(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】触媒、電極、膜電極接合体、および空気電池
(51)【国際特許分類】
B01J 31/22 20060101AFI20240729BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240729BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B01J31/22 M
H01M4/90 Y
H01M12/08 K
(21)【出願番号】P 2021514201
(86)(22)【出願日】2020-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2020016588
(87)【国際公開番号】W WO2020213648
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2019077298
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100217135
【氏名又は名称】山崎 誠
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 直敏
(72)【発明者】
【氏名】パンディアン ガネサン
(72)【発明者】
【氏名】周 宏晃
(72)【発明者】
【氏名】上島 貢
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109004216(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109235024(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106076377(CN,A)
【文献】特開2012-054157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
H01M 4/90
H01M 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)Ni原子と、
(B)チオウレアとホルムアルデヒドとの縮合物と、
(C)多孔質炭素と、を含む
酸素還元反応電極触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の
酸素還元反応電極触媒を含む、電極。
【請求項3】
請求項2に記載の電極を備える、膜電極接合体。
【請求項4】
請求項2に記載の電極または請求項3に記載の膜電極接合体を備える、空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒、電極、膜電極接合体、および空気電池に関し、特に、水の電気分解用触媒や空気電池用電極触媒等として有用な酸素還元反応(ORR)の触媒活性に優れた低コストの触媒、該触媒を含む電極、該電極を備える膜電極接合体、および、前記電極または前記膜電極接合体を備える充放電可能な空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電子機器、電気自動車、および再生可能エネルギーの効率的利用に対する需要により、燃料電池、レドックス燃料、スーパーキャパシタ、充電式電池等の電気化学的エネルギー貯蓄システムの開発が注目されている。
【0003】
これらの中でも、特に、酸素還元反応(ORR)の機能を有する効率的な電極触媒の開発が注目を集めている。
【0004】
従来用いられている、白金(Pt)や酸化イリジウム(IV)(IrO2)のナノ粒子などの貴金属ベースの触媒は、効率的な電極触媒であるが、コストが高いという欠点がある。よって、近年、地球に豊富な元素から成る非金属触媒の開発が強く望まれている。これまでに、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、およびドープされたナノカーボン等を用いて効率的な触媒が開発されてきたが、それらの性能は、必ずしも高くはないという問題があった。
【0005】
