(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240729BHJP
B23K 26/364 20140101ALI20240729BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20240729BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/364
B23K26/53
(21)【出願番号】P 2020180143
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】田中 圭
(72)【発明者】
【氏名】小幡 翼
(72)【発明者】
【氏名】李 怡慧
【審査官】久宗 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-50264(JP,A)
【文献】特開2019-140326(JP,A)
【文献】特開2007-173475(JP,A)
【文献】特開昭56-129640(JP,A)
【文献】特開2008-012542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/364
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが基板及び該基板の表面に積層された機能層を有し、格子状に設定された複数のストリートで区画された領域に含まれる該基板の一部及び該機能層の一部によってデバイスが構成されている第1のウエーハ及び該第1のウエーハより厚い第2のウエーハを該複数のストリートに沿って分割して個々のチップを製造するチップの製造方法であって、
該基板及び該機能層の少なくとも一方に吸収される波長のレーザービームを該機能層の露出した表面側から該複数のストリートに沿って照射することで、該機能層を貫通して該基板を露出させるレーザー加工溝を形成するレーザー加工溝形成ステップと、
該レーザー加工溝形成ステップの後、該基板を透過する波長のレーザービームを該基板の裏面側から該基板の内部に集光点を位置付けて照射することで、該基板に分割起点となる改質層を形成する改質層形成ステップと、を備え、
該第1のウエーハに対する該レーザー加工溝形成ステップにおけるレーザービームの集光点と該基板の裏面との間隔と、該第2のウエーハに対する該レーザー加工溝形成ステップにおけるレーザービームの集光点と該基板の裏面との間隔とが等しい状態で、該第1のウエーハに形成される該レーザー加工溝が該第2のウエーハに形成される該レーザー加工溝より浅くなるように、該レーザー加工溝形成ステップにおいて該第1のウエーハ及び該第2のウエーハにレーザービームを照射することを特徴とする、チップの製造方法。
【請求項2】
該レーザー加工溝形成ステップでは、該機能層に吸収される波長のレーザービームを該機能層の表面側から該複数のストリートに沿って照射した後、該基板に吸収される波長のレーザービームを該機能層の表面側から該複数のストリートに沿って照射する、請求項1に記載のチップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC(Integrated Circuit)及びLSI(Large Scale Integration)等のデバイスのチップは、携帯電話及びパーソナルコンピュータ等の各種電子機器において不可欠の構成である。このチップは、例えば、以下の順序で製造される。
【0003】
まず、半導体材料からなる円盤状の基板を用意する。次いで、格子状に設定された複数のストリートで区画された領域にデバイスが形成されるように、導電膜及び絶縁膜を含む機能層を基板の表面に積層する。次いで、複数のストリートに沿ってウエーハを分割して個々のチップを製造する。
【0004】
ここで、基板の表面に機能層が積層される際には、一般的に、デバイスの性能を評価するためのTEG(Test Element Group)が複数のストリートのいずれかに設けられる。また、デバイスを形成するために利用される絶縁膜(例えば、低誘電率絶縁体被膜(Low-k膜))は、基板の表面の全体に設けられた後、エッチング等によって除去されずに複数のストリートに残存することが多い。
【0005】
そのため、チップを製造する際には、基板のみならずTEG及びLow-k膜等を含む機能層を除去できる方法によってウエーハを分割する必要がある。そのための方法としては、例えば、レーザービームを用いる方法が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
