(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】フコース結合性タンパク質、その製造方法およびその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 14/195 20060101AFI20240729BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240729BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240729BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240729BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240729BHJP
C12N 1/02 20060101ALI20240729BHJP
C13K 13/00 20060101ALI20240729BHJP
C07H 1/06 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
C07K14/195
C12N15/31 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12P21/02 C
C12N1/02
C13K13/00
C07H1/06
(21)【出願番号】P 2019145609
(22)【出願日】2019-08-07
【審査請求日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2018152361
(32)【優先日】2018-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 政浩
(72)【発明者】
【氏名】丸山 高廣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】浅越 綾
(72)【発明者】
【氏名】畑山 耕太
(72)【発明者】
【氏名】穂谷 恵
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-000038(JP,A)
【文献】国際公開第2013/128914(WO,A1)
【文献】特開2001-103973(JP,A)
【文献】特開2006-025659(JP,A)
【文献】特開2011-206046(JP,A)
【文献】Nat. Biotechnol.,2011年,Vol.29, No.9,pp.829-834
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(c)のいずれかに記載のアミノ酸配列から成る、フコース結合性タンパク質であって、
Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を含む糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖に対する結合親和性を有するフコース結合性タンパク質:
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列であって、Xが125以上130以下の整数である、アミノ酸配列;
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、1~12個のアミノ酸残基の欠失
および/または置
換を含むアミノ酸配列であって、Xが125以上130以下の整数である、アミノ酸配列;(c)前記(a)または(b)に記載のアミノ酸配列において、特定のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列であって、当該特定のアミノ酸置換が以下の(1)から(5)に記載のアミノ酸置換から選択される1つ以上のアミノ酸置換である、アミノ酸配列:
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基の、ロイシン残基またはメチオニン残基への置換;
(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基に相当するアミノ酸残基の、グリシン残基またはアラニン残基への置換;
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基の、ロイシン残基への置換;
(4)配列番号1で示されるアミノ酸配列の81番目のグルタミン酸残基に相当するアミノ酸残基の、システイン残基、グルタミン残基、ヒスチジン残基、メチオニン残基、バリン残基、リジン残基、セリン残基、イソロイシン残基、チロシン残基、グリシン残基、プロリン残基、ロイシン残基、またはアスパラギン残基への置換;
(5)配列番号1で示されるアミノ酸配列の36番目のグリシン残基に相当するアミノ酸残基の、システイン残基への置換。
【請求項2】
配列番号2から配列番号16のいずれかで示されるアミノ酸配列から成る、請求項1に記載のフコース結合性タンパク質。
【請求項3】
以下の(a)~(c)のいずれかに記載のアミノ酸配列と、N末端側付加配列および/またはC末端側付加配列と、から成り、前記(a)~(c)のいずれかに記載のアミノ酸配列のC末端に隣接して欠失配列に対し50%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含まないよう構成され
、ただし、前記欠失配列は配列番号1で示されるアミノ酸配列のX+1番目のアミノ酸残基から155番目のグリシン残基までのアミノ酸配列である、フコース結合性タンパク質であって、
Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を含む糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖に対する結合親和性を有するフコース結合性タンパク質:
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列であって、Xが125以上130以下の整数である、アミノ酸配列;
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、1~12個のアミノ酸残基の欠失
および/または置
換を含むアミノ酸配列であって、Xが125以上130以下の整数である、アミノ酸配列;(c)前記(a)または(b)に記載のアミノ酸配列において、特定のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列であって、当該特定のアミノ酸置換が以下の(1)から(5)に記載のアミノ酸置換から選択される1つ以上のアミノ酸置換である、アミノ酸配列:
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基の、ロイシン残基またはメチオニン残基への置換;
(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基に相当するアミノ酸残基の、グリシン残基またはアラニン残基への置換;
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基の、ロイシン残基への置換;
(4)配列番号1で示されるアミノ酸配列の81番目のグルタミン酸残基に相当するアミノ酸残基の、システイン残基、グルタミン残基、ヒスチジン残基、メチオニン残基、バリン残基、リジン残基、セリン残基、イソロイシン残基、チロシン残基、グリシン残基、プロリン残基、ロイシン残基、またはアスパラギン残基への置換;
(5)配列番号1で示されるアミノ酸配列の36番目のグリシン残基に相当するアミノ酸残基の、システイン残基への置換。
【請求項4】
請求項3に記載の(a)~(c)のいずれかに記載のアミノ酸配列が、配列番号2から配列番号16のいずれかで示されるアミノ酸配列である、請求項3に記載のフコース結合性タンパク質。
【請求項5】
以下の(a)~(c)のいずれかに記載のアミノ酸配列において、特定のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列であって:
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列であって、Xが125以上130以下の整数である、アミノ酸配列;
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、1~12個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列であって、Xが125以上130以下の整数である、アミノ酸配列;
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列であって、Xが125以上130以下の整数である、アミノ酸配列;
当該特定のアミノ酸置換が以下の(1)から(5)に記載のアミノ酸置換から選択される1つ以上のアミノ酸置換である、アミノ酸配列を含む、フコース結合性タンパク質であり:
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基の、ロイシン残基またはメチオニン残基への置換;
(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基に相当するアミノ酸残基の、グリシン残基またはアラニン残基への置換;
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基の、ロイシン残基への置換;
(4)配列番号1で示されるアミノ酸配列の81番目のグルタミン酸残基に相当するアミノ酸残基の、システイン残基、グルタミン残基、ヒスチジン残基、メチオニン残基、バリン残基、リジン残基、セリン残基、イソロイシン残基、チロシン残基、グリシン残基、プロリン残基、ロイシン残基、またはアスパラギン残基への置換;
(5)配列番号1で示されるアミノ酸配列の36番目のグリシン残基に相当するアミノ酸残基の、システイン残基への置換;
Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を含む糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖に対する結合親和性を有するフコース結合性タンパク質。
【請求項6】
N末端側付加配列および/またはC末端側付加配列を有する、請求項5に記載のフコース結合性タンパク質。
【請求項7】
全長が、115~165残基である、請求項3から6のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質。
【請求項8】
C末端側付加配列がシステイン残基を含むオリゴペプチドである、請求項3、4、6および7のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質。
【請求項9】
N末端側付加配列がポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドである、請求項3、4、および6から8のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質をコードするDNA。
【請求項11】
請求項10に記載のDNAを含む発現ベクター。
【請求項12】
請求項10に記載のDNAまたは請求項11に記載の発現ベクターを有する形質転換体。
【請求項13】
エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である、請求項12に記載の形質転換体。
【請求項14】
フコース結合性タンパク質の製造方法であって、
請求項12または13に記載の形質転換体を培養することによりフコース結合性タンパク質を発現する工程;および
発現した前記フコース結合性タンパク質を回収する工程を含み、
フコース結合性タンパク質が、請求項1から9のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質である、方法。
【請求項15】
不溶性担体と、該不溶性担体に固定化された請求項1から9のいずれか1項に記載のフ
コース結合性タンパク質とを備える、吸着剤。
【請求項16】
吸着剤の製造方法であって、
不溶性担体から反応性不溶性担体を製造する工程;および
前記反応性不溶性担体に請求項1から9のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質を固定化する工程
を含み、
吸着剤が、請求項15に記載の吸着剤である、方法。
【請求項17】
前記反応性不溶性担体が、マレイミド基またはハロアセチル基を有する不溶性担体である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項17に記載の吸着剤が充填されたカラム。
【請求項19】
細胞の分離方法であって、
請求項15に記載の吸着剤と細胞混合物とを接触させる工程;および
前記吸着剤に吸着した細胞と吸着しなかった細胞とを分離する工程
を含む、方法。
【請求項20】
前記細胞混合物が、第1の細胞と第2の細胞を含有する混合物であり、
前記第1の細胞が、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を含む糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を有する細胞であり、
前記第2の細胞が、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を含む糖鎖およびFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれも有しない細胞である、
請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の細胞が未分化細胞であり、前記第2の細胞が分化細胞である、請求
項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第1の細胞ががん細胞である、請求
項20に記載の方法。
【請求項23】
フコース含有糖鎖を有する物質の精製方法であって、
請求項15に記載の吸着剤と前記フコース含有糖鎖を有する物質とを接触させる工程;および
前記吸着剤に結合した前記物質を溶出する工程
を含み、
前記フコース含有糖鎖が、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を含む糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖である、方法。
【請求項24】
前記物質が、前記フコース含有糖鎖および/または当該フコース含有糖鎖を有する複合糖質である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項18に記載のカラムが用いられる、請求項19から24のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フコース結合性タンパク質、その製造方法、およびその用途に関する。本発明は、特に、Escherichia coli等の宿主で発現した際の生産性、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖等のフコース含有糖鎖に対する結合親和性、および/または熱に対する安定性が向上したフコース結合性タンパク質に関するものであってよい。
【背景技術】
【0002】
グラム陰性細菌(Burkholderia cenocepacia)が産生するBC2L-CレクチンのN末端ドメインに由来するBC2LCNは、フコース残基を含む糖鎖への結合親和性を有するタンパク質であり、例えば、非特許文献1、特許文献1および特許文献2に記載の未分化糖鎖マーカーとして知られているHタイプ1型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc)およびHタイプ3型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GalNAc)以外に、ルイスY型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc)やルイスX型糖鎖(Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc)等のフコース残基を含む複数種の糖鎖に高い結合親和性を有することが知られている(非特許文献2)。また、BC2LCNは、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖が高発現している未分化状態のヒトiPS細胞やヒトES細胞には結合するが、ヒト体細胞には結合しないことが知られている(非特許文献3)。さらに、BC2LCNは前記未分化糖鎖マーカーに結合性を有することから、例えば、未分化糖鎖マーカーを含む複合糖質の検出や、ヒトiPS細胞やヒトES細胞等の未分化細胞の検出に使用されている(特許文献1および特許文献2)。また、Hタイプ1型糖鎖はSSEA-5として特定のがん細胞に高発現していることが知られている(非特許文献4)。
【0003】
BC2LCNは既知の未分化細胞検出用抗体である抗Nanog抗体等と同等の未分化幹細胞検出能をもっているものの(特許文献2)、BC2LCNと未分化細胞の糖鎖の結合は静電相互作用によるものであり、結合の強さは溶媒や塩濃度等の外環境の影響を受ける。このため、実験条件によっては前記未分化細胞および/または前記未分化糖鎖マーカーを含む複合糖質の検出において、当該糖鎖とBC2LCNの結合親和性が低くなる可能性が考えられることから、前記未分化糖鎖マーカーへの結合親和性が向上したBC2LCNが求められている。
【0004】
タンパク質の機能を向上させる方法として、タンパク質工学的手法によりタンパク質にアミノ酸変異を導入し、目的とする機能を向上させる方法が公知であり、例えば特許文献3には特定のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、熱、酸および/またはアルカリに対する安定性が向上したFc結合性タンパク質が記載されている。しかしながら、特定位置のアミノ酸置換により熱に対する安定性や糖鎖への結合親和性が向上したBC2LCNに関する報告はこれまでにない。また、BC2LCNを産業応用するためには、安定供給および大量供給の観点から、Escherichia coli等の微生物を利用して製造した場合の生産性が高い方が好ましいが、生産性が向上したBC2LCNに関する報告もこれまでにない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2013/065302号
【文献】WO2013/128914号
【文献】特開2011-206046号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Tateno,H等,Stem Cells Transl Med.2013,2(4):265-273.
【文献】Sulak,O等,Structure.2010,18(1):59-72.
【文献】Tateno,H等,J Biol Chem.2011,286(23):20345-20353.
【文献】Tang,C等,Nat Biotechnol.2011,29(9):829-835
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、優れた性質を有するフコース結合性タンパク質を提供することである。本発明の課題は、具体的には、Escherichia coli等の宿主で発現した際の生産性、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖等のフコース含有糖鎖に対する結合親和性、および/または熱に対する安定性が向上したフコース結合性タンパク質を提供することであってよい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、配列番号1で示される155アミノ酸残基からなるBC2LCNのアミノ酸配列において、C末端側の複数個のアミノ酸残基を欠失させることにより、Escherichia coliで発現した際の生産性が飛躍的に向上することを見出した。また、本発明者らは、配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基をロイシン残基またはメチオニン残基に置換すること、および/または、配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基をロイシン残基に置換すること、および/または、配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基をグリシン残基またはアラニン残基に置換することにより、熱に対する安定性が向上したフコース結合性タンパク質が得られることを見出した。また、本発明者らは、配列番号1で示されるアミノ酸配列の81番目のグルタミン酸残基をシステイン残基、グルタミン残基、ヒスチジン残基、メチオニン残基、バリン残基、リジン残基、セリン残基、イソロイシン残基、チロシン残基、グリシン残基、プロリン残基、ロイシン残基、またはアスパラギン残基に置換することにより、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性が向上したフコース結合性タンパク質が得られることを見出した。また、本発明者らは、配列番号1で示されるアミノ酸配列の36番目のグリシン残基をシステイン残基に置換することにより、C末端にシステイン残基を1つ以上含むオリゴペプチドを付加して製造した場合のジスルフィド結合形成による二量体の生成が抑制されることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば、以下の[1]から[24]に記載した発明を包含するものである。
[1]
以下の(a)~(d)のいずれかに記載のアミノ酸配列を含む、フコース結合性タンパク質であって、
Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を含む糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖に対する結合親和性を有し、
ただし、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質は除く、フコース結合性タンパク質:
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列であって、Xが110以上140以下の整数である、アミノ酸配列;
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、1個若しくは複数個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列であって、Xが110以上140以下の整数である、アミノ酸配列;
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、Xが110以上140以下の整数である、アミノ酸配列;
(d)前記(a)~(c)のいずれかに記載のアミノ酸配列において、特定のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列であって、当該特定のアミノ酸置換が以下の(1)から(5)に記載のアミノ酸置換から選択される1つ以上のアミノ酸置換である、アミノ酸配列:
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基の、グルタミン残基以外のアミノ酸残基への置換;
(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基に相当するアミノ酸残基の、システイン残基以外のアミノ酸残基への置換;
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基の、グルタミン残基以外のアミノ酸残基への置換;
(4)配列番号1で示されるアミノ酸配列の81番目のグルタミン酸残基に相当するアミノ酸残基の、グルタミン酸残基以外のアミノ酸残基への置換;
(5)配列番号1で示されるアミノ酸配列の36番目のグリシン残基に相当するアミノ酸残基の、グリシン残基以外のアミノ酸残基への置換。
[2]
前記(1)から(5)に記載のアミノ酸置換が、それぞれ、以下の(6)から(10)に記載のアミノ酸置換である、[1]に記載のフコース結合性タンパク質:
(6)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基の、ロイシン残基またはメチオニン残基への置換;
(7)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基に相当するアミノ酸残基の、グリシン残基またはアラニン残基への置換;
(8)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基の、ロイシン残基への置換;
(9)配列番号1で示されるアミノ酸配列の81番目のグルタミン酸残基に相当するアミノ酸残基の、システイン残基、グルタミン残基、ヒスチジン残基、メチオニン残基、バリン残基、リジン残基、セリン残基、イソロイシン残基、チロシン残基、グリシン残基、プロリン残基、ロイシン残基、またはアスパラギン残基への置換;
(10)配列番号1で示されるアミノ酸配列の36番目のグリシン残基に相当するアミノ酸残基の、システイン残基への置換。
[3]
全長が、95~175残基である、[1]または[2]に記載のフコース結合性タンパク質。
[4]
前記(a)~(d)に記載のアミノ酸配列の長さが、95~155残基である、[1]から[3]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質。
[5]
配列番号2から配列番号16のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、[1]から[4]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質。
[6]
N末端および/またはC末端に付加的なアミノ酸配列を有する、[1]から[5]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質。
[7]
C末端に付加したアミノ酸配列がシステイン残基を含むオリゴペプチドである、[1]から[6]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質。
[8]
N末端に付加したアミノ酸配列がポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドである、[1]から[7]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質。
[9]
[1]から[8]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質をコードするDNA。
[10]
[9]に記載のDNAを含む発現ベクター。
[11]
[9]に記載のDNAまたは[10]に記載の発現ベクターを有する形質転換体。
[12]
エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である、[11]に記載の形質転換体。
[13]
フコース結合性タンパク質の製造方法であって、
[11]または[12]に記載の形質転換体を培養することによりフコース結合性タンパク質を発現する工程;および
発現した前記フコース結合性タンパク質を回収する工程
を含み、
フコース結合性タンパク質が、[1]から[8]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質である、方法。
[14]
不溶性担体と、該不溶性担体に固定化された[1]から[8]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質とを備える、吸着剤。
[15]
吸着剤の製造方法であって、
不溶性担体から反応性不溶性担体を製造する工程;および
前記反応性不溶性担体に[1]から[8]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質を固定化する工程
を含み、
吸着剤が、[14]に記載の吸着剤である、方法。
[16]
前記反応性不溶性担体が、マレイミド基またはハロアセチル基を有する不溶性担体である、[15]に記載の方法。
[17]
[14]に記載の吸着剤が充填されたカラム。
[18]
細胞の分離方法であって、
[14]に記載の吸着剤と細胞混合物とを接触させる工程;および
前記吸着剤に吸着した細胞と吸着しなかった細胞とを分離する工程
を含む、方法。
[19]
前記細胞混合物が、第1の細胞と第2の細胞を含有する混合物であり、
前記第1の細胞が、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を含む糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を有する細胞であり、
前記第2の細胞が、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を含む糖鎖およびFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれも有しない細胞である、[18]に記載の方法。
[20]
前記第1の細胞が未分化細胞であり、前記第2の細胞が分化細胞である、[18]または[19]に記載の方法。
[21]
前記第1の細胞ががん細胞である、[18]または[19]に記載の方法。
[22]
フコース含有糖鎖を有する物質の精製方法であって、
[14]に記載の吸着剤と前記フコース含有糖鎖を有する物質とを接触させる工程;および
前記吸着剤に結合した前記物質を溶出する工程
を含み、
前記フコース含有糖鎖が、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を含む糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖である、方法。
[23]
前記物質が、前記フコース含有糖鎖および/または当該フコース含有糖鎖を有する複合糖質である、[22]に記載の方法。
[24]
[17]に記載のカラムが用いられる、[18]から[23]のいずれかに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1におけるフコース結合性タンパク質129、実施例2におけるフコース結合性タンパク質127、実施例3におけるフコース結合性タンパク質129G36C、実施例4におけるフコース結合性タンパク質127G36C、および比較例1における組換えBC2LCN(155)cysを、還元条件下でSDS-PAGE法により分析した結果である。
【
図2】実施例5における精製129溶液、精製127溶液、精製129G36C溶液、精製127G36C溶液、および精製BC2LCN(155)溶液を、非還元条件および還元条件でSDS-PAGE法により分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のフコース結合性タンパク質は、特定のフコース結合性タンパク質である。「フコース結合性タンパク質」とは、フコース含有糖鎖に対する結合性を有するタンパク質を意味する。「結合性」を、「結合親和性」ともいう。すなわち、本発明のフコース結合性タンパク質は、フコース含有糖鎖に対する結合親和性を有する。「フコース含有糖鎖」とは、フコース残基を含む糖鎖を意味する。フコース含有糖鎖の構造(例えば、フコース含有糖鎖の長さ、フコース残基の個数や位置、フコース残基以外の糖残基の種類や個数や位置)は、フコース含有糖鎖がフコース残基を含む限り、特に制限されない。フコース含有糖鎖としては、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造、Fucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造、Fucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAcからなる構造、Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcからなる構造、Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcからなる構造等の、フコース残基を含む糖鎖構造を含む糖鎖が挙げられる。これらの糖鎖構造を含む糖鎖は、それぞれ、これらの糖鎖構造からなる糖鎖であってもよい。Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を「Hタイプ1型糖鎖構造」、Fucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を「Hタイプ3型糖鎖構造」、Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcからなる構造を「ルイスY型糖鎖構造」、Fucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAcからなる構造を「ルイスb型糖鎖構造」ともいう。Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc(Hタイプ1型糖鎖構造)からなる糖鎖を「Hタイプ1型糖鎖」、Fucα1-2Galβ1-3GalNAc(Hタイプ3型糖鎖構造)からなる糖鎖を「Hタイプ3型糖鎖」、Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc(ルイスY型糖鎖構造)からなる糖鎖を「ルイスY型糖鎖」、Fucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc(ルイスb型糖鎖構造)からなる糖鎖を「ルイスb型糖鎖」ともいう。本発明のフコース結合性タンパク質は、例えば、これらのフコース含有糖鎖から選択される1種またはそれ以上のフコース含有糖鎖に対する結合親和性を有していてよい。本発明のフコース結合性タンパク質は、特に、少なくとも、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖に対する結合親和性を有していてよい。なお、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖」とは、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造(Hタイプ1型糖鎖構造)を含む糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造(Hタイプ3型糖鎖構造)を含む糖鎖を意味してよい。
【0013】
タンパク質の糖鎖への結合親和性は、例えば、ELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)法または表面プラズモン共鳴法等により評価することができる。一例として、表面プラズモン共鳴法による結合親和性評価について説明する。表面プラズモン共鳴法による結合親和性評価のための測定は、例えば、Biacore T200機器(GEヘルスケア製)を用い、アナライトをタンパク質、固相を糖鎖として実施することができる。糖鎖を固定したセンサーチップは、例えば、ビオチン標識した糖鎖を、ストレプトアビジンがコートされたセンサーチップ(Sensor Chip SA、GEヘルスケア製)、またはデキストランがコートされたセンサーチップ(Sensor Chip CM5、GEヘルスケア製)にストレプトアビジンを固定したものに結合することにより取得できる。測定データに基づく結合親和性評価は、例えば、当該機器に付属のカイネティクス解析プログラムを利用して行うことができる。
【0014】
本発明のフコース結合性タンパク質としては、BC2LCNのアミノ酸配列のC末端領域を欠失させたアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる。BC2LCNのアミノ酸配列のC末端領域を欠失させたアミノ酸配列を、「短縮型BC2LCN配列」ともいう。欠失したC末端領域のアミノ酸配列を、「欠失配列」ともいう。
【0015】
BC2LCNは、Hタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖、ルイスb型糖鎖等のフコース含有糖鎖への結合親和性を有するレクチンである。BC2LCNのアミノ酸配列を配列番号1に示す。配列番号1で示されるアミノ酸配列は155アミノ酸残基からなり、GenPeptに登録番号WP_006490828として登録されているアミノ酸配列の2番目から156番目までのアミノ酸配列と一致する。後述する実施例で示すように、BC2LCNのアミノ酸配列のC末端領域を欠失させることにより、当該C末端領域を欠失させない場合に比べて、Escherichia coliを宿主としてBC2LCNを製造する場合の生産性(具体的には、発現量)を向上させることができる。すなわち、本発明のタンパク質は、BC2LCN(155)cys等の配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質に比べて、Escherichia coli等の宿主で発現した際の生産性が向上している。本発明のタンパク質は、BC2LCN(155)cys等の配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質に比べて、少なくとも、Escherichia coliで発現した際の生産性が向上していてよい。生産性の向上としては、培養液の単位容積当たりの生産量の増大や、宿主の細胞当たりの生産量の増大が挙げられる。
【0016】
すなわち、「短縮型BC2LCN配列」とは、配列番号1で示されるアミノ酸配列のC末端領域を欠失させたアミノ酸配列を意味する。「短縮型BC2LCN配列」とは、具体的には、配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列であって、Xが155未満の整数であるアミノ酸配列を意味する。また、「欠失配列」とは、具体的には、配列番号1で示されるアミノ酸配列のX+1番目のアミノ酸残基から155番目のグリシン残基までのアミノ酸配列を意味する。Xは、本発明のフコース結合性タンパク質がフコース含有糖鎖に対する結合親和性を有し、且つ、Escherichia coli等の宿主で発現した際の生産性が向上する限り、特に制限されない。Xは、例えば、110以上、115以上、120以上、または125以上であってもよく、155未満、150以下、145以下、140以下、135以下、または130以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。Xは、特に、110以上、115以上、120以上、または125以上であってもよく、140以下、135以下、または130以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。Xは、具体的には、例えば、110以上140以下の整数であってよく、好ましくは120以上135以下の整数であってよく、より好ましくは125以上130以下の整数であってよい。
【0017】
短縮型BC2LCN配列として、具体的には、配列番号2、配列番号3、および配列番号6に示されるアミノ酸配列が挙げられる。配列番号2に示されるアミノ酸配列は、GenPeptに登録番号WP_006490828として登録されているアミノ酸配列の2番目から130番目までのアミノ酸配列と一致し、Xが129である短縮型BC2LCN配列に相当する。配列番号3に示されるアミノ酸配列は、GenPeptに登録番号WP_006490828として登録されているアミノ酸配列の2番目から128番目までのアミノ酸配列と一致し、Xが127である短縮型BC2LCN配列に相当する。配列番号6に示されるアミノ酸配列は、GenPeptに登録番号WP_006490828として登録されているアミノ酸配列の2番目から127番目までのアミノ酸配列と一致し、Xが126である短縮型BC2LCN配列に相当する。
【0018】
本発明のフコース結合性タンパク質としては、短縮型BC2LCN配列のバリアント配列を含むタンパク質も挙げられる。バリアント配列は、本発明のフコース結合性タンパク質がフコース含有糖鎖に対する結合親和性を有し、且つ、Escherichia coli等の宿主で発現した際の生産性の向上が損なわれない限り、特に制限されない。
