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特許7527616磁気ドットアレイおよび磁気ドットアレイ計算素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】磁気ドットアレイおよび磁気ドットアレイ計算素子
(51)【国際特許分類】
   G06F 7/38 20060101AFI20240729BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20240729BHJP
   H10N 50/80 20230101ALI20240729BHJP
   G06G 7/14 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G06F7/38 630
H10N50/10 Z
H10N50/10 U
H10N50/80 Z
H10N50/10 A
G06G7/14
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020056115
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021157402
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、総務省「次世代人工知能技術の研究開発(課題II)」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 均
(72)【発明者】
【氏名】福島 章雄
(72)【発明者】
【氏名】薬師寺 啓
(72)【発明者】
【氏名】野崎 隆行
(72)【発明者】
【氏名】野崎 友大
(72)【発明者】
【氏名】常木 澄人
(72)【発明者】
【氏名】谷口 知大
(72)【発明者】
【氏名】田丸 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】杉原 敦
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-056094(JP,A)
【文献】特開2018-067913(JP,A)
【文献】特開2019-164870(JP,A)
【文献】特開2017-204833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 7/38
H10N 50/10
H10N 50/80
G06G 7/14
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を含み第1方向と交差する第1面に沿って2次元に配置されている複数の磁性部材と、
複数の前記磁性部材の相互間に配置された磁性体からなる磁性増強部と、
を備える、磁気ドットアレイ。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気ドットアレイにおいて、
前記磁性部材は磁気トンネル接合を有する、磁気ドットアレイ。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気ドットアレイにおいて、
前記磁気トンネル接合は、前記第1方向に沿って順に配置されている第1磁性体と、バリア層と、第2磁性体とにより形成されている、磁気ドットアレイ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の磁気ドットアレイにおいて、
前記磁性部材と前記磁性増強部とは、前記第1方向の異なる位置に配置されている、磁気ドットアレイ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の磁気ドットアレイにおいて、
前記磁性部材の、前記第1面内の第2方向の長さと、前記第1面内の方向であって前記第2方向と直交する第3方向の長さとが等しい、磁気ドットアレイ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の磁気ドットアレイにおいて、
前記磁性増強部の前記第1面の面内方向の形状は、複数の前記磁性部材のうちの前記磁性増強部の近傍の2つの磁性部材の中心を結ぶ結合方向の長さが、前記結合方向と直交する方向の長さよりも大きい、磁気ドットアレイ。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気ドットアレイにおいて、
前記磁性増強部の前記第1面の面内方向の形状は、複数の前記磁性部材のうちの前記磁性増強部の近傍の2つの磁性部材の中心を結ぶ方向に長軸を有する、楕円型形状である、磁気ドットアレイ。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の磁気ドットアレイにおいて、
前記磁性部材の前記第1面の面内方向の長さは10nm以上、かつ300nm以下であり、複数の前記磁性部材の前記第1面の面内方向の間隔は10nm以上、かつ300nm以下である、磁気ドットアレイ。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の磁気ドットアレイにおいて、
前記第1面の面内において、前記磁性部材と前記磁性増強部とは接しているか又は重なっており、
前記第1面の面内方向における、隣接する第1の前記磁性部材と第2の前記磁性部材の相互間に配置される前記磁性増強部の前記第1の磁性部材に面する側の前記第1の磁性部材に最も近い部分と前記第1の磁性部材の前記第2の磁性部材に面する側の前記第2の磁性部材に最も近い部分との間の距離は、0nm以上かつ50nm以下である、
磁気ドットアレイ。

【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の磁気ドットアレイにおいて、