上記問題を解決するために、均一なNiXCo3-XO4スピネル酸化物のナノ粒子を、ピリジンポリベンズイミダゾール(PyPBI)が表面に被覆された多層カーボンナノチューブ(MWCNT)に担持して、酸素還元反応(ORR)の触媒活性を向上させることなどが行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】J. Yang, T. Fujigaya, N. Nakashima, “Decorating unoxidized-carbon nanotubes with homogenous Ni-Co spinel nanocystals show superior performance for oxygen evolution/reduction reactions”, Sci. Rep., 2017, 7, art. no. 45384
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の触媒であっても、酸素還元反応(ORR)の触媒活性と低コストとを両立するという点では改善の余地があることが分かった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、水の電気分解用触媒や空気電池用電極触媒等として有用な酸素還元反応(ORR)の触媒活性に優れた低コストの触媒、該触媒を含む電極、該電極を備える膜電極接合体、および、前記電極または前記膜電極接合体を備える充放電可能な空気電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、(A)Ni原子と、(B)チオウレアとホルムアルデヒドとの縮合物と、(C)多孔質炭素と、を含む触媒が、酸素還元反応(ORR)の触媒活性と低コストとを両立することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の触媒は、(A)Ni原子と、(B)チオウレアとホルムアルデヒドとの縮合物と、(C)多孔質炭素と、を含むことを特徴とする。このように、(A)Ni原子と、(B)チオウレアとホルムアルデヒドとの縮合物と、(C)多孔質炭素と、を含むことにより、本発明の触媒は、酸素還元反応(ORR)の触媒活性に優れ、低コストであり、水の電気分解用触媒や空気電池用電極触媒等として有用である。
【0011】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電極は、上述の触媒を含むことを特徴とする。本発明の電極は、上述の触媒を含むため、電極としての酸素還元反応(ORR)の触媒活性に優れる。
【0012】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の膜電極接合体は、上述の電極を備えることを特徴とする。
【0013】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の空気電池は、上述の電極または膜電極接合体を備えることを特徴とする。本発明の空気電池は、上述の電極または膜電極接合体を備えるため、充放電可能であり、また、発電効率に優れる。
なお、本発明において、「空気電池」とは、正極活物質として空気中の酸素、負極活物質として金属(亜鉛またはリチウム)を用いる電池(空気亜鉛電池または空気リチウム電池)を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水の電気分解用触媒や空気電池用電極触媒等として有用な酸素還元反応(ORR)の触媒活性に優れた低コストの触媒を提供できる。また、本発明によれば、かかる触媒を含む電極、該電極を備える膜電極接合体、および、前記電極または前記膜電極接合体を備える充放電可能な空気電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例2で作製した触媒Bを正極触媒として作製した空気亜鉛電池の充放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、1)触媒、2)電極、3)膜電極接合体、および4)空気電池に項分けして詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
(触媒)
本発明の触媒は、(A)Ni原子と、(B)チオウレアとホルムアルデヒドとの縮合物と、(C)多孔質炭素と、を含み、必要に応じて、その他の成分をさらに含む。
かかる本発明の触媒は、酸素還元反応(ORR)の触媒活性に優れ、低コストであり、水の電気分解触媒や空気電池用電極触媒等として有用である。
本発明の触媒においては、チオウレアとホルムアルデヒドとの縮合物がNi原子に配位していてもよい。チオウレアとホルムアルデヒドとの縮合物がNi原子に配位することで、優れた酸素還元反応(ORR)の触媒活性を有する触媒活性成分として機能する。
【0018】
<(A)Ni原子>
