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特許7527584積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法及び積層造形物の製造方法
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  • 特許-積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法及び積層造形物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法及び積層造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/106 20170101AFI20240729BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240729BHJP
   B33Y 70/10 20200101ALI20240729BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240729BHJP
【FI】
B29C64/106
B33Y10/00
B33Y70/10
B33Y80/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020101335
(22)【出願日】2020-06-11
(65)【公開番号】P2021194811
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100130362
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】梶田 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】丸山 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】深津 志向
(72)【発明者】
【氏名】松崎 亮介
(72)【発明者】
【氏名】梶本 純平
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-199940(JP,A)
【文献】特開2018-049854(JP,A)
【文献】特開2020-026686(JP,A)
【文献】特開2000-190086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B28B 1/00 - 1/54
E04B 1/38 - 1/61
E04G 9/00 - 19/00
E04G 21/12
E04G 21/14 - 21/22
E04G 25/00 - 25/08
B33Y 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層型3Dプリンターの材料吐出ノズルから積層材料を吐出して積層する際に、当該吐出した積層材料の積層方向に補強部材を導入するための方法であって、
材料吐出ノズルから積層材料を吐出して積層構造を造形する際に、当該積層構造の内部で上下方向に連続する空間部を形成する空間部形成工程と、
前記空間部内に補強部材を挿入する補強部材挿入工程と、
前記補強部材を挿入した空間部内に充填材を充填する空間部充填工程と、
を含み、
前記空間部形成工程と、前記補強部材挿入工程と、前記空間部充填工程とを繰り返して実施することにより、積層材料の積層方向に補強部材を導入し、
前記空間部形成工程では、積層材料を所定数積層して一単位の積層構造を造形する毎に、一単位の空間部を形成するとともに、上下に連続する複数の積層単位において各単位の空間部を上下に連通させ、
前記補強部材挿入工程では、上層に位置する積層構造単位と、当該上層に位置する積層構造単位の直下層に位置する積層構造単位とにおいて、挿入する補強部材の位置を水平方向で互いに異ならせるとともに、挿入する補強部材を上下方向で一部重複させることにより、補強部材を重ね継手状とする、
ことを特徴とする積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法。
【請求項2】
前記空間部充填工程では、前記空間部の上部に充填材を充填しない非充填部を形成し、前記補強部材が当該空間部内に突出した状態とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法。
【請求項3】
