IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】有機ケイ素化合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20240729BHJP
   C07F 7/18 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
C09K3/00 R
C07F7/18 X
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022521868
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2021017462
(87)【国際公開番号】W WO2021230143
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2020085094
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 大樹
(72)【発明者】
【氏名】小材 利之
(72)【発明者】
【氏名】坂本 晶
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/014471(WO,A1)
【文献】特開2007-332104(JP,A)
【文献】国際公開第2019/031082(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0054769(US,A1)
【文献】特開2020-055300(JP,A)
【文献】特開2019-076695(JP,A)
【文献】特開2008-169176(JP,A)
【文献】特開平06-157236(JP,A)
【文献】特開平06-135817(JP,A)
【文献】特開平05-124945(JP,A)
【文献】特開平05-097868(JP,A)
【文献】特開平05-039208(JP,A)
【文献】特表2014-526941(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109485826(CN,A)
【文献】特開2016-196609(JP,A)
【文献】特開2012-104429(JP,A)
【文献】AKIMOTO, T et al.,Polymeric transdermal drug penetration enhancer. The enhancing effect of oligodimethylsiloxane conta,Journal of Controlled Release,2001年,Vol.77, No.1-2,p.49-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/18
C09K 3/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される有機ケイ素化合物からなる、硬化性シリコーン組成物に充填剤を充填するためのウエッター。
【化1】
(式中、R1は互いに独立に、非置換の炭素数1~12の一価炭化水素基であり、R2は非置換の炭素数1~12の二価炭化水素基であり、Aはグリセロール又はペンタエリスリトールの残基であり、該グリセロール又はペンタエリスリトールの中の1個の水酸基が隣接するR2とエーテル結合を形成しているものである。nは1~200の数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機ケイ素化合物に関し、特にシリコーン組成物(オルガノポリシロキサン組成物)に熱伝導性充填剤等の充填剤を高充填することを可能とするウエッター(分散剤)として好適に用いることのできる有機ケイ素化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の多くは使用中に熱を発生させることから、その電子部品を適切に機能させるためには、熱を取り除くことが必要である。特にパーソナルコンピューターに使用されているCPU等の集積回路素子は、動作周波数の高速化により発熱量が増大し続け、熱に対する対策が重要な問題となっている。また、近年は自動車にも多くの電子部品が使われるようになり、高温高湿条件下などより過酷な条件で電子部品が使用されることがある。
【0003】
この熱を除去する手段として多くの方法が提案されている。特に発熱量の多い電子部品では、電子部品とヒートシンク等の部材との間に熱伝導性グリースや熱伝導性シートなどの熱伝導性材料を介在させて放熱する方法が提案されている(特許文献1、2)。特に熱伝導性グリースは不定形で、硬化後に基材に密着することで高い熱伝導性を示すことから好適に用いられている。また、このような熱伝導性材料としては、シリコーン(オルガノポリシロキサン)をベースとし、酸化亜鉛やアルミナ粉末を配合した放熱グリースや放熱接着剤が知られている(特許文献3、4)。
【0004】
シリコーンをベースとし、高い熱伝導性を有する熱伝導性材料とするためには、熱伝導性充填剤を高充填することが必要である。しかし、ただ単に高充填しようとすると、熱伝導性材料の流動性が著しく低下し、塗布性(ディスペンス性、スクリーンプリント性)等の作業性が悪くなり、さらには電子部品やヒートシンク表面の微細な凹凸に追従できなくなるという問題が生じる。
そこで、この問題を解決するために、熱伝導性充填剤をウエッター(分散剤)で表面処理したものをベースポリマーであるシリコーン(オルガノポリシロキサン)に分散させ、熱伝導性材料の流動性を保つという方法が提案されている。現在、頻繁に用いられるウエッターとして、加水分解性基を有するメチルポリシロキサンや、加水分解性基を有するオリゴシロキサンがある(特許文献5、6)。これらのウエッターを使用することで、良好な流動性が得られるものの、高温高湿条件下では未反応の加水分解性基が電子部品と基板の接着性に大きな影響を及ぼし、接着強度が変化することで、電子部品に動きが加わった際に基材へも応力が生じ、電子部品や基板が割れたり、ズレたりする原因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭56-28264号公報
【文献】特開昭61-157587号公報
【文献】特公昭52-33272号公報
【文献】特公昭59-52195号公報
【文献】特開2000-256558号公報
【文献】特開2001-139815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、シリコーン組成物に充填剤を高充填することを可能とし、高温高湿条件下でも接着性に変化の少ない、特に引張りせん断接着強さの初期値からの変化量が2倍未満の組成物とすることが可能なウエッターとして好適な有機ケイ素化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、特定の多価アルコール構造を有する有機ケイ素化合物が、上述した課題の解決に有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は下記の有機ケイ素化合物およびその製造方法を提供するものである。
【0009】
[1]
下記式(I)で表される有機ケイ素化合物。
【化1】
(式中、R1は互いに独立に、非置換又は置換の炭素数1~12の一価炭化水素基であり、R2は非置換又は置換の炭素数1~12の二価炭化水素基であり、Aは2個以上の残存水酸基を有する多価アルコール残基であり、nはこの有機ケイ素化合物の23℃における粘度を1~1,000mPa・sとする数である。)

