
電流密度・・・15~55A/dm2
処理時間・・・0.5~5.0秒
浴温・・・8~20℃
【0046】
二段階目の固定めっき処理は、一段階目の粗化めっき処理を施した銅箔基体10に、平滑なかぶせめっきを行う処理である。これにより、銅箔基体10の表面に粗化処理層21が形成される。二段階目の固定めっき処理は、例えば硫酸銅浴を用いるめっき処理によって行うことができる。めっき液の組成やめっき条件の具体例を下記に示す。
【0047】
通常、この固定めっき処理は、粗化粒子の脱落を防止するため、すなわち粗化粒子を固定化するために行われる。例えば、銅張積層板の製造において、ポリイミド樹脂等の硬い樹脂を用いたフレキシブル基板と本実施形態に係る表面処理銅箔30とを組み合わせる場合などでは、粗化面に固定めっき処理を施すことによって、粗化粒子の脱落を防ぐことができる。
【0048】
<めっき液の組成>
硫酸銅五水和物の濃度・・・銅(原子)換算で50~65g/L
硫酸の濃度・・・90~160g/L
<めっき処理の条件>
処理速度・・・5~20m/分
電流密度・・・1~7A/dm2
【0049】
(4)防錆処理層の形成
粗化処理層21の上に、直接又は中間層を介してシランカップリング剤層をさらに形成してもよい。中間層としては、ニッケルを含有する下地層、亜鉛(Zn)を含有する耐熱処理層、及びクロム(Cr)を含有する防錆処理層22等が挙げられる。なお、中間層及びシランカップリング剤層はその厚さが非常に薄いため、表面処理銅箔30の粗化面における粗化粒子の粒子形状に影響を与えるものではない。表面処理銅箔30の粗化面における粗化粒子の粒子形状は、粗化面に対応する粗化処理層21の表面における粗化粒子の粒子形状で実質的に決定される。
【0050】
下地層は、例えば、銅箔基体10や粗化処理層21中の銅(Cu)が樹脂製基材40側に拡散し銅害が発生して密着性が低下することがある場合には、粗化処理層21とシランカップリング剤層との間に形成することが好ましい。下地層は、ニッケル、ニッケル-リン(P)、ニッケル-亜鉛、ニッケル-モリブデンの中から選択される少なくとも1種で形成することが好ましい。
【0051】
耐熱処理層は、表面処理銅箔30の耐熱性を向上させる必要がある場合に形成することが好ましい。耐熱処理層は、例えば、亜鉛又は亜鉛を含有する合金で形成することが好ましい。亜鉛を含有する合金としては、亜鉛-錫(Sn)合金、亜鉛-ニッケル合金、亜鉛-コバルト合金、亜鉛-銅合金、亜鉛-モリブデン合金、亜鉛-クロム合金、亜鉛-バナジウム(V)合金が挙げられる。
【0052】
防錆処理層22は、耐食性をさらに向上させる必要がある場合に形成することが好ましい。防錆処理層22としては、例えば、クロムめっきにより形成されるクロム層、クロメート処理により形成されるクロメート層が挙げられる。
下地層、耐熱処理層、及び防錆処理層22の三層を全て形成する場合には、この順序で粗化処理層21上に形成することが好ましい。また、用途や目的とする特性に応じて、下地層、耐熱処理層、及び防錆処理層22のうちいずれか一層又は二層のみを形成してもよい。
【0053】
(5)シランカップリング剤層の形成
シランカップリング剤層の形成方法としては、例えば、表面処理銅箔30の粗化処理層21の凹凸表面上に、直接又は中間層を介してシランカップリング剤溶液を塗布した後に、風乾(自然乾燥)又は加熱乾燥して形成する方法が挙げられる。塗布されたカップリング剤溶液中の水が蒸発すれば、シランカップリング剤層が形成される。50~180℃の温度で加熱乾燥すると、シランカップリング剤と銅箔の反応が促進されるため好適である。
【0054】
シランカップリング剤層は、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤、メタクリル系シランカップリング剤、アクリル系シランカップリング剤、アゾール系シランカップリング剤、スチリル系シランカップリング剤、ウレイド系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤、スルフィド系シランカップリング剤、イソシアネート系シランカップリング剤のいずれか1種以上を含有することが好ましい。
【0055】
〔エッチング凹凸処理を用いた例〕