前記磁性増強部の前記第1方向の厚さは、0.5nm以上、かつ10nm以下である、磁気ドットアレイ。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の磁気ドットアレイにおいて、
複数の前記磁性部材は、直方格子状に配置されている、磁気ドットアレイ。
【請求項12】
請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の磁気ドットアレイにおいて、
複数の前記磁性部材は、三角格子状に配置されている、磁気ドットアレイ。
【請求項13】
請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載の磁気ドットアレイにおいて、
複数の前記磁性部材の前記第1方向の一方の端部に電気的に接続されている第1配線と、
複数の前記磁性部材の前記第1方向の前記一方の端部とは異なる他方の端部に電気的に接続されている第2配線と、
を有する、磁気ドットアレイ。
【請求項14】
請求項13に記載の磁気ドットアレイにおいて、
前記磁性部材と前記第2配線との間に、前記磁性部材と前記第2配線との電気的接続を制御するスイッチング素子を有する、磁気ドットアレイ。
【請求項15】
請求項13または請求項14に記載の磁気ドットアレイと、
前記第1配線および前記第2配線を介して、
複数の前記磁性部材の少なくなくとも1つに入力信号を書込み、
複数の前記磁性部材の少なくなくとも1つに所定の電圧を印加し、
複数の前記磁性部材の少なくなくとも1つから出力信号を読み出す、制御部と、
を備える、磁気ドットアレイ計算素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ドットアレイおよび磁気ドットアレイ計算素子に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ドットアレイを計算素子として使用することが提案されている(非特許文献1)。近接して配置された複数の磁気ドット間に生じる磁気相互作用(静磁気結合)に着目して、磁気ドットアレイをリザーバー計算用の計算素子として用いることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】Hikaru Nomura、他9名、「Reservoir computing with dipole-coupled nanomagnets」、Japanese Journal of Applied Physics、日本国、公益社団法人応用物理学会、令和1年6月11日、第58巻、第7号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気ドットアレイに含まれる複数の磁気ドットの間で所望の磁気的な相互作用を発生させるためには、複数の磁気ドットを十分に近接させて配置する必要がある。しかしながら、相互の間隔を十分に小さくして複数の磁気ドットを配置することは、微細加工技術上の観点から困難である。このため、従来は、複数の磁気ドットの間に十分な磁気的な相互作用を生じさせることは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様によると、磁気ドットアレイは、磁性体を含み第1方向と交差する第1面に沿って2次元に配置されている複数の磁性部材と、複数の前記磁性部材の相互間に配置された磁性体からなる磁性増強部と、を備える。
第2の態様によると、磁気ドットアレイは、第1の態様の磁気ドットアレイにおいて、複数の前記磁性部材の前記第1方向の一方の端部に電気的に接続されている第1配線と、 複数の前記磁性部材の前記第1方向の前記一方の端部とは異なる他方の端部に電気的に接続されている第2配線と、を有する。
第3の態様によると、磁気ドットアレイ計算素子は、第2の態様の磁気ドットアレイと、前記第1配線および前記第2配線を介して、複数の前記磁性部材の少なくなくとも1つに入力信号を書込み、複数の前記磁性部材の少なくなくとも1つに所定の電圧を印加し、複数の前記磁性部材の少なくなくとも1つから出力信号を読み出す、制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
磁気ドットアレイに含まれる複数の磁気ドット(磁性部材)の間の静磁気結合を増強させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態の磁気ドットアレイの概要を示す図。図1(a)は、磁気ドットアレイの斜視図を示す図。図1(b)および図1(c)は、磁気ドットアレイの断面図を示す図。
図2図2(a)は、磁気ドットアレイに含まれる2つの磁性部材および1つの磁性増強部の断面図を示す図。図2(b)は、磁気ドットアレイに含まれる1つの磁性増強部の上面図を示す図。
図3】変形例の磁気ドットアレイの概要を示す図。図3(a)は、変形例の磁気ドットアレイの上面図を示す図。図3(b)は、変形例の磁気ドットアレイの断面図を示す図。
図4】第2実施形態の磁気ドットアレイ計算素子の概要を示す図。
図5】磁気ドットアレイ計算素子において、制御部が第1配線に印加する電圧の時間変化の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、「磁性体」とは、磁場が0の状態での比透磁率が5以上のものをいい、強磁性体(フェロ磁性体)およびフェリ磁性体を含む。
以下で参照する各図に矢印で示したX方向、Y方向およびZ方向はそれぞれ直交する方向であるとともに、X方向、Y方向およびZ方向のそれぞれは各図において同一の方向を示している。
以下では、各矢印の示す方向を、それぞれ+X方向、+Y方向および+Z方向と呼ぶ。また、X方向の位置をX位置、Y方向の位置をY位置、Z方向の位置をZ位置と呼ぶ。
【0009】
(第1実施形態の磁気ドットアレイ)
以下、図1および図2を参照して、第1実施形態の磁気ドットアレイ1について説明する。