本発明の触媒において、(A)Ni原子は、原子単体として存在してもよく、酸化物として存在していてもよい。また、(B)チオウレアとホルムアルデヒドとの縮合物と配位して、配位体(Ni-TUF)を形成していてもよい。これらはいずれも触媒活性成分として機能する。
【0019】
<<Ni原子の含有量>>
本発明の触媒におけるNi原子の含有量としては、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが特に好ましく、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。
上記含有量が、上記下限以上であることにより、触媒活性を向上させることができ、上記上限以下であることにより、高い触媒活性が発現できる。
なお、本発明の触媒におけるNi原子の含有量は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)、元素マッピング画像、などを用いて測定することができ、また、触媒調製時に配位体(Ni-TUF)の形で用いる場合、その配合量により算出することもできる。
【0020】
<(B)チオウレアとホルムアルデヒドとの縮合物(TUF)>
本発明の触媒において、(B)チオウレアとホルムアルデヒドとの縮合物(TUF)は、縮合物単体として存在してもよく、(A)Ni原子に配位した配位体(Ni-TUF)を形成していてもよい。
なお、(B)チオウレアとホルムアルデヒドとの縮合物は、下記一般式(1)で表される構造を少なくとも一部に有し、通常、三次元架橋構造を有する。
【化1】
・・・一般式(1)
一般式(1)中、nは、10以上の整数を表す。なお、nの上限は、通常、1000程度である。
【0021】
<<縮合物(TUF)の重量平均分子量>>
縮合物(TUF)の重量平均分子量は、1000以上であることが好ましく、2000以上であることがより好ましく、8000以上であることが特に好ましい。重量平均分子量が上記下限値以上であれば、高い触媒活性が発現できる。
【0022】
<<縮合物(TUF)の数平均分子量>>
縮合物(TUF)の数平均分子量は、800以上であることが好ましく、1500以上であることがより好ましく、5000以上であることが特に好ましい。数平均分子量が上記下限値以上であれば、高い触媒活性を発現できる。
【0023】
<<縮合物(TUF)の分子量分布>>
縮合物(TUF)の分子量分布(重量平均分子量を共重合体の数平均分子量で除した値)は、5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、2以下であることが特に好ましい。分子量分布が上記上限値以下であれば、高い触媒活性を発現できる。
【0024】
なお、(B)縮合物の重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いた測定により算出することができる。例えば、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー社製、HLC-8220)を使用し、展開溶媒としてテトラヒドロフランを用いて、(B)縮合物の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を標準ポリスチレン換算値として求め、分子量分布(Mw/Mn)を算出することができる。
【0025】
<<縮合物(TUF)の含有量>>
本発明の触媒における縮合物(TUF)の含有量としては、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが特に好ましく、60質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。
上記含有量が、上記下限以上であることにより、十分にNi原子に縮合体を配位させることができ、上記上限以下であることにより、高い触媒活性を発現できる。
なお、本発明の触媒における縮合物の含有量は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)、元素マッピング画像などを用いて測定することができる。また、触媒調製時に配位体(Ni-TUF)の形で用いる場合、その配合量により算出することもできる。
【0026】
<<縮合物(TUF)の調製方法>>
縮合物(TUF)の調製方法としては、例えば、チオウレアをホルムアルデヒド水溶液に投入し、酢酸でpH調整し、所定温度で所定時間還流し、白色の粘稠体を得て、得られた白色の粘稠体を所定温度で減圧乾燥する方法、などが挙げられる。
【0027】
<配位体(Ni-TUF)>