積層型3Dプリンターの材料吐出ノズルから積層材料を吐出して積層する際に、当該吐出した積層材料の積層方向に補強部材を導入することにより製造する積層造形物の製造方法であって、
材料吐出ノズルから積層材料を吐出して積層構造を造形する際に、当該積層構造の内部で上下方向に連続する空間部を形成する空間部形成工程と、前記空間部内に補強部材を挿入する補強部材挿入工程と、前記補強部材を挿入した空間部内に充填材を充填する空間部充填工程とを繰り返して実施することにより、積層材料の積層方向に補強部材を導入して積層造形物を製造し、
前記空間部形成工程では、積層材料を所定数積層して一単位の積層構造を造形する毎に、一単位の空間部を形成するとともに、上下に連続する複数の積層単位において各単位の空間部を上下に連通させ、
前記補強部材挿入工程では、上層に位置する積層構造単位と、当該上層に位置する積層構造単位の直下層に位置する積層構造単位とにおいて、挿入する補強部材の位置を水平方向で互いに異ならせるとともに、挿入する補強部材を上下方向で一部重複させることにより、補強部材を重ね継手状とする、
ことを特徴とする積層造形物の製造方法。
【請求項4】
前記空間部充填工程では、前記空間部の上部に充填材を充填しない非充填部を形成し、前記補強部材が当該空間部内に突出した状態とする、
ことを特徴とする請求項3に記載の積層造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法及び積層造形物の製造方法に関するものであり、詳しくは、積層型3Dプリンターの材料吐出ノズルから積層材料を吐出して積層する際に、当該吐出した積層材料の積層方向(上下に積層された積層材料に対して上下方向)に補強部材を導入するための方法及び当該方法を用いた積層造形物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層型3Dプリンターでは、炭素繊維等の補強材を含んだFRPを造形することができる装置が開発されており、高強度の部材を造形できるようになってきた。建築物等のコンクリート構造物は、自重等の鉛直荷重と地震荷重などの水平荷重に耐えるようにするため、引っ張り力に弱いコンクリートに対して曲げ強度を高めるために鉄筋による補強を行っている。
【0003】
鉄筋コンクリート内の鉄筋は重ね継手によって力を伝える構造となっており、1本の長い鉄筋の代わりに短い鉄筋を重ね継手で並べることで強度を確保できる。また、コンクリートを積層材料として用いる積層型3Dプリンターが開発されたため、コンクリートによる積層造形物を造形することができるようになった。
【0004】
従来の積層型3Dプリンターでは、積層材料の積層方向に補強部材を導入するための適切な方法がなかった(例えば、特許文献1~特許文献3参照)。特許文献1、特許文献2には、熱可塑性物質に強化繊維を含有させてプリントヘッドから吐出することにより、積層造形物を造形する技術が開示されている。特許文献3には、セメント系材料等のプリント原料の補強材として、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維やアラミド繊維などの合成樹脂繊維を針状に成型した短長繊維や、鋼繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、セラミック繊維、炭素繊維などの無機繊維を混合して用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6061261号公報
【文献】特許第6483113号公報
【文献】特開2019-147338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来技術のように、積層型3Dプリンターで造形される積層造形物は、印刷方向(水平方向)には補強繊維を導入することができるが、積層方向(鉛直方向)に繋がった繊維などの補強部材を導入することができない。また、積層層間においては、積層型3Dプリンターの原理から短繊維であっても複数の繊維を繋げて積層方向に沿った補強部材とすることはできない。
【0007】
