IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人大阪の特許一覧

特許7527693送信器、送信方法、受信器、および受信方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】送信器、送信方法、受信器、および受信方法
(51)【国際特許分類】
   H04J 11/00 20060101AFI20240729BHJP
   H04L 27/26 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
H04J11/00
H04L27/26 310
H04L27/26 410
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023507090
(86)(22)【出願日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2022011241
(87)【国際公開番号】W WO2022196618
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2021043624
(32)【優先日】2021-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021093751
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021140429
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】林 海
【審査官】原田 聖子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0244524(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/259692(US,A1)
【文献】林 海,6Gのための遅延ドップラー平面マルチキャリア変調,電子情報通信学会2021年通信ソサイエティ大会講演論文集1 BS-3-1,2021年08月31日,S-32~S-33
【文献】P. Raviteja, K. T. Phan, Y. Hong and E. Viterbo,Interference Cancellation and Iterative Detection for Orthogonal Time Frequency Space Modulation,IEEE Transactions on Wireless Communications,2018年10月,vol. 17, no. 10,pp. 6501-6515
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04J 11/00
H04L 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間周波数空間とディレイ・ドップラー空間とのうち、前記ディレイ・ドップラー空間に対して、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームを送信する送信部と、
時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスまたはナイキストパルスが、N個配置された送信パルスを、前記シンボル各々に適用する送信パルス適用部と
を備える送信器。
【請求項2】
前記送信部は、前記フレームのドップラー領域のN個のシンボルからなるセット各々を逆フーリエ変換して、前記セット各々に対応する時間領域の信号を生成する逆フーリエ変換部を備え、
前記送信パルス適用部は、前記セット各々に対応する時間領域の信号に、前記送信パルスを適用し、
前記送信部は、前記送信パルスが適用された時間領域の信号を、時間多重する時間多重部を備える、
請求項1に記載の送信器。
【請求項3】
前記送信部は、前記フレームのドップラー領域のN個のシンボルからなるセット各々を逆フーリエ変換して、前記セット各々に対応する時間領域の信号を生成する逆フーリエ変換部を備え、
前記送信パルス適用部は、前記セット各々に対応する時間領域の信号を、時間多重した後に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスまたはナイキストパルスによる波形整形を行い、
前記セット各々に対応する時間領域の信号の時間多重は、前記セット各々に対応する時間領域の信号のサンプルひとつずつをサンプル間隔T/Mで、前記セットが順に変わるように並べることで行われる、
請求項1に記載の送信器。
【請求項5】
時間周波数空間とディレイ・ドップラー空間とのうち、前記ディレイ・ドップラー空間に対して、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームを送信する送信するステップと、
時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスまたはナイキストパルスが、N個配置された送信パルスを、前記フレームに適用するステップと
を備える送信方法。
【請求項6】
時間周波数空間とディレイ・ドップラー空間とのうち、前記ディレイ・ドップラー空間に対して、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームの信号を受信する受信部と、
時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスが、N個配置されたパルスを、前記信号に乗算し、前記パルスのパルス幅にわたって積分する整合フィルタ部と
を備える受信器。
【請求項7】
時間周波数空間とディレイ・ドップラー空間とのうち、前記ディレイ・ドップラー空間に対して、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームの信号を受信するステップと、
時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスが、N個配置されたパルスを、前記信号に乗算し、前記パルスのパルス幅にわたって積分するステップと
を備える受信方法。
【請求項8】
前記送信部は、
送信データを含む前記フレームをOTFS(Orthogonal Time Frequency Space)変調して、送信信号を生成するOTFS変調部を備え、
前記OTFS変調部は、
前記フレーム内の各ディレイ位置におけるN個のシンボルを逆離散フーリエ変換して、各ディレイ位置の時間領域の信号を生成する逆離散フーリエ変換部と、
前記時間領域の信号を構成する各サンプルを、ディレイ方向にM個パラレルとみなしてパラレルシリアル変換をするP/S変換部と
を備える、請求項1に記載の送信器。
【請求項9】
前記送信部は、
送信データを含む前記フレームをOTFS(Orthogonal Time Frequency Space)変調して、送信信号を生成するOTFS変調部を備え、
前記OTFS変調部によるOTFS変調の対象となる、ディレイ・ドップラー空間に配列されたフレームのうち、ディレイ方向の最後のL-1行は既定値シンボルであり、前記L-1にサンプリング間隔を乗じたものは、遅延の最大補償値である、請求項1に記載の送信器。
【請求項10】
時間周波数空間とディレイ・ドップラー空間とのうち、前記ディレイ・ドップラー空間に対して、ディレイ方向の幅がM、ドップラー方向の幅がNのフレームを受信する受信器であって、
受信信号から、M個おきにN個まとめたサンプル列を生成するS/P変換部と、
前記サンプル列の各々に対して、離散フーリエ変換を行う離散フーリエ変換部と
を備える受信器。
【請求項11】
前記フレームのうち、ディレイ位置M-L+1からM-1までが既定値シンボルであり、
前記既定値シンボルを用いて伝搬路補償をする伝搬路補償部を備える、請求項10に記載の受信器。
【請求項13】
時間周波数空間とディレイ・ドップラー空間とのうち、前記ディレイ・ドップラー空間に対して、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームを受信する受信器における受信方法であって、
受信信号から、M個おきにN個まとめたサンプル列を生成する第1のステップと、
前記サンプル列の各々に対して、離散フーリエ変換を行う第2のステップと
を有する受信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信器、送信方法、受信器、および受信方法に関する。
本願は、2021年3月17日に、日本に出願された特願2021-043624号、2021年6月3日に、日本に出願された特願2021-093751号、2021年8月30日に、日本に出願された特願2021-140429号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
将来の移動体通信における重要なシナリオとして、高速移動体の通信が挙げられる。例えば、日本では、時速500Kmで走行するリニア中央新幹線の開業が2027年に計画されている。このような高速移動体の通信では、ドップラー周波数偏移(ドップラー)と伝搬遅延(ディレイ)とが発生する。このため、第4世代や第5世代の携帯電話網で用いられているOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調は、充分に機能しない。近年、このような高速移動体の通信に、OFDM変調よりも適した方式として、ディレイ・ドップラー空間にシンボルを配置するOTFS(Orthogonal Time Frequency Space)変調が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。
【0003】
OFDM変調では、サブキャリア間隔Δf’に応じたシンボル長(時間間隔)T=1/Δf’の間は1で、それ以外は0という送信パルスを用いているので、周波数軸、時間軸の双方が直交する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第8547988号