図1は、第1実施形態の磁気ドットアレイ1の概要を示す図であり、図1(a)は、磁気ドットアレイ1の斜視図を示す図である。磁気ドットアレイ1は、磁性体を含む磁気ドット素子としての磁性部材10を複数有している。
【0010】
複数の磁性部材10は、第1方向としてのZ方向に直交する第1面としてのXY面内に、X方向とY方向に沿って2次元に配置されている。
すなわち、第1実施形態の磁気ドットアレイ1においては、複数の磁性部材10が、X方向とY方向に沿って直方格子状に配置されている。
【0011】
複数の磁性部材10の相互間、すなわち複数の磁性部材10のうち隣接して配置される2つの磁性部材10の間には、磁性体からなる磁性増強部20が配置されている。以下では、X方向に隣接する2つの磁性部材10の間に配置されている磁性増強部20をX方向磁性増強部20bとも呼び、Y方向に隣接する2つの磁性部材10の間に配置されている磁性増強部20をY方向磁性増強部20aとも呼ぶ。
【0012】
図1(b)は、図1(a)に示した1つの磁性部材10のX方向の中心を通るYZ面を-X方向から見た磁気ドットアレイ1のYZ断面図を示す。同様に、図1(c)は、図1(a)に示した1つの磁性部材10のY方向の中心を通るXZ面を-Y方向から見た磁気ドットアレイ1のXZ断面図を示す。
【0013】
複数の磁性部材10の+Z側には、X方向に延びる第1配線30がY方向に周期的に複数形成されており、複数の磁性部材10の+Z側の端部はそれぞれ第1接続部16を介して、複数の第1配線30のいずれかと電気的に接続されている。
【0014】
複数の磁性部材10は、シリコンウエハ等の基板35の+Z側に形成されている。基板35の表面の、複数の磁性部材10の-Z側の概ね直下に相当する位置には、アクティブエリア33がそれぞれ形成されている。それぞれのアクティブエリア33のX方向の概ね中央部の+Z側には、不図示の酸化膜を挟んで、Y方向に延びる制御線32が形成されている。制御線32のうちのアクティブエリア33上(+Z側)の部分、アクティブエリア33、およびそれらの間の不図示の酸化膜は、スイッチング素子としてのMOSトランジスタ34を形成している。
【0015】
複数の磁性部材10の-Z側の端部と基板35との間には、X方向に延びる第2配線31がY方向に周期的に複数形成されている。任意の1つの第2配線31は、X方向に沿って配置されている複数のアクティブエリア33の、それぞれの制御線32よりも+X側であるドレインに電気的に接続されている。
それぞれのアクティブエリア33の、それぞれの制御線32よりも-X側であるソースは、それぞれ第2接続部17を介して、それぞれの磁性部材10の-Z側と電気的に接続されている。
【0016】
基板35の上(+Z側)には、SiO2等の非磁性体の絶縁材料から成る絶縁膜36が形成されている。磁性部材10、磁性増強部20、第1接続部16、第2接続部17、第1配線30、第2配線31、および制御線32は、いずれも絶縁膜36により覆われている。
なお、図1(a)においては、図面の複雑化を避けるために、基板35、絶縁膜36、第1接続部16、第2接続部17、第1配線30、第2配線31、およびアクティブエリア33の表示を省略している。
【0017】
X方向に配置される磁性部材10の数、および第2配線31の数は、図1(a)および図1(c)に示した4個に限られるわけではなく、任意の個数で良い。
Y方向に配置される磁性部材10の数、および第1配線30の数も、図1(a)および図1(b)に示した4個に限られるわけではなく、任意の個数で良い。
【0018】
後述するように、磁性部材10の構成は、例えば一般的な磁気トンネル接合を有する電流書込み型、または電圧書込み型のMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)に含まれる磁気記憶素子の構成と同様で良い。従って、第1実施形態の磁気ドットアレイ1の構成は、磁性増強部20を備える点を除いては、磁気トンネル接合を有する電流書込み型、または電圧書込み型のMRAMに含まれる磁気ドットアレイと概ね同様である。
【0019】
図2(a)は、磁気ドットアレイ1に含まれる、X方向に隣接する2つの磁性部材10、および、それらの間に配置される1つのX方向磁性増強部20bのXZ断面を示す図である。磁性部材10は、一例として、磁気トンネル接合を有する磁性部材であり、-Z側の端部から+Z方向に向かって順に、下部電極11、第1磁性体12、バリア層13、第2磁性体14、および上部電極15が形成されている。このうちの、第1磁性体12、バリア層13、および第2磁性体14が、磁気トンネル接合を形成している。
【0020】
上述したように、磁性部材10の構成は、MRAMに含まれる磁気記憶素子の構成と同様で良い。すなわち、下部電極11および上部電極15は、電気抵抗が低く、拡散耐性に優れた材料、例えばタンタル(Ta)、チタン(Ti)、窒化タンタル(TaN)、窒化チタン(TiN)、あるいは、これらの積層膜などの1つにより構成される。
【0021】
第1磁性体12は、一例として、Z方向への垂直磁気異方性を有する磁化体を形成するために、Pt(プラチナ)、およびCo(コバルト)を主成分とする膜により構成されている。第1磁性体12の磁化の向きは、+Z方向または-Z方向に固定されている。
なお、第1磁性体12は、他の例として、Tb(テルビウム)、およびFe(鉄)を主成分とする膜により構成されていても良い。
バリア層13は、一例として、マグネシウム(Mg)の酸化物(例えば、MgO)を主成分とする酸化物膜である。
【0022】
第2磁性体14は、磁化の向きが可変に設定されている。第2磁性体14は、一例として、Co、Fe及びB(ホウ素)のうち少なくとも1つを含む磁性体により形成されている。第2磁性体14は、Ir(イリジウム)を含んでいても良い。第2磁性体14の磁化の向きは、下部電極11と上部電極15との間に電流を流すことにより、あるいは下部電極11と上部電極15との間に電圧を印加することにより、+Z方向または-Z方向に設定することができる。
【0023】