この方法においては、まず、機能層に吸収される波長のレーザービームを機能層の露出した表面側から照射してアブレーションを生じさせることで複数のストリートに存在する機能層を除去する。次いで、基板を透過する波長のレーザービームを基板の裏面側から基板の内部に集光点を位置付けて照射することで複数のストリートに存在する基板の内部に改質層を形成する。次いで、改質層が形成された基板を含むウエーハに外力を付与することで改質層を分割起点として複数のストリートに沿ってウエーハを分割する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のようにチップを製造する場合、複数のウエーハのそれぞれを同じ条件で連続的に加工することが一般的である。ただし、複数のウエーハの厚さ(それぞれのウエーハの厚さに面内ばらつきが存在する場合には、その平均厚さ)が異なる場合には、それらの全てを意図通りに分割できないことがある。
【0009】
具体的には、複数のウエーハの厚さが異なる場合には、ウエーハがデバイスを含む領域において割れる、又は、ウエーハが分割されないといった加工不良が生じることがある。このような問題は、レーザービームの平均出力や基板の内部に改質層を形成する際にレーザービームが集光される位置(基板の裏面からのレーザービームの集光点の深さ)等の加工条件をウエーハの厚さに応じて変更することで防止され得る。ただし、このように加工条件を変更する場合には得られるチップの品質がばらつくといった品質不良が生じるおそれがある。
【0010】
以上の点に鑑み、本発明の目的は、複数のウエーハの厚さが異なる場合であっても、加工不良及び品質不良を生じさせずにチップを製造できるチップの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、それぞれが基板及び該基板の表面に積層された機能層を有し、格子状に設定された複数のストリートで区画された領域に含まれる該基板の一部及び該機能層の一部によってデバイスが構成されている第1のウエーハ及び該第1のウエーハより厚い第2のウエーハを該複数のストリートに沿って分割して個々のチップを製造するチップの製造方法であって、該基板及び該機能層の少なくとも一方に吸収される波長のレーザービームを該機能層の露出した表面側から該複数のストリートに沿って照射することで、該機能層を貫通して該基板を露出させるレーザー加工溝を形成するレーザー加工溝形成ステップと、該レーザー加工溝形成ステップの後、該基板を透過する波長のレーザービームを該基板の裏面側から該基板の内部に集光点を位置付けて照射することで、該基板に分割起点となる改質層を形成する改質層形成ステップと、を備え、該第1のウエーハに対する該レーザー加工溝形成ステップにおけるレーザービームの集光点と該基板の裏面との間隔と、該第2のウエーハに対する該レーザー加工溝形成ステップにおけるレーザービームの集光点と該基板の裏面との間隔とが等しい状態で、該第1のウエーハに形成される該レーザー加工溝が該第2のウエーハに形成される該レーザー加工溝より浅くなるように、該レーザー加工溝形成ステップにおいて該第1のウエーハ及び該第2のウエーハにレーザービームを照射する、チップの製造方法が提供される。
【0012】
好ましくは、該レーザー加工溝形成ステップでは、該機能層に吸収される波長のレーザービームを該機能層の表面側から該複数のストリートに沿って照射した後、該基板に吸収される波長のレーザービームを該機能層の表面側から該複数のストリートに沿って照射する。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、レーザー加工溝形成ステップにおけるレーザービームの集光点と基板の裏面との間隔を一定に維持した状態で、薄いウエーハ(第1のウエーハ)に形成されるレーザー加工溝が厚いウエーハ(第2のウエーハ)に形成されるレーザー加工溝より浅くなるように、薄いウエーハ(第1のウエーハ)及び厚いウエーハ(第2のウエーハ)のそれぞれにレーザービームを照射する。
【0014】
これにより、本発明においては、薄いウエーハ及び厚いウエーハのそれぞれに対して個別の加工条件を設定することなく、基板の裏面から所定の深さに改質層が形成されるように改質層形成ステップを同じ条件で行う場合であっても、改質層の近傍にレーザー加工溝の底面を位置付けることができる。そのため、薄いウエーハ及び厚いウエーハのそれぞれに外力を付与した場合に、改質層を分割起点とする亀裂がレーザー加工溝に向かって進展する蓋然性が高くなる。
【0015】
換言すると、本発明においては、薄いウエーハの厚さ方向においてレーザー加工溝に重なる基板の領域(未加工領域)の厚さと厚いウエーハの未加工領域の厚さとの差を、薄いウエーハの厚さと厚いウエーハの厚さとの差より小さくできる。そのため、薄いウエーハ及び厚いウエーハのそれぞれに対して同じ条件で改質層形成ステップを行う場合であっても、両ウエーハの基板を同様の加工状態とすることができる。
【0016】
その結果、加工不良を生じさせずに複数のウエーハの全てを分割して、それぞれのウエーハから個々のチップを製造できる。また、本発明においては、レーザービームの平均出力や基板の内部に改質層を形成する際にレーザービームが集光される位置(基板の裏面からのレーザービームの集光点の深さ)等の加工条件をウエーハの厚さに応じて変更することなく複数のウエーハの全てを分割できるため、品質不良の発生が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(A)は、ウエーハの一例を模式的に示す斜視図であり、