[2]
Aの多価アルコール残基が少なくとも3個の水酸基を有する多価アルコールから誘導される残基であり、該多価アルコール中の少なくとも1個の水酸基が隣接するR2とエーテル結合を形成しているものである[1]に記載の有機ケイ素化合物。

[3]
Aの多価アルコール残基が、グリセロール又はペンタエリスリトールの残基である[2]に記載の有機ケイ素化合物。

[4]
硬化性シリコーン組成物に充填剤を高充填するためのウエッターである[1]~[3]のいずれか1つに記載の有機ケイ素化合物。

[5]
下記式(II)
【化2】
(式中、Aは2個以上の残存水酸基を有する多価アルコール残基であり、Yは炭素数2~10のアルケニル基である。)
で表される分子中にアルケニル基を有する多価アルコール誘導体と、下記式(III)
【化3】
(式中、R1は互いに独立に、異種または同種の非置換又は置換の炭素数1~12の一価炭化水素基であり、nはこのオルガノポリシロキサンの23℃における粘度を1~1,000mPa・sとする数である。)
で表される分子鎖片末端にケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンとを、白金化合物含有触媒存在下でヒドロシリル化反応させる工程を含む[1]~[4]のいずれか1つに記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機ケイ素化合物は、シリコーン組成物に熱伝導性充填剤等の充填剤(フィラー)を高充填することを可能とし、高温高湿条件下でも接着性に変化の少ない組成物を提供するためのウエッターとして有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0012】
本発明に係る有機ケイ素化合物は、下記式(I)で表される。
【化4】
【0013】
式(I)中、R1は互いに独立に、非置換又は置換の炭素数1~12の一価炭化水素基であり、R2は非置換又は置換の炭素数1~12の二価炭化水素基であり、Aは2個以上の残存水酸基を有する多価アルコール残基であり、nはこの有機ケイ素化合物の23℃における粘度を1~1,000mPa・sとする数である。
【0014】
上記R1の非置換又は置換の炭素数1~12の一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α-,β-ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基;また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F、Cl、Br等のハロゲン原子やシアノ基等で置換された基、例えば、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-シアノエチル基等を例示することができる。これらの中でも、メチル基、エチル基等のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0015】
上記R2の非置換又は置換の炭素数1~12の二価炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基(ジメチレン基)、プロピレン基(エチルメチレン基、トリメチレン基)、イソプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基等のアルキレン基;シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基;ビニレン基、アリレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基等のアルケニレン基;また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F、Cl、Br等のハロゲン原子やシアノ基等で置換された基等を例示することができる。これらの中でも、エチレン基(ジメチレン基)、プロピレン基(エチルメチレン基、トリメチレン基)等のアルキレン基が好ましく、特にエチレン基(ジメチレン基)、トリメチレン基が好ましい。
【0016】
上記Aの、2個以上の残存水酸基を有する多価アルコール残基としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセロール(グリセリン)、1、2、4-ブタントリオール、ペンタエリスリトール、エリスリトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、マンニトール等の1分子中に3個以上の水酸基を有する多価アルコール中に存在する1個の水酸基から水素原子を1個除いた残基等を例示することができる。これらの中でも、3個以上の水酸基を有し、かつそれ自体及び誘導体の入手容易さからグリセロール、ペンタエリスリトール、1、2、4-ブタントリオール、エリスリトールの残基が好ましく、特にグリセロール、ペンタエリスリトールの残基が好ましい。
【0017】
式(I)中、nはこの有機ケイ素化合物の23℃における粘度を1~1,000mPa・sとする数であり、このため、nは好ましくは1~200の数、より好ましくは3~100の数、さらに好ましくは5~50の数、特に好ましくは9~30の数である。ここで、該有機ケイ素化合物の23℃における粘度は、1~1,000mPa・sであり、好ましくは5~500mPa・s、より好ましくは10~300mPa・sである。なお、粘度は回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型等)による数値である(以下、同じ。)。また、上記式(I)で示される有機ケイ素化合物中におけるジオルガノシロキサン単位の繰り返し数(n)又は重合度は、トルエン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。
【0018】
製造方法
本発明の上記式(I)で表される有機ケイ素化合物は、従来公知の方法によって製造することができる。例えば、下記式(II)で表される分子中にアルケニル基を有する多価アルコール誘導体のアルケニル基と、下記式(III)で表される分子鎖片末端にケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノポリシロキサン(分子鎖片末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖され他方の末端がジオルガノハイドロジェンシロキシ基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサン)のヒドロシリル基(Si-H基)とを、白金化合物含有触媒存在下でヒドロシリル化付加反応を行い、アルケニル基にヒドロシリル基を付加させて炭素-ケイ素結合を形成することによって(即ち、下記式(II)中のアルケニル基Yと下記式(III)中のケイ素原子に結合した水素原子(Si-H基)との付加反応により上記式(I)中の二価炭化水素基R2を形成することによって)、上記式(I)で表される有機ケイ素化合物を製造する。
【化5】
(式中、Aは、上記と同じ意味を表し、Yは炭素数2~10のアルケニル基を表す。)