【0019】
バリアント配列としては、短縮型BC2LCN配列において、1若しくは複数個の位置での1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列が挙げられる。前記「1若しくは複数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置やアミノ酸残基の種類によって異なり得るが、例えば、1~15個、1~12個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個を意味してよい。上記のアミノ酸残基の置換の一例としては、物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸残基間で置換が生じる保守的置換が挙げられる。保守的置換の場合、一般に、置換が生じているものと置換が生じていないものとの間でタンパク質の機能が維持されることが当業者において知られている。物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸残基としては、側鎖の性質が類似したアミノ酸残基が挙げられる。側鎖の性質が類似したアミノ酸残基としては、疎水性側鎖を有するアミノ酸残基のグループ(例えば、グリシン残基、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、プロリン残基、フェニルアラニン残基、メチオニン残基、およびトリプトファン残基)、親水性の酸性側鎖を有するアミノ酸残基のグループ(例えば、アスパラギン酸残基およびグルタミン酸残基)、親水性の塩基性側鎖を有するアミノ酸残基のグループ(例えば、リジン残基、アルギニン残基、およびヒスチジン残基)、親水性の電荷を持たない側鎖を有するアミノ酸残基のグループ(例えば、アスパラギン残基、グルタミン残基、セリン残基、スレオニン残基、システイン残基、およびチロシン残基)を挙げることができる。すなわち、各グループ内のアミノ酸残基間では側鎖の性質が類似しているとみなせる。また、上記のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加には、例えば、タンパク質またはそれをコードする遺伝子が由来する生物の個体差や種の違いに基づく場合等の天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
【0020】
バリアント配列としては、短縮型BC2LCN配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列も挙げられる。「アミノ酸配列に対する相同性」とは、アミノ酸配列全体に対する相同性を意味する。「高い相同性」とは、例えば、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上の相同性を意味してよい。「相同性」とは、同一性(identity)または類似性(similarity)を意味してよい。アミノ酸配列間の「同一性(identity)」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。アミノ酸配列間の「類似性(similarity)」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率と側鎖の性質が類似したアミノ酸残基の比率の合計を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。側鎖の性質が類似したアミノ酸残基については上述の通りである。アミノ酸配列の相同性は、BLASTやFASTA等のアラインメントプログラムを利用して決定することができる。
【0021】
短縮型BC2LCN配列とそのバリアント配列との差異をもたらすアミノ酸配列の改変(例えば、上記1若しくは数個のアミノ酸残基の付加等または上記相同性の範囲でのアミノ酸配列の改変)が、C末端側へのアミノ酸残基の付加を含む場合、C末端側に付加されるアミノ酸残基の数は、Escherichia coli等の宿主で発現した際の生産性の向上の観点から、少ないのが好ましい場合がある。C末端側に付加されるアミノ酸残基の数は、好ましくは10個以下(例えば、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個)であってよく、より好ましくは5個以下(例えば、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個)であってよい。
【0022】
本発明のフコース結合性タンパク質は、後述する「特定のアミノ酸置換」を含んでいてもよく、いなくてもよい。本発明のフコース結合性タンパク質は、具体的には、短縮型BC2LCN配列またはそのバリアント配列において、「特定のアミノ酸置換」を含んでいてよい。
【0023】
短縮型BC2LCN配列およびそのバリアント配列から選択される、「特定のアミノ酸置換」を含まないアミノ酸配列を、「非改変型アミノ酸配列」ともいう。非改変型アミノ酸配列において、「特定のアミノ酸置換」を含むアミノ酸配列を、「改変型アミノ酸配列」ともいう。すなわち、本発明のフコース結合性タンパク質としては、改変型アミノ酸配列を含むタンパク質も挙げられる。非改変型アミノ酸配列と改変型アミノ酸配列は、「特定のアミノ酸置換」の有無以外は同一であってよい。
【0024】
改変型アミノ酸配列は、例えば、短縮型BC2LCN配列において、「特定のアミノ酸置換」を含むアミノ酸配列であってよい。すなわち、改変型アミノ酸配列は、例えば、「特定のアミノ酸置換」の有無以外は、短縮型BC2LCN配列と同一であってよい。当該改変型アミノ酸配列を、「短縮型BC2LCN配列の改変型アミノ酸配列」ともいう。
【0025】
また、改変型アミノ酸配列は、例えば、短縮型BC2LCN配列のバリアント配列において、「特定のアミノ酸置換」を含むアミノ酸配列であってよい。すなわち、改変型アミノ酸配列は、例えば、「特定のアミノ酸置換」の有無以外は、短縮型BC2LCN配列のバリアント配列と同一であってよい。すなわち、改変型アミノ酸配列は、具体的には、例えば、短縮型BC2LCN配列において、1若しくは複数個の位置での1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含み、さらに、「特定のアミノ酸置換」を含むアミノ酸配列であってよい。また、改変型アミノ酸配列は、具体的には、例えば、短縮型BC2LCN配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列において、「特定のアミノ酸置換」を含むアミノ酸配列であってよい。
【0026】
なお、短縮型BC2LCN配列のバリアント配列自体は、非改変型アミノ酸配列であってもよく、改変型アミノ酸配列であってもよい。言い換えると、短縮型BC2LCN配列とそのバリアント配列との差異をもたらすアミノ酸配列の改変(例えば、上記1若しくは数個のアミノ酸残基の置換等または上記相同性の範囲でのアミノ酸配列の改変)は、「特定のアミノ酸置換」の一部または全部を含んでいてもよく、いなくてもよい。すなわち、例えば、短縮型BC2LCN配列のバリアント配列であって「特定のアミノ酸置換」を含まないものに「特定のアミノ酸置換」を導入することにより改変型アミノ酸配列を構成してもよく、短縮型BC2LCN配列のバリアント配列であって既に「特定のアミノ酸置換」を含むものを改変型アミノ酸配列として用いてもよい。また、短縮型BC2LCN配列とそのバリアント配列との差異をもたらすアミノ酸配列の改変(例えば、上記1若しくは数個のアミノ酸残基の置換等または上記相同性の範囲でのアミノ酸配列の改変)は、後述する(1)から(5)に記載のアミノ酸置換の内、「特定のアミノ酸置換」として選択されなかったものの一部または全部を含んでいてもよく、いなくてもよい。
【0027】
また、言い換えると、改変型アミノ酸配列は、例えば、短縮型BC2LCN配列の改変型アミノ酸配列のバリアント配列であってもよい。短縮型BC2LCN配列の改変型アミノ酸配列のバリアント配列については、短縮型BC2LCN配列の改変型アミノ酸配列のバリアント配列においては「特定のアミノ酸置換」を含むこと以外は、短縮型BC2LCN配列のバリアント配列についての記載を準用できる。すなわち、改変型アミノ酸配列は、具体的には、例えば、短縮型BC2LCN配列の改変型アミノ酸配列において、「特定のアミノ酸置換」の位置以外の1若しくは複数個の位置での1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列であってよい。また、改変型アミノ酸配列は、具体的には、例えば、短縮型BC2LCN配列の改変型アミノ酸配列に対して高い相同性を有し、且つ「特定のアミノ酸置換」を含むアミノ酸配列であってよい。短縮型BC2LCN配列の改変型アミノ酸配列のバリアント配列は、後述する(1)から(5)に記載のアミノ酸置換の内、「特定のアミノ酸置換」として選択されなかったものの一部または全部を含んでいてもよく、いなくてもよい。
【0028】
「特定のアミノ酸置換」としては、以下の(1)から(5)に記載のアミノ酸置換が挙げられる:
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基の、グルタミン残基以外のアミノ酸残基への置換;
(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基に相当するアミノ酸残基の、システイン残基以外のアミノ酸残基への置換;
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基の、グルタミン残基以外のアミノ酸残基への置換;
(4)配列番号1で示されるアミノ酸配列の81番目のグルタミン酸残基に相当するアミノ酸残基の、グルタミン酸残基以外のアミノ酸残基への置換;
(5)配列番号1で示されるアミノ酸配列の36番目のグリシン残基に相当するアミノ酸残基の、グリシン残基以外のアミノ酸残基への置換。
【0029】
「特定のアミノ酸置換」は、例えば、前記(1)から(5)に記載のアミノ酸置換から選択される、1つ以上のアミノ酸置換であってよい。すなわち、「特定のアミノ酸置換」は、例えば、前記(1)から(5)に記載のアミノ酸置換から選択される、いずれか1つのアミノ酸置換であってもよく、2つ、3つ、4つ、または5つのアミノ酸置換の組み合わせであってもよい。
【0030】
「特定のアミノ酸置換」により、熱に対する安定性の向上、フコース含有糖鎖への結合親和性の向上、およびジスルフィド結合形成による二量体の生成の抑制等の効果が得られてよい。「特定のアミノ酸置換」により、これらの効果から選択される1つまたはそれ以上の効果が得られてよい。フコース含有糖鎖への結合親和性の向上として、具体的には、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性の向上が挙げられる。
【0031】
前記(1)から(3)に記載のアミノ酸置換により、例えば、熱に対する安定性の向上、および/または、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖等のフコース含有糖鎖への結合親和性の向上が達成されてよい。特に、熱に対する安定性の向上、および/または、フコース含有糖鎖に対する結合親和性の向上が達成され得る点で、前記(1)に記載のアミノ酸置換は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基を、好ましくはロイシン残基またはメチオニン残基に、より好ましくはロイシン残基に置換するものであってよい。配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基をこれらのアミノ酸残基に置換することにより、例えば、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよびFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖の両方に対する結合親和性の向上が達成されてよい。配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基のロイシン残基への置換を、「Q39L」ともいう。他のアミノ酸置換についても、同様に、置換前後のアミノ酸残基の種類とアミノ酸残基の位置に基づいて略記する場合がある。また、特に、熱に対する安定性の向上、および/または、フコース含有糖鎖に対する結合親和性の向上が達成され得る点で、前記(2)に記載のアミノ酸置換は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基に相当するアミノ酸残基を、好ましくはグリシン残基またはアラニン残基に、より好ましくはグリシン残基に置換するものであってよい。配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基に相当するアミノ酸残基をこれらのアミノ酸残基に置換することにより、例えば、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよびFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖の両方に対する結合親和性の向上が達成されてよい。また、特に、熱に対する安定性の向上が達成され得る点で、前記(3)に記載のアミノ酸置換は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基を、好ましくはロイシン残基に置換するものであってよい。
【0032】
本発明のフコース結合性タンパク質は、例えば、少なくとも、前記(1)から(3)に記載のアミノ酸置換から選択される、1つ以上のアミノ酸置換を含んでいてよい。すなわち、本発明のフコース結合性タンパク質は、例えば、少なくとも、前記(1)、(2)、または(3)に記載のアミノ酸置換を含んでいてもよい。また、本発明のフコース結合性タンパク質は、例えば、少なくとも、前記(1)、(2)、または(3)に記載のアミノ酸置換から選択される2つまたは3つのアミノ酸置換の組み合わせを含んでいてもよい。前記(1)から(3)に記載のアミノ酸置換は、単独であっても複数の組み合わせであっても、熱に対する安定性の向上、および/または、フコース含有糖鎖に対する結合親和性の向上を達成し得る。また、特に、後述する実施例で示すように、熱に対する安定性の顕著な向上が達成され得る点で、好ましくは、前記(1)から(3)に記載のアミノ酸置換を複数組み合せて用いてよい。組み合わせとしては、前記(1)と(2)に記載のアミノ酸置換の組み合わせ、前記(1)と(3)に記載のアミノ酸置換の組み合わせ、前記(2)と(3)に記載のアミノ酸置換の組み合わせ、前記(1)と(2)と(3)に記載のアミノ酸置換の組み合わせが挙げられる。組み合わせとして、具体的には、Q39L/C72GやQ39L/Q65L/C72Gが挙げられる。本発明のフコース結合性タンパク質は、具体的には、例えば、少なくとも、前記(1)および/または(2)に記載のアミノ酸置換を含んでいてもよい。本発明のフコース結合性タンパク質は、具体的には、例えば、少なくとも、前記(1)および/または(2)に記載のアミノ酸置換と前記(3)に記載のアミノ酸置換を含んでいてもよい。本発明のフコース結合性タンパク質は、具体的には、例えば、少なくとも、前記(1)、(2)、および(3)に記載のアミノ酸置換を含んでいてもよい。
【0033】
また、前記(4)に記載のアミノ酸置換により、例えば、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖等のフコース含有糖鎖への結合親和性の向上が達成されてよい。特に、フコース含有糖鎖への結合親和性の向上が達成され得る点で、前記(4)に記載のアミノ酸置換は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の81番目のグルタミン酸残基に相当するアミノ酸残基を、好ましくは、システイン残基、グルタミン残基、ヒスチジン残基、メチオニン残基、バリン残基、リジン残基、セリン残基、イソロイシン残基、チロシン残基、グリシン残基、プロリン残基、ロイシン残基、またはアスパラギン残基に、より好ましくは、システイン残基、グルタミン残基、ヒスチジン残基、またはメチオニン残基に置換するものであってよい。配列番号1で示されるアミノ酸配列の81番目のグルタミン酸残基に相当するアミノ酸残基をシステイン残基、グルタミン残基、ヒスチジン残基、またはメチオニン残基に置換することにより、例えば、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよびFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖の両方に対する結合親和性の向上が達成されてよい。
【0034】
また、前記(5)に記載のアミノ酸置換により、例えば、ジスルフィド結合形成による二量体の生成の抑制が達成されてよい。特に、ジスルフィド結合形成による二量体の生成の抑制が達成され得る点で、前記(5)に記載のアミノ酸置換は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の36番目のグリシン残基に相当するアミノ酸残基を、好ましくはシステイン残基に置換するものであってよい。ジスルフィド結合は、例えば、システイン残基を1つ以上含むオリゴペプチドを付加して本発明のフコース結合性タンパク質を製造した場合に形成されるものであってよい。
【0035】
「配列番号1に示されるアミノ酸配列のX番目のアミノ酸残基」とは、配列番号1に示されるアミノ酸配列のN末端から数えてX位の位置に存在するアミノ酸残基を意味する。或るアミノ酸配列における「配列番号1に示されるアミノ酸配列のX番目のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基」とは、当該或るアミノ酸配列におけるアミノ酸残基であって、当該或るアミノ酸配列と配列番号1のアミノ酸配列とのアラインメントにおいて配列番号1に示すアミノ酸配列のX番目のアミノ酸残基と同一の位置に配列されるアミノ酸残基を意味する。例えば、Q39Lの場合、或るアミノ酸配列における「配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基に相当するアミノ酸残基」とは、当該或るアミノ酸配列におけるアミノ酸残基であって、当該或るアミノ酸配列と配列番号1のアミノ酸配列とのアラインメントにおいて配列番号1に示すアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基と同一の位置に配列されるアミノ酸残基を意味する。なお、配列番号1に示されるアミノ酸配列における「配列番号1に示されるアミノ酸配列のX番目のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基」とは、配列番号1に示されるアミノ酸配列のX番目のアミノ酸残基そのものを意味する。すなわち、「特定のアミノ酸置換」の位置は、必ずしも本発明のフコース結合性タンパク質における絶対的な位置を示すものではなく、配列番号1に示されるアミノ酸配列に基づく相対的な位置を示すものである。すなわち、例えば、本発明のフコース結合性タンパク質が、「特定のアミノ酸置換」の位置よりもN末端側にアミノ酸残基の挿入、欠失、または付加を含む場合、それに応じて「特定のアミノ酸置換」の絶対的な位置は変動し得る。本発明のフコース結合性タンパク質における「特定のアミノ酸置換」の位置は、例えば、本発明のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列と配列番号1に示されるアミノ酸配列とのアラインメントにより特定することができる。アラインメントは、例えば、BLAST等のアラインメントプログラムを利用して実施することができる。短縮型BC2LCN配列のバリアント配列等の任意のアミノ酸配列における「特定のアミノ酸置換」の位置についても同様である。また、「特定のアミノ酸置換」の置換前のアミノ酸残基は、配列番号1に示されるアミノ酸配列における置換前のアミノ酸残基の種類を示すものであって、配列番号1に示されるアミノ酸配列以外の非改変型アミノ酸配列においては保存されていてもよく、いなくてもよい。
【0036】
本発明のフコース結合性タンパク質として、具体的には、配列番号2(配列番号1で示されるアミノ酸配列のうち1番目から129番目までのアミノ酸配列)、配列番号3(配列番号1で示されるアミノ酸配列のうち1番目から127番目までのアミノ酸配列)、配列番号4(配列番号2の36番目のグリシン残基をシステイン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号5(配列番号3の36番目のグリシン残基をシステイン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号6(配列番号1で示されるアミノ酸配列のうち1番目から126番目までのアミノ酸配列)、配列番号7(配列番号2の81番目のグルタミン酸残基をシステイン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号8(配列番号2の81番目のグルタミン酸残基をグルタミン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号9(配列番号2の81番目のグルタミン酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号10(配列番号2の81番目のグルタミン酸残基をメチオニン残基に置換したアミノ酸配列)配列番号11(配列番号3の72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号12(配列番号3の72番目のシステイン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号13(配列番号3の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号14(配列番号3の39番目のグルタミン残基をメチオニン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号15(配列番号3の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に、72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)、および配列番号16(配列番号3の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に、65番目のグルタミン残基をロイシン残基に、72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)のいずれかで示されるアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質を挙げることができる。本発明のフコース結合性タンパク質は、例えば、これらの配列番号のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。特に、BC2LCN(155)cys等の配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質に比べて、Escherichia coli等の宿主で発現した際の生産性の向上が達成される点で、本発明のフコース結合性タンパク質は、好ましくは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号11、配列番号13、配列番号15、または配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質であってよい。また、特に、BC2LCN(155)cys等の配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質に比べて、Escherichia coli等の宿主で発現した際の生産性の向上が達成され、且つFucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖等のフコース含有糖鎖への結合親和性の向上が達成され得る点で、本発明のフコース結合性タンパク質は、より好ましくは、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号15、または配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質であってよい。また、特に、BC2LCN(155)cys等の配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質に比べて、Escherichia coli等の宿主で発現した際の生産性の向上が達成され、且つFucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖等のフコース含有糖鎖への結合親和性の向上、および熱に対する安定性の向上が達成され得る点で、本発明のフコース結合性タンパク質は、さらに好ましくは、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号15、または配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質であってよい。
【0037】
上記例示した本発明のフコース結合性タンパク質に含まれるアミノ酸配列(例えば、短縮型BC2LCN配列およびそのバリアント配列、ならびにそれらの改変型アミノ酸配列)を総称して、「コア配列」ともいう。すなわち、本発明のフコース結合性タンパク質は、コア配列を含むタンパク質であってよい。本発明のフコース結合性タンパク質は、コア配列からなるタンパク質であってもよく、コア配列に加えてそのN末端側および/またはC末端側にさらにアミノ酸配列を含んでいてもよい。コア配列のN末端側またはC末端側に含まれるアミノ酸配列を、「付加配列」ともいう。コア配列のN末端側およびC末端側に含まれるアミノ酸配列を、それぞれ、「N末端側付加配列」および「C末端側付加配列」ともいう。付加配列は、本発明のフコース結合性タンパク質がフコース含有糖鎖に対する結合親和性を有し、且つ、Escherichia coli等の宿主で発現した際の生産性の向上が損なわれない限り、特に制限されない。
【0038】
N末端側付加配列の長さは、例えば、1残基以上、2残基以上、3残基以上、4残基以上、5残基以上、10残基以上、15残基以上、20残基以上、または30残基以上であってもよく、60残基以下、50残基以下、40残基以下、30残基以下、20残基以下、15残基以下、12残基以下、10残基以下、7残基以下、または5残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。N末端側付加配列の長さは、具体的には、例えば、5~60残基、5~20残基、または5~15残基であってもよい。
【0039】
C末端側付加配列の長さは、例えば、1残基以上、2残基以上、3残基以上、4残基以上、または5残基以上であってもよく、15残基以下、12残基以下、10残基以下、7残基以下、または5残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。C末端側付加配列の長さは、具体的には、例えば、2~10残基であってもよい。
【0040】
付加配列としては、本発明のフコース結合性タンパク質の精製に有用なアミノ酸配列(以下、「精製用タグ」ともいう)が挙げられる。精製用タグは、具体的には、夾雑物質存在下の溶液から本発明のフコース結合性タンパク質を分離する際に有用なアミノ酸配列であってよい。精製用タグとしては、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、セルロース結合性ドメイン、mycタグ、FLAGタグ等を例示することができる。精製用タグとしては、特に、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドが挙げられる。ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを利用することにより、例えば、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる本発明のフコース結合性タンパク質の精製を実施できる。「ポリヒスチジン配列」とは、ヒスチジン残基の繰り返しからなるアミノ酸配列を意味する。ヒスチジン残基の繰返し数(すなわち、ポリヒスチジン配列の長さ)は、所望の効果が得られる限り、特に制限されない。ヒスチジン残基の繰返し数は、例えば、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる本発明のフコース結合性タンパク質の精製が可能な範囲で設定してよい。ヒスチジン残基の繰返し数は、例えば、好ましくは5個から15個であってよく、より好ましくは5個から10個であってよい。ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドは、ポリヒスチジン配列からなるものであってもよく、そうでなくてもよい。ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドの長さは、ポリヒスチジン配列が含まれていれば特に制限されないが、例えば、好ましくは20個以下であってよく、より好ましくは15個以下であってよい。ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドの長さは、具体的には、例えば、好ましくはヒスチジン残基の繰返し数が5個から15個である場合に20個以下であってよく、より好ましくはヒスチジン残基の繰返し数が5個から10個である場合に15個以下であってよい。ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド等の精製用タグは、コア配列のN末端側およびC末端側のいずれか一方に付加されてもよく、両方に付加されてもよい。ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド等の精製用タグは、好ましくは、コア配列のN末端側に付加されてよい。
【0041】
付加配列としては、本発明のフコース結合性タンパク質をクロマトグラフィー用の支持体等の担体に固定化する際に有用なアミノ酸配列(以下、「担体固定化用タグ」ともいう)も挙げられる。担体固定化用タグとしては、システイン残基またはリジン残基を含むオリゴペプチドが挙げられる。担体固定化用タグの長さは、所望の効果が得られる限り、特に制限されない。担体固定化用タグの長さは、例えば、2残基以上、3残基以上、4残基以上、または5残基以上であってもよく、15残基以下、12残基以下、10残基以下、7残基以下、または5残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。担体固定化用タグの長さは、具体的には、例えば、2~10残基であってもよい。担体固定化用タグは、特に、不溶性担体への固定化が高選択的かつ高効率に達成され得る点で、好ましくはシステイン残基を1つ以上含むオリゴペプチドであってよく、より好ましくはシステイン残基を1つ以上含む2から10残基のオリゴペプチドであってよい。そのような担体固定化用タグとして、具体的には、「Gly-Gly-Cys」の3アミノ酸残基からなるオリゴペプチド、「Ala-Ser-Gly-Gly-Cys(配列番号66)」の5アミノ酸残基からなるオリゴペプチド、「Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Cys(配列番号67)」の7アミノ酸残基からなるオリゴペプチド、およびそれらのバリアント配列を例示することができる。担体固定化用タグのバリアント配列については、短縮型BC2LCN配列のバリアント配列についての記載を準用できる。システイン残基を1つ以上含むオリゴペプチド等の担体固定化用タグは、コア配列のN末端側およびC末端側のいずれか一方に付加されてもよく、両方に付加されてもよい。システイン残基を1つ以上含むオリゴペプチド等の担体固定化用タグは、好ましくは、コア配列のC末端側に付加されてよい。
【0042】
付加配列としては、シグナルペプチドも挙げられる。シグナルペプチドにより、例えば、本発明のフコース結合性タンパク質の宿主での効率的な発現が促がされてもよい。シグナルペプチドにより、例えば、本発明のフコース結合性タンパク質がペリプラズムに分泌されてもよい。例えば、宿主がEscherichia coliの場合、シグナルペプチドとしては、PelB、DsbA、MalE、TorT等のタンパク質のシグナルペプチドを例示することができる。シグナルペプチドは、通常、コア配列のN末端側に付加されてよい。本発明のフコース結合性タンパク質がシグナルペプチドとそれ以外のN末端側付加配列を含む場合、シグナルペプチドは、それ以外のN末端側付加配列のさらにN末端側に付加されてよい。なお、シグナルペプチドは、本発明のフコース結合性タンパク質のペリプラズム等への分泌時に除去され得る。よって、「本発明のフコース結合性タンパク質がシグナルペプチドを含む」とは、本発明のフコース結合性タンパク質がシグナルペプチドを含む形態で翻訳されることで足り、最終的に得られる本発明のフコース結合性タンパク質がシグナルペプチドを含むことを要しない。
【0043】
本発明のフコース結合性タンパク質は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含まないように構成されるものとする。本発明のフコース結合性タンパク質は、配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列を含まないように構成されてもよい。配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列としては、配列番号1で示されるアミノ酸配列に対し、99%以上、98%以上、97%以上、96%以上、95%以上、94%以上、93%以上、92%以上、91%以上、または90%以上の相同性を有するアミノ酸配列が挙げられる。
【0044】
本発明のフコース結合性タンパク質は、欠失配列を含まないように構成されてもよい。本発明のフコース結合性タンパク質は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含まないよう、少なくとも、短縮型BC2LCN配列のC末端に隣接して欠失配列を含まないよう構成されるものとする。本発明のフコース結合性タンパク質は、欠失配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列を含まないように構成されてもよい。欠失配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列としては、欠失配列に対し、95%以上、90%以上、85%以上、80%以上、75%以上、70%以上、65%以上、60%以上、55%以上、または50%以上の相同性を有するアミノ酸配列が挙げられる。本発明のフコース結合性タンパク質は、例えば、コア配列が欠失配列を含まないように構成されてもよい。本発明のフコース結合性タンパク質は、例えば、コア配列が欠失配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列を含まないように構成されてもよい。本発明のフコース結合性タンパク質は、例えば、コア配列よりC末端側に欠失配列を含まないように構成されてもよい。本発明のフコース結合性タンパク質は、例えば、コア配列よりC末端側に欠失配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列を含まないように構成されてもよい。
【0045】
「欠失配列を含まない」とは、欠失配列の全長配列を含まないことを意味し、欠失配列の部分配列を含むことは除外しない。許容される部分配列の長さは、欠失配列の長さ等の諸条件に応じて、適宜設定できる。許容される部分配列の長さは、例えば、欠失配列の長さの50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、または10%以下であってよい。また、許容される部分配列の長さは、例えば、7残基以下、6残基以下、5残基以下、4残基以下、3残基以下、2残基以下、または1残基であってもよい。
【0046】
コア配列の長さは、例えば、(X-15)残基以上、(X-10)残基以上、(X-7)残基以上、(X-5)残基以上、(X-3)残基以上、(X-2)残基以上、(X-1)残基以上、X残基以上、(X+1)残基以上、(X+2)残基以上、(X+3)残基以上、または(X+5)残基以上であってもよく、(X+15)残基以下、(X+10)残基以下、(X+7)残基以下、(X+5)残基以下、(X+3)残基以下、(X+2)残基以下、(X+1)残基以下、X残基以下、(X-1)残基以下、(X-2)残基以下、(X-3)残基以下、または(X-5)残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。コア配列の長さは、具体的には、例えば、(X-15)~(X+15)残基、(X-10)~(X+10)残基、(X-5)~(X+5)残基、または(X-2)~(X+2)残基であってもよい。
【0047】
コア配列の長さは、例えば、95残基以上、100残基以上、105残基以上、110残基以上、115残基以上、120残基以上、または125残基以上であってもよく、165残基以下、160残基以下、155残基以下、150残基以下、145残基以下、140残基以下、135残基以下、または130残基以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。コア配列の長さは、具体的には、例えば、95~155残基、105~150残基、または110~145残基であってもよい。
【0048】
コア配列の長さは、例えば、155残基未満であってもよい。コア配列の長さは、特に、上記例示した範囲であって、且つ155残基未満であってもよい。
【0049】
本発明のフコース結合性タンパク質の長さ(すなわち、本発明のフコース結合性タンパク質の全長)は、コア配列の長さをY残基として、Y残基以上である。本発明のフコース結合性タンパク質の長さは、例えば、コア配列の長さをY残基として、Y残基以上、(Y+1)残基以上、(Y+2)残基以上、(Y+3)残基以上、(Y+5)残基以上、(Y+10)残基以上、または(Y+15)残基以上であってもよく、(Y+60)残基以下、(Y+55)残基以下、(Y+50)残基以下、(Y+45)残基以下、(Y+40)残基以下、(Y+35)残基以下、(Y+30)残基以下、(Y+20)残基以下、(Y+15)残基以下、(Y+10)残基以下、または(Y+5)残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。本発明のフコース結合性タンパク質の長さは、具体的には、例えば、コア配列の長さをY残基として、Y~(Y+20)残基であってもよい。
【0050】
本発明のフコース結合性タンパク質の長さは、例えば、(X-15)残基以上、(X-10)残基以上、(X-7)残基以上、(X-5)残基以上、(X-3)残基以上、(X-2)残基以上、(X-1)残基以上、X残基以上、(X+1)残基以上、(X+2)残基以上、(X+3)残基以上、(X+5)残基以上、(X+10)残基以上、(X+15)残基以上、(X+20)残基以上、または(X+25)残基以上であってもよく、(X+75)残基以下、(X+70)残基以下、(X+65)残基以下、(X+60)残基以下、(X+55)残基以下、(X+50)残基以下、(X+45)残基以下、(X+40)残基以下、(X+35)残基以下、(X+30)残基以下、(X+25)残基以下、(X+20)残基以下、(X+15)残基以下、(X+10)残基以下、(X+7)残基以下、(X+5)残基以下、(X+3)残基以下、(X+2)残基以下、(X+1)残基以下、X残基以下、(X-1)残基以下、(X-2)残基以下、(X-3)残基以下、または(X-5)残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。本発明のフコース結合性タンパク質の長さは、具体的には、例えば、(X-15)~(X+35)残基、(X-10)~(X+30)残基、(X-5)~(X+25)残基、または(X-2)~(X+20)残基であってもよい。
【0051】