(1)銅箔基体の製造
カプセルめっき処理を用いた例の場合と同様である。
(2)粗化処理層の形成
カプセルめっき処理を用いた例の場合と同様である。
【0056】
(3)エッチング凹凸処理
濡れ性の向上を目的としてエッチング凹凸処理を行い、銅箔基体10の表面に微細な凹凸形状を形成する。エッチング凹凸処理の内容は前述のとおりであるが、処理条件等についてさらに詳細に説明する。硫酸ニッケルを含有し且つニッケル濃度が30~150g/Lである電解浴を用い、電流密度を1.0~4.0A/dm2、通電時間を0.5~2.0秒として電析を行い、その後にエッチング液に短時間浸漬してエッチングすることにより、伝送損失に影響を与えない程度の微細な凹凸形状を銅箔基体10の表面に形成することができる。
【0057】
このエッチング凹凸処理によって、粗化処理によって形成された粗化粒子の表面に凹凸が形成されるが、エッチングの他の方法としては、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸を含有する溶液への浸漬処理が挙げられる。銅箔基体10を所定の濃度の無機酸水溶液へ数秒から数十秒程度浸漬することにより、粗化粒子の表面に微細な凹凸が形成される。例えば塩酸を用いた場合であれば、濃度5~20体積%の塩酸の中に2秒以上浸漬することにより、粗化粒子の表面に微細な凹凸が形成される。
【0058】
また、エッチングの他の方法として、上記の無機酸を含有する溶液への浸漬処理の他に、酢酸、ギ酸等の有機酸を含有する溶液への浸漬処理、塩化鉄、塩化銅を含有する溶液への浸漬処理、陽極酸化による電解エッチング処理も用いることができる。これらの方法は、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0059】
(4)防錆処理層の形成
カプセルめっき処理を用いた例の場合と同様である。
(5)シランカップリング剤層の形成
カプセルめっき処理を用いた例の場合と同様である。
【0060】
(B)転写表面の濡れ性について
次に、転写表面40aの濡れ性の評価方法について説明する。銅張積層板50やプリント配線板60を製造する際に表面処理銅箔30に貼り合わせた樹脂製基材40の転写表面40aの濡れ性は、JIS R3257:1999に規定の静滴法に準拠して測定した蒸留水の接触角によって評価することができる。
【0061】
表面処理銅箔30に貼り合わせる前の樹脂製基材40の表面のうち、後に表面処理銅箔30が貼り合わされる表面について、蒸留水の接触角θ0を上記静滴法に準拠して測定する。銅箔貼り合わせ前の非転写表面の蒸留水接触角θ0を測定した表面は、表面処理銅箔30の表面の形状が転写されていない非転写表面である。
【0062】
また、表面処理銅箔30の表面処理層20上に樹脂製基材40を貼り合わせた後に、表面処理銅箔30をエッチングにより除去し、残った樹脂製基材40の表面のうち、表面処理銅箔30が貼り合わされていた表面である表面について、蒸留水の接触角θ1を上記静滴法に準拠して測定する。銅箔エッチング後の転写表面の蒸留水接触角θ1を測定した表面は、貼り合わされていた表面処理銅箔30の表面の形状が転写されている転写表面40aである。
そして、接触角θ0と接触角θ1との差θ0-θ1によって、樹脂製基材40の転写表面40aの濡れ性を評価する。接触角θ0と接触角θ1との差θ0-θ1が5°以上35°以下であれば、転写表面40aの濡れ性は良好である。
【0063】
接触角θ0、接触角θ1を測定する際に使用する樹脂製部材は、上記のように、銅張積層板50やプリント配線板60を製造する際に使用する樹脂製基材40と同種のものでもよいが、異なるものを使用して接触角θ0、接触角θ1を測定してもよい。すなわち、銅張積層板50やプリント配線板60を製造する際に使用する樹脂製基材40とは、樹脂の種類や形状、寸法等が異なる部材を、樹脂製部材として用いてもよい。
【0064】
接触角θ0、接触角θ1を測定する際に使用する樹脂製部材を形成する樹脂の種類は、熱硬化性樹脂等の硬化性樹脂でもよいし、熱可塑性樹脂でもよい。硬化性樹脂である場合は、樹脂製部材を硬化させた後に接触角θ0と接触角θ1を測定する。すなわち、接触角θ1の場合は、硬化前の樹脂製部材を表面処理銅箔30の表面処理層20上に貼り合わせ、樹脂製部材を硬化させた後に、表面処理銅箔30をエッチングにより除去する。そして、樹脂製部材の表面のうち転写表面について、蒸留水の接触角θ1を上記静滴法に準拠して測定する。