【文献】米国特許第9590779号
【非特許文献】
【0005】
【文献】R. Hadani et al., "Orthogonal Time Frequency Space Modulation," 2017 IEEE Wireless Communications and Networking Conference (WCNC), San Francisco, CA, 2017, pp. 1-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ディレイ・ドップラー空間においては、ドップラー方向の周波数間隔と、ディレイ方向の時間間隔が狭いため、これら双方で直交させるような信号の生成方法が得られていないという問題がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ディレイ・ドップラー空間においても、ドップラー軸、ディレイ軸の双方が実質的に直交する信号を生成する送信器、送信方法、受信器、および受信方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームを送信する送信部と、時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスまたはナイキストパルスが、N個配置された送信パルスを、前記シンボル各々に適用する送信パルス適用部とを備える送信器である。
【0008】
本発明の他の一態様は、上述した送信器であって、前記送信部は、前記フレームのドップラー領域のN個のシンボルからなるセット各々を逆フーリエ変換して、前記セット各々に対応する時間領域の信号を生成する逆フーリエ変換部を備え、前記送信パルス適用部は、前記セット各々に対応する時間領域の信号に、前記送信パルスを適用し、前記送信部は、前記送信パルスが適用された時間領域の信号を、時間多重する時間多重部を備える。
【0009】
本発明の他の一態様は、上述した送信器であって、前記送信部は、前記フレームのドップラー領域のN個のシンボルからなるセット各々を逆フーリエ変換して、前記セット各々に対応する時間領域の信号を生成する逆フーリエ変換部を備え、前記送信パルス適用部は、前記セット各々に対応する時間領域の信号を、時間多重した後に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスまたはナイキストパルスによる波形整形を行い、前記セット各々に対応する時間領域の信号の時間多重は、前記セット各々に対応する時間領域の信号のサンプルひとつずつをサンプル間隔T/Mで、前記セットが順に変わるように並べることで行われる。
【0010】
本発明の他の一態様は、上述した送信器であって、前記フレームにサイクリックプレフィクスを付加するCP付加部、または前記フレームにサイクリックプレフィクスおよびサイクリックポストフィクスを付加するCPP付加部を備える。
【0011】
本発明の他の一態様は、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームを送信する送信するステップと、時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスまたはナイキストパルスが、N個配置された送信パルスを、前記フレームに適用するステップとを備える送信方法である。
【0012】
本発明の他の一態様は、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームの信号を受信する受信部と、時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスが、N個配置されたパルスを、前記信号に乗算し、前記パルスのパルス幅にわたって積分する整合フィルタ部とを備える受信器である。
【0013】
本発明の他の一態様は、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームの信号を受信するステップと、時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスが、N個配置されたパルスを、前記信号に乗算し、前記パルスのパルス幅にわたって積分するステップとを備える受信方法である。
【0014】
本発明の他の一態様は、上述した送信器であって、前記送信部は、送信データを含む前記フレームをOTFS(Orthogonal Time Frequency Space)変調して、送信信号を生成するOTFS変調部を備え、前記OTFS変調部は、前記フレーム内の各ディレイ位置におけるN個のシンボルを逆離散フーリエ変換して、各ディレイ位置の時間領域の信号を生成する逆離散フーリエ変換部と、前記時間領域の信号を構成する各サンプルを、ディレイ方向にM個パラレルとみなしてパラレルシリアル変換をするP/S変換部とを備える。
【0015】
本発明の他の一態様は、上述した送信器であって、前記送信部は、送信データを含む前記フレームをOTFS(Orthogonal Time Frequency Space)変調して、送信信号を生成するOTFS変調部を備え、前記OTFS変調部によるOTFS変調の対象となる、ディレイ・ドップラー空間に配列されたフレームのうち、ディレイ方向の最後のL-1行は既定値シンボルであり、前記L-1にサンプリング間隔を乗じたものは、遅延の最大補償値である。
【0016】
本発明の他の一態様は、ディレイ方向の幅がM、ドップラー方向の幅がNのフレームを受信する受信器であって、受信信号から、M個おきにN個まとめたサンプル列を生成するS/P変換部と、前記サンプル列の各々に対して、離散フーリエ変換を行う離散フーリエ変換部とを備える受信器である。
【0017】
本発明の他の一態様は、上述した受信器であって、前記フレームのうち、ディレイ位置M-L+1からM-1までが既定値シンボルであり、前記既定値シンボルを用いて伝搬路補償をする伝搬路補償部を備える。
【0018】
本発明の他の一態様は、上述した受信器であって、前記受信信号にルートナイキストフィルタを掛ける。
【0019】
本発明の他の一態様は、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームを受信する受信器における受信方法であって、受信信号から、M個おきにN個まとめたサンプル列を生成する第1のステップと、前記サンプル列の各々に対して、離散フーリエ変換を行う第2のステップとを有する受信方法である。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、ディレイ・ドップラー空間においても、ドップラー軸、ディレイ軸の双方が直交する信号を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】この発明の第1の実施形態による送信器100の構成を示す概略ブロック図である。
図2】同実施形態における無線通信のチャネルを説明する模式図である。
図3】同実施形態におけるチャネルのディレイ・ドップラー空間へのマップを示す模式図である。
図4】同実施形態における送信パルスu(t)をプロットしたグラフである。
図5】同実施形態におけるパルスa(t)の一例の周波数応答を示すグラフである。
図6】同実施形態におけるディレイ・ドップラー空間に配置したシンボルのTF(Time-Frequency)空間との対応を示す模式図である。
図7】実施例1における送信器200の構成を示す概略ブロック図である。
図8】実施例2における送信器300の構成を示す概略ブロック図である。
図9】同実施例における時間多重部302の動作を説明する模式図である。
図10】実施例3における受信器400の構成を示す概略ブロック図である。
図11】実施例4における受信器500の構成を示す概略ブロック図である。
図12】同実施例における整合フィルタ部504の構成を示す概略ブロック図である。
図13】実施例5における受信器600の構成を示す概略ブロック図である。
図14】この発明の第2の実施形態による無線通信システムの構成を示す概略ブロック図である。
図15】同実施形態における送信器700の構成を示す概略ブロック図である。
図16】同実施形態におけるISFFT部703の構成を示す概略ブロック図である。
図17】同実施形態におけるOFDM変調部704の構成を示す概略ブロック図である。
図18】同実施形態におけるフレーム生成部702が生成するフレームの構成例を示す模式図である。
図19】同実施形態の変形例による送信器700の構成を示す概略ブロック図である。
図20】同実施形態および本変形例によるCP付加部743の出力例を模式的に示した図である。
図21】同実施形態によるPSD分布のシミュレーション結果の例を示すグラフである。
図22】同実施形態における受信器800の構成を示す概略ブロック図である。
図23】同実施形態によるビットエラーレートのシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
<第1の実施形態>
図1は、この発明の第1の実施形態による送信器100の構成を示す概略ブロック図である。送信器100は、無線通信システムの各装置(例えば、端末装置、基地局装置など)に備えられ、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルX(m,n)、n=0,…,N-1, m=0,…M-1を配置したフレームを、複数のキャリアを用いて無線送信する。シンボルX(m,n)は、BPSK(Binary Phase-Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase-Shift Keying)、QAM(Quadrature Amplitude Modulation)などの変調方式を用いて、変調されたデータの送信シンボル、あるいは、パイロット信号、ヌル信号などの送信シンボルである。
【0023】