本発明のフコース結合性タンパク質の長さは、例えば、95残基以上、100残基以上、105残基以上、110残基以上、115残基以上、120残基以上、または125残基以上であってもよく、225残基以下、220残基以下、215残基以下、210残基以下、205残基以下、200残基以下、195残基以下、190残基以下、185残基以下、180残基以下、175残基以下、170残基以下、165残基以下、160残基以下、155残基以下、150残基以下、145残基以下、140残基以下、135残基以下、または130残基以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。本発明のフコース結合性タンパク質の長さは、具体的には、例えば、95~175残基、105~170残基、または110~165残基であってもよい。
【0052】
次に、本発明のフコース結合性タンパク質をコードするDNA(以下、「本発明のDNA」ともいう)、本発明のDNAを含む発現ベクター(以下、「本発明の発現ベクター」ともいう)、および本発明のDNAまたは本発明の発現ベクターを有する形質転換体(以下、「本発明の形質転換体」ともいう)について説明する。
【0053】
本発明のDNAは、例えば、化学合成法により、または、Polymerase Chain Reaction(PCR)法等のDNA増幅法により、取得できる。DNA増幅法は、例えば、増幅すべき塩基配列を含むポリヌクレオチドを鋳型として実施することができる。鋳型とするポリヌクレオチドとしては、増幅すべき塩基配列を含む、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA断片、ベクターが挙げられる。本発明のDNAの塩基配列は、例えば、Burkholderia cenocepaciaのゲノムDNAのBC2L-C遺伝子領域の塩基配列の改変により、または本発明のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列からの変換により設計することができる。アミノ酸配列から塩基配列に変換する際には、本発明のフコース結合性タンパク質の生産に利用する宿主におけるコドンの使用頻度を考慮することが好ましい。一例として、Escherichia coliを宿主として利用する場合、アルギニン(Arg)ではAGA、AGG、CGGまたはCGAが、イソロイシン(Ile)ではATAが、ロイシン(Leu)ではCTAが、グリシン(Gly)ではGGAが、プロリン(Pro)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないコドン(レアコドン)であるため、これらのコドン以外のコドンを選択して変換することが好ましい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のホームページにあるCodon Usage Database、http://www.kazusa.or.jp/codon/、アクセス日:2018年5月7日)を利用することによっても可能である。また、本発明のDNAを作製する際には、アミノ酸残基置換操作を簡便に行うため、アミノ酸残基置換部位周辺のアミノ酸配列を変えずに、適当な制限酵素認識配列を導入してもよい。取得した本発明のDNAは、そのまま、あるいは適宜改変して利用することができる。取得した本発明のDNAは、例えば、バリアントの構築や「特定のアミノ酸置換」の導入等の改変に供してよい。DNAの改変は、例えば、エラープローンPCR法等の遺伝子工学的手法、または薬剤や紫外線等による変異処理により実施できる。
【0054】
本発明のDNAとして、具体的には、配列番号2のアミノ酸配列をコードする配列番号17の塩基配列を含むDNA、配列番号3のアミノ酸配列をコードする配列番号18の塩基配列を含むDNA、配列番号4のアミノ酸配列をコードする配列番号19の塩基配列を含むDNA、配列番号5のアミノ酸配列をコードする配列番号20の塩基配列を含むDNA、配列番号6のアミノ酸配列をコードする配列番号21の塩基配列を含むDNA、配列番号7のアミノ酸配列をコードする配列番号22の塩基配列を含むDNA、配列番号8のアミノ酸配列をコードする配列番号23の塩基配列を含むDNA、配列番号9のアミノ酸配列をコードする配列番号24の塩基配列を含むDNA、配列番号10のアミノ酸配列をコードする配列番号25の塩基配列を含むDNA、配列番号11のアミノ酸配列をコードする配列番号26の塩基配列を含むDNA、配列番号12のアミノ酸配列をコードする配列番号27の塩基配列を含むDNA、配列番号13のアミノ酸配列をコードする配列番号28の塩基配列を含むDNA、配列番号14のアミノ酸配列をコードする配列番号29の塩基配列を含むDNA、配列番号15のアミノ酸配列をコードする配列番号30の塩基配列を含むDNA、および配列番号16のアミノ酸配列をコードする配列番号31の塩基配列を含むDNAを例示することができる。本発明のDNAは、例えば、これらの配列番号のいずれかで示される塩基配列からなるものであってもよい。
【0055】
本発明のフコース結合性タンパク質は、例えば、本発明の形質転換体に本発明のフコース結合性タンパク質を発現させることにより製造できる。本発明の形質転換体は、本発明のDNAを有することに依拠して、本発明のフコース結合性タンパク質を発現することができる。すなわち、本発明の形質転換体は、言い換えると、本発明のフコース結合性タンパク質を発現可能な形質転換体である。
【0056】
本発明の形質転換体は、例えば、本発明のDNAを用いて宿主を形質転換することにより得られる。すなわち、本発明の形質転換体は、例えば、本発明のDNAで形質転換された宿主であってよい。宿主は、本発明のDNAで形質転換されることにより本発明のフコース結合性タンパク質を発現可能となるものであれば特に制限されない。宿主としては、動物細胞、昆虫細胞、微生物が挙げられる。動物細胞としては、COS細胞、CHO細胞、Hela細胞、NIH3T3細胞、HEK293細胞等が挙げられる。昆虫細胞としては、Sf9、BTI-TN-5B1-4等が挙げられる。微生物としては、酵母や細菌が挙げられる。酵母としては、Saccharomyces cerevisiae等のSaccharomyces属酵母、Pichia Pastoris等のPichia属酵母、Schizosaccharomyces pombe等のSchizosaccharomyces属酵母等が挙げられる。細菌としては、Escherichia coli等のエシェリヒア属細菌等が挙げられる。Escherichia coliとしては、JM109株、BL21(DE3)株、NiCo21(DE3)株、W3110株等が挙げられる。特に、本発明のフコース結合性タンパク質の生産性の点で、好ましくは、Escherichia coliを宿主として用いてよい。
【0057】
本発明のDNAは、発現可能に本発明の形質転換体に保持されていればよい。本発明のDNAは、具体的には、宿主で機能するプロモータの制御下で発現するように保持されていればよい。宿主で機能するプロモータとしては、例えば、Escherichia coliを宿主とする場合は、trpプロモータ、tacプロモータ、trcプロモータ、lacプロモータ、T7プロモータ、recAプロモータ、lppプロモータ、λPLプロモータ、λPRプロモータが挙げられる。
【0058】
本発明の形質転換体において、本発明のDNAは、例えば、ゲノムDNA外で自律複製するベクター上に存在していてよい。すなわち、本発明のDNAは、例えば、本発明のDNAを含む発現ベクターとして宿主に導入することができる。すなわち、本発明の形質転換体は、一態様において、本発明のDNAを含む発現ベクターを有する形質転換体であってよい。本発明のDNAを含む発現ベクターを、「本発明の発現ベクター」ともいう。本発明の発現ベクターは、例えば、発現ベクターの適切な位置に本発明のDNAを挿入することにより得られる。なお、発現ベクターは、形質転換する宿主内で安定に存在し複製できるものであれば特に制限されない。発現ベクターとしては、バクテリオファージ、コスミド、プラスミドが挙げられる。発現ベクターとしては、例えば、Escherichia coliを宿主とする場合は、pETベクター、pUCベクター、pTrcベクター、pCDFベクター、pBBRベクターを例示できる。発現ベクターは、抗生物質耐性遺伝子等の選択マーカーを備えていてよい。適切な位置とは、発現ベクターの複製機能、選択マーカー、および伝達性に関わる領域を破壊しない位置を意味する。発現ベクターに本発明のDNAを挿入する際は、発現に必要なプロモータ等の機能性DNAに連結される状態で発現ベクターに挿入することが好ましい。
【0059】
また、本発明の形質転換体において、本発明のDNAは、例えば、ゲノムDNA上に導入されていてもよい。ゲノムDNAへの本発明のDNAの導入は、例えば、相同組換えによる遺伝子導入法を利用して実施することができる。相同組換えによる遺伝子導入法としては、Red-driven integration法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))等の直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むベクターを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないベクターを用いる方法、ファージを用いたtransduction法が挙げられる。
【0060】
本発明の発現ベクター等のポリヌクレオチドを用いた宿主の形質転換は、例えば、当業者が通常用いる方法で行なうことができる。例えば、宿主としてEscherichia coliを選択する場合には、コンピテントセル法、ヒートショック法、エレクトロポレーション法等により形質転換することができる。形質転換後に適切な方法でスクリーニングすることにより、本発明の形質転換体を取得することができる。
【0061】
各種微生物において利用可能な発現ベクターやプロモータ等の遺伝子工学的手法に関する情報については、例えば、「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。
【0062】
本発明の形質転換体が本発明の発現ベクターを有する場合、本発明の形質転換体から本発明の発現ベクターを調製することができる。例えば、本発明の形質転換体を培養して得られる培養物からアルカリ抽出法またはQIAprep Spin Miniprep kit(商品名、キアゲン製)等の市販の抽出キットを用いて本発明の発現ベクターを調製することができる。
【0063】
次に、本発明のフコース結合性タンパク質の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう)について説明する。本発明の製造方法は、例えば、本発明の形質転換体を培養することにより本発明のフコース結合性タンパク質を発現する工程(以下、「第1工程」ともいう)、および発現した本発明のフコース結合性タンパク質を回収する工程(以下、「第2工程」ともいう)を含む、本発明のフコース結合性タンパク質の製造方法であってよい。
【0064】
第1工程では、本発明の形質転換体を培養し、本発明のフコース結合性タンパク質を発現する。第1工程における培地組成や培養条件は、宿主の種類や本発明のフコース結合性タンパク質の特性等の諸条件に応じて適宜設定することができる。培地組成や培養条件は、例えば、宿主が増殖でき、且つ、本発明のフコース結合性タンパク質を発現できるように設定することができる。培地としては、例えば、炭素源、窒素源、無機塩、その他の各種有機成分や無機成分を適宜含有する培地を用いることができる。例えば、宿主としてEscherichia coliを用いる場合、好ましくは、必要な栄養源を補ったTerrific Broth(TB)培地、Luria-Bertani(LB)培地等を使用してよい。なお、本発明の発現ベクターの導入の有無により本発明の形質転換体を選択的に増殖させるために、培地に当該発現ベクターに含まれる抗生物質耐性遺伝子に対応した抗生物質を添加して培養すると好ましい。例えば、当該発現ベクターがカナマイシン耐性遺伝子を含んでいる場合は培地にカナマイシンを添加すればよい。本発明のDNAがゲノムDNA上に導入されている場合も同様である。培養温度は、例えば、利用する宿主に関して一般的に知られた温度であってよい。例えば、宿主がEscherichia coliである場合、培養温度は、10℃から40℃、好ましくは20℃から37℃であってよい。また、培地のpHは、利用する宿主に関して一般的に知られたpH範囲であってよい。例えば、宿主がEscherichia coliである場合、培地のpHは、pH6.8からpH7.4の範囲、好ましくはpH7.0前後であってよい。
【0065】
本発明のフコース結合性タンパク質を誘導性のプロモータの制御下で発現する場合は、本発明のフコース結合性タンパク質が良好に発現されるよう培地に誘導剤を添加してよい。誘導剤としては、例えば、tacプロモータやlacプロモータを使用する場合は、isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside(IPTG)を挙げることができる。誘導剤の添加濃度は、例えば、0.005から1.0mMの範囲、好ましくは0.01から0.5mMの範囲であってよい。IPTG添加による発現誘導は、利用する宿主に関して一般的に知られた条件で実施してよい。なお、本発明のフコース結合性タンパク質を誘導性のプロモータの制御下で発現する場合であっても、誘導剤なしで本発明のフコース結合性タンパク質が良好に発現されるのであれば誘導剤を添加しなくてもよい。
【0066】
第2工程では、発現した本発明のフコース結合性タンパク質を回収する。本発明のフコース結合性タンパク質は、具体的には、得られた培養物から回収されてよい。なお、「培養物」とは、培養により得られた培養液の全体またはその一部を意味する。当該一部は、本発明のフコース結合性タンパク質を含有する部分であれば特に制限されない。当該一部としては、本発明の形質転換体の細胞、本発明の形質転換体の細胞分泌物、培養後の培地(すなわち培養上清)が挙げられる本発明のフコース結合性タンパク質の回収は、例えば、一般的に知られたタンパク質の回収方法によって実施してよい。例えば、本発明のフコース結合性タンパク質が培養液中に分泌生産される場合は、細胞を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清から本発明のフコース結合性タンパク質を回収してよい。また、本発明のフコース結合性タンパク質が細胞内(原核生物においてはペリプラズムも含む)に生産される場合は、遠心分離操作により細胞を集めた後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加する等により細胞を破砕し、細胞破砕液から本発明のフコース結合性タンパク質を回収してよい。
【0067】
回収した本発明のフコース結合性タンパク質は、所望の純度が得られるよう、適宜精製してよい。本発明のフコース結合性タンパク質の精製は、例えば、タンパク質の分離精製に用いられる公知の方法により実施してよい。タンパク質の精製方法としては、液体クロマトグラフィーを用いた分離精製法を挙げることができる。液体クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーが挙げられる。好ましくは、これらのクロマトグラフィーを組み合わせて実施してよい。本発明のフコース結合性タンパク質の純度および分子量は、例えば、当該技術分野において公知の方法を用いて確認することができる。そのような方法としては、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)法やゲルろ過クロマトグラフィー法を挙げることができる。
【0068】
本発明のフコース結合性タンパク質は、例えば、不溶性担体に固定化して利用することができる。本発明のフコース結合性タンパク質は、具体的には、例えば、不溶性担体に固定化して吸着剤として利用することができる。すなわち、本発明は、不溶性担体と、該不溶性担体に固定化された本発明のフコース結合性タンパク質とを備える、吸着剤を提供する。同吸着剤を、「本発明の吸着剤」ともいう。
【0069】
本発明の吸着剤は、例えば、本発明のフコース結合性タンパク質を不溶性担体に固定化することにより製造することができる。不溶性担体は、特に制限されない。不溶性担体としては、シリカゲルや金薄膜を蒸着させたガラス等の無機系担体、アガロース、セルロース、キチン、キトサン等の多糖類を原料とした水に不溶性の多糖系担体およびそれらを架橋剤で架橋した架橋多糖系担体、デキストラン、プルラン、デンプン、アルギン酸塩、カラギーナン等の水溶性多糖類を架橋剤で架橋した架橋多糖系担体、ポリ(メタ)アクリレート、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリスチレン等の合成高分子系担体およびそれらを架橋剤で架橋した架橋合成高分子系担体を例示することができる。特に、水酸基を有し、後述する親水性高分子による修飾が容易に行える点で、好ましい不溶性担体としては、アガロース、セルロース、デキストラン、プルラン等の電荷をもたない多糖系担体およびそれらを架橋剤で架橋した架橋多糖系担体や、ポリ(メタ)アクリレートやポリウレタン等の親水性合成高分子系担体およびそれらを架橋剤で架橋した架橋親水性合成高分子系担体が挙げられる。
【0070】
不溶性担体は、物質の非特異吸着を抑制する点で、好ましくはその表面が親水性高分子で修飾されていてよく、より好ましくはその表面に親水性高分子が共有結合で固定されていてよい。親水性高分子としては、アガロース、セルロース、デキストラン、プルラン、デンプン等の中性多糖類や、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)やポリビニルアルコール等の水酸基を有する合成高分子を例示することができる。特に、親水性が高く、不溶性担体表面への共有結合による固定が容易に行える点で、好ましい親水性高分子としては、デキストラン、プルラン、およびデンプン等の中性多糖類が挙げられ、より好ましい親水性高分子としては、デキストランおよびプルランが挙げられる。デキストランやプルラン等の親水性高分子の分子量は、特に制限されない。デキストランやプルラン等の親水性高分子の分子量は、不溶性担体表面の親水性修飾が十分に行える点で、好ましくは、数平均分子量として10,000から1,000,000であってよい。
【0071】
不溶性担体の形状は、特に制限されない。不溶性担体の形状は、例えば、粒子状、スポンジ状、平膜状、平板状、中空状、繊維状のいずれであってもよい。不溶性担体は、吸着剤への細胞吸着を効率的に行える点で、好ましくは粒子状の担体であってよく、より好ましくは真球状の粒子状担体であってよい。
【0072】
不溶性担体の、水に膨潤させた状態での粒径は、担体から製造される吸着剤をカラムに充填した場合に分離対象の細胞が吸着剤表面と十分接触し、かつ吸着剤に結合しない細胞が吸着剤間の隙間を淀みなく通過できる点で、好ましくは100μm以上1000μm以下、より好ましくは100μm以上500μm以下、さらに好ましくは150μm以上300μm以下であってよい。「粒径」とは、平均粒子径D50を意味してよい。「平均粒子径D50」とは、コールター原理に基づく粒度分布測定結果における体積基準での積算値50%での粒径を意味してよい。不溶性担体の粒径は、例えば、ベックマンコールター(株)製の精密粒度分布測定装置(製品名「Multisizer 3」)等を用いて測定することができる。また、不溶性担体の粒径は、例えば、光学顕微鏡を用いて目盛り付きスライドグラスの画像を撮影したのち、同じ倍率で測定対象の複数個の粒子の画像を撮影し、物差しを用いて撮影した複数個の担体の粒径を測定し、その平均値を算出することで求めることができる。
【0073】
不溶性担体の細孔の有無は特に制限されない。不溶性担体は、例えば、多孔性であってもよく、無孔性であってもよい。また、不溶性担体は、本発明の吸着剤に使用するタンパク質を担体に固定化するための活性官能基導入が容易に行える点で、好ましくは、水酸基を有する粒子状担体であってよい。不溶性担体としては、例えば、市販品を使用してよい。市販品としては、ポリ(メタ)アクリレートを原料としたトヨパール(東ソー製)、アガロースを原料としたSepharose(GEヘルスケア製)、セルロースを原料としたセルフィア(旭化成製)等が挙げられる。
【0074】
本発明の吸着剤は、例えば、不溶性担体に本発明のフコース結合性タンパク質を固定化することにより製造できる。本発明の吸着剤は、具体的には、例えば、不溶性担体から反応性不溶性担体を製造する工程(以下、「工程X」ともいう)と、該反応性不溶性担体に本発明のフコース結合性タンパク質を固定化する工程(以下、「工程Y」ともいう)を含む方法により製造することができる。
【0075】
工程Xは、不溶性担体から反応性不溶性担体を製造する工程である。反応性不溶性担体は、例えば、不溶性担体に反応性官能基を導入することにより製造することができる。反応性官能基は、不溶性担体に本発明のフコース結合性タンパク質を固定化するために利用できるものであれば、特に制限されない。反応性官能基としては、一般的なタンパク質固定化用の官能基が挙げられる。反応性官能基として、具体的には、エポキシ基、ホルミル基、カルボキシル基、活性エステル基、アミノ基、マレイミド基、ハロアセチル基等を例示することができる。
【0076】
不溶性担体に反応性官能基を導入する方法としては、一般的な官能基導入方法が挙げられる。
【0077】
エポキシ基を導入する方法としては、不溶性担体の水酸基とエポキシ基含有化合物を反応させる方法を例示することができる。エポキシ基含有化合物としては、エピクロロヒドリンやエピブロモヒドリン等のハロヒドリン類、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル等のジグリシジルエーテル類、グリセロールトリグリシジルエーテル、エリスリトールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル等のトリグリシジルエーテル類、エリスリトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等のテトラグリシジルエーテル類を例示することができる。また、不溶性担体の水酸基とエポキシ基含有化合物を反応させる場合、反応効率を高める点で、好ましくは、塩基性条件下で反応を実施してよい。
【0078】
ホルミル基を導入する方法としては、不溶性担体の水酸基とグルタルアルデヒド等の2官能性アルデヒド類を反応させる方法や、不溶性担体を過ヨウ素酸ナトリウム等の酸化剤と反応させる方法を例示することができる。また、ホルミル基を導入する方法としては、エポキシ基を導入した不溶性担体と、D-グルカミン、N-メチル-D-グルカミン、α-チオグリセロール等の化合物を反応させることで隣接する水酸基を不溶性担体に導入し、さらに過ヨウ素酸ナトリウム等の酸化剤と反応させる方法を例示することができる。
【0079】
カルボキシル基を導入する方法としては、不溶性担体の水酸基とモノクロロ酢酸やモノブロモ酢酸等のハロ酢酸と塩基性条件下で反応させる方法を例示することができる。また、カルボキシル基を導入する方法としては、エポキシ基を導入した不溶性担体を、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等のアミノ酸類、β-アラニン、4-アミノ酪酸、6-アミノヘキサン酸等のアミノ基含有カルボン酸類、またはチオグリコール酸やチオリンゴ酸等の含硫黄カルボン酸類と塩基性条件下で反応させる方法を例示することができる。また、カルボキシル基を導入する方法としては、不溶性担体に導入したカルボキシル基を1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(以下、EDCとする。)等の縮合剤存在下でN-ヒドロキシスクシンイミドと反応させることにより、活性エステル基であるN-ヒドロキシスクシンイミドエステルへ誘導する方法を例示することができる。
【0080】
アミノ基を導入する方法としては、エポキシ基を導入した不溶性担体を、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン等の少なくとも2つ以上のアミノ基を有する化合物と反応させる方法を例示することができる。
【0081】
マレイミド基を導入する方法としては、水酸基および/またはアミノ基を有する不溶性担体と、3-マレイミドプロピオン酸、4-マレイミド酪酸、6-マレイミドヘキサン酸、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸等のマレイミド基を有するカルボン酸類をEDC等の縮合剤存在下で反応させる方法を例示することができる。また、マレイミド基を導入する方法としては、不溶性担体と、マレイミド基を有するカルボン酸類のN-ヒドロキシスクシンイミドエステルやN-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステルを反応させる方法を例示することができる。
【0082】
ハロアセチル基を導入する方法としては、水酸基を有する不溶性担体またはアミノ基を導入した不溶性担体と、クロロ酢酸クロリド、ブロモ酢酸クロリド、ブロモ酢酸ブロミド等の酸ハロゲン化物を反応させる方法や、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸等のハロゲン化酢酸をEDC等の縮合剤存在下で反応させる方法を挙げることができる。また、ハロアセチル基を導入する方法としては、不溶性担体と、ハロゲン化酢酸のN-ヒドロキシスクシンイミドエステルやN-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステルを反応させる方法を挙げることができる。
【0083】
工程Yは、工程Xで製造した反応性不溶性担体に本発明のフコース結合性タンパク質を固定化する工程である。工程Xで得られた反応性不溶性担体に本発明のフコース結合性タンパク質を固定化する方法としては、一般的な担体へのタンパク質の固定化方法が挙げられる。担体へのタンパク質の固定化方法としては、配位結合やアフィニティー結合等により共有結合を形成せずにタンパク質を不溶性担体に固定化する方法、タンパク質に固定化用活性官能基を導入したのち、固定化用活性官能基と不溶性担体を反応させて不溶性担体に固定化する方法、不溶性担体に導入した固定化用活性官能基とタンパク質を反応させ、共有結合を形成させて不溶性担体に固定化する方法を挙げることができる。
【0084】
共有結合を形成せずにタンパク質を不溶性担体に固定化する方法としては、アビジン-ビオチンのアフィニティー結合を利用し、ビオチンを導入したタンパク質をストレプトアビジンセファロースハイパフォーマンス(GEヘルスケア製)等のアビジンが固定化された不溶性担体に固定化する方法を例示することができる。タンパク質へのビオチンの導入方法としては、9-(ビオチンアミド)-4,7-ジオキサノナン酸-N-スクシンイミジル等の活性エステル基を有するビオチン化試薬とタンパク質のアミノ基を反応させる方法や、N-ビオチニル-N’-[2-(N-マレイミド)エチル]ピペラジン塩酸塩等のマレイミド基を有するビオチン化試薬とタンパク質のメルカプト基を反応させる方法を例示することができる。
【0085】
タンパク質に導入した固定化用活性官能基と不溶性担体を反応させ、共有結合を形成させて固定化する方法としては、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸 3-スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルナトリウム塩等のマレイミド基と活性エステル基の両方を有する化合物の活性エステル基とタンパク質のアミノ基を反応させてタンパク質にマレイミド基を導入したのち、メルカプト基が導入された不溶性担体と反応させる方法を例示することができる。
【0086】
不溶性担体に導入した固定化用活性官能基とタンパク質を反応させてタンパク質を不溶性担体に固定化する方法としては、不溶性担体に導入したエポキシ基、ホルミル基、カルボキシル基、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル等の活性エステル基とタンパク質のアミノ基を反応させる方法、不溶性担体に導入したアミノ基とタンパク質のカルボキシル基を反応させる方法、不溶性担体に導入したエポキシ基、マレイミド基、ハロアセチル基またはハロアルキル基とタンパク質のメルカプト基を反応させる方法を例示することができる。
【0087】
短時間に高収率で不溶性担体へのタンパク質固定化が行える点で、好ましい固定化方法としては、不溶性担体に導入したホルミル基または活性エステル基とタンパク質のアミノ基を反応させる方法や、不溶性担体に導入したマレイミド基またはハロアセチル基とタンパク質のメルカプト基を反応させる方法が挙げられる。また、固定化反応をpHが中性付近で行うことが可能でありタンパク質の変性を抑制できることが可能である点で、より好ましい固定化方法としては、不溶性担体に導入したマレイミド基またはハロアセチル基とタンパク質のメルカプト基を反応させる方法が挙げられる。また、官能基の安定性が高い点で、さらに好ましい固定化方法としては、不溶性担体に導入したマレイミド基とタンパク質のメルカプト基を反応させる方法が挙げられる。
【0088】
固定化用官能基を導入した不溶性担体と、緩衝液に溶解した本発明のフコース結合性タンパク質を反応させることで、不溶性担体に本発明のフコース結合性タンパク質を固定化することができ、以て本発明の吸着剤を製造することができる。本発明のフコース結合性タンパク質は、例えば、適当な緩衝液に溶解して固定化に用いてよい。本発明のフコース結合性タンパク質を溶解する緩衝液は、特に制限されない。本発明のフコース結合性タンパク質を溶解する緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝液、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)緩衝液や、D-PBS(-)(富士フイルム和光純薬製)等の市販の緩衝液を例示することができる。また、固定化反応の効率を高めることを目的として、緩衝液には、適当な添加剤、例えば、塩化ナトリウム等の無機塩類やポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20)等の界面活性剤、を添加してもよい。本発明のフコース結合性タンパク質を不溶性担体に固定化する際の反応温度およびpHは、活性官能基の反応性や本発明のフコース結合性タンパク質の安定性等の諸条件に応じて適宜設定できる。反応温度は、例えば、0℃以上50℃以下であってよい。pHは、例えば、pH4以上pH10以下であってよい。特に、本発明のフコース結合性タンパク質の失活を抑制する点で、好ましくは、反応温度は15℃以上40℃以下、pHはpH5以上pH9以下であってよい。
【0089】
不溶性担体への本発明のフコース結合性タンパク質の固定化量は、フコース含有糖鎖を有する物質と本発明のフコース結合性タンパク質との結合性等の諸条件に応じて適宜設定できる。不溶性担体への本発明のフコース結合性タンパク質の固定化量は、1mLの不溶性担体あたり、好ましくは0.01mg以上50mg以下、より好ましくは0.05mg以上30mg以下であってよい。不溶性担体への本発明のフコース結合性タンパク質の固定化量は、固定化反応時の本発明のフコース結合性タンパク質の使用量や不溶性担体への活性官能基導入量を調節することにより調整することができる。本発明のフコース結合性タンパク質の不溶性担体への固定化量は、固定化反応液および反応後の洗浄液を回収して未反応の本発明のフコース結合性タンパク質量を求めたのち、固定化反応に使用した本発明のフコース結合性タンパク質量から未反応の本発明のフコース結合性タンパク質量を差し引くことで算出することができる。
【0090】
また、前述したように、不溶性担体は、物質の非特異吸着を抑制する点で、好ましくは親水性高分子が共有結合で固定されていてよい。よって、本発明の吸着剤を製造する場合には、前記工程Xで本発明のフコース結合性タンパク質を固定化するための官能基を導入する前に、不溶性担体に親水性高分子を共有結合で固定してもよい。不溶性担体に親水性高分子を共有結合で固定する方法としては、一般的な共有結合形成方法が挙げられる。共有結合形成方法としては、不溶性担体表面の水酸基とエピクロロヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル等のエポキシ基含有化合物を塩基性条件下で反応させることで不溶性担体にエポキシ基を導入したのち、エポキシ基と親水性高分子の水酸基を塩基性条件下で反応させる方法を挙げることができる。
【0091】
本発明の吸着剤は、本発明のフコース結合性タンパク質を備えることから、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖等のフコース含有糖鎖を有する細胞や、前記構造を含む糖鎖および/または複合糖質を吸着することができる。
【0092】
本発明のフコース結合性タンパク質は、例えば、フコース含有糖鎖を有する物質の吸着に利用することができる。すなわち、本発明の方法は、本発明のフコース結合性タンパク質を利用したフコース含有糖鎖を有する物質を吸着する方法であってよい。本発明の方法は、具体的には、本発明のフコース結合性タンパク質とフコース含有糖鎖を有する物質とを接触させる工程を含む、フコース含有糖鎖を有する物質の吸着方法であってよい。同工程を、「接触工程」ともいう。
【0093】
フコース含有糖鎖を有する物質の吸着により、例えば、フコース含有糖鎖を有する物質を分離することができる。フコース含有糖鎖を有する物質の吸着により、具体的には、例えば、フコース含有糖鎖を有する物質と他の物質(すなわち、フコース含有糖鎖を有する物質以外の物質)とを分離することができる。すなわち、本発明の方法の一態様は、例えば、フコース含有糖鎖を有する物質の分離方法であってよい。また、接触工程の一態様は、例えば、本発明のフコース結合性タンパク質とフコース含有糖鎖を有する物質と他の物質を含有する混合物とを接触させる工程であってよい。
【0094】
フコース含有糖鎖を有する物質の吸着により、例えば、フコース含有糖鎖を有する物質を精製することができる。フコース含有糖鎖を有する物質の吸着により、具体的には、例えば、フコース含有糖鎖を有する物質と他の物質を含有する混合物からフコース含有糖鎖を有する物質を回収し、以てフコース含有糖鎖を有する物質を精製することができる。すなわち、本発明の方法の一態様は、例えば、フコース含有糖鎖を有する物質の精製方法であってよい。フコース含有糖鎖を有する物質の精製により、フコース含有糖鎖を有する物質が得られてよい。すなわち、本発明の方法の一態様は、例えば、フコース含有糖鎖を有する物質の製造方法であってもよい。
【0095】
フコース含有糖鎖を有する物質の吸着により、例えば、他の物質を精製することができる。フコース含有糖鎖を有する物質の吸着により、具体的には、例えば、フコース含有糖鎖を有する物質と他の物質を含有する混合物からフコース含有糖鎖を有する物質を除去し、以て他の物質を精製することができる。すなわち、本発明の方法の一態様は、例えば、他の物質の精製方法であってよい。フコース含有糖鎖を有する物質の精製により、他の物質が得られてよい。すなわち、本発明の方法の一態様は、例えば、他の物質の製造方法であってもよい。
【0096】
フコース含有糖鎖を有する物質および他の物質は、本発明のフコース結合性タンパク質が結合親和性を有するフコース含有糖鎖の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。
【0097】
フコース含有糖鎖を有する物質は、本発明のフコース結合性タンパク質が結合親和性を有するフコース含有糖鎖を有するものであれば、特に制限されない。言い換えると、フコース含有糖鎖を有する物質が有するフコース含有糖鎖は、本発明のフコース結合性タンパク質が結合親和性を有するものであれば、特に制限されない。フコース含有糖鎖を有する物質としては、特に、Hタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖、および/またはルイスb型糖鎖を有する物質等の、Hタイプ1型糖鎖構造、Hタイプ3型糖鎖構造、ルイスY型糖鎖構造、および/またはルイスb型糖鎖構造を含む糖鎖を有する物質が挙げられる。フコース含有糖鎖を有する物質として、さらに特には、Hタイプ1型糖鎖および/またはHタイプ3型糖鎖を有する物質等の、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を有する物質が挙げられる。フコース含有糖鎖を有する物質は、例えば、フコース含有糖鎖そのものであってもよく、フコース含有糖鎖と他の構造とが結合した物質であってもよい。フコース含有糖鎖を有する物質として、具体的には、フコース含有糖鎖を有する細胞が挙げられる。フコース含有糖鎖を有する物質として、具体的には、フコース含有糖鎖そのものや、フコース含有糖鎖を有する複合糖質も挙げられる。フコース含有糖鎖を有する複合糖質としては、フコース含有糖鎖と結合したタンパク質やフコース含有糖鎖と結合した脂質が挙げられる。
【0098】
他の物質は、本発明のフコース結合性タンパク質との結合の程度が十分に小さいものであれば特に制限されない。他の物質としては、フコース含有糖鎖を有しない物質が挙げられる。フコース含有糖鎖を有しない物質は、本発明のフコース結合性タンパク質が結合親和性を有するフコース含有糖鎖を有しないものであれば、特に制限されない。フコース含有糖鎖を有しない物質は、本発明のフコース結合性タンパク質が結合親和性を有するフコース含有糖鎖以外のフコース含有糖鎖を有していてもよく、いなくてもよい。フコース含有糖鎖を有しない物質としては、特に、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を有しない物質が挙げられる。フコース含有糖鎖を有しない物質として、さらに特には、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖のいずれも有しない物質等の、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよびFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれも有しない物質が挙げられる。フコース含有糖鎖を有しない物質として、さらに特には、Hタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖、およびルイスb型糖鎖のいずれも有しない物質等の、Hタイプ1型糖鎖構造、Hタイプ3型糖鎖構造、ルイスY型糖鎖構造、およびルイスb型糖鎖構造を含む糖鎖のいずれも有しない物質が挙げられる。フコース含有糖鎖を有しない物質として、具体的には、フコース含有糖鎖を有しない細胞が挙げられる。
【0099】
本発明のフコース結合性タンパク質は、例えば、本発明の吸着剤の形態でフコース含有糖鎖を有する物質の吸着に利用することができる。以下、本発明の吸着剤の形態で本発明のフコース結合性タンパク質を利用する場合を参照して本発明の方法の具体例について説明するが、当該説明は他の形態で本発明のフコース結合性タンパク質を利用する場合にも準用できる。
【0100】
本発明の吸着剤は、例えば、カラムに充填された形態でフコース含有糖鎖を有する物質の吸着に利用することができる。すなわち、本発明の方法においては、例えば、本発明の吸着剤が充填されたカラムが用いられてよい。
【0101】
本発明の吸着剤は、例えば、細胞の分離に利用できる。本発明の吸着剤は、具体的には、例えば、細胞混合物に含有される細胞の分離に利用できる。本発明の吸着剤を利用した細胞の分離方法を、「本発明の細胞分離方法」ともいう。
【0102】
本発明の細胞分離方法は、例えば、本発明の吸着剤と細胞混合物とを接触させる工程、および吸着剤に結合した細胞と吸着剤に結合しなかった細胞とを分離する工程を含む、細胞の分離方法であってよい。
【0103】
細胞混合物は、例えば、第1の細胞と第2の細胞を含有する混合物であってよい。
【0104】
第1の細胞は、吸着剤への結合対象とする細胞である。第1の細胞としては、上述したフコース含有糖鎖を有する物質に該当する細胞が挙げられる。すなわち、第1の細胞としては、フコース含有糖鎖を有する細胞が挙げられる。フコース含有糖鎖を有する細胞としては、特に、Hタイプ1型糖鎖構造、Hタイプ3型糖鎖構造、ルイスY型糖鎖構造、および/またはルイスb型糖鎖構造を含む糖鎖を有する物質が挙げられる。フコース含有糖鎖を有する細胞として、さらに特には、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を有する細胞が挙げられる。フコース含有糖鎖を有する細胞として、具体的には、未分化細胞やがん細胞が挙げられる。未分化細胞としては、ヒトiPS細胞やヒトES細胞が挙げられる。がん細胞としては、2102EpやNT2/D1等のヒト胎児性がん細胞、PC-9等のヒト肺腺がん細胞、Capan-1等のヒト膵臓がん細胞、HT29等のヒト結腸がん細胞が挙げられる。これらの細胞は、いずれも、例えば、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を有する細胞であってよい。また、前記細胞混合物中に含有される第1の細胞の種類の数は、特に制限されない。前記細胞混合物中に含有される第1の細胞の種類は、1種類であってもよく、2種類またはそれ以上であってもよい。
