(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】水素貯蔵状態推定装置、水素貯蔵状態推定プログラム及び水素貯蔵状態推定方法
(51)【国際特許分類】
F17C 13/02 20060101AFI20240729BHJP
F17C 11/00 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
F17C13/02 301A
F17C11/00 C
(21)【出願番号】P 2019104225
(22)【出願日】2019-06-04
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【氏名又は名称】片寄 武彦
(72)【発明者】
【氏名】杉田 未来
(72)【発明者】
【氏名】下田 英介
(72)【発明者】
【氏名】野津 剛
(72)【発明者】
【氏名】前田 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 成輝
【審査官】長谷川 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-139298(JP,A)
【文献】特開2006-099984(JP,A)
【文献】特開2002-221298(JP,A)
【文献】特開2005-083452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 13/02
F17C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金が充填された水素貯蔵タンクの水素貯蔵状態を推定する水素貯蔵状態推定装置であって、
前記水素貯蔵状態の初期値として、所定の初期時刻における水素貯蔵率(x
0)、タンク温度(T
B,0)及びタンク圧力(P
B,0)を取得するとともに、前記初期時刻における前記水素貯蔵率(x
0)、前記タンク温度(T
B,0)及び前記タンク圧力(P
B,0)に基づいて、前記初期時刻における前記水素貯蔵タンクのタンク水素量(A
B,t0)、前記水素吸蔵合金の金属部分に存在する金属部の水素量(A
M,t0)及び前記水素吸蔵合金の空間部分に存在する空間部の水素量(A
G,t0)を含む初期内部状態量を取得する初期状態取得部と、
前記初期時刻から所定の単位時間間隔で区切られた所定の運転時刻毎の前記水素貯蔵タンクの運転計画として、前記運転時刻毎の水素流入量(F
i,t)、水素流出量(F
o,t)、水素流入温度(T
H,i,t)及び水素流入圧力(P
H,i,t)を含む水素流入流出計画と、前記運転時刻毎の熱媒熱量(Q
c,t)及び外気温(T
o,t)を含むエネルギー計画とを取得する運転計画取得部と、
前記初期時刻における水素貯蔵率(x
0)を基準として、前記水素流入流出計画に基づいて、水素貯蔵率(x
t)を前記運転時刻毎に算定する第1の水素貯蔵率算定部と、
前記水素貯蔵状態の前記初期値を基準として、前記水素流入流出計画に基づいて、前記金属部に存在する水素と前記空間部に存在する水素との気固反応が行われる気固反応前の前記空間部の状態量として、温度(T
G2,t)、圧力(P
G2,t)及び水素量(A
G2,t)を前記運転時刻毎に算定する反応前状態算定部と、
前記水素貯蔵状態の前記初期値を基準として、前記水素流入流出計画と、前記エネルギー計画と、前記気固反応前の前記空間部の状態量と、前記水素吸蔵合金のPCT線図とに基づいて、前記気固反応が行われた気固反応後の前記タンク温度(T
3,t)及び前記タンク圧力(P
3,t)を前記運転時刻毎に算定する反応後状態算定部と、
前記第1の水素貯蔵率算定部により算定された前記運転時刻毎の前記水素貯蔵率(x
t)と、前記反応後状態算定部により算定された前記運転時刻毎の前記タンク温度(T
3,t)及び前記タンク圧力(P
3,t)とを出力する出力部とを備える、
ことを特徴とする水素貯蔵状態推定装置。
【請求項2】
前記反応後状態算定部は、
前記エネルギー計画と、前記気固反応前の前記空間部の状態量とに基づいて、前記金属部に存在する水素と前記空間部に存在する水素とが温度平衡状態となるときの前記水素貯蔵タンクの内部状態量として、タンク温度(T
1,t)及びタンク圧力(P
1,t)を算定する平衡状態算定部と、
前記気固反応前の前記空間部の状態量と、前記温度平衡状態となるときの前記水素貯蔵タンクの内部状態量とに基づいて、前記温度平衡状態となるときの気固反応量(U
R,t)を算定する気固反応量算定部と、
前記気固反応量(U
R,t)による前記気固反応が行われた前記気固反応後の前記タンク温度(T
3,t)を算定する反応後温度算定部と、
前記気固反応後の前記タンク温度(T
3,t)と、前記水素貯蔵率(x
t)と、前記PCT線図とに基づいて、前記気固反応後のタンク圧力(P
3,t)を算定する反応後圧力算定部とを備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の水素貯蔵状態推定装置。
【請求項3】
前記初期状態取得部は、
前記初期時刻における前記タンク温度(T
0)及び前記タンク圧力(P
0)と、前記水素吸蔵合金のPCT線図とに基づいて、前記初期時刻における見かけの水素貯蔵率(y
0)をさらに取得し、
前記初期時刻における前記見かけの水素貯蔵率(y
0)を基準として、前記運転時刻よりも前記単位時間前の直前時刻における前記水素貯蔵率(x
t-1)及び前記見かけの水素貯蔵率(y
t-1)の間の比率に基づいて、前記見かけの水素貯蔵率(y
t)を前記運転時刻毎に算定する第2の水素貯蔵率算定部をさらに備え、
前記反応後圧力算定部は、
前記水素貯蔵率(x
t)に代えて前記見かけの水素貯蔵率(y
t)を用いることにより、前記気固反応後の前記タンク温度(T
3,t)と、前記見かけの水素貯蔵率(y
t)と、前記PCT線図とに基づいて、前記気固反応後のタンク圧力(P
3,t)を算定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の水素貯蔵状態推定装置。
【請求項4】
前記水素貯蔵タンクに流入される熱媒体の制御量として、熱媒流量(F
c,t)及び熱媒流入温度(T
c,i,t)を最適化する熱媒最適化部をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいず
れか1項に記載の水素貯蔵状態推定装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の水素貯蔵状態推定装置が備える各部として機能させることを特徴とする水素貯蔵状態推定プログラム。
【請求項6】
水素吸蔵合金が充填された水素貯蔵タンクの水素貯蔵状態を推定する水素貯蔵状態推定方法であって、
前記水素貯蔵状態の初期値として、所定の初期時刻における水素貯蔵率(x
0)、タンク温度(T
B,0)及びタンク圧力(P
B,0)を取得するとともに、前記初期時刻における前記水素貯蔵率(x
0)、前記タンク温度(T
B,0)及び前記タンク圧力(P
B,0)に基づいて、前記初期時刻における前記水素貯蔵タンクのタンク水素量(A
B,t0)、前記水素吸蔵合金の金属部分に存在する金属部の水素量(A
M,t0)及び前記水素吸蔵合金の空間部分に存在する空間部の水素量(A
G,t0)を含む初期内部状態量を取得する初期状態取得工程と、
前記初期時刻から所定の単位時間間隔で区切られた所定の運転時刻毎の前記水素貯蔵タンクの運転計画として、前記運転時刻毎の水素流入量(F
i,t)、水素流出量(F
o,t)、水素流入温度(T
H,i,t)及び水素流入圧力(P
H,i,t)を含む水素流入流出計画と、前記運転時刻毎の熱媒熱量(Q
c,t)及び外気温(T
o,t)を含むエネルギー計画とを取得する運転計画取得工程と、
前記初期時刻における水素貯蔵率(x
0)を基準として、前記水素流入流出計画に基づいて、水素貯蔵率(x
t)を前記運転時刻毎に算定する第1の水素貯蔵率算定工程と、
前記水素貯蔵状態の前記初期値を基準として、前記水素流入流出計画に基づいて、前記金属部に存在する水素と前記空間部に存在する水素との気固反応が行われる気固反応前の前記空間部の状態量として、温度(T
G2,t)、圧力(P
G2,t)及び水素量(A
G2,t)を前記運転時刻毎に算定する反応前状態算定工程と、
前記水素貯蔵状態の前記初期値を基準として、前記水素流入流出計画と、前記エネルギー計画と、前記気固反応前の前記空間部の状態量と、前記水素吸蔵合金のPCT線図とに基づいて、前記気固反応が行われた気固反応後の前記タンク温度(T