送信器100は、N個の送信パルス適用部101-1、101-2、・・・101-N、N個のサブキャリア乗算部102-1、102-2、・・・102-N、周波数多重部103、時間多重部104、RF部(送信部)105を備える。送信パルス適用部101-1、・・・101-Nは、それぞれ、シンボルX(m,0)、X(m,1)、・・・X(m,N-1)に送信パルスu(t-mT/M)を適用(乗算)した信号を生成する。すなわち、n番目の送信パルス適用部101-nは、信号X(m,n-1)u(t-mT/M)を生成する。送信パルス適用部101-1、・・・101-Nが用いる送信パルスu(t)については、後述する。
【0024】
サブキャリア乗算部102-1、・・・102-Nは、送信パルス適用部101-1、・・・101-Nが生成した信号に、それぞれのキャリア(サブキャリア)を乗じて、サブキャリア信号を生成する。サブキャリア乗算部102-1、・・・102-Nで乗算されるサブキャリア間の周波数間隔は、一定の値Δf=1/(NT)である。すなわち、m=0であれば、サブキャリア乗算部102-1が乗じるのは、ej2π0Δftであり、サブキャリア乗算部102-2が乗じるのはej2π1Δftであり、サブキャリア乗算部102-Nが乗じるのはej2π(N-1)Δftである。さらに、m=1であれば、サブキャリア乗算部102-1が乗じるのは、ej2π0Δf(t-T/M)であり、サブキャリア乗算部102-2が乗じるのはej2π1Δf(t-T/M)であり、サブキャリア乗算部102-Nが乗じるのはej2π(N-1)Δf(t-T/M)である。すなわち、サブキャリア乗算部102-nは、サブキャリア信号xm(n-1)(t)=X(m,n-1)u(t-mT/M)ej2π(n-1)Δf(t-mT/M)を生成する。
【0025】
周波数多重部103は、サブキャリア乗算部102-1、・・・102-Nが生成したサブキャリア信号xmn(t)を、nについて足し合わせることで、これらの信号を周波数多重して、式(1)に示す信号x(t)を生成する。式(1)において、nは0からN-1としたが、nの値がN個あれば0以外の数から始まっていてもよい。その他の式におけるシグマ(summation)も同様である。
【0026】
【数1】
【0027】
時間多重部104は、周波数多重部103が生成した信号x(t)を時間多重して、式(2)に示す送信信号x(t)を生成する。この送信信号x(t)は、M×NのシンボルX(m,n)を配置したフレームの送信信号である。
【0028】
【数2】
【0029】
RF部105は、送信信号x(t)を、無線周波数にアップコンバートして、無線送信する。なお、時間多重部104と、RF部105の間に、CP付加部を設け、送信信号x(t)にサイクリックプレフィクス(CP;Cyclic Prefix)を付加するようにしてもよい。
【0030】
次に、図2図3を用いて、無線通信におけるチャネルを説明する。図2は、本実施形態における無線通信のチャネルを説明する模式図である。図2では、送信器Txと、受信器Rxとの間に、3つの伝搬路g(0,0)、g(2,2)、g(4,-1)から構成するチャネルがある場合を示す。この場合、図3に示すように、これら3つの伝搬路g(0,0)、g(2,2)、g(4,-1)は、ドップラー軸と、ディレイ軸からなるディレイ・ドップラー空間にマップすることができる。チャネルにおけるディレイおよびドップラーの値は、小さいため、図3のディレイ・ドップラー空間では、ディレイ方向の単位をT/M、ドップラー方向の単位を1/(NT)としている。
【0031】
OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)では、TF(Time-Frequency)空間にシンボルが配置されているが、1つのシンボルが配置される領域の時間方向の幅は、周波数方向の幅の逆数となっている。そのため、時間方向の幅を小さくすると、周波数方向の幅が大きくなり、周波数方向の幅を小さくすると、時間方向の幅が大きくなってしまう。これにより、個々シンボルが配置されているTF領域は十分に大きく、このTF領域に対応する送信パルスは実装可能な矩形パルスである。この矩形パルスを利用することで、OFDMは周波数方向および時間方向に直交させている。
【0032】
しかし、図3のディレイ・ドップラー空間では、ディレイ方向(時間方向)の単位をT/M、ドップラー方向(周波数方向)の単位を1/(NT)としているため、これらの単位を幅とする微小なTF領域にシンボルを配置しても、OFDMのようにこの微小なTF領域に対応する送信パルスを用いて、ディレイ・ドップラー空間の直交信号を作ることができない。なぜなら、この微小なTF領域に収まる送信パルスは不確定性原理に違反し、存在しないためである。OFDMでは、前記の矩形の送信パルスを用いているが、本実施形態では、式(3)で示される送信パルスu(t)を用いることで、ドップラー方向(周波数方向)およびディレイ方向(時間方向)に直交した信号を生成する。
【0033】
【数3】
【0034】
式(3)において、a(t)は、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエアルートナイキストパルス(square-root Nyquist pulse)であり、その時間幅は2QT/Mである。なお、2Q<Mである。また、一般性を失わずに、a(t)のエネルギーを1/Nとする。図4は、本実施形態における送信パルスu(t)をプロットしたグラフである。図4に示すように、式(3)は、時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスが、N個配置された送信パルスである。また、図5は、本実施形態におけるパルスa(t)の周波数応答を示すグラフである。図5において、横軸は周波数(Hz)であり、中心周波数を0としている。送信パルスは、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスa(t)から構成されるため、その周波数応答は、スクエア-ルートナイキストパルスのロールオフ係数にもよるが、帯域幅が約M/Tとなっている。
【0035】
図6は、ディレイ・ドップラー空間に配置したシンボルのTF空間との対応を示す模式図である。ここで図6は、2Q<Mの場合の図であるが、図を簡易にするため、M=4、N=3としている。ディレイ・ドップラー空間の領域DD1は、ドップラー方向(周波数方向)が1/T、ディレイ方向(時間方向)がTの領域であり、ドップラー方向に1/(NT)ごと、ディレイ方向にT/Mごとに区切られている。そして、この区切られたそれぞれの領域にシンボルX(m,n)に対応する信号が配置されている。図6では、領域ごとに異なるハッチングを施すことで、領域ごとにシンボルX(m,n)に対応する信号が配置されていることを示している。
【0036】
ディレイ・ドップラー空間の領域DD1に、シンボルX(m,n)を配置した信号に、送信パルスu(t)を適用することで、TF空間の領域TF1にシンボルX(m,n)に対応する信号が、分散されてマッピングされている。すなわち、TF空間の領域TF1には、時間間隔TごとにN個、および、周波数間隔1/TごとにM個に分かれた領域に、同じシンボルX(m,n)に対応する信号がマッピングされている。すなわち、ドップラー方向およびディレイ方向に直交した信号となっている。
【0037】
なお、各シンボルのパルス同士が直交していることは、あるシンボルのパルスと、ドップラー方向にmT/M、ディレイ方向にn/(NT)離れた位置のシンボルのパルスとの内積である次式からも分かる。但し、ここのmは|m|<=M-2Qである。ここで、次式は、2Qに対してMが大きいことを条件にし、図6に示したように、ドップラー方向およびディレイ方向に直交した信号となるのは、Mが2Qより大きいときである。δはデルタ関数である。
【0038】
【数4】
【0039】
図1の送信器100では、シンボルごとに、送信パルスを適用していたが、逆フーリエ変換して、周波数多重した後に、送信パルスを適用しても、各シンボルに送信パルスが適用された信号が得られる。図7図8に、周波数多重した後に、送信パルスを適用する場合の実施例1、2を示す。図7は、実施例1における送信器200の構成を示す概略ブロック図である。送信器200は、IDFT(Inverse Discrete Fourier Transform)部201、D/A(Digital/Analog)変換部202、送信パルス適用部203、時間多重部204、CP付加部205、RF部(送信部)206を備える。
【0040】
IDFT部201は、フレームのドップラー領域のN個のシンボル(X(m,0)、X(m,1)、…X(m,N-1))からなるセット各々を逆フーリエ変換して、セット各々に対応する時間領域の信号を生成する。D/A変換部202は、IDFT部201が生成した時間領域の信号を、アナログ信号に変換する。送信パルス適用部203は、そのアナログ信号(セット各々に対応する時間領域の信号)に送信パルスu(t-mT/M)を適用して、信号x(t)を生成する。この信号x(t)は、図1の周波数多重部103が生成した信号x(t)と同様のものである。
【0041】
時間多重部204は、送信パルス適用部203が生成した信号x(t)を時間多重して、式(2)の送信信号x(t)を生成する。この送信信号x(t)は、図1の時間多重部104が生成した信号x(t)と同様のものであり、M×NのシンボルX(m,n)を配置したフレームの送信信号である。CP付加部205は、フレームの送信信号x(t)の末尾のコピーを、フレームの送信信号x(t)の先頭に、サイクリックプレフィクスとして付加する。RF部206は、CPが付加された送信信号x(t)を無線周波数にアップコンバートし、無線送信する。このように、図7の送信器200でも、図1の送信器100と同等の送信信号を送信することができる。
【0042】
