(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】測定方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240729BHJP
G01N 29/06 20060101ALI20240729BHJP
G01N 29/48 20060101ALI20240729BHJP
G01N 29/11 20060101ALI20240729BHJP
G01N 29/265 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
H01L21/78 F
G01N29/06
G01N29/48
G01N29/11
G01N29/265
(21)【出願番号】P 2020194380
(22)【出願日】2020-11-24
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】平岩 卓
(72)【発明者】
【氏名】山浦 健治
【審査官】久宗 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-203883(JP,A)
【文献】特開平04-267106(JP,A)
【文献】特開平04-326056(JP,A)
【文献】特開2021-117082(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0346566(US,A1)
【文献】特開2017-121413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
G01N 29/06
G01N 29/48
G01N 29/11
G01N 29/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削ブレードにより被加工物を切削することで該被加工物に切削溝を形成した後、切削に伴い該切削溝の縁部に形成されたチッピングの大きさを測定する測定方法であって、
該縁部を含む該切削溝を光学式の撮像ユニットで撮像して、光学画像を取得する光学画像取得工程と、
該切削溝の該縁部に向けて超音波を送波して、該縁部から反射された反射波を受波し、該反射波に応じて予め設定された色調に基づいて該反射波を画像に変換することで、超音波画像を取得する超音波画像取得工程と、
該光学画像と該超音波画像とのそれぞれ対応する領域を重ね合わせることにより、重ね合わせ画像を作成する画像作成工程と、
該重ね合わせ画像から、該切削溝の該縁部に形成されたチッピングの大きさを測定する測定工程と、
を備えることを特徴とする測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削ブレードにより被加工物を切削することで被加工物に切削溝を形成した後、切削に伴い切削溝の縁部に形成されたチッピングの大きさを測定する測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の電子機器やモータ等の電気機器には、LED(Light Emitting Diode)、チップ抵抗器、弾性表面波フィルター、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の機能を有する半導体デバイスチップが使用される。
【0003】
これらの半導体デバイスチップには、耐熱性、絶縁性、放熱性等の種々の特性について所定の性能を有するように、アルミナ基板やアルミナジルコニア基板等のセラミックス基板が用いられることがある。
【0004】
例えば、1つのセラミックス基板に複数の半導体デバイスを形成した後、切削ブレードを備える切削装置でセラミックス基板を切削して分割することで、1つのセラミックス基板が、複数の半導体デバイスチップに分割される(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、セラミックス基板を切削ブレードで切削すると、加工条件等に起因して切削後の半導体デバイスの外周縁にチッピング(即ち、欠け)が生じる。所定の許容値よりも大きいサイズのチッピングを有する半導体デバイスチップは、当該許容値以下のサイズのチッピングを有する半導体デバイスチップに比べて抗折強度が低く、不良品として取り扱われる。
【0006】
それゆえ、半導体デバイスチップに形成されたチッピングの大きさを評価する必要がある。このため、セラミックス基板の表面側に切削溝(カーフ)を形成した後、切削溝の縁部に形成されたチッピングの大きさを評価することが行われている。
【0007】