3,t)及び前記タンク圧力(P
3,t)を前記運転時刻毎に算定する反応後状態算定工程と、
前記第1の水素貯蔵率算定
工程により算定された前記運転時刻毎の前記水素貯蔵率(x
t)と、前記反応後状態算定
工程により算定された前記運転時刻毎の前記タンク温度(T
3,t)及び前記タンク圧力(P
3,t)とを出力する出力工程とを備える、
ことを特徴とする水素貯蔵状態推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金が充填された水素貯蔵装置による水素貯蔵状態を推定する水素貯蔵状態推定装置、水素貯蔵状態推定プログラム及び水素貯蔵状態推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素吸蔵合金が充填された水素貯蔵装置に水素を貯蔵する場合、水素貯蔵装置による水素貯蔵状態を管理するため、水素吸蔵合金の温度、水素圧力、水素吸蔵量等を把握することが要求される。
【0003】
例えば、特許文献1には、温度センサ及び圧力センサにより水素吸蔵合金の温度及び水素圧力を検出するとともに、水素吸蔵合金の各温度における水素圧力と水素吸蔵量との関係を表す関数によって水素吸蔵合金の水素吸蔵量を求める水素吸蔵量の測定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、水素貯蔵装置には、水素吸蔵合金が粉砕された状態で充填されているため、その粉砕された合金粒子同士に間隙が生じている。また、水素吸蔵合金の金属部分には、複数の細孔が形成されている。そのため、水素貯蔵装置の内部では、全ての水素が水素吸蔵合金に吸蔵された状態で存在するのではなく、一部の水素は、そのような間隙や細孔からなる空間部分にガスとして存在する。
【0006】
しかし、特許文献1に開示された水素吸蔵量の測定方法では、空間部分にガスとして存在する水素の影響が考慮されていないため、水素吸蔵量の変化を適切に把握することができない。また、特許文献1に開示された水素吸蔵量の測定方法では、温度センサ及び圧力センサによりそれぞれ検出された水素吸蔵合金の温度及び水素圧力を用いて水素吸蔵量を求めるため、リアルタイムでの水素庁貯蔵状態しか測定することができず、将来に亘って水素庁貯蔵状態の推移を把握することができない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、水素吸蔵合金の空間部分に水素がガスとして存在することに起因する誤差を低減し、水素貯蔵状態を適切に推定することができる水素貯蔵状態推定装置、水素貯蔵状態推定プログラム及び水素貯蔵状態推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであって、本発明の一実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置は、
水素吸蔵合金が充填された水素貯蔵タンクの水素貯蔵状態を推定する水素貯蔵状態推定装置であって、
前記水素貯蔵状態の初期値として、所定の初期時刻における水素貯蔵率(x0)、タンク温度(TB,0)及びタンク圧力(PB,0)を取得するとともに、前記初期時刻における前記水素貯蔵率(x0)、前記タンク温度(TB,0)及び前記タンク圧力(PB,0)に基づいて、前記初期時刻における前記水素貯蔵タンクのタンク水素量(AB,t0)、前記水素吸蔵合金の金属部分に存在する金属部の水素量(AM,t0)及び前記水素吸蔵合金の空間部分に存在する空間部の水素量(AG,t0)を含む初期内部状態量を取得する初期状態取得部と、
前記初期時刻から所定の単位時間間隔で区切られた所定の運転時刻毎の前記水素貯蔵タンクの運転計画として、前記運転時刻毎の水素流入量(Fi,t)、水素流出量(Fo,t)、水素流入温度(TH,i,t)及び水素流入圧力(PH,i,t)を含む水素流入流出計画と、前記運転時刻毎の熱媒熱量(Qc,t)及び外気温(To,t)を含むエネルギー計画とを取得する運転計画取得部と、
前記初期時刻における水素貯蔵率(x0)を基準として、前記水素流入流出計画に基づいて、水素貯蔵率(xt)を前記運転時刻毎に算定する第1の水素貯蔵率算定部と、
前記水素貯蔵状態の前記初期値を基準として、前記水素流入流出計画に基づいて、前記金属部に存在する水素と前記空間部に存在する水素との気固反応が行われる気固反応前の前記空間部の状態量として、温度(TG2,t)、圧力(PG2,t)及び水素量(AG2,t)を前記運転時刻毎に算定する反応前状態算定部と、
前記水素貯蔵状態の前記初期値を基準として、前記水素流入流出計画と、前記エネルギー計画と、前記気固反応前の前記空間部の状態量と、前記水素吸蔵合金のPCT線図とに基づいて、前記気固反応が行われた気固反応後の前記タンク温度(T3,t)及び前記タンク圧力(P3,t)を前記運転時刻毎に算定する反応後状態算定部と、
前記第1の水素貯蔵率算定部により算定された前記運転時刻毎の前記水素貯蔵率(xt)と、前記反応後状態算定部により算定された前記運転時刻毎の前記タンク温度(T3,t)及び前記タンク圧力(P3,t)とを出力する出力部とを備える、ことを特徴とする。
【0009】
上記水素貯蔵状態推定装置において、
前記反応後状態算定部は、
前記エネルギー計画と、前記気固反応前の前記空間部の状態量とに基づいて、前記金属部に存在する水素と前記空間部に存在する水素とが温度平衡状態となるときの前記水素貯蔵タンクの内部状態量として、タンク温度(T1,t)及びタンク圧力(P1,t)を算定する平衡状態算定部と、
前記気固反応前の前記空間部の状態量と、前記温度平衡状態となるときの前記水素貯蔵タンクの内部状態量とに基づいて、前記温度平衡状態となるときの気固反応量(UR,t)を算定する気固反応量算定部と、
前記気固反応量(UR,t)による前記気固反応が行われた前記気固反応後の前記タンク温度(T3,t)を算定する反応後温度算定部と、
前記気固反応後の前記タンク温度(T3,t)と、前記水素貯蔵率(xt)と、前記PCT線図とに基づいて、前記気固反応後のタンク圧力(P3,t)を算定する反応後圧力算定部とを備える、ことを特徴とする。
【0010】
上記水素貯蔵状態推定装置において、
前記初期状態取得部は、
前記初期時刻における前記タンク温度(T0)及び前記タンク圧力(P0)と、前記水素吸蔵合金のPCT線図とに基づいて、前記初期時刻における見かけの水素貯蔵率(y0)をさらに取得し、
前記初期時刻における前記見かけの水素貯蔵率(y0)を基準として、前記運転時刻よりも前記単位時間前の直前時刻における前記水素貯蔵率(xt-1)及び前記見かけの水素貯蔵率(yt-1)の間の比率に基づいて、前記見かけの水素貯蔵率(yt)を前記運転時刻毎に算定する第2の水素貯蔵率算定部をさらに備え、
前記反応後圧力算定部は、
前記水素貯蔵率(xt)に代えて前記見かけの水素貯蔵率(yt)を用いることにより、前記気固反応後の前記タンク温度(T3,t)と、前記見かけの水素貯蔵率(yt)と、前記PCT線図とに基づいて、前記気固反応後のタンク圧力(P3,t)を算定する、ことを特徴とする。
【0011】
上記水素貯蔵状態推定装置は、
前記水素貯蔵タンクに流入される熱媒体の制御量として、熱媒流量(Fc,t)及び熱媒流入温度(Tc,i,t)を最適化する熱媒最適化部をさらに備える、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一実施形態に係る水素貯蔵状態推定プログラムは、
コンピュータを、上記水素貯蔵状態推定装置が備える各部として機能させる、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一実施形態に係る水素貯蔵状態推定方法は、
水素吸蔵合金が充填された水素貯蔵タンクの水素貯蔵状態を推定する水素貯蔵状態推定方法であって、
前記水素貯蔵状態の初期値として、所定の初期時刻における水素貯蔵率(x0)、タンク温度(TB,0)及びタンク圧力(PB,0)を取得するとともに、前記初期時刻における前記水素貯蔵率(x0)、前記タンク温度(TB,0)及び前記タンク圧力(PB,0)に基づいて、前記初期時刻における前記水素貯蔵タンクのタンク水素量(AB,t0)、前記水素吸蔵合金の金属部分に存在する金属部の水素量(AM,t0)及び前記水素吸蔵合金の空間部分に存在する空間部の水素量(AG,t0)を含む初期内部状態量を取得する初期状態取得工程と、