【0105】
第2の細胞は、吸着剤への結合対象としない細胞である。第2の細胞としては、上述した他の物質に該当する細胞が挙げられる。すなわち、第2の細胞としては、フコース含有糖鎖を有しない細胞が挙げられる。フコース含有糖鎖を有しない細胞としては、特に、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよびFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれも有しない細胞が挙げられる。フコース含有糖鎖を有しない細胞として、さらに特には、Hタイプ1型糖鎖構造、Hタイプ3型糖鎖構造、ルイスY型糖鎖構造、およびルイスb型糖鎖構造を含む糖鎖のいずれも有しない物質が挙げられる。フコース含有糖鎖を有しない細胞として、具体的には、分化細胞や非がん細胞が挙げられる。分化細胞としては、ヒトiPS細胞やヒトES細胞等の未分化細胞から分化して生成する細胞が挙げられる。フコース含有糖鎖を有しない細胞として、具体的には、フコース含有糖鎖を有しないがん細胞も挙げられる。フコース含有糖鎖を有しないがん細胞としては、第1の細胞として例示したがん細胞以外のがん細胞であって、フコース含有糖鎖を有しないものが挙げられる。これらの細胞は、いずれも、例えば、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよびFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれも有しない細胞であってよい。これらの細胞は、いずれも、例えば、Hタイプ1型糖鎖構造、Hタイプ3型糖鎖構造、ルイスY型糖鎖構造、およびルイスb型糖鎖構造を含む糖鎖のいずれも有しない細胞であってもよい。また、前記細胞混合物中に含有される第2の細胞の種類の数は、特に制限されない。前記細胞混合物中に含有される第2の細胞の種類は、1種類であってもよく、2種類またはそれ以上であってもよい。
【0106】
本発明の吸着剤と細胞混合物との接触により、例えば、第1の細胞を選択的に吸着剤に結合させることができ、以て細胞を分離することができる。すなわち、例えば、吸着剤に結合した細胞は第1の細胞であってよく、吸着剤に結合しなかった細胞は第2の細胞であってよい。
【0107】
本発明の細胞分離方法によれば、細胞が吸着剤に結合するため、吸着剤に固定化していない本発明のフコース結合性タンパク質を利用して細胞を分離する方法、例えば、蛍光標識した本発明のフコース結合性タンパク質と細胞混合物を接触させてからフローサイトメーターとセルソーターを組み合せて細胞を分離する方法に比べて、効率的に細胞を分離することができる。
【0108】
本発明の吸着剤と細胞混合物との接触方法は、特に制限されない。本発明の吸着剤と細胞混合物との接触方法としては、例えば、細胞混合物中に吸着剤を添加して所定の時間振とうする方法や、吸着剤をカラムに充填して細胞と接触させる方法を挙げることができる。特に、吸着剤に結合した細胞の再遊離および吸着剤との過剰な接触による細胞へのダメージを避けることができると期待される点で、好ましくは、吸着剤をカラムに充填して細胞と接触させてよい。吸着剤に結合した細胞と吸着剤に結合しなかった細胞との分離は、例えば、細胞が結合した吸着剤と、吸着剤に結合しなかった細胞を含有する非吸着画分とを分離することにより実施できる。例えば、細胞混合物中に吸着剤を添加する場合、添加した吸着剤を細胞混合物から分離することにより、吸着剤と非吸着画分とを分離することができる。また、例えば、吸着剤をカラムに充填して細胞と接触させる場合、吸着剤を充填したカラムに細胞混合物を通液することにより、吸着剤と非吸着画分とを分離することができる。吸着剤に結合した細胞(例えば第1の細胞)は、適宜、吸着剤から溶出し、溶出画分として回収することができる。また、吸着剤に結合しなかった細胞(例えば第2の細胞)は、適宜、非吸着画分として回収することができる。本発明の細胞分離方法により、例えば、第1の細胞が精製されてよく、また、第1の細胞が得られてよい。すなわち、本発明の細胞分離方法の一態様は、例えば、第1の細胞の精製方法であってもよく、第1の細胞の製造方法であってもよい。本発明の細胞分離方法により、例えば、第2の細胞が精製されてよく、また、第2の細胞が得られてよい。すなわち、本発明の細胞分離方法の一態様は、例えば、第2の細胞の精製方法であってもよく、第2の細胞の製造方法であってもよい。
【0109】
細胞混合物は、例えば、細胞懸濁液として調製され、本発明の細胞分離方法に用いられてよい。細胞懸濁液を調製するための液体は、好ましくは、細胞死と細胞凝集を防ぐために有効な成分を添加した液体であってよい。細胞懸濁液を調製するための液体としては、市販のMACS緩衝液(PBSに0.5%(w/v)bovine serum albumin(以下、BSAと略す。)と2mM エチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAと略す。)を添加したもの)を例示することができる。この場合、BSAによる細胞分離時における細胞へのダメージの軽減と細胞の吸着剤への非特異吸着を抑制する効果、およびEDTAによる細胞の凝集防止効果を期待することができる。
【0110】
「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc」からなる構造を有するHタイプ1型糖鎖および「Fucα1-2Galβ1-3GalNAc」からなる構造を有するHタイプ3型糖鎖は、ヒトiPS細胞やES細胞等の未分化細胞に特異的に存在する未分化マーカーとして知られている糖鎖である(非特許文献3)。従って、本発明の細胞分離方法により、例えば、未分化細胞と分化細胞が含まれる細胞混合物から、未分化細胞を選択的に除去して分化細胞を精製することができる。また、がん細胞、例えば、2102EpやNT2/D1等のヒト胎児性がん細胞、PC-9等のヒト肺腺がん細胞、Capan-1等のヒト膵臓がん細胞、HT29等のヒト結腸がん細胞は、Hタイプ1型糖鎖および/またはHタイプ3型糖鎖を有することが知られている(例えば、J.Biomark.2013:960862.doi:10.1155/2013/960862.)。従って、本発明の細胞分離方法により、例えば、これらのがん細胞を選択的に吸着剤に吸着させ、以てこれらのがん細胞を分離することができる。がん細胞を分離することにより、例えば、細胞混合物中のがん細胞を検出することができる。がん細胞の検出としては、がん細胞の存在の有無の同定やがん細胞の存在の程度(すなわち存在量)の同定が挙げられる。がん細胞の分離または検出に用いられる細胞混合物としては、被検者から得られた細胞を含有する試料が挙げられる。すなわち、被検者から得られた細胞を含有する試料中のがん細胞を検出することにより、例えば、被検者ががんに罹患しているかを診断することができる。
【0111】
本発明の吸着剤は、本発明のフコース結合性タンパク質の固定化量が吸着剤1mLあたり0.05mg以上30mg以下であれば、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAc」からなる構造を含む糖鎖等のフコース含有糖鎖を有する細胞を100万個以上結合することが可能である。例えば、ヒトiPS細胞から誘導した心筋細胞を用いた再生医療においては、一人あたり10億個の臨床グレードの心筋細胞が必要であり、0.1%の未分化細胞が混入していると仮定した場合では100万個、1%の未分化細胞が混入していると仮定した場合では1000万個の未分化幹細胞を完全に除去する技術が必要となる。これらのような大量の細胞中に混在する未分化細胞を分離除去する場合でも、本発明の吸着剤を少量(例えば、未分化細胞が100万個の場合は1mL、未分化細胞が1000万個の場合は10mL)用いることにより、短時間で効率良く未分化細胞を除去することができる。また、例えば患者一人あたり100億~1000億個の細胞が必要とされる血球系細胞を未分化幹細胞から誘導する場合、1%の未分化幹細胞が混入していると仮定した場合であっても、本発明の吸着剤を100mLから1000mL用いることにより血球系細胞に残存する未分化細胞を分離することができる。
【0112】
さらに、本発明の細胞分離方法は、既存の細胞分離技術であるフローサイトメトリーとセルソーターを組合せた方法や細胞の表面マーカータンパク質に対する抗体を結合させた磁気ビーズを利用した方法、および未分化細胞除去技術として公知である毒素を融合したBC2LCNレクチンを利用した方法(特開2014-126146号公報)と比べても、未分化細胞の除去処理を5分から30分程度の極めて短時間で行うことができることから、目的の分化細胞を大量に精製する場合にも極めて有効である。
【0113】
本発明の吸着剤は、例えば、フコース含有糖鎖を有する物質の精製に利用できる。本発明の吸着剤を利用したフコース含有糖鎖を有する物質の精製方法を、「本発明の精製方法」ともいう。
【0114】
本発明の精製方法は、本発明の吸着剤とフコース含有糖鎖を有する物質とを接触させる工程、および吸着剤に結合した前記物質を溶出する工程を含む、フコース含有糖鎖を有する物質の精製方法であってよい。
【0115】
フコース含有糖鎖を有する物質については上述した通りである。フコース含有糖鎖を有する物質は、特に、Hタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖、ルイスb型糖鎖等のフコースを含む糖鎖を有する物質であってよい。また、フコース含有糖鎖を有する物質は、特に、フコース含有糖鎖および/またはフコース含有糖鎖を有する複合糖質であってよい。
【0116】
本発明の吸着剤とフコース含有糖鎖を有する物質との接触方法は、特に制限されない。本発明の吸着剤とフコース含有糖鎖を有する物質との接触方法としては、例えば、pH5以上pH9以下、好ましくはpH6以上pH8以下の緩衝液で平衡化した吸着剤と、分離精製前のフコース含有糖鎖を有する物質を含有する溶液とを接触させる方法が挙げられる。特に、効率的に精製が行なえる点で、吸着剤をカラムに充填してフコース含有糖鎖を有する物質と接触させることが好ましい。本発明の吸着剤へのフコース含有糖鎖を有する物質の吸着の際に用いる緩衝液(例えば、吸着剤の平衡化、フコース含有糖鎖を有する物質を含有する溶液の調製、またはカラムに通液する際の移動相に用いるもの)としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝液、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液、およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)緩衝液を例示することができる。また、緩衝液には、適当な添加剤、例えば、塩化ナトリウム等の無機塩類やポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20)等の界面活性剤、を添加してもよい。
【0117】
本発明の吸着剤に吸着したフコース含有糖鎖を有する物質は、例えば、L-フコースを含有する緩衝液により吸着剤から溶出することができる。L-フコースを含む緩衝液としては、例えば、前述の本発明の吸着剤へのフコース含有糖鎖を有する物質の吸着の際に用いる緩衝液にL-フコースを添加したものが挙げられる。緩衝液におけるL-フコースの濃度は、例えば、0.1mM以上1M以下、好ましくは1mM以上100mM以下であってよい。
【0118】
このようにして本発明の精製方法を実施することにより、フコース含有糖鎖を有する物質を精製することができる。また、本発明の精製方法により、例えば、フコース含有糖鎖を有する物質が得られてよい。すなわち、本発明の精製方法の一態様は、例えば、フコース含有糖鎖を有する物質の製造方法であってもよい。
【0119】
なお、分離精製前のフコース含有糖鎖を有する物質を含有する溶液から、フコース含有糖鎖を有する物質を除去したい場合には、本発明の吸着剤とフコース含有糖鎖を有する物質とを接触させる工程を実施すればよい。それにより、フコース含有糖鎖を有する物質が除去された溶液を得ることができる。フコース含有糖鎖を有する物質が除去された溶液は、適宜、非吸着画分として回収することができる。
【実施例】
【0120】
以下、非限定的な実施例を参照して本発明をさらに具体的に説明する。
【0121】
比較例1 組換えBC2LCN(155)cysの製造と生産性評価
比較例1は、155アミノ酸残基からなる配列番号1で示される組換えBC2LCNのアミノ酸配列に、ポリヒスチジン配列とシステインを含むオリゴペプチド配列を付加した組換えBC2LCN(155)cysの製造と生産性評価に関するものである。
(1)発現ベクターpET-BC2LCN(155)cysおよび組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(155)cysの作製
発現ベクターpET-BC2LCN(155)cysは、組換えBC2LCN(155)cysを発現させるための発現ベクターである。組換えBC2LCN(155)cysのアミノ酸配列は配列番号32であり、その5番目から10番目まではポリヒスチジン配列、15番目から169番目までは配列番号1のアミノ酸配列(GenPept登録番号:WP_006490828の2番目から156番目の領域のアミノ酸配列に一致)、170番目から174番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。発現ベクターpET-BC2LCN(155)cysは、特開2018-000038号公報で開示されているプラスミドpET-BC2LCNcysと同一の塩基配列であり、当該公報に開示されている方法で作製した。次いで、発現ベクターpET-BC2LCN(155)cysを用いてE. coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(155)cysを作製した。
(2)組換えE. coliを用いた組換えBC2LCN(155)cysの生産
前記比較例1の(1)で作製した組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(155)cysを、50μg/mLのカナマイシンを含む100mLのTB培地に接種し、30℃で一晩、好気的に振とう培養することで前培養を行った。TB培地の組成を表1に示す。
【0122】
【0123】
前培養後、50μg/mLのカナマイシンを含む100mLのTB培地に前培養液を0.5%(v/v)接種し、30℃で2時間、好気的に振とう培養した。培養液の濁度(O.D.600)が凡そ2から5になったところで、培養液に0.5MのIPTGを20μL添加し、培養温度を20℃に切り替えたのち、好気的に一晩振とう培養することにより組換えBC2LCN(155)cysを生産した。次に、培養液から遠心分離により集菌した菌体に、表2に組成を示す抽出液10.8mLを添加して室温で30分間振とう撹拌したのち、表3に示す添加剤を添加して室温で30分間、次いで4℃で一晩振とう撹拌後、遠心分離により上清を回収することにより、組換えBC2LCN(155)cysを含む可溶性タンパク質抽出液を回収した。回収した組換えBC2LCN(155)cysを含む可溶性タンパク質抽出液は0.2μmのフィルターでろ過したのち、後述するニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる精製に使用した。
【0124】
【0125】
【0126】
(3)組換えBC2LCN(155)cysの精製と生産性評価
比較例1の(2)で回収した可溶性タンパク質抽出液中からの組換えBC2LCN(155)cysの精製は、His・Bind Resin(メルクミリポア製)を用いたニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーにより行った。具体的には、以下の(比1-1)から(比1-6)に記載の方法により、組換えBC2LCN(155)cysを精製した。
【0127】
(比1-1):カラム(BioRad製Poly-Prep Chromatography Column)に、2mLのHis・Bind Resinを充填し、10mLの緩衝液A(500mMの塩化ナトリウムと20mMのイミダゾールを含む20mM Tris緩衝液、pH8.3)で平衡化した。
【0128】
(比1-2):前記(比1-1)において緩衝液Aで平衡化したカラムに、10mLの前記組換えBC2LCN(155)cysを含む可溶性タンパク質抽出液を添加した。
【0129】
(比1-3):前記(比1-2)において可溶性タンパク質抽出液を添加したカラムに、10mLの緩衝液Aを2回添加し、His・Bind Resinに結合しない物質を洗浄除去した。
【0130】
(比1-4):前記(比1-3)において緩衝液Aで洗浄後のカラムに、10mLの緩衝液Aと緩衝液B(500mMの塩化ナトリウムと250mMのイミダゾールを含む20mM Tris緩衝液、pH9.0)の混合溶液(緩衝液A:緩衝液B=80:20、v/v)を添加し、His・Bind Resinを洗浄するとともに、洗浄液を回収した。回収した洗浄液を「20%B回収液」として、後述するSDS-PAGE法での分析に使用した。
【0131】
(比1-5):前記(比1-4)において緩衝液Aと緩衝液Bの混合溶液で洗浄後のカラムに、10mLの緩衝液Aと緩衝液Bの混合溶液(緩衝液A:緩衝液B=50:50、v/v)を添加し、His・Bind Resinを洗浄するとともに、洗浄液を回収した。回収した洗浄液を「50%B回収液」として、後述するSDS-PAGE法での分析に使用した。
【0132】
(比1-6):前記(比1-5)において緩衝液Aと緩衝液Bの混合溶液で洗浄後のカラムに、10mLの緩衝液Bを2回添加し、His・Bind Resinを洗浄するとともに、洗浄液を回収した。回収した洗浄液を「100%B回収液」として、後述するSDS-PAGE法での分析に使用した。
【0133】
前記(比1-4)から(比1-6)で得た「20%B回収液」、「50%B回収液」、「100%B回収液」を、SDS-PAGE法で分析した結果を
図1に示す。
図1において、「M」は分子量マーカーを、「127」は後述する実施例2で製造したフコース結合性タンパク質127を、「127G36C」は後述する実施例4で製造したフコース結合性タンパク質127G36Cを、「129」は後述する実施例1で製造したフコース結合性タンパク質129を、「129G36C」は後述する実施例3で製造したフコース結合性タンパク質129G36Cを、「155」は本比較例で製造した組換えBC2LCN(155)cysを示す。また、「20%B」、「50%B」、「100%B」は、それぞれ比較例1の(3)で得られた「20%B回収液」、「50%B回収液」、「100%B回収液」を示す。なお、SDS-PAGE法での分析には市販15%ゲル(ATTO製)を使用し、以下の(比1-7)に記載の方法により前記回収液から調製したSDS-PAGE分析用試料溶液を使用した。
【0134】
(比1-7):前記回収液に最終濃度が0.48μMとなるように100mM トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP、富士フイルム和光純薬製から調製)水溶液を添加し、室温で2時間反応させた。反応終了後の溶液50μLと、2x SDS Sampleバッファー(表4)50μLを混合したのち、94℃で5分間加熱した。得られた溶液10μLをSDS-PAGEのレーンに添加し、SDS-PAGE法により分析した。
【0135】
【0136】
図1において、組換えBC2LCN(155)cysの「50%B回収液」と「100%B回収液」の各回収液中に、組換えBC2LCN(155)cysの単量体の分子量付近(約17kDa)および二量体と推測される分子量付近(約34kDa)にバンドが確認された。後述する実施例6において、二量体と推測される分子量付近のバンドは組換えBC2LCN(155)cysの二量体であることを確認していることから、両回収液中に目的の組換えBC2LCN(155)cysが含まれることが明らかとなった。組換えBC2LCN(155)cysはC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されていることから、当該オリゴペプチドに含まれるシステイン同士がジスルフィド結合を形成することにより二量体が生成したと考えられた。
【0137】
次に、組換えBC2LCN(155)cysを含む「50%B回収液」と「100%B回収液」をまとめて精製BC2LCN(155)溶液とし、光路長1cmの石英セルを用いて精製BC2LCN(155)溶液の280nmにおける吸光度を測定した。組換えBC2LCN(155)cysのモル吸光係数を1.0として精製BC2LCN(155)溶液中のタンパク質濃度を算出後、得られたタンパク質濃度を基に、組換えBC2LCN(155)cysの培養液1Lあたりの生産性を算出した結果、生産性は162mg/L-培養液であった。
【0138】
得られた精製BC2LCN(155)溶液はD-PBS(-)(富士フイルム和光純薬製)に対して透析したのち、D-PBS(-)を用いて適切な濃度に調整後、後述するSDS-PAGE法による分析、糖鎖結合親和性評価および吸着剤の製造に使用した。
【0139】
実施例1 フコース結合性タンパク質129の製造と生産性評価
実施例1は、129アミノ酸残基からなる配列番号2で示されるフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質129とする。)の製造と生産性評価に関するものである。
(1)発現ベクターpET-BC2LCN(129)cysおよび組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129)cysの作製
発現ベクターpET-BC2LCN(129)cysは、フコース結合性タンパク質129を発現させるための発現ベクターである。フコース結合性タンパク質129のアミノ酸配列は、配列番号33であり、その5番目から10番目まではポリヒスチジン配列、15番目から143番目までは配列番号2のアミノ酸配列、144番目から150番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。
【0140】
発現ベクターpET-BC2LCN(129)cysの作製は、比較例1の(1)に記載の発現ベクターpET-BC2LCN(155)cysを基にして以下のように行った。まず、比較例1の(1)に記載の発現ベクターpET-BC2LCN(155)cysを鋳型として、配列番号48および配列番号49に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして用いて、特開2018-000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。次に、このPCR産物を鋳型として、配列番号48および配列番号50に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして用いて、同様の方法でPCRを実施した。得られたPCR産物は、制限酵素NcoIおよびXhoIで消化し、同様に制限酵素処理した発現ベクターpET28a(+)(メルクミリポア製)とライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてE. coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129)cysを得た。特開2018-000038号公報で開示されている方法により、得られた組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129)cysを培養し、菌体から抽出することで発現ベクターpET-BC2LCN(129)cysを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-BC2LCN(129)cysには配列番号2のアミノ酸配列をコードする配列番号17の塩基配列が含まれることを確認した。
(2)組換えE. coliを用いたフコース結合性タンパク質129の生産
前記組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129)cysを用いたフコース結合性タンパク質129の生産と可溶性タンパク質抽出液の回収は、比較例1の(2)と同様の方法で行った。
(3)フコース結合性タンパク質129の精製と生産性評価
実施例1の(2)で回収した可溶性タンパク質抽出液中からのフコース結合性タンパク質129の精製は比較例1の(3)と同様の方法で行い、「20%B回収液」、「50%B回収液」、「100%B回収液」を得た。得られた「20%B回収液」、「50%B回収液」、「100%B回収液」を、比較例1の(3)に記載の方法によりSDS-PAGE法で分析した結果を
図1に示す。
図1において、「129」の「50%B回収液」と「100%B回収液」の各回収液中に、フコース結合性タンパク質129の単量体の分子量付近(約14kDa)および二量体と推測される分子量付近(約28kDa)にバンドが確認された。後述する実施例6において、二量体と推測される分子量付近のバンドはフコース結合性タンパク質129の二量体であることを確認していることから、両回収液中に目的のフコース結合性タンパク質129が含まれることが明らかとなった。フコース結合性タンパク質129はC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されていることから、当該オリゴペプチドに含まれるシステイン同士がジスルフィド結合を形成することにより二量体が生成したと考えられた。
【0141】
次に、フコース結合性タンパク質129を含む「50%B回収液」と「100%B回収液」をまとめて精製129溶液とし、比較例1の(4)に記載の方法に従ってフコース結合性タンパク質129の培養液1Lあたりの生産性を算出した結果、生産性は475mg/L-培養液であった。得られた精製129溶液はD-PBS(-)(富士フイルム和光純薬製)に対して透析したのち、D-PBS(-)を用いて適切な濃度に調整後、後述するSDS-PAGE法による分析、糖鎖結合親和性評価および吸着剤の製造に使用した。
【0142】
実施例2 フコース結合性タンパク質127の製造と生産性評価
実施例2は、127アミノ酸残基からなる配列番号3で示されるフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質127とする。)の製造と生産性評価に関するものである。
(1)発現ベクターpET-BC2LCN(127)cysおよび組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127)cysの作製
発現ベクターpET-BC2LCN(127)cysは、フコース結合性タンパク質127を発現させるための発現ベクターである。フコース結合性タンパク質127のアミノ酸配列は、配列番号34であり、その5番目から10番目まではポリヒスチジン配列、15番目から141番目までは配列番号3のアミノ酸配列、142番目から148番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。
【0143】
実施例1の(1)に記載の配列番号49に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドの代わりに、配列番号51に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドを用い、実施例1の(1)に記載の方法に従い、目的とする発現ベクターpET-BC2LCN(127)cysと、発現ベクターpET-BC2LCN(127)cysを用いてE. coli BL21(DE3)を形質転換した組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127)cysを作製した。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-BC2LCN(127)cysには配列番号3のアミノ酸配列をコードする配列番号18の塩基配列が含まれることを確認した。
(2)組換えE. coliを用いたフコース結合性タンパク質127の生産
前記組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127)cysを用いたフコース結合性タンパク質127の生産と可溶性タンパク質抽出液の回収は、比較例1の(2)と同様の方法で行った。
(3)フコース結合性タンパク質127の精製と生産性評価
実施例2の(2)で回収した可溶性タンパク質抽出液中からのフコース結合性タンパク質127の精製は比較例1の(3)と同様の方法で行い、「20%B回収液」、「50%B回収液」、「100%B回収液」を得た。得られた「20%B回収液」、「50%B回収液」、「100%B回収液」を、比較例1の(3)に記載の方法によりSDS-PAGE法で分析した結果を
図1に示す。
図1において、「127」の「50%B回収液」と「100%B回収液」の各回収液中に、フコース結合性タンパク質127の単量体の分子量付近(約14kDa)および二量体と推測される分子量付近(約28kDa)にバンドが確認された。後述する実施例6において、二量体と推測される分子量付近のバンドはフコース結合性タンパク質127の二量体であることを確認していることから、両回収液中に目的のフコース結合性タンパク質127が含まれることが明らかとなった。フコース結合性タンパク質127はC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されていることから、当該オリゴペプチドに含まれるシステイン同士がジスルフィド結合を形成することにより二量体が生成したと考えられた。
【0144】
次に、フコース結合性タンパク質127を含む「50%B回収液」と「100%B回収液」をまとめて精製127溶液とし、比較例1の(3)に記載の方法に従ってフコース結合性タンパク質127の培養液1Lあたりの生産性を算出した結果、生産性は560mg/L-培養液であった。得られた精製127溶液はD-PBS(-)に対して透析したのち、D-PBS(-)を用いて適切な濃度に調整後、後述するSDS-PAGE法による分析および吸着剤の製造に使用した。
【0145】
実施例3 フコース結合性タンパク質129G36Cの製造と生産性評価
実施例3は、129アミノ酸残基からなる配列番号4で示されるフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2の36番目のグリシン残基をシステイン残基に置換したアミノ酸配列)のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質129G36Cとする。)の製造と生産性評価に関するものである。
(1)発現ベクターpET-BC2LCN(129G36C)cysおよび組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129G36C)cysの作製
発現ベクターpET-BC2LCN(129G36C)cysは、フコース結合性タンパク質129G36Cを発現させるための発現ベクターである。フコース結合性タンパク質129G36Cのアミノ酸配列は、配列番号35であり、その5番目から10番目まではポリヒスチジン配列、15番目から143番目までは配列番号4のアミノ酸配列、144番目から150番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。
【0146】
発現ベクターpET-BC2LCN(129G36C)cysの作製は、実施例1の(1)の発現ベクターpET-BC2LCN(129)cysを鋳型として、配列番号48および配列番号52に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018-000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。得られたPCR産物を制限酵素NcoIおよびPstIで消化し、同様に制限酵素処理した実施例1の(1)に記載の発現ベクターpET-BC2LCN(129)cysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてE. coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129G36C)cysを得た。特開2018-000038号公報で開示されている方法により、得られた組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129G36C)cysを培養し、菌体から抽出することで発現ベクターpET-BC2LCN(129G36C)cysを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-BC2LCN(129G36C)cysには配列番号4のアミノ酸配列をコードする配列番号19の塩基配列が含まれることを確認した。
(2)組換えE. coliを用いたフコース結合性タンパク質129G36Cの生産
前記組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129G36C)cysを用いたフコース結合性タンパク質129G36Cの生産と可溶性タンパク質抽出液の回収は、比較例1の(2)と同様の方法で行った。
(3)フコース結合性タンパク質129G36Cの精製と生産性評価
実施例3の(2)で回収した可溶性タンパク質抽出液中からのフコース結合性タンパク質129G36Cの精製は比較例1の(3)と同様の方法で行い、「20%B回収液」、「50%B回収液」、「100%B回収液」を得た。得られた「20%B回収液」、「50%B回収液」、「100%B回収液」を、比較例1の(3)に記載の方法によりSDS-PAGE法で分析した結果を
図1に示す。
図1において、「129G36C」の「50%B回収液」と「100%B回収液」の各回収液中に、フコース結合性タンパク質129G36Cの単量体の分子量付近(約14kDa)および二量体と推測される分子量付近(約28kDa)にバンドが確認された。後述する実施例6において、二量体と推測される分子量付近のバンドはフコース結合性タンパク質129G36Cの二量体であることを確認していることから、両回収液中に目的のフコース結合性タンパク質129G36Cが含まれることが明らかとなった。フコース結合性タンパク質129G36CはC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されていることから、当該オリゴペプチドに含まれるシステイン同士がジスルフィド結合を形成することにより二量体が生成したと考えられた。
【0147】
次に、フコース結合性タンパク質129G36Cを含む「50%B回収液」と「100%B回収液」をまとめて精製129G36C溶液とし、比較例1の(4)に記載の方法に従ってフコース結合性タンパク質129G36Cの培養液1Lあたりの生産性を算出した結果、生産性は428mg/L-培養液であった。得られた精製129G36C溶液はD-PBS(-)に対して透析したのち、D-PBS(-)を用いて適切な濃度に調整後、後述するSDS-PAGE法による分析および吸着剤の製造に使用した。
【0148】
実施例4 フコース結合性タンパク質127G36Cの製造と生産性評価
実施例4は、127アミノ酸残基からなる配列番号5で示されるフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列(配列番号3の36番目のグリシン残基をシステイン残基に置換したアミノ酸配列)のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質127G36Cとする。)の製造と生産性評価に関するものである。
(1)発現ベクターpET-BC2LCN(127G36C)cysおよび組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127G36C)cysの作製
発現ベクターpET-BC2LCN(127G36C)cysは、フコース結合性タンパク質127G36Cを発現させるための発現ベクターである。フコース結合性タンパク質127G36Cのアミノ酸配列は、配列番号36であり、その5番目から10番目まではポリヒスチジン配列、15番目から141番目までは配列番号5のアミノ酸配列、142番目から148番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。
【0149】
実施例3の(1)に記載の方法に従い、配列番号48および配列番号52に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドを用い、実施例3の(1)に記載の方法に従い、目的とする発現ベクターpET-BC2LCN(127G36C)cysと、発現ベクターpET-BC2LCN(127G36C)cysを用いてE. coli BL21(DE3)を形質転換した組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127)cysを作製した。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-BC2LCN(127G36C)cysには配列番号5のアミノ酸配列をコードする配列番号20の塩基配列が含まれることを確認した。
(2)組換えE. coliを用いたフコース結合性タンパク質127G36Cの生産
前記組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127G36C)cysを用いたフコース結合性タンパク質127G36Cの生産と可溶性タンパク質抽出液の回収は、比較例1の(2)と同様の方法で行った。
(3)フコース結合性タンパク質127G36Cの精製と生産性評価
実施例4の(2)で回収した可溶性タンパク質抽出液中からのフコース結合性タンパク質127G36Cの精製は比較例1の(3)と同様の方法で行い、「20%B回収液」、「50%B回収液」、「100%B回収液」を得た。得られた「20%B回収液」、「50%B回収液」、「100%B回収液」を、比較例1の(3)に記載の方法によりSDS-PAGE法で分析した結果を
図1に示す。
図1において、「127G36C」の「50%B回収液」と「100%B回収液」の各回収液中に、フコース結合性タンパク質127G36Cの単量体の分子量付近(約14kDa)および二量体と推測される分子量付近(約28kDa)にバンドが確認された。後述する実施例6において、二量体と推測される分子量付近のバンドはフコース結合性タンパク質127G36Cの二量体であることを確認していることから、両回収液中に目的のフコース結合性タンパク質127G36Cが含まれることが明らかとなった。フコース結合性タンパク質127G36CはC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されていることから、当該オリゴペプチドに含まれるシステイン同士がジスルフィド結合を形成することにより二量体が生成したと考えられた。
【0150】
次に、フコース結合性タンパク質127G36Cを含む「50%B回収液」と「100%B回収液」をまとめて精製127G36C溶液とし、比較例1の(4)に記載の方法に従ってフコース結合性タンパク質127G36Cの培養液1Lあたりの生産性を算出した結果、生産性は465mg/L-培養液であった。得られた精製127G36C溶液はD-PBS(-)に対して透析したのち、D-PBS(-)を用いて適切な濃度に調整後、後述するSDS-PAGE法による分析および吸着剤の製造に使用した。
【0151】
実施例5 フコース結合性タンパク質126の製造と生産性評価
実施例5は、126アミノ酸残基からなる配列番号6で示されるフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質126とする。)の製造と生産性評価に関するものである。
(1)発現ベクターpET-BC2LCN(126)および組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(126)の作製