チッピングの大きさの評価方法として、通常、光学顕微鏡を用いた目視での評価が行われる。しかし、セラミックス基板(特に、アルミナ等で形成された白色基板)では、光が基板の表面側で乱反射するので、チッピングが見えにくいので、チッピングの大きさを評価し難い。
【0008】
そこで、出願人は、切削溝の縁部を含む切削領域に向けて超音波を照射し、その反射波に基づいて作成された画像から、チッピングの大きさを測定する測定方法を開発した。
【0009】
しかし、超音波の反射波に基づいて作成された超音波画像では、切削溝の表面側におけるチッピングが明瞭に示されるものの、切削溝の側壁の端部位置が分かり難い。それゆえ、切削溝の側壁の端部位置を基準とするチッピングの大きさを、精度良く測定し難いという新たな問題が生じた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、切削溝の縁部に形成されたチッピングの大きさを、超音波画像を利用して測定する場合において、測定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、切削ブレードにより被加工物を切削することで該被加工物に切削溝を形成した後、切削に伴い該切削溝の縁部に形成されたチッピングの大きさを測定する測定方法であって、該縁部を含む該切削溝を光学式の撮像ユニットで撮像して、光学画像を取得する光学画像取得工程と、該切削溝の該縁部に向けて超音波を送波して、該縁部から反射された反射波を受波し、該反射波に応じて予め設定された色調に基づいて該反射波を画像に変換することで、超音波画像を取得する超音波画像取得工程と、該光学画像と該超音波画像とのそれぞれ対応する領域を重ね合わせることにより、重ね合わせ画像を作成する画像作成工程と、該重ね合わせ画像から、該切削溝の該縁部に形成されたチッピングの大きさを測定する測定工程と、を備える測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様に係る測定方法の画像作成工程では、光学画像と超音波画像とのそれぞれ対応する領域を重ね合わせることにより、重ね合わせ画像を作成する。更に、測定工程では、重ね合わせ画像から、切削溝の該縁部に形成されたチッピングの大きさを測定する。
【0014】
光学画像では切削溝の側壁の端部位置が明瞭に示され、超音波画像では切削溝のチッピングが明瞭に示されるので、重ね合わせ画像を用いてチッピングの大きさを測定することにより、超音波画像のみを用いる場合に比べて、チッピングの大きさの測定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図8】第2の実施形態に係る切削装置を示す斜視図である。
【
図9】第2の実施形態に係る超音波画像取得工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。
図1は、被加工物11を切削することで被加工物11に切削溝13を形成した後、切削に伴い切削溝13の縁部13aに形成されたチッピング13bの大きさ13d(
図7参照)を測定する測定方法のフロー図である。
【0017】
まず、切削が施される被加工物11について、
図2を参照して説明する。被加工物11は、例えば、圧電素子製造用の矩形状のセラミックス基板である。圧電素子製造用のセラミックス基板としては、鉛含有基板や鉛非含有(鉛フリー)基板が知られている。
【0018】
鉛含有基板は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、又は、PMN-PT(ニオブ酸鉛マグネシウム-チタン酸鉛)で形成されている。また、鉛非含有基板は、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、又は、亜鉛酸バナジウム酸ビスマスで形成されている。
【0019】
なお、被加工物11は、圧電素子を有しないセラミックス基板であってもよい。圧電素子を有しないセラミックス基板は、例えば、アルミナ基板、ジルコニア基板、アルミナジルコニア基板、窒化アルミニウム基板、窒化ケイ素基板、HTCC(High Temperature Cofired multilayer Ceramics)基板(即ち、高温焼成セラミック多層基板)、LTCC(Low Temperature Cofired multilayer Ceramics)基板(即ち、低温焼成セラミックス多層基板)等である。
【0020】
また、被加工物11は、シリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)、ガリウムヒ素(GaAs)等の半導体基板であってもよい。
【0021】
被加工物11の表面11a側には、それぞれ直線状の複数の加工予定ラインが格子状に設定されている。各加工予定ラインに沿って被加工物11を切削することで、被加工物11には切削溝13が形成される。