【0065】
(C)銅張積層板について
本実施形態に係る銅張積層板50の構成は特に限定されるものではないが、表面処理銅箔30と樹脂製基材40とを備えている。そして、樹脂製基材40は、表面処理銅箔30の表面処理層20上に貼り合わされている。この銅張積層板50は、例えばプリント配線板60の製造に使用することができる。
なお、樹脂製基材40を形成する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、フェノール樹脂、ビス(フェノキシフェノキシ)ベンゼン、ポリイミド、液晶ポリマー、フッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン)が挙げられる。
【0066】
(D)プリント配線板について
本実施形態に係るプリント配線板60の構成は特に限定されるものではないが、本実施形態に係る銅張積層板50を備えている。例えば、銅張積層板50の表面処理銅箔30をエッチングして回路31を形成した後に、回路31を覆うように別の樹脂製基材41を貼り合わせれば、プリント配線板60を得ることができる(
図3の(d)を参照)。回路31を覆うように貼り合わる樹脂製基材41は、銅張積層板50の樹脂製基材40と同種のものでもよいし、異種のものでもよい。
【0067】
〔実施例〕
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。まず、比較例7の表面処理銅箔は、特許文献1に記載の製造方法によって製造したものである。以下同様に、比較例8の表面処理銅箔は、特許文献2に記載の製造方法によって製造したものであり、比較例9の表面処理銅箔は、特許文献3に記載の製造方法によって製造したものであり、比較例10の表面処理銅箔は、特許文献4に記載の製造方法によって製造したものであり、比較例11の表面処理銅箔は、特許文献5に記載の製造方法によって製造したものである。
【0068】
次に、実施例1~23及び比較例1~6、12~14の表面処理銅箔は、以下に説明する手順によって製造したものである。
(ア)銅箔基体
実施例1~23及び比較例1~6、12~14の表面処理銅箔を製造するための原料である銅箔基体として、厚さ18μmのロール状の電解銅箔(両面光沢箔)を作製した。電解銅箔の作製に用いたカソードは、#1000~#2000のバフ研磨により表面粗さを調整されたチタン製の回転ドラムであり、アノードは寸法安定性陽極DSA(登録商標)である。電解液の組成、電解条件を下記に示す。
【0069】
<電解液の組成>
銅 :75g/L
硫酸:65g/L
塩素:20mg/L
3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウム:2mg/L
ヒドロキシエチルセルロース :10mg/L
低分子量膠(分子量3000) :50mg/L
<電解条件>
浴温 :50℃
電流密度:45A/dm2
【0070】
次に、上記のようにして作製した銅箔基体に対して、前述した一般的な粗化処理と、濡れ性の向上を目的とした凹凸形成処理を施した。実施例1~8、17~23及び比較例2、3、6については、銅箔基体に対して、濡れ性の向上を目的とした凹凸形成処理であるカプセルめっき処理を施した後に、一般的な粗化処理を施した。実施例9~16及び比較例4、5については、銅箔基体に対して、一般的な粗化処理を施した後に、濡れ性の向上を目的とした凹凸形成処理であるエッチング凹凸処理を施した。一般的な粗化処理、カプセルめっき処理、エッチング凹凸処理について、以下に説明する。
【0071】
(イ)一般的な粗化処理
銅箔基体のマット面に対して、ロール・ツー・ロール方式で粗化処理を施した。この粗化処理は、二段階の電気めっき処理である。一段階目の電気めっき処理のめっき液の組成とめっき条件を下記に示す。また、二段階の電気めっき処理(固定めっき処理)のめっき液の組成とめっき条件を下記に示す。表1、2に示すように、一段階目の電気めっき処理の電流密度と通電時間を変更することによって、異なる高さ、形状を有する粗化粒子を銅箔の表面上に形成した。