コンクリート構造物は、地震などの水平荷重に対する曲げ荷重に十分抵抗できる鉄筋の補強がない構造では、建築物・工作物として認められないため(建築基準法)、積層型3Dプリンターで造形される積層造形物においても、地震などの水平荷重に対する曲げ荷重に十分抵抗できる補強部材を導入する技術の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、水平荷重に対する曲げ荷重に十分抵抗できるように、補強部材を積層構造内に容易かつ確実に導入することが可能な、積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法及び積層造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法及び積層造形物の製造方法は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明に係る積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法は、積層型3Dプリンターの材料吐出ノズルから積層材料を吐出して積層する際に、当該吐出した積層材料の積層方向(積層された積層材料に対して複数の層を貫く方向)に補強部材を導入するための方法に関するものである。
【0010】
この積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法は、材料吐出ノズルから積層材料を吐出して積層構造を造形する際に、当該積層構造の内部で上下方向に連続する空間部を形成する空間部形成工程と、空間部内に補強部材を挿入する補強部材挿入工程と、補強部材を挿入した空間部内に充填材を充填する空間部充填工程とを含んでいる。そして、空間部形成工程と、補強部材挿入工程と、空間部充填工程とを繰り返して実施することにより、積層材料の積層方向に補強部材を導入することを特徴とするものである。
【0011】
そして、空間部形成工程では、積層材料を所定数積層して一単位の積層構造を造形する毎に、一単位の空間部を形成するとともに、上下に連続する複数の積層単位において各単位の空間部を上下に連通させる。
【0012】
さらに、補強部材挿入工程では、上層に位置する積層構造単位と、当該上層に位置する積層構造単位の直下層に位置する積層構造単位とにおいて、挿入する補強部材の位置を水平方向で互いに異ならせるとともに、挿入する補強部材を上下方向で一部重複させることにより、補強部材を重ね継手状とする。
【0013】
上述した積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法において、空間部充填工程では、空間部の上部に充填材を充填しない非充填部を形成し、補強部材が当該空間部内に突出した状態とすることが可能である。
【0014】
本発明に係る積層造形物の製造方法は、積層型3Dプリンターの材料吐出ノズルから積層材料を吐出して積層する際に、当該吐出した積層材料の積層方向に補強部材を導入することにより製造する積層造形物の製造方法に関するものである。そして、材料吐出ノズルから積層材料を吐出して積層構造を造形する際に、当該積層構造の内部で上下方向に連続する空間部を形成する空間部形成工程と、空間部内に補強部材を挿入する補強部材挿入工程と、補強部材を挿入した空間部内に充填材を充填する空間部充填工程とを繰り返して実施することにより、積層材料の積層方向に補強部材を導入して積層造形物を製造する。この際、空間部形成工程では、積層材料を所定数積層して一単位の積層構造を造形する毎に、一単位の空間部を形成するとともに、上下に連続する複数の積層単位において各単位の空間部を上下に連通させる。また、補強部材挿入工程では、上層に位置する積層構造単位と、当該上層に位置する積層構造単位の直下層に位置する積層構造単位とにおいて、挿入する補強部材の位置を水平方向で互いに異ならせるとともに、挿入する補強部材を上下方向で一部重複させることにより、補強部材を重ね継手状とすることを特徴とするものである。
【0015】
上述した積層造形物の製造方法において、空間部充填工程では、空間部の上部に充填材を充填しない非充填部を形成し、補強部材が当該空間部内に突出した状態とすることが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法では、積層材料を吐出して積層する際に、積層材料の積層方向(積層された積層材料に対して複数の層を貫く方向)に空間部を形成し、当該空間部内に補強部材を導入(挿入)し、空間部内に充填材を充填して補強部材を固定するようになっている。
【0017】
したがって、本発明に係る積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法によれば、水平荷重に対する曲げ荷重に十分抵抗できる補強部材を容易かつ確実に導入することが可能となる。そして、このような方法により造形された積層造形物は、水平荷重に対する曲げ荷重に十分抵抗することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明で使用する積層型3Dプリンターの模式図。
図2】本発明に係る積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法の手順を示す説明図。