前記初期時刻から所定の単位時間間隔で区切られた所定の運転時刻毎の前記水素貯蔵タンクの運転計画として、前記運転時刻毎の水素流入量(Fi,t)、水素流出量(Fo,t)、水素流入温度(TH,i,t)及び水素流入圧力(PH,i,t)を含む水素流入流出計画と、前記運転時刻毎の熱媒熱量(Qc,t)及び外気温(To,t)を含むエネルギー計画とを取得する運転計画取得工程と、
前記初期時刻における水素貯蔵率(x0)を基準として、前記水素流入流出計画に基づいて、水素貯蔵率(xt)を前記運転時刻毎に算定する第1の水素貯蔵率算定工程と、
前記水素貯蔵状態の前記初期値を基準として、前記水素流入流出計画に基づいて、前記金属部に存在する水素と前記空間部に存在する水素との気固反応が行われる気固反応前の前記空間部の状態量として、温度(TG2,t)、圧力(PG2,t)及び水素量(AG2,t)を前記運転時刻毎に算定する反応前状態算定工程と、
前記水素貯蔵状態の前記初期値を基準として、前記水素流入流出計画と、前記エネルギー計画と、前記気固反応前の前記空間部の状態量と、前記水素吸蔵合金のPCT線図とに基づいて、前記気固反応が行われた気固反応後の前記タンク温度(T3,t)及び前記タンク圧力(P3,t)を前記運転時刻毎に算定する反応後状態算定工程と、
前記第1の水素貯蔵率算定部により算定された前記運転時刻毎の前記水素貯蔵率(xt)と、前記反応後状態算定部により算定された前記運転時刻毎の前記タンク温度(T3,t)及び前記タンク圧力(P3,t)とを出力する出力工程とを備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置、水素貯蔵状態推定プログラム及び水素貯蔵状態推定方法によれば、反応前状態算定部が、水素流入流出計画に基づいて、金属部に存在する水素と空間部に存在する水素との気固反応が行われる気固反応前の空間部の状態量を算定し、反応後状態算定部が、水素流入流出計画と、エネルギー計画と、気固反応前の空間部の状態量と、水素吸蔵合金のPCT線図とに基づいて、金属部に存在する水素と空間部に存在する水素との気固反応が行われた気固反応後のタンク温度及びタンク圧力を算定する。
【0015】
そのため、反応前状態算定部が、水素吸蔵合金の空間部分にガスとして存在する水素を、気固反応前の空間部の状態量として算定し、反応後状態算定部が、気固反応前の空間部の状態量を考慮して、気固反応後のタンク温度及びタンク圧力を算定する。したがって、水素吸蔵合金の空間部分に水素がガスとして存在することに起因する誤差を低減し、水素貯蔵状態を適切に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る水素エネルギー利用システム100の一例を示す全体構成図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1の一例を示すブロック図である。
【
図3】(a)は、本発明の第1の実施形態に係るPCT線図データ110の一例を示す図である。(b)は、本発明の第1の実施形態に係る水素貯蔵タンク2の内部状態量を示す説明図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1(制御部12)が水素貯蔵状態の推定処理を行う際の見かけの水素貯蔵率y
tを説明する図であり、(a)は水素貯蔵率x
t及びPCT線図データ110から推定したタンク温度T
tの推定値と、タンク温度の実験値との比較、(b)は水素貯蔵率x
t及びPCT線図データ110から推定したタンク圧力P
tの推定値と、タンク圧力の実験値との比較、(c)は運転計画データ111から算定した水素貯蔵率x
tの算定値と、タンク温度及びタンク圧力の実験値をPCT線図データ110に代入した場合の水素貯蔵率の実験値との比較を示す図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1による水素貯蔵状態の推定処理(水素貯蔵状態推定方法)を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1による水素貯蔵状態の推定処理(水素貯蔵状態推定方法)を示すフローチャート(
図5の続き)である。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1による水素貯蔵状態の推定処理(水素貯蔵状態推定方法)を示すフローチャート(
図6の続き)である。
【
図8】本発明の第1の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1による水素貯蔵状態の推定処理において、水素貯蔵率x
t(算定値)、見かけの水素貯蔵率y
t及びPCT線図データ110(近似式)の推移を示す図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1による熱媒最適化処理を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1による熱媒最適化処理を示すフローチャート(
図9の続き)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る水素エネルギー利用システム100の一例を示す全体構成図である。水素エネルギー利用システム100は、例えば、集合住宅等の建物や工場等の施設に付設されて、電気エネルギーの需給に応じて、水素エネルギーと電気エネルギーとの間で相互に変換することで、水素エネルギーを利用するシステムである。
【0019】
水素エネルギー利用システム100は、水素吸蔵合金20が充填された水素貯蔵タンク2と、水素を製造し、水素貯蔵タンク2に水素を供給する水素製造装置3と、水素貯蔵タンク2内の水素吸蔵合金20から放出された水素を利用する水素利用装置4と、水素貯蔵タンク2との間で熱媒体を循環させる熱媒体循環装置5と、水素貯蔵タンク2内の水素吸蔵合金20の温度(以下、「タンク温度T」という。)を検出する温度センサ6と、水素貯蔵タンク2に貯蔵された水素の圧力(以下、「タンク圧力P」という。)を検出する圧力センサ7と、水素貯蔵タンク2における水素貯蔵状態を推定する水素貯蔵状態推定装置1とを備えて構成されている。
【0020】
水素貯蔵タンク2に充填された水素吸蔵合金20は、タンク温度T及びタンク圧力Pに応じて水素を吸蔵又は放出する合金である。水素吸蔵合金20としては、例えば、アルカリ土類系、希土類系、チタン系、固溶体等の各種の合金が用いられる。
【0021】
水素製造装置3は、例えば、余剰電力や深夜電力等の電気エネルギーを用いて水を電気分解することにより水素を製造する電気分解装置や、メタンやメタノール等を改質することにより水素を製造する改質装置等で構成されている。
【0022】
水素利用装置4は、水素を利用して各種のエネルギーを発生する装置であり、例えば、水素と酸素との電気化学反応により電気エネルギー及び熱エネルギーを発生する燃料電池や、水素を燃焼させて運動エネルギー及び熱エネルギーを発生する水素エンジン等で構成されている。
【0023】
熱媒体循環装置5は、水素貯蔵タンク2内の水素吸蔵合金20に対して熱媒体を循環させることで熱媒体と水素吸蔵合金20との間で熱交換を行う装置である。
【0024】
(水素貯蔵状態推定装置1の構成)
図2は、本発明の第1の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1の一例を示すブロック図である。
【0025】
水素貯蔵状態推定装置1は、水素貯蔵タンク2における水素貯蔵状態として、所定の運転期間における水素貯蔵率x[%]、タンク温度T[℃]及びタンク圧力P[atma]の推移を推定する装置であり、例えば、汎用のコンピュータ等で構成されている。
【0026】
水素貯蔵状態推定装置1は、その具体的な構成として、キーボード、マウス、タッチパネル等により構成される入力部10と、HDD、メモリ等により構成される記憶部11と、CPU等のプロセッサにより構成される制御部12と、温度センサ6及び圧力センサ7や外部のネットワーク等に接続される接続部13と、ディスプレイ等により構成される表示部14とを備える。
【0027】
記憶部11には、PCT線図データ110と、運転計画データ111と、コンピュータを水素貯蔵状態推定装置1として機能させる水素貯蔵状態推定プログラム112とが記憶されている。
【0028】
制御部12は、水素貯蔵状態推定プログラム112を実行することにより、初期状態取得部120、運転計画取得部121、第1の水素貯蔵率算定部122、第2の水素貯蔵率算定部123、反応前状態算定部124、反応後状態算定部125、及び、出力部126として機能し、水素貯蔵タンク2における水素貯蔵状態(所定の運転期間における水素貯蔵率x、タンク温度T及びタンク圧力Pの推移)を推定する推定処理(水素貯蔵状態推定方法)を行う。