図8は、実施例2における送信器300の構成を示す概略ブロック図である。送信器300は、IDFT部301、時間多重部302、CP付加部303、波形整形部304、RF部(送信部)305を備える。本実施例では、時間多重部302と波形整形部304とで、送信パルス適用部310を構成する。IDFT部301は、図7のIDFT部201と同様であり、フレームのドップラー領域のN個のシンボルからなるセット各々に対応する時間領域の信号を生成する。
【0043】
時間多重部302は、セット各々に対応する時間領域の信号のサンプルひとつずつをサンプル間隔T/Mで、セットが順に変わるように並べることで、時間多重をする。この結果、あるセットに対応する時間領域の信号を構成するN個のサンプルは、時間間隔T毎に配置される。この時間多重は、送信パルスu(t)において、パルスが時間間隔T毎にN個配置されていることに対応している。
【0044】
図9は、時間多重部302の動作を説明する模式図である。図9において、m=0の行に記載された矩形は、m=0のセットに対応する時間領域の信号の各サンプルである。同様に、m=1の行に記載された矩形は、m=1のセットに対応する時間領域の信号の各サンプルである。時間多重部302は、m=0のセットに対応する時間領域の信号の1つめのサンプル、m=1のセットに対応する時間領域の信号の1つめのサンプル、・・・m=M-1のセットに対応する時間領域の信号の1つめのサンプル、m=0のセットに対応する時間領域の信号の2つめのサンプル、m=1のセットに対応する時間領域の信号の2つめのサンプル、・・・m=M-1のセットに対応する時間領域の信号の2つめのサンプル、・・・m=M-1のセットに対応する時間領域の信号のN個目のサンプルという順にサンプル間隔T/Mで並べる。
【0045】
図8に戻って、CP付加部303は、時間多重部302が並べたサンプルのうち、所定の数の末尾のサンプルを、サイクリックプレフィクスとして、先頭に付加する。波形整形部304は、各サンプルを、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスに波形整形して、送信信号x(t)を生成する。この波形整形は、送信パルスu(t)において、各パルスがナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスであることに対応している。なお、このように、各サンプルをスクエア-ルートナイキストパルスに波形整形することで、送信信号x(t)が得られる条件は、2Q<<Mである。2Q<<Mのときは、スクエアルートナイキストパルスの幅が、キャリアの波長に対して十分に小さくなる。このため、1つのスクエア-ルートナイキストパルスの間、キャリアの成分の変化が無視できるほどに小さくなっている。したがって、スクエア-ルートナイキストパルスのパルス幅の間のキャリアの成分の変化を無視して、各サンプルをスクエア-ルートナイキストパルスに波形整形するだけで、送信信号x(t)を得ることができる。
【0046】
RF部305は、送信信号x(t)を無線周波数にアップコンバートし、無線送信する。このように、図8の送信器300でも、図7の送信器200、図1の送信器100と同等の送信信号を送信することができる。なお、上記実施例では、時間多重部302による時間多重の後に、波形整形部304による波形整形を行っているが、逆の順であってもよい。すなわち、波形整形部304による波形整形ののち、時間多重部302による時間多重を行ってもよい。
【0047】
図10は、実施例3における受信器400の構成を示す概略ブロック図である。受信器400は、送信器100、200、300により送信された信号の受信に用いられる。受信器400は、RF部(受信部)401、N個のパルス乗算部402-1、402-2、・・・402-N、N個の積分部403-1、403-2、・・・403-Nを備える。
【0048】
RF部401は、送信器100、200、300により送信された無線信号、すなわち、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームの信号を受信し、ベースバンド信号にダウンコンバートする。パルス乗算部402-1、402-2、・・・402-Nは、ベースバンド信号に、送信時に用いた送信パルスにサブキャリアを乗じたものの共役を乗算する。但し、u(t)が実数関数のため、その共役はu(t)自身である。
【0049】
すなわち、パルス乗算部402-1が乗じるのは、u(t-mT/M)e‐j2π0Δf(t-mT/M)であり、パルス乗算部402-1が乗じるのはu(t-mT/M)e‐j2π1Δf(t-mT/M)であり、パルス乗算部402-Nが乗じるのはu(t-mT/M)e‐j2π(N-1)Δf(t-mT/M)である。すなわち、パルス乗算部402-nは、u(t-mT/M)e‐j2π(n-1)Δf(t-mT/M)を乗算する。
【0050】
積分部403-1、403-2、・・・403-Nは、それぞれ、パルス乗算部402-1、402-2、・・・402-Nの乗算結果を、送信時に用いた送信パルスの時間幅にわたって積分し、受信シンボルX’(m,0)、X’(m,1)、・・・・X’(m,N-1)を得る。
【0051】
この受信器400では、パルス乗算部402-1、402-2、・・・402-Nと、積分部403-1、403-2、・・・403-Nとで整合フィルタ部を構成している。そして、この整合フィルタ部は、パルス乗算部402-nと、積分部403-nとにより、送信器100、200、300の送信パルスu(t)と同様のパルスである、時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスが、N個配置されたパルスを、ベースバンド信号に乗算し、そのパルス幅にわたって積分していることになる。このように、整合フィルタ部が、送信パルスu(t)に整合するフィルタを適用することで、受信シンボルX’(m,n)を得ることができる。ここでは、図示を省略するが、さらに、この受信シンボルX’(m,n)に対して、マルチパスを考慮した等化処理を施すことで、受信データを得ることができる。
【0052】
図11は、実施例4における受信器500の構成を示す概略ブロック図である。受信器500も、送信器100、200、300により送信された信号の受信に用いられる。受信器500は、RF部(受信部)501、サンプリング部502、CP除去部503、M個の整合フィルタ部504-1、504-2、・・・504-Mを備える。
【0053】
RF部501は、送信器100、200、300により送信された無線信号、すなわち、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームの信号を受信し、ベースバンド信号にダウンコンバートする。サンプリング部502は、サンプリングレートMK/Tで、ベースバンド信号をサンプリングする。なお、Kはオーバーサンプリング係数であり、1より大きい。CP除去部503は、サンプリング部502によるサンプリング結果からサイクリックプレフィクスに対応するものを除去する。
【0054】
M個の整合フィルタ部504-1、504-2、・・・504-Mは、サンプリング結果に対して整合フィルタを施して、それぞれ、受信シンボルX’(0,n)、X’(1,n)、・・・X’(M-1,n)を得る。M個の整合フィルタ部504-1、504-2、・・・504-Mは、同様の構成を有するので、整合フィルタ部504として説明する。
【0055】
図12は、本実施例における整合フィルタ部504の構成を示す概略ブロック図である。整合フィルタ部504は、パルス乗算部541と、DFT(Discrete Fourier Transform)部542とを備える。パルス乗算部541は、送信器100、200、300の送信パルスu(t)と同様のパルスを、サイクリックプレフィクスが除去されたサンプリング結果に乗算する。ここで、整合フィルタ部504-1の場合は、送信パルスu(t)を乗算し、整合フィルタ部504-2の場合は、送信パルスu(t-T/M)を乗算し、整合フィルタ部504-Mのときは、送信パルスu(t-(M-1)T/M)を乗算する。
【0056】
DFT部542は、パルス乗算部541の乗算結果に対して、MNKポイントの離散フーリエ変換を施し、1番目からN番目の結果(n=0、1、・・・N-1の結果)を、受信シンボルX’(m,0)、X’(m,1)、・・・X’(m,N-1)として出力する。なお、図11では、受信器500は、M個の整合フィルタ部504-1、504-2、・・・504-Mを備えるとして説明したが、1つの整合フィルタ部504を備え、整合フィルタ部504は、それぞれ、整合フィルタ部504-1、504-2、・・・504-Mとして、M回動作するようにしてもよい。
【0057】
受信器500の整合フィルタ部504は、パルス乗算部541と、DFT部542とにより、送信器100、200、300の送信パルスu(t)と同様のパルスである、時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスが、N個配置されたパルスを、ベースバンド信号に乗算し、そのパルス幅にわたって積分していることになる。これは、例えば、m=0のベースバンド信号をy(t)としたときに、整合フィルタを定義する左辺が、MNKポイントの離散フーリエ変換となっている右辺で近似できることに基づいている。
【0058】
【数5】
【0059】
このように、整合フィルタ部504が、送信パルスu(t)に整合するフィルタを適用することで、受信シンボルX’(m,n)を得ることができる。ここでは、図示を省略するが、さらに、この受信シンボルX’(m,n)に対して、マルチパスを考慮した等化処理を施すことで、受信データを得ることができる。
【0060】
図13は、実施例5における受信器600の構成を示す概略ブロック図である。受信器600は、送信器100、200、300により送信された信号の受信に用いられる。受信器600は、RF部(受信部)601、フィルタ部602、サンプリング部603、CP除去部604、時間分離部605、DFT部606を備える。
【0061】