発現ベクターpET-BC2LCN(126)は、フコース結合性タンパク質126を発現させるための発現ベクターである。フコース結合性タンパク質126のアミノ酸配列は、配列番号37であり、その5番目から10番目まではポリヒスチジン配列、15番目から140番目までは配列番号6のアミノ酸配列に相当する。
【0152】
発現ベクターpET-BC2LCN(126)の作製は、比較例1の(1)に記載の発現ベクターpET-BC2LCN(155)cysを基にして次のように行った。比較例1の(1)に記載の発現ベクターpET-BC2LCN(155)cysを鋳型として、配列番号48および配列番号53に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018-000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。得られたPCR産物は、制限酵素PstIおよびXhoIで消化し、同様に制限酵素処理した比較例1の発現ベクターpET-BC2LCN(155)cysとライゲーション反応を行うことで発現ベクターpET-BC2LCN(126)を作製した。発現ベクターpET-BC2LCN(126)を用いてE. coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(126)を得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-BC2LCN(126)には配列番号6のアミノ酸配列をコードする配列番号21の塩基配列が含まれることを確認した。
(2)組換えE. coliを用いたフコース結合性タンパク質126の生産
前記組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(126)を用いたフコース結合性タンパク質126の生産と可溶性タンパク質抽出液の回収は、比較例1の(2)と同様の方法で行った。
(3)フコース結合性タンパク質126の精製と生産性評価
実施例5の(2)で回収した可溶性タンパク質抽出液中からのフコース結合性タンパク質126の精製は比較例1の(3)と同様の方法で行い、「20%B回収液」、「50%B回収液」、「100%B回収液」を得た。次に、フコース結合性タンパク質126を含む「50%B回収液」と「100%B回収液」をまとめて精製126溶液とし、比較例1の(4)に記載の方法に従ってフコース結合性タンパク質126の培養液1Lあたりの生産性を算出した結果、生産性は550mg/L-培養液であった。
【0153】
表5に、比較例1と実施例1から実施例5で製造した、組換えBC2LCN(155)cys、フコース結合性タンパク質129、フコース結合性タンパク質127、フコース結合性タンパク質129G36C、フコース結合性タンパク質127G36Cおよびフコース結合性タンパク質126の、培養液1Lあたりの生産性を示す。表5からも明らかなように、実施例1から5で製造したフコース結合性タンパク質の生産性は、比較例1で製造した組換えBC2LCN(155)cysに比べて2.5倍から3.5倍ほど高いことが明らかとなった。
【0154】
【0155】
実施例6 組換えBC2LCN(155)cysおよびフコース結合性タンパク質のSDS-PAGE法による分析
実施例5は、実施例1から4および比較例1で得られた、フコース結合性タンパク質129を含む精製129溶液、フコース結合性タンパク質127を含む精製127溶液、フコース結合性タンパク質129G36Cを含む精製129G36C溶液、フコース結合性タンパク質127G36Cを含む精製127G36C溶液および組換えBC2LCN(155)cysを含む精製BC2LCN(155)溶液の、非還元条件および還元条件でのSDS-PAGE法による分析に関するものである。
(1)SDS-PAGE分析用試料の調製
精製129溶液、精製127溶液、精製129G36C溶液、精製127G36C溶液および精製BC2LCN(155)溶液を試料溶液として用い、以下の(実5-1)から(実5-3)に記載の方法により、SDS-PAGE分析用試料を調製した。
【0156】
(実5-1):D-PBS(-)を用いてタンパク質濃度を0.25mg/mLに調整した各試料溶液50μLと、前記2x SDS Sampleバッファー50μLを混合したのち、94℃で5分間加熱した。得られた溶液(以下、非還元試料溶液とする。)10μLをSDS-PAGEのレーンに添加し、SDS-PAGE法により分析した(タンパク質添加量:1.3μg/レーン)。
【0157】
(実5-2):D-PBS(-)を用いてタンパク質濃度を0.25mg/mLに調整した各試料溶液に、最終濃度が0.48μMとなるように100mM TCEP水溶液を添加し、室温で2時間反応させた。反応終了後の溶液50μLと、前記2x SDS Sampleバッファー50μLを混合したのち、94℃で5分間加熱した。得られた溶液(以下、TCEP還元試料溶液とする。)10μLをSDS-PAGEのレーンに添加し、SDS-PAGE法により分析した(タンパク質添加量:1.3μg/レーン)。
【0158】
(実5-3):前記2x SDS Sampleバッファーに、最終濃度が100mMとなるようにジチオトレイトール(DTT、富士フイルム和光純薬製)を添加して溶解させた。DTTを溶解した2x SDS Sampleバッファー50μLと、D-PBS(-)を用いてタンパク質濃度を0.25mg/mLに調整した各試料溶液50μLを混合したのち、94℃で5分間加熱した。得られた溶液(以下、DTT還元試料溶液とする。)10μLをSDS-PAGEのレーンに添加し、SDS-PAGE法により分析した(タンパク質添加量:1.3μg/レーン)。
(2)SDS-PAGE法による分析
前記(実5-1)から(実5-3)で調製した15種類のSDS-PAGE分析用試料(5種類の非還元試料溶液、5種類のTCEP還元試料溶液および5種類のDTT還元試料溶液)について、市販15%ゲル(ATTO製)を用いてSDS-PAGE法で分析した結果を
図2に示す。
図2において、「M」は分子量マーカーを、「非還元」は前述の非還元試料溶液を、「TCEP還元」は前述のTCEP還元試料溶液を、「DTT還元」は前述のDTT還元試料溶液を示す。また、「129」は実施例1で製造したフコース結合性タンパク質129を、「127」は実施例2で製造したフコース結合性タンパク質127を、「129G36C」は実施例3で製造したフコース結合性タンパク質129G36Cを、「127G36C」は実施例4で製造したフコース結合性タンパク質127G36Cを、「155」は比較例1で製造した組換えBC2LCN(155)cysを示す。
【0159】
図2の非還元試料溶液において、フコース結合性タンパク質127、フコース結合性タンパク質127G36C、フコース結合性タンパク質129およびフコース結合性タンパク質129G36Cでは、単量体の分子量付近(約14kDa)および二量体と推測される分子量付近(約28kDa)にバンドが確認され、組換えBC2LCN(155)cysでも単量体の分子量付近(約17kDa)および二量体と推測される分子量付近(約34kDa)にバンドが確認された。
【0160】
一方、
図2におけるTCEP還元試料溶液およびDTT還元試料溶液においては、前記5種類の試料溶液いずれの場合も二量体と推測される分子量付近にバンドは確認されず、単量体の分子量付近にのみ単一なバンドが確認された。従って、非還元試料溶液で確認された二量体と推測される分子量付近に確認されたバンドは、各評価試料の二量体であることが明らかとなった。また、非還元試料溶液におけるフコース結合性タンパク質127cysとフコース結合性タンパク質127G36C、およびフコース結合性タンパク質129とフコース結合性タンパク質129G36Cの結果を比較すると、配列番号1における36番目のグリシン酸残基として特定されるグリシン残基がシステイン残基に置換したフコース結合性タンパク質127G36Cおよびフコース結合性タンパク質129G36Cでは、当該アミノ酸置換を行っていないフコース結合性タンパク質127およびフコース結合性タンパク質129に比べて、二量体の分子量付近のバンドが少なくなっていることが明らかとなった。従って、当該アミノ酸置換により、ジスルフィド結合の形成に起因すると推測される二量体の生成が抑制されていることが明らかとなった。
【0161】
実施例7 フコース結合性タンパク質129E81Cの製造と糖鎖への結合親和性評価
実施例7は、129アミノ酸残基からなる配列番号7で示されるフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2の81番目のグルタミン酸残基をシステイン残基に置換したアミノ酸配列)のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質129E81Cとする。)の製造と糖鎖への結合親和性評価に関するものである。
(1)フコース結合性タンパク質129E81Cの製造
実施例1に記載のフコース結合性タンパク質129に対して、配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基をシステイン残基に置換する変異導入を行うことで、フコース結合性タンパク質129E81Cを製造した。フコース結合性タンパク質129E81Cのアミノ酸配列は配列番号38であり、その15番目から143番目までは配列番号7のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をシステイン残基に置換したアミノ酸配列)、144番目から150番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。
【0162】
実施例1の(1)の発現ベクターpET-BC2LCN(129)cysを鋳型として、配列番号54および配列番号55に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018-000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。得られたPCR産物を制限酵素KpnIおよびXhoIで消化し、同様に制限酵素処理した実施例1の(1)に記載の発現ベクターpET-BC2LCN(129)cysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてE. coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129E81C)cysを得た。特開2018-000038号公報で開示されている方法により、得られた組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129E81C)cysを培養し、菌体から抽出することで発現ベクターpET-BC2LCN(129E81C)cysを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-BC2LCN(129E81C)cysには配列番号7のアミノ酸配列をコードする配列番号22の塩基配列が含まれることを確認した。
【0163】
前記組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129E81C)cysを用いたフコース結合性タンパク質129E81Cの生産、可溶性タンパク質抽出液の回収、およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる可溶性タンパク質抽出液からのフコース結合性タンパク質129E81Cの精製は、それぞれ比較例1の(2)および比較例1の(3)に記載の方法で行い、目的とするフコース結合性タンパク質129E81Cを製造した。製造したフコース結合性タンパク質129E81Cを含む溶液はD-PBS(-)に対して透析したのち、D-PBS(-)を用いて適切な濃度に調整後、後述する糖鎖への結合親和性評価に使用した。
(2)フコース結合性タンパク質129E81Cの糖鎖への結合親和性評価
表面プラズモン共鳴法により、フコース結合性タンパク質129E81Cの、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖への結合親和性評価を行った。具体的には、Biacore T100(T200 Sensitivity Enhanced)機器(GEヘルスケア製)を用い、アナライトを組換えタンパク質、固相をHタイプ1型糖鎖またはHタイプ3型糖鎖としてカイネティクス解析を行った。センサーチップはデキストランがコートされたSensor Chip CM5(GEヘルスケア製)を使用し、デキストランにストレプトアビジン(富士フイルム和光純薬製)をアミンカップリング法により固定したのち、ビオチン標識されたHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖(Glycotech製)を添加し、ビオチンとストレプトアビジンの反応により各糖鎖をセンサーチップ上に固定してHタイプ1型糖鎖またはHタイプ3型糖鎖が固定されたセンサーチップを作製した。糖鎖結合親和性の測定には緩衝液としてHBS-EP+(GEヘルスケア製)を用い、測定条件は流速を30μL/分、結合時間を6分間、解離時間を3分間または6分間とした。センサーチップの再生は25mMの水酸化ナトリウムを用い、流速30μL/分、再生時間30秒で行った。解析はBiacore T100(T200 Sensitivity Enhanced)機器に付属の解析ソフト(Biacore T100 Evaluation Software、versionまたはBiacore T200 Evaluation Software、version)を用いて行い、1:1 Bindingのフィッティングにより解離定数(KD)を算出した。
【0164】
フコース結合性タンパク質129E81CのHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する解離定数を算出した結果、Hタイプ1型糖鎖に対する解離定数は2.3nM、Hタイプ3型糖鎖に対する解離定数は3.1nMであった。
【0165】
実施例8 フコース結合性タンパク質129E81Qの製造と糖鎖への結合親和性評価
実施例8は、129アミノ酸残基からなる配列番号8で示されるフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2の81番目のグルタミン酸残基をグルタミン残基に置換したアミノ酸配列)のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質129E81Qとする。)の製造と糖鎖への結合親和性評価に関するものである。
(1)フコース結合性タンパク質129E81Qの製造
実施例1に記載のフコース結合性タンパク質129に対して、配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基をグルタミン残基に置換する変異導入を行うことで、フコース結合性タンパク質129E81Qを製造した。フコース結合性タンパク質129E81Qのアミノ酸配列は配列番号39であり、その15番目から143番目までは配列番号8のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をグルタミン残基に置換したアミノ酸配列)、144番目から150番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。
【0166】
実施例1の(1)の発現ベクターpET-BC2LCN(129)cysを鋳型として、配列番号54および配列番号56に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018-000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。得られたPCR産物を制限酵素KpnIおよびXhoIで消化し、同様に制限酵素処理した実施例1の(1)に記載の発現ベクターpET-BC2LCN(129)cysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてE. coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129E81Q)cysを得た。特開2018-000038号公報で開示されている方法により、得られた組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129E81Q)cysを培養し、菌体から抽出することで発現ベクターpET-BC2LCN(129E81Q)cysを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-BC2LCN(129E81Q)cysには配列番号8のアミノ酸配列をコードする配列番号23の塩基配列が含まれることを確認した。
【0167】
前記組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129E81Q)cysを用いたフコース結合性タンパク質129E81Qの生産、可溶性タンパク質抽出液の回収、およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる可溶性タンパク質抽出液からのフコース結合性タンパク質129E81Qの精製は、それぞれ比較例1の(2)および比較例1の(3)に記載の方法で行い、目的とするフコース結合性タンパク質129E81Qを製造した。製造したフコース結合性タンパク質129E81Qを含む溶液はD-PBS(-)に対して透析したのち、D-PBS(-)を用いて適切な濃度に調整後、後述する糖鎖への結合親和性評価に使用した。
(2)フコース結合性タンパク質129E81Qの糖鎖への結合親和性評価
実施例7の(2)に記載の方法により、フコース結合性タンパク質129E81QのHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖への結合親和性評価を行った結果、Hタイプ1型糖鎖に対する解離定数は3.7nM、Hタイプ3型糖鎖に対する解離定数は3.6nMであった。
【0168】
実施例9 フコース結合性タンパク質129E81Hの製造と生産性および糖鎖への結合親和性評価
実施例9は、129アミノ酸残基からなる配列番号9で示されるフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2の81番目のグルタミン酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列)のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチド配列を付加したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質129E81Hとする。)の製造と、生産性および糖鎖への結合親和性評価に関するものである。
(1)フコース結合性タンパク質129E81Hの製造と生産性評価
実施例1に記載のフコース結合性タンパク質129に対して、配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基をヒスチジン残基に置換する変異導入を行うことで、フコース結合性タンパク質129E81Hを製造した。フコース結合性タンパク質129E81Hのアミノ酸配列は配列番号40であり、その15番目から143番目までは配列番号9のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列)、144番目から150番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。
【0169】
実施例1の(1)の発現ベクターpET-BC2LCN(129)cysを鋳型として、配列番号54および配列番号57に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018-000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。得られたPCR産物を制限酵素KpnIおよびXhoIで消化し、同様に制限酵素処理した実施例1の(1)に記載の発現ベクターpET-BC2LCN(129)cysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてE. coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129E81H)cysを得た。特開2018-000038号公報で開示されている方法により、得られた組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129E81H)cysを培養し、菌体から抽出することで発現ベクターpET-BC2LCN(129E81H)cysを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-BC2LCN(129E81H)cysには配列番号9のアミノ酸配列をコードする配列番号24の塩基配列が含まれることを確認した。
【0170】
前記組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129E81H)cysを用いたフコース結合性タンパク質129E81Hの生産、可溶性タンパク質抽出液の回収、およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる可溶性タンパク質抽出液からのフコース結合性タンパク質129E81Hの精製は、それぞれ比較例1の(2)および比較例1の(3)に記載の方法で行い、目的とするフコース結合性タンパク質129E81Hを製造した。比較例1の(4)に記載の方法に従ってフコース結合性タンパク質129E81Hの培養液1Lあたりの生産性を算出した結果、生産性は350mg/L-培養液であった。製造したフコース結合性タンパク質129E81Hを含む溶液はD-PBS(-)に対して透析したのち、D-PBS(-)を用いて適切な濃度に調整後、後述する糖鎖への結合親和性評価に使用した。
(2)フコース結合性タンパク質129E81Hの糖鎖への結合親和性評価
実施例7の(2)に記載の方法により、フコース結合性タンパク質129E81HのHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖への結合親和性評価を行った結果、Hタイプ1型糖鎖に対する解離定数は1.0nM、Hタイプ3型糖鎖に対する解離定数は0.8nMであった。
【0171】
実施例10 フコース結合性タンパク質129E81Mの製造と糖鎖への結合親和性評価
実施例10は、129アミノ酸残基からなる配列番号10で示されるフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2の81番目のグルタミン酸残基をメチオニン残基に置換したアミノ酸配列)のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質129E81Mとする。)の製造と糖鎖への結合親和性評価に関するものである。
(1)フコース結合性タンパク質129E81Mの製造
実施例1に記載のフコース結合性タンパク質129に対して、配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基をメチオニン残基に置換する変異導入を行うことで、フコース結合性タンパク質129E81Mを製造した。フコース結合性タンパク質129E81Mのアミノ酸配列は配列番号41であり、その15番目から143番目までは配列番号10のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をメチオニン残基に置換したアミノ酸配列)、144番目から150番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。
【0172】
実施例1の(1)の発現ベクターpET-BC2LCN(129)cysを鋳型として、配列番号54および配列番号58に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018-000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。得られたPCR産物を制限酵素KpnIおよびXhoIで消化し、同様に制限酵素処理した実施例1の(1)に記載の発現ベクターpET-BC2LCN(129)cysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてE. coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129E81M)cysを得た。特開2018-000038号公報で開示されている方法により、得られた組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129E81M)cysを培養し、菌体から抽出することで発現ベクターpET-BC2LCN(129E81M)cysを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-BC2LCN(129E81M)cysには配列番号10のアミノ酸配列をコードする配列番号25の塩基配列が含まれることを確認した。
【0173】
前記組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(129E81M)cysを用いたフコース結合性タンパク質129E81Mの生産、可溶性タンパク質抽出液の回収、およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる可溶性タンパク質抽出液からのフコース結合性タンパク質129E81Mの精製は、それぞれ比較例1の(2)および比較例1の(3)に記載の方法で行い、目的とするフコース結合性タンパク質129E81Mを製造した。製造したフコース結合性タンパク質129E81Mを含む溶液はD-PBS(-)に対して透析したのち、D-PBS(-)を用いて適切な濃度に調整後、後述する糖鎖への結合親和性評価に使用した。
(2)フコース結合性タンパク質129E81Mの糖鎖への結合親和性評価
実施例7の(2)に記載の方法により、フコース結合性タンパク質129E81MのHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖への結合親和性評価を行った結果、Hタイプ1型糖鎖に対する解離定数は3.1nM、Hタイプ3型糖鎖に対する解離定数は3.1nMであった。
【0174】
実施例11 フコース結合性タンパク質129の糖鎖への結合親和性評価
実施例11は、実施例1で製造したフコース結合性タンパク質129の糖鎖への結合親和性評価に関するものである。実施例7の(2)に記載の方法により、フコース結合性タンパク質129のHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖への結合親和性評価を行った結果、Hタイプ1型糖鎖に対する解離定数は2.7nM、Hタイプ3型糖鎖に対する解離定数は11nMであった。
【0175】
比較例2 組換えBC2LCN(155)cysの糖鎖への結合親和性評価
比較例2は、比較例1で製造した組換えBC2LCN(155)cysの糖鎖への結合親和性評価に関するものである。実施例7の(2)に記載の方法により、比較例1で製造した組換えBC2LCN(155)cysのHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖への結合親和性評価を行った結果、Hタイプ1型糖鎖に対する解離定数は3.9nM、Hタイプ3型糖鎖に対する解離定数は11nMであった。
【0176】
実施例6から10で評価した各フコース結合性タンパク質および比較例2で評価した組換えBC2LCN(155)cysの、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する解離定数を、表6に示す。なお、解離定数の値は小さいほど結合親和性が高いことを示す。表6に示すように、実施例7で評価したフコース結合性タンパク質129E81C(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がシステイン残基に置換)、実施例8で評価したフコース結合性タンパク質129E81Q(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がグルタミン残基に置換)、実施例9で評価したフコース結合性タンパク質129E81H(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がヒスチジン残基に置換)および実施例10で評価したフコース結合性タンパク質129E81M(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がメチオニン残基に置換)は、比較例2で評価した組換えBC2LCN(155)cys(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基は置換されていない)よりもHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖への結合親和性が高いことがわかる。また、実施例11で評価したフコース結合性タンパク質129(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基は置換されていない)は、比較例2で評価した組換えBC2LCN(155)cysよりもHタイプ1型糖鎖への結合親和性が高いことがわかる。
【0177】
【0178】
参考例1 組換えBC2LCNのアミノ酸置換体の製造と機能評価-1
参考例1では、比較例1に記載の組換えBC2LCNに対して、配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基への変異導入、すなわち、組換えBC2LCN(155)cysのアミノ酸配列(配列番号32)の95番目のグルタミン酸残基を他のアミノ酸残基に置換する変異導入を行ったのち、形質転換体を用いて組換えタンパク質を製造し、組換えタンパク質の熱安定性とHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性を評価した。
(1)配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基への変異導入
前記比較例1の(1)に記載の発現ベクターpET-BC2LCN(155)cysを鋳型として、配列番号54および配列番号61に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018-000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。なお、配列番号61に記載の配列からなるPCRプライマーは縮重配列NNB(N=A,C,GまたはT、B=C,GまたはT)を有し、配列番号32の95番目のグルタミン酸残基(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基に相当)が他のアミノ酸残基にランダムに置換されるよう設計した。得られたPCR産物を制限酵素KpnIおよびXhoIで消化し、同様に制限酵素処理した前記(1)の発現ベクターpET-BC2LCNcysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてE. coli BL21(DE3)を形質転換し、複数の形質転換体を得た。それぞれの形質転換体から発現ベクターを抽出し、塩基配列を解析した。その結果、表7に示す19種類の発現ベクターとそれを有する形質転換体を作製した。
【0179】
【0180】
(2)組換えタンパク質の製造
前記(1)で作製した形質転換体L1aからL19aまで(表7)を用い、比較例1に記載の方法により組換えタンパク質の生産、可溶性タンパク質抽出液の回収、およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる可溶性タンパク質抽出液からのフコース結合性タンパク質の精製を行い、表7に記載した19種類の組換えタンパク質を製造した。製造した19種類のフコース結合性タンパク質を含む溶液はD-PBS(-)に対して透析したのち、D-PBS(-)を用いて適切な濃度に調整後、後述する糖鎖への結合親和性評価に使用した。
(3)組換えタンパク質の糖鎖結合親和性評価
前記(2)で製造した組換えタンパク質の糖鎖への結合親和性を調べるため、実施例7の(2)に記載の方法により、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性評価を行った。表8に、前記(3)で製造した組換えタンパク質および組換えBC2LCN(155)cysのHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する解離定数を示す。表8に示すように、フコース結合性タンパク質E81C(A1:配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がシステイン残基に置換)、フコース結合性タンパク質E81Q(A2:配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がグルタミン残基に置換)、フコース結合性タンパク質E81H(A3:配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がヒスチジン残基に置換)、フコース結合性タンパク質E81M(A4:配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がメチオニンに置換)は、組換えBC2LCN(155)cys(C0:配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基は置換されていない)よりもHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性が高いことがわかる。
【0181】
また、フコース結合性タンパク質E81V(B1:配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がバリン残基に置換)、フコース結合性タンパク質E81K(B2:配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がリジン残基に置換)、フコース結合性タンパク質E81S(B3:配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がセリン残基に置換)、フコース結合性タンパク質E81I(B4:配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がイソロイシン残基に置換)、フコース結合性タンパク質E81Y(B5:配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がチロシン残基に置換)、フコース結合性タンパク質E81G(B6:配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がグリシン残基に置換)、フコース結合性タンパク質E81P(B7:配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がプロリン残基に置換)、フコース結合性タンパク質E81L(B8:配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がロイシン残基に置換)およびフコース結合性タンパク質E81N(B9:配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がアスパラギンに置換)は、組換えBC2LCN(155)cysよりもHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性が高いことがわかる。
【0182】
一方、フコース結合性タンパク質E81F(C1)、フコース結合性タンパク質E81D(C2)、フコース結合性タンパク質E81A(C3)、フコース結合性タンパク質E81W(C4)、フコース結合性タンパク質E81T(C5)およびフコース結合性タンパク質E81R(C6)は、組換えBC2LCN(155)cysよりもHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性が低いことがわかる。
【0183】
【0184】
実施例12 フコース結合性タンパク質127C72Gの製造と機能評価
実施例12は、127アミノ酸残基からなる配列番号11で示されるフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列(配列番号3の72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質127C72Gとする。)の製造と熱に対する安定性および糖鎖への結合親和性評価に関するものである。
(1)フコース結合性タンパク質127C72Gの製造
発現ベクターpET-BC2LCN(127C72G)cysは、フコース結合性タンパク質127C72Gを発現させるための発現ベクターである。フコース結合性タンパク質127C72Gのアミノ酸配列は、配列番号42であり、その5番目から10番目まではポリヒスチジン配列、15番目から141番目までは配列番号11のアミノ酸配列、142番目から148番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。
【0185】
実施例2の(1)の発現ベクターpET-BC2LCN(127)cysを鋳型として、配列番号48および配列番号59に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018-000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。得られたPCR産物を制限酵素NcoIおよびKpnIで消化し、同様に制限酵素処理した実施例2の(1)に記載の発現ベクターpET-BC2LCN(127)cysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてE. coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127C72G)cysを得た。特開2018-000038号公報で開示されている方法により、得られた組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127C72G)cysを培養し、菌体から抽出することで発現ベクターpET-BC2LCN(127C72G)cysを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-BC2LCN(127C72G)cysには配列番号11のアミノ酸配列をコードする配列番号26の塩基配列が含まれることを確認した。
【0186】
前記組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127C72G)cysを用いたフコース結合性タンパク質127C72Gの生産、可溶性タンパク質抽出液の回収、およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる可溶性タンパク質抽出液からのフコース結合性タンパク質127C72Gの精製は、それぞれ比較例1の(2)および比較例1の(3)に記載の方法で行い、目的とするフコース結合性タンパク質127C72Gを製造した。比較例1の(4)に記載の方法に従ってフコース結合性タンパク質127C72Gの培養液1Lあたりの生産性を算出した結果、生産性は492mg/L-培養液であった。製造したフコース結合性タンパク質127C72Gを含む溶液はD-PBS(-)に対して透析したのち、D-PBS(-)を用いて適切な濃度に調整後、後述する変性中点温度の測定、糖鎖結合親和性評価および吸着剤の製造に使用した。
(2)変性中点温度の測定