【0029】
また、反応後状態算定部125は、平衡状態算定部125a、気固反応量算定部125b、反応後温度算定部125c、及び、反応後圧力算定部125dを備える。
【0030】
具体的には、制御部12は、所定の運転期間が、初期時刻t0から所定の単位時間間隔で区切られた所定の運転時刻t(t=t1,t2,t3,…,tMax)を含むものであり、水素貯蔵タンク2における水素貯蔵状態の初期値として、初期時刻t0における水素貯蔵率x0[%]、タンク温度TB,0[K]及びタンク圧力PB,0が既知であるものとして、PCT線図データ110及び運転計画データ111に基づいて、所定の運転時刻t(t=t1,t2,t3,…,tMax)毎の水素貯蔵率xt、タンク温度TB,t及びタンク圧力PB,tを推定する。なお、制御部12の各部の機能と、水素貯蔵状態の推定処理の詳細については後述する。
【0031】
(PCT線図データ110について)
図3(a)は、本発明の第1の実施形態に係るPCT線図データ110の一例を示す図である。PCT線図データ110は、水素吸蔵合金20の特性として、各温度Ta、Tb、…、Tn(=タンク温度T)における圧力組成等温線図(以下、「PCT(Pressure Composition Temperature)線図」という。)110a~110nを、記憶部11に記憶可能なデータ形式で記憶したものである。
【0032】
n個のPCT線
図110a~110nは、各温度Ta、Tb、…、Tnについて、温度が一定で熱力学的平衡状態であるときの水素濃度z[wt%]と水素圧力P(=タンク圧力P)との間の関係を、X軸に水素濃度z、Y軸に水素圧力P(対数平衡水素圧力)として表したものである。
【0033】
図3(a)に示すように、PCT線
図110a~110nは、水素を吸蔵する吸蔵運転時の挙動1100Aと、水素を放出する放出運転時の挙動1100Bとが異なるヒステリシス特性を有する。また、PCT線
図110a~110nは、略一定の傾きで推移するプラトー領域を有する。なお、プラトー領域は、1段階とは限らず、水素吸蔵合金20の種類によっては多段階でもよい。
【0034】
PCT線
図110a~110nは、JIS7201:2007に従って、水素貯蔵タンク2に充填された水素吸蔵合金20と同一組成の試験体を用いて予め作成されたものである。その作成方法としては、試験体を用いて吸蔵運転及び放出運転を行い、各温度Ta、Tb、…、Tnに対する水素濃度z及び水素圧力Pを計測し、最小2乗法等による近似線を作成する。そして、その近似線から、下記(1)式に示す関数g(T)、h(T)を求めることにより、温度T及び水素圧力Pをパラメータとして水素濃度zを求める近似式が、PCT線図データ110として算定される。
【数1】
【0035】
また、水素貯蔵率xは、水素貯蔵率xが「0」のときの水素濃度Z
Lowを設定するとともに、水素貯蔵率xが「100」のときの水素濃度Z
Highを設定することにより、水素濃度zから下記(2)式を用いて換算される。
【数2】
【0036】
(運転計画データ111について)
運転計画データ111は、所定の運転時刻t(t=t1,t2,t3,…,tMax)毎の水素貯蔵タンク2の運転計画を、記憶部11に記憶可能なデータ形式で記憶したものである。
【0037】
水素貯蔵タンク2の運転計画データ111には、所定の運転時刻t(t=t1,t2,t3,…,tMax)毎の水素流入量Fi,t[Nm3/s]、水素流出量Fo,t[Nm3/s]、水素流入温度TH,i,t[K]、水素流入圧力PH,i,t[atma]を含む水素流入流出計画と、熱媒熱量Qc,t[kJ/s]及び外気温TO,t[K]を含むエネルギー計画とが記憶されている。
【0038】
熱媒熱量Qc,tは、熱媒体循環装置5から水素貯蔵タンク2に流入される熱媒体によって水素貯蔵タンク2にもたらされる熱量を示す。
【0039】
(制御部12の各部の機能と、水素貯蔵状態の推定処理について)
次に、制御部12の各部の機能と、制御部12による水素貯蔵状態の推定処理について説明する。
【0040】
まず、制御部12が水素貯蔵状態の推定処理を行う際の水素貯蔵タンク2の内部状態量について説明する。
【0041】
図3(b)は、本発明の第1の実施形態に係る水素貯蔵タンク2の内部状態量を示すパ説明図である。水素貯蔵タンク2に充填された水素吸蔵合金20は、金属部分21と、金属部分21に存在する空隙や細孔からなる空間部分22とを有する。そのため、水素貯蔵タンク2の内部には、金属部分21に吸蔵された状態で存在する水素(金属部の水素)と、空間部分22にガスとして存在する水素(空間部の水素)とが含まれる。したがって、所定時刻tにおける水素貯蔵タンク2の内部状態量を示すパラメータとして、水素貯蔵タンク2全体でのタンク水素量A
B,t[kg]、タンク温度T
B,t[K]、タンク圧力P
B,t[atm
a]、金属部の水素量A
M,t[kg]、金属部の体積V
M,t[m
3]、空間部の水素量A
G,t[kg]、空間部の体積V
G,t[m
3]を導入する。
【0042】
また、所定の時刻tにおける水素貯蔵タンク2と外部との間で、空間部分22を介して、水素流入流出量UH,t[kg/s]と、熱媒熱量Qc,tとが入出力されるとともに、水素が水素吸蔵合金に対して吸蔵又は放出されるときには、金属部分21と空間部分22との間で、気固反応量UR,t[kg]、気固反応熱QR,t[kj]とが入出力されるものとする。
【0043】
このとき、空間部のガス密度ρ
t[kg/m
3]は、下記(3)式を用いて表され、空間部の水素量A
G,tは、下記(4)式を用いて表され、水素貯蔵タンク2全体でのタンク水素量A
B,tは、下記(5)式を用いて表される。
【数3】
【数4】
【数5】
【0044】
次に、制御部12が水素貯蔵状態の推定処理を行う際に導入するパラメータである、見かけの水素貯蔵率yt[%]と、その見かけの水素貯蔵率ytを導入する理由について説明する。
【0045】
図4は、本発明の第1の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1(制御部12)が水素貯蔵状態の推定処理を行う際の見かけの水素貯蔵率y
tを説明する図であり、(a)は水素貯蔵率x
t及びPCT線図データ110から推定したタンク温度T
tの推定値と、タンク温度の実験値との比較、(b)は水素貯蔵率x
t及びPCT線図データ110から推定したタンク圧力P
tの推定値と、タンク圧力の実験値との比較、(c)は運転計画データ111から算定した水素貯蔵率x
tの算定値と、タンク温度及びタンク圧力の実験値をPCT線図データ110に代入した場合の水素貯蔵率の実験値との比較を示す図である。
【0046】
なお、
図4(a)、(b)に示すタンク温度及びタンク圧力の実験値は、運転計画データ111に従って水素貯蔵タンク2の吸蔵運転及び放出運転を行う実験を予め行ったときに、運転時刻t毎に温度センサ6及び圧力センサ7によりそれぞれ検出されたタンク温度及びタンク圧力の検出値を記録したものである。また、
図4(c)に示す水素貯蔵率の実験値は、上記タンク温度及びタンク圧力の実験値を真値として、PCT線図データ110に代入することで水素濃度zを算定し、その水素濃度zから上記(2)式を用いて水素貯蔵率に換算したものである。
【0047】
運転計画データ111が存在する場合、水素貯蔵タンク2における水素貯蔵状態のうち、運転時刻t毎の水素貯蔵率x
tは、運転計画データ111に含まれる水素流入量(F
i,t)及び水素流出量(F
o,t)から算定される。具体的には、水素流入流出量U
H,t[KG/s]が、下記(6)式を用いて、水素流入量(F
i,t)及び水素流出量(F
o,t)により表される。そして、運転時刻t毎の水素貯蔵率x
tの変化量Δx
tが、下記(7)式を用いて、水素流入流出量U
H,tに基づいて算定されるとともに、運転時刻t毎の水素貯蔵率x
tが、下記(8)式を用いて、運転時刻t毎の水素貯蔵率x
tの変化量Δx
tを累積することにより算定される。この運転時刻t毎の水素貯蔵率x
tは、
図4(c)の算定値として表される。
【数6】
【数7】
ただし、aは定数である。
【数8】
【0048】
また、水素貯蔵タンク2全体でのタンク水素量A
B,tは、下記(9)式を用いて表される。
【数9】
【0049】
水素貯蔵タンク2における水素貯蔵状態のうち、運転時刻t毎のタンク温度TB,t及びタンク圧力PB,tは、水素貯蔵タンク2の直前の運転状態に依存し、特に、休止状態や、吸蔵運転と放出運転とが切り換わる運転切換タイミングでは、定常状態と異なる挙動を示すものである。