【化6】
(式中、R1、nは、上記と同じ意味を表す。)
【0019】
Yの炭素数2~10のアルケニル基は、ビニル基、アリル基、プロぺニル基、ブテニル基等の直鎖状アルケニル基等を例示することができる。この中でも、合成、製造の容易さからビニル基、アリル基が好ましく、特にアリル基が好ましい。
【0020】
上記式(II)で表されるアルケニルエーテル構造を有する多価アルコール誘導体の水酸基は、保護基を有しているものでもよく、これは、上記ヒドロシリル化反応後に脱保護の工程を経て水酸基となる。水酸基の保護、脱保護については、公知の方法によって行うことができる。
【0021】
上記ヒドロシリル化反応で用いられる白金化合物含有触媒は特に限定されるものではなく、その具体例としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエンまたはキシレン溶液、テトラキストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビスアセトニトリル白金、ジクロロビスベンゾニトリル白金、ジクロロシクロオクタジエン白金、白金-炭素、白金-アルミナ、白金-シリカ等の担持触媒などが挙げられる。これらの中でも、選択性の面から、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエンまたはキシレン溶液が好ましい。
【0022】
白金化合物含有触媒の使用量は特に限定されるものではないが、反応性、生産性の点から、式(II)で表される分子中にアルケニル基を有する多価アルコール誘導体1molに対し、含有される白金原子が1×10-7~1×10-2molとなる量が好ましく、1×10-7~1×10-3molとなる量がより好ましい。
【0023】
また、ヒドロシリル化反応の反応性向上のために助触媒を使用してもよい。この助触媒としては、一般的にヒドロシリル化反応に用いられている助触媒を使用できるが、本発明では、無機酸のアンモニウム塩、酸アミド化合物、カルボン酸が好ましい。
【0024】
無機酸のアンモニウム塩の具体例としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、アミド硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸二水素一アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ジ亜リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫化アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、ホウフッ化アンモニウム等が挙げられる。中でも、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムが好ましい。
【0025】
酸アミド化合物の具体例としては、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、プロピオンアミド、アクリルアミド、マロンアミド、スクシンアミド、マレアミド、フマルアミド、ベンズアミド、フタルアミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等が挙げられ、これらの中でも、ホルムアミド、ステアリン酸アミドが好ましく、ホルムアミドがより好ましい。
【0026】
カルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、メトキシ酢酸、ペンタン酸、カプロン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、乳酸、グリコール酸、トリフルオロ酢酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、シュウ酸等が挙げられ、これらの中でも、ギ酸、酢酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、トリフルオロ酢酸が好ましく、酢酸、トリフルオロ酢酸がより好ましい。
【0027】
助触媒の使用量は特に限定されるものではないが、反応性、選択性、コスト等の観点から、式(II)で表される分子中にアルケニル基を有する多価アルコール誘導体1molに対して1×10-5~1×10-1molが好ましく、1×10-4~5×10-1molがより好ましい。
【0028】