図3】本発明に係る積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法により造形した積層造形物の模式図。
図4】積層造形物における引張強さと繊維体積含有率との関係についての試験結果を示す説明図。
図5】補強部材を重ね継手とした試験片の模式図。
図6】補強部材を重ね継手とした試験片における引張試験結果の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る積層型3Dプリンターにおける材料積層方向に対する補強部材の導入方法(以下、補強部材の導入方法と略記することがある)を説明する。図1図6は本発明の実施形態に係る補強部材の導入方法を説明するもので、図1は積層型3Dプリンターの模式図、図2は補強部材の導入方法の手順を示す説明図、図3は補強部材の導入方法により造形した積層造形物の模式図、図4は引張強さと繊維体積含有率との関係についての試験結果の説明図、図5は補強部材を重ね継手とした試験片の模式図、図6は補強部材を重ね継手とした試験片における引張試験結果の説明図である。
【0020】
<補強部材の導入方法の概要>
補強部材の導入方法は、積層型3Dプリンターによる積層造形時に、FRP部材や鉄筋などの補強筋(補強部材)を後から導入できるように、積層構造に対して補強部材を導入するための略鉛直方向の穴(空間部)が開くように積層造形を行う。
【0021】
予め定めた層数だけ積層造形が進んだ段階で、積層型3Dプリンターに併設した装置を用いて、略鉛直方向の穴(空間部)に補強部材(FRP棒や鉄筋)を落とし込み、樹脂やコンクリートといった充填材を、補強部材の上端において重ね継手が有効となる長さだけ出るようにして注入する。注入した充填材がある程度固まった段階で、次の補強部材を穴に落とし込み、この補強部材の上端が重ね継手が有効となる長さだけ出るようにして充填材を注入する。
【0022】
上述した手順を繰り返すことにより、重ね継手によって力の伝達が十分に可能な略鉛直方向の補強部材を、積層型3Dプリンターで造形した積層造形物の内部に導入することが可能となる。
【0023】
上述した補強部材の導入方法により、従来の積層型3Dプリンターでは、樹脂等の接着力のみでしか接合できなかった積層方向に対して、力(特に引張力)を十分に伝達可能な繊維や補強筋といった補強部材を、積層型3Dプリンターによる積層造形物の造形と同時に導入することが可能となる。このため、従来の積層型3Dプリンターで造形した積層造形物と比較して、積層方向の引張力や水平力に伴う曲げ荷重に対して格段に強度を持った造形物を造形することができる。
【0024】
補強筋の継手については、CFRPを樹脂の中で継手する実験により強度が十分に得られることを確認しており、コンクリート中の鉄筋の継手と同様に有効であり、積層型3Dプリンターで造形した造形物の積層方向に活用することができる。
【0025】
<積層型3Dプリンター>
本発明の実施形態に係る補強部材の導入方法に使用する積層型3Dプリンター10は、図1に示すように、積層材料21を吐出する材料吐出ノズル11と、材料吐出ノズル11を所望の位置に移動させるロボットアーム12と、材料吐出ノズル11に積層材料21を供給する材料供給ポンプ13と、各装置の駆動制御を行う制御装置14とを主要な構成要素とする。
【0026】
なお、制御装置14は各装置を総合的に制御する装置であってもよいし、ロボットアーム12、材料吐出ノズル11、材料供給ポンプ13等を個々に制御する装置であってもよい。さらに、本実施形態の積層型3Dプリンター10は、積層構造20に形成された空間部22内に補強部材23を導入(挿入)するための補強部材導入装置15と、空間部22内に充填材24を充填するための充填装置16とを備えている。
【0027】
なお、図1に示す積層型3Dプリンター10は一例であり、本発明の実施形態に係る補強部材23の導入方法では、造形する積層構造20(積層造形物)の規模や形状等、種々の要素に合わせて適宜変更することができる。
【0028】
<補強部材導入装置>
補強部材導入装置15は、積層構造20に形成された空間部22内に補強部材23を導入(挿入)するための装置であり、予め定めた所定数の積層構造20及び空間部22が形成されると、空間部22内に補強部材23を1本ずつ導入(挿入)するようになっている。補強部材導入装置15の構造は特に限定されるものではなく、造形する積層構造20(積層造形物)の規模や形状、導入(挿入)する補強部材23の太さ、長さ、材質等、種々の要素に合わせて適宜変更することができる。
【0029】