RF部601は、送信器100、200、300により送信された無線信号、すなわち、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームの信号を受信し、ベースバンド信号にダウンコンバートする。フィルタ部602は、送信パルスu(t)を構成するa(t)、すなわち、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエアルートナイキストパルスa(t)をインパルス応答とするフィルタを用いて、ベースバンド信号をフィルタリングする。サンプリング部603は、フィルタリングの出力をサンプリング間隔T/Mでサンプリングする。CP除去部604は、サンプリング部603がサンプリングしたサンプルから、サイクリックプレフィクスに対応するサンプルを除外する。その結果、CP除去部604は、フレームに対応するM×N個のサンプルを出力する。時間分離部605は、CP除去部604が出力したフレームに対応するサンプルから、M個おきにN個集めたサンプルのセットを生成する。例えば、m番目のサンプルをy(m)とすると、このセットは、y(m)、y(m+M)、y(m+2M)、・・・y(m+(N-1)×M)からなる。DFT部606は、時間分離部605が生成したセットに対して、Nポイントの離散フーリエ変換を施すことで、受信シンボルX’(m,0)、X’(m,1)、・・・・X’(m,N-1)を得る。
【0062】
なお、フィルタ部602は、アナログ信号であるベースバンド信号に対して処理を行っているが、サンプリングレートMK/T(ただしK>1)、すなわちサンプリング間隔T/(MK)でサンプリングしたデジタル信号に対して処理を行うようにしてもよい。この場合、サンプリング部603では、サンプリングレートM/Tにダウンサンプリングする。また、CP除去部604により、サイクリックプレフィクスに対応するサンプルを除外した後に、ダウンサンプリングするようにしてもよい。
【0063】
この受信器600では、フィルタ部602と、時間分離部605と、DFT部606とで整合フィルタ部を構成している。そして、この整合フィルタ部は、フィルタ部602と、時間分離部605と、DFT部606とにより、送信器100、200、300の送信パルスu(t)と同様のパルスである、時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスが、N個配置されたパルスを、ベースバンド信号に乗算し、そのパルス幅にわたって積分していることになる。このように、整合フィルタ部が、送信パルスu(t)に整合するフィルタを適用することで、受信シンボルX’(m,n)を得ることができる。ここでは、図示を省略するが、さらに、この受信シンボルX’(m,n)に対して、マルチパスを考慮した等化処理を施すことで、受信データを得ることができる。
【0064】
なお、本実施形態において、送信器100、200、300の送信パルスu(t)を構成するa(t)を、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエアルートナイキストパルスであるとして説明したが、ナイキスト間隔T/Mに対応するナイキストパルスとしてもよい。すなわち、送信パルスu(t)は、時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエアルートナイキストパルスまたはナイキストパルスが、N個配置された送信パルスである。なぜなら、ロールオフ係数がゼロの場合、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスは実質上ナイキスト間隔T/Mに対応するナイキストパルスとなる。ただし、ナイキストパルスを用いた場合は、受信器は、フィルタ部602を除いた受信器600となる。
【0065】
また、送信器100の送信パルス適用部101-1、101-2、・・・101-N、送信器200の送信パルス適用部203における送信パルスu(t-mT/M)の乗算は、アナログ信号で処理してもよいし、デジタル信号で処理してもよい。また、送信器300の波形整形部304における波形整形も、アナログ信号で処理してもよいし、デジタル信号で処理してもよい。また、受信器400のパルス乗算部402-1、402-2、・・・402-Nにおける乗算も、アナログ信号で処理してもよいし、デジタル信号で処理してもよい。ただし、スクエアルートナイキストパルスa(t)の帯域幅は、大なりイコールM/Tであるので、デジタル信号で処理する場合は、いずれも、スクエアルートナイキストパルスa(t)の帯域幅に合わせて、そのサンプリングレートをMK/T(ただしK>1)とする。
【0066】
また、式(4)において、あるシンボルのパルスと、ドップラー方向にmT/M、ディレイ方向にn/(NT)離れた位置のシンボルのパルスとの内積(ambiguity function)が、|m|<=M-2Qであれば、δ(m)δ(n)となるため、これらのパルスが直交することを示した。M-2Q<m<=M-1のときには、以下に示すように、上述の内積が0に近い値になるため、ほぼ直交していると言える。-(M-1)<=m<-(M-2Q)の場合も同様に0に近い値になるため、ほぼ直交していると言える。
【0067】
(mの上にドット(・))=m-Mとすると、内積は式(6)のように変形できる。
【0068】
【数6】
【0069】
なお、式(6)の(a)を付した等号(=)は、M-2Q<m<=M-1においては、a(t-nT)とa(t-nT-m×T/M)とはオーバーラップしていないが、a(t-nT)とa(t+T-nT-m×T/M)とはオーバーラップしていることに基づいている。なお、nは、nの上にドット(・)である。n=0であれば、式(6)は、式(7)となる。
【0070】
【数7】
【0071】
n≠0のときは、式(8)となり、内積の値は、無視できるほどに小さくなる。
【0072】
【数8】
【0073】
これは、下記に基づいている。
【0074】
【数9】
【0075】
上述の送信器100、200、300では、フレームにサイクリックプレフィクスを付加するCP付加部205、303などのCP付加部を備えていたが、これらに変えて、フレームにサイクリックプレフィクスだけでなく、サイクリックポストフィクスも付加するCPP付加部を備えるようにしてもよい。なお、送信器300のように、スクエアルートナイキストパルスまたはナイキストパルスを適用する前に、サイクリックプレフィクスやサイクリックポストフィクスを付加する場合は、付加する長さ分のシンボルを、フレームの末尾または頭からコピーして付加すればよい。
【0076】
送信器100、200のように、スクエアルートナイキストパルスまたはナイキストパルスを適用した後に、サイクリックプレフィクスやサイクリックポストフィクスを付加する場合は、送信器300でコピーしたシンボルに対応するパルス分のサンプルをフレームの末尾または頭からコピーして付加する。これは、時間多重する前に行ってもよい。例えば、送信器100では、周波数多重部103と時間多重部104の間に、CPP付加部を配置し、送信器200では、送信パルス適用部203と時間多重部204の間にCPP付加部を配置する。これらの場合、例えば、サイクリックプレフィクスの長さをLT/Mとする場合は、m=M-LからM-1の送信パルスの先頭に、各々の末尾のスクエアルートナイキストパルスまたはナイキストパルスに対応する分をコピーして付加する。また、サイクリックポストフィクスの長さをKT/Mとする場合は、m=0からK-1の送信パルスの末尾に、各々の先頭のスクエアルートナイキストパルスまたはナイキストパルスに対応する分をコピーして付加する。
【0077】
以下に示すように、サイクリックプレフィクス、サイクリックポストフィクス各々の長さは、(2Q-1)T/M以上であることが望ましい。これにより、送信パルス同士を直交させることができる。なお、チャネルの遅延を考慮する場合、サイクリックプレフィクスは、考慮するチャネル遅延分だけ、さらに長くすることが望ましい。
【0078】
サイクリックプレフィックスとサイクリックポストフィックスが付与された送信パルスを、式(10)で表す。
【0079】
【数10】
【0080】
m=0、n=0における送信パルスucpp(t)と、送信パルスucpp(t)からディレイ方向にmT/M、ドップラー方向にn/(NT)だけ離れた送信(受信)パルスとの内積Au(mT/M,n/NT)を考える。a(t)の値は、-QT/M<t<QT/M以外では0であり、2Q<Mであるので、式(11)が得られる。すなわち、これらが直交していることが分かる。なお、2Q>=Mであっても、式(10)のシグマにおけるn(nの上にドット)の範囲を広げ、例えば-2からN+1にするなどして、サイクリックプレフィックスとサイクリックポストフィックスを長くすることで、同様に直交させることができる。
【0081】
【数11】
【0082】
式(11)の(b)を付した等号は、|τ|<=QT/Mであるとき、|m|<=M-1かつn=0,…,N-1について、式(12)が成り立つことに基づいている。これは、M-(2Q-1)<=m<=M-1の場合は、ucpp(t)がサイクリックポストフィクスを有しているからであり、-(M-1)<=m<-(M-(2Q-1))の場合は、ucpp(t)がポストプレフィクスを有しているからである。サイクリックプレフィクス、サイクリックポストフィクス各々の長さが(2Q-1)T/M以上であることが望ましいのは、これらに基づいている。
【0083】
【数12】
【0084】
式(11)の(c)を付した等号は、ucpp(t)が、a(t)をタイムシフトしたものから構成されていることに基づいている。
【0085】
<第2の実施形態>
図14は、この発明の第2の実施形態による無線通信システムの構成を示す概略ブロック図である。本実施形態による無線通信システムは、送信器700と、受信器800とを備える。送信器700は、送信データTdを、OTFS(Orthogonal Time Frequency Space)変調して生成した信号を、送信する。受信器800は、送信器700が送信した信号を受信し、復調して受信データRdを得る。
【0086】