なお、上記ヒドロシリル化反応は無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。使用可能な溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒などが挙げられ、これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
上記ヒドロシリル化反応における反応温度は特に限定されるものではなく、室温(23℃)から加熱下で行うことができるが、室温(23℃)~200℃が好ましい。適度な反応速度を得るためには加熱下で反応させることが好ましく、このような観点から、反応温度は40~110℃がより好ましく、40~90℃がより一層好ましい。また、反応時間も特に限定されるものではなく、1~60時間が好ましく、1~30時間がより好ましく、1~20時間がさらに好ましい。
【0030】
上記式(II)で表される分子中にアルケニル基を有する多価アルコール誘導体のアルケニル基と、上記式(III)で表されるオルガノポリシロキサンのヒドロシリル基との反応割合は、ヒドロシリル化反応時の副生物を抑制するとともに、得られる有機ケイ素化合物の保存安定性や特性を高めることを考慮すると、上記ヒドロシリル基1molに対し、上記アルケニル基が0.8~1.3molとなる割合が好ましく、0.9~1.2molとなる割合がより好ましい。
【0031】
このようにして得られる上記式(I)で表される化合物としては、以下の式で表されるもの等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【化7】
【0032】
式(1’)~(4’)中、nはこれらの有機ケイ素化合物の23℃における粘度を1~1,000mPa・sとする数であり、nは好ましくは1~200の数、より好ましくは3~100の数、さらに好ましくは5~50の数、特に好ましくは9~30の数である。
【0033】
上記式(1’)~(4’)で表されるものの具体例としては、以下の式(1)~(8)で表されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【化8】
【0034】
本発明の有機ケイ素化合物は、充填剤を含むシリコーン組成物(オルガノポリシロキサン組成物)において、該充填剤のウエッター(分散剤)として好適に使用することができる。シリコーン組成物としては、付加反応硬化型シリコーン組成物、有機過酸化物硬化型シリコーン組成物、縮合反応硬化型シリコーン組成物、シリコーングリース等の非硬化タイプのシリコーン組成物等が挙げられる。シリコーン組成物に充填される充填剤としては、無機質充填剤、金属充填剤、有機樹脂製充填剤等のいずれであってもよく、例えば、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、石英粉、アルミナ(酸化アルミニウム)、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル等公知の充填剤に適用することができる。
【0035】
上記シリコーン組成物の接着強度は例えばJIS K 6850の規定に従って引張りせん断接着強さを測定すればよい。
【実施例
【0036】
以下、実施例および参考例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、粘度は23℃における回転粘度計による測定値であり、分子量はトルエンを展開溶媒としたGPC測定におけるポリスチレン換算の数平均分子量を示す。
【0037】
有機ケイ素化合物の合成
[実施例1]
有機ケイ素化合物1の合成
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた500mLセパラブルフラスコに、下記式(IV)で表されるアルケニル基を有するグリセリン誘導体18.1g、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.1gを納め、80℃に加熱した。その中に、下記式(V)で表されるオルガノポリシロキサン100.0gを滴下投入し、80℃にて3時間加熱撹拌した。1H-NMR測定により原料のアルケニル基およびヒドロシリル基由来のピークが完全に消失したことを確認し、反応終了とした。反応終了後の混合物について減圧留去(80℃、5mmHg)を2時間実施し、濾過することで、有機ケイ素化合物1(粘度:13mPa・s、数平均分子量:1090)を114g得た。
【化9】