図1(B)は、薄いウエーハの一例を模式的に示す断面図であり、
図1(C)は、厚いウエーハの一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、チップの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、レーザー加工溝形成ステップを行うレーザー加工装置及びウエーハを模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4(A)は、レーザー加工溝が形成された薄いウエーハの一例を模式的に示す断面図であり、
図4(B)は、レーザー加工溝が形成された厚いウエーハの一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5(A)は、改質層が形成された薄いウエーハの一例を模式的に示す断面図であり、
図5(B)は、改質層が形成された厚いウエーハの一例を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6(A)は、分割ステップを行う前のエキスパンド装置及びウエーハを模式的に示す断面図であり、
図6(B)は、分割ステップを行った後のエキスパンド装置及びウエーハを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1(A)は、チップを製造するために分割されるウエーハの一例を模式的に示す斜視図であり、
図1(B)は、
図1(A)に示されるような構造を有する薄いウエーハ(第1のウエーハ)の一例を模式的に示す断面図であり、
図1(C)は、
図1(A)に示されるような構造を有する厚いウエーハの一例を模式的に示す断面図である。
【0019】
図1(A)に示されるウエーハ11は、外縁に結晶方位を示すためのノッチが形成された円盤状の基板13を有する。基板13は、例えば、シリコン(Si)からなり、その表面(上面)側の一部には不純物がドーピングされた不純物領域が設けられている。
【0020】
なお、基板13の材質、形状、構造及び大きさ等に制限はない。基板13は、例えば、シリコン以外の半導体、セラミックス、樹脂及び金属等の材料でなっていてもよい。また、基板13に不純物領域が設けられないこともある。また、基板13の外縁には、ノッチの代わりに結晶方位を示す平部、いわゆる、オリエンテーションフラット(オリフラ)が形成されていてもよい。
【0021】
基板13の表面には、複数の絶縁膜及び複数の導電膜を含む機能層15が積層されている。ウエーハ11は、積層された基板13及び機能層15によって構成されており、その厚さは、例えば、275μm~325μmである。
【0022】
また、ウエーハ11においては、格子状に設定された複数のストリート17で区画された領域に含まれる基板13の一部(不純物が存在しない真性半導体領域及び不純物領域)及び機能層15の一部(絶縁膜及び導電膜)によってデバイス(IC等)19が構成されている。なお、デバイス19の種類、数量、形状、構造、大きさ及び配置等に制限はない。
【0023】
そして、本実施形態においては、
図1(B)及び
図1(C)に示されるように厚さが異なる複数のウエーハを分割して個々のチップを製造する。なお、
図1(B)に示される薄いウエーハ(第1のウエーハ)11aと、
図1(C)に示される厚いウエーハ(第2のウエーハ)11bとは、
図1(B)に示される基板13aが
図1(C)に示される厚い基板13bより薄い点を除いて同じ構造を有する。
【0024】
図2は、本実施形態に係るチップの製造方法の一例を示すフローチャートである。この方法においては、まず、機能層15の露出した表面側にレーザービームを照射することで、機能層15を貫通して基板13(13a,13a)を露出させるレーザー加工溝を形成する(レーザー加工溝形成ステップ:S1)。
【0025】
図3は、レーザー加工溝形成ステップ(S1)を行うレーザー加工装置及びウエーハ11を模式的に示す斜視図である。なお、
図3に示されるX軸方向及びY軸方向は、水平面上において互いに直交する方向であり、また、Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向に直交する方向(鉛直方向)である。
【0026】
図3に示されるレーザー加工装置2は、X軸方向及びY軸方向に概ね平行な円状の保持面を有し、この保持面でウエーハ11(11a,11b)を保持可能なチャックテーブル4を有する。チャックテーブル4は、吸引機構(不図示)に連結されている。
【0027】