【0050】
これに対して、PCT線図データ110に含まれるPCT線
図110a~110nは、水素貯蔵タンク2が定常状態であるときの特性を示すものである。そのため、上記(8)式により算定された運転時刻t毎の水素貯蔵率x
tを真値として、PCT線図データ110に基づいて、運転時刻t毎のタンク温度T
B,t及びタンク圧力P
B,tを推定した場合、その推定したタンク温度T
B,t及びタンク圧力P
B,tの推定値は、
図4(a)、(b)に示すように、タンク温度及びタンク圧力の実験値との間でずれが発生する。
【0051】
また、上記タンク温度及びタンク圧力の実験値を真値として、PCT線図データ110に代入した場合の水素貯蔵率の実験値は、
図4(c)に示すように、運転計画データ111から算定した水素貯蔵率x
tの算定値との間でずれが発生する。
【0052】
したがって、運転時刻t毎のタンク温度T
B,t及びタンク圧力P
B,tを正しく推定するには、運転計画データ111から算定した運転時刻t毎の水素貯蔵率x
t(
図4(c)に示す算定値)を真値とするのではなく、上記タンク温度及びタンク圧力の実験値をPCT線図データ110に代入して算定された運転時刻t毎の水素貯蔵率(
図4(c)に示す実験値)と同等の水素貯蔵率(以下、「運転時刻t毎の見かけの水素貯蔵率y
t」という。)を見かけの真値として導入する必要がある。
【0053】
そして、水素貯蔵状態の推定処理は、初期時刻t0における水素貯蔵率x0、タンク温度T0及びタンク圧力P0並びに運転計画データ111は既知ではあるが、運転時刻t毎のタンク温度及びタンク圧力の実験値は未知な状態で行われるため、制御部12では、上記タンク温度及びタンク圧力の実験値を用いずに、水素貯蔵率xtとの関係に基づいて、見かけの水素貯蔵率ytを算定する必要がある。
【0054】
次に、制御部12の各部の機能と、制御部12による水素貯蔵状態の推定処理について説明する。
【0055】
図5、
図6及び
図7は、本発明の第1の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1による水素貯蔵状態の推定処理(水素貯蔵状態推定方法)を示すフローチャートである。
図8は、本発明の第1の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1による水素貯蔵状態の推定処理において、水素貯蔵率x
t(算定値)、見かけの水素貯蔵率y
t及びPCT線図データ110(近似式)の推移を示す図である。
【0056】
まず、水素貯蔵状態推定装置1が、水素貯蔵状態の推定処理を開始すると、前動状態取得工程(ステップS1)において、初期状態取得部120は、水素貯蔵タンク2の初期時刻t0直前の運転状態(前動状態)が、吸蔵運転であるか放出運転であるかを選択する。初期状態取得部120は、例えば、水素貯蔵タンク2の運転履歴を参照したり、ユーザ(例えば、水素エネルギー利用システム100の管理者)による選択操作を受け付けたりすることで、前動状態が吸蔵運転であるか放出運転であるかを選択する。ここでは、初期状態取得部120は、前動状態が「放出運転」であることを選択したものとして説明する。
【0057】
次に、初期状態取得工程(ステップS2)において、初期状態取得部120は、水素貯蔵状態の初期値を取得する。まず、初期状態取得部120は、初期時刻t0における水素貯蔵率x0、タンク温度TB,0及びタンク圧力PB,0を取得する(ステップS20)。ここでの初期時刻t0は、現在時刻であり、タンク温度TB,0及びタンク圧力PB,0は、初期時刻t0において温度センサ6及び圧力センサ7によりそれぞれ検出されたタンク温度及びタンク圧力の検出値である。
【0058】
続けて、初期状態取得部120は、初期時刻t
0におけるタンク温度T
B,0及びタンク圧力P
B,0と、PCT線図データ110とに基づいて、初期時刻t
0における見かけの水素貯蔵率y
0を取得する(ステップS21)。ここでは、初期状態取得部120は、前動状態が「放出運転」であることを選択していることから、初期状態取得部120は、PCT線図データ110に含まれるPCT線
図110a~110nの放出運転時の挙動1100Bを参照し、タンク温度T
B,0及びタンク圧力P
B,0に対する水素濃度zを算定し、その水素濃度zから上記(2)式を用いて見かけの水素貯蔵率y
0に換算する。見かけの水素貯蔵率y
0は、
図8に示すように、プロットされる。
【0059】
次に、初期状態取得部120は、初期時刻t0における水素貯蔵率x0、タンク温度TB,0及びタンク圧力PB,0に基づいて、上記(3)~(5)式を用いることにより、初期時刻t0における水素貯蔵タンク2全体でのタンク水素量AB,t0と、水素吸蔵合金20の金属部分21に存在する金属部の水素量AM,t0と、水素吸蔵合金20の空間部分22に存在する空間部の水素量AG,t0とを含む初期内部状態量を取得する(ステップS22)。
【0060】
次に、運転計画取得工程(ステップS3)において、運転計画取得部121は、運転時刻t毎の水素貯蔵タンクの運転計画として、運転時刻t毎の水素流入量Fi,t、水素流出量Fo,t、水素流入温度TH,i,t及び水素流入圧力PH,i,tを含む水素流入流出計画と、熱媒熱量Qc,t及び外気温TO,tを含むエネルギー計画とを取得する。運転計画取得部121は、例えば、記憶部11に記憶された運転計画データ111を参照したり、接続部13を介して外部のネットワーク上の運転計画データを参照したり、ユーザによる入力操作を受け付けたりすることで、運転時刻t毎の水素貯蔵タンクの運転計画を取得する。
【0061】
次に、制御部12は、運転時刻t(t=1,2,3,…,tMax)を変数とするループ処理Aを行う(ステップS4A)。すなわち、制御部12は、運転時刻tを単位時間間隔ずつ進めながら運転時刻tがtMaxになるまでの間、後述するステップS5~S9の処理を繰り返し行うことにより、運転時刻t毎の水素貯蔵率xt、タンク温度Tt及びタンク圧力Ptを算定する。
【0062】
まず、第1の水素貯蔵率算定工程(ステップS5)において、第1の水素貯蔵率算定部122は、上記(6)、(7)式を用いて、運転時刻t毎の水素流入量Fi,t、水素流出量Fo,tに基づいて、運転時刻tにおける水素貯蔵率の変化量Δxtを算定する(ステップS50)。
【0063】
続けて、第1の水素貯蔵率算定部122は、上記(8)式を用いて、初期時刻t
0における水素貯蔵率x
0
を基準として、水素貯蔵率x
0に対して運転時刻t毎の水素貯蔵率の変化量Δx
tを累積することにより、運転時刻tにおける水素貯蔵率x
t(
図8では破線で示す)を算定する(ステップS51)。
【0064】
次に、第2の水素貯蔵率算定工程(ステップS6)において、第2の水素貯蔵率算定部123は、下記(10)~(12)式を用いて、運転時刻tよりも単位時間前の直前時刻t-1における水素貯蔵率x
t-1及び見かけの水素貯蔵率y
t-1の間の比率に基づいて、当該運転時刻tにおける水素貯蔵率の変化量Δx
tを補正することにより、当該運転時刻tにおける見かけの水素貯蔵率の変化量Δy
tを算定する。
【数10】
【数11】
ただし、bは定数(例えば、b=2)である。
【数12】
ただし、bは定数(例えば、b=2)である。
【0065】
具体的には、まず、第2の水素貯蔵率算定部123は、運転時刻tにおける水素流入流出量UH,tが正の値であるか負の値であるかに応じて、運転時刻tにおける運転状態が吸蔵運転であるか放出運転であるかを判定する(ステップS60)。
【0066】
そして、第2の水素貯蔵率算定部123が、運転時刻tにおける運転状態が吸蔵運転であると判断した場合には、上記(11)式を関数fとして、上記(10)式を用いることにより、直前時刻t-1における見かけの水素貯蔵率yt-1に対する水素貯蔵率xt-1の比率を2乗し、さらにb倍した値を、水素貯蔵率の変化量Δxtに乗算することにより、見かけの水素貯蔵率の変化量Δytを算定する(ステップS61)。
【0067】
一方、第2の水素貯蔵率算定部123が、運転時刻tにおける運転状態が放出運転であると判断した場合には、上記(12)式を関数fとして、上記(10)式を用いることにより、直前時刻t-1における水素貯蔵率xt-1に対する見かけの水素貯蔵率yt-1の比率を2乗し、さらにb倍した値を、水素貯蔵率の変化量Δxtに乗算することにより、見かけの水素貯蔵率の変化量Δytを算定する(ステップS62)。
【0068】