【0022】
被加工物11の切削は、切削装置10を用いて行われる。ここで、
図2を参照して、第1の実施形態に係る切削装置10について説明する。切削装置10は、被加工物11等を保持するチャックテーブル12を備える。
【0023】
チャックテーブル12の上面は、X軸方向(加工送り方向)及びY軸方向(割り出し送り方向)で規定される平面と略平行に形成されている。チャックテーブル12の上面は、チャックテーブル12の内部に形成された吸引路(不図示)を介して、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。
【0024】
吸引源を動作させると、チャックテーブル12の上面には負圧が発生するので、当該上面は、被加工物11等を吸引して保持する保持面として機能する。保持面には、被加工物11が、被加工物ユニット19の状態で載置される。
【0025】
被加工物ユニット19において、被加工物11は、円形で樹脂製のダイシングテープ15を介して、環状で金属製のフレーム17により支持されている。チャックテーブル12の周囲には、フレーム17を把持する複数のクランプ(不図示)が設けられている。
【0026】
チャックテーブル12の下部には、チャックテーブル12をZ軸方向(鉛直方向、上下方向)に概ね平行な回転軸の周りで回転させるモータ等を有する回転機構(不図示)が設けられている。
【0027】
回転機構の下部には、チャックテーブル12をX軸方向に沿って移動させるボールネジ式のX軸方向移動機構(不図示)が設けられている。また、チャックテーブル12の上方には、被加工物11を切削する切削ユニット20が配置されている。
【0028】
切削ユニット20は、長手方向がY軸方向に略平行に配置された円筒状のスピンドルハウジング22を有する。スピンドルハウジング22内には、円柱状のスピンドル(不図示)の一部が回転可能に収容されている。
【0029】
スピンドルの一端部はスピンドルハウジング22の外部に露出しており、この一端部には環状の切削ブレード24が装着される。切削ブレード24は、ハブ型ブレード、又は、ハブレス型(ワッシャ型)ブレードである。
【0030】
スピンドルの一端部とは反対側に位置するスピンドルの他端部には、サーボモータ等の回転駆動源(不図示)が接続されている。回転駆動源からスピンドルを介して伝達される動力によって、切削ブレード24は回転する。
【0031】
スピンドルハウジング22には、光学式の撮像ユニット26(
図3参照)が設けられている。撮像ユニット26は、光学顕微鏡を構成する対物レンズ(不図示)及び結像レンズ(不図示)を有する。
【0032】
撮像ユニット26は、更に、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の撮像素子(不図示)を有し、対物レンズ及び結像レンズを介して可視光により被写体を撮像する。
【0033】
スピンドルハウジング22には、Z軸方向移動機構(不図示)のZ軸移動板(不図示)が連結されている。更に、Z軸方向移動機構には、Y軸方向移動機構(不図示)のY軸移動板(不図示)が連結されている。
【0034】
Z軸方向移動機構及びY軸方向移動機構は、それぞれボールネジ式であり、切削ユニット20は、Z軸方向移動機構によりZ軸方向に移動し、Y軸方向移動機構によってY軸方向に移動する。
【0035】
切削装置10は、吸引源、回転機構、X軸方向移動機構、切削ユニット20、撮像ユニット26、Z軸方向移動機構、Y軸方向移動機構等の動作を制御する制御ユニット28を更に備える。
【0036】
制御ユニット28は、例えば、CPU(Central Processing Unit)に代表されるプロセッサ等の処理装置と、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の主記憶装置と、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等の補助記憶装置と、を含むコンピュータによって構成されている。
【0037】
補助記憶装置に記憶されるソフトウェアに従い処理装置等を動作させることによって、制御ユニット28の機能が実現される。ここで、被加工物11を切削する切削工程S10について説明する。
図2は、被加工物11を切削する切削工程S10を示す図である。
【0038】
切削工程S10では、まず、被加工物11の裏面11b側(即ち、被加工物ユニット19のダイシングテープ15側)を保持面で吸引保持し、フレーム17を複数のクランプで固定する。このとき、被加工物11の表面11aが上方に露出する。
【0039】
次に、被加工物11に設定されている直線状の加工予定ラインが切削ブレード24と略平行になる様に、撮像ユニット26、回転機構等を利用して、被加工物11の向きを調整する。
