(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】設計知見の分析方法、設計知見の分析プログラム、および該分析プログラムを記憶したコンピュータ読取可能な記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20240729BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20240729BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20240729BHJP
【FI】
G06F30/10
G06F30/15
G06F30/20
(21)【出願番号】P 2020157735
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立川 智章
(72)【発明者】
【氏名】小平 剛央
(72)【発明者】
【氏名】釼持 寛正
(72)【発明者】
【氏名】岡本 定良
(72)【発明者】
【氏名】近藤 俊樹
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-200281(JP,A)
【文献】国際公開第2006/046737(WO,A1)
【文献】特開2008-293315(JP,A)
【文献】小平剛央 ほか,複合領域最適化とトレードオフ分析による車体構造の軽量化に向けた設計知見の抽出,電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌),日本,一般社団法人電気学会,2014年09月01日,第134巻, 第9号,pages 1348-1354
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 - 30/398
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログラムを実行する演算部と、ユーザに情報を表示する表示部と、を備えるコンピュータを用いることによって、構造体を構成する各部品に割り当てられる設計変数
を複数組み合わせることで構成される複数の設計変数の組み合わせのうち、2つ以上の組み合わせを比較検討するための設計知見の分析方法であって、
前記演算部が、前記複数の設計変数の組み合わせを、それぞれ所定の物品性能に対応した複数の制約条件を全て満足する組み合わせである第1変数群と、前記複数の制約条件のうちの1つ以上を満足しない組み合わせである第2変数群と、に分類する分類ステップと、
前記複数の設計変数の組み合わせがなす集合に対して前記演算部が階層的クラスタリングを施すことで、前記複数の設計変数の組み合わせを、各組み合わせ同士の類似度に応じてクラスタリングするクラスタ化ステップと、
前記クラスタ化ステップにおいて取得された階層構造に基づいて、前記演算部が、同一クラスタ内で隣接するような前記第1変数群と前記第2変数群とのペアを1つ以上にわたり抽出するペア抽出ステップと、
前記演算部が、前記ペア抽出ステップにおいて抽出された各ペアにおける前記第1変数群と前記第2変数群との間の相関係数が所定値以上となるか否かを判定する相関判定ステップと、
前記演算部が、前記相関判定ステップにおいて前記相関係数が所定値を超えると判定された各ペアにおける前記第2変数群について、前記複数の制約条件のうち満足されていない制約条件を特定するとともに、該第2変数群における各設計変数と、該第2変数群とペアをなす前記第1変数群における各設計変数と、の差異を判定する分析ステップと、を備える
ことを特徴とする設計知見の分析方法。
【請求項2】
請求項1に記載された設計知見の分析方法において、
前記相関判定ステップにおいて前記相関係数が所定値以上になると判定された各ペアについて、前記複数の制約条件それぞれの達成状況を、前記表示部が、前記第1変数群と前記第2変数群とで比較するように表示する可視化ステップを備え、
前記可視化ステップでは、前記表示部は、前記複数の制約条件に対し、各制約条件の達成状況を示す数値をプロットしてなる平行座標プロットを表示する
ことを特徴とする設計知見の分析方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載された設計知見の分析方法において、
前記相関判定ステップにおいて前記相関係数が所定値以上になると判定された各ペアについて、前記表示部が、前記第1変数群における各設計変数と、前記第2変数群における各設計変数と、の差分を表示する第2の可視化ステップを備え、
前記第2の可視化ステップでは、前記表示部は、前記複数の設計変数の
組み合わせを構成する各設計変数をノードとするとともに、各設計変数に対応する部品のうち、物理的に接続された部品に対応するノード間をエッジで接続してなる無向グラフを表示し、
前記第2の可視化ステップでは、前記表示部は、前記無向グラフにおいて、前記差分の大きさを前記ノードの表示態様に反映させる
ことを特徴とする設計知見の分析方法。
【請求項4】
請求項3に記載された設計知見の分析方法において、
前記第2の可視化ステップでは、前記表示部は、前記差分が大きいノードについては、該差分が小さいノードに比して、ノードを示すプロットをより大きく表示する
ことを特徴とする設計知見の分析方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載された設計知見の分析方法において、
前記分類ステップでは、前記演算部は、多目的最適化問題を解くことで、前記複数の設計変数の組み合わせの中から、前記複数の制約条件を全て満足するような実行可能解の集合として前記第1変数群の集合を抽出するとともに、前記複数の制約条件のうちの1つ以上を満足しない実行不可能解の集合として前記第2変数群の集合を抽出する
ことを特徴とする設計知見の分析方法。
【請求項6】
請求項5に記載された設計知見の分析方法において、
前記多目的最適化問題における目的関数は、複数の構造体の合計重量を示す関数と、該複数の構造体の各々で同じ部位にありかつ板厚が共通となる部品点数を示す関数と、からなり、
前
記設計変数は、前記複数の構造体を構成する各部品の板厚を示し、
前記分類ステップでは、前記演算部は、構造体別に階層的クラスタリングを実行する
ことを特徴とする設計知見の分析方法。
【請求項7】
プログラムを実行する演算部と、ユーザに情報を表示する表示部と、を備えるコンピュータを用いることによって、構造体を構成する各部品に割り当てられる設計変数
