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特許7527680超音波デバイス、インピーダンス整合層及び静電駆動デバイス
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  • 特許-超音波デバイス、インピーダンス整合層及び静電駆動デバイス 図1
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  • 特許-超音波デバイス、インピーダンス整合層及び静電駆動デバイス 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】超音波デバイス、インピーダンス整合層及び静電駆動デバイス
(51)【国際特許分類】
   H04R 19/00 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
H04R19/00 330
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022574003
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2021048057
(87)【国際公開番号】W WO2022149486
(87)【国際公開日】2022-07-14
【審査請求日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2021000922
(32)【優先日】2021-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「実体化映像による多次元インタラクション」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】篠田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】神垣 貴晶
(72)【発明者】
【氏名】二宮 悠基
【審査官】金子 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-073618(JP,A)
【文献】KAMIGAKI, Takaaki et al.,Electrostatically Driven Airborne Ultrasound Transducer with Perforated Backplate for Nonlinear Acou,PROCEEDINGS of the 23rd International Congress on Acoustics,2019年09月13日,p.6363-6369
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送出する超音波デバイスであって、
静電駆動デバイスと、インピーダンス整合層とを備え、
前記静電駆動デバイスは、第1の電極と、第2の電極とを備え、
前記第1の電極は、駆動膜であり、前記第2の電極と対向する位置に、張力が印加されて配設され、
前記第2の電極は、貫通孔を備え、
前記第1の電極と前記第2の電極との少なくとも一方は、導電率の異なる複数の材料が積層された積層膜であり、
前記インピーダンス整合層は、整合膜と、気体とを備え、
前記整合膜は、
共振時ロスが送出される音響パワー以下であり、
前記第1の電極と対向する位置に、張力が印加されて配設され、
前記気体は、前記整合膜と前記第1の電極との間に封入され、
前記第1の電極に対向する前記整合膜の面と、対向する前記第1の電極の面との距離が、前記駆動膜の振幅と前記整合膜の振幅の比である振幅増幅率に応じた値である
超音波デバイス。
【請求項2】
インピーダンス整合層であって、
整合膜と、気体とを備え、
前記整合膜は、
共振時ロスが送出される音響パワー以下であり、
振動デバイスの振動面に対向する位置に、張力が印加されて配設され、
前記気体は、前記整合膜と前記振動面との間に封入され、
前記振動面に対向する前記整合膜の面と、該振動面との距離が、前記振動面の振幅と前記整合膜の振幅の比である振幅増幅率に応じた値である
インピーダンス整合層。
【請求項3】
請求項2に記載のインピーダンス整合層において、
前記距離は、第1の値以上であり、
前記第1の値は、第2の値に、前記整合膜の長さを乗じた値を5で除した値であり、
前記第2の値は、第3の値の平方根であり、
前記第3の値は、前記気体の気体粘性を前記気体の気体体積弾性率で除した値に12を乗じ、さらに、前記整合膜を振動させる際の角周波数を乗じた値である
インピーダンス整合層。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のインピーダンス整合層において、
前記整合膜は、該整合膜の単体の最低次共振周波数が、該整合膜を振動させる際の周波数より小さくなる大きさである
インピーダンス整合層。
【請求項5】
静電駆動デバイスであって、
第1の電極と、第2の電極とを備え、
前記第1の電極は、駆動膜であり、前記第2の電極と対向する位置に、張力が印加されて配設され、
前記第2の電極は、貫通孔を備え、
前記第1の電極と前記第2の電極との少なくとも一方は、導電率の異なる複数の材料が積層された積層膜であり、
前記積層膜は、第1の層と、第2の層と、第3の層とが順に積層され、前記第3の層が他の電極と対向する位置に配設され、
前記第2の層の導電率は、前記第1の層の導電率よりも低く、
前記第3の層の導電率は、前記第1の層の導電率以下であり、前記第2の層の導電率よりも高く、
前記第1の層と前記第3の層とが電気的に接続されている
静電駆動デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載の静電駆動デバイスにおいて、
前記第1の層は、第1の導体であり、
前記第2の層は、絶縁体であり、
前記第3の層は、第2の導体であり、
前記第2の導体の抵抗値は、前記第1の導体の抵抗値よりも高い
静電駆動デバイス。
【請求項7】
請求項5に記載の静電駆動デバイスにおいて、
前記第1の層は、第1の導体であり、
前記第2の層は、絶縁体であり、
前記第3の層は、第2の導体であり、
前記第1の導体と前記第2の導体とが、電気抵抗を介して接続されている
静電駆動デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波デバイス、インピーダンス整合層及び静電駆動デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
強力な空中超音波を生成できる空中超音波フェーズドアレイ(Airborne Ultrasound Phased Array:AUPA)は、各種計測やパラメトリックスピーカなどで利用されている他、 近年では、空中ハプティクスや微小あるいは軽量物体の浮遊、気流の制御など多岐に渡る応用での利用が検討されている。このため、高効率な超音波デバイスが提案されている(例えば、特許文献1、2、非特許文献1~5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-029862号公報
【文献】特開2018-037863号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】神垣 貴晶, 二宮 悠基, 篠田 裕之: 高効率・高出力な静電駆動型空中超音波振動子の開発, 計測自動制御学会論文集, Vol. 54, No.3, pp. 340- 345, 2018.