次に、第2の水素貯蔵率算定部123は、運転時刻tにおける水素流入流出量UH,tの符号が、直前時刻t-1における水素流入流出量UH,tの符号と異なるか否かに応じて、運転時刻tが、吸蔵運転と放出運転との間で運転状態の切換が行われる時刻(運転切換タイミング)であるか否かを判定する(ステップS63)。
【0069】
そして、第2の水素貯蔵率算定部123は、運転時刻tが、吸蔵運転から放出運転への運転切換タイミングであると判定した場合には、初期時刻t
0におけるタンク温度T
B,0及びタンク圧力P
B,0と、PCT線図データ110に含まれるPCT線
図110a~110nの放出運転時の挙動1100Bとに基づいて、初期時刻t
0における見かけの水素貯蔵率y
0を更新する(ステップS64)。
【0070】
一方、第2の水素貯蔵率算定部123は、運転時刻tが、放出運転から吸蔵運転への運転切換タイミングであると判定した場合には、初期時刻t
0におけるタンク温度T
0及びタンク圧力P
0と、PCT線図データ110に含まれるPCT線
図110a~110nの吸蔵運転時の挙動1100Aとに基づいて、初期時刻t
0における見かけの水素貯蔵率y
0を更新する(ステップS65)。ここでは、第2の水素貯蔵率算定部123は、運転時刻t
kであるとき、放出運転から吸蔵運転への運転切換タイミングであると判定し、初期時刻t
0における見かけの水素貯蔵率y
0を更新し、更新された見かけの水素貯蔵率y
0は、
図8に示すように、プロットされる。
【0071】
次に、第2の水素貯蔵率算定部123は、下記(13)式を用いて、初期時刻t
0における見かけの水素貯蔵率y
0を基準として、見かけの水素貯蔵率y
0に対して運転時刻t毎の見かけの水素貯蔵率の変化量Δy
tを累積することにより、運転時刻tにおける見かけの水素貯蔵率y
t(
図8では実線で示す)を算定する(ステップS66)。
【数13】
【0072】
次に、反応前状態算定工程(ステップS7)において、反応前状態算定部124は、水素貯蔵状態の初期値を基準として、水素流入流出計画に基づいて、運転時刻tにおける気固反応前の空間部の状態量(温度TG2,t、圧力PG2,t及び水素量AG2,t)を算定する。
【0073】
まず、反応前状態算定部124は、水素貯蔵タンク2に対して水素が流入流出する直前の空間部のガス密度ρを、運転時刻tよりも1単位時間前の直前時刻t-1におけるガス密度ρ
t-1として上記(3)式を用いて求めることにより、水素が流入流出する直前の空間部の水素量A
G1,tを、下記(14)式を算定する(ステップS70)。
【数14】
ただし、ρ
0は、初期時刻t
0におけるタンク温度T
0及びタンク圧力P
0を上記(3)式に代入することにより算定されたガス密度である。
【0074】
次に、反応前状態算定部124は、水素貯蔵タンク2に対して水素が流入流出した直後の空間部の温度T
G1,t、圧力P
G1,tを算定する(ステップS71)。具体的には、反応前状態算定部124は、水素貯蔵タンク2に対して水素が流入流出するときの水素流入流出温度T
H,tを下記(15)式、水素流入流出圧力P
H,t,を下記(16)式により表すものとし、水素貯蔵タンク2に対して水素が流入流出した直後の空間部の温度T
G1,tを下記(17)式により算定する。
【数15】
【数16】
【数17】
ただし、空間部の定圧比熱をC
G0[kJ/kgK]、流入流出水素の定圧比熱をC
H[kJ/kgK]とする。また、Δtは、1単位時間[s]とする。
【0075】
そして、反応前状態算定部124は、水素貯蔵タンク2の空間部に流入流出した水素が等温変化したものとして、水素が流入流出した直後の空間部の体積V
G1,tを下記(18)式、空間部の圧力P
G1,tを下記(19)式により算定する。
【数18】
【数19】
【0076】
次に、反応前状態算定部124は、水素貯蔵タンク2の空間部に流入流出した水素が断熱変化したものとして、空間部の温度T
G2,tを下記(20)式、空間部の圧力P
G2,tを下記(21)式により算定する(ステップS72)。
【数20】
【数21】
ただし、温度T
G2,t、圧力P
G2,tにおいて水素の流入量を正、流出量を負とした水素の流入流出量をF
H,t[m
3/s]、空間部の比熱比をγとする。
【0077】
次に、反応前状態算定部124は、熱力学的状態方程式より、空間部のエネルギーQ
G,t[kj]を下記(22)式により算定する(ステップS73)。
【数22】
ただし、このときの空間部の定圧比熱をC
G1[kg/kgK]とする。
【0078】
そして、反応前状態算定部124は、水素貯蔵タンク2に対して水素が流入流出した直後の空間部の水素量A
G2,tを下記(23)式により算定する(ステップS74)。
【数23】
【0079】
次に、反応後状態算定工程(ステップS8)において、反応後状態算定部125は、水素貯蔵状態の初期値を基準として、水素流入流出計画と、エネルギー計画と、気固反応前の空間部の状態量(温度TG2,t、圧力PG2,t及び水素量AG2,t)と、PCT線図データ110とに基づいて、運転時刻tにおける気固反応後のタンク温度(T3,t)及びタンク圧力(P3,t)を算定する。
【0080】
まず、平衡状態算定部125aは、エネルギー計画(熱媒熱量Qc,t、外気温To,t)と、気固反応前の空間部の状態量(温度TG2,t、圧力PG2,t及び水素量AG2,t)とに基づいて、金属部に存在する水素と空間部に存在する水素とが温度平衡状態となるときの水素貯蔵タンク2の内部状態量(タンク温度T1,t、タンク圧力P1,t)を算定する(ステップS80)。
【0081】
具体的には、平衡状態算定部125aは、外気温T
O,tによる外気熱量Q
o,tを下記(24)式により算定し、熱媒熱量Q
c,tと、外気温T
O,tによる外気熱量Q
o,tとを考慮することにより、金属部に存在する水素と空間部に存在する水素とが温度平衡状態となるときのタンク温度T
1,tを下記(25)式により算定する。
【数24】
ただし、水素貯蔵タンク2の表面積をD
B[m2]、熱伝達率をh[kW/m2K]、水素貯蔵タンク2全体の熱容量をC
B[kJ/K]とする。
【数25】
ただし、このときの金属部の定圧比熱をC
M1[kJ/kgK]、空間部の定圧比熱をC
G2[kJ/kgK]とする。
【0082】
次に、平衡状態算定部125aは、温度平衡状態となるときのタンク圧力P
1,tを下記(26)式により算定する。
【数26】
ただし、このときの金属部の定圧比熱をC
M2[kJ/kgK]、空間部の定圧比熱をC
G3[kJ/kgK]、金属部の体積をV
M,t[m
3]、金属部の体膨張率をβ
M[K
-1]とする。
【0083】
次に、気固反応量算定部125bは、気固反応前の空間部の状態量(温度TG2,t、圧力PG2,t及び水素量AG2,t)と、温度平衡状態となるときの水素貯蔵タンク2の内部状態量(タンク温度T1,t及びタンク圧力P1,t)とに基づいて、温度平衡状態となるときの気固反応量(UR,t,j)を算定する。
【0084】
具体的には、気固反応量算定部125bは、運転時刻tにおける気固反応が段階的に進行するものとして扱うため、運転時刻tにおける気固反応量U
R,tを、反応段階j毎の気固反応量ΔU
R,t,jを用いて、下記(27)式で表すとき、反応段階j毎の気固反応量ΔU
R,t,jを下記(28)式により算定する。
【数27】
【数28】
【0085】
そして、気固反応量算定部125bは、初期の反応段階(j=0)における気固反応量ΔU
R,t,0を下記(29)式により算定する(ステップS81)。
【数29】
ただし、ρ
1は、温度T
G2,t、圧力P
G2,tを上記(3)式に代入することにより算定されたガス密度とである。
【0086】
次に、反応後温度算定部125c及び反応後圧力算定部125dは、気固反応量UR,tによる気固反応が行われた気固反応後のタンク温度T3,t及びタンク圧力P3,tをそれぞれ算定する(ステップS82)。
【0087】
具体的には、反応後状態算定部125は、反応段階j(j=0,1,2,…)を変数とするループ処理Bを行う(ステップS82A)。すなわち、反応後状態算定部125は、反応段階jを段階的に進めながら所定の条件(詳細は後述する)を満たすまでの間、後述するステップS821~S827の処理を繰り返し行うことにより、反応後温度算定部125c及び反応後圧力算定部125dにより、運転時刻tにおける気固反応後のタンク温度T3,t及びタンク圧力P3,tをそれぞれ算定する。
【0088】
まず、反応後温度算定部125cは、金属部の水素量A
M,j+1を下記(30)式により算定するとともに、空間部の水素量A