を複数組み合わせることで構成される複数の設計変数の組み合わせのうち、2つ以上の組み合わせを比較検討するための設計知見の分析プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記演算部が、前記複数の設計変数の組み合わせを、それぞれ所定の物品性能に対応した複数の制約条件を全て満足する組み合わせである第1変数群と、前記複数の制約条件のうちの1つ以上を満足しない組み合わせである第2変数群と、に分類する分類ステップと、
前記複数の設計変数の組み合わせに対して前記演算部が階層的クラスタリングを施すことで、前記複数の設計変数の組み合わせを、各組み合わせ同士の類似度に応じてクラスタリングするクラスタ化ステップと、
前記クラスタ化ステップにおいて取得された階層構造に基づいて、前記演算部が、同一クラスタ内で隣接するような前記第1変数群と前記第2変数群とのペアを1つ以上にわたり抽出するペア抽出ステップと、
前記演算部が、前記ペア抽出ステップにおいて抽出された各ペアにおける前記第1変数群と前記第2変数群との間の相関係数が所定値以上になるか否かを判定する相関判定ステップと、
前記演算部が、前記相関判定ステップにおいて前記相関係数が所定値以上になると判定された各ペアにおける前記第2変数群について、前記複数の制約条件のうち満足されていない制約条件を特定するとともに、該第2変数群における各設計変数と、該第2変数群とペアをなす前記第1変数群における各設計変数と、の差異を判定する分析ステップと、を実行させる
ことを特徴とする設計知見の分析プログラム。
【請求項8】
請求項7に記載された設計知見の分析プログラムを記憶している
ことを特徴とするコンピュータ読取可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、設計知見の分析方法、設計知見の分析プログラム、および該分析プログラムを記憶したコンピュータ読取可能な記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、階層的クラスタリングを用いた構造解析の一例が開示されている。具体的に、この特許文献1によれば、まず、階層的クラスタリングによりサンプリングを分類し、所定のしきい値を満たすクラスタを選択する。次いで、選択された領域内に新たなサンプリングを生成し、その新たなサンプリングを含む領域に対して応答曲面近似式を作成して最適値を抽出する。このように、領域別に応答曲面近似式を作成することで、精度の高い最適値を抽出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、設計知見の理解を深めるべく、所定の商品性能を満足するような設計変数の組み合わせを抽出するとともに、抽出された各組み合わせに対し、前述の階層的クラスタリングを施すことを検討した。
【0005】
その際、本願発明者らは、全ての商品性能を満足するような設計変数の組み合わせのみに着目するのではなく、一部の商品性能を満足しないような組み合わせにも着目することで、設計知見の理解をさらに深掘りできることを新たに発見し、本願発明に至った。
【0006】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、設計知見の理解を従来よりも深掘りすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、プログラムを実行する演算部と、ユーザに情報を表示する表示部と、を備えるコンピュータを用いることによって、構造体を構成する各部品に割り当てられる設計変数を複数組み合わせることで構成される複数の設計変数の組み合わせのうち、2つ以上の組み合わせを比較検討するための設計知見の分析方法に係る。
【0008】
そして、本開示の第1の態様によれば、前記設計知見の分析方法は、前記演算部が、前記複数の設計変数の組み合わせを、それぞれ所定の物品性能に対応した複数の制約条件を全て満足する組み合わせである第1変数群と、前記複数の制約条件のうちの1つ以上を満足しない組み合わせである第2変数群と、に分類する分類ステップと、前記複数の設計変数の組み合わせがなす集合に対して前記演算部が階層的クラスタリングを施すことで、前記複数の設計変数の組み合わせを、各組み合わせ同士の類似度に応じてクラスタリングするクラスタ化ステップと、前記クラスタ化ステップにおいて取得された階層構造に基づいて、前記演算部が、同一クラスタ内で隣接するような前記第1変数群と前記第2変数群とのペアを1つ以上にわたり抽出するペア抽出ステップと、前記演算部が、前記ペア抽出ステップにおいて抽出された各ペアにおける前記第1変数群と前記第2変数群との間の相関係数が所定値以上になるか否かを判定する相関判定ステップと、前記演算部が、前記相関判定ステップにおいて前記相関係数が所定値以上になると判定された各ペアにおける前記第2変数群について、前記複数の制約条件のうち満足されていない制約条件を特定するとともに、該第2変数群における各設計変数と、該第2変数群とペアをなす前記第1変数群における各設計変数と、の差異を判定する分析ステップと、を備える。
【0009】
ここで、「複数の制約条件」は、それぞれ、所定の物品性能に対応した条件を示す。
【0010】
前記方法は、複数の制約条件を全て満足するような設計変数の組み合わせばかりでなく、一部の制約条件を満足しないような設計変数の組み合わせも含めてクラスタリングを実行し、階層構造を演算する。
【0011】
そして、同一クラスタ内で隣接しながらも、一方は全ての制約条件を満足し、他方は一部の制約条件を満足しないような組み合わせのペアを抽出し、そのペアにおいて如何なる制約条件が未達であり、如何なる設計変数が相違するかを分析する。
【0012】
これにより、類似した構造を有する2パターンの組み合わせを比較した際に、どの部品が物品性能の良否に寄与しているかを明確化することができる。その結果、階層的クラスタリングを用いた設計知見の分析に際し、その理解を従来よりも深掘りすることができるようになる。
【0013】
また、本開示の第2の態様によれば、前記設計知見の分析方法は、前記相関判定ステップにおいて前記相関係数が所定値以上になると判定された各ペアについて、前記複数の制約条件それぞれの達成状況を、前記表示部が、前記第1変数群と前記第2変数群とで比較するように表示する可視化ステップを備え、前記可視化ステップでは、前記表示部は、前記複数の制約条件に対し、各制約条件の達成状況を示す数値をプロットしてなる平行座標プロットを表示する、としてもよい。