【文献】Takaaki Kamigaki, Yuki Ninomiya, and Hiroyuki Shinoda, "Electrostatically Driven Airborne Ultrasound Transmitter with Fine Mesh Electrode," in Proc. 2018 International Flexible Electronics Technology Conference (IFETC), pp. 1-3, Aug. 7-9, 2018, Ottawa, Canada.
【文献】Takaaki Kamigaki, and Hiroyuki Shinoda, "Driving Circuit Design for Electrostatic Ultrasonic Transmitter," in Proc. 2019 IEEE International Ultrasonics Symposium (IUS), MoPoS-31.3, Oct., 6-9, 2019, Glasgow, Scotland.
【文献】Takaaki Kamigaki, Yuki Ninomiya, and Hiroyuki Shinoda, "Electrostatically Driven Airborne Ultrasound Transducer with Perforated Backplate for Nonlinear Acoustic Applications," 23rd International Congress on Acoustics (ICA2019), pp. 6363-6369, Sep. 9-13, Aachen, Germany.
【文献】Y. Ninomiya, T. Kamigaki and H. Shinoda, "Airborne Ultrasonic Emission Based on Asymmetric Vibration," 2020 IEEE International Ultrasonics Symposium (IUS), Las Vegas, NV, USA, 2020, pp. 1-3, doi: 10.1109/IUS46767.2020.9251688.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超音波デバイスは、高効率なシート状の振動子が実現できれば、既存デバイスへの組み込みや、車内や室内などの限られたスペースへの敷設が容易になるため、日常生活での活用や様々なインフラへの組み込みが可能になると考えられる。
【0006】
本発明では上記事情を鑑み、高出力かつ高効率で透明化が可能なシート状空中超音波デバイスを実現するための超音波デバイス、インピーダンス整合層及び静電駆動デバイスを提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、超音波を送出する超音波デバイスが提供される。この超音波デバイスは、静電駆動デバイスと、インピーダンス整合層とを備える。静電駆動デバイスは、第1の電極と、第2の電極とを備える。第1の電極は、駆動膜であり、第2の電極と対向する位置に、張力が印加されて配設される。第2の電極は、貫通孔を備える。第1の電極と第2の電極との少なくとも一方は、導電率の異なる複数の材料が積層された積層膜である。インピーダンス整合層は、整合膜と、気体とを備える。整合膜は、共振時ロスが送出される音響パワー以下である。第1の電極と対向する位置に、張力が印加されて配設される。気体は、整合膜と第1の電極との間に封入される。第1の電極に対向する整合膜の面と、対向する第1の電極の面との距離が、駆動膜の振幅と整合膜の振幅の比である振幅増幅率に応じた値である。
【0008】
本発明の一態様によれば、超音波デバイスを高出力かつ高効率とすることが提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る超音波デバイスの構成例を示した図である。
図2】静電駆動デバイス2の構成例を示した図である。
図3】静電駆動デバイス2の構成例を示した図である。
図4】静電駆動デバイス2の構成例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0011】