吸引機構は、エジェクタ等を有し、チャックテーブル4の保持面に負圧を生じさせることが可能である。そして、保持面にウエーハ11(11a,11b)が載置された状態で吸引機構が動作すると、ウエーハ11(11a,11b)がチャックテーブル4に吸引保持される。
【0028】
さらに、チャックテーブル4は、X軸方向移動機構(不図示)及びY軸方向移動機構(不図示)に連結されている。X軸方向移動機構及びY軸方向移動機構は、例えば、ボールねじ及びモータ等を有する。そして、X軸方向移動機構及び/又はY軸方向移動機構が動作すると、チャックテーブル4は、X軸方向及び/又はY軸方向に沿って移動する。
【0029】
また、チャックテーブル4は、回転機構(不図示)に連結されている。回転機構は、例えば、スピンドル及びモータ等を有する。そして、回転機構が動作すると、チャックテーブル4は、保持面の中心を通るZ軸方向に沿った直線を回転軸として回転する。
【0030】
チャックテーブル4の上方には、レーザービーム照射ユニット6のヘッド8が設けられている。ヘッド8は、X軸方向に沿って延在する連結部10の先端部(一端部)に設けられている。なお、ヘッド8は集光レンズ及びミラー等の光学系を収容し、連結部10はミラー及び/又はレンズ等の光学系を収容する。
【0031】
連結部10の他端部は、Z軸方向移動機構(不図示)に連結されている。なお、Z軸方向移動機構は、例えば、ボールねじ及びモータ等を有する。そして、Z軸方向移動機構が動作すると、ヘッド8及び連結部10は、Z軸方向に沿って移動する。
【0032】
また、レーザービーム照射ユニット6は、基板13(13a,13a)及び機能層15の少なくとも一方に吸収される波長(例えば、355nm)のレーザービームを生成するレーザー発振器(不図示)を有する。
【0033】
レーザー発振器は、例えば、Nd:YAG等のレーザー媒質を有する。そして、レーザー発振器でレーザービームが生成されると、連結部10及びヘッド8の光学系を介して、レーザービームがチャックテーブル4の保持面側に照射される。
【0034】
また、連結部10の側部には、チャックテーブル4の保持面側を撮像可能な撮像ユニット12が設けられている。撮像ユニット12は、例えば、可視光又は赤外線を出射するLED(Light Emitting Diode)等の光源と、対物レンズと、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の撮像素子とを有する。そして、撮像ユニット12の対物レンズは、ヘッド8に収容された集光レンズからみてY軸方向に沿って離隔した位置に設けられている。
【0035】
レーザー加工装置2を用いたレーザー加工溝形成ステップ(S1)は、例えば、以下の順序で行われる。まず、機能層15が上になるようにウエーハ11(11a,11b)をチャックテーブル4の保持面に載置する。次いで、ウエーハ11(11a,11b)がチャックテーブル4に吸引保持されるように吸引機構が動作する。
【0036】
次いで、可視光を用いた撮像ユニット12による撮像によって形成された機能層15の露出した表面の画像等に基づいて、複数のストリート17がX軸方向又はY軸方向に平行になるように回転機構がチャックテーブル4を回転させる。次いで、ヘッド8の直下に複数のストリート17の一部が位置付けられるようにX軸方向移動機構及びY軸方向移動機構がチャックテーブル4を移動させる。
【0037】
次いで、X軸方向移動機構又はY軸方向移動機構がチャックテーブル4を移動させながら、基板13(13a,13a)及び機能層15の少なくとも一方に吸収される波長のレーザービームをレーザービーム照射ユニット6が照射する。
【0038】
なお、このレーザービームは、例えば、その平均出力が0.1W~50.0W(代表的には、1.0W~1.5W)であり、その繰り返し周波数が10kHz~50MHz(代表的には、40kHz~160kHz)であるパルスレーザービームである。また、チャックテーブル4のX軸方向又はY軸方向への移動速度(加工送り速度)は、例えば、50mm/s~1000mm/sである。
【0039】
その結果、レーザービームが照射されたストリート17とZ軸方向において重なる機能層15及び基板13(13a,13a)にアブレーションが生じて、機能層15を貫通して基板13(13a,13a)を露出させるレーザー加工溝21が形成される。さらに、このレーザービームの照射を残りのストリート17に対して順次実施することで、複数のストリート17の全てにレーザー加工溝21が形成される。
【0040】
図4(A)は、レーザー加工溝21aが形成された薄いウエーハ11aを模式的に示す断面図であり、
図4(B)は、レーザー加工溝21bが形成された厚いウエーハ11bを模式的に示す断面図である。
【0041】
レーザー加工溝形成ステップ(S1)においては、例えば、チャックテーブル4の保持面を基準としたレーザービーム照射ユニット6のヘッド8の高さを一定に維持した状態(すなわち、チャックテーブル4の保持面を基準としたレーザービームL1の集光点F1の高さを一定に維持した状態)で、薄いウエーハ11aに形成されるレーザー加工溝21aが厚いウエーハ11bに形成されるレーザー加工溝21bより浅くなるように、薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bに対してレーザービームL1を照射する。