Ni原子に縮合物が配位した配位体(Ni-TUF)は、下記一般式(2)に示すように、縮合物におけるS原子部分がNi原子に配位して、配位体を形成する。但し、Ni原子の少なくとも一部がS原子によって配位されていればよく、全てのNi原子がS原子によって配位されていなくてもよい。
なお、配位体が形成されたことについては、
1H NMR、
13C NMR、FT-IRスペクトルなどにより確認することができる。
【化2】
・・・一般式(2)
一般式(2)中、nは、1以上の整数を表す。なお、nの上限は、通常、200程度である。
【0028】
<<配位体(Ni-TUF)の含有量>>
本発明の触媒における配位体(Ni-TUF))の含有量としては、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、13質量%以上であることが特に好ましく、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
上記含有量が、上記下限以上であることにより、触媒活性を向上させることができ、上記上限以下であることにより、高い触媒活性を発現できる。
なお、本発明の触媒における配位体の含有量は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)、元素マッピング画像、などを用いて測定することができる。また、触媒調製時に配位体(Ni-TUF)の形で用いる場合、その配合量により算出することもできる。
なお、本発明の触媒における配位体(Ni-TUF)の電子状態は、例えば、X線光電子分光法(XPS)を用いて測定することができる。
【0029】
<<配位体(Ni-TUF)の調製方法>>
配位体(Ni-TUF)の調製方法としては、例えば、(i)縮合物(TUF)と、硝酸ニッケル(II)と、1-ブタノールとを所定温度(好ましくは、80℃~95℃、より好ましくは、60℃)で混合し、濾過し、1-ブタノールおよびメタノールで洗浄し、所定温度(好ましくは、室温~60℃)で乾燥することにより、配位体(Ni-TUF)を調製する方法Xや、(ii)チオウレアをホルムアルデヒド水溶液に投入し、酢酸でpH調整し(好ましくは、pH2.8~pH3.2、より好ましくはpH3)、所定温度(好ましくは、80℃~95℃、より好ましくは、90℃)で所定時間(好ましくは、2時間~7時間、より好ましくは、6時間)還流し、白色の粘稠体を得て、得られた粘稠体を水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、さらに、純水およびメタノールで洗浄し、開放空気下で所定温度(好ましくは、30℃~80℃、より好ましくは、60℃)で乾燥することにより、配位体(Ni-TUF)を調製する方法Y、などが挙げられるが、酸素還元反応(ORR)の触媒活性が安定的に優れた触媒を調製することができる点で、方法Yが好ましい。
【0030】
<(C)多孔質炭素>
本発明の触媒において、(C)多孔質炭素は、多孔質炭素単体として存在してもよく、配位体(Ni-TUF)により包囲された状態で存在してもよい。
なお、(C)多孔質炭素の存在状態は、例えば、1H NMR、13C NMR、FT-IRスペクトルなどによって測定することができる。
【0031】
多孔質炭素において、メソ孔は必須であるがミクロ孔は必須ではない。したがって、ミクロ孔は存在していても、存在していなくてもよいが、多孔質炭素の形成源としての有機物質は炭化時に通常揮発性物質を放出して炭化するため、通常は放出跡としてミクロ孔を残し、前記ミクロ孔の全くないものを得ることは難しい。これに対して、メソ孔は通常意図的に形成される。例えば、酸(アルカリ)可溶性の金属、金属酸化物や、金属塩、金属含有有機物の筋材と炭素物質又はその原料である有機材料とを一緒に成型したのち、酸(アルカリ)で筋材部分を溶解し去った痕跡がメソ孔となる場合も多い。
【0032】
ここで、本明細書においては、細孔径が2nm未満のものをミクロ孔、直径が2nm以上150nm以下のものをメソ孔と称することとする。
前記サイズのメソ孔は、安定性の点で、三次元網目構造(相互接続孔)を成すことが好ましい。
【0033】
多孔質炭素のBET比表面積としては、50m2/g以上が好ましく、500m2/g以上がより好ましく、800m2/g以上が特に好ましく、2,000m2/g以下が好ましく、1,800m2/g以下がより好ましい。
上記BET比表面積が、上記下限以上であることにより、気孔が十分な量形成され、上記上限以下であることにより、メソ孔が十分に形成される。
上記BET比表面積は、例えば、自動比表面積/細孔分布測定装置(TriStarII3020、株式会社島津製作所製)による吸着等温線の測定結果から、BET(Brunauer、Emmett、Teller)法を用いて求めることができる。