1.超音波デバイスの構成
図1は、本発明の実施形態に係る超音波デバイスの構成例を示した図である。同図に示すように、超音波デバイス1は、静電駆動デバイス2と、インピーダンス整合層3と、電源4とを備える。この超音波デバイス1は、超音波を空気中等に送出するデバイスである。
【0012】
静電駆動デバイス2は、第1の電極21と、第2の電極22とを備える。第1の電極21は、駆動膜であり、第2の電極22と対向する位置に、張力が印加されて配設される。また、第2の電極22は、貫通孔を備える。第1の電極21と第2の電極22との少なくとも一方は、導電率の異なる複数の材料が積層された積層膜である。具体的には、第1の電極21を導体で構成し、第2の電極22を積層膜で構成する場合、第1の電極21を積層膜で構成し、第2の電極22を導体で構成する場合、第1の電極21と第2の電極22の両者を積層膜で構成する場合がある。第1の電極21と第2の電極22で異なる積層膜、例えば、一方が導体と絶縁体で構成される2層の積層膜、他方が導体と絶縁体と導体とで構成される3層の積層膜とすることも可能である。
【0013】
静電駆動デバイス2は、基板6の上に設けられたスペーサ5の上に設けられ、基板6側に第2の電極22が設けられ、スペーサ23を介して第1の電極21が設けられる。基板6は、例えば、アクリル板や回路基板等で構成され、スペーサ5とスペーサ23は、例えば、ポリイミドで構成される。なお、静電駆動デバイス2の詳細については後述する。
【0014】
インピーダンス整合層3は、整合膜31と、気体32とを備える。整合膜31は、共振時ロスが送出される音響パワー以下であり、第1の電極21と対向する位置に、張力が印加されて配設される。気体32は、整合膜31と前記第1の電極21との間に封入される。第1の電極21に対向する整合膜31の面と、対向する第1の電極の面との距離が、駆動膜の振幅と整合膜の振幅の比である振幅増幅率に応じた値である。
【0015】
インピーダンス整合層3は、静電駆動デバイス2の上に設けられたスペーサ33を介して整合膜31が設けられる構成となる。スペーサ33は、例えば、ポリイミドで構成される。なお、インピーダンス整合層3の詳細については後述する。
【0016】
電源4は、直流電源41と交流電源42の組み合わせにより、交流電源42の電圧が直流電源41の電圧でバイアスされた電圧、つまり、同じ極性で振動する電圧が、第1の電極21と第2の電極22の間に印加される。
【0017】
2.静電駆動デバイスの構成
図2乃至図4は、静電駆動デバイス2の構成例を示した図である。図2に示すように、静電駆動デバイス2は、第1の電極21と、第2の電極22とを備える。第1の電極21は、駆動膜として動作(振動)するもので、導電率の異なる複数の材料が積層されたものであり、第2の電極22と対向する位置に、張力が印加されて配設されたものである。具体的には、第1の電極21は、第1の層211と、第2の層212とが積層され、第2の層212が第2の電極22と対向する位置に配設される。第2の層212の導電率は、第1の層211の導電率よりも低い。例えば、第1の層211を導体とし、第2の層212を絶縁体とすることで、第2の層212の導電率が第1の層211の導電率よりも低いといった条件を満たすことができる。また、第2の層212は、絶縁体である必要はなく、十分に抵抗値の高い導体であってもよい。
【0018】
張力の印加は、所望の共振周波数で共振させるとともに、プルイン現象を抑制するためである。プルイン現象は、静電アクチュエータにおける一般的な問題であり、駆動膜が下部電極に張り付いて動作できなくなる現象である。これは、駆動膜が変位した際の振動膜に掛かる力の均衡、すなわち、静電気力と膜剛性による復元力の均衡が崩れることに起因する。平行平板型構造を定電圧駆動した場合、初期ギャップの1/3を超えて変位するとこの現象が起こる。典型的な平行平板型構造では、この変位を超えないよう駆動膜を動作させている。
【0019】