フコース結合性タンパク質127C72Gの変性中点温度の測定を行った。具体的には、前記フコース結合性タンパク質127C72GのD-PBS(-)溶液を再生セルロース膜(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、分画分子量3500)を用いて、透析用緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウム、pH5.5)中で緩衝液交換を行った。透析内液の組換えタンパク質を紫外吸収法により濃度を測定し、透析用緩衝液を用いて500μg/mLになるよう希釈し、示差走査熱量計(マルバーン・パナテリティカル社製、MicroCalVP-Capillary DSC)を用いて変性中点温度を測定した。なお、変性中点温度はタンパク質の半分が変性する温度であり、る。変性中点温度が高いほど熱に対する安定性が高いことを示す。変性中点温度の測定条件は、前記透析後のフコース結合性タンパク質127C72G溶液の溶液量を400μL、昇温速度を60℃/h、加熱温度を40℃-110℃とした。測定の結果、フコース結合性タンパク質127C72Gの変性中点温度は88.3±0.5℃であった。
(3)糖鎖への結合親和性評価
実施例7の(2)に記載の方法により、フコース結合性タンパク質127C72GのHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖への結合親和性評価を行った結果、Hタイプ1型糖鎖に対する解離定数は1.2nM、Hタイプ3型糖鎖に対する解離定数は1.1nMであった。
【0187】
実施例13 フコース結合性タンパク質127C72Aの製造と機能評価
実施例13は、127アミノ酸残基からなる配列番号12で示されるフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列(配列番号3の72番目のシステイン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質127C72Aとする。)の製造と熱に対する安定性および糖鎖への結合親和性評価に関するものである。
(1)フコース結合性タンパク質127C72Aの製造
発現ベクターpET-BC2LCN(127C72A)cysは、フコース結合性タンパク質127C72Aを発現させるための発現ベクターである。フコース結合性タンパク質127C72Aのアミノ酸配列は、配列番号43であり、その5番目から10番目まではポリヒスチジン配列、15番目から141番目までは配列番号12のアミノ酸配列、142番目から148番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。
【0188】
実施例2の(1)の発現ベクターpET-BC2LCN(127)cysを鋳型として、配列番号48および配列番号60に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018-000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。得られたPCR産物を制限酵素NcoIおよびKpnIで消化し、同様に制限酵素処理した実施例2の(1)に記載の発現ベクターpET-BC2LCN(127)cysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてE. coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127C72A)cysを得た。特開2018-000038号公報で開示されている方法により、得られた組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127C72A)cysを培養し、菌体から抽出することで発現ベクターpET-BC2LCN(127C72A)cysを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-BC2LCN(127C72A)cysには配列番号12のアミノ酸配列をコードする配列番号27の塩基配列が含まれることを確認した。
【0189】
前記組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127C72A)cysを用いたフコース結合性タンパク質127C72Aの生産、可溶性タンパク質抽出液の回収、およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる可溶性タンパク質抽出液からのフコース結合性タンパク質127C72Aの精製は、それぞれ比較例1の(2)および比較例1の(3)に記載の方法で行い、目的とするフコース結合性タンパク質127C72Aを製造した。製造したフコース結合性タンパク質127C72Aを含む溶液はD-PBS(-)に対して透析したのち、D-PBS(-)を用いて適切な濃度に調整後、後述する変性中点温度の測定と、糖鎖への結合親和性評価に使用した。
(2)変性中点温度の測定
実施例12の(2)に記載の方法により、フコース結合性タンパク質127C72Aの変性中点温度を測定した結果、フコース結合性タンパク質127C72Aの変性中点温度は83.4±0.5℃であった。
(3)糖鎖への結合親和性評価
実施例7の(2)に記載の方法により、フコース結合性タンパク質127C72GのHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖への結合親和性評価を行った結果、Hタイプ1型糖鎖に対する解離定数は0.7nM、Hタイプ3型糖鎖に対する解離定数は2.0nMであった。
【0190】
比較例3 組換えBC2LCN(155)cysの熱に対する安定性評価
比較例3は、比較例1で製造した組換えBC2LCN(155)cysの熱に対する安定性評価に関するものである。実施例12の(2)に記載の方法により、比較例1で製造した組換えBC2LCN(155)cysの変性中点温度の測定を行った結果、組換えBC2LCN(155)cysの変性中点温度は82.3±0.5℃であった。
【0191】
表9に、実施例12と13および比較例3で測定した、フコース結合性タンパク質127C72G(実施例12)、フコース結合性タンパク質127C72A(実施例13)および組換えBC2LCN(155)cys(比較例3)の、変性中点温度とHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する解離定数を示す。表9に示すように、フコース結合性タンパク質127C72G(配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基がグリシン残基に置換)およびフコース結合性タンパク質C72A(配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基がアラニン残基に置換)は、組換えBC2LCNcys(配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基は置換されていない)に比べ変性中点温度が高く、熱安定性が向上したことがわかる。同様に、フコース結合性タンパク質127C72Gおよびフコース結合性タンパク質C72Aは、組換えBC2LCNcysよりもHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性が高いことがわかる。
【0192】
【0193】
参考例2 組換えBC2LCNのアミノ酸置換体の製造と機能評価-2
参考例2では、比較例1に記載の組換えBC2LCNに対して、配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基への変異導入、すなわち、組換えBC2LCN(155)cysのアミノ酸配列(配列番号32)の86番目のシステイン残基を他のアミノ酸残基に置換する変異導入を行ったのち、形質転換体を用いて組換えタンパク質を製造し、組換えタンパク質の熱に対する安定性とHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性を評価した。
(1)配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基への変異導入
前記比較例1の(1)に記載の発現ベクターpET-BC2LCN(155)cysを鋳型として、配列番号48および配列番号62に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018-000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。なお、配列番号50に記載の配列からなるPCRプライマーは縮重配列VNN(V=A,CまたはG、N=A,C,G)を有し、配列番号32の86番目のシステイン残基(配列番号1の72番目のシステイン残基に相当)が他のアミノ酸残基にランダムに置換されるよう設計した。得られたPCR産物を制限酵素NcoIおよびKpnIで消化し、同様に制限酵素処理した前記(1)の発現ベクターpET-BC2LCNcysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてE. coli BL21(DE3)を形質転換し、複数の形質転換体を得た。それぞれの形質転換体から発現ベクターを抽出し、塩基配列を解析した。その結果、表10に示す19種類の発現ベクターとそれを有する形質転換体を作製した。
【0194】
【0195】
(2)組換えタンパク質の製造
前記(1)で作製した形質転換体L1bからL19bまで(表10)を用い、比較例1に記載の方法により組換えタンパク質の生産、可溶性タンパク質抽出液の回収、およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる可溶性タンパク質抽出液からのフコース結合性タンパク質の精製を行い、表10に記載した19種類の組換えタンパク質を製造した。
(3)組換えタンパク質の熱に対する安定性評価
前記(2)で製造した組換えタンパク質の熱に対する安定性を調べるため、加熱処理後の組換えタンパク質の糖鎖結合親和性の評価を表面プラズモン共鳴法により行った。具体的には、前記(2)で製造した組換えタンパク質を紫外吸収法により濃度を測定し、D-PBS(-)(富士フイルム和光純薬製)を用いて30μg/mLになるよう希釈した。調製した組換えタンパク質溶液を室温または73℃で30分間保持したのち、Biacore T100(T200 Sensitivity Enhanced)機器(GEヘルスケア製)を用い、アナライトを組換えタンパク質、固相をHタイプ3型糖鎖として糖鎖結合性評価を行った。センサーチップはデキストランがコートされたSensor Chip CM5(GEヘルスケア製)を用い、デキストランにストレプトアビジン(富士フイルム和光純薬製)をアミンカップリング法により固定した後、ビオチン標識されたHタイプ3型糖鎖(Glycotech製)を添加し、ビオチンとストレプトアビジンの反応により各糖鎖をセンサーチップ上に固定してHタイプ3型糖鎖が固定されたセンサーチップを作製した。Hタイプ3型糖鎖に対する結合性の測定はBinding Assay法により行い、Binding stabilityの値を糖鎖結合性の測定値とした。緩衝液としてHBS-EP+(GEヘルスケア製)を用い、温度25℃で測定を行った。結合条件は、流速30μL/分、結合時間を2分間、解離時間を1分間とした。センサーチップの再生条件は、25mMの水酸化ナトリウムを用い、流速30μL/分、再生時間15秒で行った。解析はBiacore T100(T200 Sensitivity Enhanced)機器に付属の解析ソフト(Biacore T100 Evaluation Software、versionまたはBiacore T200 Evaluation Software、version)を用いて行った。
【0196】
表11に、73℃で30分間の加熱処理後の各組換えタンパク質の糖鎖結合性評価の結果を示す。なお、表11において、各組換えタンパク質の糖鎖結合性は、室温で処理後の糖鎖結合性を100%とした場合の相対値を示したものである。また、室温で処理後の糖鎖結合性が消失したフコース結合性タンパク質C72R、フコース結合性タンパク質C72E、フコース結合性タンパク質C72D、フコース結合性タンパク質C72V、フコース結合性タンパク質C72Lおよびフコース結合性タンパク質C72Iは、表11において糖鎖結合性を「-」として記載した。表11に示すように、73℃、30分間の加熱処理後も糖鎖結合性を保持していた組換えタンパク質は、アミノ酸残基置換前の組換えBC2LCNcys、フコース結合性タンパク質C72G、フコース結合性タンパク質C72Aおよびフコース結合性タンパク質C72Wであった。
【0197】
【0198】
(4)変性中点温度の測定
前記(3)において、73℃、30分間の加熱処理後も糖鎖結合性を示したフコース結合性タンパク質C72G、フコース結合性タンパク質C72Aおよびフコース結合性タンパク質C72Wと、組換えBC2LCN(155)cysについて、実施例12の(2)に記載の方法により変性中点温度を測定した結果を表12に示す。表12に示すように、フコース結合性タンパク質C72G(配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基がグリシン残基に置換)およびフコース結合性タンパク質C72A(配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基がアラニン残基に置換)は、組換えBC2LCN(155)cys(配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基は置換されていない)に比べ変性中点温度が高く、熱安定性が向上したことがわかる。一方、フコース結合性タンパク質C72W(配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基がトリプトファン残基に置換)は、組換えBC2LCN(155)cysに比べ変性中点温度が低く、熱安定性が低下したことがわかる。
【0199】
【0200】
(5)組換えタンパク質の糖鎖結合親和性評価
前記(4)において、組換えBC2LCN(155)cysに比べて熱に対する安定性が高いことが判明したフコース結合性タンパク質C72Gおよびフコース結合性タンパク質C72Aについて、実施例7の(2)に記載の方法により、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性評価を行った。表13に、フコース結合性タンパク質C72Gおよびフコース結合性タンパク質C72Aおよび組換えBC2LCN(155)cysの、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する解離定数を示す。表13に示すように、フコース結合性タンパク質C72Gおよびフコース結合性タンパク質C72Aは、組換えBC2LCN(155)cysよりもHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性が高いことがわかる。
【0201】
【0202】
実施例14 フコース結合性タンパク質129を不溶性担体に固定化した吸着剤129の製造
実施例14から17は、実施例1から4で製造したフコース結合性タンパク質を不溶性担体に固定化した吸着剤の製造に関するものである。具体的には、不溶性担体として市販多孔性合成高分子系担体(トヨパールHW-40EC、東ソー製)を用い、担体固定化用タグとしてシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質を固定化するための官能基(マレイミド基)を導入後、当該タンパク質のシステイン残基のメルカプト基とマレイミド基を反応させることにより、当該タンパク質が不溶性担体に固定化された吸着剤を製造した。
【0203】
なお、以下の実施例14から24、比較例4から10および参考例4から10において、特段の説明がない限り、不溶性担体を重量で記載した場合は水に懸濁した不溶性担体をグラスフィルターでろ過したのちに秤量した含水重量であり、また、「容積」で記載した場合は水に懸濁した不溶性担体を目盛付き容器に添加し、12時間以上放置したときの沈降容積を目視により測定したものである。
【0204】
実施例14は、実施例1で製造したフコース結合性タンパク質129を不溶性担体に固定化した吸着剤(以下、吸着剤129とする。)の製造に関するものである。
(1)不溶性担体への親水性高分子の固定
水に懸濁したトヨパールHW-40EC(東ソー製、100-300μm)をステンレス製標準ふるいにより150-250μmの粒度範囲に湿式分級したのち、グラスフィルターでろ過したものを使用した。なお、以下の比較例において、150-250μmに分級したトヨパールHW-40ECを吸着剤として評価する場合は、吸着剤Aとする。水に湿潤した状態での吸着剤HW-40ECの平均粒径は180μm、粒度範囲は150~250μmであった。
【0205】
次に、250mL容のテフロン(登録商標)製容器に10.0gのトヨパールHW-40EC、10.8mL(54mmol)の5M NaOH水溶液(関東化学製)、5.0mLの水を添加したのち、5.0g(54mmol)のエピクロロヒドリン(東京化成製)と5.0mLのジメチルスルホキシド(DMSO、関東化学製)の混合溶液を添加し、30℃の振とう機内で3時間振とうすることによりトヨパールHW-40ECのエポキシ化を行なった。反応終了後、溶液をグラスフィルター上でろ液が中性になるまで水で洗浄した。エポキシ化したトヨパールHW-40EC全量を250mL容のテフロン(登録商標)製容器に添加し、15.0gの30重量%デキストラン水溶液(シグマアルドリッチ製(分子量450,000~650,000)から調製)を添加したのち、30℃の振とう機内で30分間振とうした。次に、反応容器に1.05mL(1.58g、19mmol)の48%NaOH水溶液を添加し、30℃の振とう機内でさらに18時間振とうすることにより、エポキシ化トヨパールにHW-40ECにデキストランを固定した。反応終了後、溶液をグラスフィルター上でろ液が中性になるまで水で洗浄することにより、目的のデキストラン固定トヨパールHW-40EC(以下、DEX550トヨパールHW-40ECとする。)を作製した。
(2)親水性高分子が固定された不溶性担体へのマレイミド基の導入
100mL容のテフロン(登録商標)製容器に、5.0gのDEX550トヨパールHW-40ECと、予め調製した10.0mLのテトラエチレングリコールジグリシジルエーテル水溶液(ナガセケムテックス製デナコールEX-821から調製、濃度100mg/mL)を添加したのち、30℃の振とう機内で30分間振とうしたのち、反応容器に104μL(156mg、1.87mmol)の48%(約18.1M)NaOH水溶液を添加し、30℃の振とう機内で8時間振とうすることによりエポキシ化DEX550トヨパールHW-40Eを作製した。反応終了後、反応液をグラスフィルター上でろ液が中性になるまで水で洗浄した。次に、ろ別したエポキシ化DEX550トヨパールHW-40EC全量を100mL容のテフロン(登録商標)製容器に添加し、10.0mLの0.5M エチレンジアミン水溶液(東京化成製エチレンジアミンから調製)を添加したのち、50℃の振とう機内で3時間振とうすることによりアミノ化DEX550トヨパールHW-40ECを作製した。反応終了後、反応液をグラスフィルター上でろ液が中性になるまで水で洗浄した。次に、ろ別したアミノ化DEX550トヨパールHW-40EC全量を100mL容のテフロン(登録商標)製容器に添加し、10.0mLの3-マレイミドプロピオン酸 N-スクシンイミジルのDMSO溶液(富士フイルム和光純薬製3-マレイミドプロピオン酸 N-スクシンイミジルから調製、濃度10mg/mL)を添加したのち、35℃の振とう機内で4時間振とうすることによりアミノ化トヨパールHW-40ECのマレイミド化を行なった。反応終了後、反応液をグラスフィルター上で20mLのDMSOで3回、30mLの水で5回洗浄することにより、目的のマレイミド化DEX550トヨパールHW-40ECを作製した。
(3)マレイミド基が導入された不溶性担体へのフコース結合性タンパク質の固定化
フコース結合性タンパク質として、実施例1で調製した精製129溶液(フコース結合性タンパク質129のD-PBS(-)溶液)を使用した。また、前記マレイミド化DEX550トヨパールHW-40ECは水で懸濁したものをグラスフィルターでろ過したものを使用した。
【0206】
920μLの精製129溶液(濃度9.75mg/mL)に、5.02mLのD-PBS(-)と60μLの100mM TCEP水溶液を添加して、固定化用タンパク質溶液を調製した。100mL容のテフロン(登録商標)製容器に4.5gのマレイミド化DEX550トヨパールHW-40EC(水に懸濁した状態では6.0mLに相当)を添加したのち、6.0mLの固定化用緩衝液(0.2Mリン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム、20mM EDTA、pH7.4)を添加した。次に、6.0mLの前記固定化用タンパク質溶液(フコース結合性タンパク質129の仕込み濃度:1.5mg/mL-担体)を添加し、35℃で15時間振とうすることによりマレイミド化トヨパールHW-40ECへのタンパク質固定化を行い、目的の吸着剤129を製造した。
【0207】
得られた吸着剤129をD-PBS(-)で洗浄したのち、Micro BCA Protein Assay Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いて洗浄液中のフコース結合性タンパク質129量を測定し、固定化反応前のフコース結合性タンパク質129の仕込み量から回収したフコース結合性タンパク質129の量を差し引くことにより、1mLの吸着剤129あたりのフコース結合性タンパク質129の固定化量を算出した結果、固定化量は193μg/mL-吸着剤であった。なお、水に湿潤した状態での吸着剤129の平均粒径は177μm、粒度範囲は150~250μmであった。
(4)親水性高分子が固定された不溶性担体へのブロモアセチル基の導入
100mL容のテフロン製容器に、実施例14の(3)で作製したアミノ化DEX550トヨパールHW-40ECを5.0g添加したのち、10.0mLのN-(ブロモアセトキシ)スクシンイミドのDMSO溶液(東京化成製N-(ブロモアセトキシ)スクシンイミドから調製、濃度10mg/mL)を添加したのち、25℃の振とう機内で4時間振とうすることによりアミノ化トヨパールHW-40ECのハロアセチル化を行なった。反応終了後、反応液をグラスフィルター上で20mLのDMSOで3回、30mLの水で5回洗浄することにより、目的のブロモアセチル化DEX550トヨパールHW-40ECを作製した。
(5)ブロモアセチル基が導入された不溶性担体へのフコース結合性タンパク質の固定化
マレイミド化DEX550トヨパールHW-40ECの代わりにブロモアセチル化DEX550トヨパールHW-40ECを用いた以外は、実施例14の(3)と同様の方法によりフコース結合性タンパク質129の固定化を行い、目的の吸着剤129Brを製造した。
【0208】
得られた吸着剤129Brを実施例14の(3)に記載の方法により、1mLの吸着剤129Brあたりのフコース結合性タンパク質129の固定化量を算出した結果、固定化量は155μg/mL-吸着剤であった。また、水に湿潤した状態での吸着剤129Bの平均粒径は177μm、粒度範囲は150~250μmであった。
【0209】
実施例15 フコース結合性タンパク質127を不溶性担体に固定化した吸着剤127の製造
実施例15は、実施例2で製造したフコース結合性タンパク質127を不溶性担体に固定化した吸着剤(以下、吸着剤127とする。)の製造に関するものである。
【0210】
フコース結合性タンパク質として、実施例1で製造したフコース結合性タンパク質129の代わりに、実施例2で製造したフコース結合性タンパク質127を使用した以外は、実施例14に記載の方法で行うことにより、目的の吸着剤127を製造した。
【0211】
実施例14の(3)に記載の方法に従い、1mLの吸着剤127あたりのフコース結合性タンパク質127の固定化量を算出した結果、固定化量は351μg/mL-吸着剤であった。なお、水に湿潤した状態での吸着剤127の平均粒径は175μm、粒度範囲は150~250μmであった。
【0212】
実施例16 フコース結合性タンパク質129G36Cを不溶性担体に固定化した吸着剤129G36Cの製造
実施例16は、実施例3で製造したフコース結合性タンパク質129G36Cを不溶性担体に固定化した吸着剤(以下、吸着剤129G36Cとする。)の製造に関するものである。
【0213】
フコース結合性タンパク質として、実施例1で製造したフコース結合性タンパク質129の代わりに、実施例3で製造したフコース結合性タンパク質129G36Cを使用した以外は、実施例14に記載の方法で行うことにより、目的の吸着剤129G36Cを製造した。
【0214】
実施例14の(3)に記載の方法に従い、1mLの吸着剤129G36Cあたりのフコース結合性タンパク質129G36Cの固定化量を算出した結果、固定化量は244μg/mL-吸着剤であった。なお、水に湿潤した状態での吸着剤129G36Cの平均粒径は176μm、粒度範囲は150~250μmであった。
【0215】
実施例17 フコース結合性タンパク質127G36Cを不溶性担体に固定化した吸着剤127G36Cの製造
実施例17は、実施例4で製造したフコース結合性タンパク質127G36Cを不溶性担体に固定化した吸着剤(以下、吸着剤127G36Cとする。)の製造に関するものである。
【0216】
フコース結合性タンパク質として、実施例1で製造したフコース結合性タンパク質129の代わりに、実施例4で製造したフコース結合性タンパク質127G36Cを使用した以外は、実施例14に記載の方法で行うことにより、目的の吸着剤127G36Cを製造した。
【0217】
実施例14の(3)に記載の方法に従い、1mLの吸着剤127G36Cあたりのフコース結合性タンパク質127G36Cの固定化量を算出した結果、固定化量は245μg/mL-吸着剤であった。なお、水に湿潤した状態での吸着剤127G36Cの平均粒径は180μm、粒度範囲は150~250μmであった。
【0218】
参考例3 組換えBC2LCN(155)cysを不溶性担体に固定化した吸着剤155の製造
参考例3は、比較例1で製造した組換えBC2LCN(155)cysを不溶性担体に固定化した吸着剤の製造に関するものである。具体的には、不溶性担体として市販多孔性合成高分子系担体(トヨパールHW-40EC、東ソー製)を用い、担体固定化用タグとしてシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加した組換えBC2LCN(155)cysを固定化するための官能基(マレイミド基)を導入後、当該タンパク質のシステイン残基のメルカプト基とマレイミド基を反応させることにより、当該タンパク質が不溶性担体に固定化された吸着剤(以下、吸着剤155とする。)を製造した。
【0219】
実施例1で製造したフコース結合性タンパク質129の代わりに、比較例1で製造した組換えBC2LCN(155)cysを使用した以外は、実施例14に記載の方法で行うことにより、目的の吸着剤155を製造した。
【0220】
実施例14の(3)に記載の方法に従い、1mLの吸着剤155あたりのフコース結合性タンパク質155の固定化量を算出した結果、固定化量は298μg/mL-吸着剤であった。なお、水に湿潤した状態での吸着剤155の平均粒径は178μm、粒度範囲は150~250μmであった。
【0221】
実施例18 吸着剤の細胞吸着能評価-1
実施例18から24、比較例4から10および参考例4から10は、前記実施例14から17および参考例3で製造した吸着剤の、細胞吸着能および細胞分離能評価に関するものである。
【0222】
実施例18は、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAc」からなる構造を含む糖鎖を有するヒト胎児性がん細胞(Embryonal Carcinoma Cells Cl.4/D3細胞(コスモバイオより入手、以下2102Ep細胞と記載する。))を用いた、吸着剤129、吸着剤127、吸着剤129G36Cおよび吸着剤127G36Cの細胞吸着能評価に関するものである。
(1)吸着剤を充填したカラムの作製
2.5mL容シリンジ(テルモ製)と注射針(テルモ製、22G)の間に目開き40μmのポリエステルメッシュフィルター(BioLab製)を装着したカラムを作製した。次に、実施例14で作製した吸着剤129、実施例15で製造した吸着剤127、実施例16で製造した吸着剤129G36Cおよび実施例17で製造した吸着剤127G36CをMACS緩衝液で置換したのち、12時間以上放置後の吸着剤の沈降体積が50%となるように調整した吸着剤の50%懸濁液を調製し、作製したカラムに1.0mLを添加して、各吸着剤をカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。
(2)2102Ep細胞の培養と評価用細胞懸濁液の調製
接着性細胞である2102Ep細胞は、10%FBS(Biological Industries製)と抗生物質溶液(ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、富士フイルム和光純薬製)を添加したD-MEM培地(High Glucose、富士フイルム和光純薬製)を用い、直径6cmの接着培養用シャーレ(コーニング製)または直径10cmの接着培養用シャーレ(コーニング製)に細胞を播種し、5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。
【0223】
培養終了後、以下に記載の方法により、2102Ep細胞をCell Tracker Orange(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いて蛍光染色した。2102Ep細胞を培養中のシャーレ内の培地を廃棄後、D-PBS(-)を添加して細胞を洗浄したのち、D-PBS(-)を廃棄した。次に、Cell Tracker Orangeを最終濃度が10μMとなるように無血清のRPMI 1640培地(富士フイルム和光純薬製)に溶解した液を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。前記蛍光試薬液を廃棄後、前記10%FBSと抗生物質溶液を添加したD-MEM培地を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。次に、D-MEM培地を廃棄したのち、再び新しいD-MEM培地を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で一晩培養した。
【0224】
次に、細胞の回収と細胞懸濁液の調製を以下の方法で行った。細胞培養中のシャーレ内のD-MEM培地を廃棄してD-PBS(-)を添加したのち、細胞を洗浄してD-PBS(-)液を廃棄した。次に、適当量のAccutase(イノベーティブセルテクノロジー製)を添加し、数分間放置することで2102Ep細胞を剥離させ、50mLチューブへと回収した。細胞を遠心分離して沈降させたのち、細胞を前述のMACS緩衝液にて懸濁し、再度遠心分離して上清を廃棄することで細胞を洗浄した。細胞洗浄操作を2回繰り返したのち、MACS緩衝液で懸濁し、セルストレーナーを用いてろ過することにより、Cell Tracker Orangeで染色した2102Ep細胞の細胞懸濁液を調製した。
(3)吸着剤を充填したカラムを用いた2102Ep細胞の吸着能評価
各吸着剤を充填したカラムを垂直に立てた状態で、添加量が1.1x107個/mL-吸着剤となるよう、前記の方法で調製した2102Ep細胞の細胞懸濁液をカラムに添加した。
【0225】
次に、カラム上部より4mLのMACS緩衝液を添加し、針部からの流出液を別容器に回収した。(以下、この細胞液を流出細胞液と記載する)。回収した流出細胞液はフルオロヌンク96穴蛍光検出用プレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)に100μLずつ分注し、プレートリーダー(テカン製インフィニットM200)を用い、励起波長541nm、検出波長580nmでの蛍光強度を測定した。併せて、Cell Tracker Orangeで染色した2102Ep細胞の細胞懸濁液を用いて希釈系列を作製し、フルオロヌンク96穴蛍光検出用プレートに100μLずつ分注してプレートリーダーで励起波長541nm、検出波長580nmでの蛍光スキャンを行うことにより、Cell Tracker Orangeで染色した2102Ep細胞の濃度と蛍光強度の検量線を作成した。前記方法により得られた各流出細胞液の蛍光強度と検量線から、分取した各流出細胞液中に含まれる細胞数を算出後、各流出細胞液中の2102Ep細胞の流出率を「流出率=カラムあたりの流出細胞数/添加細胞数」として算出した。
【0226】
表14に、評価した各吸着剤における2102Ep細胞の流出率を示す。吸着剤129の流出率は2.7%、吸着剤127の流出率は2.9%、吸着剤129G36Cの流出率は3.0%、吸着剤127G36Cの流出率は2.6%であった。従って、本発明のフコース結合性タンパク質を不溶性担体に固定化した吸着剤は、いずれも95%を超える高い2102Ep細胞吸着能を持つことが明らかとなった。
【0227】
比較例4 フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤の細胞吸着能評価-1
比較例4は、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤Aの、2102Ep細胞の吸着能評価に関するものである。
【0228】
実施例18の(1)に記載の方法により、吸着剤Aをカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。次に、実施例18の(2)で調製した2102Ep細胞の細胞懸濁液を用い、実施例18の(3)に記載の方法により吸着剤を充填したカラムへの細胞懸濁液の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤Aにおける2102Ep細胞の流出率を算出した結果、流出率は88.2%であった(表14)。従って、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤Aに、2102Ep細胞はほとんど吸着しないことが明らかとなった。
【0229】
参考例4 組換えBC2LCN(155)cysを固定化した吸着剤の細胞吸着能評価-1
参考例4は、組換えBC2LCN(155)cysを固定化した吸着剤155の、2102Ep細胞の吸着能評価に関するものである。
【0230】
実施例18の(1)に記載の方法により、吸着剤155をカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。次に、実施例18の(2)で調製した2102Ep細胞の細胞懸濁液を用い、実施例18の(3)に記載の方法により吸着剤を充填したカラムへの細胞懸濁液の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤155における2102Ep細胞の流出率を算出した結果、流出率は2.9%であった(表14)。従って、組換えBC2LCN(155)cysを不溶性担体に固定化した吸着剤155も、フコース結合性タンパク質を不溶性担体に固定化した吸着剤と同様に、95%を超える高い2102Ep細胞の吸着能を持つことが明らかとなった。
【0231】
【0232】
実施例19 吸着剤の細胞吸着能評価-2
実施例19は、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAc」からなる構造を含む糖鎖を有するヒト肺腺がん細胞(PC-9細胞、DSファーマバイオメディカルより入手、ECACC株番号:90071810)を用いた、吸着剤129、吸着剤127、吸着剤129G36Cおよび吸着剤127G36Cの細胞吸着能評価に関するものである。
(1)吸着剤を充填したカラムの作製
実施例18の(1)に記載の方法により、前記各吸着剤を充填したカラムを作製した(吸着剤容量:500μL)。
(2)PC-9細胞の培養と評価用細胞懸濁液の調製
接着性細胞であるPC-9細胞は、10%FBS(Biological Industries製)と抗生物質溶液(ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、富士フイルム和光純薬製)を添加したRPMI 1640培地(富士フイルム和光純薬製)を用い、直径6cmの接着培養用シャーレ(コーニング製)または直径10cmの接着培養用シャーレ(コーニング製)に細胞を播種し、5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。
【0233】
培養終了後、実施例18の(2)に記載の方法により、Cell Tracker Orangeで染色したPC-9細胞の細胞懸濁液を調製した。
(3)吸着剤を充填したカラムを用いたPC-9細胞の吸着能評価
各吸着剤を充填したカラムを垂直に立てた状態で、添加量が4.8x106個/mL-吸着剤となるよう、前記の方法で調製したPC-9細胞の細胞懸濁液をカラムに添加した。その後、実施例18の(3)に記載の方法により、各吸着剤から流出細胞液を回収し、PC-9細胞の流出率を算出した。なお、Cell Tracker Orangeで染色したPC-9細胞の濃度と蛍光強度の検量線の作成は、実施例18の(3)に記載の方法に従って行った。
【0234】
表15に、評価した各吸着剤におけるPC-9細胞の流出率を示す。吸着剤129の流出率は2.5%、吸着剤127の流出率は2.4%、吸着剤129G36Cの流出率は2.6%、吸着剤127G36Cの流出率は2.5%であった。従って、本発明のフコース結合性タンパク質を不溶性担体に固定化した吸着剤は、いずれも95%を超える高いPC-9細胞の吸着能を持つことが明らかとなった。
【0235】
比較例5 フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤の細胞吸着能評価-2
比較例5は、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤Aの、PC-9細胞の吸着能評価に関するものである。
【0236】
実施例18の(1)に記載の方法により、吸着剤Aをカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。次に、実施例19の(2)で調製したPC-9細胞の細胞懸濁液を用い、実施例19の(3)に記載の方法により吸着剤を充填したカラムへの細胞懸濁液の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤AにおけるPC-9細胞の流出率を算出した結果、流出率は95.2%であった(表15)。従って、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤Aに、PC-9細胞はほとんど吸着しないことが明らかとなった。
【0237】
参考例5 組換えBC2LCN(155)cysを固定化した吸着剤の細胞吸着能評価-2
参考例5は、組換えBC2LCN(155)cysを固定化した吸着剤155の、PC-9細胞の吸着能評価に関するものである。
【0238】
実施例18の(1)に記載の方法により、吸着剤155をカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。次に、実施例19の(2)で調製したPC-9細胞の細胞懸濁液を用い、実施例19の(3)に記載の方法により、吸着剤を充填したカラムへの細胞懸濁液の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤155におけるPC-9細胞の流出率を算出した結果、流出率は2.4%であった(表15)。従って、組換えBC2LCN(155)cysを不溶性担体に固定化した吸着剤155も、フコース結合性タンパク質を不溶性担体に固定化した吸着剤と同様に、95%を超える高いPC-9細胞の吸着能を持つことが明らかとなった。
【0239】
【0240】
実施例20 吸着剤の細胞吸着能評価-3
実施例20は、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAc」からなる構造を含む糖鎖を有さないヒトバーキットリンパ腫細胞(Ramos細胞、JCRB9119)を用いた、吸着剤129、吸着剤127、吸着剤129G36Cおよび吸着剤127G36Cの細胞吸着能評価に関するものである。
(1)吸着剤を充填したカラムの作製
実施例18の(1)に記載の方法により、前記各吸着剤を充填したカラムを作製した(吸着剤容量:500μL)。
(2)Ramos細胞の培養と評価用細胞懸濁液の調製
浮遊性細胞であるRamos細胞は、10%FBS(Biological Industries製)と抗生物質溶液(ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、富士フイルム和光純薬製)を添加したRPMI 1640培地(富士フイルム和光純薬製)を用い、浮遊培養用シャーレ(住友ベークライト製)に細胞を播種し、5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。