【0040】
その後、切削ブレード24を高速で回転させた状態で、切削ブレード24の下端を被加工物11の裏面11bと保持面との間に位置付ける。そして、切削ブレード24に対してチャックテーブル12をX軸方向に移動させる。
【0041】
これにより、被加工物11は、加工予定ラインに沿って切削される。表面11a側には、例えば、100μmの幅を有する直線状の切削溝13が形成される。
図2に示す例では、被加工物11は、厚さ方向で完全に切断されるが、被加工物11には、厚さ方向で完全に切断されない所謂ハーフカット溝が形成されてもよい。
【0042】
また、X軸方向に沿って1つの切削溝13を形成した後、切削ユニット20を割り出し送りして、1つの切削溝13とは異なる加工予定ラインを切削する。同様にして、一の方向に沿う複数の切削溝13を形成する。
【0043】
一の方向に沿う全ての加工予定ラインに切削溝13を形成した後、チャックテーブル12を90度回転させて、被加工物11の他の方向に沿う加工予定ラインをX軸方向と略平行にする。その後、同様にして、他の方向に沿う全ての加工予定ラインに切削溝13を形成する。
【0044】
切削工程S10の後、切削溝13を撮像ユニット26で撮像して、光学画像30を取得する(光学画像取得工程S20)。
図3は、光学画像取得工程S20を示す図であり、
図4は、光学画像取得工程S20で取得された光学画像30の一例を示す図である。
【0045】
図4は、矩形状のアルミナ基板を被加工物11として用いた場合における、2つの加工予定ラインの交点近傍の矩形領域の光学画像30である。なお、
図4では、切削溝13の側壁の端部位置13cを一点鎖線で示している。
【0046】
光学画像30を参照すれば、表面11a側の凹凸をある程度把握できるが、切削溝13の縁部13aに形成されるチッピング13bを特定することは、困難である。これは、チッピング13bのサイズが微小であり、加えて、チッピング13bにおいて光が乱反射するためである。
【0047】
しかし、光学画像30を参照すれば、切削溝13の側壁の端部位置13cを明瞭に特定できる。そこで、本実施形態では、光学画像取得工程S20の後、超音波撮像装置32を用いて、切削溝13の縁部13aに形成されたチッピング13bを撮像する(超音波画像取得工程S30)。
【0048】
次に、
図5を参照して、超音波画像取得工程S30で使用される超音波撮像装置32の一例について説明する。なお、
図5では、超音波撮像装置32の構成要素の一部をブロック図で示している。更に、
図5では、便宜上、複数の切削溝13のうち1つの切削溝13のみを模式的に示している。
【0049】
超音波撮像装置32の構成は、市販の超音波撮像装置と略同じである。超音波撮像装置32には、超音波探触子(プローブ)34が接続されている。超音波探触子34は、例えば、ピエゾ素子を有するPMUT(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer)を備える。
【0050】
超音波探触子34には、超音波探触子34を水平方向に移動させるための水平方向移動機構(不図示)が連結されている。水平方向移動機構は、例えば、XYスキャナーである。超音波探触子34には、送受切り替えユニット36を介して送信ユニット38が接続されている。
【0051】
送信ユニット38は、電圧信号を発生させる信号発生器(不図示)を有する。信号発生器は、電圧値の大きさ、周波数等が所定の値に調整された電圧信号を、送受切り替えユニット36を介して超音波探触子34に送信する。
【0052】
超音波探触子34と送信ユニット38とが電気的に接続された状態で、送信ユニット38から所定の電圧信号が超音波探触子34に送信されると、ピエゾ素子が振動してパルス状の超音波が発生する。
【0053】
超音波の発生後の所定のタイミングで、送受切り替えユニット36において、超音波探触子34と送信ユニット38との電気的接続が解除され、超音波探触子34と受信ユニット40とが電気的に接続される。
【0054】
超音波探触子34は、被加工物11により反射されるパルス状の超音波を送波した後、被加工物11からの反射波(エコー)等を受波する(パルス・エコー法)。反射波は、ピエゾ素子により電圧信号に変換され、受信ユニット40へ送信される。
【0055】
受信ユニット40は、ピエゾ素子により変換されたアナログの電圧信号を、所定のサンプリング周波数でデジタル信号に変換するアナログ-デジタル変換器(ADC:Analog-to-Digital Converter)等を有する。
【0056】
受信ユニット40は、画像変換処理ユニット42に接続されている。画像変換処理ユニット42では、反射波の強度、周波数等に対応して、変換される画素の色調が予め設定されている。