また、空間部22内に補強部材23を導入(挿入)する方法は、空間部22の上方から補強部材23を落とし込む方法、空間部22に充填材24を充填した後に、充填材24に補強部材23を押し込む方法等、造形する積層構造20(積層造形物)の規模や形状、導入(挿入)する補強部材23の太さ、長さ、材質等、種々の要素に合わせて適宜変更することができる。
【0030】
<補強部材の導入方法の具体例>
本発明の実施形態に係る補強部材23の導入方法は、図2に示すように、積層型3Dプリンター10の材料吐出ノズル11から積層材料21を吐出して積層する際に、当該吐出した積層材料21の積層方向(上下方向に積層された積層材料21に沿った方向)に補強部材23を導入するための方法である。この補強部材23の導入方法は、空間部形成工程と、補強部材挿入工程と、空間部充填工程とを含んでおり、これらの工程を繰り返して実施することにより、積層材料21の積層方向に補強部材23を導入するようになっている。以下、図2を参照して、補強部材の導入方法の各工程について説明する。本発明の実施形態に係る補強部材の導入方法は、図2において、(a)~(f)の順に実施する。
【0031】
<空間部形成工程>
空間部形成工程は、材料吐出ノズル11から積層材料21を吐出して積層構造20を造形する際に、当該積層構造20の内部で上下方向に連続する空間部22を形成する工程である(図2(a)、(c)、(e))。この空間部形成工程において、空間部22を有する積層構造20が成型される。
【0032】
積層構造20において空間部22を形成するには、例えば、CADシステムを用いて積層造形物を設計する際に、当該積層造形物において強度を上げたい部分を指定しておけばよい。積層型3Dプリンター10の制御装置14は、CADシステムを用いて作製した設計情報に基づいて、ロボットアーム12、材料吐出ノズル11、材料供給ポンプ13等を制御して、設計した位置に空間部22を有する積層造形物を造形する。
【0033】
本実施形態の空間部形成工程では、積層材料21を所定数積層して(例えば3層/最下層では1層の基層部と4層の積層部を積層して)、一単位の積層構造20を造形する毎に、一単位の空間部22を形成するとともに、上下に連続する複数の積層単位において各単位の空間部22を上下に連通させている。具体的には、1層の厚みは20mm程度で、空間部22の直径は5~8mm程度である。上述した厚みを有する3層の積層構造20を一単位とした場合には、一単位の空間部22の深さ(上下方向の高さ)は60mm程度となる。なお、最下層の直上部に位置する基層部では4層の積層構造20を造形するため、空間部22の深さは80mm程度となる。
【0034】
<積層材料>
本実施形態で使用する積層材料21は、例えば、セメント系材料や熱可塑性合成樹脂材料である。なお、積層材料21は、材料吐出ノズル11から吐出させた後、固化させることができればどのような材料であってもよく、造形する積層構造20(積層造形物)の規模や形状等、種々の要素に合わせて適宜変更することができる。
【0035】
<補強部材>
補強部材23は、材料吐出ノズル11から吐出した積層材料21の積層方向(上下方向に積層された積層材料21に沿った方向)に、積層構造20に形成した空間部22内に挿入して、積層構造20が水平荷重に対する曲げ荷重に十分抵抗できるようにするための部材であり、例えば、FRP部材や鉄筋等からなる。本実施形態では、入手や加工が容易であり、十分な強度を発言させることができるという点で、補強部材23としてCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を用いている。具体的には、補強部材23の太さは2mm程度で、長さは80mm程度である。
【0036】
<補強部材挿入工程>
補強部材挿入工程は、空間部22内に補強部材23を挿入する工程であり、本実施形態では、補強部材導入装置15により、空間部22内に補強部材23を導入(挿入)する(図2(b)~(f))。上述したように、空間部22の直径は5mm程度であり、補強部材23の太さは2mm程度であるため、補強部材23の挿入方法を調整することにより、上下に位置する補強部材23が水平方向で互いに異なる位置とさせ、さらに、一部を重複させて重ね継ぎ手状とすることができる(図2(d)~(f))。図2に示す例では、補強部材23は4層分の長さを有しており、最下層及び最上層を除いて、上下方向に並んだ補強部材23は下部及び上部で重複した重ね継手となっている。
【0037】
すなわち、本実施形態の補強部材挿入工程では、上層に位置する積層構造20の単位と、当該上層に位置する積層構造20の単位の直下層に位置する積層構造20の単位とにおいて、挿入する補強部材23の位置が水平方向で互いに異なるようにする。さらに、上層に位置する積層構造20の単位と、当該上層に位置する積層構造20の単位の直下層に位置する積層構造20の単位とにおいて、挿入する補強部材23を上下方向で一部重複させる(重ね継手状とする)。