【0014】
この方法によれば、設計者は、各制約条件それぞれの達成状況を容易に視認することができる。これにより、設計知見の理解を深める上で有利になる。
【0015】
また、本開示の第3の態様によれば、前記設計知見の分析方法は、前記相関判定ステップにおいて前記相関係数が所定値以上になると判定された各ペアについて、前記表示部が、前記第1変数群における各設計変数と、前記第2変数群における各設計変数と、の差分を表示する第2の可視化ステップを備え、前記第2の可視化ステップでは、前記表示部は、前記複数の設計変数の組み合わせを構成する各設計変数をノードとするとともに、各設計変数に対応する部品のうち、物理的に接続された部品に対応するノード間をエッジで接続してなる無向グラフを表示し、前記第2の可視化ステップでは、前記表示部は、前記無向グラフにおいて、前記差分の大きさを前記ノードの表示態様に反映させる、としてもよい。
【0016】
この方法によれば、各設計変数の差異(差分)を無向グラフとして可視化するとともに、その差異の大きさをノードの表示態様に反映させることで、設計者は、未達となった制約条件に寄与する設計変数を容易に視認することができる。これにより、設計知見の理解を深める上で有利になる。
【0017】
さらに、部品間の物理的な接続関係をエッジに対応させることで、設計者は、実際の部品と、数値シミュレーション上の設計変数と、の関係を直感的に理解することができる。これにより、より明確な分析を行うことができるようになる。
【0018】
また、本開示の第4の態様によれば、前記第2の可視化ステップでは、前記表示部は、前記差分が大きいノードについては、該差分が小さいノードに比して、ノードを示すプロットをより大きく表示する、としてもよい。
【0019】
この方法によれば、各設計変数間の差異(差分)の大きさをプロットの表示サイズに反映させることで、未達となった制約条件に寄与する設計変数を容易に視認することができる。これにより、設計知見の理解を深める上で有利になる。
【0020】
また、本開示の第5の態様によれば、前記分類ステップでは、前記演算部は、多目的最適化問題を解くことで、前記複数の設計変数の組み合わせの中から、前記複数の制約条件を全て満足するような実行可能解の集合として前記第1変数群の集合を抽出するとともに、前記複数の制約条件のうちの1つ以上を満足しない実行不可能解の集合として前記第2変数群の集合を抽出する、としてもよい。
【0021】
前記方法は、多目的最適化問題に基づいた設計知見の抽出に際し、極めて有用である。
【0022】
また、本開示の第6の態様によれば、前記多目的最適化問題における目的関数は、複数の構造体の合計重量を示す関数と、該複数の構造体の各々で同じ部位にありかつ板厚が共通となる部品点数を示す関数と、からなり、前記設計変数は、前記複数の構造体を構成する各部品の板厚を示し、前記分類ステップでは、前記演算部は、構造体別に階層的クラスタリングを実行する、としてもよい。
【0023】
前記方法は、車体構造における設計知見の抽出に際し、極めて有用である。
【0024】
また、本開示の第7の態様は、プログラムを実行する演算部と、ユーザに情報を表示する表示部と、を備えるコンピュータを用いることによって、構造体を構成する各部品に割り当てられる設計変数を複数組み合わせることで構成される複数の設計変数の組み合わせのうち、2つ以上の組み合わせを比較検討するための設計知見の分析プログラムであって、前記コンピュータに、前記演算部が、前記複数の設計変数の組み合わせを、それぞれ所定の物品性能に対応した複数の制約条件を全て満足する組み合わせである第1変数群と、前記複数の制約条件のうちの1つ以上を満足しない組み合わせである第2変数群と、に分類する分類ステップと、前記複数の設計変数の組み合わせに対して前記演算部が階層的クラスタリングを施すことで、前記複数の設計変数の組み合わせを、各組み合わせ同士の類似度に応じてクラスタリングするクラスタ化ステップと、前記クラスタ化ステップにおいて取得された階層構造に基づいて、前記演算部が、同一クラスタ内で隣接するような前記第1変数群と前記第2変数群とのペアを1つ以上にわたり抽出するペア抽出ステップと、前記演算部が、前記ペア抽出ステップにおいて抽出された各ペアにおける前記第1変数群と前記第2変数群との間の相関係数が所定値以上になるか否かを判定する相関判定ステップと、前記演算部が、前記相関判定ステップにおいて前記相関係数が所定値以上になると判定された各ペアにおける前記第2変数群について、前記複数の制約条件のうち満足されていない制約条件を特定するとともに、該第2変数群における各設計変数と、該第2変数群とペアをなす前記第1変数群における各設計変数と、の差異を判定する分析ステップと、を実行させる。
【0025】
前記プログラムによれば、類似した構造を有する2パターンの組み合わせを比較した際に、どの部品が物品性能の良否に寄与しているかを明確化することができる。その結果、階層的クラスタリングを用いた設計知見の分析に際し、その理解を従来よりも深掘りすることができるようになる。
【0026】
また、本開示の第8の態様は、前記設計知見の分析プログラムを記憶しているコンピュータ読取可能な記憶媒体に係る。
【0027】
前記記憶媒体によれば、類似した構造を有する2パターンの組み合わせを比較した際に、どの部品が物品性能の良否に寄与しているかを明確化することができる。その結果、階層的クラスタリングを用いた設計知見の分析に際し、その理解を従来よりも深掘りすることができるようになる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本開示によれば、設計知見の理解を従来よりも深掘りすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、設計知見の分析装置のハードウェア構成を例示する図である。
【
図2】
図2は、設計知見の分析装置のソフトウェア構成を例示する図である。
【
図3】
図3は、設計知見の分析手順を例示するフローチャートである。
【
図4】
図4は、ウォード法による距離の測定方法について説明する図である。
【
図5】
図5は、実行可能解に実行不可能解を含めてクラスタリングされた階層構造を例示する図である。
【
図6】
図6は、各制約条件の達成状況を可視化した図である。
【
図7】