図15は、本実施形態における送信器700の構成を示す概略ブロック図である。送信器700は、変調部701、フレーム生成部702、OTFS変調部710、無線送信部705を備える。変調部701は、送信データTdを構成するビット列を、BPSK(Binary Phase Shift Keying)、QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、16QAMなどの変調方式を用いて変調することで、データシンボル列を生成する。フレーム生成部702は、変調部701が生成したデータシンボル列に、パイロットシンボルなどの既定値シンボルを付加したシンボル列を、遅延・ドップラー偏移空間(ディレイ・ドップラー空間)に配置したフレームを生成する。このフレームは、遅延軸方向(ディレイ方向)にM個、ドップラー偏移軸方向(ディレイ方向)にN個のシンボルからなるフレームである。ここでは、フレームを構成する遅延位置(ディレイ位置)m、ドップラー偏移位置(ドップラー位置)nのシンボルをx[m,n]と記載する。なお、フレームの構成の詳細は、後述する。
【0087】
OTFS変調部710は、送信データTdを含むフレーム(例えば、送信データTdのデータシンボルを含むフレーム)をOTFS変調して、送信信号を生成する。無線送信部705は、OTFS変調部710が生成した送信信号を、アナログ信号に変換し、さらに無線周波数にアップコンバートして無線送信する。
【0088】
一般にOTFS変調は、ISFFT(Inverse Symplectic Finite Fourier Transform)して周波数・時間空間の信号を生成し、さらにOFDM変調することで行われる。このため、OTFS変調部710は、ISFFT部120、OFDM変調部130を備える。ISFFT部120は、上述したフレームをISFFTして、周波数方向にM個、時間方向にN個のシンボルからなる周波数・時間空間の信号を生成する。OFDM変調部704は、ISFFT部120が生成した周波数・時間空間の信号をOFDM変調して、送信信号を生成する。
【0089】
一般にOFDM変調では、OFDMシンボル間で信号が不連続になることによる帯域外輻射を抑えるために、送信信号を生成する際の波形整形において、OFDMシンボル長に応じたウィンドウイングを行う。本実施形態のOTFS変調部710(OFDM変調部130)は、送信信号を生成する際の波形整形において、OFDMシンボル長に応じたウィンドウイングを行わない。
【0090】
図16は、本実施形態におけるISFFT部703の構成を示す概略ブロック図である。ISFFT部703は、NポイントIDFT(Inverse Discrete Fourier Transform)部731、MポイントDFT(Discrete Fourier Transform)部732を備える。
【0091】
NポイントIDFT部731は、フレーム内の各遅延位置mにおけるN個のシンボル、すなわち、ドップラー偏移軸方向に配列されたN個のシンボル(x[m,0]…x[m,N-1])に対して、Nポイントの逆離散フーリエ変換を行う。ここでは、x[m,0]…x[m,N-1]を逆離散フーリエ変換したものを、x[m,0]…x[m,N-1]と記載する。NポイントIDFT部731により、フレーム内のシンボルx[m,n](m=0~M-1,n=0~N-1)は変換されて、サンプルx[m,t](m=0~M-1,t=0~N-1)(各遅延位置mの時間領域の信号)が得られる。
【0092】
MポイントDFT部732は、サンプルx[m,t]の各tの列(サンプル列x[0,t]…x[M-1,t])に対して、Mポイントの離散フーリエ変換を行う。ここでは、x[0,t]…x[M-1,t]を離散フーリエ変換したものを、xIF[0,t]…xIF[M-1,t]と記載する。MポイントDFT部732により、サンプルx[m,t](m=0~M-1,t=0~N-1)は変換されて、シンボルxIF[f,t](f=0~M-1,t=0~N-1)が得られる。このようにして、MポイントDFT部732は、周波数方向にM個、時間方向にN個のシンボルからなる周波数・時間空間の信号(シンボルxIF[f,t](f=0~M-1,t=0~N-1))を生成する。
【0093】
図17は、本実施形態におけるOFDM変調部704の構成を示す概略ブロック図である。OFDM変調部704は、MポイントIDFT部741、P/S(Parallel/Serial)変換部742、CP(Cyclic Prefix)付加部743、波形整形部744を備える。
【0094】
MポイントIDFT部741は、ISFFT部703が生成した周波数・時間空間の信号に対して、Mポイントの逆離散フーリエ変換を行う。例えば、MポイントIDFT部741は、周波数・時間空間の信号の各時間位置tの列(シンボル列xIF[0,t]…xIF[M-1,t])に対して、Mポイントの逆離散フーリエ変換を行う。ここでは、xIF[0,t]…xIF[M-1,t]を逆離散フーリエ変換したものを、xIFI[0,t]…xIFI[M-1,t]と記載する。MポイントIDFT部741により、シンボルxIF[f,t](f=0~M-1,t=0~N-1)は変換されて、サンプルxIFI[i,t](i=0~M-1,t=0~N-1)が得られる。なお、シンボルxIF[f,t](f=0~M-1,t=0~N-1)は、周波数領域の信号であり、サンプルxIFI[i,t](i=0~M-1,t=0~N-1)は、時間領域の信号である。
【0095】
P/S変換部742は、MポイントIDFT部741による逆離散フーリエ変換の結果であるxIFI[0,t]…xIFI[M-1,t]を、パラレル/シリアル変換して、シリアル信号を生成する。CP付加部743は、P/S変換部742が生成したシリアル信号にCPを付加する。例えば、CP付加部743が付加するCPは、フレーム生成部702が生成したフレームに対応するシリアル信号の末尾L-1個のコピーを、先頭に付加する。
【0096】
波形整形部744は、CPが付加されたシリアル信号の各サンプルに対応するルートナイキストパルス(root Nyquist pulse)、またはナイキストパルス(Nyquist pulse)を生成する。なお、これらのナイキストパルスやルートナイキストパルスのサンプル間隔は、OFDM変調部704のOFDMシンボル長をTとして、T/Mである。ルートナイキストパルスの生成を行うルートナイキストフィルタには、例えば、二乗余弦フィルタ(raised-cosine filter)を用いる。また、ナイキストパルスの生成を行うナイキストフィルタには、例えば、SINCフィルタ(cardinal sine function filter)を用いる。これらのフィルタは、帯域幅を、M/Tとする。また、波形整形部744は、通常のOFDM変調で行われるOFDMシンボル長に応じたウィンドウイングを行わない。なお、送受信でのナイキスト条件を満たすために、波形整形部744にて、ルートナイキストフィルタを用いた場合は、受信器800においてもルートナイキストフィルタを用いる。このように、ナイキストフィルタを用いる、あるいは、送受信でルートナイキストフィルタを用いてナイキスト条件を満たすようにすることで、シンボル間干渉(Inter-Symbol Interference)を抑えている。
【0097】
図18は、本実施形態におけるフレーム生成部702が生成するフレームの構成例を示す模式図である。図18において、横軸はドップラー偏移軸、縦軸は遅延軸である。図18は、1フレームを表し、1フレームは、ドップラー偏移軸方向にN個、遅延軸方向にM個のシンボルから構成される。図18において、データシンボルは、変調部701が生成したデータシンボルである。データシンボルは、後述するガード帯域を除いて、遅延位置0からM-Lまでに配置されている。その他のシンボルは、送信側と受信側でシンボル値を共有している既定値シンボルである。したがって、遅延位置M-L+1から遅延位置M-1まで(遅延軸方向の最後のL-1行)には、既定値シンボルが配置されている。
【0098】
パイロットシンボルは、伝搬路推定に用いられる非0の既定値シンボルである。本実施形態では、パイロットシンボルは、遅延位置M-Lに配置されている。図18では、パイロットシンボルを1つのみ示したが、1フレーム内に複数のパイロットシンボルが含まれていても良い。例えば、ドップラー偏移軸方向に間隔をおいて、複数のパイロットシンボルが配置されていてもよい。
【0099】
伝搬路推定領域は、パイロットシンボルを中心に、ドップラー偏移軸方向に2K+1個、遅延位置M-LからM-1からなる領域であり、受信側で伝搬路の推定に用いられる領域である。この伝搬路推定領域には、既定値シンボルとして、値0のシンボルが配置されている。ここで、Kが、正の方向および負の方向のドップラー偏移の最大補償値であり、L-1が、遅延の最大補償値である。なお、ドップラー偏移軸は、サブキャリア間隔が1/(NT)であり、遅延軸は、サンプリング間隔がT/Mである。すなわち、ドップラー偏移の最大補償値は、周波数にすると±K/(NT)であり、遅延の最大補償値は、時間にすると(L-1)T/Mである。
【0100】
ガード帯域は、データシンボルや、スタッフィングシンボルが、チャネル推定時に、伝搬路推定領域に影響を及ぼさないようにするために伝搬路推定領域の外側に配置される領域であり、既定値シンボルとして、値0のシンボルが配置されている。ガード帯域は、伝搬路推定領域の遅延方向の前側L-1シンボルと、ドップラー偏移方向の外側Kシンボルからなる。スタッフィングシンボルは、遅延位置M-L+1からM-1のガード領域間に配置される既定値シンボルである。
【0101】
図19は、本実施形態の変形例による送信器700の構成を示す概略ブロック図である。同図において図15図16図17の各部に対応する部分には同一の符号を付け、その説明を省略する。図19の送信器700の構成は、図15による構成とは、OTFS変調部710が、ISFFT部703とOFDM変調部704からではなく、NポイントIDFT731、P/S変換部742、CP付加部743、波形整形部744から構成される点が異なる。
【0102】