【0241】
培養終了後、実施例18の(2)に記載の方法により、Cell Tracker Orangeで染色したRamos細胞の細胞懸濁液を調製した。
(3)吸着剤を充填したカラムを用いたRamos細胞の吸着能評価
各吸着剤を充填したカラムを垂直に立てた状態で、添加量が1.4x107個/mL-吸着剤となるよう、前記の方法で調製したRamos細胞の細胞懸濁液をカラムに添加した。その後、実施例18の(3)に記載の方法により、各吸着剤から流出細胞液を回収し、Ramos細胞の流出率を算出した。なお、Cell Tracker Orangeで染色したRamos細胞の濃度と蛍光強度の検量線の作成は、実施例18の(3)に記載の方法に従って行った。
【0242】
表16に、評価した各吸着剤におけるRamos細胞の流出率を示す。吸着剤129の流出率は99%、吸着剤127の流出率は102%、吸着剤129G36Cの流出率は99%、吸着剤127G36Cの流出率は101%であった。従って、本発明のフコース結合性タンパク質を不溶性担体に固定化した各吸着剤に、Ramos細胞は吸着しないことが明らかとなった。
【0243】
比較例6 フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤の細胞吸着能評価-3
比較例6は、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤Aの、Ramos細胞の吸着能評価に関するものである。
【0244】
実施例18の(1)に記載の方法により、吸着剤Aをカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。次に、実施例20の(2)で調製したRamos細胞の細胞懸濁液を用い、実施例20の(3)に記載の方法により、吸着剤を充填したカラムへの細胞懸濁液の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤AにおけるRamos細胞の流出率を算出した結果、流出率は101%であった(表16)。従って、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤AもRamos細胞の吸着能を持たないことが明らかとなった。
【0245】
参考例6 組換えBC2LCN(155)cysを固定化した吸着剤の細胞吸着能評価-3
参考例6は、組換えBC2LCN(155)cysを固定化した吸着剤155の、Ramos細胞の吸着能評価に関するものである。
【0246】
実施例18の(1)に記載の方法により、吸着剤155をカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。次に、実施例20の(2)で調製したRamos細胞の細胞懸濁液を用い、実施例20の(3)に記載の方法により、吸着剤を充填したカラムへの細胞懸濁液の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤155におけるRamos細胞の流出率を算出した結果、流出率は102%であった(表16)。従って、組換えBC2LCN(155)cysを不溶性担体に固定化した吸着剤155にも、Ramos細胞は吸着しないことが明らかとなった。
【0247】
【0248】
実施例21 吸着剤の細胞分離能評価-4
実施例21は、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAc」からなる構造を含む糖鎖を有するヒト肺腺がん細胞(PC-9細胞)と「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAc」からなる構造を含む糖鎖を有さないヒト慢性骨髄性白血病細胞であるK562細胞(JCRB0019)の細胞混合物を用いた、吸着剤127の細胞分離能評価に関するものである。
(1)吸着剤127の製造と吸着剤127を充填したカラムの作製
実施例15に記載の方法に従い、吸着剤127を製造した。1mLの吸着剤127あたりのフコース結合性タンパク質127の固定化量を算出した結果、固定化量は443μg/mL-吸着剤であった。次に、実施例18の(1)に記載の方法に従い、製造した吸着剤127を充填したカラムを作製した(吸着剤容量:500μL)。
(2)PC-9細胞およびK562細胞の培養と評価用細胞混合物の調製
接着性細胞であるPC-9細胞の培養は、実施例19に記載の方法に従って行った。培養終了後、Cell Tracker Orangeの代わりにCell Tracker Green(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いた以外は、実施例18の(2)に記載の方法に従い、Cell Tracker Greenで染色したPC-9細胞の細胞懸濁液を調製した。
【0249】
浮遊性細胞であるK562細胞の培養は、GIT培地(日本製薬製)を用い、浮遊培養用シャーレ(住友ベークライト製)に細胞を播種し、5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。培養終了後、実施例18の(2)に記載の方法により、Cell Tracker Orangeで染色したK562細胞の細胞懸濁液を調製した。
【0250】
前記の方法で調製したPC-9細胞の細胞懸濁液とK562細胞の細胞懸濁液について、各細胞懸濁液中の細胞数を測定したのち、細胞数が1:1となるようにPC-9細胞の細胞懸濁液とK562細胞の細胞懸濁液を混合し、細胞分離能評価用の細胞混合物を調製した。
(3)吸着剤を充填したカラムを用いた細胞分離能評価
各吸着剤を充填したカラムを垂直に立てた状態で、添加量が4.8x106個/mL-吸着剤となるよう、すなわち、PC-9細胞とK562細胞のそれぞれが2.4x106個/mL-吸着剤となるよう、前記の方法で調製した細胞混合物をカラムに添加した。
【0251】
次に、カラム上部より4mLのMACS緩衝液を添加し、針部からの流出細胞液を別容器に回収した。回収した流出細胞液はフルオロヌンク96穴蛍光検出用プレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)に100μLずつ分注し、プレートリーダー(テカン製インフィニットM200)を用い、励起波長492nm、検出波長530nm、または、励起波長541nm、検出波長580nmでの蛍光強度を測定した。併せて、Cell Tracker Greenで染色したPC-9細胞の細胞懸濁液を用いて希釈系列を作製し、フルオロヌンク96穴蛍光検出用プレートに100μLずつ分注してプレートリーダーで励起波長492nm、検出波長530nmでの蛍光強度測定を行うことにより、Cell Tracker Greenで染色したPC-9細胞の濃度と蛍光強度の検量線を作成した。なお、Cell Tracker Orangeで染色したK562細胞の濃度と蛍光強度の検量線の作成は、実施例20の(3)に記載の方法に従って行った。前記方法により得られた流出細胞液の蛍光強度と検量線から、回収した流出細胞液中に含まれる各細胞数を算出後、各流出細胞液中のPC-9細胞とK562細胞の流出率を算出した。
【0252】
表17に、吸着剤127におけるPC-9細胞とK562細胞の流出率を示す。PC-9細胞の流出率は3.3%であったのに対して、K562細胞の流出率は55.1%であった。従って、本発明のフコース結合性タンパク質127を不溶性担体に固定化した吸着剤127は、PC-9細胞とK562細胞の混合物から、PC-9細胞のみを選択的に分離できることが明らかとなった。
【0253】
比較例7 フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤の細胞分離能評価-4
比較例7は、PC-9細胞とK562細胞の細胞混合物を用いた、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤Aの細胞分離能評価に関するものである。
【0254】
実施例18の(1)に記載の方法により、吸着剤Aをカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。次に、実施例21の(2)で調製したPC-9細胞とK562細胞の細胞混合物を用い、実施例21の(3)に記載の方法により、吸着剤を充填したカラムへの細胞混合物の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤AにおけるPC-9細胞とK562細胞の流出率を算出した結果、PC-9細胞の流出率は50.2%、K562細胞の流出率は55.4%であった(表17)。従って、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤Aは、PC-9細胞とK562細胞の混合物から、PC-9細胞を吸着分離できないことが明らかとなった。
【0255】
参考例7 組換えBC2LCN(155)cysを固定化した吸着剤の細胞分離能評価-4
参考例7は、PC-9細胞とK562細胞の細胞混合物を用いた、吸着剤155の細胞分離能評価に関するものである。
【0256】
参考例3に記載の方法に従い、吸着剤155を製造した。1mLの吸着剤155あたりの組換えBC2LCN(155)cysの固定化量を算出した結果、固定化量は485μg/mL-吸着剤であった。次に、実施例18の(1)に記載の方法により、吸着剤155をカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。
【0257】
実施例21の(2)で調製したPC-9細胞とK562細胞の細胞混合物を用い、実施例21の(3)に記載の方法により、吸着剤を充填したカラムへの細胞混合物の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤AにおけるPC-9細胞とK562細胞の流出率を算出した結果、PC-9細胞の流出率は10.0%、K562細胞の流出率は58.3%であった(表17)。従って、組換えBC2LCN(155)cysを不溶性担体に固定化した吸着剤155は、PC-9細胞とK562細胞の混合物から、PC-9細胞のみを選択的に分離できることが明らかとなった。
【0258】
【0259】
実施例22 吸着剤の細胞吸着能評価-5
実施例22は、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAc」からなる構造を含む糖鎖を有するヒトiPS細胞株である201B7細胞(特許実施許諾契約およびMTA契約を締結後、京都大学CiRAより分譲)を用いた、吸着剤127の細胞吸着能評価に関するものである。
(1)吸着剤を充填したカラムの作製
実施例21の(1)で作製した吸着剤127を用い、実施例18の(1)に記載の方法に従い、製造した吸着剤127を充填したカラムを作製した(吸着剤容量:500μL)。
(2)201B7細胞の培養と評価用細胞懸濁液の調製
201B7細胞の培養は、接着培養用シャーレ(コーニング製)を用いて、以下の方法で行った。
【0260】
予め調製したiMatrix-511(ニッピ製)をD-PBSに3μg/mLで希釈した溶液シャーレに添加して4℃で一晩以上放置することにより、シャーレ培養面へのiMatrix-511のコーティングを行った。コーティングを行ったシャーレのiMatrix-511溶液を廃棄したのち、iPS細胞培養用培地であるStemFit AK02N培地(味の素製)を添加して洗浄後、凍結バイアルより解凍した201B7細胞を、ロックインヒビター(Y-27632:富士フイルム和光純薬製)を10μM添加した同培地に懸濁して播種した。一晩培養後、Y-27632を含むStemFit AK02N培地を廃棄し、Y-27632を含まないStemFit AK02N培地へと培地交換を行い、適切な細胞密度になったところで、細胞回収と継代を行った。
【0261】
シャーレからの細胞回収は以下の方法で行った。シャーレにD-PBS(-)を添加して細胞を洗浄したのち、D-PBS(-)を廃棄する操作を2回繰り返して細胞を洗浄後、CTS TrypLE Select Enzyme(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)とVersene Solution(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を1:1で混合した剥離溶液を添加して5%CO2雰囲気下、37℃で1分間放置した。細胞が丸く剥がれつつあるのを確認したのち、剥離溶液を廃棄、10μM Y-27632を含むStemFit AK02N培地を添加し、セルスクレ―バーで細胞を剥離し、50mLチューブ中に回収した。回収した細胞の細胞数は血球計算盤でカウントし、Y-27632を含むStemFit AK02N培地にて、104~105/mLの濃度で播種し、Y-27632を含まないStemFit AK02N培地にて適当な細胞密度になるまで培養を継続した。
【0262】
次に、Cell Tracker Orangeを用いた201B7細胞の蛍光染色は、以下の方法で行った。まず、シャーレ中の培地を廃棄後、D-PBS(-)を添加して細胞をリンス後、D-PBS(-)を吸引廃棄した。次にCell Tracker Orangeを無血清のRPMI 1640培地に終濃度20μMで溶解した溶液を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。蛍光試薬液を廃棄後、StemFit AK02N培地を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。培地を廃棄後、StemFit AK02N培地を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で一晩培養した。次に、細胞の回収と細胞懸濁液の調製を以下の方法で行った。シャーレにD-PBS(-)を添加して細胞をリンスしたのち、D-PBS(-)を廃棄する操作を2回繰り返して細胞を洗浄後、CTS TrypLE Select Enzyme(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)とVersene Solution(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を1:1で混合した剥離溶液を添加して5%CO2雰囲気下、37℃で1分間放置した。細胞が丸く剥がれつつあるのを確認したのち、剥離溶液を廃棄、StemFit AK02N培地を添加し、セルスクレ―バーで細胞を剥離し、50mLチューブ中に回収した。回収した細胞を遠心分離して沈降後、細胞をMACS緩衝液で懸濁し、再度遠心分離して上清を廃棄することで細胞を洗浄した。細胞洗浄操作を2回繰り返したのち、MACS緩衝液で懸濁し、セルストレーナーを用いてろ過することにより、Cell Tracker Orangeで染色した201B7細胞の細胞懸濁液を調製した。
(3)吸着剤を充填したカラムを用いた201B7細胞の吸着能評価
吸着剤127を充填したカラムを垂直に立てた状態で、添加量が4.4x105個/mL-吸着剤となるよう、前記の方法で調製した201B7細胞の細胞懸濁液をカラムに添加した。その後、実施例18の(3)に記載の方法により、吸着剤127から流出細胞液を回収し、201B7細胞の流出率を算出した結果、吸着剤127における201B7細胞の流出率は0.5%であった(表18)。従って、本発明のフコース結合性タンパク質127を不溶性担体に固定化した吸着剤127は、高いiPS細胞吸着能を持つことが明らかとなった。なお、Cell Tracker Orangeで染色した201B7細胞の濃度と蛍光強度の検量線の作成は、実施例18の(3)に記載の方法に従って行った。
【0263】
比較例8 フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤の細胞吸着能評価-5
比較例8は、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤Aの、201B7細胞の吸着能評価に関するものである。
【0264】
実施例18の(1)に記載の方法により、吸着剤Aをカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。次に、実施例22の(2)で調製した201B7細胞の細胞懸濁液を用い、実施例22の(3)に記載の方法により吸着剤を充填したカラムへの細胞懸濁液の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤Aにおける201B7細胞の流出率を算出した結果、流出率は77.0%であった(表18)。従って、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤Aに、201B7細胞はほとんど吸着しないことが明らかとなった。
【0265】
参考例8 組換えBC2LCN(155)cysを固定化した吸着剤の細胞吸着能評価-5
参考例8は、組換えBC2LCN(155)cysを固定化した吸着剤155の、201B7細胞の吸着能評価に関するものである。
【0266】
参考例7の(1)で製造した吸着剤155を用い、実施例18の(1)に記載の方法に従い吸着剤155を充填したカラムを作製した(吸着剤容量:500μL)。次に、実施例22の(2)で調製した201B7細胞の細胞懸濁液を用い、実施例22の(3)に記載の方法により吸着剤を充填したカラムへの細胞懸濁液の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤155における201B7細胞の流出率を算出した結果、流出率は0.6%であった(表18)。従って、組換えBC2LCN(155)cysを不溶性担体に固定化した吸着剤155も、高いiPS細胞吸着能を持つことが明らかとなった。
【0267】
【0268】
実施例23 吸着剤の細胞吸着能評価-6
実施例23は、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAc」からなる構造を含む糖鎖を有さない正常ヒト皮膚線維芽細胞であるNHDF細胞(PromoCell製)を用いた、吸着剤127の細胞吸着能評価に関するものである。
(1)吸着剤を充填したカラムの作製
実施例21の(1)で製造した吸着剤127を用い、実施例18の(1)に記載の方法に従い、製造した吸着剤127を充填したカラムを作製した(吸着剤容量:500μL)。
(2)NHDF細胞の培養と評価用細胞懸濁液の調製
接着性細胞であるNHDF細胞は、線維芽細胞増殖培地2(PromoCell製)を用い、直径10cmの接着培養用シャーレ(コーニング製)または直径15cmの接着培養用シャーレ(コーニング製)に細胞を播種し、5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。培養終了後、Cell Tracker Orangeの代わりにCell Tracker Green(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いた以外は、実施例18の(2)に記載の方法に従い、Cell Tracker Greenで染色したNHDF細胞の細胞懸濁液を調製した。
(3)吸着剤を充填したカラムを用いたNHDF細胞の吸着能評価
吸着剤127を充填したカラムを垂直に立てた状態で、添加量が8.2x105個/mL-吸着剤となるよう、前記の方法で調製したNHDF細胞の細胞懸濁液をカラムに添加した。その後、実施例18の(3)に記載の方法により、吸着剤127から流出細胞液を回収し、NHDF細胞の流出率を算出した結果、吸着剤127におけるNHDF細胞の流出率は90.3%であった(表19)。従って、本発明のフコース結合性タンパク質を不溶性担体に固定化した各吸着剤に、NHDF細胞は吸着しないことが明らかとなった。なお、Cell Tracker Greenで染色したNHDF細胞の濃度と蛍光強度の検量線の作成は、実施例21の(3)に記載の方法に従って行った。
【0269】
比較例9 フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤の細胞吸着能評価-6
比較例9は、NHDF細胞を用いた、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤Aの細胞吸着能評価に関するものである。
【0270】
実施例18の(1)に記載の方法により、吸着剤Aをカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。次に、実施例23の(2)で調製したNHDF細胞の細胞懸濁液を用い、実施例23の(3)に記載の方法により吸着剤を充填したカラムへの細胞懸濁液の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤AにおけるNHDF細胞の流出率を算出した結果、流出率は85.1%であった(表19)。従って、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤Aに、NHDF細胞はほとんど吸着しないことが明らかとなった。
【0271】
参考例9 組換えBC2LCN(155)cysを固定化した吸着剤の細胞吸着能評価-6
参考例9は、NHDF細胞を用いた、吸着剤155の細胞吸着能評価に関するものである。
【0272】
参考例7の(1)で製造した吸着剤155を用い、実施例18の(1)に記載の方法に従い吸着剤155を充填したカラムを作製した(吸着剤容量:500μL)。次に、実施例23の(2)で調製したNHDF細胞の細胞懸濁液を用い、実施例23の(3)に記載の方法により吸着剤を充填したカラムへの細胞懸濁液の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤155におけるNHDF細胞の流出率を算出した結果、流出率は104%であった(表19)。従って、組換えBC2LCN(155)cysを不溶性担体に固定化した吸着剤155に、NHDF細胞は吸着しないことが明らかとなった。
【0273】
【0274】
実施例24 吸着剤の細胞分離能評価-7
実施例24は、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAc」からなる構造を含む糖鎖を有するヒトiPS細胞株である201B7細胞と「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAc」からなる構造を含む糖鎖を有さないNHDF細胞の細胞混合物を用いた、吸着剤127の細胞分離能評価に関するものである。
(1)吸着剤を充填したカラムの作製
実施例21の(1)で製造した吸着剤127を用い、実施例18の(1)に記載の方法に従い、製造した吸着剤127を充填したカラムを作製した(吸着剤容量:500μL)。
(2)評価用細胞混合物の調製
Cell Tracker Orangeで染色した201B7細胞の細胞懸濁液は、実施例22の(2)で調製したものを使用した。また、Cell Tracker Greenで染色したNHDF細胞の細胞懸濁液は、実施例23の(2)で調製したものを使用した。
【0275】
前記201B7細胞の細胞懸濁液とNHDF細胞の細胞懸濁液について、各細胞懸濁液中の細胞数を測定したのち、細胞数が201B7細胞:NHDF細胞=35:65となるように201B7細胞の細胞懸濁液とNHDF細胞の細胞懸濁液を混合し、細胞分離能評価用の細胞混合物を調製した。
(3)吸着剤を充填したカラムを用いた細胞分離能評価
各吸着剤を充填したカラムを垂直に立てた状態で、添加量が1.3x106個/mL-吸着剤となるよう、すなわち、201B7細胞が0.46x106個/mL-吸着剤、NHDF細胞が0.84x106個/mL-吸着剤となるよう、前記の方法で調製した細胞混合物をカラムに添加した。
【0276】
その後、実施例21の(3)に記載の方法により、吸着剤127から流出細胞液を回収し、回収した流出細胞液中に含まれる各細胞数を算出後、流出細胞液中の201B7細胞とNHDF細胞の流出率を算出した。
【0277】
表20に、吸着剤127における201B7細胞とNHDF細胞の流出率を示す。201B7細胞の流出率は0.3%であったのに対して、NHDF細胞の流出率は78.4%であった。従って、本発明のフコース結合性タンパク質127を不溶性担体に固定化した吸着剤127は、201B7細胞とNHDF細胞の混合物から、201B7細胞のみを選択的に分離できることが明らかとなった。
【0278】
比較例10 フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤の細胞分離能評価-7
比較例10は、201B7細胞とNHDF細胞の細胞混合物を用いた、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤Aの細胞分離能評価に関するものである。
【0279】
実施例18の(1)に記載の方法により、吸着剤Aをカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。次に、実施例24の(2)で調製した201B7細胞とNHDF細胞の細胞混合物を用い、実施例24の(3)に記載の方法により、吸着剤を充填したカラムへの細胞混合物の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤Aにおける201B7細胞とNHDF細胞の流出率を算出した結果、201B7細胞の流出率は66.7%、NHDF細胞の流出率は83.7%であった。(表20)。従って、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤Aは、201B7細胞とNHDF細胞の混合物から、201B7細胞を吸着分離できないことが明らかとなった。
【0280】
参考例10 組換えBC2LCN(155)cysを固定化した吸着剤の細胞分離能評価-7
参考例10は、201B7細胞とNHDF細胞の細胞混合物を用いた、吸着剤155の細胞分離能評価に関するものである。
【0281】
参考例7の(1)で製造した吸着剤155を用い、実施例18の(1)に記載の方法に従い吸着剤155を充填したカラムを作製した(吸着剤容量:500μL)。次に、実施例24の(2)で調製した201B7細胞とNHDF細胞の細胞混合物を用い、実施例24の(3)に記載の方法により、吸着剤を充填したカラムへの細胞混合物の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤Aにおける201B7細胞とNHDF細胞の流出率を算出した結果、201B7細胞の流出率は0.6%、NHDF細胞の流出率は79.7%であった。(表20)。従って、組換えBC2LCN(155)cysを不溶性担体に固定化した吸着剤155は、201B7細胞とNHDF細胞の混合物から、201B7細胞のみを選択的に分離できることが明らかとなった。
【0282】
【0283】
実施例25 吸着剤の細胞分離能評価-8
実施例25は、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAc」からなる構造を含む糖鎖を有するヒトiPS細胞株である201B7細胞、253G1細胞、1231A3細胞(それぞれ特許実施許諾契約およびMTA契約を締結後、京都大学CiRAより分譲)と、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAc」からなる構造を含む糖鎖を有さないNHDF細胞との細胞混合物を用いた、吸着剤127の細胞分離能評価に関するものである。
(1)吸着剤127の製造と吸着剤127を充填したカラムの作製
実施例15に記載の方法に従い、吸着剤127を製造した。1mLの吸着剤127あたりのフコース結合性タンパク質127の固定化量を算出した結果、固定化量は1000μg/mL-吸着剤であった。次に、実施例18の(1)に記載の方法に従い、製造した吸着剤127を充填したカラムを作製した(吸着剤容量:500μL)。
(2)評価用細胞混合物の調製
Cell Tracker Orangeで染色した201B7細胞、253G1細胞、1231A3細胞の細胞懸濁液はそれぞれ、実施例22の(2)の方法に従い調製したものを使用した。また、Cell Tracker Greenで染色したNHDF細胞の細胞懸濁液は、実施例23の(2)で調製したものを使用した。
【0284】
前記201B7細胞、253G1細胞、1231A3細胞、NHDF細胞の細胞懸濁液について、各細胞懸濁液中の細胞数を測定したのち、細胞数が201B7細胞:NHDF細胞=49:51、253G1細胞:NHDF細胞=53:47、1231A3細胞:NHDF細胞=69:31となるようにそれぞれ201B7細胞、253G1細胞、1231A3細胞の細胞懸濁液とNHDF細胞の細胞懸濁液を混合し、細胞分離能評価用の細胞混合物を調製した。
(3)吸着剤を充填したカラムを用いた細胞分離能評価
各吸着剤を充填したカラムを垂直に立てた状態で、201B7細胞の細胞懸濁液とNHDF細胞の細胞混合物については添加量が3.3x106個/mL-吸着剤となるよう、すなわち、201B7細胞が1.6x106個/mL-吸着剤、NHDF細胞が1.7x106個/mL-吸着剤となるよう、前記の方法で調製した細胞混合物をカラムに添加した。また、253G1細胞の細胞懸濁液とNHDF細胞の細胞混合物については添加量が3.6x106個/mL-吸着剤となるよう、すなわち、253G1細胞が1.9x106個/mL-吸着剤、NHDF細胞が1.7x106個/mL-吸着剤となるよう、また、1231A3細胞の細胞懸濁液とNHDF細胞の細胞混合物については添加量が5.5x106個/mL-吸着剤となるよう、すなわち、1231A3細胞が3.8x106個/mL-吸着剤、NHDF細胞が1.7x106個/mL-吸着剤となるよう、前記の方法で調製した細胞混合物をカラムに添加した。
【0285】
その後、実施例21の(3)に記載の方法により、吸着剤127から流出細胞液を回収し、回収した流出細胞液中に含まれる各細胞数を算出後、流出細胞液中の201B7細胞とNHDF細胞の流出率、253G1細胞とNHDF細胞の流出率、1231A3細胞とNHDF細胞の流出率をそれぞれ算出した。
【0286】
表21に、吸着剤127における201B7細胞とNHDF細胞の流出率、253G1細胞とNHDF細胞の流出率、1231A3細胞とNHDF細胞の流出率を示す。201B7細胞の流出率は1.8%であったのに対して、NHDF細胞の流出率は76.2%、253G1細胞の流出率は3.4%であったのに対して、NHDF細胞の流出率は94.0%、1231A3細胞の流出率は2.7%であったのに対して、NHDF細胞の流出率は78.1%であった。従って、本発明のフコース結合性タンパク質127を不溶性担体に固定化した吸着剤127は、201B7細胞とNHDF細胞の混合物、253G1細胞とNHDF細胞の混合物、1231A3細胞とNHDF細胞の混合物から、それぞれ201B7細胞、253G1細胞、1231A3細胞のみを選択的に分離できることが明らかとなった。
【0287】
比較例11 フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤の細胞分離能評価-8
比較例11は、201B7細胞とNHDF細胞の細胞混合物、253G1細胞とNHDF細胞の細胞混合物、1231A3細胞とNHDF細胞の細胞混合物を用いた、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤Aの細胞分離能評価に関するものである。
【0288】
実施例18の(1)に記載の方法により、吸着剤Aをカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。次に、実施例25の(2)で調製した201B7細胞とNHDF細胞の混合物、253G1細胞とNHDF細胞の混合物、1231A3細胞とNHDF細胞の混合物を用い、実施例25の(3)に記載の方法により、吸着剤を充填したカラムへの細胞混合物の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤Aにおける201B7細胞とNHDF細胞の流出率、253G1細胞とNHDF細胞の流出率、1231A3細胞とNHDF細胞の流出率を算出した結果、それぞれ201B7細胞の流出率は97.8%で、NHDF細胞の流出率は83.7%、253G1細胞の流出率は104.0%で、NHDF細胞の流出率は72.6%、1231A3細胞の流出率は91.3%で、NHDF細胞の流出率は86.3%であった。(表21)。従って、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤Aは、201B7細胞とNHDF細胞の混合物、253G1細胞とNHDF細胞の混合物、1231A3細胞とNHDF細胞の混合物から、それぞれ201B7細胞、253G1細胞、1231A3細胞を吸着分離できないことが明らかとなった。
【0289】
【0290】
実施例26 フコース結合性タンパク質127C72Gを不溶性担体に固定化した吸着剤127C72Gの製造
実施例26は、実施例12で製造したフコース結合性タンパク質127C72Gを不溶性担体に固定化した吸着剤(以下、吸着剤127C72Gとする。)の製造に関するものである。
【0291】
フコース結合性タンパク質として、実施例1で製造した精製129溶液(フコース結合性タンパク質129のD-PBS(-)溶液)の代わりに、実施例12で製造したフコース結合性タンパク質127C72Gを使用した以外は、実施例14に記載の方法で行うことにより、目的の吸着剤127C72Gを製造した。
【0292】
実施例14の(3)に記載の方法に従い、1mLの吸着剤127C72Gあたりのフコース結合性タンパク質127C72Gの固定化量を算出した結果、固定化量は294μg/mL-吸着剤であった。なお、水に湿潤した状態での吸着剤127C72Gの平均粒径は180μm、粒度範囲は150~250μmであった。
【0293】
実施例27 吸着剤の細胞吸着能評価-9
実施例27は、吸着剤127C72Gの201B7細胞の吸着能評価に関するものである。
(1)吸着剤を充填したカラムの作製
実施例26で製造した吸着剤127C72Gを用い、実施例18の(1)に記載の方法に従い、製造した吸着剤127C72Gを充填したカラムを作製した(吸着剤容量:500μL)。次に、作製したカラムへの添加量が5.6x106個/mL-吸着剤となるよう、実施例22の(2)に記載の方法で調製した201B7細胞の細胞懸濁液を添加した。その後、実施例22の(3)に記載の方法により吸着剤を充填したカラムへの細胞懸濁液の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤127C72Gにおける201B7細胞の流出率を算出した結果、流出率は4.0%であった。従って、本発明のフコース結合性タンパク質127C72Gを不溶性担体に固定化した吸着剤127C72Gは、高いiPS細胞吸着能を持つことが明らかとなった。
【0294】
実施例28 フコース結合性タンパク質127Q39xの製造と機能評価
実施例28は、配列番号3で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基として特定されるグルタミン残基をグルタミン残基以外のアミノ酸残基xに置換したアミノ酸配列に対し、N末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質、すなわち、配列番号34で示されるフコース結合性タンパク質127の53番目のグルタミン残基をグルタミン残基以外のアミノ酸残基xに置換したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質127Q39xとする。)の作製と、熱に対する安定性および糖鎖への結合親和性評価に関するものである。
(1)発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39x)cysおよび組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39x)cysの作製
発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39x)cysは、フコース結合性タンパク質127Q39Xを発現させるための発現ベクターであり、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39x)cysは、フコース結合性タンパク質127Q39xを生産するための形質転換体である。ここでxはグルタミン残基以外の19種のアミノ酸残基を示す。以下に、前記発現ベクターおよび形質転換体の作製の一例として、配列番号13に示すフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列(配列番号3に示すアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に置換したアミノ酸配列)のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステインを含むオリゴペプチド配列を付加したフコース結合性タンパク質127Q39L(配列番号44)を製造するための発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39L)cysおよび組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39L)cysの作製方法を示す。配列番号44のアミノ酸配列において、5番目から10番目まではポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、15番目から141番目までは配列番号13のアミノ酸配列、142番目から148番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。
【0295】
フコース結合性タンパク質127Q39Lをコードする塩基配列(配列番号63に示すXbaIとXhoIの制限酵素サイトを有する塩基配列、GenScript社)を合成し、制限酵素XbaIおよびXhoIで消化したのち、制限酵素XbaIおよびXhoIで処理した発現ベクターpET28a(+)(メルクミリポア製)とライゲーション反応を行った。なお、配列番号63に示す塩基配列の54番目から71番目まではポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、84番目から464番目までは配列番号13のアミノ酸配列に相当するポリペプチド、465番目から485番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチドをそれぞれコードするポリヌクレオチドに相当する。次に、前記ライゲーション産物を用いてE. coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39L)cysを得た。特開2018-000038号公報で開示されている方法により、得られた組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39L)cysを培養し、培養した菌体から抽出することで発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39L)cysを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39L)cysには配列番号13のアミノ酸配列をコードする配列番号28の塩基配列が含まれることを確認した。同様の方法により、表22に示す19種類の組換えタンパク質(フコース結合性タンパク質127Q39x)を発現させるための発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39x)cysおよびそれを有する形質転換体を作製した。
【0296】
【0297】
(2)フコース結合性タンパク質127Q39xの製造
前記(1)で作製した形質転換体を用い、比較例1に記載の方法により組換えタンパク質の生産、可溶性タンパク質抽出液の回収、およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる可溶性タンパク質抽出液からのフコース結合性タンパク質の精製を行い、表22に記載した19種類の組換えタンパク質(フコース結合性タンパク質127Q39x)を製造した。
(3)組換えタンパク質の熱に対する安定性評価
前記(2)で製造した組換えタンパク質の熱に対する安定性を調べるため、加熱処理温度を81℃に変更した以外は参考例2の(3)に記載の方法に従って行うことにより、加熱処理後の各組換えタンパク質の糖鎖結合親和性を評価した。