図7は、実行可能解と実行不可能解との間の設計変数の差異を例示する無向グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は例示である。
【0031】
<装置構成>
図1は、本開示に係る設計知見の分析装置(具体的には、その分析装置を構成するコンピュータ1)のハードウェア構成を例示する図であり、
図2は、そのソフトウェア構成を例示する図である。
【0032】
図1に例示するように、コンピュータ1は、コンピュータ1全体の制御を司る中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)3と、ブートプラグラム等を記憶するリードオンリーメモリ(Read Only Memory:ROM)5と、メインメモリとして機能するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)7と、2次記憶装置としてのハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)9と、を備える。なお、2次記憶装置としては、HDD9の代わりに、ソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等を用いることもできる。
【0033】
これらの要素のうち、CPU3は、種々のプログラムを実行する。CPU3は、本実施形態における演算部として機能する。また、RAM7およびHDD9は、CPU3により実行されるプログラムを一時的または継続的に記憶する。RAM7およびHDD9は、それぞれ、本実施形態における記憶部として機能する。
【0034】
コンピュータ1はまた、表示部11と、表示部11上に表示される画像データを格納するグラフックスメモリ(Video RAM:VRAM)13と、マンマシンインターフェースとしてのキーボード15およびマウス17と、を備える。表示部11は、CPU3による演算結果等、ユーザに各種情報を表示することができる。表示部11は、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機EL等を用いて構成することができる。また、本実施形態に係るコンピュータ1は、通信用のインターフェース21を介して外部機器との間でデータを送受することができる。
【0035】
図2に例示するように、HDD9のプログラムメモリには、オペレーティングシステム(Operating System:OS)19、多目的最適化プログラム29A、クラスタリングプログラム29B、ペア抽出プログラム29C、相関関係判定プログラム29D、可視化プログラム29E、グラフ分析プログラム29F、アプリケーションプログラム39等が格納される。
【0036】
これらの要素のうち、多目的最適化プログラム29A、クラスタリングプログラム29B、ペア抽出プログラム29C、相関関係判定プログラム29D、可視化プログラム29Eおよびグラフ分析プログラム29Fは、本実施形態における設計知見の分析プログラム29を構成する。
【0037】
ここで、設計知見の分析プログラム29とは、後述の設計知見の分析方法を実行させるためのプログラムであって、同分析方法を構成する各ステップをコンピュータ1に実行させるように構成されている。設計知見の分析プログラム29は、コンピュータ読取可能な記憶媒体18に予め記憶されている。
【0038】
HDD9のプログラムメモリにおいて、多目的最適化プログラム29A、クラスタリングプログラム29B、ペア抽出プログラム29C、相関関係判定プログラム29D、可視化プログラム29Eおよびグラフ分析プログラム29Fは、それぞれ、キーボード15、マウス17等から入力される指令に応じて起動される。その際、多目的最適化プログラム29A等は、HDD9からRAM7にロードされ、CPU3によって実行されることになる。CPU3が多目的最適化プログラム29A等を実行することで、コンピュータ1が設計知見の分析装置として機能することになる。
【0039】
一方、HDD9のデータメモリには、分析対象とされる設計変数の初期値、および、その初期値に基づいて算出される実行可能解および実行不可能解等の値が格納される(設計変数データ49)。また、各設計変数に対応した部品同士の接続関係を示す情報(モデルデータ59)も、HDD9に記憶される。
【0040】
この他、多目的最適化プログラム29A等を実行することで生成される種々のデータ、並びに、アプリケーションプログラム39の実行結果については、必要に応じて、HDD9のデータメモリに格納されたり、メインメモリとしてのRAM7に格納されたりする。
【0041】
以下、設計知見の分析方法について詳細に説明する。
【0042】
<方法論>
図3は、設計知見の分析手順を例示するフローチャートである。
図3に例示した方法は、、構造体を構成する各部品に割り当てられる設計変数の組み合わせのうち、2つ以上の組み合わせを比較検討するための設計知見の分析方法である。
【0043】
本実施形態に係る設計知見の分析方法は、種々の条件設定を行う初期設定ステップSt1と、複数の設計変数の組み合わせを、複数の制約条件を全て満足する組み合わせである実行可能解(第1変数群)と複数の制約条件のうちの1つ以上を満足しない組み合わせである実行不可能解(第2変数群)とに分類する分類ステップSt2と、分類された各組み合わせの集合に対して階層的クラスタリングを施すクラスタ化ステップSt3と、同一クラスタ内で隣接した実行可能解と実行不可能解とのペアを抽出するペア抽出ステップSt4と、抽出された各ペアの相関関係を判定する相関判定ステップSt5と、各ペアに近接した実行可能解を抽出する近接解抽出ステップSt6と、各ペアの実行不可能解における未達の制約条件を可視化して特定する第1可視化ステップSt7と、各解における設計変数間の差異を可視化して判定する第2可視化ステップSt8と、を備える。第1可視化ステップSt7および第2可視化ステップSt8は、本実施形態における「分析ステップ」を構成する。
【0044】
これらのプロセスのうち、分類ステップSt2は、CPU3が前述の多目的最適化プログラム29Aを実行することで実施される。同様に、クラスタ化ステップSt3は、CPU3がクラスタリングプログラム29Bを実行することで実施され、ペア抽出ステップSt4は、CPU3がペア抽出プログラム29Cを実行することで実施され、相関判定ステップSt5は、CPU3が相関関係判定プログラム29Dを実行することで実施され、近接解抽出ステップSt6は、CPU3がペア抽出プログラム29Cを実行することで実施され、分析ステップとしての第1可視化ステップSt7および第2可視化ステップSt8は、CPU3が可視化プログラム29Eおよびグラフ分析プログラム29Fを実行することで実施される。