【0057】
画像変換処理ユニット42は、例えば、反射波の強度の情報を、画素の色調の情報に変換することで、受信ユニット40から受信したデジタル信号を、画像データに変換する。画像データは、縦及び横の位置情報と、各位置情報に応じて定められた画素値とを有し、1つの画像を構成する際に使用されるデータである。
【0058】
画像データは、JPEG(Joint Photographic Experts Group)、GIF(Graphics Interchange Format)、PNG(Portable Network Graphics)、TIFF(Tagged Image File Format)等の任意の形式のデータであってよい。
【0059】
画像変換処理ユニット42は、更に、画像データに対して画像処理を行う。例えば、画像変換処理ユニット42は、被加工物11の表面11a側の同じ領域を示す2つの画像において、対応する位置の画素間の明度の差分を算出し、その差分の絶対値を明度とした新たな画像(重ね合わせ画像)を作成する。
【0060】
また、例えば、画像変換処理ユニット42は、被加工物11の表面11a側の同じ領域を示す2つの画像が重ね合わされた重ね合わせ画像を作成する。この画像変換処理ユニット42には、表示入力装置44が接続されている。
【0061】
表示入力装置44は、例えば、タッチパネル、タッチスクリーンであり、画像データを画像として表示する表示装置として機能する。また、表示入力装置44は、後述する制御ユニット46へ情報を入力する入力装置として機能する。
【0062】
例えば、表示入力装置44を介して、送信ユニット38が出力する電圧信号の大きさや周波数が設定される。更に、表示入力装置44を介して、反射波の強度、周波数等に対応する画素の色調が設定される。
【0063】
また、例えば、表示入力装置44を介して、超音波撮像装置32に関する種々の条件が、後述する制御ユニット46に入力及び設定される。超音波撮像装置32は、送受切り替えユニット36、送信ユニット38、受信ユニット40、画像変換処理ユニット42等の動作を制御するための制御ユニット46を更に有する。
【0064】
制御ユニット46は、例えば、CPU(Central Processing Unit)に代表されるプロセッサ等の処理装置と、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の主記憶装置と、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等の補助記憶装置と、を含むコンピュータによって構成されている。
【0065】
補助記憶装置に記憶されるソフトウェアに従い処理装置等を動作させることによって、制御ユニット46の機能が実現される。なお、制御ユニット46は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)や、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等を用いて構成されてもよい。
【0066】
超音波撮像装置32を用いた超音波画像取得工程S30では、まず、所定の深さまで純水等の液体50が充填された水槽52の底部に、被加工物ユニット19の形態で、被加工物11を固定する。なお、
図5では、ダイシングテープ15及びフレーム17を省略している。
【0067】
図5は、超音波画像取得工程S30を示す図である。超音波画像取得工程S30において、被加工物11は、その全体が液体50に浸かる。また、表面11aは、超音波探触子34の下端から所定距離だけ離れた状態で超音波探触子34の下端に対面する。
【0068】
この状態で、超音波探触子34から切削溝13の縁部13aを含む表面11a側に向けて、所定の周波数(例えば100MHz)を有する超音波を送波(照射)し、その反射波を超音波探触子34で受波する。
【0069】
反射波を受波した後、上述の水平方向移動機構を用いて、切削溝13の幅方向に沿って、例えば、10μmだけ超音波探触子34を移動させる。そして、同様に、送波及び受波を行う。この作業を繰り返して、切削溝13近傍の複数の位置で、反射波を受波する。
【0070】
この様なパルス・エコー法を行う場合、比較的平坦な表面11aで反射された反射波の振幅のピークは、比較的大きくなる。これに対して、チッピング13bや切削溝13からの反射波の振幅のピークは、比較的小さくなる。
【0071】
また、チッピング13bが形成された領域には気泡が残留しやすく、この気泡により反射波の特定の周波数成分の位相が反転し、位相が反転した反射波と入射波との干渉により反射波が減衰することもある。
【0072】
超音波探触子34で受波された反射波(アナログ信号)は、受信ユニット40によりデジタル信号に変換され、画像変換処理ユニット42に接続されているメモリ(不図示)に格納される。