第2の電極22は、貫通孔221を備える。この貫通孔221は、第1の電極21と第2の電極22との間に存在する気体によるリアクタンス成分を抑制するためのものである。つまり、貫通孔221は、駆動膜である第1の電極21が振動した際に、第1の電極21と第2の電極22との間に存在する気体が貫通孔221を通じて、自由に出入りできるようにするためのものである。なお、第1の電極と第2の電極との少なくとも一方は、導電率の異なる複数の材料が積層された積層膜であるが、ここでは、第1の電極が積層膜である場合を説明する。なお、第1の電極21と第2の電極22との組み合わせとしては、第1の電極21を導体で構成し、第2の電極22を積層膜で構成する場合、第1の電極21を積層膜で構成し、第2の電極22を導体で構成する場合、第1の電極21と第2の電極22の両者を積層膜で構成する場合がある。第1の電極21と第2の電極22で異なる積層膜、例えば、一方が導体と絶縁体で構成される2層の積層膜、他方が導体と絶縁体と導体とで構成される3層の積層膜とすることも可能である。
【0020】
また、図3に示すように、第1の電極21を、第1の層213と、第2の層214と、第3の層215とが順に積層されるように較正することもできる。この場合、第3の層215が第2の電極22と対向する位置に配設される。この場合も、第1の電極21には、張力が印加されている。また、第1の層213と第3の層215とは、電気的に接続されている。これにより、静電駆動デバイス2を動作させた際に、第2の層214の表面への電荷の永続的付着を防止することができる。第2の層214は、例えば、絶縁体であり、この絶縁体に、電荷が付着した場合、直流電源41によるバイアス電圧が実効的に減少する。
【0021】
第2の層214の導電率は、第1の層213の導電率よりも低く、第3の層215の導電率は、第1の層213の導電率以下であり、第2の層214の導電率よりも高い。具体的には、第1の層213は、第1の導体であり、第2の層214は、絶縁体であり、第3の層215は、第2の導体である。
【0022】
また、第1の導体(第1の層213)と第2の導体(第3の層215)は、電気抵抗216を介して接続されている。この構成により、静電駆動デバイス2を動作させた際に、静電駆動デバイス2が圧迫されるなどの理由により、第1の電極21と第2の電極22とが接触した場合でも、理論上で無限大となる短絡電流が流れることがなく、電気抵抗216で制限された電流が流れるのみとなり、静電駆動デバイス2に大電流が流れることを防止することができる。もちろん、電気抵抗216が接続されている場合でも、第2の層214の表面への電荷の永続的付着を防止することができる。
【0023】
また、第1の層213を第1の導体とし、第2の層214を絶縁体とし、第3の層215を第2の導体として、第2の導体の抵抗値を第1の導体の抵抗値よりも高くすることで、電気抵抗216を省略する、つまり、電気抵抗216を接続しないようにすることも可能である。もちろん、電気抵抗216を接続することは可能である。なお、第3の層215を省略し、第2の層214の絶縁体にわずかに導電性を与え、同じ効果を得ることもできる。
【0024】
また、図4に示すように、第2の電極22を、第1の導体222と、絶縁体223と、第2の導体224とが順に積層される構成とし、第1の導体222と第2の導体224とを電気的に接続し、同様の効果をえるようにすることも可能である。
【0025】
また、図2乃至図4に示すように、第2の電極22は、貫通孔221を備える。この貫通孔221は、第1の電極21と第2の電極22との間に存在する気体によるリアクタンス成分を抑制するためのものである。つまり、貫通孔221は、駆動膜である第1の電極21が振動した際に、第1の電極21と第2の電極22との間に存在する気体が貫通孔221を通じて、自由に出入りできるようにするためのものである。
【0026】
第1の電極21と第2の電極22との距離は、第1の電極21と第2の電極22との間で放電が生じる放電電圧を2乗した値を距離で除した値が、最大となる値である。具体的には、第1の電極21と第2の電極22との距離をDとすると、放電電圧Vは、Dの関数として、V=(D)と表すことができる。このときの単位面積あたりの静電気力pは、p=εαV/(2D )となる。ただし、εは、第1の電極21と第2の電極22との間の気体の誘電率、αは、貫通孔221を有する第2の電極22の導体占有率である。そして、振動膜である第1の電極21の最大変位sをs=rD(rは1より小さい定数)とすれば、静電駆動デバイス2の電力上限値Wは、W=psf=εαrfV/(2D)となる。fは、周波数である。εαrf/2は定数であるから、静電駆動デバイス2の電力上限値Wを最大化する場合、V/Dを最大化するDを決定すればよい。