【0045】
(初期設定ステップ)
初期設定ステップSt1において、コンピュータ1は、分析対象である設計変数の組み合わせと、その設計変数の組み合わせが満足すべき種々の制約条件と、設計変数の組み合わせを抽出する際に最適化されるべき所定関数(目的関数)と、を設定する。
【0046】
このうち、設計変数の組み合わせは、複数の変数を組み合わせてなる。各設計変数は、構造体を構成する各部品に割り当てられる変数である。例えば、構造体としてN個の部品からなる自動車の車体を分析対象とする場合、“設計変数の組み合わせ”は、N個の変数(設計変数)の組み合わせ、すなわちN次元変数として取り扱うことができる。
【0047】
以下、記載を簡潔にするべく、「設計変数の組み合わせ」を単に「設計変数」と呼称する場合がある。また、各設計変数を構成するN個の変数によって張られる空間を「設計変数空間」と呼称する場合もある。
【0048】
構造体としては、前述のように、自動車の車体を用いることができる。この場合、設計変数としては、車体の各構成部品の寸法、重量、製造コスト、材料等に対応した設計変数を用いることが可能である。例えば、構造体として車体を用いた場合、その構成部品に対応する設計変数としては、各構成部品の板厚を用いることができる。
【0049】
なお、構造体として車体を用いる場合、その車種の数は、1車種としてもよいし、複数の車種としてもよい。例えば、3車種について同時に分析を行うこともできる。その場合、各車種の部品点数がN個であると仮定すると、各設計変数は、3×N次元の変数として取り扱われることになる。
【0050】
このように、本実施形態に係る分析方法は、複数の構造体をグループ化したものを分析対象とすることができる。その場合の設計変数は、前述のように、グループ化された各構造体の設計変数全体となる。
【0051】
また、設計変数が満足すべき制約条件としては、分析対象である構造体に求める物品性能(商品性能)に対応した複数の条件が用いられる。この制約条件としては、少なくとも、設計変数の増減に応じて、各制約条件の達成状況が変動し得る条件を用いることができる。言い換えると、各制約条件は、前記設計変数の関数であればよい。
【0052】
例えば、設計変数として車体の各構成部品の板厚を用いた場合、それに対応する制約条件としては、車体の剛性、車体の振動の大きさ、各種衝突性能等のうちの1つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
また、本実施形態では、多目的最適化問題を解くことで、それら制約条件を全て満足するような設計変数が探索される。この場合に使用可能な目的関数は、前記設計変数を引数とし、かつ、互いにトレードオフとなるような複数の関数である。
【0054】
例えば、構造体として3種の車体を用いるとともに、設計変数として3種の車体それぞれの構成部品の板厚を用いた場合(3車種について同時に分析を行う場合)、複数の目的関数としては、3種の車体全体の合計重量を示す関数と、各車体の間で同じ部位にありかつ板厚が共通となる部品点数(共通板厚部品点数)を示す関数と、を組み合わせて用いることができる。
【0055】
初期設定ステップSt1では、予めHDD9等に記憶された各種設定、および、キーボード15等を通じて入力された各種設定が、RAM7に読み込まれる。CPU3は、読み込まれた設定に基づいて、以降のプロセスを実行する。
【0056】
(分類ステップ)
分類ステップSt2においては、初期設定ステップSt1で設定された各種設定に基づいて、CPU3が、複数の設計変数の組み合わせを、複数の制約条件を全て満足する組み合わせである実行可能解と、複数の制約条件のうちの1つ以上を満足しない組み合わせである実行不可能解と、に分類する。
【0057】
具体的に、本実施形態に係る分類ステップSt2では、CPU3は、初期設定ステップSt1で設定された複数の目的関数の元で多目的最適化問題を解くことで、複数の設計変数の組み合わせ(前述の例の場合は、3×N次元変数)の中から、初期設定ステップSt1で設定された複数の制約条件を全て満足するような実行可能解の集合を抽出する。実行可能解は、本実施形態における「第1変数群」の例示である。
【0058】
CPU3はまた、多目的最適化問題を解くことで、複数の設計変数の組み合わせ(前述の例の場合は、3×N次元変数)の中から、初期設定ステップSt1で設定された複数の制約条件のうちの1つ以上を満足しないような実行不可能解の集合を抽出する。実行不可能解は、本実施形態における「第2変数群」の例示である。
【0059】
また、多目的最適化問題を解くためのアルゴリズムとしては、種々のアルゴリズムを用いることができる。本実施形態に係るコンピュータ1は、多目的進化計算アルゴリズムを用いて実行可能解の集合を抽出する。
【0060】
分類ステップSt2において分類された実行可能解および実行不可能解それぞれの集合は、一時的にまたは継続的にコンピュータ1に記憶され、以降のプロセスにおいて用いられるようになっている。
【0061】
(クラスタ化ステップ)
クラスタ化ステップSt3においては、設計変数の組み合わせがなす集合に対してCPU3が階層的クラスタリングを施すことで、前記複数の設計変数の組み合わせを、各組み合わせ同士の類似度に応じてクラスタリングする。階層的クラスタリングが行われる対象は、実行可能解の集合に対し、実行不可能解の集合も含めた集合となる。
【0062】
クラスタ化ステップを行うことで、コンピュータ1は、所定の物品性能を全て満足するような設計変数と、少なくとも一部の物品性能を満足しないような設計変数と、が織りなす階層構造を示す情報(以下、「構造情報」ともいう)I1を算出することができる(
図5を参照)。
【0063】
ここで、各組み合わせ同士の類似度(距離)としては、設計変数空間における組み合わせ間の距離を用いることができる。
【0064】
また、複数の構造体をグループ化したものを分析対象とした場合、クラスタ化ステップSt3において、CPU3は、各構造体別に階層的クラスタリングを実行することになる。例えば、3車種について同時に分析を行う場合、CPU3は、車種毎に階層的クラスタリングを行うことができる。
【0065】