【0042】
換言すると、集光レンズ8aによって集光されたレーザービームL1の集光点F1と基板13(13a,13b)の裏面との間隔d1を一定に維持した状態で、薄いウエーハ11aに形成されるレーザー加工溝21aが厚いウエーハ11bに形成されるレーザー加工溝21bより浅くなるように、薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bにレーザービームL1を照射する。
【0043】
図2に示されるチップの製造方法においては、レーザー加工溝形成ステップ(S1)の後、基板13(13a,13a)の裏面側にレーザービームを照射することで、基板13(13a,13a)に分割起点となる改質層を形成する(改質層形成ステップ:S2)。
【0044】
なお、
図2に示されるチップの製造方法においては、薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bに対してレーザー加工溝形成ステップ(S1)及び改質層形成ステップ(S2)を行う順序は限定されない。
【0045】
例えば、薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bの一方に対するレーザー加工溝形成ステップ(S1)及び改質層形成ステップ(S2)を連続的に行った後に、他方に対するレーザー加工溝形成ステップ(S1)及び改質層形成ステップ(S2)を連続的に行ってもよい。
【0046】
あるいは、薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bの双方に対するレーザー加工溝形成ステップ(S1)を連続的に行った後、双方に対する改質層形成ステップ(S2)を連続的に行ってもよい。
【0047】
改質層形成ステップ(S2)は、例えば、
図3に示されるレーザー加工装置2と同様の構造を有するレーザー照射装置を用いて行われる。ただし、改質層形成ステップ(S2)においては、基板13(13a,13a)を透過する波長(例えば、1099nm)のレーザービームが利用される。
【0048】
そのため、改質層形成ステップ(S2)で用いられるレーザー照射装置は、この波長のレーザービームを生成するレーザー発振器を有する。また、このようなレーザー発振器が
図3に示されるレーザー加工装置2に含まれる場合には、レーザー加工装置2を用いて改質層形成ステップ(S2)を行ってもよい。
【0049】
レーザー照射装置を用いた改質層形成ステップ(S2)は、例えば、以下の順序で行われる。まず、基板13(13a,13b)が上になるようにウエーハ11(11a,11b)をチャックテーブルの保持面に載置する。次いで、ウエーハ11(11a,11b)がチャックテーブルに吸引保持されるように吸引機構が動作する。
【0050】
次いで、赤外線を用いた撮像ユニットによる撮像によって形成された基板13(13a,13b)の表面の画像等に基づいて、複数のストリート17がX軸方向又はY軸方向に平行になるように回転機構がチャックテーブルを回転させる。次いで、集光レンズ等の光学系を有するレーザービーム照射ユニットのヘッドと基板13(13a,13b)の裏面との間隔が所定の距離になるようにZ軸方向移動機構がヘッドを移動させる。
【0051】
次いで、ヘッドの直下に複数のストリート17の一部が位置するようにX軸方向移動機構及びY軸方向移動機構がチャックテーブルを移動させる。次いで、X軸方向移動機構又はY軸方向移動機構がチャックテーブルを移動させながら、基板13(13a,13b)を透過する波長のレーザービームをレーザービーム照射ユニットが照射する。この時、レーザービームの集光点は、基板13(13a,13b)の内部に位置付けられる。
【0052】
なお、このレーザービームは、例えば、その平均出力が0.5W~3.0W(代表的には、1.5W)であり、その繰り返し周波数が80kHz~150kHz(代表的には、100kHz)であるパルスレーザービームである。また、チャックテーブルのX軸方向又はY軸方向への移動速度(加工送り速度)は、例えば、50mm/s~1000mm/sである。
【0053】
その結果、レーザービームが照射されたストリート17とZ軸方向において重なる基板13(13a,13b)の内部に改質層が形成される。さらに、このレーザービームの照射を残りのストリート17に対して順次実施することで、複数のストリート17の全ての基板13(13a,13b)の内部に改質層が形成される。
【0054】
図5(A)は、改質層23aが形成された薄いウエーハ11aを模式的に示す断面図であり、
図5(B)は、改質層23bが形成された厚いウエーハ11bを模式的に示す断面図である。
【0055】