【化10】

【化11】
【0038】
[実施例2]
有機ケイ素化合物2の合成
上記式(IV)で表されるアルケニル基を有するグリセリン誘導体の代わりに、下記式(VI)で表されるアルケニル基を有するペンタエリスリトール誘導体24.1gを使用した以外は実施例1と同様にして、有機ケイ素化合物2(粘度:275mPa・s、数平均分子量:1140)を得た。
【化12】

【化13】
【0039】
[実施例3]
有機ケイ素化合物3の合成
上記式(V)で表されるオルガノポリシロキサンの代わりに、下記式(VII)で表されるオルガノポリシロキサン281.5gを使用した以外は実施例1と同様にして、有機ケイ素化合物3(粘度:32mPa・s、数平均分子量:2720)を得た。
【化14】

【化15】
【0040】
[実施例4]
有機ケイ素化合物4の合成
上記式(IV)で表されるアルケニル基を有するグリセリン誘導体の代わりに、上記式(VI)で表されるアルケニル基を有するペンタエリスリトール誘導体24.1g、上記式(V)で表されるオルガノポリシロキサンの代わりに、上記式(VII)で表されるオルガノポリシロキサン281.5gを使用した以外は実施例1と同様にして、有機ケイ素化合物4(粘度:138mPa・s、数平均分子量:2770)を得た。
【化16】
【0041】
[参考例]
本発明の有機ケイ素化合物の効果を参考例により詳細に説明する。なお、参考例中の特性は23℃における値である。
【0042】
[参考例1]
ミキサーにより、粘度が400mPa・sである分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(ビニル基の含有量;0.44質量%)8質量部、平均粒径(BET法)が20μmである真球状のアルミナ粉末67.5質量部、平均粒径(BET法)が2.2μmである不定形状のアルミナ粉末22.5質量部、分散剤(ウェッター)として実施例1で合成した有機ケイ素化合物1を1.5質量部混合して熱伝導性シリコーンゴムベースを調製した。次に、このゴムベースに、粘度が25mPa・sであり、1分子中に平均4個のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を有する分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー1.0質量部、接着付与成分としてトリアリイソシアヌレート0.03質量部、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.2質量部、および硬化反応抑制剤として、1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.02質量部を混合し、最後に、白金含有量が0.5質量%である白金の1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体0.02質量部を混合して熱伝導性シリコーンゴム組成物1を調製した。
【0043】
[参考例2]
有機ケイ素化合物1の代わりに、有機ケイ素化合物2を1.5質量部使用した以外は参考例1と同様にして熱伝導性シリコーンゴム組成物2を得た。
【0044】
[参考例3]
有機ケイ素化合物1の代わりに、有機ケイ素化合物3を1.5質量部使用した以外は参考例1と同様にして熱伝導性シリコーンゴム組成物3を得た。
【0045】
[参考例4]
有機ケイ素化合物1の代わりに、有機ケイ素化合物4を1.5質量部使用した以外は参考例1と同様にして熱伝導性シリコーンゴム組成物4を得た。
【0046】
[参考例5]
有機ケイ素化合物1の代わりに、下記式:
【化17】
で表される有機ケイ素化合物(分子鎖片末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され他方の末端が(トリメトキシシリルエチル)ジメチルシロキシ基で封鎖された重合度約30の直鎖状ジメチルポリシロキサン、粘度:30mPa・s)を1.5質量部使用した以外は参考例1と同様にして熱伝導性シリコーンゴム組成物5を得た。
【0047】
[熱伝導性シリコーンゴムの接着強さ]
熱伝導性シリコーンゴム組成物1、2、3、4又は5を、被着体{株式会社パルテック製のアルミニウム板(JIS H 4000、A1050P)}の間に挟み込んだ後、120℃で60分間加熱することにより硬化させ、熱伝導性シリコーンゴムを得て、これを初期試験体とした。なお、接着面積は25mm×10mmとし、接着層の厚さは2mmとした。この熱伝導性シリコーンゴムの引張りせん断接着強さをJIS K 6850の規定に従って測定した。また、得られた熱伝導性シリコーンゴムを85℃ 85%RHの恒温恒湿機に1週間静置したものを高温高湿試験体とした。室温(23℃)に戻した試験体の引張りせん断接着強さを測定し、初期と高温高湿試験後の接着強さを比較、判定した。初期と高温高湿試験後の接着強さの差が2倍未満であれば〇、2倍以上であれば×とした。
【0048】
【表1】
【0049】
表1の結果より、参考例1~4は参考例と5比べて、初期と高温高湿試験後の接着強さの変化が少なく、本発明の有機ケイ素化合物が熱伝導性シリコーンゴムの接着性の変化を少なくするウエッターとして好適に用いることができることが示された。