また、階層的クラスタリングを行う際には、クラスタ間の距離を定義する必要がある。本実施形態に係るコンピュータ1は、ウォード法を用いてクラスタ間の距離を測定するように構成されている。
【0066】
例えば、
図4に示すように、実行可能解Siが含まれるクラスタCaと、実行可能解Siが含まれないクラスタCbと、を結合してクラスタCcを構成した場合を考える。この場合、結合後のクラスタCcの重心Ocと、そのクラスタCc内の各サンプルとの距離(設計変数空間における距離)の2乗和をLcとし、結合前のクラスタCaにおける重心Oaとサンプル(クラスタCa内のサンプル)との距離の2乗和をLaとし、結合前のクラスタCbにおける重心Obとサンプル(クラスタCb内のサンプル)との距離の2乗和をLbとすると、
Δ=Lc-(La+Lb) …(1)
が最小となるようなクラスタ同士が順番に結合されることになる。
【0067】
階層的クラスタリングを行うことで、CPU3は、分類ステップSt2において分類された集合を、
図5に示すように階層化することができる。その階層構造を示す構造情報I1は、一時的にまたは継続的にコンピュータ1に記憶され、以降のプロセスにおいて用いられるようになっている。
【0068】
なお、
図5の拡大部に示す「109」,「191」,「482」は、それぞれ、実行可能解および実行可能解のうちのいずれか1つを特定するためのIDを意味する。この例では、「109」と付された解S1と「191」と付された解S3が実行可能解に対応し、「482」と付された解S2が実行不可能解に対応する。
【0069】
(ペア抽出ステップ)
ペア抽出ステップSt4においては、クラスタ化ステップSt3において取得された階層構造に基づいて、CPU3が、同一クラスタ内で隣接するような第1変数群(実行可能解)と第2変数群(実行不可能解)とのペアを1つ以上にわたり抽出する。これにより、コンピュータ1は、互いに近い構造を持ちながらも、制約条件の達成状況に差異が生まれた解のペアを抽出することができる。
【0070】
なお、ここでいう「同一クラスタ内で隣接するような実行可能解と実行不可能解のペア」とは、
図5の解S1と解S2のように、同一クラスタ内で類似度が最大となる解のペアのうち、一方の解が実行可能解となり、他方の解が実行可能解となるようなペアを指す。以下、このペアに符号Pを付して説明する。
【0071】
コンピュータ1は、構造情報I1に基づいて、1つ以上のペアPを抽出する。抽出された各ペアPは、一時的にまたは継続的にコンピュータ1に記憶され、以降のプロセスにおいて用いられるようになっている。
【0072】
(相関判定ステップ)
相関判定ステップSt5では、CPU3は、ペア抽出ステップSt4において抽出された各ペアPにおける第1変数群(実行可能解)と第2変数群(実行不可能解)との間の相関係数が所定値以上になるか否かを判定する。
【0073】
具体的に、本実施形態に係るCPU3は、各ペアPの相関係数として、設計変数空間における相関係数を計算する。そして、CPU3は、その相関係数が所定値以上となるか否かを判定する。これにより、コンピュータ1は、抽出されたペアPの中から、相対的に類似度の高いペアPをさらに抽出することができる。
【0074】
相関係数の判定基準となる所定値は、少なくとも0以上の値、好ましくは0.9以上の値、さらに好ましくは0.999に設定されるようになっている。
【0075】
コンピュータ1は、ペア抽出ステップSt4において抽出されたペアPをふるいにかけ、相関係数が所定値以上になるペアPをさらに抽出する。相関判定ステップSt5において抽出された各ペアPは、一時的にまたは継続的にコンピュータ1に記憶され、以降のプロセスにおいて用いられるようになっている。
【0076】
(近接解抽出ステップ)
近接解抽出ステップSt6では、CPU3は、相関判定ステップSt5で抽出されたペアPに近接する第1変数群(実行可能解)を抽出する。
【0077】
なお、ここでいう「ペアPに近接する第1変数群(実行可能解)」とは、
図5の解Sのように、ペアP周辺の実行可能解のうち、特に、ペアPとの類似度が最大となるような1つの実行可能解を指す。
【0078】
コンピュータ1は、ペアPに近接する1つの実行可能解を抽出し、抽出された実行可能解を一時的にまたは継続的に記憶する。記憶された実行可能解は、以降のプロセスにおいて用いられるようになっている。
【0079】
(第1可視化ステップ)
第1可視化ステップSt7では、CPU3が、相関判定ステップSt5において相関係数が所定値以上になると判定された各ペアPにおける第2変数群(実行不可能解)について、複数の制約条件のうち満足されていない制約条件を特定する。
【0080】
具体的に、本実施形態に係る第1可視化ステップSt7では、CPU3が表示部11を制御することで、相関判定ステップSt5において相関係数が所定値以上になると判定された各ペアPについて、複数の制約条件それぞれの達成状況を、表示部11が、第1変数群(実行可能解)と第2変数群(実行不可能解)とで比較するように表示する。
【0081】
ここで、第1可視化ステップSt7では、
図6に示すように、表示部11は、複数の制約条件(cons01~cons09)に対し、各制約条件の達成状況を示す数値(制約条件値)をプロットしてなる平行座標プロットG1,G2を表示することが好ましい。
【0082】
さらに、第1可視化ステップSt7では、相関判定ステップSt5において相関係数が所定値以上になると判定された各ペアPに加えて、近接解抽出ステップSt6において抽出された実行可能解についても、複数の制約条件それぞれの達成状況を表示する。この場合の表示態様は、前記ペアPと同様に、制約条件の達成状況を示す数値(制約条件値)をプロットしてなる平行座標プロットG3を表示することが好ましい。
【0083】
また、各制約条件値の大きさは、条件毎の達成状況を容易に比較できるように、正規化することがさらに好ましい。
図6に示す例では、各制約条件値は、上限値と下限値とが[0,1]で正規化されている。0を下回ると制約違反を意味することになる。
【0084】
図6に示す例では、ペアPを構成する実行可能解S1を示す「109」と、ペアPに近接する実行可能解S3を示す「191」とについては、双方とも全ての制約条件を満足する。そのため、各解の制約条件値は、いずれも、正規化された範囲内に収まるようになっている。
【0085】
一方、ペアPを構成する実行不可能解S2を示す「482」については、一部の制約条件が満足されない。この例では、「cons4」と付された制約条件に関して、その制約条件に対応した制約条件値が0を下回っていることが見て取れる(