【0034】
多孔質炭素の全細孔容積としては、0.2mL/g以上が好ましく、2.3mL/g以下が好ましく、1.8mL/g以下がより好ましい。
上記全細孔容積が、上記下限以上であることにより、メソ孔が独立した細孔になることが稀になり、上記上限以下であることにより、炭素構造が嵩高くならずに、ナノ構造体を構築できる。
上記全細孔容積は、例えば、自動比表面積/細孔分布測定装置(TriStarII3020、株式会社島津製作所製)による吸着等温線の測定結果から、BJH(Barrett、Joyner、Hallender)法を用いて求めることができる。
【0035】
多孔質炭素のマイクロ細孔容積としては、1mL/g以上が好ましく、1.5mL/g以上がより好ましく、3mL/g以下が好ましく、2mL/g以下がより好ましい。
上記マイクロ細孔容積が、上記下限以上であることにより、触媒の担持効率が良くなる。
【0036】
多孔質炭素のタップ密度としては、0.05g/mL以上が好ましく、0.1g/mL以上がより好ましく、0.3g/mL以下が好ましく、0.2g/mL以下がより好ましい。
上記タップ密度が、上記下限以上であることにより、触媒の担持効率が良くなる。
上記タップ密度は、例えば、ナノ細孔分析装置などを用いて求めることができる。
【0037】
多孔質炭素のメソ孔含有率としては、25.0%以上が好ましく、30.0%以上がより好ましく、80.0%以下が好ましく、60.0%以下がより好ましい。
上記メソ孔含有率が、上記下限以上であることにより、多孔質炭素の細孔の三次元網目化が十分行われ、触媒の担持効率を良くすることができ、上記上限以下であることにより、多孔質炭素の内部に細孔を十分に形成することができ、高性能触媒のサポート(支持体)になり得る。
上記メソ孔含有率は、例えば、自動比表面積/細孔分布測定装置(TriStarII3020、株式会社島津製作所製)による吸着等温線の測定結果から、下記式(1)を用いて導出することができる。
【数1】
ただし、前記式(1)中、p/p
0=0.3の値は多孔質炭素のミクロ孔に由来する吸着量を表し、p/p
0=0.96の値は多孔質炭素のメソ孔に由来する吸着量を表す。
【0038】
多孔質炭素としては、適宜製造したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、クノーベル(登録商標)(東洋炭素株式会社製)などが挙げられる。
【0039】
多孔質炭素の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、三次元網目構造(相互接続孔)を有する筋材と、多孔質炭素形成源としての有機物質とを成形して炭化させた後、酸又はアルカリで前記筋材を溶解する方法などが挙げられる。この場合、前記筋材を溶解した痕が三次元網目構造(相互接続孔)を形成する複数のメソ孔となり、意図的に形成することができる。
前記筋材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属、金属酸化物、金属塩、金属含有有機物などが挙げられる。これらの中でも、酸又はアルカリ可溶性のものが好ましい。
前記有機物質としては、炭化させることができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、前記有機物質は、炭化時に揮発性物質を放出するため、放出跡としてミクロ孔が形成されるため、ミクロ孔が全く存在しない多孔質炭素を製造することは難しい。
【0040】
<<(C)多孔質炭素の含有量>>
本発明の触媒における(C)多孔質炭素の含有量としては、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以下であることが好ましく、87質量%以下であることがより好ましく、84質量%以下であることが特に好ましい。
上記含有量が、上記下限以上であることにより、効率よく触媒を担持することができ、上記上限以下であることにより、高い活性の触媒が合成できる。
なお、本発明の触媒における(C)多孔質炭素の含有量は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)、元素マッピング画像など、を用いて測定することができ、また、触媒調製時における(C)多孔質炭素の配合量により算出することもできる。
【0041】
<触媒の製造方法>
本発明の触媒は、例えば、配位体(Ni-TUF)を分散媒中で第1回目の超音波処理を行い、その後、(C)多孔質炭素を添加し、さらに第2回目の超音波処理を行い、開放空気で乾燥すること、などによって得られる。