改質層形成ステップ(S2)においては、例えば、基板13(13a,13b)の裏面を基準としたヘッドの高さを異ならせずに、薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bに対してレーザービームL2を照射する。換言すると、集光レンズ8bによって集光されたレーザービームL2の集光点F2と基板13(13a,13b)の裏面との間隔d2を一定に維持した状態で薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bにレーザービームL2を照射する。
【0056】
この場合、薄いウエーハ11aに形成される改質層23aとレーザー加工溝21aの底面との間隔が厚いウエーハ11bに形成される改質層23bとレーザー加工溝21bの底面との間隔に概ね等しくなるように、ウエーハ11(11a,11b)に改質層23a,23bを形成できる。
【0057】
図2に示されるチップの製造方法においては、改質層形成ステップ(S2)の後、外力を付与してウエーハ11(11a,11b)を分割する(分割ステップ:S3)。
図6(A)は、分割ステップ(S3)を行う前のエキスパンド装置及びウエーハ11を示す断面図であり、
図6(B)は、分割ステップ(S3)を行った後のエキスパンド装置及びウエーハ11を示す断面図である。
【0058】
分割ステップ(S3)においては、まず、円盤状のエキスパンドテープ25の上面の周辺領域に環状のフレーム27を貼付し、また、その中央領域にウエーハ11(11a,11b)の基板13(13a,13b)を貼付する(
図6(A)参照)。そして、エキスパンドテープ25を
図6(A)及び
図6(B)に示されるエキスパンド装置14によって拡張する。
【0059】
エキスパンド装置14は、円筒形のドラム16と、支持ユニット18とを有する。支持ユニット18は、ドラム16の上端部を囲むように設けられている環状の支持台20を有する。支持台20は、エキスパンドテープ25の周辺領域及びフレーム27を支持可能である。
【0060】
また、支持ユニット18は、支持台20上においてその周方向に沿って概ね等間隔で配置された複数のクランプ22を有する。複数のクランプ22は、支持台20とともにエキスパンドテープ25の周辺領域及びフレーム27を把持して固定可能である。
【0061】
また、支持ユニット18は、支持台20の下においてその周方向に沿って概ね等間隔で配置された複数のロッド24を有する。複数のロッド24は、支持台20及び複数のクランプ22を支持し、かつ、エアシリンダ等の昇降機構(不図示)によって昇降する。
【0062】
エキスパンドテープ25を拡張する際には、まず、支持台20の上面がドラム16の上端と同一平面上に位置付けられるように複数のロッド24を昇降させる。次いで、ウエーハ11(11a,11b)の基板13(13a,13b)が下向きになるようにエキスパンドテープ25の周辺領域及びフレーム27をクランプ22によって固定する(
図6(A)参照)。
【0063】
次いで、複数のロッド24を支持台20及び複数のクランプ22とともに下降させる。これにより、ドラム16の上端と支持台20が離隔した分だけ、エキスパンドテープ25の中央領域がウエーハ11(11a,11b)の平面方向へと拡張される。この時、エキスパンドテープ25に貼付されているウエーハ11(11a,11b)にも平面方向へと拡張させるような力が作用する。
【0064】
そのため、ウエーハ11(11a,11b)の基板13(13a,13b)に内在する改質層23a,23bが分割起点となって基板13(13a,13b)に亀裂が発生し、この亀裂がレーザー加工溝21a,21bまで延伸する。その結果、ウエーハ11(11a,11b)が複数のストリート17において分割されて個々のチップが製造される(
図6(B)参照)。
【0065】
図2に示されるチップの製造方法においては、レーザー加工溝形成ステップ(S1)におけるレーザービームL1の集光点F1と基板13(13a,13b)の裏面との間隔を一定に維持した状態で、薄いウエーハ11aに形成されるレーザー加工溝21aが厚いウエーハ11bに形成されるレーザー加工溝21bより浅くなるように、薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bのそれぞれにレーザービームL1を照射する。
【0066】
これにより、
図2に示されるチップの製造方法においては、薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bのそれぞれに対して個別の加工条件を設定することなく、基板13(13a,13b)の裏面から所定の深さに改質層23a,23bが形成されるように改質層形成ステップ(S2)を同じ条件で行う場合であっても、改質層23a,23bの近傍にレーザー加工溝21a,21bの底面を位置付けることができる。そのため、薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bのそれぞれに外力を付与した場合に、改質層23a,23bを分割起点とする亀裂がレーザー加工溝21a,21bに向かって進展する蓋然性が高くなる。