【0298】
表23に、81℃、30分間の加熱処理後の各組換えタンパク質の糖鎖結合親和性評価の結果を示す。なお、表23において、各組換えタンパク質の糖鎖結合性は室温で処理後の糖鎖親和結合性を100%とした場合の相対値を示したものであり、室温で処理後の糖鎖結合親和性の評価も、参考例2の(3)に記載の方法と同様の方法で行った。また、室温で処理後の糖鎖結合性が消失したフコース結合性タンパク質127Q39Dおよびフコース結合性タンパク質127Q39Pは、表23において糖鎖結合性を「-」として記載した。表23に示すように、81℃、30分間の加熱処理後も糖鎖結合性を保持していた組換えタンパク質は、フコース結合性タンパク質127Q39Lおよびフコース結合性タンパク質127Q39M(配列番号45:配列番号14に示すフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステインを含むオリゴペプチド配列を付加したアミノ酸配列)であった。
【0299】
【0300】
(4)変性中点温度の測定
前記(3)において、81℃、30分間の加熱処理後も糖鎖結合性を示したフコース結合性タンパク質127Q39Lについて、実施例12の(2)に記載の方法により変性中点温度を測定した結果、フコース結合性タンパク質127Q39Lの変性中点温度は90.2±0.5℃であった。
(5)糖鎖への結合親和性評価
実施例7の(2)に記載の方法により、フコース結合性タンパク質127Q39LのHタイプ3型糖鎖への結合親和性評価を行った結果、解離定数は1.1nMであった。
【0301】
実施例29 フコース結合性タンパク質127Q39x/C72zおよびフコース結合性タンパク質127Q39x/Q65y/C72zの製造と機能評価
実施例29は、配列番号3で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基および72番目のシステイン残基を他のアミノ酸残基に置換したアミノ酸配列に対し、N末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質127Q39x/C72zとする。)、および、配列番号3で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基、65番目のグルタミン残基および72番目のシステイン残基を他のアミノ酸残基に置換したアミノ酸配列に対し、N末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質127Q39x/Q65y/C72zとする。)の製造と、熱に対する安定性および糖鎖への結合親和性評価に関するものである。すなわち、フコース結合性タンパク質127Q39x/C72zは、配列番号34で示されるフコース結合性タンパク質127の、53番目のグルタミン残基をグルタミン残基以外のアミノ酸残基xに、86番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基をシステイン残基以外のアミノ酸残基zに置換したフコース結合性タンパク質であり、フコース結合性タンパク質127Q39x/Q65y/C72zは、配列番号34で示されるフコース結合性タンパク質127の、53番目のグルタミン残基をグルタミン残基以外のアミノ酸残基xに、79番目のグルタミン残基として特定されるグルタミン残基をグルタミン残基以外のアミノ酸残基yに、86番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基をシステイン残基以外のアミノ酸残基zに置換したフコース結合性タンパク質である。
(1)発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39x/C72z)cysおよび組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39x/C72z)cysの作製
発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39x/C72z)cysは、フコース結合性タンパク質127Q39x/C72zを発現させるための発現ベクターであり、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39x/C72z)cysは、フコース結合性タンパク質127Q39x/Q65y/C72zを生産するための形質転換体である。ここでxはグルタミン残基以外の19種のアミノ酸残基を、zはシステイン残基以外の19種のアミノ酸残基示す。以下に、前記発現ベクターおよび形質転換体の作製の一例として、配列番号15に示すフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列(配列番号3に示すアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に、72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステインを含むオリゴペプチド配列を付加したフコース結合性タンパク質127Q39L/C72G(配列番号46)を製造するための発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39L/C72G)cysおよび組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39L/C72G)cysの作製方法を示す。配列番号46のアミノ酸配列において、5番目から10番目まではポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、15番目から141番目までは配列番号15のアミノ酸配列、142番目から148番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。また、配列番号47のアミノ酸配列において、5番目から10番目まではポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、15番目から141番目までは配列番号16のアミノ酸配列、142番目から148番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。
【0302】
フコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gをコードする塩基配列(配列番号64に示すXbaIとXhoIの制限酵素サイトを有する塩基配列、GenScript社)を合成し、制限酵素XbaIおよびXhoIで消化したのち、制限酵素XbaIおよびXhoIで処理した発現ベクターpET28a(+)(メルクミリポア製)とライゲーション反応を行った。なお、配列番号64に示す塩基配列の54番目から71番目まではポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、84番目から464番目までは配列番号15のアミノ酸配列に相当するポリペプチド、465番目から485番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチドをそれぞれコードするポリヌクレオチドに相当する。次に、実施例28に記載の方法により、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39L/C72G)cysおよび発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39L/C72G)cysを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39L/C72G)cysには配列番号15のアミノ酸配列をコードする配列番号30の塩基配列が含まれることを確認した。
(2)発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39x/Q65y/C72z)cysおよび組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39x/Q65y/C72z)cysの作製
発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39x/Q65y/C72z)cysは、フコース結合性タンパク質127Q39x/Q65y/C72zを発現させるための発現ベクターであり、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39x/Q65y/C72z)cysは、フコース結合性タンパク質127Q39x/Q65y/C72zを生産するための形質転換体である。ここでxとyはグルタミン残基以外の19種のアミノ酸残基を、zはシステイン残基以外の19種のアミノ酸残基示す。以下に、前記発現ベクターおよび形質転換体の作製の一例として、配列番号16に示すフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列(配列番号3に示すアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に、65番目のグルタミン残基をロイシン残基に、72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステインを含むオリゴペプチド配列を付加したフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72G(配列番号47)を製造するための発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39L/Q65L/C72G)cysおよび組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39L/Q65L/C72G)cysの作製方法を示す。配列番号47のアミノ酸配列において、5番目から10番目まではポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、15番目から141番目までは配列番号16のアミノ酸配列、142番目から148番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。
【0303】
フコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gをコードする塩基配列(配列番号65に示すXbaIとXhoIの制限酵素サイトを有する塩基配列、GenScript社)を合成し、制限酵素XbaIおよびXhoIで消化したのち、制限酵素XbaIおよびXhoIで処理した発現ベクターpET28a(+)(メルクミリポア製)とライゲーション反応を行った。なお、配列番号65に示す塩基配列の54番目から71番目まではポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、84番目から464番目までは配列番号16のアミノ酸配列に相当するポリペプチド、465番目から485番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチドをそれぞれコードするポリヌクレオチドに相当する。次に、実施例28に記載の方法により、組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39L/Q65L/C72G)cysおよび発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39L/Q65L/C72G)cysを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39L/Q65L/C72G)cysには配列番号16のアミノ酸配列をコードする配列番号31の塩基配列が含まれることを確認した。
【0304】
前記実施例29の(1)および(2)と同様の方法により、表24に示す8種類の組換えタンパク質(フコース結合性タンパク質127Q39x/C72zおよびフコース結合性タンパク質127Q39x/Q65y/C72z)を発現させるための発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39x/C72zおよび127Q39x/Q65y/C72z)cysおよびそれを有する形質転換体を作製した。
【0305】
【0306】
(3)フコース結合性タンパク質127Q39x/Q65y/C72zの製造
前記(1)で作製した形質転換体を用い、比較例1に記載の方法により組換えタンパク質の生産、可溶性タンパク質抽出液の回収、およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる可溶性タンパク質抽出液からのフコース結合性タンパク質の精製を行い、表24に記載した8種類の組換えタンパク質(フコース結合性タンパク質127Q39x/Q65y/C72z)を製造した。
(4)組換えタンパク質の熱に対する安定性評価
前記(2)で製造した組換えタンパク質の熱に対する安定性を調べるため、加熱処理温度を84℃および88℃に変更した以外は参考例2の(3)に記載の方法に従って行うことにより、加熱処理後の各組換えタンパク質の糖鎖結合親和性を評価した。
【0307】
表25に、84℃および88℃、30分間の加熱処理後の各組換えタンパク質の糖鎖結合性評価の結果を示す。なお、表25において、各組換えタンパク質の糖鎖結合性は室温で処理後の糖鎖結合性を100%とした場合の相対値を示したものであり、室温で処理後の糖鎖結合親和性の評価も、参考例2の(3)に記載の方法と同様の方法で行った。表25に示すように、84℃および88℃、30分間の加熱処理後も糖鎖結合性を保持していた組換えタンパク質は、フコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gおよびフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gであった。
【0308】
【0309】
(5)変性中点温度の測定
前記(3)において、88℃、30分間の加熱処理後も糖鎖結合性を示したフコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gおよびフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gについて、実施例12の(2)に記載の方法により変性中点温度を測定した結果、フコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gの変性中点温度は94.4±0.5℃、フコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gの変性中点温度は95.6±0.5℃であった。
【0310】
表26に、フコース結合性タンパク質127C72G(実施例12)、フコース結合性タンパク質127C72A(実施例13)、フコース結合性タンパク質127Q39L(実施例28)、フコース結合性タンパク質127Q39L/C72G(実施例29)、フコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72G(実施例29)および組換えBC2LCN(155)cys(比較例3)の変性中点温度を示す。
【0311】
【0312】
(6)糖鎖への結合親和性評価
実施例7の(2)に記載の方法により、フコース結合性タンパク質127Q39L/C72GのHタイプ3型糖鎖への結合親和性評価を行った結果、Hタイプ3型糖鎖に対する解離定数は3.9nMであった。また、フコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72GのHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖への結合親和性評価を行った結果、Hタイプ1型糖鎖に対する解離定数は3.9nM、Hタイプ3型糖鎖に対する解離定数は4.6nMであった。
【0313】
表27に、フコース結合性タンパク質127C72G(実施例12)、フコース結合性タンパク質127C72A(実施例13)、フコース結合性タンパク質127Q39L(実施例28)、フコース結合性タンパク質127Q39L/C72G(実施例29)、フコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72G(実施例29)および組換えBC2LCN(155)cys(比較例2)のHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する解離定数を示す。
【0314】
【0315】
実施例30 フコース結合性タンパク質127Q39Lの製造と生産性評価
実施例30は、フコース結合性タンパク質127Q39L(配列番号44:配列番号13に示すフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステインを含むオリゴペプチド配列を付加したフコース結合性タンパク質)の製造と生産性評価に関するものである。実施例28に記載の組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39L)cysを用いたフコース結合性タンパク質127Q39Lの生産、可溶性タンパク質抽出液の回収、およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる可溶性タンパク質抽出液からのフコース結合性タンパク質127Q39Lの精製は、それぞれ比較例1の(2)および比較例1の(3)に記載の方法で行い、目的とするフコース結合性タンパク質127Q39Lを製造した。比較例1の(4)に記載の方法に従ってフコース結合性タンパク質127Q39Lの培養液1Lあたりの生産性を算出した結果、生産性は450mg/L-培養液であった。製造したフコース結合性タンパク質127Q39Lを含む溶液はD-PBS(-)に対して透析したのち、D-PBS(-)を用いて適切な濃度に調整後、後述する吸着剤の製造に使用した。
【0316】
実施例31 フコース結合性タンパク質127Q39Lを不溶性担体に固定化した吸着剤127Q39Lの製造
実施例31は、実施例30で製造したフコース結合性タンパク質127Q39Lを不溶性担体に固定化した吸着剤(以下、吸着剤127Q39Lとする。)の製造に関するものである。フコース結合性タンパク質として、実施例1で製造した精製129溶液(フコース結合性タンパク質129のD-PBS(-)溶液)の代わりに、実施例30で製造したフコース結合性タンパク質127Q39Lを使用した以外は、実施例14に記載の方法で行うことにより、目的の吸着剤127Q39Lを製造した。実施例14の(3)に記載の方法に従い、1mLの吸着剤127Q39Lあたりのフコース結合性タンパク質127Q39LGの固定化量を算出した結果、固定化量は316μg/mL-吸着剤であった。なお、水に湿潤した状態での吸着剤127Q39Lの平均粒径は182μm、粒度範囲は150~250μmであった。
【0317】
実施例32 吸着剤の細胞吸着能評価-10
実施例32は、吸着剤127Q39Lの201B7細胞の吸着能評価に関するものである。実施例31で製造した吸着剤127Q39Lを用い、実施例18の(1)に記載の方法に従い、製造した吸着剤127Q39Lを充填したカラムを作製した(吸着剤容量:500μL)。次に、作製したカラムへの添加量が3.3x106個/mL-吸着剤となるよう、実施例22の(2)に記載の方法で調製した201B7細胞の細胞懸濁液を添加した。その後、実施例22の(3)に記載の方法により吸着剤を充填したカラムへの細胞懸濁液の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤127Q39Lにおける201B7細胞の流出率を算出した結果、流出率は3.5%であった。従って、本発明のフコース結合性タンパク質127Q39Lを不溶性担体に固定化した吸着剤127Q39L/Q65L/C72Gは、高いiPS細胞吸着能を持つことが明らかとなった。
【0318】
実施例33 フコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gの製造と生産性評価
実施例33は、フコース結合性タンパク質127Q39L/C72G(配列番号46:配列番号15に示すフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステインを含むオリゴペプチド配列を付加したフコース結合性タンパク質)の製造と生産性評価に関するものである。実施例29に記載の組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39L/C72G)cysを用いたフコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gの生産、可溶性タンパク質抽出液の回収、およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる可溶性タンパク質抽出液からのフコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gの精製は、それぞれ比較例1の(2)および比較例1の(3)に記載の方法で行い、目的とするフコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gを製造した。比較例1の(4)に記載の方法に従ってフコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gの培養液1Lあたりの生産性を算出した結果、生産性は480mg/L-培養液であった。製造したフコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gを含む溶液はD-PBS(-)に対して透析したのち、D-PBS(-)を用いて適切な濃度に調整後、後述する吸着剤の製造に使用した。
【0319】
実施例34 フコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gを不溶性担体に固定化した吸着剤127Q39L/C72Gの製造
実施例34は、実施例33で製造したフコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gを不溶性担体に固定化した吸着剤(以下、吸着剤127Q39L/C72Gとする。)の製造に関するものである。フコース結合性タンパク質として、実施例1で製造した精製129溶液(フコース結合性タンパク質129のD-PBS(-)溶液)の代わりに、実施例33で製造したフコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gを使用した以外は、実施例14に記載の方法で行うことにより、目的の吸着剤127Q39L/C72Gを製造した。
【0320】
実施例14の(3)に記載の方法に従い、1mLの吸着剤127Q39L/C72Gあたりのフコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gの固定化量を算出した結果、固定化量は327μg/mL-吸着剤であった。なお、水に湿潤した状態での吸着剤127Q39L/Q65L/C72Gの平均粒径は181μm、粒度範囲は150~250μmであった。
【0321】
実施例35 吸着剤の細胞吸着能評価-11
実施例35は、吸着剤127Q39L/C72Gの201B7細胞の吸着能評価に関するものである。実施例34で製造した吸着剤127Q39L/C72Gを用い、実施例18の(1)に記載の方法に従い、製造した吸着剤127Q39L/C72Gを充填したカラムを作製した(吸着剤容量:500μL)。次に、作製したカラムへの添加量が3.3x106個/mL-吸着剤となるよう、実施例22の(2)に記載の方法で調製した201B7細胞の細胞懸濁液を添加した。その後、実施例22の(3)に記載の方法により吸着剤を充填したカラムへの細胞懸濁液の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤127Q39L/C72Gにおける201B7細胞の流出率を算出した結果、流出率は2.3%であった。従って、本発明のフコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gを不溶性担体に固定化した吸着剤127Q39L/C72Gは、高いiPS細胞吸着能を持つことが明らかとなった。
【0322】
実施例36 フコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gの製造と生産性評価
実施例36は、フコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72G(配列番号47:配列番号16に示すフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステインを含むオリゴペプチド配列を付加したフコース結合性タンパク質)の製造と生産性評価に関するものである。
【0323】
実施例29に記載の組換えE. coli BL21(DE3)/pET-BC2LCN(127Q39L/Q65L/C72G)cysを用いたフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gの生産、可溶性タンパク質抽出液の回収、およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる可溶性タンパク質抽出液からのフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gの精製は、それぞれ比較例1の(2)および比較例1の(3)に記載の方法で行い、目的とするフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gを製造した。比較例1の(4)に記載の方法に従ってフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gの培養液1Lあたりの生産性を算出した結果、生産性は506mg/L-培養液であった。製造したフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gを含む溶液はD-PBS(-)に対して透析したのち、D-PBS(-)を用いて適切な濃度に調整後、後述する変性中点温度の測定、糖鎖結合親和性評価および吸着剤の製造に使用した。
【0324】
実施例37 フコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gを不溶性担体に固定化した吸着剤127Q39L/Q65L/C72Gの製造
実施例37は、実施例36で製造したフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gを不溶性担体に固定化した吸着剤(以下、吸着剤127Q39L/Q65L/C72Gとする。)の製造に関するものである。
【0325】
フコース結合性タンパク質として、実施例1で製造した精製129溶液(フコース結合性タンパク質129のD-PBS(-)溶液)の代わりに、実施例36で製造したフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gを使用した以外は、実施例14に記載の方法で行うことにより、目的の吸着剤127Q39L/Q65L/C72Gを製造した。
【0326】
実施例14の(3)に記載の方法に従い、1mLの吸着剤127Q39L/Q65L/C72Gあたりのフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gの固定化量を算出した結果、固定化量は273μg/mL-吸着剤であった。なお、水に湿潤した状態での吸着剤127Q39L/Q65L/C72Gの平均粒径は180μm、粒度範囲は150~250μmであった。
【0327】
実施例38 吸着剤の細胞吸着能評価-12
実施例38は、吸着剤127Q39L/Q65L/C72Gの201B7細胞の吸着能評価に関するものである。
(1)吸着剤を充填したカラムの作製
実施例37で製造した吸着剤127Q39L/Q65L/C72Gを用い、実施例18の(1)に記載の方法に従い、製造した吸着剤127Q39L/Q65L/C72Gを充填したカラムを作製した(吸着剤容量:500μL)。次に、作製したカラムへの添加量が3.3x106個/mL-吸着剤となるよう、実施例22の(2)に記載の方法で調製した201B7細胞の細胞懸濁液を添加した。その後、実施例22の(3)に記載の方法により吸着剤を充填したカラムへの細胞懸濁液の添加、流出細胞液の回収、流出細胞液の蛍光強度測定を順次行い、吸着剤127Q39L/Q65L/C72Gにおける201B7細胞の流出率を算出した結果、流出率は8.1%であった。従って、本発明のフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gを不溶性担体に固定化した吸着剤127Q39L/Q65L/C72Gは、高いiPS細胞吸着能を持つことが明らかとなった。
【0328】
比較例12 フコース結合性タンパク質127Q39L/C72G/Q106Lの製造と熱に対する安定性評価
比較例12は、配列番号3で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に、72番目のシステイン残基をグリシン残基に、106番目のグルタミン残基をロイシン残基に置換したアミノ酸配列に対し、N末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質127Q39L/C72G/Q106Lとする。)の製造と、熱に対する安定性評価に関するものである。フコース結合性タンパク質127Q39L/C72G/Q106Lは、配列番号34で示されるフコース結合性タンパク質127の53番目のグルタミン残基をロイシン残基に、86番目のシステイン残基をグリシン残基に、120番目のグルタミン残基をロイシン残に置換したフコース結合性タンパク質である。
【0329】
実施例29と同様の方法により、フコース結合性タンパク質127Q39L/C72G/Q106Lを発現させるための発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39L/C72G/Q106L)cysおよびそれを有する形質転換体を作製した。次に、作製した形質転換体を用いて、実施例29と同様の方法により、フコース結合性タンパク質127Q39L/C72G/Q106Lを製造した。
【0330】
製造したフコース結合性タンパク質127Q39L/C72G/Q106Lの熱に対する安定性を調べるため、加熱処理温度を83℃に変更した以外は参考例2の(3)に記載の方法に従って行うことにより、加熱処理後の糖鎖結合親和性を評価した。比較として、実施例29で製造したフコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gについても同様の方法により加熱処理後の糖鎖結合親和性を評価した。表28に、83℃、30分間の加熱処理後のフコース結合性タンパク質127Q39L/C72G/Q106Lおよびフコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gの糖鎖結合性評価の結果を示す。なお、表28において、各組換えタンパク質の糖鎖結合性は室温で処理後の糖鎖結合性を100%とした場合の相対値を示したものである。表28に示すように、フコース結合性タンパク質127Q39L/C72Gに比べて、フコース結合性タンパク質127Q39L/C72G/Q106Lは熱に対する安定性が低下することが明らかとなった。従って、配列番号3で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基のロイシン残基への置換とは異なり、配列番号3で示されるアミノ酸配列の106番目のグルタミン残基のロイシン残基への置換は、熱に対する安定性向上に効果がないことが明らかとなった。
【0331】
【0332】
比較例13 フコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72G/Q106Lの製造と熱に対する安定性評価
比較例13は、配列番号3で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に、65番目のグルタミン残基をロイシン残基に、72番目のシステイン残基をグリシン残基に、106番目のグルタミン残基をロイシン残基に置換したアミノ酸配列に対し、N末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したフコース結合性タンパク質(以下、フコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72G/Q106Lとする。)の製造と、熱に対する安定性評価に関するものである。フコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72G/Q106Lは、配列番号34で示されるフコース結合性タンパク質127の53番目のグルタミン残基をロイシン残基に、79番目のグルタミン残基をロイシン残基に、86番目のシステイン残基をグリシン残基に、120番目のグルタミン残基をロイシン残に置換したフコース結合性タンパク質である。
【0333】
実施例29と同様の方法により、フコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72G/Q106Lを発現させるための発現ベクターpET-BC2LCN(127Q39L/Q65L/C72G/Q106L)cysおよびそれを有する形質転換体を作製した。次に、作製した形質転換体を用いて、実施例29と同様の方法により、フコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72G/Q106Lを製造した。
【0334】
製造したフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72G/Q106Lの熱に対する安定性を調べるため、加熱処理温度を83℃に変更した以外は参考例2の(3)に記載の方法に従って行うことにより、加熱処理後の糖鎖結合親和性を評価した。比較として、実施例29で製造したフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gについても同様の方法により加熱処理後の糖鎖結合親和性を評価した。表29に、83℃、30分間の加熱処理後のフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72G/Q106Lおよびフコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gの糖鎖結合性評価の結果を示す。なお、表29において、各組換えタンパク質の糖鎖結合性は室温で処理後の糖鎖結合性を100%とした場合の相対値を示したものである。表29に示すように、フコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72Gに比べて、フコース結合性タンパク質127Q39L/Q65L/C72G/Q106Lは熱に対する安定性が低下することが明らかとなった。従って、配列番号3で示されるアミノ酸配列の39番目と65番目のグルタミン残基のロイシン残基への置換とは異なり、配列番号3で示されるアミノ酸配列の106番目のグルタミン残基のロイシン残基への置換は、熱に対する安定性向上に効果がないことが明らかとなった。
【0335】
【0336】
参考例11 フコース結合性タンパク質を固定化していない粒径の異なる不溶性担体を充填したカラムへの細胞通液性評価
参考例11は、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAc」からなる構造を含む糖鎖を有さないマウス骨髄腫細胞であるSP2/0-Ag14細胞(DSファーマバイオメディカルより入手、ECACC株番号:85072401、以下SP2/0細胞と記載する。)を用いた、フコース結合性タンパク質を固定化していない粒径の異なる不溶性担体を充填したカラムの細胞通液性評価に関するものである。
(1)吸着剤の調製と吸着剤を充填したカラムの作製
5.0mL容シリンジ(テルモ製)と注射針(テルモ製、22G)の間に目開き40μmのメッシュフィルター(日本BD製、セルストレーナチューブの蓋のメンブレンを取り出して使用)を装着したカラムを作製した。不溶性担体として、粒径が100~300μmのトヨパールHW-40EC(東ソー製)と、粒径が50~150μmのトヨパールHW-40C(東ソー製)を用い、各不溶性担体をMACS緩衝液で置換したのち、12時間以上放置後の不溶性担体の沈降体積が50%となるように調整した不溶性担体の50%懸濁液を調製し、作製したカラムに4.0mLを添加して、各不溶性担体をカラムに充填した(吸着剤容量:2.0mL)。また、比較対照として、不溶性担体を充填しないカラムを準備した。
(2)SP2/0細胞の培養と評価用細胞懸濁液の調製
浮遊性細胞であるSP2/0細胞は、GIT培地(日本製薬製)を用い、浮遊培養用シャーレ(住友ベークライト製)に細胞を播種し、5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。
【0337】
培養終了後、細胞を50mLチューブに回収し、1500rpmで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。次に、沈降した細胞をMACS緩衝液にて懸濁し、再度遠心分離して上清を廃棄することで細胞を洗浄した。細胞洗浄操作を2回繰り返したのち、MACS緩衝液で懸濁し、セルストレーナーでろ過することにより1.0x107個/mLのSP2/0細胞懸濁液を調製した。
(3)不溶性担体を充填したカラムを用いたSP2/0細胞の通液性
各不溶性担体を充填したカラムを垂直に立てた状態で、添加量が1.0x106個/mL-吸着剤となるよう、前記の方法で調製した1.0x107個/mLのSP2/0細胞懸濁液をカラムに添加した。
【0338】
次に、カラム上部より4mLのMACS緩衝液を添加し、針部からの流出液を流出細胞液として別容器に回収した。回収した流出細胞液中の細胞濃度をコールターカウンターZ2(ベックマンコールター製)で測定し、各カラムにおけるSP2/0細胞の流出率(%)を「流出率(%)=シリンジカラムあたりの流出細胞数/添加細胞数」として算出した。表30に各カラムからの細胞流出率を示す。トヨパールHW-40EC(粒径100~300μm)を充填したカラムからの流出率は73%、トヨパールHW-40C(粒径50~150μm)を充填したカラムからの流出率は31%、不溶性担体を充填していないカラムからの流出率は100%であった。なお、SP2/0細胞の細胞直径をコールターカウンターZ2で測定した結果、SP2/0細胞の平均細胞直径は11.0μm、分散度は11.9%であり、通常の動物細胞と同等の大きさであった。以上の結果から、粒径が100~300μmの不溶性担体は、一般的な大きさを持つ動物細胞が不溶性担体の間隙を淀みなく通過するのに適した粒径であることが明らかとなった。また、理論上、粒径100~300μmの真球状粒子を最密充填した場合、粒子間の隙間を通過可能な細胞の大きさは15.5~46.5μmと見積もられ、本参考例の結果を裏付けるものであった。一方、トヨパールHW-40C(粒径50~150μm)を充填したカラムからの細胞流出率が低くなった原因として、理論上、粒径が50~150μmの真球状粒子を最密充填した場合、粒子間間隙を通過可能な細胞の大きさは7.8~23.3μmと見積もられることから、粒径が50~150μmの不溶性担体では、不溶性担体の間隙が狭いために細胞の目詰まりが生じていることが考えられた。
【0339】
【産業上の利用可能性】
【0340】
本発明により、優れた性質を有するフコース結合性タンパク質を提供することができる。本発明によれば、具体的には、Escherichia coli等の宿主で発現した際の生産性、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖等のフコース含有糖鎖に対する結合親和性、および/または熱に対する安定性が向上したフコース結合性タンパク質が提供できる。
【0341】
また、本発明のフコース結合性タンパク質を利用することにより、未分化細胞を含有する細胞混合物から未分化細胞を選択的に分離することや、がん細胞を含有する細胞混合物からがん細胞を選択的に分離することができる。よって、本発明は未分化細胞やがん細胞の高感度検出や選択的分離に利用することができるため、医療分野、特に再生医療分野において有用である。
【配列表】