【0042】
<<配位体(Ni-TUF)(A+B)と多孔質炭素(C)との添加量比(質量比)>>
配位体(Ni-TUF)(A+B)と多孔質炭素(C)との添加量比(配位体(Ni-TUF)(A+B)/多孔質炭素(C))としては、2/50以上であることが好ましく、4/50以上であることがより好ましく、5/50以上であることが更に好ましく、6/50以上であることが一層好ましく、10/50以上であることが特に好ましく、60/50以下であることが好ましく、50/50以下であることがより好ましく、35/50以下であることが一層好ましく、30/50以下であることがより一層好ましく、20/50以下であることが特に好ましい。
上記含有量が、上記下限以上であることにより、触媒活性を向上させることができ、上記上限以下であることにより、触媒活性を向上させることができる。
【0043】
<<分散媒>>
分散媒としては、ジメチルアセトアミド(DMAc)、などが挙げられる。
【0044】
<<第1回目の超音波処理>>
第1回目の超音波処理の処理時間としては、特に制限はないが、10分間以上2時間以下(例えば、30分間)であることが好ましい。
【0045】
<<第2回目の超音波処理>>
第2回目の超音波処理の処理時間としては、特に制限はないが、20分間以上12時間以下(例えば、2時間)であることが好ましい。
【0046】
(電極)
本発明の電極は、本発明の触媒を含むものである。本発明の電極は、電極としての活性に優れる。
本発明の電極は、例えば、ポリイミドやポリ(テトラフルオロエチレン)等の基材の上に、触媒の分散液を塗布し、乾燥させて触媒層を形成させた後、これをカーボンクロスやカーボンペーパー等の導電性多孔質基材上に熱プレスで転写することにより形成することができる。また、触媒の分散液を、前記導電性多孔質基材上にダイコーターやスプレー等を用いて塗工し、乾燥させることにより形成することができる。触媒の分散液に用いられる溶媒としては、触媒の製造方法に記載した前記分散媒が挙げられる。分散液中の触媒の含有量は、特に限定されないが、0.001質量%~10質量%が好適である。
本発明の電極における触媒層の膜厚は、特に制限はないが、0.005μm~100μm程度である。かかる触媒層中の触媒量としては、0.1mg/m2~2×104mg/m2が好適である。
本発明の電極は、例えば、水の電気分解、有機物の電気分解、充放電可能な空気電池、燃料電池(特には、固体高分子型燃料電池の電極(空気極、燃料極))等に好適に用いられる。
【0047】
(膜電極接合体)
本発明の膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)は、本発明の電極を備えるものである。かかる膜電極接合体は、前記電極をイオン交換膜に圧着させることで得ることができる。「イオン交換膜」とは、イオン交換樹脂を膜状に成型したものをいい、例えば、プロトン伝導膜、アニオン交換膜等が挙げられる。
本発明の膜電極接合体は、充放電可能な空気電池、燃料電池(特には、固体高分子型燃料電池)等に好適に用いられる。
【0048】
(空気電池)
本発明の空気電池は、本発明の電極または膜電極接合体を備えるものである。空気電池とは、正極活物質として空気中の酸素、負極活物質として金属(亜鉛またはリチウム)を用いる電池(空気亜鉛電池または空気リチウム電池)のことを意味する。空気電池は、通常、空気中の酸素を電池内に取り込むために、空気極(正極)には触媒作用を有する多孔質炭素材料、多孔質金属材料、もしくはこれら両者の複合材料が使用され、負極には各種金属が使用され、電解液には水酸化カリウム水溶液等の水溶液が使用されている。空気電池の放電では、空気中の酸素(O2)が空気極(正極)の触媒作用でOH-として電解液に溶け込み、負極活物質と反応して起電力を発生する。一方、空気電池の充電ではその逆反応が生ずる。本発明の電極および膜電極接合体は、空気電池の正極として用いることができる。本発明の空気電池は、例えば、自動車用電源、家庭用電源、携帯電話、携帯用パソコン等のモバイル機器用小型電源として有用である。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0050】
(1)酸素還元反応(ORR)の触媒活性の評価
リニアースイープボルタンメトリー(LSV)測定を以下のように行い、酸素還元反応(ORR)の開始電圧(オンセット電圧)および半波電位(E1/2)を算出して、酸素還元反応(ORR)の触媒活性を評価した。結果を表1に示す。