図6の囲み部R1を参照)。
【0086】
第1可視化ステップSt7では、相関判定ステップSt5において相関係数が所定値以上になると判定された各ペアPにおける第2変数群(実行不可能解)について、複数の制約条件のうち満足されていない制約条件が特定される。
【0087】
図6に示す例では、実行不可能解にて満足されていない制約条件として、「cons4」と付された制約条件が特定されることになる。この特定は、ユーザによるキーボード15、マウス17等を介した入力に基づいてCPU3が行ってもよいし、CPU3が制約条件値等を自動的に判定することで行ってもよい。
【0088】
(第2可視化ステップ)
第2可視化ステップSt8では、CPU3が、第2変数群(実行不可能解)における各設計変数と、該第2変数群(実行不可能解)とペアPをなす第1変数群(実行可能解)における各設計変数と、の差異を判定する。
【0089】
具体的に、本実施形態に係る第2可視化ステップSt8では、CPU3が表示部11を制御することで、相関判定ステップSt5において相関係数が所定値以上になると判定された各ペアPについて、表示部11が、第1変数群(実行可能解)における各設計変数と、第2変数群(実行可能解)における各設計変数と、の差分を表示する。
【0090】
ここで、第2可視化ステップSt8では、
図7のグラフG4に示すように、表示部11は、各設計変数をノードとするとともに、各設計変数に対応する部品のうち、物理的に接続された部品に対応するノード間をエッジで接続してなる無向グラフ(ネットワーク図)を表示する。ここで、
図7における2桁の数字は、各設計変数、ひいてはそれに対応する部品を特定するための部品番号に対応する。
【0091】
例えば、74個の部品に対応した設計変数を分析対象とした場合、表示部11上には、最大で74個のノードが表示されることになる。また、
図7において部品番号「12」が付されたノードv1と、部品番号「22」が付されたノードv2のように、構造体の現物において、実際に接続されることになる部品に対応するノード同士がエッジで結ばれるようになっている。どのノードをエッジで結ぶかについては、前述のモデルデータ59に基づいて、CPU3が判断するように構成されている。
【0092】
さらに、第2可視化ステップSt8では、CPU3が表示部11を制御することで、表示部11が、無向グラフにおいて、設計変数の差分の大きさをノードの表示態様に反映させる。
【0093】
詳しくは、本実施形態に係る表示部11は、実行可能解と実行不可能解との間の差分が大きいノードについては、該差分が小さいノードに比して、ユーザに対する視認性を向上させるように構成されている。
【0094】
さらに詳しくは、表示部11は、実行可能解と実行不可能解との間の差分が大きいノードについては、該差分が小さいノードに比して、ノードを示すプロットをより大きく表示する。
【0095】
例えば、
図7に示すように、部品番号「44」が付されたノードv3と、部品番号「69」が付されたノードv4のように差分が大きいノードについては、前述のノードv1およびノードv2のように差分が小さいノードに比して、より大きなプロットを用いて表示する。
【0096】
また、表示部11は、実行可能解と実行不可能解との間の差分が所定の閾値よりも小さいノードについては、ユーザに対する視認性を積極的に低下させるように構成されている。
【0097】
さらに詳しくは、表示部11は、実行可能解と実行不可能解との間の差分が前記閾値を下回るノードについては、該ノードを透過色で表示する。
【0098】
例えば、前述のノードv1については差分が閾値を下回る一方、ノードv2については差分が閾値を上回っているものと仮定する。この場合、
図7に示すように、ノードv1は、ノードv2よりも淡い透過色で表示されることになる。
【0099】
第2可視化ステップSt8では、第2変数群(実行不可能解)における各設計変数と、該第2変数群(実行不可能解)とペアPをなす第1変数群(実行可能解)における各設計変数と、の差異が判定されることになる。この判定は、ユーザによるキーボード15、マウス17等を介した入力に基づいてCPU3が行ってもよいし、差分の大きさ等に基づいてCPU3が自動的に行ってもよい。
【0100】
<実施例>
図5は、実行可能解に実行不可能解を含めてクラスタリングされた階層構造を例示する図である。
図6は、各制約条件の達成状況を可視化した図である。
図7は、実行可能解と実行不可能解との間の設計変数の差異を例示する無向グラフである。
【0101】
以下、本実施形態に係る分析方法の実施例を具体的に説明する。前述の
図5~
図7は、この実施例を通じて得られた分析結果である。
【0102】
この実施例では、多目的進化計算アルゴリズムを用いてデータセットを算出するとともに、そのデータセットを用いて分析を行った。分析対象としての構造体は、前述したように、3種の車体である。3つの車種とは、SUV車、大型車および小型車である。
【0103】
また、目的関数として、3種の車体全体の合計重量と、車種間の共通板厚部品点数と、を示す関数を用いた。この場合、前者の関数を最小化し、後者の関数を最大化することが、最適化されるべき対象となる。
【0104】
また、設計変数として、車体の構造部品の板厚を用いた。この場合、1車種につき74部品となるため、設計変数空間は74×3=222次元となる。また、制約条件として、車体剛性、低周波振動、衝突性能、および、設計要件で求められる板厚間の大小関係を用いた。具体的に、制約条件を示す関数は、それぞれ、前面フルラップ衝突時の車体変形量(cons01)、前面オフセット衝突時の車体変形量(cons02~cons04)、側面衝突時の車体変形量(cons05~cons07)、および後面オフセット時の車体変形量(cons08~cons09)、車体のねじり、横曲げ、縦曲げの固有振動数(cons10~cons12)、車体ねじり剛性(cons13~cons14)、および、パーツ間の関係(cons15~cons18)である。この場合、制約条件は、1車種につき18条件となるため、3車種では計54条件となる。
【0105】
そして、多目的進化計算アルゴリズムを用いて多目的最適化問題を解くことで、SUV車については256個の実行可能解と291個の実行不可能解が算出され、大型車については118個の実行可能解と381個の実行不可能解が算出され、小型車については273個の実行可能解と247個の実行不可能解が算出された。