また、第2磁性体14は、Z方向への垂直磁気異方性を有するとともに、下部電極11と上部電極15との間に所定の電圧を印加することにより、Z方向への垂直磁気異方性を失うように構成されていても良い。
なお、磁性部材10のそれぞれの部分(下部電極11、第1磁性体12、バリア層13、第2磁性体14、および上部電極15)を構成する物質は、上記の物質に限られるわけではなく、他の物質を用いても良い。
【0024】
磁性部材10の+Z方向に形成されている第1接続部16は、上部電極15と同じ材料により、一体的に形成されていても良い。
磁性部材10の-Z方向に形成されている第2接続部17は、下部電極11と同じ材料により、一体的に形成されていても良い。
【0025】
複数の磁性部材10のX方向およびY方向の長さ(幅)Wは、一例として10nm以上、かつ300nm以下であり、複数の磁性部材10のX方向およびY方向の間隔Sも、一例として10nm以上、かつ300nm以下である。
第1接続部16のX方向およびY方向の長さ(幅)Rは、一例として5nm以上、かつ100nm以下である。
【0026】
X方向磁性増強部20bは、Fe、Co、Ni等の強磁性体、またはフェライト等のフェリ磁性体を含む磁性体から成り、そのXY面内における中心位置が、X方向に隣接する2つの磁性部材10の中心位置に一致するように配置されている。この構成により、X方向に隣接して配置される2つの磁性部材10の間の静磁気結合を増強させることができる。
【0027】
X方向磁性増強部20bの位置は、Z方向については磁性部材10とは異なる位置に配置されている。図2(a)に示した例では、X方向磁性増強部20bは、磁性部材10に対して第2磁性体14の側である+Z方向にずれた位置に配置されている。
【0028】
磁性体から成るX方向磁性増強部20bを上記の位置に配置することにより、磁性部材10の+Z方向の端部における磁場を、X方向磁性増強部20bを介して、X方向に隣接する磁性部材10の+Z方向の端部に、効率良く伝達することができる。すなわち、X方向に隣接して配置される2つの磁性部材10の間の静磁気結合を一層増強させることができる。
磁性部材10の+Z側の端部である上部電極15とX方向磁性増強部20bとの間の間隔Dは、一例として10nm以上である。また、X方向磁性増強部20bのZ方向の厚さは、一例として0.5nm以上、かつ10nm以下である。
【0029】
X方向磁性増強部20bのX方向の長さLXは、一例として、複数の磁性部材10のX方向の間隔Sに対して、S±100[nm]の範囲にある。従って、X方向磁性増強部20bの±X方向の端部と磁性部材10の±X方向の縁部との距離Qは、一例として0nm以上、かつ50nm以下となる。
【0030】
すなわち、X方向磁性増強部20bの±X方向の端部と磁性部材10の±X方向の縁部とは、+Z方向の遠方から見た上面視の状態で、0nmから50nmの範囲でX方向にオーバーラップしていても良く、あるいは上記の範囲でX方向に離れていても良い。
X方向磁性増強部20bの±X方向の端部と磁性部材10の±X方向の縁部がX方向にオーバーラップする場合には、機械的な干渉を避けるために、第1接続部16の幅Rを、磁性部材10の幅Wよりも小さくする。
【0031】
X方向磁性増強部20bの長さ等の大きさ、および位置を上記の数値範囲とすることにより、X方向に隣接して配置される2つの磁性部材10の間の静磁気結合をさらに増強させることができる。
なお、十分な静磁気結合が得られる場合には、X方向磁性増強部20bのZ位置を、磁性部材10のZ位置と同じ位置、すなわち、磁性部材10のZ方向の長さの範囲と重なる位置に配置しても良い。
【0032】
図2(b)は、X方向磁性増強部20bを+Z方向から見た上面図を示している。X方向磁性増強部20bのXY面内の形状は、図2(b)に破線で示したX方向に長い長方形21であっても良く、斜線を付して示した楕円型形状22であっても良い。楕円型形状22は、必ずしも数学的な意味での楕円形と完全に一致する必要はない。楕円型形状22は、長方形21の4つの頂点および4つの辺の各頂点の近傍部分が内側に移動したものであり、楕円形またはレーストラック型に近い形状である。X方向磁性増強部20bにおいては、楕円型形状22の長軸は、X方向磁性増強部20bのX方向の近傍に配置されている2つの磁性部材10の中心を結ぶ方向であるX方向と一致している。
【0033】
X方向磁性増強部20bのY方向の長さLYは、一例として、磁性部材10のX方向またはY方向の幅Wと同程度である。磁気ドットアレイ1の内部に、X方向磁性増強部20bおよびY方向磁性増強部20aを相互に重なることなく配置するために、X方向磁性増強部20bのY方向の長さLYを、X方向の長さLXよりも短くすると良い。換言すれば、X方向磁性増強部20bのX方向の近傍に配置されている2つの磁性部材10の中心を結ぶ方向、すなわち磁気的な結合を行う結合方向(X方向)におけるX方向磁性増強部20bの長さを、結合方向と直交するY方向の長さよりも大きくすると良い。
【0034】
なお、X方向磁性増強部20bのXY面内の形状を上述した楕円型形状22とすることにより、X方向磁性増強部20bの内部を、いわゆる単磁区とし易く、2つの磁性部材10の間の静磁気結合をより一層増強させることができる。
【0035】
以上、X方向磁性増強部20bの材質、長さ等の形状、および位置について説明したが、Y方向磁性増強部20aについても、その材質およびZ方向の位置は同様であり、形状についてはX方向磁性増強部20bをXY面内で90°回転させたものと同様である。Y方向磁性増強部20aが楕円型形状22である場合には、その長軸は、Y方向磁性増強部20aのY方向の近傍に配置されている2つの磁性部材10の中心を結ぶ方向であるY方向と一致している。
【0036】
磁性部材10のそれぞれの部分、第1配線30、第2配線31、制御線32、アクティブエリア33、および絶縁膜36は、MRAMにおけるそれらの同等の構成と同様に、スパッタ法およびリソグラフィ法により形成することができる。