【0073】
画像変換処理ユニット42は、所定数の反射波に対応する複数のデジタル信号が格納された後、当該メモリにアクセスする。そして、画像変換処理ユニット42は、反射波の振幅(即ち、強度)の大小に応じて予め設定された色調に基づいて、当該複数のデジタル信号を画像、即ち、超音波画像60(
図6参照)に変換する。
【0074】
この様にして、超音波画像60が取得される。色調は、彩度と明度とにより特定されるが、彩度は、無彩色(白、灰色、黒等)及び純色のいずれの彩色でもよい。例えば、無彩色の色調が選択される場合、超音波画像60はグレースケール画像となる。
【0075】
本例では、振幅が大きいほど画素の明度を高く(即ち、明るく)し、振幅が小さいほど画素の明度を低く(即ち、暗く)する。振幅に対応する画素の明度は、例えば、0から255の256諧調で表現される。
【0076】
超音波探触子34で、表面11a側の所定領域(例えば、2つの加工予定ラインの交点近傍の矩形領域)をスキャンした後、画像変換処理ユニット42が表面11a側の画像データを表示入力装置44に送る。これにより、超音波画像60が表示入力装置44に表示される。
【0077】
図6は、超音波画像取得工程S30で取得された超音波画像60の一例を示す図である。なお、
図6では、例示的に4箇所のチッピング13bの位置を矢印で示している。
図6に示す様に、超音波画像60では光学画像30に比べて切削溝13の側壁の端部位置13cが分かり難いが、表面11a側のチッピング13bが明瞭に示されている。
【0078】
超音波画像取得工程S30の後、画像変換処理ユニット42が、光学画像30と、超音波画像60と、のそれぞれ対応する領域を重ね合わせることにより、重ね合わせ画像70を作成する(画像作成工程S40)。
【0079】
なお、光学画像30は、入力部48を介して画像変換処理ユニット42へ入力される。入力部48は、USB(Universal Serial Bus)、有線LAN、無線LAN等を利用して、光学画像30のデータを超音波撮像装置32に入力可能な装置である。
【0080】
光学画像30と、超音波画像60との位置の対応関係は、例えば、表面11a側に形成されている目印、キーパターン等により、特定可能である。それゆえ、光学画像30と、超音波画像60との、対応する同じ領域を重ね合わせることができる。
【0081】
また、被加工物11の外周端部からのX軸方向及びY軸方向の距離を利用して、表面11a側の同じ領域における光学画像30と、超音波画像60とを取得し、その後、両者を重ね合わせてもよい。
【0082】
画像変換処理ユニット42は、例えば、光学画像30と、超音波画像60との、対応する位置の画素間の明度の差分を算出し、その差分の絶対値を明度とした新たな画像を作成することで、光学画像30と、超音波画像60とが重ね合わされた重ね合わせ画像70を作成する。
図7は、重ね合わせ画像70の一例を示す図である。なお、
図7では、端部位置13cを一点鎖線で示している。
【0083】
画像作成工程S40の後、画像変換処理ユニット42は、縁部13aに形成されたチッピング13bの大きさ13dを、重ね合わせ画像70から測定する(測定工程S50)。1つのチッピング13bの大きさ13dは、切削溝13の側壁の端部位置13cから、切削溝13の幅方向に沿って切削溝13の外側へ延びる、チッピング13bの長さにより規定される。
【0084】
図7において、第2方向A2に略平行な切削溝13の1つのチッピング13bの大きさ13dは、当該切削溝13の第1方向A1(幅方向)において、切削溝13の側壁の端部位置13cから切削溝13の外側に延びるチッピング13bの長さにより規定される。
【0085】
測定工程S50において、画像変換処理ユニット42は、重ね合わせ画像70中における複数のチッピング13bの大きさ13dを測定する。例えば、1画素の大きさに対応する実際の長さは既知であるので、画像変換処理ユニット42は、チッピング13bの大きさ13dに対応する画素数を、実際の長さ(例えば、μmオーダーの長さ)に変換することでチッピング13bの大きさ13dを測定する。
【0086】
測定された各チッピング13bの大きさ13dは、画像変換処理ユニット42に接続されているメモリ(不図示)に格納される。各大きさ13dは、重ね合わせ画像70と共に、表示入力装置44に表示されてもよいし、表示されなくてもよい。
【0087】
上述の様に、光学画像30では、切削溝13の側壁の端部位置13cが明瞭に示されるが、チッピング13bは明瞭に示されない。これに対して、超音波画像60では、端部位置13cが明瞭に示されないが、切削溝13のチッピング13bは明瞭に示される。
【0088】