【0106】
そうして得られた実行可能解の集合に実行不可能解の集合を含めた上で、構造体の種別(車種)毎にウォード法に基づいた階層的クラスタリングを実行し、板厚の類似度に応じてクラスタリングを行った。クラスタリングは、構造体の種別(車種)毎に行われることになる。ここで、大型車についてクラスタリングを行った結果が、
図5の構造情報I1に相当する。
【0107】
板厚の類似度に応じてクラスタリングしているため、同じクラスタに属するということは、板厚の分布が似ていること、すなわち、車体構造が類似していることを示している。
【0108】
CPU3は、前述した手続きにしたがって、互いに隣接しかつ相関係数が所定値以上になるような実行可能解S1および実行不可能解S2のペアPと、そのペアPに近接した実行可能解S3と、を抽出する。
【0109】
ここで、実行可能解S1と実行不可能解S2は、車体構造が極めて類似しているものと推測されるものの、実行不可能解S2については、一部の制約条件が未達であることが判明している。
【0110】
そこで、制約条件の達成状況を可視化したのが
図6に示す平行座標プロットG1~G3である。このうちプロットG1は、ペアPにおける実行可能解S1の制約条件値を示し、プロットG2は、ペアPにおける実行不可能解S2の制約条件値を示し、プロットG3は、ペアPに近接した実行可能解S3の制約条件値を示す。
【0111】
図7に示すように、3つの平行座標プロットG1~G3は、互いに類似した形状を描いているものの、前面オフセット衝突時の車体変形量cons04については実行不可能解S2が制約違反となっていることが視認される。
【0112】
このように、車体構造が極めて類似していたとしても、制約状況の達成状況に差異が生じることが分かる。この差異の由来を示唆するのが、
図7に示すグラフG4である。グラフG4は、ペアPをなす実行可能解S1と実行不可能解S2との間で、設計変数の差異を部品別に無向グラフ化したものである。
【0113】
図7に示すように、大型車に対応した74個の部品のうち、部品番号「69」に対応するノードv4と、部品番号「44」に対応するノードv3については、他の部品に比して、設計変数が大きく相違している。前述した制約違反が生じた原因は、これらの部品に因るものと考えられる。
【0114】
<設計知見の深掘りに関して>
以上説明したように、本実施形態に係る分析方法は、
図3のステップSt3および
図5に示すように、複数の制約条件を全て満足するような設計変数の組み合わせ(実行可能解)ばかりでなく、一部の制約条件を満足しないような設計変数の組み合わせ(実行不可能解)も含めてクラスタリングを実行し、階層構造を演算する。
【0115】
そして、
図3のステップSt4、ステップSt7およびステップSt8、ならびに、
図5~
図7に示すように、同一クラスタ内で隣接しながらも、一方は全ての制約条件を満足し、他方は一部の制約条件を満足しないような組み合わせのペアPを抽出し、そのペアPにおいて如何なる制約条件が未達であり、如何なる設計変数が相違するかを分析する。
【0116】
これにより、類似した構造を有する2パターンの組み合わせを比較した際に、どの部品が物品性能の良否に寄与しているかを明確化することができる。その結果、階層的クラスタリングを用いた設計知見の分析に際し、その理解を従来よりも深掘りすることができるようになる。
【0117】
また、
図6に示すように、ペアPを構成する実行可能解S1および実行不可能解S2と、それに近接する実行可能解S3と、について、各制約条件の達成状況を平行座標プロットで表示することで、設計者は、各制約条件それぞれの達成状況を容易に視認することができる。これにより、設計知見の理解を深める上で有利になる。
【0118】
また、
図7に示すように、ペアPを構成する実行可能解S1における各設計変数と、同じペアPを構成する実行不可能解S2における各設計変数と、の差異(差分)を無向グラフとして可視化するとともに、その差異の大きさをノードの表示態様に反映させることで、設計者は、未達となった制約条件に寄与する設計変数を容易に視認することができる。これにより、設計知見の理解を深める上で有利になる。
【0119】
さらに、
図7に示すように、部品間の物理的な接続関係をエッジに対応させることで、設計者は、実際の部品と、数値シミュレーション上の設計変数と、の関係を直感的に理解することができる。これにより、より明確な分析を行うことができるようになる。
【0120】
さらに、
図7のノードv1~ノードv4に示すように、各設計変数間の差異(差分)の大きさをプロットの表示サイズに反映させることで、未達となった制約条件に寄与する設計変数を容易に視認することができる。これにより、設計知見の理解を深める上で有利になる。
【0121】
《他の実施形態》
前記実施形態では、コンピュータ1の一例として、1つのCPU3を有するものを例示したが、本開示は、その例に限定されない。コンピュータ1には、パーソナルコンピュータに加え、スーパーコンピュータ、PCクラスタ等の並列計算機も含まれる。例えば、
図3の分類ステップSt2、クラスタ化ステップSt3等、一部の工程のみを並列計算機に実行させ、その他の工程をパーソナルコンピュータに実行させてもよい。
【0122】
すなわち、本開示における「演算部」は、特定の計算機における演算部と、その他の計算機における演算部と、を組み合わせて構成してもよい。その場合、「コンピュータ1」の語は、複数の計算機の集合体を意味することになる。
【0123】
また、
図3に例示するフローチャートの構成は一例に過ぎず、これを適宜変更することができる。例えば、第1可視化ステップSt7と第2可視化ステップSt8を行う順番を入れ替えてもよいし、両ステップSt7,St8を同時に行うように構成してもよい。
【0124】
《産業上の利用可能性》
以上説明したように、本開示は、自動車の車体等、構造体を構成する各部品の設計変数の分析に有用であり、産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0125】
1 コンピュータ
3 CPU(演算部)
11 表示部
18 記憶媒体
P ペア
S1 実行可能解(第1変数群)
S2 実行不可能解(第2変数群)
St2 分類ステップ
St3 クラスタ化ステップ
St4 ペア抽出ステップ
St5 相関判定ステップ
St7 第1可視化ステップ(可視化ステップ、分析ステップ)
St8 第2可視化ステップ(第2の可視化ステップ、分析ステップ)