【0067】
換言すると、
図2に示されるチップの製造方法においては、薄いウエーハ11aの厚さ方向においてレーザー加工溝21aに重なる基板13aの領域(未加工領域)の厚さと厚いウエーハ11bの未加工領域の厚さとの差を、薄いウエーハ11aの厚さと厚いウエー11bハの厚さとの差より小さくできる。そのため、薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bのそれぞれに対して同じ条件で改質層形成ステップ(S2)を行う場合であっても、両ウエーハ11(11a,11b)の基板13(13a,13b)を同様の加工状態とすることができる。
【0068】
その結果、加工不良を生じさせずに薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bのそれぞれを分割して個々のチップを製造できる。また、
図2に示されるチップの製造方法においては、レーザー加工溝形成ステップ(S1)において利用されるレーザービームL1及び改質層形成ステップ(S2)において利用されるレーザービームL2の平均出力や改質層形成ステップ(S2)におけるレーザービームL2が集光される位置(基板13(13a,13b)の裏面からのレーザービームL2の集光点F2の深さ)等の加工条件をウエーハ11(11a,11b)の厚さに応じて変更することなく、薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bのそれぞれを分割できるため、品質不良の発生が防止される。
【0069】
なお、上述したチップの製造方法は、本発明の一態様であって、当該方法と異なる特徴を有するチップの製造方法も本発明には含まれる。
【0070】
例えば、レーザー加工溝形成ステップ(S1)においては、ウエーハ11(11a,11b)の基板13(13a,13b)の裏面がテープの中央領域に貼付され、このテープの周辺領域に貼付された環状のフレームと一体化された状態のウエーハ11(11a,11b)に対してレーザービームL1を照射してもよい。すなわち、レーザー加工溝形成ステップ(S1)においては、このテープを介してチャックテーブル4にウエーハ11(11a,11b)が吸引保持された状態でウエーハ11(11a,11b)に対してレーザービームL1を照射してもよい。
【0071】
同様に、改質層形成ステップ(S2)においては、ウエーハ11(11a,11b)の機能層15の露出した表面がテープの中央領域に貼付され、このテープの周辺領域に貼付された環状のフレームと一体化された状態のウエーハ11(11a,11b)に対してレーザービームL2を照射してもよい。すなわち、改質層形成ステップ(S2)においては、このテープを介してチャックテーブルにウエーハ11(11a,11b)が吸引保持された状態でウエーハ11(11a,11b)に対してレーザービームL2を照射してもよい。
【0072】
あるいは、改質層形成ステップ(S2)においては、ウエーハ11(11a,11b)の裏面がテープの中央領域に貼付され、このテープの周辺領域に貼付された環状のフレームと一体化された状態のウエーハ11(11a,11b)に対してレーザービームL2を照射してもよい。すなわち、改質層形成ステップ(S2)においては、このテープを介してウエーハ11(11a,11b)に対してレーザービームL2を照射してもよい。
【0073】
このようにウエーハ11(11a,11b)がフレームと一体化されている場合、ウエーハ11(11a,11b)の取り扱いが容易になる点で好ましい。また、改質層形成ステップ(S2)において機能層15の露出した表面にテープが貼付される場合、チャックテーブルとの接触に起因したデバイス19の破損を防止できる点で好ましい。
【0074】
他方、ウエーハ11(11a,11b)が直接チャックテーブルに吸引保持される場合、チップの製造工程が簡便になる点で好ましい。さらに、改質層形成ステップ(S2)において、裏面にテープが貼付されたウエーハ11(11a,11b)が用いられる場合、レーザー加工溝形成ステップ(S1)においてウエーハ11(11a,11b)の裏面に貼付されたテープを剥離してウエーハ11(11a,11b)の表面に転写する必要がない点で好ましい。
【0075】
また、レーザー加工溝形成ステップ(S1)は、機能層15を分断するレーザー加工溝を形成する第1のステップ(S1-1)と、基板13(13a,13b)の内部に延在し、かつ、第1のステップ(S1-1)で形成されたレーザー加工溝より幅が狭いレーザー加工溝を形成する第2のステップ(S1-2)とによって構成されていてもよい。
【0076】