また、第1接続部16および磁性増強部20についても、同様にスパッタ法およびリソグラフィ法により形成することができる。
【0037】
なお、磁性部材10のXY面内の形状は、正方形、長方形、円形、楕円形のいずれであっても良い。また、正方形の四隅の角が丸まった、正方形と円形との間の形状であっても良く、長方形の四隅の角が丸まった、長方形と楕円形との間の形状であっても良い。
【0038】
なお、リソグラフィ法においては、一般的に2つの構造物(磁性部材10等)の間隔Sを微細化することは難しい。間隔Sを一定の値(例えば10nm)以上とした場合、磁性部材10のX方向の長さとY方向の長さとを等しくすることで、XY面内の一定の面積の中に、所定の断面積を有する磁性部材10を、より密に配置することができる。
ここで、X方向は第1面であるXY面内の第2方向ということができ、Y方向はXY面(第1面)内の方向であって第2方向(X方向)と直交する方向ということができる。
【0039】
(変形例の磁気ドットアレイ)
以下、図3を参照して、変形例の磁気ドットアレイ1aについて説明する。なお、変形例の磁気ドットアレイ1aは多くの部分が、上述した第1実施形態の磁気ドットアレイ1と共通する。従って、以下では、第1実施形態の磁気ドットアレイ1との相違点について主に説明し、共通の構成については、同一の符号を付して、説明を適宜省略する。
【0040】
図3(a)は、変形例の磁気ドットアレイ1aを+Z方向から見た上面図である。図3(a)においても、図1(a)と同様に、図面の複雑化を避けるために、基板35、絶縁膜36、第1接続部16、第2接続部17、およびアクティブエリア33の表示を省略している。また、第1配線30についてはその輪郭のみを破線の枠で示している。
【0041】
変形例の磁気ドットアレイ1aにおいては、複数の磁性部材10は、XY面内で三角格子状に配置されている。複数の磁性部材10が配置される方向のうちの1つは、一例としてX方向と一致している。1つの磁性部材10の周囲には、6個の磁性部材10が隣接して配置されている。1つの磁性部材10に対して隣接して配置される6個の磁性部材10の方位角は、+X方向を基準として左周りに、0°、60°、120°、180°、240°、300°である。
変形例の磁気ドットアレイ1aにおいては、上述のそれぞれの方位角の方向に隣接する2つの磁性部材10の間に、それぞれ磁性増強部20が配置されている。
【0042】
図3(b)は、図3(a)に示した切断線AAにおけるXZ断面を-Y方向から見た断面図である。変形例の磁気ドットアレイ1aのXZ断面は、上述した第1実施形態の磁気ドットアレイ1のXZ断面とほぼ同様の構成である。ただし、Y方向に延びる制御線32は、磁性部材10のX方向の配置の周期の半分の周期でX方向に複数配置されている。
【0043】
変形例の磁気ドットアレイ1aにおいては、1つの磁性部材10に対して6個の磁性部材10が隣接して配置されているとともに、隣接する2つの磁性部材10の間にそれぞれ磁性増強部20が配置されている。これにより、複数の磁性部材10の間の静磁気結合を増強させることができる。
【0044】
なお、以上においては、複数の磁性部材10が直方格子状または三角格子状に配置されている磁気ドットアレイ1、1aについて説明したが、複数の磁性部材10の配置の形状は、他の形状であっても良い。例えば、正六角形を隙間なく並べた、いわゆるハニカム構造の各頂点の位置に磁性部材10を配置し、それに含まれる正六角形の各辺に沿って磁性増強部20を配置しても良い。
【0045】
なお、以上においては、複数の磁性部材10のそれぞれの-Z側には、スイッチング素子としてのMOSトランジスタ34が配置されているものとしたが、磁気ドットアレイ1、1aの用途によっては、MOSトランジスタ34を有していなくても良い。この場合には、制御線32についても、有していなくても良い。
また、磁気ドットアレイ1、1aの用途によっては、第1配線30および第2配線31の一方、または両方を有していなくても良い。
【0046】
(第1実施形態および変形例の磁気ドットアレイの効果)
(1)以上の第1実施形態および変形例の磁気ドットアレイ1、1aは、磁性体(12、14)を含み第1方向(Z方向)と交差する第1面(XY面)に沿って2次元に配置されている複数の磁性部材10と、複数の磁性部材10の相互間に配置された磁性体からなる磁性増強部20と、を備えている。
この構成により、磁気ドットアレイ1、1aに含まれる複数の磁性部材10の間の静磁気結合を増強させることができる。
また、磁性増強部20により磁性部材10の間の静磁気結合が増強されるため、磁性部材10の配置の間隔を広げることができ、すなわち磁性部材10の微細度を緩めることができる。これにより、磁気ドットアレイ1、1aを製造する際の歩留まりを向上させることができる。
【0047】
(2)磁性部材10と磁性増強部20とを、Z方向(第1方向)の異なる位置に配置しても良い。この場合には、1つの磁性部材10の+Z方向の端部における磁場を、磁性増強部20を介して、隣接する磁性部材10の+Z方向の端部に、効率良く伝達することができる。すなわち、隣接して配置される2つの磁性部材10の間の静磁気結合を一層増強させることができる。
【0048】
(第2実施形態の磁気ドットアレイ計算素子)
以下、図4を用いて、第2実施形態の磁気ドットアレイ計算素子50について説明する。なお、磁気ドットアレイ計算素子50に含まれる構成のうち、上述した磁気ドットアレイ1にも含まれるものについては、同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0049】
図4は、磁気ドットアレイ計算素子50の構成の概略を示す上面図である。磁気ドットアレイ計算素子50は、一例として図4に一点鎖線で囲って示した、上述した第1実施形態の磁気ドットアレイ1を含んでいる。なお、磁気ドットアレイ計算素子50に含まれる磁性部材10のX方向およびY方向の配列数は、図4に示した数に限定されるわけではなく、任意の個数で良い。