【0072】
<一段階目の電気めっき処理のめっき液の組成>
硫酸銅五水和物の濃度・・・銅(原子)換算で10g/L
硫酸の濃度・・・150g/L
モリブデン酸アンモニウムの濃度・・・モリブデン(原子)換算で600mg/L
<一段階目の電気めっき処理の条件>
処理速度・・・15m/分
電流密度・・・15~55A/dm2
浴温・・・15℃
通電時間・・・4~6秒
【0073】
<二段階目の電気めっき処理のめっき液の組成>
硫酸銅五水和物の濃度・・・銅(原子)換算で55g/L
硫酸の濃度・・・120g/L
<二段階目の電気めっき処理の条件>
処理速度・・・15m/分
電流密度・・・2A/dm2
通電時間・・・3秒
【0074】
(ウ)カプセルめっき処理
銅箔基体に対して、ロール・ツー・ロール方式で、凹凸形成処理であるカプセルめっき処理を施した。開口面積が50μm2、開口率が5~15%のメッシュ状カソード遮蔽板を電解浴内の銅箔基体の近傍に設置し、下記組成のめっき液を用いて下記めっき条件で電気めっき処理を行った。表1、2に示すように、カソード遮蔽板の開口率、電気めっきの電流密度と通電時間を変更することによって、異なる表面凹凸を有する銅箔基体とした。
【0075】
<めっき液の組成>
硫酸銅五水和物の濃度・・・銅(原子)換算で60g/L
硫酸の濃度・・・150g/L
<めっき処理の条件>
処理速度・・・18m/分
【0076】
(エ)エッチング凹凸処理
粗化処理を施した銅箔基体の粗化処理を施した面に対して、凹凸形成処理であるエッチング凹凸処理を施した。エッチング凹凸処理は、ニッケルを電析した後にエッチング液に浸漬してエッチングするという処理であるが、電析に用いた電解液の組成、電析の条件、エッチングの条件を下記に示す。表1、2に示すように、電析の電流密度と通電時間、及び、エッチングの処理時間を変更することによって、異なる表面凹凸を有する銅箔基体とした。
【0077】
<電解液の組成>
ニッケルの濃度・・・60g/L
ホウ酸(H3BO3)の濃度・・・15g/L
浴温・・・20℃
pH・・・3.5
【0078】
<電析の条件>
電流密度・・・1~2.5A/dm2
通電時間・・・1~3秒
<エッチングの条件>
エッチング液・・・濃度10体積%の塩酸
浴温・・・30℃
処理時間・・・0.5~2秒
【0079】
(オ)防錆処理
続いて、上記のように粗化処理及び凹凸形成処理を施した銅箔基体の該処理を施した表面に、防錆処理を施して防錆処理層を形成した。防錆処理は、ニッケルめっき、亜鉛めっき、クロムめっきを該順序で施す処理である。ニッケルめっき、亜鉛めっき、クロムめっきの条件を示す。
【0080】
<ニッケルめっき液の組成>
ニッケルの濃度・・・45g/L
ホウ酸の濃度・・・20g/L
浴温・・・20℃
pH・・・3.5
<ニッケルめっきの条件>
電流密度:0.4A/dm2
処理時間:8秒
【0081】
<亜鉛めっき液の組成>
亜鉛の濃度・・・2.5g/L
水酸化ナトリウム(NaOH)の濃度・・・25g/L
浴温・・・20℃
<亜鉛めっきの条件>
電流密度:0.7A/dm2
処理時間:4秒
【0082】
<クロムめっき液の組成>
クロムの濃度・・・8g/L
浴温・・・30℃
pH・・・2.4
<クロムめっきの条件>
電流密度:5A/dm2
処理時間:4秒
【0083】
(カ)シランカップリング剤処理
最後に、シランカップリング剤処理を施し、防錆処理層の最表面のクロムめっき層の上に、シランカップリング剤層を形成した。シランカップリング剤層の形成は、濃度0.2質量%の3-アミノプロピルトリメトキシシラン水溶液を塗布し、100℃で乾燥させることにより行った。
【0084】
【0085】
【0086】
上記のようにして得られた実施例1~23及び比較例1~14の表面処理銅箔について、各種評価を行った。評価項目及び評価方法を以下に説明する。また、評価結果は表1、2に示す。
<蒸留水の接触角>