なお、形成されるレーザー加工溝の幅の調整は、例えば、ビームエキスパンダ等の光学素子を用いてレーザービームの径を制御することによって行われる。あるいは、ウエーハ11(11a,11b)のレーザービームが照射される箇所(被照射部)とレーザービームの集光点との間隔を調整することによって、ウエーハ11(11a,11b)に形成されるレーザー加工溝の幅を調整してもよい。
【0077】
具体的には、第2のステップ(S1-2)における被照射部とレーザービームの集光点との間隔を、第1のステップ(S1-1)における被照射部とレーザービームの集光点との間隔より短くすることによって、第2のステップ(S1-2)において形成されるレーザー加工溝の幅を第1のステップ(S1-1)において形成される加工溝より狭くしてもよい。
【0078】
第1のステップ(S1-1)においては、例えば、機能層15の露出した表面側から機能層15に吸収される波長のレーザービームを複数のストリート17に沿って照射する。また、第2のステップ(S1-2)においては、機能層15が分断されて露出された基板13(13a,13b)の表面側から基板13(13a,13b)に吸収される波長のレーザービームを複数のストリート17に沿って照射する。
【0079】
ここで、第1のステップ(S1-1)においては、レーザービームの集光点を任意に設定すればよい。すなわち、第1のステップ(S1-1)においては、薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bに対して、レーザービームの集光点と基板13(13a,13b)の裏面との間隔を一定に維持した状態でレーザービームを照射してもよいし、レーザービームの集光点と機能層15の露出した表面との間隔を一定に維持した状態でレーザービームを照射してもよい。
【0080】
他方、第2のステップ(S1-2)においては、例えば、チャックテーブル4の保持面を基準としたレーザービーム照射ユニット6のヘッド8の高さを一定に維持した状態(すなわち、チャックテーブル4の保持面を基準としたレーザービームの集光点の高さを一定に維持した状態)で、薄いウエーハ11aに形成されるレーザー加工溝が厚いウエーハ11bに形成されるレーザー加工溝より浅くなるように、薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bに対してレーザービームを照射する。
【0081】
換言すると、レーザービームの集光点と基板13(13a,13b)の裏面との間隔を一定に維持した状態で、薄いウエーハ11aに形成されるレーザー加工溝21aが厚いウエーハ11bに形成されるレーザー加工溝21bより浅くなるように、薄いウエーハ11a及び厚いウエーハ11bにレーザービームを照射する。
【0082】
このようにレーザー加工溝形成ステップ(S1)が第1のステップ(S1-1)と第2のステップ(S1-2)とによって構成される場合、第1のステップ(S1-1)において機能層15を確実に分断するとともに第2のステップ(S1-2)において所望の深さのレーザー加工溝を形成することが容易になる点で好ましい。他方、レーザー加工溝形成ステップ(S1)が単一のステップによって構成される場合、チップの製造工程が簡便になる点で好ましい。
【0083】
また、改質層形成ステップ(S2)においては、複数のストリート17に対するレーザービームL2の照射を複数回繰り返してもよい。例えば、レーザービームL2の集光点F2と基板13(13a,13b)の裏面との間隔が所定の値になる状態で複数のストリート17に対してレーザービームL2を照射した後、この間隔が当該所定の値から僅かに増加又は減少させた値になる状態で再び複数のストリート17に対してレーザービームL2を照射してもよい。
【0084】
この場合、ウエーハ11(11a,11b)の厚さ方向に沿った基板13(13a,13b)の広い領域に改質層23a,23bを形成することができる。これにより、ウエーハ11(11a,11b)を分割して個々のチップを製造する際に加工不良が生じる蓋然性をさらに低減できる。
【0085】
また、分割ステップ(S3)においては、レーザー加工溝21a,21bが形成された複数のストリート17にブレードを押し当てることで曲げ応力を付与する、いわゆる、ブレーキングによって、ウエーハ11(11a,11b)を分割して個々のチップを製造してもよい。
【0086】
その他、上述した実施形態及び変形例にかかる構造及び方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0087】
11(11a,11b):ウエーハ
13(13a,13b):基板
15 :機能層
17 :ストリート
19 :デバイス
21a,21b :レーザー加工溝
23a,23b :改質層
25 :エキスパンドテープ
27 :フレーム
2 :レーザー加工装置
4 :チャックテーブル
6 :レーザービーム照射ユニット
8 :ヘッド
8a,8b :集光レンズ
10 :連結部
12 :撮像ユニット
14 :エキスパンド装置
16 :ドラム
18 :支持ユニット
20 :支持台
22 :クランプ
24 :ロッド