【0050】
なお、図4においても上述した図3(a)と同様に、図面の複雑化を避けるために、基板35、絶縁膜36、第1接続部16、第2接続部17、およびアクティブエリア33の表示を省略している。また、第1配線30a~30jについてはその輪郭のみを破線の枠で示している。
【0051】
磁気ドットアレイ1の-Y側には、磁気ドットアレイ1に含まれる制御線32a~32hに制御信号を供給する、列制御部41が配置されている。
磁気ドットアレイ1の-X側には、磁気ドットアレイ1に含まれる第1配線30a~30jおよび第2配線31a~31jに所定の電気信号(電圧)を供給する、行制御部42が配置されている。
列制御部41および行制御部42を、合わせてまたは個々に、制御部40とも呼ぶ。
【0052】
行制御部42から第1配線30a~30jのそれぞれに供給された電圧は、第1接続部16を介してそれぞれの磁性部材10の+Z側の端部の図2(a)に示した上部電極15に印加される。行制御部42から第2配線31a~31jに供給された電圧は、図1(b)および図1(c)に示したMOSトランジスタ34の上述のドレインに印加される。
【0053】
列制御部41は、それぞれの制御線32a~32hに所定の制御電圧を印加して、それぞれに対応するMOSトランジスタ34の導通/非導通を制御する。MOSトランジスタ34が導通されれば、行制御部42から第2配線31a~31jに供給された電圧は、MOSトランジスタ34の上述のソースから第2接続部17を介して、それぞれの磁性部材10の-Z側の端部の下部電極11に印加される。
【0054】
これにより、磁気ドットアレイ計算素子50は、任意の磁性部材10の下部電極11と上部電極15との間に、所定の電圧(電位差)を印加することができる。
また、行制御部42は、それぞれ対になる第1配線30a~30jと第2配線31a~31jとの間の電気抵抗に相当する量も検出する。
このような列制御部41および行制御部42の構成についても、MRAMにおいてこれらに対応する部材の構成と共通しているので、詳細な説明は省略する。
【0055】
以下では、磁気ドットアレイ1に含まれる複数の磁性部材10をそれらのY方向の位置に従って3つのグループに分け、それぞれを第1グループ10G1、第2グループ10G2、および第3グループ10G3と呼ぶ。
【0056】
第1グループ10G1は、複数の磁性部材10のうち、-Y側の端部から数えて(3m+1)番目(mは0以上の整数)の行に配置されている磁性部材10を含む。
第2グループ10G2は、複数の磁性部材10のうち、-Y側の端部から数えて(3m+2)番目の行に配置されている磁性部材10を含む。
第3グループ10G3は、複数の磁性部材10のうち、-Y側の端部から数えて3m番目の行に配置されている磁性部材10を含む。
【0057】
行制御部42から延びる第1配線30a~30jのうち、第1配線30a、30d、30g、30jは、第1グループ10G1の磁性部材10に接続されている。第1配線30b、30e、30hは、第2グループ10G2の磁性部材10に接続されており、第1配線30c、30f、30iは、第3グループ10G3の磁性部材10に接続されている。
【0058】
続いて、磁気ドットアレイ計算素子50の計算動作の一例について、図4および図5を参照して説明する。なお、以下で説明する磁気ドットアレイ計算素子50の計算動作は、上述した非特許文献1に開示されている計算素子の計算動作と概ね同様である。
【0059】
図5は、磁気ドットアレイ計算素子50において、行制御部42が第1配線30a~30jのそれぞれに印加する電圧(V)の時間(T)に伴う変化の一例を示す図である。
図5(a)は、第1グループ10G1の磁性部材10に接続される第1配線30a、30d、30g、30jに印加される電圧である電圧信号Vaの時間変化を示している。
【0060】
図5(b)は、第2グループ10G2の磁性部材10に接続される第1配線30b、30e、30hに印加される電圧である電圧信号Vbの時間変化を示している。
図5(c)は、第3グループ10G3の磁性部材10に接続される第1配線30c、30f、30iに印加される電圧である電圧信号Vcの時間変化を示している。
【0061】
初めに、時刻T11においては、電圧信号Va~Vcは、いずれも例えば0V程度の所定の電圧V0であり、全ての磁性部材10の上部電極15と下部電極との間には、電圧V0が印加される。この状態では、全ての磁性部材10は、Z方向に磁気異方性を有する状態に保たれている。
【0062】
この状態で、制御部40は、第1配線30aおよび第2配線31aを介して、複数の磁性部材10のうち、一例として-Y方向の端部に配置されている磁性部材10のうちの少なくとも1つに入力信号を入力する。入力信号は、第1配線30aおよび第2配線31aに印加する電圧の変化、または第1配線30aおよび第2配線31aを経て磁性部材10に流す電流の変化等によって磁性部材10に入力される。
【0063】
上述の信号の入力に際しては、列制御部41は、制御線32a~32hのうち、信号を入力すべき磁性部材10に対応する制御線に、MOSトランジスタ34を導通させる電圧を順次印加する。同時に、列制御部41は、他の磁性部材10に対応する制御線には、MOSトランジスタ34を非導通とする電圧を印加する。
【0064】
これにより、入力信号が入力された磁性部材10の中の第2磁性体14の磁化の向きが、入力された入力信号に応じて+Z方向または-Z方向に制御される。磁化の向きの+Z方向はデジタル信号の1に相当し、磁化の向きの-Z方向はデジタル信号の0に相当する。
なお、上記の入力信号により第2磁性体14の磁化の向きを制御する技術は、例えば電圧書込み型のMRAMにおいて磁気記憶素子中の磁化の向きの制御する技術と同様である。
以下では、磁性部材10の中の第2磁性体14の磁化の向きのことを、単に、磁性部材10の磁化の向きとも呼ぶ。
【0065】