すなわち、本変形例による送信器700では、NポイントIDFT部731の算出結果がP/S変換部742によりP/S変換されており、MポイントDFT部732と、MポイントIDFT部741とを備えていない。これは、これらを省いても、処理結果が変わらないためである。なぜなら、MポイントIDFT部741におけるMポイントの逆離散フーリエ変換が、MポイントDFT部732におけるMポイントの離散フーリエ変換の逆変換となっているため、すなわち、MポイントIDFT部741は、MポイントDFT部732の出力を、NポイントIDFT部731の出力に戻す処理をしているためである。
【0103】
このように構成されているので、P/S変換部742は、NポイントIDFT部731の算出結果である各遅延位置の時間領域の信号を構成するサンプルを、遅延方向にM個パラレルとみなしてパラレルシリアル変換している。
【0104】
図20は、本実施形態および本変形例によるCP付加部743の出力例を模式的に示した図である。ここでは、説明を簡易にするために、M=6、N=4、L=4として説明する。図20において、各矩形は、サンプルx[m,t](m=0~M-1,t=0~N-1)のいずれかを示している。さきに説明したように、MポイントIDFT部741の算出結果は、NポイントIDFR部731の算出結果と同じであるので、CP付加部743は、NポイントIDFT部731の算出結果(サンプルx[m,t](m=0~M-1,t=0~N-1))がP/S変換され、CPが付加されたものを出力する。
【0105】
そのため、先頭から(L-1)T/Mの区間の3つの矩形は、CPを構成するx[M-(L-1),N-1]、x[M-2,N-1]、x[M-1,N-1]である。続く長さNTのフレームは、N個の長さTの区間からなる。フレームの先頭の長さTの区間の6つの矩形は、x[0,0]、x[1,0]、x[2,0]、x[3,0]、x[4,0]、x[M-1,0]である。さらに、次の長さTの区間の6つの矩形は、x[0,1]、x[1,1]、x[2,1]、x[3,1]、x[4,1]、x[M-1,1]である。さらに、その次の長さTの区間の6つの矩形は、x[0,2]、x[1,2]、x[2,2]、x[3,2]、x[4,2]、x[M-1,2]である。
【0106】
このように、例えば、一番上の行(m=0を示した行)の矩形は、x[0,0]、x[0,1]、x[0,2]、x[0,3]となっており、シンボルx[0,0]、x[0,1]、x[0,2]、x[0,3]を逆離散フーリエ変換したもの(NサブキャリアのOFDMシンボル)となっている。また、上から2番目の行(m=1を示した行)の矩形は、x[1,0]、x[1,1]、x[1,2]、x[1,3]となっており、シンボルx[1,0]、x[1,1]、x[1,2]、x[1,3]を逆離散フーリエ変換したもの(NサブキャリアのOFDMシンボル)となっている。
【0107】
したがって、CP付加部743の出力は、フレームの各遅延位置mに対応するNサブキャリアのOFDMシンボルを時間多重したものと見ることができる。区間T/M毎に時間多重しているので、通常のOFDMとは異なり、OFDM変調部704のOFDMシンボル区間(図20で長さTの区間)の間で、他よりも大きな不連続が発生している訳ではない。したがって、波形整形部744において、通常のOFDM変調で行われているような、OFDM変調部704のOFDMシンボル長(区間長T)に応じた矩形のウィンドウイングを行っても効果は得られない。例えば、矩形のウィンドウイングを行うと、帯域外輻射の増加を招いてしまう。また、OFDMシンボル区間の前後に、OFDMシンボル内のサンプルのコピーを配置し、これらコピーの電力を下げておくことで、OFDMシンボル間の不連続を抑えるウィンドウイングを行うことで、帯域外輻射を抑えることはできる。しかし、この場合、コピーを配置した分だけ、オーバーヘッドが増え、伝送効率が下がってしまう。
【0108】
図21は、本実施形態によるPSD分布のシミュレーション結果の例を示すグラフである。図21のグラフは、キャリア周波数を5GHz、サブキャリア間隔を15kHz、Mを512、Nを、64、CP長を5.4μ秒、変調方式を16QAMとしたシミュレーション結果である。図21において、縦軸はパワースペクトル密度(Power Spectral Density;PSD)[dB]であり、横軸は、キャリア周波数からの周波数オフセット[MHz]である。
【0109】
グラフOTFSは、波形整形においてOFDM区間長に対応するウィンドウイングを行った場合のPSDの分布を示す。グラフRNPS-OTFSは、本実施形態および本実施例の場合、すなわち、波形整形においてOFDM区間長に対応するウィンドウイングを行わない場合のPSDの分布を示す。このように、ウィンドウイングを行った場合に比べて、ウィンドウイングを行わない本実施形態および本実施例の場合は、帯域外輻射を20dBも下げることができる。
【0110】
図22は、本実施形態における受信器800の構成を示す概略ブロック図である。受信器800は、無線受信部801、S/P変換部802、NポイントDFT部803、伝搬路推定部804、伝搬路補償部805、復号部806を備える。無線受信部801は、送信器700が無線送信した送信信号を受信し、サンプル間隔T/Mのサンプルからなる受信信号を出力する。送信器700の波形整形部744においてルートナイキストフィルタを用いている場合は、ナイキスト条件を満たすように、無線受信部801においても、受信信号のフィルタにルートナイキストフィルタを用いる。S/P変換部802は、無線受信部801が出力したサンプルを、M個おきにN個まとめたサンプル列を生成する。
【0111】
これにより、S/P変換部802は、1フレームの受信信号に対して、YからYM-1までのM個のサンプル列を生成する。なお、サンプル列Yは、フレームの先頭のサンプルを含む、すなわち、フレームの先頭からオフセット0のサンプルを含む、M個おきにN個まとめられたサンプル列である。サンプル列Yは、フレームの先頭からオフセット1のサンプルを含む、M個おきにN個まとめられたサンプル列である。同様に、サンプル列Yは、フレームの先頭からオフセットmのサンプルを含み、M個おきにN個まとめられたサンプル列である。このS/P変換部802は、時間多重されたYからYM-1までのサンプル列を、デマルチプレクスしている。このため、波形整形部744の説明でも記載したように、ナイキスト条件を満たし、シンボル間干渉を抑えておくことが望ましい。
【0112】
NポイントDFT部803は、サンプル列Y、Y、…YM-1の各々に対して、Nポイントの離散フーリエ変換を行う。ここでは、サンプル列Yを離散フーリエ変換したものを、シンボル列yと記載する。NポイントDFT部803により、サンプル列Y(m=0~M-1)は変換されて、シンボル列y(m=0~M-1)が得られる。なおシンボル列y(m=0~M-1)は、周波数領域の信号であり、サンプル列Y(m=0~M-1)は、時間領域の信号である。
【0113】
伝搬路推定部804は、シンボル列y(m=0~M-1)からパイロットシンボルを検出して、伝搬路推定を行う。例えば、伝搬路推定部804は、図18に示した伝搬路推定領域におけるパイロットシンボルの検出を行う。ここでは、伝搬路推定部804による、伝搬路推定領域の各位置(k,l)におけるパイロットシンボルの検出結果(ゲイン)をg(k,l)と記載する。なお、kは、ドップラー偏移位置であり、-KからKの値をとり、lは、遅延位置であり、0からL-1の値をとる。
【0114】
伝搬路補償部805は、伝搬路推定部804による推定結果を用いて、シンボル列y(m=0~M-1)の伝搬路補償を行い、シンボル列x(m=0~M-1)を算出する。例えば、伝搬路補償部805は、式(13)を解くことで、シンボル列x(m=0~M-1)を算出する。なお、Cは、k番目のN×Nの巡回置換行列C(cyclic permutation matrix C)である。
【0115】
【数13】
【0116】
【数14】
【0117】
シンボル列x(m=0~M-1)は、送信器700のフレーム生成部702が、フレームに配置したシンボル列(x[m,0]…x[m,N-1])であるので、伝搬路補償部805は、式(13)を最小二乗法、最尤推定法などで解いても良い。
【0118】
また、シンボル列x(m=M-L+1~M-1)は既定値シンボルで構成されているので、伝搬路補償部805は、式(13)に、シンボル列x(m=M-L+1~M-1)を代入して、xを求め、次に、シンボル列x(m=M-L+2~M-1,0)を代入して、xを求め、というように、逐次xを算出してもよい。さらに、このように逐次xを算出する際に代入するシンボル列xm-L+1からxm-1は、伝搬路補償部805の算出結果に対して、伝搬路符号として用いられた誤り訂正符号による誤り訂正を復号部806において施した結果から得られたシンボル列であってもよい。この場合、シンボル列x(m=0~M-L)の各々伝搬路符号の復号が可能なように、送信器700は、伝搬路符号化を、シンボル列x(m=0~M-L)の各々を単位として行っておく。
【0119】
復号部806は、伝搬路補償部805が算出したシンボル列x(m=0~M-L)を復号して、受信データRdを算出する。
【0120】
このように、S/P変換部802は、無線受信部801が出力したサンプルを、M個おきにN個まとめたサンプル列を生成する。NポイントDFT部803は、サンプル列Y、Y、…YM-1の各々に対して、Nポイントの離散フーリエ変換を行う。これにより、OTFS変調の逆処理を行う場合に比べて少ない演算量で、遅延・ドップラー偏移空間における受信シンボルを得ることが出来る。なお、OTFS変調の逆処理で行う場合は、P/S変換、MポイントDFT、MポイントIDFT、NポイントDFTが必要である。
【0121】
また、フレーム中の遅延位置M-L+1からM-1までの既定値シンボルを用いることで、伝搬路補償を遅延位置毎に逐次行うことができる。これにより、伝搬路補償における演算量を抑えることができる。
【0122】