表面処理銅箔の表面処理層(すなわちシランカップリング剤層)上に樹脂製部材を貼り合わせて銅張積層板とした。樹脂製部材としては、下記の物を用いた。すなわち、実施例1~20及び比較例1~11については、樹脂製部材として、低誘電ポリフェニレンエーテル系樹脂基材フィルム(パナソニック株式会社製の超低伝送損失・高耐熱多層基板材料MEGTRON7N、厚さ60μm)を2枚重ねて貼り合わせたものを用いた。
【0087】
また、実施例21と比較例12については、Taiwan Union Corporation社製のThunderClad3+を用い、実施例22と比較例13については、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製のエスパネックス(登録商標)を用い、実施例23と比較例14については、株式会社クラレ製の液晶ポリマーフィルム ベクスター(登録商標)を用いた。
なお、表面処理銅箔と樹脂製部材の貼り合わせは、それぞれの樹脂毎のプロセスガイドラインに則った条件で行った。
【0088】
この銅張積層板を、塩化第二銅と塩酸の混合液をエッチング液として用いてエッチングし、表面処理銅箔を全て除去した。残った樹脂製部材を十分に水洗した後、樹脂製部材の表面処理銅箔が貼り合わされていた表面(転写表面)について、蒸留水の接触角θ1をJIS R3257:1999に規定の静滴法に準拠して測定した。
【0089】
一方、表面処理銅箔の表面処理層上に貼り合わせた樹脂製部材と同種の樹脂製部材を別途用意し、この別の樹脂製部材に対して、表面処理銅箔を貼り合わせることなく、銅張積層板を作製する場合の上記手順と同様の操作を行い、その表面(非転写表面)について蒸留水の接触角θ0を上記静滴法に準拠して測定した。そして、接触角θ0と接触角θ1との差θ0-θ1を算出した。
【0090】
<表面処理銅箔の算術平均粗さSa及び樹脂製部材の算術平均粗さSa、コア部の空間の容積Vvc>
表面処理銅箔の表面処理層(すなわちシランカップリング剤層)の表面の算術平均粗さSa、及び、銅箔エッチング後の転写表面の蒸留水接触角θ1を測定した樹脂製部材の転写表面の算術平均粗さSa、コア部の空間の容積Vvcを、株式会社キーエンス製の共焦点レーザー顕微鏡VK-X1050及びVK-X1000を用いて、ISO25178に従って測定した。
【0091】
なお、共焦点レーザー顕微鏡の対物レンズの倍率は100倍、スキャンモードはレーザーコンフォーカル、測定サイズは2048×1536、測定品質はHigh Precision、ピッチは0.08μmである。
また、算術平均粗さSa、コア部の空間の容積Vvcの演算は、以下に示すフィルター処理及び演算条件で行った。
【0092】
画像処理:平滑化処理、3×3、メディアン
Sフィルター:無し
F-operation:平面傾き補正
Lフィルター:0.025μm
演算対象面積:100μm×100μm
負荷曲線における負荷面積率:10%及び90%
【0093】
<回路加工性>
銅箔エッチング後の転写表面の蒸留水接触角θ1を測定するために作製したものと同様の銅張積層板の表面処理銅箔上に、L&Sが50/50μmのレジストパターンを、サブトラクティブ工法により形成した。そして、表面処理銅箔のエッチングを行って、配線パターンを有する回路を形成した。レジストとしてはドライレジストフィルムを使用し、エッチング液としては塩化銅と塩酸を含有する混合液を使用した。
【0094】
そして、得られた回路のエッチングファクター(Ef)を測定した。エッチングファクターとは、銅箔の厚さをH、形成された回路のボトム幅をB、形成された回路のトップ幅をTとするときに、式Ef=2H/(B-T)で示される値である。
回路を形成した銅張積層板を切断して、樹脂製部材の表面に直交する断面を出し、走査型電子顕微鏡で回路の断面を観察した。そして、
図2に示す断面上の角度Xと角度Yを測定した。角度Xは、回路31のトップ端部31aとボトム端部31bを結ぶ直線と樹脂製部材の表面とがなす角度である。角度Yは、回路31のボトム端部31bの接線と樹脂製部材の表面とがなす角度である。
【0095】
回路31のボトム端部31bの接線を、より詳細に定義する。樹脂製部材のボトム側の表面から高さ1.5μmの位置に、樹脂製部材の表面と平行な直線を引き、その直線と回路31の側面との交点31cと、ボトム端部31bとを結ぶ直線を「回路31のボトム端部31bの接線」と定義し、この接線と樹脂製部材の表面とがなす角度を角度Yと定義する。