G,j+1を下記(31)式により算定する(ステップS820)。
【数30】
【数31】
【0089】
次に、反応後温度算定部125cは、水素の吸蔵放出による水素吸蔵合金20の膨張(体積変化)を考慮し、金属部の体積V
M,j+1を下記(32)式により算定するとともに、空間部の体積V
G,j+1を下記(33)式により算定する(ステップS821)。
【数32】
【数33】
【0090】
次に、反応後温度算定部125cは、このときの空間部のガス密度ρj[kg/m3]を上記(3)により算定し、水素の吸蔵放出により水素貯蔵タンク2の空間部に存在する水素が断熱変化するものとして、空間部の温度T
G3,tを下記(34)式により算定するとともに、空間部の圧力P
G3,tを下記(35)式により算定する(ステップS822)。
【数34】
ただし、ρ
jは、温度T
1,t、圧力P
1,tを上記(3)式に代入することにより算定されたガス密度である。
【数35】
ただし、ρ
jは、温度T
1,t、圧力P
1,tを上記(3)式に代入することにより算定されたガス密度である。
【0091】
次に、反応後温度算定部125cは、金属部と空間部とが温度平衡状態となったときの気固反応後のタンク温度T
2,tを下記(36)式により算定するとともに、上記(34)、(35)式でのエネルギー変化分をQ
G2,jとしたとき、気固反応後の圧力P
2,tを下記(37)式により算定する(ステップS823)。
【数36】
ただし、このときの金属部の定圧比熱をC
M3[kJ/kgK]、空間部の定圧比熱をC
G4[kJ/kgK]とする。
【数37】
【0092】
次に、反応後温度算定部125cは、気固反応量ΔU
R,t,jから気固反応による気固反応熱Q
R,jを下記(38)式により算定し、気固反応熱Q
R,jを考慮することにより、気固反応後のタンク温度T
3,tを下記(39)式により算定する(ステップS824)。
【数38】
【数39】
ただし、このときの金属部の定圧比熱をC
M4[kJ/kgK]、空間部の定圧比熱をC
G5[kJ/kgK]とする。
【0093】
次に、反応後圧力算定部125dは、気固反応後のタンク温度T3,tと、みかけの水素貯蔵率ytと、PCT線図データ110とに基づいて、気固反応後のタンク圧力P3,tを算定する(ステップS825)。
【0094】
次に、反応後状態算定部125は、反応後温度算定部125cにより算定された気固反応後のタンク温度T3,t、反応後圧力算定部125dにより算定された気固反応後のタンク圧力P3,tを上記(3)式に代入することにより、タンク温度T3,t、タンク圧力P3,tにおける密度ρj+1を算定するとともに、上記(28)式に、水素貯蔵タンク2全体でのタンク水素量AB,t、金属部の水素量AM,j+1、空間部の体積VG,j+1、密度ρj+1を代入することにより、気固反応量ΔUR,j+1を算定する(ステップS826)。
【0095】
そして、反応後状態算定部125は、ループ処理Bの終了条件を満たすか否かを判定する(ステップS82B)。具体的には、反応後状態算定部125は、気固反応量ΔUR,j+1の絶対値が所定値Uend以下でない場合には、ループ処理Bの終了条件を満たさないと判定し(ステップS82B:No)、次の反応段階j+1に進むために、反応段階j=j+1、ガス密度ρj=ρj+1、温度T1,t=T3,t、圧力P1,t=P3,tとし(ステップ827)、上記ステップS820に戻る。
【0096】
一方、反応後状態算定部125は、気固反応量ΔUR,j+1の絶対値が所定値Uend以下である場合には、ループ処理Bの終了条件を満たすと判定し(ステップS82B:Yes)、気固反応が行われたことによる水素貯蔵状態の変化が反映されたものとして、ループ処理Bを終了する。
【0097】
そして、ループ処理Bが終了した場合、出力工程(ステップS9)にて、出力部126は、気固反応後のタンク温度T3,tを運転時刻tのタンク温度TB,tとし(TB,t=T3,t)、気固反応後のタンク圧力P3,tを運転時刻tのタンク圧力PB,tとする(PB,t=P3,t)。そして、出力部126は、上記ステップS5で第1の水素貯蔵率算定部122により算定された運転時刻tにおける水素貯蔵率xtと、上記ステップS8で反応後状態算定部125により算定された運転時刻tにおけるタンク温度Tt及びタンク圧力Ptとを、運転時刻tの水素貯蔵状態の推定処理結果として出力する。なお、出力部126は、水素貯蔵状態の推定処理結果を、例えば、表示部14に表示するようにしてもよいし、記憶部11に推定処理結果データとして記憶するようにしてもよい。
【0098】
次に、制御部12は、ループ処理Aの終了条件を満たすか否かを判定する(ステップS4B)。具体的には、制御部12は、運転時刻tがtMax以下でない場合には、ループ処理Aの終了条件を満たさないと判定し(ステップS4B:No)、次の運転時刻t+1に進むために、運転時刻t=t+1とし(ステップS40)、上記ステップS5に戻る。
【0099】
一方、制御部12は、運転時刻tがtMax以下である場合には、ループ処理Aの終了条件を満たすと判定し(ステップS4B:Yes)、運転時刻t毎の水素貯蔵率xt、タンク温度TB,t及びタンク圧力PB,tを出力したものとして、水素貯蔵状態の推定処理を終了する。そして、ユーザ(例えば、水素エネルギー利用システム100の管理者)は、水素貯蔵状態推定装置1により出力された水素貯蔵状態の推定処理結果を参照することにより、所定の運転期間における水素庁貯蔵状態の推移を把握し、必要に応じて水素貯蔵タンク2の運転計画を見直すことが可能となる。
【0100】
以上のように、第1の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1によれば、反応前状態算定部124が、水素流入流出計画に基づいて、金属部に存在する水素と空間部に存在する水素との気固反応が行われる気固反応前の空間部の状態量(温度TG2,t、圧力PG2,t及び水素量AG2,t)を算定し、反応後状態算定部125が、水素流入流出計画と、エネルギー計画と、気固反応前の空間部の状態量と、水素吸蔵合金20のPCT線図データ110とに基づいて、金属部に存在する水素と空間部に存在する水素との気固反応が行われた気固反応後のタンク温度(T3,t)及びタンク圧力(P3,t)を算定する。
【0101】
そのため、反応前状態算定部124が、水素吸蔵合金20の空間部分22にガスとして存在する水素を、気固反応前の空間部の状態量として算定し、反応後状態算定部125が、気固反応前の空間部の状態量を考慮して、タンク温度(T3,t)及びタンク圧力(P3,t)を算定する。したがって、水素吸蔵合金20の空間部分22に水素がガスとして存在することに起因する誤差を低減し、水素貯蔵状態を適切に推定することができる。
【0102】
また、第2の水素貯蔵率算定部123が、運転時刻tよりも単位時間前の直前時刻t-1における水素貯蔵率xt-1及び見かけの水素貯蔵率yt-1の間の比率に基づいて、見かけの水素貯蔵率ytを運転時刻t毎に算定し、反応後圧力算定部125dが、気固反応後のタンク温度T3,tと、見かけの水素貯蔵率ytと、PCT線図データ110とに基づいて、気固反応後のタンク圧力P3,tを算定する。
【0103】
そのため、タンク温度T
B,t及びタンク圧力P
B,tの推定値が、水素貯蔵率x
tに基づいて算定された場合には、
図4(a)、(b)に示すように、吸蔵運転と放出運転とが切り換わる運転切換時において実験値との間に大きなずれが発生するのに対して、タンク温度T
B,t及びタンク圧力P
B,tの推定値が、見かけの水素貯蔵率y
tに基づいて算定された場合には、
図8(a)、(b)に示すように、吸蔵運転と放出運転とが切り換わる運転切換時であっても実験値との間に大きなずれが発生することがない。したがって、吸蔵運転と放出運転とが切り換わる運転切換時であっても水素貯蔵状態を適切に推定することができる。
【0104】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1の制御部12は、水素貯蔵状態推定プログラム112を実行することにより、水素貯蔵タンク2に流入される熱媒体の制御量(熱媒流量Fc,t及び熱媒流入温度Tc,i,t)を最適化する熱媒最適化処理を行う熱媒最適化部としてさらに機能する。したがって、第2の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1は、第1の実施形態と比較して、熱媒最適化部をさらに備える点で相違する。なお、その他の構成及び動作は、第1の実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0105】