図23は、本実施形態によるビットエラーレートのシミュレーション結果を示すグラフである。図23のグラフは、Mを512、Nを128、変調方式を4QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、受信側の移動速度を120Km/h、チャネルをEVA(Extended Vehicular A)Channelとしたシミュレーション結果である。図23において、縦軸はビットエラーレート(Bit Error Rate: BER)、横軸はSN比(Signal to Noise Ratio: SNR)である。グラフOTFSは、波形整形においてOFDM区間長に対応するウィンドウイングを行った場合のビットエラーレートを示す。グラフRNPS-OTFSは、本実施形態および本実施例の場合、すなわち、波形整形においてOFDM区間長に対応するウィンドウイングを行わない場合のビットエラーレートを示す。このように、ウィンドウイングを行った場合に比べて、ウィンドウイングを行わない本実施形態および本実施例の場合は、良好なビットエラーレートを得ることができる。
【0123】
また、本発明は、以下のように表すこともできる。
【0124】
(1)本発明の一態様は、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームを送信する送信部と、時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスまたはナイキストパルスが、N個配置された送信パルスを、前記シンボル各々に適用する送信パルス適用部とを備える送信器である。
【0125】
(2)また、本発明の他の一態様は、上述した送信器であって、前記送信部は、前記フレームのドップラー領域のN個のシンボルからなるセット各々を逆フーリエ変換して、前記セット各々に対応する時間領域の信号を生成する逆フーリエ変換部を備え、前記送信パルス適用部は、前記セット各々に対応する時間領域の信号に、前記送信パルスを適用し、前記送信部は、前記送信パルスが適用された時間領域の信号を、時間多重する時間多重部を備える。
【0126】
(3)また、本発明の他の一態様は、上述した送信器であって、前記送信部は、前記フレームのドップラー領域のN個のシンボルからなるセット各々を逆フーリエ変換して、前記セット各々に対応する時間領域の信号を生成する逆フーリエ変換部を備え、前記送信パルス適用部は、前記セット各々に対応する時間領域の信号を、時間多重した後に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスまたはナイキストパルスによる波形整形を行い、前記セット各々に対応する時間領域の信号の時間多重は、前記セット各々に対応する時間領域の信号のサンプルひとつずつをサンプル間隔T/Mで、前記セットが順に変わるように並べることで行われる。
【0127】
(4)また、本発明の他の一態様は、上述した送信器であって、前記フレームにサイクリックプレフィクスを付加するCP付加部、または前記フレームにサイクリックプレフィクスおよびサイクリックポストフィクスを付加するCPP付加部を備える。
【0128】
(5)また、本発明の他の一態様は、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームを送信する送信するステップと、時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスまたはナイキストパルスが、N個配置された送信パルスを、前記フレームに適用するステップとを備える送信方法である。
【0129】
(6)また、本発明の他の一態様は、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームの信号を受信する受信部と、時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスが、N個配置されたパルスを、前記信号に乗算し、前記パルスのパルス幅にわたって積分する整合フィルタ部とを備える受信器である。
【0130】
(7)また、本発明の他の一態様は、ディレイ方向にM個、ドップラー方向にN個のシンボルを配置したフレームの信号を受信するステップと、時間間隔T毎に、ナイキスト間隔T/Mに対応するスクエア-ルートナイキストパルスが、N個配置されたパルスを、前記信号に乗算し、前記パルスのパルス幅にわたって積分するステップとを備える受信方法である。
【0131】
(8)また、本発明の他の一態様は、送信データを含むフレームであって、遅延方向の幅がM、ドップラー偏移軸方向の幅がNのフレームをOTFS(Orthogonal Time Frequency Space)変調して、送信信号を生成するOTFS変調部と、前記送信信号を送信する送信部とを備え、前記OTFS変調部は、前記送信信号を生成する際の波形整形のためのルートナイキストフィルタ、またはナイキストフィルタを備え、さらに、前記送信信号を生成する際の波形整形において、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)シンボル長に応じたウィンドウイングを行わない、送信器である。
【0132】
(9)また、本発明の他の一態様は、上述した送信器であって、前記OTFS変調部は、前記フレーム内の各遅延位置におけるN個のシンボルを逆離散フーリエ変換して、各遅延位置の時間領域の信号を生成する逆離散フーリエ変換部と、前記時間領域の信号を構成する各サンプルを、遅延方向にM個パラレルとみなしてパラレルシリアル変換をするP/S変換部とを備える。
【0133】
(10)また、本発明の他の一態様は、上述した送信器であって、前記OTFS変調部によるOTFS変調の対象となる、遅延・ドップラー偏移空間に配列されたフレームのうち、遅延軸方向の最後のL-1行は既定値シンボルであり、前記L-1にサンプリング間隔を乗じたものは、遅延の最大補償値である。
【0134】
(11)また、本発明の他の一態様は、遅延方向の幅がM、ドップラー偏移軸方向の幅がNのフレームを受信する受信器であって、受信信号から、M個おきにN個まとめたサンプル列を生成するS/P変換部と、前記サンプル列の各々に対して、離散フーリエ変換を行う離散フーリエ変換部とを備える受信器である。
【0135】
(12)また、本発明の他の一態様は、上述した受信器であって、前記フレームのうち、遅延位置M-L+1からM-1までが既定値シンボルであり、前記既定値シンボルを用いて伝搬路補償をする伝搬路補償部を備える。
【0136】
(13)また、本発明の他の一態様は、上述した受信器であって、前記受信信号にルートナイキストフィルタを掛ける。
【0137】
(14)また、本発明の他の一態様は、送信器における送信方法であって、送信データを含むフレームであって、遅延方向の幅がM、ドップラー偏移軸方向の幅がNのフレームをOTFS(Orthogonal Time Frequency Space)変調して、送信信号を生成する第1のステップと前記送信信号を送信する第2のステップとを有し、前記第1のステップにおいて、前記送信信号を生成する際の波形整形にルートナイキストフィルタ、またはナイキストフィルタを用い、さらに、前記送信信号を生成する際の波形整形において、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)シンボル長に応じたウィンドウイングを行わない、送信方法である。
【0138】
(15)また、本発明の他の一態様は、遅延方向の幅がM、ドップラー偏移軸方向の幅がNのフレームを受信する受信器における受信方法であって、受信信号から、M個おきにN個まとめたサンプル列を生成する第1のステップと、前記サンプル列の各々に対して、離散フーリエ変換を行う第2のステップとを有する受信方法である。
【0139】
なお、上述の各実施形態では、無線通信を例に説明したが、光通信など、他の媒体を用いた通信であってもよい。
また、上述した図1図7図8図10図11図13における送信器100、200、300、受信器400、500、600の各機能ブロックは個別にチップ化してもよいし、一部、または全部を集積してチップ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず、専用回路、または汎用プロセッサで実現しても良い。ハイブリッド、モノリシックのいずれでも良い。一部は、ハードウェアにより、一部はソフトウェアにより機能を実現させても良い。
また、半導体技術の進歩により、LSIに代替する集積回路化等の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いることも可能である。
【0140】
以上、この発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0141】
100、200、300、700…送信器
101-1、101-2、101-N、203、310…送信パルス適用部
102-1、102-2、102-N…サブキャリア乗算部
103…周波数多重部
104、204、302…時間多重部
105、206、305…RF部
201、301…IDFT部
202…D/A変換部
205、303…CP付加部
304…波形整形部
400、500、600、800…受信器
401、501、601…RF部
402-1、402-2、・・・402-N、541…パルス乗算部
403-1、403-2、・・・403-N…積分部
502、603…サンプリング部
503、604…CP除去部
504-1、504-2、・・・504-N…整合フィルタ部
541…パルス乗算部
542、606…DFT部
602…フィルタ部
605…時間分離部
701…変調部
702…フレーム生成部
703…ISFFT部
704…OFDM変調部
705…無線送信部
710…OTFS変調部
731…NポイントIDFT部
732…MポイントDFT部
741…MポイントIDFT部
742…P/S変換部
743…CP付加部
744…波形整形部
801…無線受信部
802…S/P変換部
803…NポイントDFT部
804…伝搬路推定部
805…伝搬路補償部
806…復号部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23