【0027】
なお、第1の電極21と第2の電極22との間に、空気よりも放電が生じにくい性質を有する気体、例えば、六フッ化硫黄(SF)を充満させておくことで、第1の電極21と第2の電極22との間に放電を、より抑制することも可能である。これにより、放電電圧Vを高めることができ、その結果、電力上限値Wを増加させることができる。
【0028】
また、第1の電極21をユニットに区切り、各ユニットの大きさを第1の電極21の共振周波数が、駆動周波数に応じた値となる大きさとすることが望ましい。具体的には、各ユニットの大きさは、第1の電極21の共振周波数が、駆動周波数に近い値になるように決定されることが望ましい。
【0029】
3.インピーダンス整合層の構成
図1に示すように、インピーダンス整合層3は、整合膜31と、気体32とを備える。インピーダンス整合層3は、静電駆動デバイス2の上に設けられたスペーサ33を介して整合膜31が設けられる。なお、インピーダンス整合層3は、静電駆動デバイス2以外の駆動デバイスと組み合わせて用いることも可能である。
【0030】
整合膜31は、振動デバイスの振動面、例えば、静電駆動デバイス2の振動膜である第1の電極21の第1の層211側の面に対向する位置に、張力が印加されて配設される。この整合膜31には、開口が存在せず、振動面にも開口は存在しない。
【0031】
また、整合膜31は、共振時ロスが送出される音響パワーと同程度、又は、それ以下である。整合膜31単体での共振時ロスを表す、整合膜31単体での機械インピーダンスの実部は、整合膜31の質量インピーダンスを整合膜31単体のQ値で割った値である。整合膜31単体での機械インピーダンスとは、整合膜31が単独で存在するときの膜の振動速度に対する印加圧力の比であり、振動速度、印加圧力としては膜内平均値を用いたものである。具体的には、整合膜31の面密度をσ[kg/m]、角周波数をω[rad/s]、整合膜31単体のQ値をQとした場合に、σω/Qが超音波の送出先となる空気の固有音響インピーダンスρcと同程度、又は、それ以下である。なお、電気音響変換効率を考慮すると、σω/Qがρcよりも十分に小さい値であることが望ましい。
【0032】
気体32は、整合膜31と振動面、例えば、静電駆動デバイス2の振動膜である第1の電極21の第1の層211側の面との間に封入される。この気体32は、例えば、空気である。振動面に対向する整合膜31の面と、該振動面との距離つまり、整合膜31と振動面の距離Dは、振動面の振幅と整合膜の振幅の比である振幅増幅率に応じて決定される。具体的には、kが数1で表される場合、数2に示すkLが、5以下であることがDの条件であり、望ましくは、kLが、5よりも十分に小さいことがDの条件である。なお、式中では、気体粘性をη[Pa s]、気体体積弾性率をκ[Pa]、角周波数をω[rad/s]、整合膜31の大きさをL[m]としている。つまり、距離Dは、数3に示す第1の値以上である。なお、ここで説明した距離Dの条件は、気体32の粘性ロスに基づくものであり、粘性ロスが問題とならない条件を示したものでもある。したがって、実際には、振幅増幅率に応じて距離Dが決まるものの、距離Dで決まる粘性および熱伝導によるロスが過大にならないように振幅増幅率を決める必要がある。
【数1】
【数2】
【数3】
【0033】
第1の値は、第2の値に、整合膜31の長さLを乗じた値を5で除した値であり、第2の値は、第3の値の平方根である。第3の値は、気体の気体粘性ηを気体の気体体積弾性率κで除した値に12を乗じ、さらに、整合膜31を振動させる際の角周波数ωを乗じた値である。
【0034】
例えば、L=2mm、ω=2π×80kHzであれば、Dは、10μmよりも十分に大きい値となる。
【0035】
4.ユニット
整合膜31の大きさLは、整合膜31の単体の最低次共振周波数が、整合膜31を振動させる際の周波数より小さくなる大きさである必要がある。これは、整合膜31単体での駆動時リアクタンスが質量性(誘導性、リアクタンスが正の値)となるためである。このため、整合膜31、第1の電極21、第2の電極22を所定の大きさとし、これらの辺縁部で固定されたものをユニットとし、このユニットを平面方向に集積してアレイとすることができる。ユニットは、例えば、整合膜31等が、直径2mmの円形のものである。
【0036】