具体的には、作用電極を0.1M(あるいは1M)のKOH電解質中に浸漬し、高電位1.2V(vs RHE)から低電位方向に電位を走査させて、それに応じて流れる反応電流から電流密度を測定した。測定した電流密度により、酸素還元反応(ORR)の開始電圧(オンセット電圧)および半波電位(E1/2)を算出した。
装置:回転リングディスク電極装置(BAS製、商品名:RRDE-3A)
電解質:0.1Mあるいは1MのKOH
作用電極:グラッシーカーボン(ガラス状炭素)上に、実施例、比較例で作製した触媒を0.25mg/cm2担持したもの。
参照電極:Ag/AgCl電極あるいはHg/HgO電極
対極:白金コイル
なお、表1に示す酸素還元反応(ORR)の開始電圧(オンセット電圧)および半波電位(E1/2)の値は、可逆水素電極(測定対象の電極が入っている溶液のpHと同じpHの電解質溶液を用いた水素電極)を基準として測定された電位(単位:V)であり(vs.RHE)、開始電圧(オンセット電圧)および半波電位(E1/2)のいずれの値も大きい方がより好ましい。
【0051】
(2)触媒の耐久性の評価
実施例1~4で作製した触媒について、クロノポテンシオメトリー試験を以下のように行い、触媒の耐久性を評価した。その結果、100時間性能に大きな変化はなく、実施例2~4で作製した触媒の耐久性が良好であることが分かった。
具体的には、作用電極を0.1M(あるいは1M)のKOH電解質中に浸漬し、0.88V(vs RHE)に保持し、電位の時間依存性を測定した。
【0052】
装置:回転リングディスク電極装置(BAS製、商品名:RRDE-3A)
電解質:0.1Mあるいは1MのKOH
作用電極:グラッシーカーボン上に、実施例1~4で作製した触媒を0.25mg/cm2担持したもの。
参照電極:Ag/AgCl電極あるいはHg/HgO電極
対極:白金コイル
【0053】
(3)空気亜鉛電池の特性評価
下記実施例2で作製した触媒B(Ni-TUF/CN-10mg)5mg、パーフルオロカーボン材料である20重量%ナフィオン分散液(シグマアルドリッチ製)20μl、イソプロピルアルコール160μl、蒸留水40μlを加え、バス型の超音波分散装置で1時間処理をすることで正極用分散液を作製した。得られた正極分散液を、ガス拡散層(SGLカーボンジャパン製、Sigracet GDL22BB)上に乾燥後の膜厚が0.5mg/cm
2になるように刷毛を用いて塗工し、乾燥することで空気亜鉛電池用正極部材を得た。作製した正極部材と、負極となる0.1mm厚の亜鉛箔とを直径17mmの円形に切り取り、正極部材の塗工面にセパレーター、負極を順に積層し、メステンレス鋼製のコイン型外装容器中に収納した。この容器中に濃度6モル/LのKOH水溶液を空気が残らないように注入し、メッシュ構造を有するステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止することで、直径20mm、厚さ3.2mmの空気亜鉛電池(コインセルCR2032)を製造した。
次いで、上記空気亜鉛電池の充放電特性を測定した。
図1に、触媒Bを正極触媒として作製した空気亜鉛電池の充放電特性を示す。この空気亜鉛電池の放電電位および充電電位はそれぞれ1.35Vおよび1.80Vであり、この空気亜鉛電池の過電圧が従来のものより小さく、これは、この空気亜鉛電池が高い性能を持つことを意味している。なお、
図1では、200分までの充放電特性を図示しているが、1200分以上でも充放電特性の傾向は変わらず、この空気亜鉛電池は充放電の繰り返し耐久性も高いことがわかる。
【0054】
(多孔質炭素の準備)
多孔質炭素としてのクノーベル(登録商標)(東洋炭素株式会社製、グレード:MH)を準備した。
なお、クノーベル(登録商標)(東洋炭素株式会社製、グレード:MH)の物性は以下の通りであった。
BET比表面積:1500m2/g
全細孔容積:1.7mL/g
マイクロ細孔容積:0.5mL/g
タップ密度:0.15g/mL
【0055】
(配位体(Ni-TUF)の調製)
チオウレア(0.2モル)を37質量%のホルムアルデヒド(0.2モル)水溶液に投入し、酢酸でpHを3に調整し、その後、硝酸ニッケル(II)1モルを添加し、90℃で6時間還流することで、粘稠体を得て、得られた粘稠体を1Mの水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、さらに、純水およびメタノールで洗浄し、開放空気下で60℃乾燥すること(方法Y)で、配位体(Ni-TUF)を調製した。配位体(Ni-TUF)における縮合物(TUF)の重量平均分子量は、10000であり、分子量分布は、2.0であった。
【0056】
(実施例1)