本実施形態では、光学画像30と超音波画像60とが重ね合わされた重ね合わせ画像70を用いてチッピング13bの大きさ13dを測定することにより、超音波画像60のみを用いる場合に比べて、チッピング13bの大きさ13dの測定精度を向上できる。
【0089】
ところで、上記では、光学画像30及び超音波画像60の対応する画素の明度の差分から重ね合わせ画像70を作成する場合を説明したが、光学画像30を半透過状態にして、超音波画像60の上に光学画像30を重ねることで、重ね合わせ画像70を作成してもよい。また、光学画像30の端部位置13cの画像のみを抜き出して、超音波画像60に重ねてもよい。
【0090】
これとは別に、切削溝13の表面11a側の縁部13aを超音波画像60の明度及び連続性に基づいて抽出し、光学画像30の対応する領域に対してこの抽出された縁部13aを重ね合わせてもよい。この様にして作成された重ね合わせ画像70を用いても、チッピング13bの大きさ13dを測定できる。
【0091】
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、超音波撮像装置32と切削装置10とが一体化された切削装置10aを用いる(
図8参照)。切削装置10aでは、超音波撮像装置32の制御ユニット46の機能は、制御ユニット28により実現される。
【0092】
図8は、第2の実施形態に係る切削装置10aを示す斜視図である。切削装置10aのスピンドルハウジング22には、アーム54の一端部が固定されている。アーム54の他端部の底部には、撮像ユニット26に加えて、超音波探触子34が固定されている。
【0093】
また、超音波探触子34のX軸方向に隣接する態様で、アーム54の底部には、液体供給ノズル56が固定されている。なお、液体供給ノズル56には、純水等の液体58(
図9参照)が貯留された貯留槽(不図示)が、送水ポンプ(不図示)、電磁弁(不図示)等介して接続されている。
【0094】
制御ユニット28が電磁弁を開状態とすると、液体供給ノズル56からは純水等の液体58が供給される。次に、第2の実施形態における、チッピング13bの大きさ13dを測定する測定方法について説明する。
【0095】
第2の実施形態では、切削工程S10及び光学画像取得工程S20の後、被加工物11をチャックテーブル12で保持した状態で、超音波画像取得工程S30を行う。係る点が、第1の実施形態と異なる。
【0096】
図9は、第2の実施形態に係る超音波画像取得工程S30を示す図である。なお、
図9では、便宜上、複数の切削溝13のうち1つの切削溝13のみを模式的に示している。
【0097】
超音波画像取得工程S30では、まず、上述のX軸方向移動機構、Y軸方向移動機構及びZ軸方向移動機構を用いて、超音波探触子34を被加工物11の切削溝13の上方に位置付ける。
【0098】
超音波探触子34と被加工物11の表面11aとの間に液体供給ノズル56から液体58を供給した状態で、超音波探触子34から表面11a側の切削溝13の縁部13aに超音波を送波する。
【0099】
これにより、液体50が充填された水槽52に被加工物11を浸すことなく、縁部13aから反射された反射波を超音波探触子34で受波できる。第2の実施形態でも、第1の実施形態と同様に、超音波探触子34で表面11a側の所定領域をスキャンして、超音波画像60を取得する。
【0100】
超音波画像取得工程S30の後、画像作成工程S40及び測定工程S50が順次行われる。第2の実施形態では、光学画像取得工程S20の後に、被加工物ユニット19をチャックテーブル12から取り外すこと無く、速やかに超音波画像60を取得できる。
【0101】
従って、第1の実施形態に比べて、チッピング13bの大きさ13dの測定が容易になる。その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。例えば、超音波画像取得工程S30の後に、光学画像取得工程S20を行うこともできる。
【符号の説明】
【0102】
10,10a:切削装置
11:被加工物、11a:表面、11b:裏面
12:チャックテーブル
13:切削溝、13a:縁部、13b:チッピング、13c:端部位置、13d:大きさ
15:ダイシングテープ、17:フレーム、19:被加工物ユニット
20:切削ユニット、22:スピンドルハウジング、24:切削ブレード
26:撮像ユニット、28:制御ユニット、30:光学画像
32:超音波撮像装置、34:超音波探触子、36:送受切り替えユニット
38:送信ユニット、40:受信ユニット、42:画像変換処理ユニット
44:表示入力装置、46:制御ユニット、48:入力部
50:液体、52:水槽
54:アーム、56:液体供給ノズル、58:液体
60:超音波画像、70:重ね合わせ画像
A1:第1方向、A2:第2方向