熱媒最適化部は、水素貯蔵タンク2の運転条件として、運転時刻tにおけるタンク温度T3,t及びタンク圧力P3,tが、温度上限値THigh及び温度下限値TLowからなる温度運転範囲と、圧力上限値PHigh及び圧力下限値PLowからなる圧力運転範囲から外れる場合に、運転時刻tにおけるタンク温度TB,t及びタンク圧力PB,tが運転範囲に入るように、水素貯蔵タンク2に流入される熱媒体の制御量を調整する。
【0106】
図9及び
図10は、本発明の第2の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1による熱媒最適化処理を示すフローチャートである。なお、
図9は、
図7に示すステップS825とステップS82Bの間で行われる処理を示し、
図10は、
図7に示すステップS82BとステップS4Bの間で行われる処理を示すフローチャートである。
【0107】
まず、熱媒最適化部は、
図9に示すように、上記ステップS825に後続する処理として、ステップS825で算定された気固反応後のタンク圧力P
3,tが、圧力運転範囲内か否かを判定し(ステップS830)、圧力範囲内から外れると判定した場合には(ステップS830:No)、タンク圧力P
3,tに、圧力運転範囲から外れた側の圧力上限値P
High又は圧力下限値P
Lowを代入する(ステップS831)。そして、熱媒最適化部は、その圧力変化に伴う熱量Q
P,j+1を下記(40)式により算定するとともに(ステップS832)、タンク温度T
3,t及びタンク圧力P
3,tに対するみかけの水素貯蔵率Y
P,j+1を算定する(ステップS833)。
【数40】
【0108】
次に、熱媒最適化部は、タンク圧力P3,tと、みかけの水素貯蔵率ytと、PCT線図データ110とに基づいて、タンク温度T4,tを算定する(ステップS834)。タンク温度T4,t及びタンク圧力P3,tに対するみかけの水素貯蔵率yT,j+1を算定する(ステップS835)。
【0109】
そして、熱媒最適化部は、タンク温度T
4,tが、温度運転範囲内か否かを判定し(ステップS836)、温度運転範囲から外れると判定した場合には(ステップS836:No)、タンク温度T
4,tに、温度運転範囲から外れた側の温度上限値T
High又は温度下限値T
Lowを代入し(ステップS837)、その温度変化に伴う熱量Q
T,j+1を下記(41)式により算定する(ステップS838)。
【数41】
【0110】
次に、熱媒最適化部は、みかけの水素貯蔵率yP,j+1と、みかけの水素貯蔵率yT,j+1との差の絶対値が閾値以下であるか否かを判定し(ステップS840)、閾値以下でないと判定した場合には(ステップS840:No)、タンク温度T3,tにタンク温度T4,tを代入し(ステップS841)、上記ステップ830に戻る。
【0111】
一方、熱媒最適化部は、閾値以下であると判定した場合には(ステップS840:Yes)、
図7に示すステップS826と同様に、反応後状態算定部125は、タンク温度T
4,t、タンク圧力P
3,tにおける密度ρ
j+1を上記(3)式により算定するとともに、気固反応量ΔU
R,j+1を上記(28)式により算定する(ステップS826)。そして、熱媒最適化部は、反応段階jにおける必要熱量Q
c,jを下記(42)式により算定し(ステップS842)、ステップS82Bに移行する。
【数42】
【0112】
さらに、熱媒最適化部は、
図10に示すように、上記ステップS82Bにてループ処理Bの終了条件を満たすと判定した場合(ステップS82B:Yes)に後続する処理として、運転時刻tにおける必要熱量Q
c,jを下記(43)式により算定する(ステップS850)。
【数43】
【0113】
水素吸蔵合金20を、熱媒体が流れる配管に巻かれた発熱体又は吸熱体とみなしたとき、必要熱量は熱媒体が流れる配管の壁を通過する熱量に等しい。このことから、熱媒最適化部は、タンク温度T
4,tと、配管の物性値に基づいて、熱媒体の出口温度T
c,o,tを下記(44)式により算定する(ステップS851)。
【数44】
ただし、配管外径をR
0[m]、配管内径をR
i[m]、配管の熱伝導率をλ[kW/mK]、配管長さをl[m]、円周率をπとする。なお、配管が複数ある場合には、配管長さlは、1本当たりの配管長さに本数を乗算したものである。
【0114】
次に、熱媒最適化部は、熱媒体の入出温度差がΔT
c,hであるものとして、熱媒流量F
c,tを下記(45)式により算定する(ステップS852)。
【数45】
ただし、温度T
c,o,tにおける熱媒体の比熱をC
c,o,t[kJ/kgK]とする。
【0115】
次に、熱媒最適化部は、熱媒流量Fc,tが、流量上限値Fc,High及び流量下限値Fc,Lowからなる流量運転範囲から外れるか否かを判定し、流量運転範囲から外れると判定した場合には(ステップS853:No)、熱媒流量Fc,tに、流量運転範囲から外れた側の流量上限値Fc,High又は流量下限値Fc,Lowを代入する(ステップS854)。
【0116】
そして、熱媒最適化部は、熱媒体の入出温度差ΔT
c,tを下記(46)式により算定し(ステップS855)、熱媒流入温度T
c,i,tを下記(47)式により算定する(ステップS856)。
【数46】
【数47】
【0117】
そして、出力工程(ステップS9)にて、出力部126は、気固反応後のタンク温度T4,tを運転時刻tのタンク温度TB,tとし(TB,t=T4,t)、気固反応後のタンク圧力P3,tを運転時刻tのタンク圧力PB,tとする(PB,t=P3,t)。そして、出力部126は、上記ステップS5で第1の水素貯蔵率算定部122により算定された運転時刻tにおける水素貯蔵率xtと、反応後状態算定部125により算定され運転時刻tにおけるタンク温度TB,t及びタンク圧力PB,tと、熱媒最適化部により算定さrせた熱媒流量Fc,t及び熱媒流入温度Tc,i,tとを、運転時刻tの水素貯蔵状態の推定処理結果として出力する。
【0118】
以上のように、第2の実施形態に係る水素貯蔵状態推定装置1によれば、熱媒最適化部が、水素貯蔵タンク2に流入される熱媒体の制御量(熱媒流量Fc,t及び熱媒流入温度Tc,i,t)を最適化するので、水素貯蔵タンク2の運転計画を適切に変更することができる。
【0119】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0120】
なお、上記実施形態では、反応後圧力算定部125dが、
図7に示すステップS825において、気固反応後のタンク温度T
3,tと、みかけの水素貯蔵率y
tと、PCT線図データ110とに基づいて、気固反応後のタンク圧力P
3,tを算定するものとして説明したが、みかけの水素貯蔵率y
tに代えて水素貯蔵率x
tを用いることにより、気固反応後のタンク温度T
3,tと、水素貯蔵率x
tと、PCT線図データ110とに基づいて、気固反応後のタンク圧力P
3,tを算定するようにしてもよい。その場合には、第2の水素貯蔵率算定部123及び第2の水素貯蔵率算定工程(ステップS6)を省略するようにしてもよい。
【0121】
また、上記実施形態では、水素貯蔵状態推定プログラム112は、記憶部11に記憶されたものとして説明したが、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されてもよい。また、水素貯蔵状態推定プログラム112は、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供されてもよい。
【符号の説明】
【0122】
1…水素貯蔵状態推定装置、2…水素貯蔵タンク、3…水素製造装置、
4…水素利用装置、5…熱媒体循環装置、6…温度センサ、7…圧力センサ、
10…入力部、11…記憶部、12…制御部、13…接続部、14…表示部、
20…水素吸蔵合金、21…金属部分、22…空間部分、
100…水素エネルギー利用システム、
110…PCT線図データ、110a~110n…PCT線図、
111…運転計画データ、112…水素貯蔵状態推定プログラム、
120…初期状態取得部、121…運転計画取得部、
122…第1の水素貯蔵率算定部、123…第2の水素貯蔵率算定部、
124…反応前状態算定部、125…反応後状態算定部、
125a…平衡状態算定部、125b…気固反応量算定部、
125c…反応後温度算定部、125d…反応後圧力算定部、
126…出力部、1100A、1100B…挙動