下記のように触媒A(Ni-TUF/CN-5mg)を調製し、調製した触媒Aについて、(1)酸素還元反応(ORR)の触媒活性の評価および(2)触媒の耐久性の評価を行った。
<触媒A(Ni-TUF/CN-5mg)の調製>
調製した配位体(Ni-TUF)5mgをジメチルアセトアミド(DMAc)40mL中で、超音波分散装置(ブランソン株式会社製、商品名:超音波洗浄器5580)を用いて超音波処理を30分間行い、その後、クノーベル(登録商標)(東洋炭素株式会社製、グレード:MH)50mgを添加し、超音波分散装置(ブランソン株式会社製、商品名:超音波洗浄器5580)を用いて超音波処理を2時間行い、開放空気で乾燥して、触媒A(Ni-TUF/CN-5mg)を調製した。触媒A中において、Ni原子含有量は1.2質量%であり、縮合物(TUF)含有量は9.1質量%であり、多孔質炭素(クノーベル(登録商標))含有量は89.7質量%である。
【0057】
(実施例2)
実施例1において、調製した配位体(Ni-TUF)5mgを用いて触媒A(Ni-TUF/CN-5mg)を調製する代わりに、調製した配位体(Ni-TUF)10mgを用いて触媒B(Ni-TUF/CN-10mg)を調製したこと以外は、実施例1と同様に、触媒の調製、(1)酸素還元反応(ORR)の触媒活性の評価、および(2)触媒の耐久性の評価を行った。結果を表1に示す。触媒B中において、Ni原子含有量は2.2質量%であり、縮合物(TUF)含有量は16.7質量%であり、多孔質炭素(クノーベル(登録商標))含有量は81.1質量%である。
【0058】
(実施例3)
実施例1において、調製した配位体(Ni-TUF)5mgを用いて触媒A(Ni-TUF/CN-5mg)を調製する代わりに、調製した配位体(Ni-TUF)30mgを用いて触媒C(Ni-TUF/CN-30mg)を調製したこと以外は、実施例1と同様に、触媒の調製、(1)酸素還元反応(ORR)の触媒活性の評価、および(2)触媒の耐久性の評価を行った。結果を表1に示す。触媒C中において、Ni原子含有量は4.9質量%であり、縮合物(TUF)含有量は37.5質量%であり、多孔質炭素(クノーベル(登録商標))含有量は57.6質量%である。
【0059】
(実施例4)
実施例1において、調製した配位体(Ni-TUF)5mgを用いて触媒A(Ni-TUF/CN-5mg)を調製する代わりに、調製した配位体(Ni-TUF)50mgを用いて触媒D(Ni-TUF/CN-50mg)を調製したこと以外は、実施例1と同様に、触媒の調製、(1)酸素還元反応(ORR)の触媒活性の評価、および(2)触媒の耐久性の評価を行った。結果を表1に示す。触媒D中において、Ni原子含有量は5.2質量%であり、縮合物(TUF)含有量は50.0質量%であり、多孔質炭素(クノーベル(登録商標))含有量は44.8質量%である。
【0060】
(比較例1)
実施例1において、触媒として触媒A(Ni-TUF/CN-5mg)を用いる代わりに、下記のように調製した触媒E(Pt/C)を用いたこと以外は、実施例1と同様に、(1)酸素還元反応(ORR)の触媒活性の評価を行った。結果を表1に示す。
<触媒E(Pt/C)の調製>
触媒Aと同様の手法で、触媒E(Pt/C)を調製した。
【0061】
(比較例2)
実施例1において、クノーベル(登録商標)(東洋炭素株式会社製、グレード:MH)50mgを用いて触媒A(Ni-TUF/CN-5mg)を調製する代わりに、カーボンブラック(キャボット社製、商品名:VULCAN(登録商標)XC72)10mgを用いて触媒F(Ni-TUF/CN-10mg)を調製したこと以外は、実施例1と同様に、触媒の調製および(1)酸素還元反応(ORR)の触媒活性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
表1に示す結果から、(A)Ni原子と(B)チオウレアとホルムアルデヒドとの縮合物と(C)多孔質炭素とを含む実施例1~4の触媒は、触媒E(Pt/C)と同等以上の酸化還元反応(ORR)の触媒活性を有することが分かる。
触媒の耐久性の評価の結果から、実施例2~4で作製した触媒は、耐久性が良好であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、水の電気分解用触媒や空気電池用電極触媒等として有用な、酸素還元反応(ORR)の触媒活性に優れた低コストの触媒を提供できる。また、本発明によれば、かかる触媒を含む電極、該電極を備える膜電極接合体、および、前記電極または前記膜電極接合体を備える充放電可能な空気電池を提供することができる。
なお、本発明の触媒は、空気亜鉛電池、水分解、燃料電池等に好適に用いられる。