次に、時刻T12においては、電圧信号Vb、Vcの電圧を、例えば1V等の所定の電圧V1に設定する。これにより、第2グループ10G2、および第3グループ10G3に含まれる磁性部材10に印加されるは電圧V1に変化する。これにより、第2グループ10G2および第3グループ10G3に含まれる磁性部材10においては、第2磁性体14におけるZ方向の磁気異方性が失われる。その結果、それらの第2磁性体14の磁化の方向は、磁性増強部20を介して、隣接して配置されている他の磁性部材10から伝達される磁場により決定されることになる。
【0066】
例えば、第2グループ10G2のうち、第1配線30aに接続されている磁性部材10の場合、Y方向磁性増強部20aを介して-Y方向に隣接して配置されている第1グループ10G1の1つの磁性部材10の磁場の影響を受ける。しかし、同時に、Y方向磁性増強部20aを介して+Y方向に隣接して配置されている第3グループ10G3の1つの磁性部材10、およびそのさらに+Y方向にある第3グループ10G3の1つの磁性部材10による磁場の影響も受ける。さらに、X方向磁性増強部20bを介して±X方向に隣接して配置されている第2グループ10G2の2つの磁性部材10、およびそれに隣接する磁性部材10による磁場の影響も受ける。
【0067】
従って、時刻T12においては、第2グループ10G2に含まれる1つの磁性部材10の磁化の向きは、-Y方向に隣接する第1グループ10G1に含まれる磁性部材10の磁化の向きの影響を強く受けるものの、隣接する他の磁性部材10の磁化の向きの影響も受けて決定される。
【0068】
時刻T13においては、電圧信号Vbの電圧が電圧V0に戻る。これにより、第2グループ10G2に含まれる磁性部材10の第2磁性体14におけるZ方向の磁気異方性が復活する。従って、時刻T12において周囲の磁性部材10の磁化の向きの影響を受けて決定された第2グループ10G2に含まれる磁性部材10の磁化の向き(Z方向に対する偏角)が、その状態で固定される。
【0069】
時刻T13において、第2グループ10G2に含まれる磁性部材10の固定された磁化の向きは、-Y方向に隣接している第1グループ10G1に含まれる磁性部材10の磁化の向きとの相関性が高い。すなわち、時刻T11において第1グループ10G1の磁性部材10に記憶されていたデジタル信号(1か0)は、時刻T13においては+Y方向に隣接する第2グループ10G2に含まれる磁性部材10に、そのまま転送される場合もある。
【0070】
しかし、他の方向に隣接する磁性部材10の磁化の影響により、信号がそのままは転送されずに、磁化の向き(Z方向に対する偏角)が変化して転送される場合もある。
第2実施形態の磁気ドットアレイ計算素子50では、上述した非特許文献1に記載される計算素子と同様に、上述のような磁場の非線形な加算現象を利用して、計算を行うものである。
【0071】
続く、時刻T14から時刻T15にかけて、行制御部42は電圧信号Va~Vcを制御して、第2グループ10G2に含まれる磁性部材10に含まれる信号を、その+Y側に隣接する第3グループ10G3に含まれる磁性部材10に転送する。具体的には、時刻T14において電圧信号Vaの電圧をV1とし、時刻T15において電圧信号Vcの電圧をV0とする。
【0072】
この場合にも、上述の第1グループ10G1の磁性部材10から第2グループ10G2の磁性部材10への転送と同様に、信号は第1グループ10G1の磁性部材10から第2グループ10G2の磁性部材10に概ね転送されるものの、磁化の向き(Z方向からの偏角)が変化して転送される場合もある。
【0073】
続く、時刻T16から時刻T17にかけて、行制御部42は電圧信号Va~Vcを制御して、第3グループ10G3に含まれる磁性部材10に含まれる信号を、その+Y側に隣接する第1グループ10G1に含まれる磁性部材10に転送する。具体的には、時刻T16において電圧信号Vbの電圧をV1とし、時刻T17において電圧信号Vaの電圧をV0とする。
【0074】
この場合にも、上述の第1グループ10G1の磁性部材10から第2グループ10G2の磁性部材10への転送と同様に、信号は第3グループ10G3の磁性部材10から第1グループ10G1の磁性部材10に概ね転送されるものの、磁化の向き(Z方向からの偏角)が変化して転送される場合もある。
【0075】
時刻T17においては、行制御部42が、複数の磁性部材10のそれぞれに記憶されている信号(磁性部材10の中の第2磁性体14の磁化の向き)を、第1配線30a~30jおよび第2配線31a~31jを介して読み出す。
信号の読出しにおいて、初めに列制御部41は、制御線32a~32hのうち、信号を読み出すべき列に配置されている磁性部材10に対応する制御線(例えば制御線32d)に、図1(b)および図1(c)に示したMOSトランジスタ34を導通させる電圧を印加する。そして、信号を読み出すべき列以外の列に対応する制御線には、MOSトランジスタ34を非導通とさせる電圧を印加する。
【0076】
続いて、列制御部41は、対になる第1配線30a~30jおよび第2配線31a~31jのそれぞれに所定の電圧を印加するとともに、それぞれの対の間に流れる電流値を計測する。これにより、1つの制御線(例えば制御線32d)に接続されている磁性部材10のそれぞれの電気抵抗に相当する量が計測できる。
【0077】
第1磁性体12と第2磁性体14の磁化の向きが平行、すなわち、第2磁性体14の磁化の向きが+Z方向を向いていれば、磁性部材10の電気抵抗は最小となる。一方、第2磁性体14の磁化の向きが-Z方向を向いていれば、磁性部材10の電気抵抗は最大となる。第2磁性体14の磁化の向き(+Z方向からの偏角)が上記の中間である場合には、その偏角に応じて磁性部材10の電気抵抗は単調に増加する。
【0078】
従って、磁性部材10の電気抵抗を計測することにより、それぞれの磁性部材10に記憶されている、磁化の向きの+Z方向からの偏角に対応する信号を読み出すことができる。読み出された信号は、2値(1と0)ではなく、アナログ量(連続量)または2値より多い多値を持つ量となる。