【0096】
1つの回路につき任意の5つの断面を観察し、それぞれ角度Xと角度Yを測定した。そして、角度X、角度Yともに、5つの測定値の平均値を算出した。結果を表1、2に示す。表1、2においては、Efが2.5以上であり且つ角度Yが角度Xよりも大きいものは「A」と表示し、Efが2.0以上2.5未満であり且つ角度Yが角度Xよりも大きいものは「B」と表示し、それ以外のものは「C」と表示した。なお、
図2の(a)は、角度Yが角度Xよりも小さい回路31の例を示す図であり、
図2の(b)は、角度Yが角度Xよりも大きい回路31の例を示す図である。
【0097】
<伝送損失>
銅箔エッチング後の転写表面の蒸留水接触角θ1を測定するために作製したものと同様の銅張積層板を用いて、ストリップ線路を形成したプリント配線板を作製し、伝送特性を評価した。このプリント配線板に形成されているストリップ線路の回路幅は140μm、回路長は76mmとした。
【0098】
このプリント配線板に形成されている回路に、Keysight Technologies社製のネットワークアナライザN5291Aを用いて高周波信号を伝送し、伝送損失を測定した。特性インピーダンスは50Ωとした。伝送損失の測定値は、絶対値が小さいほど伝送損失が少ない(すなわち、高周波信号が良好に伝送できる)ことを意味する。結果を表1、2に示す。表1、2においては、40GHzにおける伝送損失の絶対値が3.0dB/76mm未満である場合は「A」、3.0dB/76mm以上3.6dB/76mm未満である場合は「B」、3.6dB/76mm以上である場合は「C」と示してある。
【0099】
<異物の発生>
銅箔エッチング後の転写表面の蒸留水接触角θ1を測定するために作製したものと同様の銅張積層板を、塩化第二銅と塩酸の混合液をエッチング液として用いてエッチングし、表面処理銅箔を全て除去した。残った樹脂製部材を十分に水洗した後、樹脂製部材の表面処理銅箔が貼り合わされていた表面(転写表面)に、上記の銅張積層板の作製に用いたものと同種の樹脂製部材と表面処理銅箔とをこの順に重ねて張り合わせ、さらに上記と同様の手順でエッチングして表面処理銅箔を全て除去した。これにより、2つの樹脂製部材が貼り合わされてなる樹脂製試料を得た。
【0100】
次に、得られた樹脂製試料を裁断し、一辺5cmの正方形状とした。そして、裁断した樹脂製試料をマイクロスコープにより35倍に拡大して観察し、直径1mm以上の黒点の数を測定した。この黒点は、貼り合わされた2つの樹脂製部材の間に生じた異物に起因するものである。マイクロスコープによる観察は、当初銅張積層板を構成していた樹脂製部材の転写表面を、後から貼り合わせた樹脂製部材の側から見る形で行った。結果を表1、2に示す。表1、2においては、裁断した樹脂製試料1個あたり黒点の個数が2個以下である場合は「A」、3個以上5個以下である場合は「B」、5個超過である場合は「C」と示してある。
【0101】
表1、2から分かるように、実施例1~23の表面処理銅箔は、表面処理層の表面の算術平均粗さSaが0.04μm以上0.30μm以下の間で制御されているにも関わらず、樹脂製基材の転写表面の濡れ性を表す接触角θ0と接触角θ1との差θ0-θ1が良好に制御されているため、回路加工性に優れるとともに伝送損失及び異物の発生が生じにくかった。
【0102】
また、これらの中でも実施例1~4、10~14、17、18、21~23の表面処理銅箔は、樹脂製基材の転写表面の算術平均粗さSaとコア部の空間の容積Vvcが良好に制御されているため、回路加工性がさらに優れるとともに異物の発生がさらに生じにくかった。
これに対して、比較例1~14の表面処理銅箔は、樹脂製基材の転写表面の濡れ性が低いため、回路加工性、伝送損失、及び異物の発生のうちいずれかの特性が不十分であった。
【符号の説明】
【0103】
10・・・銅箔基体
20・・・表面処理層
20a・・・表面処理層の表面
21・・・粗化処理層
22・・・防錆処理層
30・・・表面処理銅箔
31・・・回路
31a・・・トップ端部
31b・・・ボトム端部
40・・・樹脂製基材(樹脂製部材)
40a・・・転写表面
41・・・樹脂製基材
50・・・銅張積層板
60・・・プリント配線板
100・・・異物