【0038】
<空間部充填工程>
空間部充填工程は、補強部材23を挿入した空間部22内に充填材24を充填するための工程である(図2(b)、(d)、(f))。本実施形態では、補強部材23を挿入した空間部22内に充填材24を充填する際に、空間部22の上部に充填装置16を位置させ、補強部材23の上部(頭部)が充填材24から突出するようにして、空間部22内の所定高さまで充填材24を注入(充填)する。
【0039】
このように、充填材24を充填しない非充填部を形成し、補強部材23が当該空間部22内に突出した状態とする。非充填部を形成すると、既に空間部22内に挿入して充填材24により固定された補強部材23の上部が、次の補強部材挿入工程において挿入する補強部材23の下部と重複した状態となる。そして、補強部材挿入工程において、空間部22内に充填材24を充填すると、下方に位置する補強部材23と上方に位置する補強部材23の一部が重複して、重ね継手を構成することができる。
【0040】
<充填材>
空間部充填工程で使用する充填材24は、空間部22内に補強部材23を固定するとともに、空間部22内において十分な強度を発生する材料である必要がある。本実施形態では、充填材24としてエポキシ樹脂を用いている。エポキシ樹脂は、主剤と硬化剤の配合を適宜選択することにより、硬化時間及び強度を調整することができるため、充填材24として適している。なお、充填材24はエポキシ樹脂に限定されるものではなく、空間部22内に補強部材23を固定するとともに、空間部22内において十分な強度を発生することができればどのような材料を用いてもよい。
【0041】
<積層造形物>
本実施形態の積層造形物は、上述した各工程を実施することにより造形された造形物である(図3参照)。なお、積層造形物を造形する際に、本発明の本質を変更しない範囲で、各工程において使用する機器や材料、機器の使用手順を変更することができる。
【0042】
<引張強さと繊維体積含有率との関係>
次に、積層型3Dプリンター10を用いて造形した積層造形物の引張強さと繊維体積含有率との関係についての試験結果を説明する。図4は、積層造形物における引張強さと繊維体積含有率との関係についての試験結果を示すグラフである。
【0043】
樹脂を積層して積層構造20を造形するとともに、積層構造20の内部において積層方向に空間部22を形成した。また、CF(カーボンファイバー)を縦方向に並べた補強部材23を作製し、この補強部材23を、空間部22において積層構造20の積層方向に挿入してエポキシ樹脂で充填した。このようにして製造した試験体と、空間部22を形成していない(補強部材23を挿入していない)対照試験体とを用いて、引張強度を測定した。なお、炭素繊維含有率(V)は下記式(1)で表すことができる。
【0044】
【数1】
【0045】
図4から明らかなように、引張強さと繊維体積含有率には相関関係があり、所定の繊維体積含有率を超えた試験体は、対照試験体よりも引張強度が増加していることがわかる。
【0046】
<補強部材を重ね継手とした試験片における引張強さ試験>
次に、補強部材を重ね継手とした試験片における引張強さ試験の試験結果を説明する。図5は、補強部材を重ね継手とした試験片の模式図、図6は各試験片における試験結果を示すグラフである。
【0047】
この引張り試験には、2層の積層構造20の層境界面付近において2本の補強部材23を重ね継手状とした複数種類の試験片と、2層の積層構造20の層境界面を貫いて1本の補強部材23を配設した試験片を作製した。試験片の仕様(炭素繊維含有量)を下記表1に示す。 は補強部材23の重複部分の長さが24mmの試験片であり、 は補強部材23の重複部分の長さが10mmの試験片である。また、図6に示す試験結果で、試験片の符号に付けた添え文字は、1層目の硬化時間であり、「6」は約6時間を示し、「24」は約24時間を示す。
【0048】
【表1】
【0049】
図6から明らかなように、1層目の充填材が適切な硬化時間となった場合に、補強部材23を重ね継手状となるように空間部22内に埋め込むと、補強部材23を重ね継手状としない場合(層境界を貫いて1本の補強部材23を埋め込んだ場合)と比較して、引張強度が増加していることがわかる。
【符号の説明】
【0050】
10 積層型3Dプリンター
11 材料吐出ノズル
12 ロボットアーム
13 材料供給ポンプ
14 制御装置
15 補強部材導入装置
16 充填装置
20 積層構造
21 積層材料
22 空間部
23 補強部材
24 充填材
図1
図2
図3
図4
図5
図6