なお、読み出された信号の処理については、後述する。
【0079】
続く、時刻T21においては、行制御部42は電圧信号Va~Vcをすべて電圧V0に制御する。この状態は、最初の時刻T11の状態と同じである。この状態で、制御部40は、上述の時刻T11での処理と同様に、第1配線30aおよび第2配線31aを介して、複数の磁性部材10のうち-Y方向の端部に配置されている磁性部材10のうちの少なくとも1つに次の入力信号を入力する。
【0080】
時刻T21から時刻T27までの間における電圧信号Va~Vcの変化は、時刻T11から時刻T17までの間における電圧信号Va~Vcの変化と同じである。このような電圧信号Va~Vcの変化により、時刻T11において-Y方向の端部の磁性部材10に入力された信号は、時刻T27においては+Y方向の端部の磁性部材10にまで伝達される。
【0081】
時刻T27においては、時刻T17における処理と同様に、行制御部42が、複数の磁性部材10のそれぞれに記憶されている信号を、第1配線30a~30jおよび第2配線31a~31jを介して読み出す。
以下では、時刻T11からT17まで、または時刻T21からT27までに行われる一連の処理を1ステップと呼ぶ。
【0082】
図4に示してはいないが、時刻T27より後にも、時刻T21から時刻T27までの間における変化と同様の変化を電圧信号Va~Vcに与えるとともに、-Y方向の端部に配置されている磁性部材10にさらに次の入力信号を入力しても良い。そして、所定のタイミングで、複数の磁性部材10のそれぞれに記憶されている信号を、第1配線30a~30jおよび第2配線31a~31jを介して読み出しても良い。
【0083】
すなわち、磁気ドットアレイ計算素子50における上述の計算動作は、上述の時刻T11からT17までの第1ステップ、および時刻T21からT27までの第2ステップに限られるものではなく、その後、同様の第2ステップ、第4ステップと次々に継続されても良い。
【0084】
続いて、第1ステップ、第2ステップ等の各ステップにおいて磁性部材10から読み出された信号から、計算結果を算出する方法の一例について説明する。なお、以下で説明する方法は、非特許文献1に示されている方法と、概ね同様である。
【0085】
第kステップにおいて、複数の磁性部材10のそれぞれから読み出された信号を、μn(k)とする。ここで添え字のnは、複数の磁性部材10に付けた一連の識別番号である。従って、第kステップの1ステップの読出しにおいて、信号U(k)=(μ1(k),μ2(k),μ3(k),・・・,μN(k))のN個(Nは信号を読み出す磁性部材10の総数)の信号が得られる。信号U(k)を行ベクトルと解釈することもできる。
【0086】
これに対し、重み行列M(M=(M1,M2,M3,・・・,MN))を用意し、重み行列Mと信号Uの内積を求めることにより、出力(計算結果)O(k)を算出する。重み行列Mは、例えば、リザーバーコンピューティングで通常行われているように、トレーニングにより、所望の処理に応じての最適化を行うと良い。
【0087】
磁気ドットアレイ計算素子50においては、信号は、-Y方向の端部の磁性部材10から順次入力され、+Y方向に順次転送される。例えば、入力される信号が時間的に変動する信号であるとき、より+Y側に配置されている磁性部材10の中に記憶されている信号は、より-Y側に配置されている磁性部材10の中に記憶されている信号よりも過去の信号に相当する。
従って、磁気ドットアレイ計算素子50においては、磁性増強部20により、ある時点での信号に対し、それよりも過去、あるいはそれよりも未来の信号による影響を非線形に加算することができる。
【0088】
また、-Y方向の端部に配置された複数の磁性部材10の中の複数に対して、同時にそれぞれ信号を入力することにより、これらの信号を非線形に加算することもできる。磁性部材10の全てに信号を入力しても良く、例えば複数の磁性部材10の中のX方向のp個おきに(pは自然数)信号を入力しても良い。
なお、信号の読出しについても、必ずしも複数の磁性部材10の全てから信号を読み出す必要はなく、少なくとも1つの磁性部材10から信号を読み出せばよい。
【0089】
なお、上記においては、磁気ドットアレイ計算素子50は第1実施形態の磁気ドットアレイ1を含むものとした。しかし、これに限らず、変形例の磁気ドットアレイ1aを含むものであっても良く、上述したハニカム構造の各頂点に磁性部材10が配置された磁気ドットアレイを含むものであっても良い。
【0090】
(第2実施形態の磁気ドットアレイ計算素子の効果)
(3)第2実施形態の磁気ドットアレイ計算素子50は、上述の第1実施形態および各変形例の磁気ドットアレイ1、1aと、第1配線30および第2配線31を介して、複数の磁性部材10の少なくなくとも1つに入力信号を書込み、複数の磁性部材10の少なくなくとも1つに所定の電圧を印加し、複数の磁性部材10の少なくなくとも1つから出力信号を読み出す、制御部40と、を備えている。
この構成により、磁気ドットアレイ計算素子50は、複数の磁性部材10の間の静磁気結合を増強させることができる。これにより、熱揺らぎ等により磁気的なノイズの影響を低減させ、すなわち計算性能を向上させることができる。
【0091】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0092】
1,1a:磁気ドットアレイ、10:磁性部材、11:下部電極、12:第1磁性体、13:バリア層、14:第2磁性体、15:上部電極15、16:第1接続部、17:第2接続部、20:磁性増強部、30,30a~30j:第1配線、31,31a~31j:第2配線、32,32a~32h:制御線、33:アクティブエリア、34:MOSトランジスタ(スイッチング素子)、35:基板、40:制御部、41:列制御部、42:行制御部、50:磁気ドットアレイ計算素子
図1
図2
図3
図4
図5