5.実験結果
表1に示すパラメータにより実験を行った。その結果、80kHzにおける目標振幅に、46.2kHzで到達し、インピーダンス整合層3によって所定の振幅増幅効果が得られることが確認できた。
【表1】
【0037】
なお、表1中の第1の電極21のQ値と整合膜31のQ値は、いずれも、空気中において測定した値である。また、表1中の振幅増幅率は、駆動膜(第1の電極21)の振幅に対する整合膜31の振幅の比である。
【0038】
7.その他
本発明は、次に記載の各態様で提供されてもよい。
インピーダンス整合層であって、整合膜と、気体とを備え、前記整合膜は、共振時ロスが送出される音響パワー以下であり、振動デバイスの振動面に対向する位置に、張力が印加されて配設され、前記気体は、前記整合膜と前記振動面との間に封入され、前記振動面に対向する前記整合膜の面と、該振動面との距離が、前記振動面の振幅と前記整合膜の振幅の比である振幅増幅率に応じた値であるインピーダンス整合層。
前記インピーダンス整合層において、前記距離は、第1の値以上であり、前記第1の値は、第2の値に、前記整合膜の長さを乗じた値を5で除した値であり、前記第2の値は、第3の値の平方根であり、前記第3の値は、前記気体の気体粘性を前記気体の気体体積弾性率で除した値に12を乗じ、さらに、前記整合膜を振動させる際の角周波数を乗じた値であるインピーダンス整合層。
前記インピーダンス整合層において、前記整合膜は、該整合膜の単体の最低次共振周波数が、該整合膜を振動させる際の周波数より小さくなる大きさであるインピーダンス整合層。
静電駆動デバイスであって、第1の電極と、第2の電極とを備え、前記第1の電極は、駆動膜であり、前記第2の電極と対向する位置に、張力が印加されて配設され、前記第2の電極は、貫通孔を備え、前記第1の電極と前記第2の電極との少なくとも一方は、導電率の異なる複数の材料が積層された積層膜である静電駆動デバイス。
前記静電駆動デバイスにおいて、前記積層膜は、第1の層と、第2の層とが積層され、前記第2の層が他の電極と対向する位置に配設され、前記第2の層の導電率は、前記第1の層の導電率よりも低い静電駆動デバイス。
前記静電駆動デバイスにおいて、前記積層膜は、第1の層と、第2の層と、第3の層とが順に積層され、前記第3の層が他の電極と対向する位置に配設され、前記第2の層の導電率は、前記第1の層の導電率よりも低く、前記第3の層の導電率は、前記第1の層の導電率以下であり、前記第2の層の導電率よりも高く、前記第1の層と前記第3の層とが電気的に接続されている静電駆動デバイス。
前記静電駆動デバイスにおいて、前記第1の層は、第1の導体であり、前記第2の層は、絶縁体であり、前記第3の層は、第2の導体であり、前記第2の導体の抵抗値は、前記第1の導体の抵抗値よりも高い静電駆動デバイス。
前記静電駆動デバイスにおいて、前記第1の層は、第1の導体であり、前記第2の層は、絶縁体であり、前記第3の層は、第2の導体であり、前記第1の導体と前記第2の導体とが、電気抵抗を介して接続されている静電駆動デバイス。
前記静電駆動デバイスにおいて、前記第1の電極は、ユニットに区切られ、前記ユニットの大きさは、前記第1の電極の共振周波数が、駆動周波数に応じた値となる大きさである静電駆動デバイス。
前記静電駆動デバイスにおいて、前記第1の電極と前記第2の電極との距離は、前記第1の電極と前記第2の電極との間で放電が生じる放電電圧を2乗した値を前記距離で除した値が、最大となる値である静電駆動デバイス。
前記静電駆動デバイスにおいて、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、空気よりも放電が生じにくい性質を有する気体が充満されている静電駆動デバイス。
もちろん、この限りではない。
【符号の説明】
【0039】
1 :超音波デバイス
2 :静電駆動デバイス
3 :インピーダンス整合層
4 :電源
5 :スペーサ
6 :基板
21 :第1の電極
22 :第2の電極
23 :スペーサ
31 :整合膜
32 :気体
33 :スペーサ
41 :直流電源
42 :交流電源
211 :第1の層
212 :第2の層
213 :第1の層
214 :第2の層
215 :第3の層
216 :電気抵抗
221 :貫通孔
222 :第1の導体
223 :絶縁体
224 :第2の導体
図1
図2
図3
図4